JP2016112534A - 素子配列、素子、流体の成分分離方法、および素子配列の製造方法 - Google Patents

素子配列、素子、流体の成分分離方法、および素子配列の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】流体の成分分離の性能を従来よりも高める素子および素子配列を形成する。【解決手段】素子配列は、少なくとも1つの入口と2つの出口とを有し、流体の成分濃度を偏在させて高濃度の流体を高濃度出口から流出させ、低濃度の流体を低濃度出口から流出させる素子を並列に複数個配列した素子段を流体の流れの方向に複数段配列する。最上流を除く両端の素子のうちの一方の端の入口は、1段上流の一方の端の素子の高濃度出口および一方の端の素子よりも他方の側の素子の高濃度出口に接続され、他方の端の素子の入口は、1段上流の他方の端の素子の低濃度出口および他方の端の素子よりも一方の側の素子の低濃度出口に接続される。最上流と両端とを除く素子の入口は1段上流の同一順序位置よりも一方の側に配置された素子の低濃度出口と同一順序位置よりも他方の側に配置された素子の高濃度出口とに接続される。【選択図】図2

Description

本発明は、流体の成分を分離する効果を有する素子、素子配列およびこれを用いた流体の成分分離方法、および素子配列の製造方法に関する。
この技術分野の先行技術としては、例えば、複数の分離流路が交差して連通する物質分離デバイスが提案されている。この物質分離デバイスには、温度勾配、電位勾配、磁位勾配、加速度、超音波振動、時間に対して非対称な振動、吸脱着、化学的親和性などが分離の駆動力として各分離流路に略直交する方向に印加される。この物質分離デバイスは、この駆動力で分離流路の交差部で流体から第1の物質を一方の分離流路に第2の物質を他方の分離流路に順次分離・集合させ、これを繰り返して第1物質、第2物質の含有濃度を高めて回収する。
特開2008−119678号公報 特表2008−538283号公報
R. K. Prabhudesai and J. E. Powers, "Thermal Diffusion as A Purification Tool", Annals of the New York Academy of Sciences, (米国), 1966, Vol.137, pp.83-102. T. WAKO, M. SHIMIZU, S. MATSUMOTO and N. ONO, Development of a MEMS channel device for hydrogen gas separation based on the Soret effect, Bulletin of the JSME Journal of Thermal Science and Technology, 2014, Vol.9, No.1, p.JTST0005. Saputra, P.F. Geelhoed, J.F.L. Goosen, R. Lindken, J. Westerweel, F. van Keulen, Microfabricated Thermal Gradient Separator Device, Proc. ASME Micro/Nanoscale Heat and Mass Transfer International Conference, (米国), 2010, Vol.1, pp.379-386. Harold K. Lonsdale, Edward A. Mason, "Thermal Diffusion and the Approach to the Steady State in H2-CO2and He-CO2", the Journal of Physical Chemistry, (米国), 1957, 61 (11), pp 1544-1551. Gilbert Strang, "Introduction to Applied Mathematics", Wellsley-Cambridge Press, (米国), 1986, ISBN 0-9614088-0-4, pp 87-120. G.B. Whitham, "Linear and Nonlinear Waves", John Wiley & Sons, inc., (米国), 1999, ISBN 0-471-35942-4, pp 96-112.
しかし、従来の技術では、分離された流体の濃度等の成分分離特性、あるいは、分離する流体の処理量等への配慮が十分ではない。本発明は、流体の成分分離の性能を従来よりも高めることを課題とする。
本発明の一側面は、以下の素子配列によって例示される。すなわち、本素子配列は、少なくとも1つの入口と2つの出口とを有し、入口から流入する流体の成分濃度を偏在させ
て、流入した流体の平均濃度よりも高濃度の流体を高濃度出口から流出させ、流入した流体の平均濃度よりも低濃度の流体を低濃度出口から流出させる素子を並列に複数個配列した素子段を流体の流れの方向に複数段配列したものである。そして、最上流を除く各素子段において両端の素子のうち一方の端の素子の入口は、1段上流の素子段の同じ一方の端の素子の高濃度出口および一方の端の素子よりも他方の側に配置された素子の高濃度出口に接続される。また、両端の素子のうち他方の端の素子の入口は、1段上流の素子段の同じ他方の端の素子の低濃度出口および他方の端の素子よりも一方の側に配置された素子の低濃度出口に接続される。さらに、最上流を除く各素子段で両端の素子を除く各素子の入口は、1段上流の素子段での流体の流れの横断方向の同一順序位置よりも一方の側に配置された素子の低濃度出口と1段上流の素子段での流体の流れの横断方向の同一順序位置よりも他方の側に配置された素子の高濃度出口とに接続される。
本発明の第2の側面は、以下の素子配列によっても例示される。すなわち、この素子配列では、素子段として、他の素子段より1列短い半整数段と半整数段よりも1列長い整数
段とが交互に配置され、かつ流体の流れの横断方向には半整数段の各素子が整数段の素子と素子との間に位置するようにずれて配置される形態で素子が配置される。そして、最上流を除く整数段において両端の素子のうちの一方の端の素子の入口は、当該整数段よりも1素子分および2素子分上流に配列された半整数段および整数段で一方の端の素子のそれぞれの高濃度出口に接続される。また、整数段において両端の素子のうちの他方の端の素子の入口は、当該整数段よりも1素子分および2素子分上流に配列された半整数段および整数段で他方の端の素子のそれぞれの低濃度出口に接続される。そして、最上流を除く半整数段において両端を含む各素子の入口は、前段である整数段での流体の流れの横断方向に一方の側に半整数段とずれて配置された素子の低濃度出口と、前段である整数段での流体の流れの横断方向に他方の側にずれて配置された素子の高濃度出口とに接続される。また、最上流を除く整数段において両端を除く各素子の入口は、前段である半整数段での流体の流れの横断方向に一方の側に整数段とずれて配置された素子の低濃度出口と、前段である半整数段での流体の流れの横断方向に他方の側にずれて配置された素子の高濃度出口とに接続される。
本発明の第3の側面は、例えば、各素子に流入する流体の成分濃度をxとして、高濃度
出口から流出する高濃度流体と低濃度出口から流出する低濃度流体との濃度差が所定の係数gammaを用いて、2(gamma)x(1-x)と表現されるとき、素子段での流体の流れの横断方向の素子数Mが1/(2gamma)以上であり、流体の流れの方向の素子段の段数NがM/(gamma)以上である素子配列によって例示される。
本発明の第4の側面は、例えば、下記下半部と開口側壁を有する辺に平行な軸周りに下半部を反転させた形状を有する上半部と、下半部と上半部とに挟まれ、下半部と上半部とが重畳する部分の略中央部に開口を有する隔壁と、を備える素子によって例示される。下半部は、平面視で平行四辺形状の底部と、底部において平行四辺形の2組の対辺のうち、一方の対辺において所定幅の開口を形成して立設される一対の開口側壁と、底部において平行四辺形の他方の対辺に立設される一対の非開口側壁と、を有する。また、上半部は、底部に対向する平面視で平行四辺形状の天井部と、天井部において平行四辺形の2組の対辺のうち、一方の対辺において所定幅の開口を形成して垂下して設けられる一対の開口側壁と、天井部において平行四辺形の他方の対辺から垂下して設けられる一対の非開口側壁と、を有する。
本発明の第5の側面は、例えば、下記下半部と開口側壁を有する辺に平行な軸周りに下半部を反転させた形状を有する上半部と下半部と上半部とに挟まれた隔壁とを備える素子によって例示される。この上半部は平面視で平行四辺形状の底部と、底部において平行四辺形の4つの辺のうち、1つの辺において所定幅の開口を形成して立設される1つの開口
側壁と、平行四辺形の残り3つの辺に立設される非開口側壁と、を有する。また、上半部は、底部に対向する平面視で平行四辺形状の天井部と、天井部において平行四辺形の4つの辺のうち、1つの辺において所定幅の開口を形成して垂下して設けられる1つの開口側壁と、平行四辺形の残り3つの辺から垂下して設けられる3つの非開口側壁と、を有する。さらに、隔壁は、下半部と上半部とが重畳する部分の略中央部に第1の開口と、素子の下半部と上流側の素子の上半部の重畳部分または素子の上半部と上流側の素子の下半部の重畳部分に上流側の素子に連通する第2の開口と、素子の下半部と下流側の素子の上半部の重畳部分または素子の上半部と下流側の素子の下半部の重畳部分に下流側の素子に連通する第3の開口と、を有する。
本発明の第6の側面は、下記下半部と非開口側壁を有する辺に平行な軸周りに下半部を反転させた形状を有する上半部を備える素子によって例示される。この下半部は、平面視で六角形状の底部と、底部において六角形の三対の対辺のうち、一対の対辺上の側面の一部またはすべてを開口させ、他の二対の対辺に立設される二対の非開口側壁と、を有する。また、上半部は、底部に対向する平面視で六角形の天井部と、天井部において六角形の三対の対辺のうち、一対の対辺下の側面の一部またはすべてを開口させ、他の二対の対辺から垂下して設けられる二対の非開口側壁と、を有する。
本発明によれば、流体の成分分離の性能を従来よりも高めることができる。
素子のモデルを例示する図である。 流体分離素子をネットワークで結合した素子配列を有する装置(モデル1)を例示する図である。 モデル1の回路で素子間の接続関係を例示する詳細図である。 他の素子配列(モデル2)を例示する図である。 モデル2の回路で素子間の接続関係を例示する詳細図である。 モデル1の回路についての数値計算結果を例示する図である。 モデル1の回路についての数値計算結果を例示する3次元図である。 モデル1の数値計算で得た回路出口での濃度分布を理論式と比較する図である。 モデル2の回路についての数値計算結果を例示する図である。 モデル2の回路についての数値計算結果を例示する3次元図である。 モデル2の数値計算で得た回路出口での濃度分布を理論式と比較する図である。 実施例1における素子の構成を例示する斜視図である。 下半部の構造を例示する斜視図である。 下半部隔壁の形状を例示する斜視図である。 隔壁を取り除いた下半部を例示する斜視図である。 下半部を配列した素子配列の平面視形状を例示する図である。 両端以外の素子の下半部を例示する平面図である。 高濃度端部の素子の下半部を例示する平面図である。 低濃度端部の素子の下半部を例示する平面図である。 素子配列を平面部材上に形成した構成を例示する平面図である。 素子の下半部を配列した構成を例示する斜視図である。 隔壁を配列した形状を例示する斜視図である。 高濃度端部の素子の下半部隔壁の構成を例示する平面図である。 両端以外の素子の下半部隔壁の構成を例示する平面図である。 低濃度端部の素子の下半部隔壁の構成を例示する平面図である。 高濃度端部の素子の下半部隔壁の第2の例である。 低濃度端部の素子の下半部隔壁の第2の例である。 高濃度端部の素子の下半部隔壁の第3の例である。 低濃度端部の素子の下半部隔壁の第3の例である。 素子上半部を配列した構造を例示する斜視図である。 下半部の配列の層、隔壁の配列の層、および上半部の配列の層を重ね合わせて接合した構造を例示する斜視図である。 下半部の配列の層、隔壁の配列の層、および上半部の配列の層の接合前の状態を例示する図である。 変形例に係る素子配列を例示する図である。 変形例に係る低濃度端部の素子の下半部を例示する平面図である。 実施例2の素子の構成を例示する斜視図である。 実施例2の素子の下半部を配列した素子配列を例示する平面図である。 実施例2の両端以外の素子の下半部の平面図である。 高濃度端部の通路部の形状を例示する平面図である。 低濃度端部の通路部の形状を例示する平面図である。 素子の下半部を平面部材上に形成した回路下半部の構成を例示する平面図である。 素子の下半部を平面部材上に形成した回路下半部の構成を例示する斜視図である。 素子の上半部を平面部材上に形成した回路上半部の構成を例示する斜視図である。 回路下半部に回路上半部を載置して接合した回路の斜視図である。 実施例3の濃度分離装置の斜視図である。 実施例4の濃度分離装置の斜視図である。
以下、図面を参照して一実施形態に係る流体分離素子および素子配列について説明する。本実施形態では、少なくとも2つの成分を有する流体の成分分離作用を有する流体分離素子および複数の流体分離素子を流体が流動可能な流路となるネットワーク(回路ともいう)で結合した素子配列を有する装置について説明する。以下、まず、流体分離素子のモデルおよびモデルに適用可能な理論式を基に、本実施形態の流体分離素子の特性および作用について説明する。次に、具体的な構造を有する流体分離素子および素子配列の実施例を説明する。
従来の技術では、回収される物質の濃度、特性を定量的に見積もり、目的とする濃度、特性の物質を得ることについての配慮がなされていない。例えば、従来の技術では、物質の目標濃度を達成するための構造あるいはデバイスの物量等が明確ではない。その結果、従来の技術では、多段化を行ったとしても、所望の濃度を得ること、例えば、分離後の高濃度流体の純度を十分に高めること、例えば100%近くまで高めること、あるいはそのような目的を達成するための効率的な素子配列の形成が困難である。あるいは、従来の技術では、高純度の高濃度流体は、流出する全流体中で比較的少量しか得られないという制限があった。
<流体分離素子のモデル1>
(モデル1の構成)
図1に、本実施形態の素子のモデルを例示する。本実施形態の流体分離素子は2個の入
口と2個の出口を持ち、その中間に成分分離流路を持つ。ここでは、流体は二成分混合流
体と仮定し、一方の成分に着目して、各出口を高濃度側出口と低濃度側出口と呼ぶこととする。2個の入口から入った流体はいったん混合されるが、成分分離流路を通過する間に
、高濃度の流体と低濃度の流体とに分離される。そして、高濃度の流体と低濃度の流体が分岐して、それぞれの出口から流出する。
図1の例では、高濃度側出口を+マークで例示し、低濃度側出口を−マークで例示する。また、2個の入口には、それぞれ上流側から高濃度流体と低濃度流体が流入することを想定する。ところで、2個の入口から流入する流体は、一旦合流するので、図1のモデルは、例えば、単一の流路に合流する2つの流路を用いて、この単一の流路が流体分離素子に設けた単一の入口に接続されるモデルであると考えてもよい。したがって、本実施形態の流体分離素子は、図1のような2個の入口を有するものに限定される訳ではなく、少なくとも1つの入口を有する流体分離素子ということができる。なお、図1において、入口と出口との間の成分分離流路は、矩形の内部に存在する。
図1のモデルでは、省略されているが、本実施形態の流体分離素子は、様々な物理作用、例えば、温度、加速度、重力、磁力、静電荷等の作用により、流体分離素子の入口と出口との間の成分分離流路を流れる混合流体の成分濃度を偏位させて、成分を分離する作用を有する。ただし、本実施形態の混合流体の成分の分離において、分離作用を引き起こす物理作用に限定がある訳ではない。したがって、本実施形態で例示する素子の構造、素子配列の構造、接続方法、流体の濃度分離方法、および素子配列の製造方法を含む技術は、例えば、背景技術に例示した様々な物理作用、あるいは化学作用を用いた流体分離素子に適用できる。
また、図1では、流体分離素子は平面図で描かれているが、少なくとも高濃度出口と低濃度出口との間には、紙面に垂直な方向で高さの差異を有するものとしてもよい。例えば、紙面に垂直な方向に重力が存在する場合には、混合流体のうち、重いガスの濃度は重力で重力方向に偏位し、軽いガスの濃度は重力と逆方法に偏位する。したがって、重いガスの高濃度ガス出口は、低濃度ガス出口よりも紙面に垂直な重力方向にシフトした低い位置に設けられる。同様に、例えば、図1の流体分離素子の紙面の表側と裏側との間で温度勾配を設けたソーレ効果を利用する場合も同様である。
図2に、図1の流体分離素子をネットワークで結合した素子配列を有する装置を例示する。図2では、流体分離素子は、流体の流れの方向に第0段から第N−1段の合計N段に配置される。図2では、流体が流れの方向に素子をたどるごとに、混合流体の成分濃度の偏位が進行することから、図2で左から右に進む方向の位置、つまり、流体の流れの方向の位置を段と呼ぶ。そして、1つの段における素子の組、つまり、流体の流れの横断方向、例えば、流体の流れに垂直な方向の流体分離素子の並びを素子段と呼ぶことにする。ただし、流体の流れの横断方向とは、流体の流れを横切る方向あるいは流れと交差する方向をいい、垂直な方向に限定される訳ではない。
一方、各段において、流体の流れの横断方向の位置を列と呼ぶ。したがって、素子段は、1つの段における並列な素子の集まりということが言える。そして、列の位置を1つ決めたときに流体の流れの方向に並ぶ素子の組を素子列と呼ぶ。ただし、素子列を単に列という場合もある。例えば、図2では、流体分離素子は、流体の流れの方向に、第0段から第N−1段まで合計N段配置され、各段において流体の流れの横断方向に、第0列から第M−1列まで合計M列で配置される。
したがって、図2の素子配列は、少なくとも1つの入口と2つの出口とを有し、入口から流入する流体の成分濃度を偏在させて、流入した流体の平均濃度よりも高濃度の流体を高濃度出口から流出させ、流入した流体の平均濃度よりも低濃度の流体を低濃度出口から流出させる素子を並列に複数個配列した素子段を流体の流れの方向に複数段配列して接続した素子配列といえる。 さらに、図2では、最上流を除く各素子段の両端以外の各素子
の入口は、1段上流の素子段での流体の流れの横断方向の同一順序位置よりも前記一方の側に配置された素子の低濃度出口と前記1段上流の素子段での流体の流れの横断方向の同一順序位置よりも前記他方の側に配置された素子の高濃度出口とに接続される。
また、図2では、最上流を除く各素子段の両端の素子のうちの一方の端の素子の入口は、1段上流の素子段の同じ一方の端の素子の高濃度出口および一方の端の素子よりも1素子分他方の側に配置された素子の高濃度出口に接続される。また、最上流を除く各素子段の両端の素子のうちの他方の端の素子の入口は、1段上流の素子段の同じ他方の端の素子の低濃度出口および他方の端の素子よりも1素子分一方の側に配置された素子の低濃度出口に接続される。
このような構成によって、素子配列の各素子段の一方の端すなわち高濃度端部の素子は、各素子段よりも1段上流に配列された素子段に含まれる2つの素子のそれぞれの高濃度出口に接続される結果、効果的に高濃度成分を維持できることが期待される。しかし、より低濃度の列の素子からの流入も受けることから、高濃度端部の素子の濃度が低くなってしまう可能性も排除できない。後述の理論解析で、この可能性にもかかわらず、適切な列数および段数の素子配列を構成することにより、十分下流においては高濃度側の流体が十分な純度、例えば、ほぼ100%の濃度になることを示す。
また、素子配列の各素子段の他方の端すなわち低濃度端部の素子は、各素子段よりも1段上流に配列された素子段に含まれる2つの素子のそれぞれの低濃度出口に接続される結果、効果的に低濃度状態を維持できると期待される。後述の理論解析で、適切な列数および段数の素子配列を構成することにより、十分下流においては低濃度側の流体が十分な純度、例えば、ほぼ0%の濃度になることを示す。
図3は、図2の素子配列において素子間の接続関係をより具体的に例示する詳細図である。図3では、それぞれの素子段において、素子は流体の流れの横断方向に同数(M列)配列されている。さらに、図3では、最上流を除く各素子段の両端の素子のうち、一方の端(第0列、高濃度端部)の素子の入口は、1段上流の素子段の同じ一方の端(第0列、高濃度端部)の素子の高濃度出口および一方の端の素子よりも他方の側(第M−1列側、低濃度側)に配置された素子(第1列の素子)の高濃度出口に接続される。また、最上流を除く各素子段の両端の素子のうち、他方の端(第M−1列、低濃度端部)の素子の入口は、1段上流の素子段の同じ他方の端(第M−1列、低濃度端部)の素子の低濃度出口および他方の端の素子よりも一方の側(第0列側、高濃度側)に配置された素子(第M−2列の素子)の低濃度出口に接続される。
ここで、一方の端(第0列、高濃度端部)の素子とは、第0列の素子をいい、1段上流の素子段の同じ一方の端(第0列、高濃度端部)の素子とは、高濃度側端部の各素子(第0列、第j段)に対して、1段上流側の素子(第0列、第j−1段)をいう。また、一方の端の素子よりも他方の側(第M−1列側、低濃度側)に配置された素子(第1列の素子)とは、高濃度側端部の各素子(第0列、第j段)に対して、1段上流側でかつ1列低濃度側に配置された素子(第1列、第j−1段)をいう。
同様に、他方の端(第M−1列、低濃度端部)の素子とは、第M−1列の素子をいう。また、1段上流の素子段の同じ他方の端(第M−1列、低濃度端部)の素子とは、低濃度側端部の各素子(第M−1列、第j段)に対して、1段上流側の素子(第M−1列、第j−1段)をいう。また、他方の端の素子よりも一方の側(第0列側、高濃度側)に配置された素子(第M−2列の素子)とは、低濃度側端部の各素子(第M−1列、第j段)に対して、1段上流側でかつ1列高濃度側に配置された素子(第M−2列、第j−1段)をいう。
さらに、図3では、最上流を除く各素子段の両端の素子を除く各素子の入口は、1段上流の素子段の並列方向の同一順序位置よりも一方(高濃度)の側に配置された素子の低濃度出口と1段上流の素子段の並列方向の同一順序位置よりも他方(低濃度)の側に配置された素子の高濃度出口とに接続されている。
ここで、前段の並列方向の同一順序位置は、例えば、各素子(第i列、第j段)に対して、前段の同一列の位置(第i列、第j−1段)をいう。また、同一順序位置よりも一方(高濃度)の側に配置された素子とは、例えば、各素子(第i列、第j段)に対して、前段の同一列の位置よりも1列高濃度側の位置(第i−1列、第j−1段)をいう。また、同一順序位置よりも他方(低濃度)の側に配置された素子とは、例えば、各素子(第i列、第j段)に対して、前段の同一列の位置よりも1列低濃度側の位置(第i+1列、第j−1段)をいう。なお、ここでは、図3の第0列が高濃度側、第M−1列が低濃度側として説明した。以下、このような成分分離素子を単に素子ともいい、図2および図3のように素子を配列して接続した素子配列を回路(ネットワーク)ともいう。また、素子と素子の接続部となる流路を枝ともいう。
(第1のモデルの理論式のための定義)
本実施形態で提案する装置は、数学的には2次写像で表される非線形の流体分離素子を多数結合したネットワークシステムとして定式化され、その定式にしたがった解析が可能である。装置内の圧力、流量、濃度について行った解析の概要は以下の通りである。なお、以下では、数12から数32等の式中で用いられるギリシャ文字を本文中では、画像で挿入された数式中を除いて、phi(ファイ), eps(イプシロン), sigma(シグマ), xi
(グザイ),tau(タウ)およびgamma(ガンマ)のように表す。
まず、流体分離素子の2つの入口での流入を混合し、その流量、圧力、および分離すべき成分の濃度をそれぞれq0, p0, およびx0 (0 =< x0 =< 1) とする。その流体分離素子の2つの出口での流量、圧力、および分離流体濃度をそれぞれq1, p1, およびx1 (高濃度側) およびq2, p2, およびx2 (低濃度側) で表す。また、以下の式中で乗算(積)を明示する場合には、*(アスターリスク)が用いられる。また、左辺と右辺とがほぼ等しい場合の記号として”~=”を用いる。ただし、物理量を表す変数q0, p0, x0, q1, p1, x1, q2, p2, x2, および上記ギリシャ文字を示す文字列eps(イプシロン), sigma(シグマ), xi(グザイ),tau(タウ)およびgamma(ガンマ)が式中で並べて記載されている場合も、
これらの変数あるいは文字列の乗算(積)を表すものとする。
解析を可能とするため、本装置で処理される流体は、慣性項の無視できる非圧縮性流体であり、各素子における平均圧力降下p0 - (p1 +p2)/2 が一定であることを仮定する。さらに、本解析では、代表圧力としてこの平均圧力降下を、代表流量として入口(第0段)の
素子1個あたりの流量を用いて、流量、圧力、および分離流体濃度を無次元化する。
各素子について流量保存式
[数1]
q0 = q1 + q2;
および流量・圧力関係式
[数2]
q1 =(1/2)(p0 - p1);
q2 =(1/2)(p0 - p2);
が書ける。加えて、分離素子内では高濃度から低濃度へ線形に変化する平衡濃度分布を仮定し、これを出口流量比で二分すると、各出口の平均濃度は
[数3]
x1 = x0 + 2(q2/q0)(gamma)x0(1-x0);
x2 = x0 - 2(q1/q0)(gamma)x0(1-x0);
となる。ここで、gamma は実験環境と物性によって決まるパラメータである。なお、流体分離素子がソーレ効果によって成分を分離する素子の場合には、gammaは以下の数4の式
で表される。
[数4]
gamma = (alphaT)ln(TH/TL)/4;
ここで(alphaT)は熱拡散定数、TH, TLは高温側と低温側の温度である。ここで、熱拡散定数の(alphaT)定義、測定方法および測定結果の例は、非特許文献4(Harold K. Lonsdale, Edward A. Mason)に詳しく説明されているので、本実施形態ではその詳細は省略する
特に流量が等分配される(q1 = q2 = (1/2)q0 の)場合は
[数5]
g+(x) = x +(gamma)x(1-x);
g-(x) = x -(gamma)x(1-x);
と書いて、
[数6]
x1 = g+(x0);
x2 = g-(x0);
となる。このため各素子は、濃度について1組の二次写像g+とg-とを行う。数5および数6は、各素子に流入する流体の成分濃度をxとして、高濃度出口から流出する高濃度流体
と前記低濃度出口から流出する低濃度流体との濃度差が2(gamma)x(1-x)と表現されるこ
とを示している。また、数5および数6は、各素子に流入する流体の成分濃度をxとして
、高濃度出口から流出する高濃度流体の濃度が(gamma)x(1-x)だけ増加し、低濃度出口
から流出する低濃度流体の濃度が(gamma)x(1-x)だけ減少することを示している。
各素子に流入する流体の成分濃度xが0(0%)または1(100%)の場合には、前記濃度差は0である。これは分離すべき成分が全くない場合、または全てがその分離すべき成分である場合だから当然である。xが0.5(50%)で、分離すべき成分とそれ以外の成分が1:1の濃度比である時に、前記高濃度流体および低濃度流体の濃度差が最大値2(gamma)*(1/2)*(1-1/2)=gamma/2となることを数5では仮定している。この仮定が厳密に、あるいは近似的に成り立つ流体分離素子は多いと考えられる。その場合に、ソーレ効果の場合の数4のようにパラメータgammaを理論的に導けない場合も想定される。しかし、数4のようなパラメータが
導けない時には、単一素子での出口濃度差の測定を、流入濃度xを変えながら行い、得ら
れたデータに放物線2(gamma)x(1-x)を当てはめ、係数2(gamma)を例えば最小2乗法で最適化することにより、gammaの値を決定すればよい。
(回路の圧力と流量)
図2の通りに回路を構成すると、各素子で数1および数2が成り立つ。素子と素子を結ぶどの枝の圧力降下も、代表圧力に比して無視できるものとする。また、第0段の各素子
に同一の入口圧力をかけて混合流体を注入し、第N-1段の各素子に同一の出口圧力、例え
ば大気圧、をかけて、分離した流体を自然に流出させる。回路のどの枝でも、流体の漏れや途中からの注入がないものとする。これらの条件で、素子配列の各素子について、1つ以上の入口からの流入量が2つの出口からの流出量に等しいとする流量保存式を記す。これらの式を数1および数2と連立して解くことは、電池と抵抗から構成される電気回路の中の電位と電流を求めることと等価であり、容易である(例えば、非特許文献5(Gilbert Strang)を参照)。結果として、次のことがわかる。回路内の圧力分布は、列方向には一定で、段方向には一次関数で降下する単純な分布となる。そして、流量は境界を含めた
どの枝でも等流量(従って各素子では入口流量が出口2つに等分配)となる。
(濃度の関係式)
これを基に濃度分布を解析する。分離すべき成分の素子を配列して接続した回路内での濃度分布は、その成分の保存則より決まる。図3において、第 j 段、第 i 列の素子における流入成分濃度(モル分率)をx(i,j)とする。成分の保存則は、列番号i=1,2,…,M-2および段番号j = 1,2, …,N-1 に対して、次の数7で書ける。
[数7]
x(i,j) =(1/2){g-(x(i-1,j-1)) + g+(x(i+1,j-1))};
各素子段の両端の素子は素子配列内部(図3で第1列から第M-列)の素子と異なる接
続をしており、そこでの保存則は別途、次の数8で算出できる。
[数8]
x(0,j) =(1/2){g+(x(0,j-1)) + g+(x(1,j-1))}, および
x(M-1,j)=(1/2){g-(x(M-2,j-1)) + g-(x(M-1,j-1))};
数7と数8を見比べると、もし、濃度x(-1,j) およびx(M,j)の仮想素子を境界の外側((-1,j)および(M,j)の位置)に設けるならば、ネットワークの両側境界(i=0またはM-1)
でも数7を用いることができると分かる。例えば、図2の素子配列による回路の場合には、以下の数9の条件が満たされる場合に、濃度x(-1,j) および x(M,j)の仮想素子を境界
の外側((-1,j)および(M,j)の位置)に設けた回路は元の回路と等価になる。なお、濃度x(i,j)の仮想素子を単に、仮想素子x(i,j)と呼ぶことにする。
[数9]
g-(x(-1,j)) = g+(x(0,j)), および g+(x(M,j)) = g-(x(M-1,j));
従って、i=0およびM-1でも数7を使うことにして、数9を各素子段の両端における境界条件と見る。
(数値計算)
図6、7は、図2で示される流体分離素子のモデル1の回路について、数7および数9を用いた数値計算結果を例示する図である。図6、図7は、gamma=0.25, M=50, N=300の
条件において、第0段に流入濃度0.5(=50%)の混合流体を流入させた場合の濃度変化を計算した結果を図示した例である。図6ではj=0,25,50,…,275および299における濃度(モル
分率)x(i,j) を縦軸とし、列番号i=0,1,…,49(横軸)に対して、黒の点で図示し、点と点の間を直線分でつないだ。ただし、図6では、第275段と第299段の濃度がほぼ一致し、グラフが重なって表示されている。図7は全てのx(i,j)の数値を、曲面で補間した3次元図として示している。
図6および図7より、流入後まず第0列から濃度の上昇、第M-1列から濃度の低下が開始する。両端での濃度分布上昇または降下は急峻であり、この条件では第100段程度で第0列、第M-1列の濃度はそれぞれほぼ100%、0%に達する。その後も濃度分布は両端から中央の
列に向かって波面が進行するように発達し、出口(第299段)ではこれらが合体して平衡
状態となることが観察される。この挙動で注目すべき点として、第一に、gamma =0.25の
とき単一の分離素子で得られる濃度差がたかだか2(gamma)x(1-x)=12.5%であるのに対して、本提案では最終的に両端の濃度がほぼ100%、0%に達していることが挙げられる。次に、出口での全体の流量に占める前記の純度の高い流体の割合が大きい点も特筆すべきである。出口の素子段では、両端の素子だけでなく、ほとんどの素子がほぼ100%またはほぼ0%の濃度となっており、そうでない中間濃度の素子は列番号25(素子段の中央)付近に少数しか見られず、濃度の遷移層を形成している。
(濃度変化を表す近似方程式)
平衡濃度分布への収束段数と、収束後の遷移層の幅を見積るために、離散系での差分方程式(数7)の近似となる、連続系での偏微分方程式を導く。素子同士の列方向および段方向の間隔をそれぞれ、以下の数10で定義する。
[数10]
eps(イプシロン)=1/M, sigma(シグマ)=1/N
そして、以下の数11で離散座標(i, j) を連続座標(xi, tau) へ対応させる。
[数11]
xi(グザイ) = (eps)*(i+1/2), tau(タウ) = (sigma)*j
ここで、数9の境界条件を適切に扱うよう、列方向には1/2素子間隔だけずらして対応さ
せた。また、濃度はx(i,j) = u(xi, tau)と対応させる。これを数7に代入し、(xi,tau)
の周りに展開し、M,N =>∞ 即ちeps,sigma=> 0+ の極限をとっての低次項を集めれば、機械的な計算の後に、
を得る。これは周知のBurgers方程式(例えば非特許文献5(G.B. Whitham)を参照)
と等価な式であり、eps(イプシロン), sigma(シグマ)=>0+ の時、衝撃波(この場合は
濃度の衝撃波)を解に持つ。
(一様濃度で流入する場合の近似方程式の解)
以下、図2の素子配列の入口(第0段)で、一様濃度X (0<X<1)を与えた場合の濃度の分布uのtau方向(段数jの方向)への変化を求める。数12において、xi(グザイ)方向に速度cで進行する衝撃波を仮定する。この衝撃波を挟む区間[L、R]においてxi(変数グザイ
)で積分すると、

となる。左辺第1項は、

であるから、cは、ほぼgamma*eps*(uL+uR-1)/sigmaと見積もることができる。高濃度側に生じる衝撃波については、uL~=1、uR~=Xであり、高濃度側に生じる衝撃波の速度をc1とすると、c1~=gamma*eps*X/sigma>0となり、xi(グザイ)=0から内部(1の方向)へと進
む。逆に、低濃度側に生じる衝撃波については、uL=X、uR=0であり、低濃度側に生じる衝撃波の速度をc2とすると、c2~=-gamma*eps*(1-X)/sigma<0となり、xi(グザイ)=1から
内部(0の方向)へと進む。これらの衝撃波は、tau=1/(c1-c2)~=sigma/(gamma*eps)の段方向への距離、すなわち、離散座標に戻せばj~=M/gammaで衝突し、合体する。この衝突の生じる第j段以降の段では、uL=1、uR=0となり、衝撃波は停止し、平行濃度分布に収束する。収束後の濃度分布は、数12においてtauでの偏微分を0とおいて、xiについての2階常微分方程式を解けばよく、

で与えられる。数15では、xi(グザイ)=X の時、u=1/2=50%の濃度となる。xi(グザイ)がXから大きくなるにつれ、u=0に向かって指数的に小さくなる。逆にxi(グザイ)がX
から小さくなるにつれ、u=1に向かって大きくなり、その差(1-u)は指数的に小さくなる。このようにXの前後で、uがほぼ100%の素子と、uがほぼ0%の素子をつなぐ、濃度が急変
化する遷移層が存在することが示された。分離すべき成分は0<xi<Xの区間をほぼ占めて、X<xi<1の区間にはほぼ存在しない。よって遷移層の中心座標は平均濃度を表し、入口で一様濃度Xを与えた場合には、その濃度と遷移層の中心座標は一致する。この一致で単位の
相違は生じない。xi(グザイ)は、0〜(M-1)列ある回路の中での位置を M に対する割合
として、0〜1 の範囲で表したものであり、濃度と同じく無次元(「%」)で測定できる量である。したがって、平均濃度Xで一様な流体が素子配列の入口に流入した場合に、素子
配列の出口(十分下流、例えば、M/gamma段以降)では、X*100% の列がほぼ濃度100%となり、残り(1-X)*100%の列がほぼ濃度0% に近づくことを意味する。
図8に、図6および図7で示した数値計算での第299段(出口)における濃度(黒点で
表示)を横軸を拡大して表示し、数15の理論式(実線)と比較した。とても良い一致が見られ、偏微分方程式による近似が有効であることがわかる。
(平衡濃度分布の形状)
続いて上記遷移層の幅を見積もる。理論上、uはほぼ100%とほぼ0%の濃度を漸近的につなぐが、完全に100%と0%の濃度成分の2つの流体、つまり純粋な2つの流体に至るわけではない。そこで、素子配列の濃度分離特性を定量的に示す基準値として、半減区間の概念を導入する。半減区間とは、素子配列の各段において、2つの流体が混合した混合流体に占める一方の流体の濃度が75%から25%まで(従って100%から0%までの濃度変化の半分)を遷移するために要する素子間隔の数をいう。なお、素子間隔の数は、等価的には列数ということもできる。
そして、素子配列で分離された高濃度流体と低濃度流体は、最終段から取得されるため、素子配列としての濃度分離特性は、最終段の遷移幅で特定することが望ましい。さらに、1つの段で、流れの横断方向に濃度変化を見たとき、濃度50%の前後は直線的な変化で
よく近似できる(図8を参照)。数15で与えられるuの、xi(グザイ)=Xにおける接線
の傾きは濃度uの微係数u’(X) = -gamma/(2*eps)と求まる。この接線(図8で右下がりの点線)を延長してu=0.75およびu=0.25での水平線との交点2つを求めれば、それら交点のxi(グザイ)方向の間隔はeps/gammaと求まる。これは素子間隔eps(イプシロン)の1/gamma倍であり、これが上記半減区間の幅の理論値である。よって半減区間の幅は、回路の列
数Mに依存せず、各素子の分離性能を表すパラメータgamma(ガンマ)のみで決まる。図8の例では、第299段(出口)での濃度分布において、濃度が75%および25%となる列番号はそ
れぞれ約22.5および26.5である。これより半減区間の幅は、約4.0となり、理論解析から
見積もられた1/gamma=4と一致する。
ただし、モデルに基づく理論と、実際の素子配列の特性の間には、個々の素子特性、回路の接続部分の物理特性、あるいは、流体の流れに対する素子の断面方向の濃度の変化を直線近似したことによる誤差等が生じ得る。そこで、図2で示される素子配列の回路では、最終段で、濃度75%から25%まで遷移する素子間隔数は、経験的な誤差をERとして、1/gamma−ERから1/gamma+ERの範囲と特定できる。ここで、ERは、例えば、5%、10%、15%、20%、25%等である。
(数値計算と解析結果との比較)
以上をまとめると、図2のモデル1で第0段の素子段に一様濃度の流入を与えたとき、第0列と第M-1列から濃度の衝撃波が互いに向き合って発生し、段数を経るにつれて内部
の列へと進入する。それらは段数jが概ねj~=M/gamma になると衝突し、平衡濃度分布へと緩和する。この平衡分布は、濃度がほぼ100%とほぼ0%の2領域を遷移領域がつないだものであり、その遷移領域の幅を半減区間で測ると、素子間隔の1/gamma倍である。これは列
数Mによらないので、Mを大きくとることで、遷移領域の占める割合を任意に小さく、高純度流体の割合を任意に大きくすることが理論的には可能である。
図6から図8に示した例では、第299段(出口)での濃度分布において、半減区間の幅
は、理論解析から見積もられた1/gamma=4と一致した。また、濃度が平衡状態に達するま
での299段という段数は、理論から見積られたM/gamma = 200と大きく異なるものではない。
以上のように、図2の素子配列の回路では、流体の流れに沿う方向の段数としては、M/gamma以上、あるいはさらに十分な段数として2M/gamma以上設けることが望ましい。一方
、流体の流れの横断方向の素子数としては、素子間隔数が1/gamma以上、あるいはさらに
十分な素子数として2/gamma-1以上設けることが望ましい。流体の流れの横断方向の素子
数は、最終段において、濃度が並列方向に変化している部分(遷移幅に相当する部分)よりも大きな素子数を設けることが望ましいからである。ただし、濃度75%以上の流体と濃
度25%の流体に分離するという観点では、最終段の流体の流れの横断方向の素子数は、1/gamma−ERから1/gamma+ERの程度 (ERは誤差)であることが望ましい。
(境界条件)
一様濃度分布を素子配列の第0段(入口)に注入すると、上記の通り両端から濃度の衝撃波が発生する。この衝撃波が生じる理由は、境界条件によって説明される。各素子段の両端の素子は素子配列内部(図3で第1列から第M-2列)の素子と異なる接続をしてお
り、その濃度は数8、あるいはそれと等価な数9、で記述された。数11での座標の対応およびx(i,j) = u(xi, tau) を数9に代入し、M =>∞ 即ちeps => 0+ の極限をとっての
低次項を集めれば、
および
で表される、非線形混合型境界条件を得る。
eps(イプシロン)が小さいとき、数16、数17の右辺はいずれも、分子が0 (u = 0 またはu = 1) でない限り大きな負の値となる。これにより、回路上端(xi = 0) でのu(0, tau) はtau(タウ) が増えると速やかに増え、下端(xi = 1) でのu(1, tau) はtau(タウ)
が増えると速やかに減る。よってu(0, tau) -> 1 およびu(1, tau) -> 0 と収束し、その後は実質的にu(0, tau) = 1 およびu(1, tau) = 0 を与えたのと変わらなくなる。この挙動は上述の数値計算の図6および図7で観察された。こうして、入口で一様濃度を与えても、すぐに両境界で鋭い濃度勾配が作られる。その段数方向(j またはtau 方向) への発
展は既に衝撃波の進行と衝突を用いて説明した。
(変数変換)
数12、数16、および数17 に対して、Cole-Hopf 変換として周知(例えば非特許文
献5(G.B. Whitham)を参照)の従属変数変換
を行うと、機械的な計算の後に、u を変換した変数phi(ファイ)について

および

を得る。(Xは回路入口の第0段での平均濃度を表す。)数19はphi(ファイ)についての線形定係数拡散方程式に、線形減衰項が加わったものである。そして数20は単なるDirichlet 境界条件である。こうして方程式と境界条件が線形になり、標準的な変数分離解法によって、任意の初期条件に対する一般解を、級数解として求められる。拡散係数と減衰係数がともに正であることから、その級数解の同次項は指数的に減衰し、初期条件によらず、特解

へ、tau(タウ)が増えるにつれて収束することが示せる。変数xi (グザイ)についてのこの関数phip(xi) を、数18の逆変換でu へ戻すと、数15の平衡濃度分布が得られる
ことを確認できる。これより、第0段において、(一様濃度だけでなく)、どのような濃度分布で流入させても、その入口平均濃度Xで定まる平衡濃度分布(数15)に収束する
ことが示された。このことは、図2の素子配列を取り扱う際には流入濃度分布について特段の注意は不要であり、単に入口(第0段)から流体を注入すれば、望む成分がほぼ高濃度側に偏って、出口(第N-1段)から取り出せるという、この素子配列の優れた特性を意
味している。
(途中の素子段での成分保存則)
入口(第0段)での任意の濃度分布が、出口(第N-1段)での平衡分布に発達していく間
、濃度発展を記述する方程式(数7または数12)と、境界条件(数8または数16、数17)が常に保たれることが望ましい。回路の途中で流体を補充したり、一部を流出させたりすれば、方程式または境界条件が変化し、平衡に達しないか、望む平衡解とならない場合も生じ得ると予測される。数7と数8からは次の数22が導け、どの素子段でも分離すべき成分の総量が一定であり増減のないことを性能発揮のための1つの条件としてもよい。
これに対応して、数12、数16および数17からは次の数23が導け、連続系でも分離すべき成分の総量が一定であることを1つの条件としてもよい。
また、そもそも回路の途中の段(第1段から第N-2段)で、外部からの流入や外部への
流出があれば、濃度分布に先だって求めるべき圧力の境界条件が変わり、圧力および流量の分布が上述した単純なものではなくなり、濃度分布もそれに応じて複雑に変化し得る。従って、本実施形態では、途中の素子段(第1段から第N-2段まで)では、段の境界で流
体を補充または流出させない、素子の単純な接続を用いて例示した。しかし、本素子配列がこのような単純な接続例に限定される訳ではない。
(モデル1のまとめ)
以上述べたように、図2に例示した素子配列では、素子配列の各素子段の高濃度端部の素子は、各素子段よりも1段上流に配列された素子段に含まれる高濃度端部側の2つの素子のそれぞれの高濃度出口に接続される。その結果、数9の第1式を満たす仮想素子x(-1,j) を境界の外側に設けた構造と等価な回路となる。また、低濃度端部の素子は、各素子段よりも1段上流に配列された素子段に含まれる低濃度端部側の2つの素子のそれぞれの低濃度出口に接続される。その結果、数9の第2式を満たす仮想素子x(M,j) を境界の外
側に設けた構造と等価な回路となる。したがって、図2の素子配列は、素子配列の各段の両側の境界条件の設定を容易とし、数16から数23までの解析を可能とする。
また、図2に例示した素子配列では、各素子に流入する流体の濃度x0に対して、高濃度出口と低濃度出口の平均濃度が数3の式で与えられる場合に、1つの段における流体の流れに沿う方向の素子段数としては、M/gamma以上、あるいはさらに十分な段数として2M/gamma以上設けることが望ましいといえる。一方、流体の流れの横断方向の素子数としては
、1/gamma以上、あるいはさらに十分な素子数として2/gamma以上設けることが望ましいといえる。
以上のように、モデル1の素子配列によれば、流体成分の分離時に、分離される物質の濃度、あるいは特性等が定量的に把握できる。あるいは、モデル1の素子配列によれば、流体成分の分離時に、分離される物質の濃度、あるいは特性等に対して、望ましい素子配列の列数、段数の示唆を得ることができる。
<流体分離素子のモデル2>
(モデル2の構成)
図4に、図1の流体分離素子間を流路で結合した他の素子配列を例示する。図4では、流体分離素子は、流体の流れの方向に第0段から第N-1段の整数段N段に加えて、整数段と
整数段の間に、半整数段(第1/2段、第1+1/2段、・・・、第N-2+1/2段)を有する。した
がって、図4では、合計の段数は、2N-1段となる。ただし、図4で、最終段は、半整数段であってもよく、その場合には、合計の段数は、2N段とすることができる。同様に、図4
で、第0段は、半整数段であってもよく、その場合には、合計の段数は、2N段とできる。
さらに、第0段を半整数段とし、最終段を整数段とする場合には、合計の段数は、2N-1段
とできる。
また、流体分離素子は、各整数段において流体の流れの横断方向に、第0列から第M-1列まで合計M列で配置される。一方、各半整数段においては、流体分離素子は、流体の流れ
の横断方向に、合計M-1列が、整数段の2つの流体分離素子の配置位置の略中間位置、つ
まり、素子と素子との間に配置される。図5は、図4の素子配列において素子間の接続関係を例示する詳細図である。本実施の形態では、図5の半整数段の流体分離素子の位置を整数段の流体分離素子の位置(第i列)と区別するため、例えば、第i+1/2列と呼ぶこと
にする。したがって、図5の半整数段において、流体分離素子は、第1/2列から第M-2+1/2列で配置される。また、半整数段において、第i+1/2列は第i番目の列(i=0,1,…)という
ことができる。
この半整数段は、整数段での濃度分離を促進し、モデル1の場合(図2)に見られる枝の交叉を防ぐ、媒介的な役割を担う。その両端に位置する第1/2列および第M-2+1/2列の素子は、同じ半整数段の他の列の素子に比して特別な扱いをする必要がなく、本実施形態の素子配列全体の端部の素子とはみなさない。つまり、半整数段では、第1/2列および第M-2+1/2列の素子は、回路端部から1/2列だけ内部へ入っているものとみなせばよい。ただし
、半整数段で両端に位置する第1/2列および第M-2+1/2列の素子は、当該半整数段内では、それぞれ、高濃度端部および低濃度端部に位置すると理解できる。
半整数の添え字を付すのは、この媒介的な役割を理解しやすくするためと、後述の数式で整数段の変数と半整数段の変数とを明確に区別するためである。しかし以下で、ある段の「1段前の段」を参照する際には、段番号が1少ない(2つ上流の)段ではなく、1/2少ない(1つ上流の)段を指すものとする。即ち、第j段の1段前は第j-1/2段であり、第j
段の2段前は第j-1段を指すものとする。
一例として、図5では、整数段と半整数段とで、素子の位置が1/2素子間隔だけずれて
配置されている。すなわち、半整数段において第i+1/2列の素子の入口は、前段(整数段
)の第i列の素子の低濃度出口と前段の第i+1列の素子の高濃度出口とに接続される。
また、第1段以降の前記整数段において第i列の素子の入口は、両端の素子(i=0またはM
−1)を除いて、前段(半整数段)の第i−1/2列の素子の低濃度出口と前段の第i+1/2列の
素子の高濃度出口とに接続される。一方、第1段以降の整数段において、両端の素子のう
ち高濃度側端部の素子の入口は、2段前(整数段)の高濃度側端部の素子の高濃度出口と
、前段(半整数段)で高濃度側端部の素子よりも1/2素子間隔だけ低濃度側に配置された
素子の高濃度出口とに接続される。また、両端の素子のうち低濃度側端部の素子の入口は、2段前(整数段)の低濃度側端部の素子の低濃度出口と、前段(半整数段)で低濃度側
端部の素子よりも1/2素子間隔だけ高濃度側に配置された素子の低濃度出口とに接続され
ている。
モデル1と同様、このような流体分離素子が複数並列した状態を一つの段とする。最上流が整数段の場合に、これを第0段とし、並列する素子数をM個とすると、下流側に隣接する第1/2段では、上流側の段と素子半個分ずれた形で配置され、並列素子数はM−1個とな
る。さらに下流の第1段では、再び素子数はM個となり、両端の素子の入口の一方は第0段
の両端の余った出口と接続される。第1+1/2段は再び並列素子数M−1個となる。以下はこ
れを多数段繰り返す。記述の都合から、以下では最下流は整数段(第N-1段)で終わると
して記述する。ただし、上述のように、半整数段で最終分離成分を取り出しても構わない。同様に、流入口をM-1素子からなる半整数段としても、素子配列の期待される動作は変
わらない。後者の場合、入口の素子段の次の素子段(整数段)の両端の素子で、入口の素子段の素子からの枝が流入していない入口があれば、塞ぐか、外部からそれらへも流入させる。なお、各素子の高濃度側出口は流体の流れの横断方向に関しては、各素子が同じ側を向き、低濃度側出口はその反対方向の側を向くものとする。この構成で第0段に一様濃
度・流量の混合流体を流入させると、下流に向けて段数が進むにつれて、まず両端の素子で濃度の上昇または低下が起こり、順次濃度分布が発達することが期待される。
なお、図2および図3の素子配列と比較して、図4および図5の素子配列は、以下の共通点、相違点を有する。
(共通点)
図4の素子配列は、図2と同様、少なくとも1つの入口と2つの出口とを有し、入り口から流入する流体の成分濃度を偏在させて、流入した流体の平均濃度よりも高濃度の流体を高濃度出口から流出させ、流入した流体の平均濃度よりも低濃度の流体を低濃度出口から流出させる素子を並列に複数個配列した素子段を流体の流れの方向に複数段配列して接続した素子配列といえる。
(相違点)
ただし、図4および図5においては、最上流を除く各整数段の両端の素子(半整数段の両端の素子は特別扱いが不要なので含まない)のうちの一方の端の素子の入口は、当該整数段よりも1素子分および2素子分上流に配列された半整数段および整数段で一方の端の素子のそれぞれの高濃度出口に接続される。また、各整数段の両端の素子のうちの他方の端の素子の入口は、当該整数段よりも1素子分および2素子分上流に配列された半整数段および整数段で他方の端の素子のそれぞれの低濃度出口に接続される。
上述のように、図4および図5では、整数段にM個、半整数段にM−1個の素子が配置さ
れている。つまり、半整数段においては整数段よりも少ない列数の素子が設けられている。したがって、図4および図5では、他の素子段より1列短い半整数段と半整数段よりも1列長い整数段とが交互に配置される。さらに、図4および図5では、並列方向には半整
数段の各素子が整数段の素子と素子との間に位置するようにずれて配置される形態で素子が配置されている。
図4および図5の素子配列は、最上流を除く各整数段の両端のうち、一方の端(第0列、高濃度端部)の素子の入口は、2段上流の整数段の同じ一方の端(第0列、高濃度端部)の素子の高濃度出口および1段上流の半整数段の同じ一方の端(第1/2列)の素子の高
濃度出口に接続される。つまり、図4および図5では、最上流を除く整数段において両端の素子のうちの一方の端の素子の入口は、当該整数段よりも1素子分および2素子分上流に配列された半整数段および整数段で一方の端の素子のそれぞれの高濃度出口に接続されるといえる。
また、最上流を除く各整数段の両端のうち、他方の端(第M−1列、低濃度端部)の素子の入口は、2段上流の整数段の同じ他方の端(第M−1列、低濃度端部)の素子の低濃度出口および1段上流の半整数段の同じ他方の端(第M−2+1/2列)の素子の低濃度出口に接続される。つまり、図4および図5では、最上流を除く整数段において両端の素子のうちの他方の端の素子の入口は、当該整数段よりも1素子分および2素子分上流に配列された半整数段および整数段で他方の端の素子のそれぞれの低濃度出口に接続されるといえる。
さらに、半整数段において第i+1/2列の素子の入口は、前段(整数段)の第i列の素子の低濃度出口と前段の第i+1列の素子の高濃度出口とに接続される。つまり、図4および
図5では、最上流を除く半整数段において両端を含む各素子の入口は、前段である整数段の並列方向に一方の側に半整数段とずれて配置された素子の低濃度出口と、前段である前
記整数段の並列方向に他方の側にずれて配置された素子の高濃度出口とに接続されるといえる。
また、整数段において第i列の素子の入口は、両端の素子を除いて、前段(半整数段)
の第i−1/2列の素子の低濃度出口と前段の第i+1/2列の素子の高濃度出口とに接続されて
いる。つまり、図4および図5では、最上流を除く整数段において両端を除く各素子の入口は、前段である半整数段の並列方向に一方の側に整数段とずれて配置された素子の低濃度出口と、前段である半整数段の並列方向に他方の側にずれて配置された素子の高濃度出口とに接続されるといえる。
(モデル2の理論式)
図5において、第j段(整数段)、第i列の素子における流入濃度(モル分率)をx(i,j)とする。また、第j+1/2段(半整数段)、第i+1/2列の素子における流入濃度(モル分率)をx(i+1/2,j+1/2)とする。
このモデル2について、モデル1と同様に、圧力分布と流量分布をまず求める。第0段
の各素子に同一の入口圧力をかけて混合流体を注入し、第N-1段の各素子に同一の出口圧
力、例えば大気圧、をかけて、分離した流体を自然に流出させる。回路のどの枝でも、流体の漏れや途中からの注入がないものとする。これらの条件で、流量保存式および流量と圧力の関係式を記し、解くことは、モデル1の場合と同様に行え、結果として、次のことがわかる。回路内の圧力分布は、列方向には一定で、段方向には一次関数で降下する単純な分布となり、モデル1と同じである。そして、流量についてはほぼ全ての枝で等流量となる。但し、回路の境界で整数段の素子どうしを直結する枝でだけは、その他の枝の2倍の流量となると見積もることができる。なぜなら、モデル1、2のいずれにおいても、素子と素子を結ぶどの枝の圧力降下も、代表圧力に比して無視できるものとする、と仮定されているからである。ある素子の出口圧力は、そこに直結している下流側素子の入口圧力と等しいと仮定している。この仮定は、素子が隣り合わせに接合している場合には妥当である。しかしながら、モデル2では、整数段の両端の素子を直結する枝は、半整数段をとばして2段先の素子につながる。素子入口の圧力分布は、整数段から半整数段へ、または半整数段から整数段へ、隣接する段の素子の間で一定値ずつ降下していくので、整数段を直結する枝でつながれる境界素子どうしは他の枝の2倍の圧力降下となる。従って、整数段の端部境界(第0列または第M-1列)の素子は、高濃度出口と低濃度出口の流量比が1:2または2:1となるが、その他の素子では入口流量が出口2つに等分配となる。
こうして求めた流量分布に基づけば、数3によって濃度変化を調べる必要がある。もし、回路の境界で整数段の素子どうしを直結する枝でも、他の枝と等流量が流れるものと仮定すれば、全ての素子で出口流量が等分配されて、より単純な数5を用いて濃度変化を調べられる。この単純化をした場合を、しなかった場合と予備計算で比べた所、濃度分布はほとんど変わらなかった。なお、素子を接合した時には、境界の整数段素子を直結する枝は、他の素子と同様(半分程度)の大きさを持つ。したがって、実際上は、その枝だけ正のコンダクタンスが低下し、抵抗が発生する。したがって、実際には、境界素子での出口流量比は、1:1(等分)に近づく方向に修正され、モデル2による理論が実際の素子配列によりよくあてはまる。
そこで以下では、前記仮定の下、モデル1と同様に数5によって濃度分布を調べる。このとき整数段での濃度x(i,j)は、上流側の値を使って次のように表される。
[数24]
x(i,j) = (1/2){ g-(x(i-1/2,j-1/2)) + g+(x(i+1/2,j-1/2)) };
ここでi=1,2,…,M-2である。整数段の両端の素子(第0列と第M-1列)はこれら内部の素子
と異なる接続をしており、そこでの成分保存則は別途、次の数25で算出できる。
[数25]
x(0,j) = (1/2){ g+(x(0,j-1)) + g+(x(1/2,j-1/2)) }/2
x(M-1,j) = (1/2){ g-(x(M-1-1/2,j-1/2)) + g-(x(M-1,j-1)) }/2
一方、半整数段での濃度 x(i-1/2,j-1/2)は、前段の値を使って次のように表される。
[数26]
x(i-1/2,j-1/2) = (1/2){ g-(x(i-1,j-1)) + g+(x(i,j-1)) };
ここでi=1,2,…,M-1である。半整数段の素子では特別扱いの必要な素子はない。
(濃度変化を表す方程式)
平衡濃度分布への収束過程と、収束後の遷移層の幅を見積るために、離散系での差分方程式(数24)の近似となる、連続系での偏微分方程式を導く。モデル1の場合と同様、数10および数11の通り対応させ、これを数24および数26に代入し、M,N =>無限大
即ちeps,sigma=> 0+ の極限をとっての低次項を集めれば、機械的な計算の後に、


となる。数27の左辺は、数12と同一であり、右辺は数12での拡散項の拡散係数が変係数になったとみることができる。この拡散係数がuによらず常に正で、eps(イプシロン)に比例した大きさであることはモデル1と同じである。
上述のように、図4および図5に示したモデル2の素子配列において、最上流を除く整数段において両端の素子のうちの一方の端(例えば、高濃度端部)の素子の入口は、当該整数段よりも1素子分および2素子分上流に配列された半整数段および整数段で一方の端の素子のそれぞれの高濃度出口に接続され、整数段において両端の素子のうちの他方の端(例えば、低濃度端部)の素子の入口は、当該整数段よりも1素子分および2素子分上流に配列された半整数段および整数段で他方の端の素子のそれぞれの低濃度出口に接続される。
したがって、モデル1と同様の仮想素子を用いた等価な回路の設定が可能である。まず数24でi=0またはM-1とした場合と数25を一致させるために、以下の数28で定まる仮想素子の濃度x(-1/2,j-1/2)およびx(M-1+1/2,j-1/2)を半整数段で用意する。
[数28]
g-(x(-1/2,j-1/2)) = g+(x(0,j-1)) および
g+(x(M-1+1/2,j-1/2)) = g-(x(M-1,j-1)) }
これらと数26より、整数段での仮想素子の濃度x(-1,j)およびx(M,j)を次の数29で定
めれば、数24を整数段の両端i=0またはM-1で用いても、数25も満たされて、回路は等価になる。
[数29]
g+^(-1)(g-(x(-1,j))) = g-^(-1)(g+(x(0,j))) および
g-^(-1)(g+(x(M,j))) = g+^(-1)(g-(x(M-1,j)))
ここで、g+^(-1)およびg-^(-1)は、それぞれ数5で定義されたg+(x)およびg-(x)の逆関数である。数29が濃度xの厳密な境界条件となる。これについてもやはり数10および数
11の通り対応させ、M,N =>無限大 即ちeps,sigma=> 0+ の極限をとっての低次項を集めれば、機械的な計算の後に、

および、

で表される非線形混合型境界条件を得る。
偏微分方程式(数27)および境界条件(数30, 数31)は、モデル1での偏微分方程式(数12)および境界条件(数16, 数17)を変係数としたものとなっており、係数の符号とeps(イプシロン)のオーダーまで同一であることから、定性的な挙動も同じであると期待できる。
特に数27の左辺は数12と同一なので、モデル1と同様の見積もりによって、数13および数14はモデル2についても全く変わらず適用できる。その結果、図4の素子配列の入口(第0段)で、一様濃度X(0<X<1)を与えた場合の濃度の分布uのtau方向(段数jの方向)への変化を求めると、数12の場合と同様、衝撃波は、tau=1/(c1-c2) ~=sigma/(gamma*eps)の段方向への距離、すなわち、離散座標に直せばj~=M/gammaで衝突し、合体する。そしてこれより下流の段では、uL=1、uR=0となり、衝撃波は停止し、平衡濃度分布に収束する。収束後の平衡濃度分布は数27 においてtauでの偏微分を0とおいて、xi(グザイ)についての2階常微分方程式を解けばよく、その解は陰的に
で与えられる。モデル1の場合と同じく、これもxi(グザイ)=Xの時、u=1/2=50%の濃度と
なる。xi(グザイ)がXから大きくなるにつれ、u=0に向かって指数的に小さくなる。逆にxi(グザイ)がXから小さくなるにつれ、u=1に向かって大きくなり、その差(1-u)は指数
的に小さくなる。このようにXの前後で、uがほぼ100%の素子と、uがほぼ0%の素子
をつなぐ、濃度が急変化する遷移層がモデル2でも存在する。
上記遷移層の幅を、モデル1と同様に、半減区間の幅として定量化する。数32で与えられるuの、xi(グザイ)=Xにおける接線の傾きを求めるとu’(X) = -gamma/epsとなる。この接線を延長してu=0.75およびu=0.25での水平線との交点2つを求めれば、その交点のxi(グザイ)方向の間隔はeps/(2*gamma)となる。これは素子間隔eps(イプシロン)の1/(2*gamma)倍であり、これが上記半減区間の幅の理論値である。よって半減区間の幅は、モ
デル1と同様に、回路の列数Mに依存せず、各素子の分離性能を表すパラメータgamma(ガ
ンマ)のみで決まる。更に、モデル2ではモデル1の半減区間幅1/gammaの半分の幅となっており、遷移層の幅を狭くする点では、より高性能の回路である。
ただし、モデルに基づく理論と、実際の素子配列の特性の間には、個々の素子特性、回路の接続部分の物理特性、あるいは、流体の流れに対する素子の配列方向の濃度の変化を直線近似したことによる誤差等が生じ得る。最終段で、
濃度75%以上の流体と濃度25%の流体に分離するという観点では、流体の流れの横断方向の素子数は、1/(2*gamma)−ERから1/(2*gamma)+ERの程度(ERは誤差)であることが望
ましい。
以上述べたように、本実施形態の素子配列によれば、流体成分の分離時に、分離される物質の濃度、あるいは特性等が定量的に把握できる素子および素子配列を形成できる。
(数値計算)
このモデル2について数値計算を行うと、予想通りモデル1の場合と同様に、望ましい濃度分布(ほぼ100%と0%の濃度の2領域を狭い遷移領域がつなぐ分布)へ、段数を経るにつれて発達していく。図9および図10が、それぞれモデル1の場合の図6および図7に対応する。この計算においては、モデル1の数値計算と同じくgamma=0.25, M=50, N=300
を用い、第0段に濃度0.5(=50%)の混合流体を流入させた場合の濃度変化を求め、図示している。ただし、図9では、第250段、第275段、および第299段の濃度がほぼ一致し、グラ
フが重なって表示されている。濃度分離特性が同じ素子を用いても、モデル2の接続では、遷移層ではモデル1より急峻な変化が得られていることがわかる。図11は収束後の平衡濃度分布を拡大して示したもので、モデル1の図8に対応する。(図8とは横軸の範囲が異なることに注意。)半減区間は図の点線から読み取れる通り、列番号が約23.5と約25.5の間であり、その幅2.0は理論から予想される1/(2*gamma)=2と一致する。
モデル2の図10を、モデル1の図7と比べると、収束に至る段数はほとんど変わりがない。これは理論から予想される段数M/gammaが2つのモデルで共通であることと合致し
ている。しかしモデル2では各整数段の間に、半整数段の素子段が挟まっているので、この半整数段も1段として数えれば、モデル2で収束に必要な実質の段数は、第0段が整数
段で最終段が半整数段の場合に2M/gamma-1段となる。従って、モデル2はモデル1に比して、遷移区間の幅を半分にする代償として、ほぼ2倍の収束段数が必要となる回路といえる。
(モデル2の途中の整数段での成分保存則)
モデル2でも、入口(第0段)での任意の濃度分布が、出口(第N-1段)での平衡分布
に発達していく間、濃度発展を記述する方程式(数24と数26、または数27)と、境界条件(数29、または数30と数31)が常に保たれることが望ましい。特に各整数段において、数24、数26、および数29からは数22が、数27、数30、および数31からは数23が、それぞれモデル1と同様に導かれ、これよりどの素子段でも分離すべき成分の総量が一定であり増減のないことを性能発揮のための一つ1つの条件としてもよい。
また、そもそも回路の途中の段(第1段から第N-2段あるいは半整数段)で、外部から
の流入や外部への流出があれば、濃度分布に先だって求めるべき圧力の境界条件が変わり、圧力および流量の分布が上述した単純なものではなくなり、濃度分布もそれに応じて複雑に変化し得ると予測される。従って、本実施形態では、途中の素子段(第1/2段から第N-1-1/2段まで)では、段の境界で流体を補充または流出させない、素子の単純な接続を用いて例示した。しかし、本素子配列がこのような単純な接続例に限定される訳ではない。
(モデル2のまとめ)
以上述べたように、図4に例示した素子配列では、最上流を除く整数段において両端の素子のうちの高濃度端部の素子の入口は、当該整数段よりも1素子分および2素子分上流
に配列された半整数段および整数段で高濃度端部の素子のそれぞれの高濃度出口に接続される。その結果、数29の第1式を満たす仮想素子x(-1,j) を境界の外側に設けた構造と等価な回路となる。また、整数段において両端の素子のうちの低濃度端部の素子の入口は、当該整数段よりも1素子分および2素子分上流に配列された半整数段および整数段で低濃度端部の素子のそれぞれの低濃度出口に接続される。その結果、数29の第2式を満たす仮想素子を境界の外側に設けた構造と等価な回路となる。したがって、図4の素子配列は、素子配列の各段の両側の境界条件の設定を容易とし、数27、数30、および数31のような連続体近似を得ることができ、これにより数32の平衡濃度分布を求めることが可能となる。したがって、モデル2の素子配列は、濃度変化の理論解析、各段の望ましい列数、望ましい段数の把握を容易とする。
また、図4および図5に例示した素子配列では、第j段、第i列の素子における流入濃度(モル分率)をx(i,j)とし、各流体分離素子の高濃度側出口における濃度g+、および低濃度側出口における濃度g-が数5で与えられる場合に、1つの段における流体の流れに沿う方向の素子段数としては、整数段と半整数段をともに1段として数えて、2M/gamma-1以上、あるいはさらに十分な段数として4M/gamma-1以上設けることが望ましいといえる。一方、流体の流れの横断方向の素子数としては、素子間隔数が1/(2*gamma)以上、あるいはさ
らに十分な素子数として1/gamma以上設けることが望ましいといえる。
以上のように、モデル2の素子配列においても、流体成分の分離時に、分離される物質の濃度、あるいは特性等が定量的に把握できる。あるいは、モデル2の素子配列によれば、流体成分の分離時に、分離される物質の濃度、あるいは特性等に対して、望ましい素子配列の列数、段数の示唆を得ることができる。
以下、流体分離素子のモデル1の実施例を図12から図24の図面を参照して説明する。実施例1は、モデル1の素子配列で用いられる具体的な素子および回路の構成を例示する。
(モデル1の素子の構造)
図12は、図2に例示した素子配列のうち、各段の両端以外の列に配置される素子1の構成を例示する斜視図である。素子1は、平面視で略平行四辺形に所定の厚みを持たせた形状の下半部11と、下半部11を上下反転した形状の上半部12を接合した形状となっている。
図13は、下半部11の構造を例示する図である。図12、図13のように、下半部11は、平行四辺形状の断面を有する底部111と、底部111に立設される側壁112、113、114、および115を有する。図12、13の例では、底部111は、一方の対辺が短く、他方の対辺が一方の対辺よりも長い平行四辺形となっている。また、平行四辺形の一方の対角位置C1、C2の角度は、他方の対角位置C3、C4より小さくなっている。つまり、底部111の平行四辺形は、対角位置C1、C2で鋭角となり、対角位置C3、C4で鈍角となっている。
そして、例えば、長い方の対辺に立設される側壁115、113には、平行四辺形の一方の鋭角をなす頂点C1、C2に近い位置に所定幅の開口IN1、OUT1が形成されている。
さらに、図13のように、下半部11の側壁112から115には、底部111と同一の平行四辺形状の断面を有する下半部隔壁118が載置され、側壁112から115と一体に接合されている。
図14は、下半部隔壁118の形状を例示する斜視図である。下半部隔壁118は、平面視で、平行四辺形状の上面略中央付近に開口119が設けられている。図12、図13の例では、開口119は、開口断面(上面視形状)が矩形の角を丸く面取りした形状となっている。ただし、開口119の形状に限定がある訳ではなく、例えば、矩形、多角形、円形、楕円形等の形状であってもよい。また、開口119の形状は、平面視で、下半部隔壁118の重心位置(中心)に開口119の重心(中心)が配置され、重心位置(中心)に対して対称な構造が望ましい。
図15は、隔壁118を取り除いた下半部11を例示する斜視図である。すでに述べたように、下半部11は、平行四辺形状の底部111と、底部111に立設される側壁112から115とを有する。また、側壁115と113には、底部111の平行四辺形の鋭角頂点C1、C2の近傍に、開口IN1とOUT1となる所定幅の切り欠けが設けられる。したがって、下半部11は、底部111において平行四辺形の2組の対辺のうち、一方の対辺において、前記平行四辺形の対向する一対の頂点から所定幅の開口IN1、OUT1を形成して立設される一対の開口側壁115、113を有する。また、下半部11は、底部111において平行四辺形の2組の対辺のうち、他方の対辺に立設される一対の非開口側壁112、114を有する。そして、図12、13に例示のように、下半部11は、底部111、側壁112から115、および隔壁118によって囲まれた空洞部110を有する。
ただし、実施例1の素子1は、モデル1の素子の例示であり、モデル1の素子が図12から図15の形状に限定される訳ではない。例えば、底部は平行四辺形ではなく、菱形であってもよい。また、例えば、鋭角頂点C1、C2との間に側壁を残して、開口IN1、OUT1を形成してもよい。つまり、鋭角頂点C1、C2の近傍ではなく、離間した位置に開口IN1、OUT1を形成してもよい。また、開口IN1、OUT1が二対の対辺のうち、長い方の対辺の対に設けられてもよい。さらに、空洞部110の内部には、分離性能の向上等の目的で任意の構造物やセンサ、アクチュエータ等を設置してもよい。また、空洞部110の壁面の角をなす部分は、流動抵抗低減等の目的で適当な半径を付与した曲面としてもよい。
一方、図12に例示のように、上半部12は、下半部11を上下反転した構造をとる。上半部12は、底部111に対向する平行四辺形状の天井部121を有する。また、上半部12は、下半部11を上下反転した形状であるため、天井部121において平行四辺形の2組の対辺のうち、一方の対辺において、平行四辺形の対向する一対の鋭角頂点C21、C22から所定幅の開口IN2、OUT2を形成して垂下して設けられる一対の側壁(開口側壁)123、125を有する。ただし、開口IN2、OUT2の位置が、図12に限定される訳ではないことは、IN1、OUT1の場合と同様である。また、上半部12は、天井部121において平行四辺形の他方の対辺から垂下して設けられる一対の非開口側壁122、124を有する。
さらに、上半部12は、天井部121と同一の平行四辺形状で所定の厚みを有する上半部隔壁128を有する。上半部隔壁128は、図14に例示の下半部隔壁118を上下反転した形状である。したがって、下半部隔壁118と上半部隔壁128とは、平面視で、平行四辺形の鋭角位置と鈍角位置が互いに反転した位置にある。このため、下半部隔壁118と上半部隔壁128とを平面視で互いの長辺方向重心位置を一致させた状態で重ねた場合に、単一の素子1内では、鋭角位置付近に相互に重ならない部分が生じる。この単一の素子1内で重ならない部分は、素子配列内で上流方向と下流方向に隣接する複数の素子1間で重なる(図20A、図22参照)。
さらに、上半部隔壁128は、下半部隔壁118の開口119に連通する開口129を有する。そして、図12に例示のように、上半部12は、天井部121、側壁122から125、および隔壁128によって囲まれた空洞部120を有する。したがって、下半部隔壁118の開口119と上半部隔壁128の開口129は、下半部11と上半部12とが重畳する部分の略中央部に形成されるということができる。
(素子の作用)
素子1は、IN1とIN2を流体の入口として、OUT1とOUT2を流体の出口として、下半部11の空洞部110および上半部12の空洞部120にそれぞれ流体を流すことが可能である。そして、下半部11の空洞部110と、上半部12の空洞部120とは、開口119および129によって連通し、一体化した空間を形成する。そして、図12に例示したように、素子1の下面から上面、つまり底部111の下側から天井部121の上側に向かう方向に、様々なポテンシャルを印加すると、ポテンシャルに応じて、前記下半部11の空洞部110および上半部12の空洞部120が一体化した空間を流れる流体に濃度の偏位が生じる。このため、下半部11と上半部12との間で、濃度の分離が可能となる。
例えば、今、濃度成分が図12で例示のポテンシャルの方向、つまり、底部111から天井部121の方向に偏位する場合を想定する。この場合に、下半部11では、流体が入口IN1から空洞部110に流入し、上半部12では、流体が入口IN2から空洞部120に流入する。そして、下半部11の開口119と、上半部12の開口129とが連通する結果、連通部分の空間において、下半部11の空洞部110に流入した流体と上半部12の空洞部120に流入した流体が混合される。そして、混合された下半部11からの流体と上半部12からの流体において、ポテンシャルによって、濃度成分が偏位する。すなわち、底部111に近い部分は相対的に低濃度の流体となり、天井部121に近い部分は相対的に高濃度の流体となる。
このような作用を有する素子1に対して、入口IN1に、上流側の段で高濃度側の列に位置する素子の低濃度出口からの流体を流入させ、一方、入口IN2に、上流側の低濃度側の列に位置する素子の高濃度出口からの流体を流入させるように複数の素子を接続する。図12では、IN1が低濃度入口とされ、IN2が高濃度入口とされているのは、以上の接続を例示したものである。この接続は、図2における、各段の両端の素子以外の素子の接続と同一である。
すると、入口IN1から流入した、上流側の段の高濃度側の列に位置する素子1の低濃度出口からの流体は、入口IN2から流入した、上流側の段の低濃度側の列に位置する素子の高濃度出口からの流体と混合される。そして、混合された流体のうち、濃度成分の偏位によって濃度を高めた流体が高濃度出口OUT2から流出する。一方、濃度成分の偏位によって濃度を薄めた流体が低濃度出口OUT1から流出する。
したがって、図12の素子1を図2のように複数列複数段配置し、前段の高濃度側の列に位置する素子の低濃度出口を素子1の低濃度入口である入口IN1に接続し、前段の低濃度側の列に位置する素子の高濃度出口を素子1の高濃度入口である入口IN2に接続することで、複数段階にわたって順次濃度成分を偏位させる素子配列の回路が形成できる。この回路は、図2に例示した素子配列の回路と同じ構成である。
(モデル1の回路の形成)
実施例1では、素子1を接続した回路は、図12に例示した素子1の下半部11の層、下半部隔壁118と上半部隔壁128とを含む層、および上半部12の層をそれぞれ異なる平面部材上に作成し、各層を作成した平面部材を接合するという手順で形成する。図1
6は、素子1の下半部11を配列した素子配列の平面視形状を例示する図である。ただし、図16では、説明の便宜のため、列方向、段方向とも実際の素子配列よりも大幅に少ない素子数で表示している。
図16の素子配列には、3種類の素子1、1A、1Bが含まれる。素子1Aは、高濃度側端部に配置される素子である。また、素子1Bは、低濃度側端部に配置される素子である。図17Aは、各段の両端以外の素子1の下半部11を例示する平面図である。図17Bは、高濃度端部の素子1Aの下半部11Aを例示する平面図である。図17Cは、低濃度端部の素子1Bの下半部11Bを例示する平面図である。なお、素子1の上半部12は、下半部11を上下反転した形状となっているのに対して、素子1Aの上半部12Aは、素子1Bの下半部11Bを上下反転した形状であり、素子1Bの上半部12Bは、素子1Aの下半部11Aを上下反転した形状である(図21参照)。ただし、11A、11B、12A、12Bは、実際には同一形状を異なる方向に配置することによって得ることができるため、形状としては1種類と考えてもよい。
図16の素子配列は、高濃度側端部の素子1Aの下半部11Aと、低濃度側端部の素子1Bの下半部11Bを除いて、図12、図17Aに示した素子1の下半部11を接続したものである。図16のように、素子1の下半部11は、入口IN1を前段の高濃度側に位置する素子の出口OUT1と連通させることで、複数段に渡って、流体が移動可能となっている。
一方、図17Bのように、高濃度側端部の素子1Aでは、下半部11Aに入口IN1を有していない。すなわち、素子1の側壁115(図12参照)に相当する側壁115Aは、開口部を有しない側壁となっている。したがって、高濃度側端部の素子1Aは、下半部11Aの開口としては、低濃度側の出口OUT1だけを有している。ただし、後述するように、高濃度側端部の素子1Aの下半部11Aは、上半部12A(図21参照)との隔壁に設けられた開口、あるいは切り欠きを通じて、上流側の素子に接続される。
また、図17Cのように、低濃度側端部の素子1Bは、入口IN1を有しているが、出口OUT1を有していない。すなわち、素子1の側壁113に相当する側壁113Bは、開口部を有しない側壁となっている。ただし、後述するように、低濃度側端部の素子1Bの下半部11Bも、上半部12B(図21参照)との隔壁に設けられた開口、および切り欠きを通じて、下流側の素子に接続される。
ここで、図17Bにおける素子1Aの側壁115Aの表現、および図17Cにおける素子1Bの側壁113Bの表現は、開口部を有しない側壁であることを示すためのものであって、側方への連通が無い限り、この形状に限定するものではない。例えば、素子1Aの下半部11Aについては、IN1が最終的に閉止されることを前提に、図12Aに示す素子1の下半部11と同じ構造を用いてもよい。同様に、素子1Bの下半部11Bについても、OUT1が最終的に閉止されることを前提に、図12Aに示す素子1の下半部11と同じ構造を用いてもよい。あるいは、素子1Aの下半部11Aについては、素子1の側壁112(図12参照)に相当する側壁112Aの鋭角頂点近傍に所定幅の開口部を設けてもよい。同様に、素子1Bの下半部11Bについても、素子1の側壁114(図12参照)に相当する側壁114Bの鋭角頂点近傍に所定幅の開口部を設けてもよい。なお、これらの開口部は、側方への流体入口または出口としては機能しないが、後述する上半部12A、12Bとの隔壁に設けられた開口、あるいは切り欠きを通じて流体が移動する経路の断面積を増加させ、圧力損失を低減させる効果が期待できる。
図18は、図16の素子配列を平面部材上に形成した構成を例示する平面図である。図12から15に例示したように、素子1には、底部111に立設された側壁112から1
15によって、空洞部110が形成される。図示していないが、素子1A、素子1Bも素子1と同様に、底部に立設された側壁によって、空洞部110と同様の構造が形成される。したがって、各素子1、1A、1Bにおいて、各側壁に対して、各空洞部および各空洞部に連通する入口IN1、出口OUT1の部分は、凹部となっている。
そこで、実施例1では、図18のように、素子1の下半部11、素子1Aの下半部11A、素子1Bの下半部11Bを含む素子配列の部分は、平面部材上の凹部によって形成する。平面部材の材質は、濃度分離を行う処理対象の流体および印加するポテンシャルの種類に応じて、適切なものを選択できる。例えば、金属、樹脂、ガラス、シリコン等の半導体材料、セラミックス等である。また、図18に例示した平面部材上への凹部の形成方法は、例えば、金属のエッチング、鋳造、切削、プレス加工等を例示できる。エッチングを行う場合は、半導体集積回路等と同様に、図18の凹部以外の部分に、マスクを形成し、ウェットエッチング、ドライエッチング等の手法を用いればよい。鋳造を行う場合には、図18と凹凸部分が逆の型を用いればよい。
また、平面部材がシリコン等の半導体材料、ガラス等の場合には、マスクを形成し、ウェットエッチング、ドライエッチング等の手法を用いればよい。平面部材が樹脂の場合には、例えば、金型に射出成型すればよい。平面部材がセラミックの場合には、焼結前に図18の凹部を成型し、焼結すればよい。
なお、図18では、素子1、1A、1Bの下半部11、11A、11Bを平面部材上に形成する加工方法を説明したが、素子1、1A、1Bの上半部12、12A、12Bの素子配列は、図18の構成を上下反転させたものであり、製造方法は、図18の場合と同様である。
図19は、以上のように形成した素子1の下半部11および素子1A、1Bの下半部11A、11Bを配列した構成を例示する斜視図である。ただし、図19では、平面部材の基材部分は省略されている。
図20Aは、各素子の隔壁を配列した形状の斜視図である。すなわち、図20Aは、素子1、1A、1Bそれぞれの下半部隔壁118、118A、118Bと、上半部隔壁128、128A、128Bを含む斜視図となっている。つまり、図20Aは、各素子1の下半部隔壁118と上半部隔壁128、1Aの下半部隔壁118Aと上半部隔壁128A、1Bの隔下半部隔壁118Bと上半部隔壁128Bを一体として配列した層を例示している。このように、下半部隔壁118と上半部隔壁128とを一体として作成したものが素子1の下半部11と上半部12に挟まれた隔壁の一例である。また、下半部隔壁118Aと上半部隔壁128Aとを一体として作成したものが素子1Aの下半部11Aと上半部12Aに挟まれた隔壁の一例である。また、下半部隔壁118Bと上半部隔壁128Bとを一体として作成したものが素子1Bの下半部11Bと上半部12Bに挟まれた隔壁の一例である。なお、隔壁として、下半部隔壁118A、上半部隔壁128A、下半部隔壁118B、上半部隔壁128Bは、いずれも、実際には同一形状を異なる方向に配置することによって得ることができるため、形状としては1種類と考えてもよい。
図20Bは、高濃度端部の素子1Aの下半部隔壁118Aの構成を例示する平面図である。下半部隔壁118Aは、各素子1の隔壁118と同様に、平面視で平行四辺形の中央付近に開口119Aを有している。一方、下半部隔壁118Aは、鋭角の一方の近傍が切り取られた切り欠きN1を有している。図20Bの例では、切り欠きN1は、開口119Aと一体となって、開口119Aを拡大して、平面視で平行四辺形状をなす隔壁118Aの外周の一部を切り取った形状となっている。
また、高濃度端部の素子1Aの上半部隔壁128Aは、後述する図20Dの素子1Bの下半部隔壁118Bを上下に反転した形状である。(図20Bの下半部隔壁118Aを左右に反転した形状でもある。)したがって、下半部隔壁118Aと上半部隔壁128Aとが一体で形成された場合、図20Aに例示するように、高濃度端部において、上流側の素子1Aの上半部隔壁128Aと下流側の素子1Aの下半部隔壁118Aの重なる部分で、切り欠きN1によって、上流側の素子1Aの上半部12Aと下流側の素子1Aの下半部11Aとが連通される。このような連通によって、図2に例示した高濃度端部の各素子1Aの高濃度出口(+の記号で示す出口)から下流の素子1Aの低濃度入口への接続がなされる。
図20Aにおいては、高濃度端部で下半部隔壁118Aの開口119Aと上半部隔壁128Aの開口129Aとが重なって第1の開口を形成する。また、上流側の素子1Aの上半部隔壁128Aと下流側の素子1Aの下半部隔壁118Aの重なる部分(切り欠きN1の重畳部分)で、上流側に第2の開口が形成され、下流側で第3の開口が形成される。
図20Cは、各段の両端以外の素子1の下半部隔壁118の構成を例示する平面図である。図20Cの隔壁118は、図14の下半部隔壁118と同一形状であり、図20B等との比較のため、平面図で表したものである。
低濃度端部も高濃度端部と同様の構造を有する。図20Dは、低濃度端部の素子1Bの下半部隔壁118Bの構成を例示する平面図である。下半部隔壁118Bは、各素子1の下半部隔壁118と同様に、平面視で平行四辺形の中央付近に開口119Bを有している。一方、隔壁118Bは、図20Bの下半部隔壁118Aの切り欠きN1と同様の切り欠きN3を有している。
また、低濃度端部の素子1Bの上半部隔壁128Bは、図20Bの素子1Aの下半部隔壁118Aを上下に反転した形状である。(図20Dの下半部隔壁118Bを左右に反転した形状でもある。)したがって、下半部隔壁118Bと上半部隔壁128Bとが一体で形成された場合、図20Aに例示するように、低濃度端部において、上流側の素子1Bの下半部隔壁118Bと下流側の素子1Bの上半部隔壁128Bの重なる部分で、切り欠きN3によって、上流側の素子1Bの下半部11Bと下流側の素子1Bの上半部12Bとが連通される。このような連通によって、図2に例示した低濃度端部の各素子の低濃度出口(-の記号で示す出口)から下流の素子の高濃度入口への接続がなされる。
図20Aにおいては、低濃度端部で下半部隔壁118Bの開口119Bと上半部隔壁128Bの開口129Bとが重なって第1の開口を形成する。また、上流側の素子1Bの上半部隔壁128Bと下流側の素子1Bの下半部隔壁118Bの重なる部分(切り欠きN3の重畳部分)で、上流側に第2の開口が形成され、下流側で第3の開口が形成される。ただし、すでに述べたように、切り欠きN1、N3は、実際にはそれぞれの隔壁が同一形状を異なる方向に配置することによって得ることができるため、形状としては1種類と考えてもよい。
なお、図20B、図20Dは、高濃度端部の素子1Aの下半部隔壁118A、低濃度端部の素子1Bの下半部隔壁118Bの一例であり、本実施例1の素子配列が図20B、図20Dに限定される訳ではない。図20Eから20Hに、隔壁の他の形状を例示する。
図20Eは、高濃度端部の素子1Aの下半部隔壁118Aの第2の例であり、図20Fは、低濃度端部の素子1Bの下半部隔壁118Bの第2の例である。図20E、図20Fの場合には、開口119A、119Bは、素子1の下半部隔壁118における開口119を拡張した形状となっているが、図20B、図20Dのように、下半部隔壁118A、1
18Bの外周にまで達していない。また、素子1A、1Bの上半部隔壁128A、128Bの形状は、それぞれ図20F、図20Eを上下に反転した形状(またはそれぞれ図20E、図20Fを左右に反転した形状)とすればよい。図20Eの下半部隔壁118Aと、図20Fの形状を上下反転した上半部隔壁128Aを用いても、図20Aの切り欠きN1に相当する部分において、各段の素子1Aとその下流の素子1Aを連通することができる。図20Fの下半部隔壁118Bと、図20Eの形状を上下反転した上半部隔壁128Bを用いても、図20Aの切り欠きN3に相当する部分において、各段の素子1Bとその下流の素子1Bを連通することができる。
図20Gは、高濃度端部の素子1Aの下半部隔壁118Aの第3の例であり、図20Hは、低濃度端部の素子1Bの下半部隔壁118Bの第3の例である。図20G、図20Hの場合には、切り欠きN1、N3が開口119A、119Bと分離して、平面視で平行四辺形状の下半部隔壁118A、118Bの鋭角の頂点近傍に設けられている。また、素子1A、1Bの上半部隔壁128A、128Bの形状は、それぞれ図20H、図20Gを上下に反転した形状(またはそれぞれ図20G、図20Hを左右に反転した形状)とすればよい。ただし平面視での切り欠きN1、N3の周囲は、側方への連通を無くするよう適切に閉止する必要がある。図20Gの下半部隔壁118Aと、図20Hの形状を上下に反転した上半部隔壁128A、あるいは、図20Hの下半部隔壁118Bと、図20Gの形状を上下に反転した上半部隔壁128Bとを用いても、図20Aの場合と同様に各段の素子1Aとその下流の素子1A、各段の素子1Bとその下流の素子1Bを連通することができる。
すなわち、実施例1では、図20Aに例示のように、下半部隔壁118A、上半部隔壁128Aが一体となって配列され、素子配列全体の隔壁が形成される。その場合に、図20B、図20D-20Hに例示した様々な形態の切り欠きあるいは、開口119A、11
9B等の拡張部を設けることにより、上下の隔壁118A、128A等の切り欠きあるいは開口の重畳部分で、高濃度端部の素子1Aの下半部11Aと上半部12A、あるいは、低濃度端部の素子1Bの下半部11Bと上半部12Bとを連通することができる。
以上のように、図20Aの素子配列の高濃度端部の素子1Aにおいて、下半部隔壁118Aおよび上半部隔壁128Aが一体となったものは、隔壁の一例である。また、図20Aの素子配列の低濃度端部の素子1Bにおいて、下半部隔壁118Bおよび上半部隔壁128Bが一体となったものは、隔壁の一例である。
例えば、下半部隔壁118Aおよび上半部隔壁128Aは、下半部11Aと上半部12Aとに挟まれ、下半部11Aと上半部12Aとが重畳する部分の略中央部に少なくとも第1の開口119A、129Aを有する。そして、下半部隔壁118Aおよび上半部隔壁128Aが一体となってなす隔壁は、それぞれの素子1Aの下半部11Aと上流側の素子1Aの上半部12Aとの重畳部分に上流側の素子1Aに連通する第2の開口(N1)を形成する。
同様に、下半部隔壁118Aおよび上半部隔壁128Aが一体となってなす隔壁は、それぞれの素子1Aの上半部12Aと下流側の素子1Aの下半部11Aとの重畳部分に下流側の素子1Aに連通する第3の開口(N1)を形成する。
すでに述べたように、低濃度端部の下半部隔壁118B、上半部隔壁128Bも、高濃度端部のそれぞれの隔壁と形状としては同じ種類と考えてもよい。したがって、図20Aの低濃度端部の素子1Bにおいても、高濃度端部の素子1Aと同様に、第1の開口、第2の開口、および第3の開口が形成される。なお、図20Aで例示される隔壁の配列は、図16に例示した下半部11、11A、11Bと同様の材料、同様の製作方法で製作できる
ので、その詳細を省略する。
図21は、素子1の上半部12、高濃度端部の素子1Aの上半部12A、低濃度端部の素子1Bの上半部12Bを配列した構造を例示する斜視図である。図21の構造は、図19の構造を上下反転したものと同一である。ただし、図21では、空洞部120、空洞部120に通じる入口1N2、出口OUT2等による凹部が点線で例示されている。
図22は、図19の素子の下半部の配列の層、図20Aの隔壁の配列の層、および図21の素子の上半部の配列の層を重ね合わせて接合した構造を例示する斜視図である。これらの各層を接合する方法としては、材料が金属の場合には拡散接合、ガラスまたは樹脂の場合には熱融着、シリコン基板の場合には表面活性化接合、ガラス基板とシリコン基板の組み合わせの場合には陽極接合等を利用できるが、接合方法をこれらに限定するものではない。
図23は、以上のように平面部材上に形成した素子1、1A、1Bの下半部11、11A、11Bの層L1、下半部隔壁118、118A、118Bの配列および上半部隔壁128、128A、128Bの配列を一体化した層L2、および上半部12、12A、12Bの層L3の接合前の状態を例示する図である。層L1,層L2、および層L3を位置合わせして、重ね合わせ、接合することで、素子配列の回路が完成する。
すでに述べたように、図23の層L2に例示するように、下半部隔壁118、118A、118Bの配列および上半部隔壁128、128A、128Bの配列は、1つの平面部材の表面および裏面となって一体で形成される。層L2は、下半部と上半部とが重畳する部分の略中央部に開口を有する隔壁を平面部材に配列した構造ということができる。
ただし、下半部隔壁118、118A、118Bの配列および上半部隔壁128、128A、128Bの配列をそれぞれ異なる平面部材に形成し、2層としてもよいが、製造工程が増加する。
また、図23では省略しているが、素子配列全体への流体導入口と、素子配列によって成分が分離された後の高濃度流体、低濃度流体、および濃度遷移領域の流体を分岐して取り出す流体取出口が最上流側端部(第0段)、および最終段にそれぞれ接続して設けられる。
(変形例)
上記実施例1では、図20B、図20Dから図20Hに例示した下半部隔壁118Aおよび上半部隔壁128Aの切り欠きN1によって高濃度側端部での高濃度出口と低濃度入口の接続が形成された。また、下半部隔壁118Bおよび上半部隔壁128Bの切り欠きN3によって、低濃度側端部での低濃度出口と高濃度入口の接続が形成された。しかし、素子配列の両側端部での接続がこれらの隔壁の切り欠きによるものに限定される訳ではない。
図24Aは、変形例に係る素子配列を例示する図である。図24Aの素子配列では、高濃度側端部と低濃度端部の接続部分が図20Aとは異なる。図24Bは、変形例に係る低濃度端部の素子1Bの下半部11Bを例示す平面図である。図24Bのように、低濃度側端部の素子1Bの下半部11Bは、素子1の側壁112に対応する側壁112Bに入口IN3、素子1の側壁114に対応する側壁114Bに出口OUT3を有する。側壁112B、側壁114Bおよび入口IN1を有する側壁115Bは、底部の4つの辺のうち、素子配列外周側の辺を除く残り3つの辺に立設されている。一方、入口、出口を有しない側壁113Bは、素子配列外周側の辺となっている。
低濃度端部に、図24Bのような素子1Bの下半部11Bを配列することによって、図24Aに例示のように、低濃度端部には、出口OUT3と入口IN3とが素子1B間で、連通する構造が形成される。このような出口OUT3と入口IN3との連通により、素子配列の低濃度端部の低濃度出口と低濃度入口が接続される回路が形成される。すなわち、図24Aの素子配列では、素子配列の低濃度端部の各段の素子1Bは、2つの低濃度入口(IN1、IN3)を有する。そして、素子配列の低濃度端部の各段の素子1B(第M-
1列、第j段)の2つの低濃度入口(IN1、IN3)には、上流側の低濃度端部の素子1B(第M-1列、第j-1段)の低濃度出口(OUT3)と、上流側の低濃度端部から1列高濃度側の素子1B(第M-2列、第j-1段)の低濃度出口(OUT1)からの流体が流入する。すなわち、図24Aのような低濃度端部の素子1Bの下半部11Bの出口OUT3、入口IN3の接続によって、低濃度流体は、低濃度側の下半部11Bを流れることになる。
また、図24Aで、高濃度側端部では、出口OUT1を有する側壁以外の残り3つの側壁は、出口を有しない側壁となっている。
また、図24Aの構造を上下反転することによって、上半部の配列が形成される。上半部の配列では、図24Aで低濃度端部に形成された出口OUT3とIN3との連通が、高濃度端部に形成されることになる。そして、高濃度端部の素子1Aの上半部12Aの出口OUT3、入口IN3の接続によって、高濃度流体は、高濃度側の上半部12Aを流れることになる。
このように、図24Aの素子配列は、図20Aで例示される素子配列とは、上流側の2素子から流入する流体の混合条件が異なる。しかし、各素子を流れる間に、濃度成分の分離が平衡状態に達する場合には、図20Aの素子配列と図24Aの素子配列とは、類似した濃度分離特性を有する。
より詳細に説明すると、図24Aにおいて、低濃度端部の素子1Bの下半部11Bは、底部において平行四辺形の4つの辺のうち、一方の端部側の素子配列外周側の辺に立設される非開口側壁と、素子配列外周側の辺を除く3つの辺において所定幅の開口を形成して立設される3つの開口側壁と、を有する。一方、図示しないが、本変形例の低濃度端部の素子1Bの上半部は、図24Aの高濃度端部の下半部11Aを上下反転した構造を有する。したがって、本変形例において、低濃度端部の素子1Bの上半部は、天井部において平行四辺形の4つの辺のうち、一方の端部側の素子配列外周側の辺の対辺において所定幅の開口を形成して垂下して設けられる1つの開口側壁と、素子配列外周側の辺の対辺を除く残り3つの辺から垂下して設けられる3つの非開口側壁を有する。
また、図24Aのように、高濃度端部の素子1Aの下半部11Aは、底部において平行四辺形の4つの辺のうち、一方の端部側の素子配列外周側の辺の対辺において所定幅の開口を形成して立設される1つの開口側壁と、4つの辺のうち、素子配列外周側の辺の対辺を除く残り3つの辺に立設される3つの非開口側壁とを有する。
また、図示しないが、本変形例において、高濃度端部の素子1Aの上半部は、低濃度端部の素子1Bの底部11Bを上下反転した形状を有する。そして、高濃度端部の素子1A
の上半部は、天井部において平行四辺形の4つの辺のうち、一方の端部側の素子配列外周側の辺に立設される非開口側壁と、素子配列外周側の辺を除く3つの辺において所定幅の開口を形成して立設される3つの開口側壁とを有する。
なお、図示していないが本変形例においても、高濃度端部の素子1A、低濃度端部の素
子1Bは、実施例1の図12から図14に示す素子1と同様、下半部と上半部とが重畳する部分の略中央部に開口を有する隔壁を平面部材に配列した構造をとる。
(温度勾配)
素子1、1A,1Bでの濃度分離作用としてソーレ効果を用いる場合には、素子1等に温度勾配を設ける。ソーレ効果を用いる場合の温度勾配を与えるための構造、作用、原理に限定がある訳ではない。例えば、素子1等に温度勾配を設ける場合には、素子の底部111および天井部121の一方に、熱源、例えば、ヒータ等を設ければよい。また、素子の底部111および天井部121の一方に、冷却部、例えば、熱交換器を介して冷媒を循環させる機構を設けてもよい。また、例えば、ヒートポンプを用いて、素子1等の底部111および天井部121の一方に吸熱部を接触させ、他方に発熱部を接触させてもよい。さらに、例えば、ペルチェ素子を用いて、素子1等の底部111および天井部121の一方に吸熱部を接触させ、他方に発熱部を接触させてもよい。
以上述べたように、実施例1の素子1、1A、1Bを用いて図2に例示した素子配列を形成できる。
以下、流体分離素子のモデル2の実施例を図25から図33の図面を参照して説明する。実施例2は、モデル2の具体的な素子の構造および素子配列の構成を例示する。
(モデル2の素子の構造)
図25は、図4、5に例示した素子配列の素子2の構成を例示する斜視図である。素子2は、略六角形に所定の厚みを持たせた形状の下半部21と、下半部21が上下反転された形状の上半部22を接合した形状となっている。図25のように、下半部21は、平面視で六角形状を有する底部211と、底部211に立設される側壁212、213、214および215を有する。側壁212、213、214および215は、底部211の平面視形状の六角形の三対の対辺のうち、二対の対辺の位置で底部211に立設される。一方、底部211の平面視形状の六角形の残りの対辺の箇所には、入口IN1および出口OUT1となる切り欠きが形成される。入口IN1および出口OUT1となる切り欠きによって、この残りの対辺部分に側壁が形成されなくてもよい。入口IN1および出口OUT1となる対辺部分に側壁がない場合には、入口IN1および出口OUT1は、底部211の平面視形状の六角形の当該対辺部分に形成可能な最大の開口となる。一方、底部211の平面視形状の六角形の当該対辺部分に側壁を設け、その一部を開口、または切り欠くようにしてもよい。一部を開口するとは、下半部21の側壁に孔を形成することをいう。一方、切り欠くとは、例えば、下半部21の側壁の底部211からの高さを変化させること、あるいは、下半部21の側壁に段差を設けること等をいう。切り欠きの場合には、上半部22との接合によって、素子2に入口IN1、出口OUT1が形成されることになる。
一方、上半部22は、下半部21を上下反転した構造をとる。上半部22は、底部211に対向する六角形状の天井部221を有する。また、上半部22は、下半部21を上下反転した形状であるため、天井部221から垂下する側壁222、223、224および225を有する。側壁222、223、224および225は、天井部221の平面視形状の六角形の三対の対辺のうち、二対の対辺の位置で天井部221から垂下している。一方、平面部221の平面視形状の六角形の残りの対辺の箇所には、入口IN2および出口OUT2となる切り欠きが形成される。入口IN2および出口OUT2の形状および構成は入口IN1および出口OU1と同様である。
そして、下半部21の側壁213および上半部22の側壁225、下半部21の側壁215と上半部の側壁223を接合することで、底部211、天井部221および各側壁に
囲まれた空洞部20が形成され、素子2の形状が形成される。
(素子の作用)
素子2は、実施例1の素子1と同様、IN1とIN2を流体の入口として、OUT1とOUT2を流体の出口として、空洞部20に流体を流すことが可能である。そして、例えば、素子2の下面から上面、つまり底部211の下側から、天井部221の上側に向かう方向に、様々なポテンシャルを印加すると、ポテンシャルに応じて、下半部21、上半部22、あるいは空洞部20を流れる流体に濃度の偏位が生じる。このため、入口IN1、IN2から流入し、出口OUT1、OUT2に流出する流体の成分の分離が可能となる。
例えば、今、濃度成分が図25で例示のポテンシャルの方向、つまり、底部211から天井部221の方向に偏位する場合を想定する。この場合に、下半部21では、流体が入口IN1から空洞20に流入し、上半部22では、流体が入口IN2から空洞20に流入する。このようにして、下半部21で空洞20に流入した流体と上半部22で空洞20に流入した流体が混合される。そして、混合された流体は、空洞20を流れる間に、ポテンシャルによって濃度成分が偏位する。すなわち、底部211に近い部分は相対的に低濃度の流体となり、天井部221に近い部分は相対的に高濃度の流体となる。
このような作用を有する素子2に対して、入口IN1に、上流側の高濃度側の列に位置する素子2の低濃度出口からの流体を流入させ、一方、入口IN2に、上流側の低濃度側の列に位置する素子2の高濃度出口からの流体を流入させるように複数の素子2を接続する。図25では、IN1が低濃度入口とされ、IN2が高濃度入口とされているのは、以上の接続を例示したものである。この接続は、図4における、最上流を除く各段の整数段の両端以外の素子の接続と同一である。
すると、入口IN1から流入した、上流の高濃度側の列に位置する素子の低濃度出口からの流体と、入口IN2から流入した、上流の低濃度側の列に位置する素子の高濃度出口からの流体は、空洞20を流れる間に、上記素子2の作用によって、濃度成分の偏位を行いつつ、流入時の平均濃度より濃度を低くした流体となって低濃度出口OUT1から流出する。また、流入時の平均濃度より濃度を高めた流体となって高濃度出口OUT2から流出する。したがって、図25の素子2を図4のように複数列複数段配置し、前段の高濃度側の列に位置する素子の低濃度出口を素子1の低濃度入口である入口IN1に接続し、前段の低濃度側の列に位置する素子の高濃度出口を素子1の高濃度入口である入口IN2に接続することで、複数段階にわたって順次濃度成分を偏位させる素子配列の回路が形成できる。この回路は、図4に例示した素子配列の回路と同じ構成である。
(モデル2の回路の形成)
図26は、素子2の下半部21を配列した素子配列を例示する平面図である。ただし、図26では、説明の便宜のため、列方向、段方向とも実際の素子配列よりも大幅に少ない素子数で表示している。図26の素子配列には、素子2、通路部2A、2Bが含まれる。通路部2Aは、半整数段の高濃度側端部に配置され、高濃度側端部の整数段の素子2と次の整数段の素子2とを接続する通路としての役割を有する。したがって図4、5に例示した素子配列に現れる素子とは対応しないので、ここでは通路部2Aと呼ぶこととする。すなわち、通路部2Aは、図4、5においては、高濃度端部で、整数段と整数段とを接続する流路に相当する。
同様に、通路部2Bは、半整数段の低濃度側端部に配置され、低濃度側端部の整数段の素子2と次の整数段の素子2とを接続する通路としての役割を有する。したがって図4、5に例示した素子配列に現れる素子とは対応しないので、ここでは通路部2Bと呼ぶこと
とする。すなわち、通路部2Bは、図4、5においては、低濃度端部で、整数段と整数段とを接続する流路に相当する。
通路部2Aは、図25の素子2の形状のうち、素子2を平面視した六角形の鋭角の頂点位置C1、C2を通り、天井部221に垂直な平面で素子2を2分割したときの入口IN2、出口OUT1を含む側の部位となっている。また、通路部2Bは、図25の素子2を上記2分割したときの入口IN1、出口OUT2を含む側の部位となっている。図27は、図26の素子配列のうち、半整数段の両端を除く全体で共通な素子2の形状を例示する平面図である。図28は、図26の素子配列のうち、半整数段の高濃度端部の通路部2Aの形状を例示する平面図である。図29は、図26の素子配列のうち、半整数段の低濃度端部の通路部2Bの形状を例示する平面図である。
図26、図27のように、素子2の下半部21は、入口IN1を前段の高濃度側に位置する素子の出口OUT1と連通させることで、複数段に渡って、流体が移動可能となっている。
一方、図28のように、半整数段の高濃度側端部の通路部2Aは、下半部に入口IN1を有していない。つまり、通路部2Aは、下半部には、開口としては、出口OUT1だけを有する。すなわち、通路部2Aは、図27に示した素子2の下半部21の平面視形状を、六角形の鋭角位置C1、C2を結ぶ対角線C1C2で切断した下側の台形(OUT1を含む側)の形状となっている。また、通路部2Aは、上記台形の底部において、上記対角線C1C2に側壁を設けた形状となっている。
さらに、図29のように、半整数段の低濃度側端部の通路部2Bは、下半部に出口OUT1を有していない。つまり、通路部2Bは、下半部には、開口としては、入口IN1だけを有する。すなわち、通路部2Bの底部は、図27に示した素子2の下半部21の平面視形状を、六角形の鋭角位置C1、C2を結ぶ対角線C1C2で切断した上側の台形(IN1を含む側)の形状となっている。また、通路部2Bは、上記台形の底部において、上記対角線C1C2に側壁を設けた形状となっている。
上記のように、通路部2Aは下半部(図25の素子2の下半部21に相当する部分)は、開口としては出口OUT1だけを有する。しかし、通路部2Aの上半部(図25の素子2の上半部22に相当する部分)は、図29に示した通路部2Bの下半部を上下反転した形状となっている。つまり、図29の通路部2Bを上下反転して、図28の通路部2Aの下半部に載置し、側壁を接合することで、通路部2Aが形成される。したがって、通路部2Aは、開口としては、図28に示した下半部の出口OUT1の他、上半部の入口IN2(図25参照)を含む。すなわち、すでに述べたように、通路部2Aは、図25の素子2のうち、素子2を平面視した六角形の鋭角の頂点位置C1、C2を通り、天井部221に垂直な平面で素子2を2分割したときの入口IN2、出口OUT1を含む側の部位となっている。
同様に、通路部2Bの上半部(図25の素子2の上半部22に相当する部分)は、図28に示した通路部2Aの下半部を上下反転した形状となっている。つまり、図28の通路部2Aを上下反転して、図29の通路部2Bの下半部に載置し、側壁を接合することで、通路部2Bが形成される。したがって、通路部2Bは、開口としては、図28に示した下半部の入口IN1の他、上半部の出口OUT2を含む。すなわち、すでに述べたように、通路部2Bは、図25の素子2のうち、素子2を平面視した六角形の鋭角の頂点位置C1、C2を通り、天井部221に垂直な平面で素子2を2分割したときの入口IN1、出口OUT2を含む側の部位となっている。
したがって、図26のように素子2、通路部2A、2Bを配列した場合に、半整数段の高濃度側端部の通路部2Aでは、上半部(図25の素子2の上半部22に相当する部分)において、上流側の整数段の素子2の上半部22の出口OUT2から通路部2Aの上半部の入口IN2に高濃度側の流体が流入し、下半部の出口OUT1から下流側の整数段の素子2の下半部22の入口IN1に上記流体が流入する。つまり、通路部2Aは、上流側の整数段の素子2の上半部22の出口OUT2と、下流側の整数段の素子2の下半部22の入口IN1とを接続する通路としての役割を有する。
同様に、半整数段の低濃度側端部の通路部2Bでは、下半部(図25の素子2の下半部21に相当する部分)において、上流側の整数段の素子2の下半部21の出口OUT1から通路部2Bの下半部の入口IN1に低濃度側の流体が流入し、上半部の出口OUT2から下流側の整数段の素子2の上半部22の入口IN2に上記流体が流入する。つまり、通路部2Bは、上流側の整数段の素子2の下半部21の出口OUT1と、下流側の整数段の素子2の上半部22の入口IN2とを接続する通路としての役割を有する。
図30は、図26に平面図で例示した素子配列のうち、素子2の下半部21および通路部2A、2Bの下半部を平面部材上に形成した構成を例示する平面図である。図25に例示したように、素子2には、底部211に立設された側壁222から225によって、空洞部20が形成される。また、図28、図29の平面図を用いて説明したように、通路部2A、2Bは、流体の通路となる空洞部を有する。したがって、素子2の下半部21において、側壁222から225等に対して、空洞部20と空洞部20に連通する入口IN1、出口OUT1の部分は、凹部となっている。同様に、通路部2A、2Bの下半部において、側壁に対して、空洞部と、空洞部に連通する入口IN1、出口OUT1の部分は、凹部となっている。
そこで、実施例2では、素子2、通路部2A、2Bを含む素子配列の下半部は、平面部材上の凹部によって形成する。平面部材の材質および加工方法は、実施例1の素子と同様である。
図31は、素子2の下半部21、通路部2Aの下半部、および通路部2Bの下半部を平面部材上に形成した回路下半部の構成を例示する斜視図である。すなわち、図31は、図30の平面視した平面部材の斜視図である。図31の形状は、例えば、実施例1で述べたエッチング等によって形成できる。
図32は、素子2の上半部22、通路部2Aの上半部、および通路部2Bの上半部を平面部材上に形成した回路上半部の構成を例示する斜視図である。なお、図32では、凹凸面が平面部材の下側に形成されるため、凹凸面を点線で表している。ただし、図32の回路上半部の構造は、図31の回路下半部を上下(表裏)反転したものである。また、図32の形状の形成方法は、図31の回路下半部と同様である。
図33は、図31の回路下半部に図32の回路上半部を載置して接合した回路の斜視図である。この回路は、最上流の素子に、混合流体を流入させることで、各段の素子2の濃度を偏位させる作用を通じて、最下流の素子から、高濃度流体と低濃度流体とに分離する。すなわち、図33の回路は、図4、図5の素子2の回路となっており、流体の成分濃度を分離する素子配列として作用する。
以上述べたように、実施例2の素子2、通路部2A、2Bを用いて、図4に例示した素子配列を形成できる。
図34は、モデル1の他の実施例を示す流体の濃度成分を分離する濃度分離装置100の斜視図である。ただし、図34では、説明の便宜のため、列方向、段方向とも実際の素子配列よりも大幅に少ない素子数で表示している。濃度分離装置100の素子10Aは、例えば、図12に示した素子1を直方体形状の筐体とし、入口IN1、IN2および出口OUT1、OUT2をそれぞれ筐体表面(図34の場合には上面)に設けたものである。図34の素子10Aは、図2に例示した回路と同じ接続順で接続されている。
上記実施例1、2では、例えば、図16から図24、図26から図33に例示したように、平面部材上に素子配列の回路が形成され、平面部材を重ねて接合することで、濃度分離装置が形成された。実施例1、2の構成は、例えば、エッチングのような微細構造によって濃度分離装置を製作するために適しているといえる。逆に、実施例1、2の構造は、微細構造となりやすく、流量が限定された流体の濃度成分分離に適している。
一方、実施例3の濃度分離装置は、産業用プラントに適用するような比較的規模の大きな設備に適している。すなわち、図34では、素子10Aが、配管P1等によって、接続され、図2に例示した素子配列の回路が形成されている。素子10Aおよび配管P1の寸法は、設備の大きさ、処理能力に応じて適宜決定すればよい。また、素子10Aおよび配管P1の材料は、実施例1で述べたように、濃度分離の対象となる流体の特性に応じて、適宜選択すればよい。また、素子10Aと配管P1の接続方法は、素子10Aと配管P1の材料、あるいは、濃度分離の対象となる流体の特性等に応じて、適宜選択すればよい。
例えば、金属の接続は、溶接によればよい。また、素子10Aと配管P1にフランジを設けて、ゴム製のオーリング、あるいは金属製のガスケット等のシール材料を挟み込んで、ねじ止めしてもよい。樹脂材料の接続は、接着剤を含むシール材料で接続すればよい。図34のような構成によって、実施例1の場合と比較して、より広範な設備に対して、濃度分離装置を適用できる。
図35は、モデル2の他の実施例を示す流体の濃度成分を分離する濃度分離装置200の斜視図である。ただし、図35では、説明の便宜のため、列方向、段方向とも実際の素子配列よりも大幅に少ない素子数で表示している。濃度分離装置200の素子10Bは、例えば、図25に示した素子2を直方体形状の筐体とし、入口IN1、IN2および出口OUT1、OUT2をそれぞれ筐体表面に設けたものである。図35の素子10Bは、図4、5に例示した回路と同じ接続順で接続されている。
図35の素子10B、配管P2、P3等の材料、寸法、接続方法等は、実施例3の場合と同様である。図35のような構成によって、実施例2の場合と比較して、より広範な設備に対して、濃度分離装置を適用できる。
[実施の形態の効果]
モデル1の素子配列によれば、図2、図34に例示したように、最上流を除く各素子段において両端の素子のうち高濃度端部の素子の入口は、1段上流の素子段の高濃度端部の素子の高濃度出口および高濃度端部の素子よりも1素子分低濃度側に配置された素子の高濃度出口に接続される。また、低濃度端部の素子の入口は、1段上流の素子段の低濃度端部の素子の低濃度出口および低濃度端部の素子よりも1素子分高濃度側に配置された素子の低濃度出口に接続される。
また、モデル2の素子配列によれば、図4、図35に例示したように、整数段の素子段の両端において、高濃度端部の素子の入口は、当該整数段よりも1素子分上流に配置され
た半整数段で高濃度端部の素子(素子配列の高濃度端部から1/2素子分内側の位置の素子)および2素子分上流に配列された整数段で高濃度端部の素子のそれぞれの高濃度出口に接続される。また、両端の素子のうちの低濃度端部の素子の入口は、当該整数段よりも1素子分上流に配置された半整数段で低濃度端部の素子(素子配列の低濃度端部から1/2素子分内側の位置の素子)および2素子分上流に配列された整数段で低濃度端部の素子のそれぞれの低濃度出口に接続される。したがって、高濃度側で、成分分離する流体の濃度をさらに高め、あるいは維持できる。一方、低濃度側で、成分分離する流体の濃度をさらに薄め、あるいは維持できる。すなわち、効率的な濃度分離が可能となる。
また、本素子配列によれば、流体成分の分離時に、分離される物質の濃度、あるいは特性等が定量的に把握可能となることにより、流出する流体中の中間濃度領域を任意の小さい割合とし、大部分を高純度の高濃度流体と低濃度流体に分離可能な素子配列を形成できる。
また、図2の素子配列によるモデル1の回路の場合には、数9(あるいは、数16、数17)の条件を設定することができる。その結果、仮想素子x(-1,j) および x(M,j) を境界の外側に設けた回路は元の回路と等価となり、分離される物質の濃度、あるいは特性等が定量的に把握可能となる。また、図4の素子配列によるモデル2の回路の場合には、数29(あるいは、数30、数31)の条件を設定することができる。その結果、モデル2においても、モデル1と同様に流体の取り扱いが可能となる。
また、本実施形態に例示した素子と素子配列によれば、限定的な成分分離効果を持つ、一般化された流体分離素子を多数、一方向性のネットワーク状に接続することで、全体として高い分離性能を実現する流体素子ネットワークを構成する。ここで、一般化された流体分離素子とは、素子による流体の成分分離の仕組み、つまり、流体の成分に加わるポテンシャルに依存しないことをいう。
また、本実施形態に例示した素子と素子配列によれば、従来技術とは異なり、流体が下流に進むのに伴い、高濃度端から低濃度端までの範囲に発達した濃度分布を形成し、この濃度分布は、素子単独での分離能力によりその幅が決まる遷移領域によって、高純度の高濃度領域と低濃度領域に二分される形状となることを特徴とする。
また、本実施形態に例示した素子と素子配列によれば、従来技術とは異なり、単位の分離素子は交差した流路にポテンシャル勾配を印加する形式に限定されず、各種の方法により分離性能を高めた素子を使用できる。これにより発達した濃度分布を得るために必要な素子数の低減を図ることができる。
1、1A、1B 素子
2、2A、2B 素子
11、11A、11B 下半部
12 上半部
20 空洞部
21 下半部
22 上半部
110 空洞部
111 底部
112、113、114、115 側壁
118、118A、118B 隔壁
119、119A、119B 開口
120 空洞部
211 底部
212、213、214、215 側壁
221 天井部
222、223、224、225 側壁

Claims (13)

  1. 少なくとも1つの入口と2つの出口とを有し、前記入口から流入する流体の成分濃度を偏在させて、前記流入した流体の平均濃度よりも高濃度の流体を高濃度出口から流出させ、前記流入した流体の平均濃度よりも低濃度の流体を低濃度出口から流出させる素子を並列に複数個配列した素子段を流体の流れの方向に複数段配列し、
    最上流を除く各素子段において両端の素子のうち一方の端の素子の入口は、1段上流の素子段の同じ一方の端の素子の高濃度出口および前記一方の端の素子よりも他方の側に配置された素子の高濃度出口に接続され、前記両端の素子のうち他方の端の素子の入口は、前記1段上流の素子段の同じ他方の端の素子の低濃度出口および前記他方の端の素子よりも前記一方の側に配置された素子の低濃度出口に接続され、
    前記最上流を除く各素子段で前記両端の素子を除く各素子の入口は、1段上流の素子段での流体の流れの横断方向の同一順序位置よりも前記一方の側に配置された素子の低濃度出口と前記1段上流の素子段での流体の流れの横断方向の同一順序位置よりも前記他方の側に配置された素子の高濃度出口とに接続される素子配列。
  2. 少なくとも1つの入口と2つの出口とを有し、前記入口から流入する流体の成分濃度を偏在させて、前記流入した流体の平均濃度よりも高濃度の流体を高濃度出口から流出させ、前記流入した流体の平均濃度よりも低濃度の流体を低濃度出口から流出させる素子を並列に複数個配列した素子段を流体の流れの方向に複数段配列し、
    前記素子段として、他の素子段より1列短い半整数段と前記半整数段よりも1列長い整
    数段とが交互に配置され、かつ流体の流れの横断方向には前記半整数段の各素子が前記整数段の素子と素子との間に位置するようにずれて配置される形態で素子が配置され、
    最上流を除く整数段において両端の素子のうちの一方の端の素子の入口は、当該整数段よりも1素子分および2素子分上流に配列された半整数段および整数段で前記一方の端の素子のそれぞれの高濃度出口に接続され、前記整数段において両端の素子のうちの他方の端の素子の入口は、当該整数段よりも1素子分および2素子分上流に配列された半整数段および整数段で前記他方の端の素子のそれぞれの低濃度出口に接続され、
    前記最上流を除く半整数段において両端を含む各素子の入口は、前段である整数段での流体の流れの横断方向に前記一方の側に前記半整数段とずれて配置された素子の低濃度出口と、前段である前記整数段での流体の流れの横断方向に前記他方の側にずれて配置された素子の高濃度出口とに接続され、
    前記最上流を除く整数段において両端を除く各素子の入口は、前段である半整数段での流体の流れの横断方向に前記一方の側に前記整数段とずれて配置された素子の低濃度出口と、前段である前記半整数段での流体の流れの横断方向に前記他方の側にずれて配置された素子の高濃度出口とに接続される素子配列。
  3. 各素子に流入する流体の成分濃度をxとして、前記高濃度出口から流出する高濃度流体
    と前記低濃度出口から流出する低濃度流体との濃度差が所定の係数gammaを用いて、2(gamma)x(1-x)と表現されるとき、前記素子段での流体の流れの横断方向の素子数Mが1/(gamma)以上であり、前記流体の流れの方向の素子段の段数NがM/(gamma)以上である請
    求項1に記載の素子配列。
  4. 各素子に流入する流体の成分濃度をxとして、前記高濃度出口から流出する高濃度流体
    と前記低濃度出口から流出する低濃度流体との濃度差が所定の係数gammaを用いて、2(gamma)x(1-x)と表現されるとき、整数段において素子段での流体の流れの横断方向の素子数Mが1/(2gamma)以上であり、前記流体の流れの方向の整数段と半整数段を合わせた素
    子段の段数Nが2M/(gamma)-1以上である請求項2に記載の素子配列。
  5. (列数、段数を限定した独立項)
    少なくとも1つの入口と2つの出口とを有し、前記入り口から流入する流体の成分濃度を偏在させて、前記流入した流体の平均濃度よりも高濃度の流体を高濃度出口から流出させ、前記流入した流体の平均濃度よりも低濃度の流体を低濃度出口から流出させる素子を並列に複数個配列した素子段を流体の流れの方向に複数段配列し、
    最上流を除く各素子段の少なくとも両端以外の各素子の入口は、前記各素子段よりも上流側に配置された2個の素子のうちの一方の素子の高濃度出口と他方の素子の低濃度出口とに接続され、
    各素子に流入する流体の成分濃度をxとして、前記高濃度出口から流出する高濃度流体
    と前記低濃度出口から流出する低濃度流体との濃度差が所定の係数gammaを用いて、2(gamma)x(1-x)と表現されるとき、素子段での流体の流れの横断方向の素子数Mが1/(2gamma)以上であり、前記流体の流れの方向の素子段の段数NがM/(gamma)以上である素子配列。
  6. 前記素子が前記素子段を流れの方向に配列した素子配列の上側および下側から温度勾配が印加されることによって流体の成分濃度を偏在させる素子である場合に、前記係数gammaが、流体の熱拡散定数alphaT、底部と天井部のうちの高温側の温度TH、低温側の温度TL
    によって
    gamma=alphaT*ln(TH/TL)/4 (ここで、*は乗算を示す)
    によって算出される値gammaである請求項3、4または5に記載の素子配列。
  7. 平面視で平行四辺形状の底部と、
    前記底部において平行四辺形の2組の対辺のうち、一方の対辺において所定幅の開口を形成して立設される一対の開口側壁と、
    前記底部において平行四辺形の他方の対辺に立設される一対の非開口側壁と、
    を有する下半部、
    前記下半部を前記開口側壁を有する辺に平行な軸周りに反転させた形状を有する上半部であって、
    前記底部に対向する平面視で平行四辺形状の天井部と、
    前記天井部において平行四辺形の2組の対辺のうち、一方の対辺において所定幅の開口を形成して垂下して設けられる一対の開口側壁と、
    前記天井部において平行四辺形の他方の対辺から垂下して設けられる一対の非開口側壁と、
    を有する上半部、および
    前記下半部と上半部とに挟まれ、前記下半部と上半部とが重畳する部分の略中央部に開口を有する隔壁を備える素子。
  8. 素子を並列に複数個配列した素子段を流体の流れの方向に複数段配列した素子配列において、前記素子段の両端に配置される素子であって、
    平面視で平行四辺形状の底部と、
    前記底部において平行四辺形の4つの辺のうち、1つの辺において所定幅の開口を形成して立設される1つの開口側壁と、
    前記平行四辺形の残り3つの辺に立設される非開口側壁と、を有する下半部と、
    前記下半部を前記開口側壁を有する辺に平行な軸周りに反転させた形状を有する上半部であって、
    前記底部に対向する平面視で平行四辺形状の天井部と、
    前記天井部において平行四辺形の4つの辺のうち、1つの辺において所定幅の開口を形成して垂下して設けられる1つの開口側壁と、
    前記平行四辺形の残り3つの辺から垂下して設けられる3つの非開口側壁と、を有する上半部、および、
    前記下半部と上半部とに挟まれ、前記下半部と上半部とが重畳する部分の略中央部に
    少なくとも第1の開口を有する隔壁を備え、
    前記隔壁は、
    前記素子の下半部と上流側の素子の上半部との重畳部分または前記素子の上半部と上流側の素子の下半部との重畳部分に前記上流側の素子に連通する第2の開口と、
    前記素子の下半部と下流側の素子の上半部との重畳部分または前記素子の上半部と下流側の素子の下半部との重畳部分に前記下流側の素子に連通する第3の開口と、を形成する隔壁を備える素子。
  9. 素子を並列に複数個配列した素子段を流体の流れの方向に複数段配列した素子配列において、前記素子段の両端に配置される素子であって、
    前記素子段の両端の一方の端部の素子は、
    平面視で平行四辺形状の底部と、
    前記底部において平行四辺形の4つの辺のうち、前記一方の端部側の素子配列外周側の辺に立設される非開口側壁と、
    前記素子配列外周側の辺を除く3つの辺において所定幅の開口を形成して立設される3つの開口側壁と、を有する下半部、
    前記低部を前記素子配列外周側の辺に平行な軸周りに反転させた形状の天井部を有する上半部であって、
    前記底部に対向する平面視で平行四辺形状の前記天井部と、
    前記天井部において平行四辺形の4つの辺のうち、前記一方の端部側の素子配列外周側の辺の対辺において所定幅の開口を形成して垂下して設けられる1つの開口側壁と、
    前記素子配列外周側の辺の対辺を除く残り3つの辺から垂下して設けられる3つの非開口側壁と、を有する上半部、および、
    前記上半部と下半部とに挟まれ、前記下半部と上半部とが重畳する部分の略中央部に開口を有する隔壁と、を備える素子。
  10. 平面視で六角形状の底部と、
    前記底部において六角形の三対の対辺のうち、一対の対辺上の側面の一部またはすべてを開口させる開口側壁と、他の二対の対辺に立設される二対の非開口側壁と、を有する下半部と、
    前記下半部を前記非開口側壁を有する辺に平行な軸周りに反転させた形状を有する上半部であって、
    前記底部に対向する平面視で六角形の天井部と、
    前記天井部において六角形の三対の対辺のうち、一の対辺下の側面の一部またはすべてを開口させる開口側壁と、他の二対の対辺から垂下して設けられる二対の非開口側壁と、を有する上半部と、を備える素子。
  11. 素子の配列を用いた流体の成分分離方法であって、各素子において少なくとも1つの入口と2つの出口とが設けられ、前記素子を並列に複数個配列した素子段が流体の流れの方向に複数段配列され、
    前記各素子の入り口から流入する流体の成分濃度を偏在させて、前記流入した流体の平均濃度よりも高濃度の流体を高濃度出口から流出させ、前記流入した流体の平均濃度よりも低濃度の流体を低濃度出口から流出させ、
    最上流を除く各素子段において両端の素子のうち一方の端の素子の入口には、1段上流の素子段の同じ一方の端の素子の高濃度出口および前記一方の端の素子よりも他方の側に配置された素子の高濃度出口から流体を流入させ、
    前記両端の素子のうち他方の端の素子の入口には、前記1段上流の素子段の同じ他方の端の素子の低濃度出口および前記他方の端の素子よりも前記一方の側に配置された素子の低濃度出口から流体を流入させ、
    前記最上流を除く各素子段の前記両端の素子を除く各素子の入口には、1段上流の素子
    段での流体の流れの横断方向の同一順序位置よりも前記一方の側に配置された素子の低濃度出口と前記1段上流の素子段での流体の流れの横断方向の同一順序位置よりも前記他方の側に配置された素子の高濃度出口とから流体を流入させる流体の成分分離方法。
  12. 前記複数段の素子段において流体の流れの方向に順次成分濃度を偏在させて、濃度分布を形成し、
    最下流の素子段で高濃度領域の流体と低濃度領域の流体とに分けて取り出す請求項11に記載の流体の成分分離方法。
  13. 少なくとも1つの入口と2つの出口とを有し、前記入口から流入する流体の成分濃度を偏在させて、前記流入した流体の平均濃度よりも高濃度の流体を高濃度出口から流出させ、前記流入した流体の平均濃度よりも低濃度の流体を低濃度出口から流出させる素子を並列に複数個配列した素子段を流体の流れの方向に複数段配列し、
    最上流を除く各素子段において両端の素子のうち一方の端の素子の入口には1段上流の素子段の同じ一方の端の素子の高濃度出口および前記一方の端の素子よりも他方の側に配置された素子の高濃度出口を接続し、前記両端の素子のうち他方の端の素子の入口には前記1段上流の素子段の同じ他方の端の素子の低濃度出口および前記他方の端の素子よりも前記一方の側に配置された素子の低濃度出口を接続し、
    前記最上流を除く各素子段の前記両端の素子を除く各素子の入口には1段上流の素子段での流体の流れの横断方向の同一順序位置よりも前記一方の側に配置された素子の低濃度出口と前記1段上流の素子段での流体の流れの横断方向の同一順序位置よりも前記他方の側に配置された素子の高濃度出口とを接続する素子配列の製造方法。
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