JP2016172695A - トリテルペンを有効成分として含有する変形性関節症の予防又は治療の為の組成物 - Google Patents
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変形性関節症は、膝や股、足関節のような体重負荷のかかる関節で発症しやすい。外傷的な関節の損傷が原因になることがあるが、大半は加齢に伴う軟骨の磨耗と変性及び老化に起因している。
軟骨は、軟骨細胞と基質からなる支持器官である。基質の主要構成成分はII型コラーゲンとプロテオグリカンであり、II型コラーゲンはプロテオグリカンと複合化して繊維ネットワークを構成する。軟骨の磨耗とは運動などの物理的な刺激により軟骨が徐々にすり減っていくことであり、軟骨の変性とは物理的な刺激によって基質成分が破断などの損傷を受けることである。軟骨の老化とは、軟骨細胞による基質生産能の低下と基質の分子レベルでの変化の蓄積といわれている。分子レベルでの変化には、II型コラーゲンへのAGE(最終糖化反応物)の付加とプロテオグリカンの主要構成成分であるアグリカンの低分子量化が含まれる。II型コラーゲンへのAGE付加において、コラーゲンを構成するアミノ酸のリジン及びアルギニン残基をペントースが架橋するペントシジンと呼ばれるAGEが蓄積すると、組織を硬く脆くするため軟骨基質の弾性低下が生じる。軟骨コラーゲンの半減期は100年以上と推定されており、AGEの蓄積は変形性関節症にとって大きな問題である。
軟骨細胞において、II型コラーゲンはN末端及びC末端に各々PIINP及びPIICPというプロペプチドを含むプロコラーゲンとして合成される。プロコラーゲンは特異的酵素によって消化されて成熟II型コラーゲンとなり軟骨基質を構成し、PIINP及びPIICPは血中に放出される。II型コラーゲンには選択的スプライシングによりIIA型とIIB型があり、IIB型のN末端プロコラーゲンはPIINPであるが、IIA型ではPIINPに69アミノ酸からなるシステインリッチ球状ドメインが含まれるPIIANPである。変形性関節症罹患者の血清ではPIIANPレベルが低下しており(非特許文献1)、PIIANPはいわゆる「軟骨合成マーカー」として変形性関節症の有用なマーカーとされている。
また変形性関節症では、軟骨基質分解酵素であるMMP−1、MMP−8、MMP−13がその軟骨の表層で発現が亢進していることが知られている(非特許文献2)。C2Cは、II型コラーゲンが酵素的切断を受けて血液中に放出されたII型コラーゲンのネオエピトープであり、C2Cは、いわゆる「軟骨分解マーカー」として、変形性関節症やリウマチ等の関節症の有用なマーカーとされている(特許文献1)。
現在、変形性関節症等の軟骨の異常に関連する疾患の薬物治療は炎症による痛みや腫れをやわらげるもの、関節の機能が悪くなることを防ぐための対症療法に留まっており、より有効な治療薬が望まれている。
植物由来のトリテルペンは生理活性を有する機能性成分として近年注目されており、マスリン酸について大腸癌抑制作用(非特許文献1)、皮膚の美白(特許文献2)、破骨細胞の分化抑制及び骨吸収活性効果(特許文献3)、肥満予防効果(特許文献4)、難消化性デキストリン、コロソリン酸、マスリン酸およびトルメンチック酸を有効成分として含有する組成物について血糖値上昇抑制(特許文献5)、オレアノール酸について抗う蝕(虫歯予防)(特許文献6)、抗ガン作用(特許文献7)、ウルソール酸についてプロトンポンプ阻害作用(特許文献8)等が報告されている。
しかしながら、トリテルペンを用いて、変形性関節症等の軟骨の異常に関連する疾患の予防又は治療に関する試みや示唆はない。
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]トリテルペン又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する変形性関節症の予防又は治療の為の組成物。
[2]トリテルペン又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、軟骨コラーゲン新陳代謝を促進する為の組成物。
[3]トリテルペンがオレアナン型又はウルサン型トリテルペンである、前記[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]トリテルペンが、マスリン酸及びオレアノール酸から選択されるオレアナン型トリテルペンである前記[3]に記載の組成物。
[5]トリテルペンが、ウルソール酸及びコロソリン酸から選択されるウルサン型トリテルペンである前記[3]に記載の組成物。
これらは、天然の植物から得ることも、人工的に得ることもできる。また、市販品も好適に利用することができる。五環性トリテルペンは、一般に、その骨格により分類されている。例えば、オレアナン型トリテルペン、ウルサン型トリテルペン、ルパン型トリテルペン、ホパン型トリテルペン、セラタン型トリテルペン、フリーデラン型トリテルペン、タラキセラン型トリテルペン、タラキサスタン型トリテルペン、マルチフロラン型トリテルペン、ジャーマニカン型トリテルペン等が挙げられる。
五環性トリテルペン類のうち、例えばオレアナン型トリテルペン類の代表例としてはマスリン酸、オレアノール酸、ウルサン型トリテルペン類の代表例としてはウルソール酸、コロソリン酸、トルメンチック酸等が挙げられる。
他の植物を出発原料とする場合には、原料として使用する植物に適した方法でトリテルペンを得ることができる。また、得られるトリテルペンの成分の種類及びその構成比は原料として使用する植物に依存する。
圧搾等の公知の搾油法によりオリーブオイルを除去したオリーブ果実搾油粕を得た。このオリーブ果実搾油粕100gに90%含水エタノール(v/v)を250g加えて70℃で攪拌しながら2時間加熱した後、固液分離により得られた液体部分をエバポレーター等で減圧留去して濃縮液を得た。この濃縮液を水に分散させ、合成吸着樹脂アンバーライトXAD4(オルガノ社製)を担体としたカラムクロマトグラフィーに供し、50%含水エタノールから100%エタノールに至る10%刻みのステップワイズ溶出によりトリテルペン高含有画分を得、減圧留去して液体状のオリーブ果実由来オレアナン型トリテルペンを得た。このトリテルペン含有液にはマスリン酸とオレアノール酸が10:4の割合で含まれていた(図1)。ピークの同定は、標準品とのリテンションタイムの比較及びLC/MS解析により行った。定量値は、標準品のピーク面積を基準に算出した。
マスリン酸含有量が10重量%になるようにγ−シクロデキストリンを添加して混合し、水に分散した後、スプレードライして粉末のオリーブ果実由来オレアナン型トリテルペン剤とした。
表1で示した配合で原料を混合し、混合物の内容量が250mgになるようにゼラチンハードカプセルに充填した。本試験例で得られる1カプセルあたりのマスリン酸含有量は17mg、オレアノール酸含有量は6.8mgである。
(1)臨床試験の方法と効果の判断基準・被験者の選択
問診で軽度変形性膝関節症と診断され、且つ、治療を必要としない20名の患者を被験者とした。平均年齢は58.1歳で、男性1名、女性19名である。
(2)トリテルペン含有サプリメントの服用方法
無作為に12名を選抜し、試験例2で得たトリテルペン含有サプリメントを1日1回朝食前に3カプセル(マスリン酸として51mg/日)を12週間、毎日服用させた。残りの8名には比較例のカプセルを同様に服用させた。
(3)臨床マーカー試験
カプセルの服用開始前及び服用終了後に採血し、軟骨合成マーカー(PIIANP)、軟骨分解マーカー(C2C)及び炎症マーカー(hsCRP)を測定した。結果をそれぞれ下記表2、表3及び表4に示す。
軟骨合成マーカーは、PIIANP ELISA kit (ミリポア社製)を用いて測定した。軟骨分解マーカーは、Collagen Type II Cleavage ELISA(IBEX社製)を用いて測定した。炎症マーカーは、N-ラテックス CRPII(シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス社製)を用いて測定した。
実施例では服用により血中PIIANPが上昇したが、比較例では若干減少した(表2)。このことから、オリーブ果実由来トリテルペンには軟骨合成を促進する効果が認められた。
実施例では服用により血中C2Cが上昇したが、比較例では若干の増加にとどまった(表3)。このことから、オリーブ果実由来トリテルペンには軟骨表層の分解を促進する効果が認められた。
実施例では服用により血中hsCRPが低下したが、比較例では増加した(表4)。このことから、オリーブ果実由来トリテルペンには炎症を抑制する効果が認められた。
以上表2〜表4の結果をまとめると、オリーブ果実由来トリテルペンには、軟骨合成と軟骨表層の分解を促進する効果があることが認められ、軟骨部分で新陳代謝が行われていると結論づけることが出来ることにより軟骨コラーゲンの新陳代謝を促進する効果があることが示された。
VAS(Visual Analog Scale)とは診療現場で広く使われている痛みの評価方法で、10cmの直線状の両端を「痛みはない」と「これまで経験した一番強い痛み」とし、現在の痛みが10cm上のどの位置にあるのかを示す方法である。服用開始前及び服用終了後に実施した。結果を下記表5に示す。
比較例でプラセボ効果が生じたが、実施例においてより顕著にVASの改善効果が認められた。
(5)QOL(Quality of Life)の評価
QOLの評価は、NPO法人健康医療評価研究機構が発行する「SF−8TM日本語版マニュアル」に従い、服用開始前及び服用終了後に実施した。結果を下記表6に示す。
比較例でプラセボ効果が生じたが、実施例においてより顕著にQOLの改善効果が認められた。
また、その他安全性について、血液検査、尿検査、身体測定及び内科的検査の結果、オリーブ果実由来のオレアナン型トリテルペンの摂取による医学的に問題のある変動は認められなかった。
Claims (5)
- トリテルペン又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する変形性関節症の予防又は治療の為の組成物。
- トリテルペン又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、軟骨コラーゲン新陳代謝を促進する為の組成物。
- トリテルペンがオレアナン型又はウルサン型トリテルペンである、請求項1又は請求項2に記載の組成物。
- トリテルペンが、マスリン酸及びオレアノール酸から選択されるオレアナン型トリテルペンである請求項3に記載の組成物。
- トリテルペンが、ウルソール酸及びコロソリン酸から選択されるウルサン型トリテルペンである請求項3に記載の組成物。
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