以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
1.本実施形態の手法
まず本実施形態の手法について説明する。超音波測定装置で信号の送受信を行う手法において、超音波信号の送信時に所与の測定点にフォーカスを合わせる手法が知られていた。例えば、複数の超音波トランスデューサー素子10を含む素子アレイ(例えば後述する図16〜図17(B)の超音波トランスデューサーデバイスに対応)の各素子に対して、駆動時にそれぞれの素子に対応した遅延を与えるものである。このような手法で送信された超音波は所定の測定点に対してフォーカスするため、当該超音波の反射波を素子アレイで受信すれば、当該測定点にフォーカスがあった超音波信号(狭義には超音波画像)を取得することが可能である。
しかしこのような手法では、超音波信号の送信時点でフォーカスする測定点が決まってしまう。そのため、複数の測定点(狭義には画像中の全ての点)にフォーカスがあった超音波画像を生成しようとすると、当該複数の測定点分の素子アレイの駆動、及び超音波信号の送受信を行う必要がある。
現在広く用いられている開口合成という手法では、上記のように送信時に所定の測定点にフォーカスを合わせておく必要がない。具体的には、所与の送信波を送信しておき、当該送信波の反射波を複数の素子で受信する。フォーカスを合わせたい位置(複数であってよく、狭義には超音波画像を形成した場合に画像全域にわたる点)である信号処理対象点を設定し、仮に、送信波が設定した全信号処理対象点に到達する(伝搬する)ものとすれば、超音波トランスデューサー素子が受信する受信信号には、全ての信号処理対象点における反射波の情報が含まれていることになる。例えば、信号処理対象点としてr1〜rMのM個の信号処理対象点を想定している場合、所与の超音波トランスデューサー素子の受信信号s(t)は、r1〜rMからの反射波を全て反映した情報である。なお、ここでのtは時刻、或いはサンプリングタイミングを表す変数である。
受信信号sは、上述したように時系列でその値(振幅値)が変化する関数であるが、r1〜rMからの反射波はその全てが同一のタイミングで取得されるものではない。仮に、送信波が素子アレイの中心点から発生するものとすれば、図1(A)に示したようにr1に対応する信号はR1に示した送受信経路により素子で受信されるし、r2に対応する信号はR2に示した送受信経路により素子で受信されるといったように、信号処理対象点の位置に応じて超音波の伝搬経路が異なる。そして伝搬経路の長さが異なれば、素子において反射波の信号が受信されるタイミングが異なる。つまり、図1(A)に示したようにR1の長さ<R2の長さである場合、図1(B)に示したように信号処理対象点r1に対応する信号は対象としている素子の受信信号s(t)の比較的tが小さい(時間的に早い)信号として現れ、信号処理対象点r2に対応する信号は受信信号s(t)の比較的tが大きい(時間的に遅い)信号として現れることになる。
よって、r1からの反射波が受信された時刻t1と、r2からの反射波が受信された時刻t2を特定することができれば、s(t1)はr1からの反射波の信号を含んでいるし、s(t2)はr2からの反射波の信号を含んでいると考えられる。ここで上述したようにt1<t2である。
しかし、1つの素子だけを考慮した場合、図2のr3とr4に示した信号処理対象点では、伝搬経路はR3とR4で異なるものの、R3の長さ=R4の長さとなるため、s(t3)はr3からの反射波の信号とr4からの反射波の信号の両方を含んでいる。つまり、1つの素子だけからでは特定の1つの信号処理対象点からの情報だけを分離することは容易でない。そもそも開口幅が狭くなれば受信信号の分解能(超音波画像の分解能)も下がるため、超音波測定装置では複数の素子を並べて素子アレイを形成することが通常である。
よって開口合成では、当然の処理として複数の素子での受信信号を用いることになる。具体的には超音波測定装置が第1〜第N(Nは2以上の整数)の超音波トランスデューサー素子を含む場合、所与の送信波の送信により受信信号は各素子において取得されるため、s1(t)〜sN(t)のN個の受信信号を取得可能である。そして、N個の受信信号のそれぞれが、複数の信号処理対象点(上記仮定のもとではr1〜rMの全て)からの情報を含んでいる。この際、各素子の位置が異なることから、第1の素子10−1でのr1に対応する伝搬経路R11と、第2の素子10−2でのr1に対応する伝搬経路R12が異なるように、R11〜R1Nは素子に応じた経路となり、r1からの反射波が受信された時刻についてもt11〜t1Nという素子毎の値が得られる。
この場合、特定の信号処理対象点からの受信信号を適切に求めるためには、図3に示したように受信タイミングのズレ、すなわち受信信号sにおける位相のズレをそろえる整相処理を行えばよい。なお、図3は各素子の受信信号sのうち、所望の信号処理対象点に対応する信号を抜き出したものを横軸方向に記載している。信号処理対象点がr1の例であれば、上述したt11〜t1Nに相当する情報を求め、s1(t11)+s2(t12)+・・・+sN(t1N)を求めればよい。
この際、例えばs1(t11)には図2を用いて上述したように他の信号処理対象点rmに対応する情報が含まれているかもしれない。しかし、第1の素子を考えた場合に、R11の長さ=R1mの長さとなったとしても、第2〜第Nの素子まで全て考えれば、R12とR1m、R13とR1m、・・・R1NとR1mの全てが一定の関係(例えば大きさが等しい)となるとは考えられない。つまり、t12、t13・・・t1Nといった時刻は、信号処理対象点rmに対応する情報ではなく、s1(t11)+s2(t12)+・・・+sN(t1N)という信号は、信号処理対象点rmとは無相関である。そのためs1(t11)+s2(t12)+・・・+sN(t1N)全体で考えれば、信号処理対象点rmに関する情報は打ち消しあって0(或いはそれに十分近いと考えられる値)となることが想定される。
なお、以上ではN個の受信信号sを単純に加算したが合成処理はこれに限定されない。例えば、N個の受信信号sに対してそれぞれ係数(第1のビームフォーミング係数)を乗じた上で加算してもよい。ここでの第1のビームフォーミング係数は、boxcarやhanningといった一般的なアポダイゼーション窓関数を用いてもよいし、MV法等を用いた適応的ビームフォームによって得られる適応型の重みを用いてもよい。
以上の手法によれば、送信時点において所与の測定点にフォーカスを合わせる必要がなく、受信信号に対して適切な整相処理を行って複数の素子の信号を合成することで、所与の信号処理対象点にフォーカスがあった受信信号を取得することが可能になる。具体的には信号処理対象点r1での信号(例えば超音波画像におけるr1に対応する画素位置での画素値)として、s1(t11)+s2(t12)+・・・+sN(t1N)を用いれば、r1の部分でフォーカスがあった信号が取得できる。上述した合成のイメージを図示したものが図4である。図4は1つの信号処理対象点rを設定した場合の例であるため、複数の信号処理対象点にフォーカスを合わせたいのであれば、図4に示した合成処理を信号処理対象点の数だけ実行することになる。
しかし以上の説明は、送信波が所望の信号処理対象点に対して十分な強度で到達し、各信号処理対象点に対応する情報が各素子の受信信号として取得可能である、という仮定に基づいている。そしてこのような仮定は現実的とは言えない。一例としては、送信波の指向性を高めることで信号強度等を向上させる制御を行う場合、送信波は1ライン分(超音波画像を生成した場合の奥行き方向の1ライン)の範囲の信号処理対象点にしか到達しないこともある。この場合、送信波の反射波は、当該ラインに含まれる信号処理対象点でしか発生しないため、整相処理及びs1〜sNの合成処理を行ったとしても、フォーカスを合わせられるのはラインに含まれる信号処理対象点に限定されてしまう。結果として、多数のラインから構成される超音波画像を出力したければ、ライン数に相当する回数の送信波の出力が必要となり、1枚の超音波画像を形成するまでの時間が長くなってしまう。
これに対する手法の1つが、特許文献1や非特許文献2にみられる平面波を送信する手法である。平面波は横方向(素子ラインの方向に沿った方向)の広い範囲で送信されるものであり、且つ奥行き方向(素子ラインの方向に直交する方向)が深くなっても波の強度、すなわち音圧の減衰が小さいという特性がある。つまり平面波を用いることで、1回の送信でも広い範囲に十分な強度で信号を到達させることができるため、各素子も多くの信号処理対象点からの情報を十分な強度で受信可能である。そのため、平面波を用いない場合(例えば上述した1ラインに絞って送信波を送信する場合)に比べて、少ない送信回数で、同程度の解像度の信号を出力することが可能である。
送信波の送信が図5に示したように送信角度を変えながらK回行われる場合、1回の送信に対して、素子数に対応するN個の受信信号sが取得され、それらを図3に示したように整相処理後、合成することで第1解像度信号Lが取得される。これは図4の合成に相当する。そして、所与の1つの信号処理対象点に着目した場合、1回の送信で第1解像度信号Lが取得されるのであるから、K回送信が行われれば、K個の第1解像度信号Lが取得可能である。これらは、いずれも現在着目している1つの信号処理対象点での情報を表すのであるから、このK個の第1解像度信号Lをさらに合成することで、より高解像度の第2解像度信号s’を求めることができる。この流れを示したものが図6であり、図6の横方向での合成は図4の合成、すなわち第1解像度信号Lの合成に対応し、図6の縦方向での合成が第2解像度信号s’の合成に相当する。図6は、図4と同様に1つの信号処理対象点rを設定した場合の例であるため、複数の信号処理対象点にフォーカスを合わせたいのであれば、図6に示した合成処理を信号処理対象点の数だけ実行することになる。
ただし、送信回数に対応するK個の第1解像度信号Lを合成して、第2解像度信号s’を求める際に、各第1解像度信号Lに対する重みは種々の設定が可能である。例えば、各Lに対してそれぞれ係数(第2のビームフォーミング係数)を乗じて加算してもよい。そして非特許文献1や非特許文献2では、第2のビームフォーミング係数を求める処理としてMV法を用いている。
以上が開口合成、及びその送信波として平面波を用いる従来手法の概略的な処理例である。しかし、非特許文献1等の従来手法では、平面波以外の波の信号を考慮していない。図7は素子アレイから平面波を送信した場合の、素子アレイ周辺での音場モデルを示す。図7のDR3が平面波の送信方向を表すが、素子アレイに対するDR3方向では、確かに同一位相となる波面が直線的であり、平面波が伝搬していることがわかる。具体的には、素子アレイの2つの端点(開口端)を起点として、DR3に平行な直線を引いた場合に、その2本の直線の間の領域では平面波が伝搬していると言える。しかし、それ以外の領域では、図7から明らかなように同一位相となる波面が曲線的であり、この領域では球面波が伝搬していると考えられる。つまり、素子アレイから平面波を送信しているという状況でも、実際には平面波が伝搬する領域(以下、平面波伝搬領域)と、球面波が伝搬する領域(以下、球面波伝搬領域)とが存在することになる。
図7のような音場を想定した場合、送信走査角や信号処理対象点の深度によっては、信号処理対象点に球面波が伝搬してしまう(信号処理対象点が球面波伝搬領域に位置する)ことがあり得る。具体例を図8(A)、図8(B)に示す。例えば深度が比較的浅い図8(A)の場合、送信走査角が−θA〜θAの範囲内であれば、信号処理対象点には平面波が伝搬することになる。それに対して、深度が比較的深い図8(B)の場合、信号処理対象点に平面波が伝搬するのは送信走査角がθB<θAを満たす−θB〜θBの範囲内となる。
図8(A)において、送信走査角を−θA〜θAよりも広くしてしまうと、|θ|>|θA|を満たすθの範囲において、信号処理対象点には球面波が伝搬してしまう一方、送信走査角を−θA〜θA以下とすれば信号処理対象点には平面波が伝搬する。このことから、送信走査角を大きくすればするほど、第2解像度信号s’を求める合成処理において、平面波以外の信号による影響を受けやすくなることがわかる。
一方、図8(A)と図8(B)の比較において、送信走査角がθB<θC<θAを満たす−θC〜θCに設定されたとすると、図8(A)のような比較的浅い信号処理対象点には平面波が伝搬するのに対して、図8(B)のような比較的深い信号処理対象点では、|θB|<|θ|(≦|θC|)を満たすθの範囲において、信号処理対象点には球面波が伝搬してしまう。このことから観察深度を深くすればするほど、第2解像度信号s’を求める合成処理において、平面波以外の信号による影響を受けやすくなることがわかる。
球面波に起因する信号を用いた場合、MV法の効果を得ることができない。理由を図9〜図11(B)を用いて説明する。図9は0度の方向に信号処理対象点が設定された場合に、当該信号処理対象点で測定される送信波の音圧と、送信角度の関係を示したグラフである。信号処理対象点が0度の方向であるため、図9は信号処理対象点に対する送信角度のずれ量と、送信波の音圧(信号値)の関係を表したグラフであると考えることもできる。
図7の音場モデルからわかるように、送信角度の方向を中心に所与の範囲に対して平面波が伝搬し、それ以外の領域には球面波が伝搬する。そのため、図8(A)、図8(B)に示したように、信号処理対象点の方向に送信波が送信される場合(ずれ量=0度)を中心として所与の送信角度の範囲では、想定点に対して平面波が伝搬し、ずれ量が所定値より大きい範囲では球面波が伝搬する。図9から明らかなように、平面波と球面波では音圧の特性が異なるため、平面波と球面波の両方をサンプリングした場合において音圧差が大きくなる。つまり、平面波と球面波が伝搬する領域を考慮せずにサンプリングを行ってしまうと、結果として音圧ばらつきが大きくなってしまう。
そのため、図10(A)に示したように、送信波の送信回数に対応する複数の第1解像度信号L(図10(A)の例であれば3つのL)のうち、平面波に対応する信号であるL2は信号値が大きいのに対して、球面波に対応するL1,L3は非常に信号値が小さくなってしまう。図10(A)のs’は、固定の重み(MV法等の適応的ビームフォームを用いない場合の重み)として、全ての第1解像度信号Lに同等の重みを割り振った場合の第2解像度信号であり、図10(B)のs’は、MV法により求められた重みを用いた場合の第2解像度信号である。L2で大きい信号が得られていることからわかるように、本来この信号処理対象点ではs’の信号値は大きくなることが期待されるところ、図10(B)ではむしろ図10(A)よりもs’の信号値は減少してしまっている。
この信号処理対象点付近の輝度画像を示したものが図11(A)、図11(B)であり、図11(A)は図10(A)の処理により得られた輝度画像を表し、図11(B)は図10(B)の処理により得られた輝度画像を表す。本来は、図11(B)は図11(A)に比べて分解能が向上し、例えばより狭い範囲に輝度値の高い領域が集中することが期待される。しかし、図11(A)、図11(B)から明らかなように分解能は向上しておらず、MV法の効果は得られていない。
そこで本出願人は、平面波の信号とそれ以外の信号とを区別することで、適切に適応的な重みを求める手法を提案する。具体的には、本実施形態に係る超音波測定装置は、図12に示すように、超音波を所与の送信角度で送信する処理を行う送信処理部110と、送信した超音波に対する超音波エコーの受信処理を行う受信処理部120と、受信処理部120からの受信信号に対して処理を行う処理部130を含む。そして処理部130は、第1のビームフォーミング係数に基づいて複数の第1解像度信号Lを合成し、信号処理対象点が、超音波が平面波として伝搬する平面波伝搬領域に属するか、超音波が球面波として伝搬する球面波伝搬領域に属するかに基づいて、複数の第1解像度信号Lから、第1解像度信号に比べて解像度の高い第2解像度信号s’を合成するための第2のビームフォーミング係数を求める。
ここで送信処理部110により制御される送信角度とは、狭義には平面波が送信される方向であり、図7の方向DR3を表す角度である。一例として、後述する図18のように素子アレイに対して垂直な方向を基準とし、当該方向とDR3のなす角度αを送信角度と定義してもよい。上述したように、平面波を用いた場合にも送信波は複数回送信されることが想定されるため、ここでの所与の送信角度とは1つの角度に限定されるものではなく、当該送信角度を変化させつつ複数回の送信処理が行われてもよい。
このようにすれば、所与の信号処理対象点に対して、送信角度が異なる複数の信号(複数の第1解像度信号L)が取得された場合に、各信号が平面波の信号であるか、球面波の信号であるかを考慮して、適応的に第2のビームフォーミング係数を算出することが可能になる。一例としては、取得データから平面波によるデータのみを選択する処理を行えばよく、この場合、送信音圧のばらつき低減し、MV法などの適応的なビームフォーム処理の効果を適切に得ることが可能になる。
以下、本実施形態に係る超音波測定装置100の具体的なシステム構成例について説明した後、所与の信号処理対象点が平面波伝搬領域と球面波伝搬領域のいずれに位置するかを判別する領域判別処理について説明する。その後、領域判別処理の結果を用いた合成処理の具体例について説明する。
2.システム構成例
本実施形態に係る超音波測定装置100の構成例は図12に示したとおりである。本実施形態に係る超音波測定装置を含む超音波診断装置の具体的な構成例を図13に示す。超音波診断装置は、超音波測定装置100と、超音波プローブ200と、表示部300を含む。また、図13に示したように、本実施形態に係る超音波測定装置100は、送信処理部110と、受信処理部120と、処理部130と、送受信切替スイッチ140と、DSC(Digital Scan Convertor)150と、制御回路160を含んでもよい。
本実施形態の手法は、図12に示した超音波測定装置100に適用するものに限定されず、図13に示したように超音波測定装置100を含む超音波診断装置に適用することができる。
なお、超音波測定装置100及びこれを含む超音波診断装置は、図12及び図13の構成に限定されず、これらの一部の構成要素を省略したり、他の構成要素を追加したりするなどの種々の変形実施が可能である。また、本実施形態の超音波測定装置100及びこれを含む超音波診断装置の一部又は全部の機能は、通信により接続されたサーバーにより実現されてもよい。
超音波プローブ200は、超音波トランスデューサーデバイスを含む。そして、超音波トランスデューサーデバイスは、走査面に沿って対象物をスキャンしながら、対象物に対して超音波ビームを送信すると共に、超音波ビームによる超音波エコーを受信する。圧電素子を用いるタイプを例にとれば、超音波トランスデューサーデバイスは、複数の超音波トランスデューサー素子(超音波素子アレイ)と、複数の開口がアレイ状に配置された基板とを有する。そして、超音波トランスデューサー素子としては、薄手の圧電素子と金属板(振動膜)を貼り合わせたモノモルフ(ユニモルフ)構造を用いたものを用いる。超音波トランスデューサー素子(振動素子)は、電気的な振動を機械的な振動に変換するものであるが、この場合には、圧電素子が面内で伸び縮みすると貼り合わせた金属板(振動膜)の寸法はそのままであるため反りが生じる。
また、超音波トランスデューサーデバイスでは、近隣に配置された数個の超音波トランスデューサー素子で一つのチャンネルを構成し、1回に複数のチャンネルを駆動しながら、超音波ビームを順次移動させるものであってもよい。
なお、超音波トランスデューサーデバイスとしては、圧電素子(薄膜圧電素子)を用いるタイプのトランスデューサーを採用できるが、本実施形態はこれに限定されない。例えばc‐MUT(Capacitive Micro-machined Ultrasonic Transducers)などの容量性素子を用いるタイプのトランスデューサーを採用してもよいし、バルクタイプのトランスデューサーを採用してもよい。超音波トランスデューサー素子及び超音波トランスデューサーデバイスのさらに詳細な説明については、後述する。
送信処理部110は、対象物に対して超音波を送信する処理を行う。また、図13に示したように送信処理部110は、送信パルス発生器111と、送信遅延回路113とを含んでもよい。
送信パルス発生器111は、送信パルス電圧を印加させ、超音波プローブ200を駆動させる。送信遅延回路113は、送信パルス電圧の印加タイミングに関して、チャンネル間で時間差を与え、複数の振動素子から発生した超音波の伝搬方向を決定する。このように、遅延時間を変化させることにより、平面波の送信方向DR3(送信角度α)を制御することが可能である。
また、送受信切替スイッチ140は、超音波の送受信の切り替え処理を行う。送受信切替スイッチ140は、送信時の振幅パルスが受信回路に入力されないように保護し、受信時の信号を受信回路に通す。
一方で、受信処理部120は、送信した超音波に対する超音波エコーの受信処理を行う。図13に示したように、受信処理部120は、メモリ125を含んでもよく、メモリ125により超音波プローブ200からの受信信号(狭義にはs1〜sN)を記憶するとともに、受信信号を処理部130に出力する。メモリ125の機能はRAM等のメモリやHDDなどにより実現できる。
処理部130は、受信処理部120からの受信信号に対して処理を行う。処理部130の機能は、各種プロセッサー(CPU等)、ASIC(ゲートアレイ等)などのハードウェアや、プログラムなどにより実現できる。図13に示したように、処理部130は、領域判別処理部131と、整相処理部132と、第1のビームフォーミング係数算出部133と、第1解像度信号合成部134と、第2のビームフォーミング係数算出部135と、第2解像度信号合成部136を含む。
領域判別処理部131は、処理対象としている信号処理対象点、すなわちフォーカスを合わせる対象となる点が、平面波伝搬領域と球面波伝搬領域のいずれに位置するかを判別する領域判別処理を行う。領域判別処理の詳細については後述する。
整相処理部132は、図3に示したような整相処理を行う。整相処理部132では、広く知られている整相処理を行えばよい。ただし、本実施形態に係る整相処理部132は、信号処理対象点が平面波伝搬領域にあるか球面波伝搬領域にあるかの判別結果に基づいて、整相処理を行ってもよい。領域判別処理の結果に基づいた整相処理部132の処理については、図24等を用いて変形例として後述する。
第1のビームフォーミング係数算出部133は、整相処理後の受信信号s1〜sNを合成する際の係数である第1のビームフォーミング係数を算出する。なお、本実施形態では上述したように全ての係数を1としたり、あらかじめ設定された固定値を用いてもよい。その場合、第1のビームフォーミング係数を適応的に求める処理は不要であるため、第1のビームフォーミング係数算出部133を省略してもよい。
第1解像度信号合成部134は、整相処理後の受信信号s1〜sNと、第1のビームフォーミング係数とに基づいて、1つの送信波に対するN個の素子の受信信号の合成処理を行う。具体的には、図4を用いて上述した処理を行って第1解像度信号Lを求めればよい。
第2のビームフォーミング係数算出部135は、送信回数分だけ(K個)の第1解像度信号Lに基づいて、第2解像度信号s’を合成する際の係数である第2のビームフォーミング係数を算出する。上述したように、本実施形態では第2のビームフォーミング係数を算出する際に領域判別処理の結果を利用する。詳細については後述する。
第2解像度信号合成部136は、第1解像度信号合成部134で求められたK個の第1解像度信号Lと、第2のビームフォーミング係数とに基づいて、K回の送信波の送信、及びN個の素子の情報を用いて、所与の信号処理対象点についての信号を求める。具体的には、図6を用いて上述した処理を行って第2解像度信号s’を求めればよい。
DSC150は、Bモード画像データに走査変換処理を行う。例えば、DSC150は、バイリニアなどの補間処理により、ライン信号を画像信号に変換する。制御回路160は、超音波測定装置100の各部と相互に接続され、接続された各部の制御を行う。
表示部300は、第2解像度信号s’を用いてDSC150において生成された表示用画像データを表示する。表示部300は、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、電子ペーパーなどにより実現できる。
ここで、本実施形態の超音波診断装置(広義には電子機器)の具体的な機器構成の例を図14(A)〜図14(C)に示す。図14(A)はハンディタイプの超音波診断装置の例であり、図14(B)は据置タイプの超音波診断装置の例である。図14(C)は超音波プローブ200が本体に内蔵された一体型の超音波診断装置の例である。
図14(A)、図14(B)の超音波診断装置は、超音波プローブ200と超音波測定装置本体101(広義には電子機器本体)を含み、超音波プローブ200と超音波測定装置本体101はケーブル210により接続される。超音波プローブ200の先端部分には、プローブヘッド220が設けられており、超音波測定装置本体101には、画像を表示する表示部300が設けられている。図14(C)では、表示部300を有する超音波測定装置100に超音波プローブ200が内蔵されている。図14(C)の場合、超音波測定装置100は、例えばスマートフォンなどの汎用の携帯情報端末により実現できる。
図15(A)〜図15(C)に、超音波トランスデューサーデバイスの超音波トランスデューサー素子10の構成例を示す。この超音波トランスデューサー素子10は、振動膜(メンブレン、支持部材)50と圧電素子部とを有する。圧電素子部は、第1電極層(下部電極)21、圧電体層(圧電体膜)30、第2電極層(上部電極)22を有する。
図15(A)は、基板(シリコン基板)60に形成された超音波トランスデューサー素子10の、素子形成面側の基板60に垂直な方向から見た平面図である。図15(B)は
、図15(A)のA−A’に沿った断面を示す断面図である。図15(C)は、図15(A)のB−B’に沿った断面を示す断面図である。
第1電極層21は、振動膜50の上層に例えば金属薄膜で形成される。この第1電極層21は、図15(A)に示すように素子形成領域の外側へ延長され、隣接する超音波トランスデューサー素子10に接続される配線であってもよい。
圧電体層30は、例えばPZT(ジルコン酸チタン酸鉛)薄膜により形成され、第1電極層21の少なくとも一部を覆うように設けられる。なお、圧電体層30の材料は、PZTに限定されるものではなく、例えばチタン酸鉛(PbTiO3)、ジルコン酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb、La)TiO3)などを用いてもよい。
第2電極層22は、例えば金属薄膜で形成され、圧電体層30の少なくとも一部を覆うように設けられる。この第2電極層22は、図15(A)に示すように素子形成領域の外側へ延長され、隣接する超音波トランスデューサー素子10に接続される配線であってもよい。
振動膜(メンブレン)50は、例えばSiO2薄膜とZrO2薄膜との2層構造により開口40を塞ぐように設けられる。この振動膜50は、圧電体層30及び第1、第2電極層21、22を支持すると共に、圧電体層30の伸縮に従って振動し、超音波を発生させることができる。
開口40は、基板60(シリコン基板)の裏面(素子が形成されない面)側から反応性イオンエッチング(RIE)等によりエッチングすることで形成される。この開口40の開口部45のサイズによって超音波の共振周波数が決定され、その超音波は圧電体層30側(図15(A)において紙面奥から手前方向)に放射される。
超音波トランスデューサー素子10の下部電極(第1電極)は、第1電極層21により形成され、上部電極(第2電極)は、第2電極層22により形成される。具体的には、第1電極層21のうちの圧電体層30に覆われた部分が下部電極を形成し、第2電極層22のうちの圧電体層30を覆う部分が上部電極を形成する。即ち、圧電体層30は、下部電極と上部電極に挟まれて設けられる。
図16に、超音波トランスデューサーデバイス(素子チップ)の構成例を示す。本構成例の超音波トランスデューサーデバイスは、複数の超音波トランスデューサー素子群UG1〜UG64、駆動電極線DL1〜DL64(広義には第1〜第nの駆動電極線。nは2以上の整数)、コモン電極線CL1〜CL8(広義には第1〜第mのコモン電極線。mは2以上の整数)を含む。なお、駆動電極線の本数(n)やコモン電極線の本数(m)は、図16に示す本数には限定されない。
複数の超音波トランスデューサー素子群UG1〜UG64は、第2の方向D2(スキャン方向)に沿って64列に配置される。UG1〜UG64の各超音波トランスデューサー素子群は、第1の方向D1(スライス方向)に沿って配置される複数の超音波トランスデューサー素子を有する。
図17(A)に、超音波トランスデューサー素子群UG(UG1〜UG64)の例を示す。図17(A)では、超音波トランスデューサー素子群UGは第1〜第4の素子列により構成される。第1の素子列は、第1の方向D1に沿って配置される超音波トランスデューサー素子UE11〜UE18により構成され、第2の素子列は、第1の方向D1に沿っ
て配置される超音波トランスデューサー素子UE21〜UE28により構成される。第3の素子列(UE31〜UE38)、第4の素子列(UE41〜UE48)も同様である。これらの第1〜第4の素子列には、駆動電極線DL(DL1〜DL64)が共通接続される。また、第1〜第4の素子列の超音波トランスデューサー素子にはコモン電極線CL1〜CL8が接続される。
そして図17(A)の超音波トランスデューサー素子群UGが、超音波トランスデューサーデバイスの1チャンネルを構成する。即ち、駆動電極線DLが1チャンネルの駆動電極線に相当し、送信回路からの1チャンネルの送信信号は駆動電極線DLに入力される。また駆動電極線DLからの1チャンネルの受信信号は駆動電極線DLから出力される。なお、1チャンネルを構成する素子列数は図17(A)のような4列には限定されず、4列よりも少なくてもよいし、4列よりも多くてもよい。例えば図17(B)に示すように、素子列数は1列であってもよい。
図16に示すように、駆動電極線DL1〜DL64(第1〜第nの駆動電極線)は、第1の方向D1に沿って配線される。駆動電極線DL1〜DL64のうちの第j(jは1≦j≦nである整数)の駆動電極線DLj(第jのチャンネル)は、第jの超音波トランスデューサー素子群UGjの超音波トランスデューサー素子が有する第1の電極(例えば下部電極)に接続される。
超音波を出射する送信期間には、送信信号VT1〜VT64が駆動電極線DL1〜DL64を介して超音波トランスデューサー素子に供給される。また、超音波エコー信号を受信する受信期間には、超音波トランスデューサー素子からの受信信号VR1〜VR64が駆動電極線DL1〜DL64を介して出力される。
コモン電極線CL1〜CL8(第1〜第mのコモン電極線)は、第2の方向D2に沿って配線される。超音波トランスデューサー素子が有する第2の電極は、コモン電極線CL1〜CL8のうちのいずれかに接続される。具体的には、例えば図16に示すように、コモン電極線CL1〜CL8のうちの第i(iは1≦i≦mである整数)のコモン電極線CLiは、第i行に配置される超音波トランスデューサー素子が有する第2の電極(例えば上部電極)に接続される。
コモン電極線CL1〜CL8には、コモン電圧VCOMが供給される。このコモン電圧VCOMは一定の直流電圧であればよく、0V、即ちグランド電位(接地電位)でなくてもよい。
そして送信期間では、送信信号電圧とコモン電圧との差の電圧が超音波トランスデューサー素子に印加され、所定の周波数の超音波が放射される。
なお、超音波トランスデューサー素子の配置は、図16に示すマトリックス配置に限定されず、いわゆる千鳥配置等であってもよい。
また図17(A)〜図17(B)では、1つの超音波トランスデューサー素子が送信素子及び受信素子の両方に兼用される場合について示したが、本実施形態はこれに限定されない。例えば送信素子用の超音波トランスデューサー素子、受信素子用の超音波トランスデューサー素子を別々に設けて、アレイ状に配置してもよい。
3.領域判別処理
次に処理部130の領域判別処理部131で行われる領域判別処理について説明する。図18に示したように、所与の送信角度αが決定された場合に、平面波は当該送信角度αと、超音波トランスデューサー素子アレイの幅(開口幅)により決定される領域に対して送信され、当該領域が平面波伝搬領域となる。また、平面波伝搬領域の外部が球面波伝搬領域となる。
つまり、平面波伝搬領域と球面波伝搬領域とは、送信処理部110における超音波の送信角度に応じて異なる領域である。言い換えれば、送信角度αが決定されれば、当該αにおける平面波伝搬領域と球面波伝搬領域とを決定可能となる。
そのため、図5等に示したように送信角度が第1〜第Kの送信角度のK個の値をとりうる場合には、第1の送信角度に対応する第1の平面波伝搬領域及び第1の球面波伝搬領域が決定され、第2の送信角度に対応する第2の平面波伝搬領域及び第2の球面波伝搬領域が決定される、といったようにK個の平面波伝搬領域及び球面波伝搬領域を考えることができる。
しかし、平面波伝搬領域及び球面波伝搬領域だけでは処理内容は確定できず、処理対象である信号処理対象点がどのような位置にあるかも問題となる。例えば、所与の送信角度が決定され、図18のように平面波伝搬領域と球面波伝搬領域が決定されたとする。その場合にも、信号処理対象点が図18のA1に示した位置ならば、当該信号処理対象点は平面波伝搬領域にあるが、信号処理対象点がA2に示した位置ならば、当該信号処理対象点は球面波伝搬領域にある。
つまり処理部130は、フォーカスを合わせたい対象である信号処理対象点の位置を取得する必要がある。その上で、処理部130は、信号処理対象点が、平面波伝搬領域と球面波伝搬領域のいずれにあるかの領域判別処理を行うことになる。
具体的には、送信処理部110は、第1〜第K(Kは2以上の整数)の送信角度で第1〜第Kの超音波を送信する処理を行い、処理部130は、第i(iは1≦i≦Kの整数)の送信角度と信号処理対象点の位置とに基づいて、信号処理対象点が第iの超音波に対応する第iの平面波伝搬領域と第iの球面波伝搬領域のいずれにあるかを判別する前記領域判別処理を行えばよい。
このようにすれば、信号処理対象点を所与の1点に決定した場合に、送信角度の個数(送信の回数)であるK回の領域判別処理が行われ、K個の領域判別処理結果が取得されることになる。ここで領域判別処理結果とは、信号処理対象点が平面波伝搬領域にあるか球面波伝搬領域にあるかを表す情報であり、例えば平面波伝搬領域にある場合に1,球面波伝搬領域にある場合に0となる2値の情報であってもよい。
上述したように、信号処理対象点も複数設定されることが一般的であるため、実際には信号処理対象点の設定数Mと、送信角度の個数Kを乗じたM×K個だけの領域判別処理結果が取得されることになる。
信号処理対象点の位置及び送信角度が決定された場合の具体的な領域判別処理の手法は種々考えられる。一例としては、処理部130は、複数の超音波トランスデューサーが設けられる開口端のうち、第1の開口端と信号処理対象点rを結ぶ第1の方向DR1と、前記開口のうち第1の開口端とは異なる第2の開口端と信号処理対象点rを結ぶ第2の方向DR2と、超音波の送信角度α(広義には送信方向DR3)とに基づいて、領域判別処理を行ってもよい。なお、上記第1の開口端とは、第1〜第Nの超音波トランスデューサーのうちの、開口端に対応する第1の超音波トランスデューサーの位置であってもよく、第2の開口端とは、第Nの超音波トランスデューサーの位置であってもよい。
図7や図18を用いて上述したように、平面波伝搬領域と球面波伝搬領域との境界は、開口端を通り平面波の送信方向DR3と同じ方向となる2本の直線L1,L2となる。つまり、図19(A)に示したように、信号処理対象点がL1上に位置する場合が、信号処理対象点が平面波伝搬領域に含まれる場合の一方の限界に対応し、図19(B)に示したように、信号処理対象点がL2上に位置する場合が、信号処理対象点が平面波伝搬領域に含まれる場合の他方の限界に対応する。
そして図19(A)において、L1はDR3の方向の(DR3に平行な)直線であるから、信号処理対象点がL1上にある場合とは、第1の超音波トランスデューサーと信号処理対象点rを結ぶ第1の方向DR1と、超音波の送信方向DR3が一致する場合となる。同様に、図19(B)に示したように、信号処理対象点がL2上にある場合とは、第Nの超音波トランスデューサーと信号処理対象点rを結ぶ第2の方向DR2と、超音波の送信方向DR3が一致する場合となる。つまり、DR1とDR3の関係、及びDR2とDR3の関係を判定することで、領域判別処理を行うことが可能である。
方向の比較処理の手法も種々考えられるが、例えば所与の基準方向に対する角度の大きさの比較処理を行えばよい。基準方向として素子アレイに垂直な方向(奥行き方向z)を設定した場合、図18に示したようにDR1に対応する角度θ1、DR2に対応する角度θ2,及びDR3に対応する角度αを規定することができる。
図19(A)に示した状況ではθ1=αであり、図19(B)に示した状況ではθ2=αである。そして、図19(C)に示したように信号処理対象点が平面波伝搬領域にある状況では、αはθ1とθ2の間の値となり、図19(C)の例のようにθ1>θ2の例であれば、θ2<α<θ1である。つまり、図19(A)〜図19(C)の例であれば、θ2≦α≦θ1が満たされる場合に信号処理対象点が平面波伝搬領域にあると判定し、α<θ2又はθ1<αの場合には信号処理対象点が球面波伝搬領域にあると判定すればよい。
基準方向をどのように設定するか、或いはθ1とθ2の大小関係がどのようになっているかに応じて具体的な判定式は変化するものの、上述したようにDR1、DR2、DR3の関係性から領域判別処理を行うことが可能である。
なお、本実施形態では上述した式等を用いて、処理タイミング毎に領域判別処理を行ってもよいがこれには限定されない。例えば、超音波プローブ200の種類は1種類、或いは複数であるが少数に特定することが可能と想定される。つまり、超音波トランスデューサー素子アレイの構成は事前に知ることができるため、開口端の位置も既知である。また、送信角度をどの程度の範囲でどの程度の角度変化幅を用いて走査するかも種々の変形実施が可能であるが、ある程度のパターンに限定されるはずであり、送信角度αについても事前に知ることができる。さらに、取得する超音波画像のサイズ等を考慮すれば、フォーカスを合わせたい信号処理対象点の設定(信号処理対象点の個数、位置等)も事前に特定可能と言える。
上述したように、信号処理対象点と角度、開口端の位置が決まれば領域判別処理が可能であるところ、その全てを事前に取得しておくことが可能と言える。この場合、上述した式等を用いた判定を毎回行って結果を取得するのではなく、当該判定を事前に行っておき、その結果だけをテーブルデータとして保持しておいてもよい。
つまり、超音波測定装置100は、所与の信号処理対象点に対して、送信処理部110からの超音波の複数の送信角度の各送信角度において、平面波伝搬領域と球面波伝搬領域のいずれに信号処理対象点があるかを表す情報が対応付けられたテーブルデータを記憶する記憶部(図12等には不図示)をさらに含み、処理部130は、テーブルデータに基づいて、領域判別処理を行ってもよい。
このようにすれば、具体的な演算等をその都度行う必要がなく、領域判別処理をテーブルデータの参照により実現可能であるため、処理負荷の軽減、領域判別処理の高速化等が可能になる。
テーブルデータの例を図20(A)、図20(B)に示す。上述してきたように、平面波伝搬領域と球面波伝搬領域のいずれにあるかを決定するには、信号処理対象点rと送信角度αが決定されている必要がある。図20(A)は所与の1つの信号処理対象点rpに対して、K個の送信角度のそれぞれについて平面波伝搬領域にあることを表す情報(図20(A)であれば”1”というデータ)と、球面波伝搬領域にあることを表す情報(図20(A)であれば”0”というデータ)のいずれかが対応付けられている。よって信号処理対象点が複数(M個)設定される場合には、図20(A)に示したようなテーブルデータをM個保持する、或いは、図20(B)に示したようにM×K個の情報を有するテーブルデータを用いることになる。
さらにいえば、超音波プローブ200が交換可能であり、開口幅が異なる複数の超音波プローブ200が接続される可能性がある場合には、開口幅に応じて領域判別処理の結果が異なるものになるため、各開口幅に応じたテーブルデータを保持しておく必要がある。例えば、図20(B)に示したようなテーブルデータを、想定される超音波プローブ200の種類分だけ保持しておいてもよい。
或いは、全てのテーブルデータを保持しておくのではなく、一部のテーブルデータ、例えば使用頻度が高いと想定される開口幅、信号処理対象点、送信角度でのテーブルデータだけを保持しておいてもよい。その場合、テーブルデータに対応する開口幅、信号処理対象点、送信角度が用いられている状況では、領域判別処理はテーブルデータを用いて行えばよいし、それ以外の状況ではその都度、上述した判定式等を用いて領域判別処理を行えばよい。或いは、上述した判定式等を用いて領域判別処理を行った場合に、その判別処理の結果をテーブルデータとして保存してもよい。この場合、例えば同一の開口幅、信号処理対象点、送信角度を用いた処理が2回以上行われる際に、初回の処理では判定式等を用いて領域判別処理を行ってその結果をテーブルデータとして保存し、2回目以降では当該テーブルデータを用いて領域判別処理を行うことになる。
なお、以上の領域判別処理では、DR1〜DR3に基づく手法を説明したがこれには限定されない。図9〜図11(B)を用いて上述したように、従来手法で問題が生じるのは、球面波を処理に用いてしまうと音圧ばらつきが大きくなってしまうことが要因である。つまり、上記判別手法により平面波伝搬領域と判定されたとしても、音圧にばらつきがあれば従来手法と同様の問題が生じうる。
特に、図9からわかるように、平面波伝搬領域と球面波伝搬領域の境界付近では、もともと音圧が低くなる傾向にあるため、ノイズ混入による誤差等により、処理精度に問題が生じる可能性がある。よって本実施形態では、領域判別処理においてマージンを持たせ、よりばらつきを抑えるようにしてもよい。一例としては、図9においてD1に示した範囲を平面波伝搬領域としていたところを、より狭い角度範囲であるD2を平面波伝搬領域としてもよい。このようにすれば、音圧ばらつきを抑止できるため、精度のよい開口合成処理を行うことが可能になる。
4.処理の詳細
以上が領域判別処理部131で行われる領域判別処理となる。処理部130の整相処理部132では、図3に示したように各素子での位相差(遅延時間)を求め、当該位相差のズレを低減する(狭義には0とする)整相処理を行う。なお、遅延時間を求める際には、送信波及び反射波(受信波)の伝搬モデルを考慮することになるが、平面波の伝搬モデルと球面波の伝搬モデルは異なる。よって信号処理対象点が平面波伝搬領域にあるか球面波伝搬領域にあるかに応じて、整相処理も異なるものとする必要があるとも考えられる。
しかし本実施形態では、後述するように、第2のビームフォーミング係数の算出や、第2解像度信号s’の合成処理においては、平面波の信号が用いられ球面波の信号は用いられない。つまり、整相処理において球面波伝搬モデルを考慮した処理を行ったとしても、その結果はその後の処理で用いられないのであるから、整相処理において領域判別処理の結果を用いる必要性は低い。以上を踏まえて、本実施形態では一般的な(領域判別処理の結果を用いない)整相処理を行うものとする。一般的な整相処理は広く知られたものであるため、詳細な説明は省略する。
受信処理部120が、送信した超音波に対する超音波エコーの、第1〜第Nの超音波トランスデューサーにおける受信処理を行う場合に、処理部130は、以上に示したように第1〜第Nの超音波トランスデューサーに対応する第1〜第Nの受信信号に対して整相処理を行う。その後処理部130は、第1のビームフォーミング係数に基づいて、整相処理後の第1〜第Nの受信信号を合成し、第1解像度信号Lを生成する。この処理は図6の横方向での合成処理に対応し、第1解像度信号合成部134により行われればよい。
そして処理部130は、第1の解像度の第1〜第Nの合成信号を合成して、信号処理対象点にフォーカスが設定され、第1の解像度に比べて解像度の高い第2の解像度の出力信号を生成する。この処理は、第2のビームフォーミング係数算出部135における第2のビームフォーミング係数の算出処理と、第2解像度信号合成部136による合成処理から構成される。
具体的には、処理部130(第2のビームフォーミング係数算出部135)は、信号処理対象点が、平面波伝搬領域に属するか、球面波伝搬領域に属するかの領域判別処理の結果に基づいて、複数の第1解像度信号Lから係数演算用第1解像度信号を選択し、選択された係数演算用第1解像度信号に基づいて、第2のビームフォーミング係数を求める。
ここでの係数演算用第1解像度信号とは、第2のビームフォーミング係数の算出に用いた場合に、分解能の向上に寄与する信号であり、具体的には当該信号値の取得に用いられた送信波の音圧ばらつきが小さいことが条件となる。そして、図9に示したように、送信波の音圧ばらつきを小さくするには、送信波が平面波である、すなわち処理対象としている信号処理対象点が平面波伝搬領域にあればよい。つまり、複数の第1解像度信号Lから、信号処理対象点が平面波伝搬領域にある第1解像度信号を、係数演算用第1解像度信号として選択すればよい。
係数演算用第1解像度信号を用いることで、送信波の音圧ばらつきを抑止できるため、適切な第2のビームフォーミング係数を算出することが可能になる。なお、処理対象となる第1解像度信号が決定された場合に、当該処理対象の信号から適応的にビームフォーミング係数を求める手法は、MV法(Capon法)や線形予測法等、種々の手法が広く知られており、本実施形態ではそれらの手法を広く適用可能であるため、具体的な係数演算手法については、説明を省略する。
その後、処理部130(第2解像度信号合成部136)は、求められた第2のビームフォーミング係数に基づいて、選択された係数演算用第1解像度信号を合成し、第2解像度信号を生成する。
この場合、球面波に対応する第1解像度信号については、第2のビームフォーミング係数の算出に用いられないだけでなく、第2解像度信号s’の合成処理にも用いられないことになる。これは球面波に対応する第1解像度信号Lに対しては、第2のビームフォーミング係数として0を割り当てていると考えることも可能である。このように、第2解像度信号s’を求める処理、すなわち第2のビームフォーミング係数の算出処理と、当該第2のビームフォーミング係数を用いた合成処理とで、平面波に起因する信号を処理対象とすることで、図10(B)、図11(B)に示したような処理が行われることが抑止できる。そのため、合成処理により得られる信号(出力画像)の分解能を向上させることが可能になる。言い換えれば、送信走査角度が大きくなったり、信号処理対象点の深度が深くなった場合であっても、MV法等の適応的ビームフォームの効果を得ることが可能になる。
以上の流れを数式を用いて説明する。上述した整相処理及び整相処理後の合成処理を表す式が下式(1)である。下式(1)において、s’(rp)は、信号処理対象点rpにおける信号値(出力信号)であり、rpは信号処理対象点の位置を表すベクトルである。Kは送信波の総送信回数、Nは素子数、kは送信番号、nは受信素子番号を表す。anはアポダイゼーションの窓関数であり、具体的には上述した第1のビームフォーミング係数である。akは具体的には上述した第2のビームフォーミング係数であり、上述したように領域判別処理の結果を用いて平面波の信号から求められる。sk,nはk番目の送信波に対応するn番目の素子での受信信号を表す。上述してきたs1〜sNとは、送信波を所与の1つの波に特定した場合のn=1〜Nでのsk,nに対応する。
上式(1)において、tToF(rp,k,n)は伝搬時間(遅延時間)を算出する関数であり、実際には上述した領域判別処理、及び領域判別処理の結果に基づく伝搬時間の算出処理に対応する。この関数の出力は、k回目の送信で得られた、素子nの受信信号sk,nのうち、信号処理対象点rpに対応する信号の時刻(サンプリングタイミング、サンプリング番号)となる。
そしてsk,n(tToF)は整相処理を実行する関数であり、各受信信号sk,nから所望のサンプリング番号の信号値を抽出する。
また、下式(2)によりL(rp)を定義すれば、L(rp)は受信フォーカス処理に対応する。
具体的には、rpで表される信号処理対象点に対してフォーカスがあった第1解像度信号を合成する処理である。この第1解像度信号は信号処理対象点rpを変え、観察領域全域で取得し画像化を行った場合には、受信フォーカスのみが得られ、送信フォーカスが得られない画像が得られるため、後述する第2解像度信号よりも解像度が低い低解像度信号である。なぜなら、L(rp)を求めた段階では、送信角度は所与の1つの角度であるため、複数の送信角度の中から特定の信号処理対象点に対して送信時点でフォーカスが合っているような送信波を選択するといった処理ができない。つまり、複数の送信角度の信号を合成してないという点で、送信フォーカスを得ることはできない。なお、第1のビームフォーミング係数anは、図4等を用いた説明では全て1の例を示したが、boxcarやhanningといった一般的なアポダイゼーション窓関数を用いてもよいし、適応的ビームフォームによって得られる適応型の重みを用いてもよい。
一方、L(rp)を上記定義とすれば、上式(1)は下式(3)のように変形できる。
上式(3)からわかるように、s’(rp)は第1解像度信号を、第2のビームフォーミング係数を用いて合成した信号であり、信号処理対象点rpに対し送信、受信のフォーカスが得られた第2解像度信号である。第2解像度信号は信号処理対象点rpを変え、観察領域全域で取得し画像化を行った場合には、受信フォーカスと送信フォーカスを画像全域で得ることができるため、上記第1解像度信号に比べて解像度が高い高解像度信号である。なぜなら、s’(rp)ではL(rp)とは異なり複数の送信角度の信号を合成するためである。なお、第2のビームフォーミング係数akは上述したように係数演算用第1解像度信号Lを用いて適応的に求められる。
図21に本実施形態の処理を説明するフローチャートを示す。この処理が開始されると、まず受信処理部120において、被検体から反射される信号の受信処理が行われる(S101)。そして、複数ラインで整相加算処理を行い、第1解像度信号Lを求める(S102)。S102の処理は、各素子に対する遅延時間を求める処理と、求められた遅延時間を用いて各素子の受信信号sを合成する処理により実現できる。
その後、領域判別処理を行い、処理結果に基づいて適応的ビームフォーム処理に用いる第1解像度信号Lを選択する(S103)。S103で選択された信号は、上述した係数演算用第1解像度信号に対応する。
選択された第1解像度信号Lを用いて、第2のビームフォーミング係数を算出し(S104)、算出された第2のビームフォーミング係数を用いて、第1解像度信号Lを合成して、第2解像度信号s’を求める(S105)。S105での合成対象は、上述したように第1解像度信号Lのうちの係数演算用第1解像度信号であってもよい。
図22(A)〜図22(F)に従来手法及び本実施形態の手法による超音波画像(B−mode画像)の比較を示す。なお、図22(A)〜図22(F)はコンピューターシミュレーションを用いて取得された画像であり、図22(A)〜図22(C)は比較的深度の浅い信号処理対象点での超音波画像であり、図22(D)〜図22(F)は比較的深度の深い信号処理対象点での超音波画像である。また、図22(A)及び図22(D)はMV法を用いない場合、図22(B)及び図22(E)は従来手法によるMV法を用いた場合、図22(C)及び図22(F)は本実施形態の手法によるMV法を用いた場合の超音波画像である。
図22(A)と図22(B)の比較からわかるように、深度が浅い場合には、従来手法のMV法でも分解能が向上している。これは、図8(A)を用いて上述したように深度が浅ければ平面波の到達確率が高く、特に本シミュレーションで設定した送信走査角度が図8(A)でいう−θA〜θAの範囲内(或いはそれに近い範囲)となったためである。この場合、従来手法でも十分であるが、図22(C)からわかるように、本実施形態の手法でも、当然分解能は向上する。
また、図22(D)と図22(E)の比較からわかるように、深度が深い場合には従来手法のMV法では分解能の向上がみられない。図8(B)を用いて上述したように深度が深ければ送信走査角度の条件は厳しくなり、本シミュレーションで設定した送信走査角度が図8(B)でいう−θB〜θBの範囲内とならなかったためである。それに対して、図22(F)からわかるように、本実施形態の手法では分解能が向上しており、従来手法に比べて優れていることがわかる。
また、方位方向の変化に対する信号強度の関係を図23に示す。図23は図22(D)〜図22(F)に対応する比較的深度が深い信号処理対象点での情報である。図23からわかるように、MV法を用いない場合と、従来手法でのMV法を用いた場合とでは、ピーク付近での信号値に大差はなく、分解能は向上していないことがわかる。それに対して本実施形態のように領域判別処理の結果に基づいたMV法を用いた場合、MV法を用いない場合に比べて明らかにピークが急峻となっており、分解能が向上していることがわかる。
5.変形例
なお、以上の本実施形態では、第2のビームフォーミング係数の算出も、第2解像度信号s’の合成処理も平面波の信号(係数演算用第1解像度信号)を用い、球面波の信号は用いないものとした。しかし本実施形態の手法はこれには限定されず、球面波の信号も第2解像度信号s’を求める際に利用してもよい。ただし、図9に示したように平面波と球面波で大きく音圧が異なるため、それらを同等に扱ってしまっては図10(B)、図11(B)に示したような問題が生じる。よって一例としては、球面波の信号の処理(第2のビームフォーミング係数の算出処理や、合成処理)に対する寄与度を、平面波の信号に対する寄与度に比べて小さく設定してもよい。このようにすれば、球面波の信号も利用できるため、より広い領域からの信号を処理対象としつつ、平面波と球面波の扱いに差を設けているため、MV法等の適応的ビームフォームの効果も得ることが可能である。
ただしこの場合、整相処理が問題となる。上述したように、平面波と球面波では波の伝搬を表す幾何モデルが異なる以上、遅延時間の算出方法も異なる。上述した実施形態では、球面波の信号がその後の処理で現れないために、一律に平面波を対象とする整相処理を行っても問題が生じなかったものであり、球面波の信号をその後の処理で利用するのであれば、整相処理は平面波と球面波で分ける必要がある。
具体的には、整相処理部132では、平面波伝搬領域にあると判定された場合には平面波用の処理である第1の整相処理を行い、球面波伝搬領域にあると判定された場合には球面波用の処理である第2の整相処理を行う。ここでの第1の整相処理は、平面波伝搬モデルによって得られた平面波伝搬時間による整相処理であり、第2の整相処理は、球面波伝搬モデルによって得られた球面波伝搬時間による整相処理である。
なお、図25(A)〜図26を用いて後述するように球面波伝搬モデルとして送信波のモデルと反射波(受信波)のモデルの2つを考えることができるが、ここでの球面波伝搬モデルとは狭義には送信波のモデルを指す。また平面波伝搬時間とは、下式(6)で求められる平面波の送信伝搬時間temtであるが、当該temtと下式(4)から求められる伝搬時間(総伝搬時間)であってもよい。同様に、球面波伝搬時間とは、下式(10)で求められる球面波の送信伝搬時間temtであるが、当該temtと下式(4)から求められる伝搬時間であってもよい。
図1(A)、図1(B)を用いて上述したように、1つの信号処理対象点での反射による反射波(超音波エコー)であっても、素子の位置等に応じて伝搬経路Rが異なるため、当該反射波が受信されるタイミングが異なる。そして整相処理とは、図3に示したようにそのタイミングのずれ、すなわち波形における位相のズレを低減する(狭義にはなくす)処理である。つまり、各素子において処理対象である信号処理対象点からの反射波がどのタイミングで取得されたかが特定できれば整相処理が可能であり、具体的には素子アレイから照射された波がどれだけの時間で信号処理対象点まで伝搬し、且つどれだけの時間で信号処理対象点から各素子まで伝搬したかを特定すればよい。具体的には、下式(4)により伝搬時間tToFを求め、受信信号sのうち伝搬時間tToFに対応するタイミングの信号を抽出する。
tToF=temt+trev ・・・・・(4)
上式(4)において、temtとは素子アレイから照射された送信波が信号処理対象点に伝搬するまでの時間である送信伝搬時間を表し、trevとは信号処理対象点からの反射波(受信波)が各素子に伝搬するまでの時間である受信伝搬時間を表す。
temt及びtrevは、波の伝搬の幾何モデルを用いて求めることが可能である。そのうち、temtについては信号処理対象点が平面波伝搬領域にあるか球面波伝搬領域にあるかに応じて用いる幾何モデルを変える必要がある。信号処理対象点が平面波伝搬領域にあれば、平面波がどのように伝搬するかを表す幾何モデルである平面波伝搬モデルを用いるし、信号処理対象点が球面波伝搬領域にあれば球面波がどのように伝搬するかを表す幾何モデルである球面波伝搬モデルを用いる。また、送信波が平面波であれ球面波であれ、当該送信波が信号処理対象点で反射された反射波は、信号処理対象点を点波源とする球面波として伝搬すると考えてよい。つまり、trevについては領域判別処理の結果によらず、球面波伝搬モデルを用いればよい。
以下、平面波伝搬モデルによりtemtを求める例、球面波伝搬モデルによりtemtを求める例、球面波伝搬モデルによりtrevを求める例を、それぞれ説明する。なお、以下では、時刻t=0において、x=0,z=0の位置(素子アレイの中心)から波が発生するものと定義する。
平面波伝搬モデルの例を図24に示す。平面波では同位相となる波面が送信方向DR3に垂直な線分となり、当該線分は超音波の速度cによりDR3の方向に移動していく。ここで、信号処理対象点rmの座標を極座標によりrm=(r,θ)とする。上述したように、t=0で素子アレイの中心から波が発生するものとしているため、t=0では波の到達位置は図24のB1に示した線分となる。また、平面波が信号処理対象点rmに到達したタイミングでは、信号処理対象点rmが線分上に位置することになるため、当該タイミングでの波の到達位置は図24のB2に示した線分となる。つまり、平面波が所与の信号処理対象点rmに到達するには、平面波はdemtに示した送信波伝搬距離だけ伝搬することになる。
ここで、rmの座標が(r,θ)であり、送信角度がαであるため、送信波伝搬距離demtは、下式(5)で求めることができる。そして、超音波の速度cを用いて、この場合の送信伝搬時間temtは下式(6)となる。
demt=rcos(α−θ) ・・・・・(5)
temt=demt/c ・・・・・(6)
次に送信波での球面波伝搬モデルを図25(A)に示す。図25(A)のモデルは、球面波伝搬領域では、素子アレイのうち端部(開口端)に位置する第1の素子、或いは反対側の端部に位置する第Nの素子を波源とする球面波が伝搬するものとしている。素子アレイに含まれる他の素子からも波は出力されるが、それらは球面波伝搬領域では相互に打ち消し合って、端部からの波に比べて十分強度が小さいと考えられる。つまり、端部の素子を波源とする球面波を考慮すれば、十分な精度でtemtを求めることが可能である。
ここで、端部の素子の座標を(xi,0)とすれば、球面波は(xi,0)を波源として信号処理対象点rmまで到達することになる。よって、図25(A)に示したようにこの場合の送信波伝搬距離demtは余弦定理を用いて下式(7)により求めることができる。
demtを速度cで割れば、(xi,0)から出力された球面波が信号処理対象点rmに到達するまでの時間を求めることができる。ただし、ここでは上述したようにt=0で素子アレイの中心から波が発生するものとしている。送信処理部110では、送信角度αで平面波を出力する処理を行うのであるから、t=0での平面波の到達位置は図25(B)のC1に示した線分の状態となっている。そしてC1に示した波面を実現するためには、端部の素子はt=0よりも前のタイミングで駆動を開始している必要がある。具体的には、素子アレイのうち、図25(B)において中心よりも左側の素子についてはt=0よりも前のタイミングで駆動している必要があるし、中心よりも右側の素子についてはt=0よりも後のタイミングで駆動する必要がある。言い換えれば、送信角度αが0度以外の角度をとるためには、送信角度に応じて各素子の駆動タイミングを異ならせる必要がある。つまり、端部の素子はα=0の場合を除いてt=0とは異なるタイミングで駆動しているのであるから、temtは上式(7)をcで割って単純に求められるものではなく、当該タイミングのズレを表すオフセット時間toffsetを反映しなくてはならない。
図25(B)のC1に示した波面を実現するためには、端部の素子から出力された波が、t=0の段階で図25(B)のdoffsetに示した距離だけ伝搬していなくてはならない。そしてこの距離doffsetは下式(8)により求めることができるため、オフセット時間は下式(9)となる。
doffset=xisinα ・・・・・(8)
toffset=doffset/c ・・・・・(9)
上式(7)、(9)の結果を用いて、球面波伝搬モデルを用いた場合の送信伝搬時間temtは、下式(10)により求めることができる。なお、図25(B)等では図面右方向をx軸正方向としているため、上式(8)、(9)で求められるdoffset、toffsetは負の値である。よって下式(10)でtoffsetを加算することで送信伝搬時間temtは短くなる。
temt=demt/c+toffset ・・・・・(10)
反射波(受信波)の球面波伝搬モデルを図26に示す。上述したように、反射波は信号処理対象点を点波源とする球面波を考慮すればよい。そのため、受信伝搬距離drevは、信号処理対象点と対象としている素子の直線距離を考慮すればよく、素子の座標値がわかれば容易に計算可能である。また、受信伝搬時間trevについても、求められたdrevを速度cで除算すればよい。
以上の処理により、領域判別処理の結果に基づいた整相処理を行うことが可能になる。第2解像度信号s’を求める際に球面波の信号を用いる場合には、その前処理としての整相処理は、本変形例で説明した整相処理を行えばよい。
なお、以上のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また超音波測定装置、超音波診断装置等の構成、動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。