JP2016130210A - 過湿土壌における植物の根張り改善剤及び根張り改善方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】過湿土壌条件下における植物の根張りを改善できる新規な技術を提供する。
【解決手段】 酵母、酵母の抽出物、または酵母の細胞壁と、リン酸またはリン酸化合物及びカリウムまたはカリウム化合物とを含む混合物に過熱水蒸気処理を施すことにより得られる微生物材料過熱水蒸気処理物、酵母細胞壁粉末及び珪藻土が混合されている微生物由来混合物を含有する、過湿土壌における植物の根張り改善剤。
【選択図】 なし

Description

本発明は、植物の根張り改善剤に関し、特にpF値が1.5以下である土壌(過湿土壌)における植物の根張りを改善できる根張り改善剤に関する。
圃場等においてその土壌中で水分が過剰となることにより土壌中の空気が不足し、これに起因して根張りが阻害されるなどの作物が生育障害を起こす現象(湿害)が知られており、当該湿害は作物栽培における障害の1つとなっている。
例えば減反政策に伴う米の生産調整により使用されなくなった水田は、約100万ha(2003年)であり、水田転作圃場として小麦などを栽培することが試みられているが、水田転作圃場は水分が過剰となる傾向があり、湿害が発生しやすい。
また、耕作等により硬盤が形成された圃場においては、深部への透水性が損なわれている結果、降雨によりその表面が滞水しやすい傾向がある。そのため、このような硬盤が形成された圃場においても土壌中で水分が過多となりやすく、湿害が発生しやすい。
さらに、近年ゲリラ豪雨などの影響で一般圃場でも湛水、冠水が問題になっており、その結果、これらにおいても湿害が発生して植物の生育が阻害される場合がある。
このような湿害の発生を招く可能性のある過湿土壌への対策としては、過湿による病気の発生を予防または治療するための殺菌剤(クルーザー(登録商標)MAXXなど)を散布する、湛水状態などで窒素、カリ、鉄、マンガン、カルシウムなどが流亡し欠乏症が発生することがあるため、それらを補給する、などの対策が行われている。また、その他には、深耕や高畝栽培、耐湿性の品種を用いるなどの対策も行われている。
しかしながら、過湿土壌条件で植物の生育を改善する技術はほとんど存在せず、農薬・成長調整剤として市販されている「エテホン」で根の湿害抵抗性を高める試みもなされているが実用性は低い。
一方、ビール酵母などを用いて製造される、還元性肥料や微生物由来還元性混合物が知られている(例えば特許文献1、2)。
特許文献1の還元性肥料は、例えば、微生物材料過熱水蒸気処理物と、珪藻土と、を含む態様で構成されており、微生物材料過熱水蒸気処理物は、例えば酵母、酵母の抽出物、または酵母の細胞壁と、リン酸及びカリウムとを含む混合物に過熱水蒸気処理(水熱反応処理)を施すことにより得ることができる。特許文献1には当該還元性肥料を施用することで、果樹類の根の成長や、果実の肥大を促進できることが記載されている。
また、特許文献2の微生物由来還元性混合物は、微生物材料過熱水蒸気処理物と、過熱水蒸気処理を施していない微生物又は微生物の成分とを含んで構成されている。当該特許文献2に係る微生物材料過熱水蒸気処理物もまた、例えば酵母などに過熱水蒸気処理を施すことにより得ることができる。特許文献2には微生物由来還元性混合物を施用することで土壌の酸化還元電位を調節することができ、その結果、酵母由来成分の吸収促進や土壌改良などに寄与できることが記載されている。
国際公開第2013/094235号 国際公開第2013/084822号
上述のとおり、過湿土壌条件で植物の生育を改善できる技術はほとんど知られていない。
本発明はこのような事情に基づきなされたものであり、過湿土壌条件下における植物の根張りを改善できる新規な技術を提供することを目的とする。
本発明者は過湿土壌条件で植物の根張りを改善できる技術について鋭意研究を行った。その結果、酵母等から製造される微生物材料過熱水蒸気処理物、酵母細胞壁粉末及び珪藻土の混合物を過湿土壌に混和することで、その土壌において栽培する植物の根張りを改善できることを見出した。過湿土壌における植物の根張りに対するこのような作用については特許文献1や特許文献2には開示されていない。
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 酵母、酵母の抽出物、または酵母の細胞壁と、リン酸またはリン酸化合物及びカリウムまたはカリウム化合物とを含む混合物に過熱水蒸気処理を施すことにより得られる微生物材料過熱水蒸気処理物、酵母細胞壁粉末及び珪藻土が混合されている微生物由来混合物を含有する、過湿土壌における植物の根張り改善剤。
[2] 土壌を用いての植物の栽培中において土壌のpF値が1.5以下であるときの植物の根張りを改善する方法であって、
酵母、酵母の抽出物、または酵母の細胞壁と、リン酸またはリン酸化合物及びカリウムまたはカリウム化合物とを含む混合物に過熱水蒸気処理を施すことにより得られる微生物材料過熱水蒸気処理物、酵母細胞壁粉末及び珪藻土が混合されている微生物由来混合物を土壌に混和し、
前記微生物由来混合物が混和された土壌に植物を植えて栽培することを含む方法。
[3] 前記微生物由来混合物を土壌に対し10アール当たり20kg以上1200kg以下の範囲で混和する[2]に記載の植物の根張りを改善する方法。
[4] 植物の栽培中において土壌のpF値が0より大きく1.5以下であるときの植物の根張りを改善する[2]または[3]に記載の植物の根張りを改善する方法。
本発明によれば、過湿土壌条件下における植物の根張りを改善できる新規な技術を提供することができる。
試験例1に係り、実施例の根張り改善剤の施用と上いもの収量との関係を示すグラフである。 試験例1に係り、実施例の根張り改善剤の施用と1株あたりの上いもの個数との関係を示すグラフである。 試験例2に係り、pF値が異なる過湿土壌ごとの実施例の根張り改善剤の施用と根乾物重との関係を示すグラフである。 試験例3に係り、pF値が異なる過湿土壌ごとの実施例の根張り改善剤の施用と根乾物重との関係を示すグラフである。 試験例4に係り、6〜7月の圃場における土壌のpF値を表すグラフである。 試験例4に係り、実施例の根張り改善剤の施用と根乾物重との関係を示すグラフである。 試験例4に係り、実施例の根張り改善剤の施用と地上部乾物重との関係を示すグラフである。 試験例4に係り、実施例の根張り改善剤の施用と1株あたりの芋の個数との関係を示すグラフである。 試験例5に係り、実施例の根張り改善剤の施用と根乾物重との関係を示すグラフである(試験開始から2か月後)。 試験例5に係り、実施例の根張り改善剤の施用と地上部乾物重との関係を示すグラフである(試験開始から2か月後)。 試験例5に係り、実施例の根張り改善剤の施用と1株あたりのいもの個数との関係を示すグラフである(試験開始から2か月後)。 試験例5に係り、pF値が異なる過湿土壌ごとの実施例の根張り改善剤の施用と根乾物重との関係を示すグラフである(試験開始から3か月後)。 試験例5に係り、pF値が異なる過湿土壌ごとの実施例の根張り改善剤の施用と地上部乾物重との関係を示すグラフである(試験開始から3か月後)。 試験例5に係り、pF値が異なる過湿土壌ごとの実施例の根張り改善剤の施用と1株あたりのいもの個数との関係を示すグラフである(試験開始から3か月後)。 試験例5に係り、6〜8月の圃場における土壌のpF値を表すグラフである。 試験例6に係り、pF値が異なる過湿土壌ごとの実施例の根張り改善剤の施用と小麦収穫量との関係を示すグラフである。 試験例7に係り、実施例の根張り改善剤の施用と上いもの収量との関係を示すグラフである。 試験例7に係り、実施例の根張り改善剤の施用と上いもの収量との関係を示すグラフである。 試験例8に係り、実施例の根張り改善剤の施用と枝豆(大豆)の地上部乾物重および地下部乾物重との関係を示すグラフである。 試験例8に係り、実施例の根張り改善剤の施用と稲の地上部乾物重および地下部乾物重との関係を示すグラフである。 未処理の土壌と実施例の根張り改善剤を混和した土壌の成分分析結果に係る表である。
以下、本発明の1つの実施形態について詳述する。
本実施形態の過湿土壌における植物の根張り改善剤(以下、単に根張り改善剤ともいう)は、微生物由来混合物を含有する。
微生物由来混合物は、酵母細胞壁粉末及び珪藻土と、微生物材料過熱水蒸気処理物とを含んで構成されており、微生物材料過熱水蒸気処理物は、酵母、酵母の抽出物、または酵母の細胞壁と、リン酸またはリン酸化合物及びカリウムまたはカリウム化合物とを含む混合物に過熱水蒸気処理(水熱反応処理)を施すことにより得ることができる。
上述の本実施形態に係る微生物材料過熱水蒸気処理物、酵母細胞壁粉末及び珪藻土を含む微生物由来混合物は、例えば上記の特許文献1や2に開示される方法に従って従来公知の材料から製造することができる。また、微生物由来混合物中においては、微生物材料過熱水蒸気処理物は、例えば珪藻土に吸着されている態様で存在している。
微生物由来混合物は、具体的には例えば以下のようにして得ることができる。
まず、酵母、酵母の抽出物、または酵母の細胞壁と、リン酸またはリン酸化合物及びカリウムまたはカリウム化合物とを含む混合物を得、その混合物に過熱水蒸気処理を施すことにより微生物材料過熱水蒸気処理物を得る。特に限定されないが、酵母、酵母の抽出物、又は酵母の細胞壁は、泥状ビール酵母、圧搾ビール酵母、乾燥ビール酵母、ビール酵母懸濁液、乾燥酵母細胞壁、酵母細胞壁懸濁液、及びビール酵母含有無機物からなる群から選ばれる少なくとも1種に由来するようにすることができる。
リン酸またはリン酸化合物としては単独でも2種以上混合して用いてもよく、リン酸化合物としては、肥料の成分として従来公知のリン酸化合物を用いることができる。具体的には、種々の可溶性又はク溶性肥料を用いればよく、リン鉱石を硫酸で処理してリン酸を可溶化した過リン酸石灰や、重過リン酸石灰、混合物としての熔性リン肥料や焼成リン肥等を挙げることができる。
カリウムまたはカリウム化合物についても単独でも2種以上混合して用いてもよい。カリウム化合物としては、肥料として従来公知のカリウム化合物を用いればよく、具体的には、塩化カリウム、硫酸カリウム、水酸化カリウム、及び硝酸カリウム等を挙げることができる。
また、酵母、酵母の抽出物、又は酵母の細胞壁、リン酸またはリン酸化合物及びカリウムまたはカリウム化合物の混合割合は特に限定されず、当業者が適宜設定でき、例えば、酵母、酵母の抽出物、又は酵母の細胞壁100重量部に対し、リン酸またはリン酸化合物0より大きく135重量部以下、カリウムまたはカリウム化合物0より大きく100重量部以下とすることができる。
なお、本明細書において過熱水蒸気処理(水熱反応処理)とは、加温、加圧により過熱水蒸気を発生させ、当該過熱水蒸気の影響により対象物の物性を変化させる方法である。温度に関し、好ましくは120℃以上220℃以下、より好ましくは150℃以上210℃以下である。また、圧力は、好ましくは0.9MPa以上1.9MPa以下、より好ましくは1.2MPa以上1.8MPa以下である。特に、圧力0.9MPa以上1.9MPa以下且つ120℃以上220℃以下で行われる水熱反応処理が好ましく、0.9MPa以上1.9MPa以下且つ150℃以上210℃以下で行われる水熱反応処理がより好ましく、1.2MPa以上1.8MPa以下且つ150℃以上210℃以下で行われる水熱反応処理が更に好ましい。 次に得られた微生物材料過熱水蒸気処理物、酵母細胞壁粉末及び珪藻土を混合して微生物由来混合物を得る。酵母細胞壁粉末及び珪藻土は公知のものを用いることができ、特に限定されない。また、微生物材料過熱水蒸気処理物、酵母細胞壁粉末及び珪藻土の混合割合も特に限定されず、例えば微生物材料過熱水蒸気処理物100重量部に対し、酵母細胞壁粉末0より大きく1000重量部以下および珪藻土3900以上9500重量部以下の割合で混合することができる。
本実施形態の根張り改善剤は、圃場等の土壌に混和されてその土壌が過湿の状態となっているときの植物の根張りを改善することができる。
ここで、本明細書において、根張りとは根が土中に広がることをいう。
なお、特許文献1に開示される果樹などの根の生育の促進は、珪藻土と混合していない液体肥料によるものである。また液体肥料は果樹などに葉面散布され、過湿土壌に混和する本実施形態の根張り改善剤は異なる。
また、本明細書において、過湿土壌とは、土壌中に含まれる水分が過剰である状態をいい、例えば土の中の水が土の毛管力によって引き付けられている強さの程度を表すpF値が1.5以下である状態をいう。なお、pF値は、テンシオメータ法に基づき測定することができる。テンシオメータ法については、例えば、「土壌環境分析法」、日本土壌肥料学会監修、土壌環境分析法編集委員会編、博友社刊、1997年第1刷発行、59〜62頁などに記載されている。また、当業者は当然に理解できるが、本実施形態に係る過湿土壌とは、容器栽培されるときに容器に入れられた土において含まれる水分が過剰である状態(pF値1.5以下)も含む概念である。
本実施形態の根張り改善剤が施用される土壌については特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。なお、当業者は当然に理解できるが、本明細書において、土壌とは、岩石や植物に由来し、植生の保持のために利用できる成分をいい、圃場において存在している土壌のほか、天然から採取された土壌や、ピートモス、ココピート、バーミキュライト、腐葉土、堆肥、くん炭などの栽培用に用いられる資材も含む概念である。本実施形態の根張り改善剤は、pF値1.5以下の土壌(過湿土壌)であって植物の生育が可能である土壌において植物の根張りを改善でき、具体的にはpF値が0より大きく1.5以下である過湿土壌に混和することが挙げられる。さらにはpF値が0.5より大きく1.0以下である過湿土壌への混和が例示できる。
本実施形態の根張り改善剤の使用方法については特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。例えば施用時期などについても限定されず、植物を植える(種を播種する、または苗を植える)前に土壌中に本実施形態の根張り改善剤を混和するなどの態様で使用することができる。また、当然に理解できるが、本実施形態の根張り改善剤が土壌に混和されるときにはpF値は1.5以下でなくともよい。
また、本実施形態の根張り改善剤が施用されるにあたり、過湿土壌へのその混和率は特に限定されず、当業者が適宜設定することができるが、20 kg以上1200kg以下(10アール(10a)当たり)の範囲で混和することが好ましい。20kg(10a当たり)未満である場合、範囲にある場合と比較して根張り改善作用が十分でない。また、1200kg(10a当たり)より大きい割合で過湿土壌に根張り改善剤を混和しても効果の増加は認められず、従って1200kg(10a当たり)以下が好ましい。
なお、本実施形態の根張り改善剤を土壌に混和させるにあたってその量については依存性がなく当業者が適宜設定することができる。従って少ない量でも本実施形態の根張り改善剤の使用による効果を得ることができる。
また、特に限定されないが、本実施形態の根張り改善剤が施用された圃場等における栽培量は、例えばホウレンソウの場合: 2.5万株/10a以上20万株/10a以下(好ましくは5万株/10a以上15万株/10a以下)、サツマイモの場合:1000株/10a以上1万株/10a以下(好ましくは2000株/10a以上5000株/10a以下)、小麦の場合:5000株/10a以上50万株/10a(好ましくは8万株/10a以上40万株/10a以下)とすることができる。
以上、本実施形態の根張り改善剤によれば、当該根張り改善剤を混和した土壌が過湿の状態となるときの植物の根張りを改善することができるので、その土壌における植物の生育を改善することが可能となる。よって、未耕作のまま放置されている水田の転用が可能となるほか、硬盤が形成されている圃場等において湿害の発生を抑えつつ植物を生育させることができる。
本実施形態の根張り改善剤を施用した圃場等において栽培する植物については特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。本実施形態の根張り改善剤は、水田転作圃場において栽培が多く試みられている小麦などの単子葉植物のほか、例えばサツマイモ、ホウレンソウ、大豆などの双子葉植物を挙げることができる。なお、サツマイモやホウレンソウ、大豆は、他の穀類や野菜などと比較して湿害に弱いとして知られているが、本実施形態の根張り改善剤を土壌に混和することにより、過湿土壌におけるこれらサツマイモやホウレンソウについても根張りを改善することができる。
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[実施例の根張り改善剤の製造]
微生物材料過熱水蒸気処理物、酵母細胞壁粉末及び珪藻土を含む混合物である微生物由来混合物を含む実施例の根張り改善剤を後述する各試験に用いた。当該根張り改善剤は、以下のようにして製造した。
まず、磁力撹拌型水熱反応釜に、酵母細胞壁570kgとリン酸重量8%・カリウム7重量%に調整された液体肥料3230kgを投入し混合液を得た。その混合液を撹拌混合しながら加温し、反応釜内を蒸気で満たした後、蓋を閉めて温度170℃、圧力0.95MPaまで昇温し、微生物材料過熱水蒸気処理物3800kgを得た。
得られた微生物材料過熱水蒸気処理物3800kg(乾燥酵母として2重量%)を傾動ミキサーで混合した酵母細胞壁粉末2280 kg(根張改善剤の8重量%)と珪藻土25650 kgに混合した。これにより、実施例の根張り改善剤28500 kgを得た。
[試験例1]
供試作物としてサツマイモ(品種:黄金千貫)を用い、鹿児島県日置市で露地栽培を行なった。定植は2013年6月3日に行い、収穫は2013年11月6日に行なった。
試験区は実施例の根張り改善剤の土壌混和無しの区(以下無施用区)と10a当たり実施例の根張り改善剤を60kg土壌混和した区(以下施用区(60kg/10a))を設定した。また、病害虫防除のため、殺虫剤の散布を適宜行なった。収穫調査は各試験区3反復(1反復5株調査)の平均とし、50g以上の芋を上いもとして測定した。
結果を図1及び図2に示す。上いも収量は、10a当り施用区(60kg/10a)で4.58tであり、無施用区の3.61tと比較して、約27%の増収傾向が確認できた(図1)。これは1株あたりの芋数が増加したことが原因であると考えられた(図2)。
サツマイモの1株あたりの芋数は、定植後約2ヶ月で決定すると言われている(野菜園芸大百科12.2009)。そのため、今回の結果は5月下旬から7月下旬までのサツマイモの生育に何らかの効果があった可能性が示唆された。本試験圃場は30cmの深さに硬盤があること、2013年の九州南部は5月27日〜7月8日まで梅雨時期であったことを考えると、当該効果は過湿土壌での生育に対してのものであった可能性が高い。
[試験例2]
供試作物としてホウレンソウ(品種:晩抽バルク)を用い、茨城県守谷市のアサヒグループホールディングス所有の温室で栽培を行なった。播種は72穴のセルトレイにタキイ種苗(株)の育苗培土を充填し行なった。育苗は苗テラスで25℃、12h日長で、灌水は1日1回底面灌水を行なった。鉢上げは5号のプラスチック鉢に行い20日間温室内で生育させた。土壌pF値を灌水方法により調整し、pF1.5より大きく2.2以下(ジョウロ灌水、以下1.5<pF≦2.2ともいう)とpF0より大きく0.3以下(底面湛水、以下0<pF≦0.3ともいう)の2種類の土壌水分条件で栽培を行なった。資材の土壌混和は10a当たり実施例の根張り改善剤を1000kg(10a当たり)施用した区(以下施用区(1000kg/10a))と無施用区を設定した。調査は各試験区3株の根の乾物重を測定した。試験区は、(1) 「1.5<pF≦2.2、無施用区」、(2) 「0< pF≦0.3、無施用区」、(3) 「0< pF≦0.3、施用区(1000kg/10a)」の3つを設定した。
図3に示すとおり、過湿の土壌((2)の区)で育てたホウレンソウの根は適正な土壌水分の区((1)の区)で育てたホウレンソウの根と比較して5%水準で有意に減少していた。しかし、この過湿土壌に根張り改善剤を1000kg(10a当たり)土壌混和した区((3)の区)においては根の減少が改善され、適正な土壌水分で育てたホウレンソウの根と同等の生育をすることが確認された。
当該試験例2の結果から0< pF≦0.3の過湿土壌で実施例の根張り改善剤を土壌混和すると過湿による根の減少が抑えられ、根張りを改善できることが分かった。
[試験例3]
試験例2に準じた試験であって、試験例1の混合率である60kg/10aで同じ効果があるのか、また、湛水状態のpF0(湛水)の状態でも効果があるのかを確認するために、試験例2に準じた試験を行った。
供試品種および栽培方法、調査方法は試験例2と同様に行なった。試験例2において示した1.5<pF≦2.2と0<pF≦0.3の土壌条件に加えて、pF 0(湛水)の土壌条件についても評価を行った。また、資材の土壌混和条件も無施用区と施用区(1000kg/10a)に施用区(60kg/10a)を追加した。
試験区は、(1) 「1.5<pF≦2.2、無施用区」,(2) 「pF 0<v≦0.3、無施用区」,(3) 「pF 0<v≦0.3、施用区(1000kg/10a)」,(4) 「pF 0<v≦0.3、施用区(60kg/10a)」,(5) 「pF 0(湛水)、無施用区」,(6) 「pF 0(湛水)、施用区(1000kg/10a)」の6つを設定した。
結果を図4に示す。試験例2同様、過湿土壌で育てたホウレンソウの根は、適正な土壌水分で育てたホウレンソウの根と比較して根量が減少していた。また、実施例の根張り改善剤の土壌混和により根の減少が改善され、適正な土壌水分で育てたホウレンソウの根と同等の生育をすることが確認された。この過湿土壌による根の減少を改善させる効果は根張り改善剤を1000kg(10a当たり)土壌混和するより、60kg(10a当たり)土壌混和したほうが高いことが確認された。
しかし、湛水(pF0)条件下では、根張り改善剤を土壌混和した効果は見られず、資材の土壌混和の有無に関わらず根は腐ってとろけてしまい回収不可能な状態であった。
以上のことから、実施例の根張り改善剤の土壌混和には過湿土壌条件によって阻害された根の生育を改善する効果があることが分かった。根張り改善剤の施用量は量依存性がなく、1000kg(10a当たり)より60kg(10a当たり)の方が生育改善効果が高かった。また、pF0では湛水条件下のように過湿度が高い条件で上述した効果が出ない可能性が示唆された。
[試験例4]
圃場において土壌pF値を測定しつつ、実施例の根張り改善剤を土壌に混和してサツマイモを栽培した。
栽培方法および試験区は試験例1と同様に行なった。定植は2014年5月15日に行なった。生育調査は定植約2ヵ月後の2014年8月8日に3反復(1反復5株調査)の堀上調査を行なった。根は太さが2mm以上とそれ未満で太根と細根に分けて測定した。土壌pF値の測定は深さ15cm〜40cmで6箇所行なった。
2014年の九州南部の梅雨は6月2日から7月16日であった。図5から理解できるとおり、その梅雨の時期に試験を行った圃場のpF値が過湿とされるpF1.5より低くなる傾向が見られた。なお、硬盤が形成されていない同地区の圃場(一般圃場)ではその時期でも土壌が過湿となることはなかった。
堀上調査の結果では、根量および地上部の葉蔓の量が実施例の根張り改善剤の土壌混和により多くなる傾向があり(図6、図7)、細根については5%水準で有意に多かった。また、芋数も実施例の根張り改善剤を土壌混和した方が多くなる傾向であった(図8)。
以上の結果は、これまでの試験例1から試験例3までの結果と同様の傾向であり、実施例の根張り改善剤を土壌混和することは過湿土壌における生育の停滞を改善する効果があり、サツマイモではこのことが芋数の増加、収量の増加につながっていることを証明できたと考える。
[試験例5]
サツマイモについて、水田転作圃場における試験を行った。
試験に用いた圃場は鹿児島県知覧の水田転作圃場で、定植は2014年6月5日に行なった。栽培方法および調査方法は試験例4と同様に行なった。生育調査は定植約2ヵ月後の2014年8月8日と定植後3ヵ月後の9月2日に行い、3反復(1反復5株調査)の堀上調査を行なった。定植2ヵ月後の調査は無施用区と施用区(60kg/10a)のみを行い、定植3ヵ月後の調査は無施用区と施用区(60kg/10a)に追加して施用区(120kg/10a)(各資材120kg施用)と施用区(1200kg/10a)(各資材1200 kg施用)も行なった。
定植2か月後の結果では、無施用区と比較して施用区(60kg/10a)で細根量、地上部乾物重および芋数が多少増加したものの試験例4の日置圃場のように顕著な差ではなかった(図9、10、11)。しかし、定植3か月後の結果では、無施用区と比較して施用区(60kg/10a)で細根量、総根量、地上部乾物重、芋数ともに優位に増加していた(図12、13、14)。また、図12〜14から理解できるように、施用区(120kg/10a)、施用区(1200kg/10a)は根量、地上部乾物重、芋数の結果から施用区(60kg/10a)と比較して生育改善効果で劣っていることが分かった。この結果は、試験例3の結果と類似しており実施例の根張り改善剤の土壌混和には量依存性はないと考えられる。
定植2か月後にあまり効果がなく、定植3か月後に効果が出た原因として、試験例3の結果と同じく6、7月の梅雨時期は土壌の加湿度が高すぎて効果が出ず、8月に効果が出たのは梅雨が明けて土壌の加湿度が低くなったからだと考えられた。図15に、圃場におけるpF値の6〜8月の推移を示す。
以上の結果から、水田転作圃場でも実施例の根張り改善剤の土壌混和は、pF0付近からpF1.5の過湿土壌で生育改善効果があることが証明できた。また、定植2か月後の結果から、湛水状態が数日続く条件下でも多少の効果があることが分かった。
[試験例6]
水田転作圃場において栽培の試みが多くなされている植物の1つである単子葉植物である小麦を用いて試験を行った。
供試作物として小麦(農林21号)を用い、茨城県守谷市のアサヒグループホールディングス所有の温室で栽培を行なった。播種は72穴のセルトレイにタキイ種苗(株)の育苗培土を充填し行なった。育苗は苗テラスで25℃、12h日長で、灌水は1日1回底面灌水を行なった。鉢上げは5号のプラスチック鉢に行い約150日間温室内で生育させた。土壌pF値を灌水方法により調整し、pF0.5(点滴灌水1日3回)と0<pF≦0.3(底面湛水)の2種類の過湿土壌条件で栽培を行なった。実施例の根張り改善剤の土壌混和は無施用区と施用区(1000kg/10a)を設定した。調査は各試験区4株の1株当たりの麦の収穫量を調査した。
結果を図16に示す。本試験では麦が育ちづらいとされるpF0.5と0<pF≦0.3の過湿土壌において実施例の根張り改善剤を土壌混和することで無施用の区より生育が改善されることを確認した。特にpF 0.5では5%水準で優位に収穫量が増加していた。本試験結果の生育の改善効果や過湿度が高くなると効果が小さくなる傾向などはこれまでの結果と類似しており、小麦(単子葉植物)でも実施例の根張り改善剤の生育改善効果が出ることを確認できた。
[試験例7]
供試作物としてサツマイモ(黄金千貫)を用い、鹿児島県鹿屋市の圃場で露地栽培を行なった。栽培は2012年と2013年に行い、圃場は年度によって別の場所を使用した。2012年は5月22日定植し、11月5日に収穫調査を行なった。2013年は5月25日定植し、11月13日に収穫調査を行なった。いずれも試験期間中、土壌pF値は1.5より大きい値を示した。試験区は実施例の根張り改善剤の土壌混和無しの無施用区と施用区(60kg/10a)を設定した。収穫調査は各試験区3反復(1反復5株調査)の平均とし、50g以上の芋を上いもとして測定した。
〔結果および考察〕2012年の結果を図17に、2013年の結果を図18に示す。2012年、2013年とも無施用区と施用区(60kg/10a)との間に収量の差はなく、芋数も2012年は減少傾向、2013年は増加傾向と統一した傾向はみられなかった。適正な土壌水分(pF>1.5)を維持できる圃場では実施例の根張り改善剤を土壌に混和させても差が出ない可能性が示唆された。
[試験例8]
供試品種は枝豆(大豆):‘きたのさと’、稲:‘日本晴’を用い、茨城県守谷市のアサヒグループホールディングス所有の温室で試験を行なった。播種は72穴のセルトレイに行い、培土は枝豆にタキイ種苗(株)の種まき培土、稲では川西床土センター社のサン培土を使用した。育苗は苗テラス(閉型苗生産システム)で25℃、12h日長、灌水1日1回底面灌水で行なった。栽培期間は枝豆が30日、稲が25日とした。土壌pF値は枝豆のタキイ種苗(株)の種まき培土が0.5前後で、稲の川西床土センター社のサン培土は0.3前後であった。試験区は対照(実施例の根張り改善剤の土壌混和0%)、実施例の根張り改善剤施用区の2試験区を設定した。実施例の根張り改善剤は0.06%(60kg/10a当り)を土壌混和した。調査は1反復12株とし、1試験区3反復行った。
〔結果および考察〕地上部乾物重は枝豆、稲ともに対照区と比較して実施例の根張り改善剤施用区で有意差は無かったが増加傾向であった(図19、図20)。地下部乾物重は、枝豆、稲ともに有意に増加していた。(図19、図20)。
[参考:土壌成分比較]
試験例1と試験例7において用いた圃場の土壌について、実施例の根張り改善剤を混和したときとしていないときの土壌成分の比較を行った。実施例の根張り改善剤は、各土壌に対し、10重量%の割合(土の重さ仮比重1、10a当たりの土量を100tとして算出)で混和した。
各成分の分析方法を表1に示す。また、分析結果を図21に示す。なお、試験例1で用いた圃場の土壌を日置0と、試験例7で用いた圃場の土壌を鹿屋0とした。また、試験例1で用いた圃場の土壌に実施例の根張り改善剤を混合したものを日置1と、試験例7で用いた圃場の土壌に実施例の根張り改善剤を混合したものを鹿屋1とした。
図21に示す分析結果および試験例1、7では実施例の根張り改善剤の混和割合が60kg(10a当たり)であったことを考慮すると、試験例1、7において根張り改善剤を混和したことによっての土壌成分の変化はほとんどないものと考えられる。
以上に示した試験例1〜8の結果より、実施例の根張り改善剤を土壌混和することで硬盤ができて過湿になりやすい圃場や水田転作圃場などの過湿土壌条件下で作物の生育を改善する効果があることが証明できた。その効果は例えばpF値が0より大きく0.5以下などの条件下で発揮され、一方、湛水条件(pF 0)などの過湿度が高い条件下では発揮されにくいことが分かった。さらに、最適な土壌混和率は、量依存性がなく0より大きく1200kg以下(10a当たり)の範囲にあり、少ない量でも効果があることが確認できた。さらに、実施例の根張り改善剤を用いた上述の試験においては、他の穀類や野菜などと比較して湿害に弱いとして知られている双子葉植物のサツマイモ、ホウレンソウ、大豆や、水田転作圃場において栽培が多く試みられている単子葉植物の小麦に対して効果が確認できた。
これらの結果から、実施例の根張り改善剤を土壌混和することで水田転作圃場および硬盤ができて過湿になりやすい圃場でよりよく作物が生産できることが証明された。また、ゲリラ豪雨による一定期間の湛水、冠水状態においても生育改善効果が期待できることが示唆された。

Claims (4)

  1. 酵母、酵母の抽出物、または酵母の細胞壁と、リン酸またはリン酸化合物及びカリウムまたはカリウム化合物とを含む混合物に過熱水蒸気処理を施すことにより得られる微生物材料過熱水蒸気処理物、酵母細胞壁粉末及び珪藻土が混合されている微生物由来混合物を含有する、過湿土壌における植物の根張り改善剤。
  2. 土壌を用いての植物の栽培中において土壌のpF値が1.5以下であるときの植物の根張りを改善する方法であって、
    酵母、酵母の抽出物、または酵母の細胞壁と、リン酸またはリン酸化合物及びカリウムまたはカリウム化合物とを含む混合物に過熱水蒸気処理を施すことにより得られる微生物材料過熱水蒸気処理物、酵母細胞壁粉末及び珪藻土が混合されている微生物由来混合物を土壌に混和し、
    前記微生物由来混合物が混和された土壌に植物を植えて栽培することを含む方法。
  3. 前記微生物由来還元性混合物を土壌に対し10アール当たり20kg以上1200kg以下の範囲で混和する請求項2に記載の植物の根張りを改善する方法。
  4. 植物の栽培中において土壌のpF値が0より大きく1.5以下であるときの植物の根張りを改善する請求項2または3に記載の植物の根張りを改善する方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN107683758A (zh) * 2017-08-23 2018-02-13 合肥满地金农业科技有限公司 一种提升红薯口感的栽培方法

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