JP2016033866A - 亜鉛空気二次電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しないセパレータを用いた、水素ガス発生の問題にも対処可能な、信頼性の高い亜鉛空気二次電池を提供する。
【解決手段】空気極と、亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物を含んでなる負極と、負極が浸漬される水系電解液と、電解液と接触するが前記負極と接触しないように設けられる第三電極と、開口部を有し、前記負極、前記電解液及び前記第三電極を収容する容器と、開口部を電解液と接触可能に塞いで容器と負極側密閉空間を形成し、それにより空気極と電解液を水酸化物イオン伝導可能に隔離する、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しないセパレータとを備えてなり、第三電極が外部回路を経て空気極と接続されてなる、亜鉛空気二次電池。
【選択図】図1A

Description

本発明は、亜鉛空気二次電池に関するものである。
革新電池候補の一つとして金属空気電池が挙げられる。金属空気電池は、電池反応に関与する酸素が空気中から供給されるため、電池容器内のスペースを負極活物質の充填に最大限利用することができ、それにより原理的に高いエネルギー密度を実現することができる。
現在提案されている金属空気電池の多くはリチウム空気電池である。しかし、リチウム空気電池には、空気極上での望ましくない反応生成物の析出、二酸化炭素の混入、リチウムデンドライト(樹枝状結晶)の形成による正負極間の短絡等、多くの技術的課題が存在している。
一方、亜鉛を負極活物質として用いる亜鉛空気電池も従来から知られている。特に、亜鉛空気一次電池は既に量産化され、補聴器等の電源として広く利用されている。亜鉛空気電池においては、電解液として水酸化カリウム等のアルカリ水溶液が用いられ、正負極間の短絡を防止するためにセパレータ(隔壁)が用いられる。放電時には、以下の反応式に示されるように、空気極(正極)側でOが還元されてOHが生成する一方、負極で亜鉛が酸化されてZnOが生成する。
正極: O+2HO+4e→4OH
負極: 2Zn+4OH→2ZnO+2HO+4e
この亜鉛空気電池を二次電池として使う試みもなされたが、充電時に負極でZnOが還元されて金属亜鉛が樹枝状に析出してデンドライトを形成してしまい、このデンドライトがセパレータを貫通して正極と短絡を起こしてしまうという問題があり、亜鉛空気電池の二次電池としての実用化を大きく妨げていた。その上、空気極側では、空気中の二酸化炭素が空気極を通り抜けて電解液に溶解し、アルカリ炭酸塩を析出して電池性能を低下させるという問題もあった。亜鉛空気電池は、リチウム空気電池と比べて、反応に伴う問題は大きくないことから、亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡及び二酸化炭素の混入に伴う問題が解決すれば高容量二次電池としての実現性が高いものと言われている。したがって、亜鉛空気二次電池において、亜鉛デンドライトによる短絡及び二酸化炭素の混入の両方を防止する技術が強く望まれている。
そのような問題ないし要望に対処する技術として、特許文献1(国際公開第2013/073292号)には、セパレータとして水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体を用い、かつ、無機固体電解質体を空気極の一面側に密着させて設けることにより、充電時における亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡と、二酸化炭素の電解液への混入との両方を防止することができるとの提案がなされている。また、この文献には、無機固体電解質体が、一般式:M2+ 1−x3+ (OH)n− x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオンであり、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)の基本組成を有する層状複水酸化物からなるものが好ましいことも記載されている。
ところで、亜鉛空気電池においては、副反応により亜鉛負極から水素ガスが発生することが知られている。この点、発生した水素ガスが空気極を透過して外部に放出可能な開放系の亜鉛空気電池においては特段の不都合は生じないといえる。しかしながら、亜鉛空気電池を水素ガスが外部に抜けにくい密閉性の高い系に構成する場合には、水素ガス発生を抑制する策が講じられることが望まれる。例えば、特許文献2(特開平8−195229号公報)には、水銀の添加量が2.5重量%以下である亜鉛を負極に用い、アルカリ電解液にはポリオキシエチレンを主成分とする有機インヒビターを分散性よく添加して用いることで電池保存時の水素ガス発生を抑制することが開示されている。特許文献3(特開2000−067938号公報)には、それぞれ内容物を収納した正極ケースと封口板とを絶縁ガスケットを介して封口し、電池内部の水素ガスの発生が停止した後、正極ケースの空気孔を塞ぐシールテープを貼付する、亜鉛空気電池の製造方法が開示されている。
国際公開第2013/073292号 特開平8−195229号公報 特開2000−067938号公報
本発明者らは、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しない程に高度に緻密化された無機固体電解質セパレータの開発に先だって成功している。このセパレータを用いて亜鉛空気二次電池を構成した場合、亜鉛デンドライトによる短絡及び二酸化炭素の混入の両方を防止できる反面、電池内で負極から発生した水素ガスが外部に極めて抜けにくい構造となる。特に、二酸化炭素の混入を確実に阻止すべく電池内部の気密性を高めれば高めるほど、発生した水素ガスがそれだけ抜けにくくなる。このため、より信頼性の高い亜鉛空気二次電池を提供すべく、水素ガス発生を抑制するための更なる有効策が望まれる。
本発明者らは、今般、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しないセパレータで開口部が塞がれた負極側密閉空間を備えた亜鉛空気二次電池において、空気極及び負極以外の第三電極を配置することにより、負極から発生した水素ガスを負極側密閉空間内で水に戻して再利用できるとの知見を得た。
したがって、本発明の目的は、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しないセパレータを用いた、水素ガス発生の問題にも対処可能な、信頼性の高い亜鉛空気二次電池を提供することにある。
本発明の一態様によれば、正極としての空気極と、
亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物を含んでなる負極と、
前記負極が浸漬される水系電解液と、
前記電解液と接触するが前記負極と接触しないように設けられる第三電極と、
開口部を有し、前記負極、前記電解液及び前記第三電極を収容する容器と、
前記開口部を前記電解液と接触可能に塞いで前記容器と負極側密閉空間を形成し、それにより前記空気極と前記電解液を水酸化物イオン伝導可能に隔離する、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しないセパレータと、
を備えてなり、前記第三電極が外部回路を経て前記空気極と接続されてなる、亜鉛空気二次電池が提供される。
本発明による亜鉛空気二次電池の一例を模式的に示す概念図である。 図1Aに示される亜鉛空気二次電池の斜視図である。 本発明による亜鉛空気二次電池の他の一例を模式的に示す概念図である。 本発明による並列積層型亜鉛空気二次電池の一例を模式的に示す概念図である。 多孔質基材付きセパレータの一態様を示す模式断面図である。 多孔質基材付きセパレータの他の一態様を示す模式断面図である。 層状複水酸化物(LDH)板状粒子を示す模式図である。 例1で作製したアルミナ製多孔質基材の表面のSEM画像である。 例1において試料の結晶相に対して得られたXRDプロファイルである。 例1において観察された膜試料の表面微構造を示すSEM画像である。 例1において観察された複合材料試料の研磨断面微構造のSEM画像である。 例1の緻密性判定試験Iで使用された測定系の分解斜視図である。 例1の緻密性判定試験Iで使用された測定系の模式断面図である。 例1の緻密性判定試験IIで使用された測定用密閉容器の分解斜視図である。 例1の緻密性判定試験IIで使用された測定系の模式断面図である。
亜鉛空気二次電池
図1A及び1Bに、本発明による亜鉛空気二次電池の一例を模式的に示す。図1A及び1Bに示されるように、本発明による亜鉛空気二次電池10は、空気極12、負極14、電解液16、第三電極18、セパレータ20及び容器26を備えてなる。空気極12は正極として機能する。負極14は亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物を含んでなる。電解液16は、負極14が浸漬される水系電解液である。容器26は、開口部26aを有し、負極14、電解液16及び第三電極18を収容する。セパレータ20は開口部26aを電解液16と接触可能に塞いで容器26と負極側密閉空間を形成し、それにより空気極12と電解液16を水酸化物イオン伝導可能に隔離する。所望により、正極集電体22が空気極12に接触して設けられてよい。また、所望により、負極集電体24が負極14に接触して設けられてよく、その場合、負極集電体24も容器26内に収容されうる。
セパレータ20は、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しない。すなわち、セパレータ20が透水性及び通気性を有しないということは、セパレータ20が水及び気体を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性や通気性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。このため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止し、かつ、空気中の二酸化炭素の侵入を阻止して電解液中での(二酸化炭素に起因する)アルカリ炭酸塩の析出を防止するのに極めて効果的な構成となっている。もっとも、図1Aに示されるようにセパレータ20に多孔質基材28が付設されてよいのはいうまでもない。いずれにしても、セパレータ20は水酸化物イオン伝導性を有するため、電解液16と空気極12との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として空気極12及び負極14における充放電反応を実現することができる。もっともそれだけセパレータ20が緻密であるということは、電池内で負極14から発生しうる水素ガスが外部に極めて抜けにくい構造となることになる。特に、二酸化炭素の混入を確実に阻止すべく電池内部の気密性を高めれば高めるほど、発生した水素ガスがそれだけ抜けにくくなる。
かかる問題に対処すべく、第三電極18が、電解液16と接触するが負極14と接触しないように設けられ、外部回路を経て空気極12と接続される。かかる構成とすることで、負極14から副反応により発生しうる水素ガスを第三電極18に接触させて以下の反応:
第三電極: H+2OH→2HO+2e
正極放電: O+2HO+4e→4OH
により水に戻すことができる。別の表現をすれば、負極14で発生した水素ガスが第三電極18で吸収され自己放電をすることになる。これにより、水素ガスの発生による負極側密閉空間における内圧の上昇及びそれに伴う不具合を抑制又は回避できるとともに、(放電反応に伴い上記反応式に従い減少することになる)水を発生させて負極側密閉空間内での水不足を抑制又は回避することができる。すなわち、負極から発生した水素ガスを負極側密閉空間内で水に戻して再利用することができる。その結果、亜鉛デンドライトによる短絡及び二酸化炭素の混入の両方を防止するのに極めて効果的な構成を有しながら、水素ガス発生の問題にも対処可能な、信頼性の高い亜鉛空気二次電池を提供することができる。
第三電極
第三電極18は、外部回路を経て空気極12と接続されることで、上述したような反応により水素ガス(H)を水(HO)に変換可能な電極であれば特に限定されないが、空気極12よりも酸素過電圧が大きいことが望まれる。また、第三電極18は通常の充放電反応に関与しないことも望まれる。第三電極18は、白金及び/又は炭素材料を含んでなるのが好ましく、より好ましくは炭素材料を含んでなる。炭素材料の好ましい例としては、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、活性炭、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。第三電極18の形状は特に限定されないが、比表面積が大きくなるような形状(例えばメッシュ状や粒子状)とするのが好ましい。第三電極18(好ましくは比表面積の大きい形状の第三電極)は集電体上に塗工及び/又は配置されるのがより好ましい。第三電極18用の集電体はいかなる形状であってもよいが、好ましい例としては、線材(例えばワイヤ)、パンチングメタル、メッシュ、発泡金属、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。第三電極18用集電体の材質としては第三電極18の材質と同様の材質であってもよいし、金属(例えばニッケル)、合金又はその他の導電性材料であってもよい。
第三電極18は電解液16と接触するが、通常の充放電反応と直接関係の無い場所に配置されることが望ましい。この場合、負極側密閉空間内に第三電極18と接触可能に不織布等の吸水性樹脂又は保液性樹脂製の保水部材を配置して、電解液が減少した場合であっても電解液16を第三電極18と常時接触可能に保持する構成とするのが好ましい。保水部材として市販の電池用セパレータも使用可能である。吸水性樹脂又は保液性樹脂の好ましい例としては、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。第三電極18は、必ずしも多量の電解液16で含浸されている必要はなく、少量ないし微量の電解液16で湿っている程度でも所望の機能を発揮することができるので、その程度の保水性能を保水部材が有していればよい。
本発明の好ましい態様によれば、図1Aに示されるように、セパレータ20が横に設けられ、負極側密閉空間がセパレータ20の下方に位置し、かつ、第三電極18が負極14の上方に設けられる。すなわち、本発明の亜鉛空気二次電池は、セパレータが横に設けられた横型構造に構成されてもよく、この場合、負極14/電解液16/セパレータ20/空気極12が縦方向(鉛直方向)に積層される構成となる。第三電極18を負極14の上方に配置することで、負極14における通常の充放電反応と直接関与できなくするとともに、負極14から発生して電解液16中を浮上してくる水素ガスを効率良く第三電極18に接触させることができる。
本発明の別の好ましい態様によれば、図2に示されるように、セパレータ20が縦に設けられ、負極側密閉空間がセパレータ20の側方に位置し、かつ、第三電極18が負極14の上方に設けられる。この態様は図1に示される亜鉛空気二次電池10を左に90度回転させた構成に概ね相当するといえるため、図2には図1に示される構成要素と同様の符号を付してある。すなわち、本発明の亜鉛空気二次電池は、セパレータ20が縦に設けられた縦型構造に構成されてもよく、この場合、負極14/電解液16/セパレータ20/空気極12が横方向(水平方向)に並ぶ構成となる。この場合であっても、第三電極18を負極14の上方に配置することで、負極14における通常の充放電反応と直接関与できなくするとともに、負極14から発生して電解液16中を浮上してくる水素ガスを効率良く第三電極18に接触させることができる。
セパレータ
セパレータ20は水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しない部材であり、典型的には板状、膜状又は層状の形態である。セパレータ20が開口部26aを電解液16と接触可能に塞いで容器26と負極側密閉空間を形成することで、空気極12と電解液16を水酸化物イオン伝導可能に隔離する。
セパレータ20は無機固体電解質体からなるのが好ましい。セパレータ20として水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体を用いることで、正負極間の電解液を隔離するとともに水酸化物イオン伝導性を確保する。そして、セパレータ20を構成する無機固体電解質は典型的には緻密で硬い無機固体であるため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止することが可能となる。その結果、亜鉛空気二次電池の信頼性を大幅に向上することができる。無機固体電解質体は透水性を有しない程にまで緻密化されていることが望まれる。例えば、無機固体電解質体は、アルキメデス法で算出して、90%以上の相対密度を有するのが好ましく、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上であるが、亜鉛デンドライトの貫通を防止する程度に緻密で硬いものであればこれに限定されない。このような緻密で硬い無機固体電解質体は水熱処理を経て製造することが可能である。したがって、水熱処理を経ていない単なる圧粉体は、緻密でなく、溶液中で脆いことから本発明の無機固体電解質体として好ましくない。もっとも、水熱処理を経たものでなくても、緻密で硬い無機固体電解質体が得られるかぎりにおいて、あらゆる製法が採用可能である。
セパレータ20ないし無機固体電解質体は、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質を含んで構成される粒子群と、これら粒子群の緻密化や硬化を助ける補助成分との複合体であってもよい。あるいは、セパレータ20は、基材としての開気孔性の多孔質体と、この多孔質体の孔を埋めるように孔中に析出及び成長させた無機固体電解質(例えば層状複水酸化物)との複合体であってもよい。この多孔質体を構成する物質の例としては、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスや、発泡樹脂又は繊維状物質からなる多孔性シート等の絶縁性の物質が挙げられる。
無機固体電解質体は、一般式:M2+ 1−x3+ (OH)n− x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオンであり、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1〜0.4である)の基本組成を有する層状複水酸化物(LDH)を含んでなるのが好ましく、より好ましくはそのようなLDHからなる。上記一般式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg2+、Ca2+及びZn2+が挙げられ、より好ましくはMg2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl3+又はCr3+が挙げられ、より好ましくはAl3+である。An−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH及びCO 2−が挙げられる。したがって、上記一般式において、M2+がMg2+を含み、M3+がAl3+を含み、An−がOH及び/又はCO 2−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは任意の実数である。また、上記一般式においてM3+の一部または全部を4価またはそれ以上の価数の陽イオンで置き換えてもよく、その場合は、上記一般式における陰イオンAn−の係数x/nは適宜変更されてよい。
無機固体電解質体は水熱処理によって緻密化されたものであるのが好ましい。水熱処理は、層状複水酸化物、とりわけMg−Al型層状複水酸化物の一体緻密化に極めて有効である。水熱処理による緻密化は、例えば、特許文献1(国際公開第2013/073292号)に記載されるように、耐圧容器に純水と板状の圧粉体を入れ、120〜250℃、好ましくは180〜250℃の温度、2〜24時間、好ましくは3〜10時間で行うことができる。もっとも、水熱処理を用いたより好ましい製造方法については後述するものとする。
無機固体電解質体は、板状、膜状又は層状のいずれの形態であってもよく、膜状又は層状の形態である場合、膜状又は層状の無機固体電解質体が多孔質基材上又はその中に形成されたものであるのが好ましい。板状の形態であると十分な堅さを確保して亜鉛デンドライトの貫通をより効果的に阻止することができる。一方、板状よりも厚さが薄い膜状又は層状の形態であると亜鉛デンドライトの貫通を阻止するための必要最低限の堅さを確保しながらセパレータの抵抗を有意に低減できるとの利点がある。板状の無機固体電解質体の好ましい厚さは、0.01〜0.5mmであり、より好ましくは0.02〜0.2mm、さらに好ましくは0.05〜0.1mmである。また、無機固体電解質体の水酸化物イオン伝導度は高ければ高い方が望ましいが、典型的には10−4〜10−1S/mの伝導度を有する。一方、膜状又は層状の形態の場合には、厚さが100μm以下であるのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことでセパレータ20の低抵抗化を実現できる。厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ膜ないし層として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
セパレータ20の片面又は両面、好ましくは片面(電解液側)に多孔質基材28を設けてもよい。多孔質基材28は透水性を有し、それ故電解液16がセパレータ20に到達可能であることはいうまでもないが、多孔質基材28があることでセパレータ20上により安定に水酸化物イオンを保持することも可能となる。また、多孔質基材28により強度を付与できるため、セパレータ20を薄くして低抵抗化を図ることもできる。また、多孔質基材28上又はその中に無機固体電解質体(好ましくはLDH)の緻密膜ないし緻密層を形成することもできる。セパレータ20の片面に多孔質基材を設ける場合には、多孔質基材を用意して、この多孔質基材に無機固体電解質を成膜する手法が考えられる(この手法については後述する)。なお、図1Aにおいて多孔質基材28はセパレータ20の片面の全面にわたって設けられているが、セパレータ20の片面の一部(例えば充放電反応に関与する領域)にのみ設ける構成としてもよい。例えば、多孔質基材28上又はその中に無機固体電解質体を膜状又は層状に形成した場合、その製法に由来して、セパレータ20の片面の全面にわたって多孔質基材28が設けられた構成になるのが典型的である。一方、無機固体電解質体を(基材を必要としない)自立した板状に形成した場合には、セパレータ20の片面の一部(例えば充放電反応に関与する領域)にのみ多孔質基材28を後付けしてもよいし、片面の全面にわたって多孔質基材28を後付けしてもよい。
また、負極14とセパレータ20の間に不織布等の吸水性樹脂又は保液性樹脂製の保水部材を配置して、電解液16が減少した場合であっても電解液16を負極14及びセパレータ20に常時接触可能に保持する構成としてもよい。この保水部材は前述した第三電極18用の保水部材を兼ねたものであってもよいし、セパレータ20用の保水部材を別途用いてもよい。保水部材として市販の電池用セパレータも使用可能である。吸水性樹脂又は保液性樹脂の好ましい例としては、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
空気極
空気極12は、亜鉛空気電池等の金属空気電池に使用される公知の空気極であってよく特に限定されない。空気極12は、空気極触媒、電子伝導性材料、及び所望により水酸化物イオン伝導性材料を含んでなるのが典型的である。もっとも、電子伝導性材料としても機能する空気極触媒を用いる場合には、空気極12は、そのような電子伝導性材料兼空気極触媒、及び所望により水酸化物イオン伝導性材料を含んでなるものであってもよい。
空気極触媒は、金属空気電池における正極として機能するものであれば特に限定されず、酸素を正極活物質として利用可能な種々の空気極触媒が使用可能である。空気極触媒の好ましい例としては、黒鉛等の酸化還元触媒機能を有するカーボン系材料、白金、ニッケル等の酸化還元触媒機能を有する金属、ペロブスカイト型酸化物、二酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルト、スピネル酸化物等の酸化還元触媒機能を有する無機酸化物が挙げられる。空気極触媒の形状は特に限定されないが、粒子形状であるのが好ましい。空気極12における空気極触媒の含有量は特に限定されないが、空気極12の合計量に対して、5〜70体積%が好ましく、より好ましくは5〜60体積%、さらに好ましくは5〜50体積%である。
電子伝導性材料は、導電性を有し、空気極触媒とセパレータ20(又は該当する場合には後述する中間層)との間で電子伝導を可能とするものであれば特に限定されない。電子伝導性材料の好ましい例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、鱗片状黒鉛のような天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等のグラファイト類、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉末類、ポリフェニレン誘導体等の有機電子伝導性材料、及びこれらの任意の混合物が挙げられる。電子伝導性材料の形状は、粒子形状であってもよいし、その他の形状であってもよいが、空気極12において厚さ方向に連続した相(即ち電子伝導相)をもたらす形態で用いられるのが好ましい。例えば、電子伝導性材料は、多孔質材料であってもよい。また、電子伝導性材料は空気極触媒との混合物ないし複合体の形態(例えば白金担持カーボン)であってもよく、前述したように電子伝導性材料としても機能する空気極触媒(例えば遷移金属を含有するペロブスカイト型化合物)であってもよい。空気極12における電子伝導性材料の含有量は特に限定されないが、空気極12の合計量に対して、10〜80体積%が好ましく、より好ましくは15〜80体積%、さらに好ましくは20〜80体積%である。
空気極12は、水酸化物イオン伝導性材料を任意成分としてさらに含んでいてもよい。特にセパレータ20が緻密質セラミックスである水酸化物イオン伝導性無機固体電解質からなる場合、そのようなセパレータ20上に(所望により水酸化物イオン伝導性を有する中間層を介在させて)、従来から使用される空気極触媒及び電子伝導性材料のみならず、水酸化物イオン伝導性材料をも含有させた空気極12を形成することで、緻密質セラミックス製のセパレータ20による所望の特性を確保しながら、金属空気電池において空気極の反応抵抗を低減することが可能となる。すなわち、空気極触媒及び電子伝導性材料のみならず、水酸化物イオン伝導性材料をも空気極12中に含有させることで、電子伝導相(電子伝導性材料)と、気相(空気)とからなる三相界面がセパレータ20(又は該当する場合には中間層)と空気極12の界面のみならず空気極12中にも存在することになり、電池反応に寄与する水酸化物イオンの授受がより広い表面積で効果的に行われることになる結果、金属空気電池において空気極の反応抵抗が低減されるものと考えられる。
水酸化物イオン伝導性材料は、水酸化物イオンを透過可能な材料であれば特に限定されず、無機材料及び有機材料を問わず、各種の材質及び形態の材料が使用可能である。水酸化物イオン伝導性材料は、粒子形態に限らず、空気極触媒及び電子伝導性材料を部分的に又は概ね全体的に被覆するような塗布膜の形態であってもよい。もっとも、この塗布膜の形態においても、イオン伝導性材料は緻密質ではなく、開気孔を有しており、空気極12の外側表面からセパレータ20(又は該当する場合には中間層)との界面に向かって、OやHOが気孔中を拡散できるように構成されるのが望ましい。空気極12における水酸化物イオン伝導性材料の含有量は特に限定されないが、空気極12の合計量に対して、0〜95体積%が好ましく、より好ましくは5〜85体積%、さらに好ましくは10〜80体積%である。
本発明の好ましい態様によれば、水酸化物イオン伝導性材料は、一般式:M2+ 1−x3+ (OH)n− x/n・mHO(式中、M2+は少なくとも1種以上の2価の陽イオンであり、M3+は3価の少なくとも1種以上の陽イオンであり、An−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)の基本組成を有する層状複水酸化物を含んでなるのが好ましい。上記一般式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはNi2+、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Cu2+、Zn2+が挙げられ、より好ましくはNi2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはFe3+、Al3+、Co3+,Cr3+、In3+が挙げられ、より好ましくはFe3+である。An−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはNO3−、CO 2−、SO 2−、OH、Cl、I、Br、Fが挙げられ、より好ましくはNO3−及び/又はCO 2−である。したがって、上記一般式は、M2+がNi2+を含み、M3+がFe3+を含み、An−がNO3−及び/又はCO 2−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1〜3である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは任意の実数である。本発明の別の好ましい態様によれば、水酸化物イオン伝導性材料は、NaCo、LaFeSr10、BiSr14Fe2456、NaLaTiO、RbLaNb、及びKLaNbのいずれかを水和させたもの、及びSrCo1.6Ti1.4(OH)・xHOからなる群から選択される少なくとも一種の基本組成を有するものであってもよい。これらの無機固体電解質は、燃料電池用の水酸化物イオン伝導性固体電解質として公知のものであり、焼結により上記基本組成の緻密質焼結体を作製後、還元・加水処理を行って水酸化物イオン伝導性を発現させることにより得ることができる。
本発明の別の好ましい態様によれば、水酸化物イオン伝導性材料は、水酸化物イオン伝導性を有する高分子材料を含んでなるものであってもよく、あるいはそのような高分子材料と上述した層状複水酸化物との混合物又は複合体であってもよい。水酸化物イオン伝導性を有する高分子材料は、水酸化物イオンを透過可能な陰イオン交換基を有する高分子材料を使用するのが好ましい。水酸化物イオン伝導性を有する高分子材料の好ましい例としては、四級アンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等の陰イオン交換基を有する炭化水素系樹脂(例えば、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレン、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリアリーレンエーテル等)、フッ素系樹脂等の高分子化合物が挙げられる。
空気極12の形成はあらゆる手法で行われてよく、特に限定されない。例えば、空気極触媒、電子伝導性材料、及び所望により水酸化物イオン伝導性材料をエタノール等の溶媒を用いて湿式混合して乾燥及び解砕した後、バインダーと混合してフィブリル化し、得られたフィブリル状混合物を集電体に圧着して空気極12を形成し、この空気極12/集電体の積層シートの空気極12側をセパレータ20(又は該当する場合には中間層)に圧着してもよい。あるいは、空気極触媒、電子伝導性材料、及び所望により水酸化物イオン伝導性材料をエタノール等の溶媒と共に湿式混合してスラリー化し、このスラリーを中間層に塗布して乾燥させて空気極12を形成してもよい。
したがって、空気極12はバインダーを含んでいてもよい。バインダーは、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂であってよく特に限定されないが、好ましい例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、カルボキシメチルセルロール(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ポリビニルアルコール(PVA)及びこれらの任意の混合物が挙げられる。
空気極12における水酸化物イオン伝導性材料の含有比率が、体積基準で、空気極12の外側表面から、空気極12とセパレータ20(又は該当する場合には中間層)との界面に向かって、段階的に又は徐々に高くなるようにしてもよい。こうすることで、空気極12の外側においては、比較的少ない水酸化物イオン伝導性材料に起因して空気極触媒と空気との接触比率を高くして触媒反応を促進できる一方、空気極12の外側表面から中間層との界面に向かって水酸化物イオンの伝導経路を多く確保することで触媒反応により生成した水酸化物イオンを効率良くセパレータ20に伝導することができる。なお、イオン伝導性材料は粒子及び塗布膜のいずれの形態であってもよく、塗布膜の形態の場合、緻密質ではなく、開気孔を有しており、空気極12の外側表面からセパレータ20(又は該当する場合には中間層)との界面に向かって、OやHOが気孔中を拡散できるように構成されるのが望ましい。好ましくは、空気極12とセパレータ20(又は該当する場合には中間層)との界面近傍における水酸化物イオン伝導性材料の含有比率は、体積基準で、空気極12の外側表面近傍における水酸化物イオン伝導性材料の含有比率の1.2倍以上、1.5倍以上、2.0倍以上、2.5倍以上、又は3.0倍以上とすればよい。例えば、空気極12は、水酸化物イオン伝導性材料の含有比率が相対的に高い第一空気極層と、水酸化物イオン伝導性材料の含有比率が相対的に低い第二空気極層とを含み、第一空気極層がセパレータ20(又は該当する場合には中間層)と接触され、かつ、第二空気極層が外気に露出されてなるのが好ましい。この場合、第一空気極層における水酸化物イオン伝導性材料の含有比率は、体積基準で、第二空気極層における水酸化物イオン伝導性材料の含有比率の1.2倍以上、1.5倍以上、2.0倍以上、2.5倍以上、又は3.0倍以上とすればよい。
空気極12は5〜200μmの厚さを有する層状の形態であるのが好ましく、より好ましくは5〜100μmであり、さらに好ましくは5〜50μm、特に好ましくは5〜30μmである。例えば、水酸化物イオン伝導性材料を含む場合、上記範囲内の厚さであると、ガス拡散抵抗の増大を抑えながら三相界面の面積を比較的大きく確保することができ、空気極の反応抵抗の低減をより好ましく実現することができる。
空気極12のセパレータ20と反対側に、通気性を有する正極集電体22が設けられるのが好ましい。この場合、正極集電体22は空気極12に空気が供給されるように通気性を有するのが好ましい。正極集電体22の好ましい例としては、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属板若しくは金属メッシュ、カーボンペーパー、カーボンクロス、及び電子伝導性酸化物等が挙げられ、耐食性及び通気性の点でステンレス金網が特に好ましい。
中間層
セパレータ20及び空気極12の間には中間層が設けられてもよい。中間層はセパレータ20と空気極12の密着性を向上し、かつ、水酸化物イオン伝導性を有するものであれば特に限定されず、有機材料及び無機材料を問わず、公知各種の組成及び構成の層であることができる。中間層は高分子材料及び/又はセラミックス材料を含んでなるのが好ましく、この場合、中間層に含まれる高分子材料及びセラミックス材料の少なくともいずれか一方が水酸化物イオン伝導性を有していればよい。
本発明の好ましい態様によれば、中間層は、水酸化物イオン伝導性を有する高分子材料を含んでなることができる。そのような高分子材料は、水酸化物イオン伝導性を有する固体高分子電解質を含んでなるのが好ましく、そのような高分子材料と層状複水酸化物との混合物又は複合体であってもよい。水酸化物イオン伝導性を有する固体高分子電解質は、水酸化物イオンを透過可能な陰イオン交換基を有する高分子材料を使用するのが好ましく、例えばアイオノマー樹脂であることができる。アイオノマー樹脂の例としては、四級アンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等の陰イオン交換基を有する炭化水素系樹脂(例えば、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレン、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリアリーレンエーテル等)、フッ素系樹脂等の高分子化合物が挙げられる。
本発明の別の好ましい態様によれば、中間層は、高分子材料及びセラミックス材料を含んでなり、セラミックス材料が水酸化物イオン伝導性を有する。この場合、水酸化物イオン伝導性を有するかぎり、公知の種々のセラミックス材料が使用可能であり、特に限定されない。水酸化物イオン伝導性を有するセラミックス材料は、一般式:M2+ 1−x3+ (OH)n− x/n・mHO(式中、M2+は少なくとも1種以上の2価の陽イオンであり、M3+は3価の少なくとも1種以上の陽イオンであり、An−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)の基本組成を有する層状複水酸化物を含んでなるのが好ましい。上記一般式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはNi2+、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Cu2+、Zn2+が挙げられ、より好ましくはNi2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはFe3+、Al3+、Co3+,Cr3+、In3+が挙げられ、より好ましくはFe3+である。An−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはNO3−、CO 2−、SO 2−、OH、Cl、I、Br、Fが挙げられ、より好ましくはNO3−及び/又はCO 2−である。したがって、上記一般式は、M2+がNi2+を含み、M3+がFe3+を含み、An−がNO3−及び/又はCO 2−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1〜3である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは任意の実数である。本発明の別の好ましい態様によれば、水酸化物イオン伝導性材料は、NaCo、LaFeSr10、BiSr14Fe2456、NaLaTiO、RbLaNb、及びKLaNbのいずれかを水和させたもの、及びSrCo1.6Ti1.4(OH)・xHOからなる群から選択される少なくとも一種の基本組成を有するものであってもよい。これらの無機固体電解質は、燃料電池用の水酸化物イオン伝導性固体電解質として知られるものであり、焼結により上記基本組成の緻密質焼結体を作製後、還元・加水処理を行って水酸化物イオン伝導性を発現させることにより得ることができる。水酸化物イオン伝導性を有するセラミックス材料を用いる場合、高分子材料として有機結着剤を併用してもよい。有機結着剤は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂であってよく特に限定されないが、好ましい例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、カルボキシメチルセルロール(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ポリビニルアルコール(PVA)及びこれらの任意の混合物が挙げられる。なお、水酸化物イオン伝導性セラミックス材料と、上述したような水酸化物イオン伝導性を有する高分子材料とを併用してもよいことはいうまでもない。
中間層は複数設けられてもよく、これら複数の中間層は互いに同種の及び/又は異なる層であってよい。すなわち、中間層は単層構成であってもよいし、2層以上の構成であってもよい。
中間層は1〜200μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは1〜100μmであり、さらに好ましくは1〜50μm、特に好ましくは1〜30μmである。このような厚さであると、セパレータ20と空気極12の密着性を向上しやすく、亜鉛空気二次電池において電池抵抗(特に空気極及びセパレータ間の界面抵抗)をより効果的に低減することができる。
負極
負極14は、負極活物質として機能する亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物を含んでなる。負極14は、粒子状、板状、ゲル状等のいかなる形状又は形態であってもよいが、粒子状またはゲル状とするのが反応速度の点で好ましい。粒子状の負極としては、30〜350μmの粒径のものを好ましく用いることができる。ゲル状の負極としては、100〜300μmの粒径の無汞化亜鉛合金粉、アルカリ電解液及び増粘剤(ゲル化剤)を混合攪拌してゲル状に形成したものを好ましく用いることができる。亜鉛合金は、マグネシウム、アルミニウム、リチウム、ビスマス、インジウム、鉛等の汞化又は無汞化の合金であることができ、負極活物質として所望の性能を確保できる限り、その含有量は特に限定されない。好ましい亜鉛合金は、無水銀かつ鉛無添加の無汞化亜鉛合金であり、アルミニウム、ビスマス、インジウム又はこれらの組合せを含むものがより好ましい。さらに好ましくは、ビスマスを50〜1000ppm、インジウムを100〜1000ppmで、アルミニウム及び/又はカルシウムを10〜100ppm含む無汞化亜鉛合金であり、特に好ましくはビスマスを100〜500ppm、インジウムを300〜700ppm、アルミニウム及び/又はカルシウムを20〜50ppm含む。好ましい亜鉛化合物の例としては酸化亜鉛が挙げられる。
負極14に接触して負極集電体24が設けられるのが好ましい。負極集電体24は図1A及び1Bに示されるように容器26を貫通してその外側にまで延在して負極端子をそれ自体で構成してもよいし、別途設けられた負極端子に容器26内又は外で接続される構成としてもよい。負極集電体の好ましい例としては、ステンレス鋼、銅(例えば銅パンチングメタル)、ニッケル等の金属板若しくは金属メッシュ、カーボンペーパー、及び酸化物導電体等が挙げられる。例えば、銅パンチングメタル上に、酸化亜鉛粉末及び/又は亜鉛粉末、並びに所望によりバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)を含んでなる混合物を塗布して負極14/負極集電体24からなる負極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の負極板(すなわち負極14/負極集電体24)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。
電解液
電解液16としては、亜鉛空気電池に一般的に使用される各種の水系の電解液、特にアルカリ電解液が使用可能である。そのような電解液の例としては、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ金属水酸化物水溶液、塩化亜鉛や過塩素酸亜鉛を含む水溶液等が挙げられる。中でも、アルカリ金属水酸化物水溶液、特に水酸化カリウム水溶液が好ましく、より好ましくは6〜9mol/Lの濃度の水酸化カリウム水溶液である。亜鉛合金の自己溶解を抑制するために、電解液中に酸化亜鉛、水酸化亜鉛等の亜鉛化合物を溶解させてもよい。例えば、電解液に酸化亜鉛を飽和状態になるまで溶解させてもよい。また、電解液をゲル化してもよく、この場合には、電解液16を、その量の増減に関わらず、負極14、第三電極18及びセパレータ20に常時接触させやすくなる。ゲル化剤としては電解液の溶媒を吸収して膨潤するようなポリマーを用いるのが望ましく、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどのポリマーやデンプンが用いられる。
容器
容器26は、開口部26aを有し、負極14、電解液16及び第三電極18をする容器であり、開口部26aが密閉された場合に液密性及び気密性が確保される構造を有する。密閉容器の材質は電解液16(特に水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物)に対する耐性を有するものであれば特に限定されず、ポリオレフィン樹脂、ABS樹脂等の樹脂製であるのが好ましい。容器26にはセパレータ20が様々な手法で固定されてよいが、電解液16(特に水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物)に対する耐性を有する接着剤により固定されるのが好ましい。また、ポリオレフィン樹脂製の容器26を用いた場合には熱融着によるセパレータ20の固定も好ましい。
容器26は、負極側密閉空間に充放電時の負極反応に伴う水分量の増減を許容するように構成されるのが好ましい。すなわち、前述した反応式から分かるように、充電時には負極側密閉空間で水が減少する一方、放電時には負極側密閉空間で水が増加する。したがって、亜鉛空気二次電池10を放電末状態で製造する場合には、容器26内に充電による減少が見込まれる水分量を加味した過剰量の電解液16を充填しておくことが望ましい。
並列積層型亜鉛空気二次電池
図1A及び図2に示される亜鉛空気二次電池10は1対の空気極12及び負極14を備えたものであるが、容器26内に空気極12及び負極14の対を2以上備えた構成としてもよい。この場合、空気極12、負極14(負極集電体24の両面に形成されうる)及び空気極12の順に並置して(あるいはさらにこの並置を繰り返して)並列積層型の亜鉛空気二次電池に構成するのが好ましい。そのような並列積層型亜鉛空気二次電池の一例が図3に示される。なお、図3に示される並列積層型亜鉛空気二次電池30の各構成要素は、図1A及び2に示される亜鉛空気二次電池10の各構成要素と同様のため、図1A及び2と同じ符号を付してある。図3に並列積層型亜鉛空気二次電池30は、図2に示される縦型構造の亜鉛空気二次電池10’を備えた電池ユニットであり、負極集電体24の両面に負極14を設けて負極集電体24を基準に左右対称となるように構成としたものである。このとき、第三電極18が負極14の上方に位置するように配置されるのが好ましい。具体的には、並列積層型亜鉛空気二次電池30は、空気極側積層体(正極集電体22、空気極12及びセパレータ20を順に含む)/電解液16/負極側積層体(負極14、負極集電体24及び負極14を順に含む)/電解液16/空気極側積層体(セパレータ20、空気極12及び正極集電体22を順に含む)をこの順に配置された構成を有している。なお、負極側積層体を電解液16が連通する構成としてもよい。このような電池ユニットを所望の個数並列積層することで、所望の数の空気極12及び負極14を備えた並列積層型亜鉛空気二次電池を構成することもできる。
多孔質基材付きLDHセパレータ
セパレータ20を構成しうる無機固体電解質体は膜状又は層状の形態であることができる。この場合、膜状又は層状の無機固体電解質体が多孔質基材上又はその中に形成されてなる、多孔質基材付きセパレータとするのが好ましい。特に好ましい多孔質基材付きセパレータは、多孔質基材と、この多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成されるセパレータ層とを備えてなり、セパレータ層が前述したような層状複水酸化物(LDH)を含んでなるものである。セパレータ層は透水性及び通気性を有しない。すなわち、多孔質材料は孔の存在により透水性及び通気性を有しうるが、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されている。セパレータ層は多孔質基材上に形成されるのが好ましい。例えば、図4に示されるように、多孔質基材28上にセパレータ層20がLDH緻密膜として形成されるのが好ましい。この場合、多孔質基材28の性質上、図4に示されるように多孔質基材28の表面及びその近傍の孔内にもLDHが形成されてよいのはいうまでもない。あるいは、図5に示されるように、多孔質基材28中(例えば多孔質基材28の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材28の少なくとも一部がセパレータ層20’を構成するものであってもよい。この点、図5に示される態様は図4に示される態様のセパレータ層20における膜相当部分を除去した構成となっているが、これに限定されず、多孔質基材28の表面と平行にセパレータ層が存在していればよい。いずれにしても、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているため、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しないという特有の機能を有することができる。
多孔質基材は、その上及び/又は中にLDH含有セパレータ層を形成できるものが好ましく、その材質や多孔構造は特に限定されない。多孔質基材上及び/又は中にLDH含有セパレータ層を形成するのが典型的ではあるが、無孔質基材上にLDH含有セパレータ層を成膜し、その後公知の種々の手法により無孔質基材を多孔化してもよい。いずれにしても、多孔質基材は透水性を有する多孔構造を有するのが、電池用セパレータとして電池に組み込まれた場合に電解液をセパレータ層に到達可能に構成できる点で好ましい。
多孔質基材は、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ及びジルコニアであり、最も好ましくはアルミナである。これらの多孔質セラミックスを用いると緻密性に優れたLDH含有セパレータ層を形成しやすい。金属材料の好ましい例としては、アルミニウム及び亜鉛が挙げられる。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。上述した各種の好ましい材料から電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性に優れたものを適宜選択するのが更に好ましい。
多孔質基材は0.001〜1.5μmの平均気孔径を有するのが好ましく、より好ましくは0.001〜1.25μm、さらに好ましくは0.001〜1.0μm、特に好ましくは0.001〜0.75μm、最も好ましくは0.001〜0.5μmである。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有セパレータ層を形成することができる。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行うことができる。この測定に用いる電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得ることができる。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能や画像解析ソフト(例えば、Photoshop、Adobe社製)等を用いることができる。
多孔質基材の表面は、10〜60%の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15〜55%、さらに好ましくは20〜50%である。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性及び通気性を確保しながら、透水性及び通気性を有しない程に緻密なLDH含有セパレータ層を形成することができる。ここで、多孔質基材の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、多孔質基材の表面の気孔率は多孔質基材内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、多孔質基材の表面が緻密であれば多孔質基材の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、多孔質基材の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順でヒストグラムのしきい値を調整して白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
セパレータ層は、多孔質基材上及び/又は多孔質基材中、好ましくは多孔質基材上に形成される。例えば、図4に示されるようにセパレータ層20が多孔質基材28上に形成される場合には、セパレータ層20はLDH緻密膜の形態であり、このLDH緻密膜は典型的にはLDHからなる。また、図5に示されるようにセパレータ層20’が多孔質基材28中に形成される場合には、多孔質基材28中(典型的には多孔質基材28の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成されることから、セパレータ層20’は典型的には多孔質基材28の少なくとも一部及びLDHからなる。図5に示されるセパレータ層20’は、図4に示されるセパレータ層20における膜相当部分を研磨、切削等の公知の手法により除去することにより得ることができる。
セパレータ層は透水性及び通気性を有しない。例えば、セパレータ層はその片面を25℃で1週間水と接触させても水を透過させず、また、その片面に0.5atmの内外差圧でヘリウムガスを加圧してもヘリウムガスを透過させない。すなわち、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されている。もっとも、局所的且つ/又は偶発的に透水性を有する欠陥が機能膜に存在する場合には、当該欠陥を適当な補修剤(例えばエポキシ樹脂等)で埋めて補修することで水不透性及び気体不透過性を確保してもよく、そのような補修剤は必ずしも水酸化物イオン伝導性を有する必要はない。いずれにしても、セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)の表面が20%以下の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは7%以下である。セパレータ層の表面の気孔率が低ければ低いほど、セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)の緻密性が高いことを意味し、好ましいといえる。ここで、セパレータ層の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、セパレータ層の表面の気孔率はセパレータ層内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、セパレータ層の表面が緻密であればセパレータ層の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、セパレータ層の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)セパレータ層の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順でヒストグラムのしきい値を調整して白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定はセパレータ層表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
層状複水酸化物は複数の板状粒子(すなわちLDH板状粒子)の集合体で構成され、当該複数の板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなるのが好ましい。この態様は、図4に示されるように、多孔質基材28上にセパレータ層20がLDH緻密膜として形成される場合に特に好ましく実現可能な態様であるが、図5に示されるように、多孔質基材28中(典型的には多孔質基材28の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材28の少なくとも一部がセパレータ層20’を構成する場合においても実現可能である。
すなわち、LDH結晶は図6に示されるような層状構造を持った板状粒子の形態を有することが知られているが、上記略垂直又は斜めの配向は、LDH含有セパレータ層(例えばLDH緻密膜)にとって極めて有利な特性である。というのも、配向されたLDH含有セパレータ層(例えば配向LDH緻密膜)には、LDH板状粒子が配向する方向(即ちLDHの層と平行方向)の水酸化物イオン伝導度が、これと垂直方向の伝導度よりも格段に高いという伝導度異方性があるためである。実際、本発明者らは、LDHの配向バルク体において、配向方向における伝導度(S/cm)が配向方向と垂直な方向の伝導度(S/cm)と比べて1桁高いとの知見を得ている。すなわち、本発明のLDH含有セパレータ層における上記略垂直又は斜めの配向は、LDH配向体が持ちうる伝導度異方性を層厚方向(すなわちセパレータ層又は多孔質基材の表面に対して垂直方向)に最大限または有意に引き出すものであり、その結果、層厚方向への伝導度を最大限又は有意に高めることができる。その上、LDH含有セパレータ層は層形態を有するため、バルク形態のLDHよりも低抵抗を実現することができる。このような配向性を備えたLDH含有セパレータ層は、層厚方向に水酸化物イオンを伝導させやすくなる。その上、緻密化されているため、層厚方向への高い伝導度及び緻密性が望まれるセパレータに極めて適する。
特に好ましくは、LDH含有セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)においてLDH板状粒子が略垂直方向に高度に配向してなる。この高度な配向は、セパレータ層の表面をX線回折法により測定した場合に、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されることで確認可能なものである(但し、(012)面に起因するピークと同位置に回折ピークが観察される多孔質基材を用いた場合には、LDH板状粒子に起因する(012)面のピークを特定できないことから、この限りでない)。この特徴的なピーク特性は、セパレータ層を構成するLDH板状粒子がセパレータ層に対して略垂直方向(すなわち垂直方向又はそれに類する斜め方向、好ましくは垂直方向)に配向していることを示す。すなわち、(003)面のピークは無配向のLDH粉末をX線回折した場合に観察される最も強いピークとして知られているが、配向LDH含有セパレータ層にあっては、LDH板状粒子がセパレータ層に対して略垂直方向に配向していることで(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出される。これは、(003)面が属するc軸方向(00l)面(lは3及び6である)がLDH板状粒子の層状構造と平行な面であるため、このLDH板状粒子がセパレータ層に対して略垂直方向に配向しているとLDH層状構造も略垂直方向を向くこととなる結果、セパレータ層表面をX線回折法により測定した場合に(00l)面(lは3及び6である)のピークが現れないか又は現れにくくなるからである。特に(003)面のピークは、それが存在する場合、(006)面のピークよりも強く出る傾向があるから、(006)面のピークよりも略垂直方向の配向の有無を評価しやすいといえる。したがって、配向LDH含有セパレータ層は、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されるのが、垂直方向への高度な配向を示唆することから好ましいといえる。
セパレータ層は100μm以下の厚さを有するのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことでセパレータの低抵抗化を実現できる。セパレータ層が多孔質基材上にLDH緻密膜として形成されるのが好ましく、この場合、セパレータ層の厚さはLDH緻密膜の厚さに相当する。また、セパレータ層が多孔質基材中に形成される場合には、セパレータ層の厚さは多孔質基材の少なくとも一部及びLDHからなる複合層の厚さに相当し、セパレータ層が多孔質基材上及び中にまたがって形成される場合にはLDH緻密膜と上記複合層の合計厚さに相当する。いずれにしても、上記のような厚さであると、電池用途等への実用化に適した所望の低抵抗を実現することができる。LDH配向膜の厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ等の機能膜として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
上述した多孔質基材付きLDHセパレータは、(1)多孔質基材を用意し、(2)マグネシウムイオン(Mg2+)及びアルミニウムイオン(Al3+)を0.20〜0.40mol/Lの合計濃度で含み、かつ、尿素を含んでなる原料水溶液に、多孔質基材を浸漬させ、(3)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、層状複水酸化物を含んでなるセパレータ層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させることにより製造することができる。
(1)多孔質基材の用意
多孔質基材は、前述したとおりであり、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ及びジルコニアであり、最も好ましくはアルミナである。これらの多孔質セラミックスを用いるとLDH含有セパレータ層の緻密性を向上しやすい傾向がある。セラミックス材料製の多孔質基材を用いる場合、超音波洗浄、イオン交換水での洗浄等を多孔質基材に施すのが好ましい。
一方、高分子材料を用いる場合、表面がアニオン化された高分子基材を用意するのが好ましい。表面がアニオン化されていることで、その後の工程でアニオン由来の基にLDHの核を生成させてLDH板状粒子の成長及び略垂直方向への配向を促すことができる。表面がアニオン化された高分子基材は、アニオン化可能な高分子基材を公知の手法によりアニオン化処理して用意すればよい。アニオン化処理は、LDHのアニオンとして取り得るSO (スルホン化)、OH(ヒドロキシル化)及びCO (カルボキシル化)から選択される少なくとも一種を高分子基材の表面に付与することにより行われるのが好ましく、より好ましくはスルホン化である。アニオン化可能な高分子基材は、電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性を有するのが望ましい。アニオン化可能な高分子基材は、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、及びポリフェニレンサルファイドからなる群から選択される少なくとも一種からなるのが好ましく、これらの高分子基材は特にスルホン化に適する。特に、芳香族系高分子基材がアニオン化(特にスルホン化)しやすい点で好ましく、そのような芳香族系高分子基材は、例えば、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、エポキシ樹脂、及びポリフェニレンサルファイドからなる群から選択される少なくとも一種からなり、最も好ましくはポリスチレンからなる。スルホン化処理を行う場合、スルホン化可能な高分子基材を、硫酸(例えば濃硫酸)、発煙硫酸、クロロスルホン酸、無水硫酸等のスルホン化可能な酸に浸漬すればよく、他のスルホン化技術を用いてもよい。スルホン化可能な酸への浸漬は室温又は高温(例えば50〜150℃)で行えばよい。芳香族系高分子基材を用いる場合、スルホン化された芳香族系高分子基材は、その表面をフーリエ変換型赤外分光(FT−IR)の全反射測定法(ATR)により測定した場合に、透過スペクトルのフェニル基CC伸縮振動由来の1601cm−1での透過率の値T1601をスルホン酸基由来の1127cm−1での透過率の値T1127で割った値T1601/T1127が0.920以上であるのが好ましく、より好ましくは0.930以上、さらに好ましくは0.940以上である。透過スペクトルにおいて、1601cm−1に見られる吸光ピークの透過率の値T1601はフェニル基CC伸縮振動由来であるためスルホン基の有無にかかわらず同じ値となるが、1127cm−1に見られる吸光ピークの透過率の値T1127はスルホン酸基由来であるためスルホン酸の密度が高いほど低い値となる。したがって、T1601/T1127の値が大きいほど高分子基材の表面に多数のスルホン酸基が密に存在し、スルホン酸基を中間層アニオンとして取り込んだLDHの核を高密度に生成させることができ、LDH含有セパレータ層の緻密化に寄与する。したがって、高分子基材をスルホン化する際、スルホン化可能な酸に浸漬する時間を適宜調整することにより上記T1601/T1127の値を上記範囲内とすることができる。例えば濃硫酸を用いてスルホン化処理を行う場合、浸漬時間は6日以上とするのが好ましく、より好ましくは12日以上である。こうしてアニオン化された高分子基材はイオン交換水で洗浄した後、室温又は高温(例えば30〜50℃)で乾燥されるのが好ましい。
(2)原料水溶液への浸漬
次に、多孔質基材を原料水溶液に所望の向きで(例えば水平又は垂直に)浸漬させる。多孔質基材を水平に保持する場合は、吊るす、浮かせる、容器の底に接するように多孔質基材を配置すればよく、例えば、容器の底から原料水溶液中に浮かせた状態で多孔質基材を固定としてもよい。多孔質基材を垂直に保持する場合は、容器の底に多孔質基材を垂直に設置できるような冶具を置けばよい。いずれにしても、多孔質基材にLDHを略垂直方向又はそれに近い方向(すなわちLDH板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と略垂直に又は斜めに交差するような向きに)に成長させる構成ないし配置とするのが好ましい。原料水溶液は、マグネシウムイオン(Mg2+)及びアルミニウムイオン(Al3+)を所定の合計濃度で含み、かつ、尿素を含んでなる。尿素が存在することで尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物を形成することによりLDHを得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。原料水溶液に含まれるマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度(Mg2++Al3+)は0.20〜0.40mol/Lが好ましく、より好ましくは0.22〜0.38mol/Lであり、さらに好ましくは0.24〜0.36mol/L、特に好ましくは0.26〜0.34mol/Lである。このような範囲内の濃度であると核生成と結晶成長をバランスよく進行させることができ、配向性のみならず緻密性にも優れたLDH含有セパレータ層を得ることが可能となる。すなわち、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度が低いと核生成に比べて結晶成長が支配的となり、粒子数が減少して粒子サイズが増大する一方、この合計濃度が高いと結晶成長に比べて核生成が支配的となり、粒子数が増大して粒子サイズが減少するものと考えられる。
好ましくは、原料水溶液に硝酸マグネシウム及び硝酸アルミニウムが溶解されており、それにより原料水溶液がマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンに加えて硝酸イオンを含んでなる。そして、この場合、原料水溶液における、尿素の硝酸イオン(NO )に対するモル比(尿素/NO )が、2〜6が好ましく、より好ましくは4〜5である。
(3)水熱処理によるLDH含有セパレータ層の形成
そして、原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、LDHを含んでなるセパレータ層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させる。この水熱処理は密閉容器中、60〜150℃で行われるのが好ましく、より好ましくは65〜120℃であり、さらに好ましくは65〜100℃であり、特に好ましくは70〜90℃である。水熱処理の上限温度は多孔質基材(例えば高分子基材)が熱で変形しない程度の温度を選択すればよい。水熱処理時の昇温速度は特に限定されず、例えば10〜200℃/hであってよいが、好ましくは100〜200℃/hである、より好ましくは100〜150℃/hである。水熱処理の時間はLDH含有セパレータ層の目的とする密度と厚さに応じて適宜決定すればよい。
水熱処理後、密閉容器から多孔質基材を取り出し、イオン交換水で洗浄するのが好ましい。
上記のようにして製造されたLDH含有複合材料におけるLDH含有セパレータ層は、LDH板状粒子が高度に緻密化したものであり、しかも伝導に有利な略垂直方向に配向したものである。したがって、亜鉛デンドライト進展が実用化の大きな障壁となっている亜鉛空気二次電池に極めて好適といえる。
ところで、上記製造方法により得られるLDH含有セパレータ層は多孔質基材の両面に形成されうる。このため、LDH含有複合材料をセパレータとして好適に使用可能な形態とするためには、成膜後に多孔質基材の片面のLDH含有セパレータ層を機械的に削るか、あるいは成膜時に片面にはLDH含有セパレータ層が成膜できないような措置を講ずるのが望ましい。
LDH緻密板の製造方法
板状の無機固体電解質の好ましい形態として、層状複水酸化物(LDH)緻密体が挙げられる。LDH緻密体はあらゆる方法によって作製されたものであってもよいが、以下に好ましい製造方法の一態様を説明する。この製造方法は、ハイドロタルサイトに代表されるLDHの原料粉末を成形及び焼成して酸化物焼成体とし、これを層状複水酸化物へ再生した後、余剰の水分を除去することにより行われる。この方法によれば、88%以上の相対密度を有する高品位な層状複水酸化物緻密体を簡便に且つ安定的に提供及び製造することができる。
(1)原料粉末の用意
原料粉末として、一般式:M2+ 1−x3+ (OH)n− x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で表される層状複水酸化物の粉末を用意する。上記一般式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg2+、Ca2+及びZn2+が挙げられ、より好ましくはMg2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl3+又はCr3+が挙げられ、より好ましくはAl3+である。An−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH及びCO 2−が挙げられる。したがって、上記一般式は、少なくともM2+がMg2+を、M3+がAl3+を含み、An−がOH及び/又はCO 2−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。このような原料粉末は市販の層状複水酸化物製品であってもよいし、硝酸塩や塩化物を用いた液相合成法等の公知の方法にて作製した原料であってもよい。原料粉末の粒径は、所望の層状複水酸化物緻密体が得られる限り限定されないが、体積基準D50平均粒径が0.1〜1.0μmであるのが好ましく、より好ましくは0.3〜0.8μmである。原料粉末の粒径が細かすぎると粉末が凝集しやすく、成形時に気孔が残留する可能性が高く、大きすぎると成形性が悪くなるためである。
所望により、原料粉末を仮焼して酸化物粉末としてもよい。この際の仮焼温度は、構成するM2+及びM3+によって多少の差があるが、500℃以下が好ましく、より好ましくは380〜460℃とし、原料粒径が大きく変化しない領域で行う。
(2)成形体の作製
原料粉末を成形して成形体を得る。この成形は、成形後且つ焼成前の成形体(以下、成形体という)が、43〜65%、より好ましくは45〜60%であり、さらに好ましくは47%〜58%の相対密度を有するように、例えば加圧成形により行われるのが好ましい。成形体の相対密度は、成形体の寸法及び重量から密度を算出し、理論密度で除して求められるが、成形体の重量は吸着水分の影響を受けるため、一義的な値を得るために、室温、相対湿度20%以下のデシケータ内で24時間以上保管した原料粉末を用いた成形体か、もしくは成形体を前記条件下で保管した後に相対密度を測定するのが好ましい。ただし、原料粉末を仮焼して酸化物粉末とした場合は、成形体の相対密度が26〜40%であるのが好ましく、より好ましくは29〜36%である。なお、酸化物粉末を用いる場合の相対密度は、層状複水酸化物を構成する各金属元素が仮焼により各々酸化物に変化したと仮定し、各酸化物の混合物として求めた換算密度を分母として求めた。一例に挙げた加圧成形は、金型一軸プレスにより行ってもよいし、冷間等方圧加圧(CIP)により行ってもよい。冷間等方圧加圧(CIP)を用いる場合は原料粉末をゴム製容器中に入れて真空封じするか、あるいは予備成形したものを用いるのが好ましい。その他、スリップキャストや押出成形など、公知の方法で成形してもよく、成形方法については特に限定されない。ただし、原料粉末を仮焼して酸化物粉末とした場合は、乾式成形法に限られる。これらの成形体の相対密度は、得られる緻密体の強度だけではなく、通常板状形状を有する層状複水酸化物の配向度への影響もあることから、その用途等を考慮して成形時の相対密度を上記の範囲で適宜設定するのが好ましい。
(3)焼成工程
上記工程で得られた成形体を焼成して酸化物焼成体を得る。この焼成は、酸化物焼成体が、成形体の重量の57〜65%の重量となり、且つ/又は、成形体の体積の70〜76%以下の体積となるように行われるのが好ましい。成形体の重量の57%以上であると、後工程の層状複水酸化物への再生時に再生できない異相が生成しにくくなり、65%以下であると焼成が十分に行われて後工程で十分に緻密化する。また、成形体の体積の70%以上であると、後工程の層状複水酸化物への再生時に異相が生成にくくなるとともに、クラックも生じにくくなり、76%以下であると、焼成が十分に行われて後工程で十分に緻密化する。原料粉末を仮焼して酸化物粉末とした場合は、成形体の重量の85〜95%、及び/又は成形体の体積の90%以上の酸化物焼成体を得るのが好ましい。原料粉末が仮焼されるか否かに関わらず、焼成は、酸化物焼成体が、酸化物換算で20〜40%の相対密度を有するように行われるのが好ましく、より好ましくは20〜35%であり、さらに好ましくは20〜30%である。ここで、酸化物換算での相対密度とは、層状複水酸化物を構成する各金属元素が焼成により各々酸化物に変化したと仮定し、各酸化物の混合物として求めた換算密度を分母として求めた相対密度である。酸化物焼成体を得るための好ましい焼成温度は400〜850℃であり、より好ましくは700〜800℃である。この範囲内の焼成温度で1時間以上保持されるのが好ましく、より好ましい保持時間は3〜10時間である。また、急激な昇温により水分や二酸化炭素が放出して成形体が割れるのを防ぐため、上記焼成温度に到達させるための昇温は100℃/h以下の速度で行われるのが好ましく、より好ましくは5〜75℃/hであり、さらに好ましくは10〜50℃/hである。したがって、昇温から降温(100℃以下)に至るまでの全焼成時間は20時間以上確保するのが好ましく、より好ましくは30〜70時間、さらに好ましくは35〜65時間である。
(4)層状複水酸化物への再生工程
上記工程で得られた酸化物焼成体を上述したn価の陰イオン(An−)を含む水溶液中又はその直上に保持して層状複水酸化物へと再生し、それにより水分に富む層状複水酸化物固化体を得る。すなわち、この製法により得られる層状複水酸化物固化体は必然的に余分な水分を含んでいる。なお、水溶液中に含まれる陰イオンは原料粉末中に含まれる陰イオンと同種の陰イオンとしてよいし、異なる種類の陰イオンとしてもよい。酸化物焼成体の水溶液中又は水溶液直上での保持は密閉容器内で水熱合成の手法により行われるのが好ましく、そのような密閉容器の例としてはテフロン製の密閉容器が挙げられ、より好ましくはその外側にステンレス製等のジャケットを備えた密閉容器である。層状複水酸化物化は、酸化物焼成体を20℃以上200℃未満で、少なくとも酸化物焼成体の一面が水溶液に接する状態に保持することにより行われるのが好ましく、より好ましい温度は50〜180℃であり、さらに好ましい温度は100〜150℃である。このような層状複水酸化物化温度で酸化物焼結体が1時間以上保持されるのが好ましく、より好ましくは2〜50時間であり、さらに好ましくは5〜20時間である。このような保持時間であると十分に層状複水酸化物への再生を進行させて異相が残るのを回避又は低減できる。なお、この保持時間は、長すぎても特に問題はないが、効率性を重視して適時設定すればよい。
層状複水酸化物への再生に使用するn価の陰イオンを含む水溶液の陰イオン種として空気中の二酸化炭素(炭酸イオン)を想定する場合は、イオン交換水を用いることが可能である。なお、密閉容器内の水熱処理の際には、酸化物焼成体を水溶液中に水没させてもよいし、治具を用いて少なくとも一面が水溶液に接する状態で処理を行ってもよい。少なくとも一面が水溶液に接する状態で処理した場合、完全水没と比較して余分な水分量が少ないので、その後の工程が短時間で済むことがある。ただし、水溶液が少なすぎるとクラックが発生しやすくなるため、焼成体重量と同等以上の水分を用いるのが好ましい。
(5)脱水工程
上記工程で得られた水分に富む層状複水酸化物固化体から余剰の水分を除去する。こうして本発明の層状複水酸化物緻密体が得られる。この余剰の水分を除去する工程は、300℃以下、除去工程の最高温度での推定相対湿度25%以上の環境下で行われるのが好ましい。層状複水酸化物固化体からの急激な水分の蒸発を防ぐため、室温より高い温度で脱水する場合は層状複水酸化物への再生工程で使用した密閉容器中に再び封入して行うことが好ましい。その場合の好ましい温度は50〜250℃であり、さらに好ましくは100〜200℃である。また、脱水時のより好ましい相対湿度は25〜70%であり、さらに好ましくは40〜60%である。脱水を室温で行ってもよく、その場合の相対湿度は通常の室内環境における40〜70%の範囲内であれば問題はない。
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
例1:多孔質基材付きLDHセパレータの作製及び評価
(1)多孔質基材の作製
ベーマイト(サソール社製、DISPAL 18N4−80)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ベーマイト):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、5cm×8cmを十分に超える大きさで且つ厚さ0.5cmの板状に成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、1150℃で3時間焼成して、アルミナ製多孔質基材を得た。こうして得られた多孔質基材を5cm×8cmの大きさに切断加工した。
得られた多孔質基材について、画像処理を用いた手法により、多孔質基材表面の気孔率を測定したところ、24.6%であった。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して多孔質基材表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順でヒストグラムのしきい値を調整して白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われた。なお、図7に多孔質基材表面のSEM画像を示す。
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ約0.1μmであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
(2)多孔質基材の洗浄
得られた多孔質基材をアセトン中で5分間超音波洗浄し、エタノール中で2分間超音波洗浄、その後、イオン交換水中で1分間超音波洗浄した。
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO・9HO、関東化学株式会社製)、及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg2+/Al3+)が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg2++Al3+)が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO =4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
(4)水熱処理による成膜
テフロン製密閉容器(内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(3)で作製した原料水溶液と上記(2)で洗浄した多孔質基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70℃で168時間(7日間)水熱処理を施すことにより基材表面に層状複水酸化物配向膜(セパレータ層)の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、層状複水酸化物(以下、LDHという)の緻密膜(以下、膜試料という)を基材上に得た。得られた膜試料の厚さは約1.5μmであった。こうして、層状複水酸化物含有複合材料試料(以下、複合材料試料という)を得た。なお、LDH膜は多孔質基材の両面に形成されていたが、セパレータとして形態を複合材料に付与するため、多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削り取った。
(5)各種評価
(5a)膜試料の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、膜試料の結晶相を測定したところ、図8に示されるXRDプロファイルが得られた。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載される層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定した。その結果、膜試料は層状複水酸化物(LDH、ハイドロタルサイト類化合物)であることが確認された。なお、図8に示されるXRDプロファイルにおいては、膜試料が形成されている多孔質基材を構成するアルミナに起因するピーク(図中で○印が付されたピーク)も併せて観察されている。
(5b)微構造の観察
膜試料の表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。得られた膜試料の表面微構造のSEM画像(二次電子像)を図9に示す。
また、複合材料試料の断面をCP研磨によって研磨して研磨断面を形成し、この研磨断面の微構造を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。こうして得られた複合材料試料の研磨断面微構造のSEM画像を図10に示す。
(5c)気孔率の測定
膜試料について、画像処理を用いた手法により、膜の表面の気孔率を測定した。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して膜の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順でヒストグラムのしきい値を調整して白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は配向膜表面の6μm×6μmの領域について行われた。その結果、膜の表面の気孔率は19.0%であった。また、この膜表面の気孔率を用いて、膜表面から見たときの密度D(以下、表面膜密度という)をD=100%−(膜表面の気孔率)により算出したところ、81.0%であった。
また、膜試料について、研磨断面の気孔率についても測定した。この研磨断面の気孔率についても測定は、上記(5b)に示される手順に従い膜の厚み方向における断面研磨面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得したこと以外は、上述の膜表面の気孔率と同様にして行った。この気孔率の測定は配向膜断面の膜部分について行われた。こうして膜試料の断面研磨面から算出した気孔率は平均で3.5%(3箇所の断面研磨面の平均値)であり、多孔質基材上でありながら非常に高密度な膜が形成されていることが確認された。
(5d)緻密性判定試験I
膜試料が透水性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、図11Aに示されるように、上記(1)において得られた複合材料試料120(1cm×1cm平方に切り出されたもの)の膜試料側に、中央に0.5cm×0.5cm平方の開口部122aを備えたシリコンゴム122を接着し、得られた積層物を2つのアクリル製容器124,126で挟んで接着した。シリコンゴム122側に配置されるアクリル製容器124は底が抜けており、それによりシリコンゴム122はその開口部122aが開放された状態でアクリル製容器124と接着される。一方、複合材料試料120の多孔質基材側に配置されるアクリル製容器126は底を有しており、その容器126内にはイオン交換水128が入っている。すなわち、組み立て後に上下逆さにすることで、複合材料試料120の多孔質基材側にイオン交換水128が接するように各構成部材が配置されてなる。これらの構成部材等を組み立て後、総重量を測定した。図11Bに示されるように組み立て体を上下逆さに配置して25℃で1週間保持した後、総重量を再度測定した。このとき、アクリル製容器124の内側側面に水滴が付着している場合には、その水滴を拭き取った。そして、試験前後の総重量の差を算出することにより緻密度を判定した。その結果、25℃で1週間保持した後においても、イオン交換水の重量に変化は見られなかった。このことから、膜試料(すなわち機能膜)は透水性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
(5e)緻密性判定試験II
膜試料が通気性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、図12A及び12Bに示されるように、蓋の無いアクリル容器130と、このアクリル容器130の蓋として機能しうる形状及びサイズのアルミナ治具132とを用意した。アクリル容器130にはその中にガスを供給するためのガス供給口130aが形成されている。また、アルミナ治具132には直径5mmの開口部132aが形成されており、この開口部132aの外周に沿って膜試料載置用の窪み132bが形成されてなる。アルミナ治具132の窪み132bにエポキシ接着剤134を塗布し、この窪み132bに複合材料試料136の膜試料136b側を載置してアルミナ治具132に気密かつ液密に接着させた。そして、複合材料試料136が接合されたアルミナ治具132を、アクリル容器130の開放部を完全に塞ぐようにシリコーン接着剤138を用いて気密かつ液密にアクリル容器130の上端に接着させて、測定用密閉容器140を得た。この測定用密閉容器140を水槽142に入れ、アクリル容器130のガス供給口130aを圧力計144及び流量計146に接続して、ヘリウムガスをアクリル容器130内に供給可能に構成した。水槽142に水143を入れて測定用密閉容器140を完全に水没させた。このとき、測定用密閉容器140の内部は気密性及び液密性が十分に確保されており、複合材料試料136の膜試料136b側が測定用密閉容器140の内部空間に露出する一方、複合材料試料136の多孔質基材136a側が水槽142内の水に接触している。この状態で、アクリル容器130内にガス供給口130aを介してヘリウムガスを測定用密閉容器140内に導入した。圧力計144及び流量計146を制御して膜試料136a内外の差圧が0.5atmとなる(すなわちヘリウムガスに接する側に加わる圧力が反対側に加わる水圧よりも0.5atm高くなる)ようにして、複合材料試料136から水中にヘリウムガスの泡が発生するか否かを観察した。その結果、ヘリウムガスに起因する泡の発生は観察されなかった。よって、膜試料136bは通気性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
例2:空気亜鉛二次電池の作製
(1)多孔質基材付きセパレータの用意
例1と同様の手順により、多孔質基材付きセパレータ(以下、単にセパレータという)として、アルミナ基材上ハイドロタルサイト膜を用意した。
(2)空気極層の作製
空気極触媒としてのα−MnO粒子を次のようにして作製した。まず、Mn(SO)・5HO及びKMnOを5:13のモル比で脱イオン水に溶かして混合した。得られた混合液をテフロンが内貼りされたステンレス製密閉容器に入れ、140℃で水熱合成を2時間行う。水熱合成により得られた沈殿物をろ過し、蒸留水で洗浄した後、80℃で6時間乾燥した。こうしてα−MnOの粉末を得た。
水酸化物イオン伝導性材料としての層状複水酸化物粒子(以下、LDH粒子という)を次のようにして作製した。まず、Ni(NO・6HO及びFe(NO・9HOを脱イオン水にNi:Fe=3:1のモル比になるように溶かして混合した。得られた混合液を70℃で0.3MのNaCO溶液に撹拌しながら滴下した。この際、2MのNaOH溶液を加えながら混合液のpHを10に調整して、70℃で24時間保持する。混合液中に生成した沈殿物をろ過し、蒸留水で洗浄後、80℃で乾燥してLDHの粉末を得た。
先に得られたα−MnO粒子及びLDH粒子、並びに電子伝導性材料としてのカーボンブラック(Cabot社製、品番VXC72)を所定の配合比となるように秤量して、エタノール溶媒の共存下で湿式混合した。得られた混合物を70℃で乾燥した後、解砕する。得られた解砕粉をバインダー(PTFE、エレクトロケム社製、品番EC−TEF−500ML)及び水と混合してフィブリル化した。このとき、水の添加量は空気極に対して1質量%とした。こうして得られたフィブリル状混合物を厚さ50μmとなるように集電体(カーボンクロス(エレクトロケム社製、品番EC−CC1−060T))にシート状に圧着して空気極層/集電体の積層シートを得た。こうして得られた空気極層は、電子伝導相(カーボンブラック)を20体積%、触媒層(α−MnO粒子)を5体積%、水酸化物イオン伝導相(LDH粒子)を70体積%及びバインダー相(PTFE)を5体積%含むものであった。
(3)セパレータ付き空気極の作製
アニオン交換膜(アストム社、ネオセプタAHA)を1MのNaOH水溶液に一晩浸漬させた。このアニオン交換膜をセパレータのハイドロタルサイト膜上に中間層として積層して、セパレータ/中間層積層体を得る。中間層の厚さは30μmである。得られたセパレータ/中間層積層体に、先に作製した空気極層/集電体の積層シートを、空気極層側が中間層と接するように圧着して、セパレータ付き空気極試料を得る。
(4)負極板の作製
銅パンチングメタルからなる集電体上に、酸化亜鉛粉末80重量部、亜鉛粉末20重量部及びポリテトラフルオロエチレン粒子3重量部からなる混合物を塗布して、多孔度約50%で活物質部分が塗工された負極板を得る。
(5)第三電極の作製
ニッケルメッシュからなる集電体上に白金ペーストを塗布して、第三電極を得る。
(6)電池の組み立て
上記得られたセパレータ付き空気極、負極板、及び第三電極を用いて、図1Aに示されるような横型構造の亜鉛空気二次電池を以下のような手順で作製する。まず、ABS樹脂製で直方体形状を有する蓋の無い容器(以下、樹脂容器という)を用意する。この樹脂容器の底に負極板を、負極活物質が塗工された側が上を向くように載置する。このとき、負極集電体が樹脂容器の底部に接しており、負極集電体の端部が樹脂容器側面に貫通して設けられる外部端子と接続する。次に、樹脂容器内壁の負極板の上面よりも高い位置に(すなわち負極板と接触せず充放電反応に関与しない位置)に第三電極を設け、不織布セパレータを第三電極と接触するように配置する。樹脂容器の開口部をセパレータ付き空気極で空気極側が外側になるように塞ぎ、その際、開口部の外周部分に市販の接着剤を塗工して気密性及び液密性を与えるように封止する。樹脂容器の上端近傍に設けられた小さな注入口を介して樹脂容器内に6mol/LのKOH水溶液を電解液として注入する。こうして、セパレータが電解液と接触するとともに、不織布セパレータの保液性により電解液の増減に関わらず電解液が第三電極に常時接触可能な状態とされる。このとき、注入する電解液の量は、放電末状態で電池を作製すべく、樹脂容器内で負極活物質塗工部分が十分に隠れるだけでなく、充電時に減少することが見込まれる水分量を考慮した過剰量とする。したがって、樹脂容器は上記過剰量の電解液を収容できるように設計されている。最後に、樹脂容器の注入口を封止する。こうして樹脂容器及びセパレータで区画された内部空間は気密且つ液密に密閉されている。最後に第三電極と空気極の集電層とを外部回路を介して接続する。こうして本発明の亜鉛空気二次電池を得る。
かかる構成によれば、セパレータが水及び気体を通さない程の高度な緻密性を有するため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止し、かつ、空気中の二酸化炭素の侵入を阻止して電解液中での(二酸化炭素に起因する)アルカリ炭酸塩の析出を防止することができる。その上、負極14から副反応により発生しうる水素ガスを第三電極18に接触させて前述した反応を経て水に戻すことができる。すなわち、亜鉛デンドライトによる短絡及び二酸化炭素の混入の両方を防止するのに好適な構成を有しながら、水素ガス発生の問題にも対処可能な、信頼性の高い亜鉛空気二次電池が提供される。
10,10’ 亜鉛空気二次電池
12 空気極
14 負極
16 電解液
18 第三電極
20,20’ セパレータ
22 正極集電体
24 負極集電体
26 容器
26a 開口部
28 多孔質基材
30 並列積層型亜鉛空気二次電池

Claims (19)

  1. 正極としての空気極と、
    亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物を含んでなる負極と、
    前記負極が浸漬される水系電解液と、
    前記電解液と接触するが前記負極と接触しないように設けられる第三電極と、
    開口部を有し、前記負極、前記電解液及び前記第三電極を収容する容器と、
    前記開口部を前記電解液と接触可能に塞いで前記容器と負極側密閉空間を形成し、それにより前記空気極と前記電解液を水酸化物イオン伝導可能に隔離する、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しないセパレータと、
    を備えてなり、前記第三電極が外部回路を経て前記空気極と接続されてなる、亜鉛空気二次電池。
  2. 前記第三電極は前記空気極よりも酸素過電圧が大きい、請求項1に記載の亜鉛空気二次電池。
  3. 前記第三電極が通常の充放電反応に関与しない、請求項1又は2に記載の亜鉛空気二次電池。
  4. 前記第三電極が白金及び/又は炭素材料を含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の亜鉛空気二次電池。
  5. 前記第三電極が炭素材料を含んでなり、該炭素材料が天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、活性炭からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の亜鉛空気二次電池。
  6. 前記セパレータが横に設けられ、前記負極側密閉空間が前記セパレータの下方に位置し、かつ、前記第三電極が前記負極の上方に設けられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の亜鉛空気二次電池。
  7. 前記セパレータが縦に設けられ、前記負極側密閉空間が前記セパレータの側方に位置し、かつ、前記第三電極が前記負極の上方に設けられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の亜鉛空気二次電池。
  8. 前記セパレータが無機固体電解質体からなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の亜鉛空気二次電池。
  9. 前記無機固体電解質体が90%以上の相対密度を有する、請求項8に記載の亜鉛空気二次電池。
  10. 前記無機固体電解質体が、一般式:
    2+ 1−x3+ (OH)n− x/n・mH
    (式中、M2+は2価の陽イオンであり、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1〜0.4である)
    の基本組成を有する層状複水酸化物からなる、請求項8又は9に記載の亜鉛空気二次電池。
  11. 前記一般式において、M2+がMg2+を含み、M3+がAl3+を含み、An−がOH及び/又はCO 2−を含む、請求項10に記載の亜鉛空気二次電池。
  12. 前記無機固体電解質体が、板状、膜状又は層状の形態を有する、請求項8〜11のいずれか一項に記載の亜鉛空気二次電池。
  13. 前記セパレータの片面又は両面に多孔質基材をさらに備えた、請求項8〜12のいずれか一項に記載の亜鉛空気二次電池。
  14. 前記無機固体電解質体が膜状又は層状の形態であり、該膜状又は層状の無機固体電解質体が前記多孔質基材上又はその中に形成されたものである、請求項13に記載の亜鉛空気二次電池。
  15. 前記無機固体電解質体が水熱処理によって緻密化されたものである、請求項8〜14のいずれか一項に記載の亜鉛空気二次電池。
  16. 前記空気極の前記セパレータと反対側に設けられる、通気性を有する正極集電体をさらに備えた、請求項1〜15のいずれか一項に記載の亜鉛空気二次電池。
  17. 前記負極に接触して設けられる負極集電体をさらに備えた、請求項1〜16のいずれか一項に記載の亜鉛空気二次電池。
  18. 前記負極集電体が前記容器を貫通して延在してなる、請求項1〜17のいずれか一項に記載の亜鉛空気二次電池。
  19. 前記水系電解液が、アルカリ金属水酸化物水溶液である、請求項1〜18のいずれか一項に記載の亜鉛空気二次電池。
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