以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の架構体の設計方法(以下、単に「設計方法」ということがある)は、工業化住宅等の建築物の架構体を、コンピュータを用いて設計するための方法である。
図1は、本実施形態の設計方法を実行するコンピュータの斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んでいる。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置及びディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。
また、記憶装置には、本実施形態の設計方法の処理手順(プログラム)が予め記憶されている。処理手順は、コンピュータ1の演算処理装置によって実行される。従って、コンピュータ1は、本発明の設計方法を実施するための設計装置1Aとして構成されている。
図2は、本実施形態の建築物の架構体の斜視図である。本実施形態の架構体2は、柱3、梁4及び耐力壁5を含む構造部材6を有している。架構体2は、一対の柱3、3と、該柱3、3間を継ぐ少なくとも1本の梁4とを含む垂直な架構面7が形成されている。この架構面7に、耐力壁5が配置されている。本実施形態の耐力壁5は、2本の柱5a、5aと、該柱5a、5a間に接続されかつ互いに逆向きに傾く2本の斜材5b、5bとを含んで構成されている。
図3は、本実施形態の設計方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。設計方法では、図2に示した架構体2を構成する構造部材6の配置の最適解が計算される。本実施形態において、最適解が計算される構造部材は、耐力壁5である。この耐力壁5の配置の最適解に基づいて、架構体2及び建築物Bが製造される。
本実施形態の設計方法では、先ず、コンピュータ1に、建築物の基本情報が入力される(基本情報入力工程S1)。図4は、本実施形態の基本情報入力工程S1の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の基本情報入力工程S1では、先ず、建築物Bの架構体2の形状が、コンピュータ1に入力される(工程S11)。図5は、耐力壁5を省いた架構体2の斜視図である。図6は、図5の平面図である。工程S11では、例えば、建築物Bの柱3、梁4、架構面7及び屋根8の形状及び配置が、コンピュータ1に入力される。なお、工程S11において、最適解が計算される耐力壁5(図2)は、入力されない。
柱3及び梁4は、予め定められた水平モジュール又は垂直モジュールを基準として、その配置や長さ等が設定されている。また、柱3及び梁4は、例えば、ボルトがモデル化されたピン9により固定されている。これにより、耐力壁5(図2に示す)を除いた架構体2及び架構面7が設定される。
柱3及び梁4には、例えば、それらの断面形状や、断面2次モーメント等の構造計算に必要なパラメータが設定される。このような柱3及び梁4の配置等やパラメータは、いずれも数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
図5に示されるように、本実施形態の架構面7は、X軸方向に沿って配置されるX軸架構面11と、Y軸方向に沿って配置されるY軸架構面12とを含んでいる。
図7(a)は、X軸架構面を示す斜視図である。X軸架構面11は、架構体2の1階に配置される第1架構面11A〜第6架構面11Fと、2階に配置される第7架構面11G〜第12架構面11Lとを含んで構成されている。
図7(b)は、Y軸架構面を示す斜視図である。Y軸架構面12は、架構体2の1階に配置される第13架構面12A〜第16架構面12Fと、2階に配置される第17架構面12G〜第24架構面12Lとを含んで構成されている。これらの架構面11A〜12Lは、コンピュータ1に記憶される。
図6に示されるように、屋根8は、柱3及び梁4と同様に、水平モジュール又は垂直モジュールを基準として、その配置や形状が設定されている。このような屋根8の配置等が、数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態では、建築物Bの荷重条件が、コンピュータ1に入力される(工程S12)。荷重条件は、建築物Bに作用する外力に関する情報である。荷重条件は、例えば、建築物の各種仕様、例えば、外壁仕様、床仕様、屋根葺材、耐火仕様、耐震等級、又は、耐風等級などに基づいて入力される。このような荷重条件も数値データであり、コンピュータ1に記憶される。
これらの建築物の基本情報は、例えば、一般的なCADや一貫構造計算システム等のソフトウェアを用いて設定することができる。本実施形態では、二階建ての建築物Bが一例として示されたが、例えば、一階建ての建築物Bや、三階建て以上の建築物Bでも良い。
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1に、架構体2の架構面7に、構造部材6(耐力壁5)を配置するための設計制約条件が入力される(工程S2)。図8は、耐力壁5を配置できる領域を示す平面図である。
本実施形態の設計制約条件は、各架構面11A〜12L(図7に示す)において、耐力壁5を配置できる領域(以下、単に「配置可能領域」ということがある。)14に関する情報が含まれる。配置可能領域14は、各架構面11A〜12Lにおいて、窓や扉等の開口部15を除いた領域として設定されている。
また、本実施形態の設計制約条件には、架構体2の層間変形角、及び、架構体2のコストが含まれる。層間変形角は、地震時の架構体2の水平変位を、階高で除した値である。層間変形角が小さいほど、架構体の強度が高く良好である。層間変形角の制約条件については、適宜設定することができる。本実施形態の層間変形角の制約条件は、例えば、1/200radに設定される。架構体2のコストは、建築物Bの予算に基づいて、適宜設定することができる。これらの設計制約条件は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の設計方法では、構造部材6(本実施形態では、耐力壁5)の種類を表す複数の対立遺伝子を含んだ対立遺伝子群が、コンピュータ1に入力される(対立遺伝子群入力工程S3)。図9は、本実施形態の対立遺伝子群入力工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。図10は、対立遺伝子を説明する図である。
本実施形態の対立遺伝子群入力工程S3では、先ず、最適解が計算される構造部材6(本実施形態では、耐力壁5)が、コンピュータ1に入力される(工程S31)。図8及び図10に示されるように、本実施形態では、例えば、建築物Bの水平モジュールL3に基づいて、幅W1が異なる複数種類の耐力壁5が設定される。耐力壁5は、例えば、幅W1aが450mmの小耐力壁5Aと、幅W1bが600mmの中耐力壁5Bと、幅W1cが900mmの大耐力壁5C(図示省略)とを含んでいる。各耐力壁5A、5B、5Cは、柱5a及び斜材5bの断面形状や、断面2次モーメント等を含む数値データであり、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の対立遺伝子群入力工程S3では、対立遺伝子を含んだ対立遺伝子群が入力される(工程S32)。図11は、染色体情報及び対立遺伝子群の一例を示す線図である。本実施形態の対立遺伝子16は、種類遺伝子16a及び位置遺伝子16bを含んでいる。また、対立遺伝子群17は、種類遺伝子16aを含んだ種類遺伝子群17aと、位置遺伝子16bを含んだ位置遺伝子群17bとを含んでいる。本実施形態の工程S32では、種類遺伝子群17a及び位置遺伝子群17bが入力される。
本実施形態の種類遺伝子16aは、各架構面11A〜12L(図7に示す)について、設計制約条件の配置可能領域14に配置可能な耐力壁5の種類(各耐力壁5A、5B、5Cの種類(組み合わせ))が示されている。さらに、本実施形態の各種類遺伝子16aは、各耐力壁5A、5B、5Cの枚数も示されている。
種類遺伝子群17aは、各架構面11A〜12L(図7に示す)において、各耐力壁5A、5B、5Cの種類(組み合わせ)、及び、各耐力壁5A、5B、5Cの枚数が異なる複数の種類遺伝子16aによって構成されている。種類遺伝子16aには、各耐力壁5A、5B、5Cが何も配置されない「無配置」が含まれている。なお、配置可能領域14に配置可能な耐力壁5の種類(組み合わせ)及び枚数をもれなく設定するために、各種類遺伝子16aが、コンピュータ1によって自動で設定されるのが望ましい。
各種類遺伝子16aには、インデックス、第1定数N1、及び、第2定数N2が関連付けられている。インデックスは、種類遺伝子群17aの中から、種類遺伝子16aを一意に識別するためのものである。
第1定数N1は、各種類遺伝子16aが表す耐力壁5の水平荷重への抵抗力(耐力)を示したものである。本実施形態の第1定数N1は、種類遺伝子16aで表される耐力壁5の合計耐力を、1枚の大耐力壁5Cの耐力を「1.00」として換算した値である。従って、第1定数N1(耐力)は、その数値が大きいほど、水平荷重への抵抗力が高く良好であることを示している。
第2定数N2は、各種類遺伝子群17aにおいて、種類遺伝子16aで特定される耐力壁5のコストの順番を示したものである。本実施形態の第2定数N2は、種類遺伝子16aが「無配置」のものを「0」として、耐力壁5のコストが小さい順に付与された数値である。第2定数N2(耐力壁5のコストの順番)は、その数値が小さいほど、耐力壁5のコストが小さく良好であることを示している。このような種類遺伝子群17aは、数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
図12は、位置遺伝子群の一例を示す線図である。本実施形態の位置遺伝子16bは、各架構面11A〜12L(図7に示す)において、種類遺伝子16aで特定される耐力壁5が固定される位置を定義するためのものである。図12では、第1架構面11Aの位置遺伝子群17bの一部が示されている。
位置遺伝子群17bは、各架構面11A〜12L(図7に示す)において、種類遺伝子16aで特定される耐力壁5の種類(インデックス:1〜9)毎に、耐力壁5の固定位置が異なる複数の位置遺伝子16bによって構成されている。なお、種類遺伝子16aが「無配置」の場合、耐力壁5は配置されない。このため、種類遺伝子16aが「無配置」の位置遺伝子群17bについては、定義されない。
本実施形態では、設計制約条件の配置可能領域14を考慮して、耐力壁5の固定位置が設定される。このため、配置可能領域14以外の領域に固定された耐力壁5が定義されることはない。また、配置可能領域14に固定可能な耐力壁5の固定位置をもれなく設定するために、各位置遺伝子16bが、コンピュータ1によって自動で設定されるのが望ましい。
各位置遺伝子16bには、位置遺伝子群17bの中から、位置遺伝子16bを一意に識別するためのインデックスの範囲(レンジ)が関連付けられている。本実施形態のレンジは、種類遺伝子16aで特定される各耐力壁5の種類について、位置遺伝子16bを特定するためのインデックスの合計範囲(例えば、0〜1)を、位置遺伝子16bの合計個数で分割した範囲である。
図12において、例えば、種類遺伝子16aが「大耐力壁(インデックス:5)」では、位置遺伝子16bの合計個数が10である。この場合、大耐力壁(インデックス:5)の位置遺伝子16bの各レンジは、「0〜0.1」、「0.1〜0.2」…「0.9〜1」が設定される。このようなレンジは、例えば、位置遺伝子16bを特定するためのインデックスが「0.9609」である場合、インデックスが含まれるレンジ「0.9〜1」が設定された位置遺伝子16b(耐力壁5の固定位置)が特定される。位置遺伝子群17bは、数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
本実施形態の設計方法では、コンピュータ1が、架構体2を定義するための染色体情報を複数定義した集団を生成する(集団生成工程S4)。図13は、複数の染色体情報で構成される集団の概念図である。本実施形態の集団18は、複数の染色体情報19を含んで構成されている。各染色体情報19は、少なくとも一つの遺伝子座21と、この遺伝子座21に格納される遺伝子22とを含んでいる。
本実施形態の遺伝子座21は、各架構面11A〜12Lにおいて、種類遺伝子座21A及び位置遺伝子座21Bが1個ずつ定義されている。
各種類遺伝子座21Aの遺伝子22としては、各架構面11A〜12Lにおいて、種類遺伝子群17a(図11に示す)から選択された一つの種類遺伝子16aが割り当てられる。本実施形態の種類遺伝子座21Aには、種類遺伝子16aのインデックスのみが格納される。これにより、染色体情報19は、各架構面11A〜12Lに配置される耐力壁5の種類(組み合わせ)を特定することができる。
各位置遺伝子座21Bの遺伝子22としては、各架構面11A〜12Lにおいて、種類遺伝子座21Aの種類遺伝子16aに対応する位置遺伝子群17b(図12に示す)から、一つ選択された位置遺伝子16bが割り当てられる。本実施形態の位置遺伝子座21Bには、位置遺伝子16bを特定するためのインデックスの合計範囲(例えば、0〜1)から選択されるインデックス(数値)が格納される。これにより、染色体情報19は、各架構面11A〜12Lにおいて、耐力壁5の固定位置を特定することができる。
図14は、染色体情報から特定される架構体の一例を示す斜視図である。各染色体情報19は、各種類遺伝子座21A及び各位置遺伝子座21Bに、遺伝子22(種類遺伝子16a及び位置遺伝子16b)がそれぞれ割り当てられることにより、耐力壁5が配置された一つの架構体2(設計サンプル)が定義される。本実施形態の集団生成工程S4では、複数の染色体情報19が定義された集団18が生成される。このような集団18及び染色体情報19は、数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
種類遺伝子16a及び位置遺伝子16bの各インデックスは、例えば、乱数に従ってランダムに選択されるのが望ましい。これにより、各種類遺伝子座21A及び各位置遺伝子座21Bには、種類遺伝子16a及び位置遺伝子16bが不規則に設定されるため、様々なバリエーションの染色体情報19を容易に定義することができる。
次に、コンピュータ1が、集団18を用いて、構造部材(本実施形態では、耐力壁5)の配置の最適解を、遺伝的アルゴリズム(GA)に基づいて計算する(最適化計算工程S5)。
遺伝的アルゴリズムは、生物が環境に適応して進化していく過程を、工学的に模倣した学習的アルゴリズムである。この遺伝的アルゴリズムでは、遺伝子22で表現した複数の染色体情報19に対して、交叉、又は、突然変異等の遺伝子操作が繰り返えし実施される。これにより、遺伝的アルゴリズムでは、少ないサンプルから、染色体情報19を時系列的に進化させることができるため、最適解を能率的に得ることができる。
耐力壁5の配置の最適解は、染色体情報19に基づいて計算される第1目標変数が、予め定められた第1目標値を少なくとも満たすものである。本実施形態の第1目標変数T1は、下記式(1)で求めることができる。図15は、第1目標変数及び第2目標変数の計算結果を示す線図である。
T1=D1/L1−1 …(1)
ここで、
D1:架構体の層間変形角
L1:設計制約条件の層間変形角
上記式(1)において、第1目標変数T1は、架構体2の層間変形角D1に基づいて計算される。層間変形角D1は、各染色体情報19で定義される架構体2を、構造分析(構造シミュレーション)することによって計算される。
上記式(1)において、第1目標変数T1が「0」以下の場合、染色体情報19で定義される架構体2の層間変形角D1は、設計制約条件の層間変形角L1を満たしている。他方、第1目標変数T1が「0」よりも大きい場合、染色体情報19で定義される架構体2の層間変形角D1は、設計制約条件の層間変形角L1を満たしていない。さらに、第1目標変数T1が大きくなるほど、染色体情報19で定義される架構体2の層間変形角D1が悪化する。
本実施形態において、「第1目標変数T1が第1目標値を満たす」とは、第1目標変数T1が、第1目標値以下であることを意味している。第1目標値は、建築物Bに求められる耐震性能に基づいて、適宜設定することができる。本実施形態では、第1目標変数T1が、設計制約条件の層間変形角L1を満たす染色体情報19を最適解としている。このため、第1目標値は、「0」が設定されている。なお、設計制約条件よりも高い耐震性能を有する最適解を求めるために、第1目標値として「0」未満の数値が設定されてもよい。また、設計制約条件よりも低い耐震性能を許容する場合は、第1目標値として「0」より大きい数値が設定されてもよい。
層間変形角D1は、耐力壁5の合計耐力が大きいほど、その値が小さくなりやすい。従って、染色体情報19に格納される種類遺伝子16aの第1定数N1(即ち、耐力壁5の合計耐力)が大きくなるほど、第1目標変数T1を向上させる傾向がある。このため、第1定数N1と、第1目標変数T1とは、相関がある。
本実施形態の第1目標変数T1は、層間変形角D1に基づいて計算されるものが例示されたが、これに限定されるわけではない。染色体情報19から計算可能な架構体2の性能であれば、適宜設定することができる。
さらに、本実施形態の最適解は、第1目標変数T1が第1目標値を満たすとともに、染色体情報19に基づいて計算される第2目標変数T2が最も良好な染色体情報19である。第2目標変数T2は、第1目標変数T1とは独立した変数である。本実施形態の第2目標変数T2は、下記式(2)及び下記式(3)に基づいて求めることができる。
T2=C2/L2−1 …(2)
C2=C0+C1 …(3)
ここで、
C0:架構体の純コスト
C1:ペナルティ
L2:設計制約条件の架構体のコスト
上記式(3)において、架構体の純コストC0は、各染色体情報19で定義される架構体2の部材に基づいて、純粋に計算されたコストである。ペナルティC1は、第1目標変数T1が第1目標値を満たさない場合(T1>0)に設定される数値である。従って、上記式(3)の「C2」は、架構体2の純コストC0に、第1目標変数T1のペナルティが加算された架構体2のコストである。ペナルティC1は、例えば、下記式に基づいて計算される。本実施形態では、第1目標変数T1が第1目標値よりも大きくなるほど、ペナルティC1が大きくなる。なお、パラメータPは、適宜設定することができる。
C1=P×T1 (T1>0)
C1=0 (T1≦0)
ここで、
P:ペナルティの大きさを調整するパラメータ
上記式(2)において、第2目標変数T2が「0」以下の場合、染色体情報19で定義される架構体2のコストC2は、設計制約条件のコストL2を満たしている。他方、第2目標変数T2が「0」よりも大きい場合、染色体情報19で定義される架構体2のコストC2は、設計制約条件のコストL2を満たしていない。さらに、第2目標変数T2が大きくなるほど、染色体情報19で定義される架構体2のコストC2が悪化する。
架構体2の純コストC0は、耐力壁5のコストが小さいほど、その値が小さくなりやすい。従って、染色体情報19に格納される種類遺伝子16aの第2定数N2(即ち、耐力壁5のコストの順番)が小さいほど、第2目標変数T2を向上させる傾向がある。このため、第2定数N2と、第2目標変数T2とは相関がある。
本実施形態の第2目標変数T2は、架構体2の純コストC0等に基づいて計算されるものが例示されたが、これに限定されるわけではない。染色体情報19から計算可能な架構体2の性能であれば、適宜設定することができる。
図16は、本実施形態の最適化計算工程S5の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の最適化計算工程S5では、先ず、集団18の各染色体情報19に基づいて、架構体2の第1目標変数T1が計算される(工程S51)。工程S51では、集団18に属する全ての染色体情報19に基づいて、架構体2の第1目標変数T1が計算される。なお、第1目標変数T1の計算については、上述したとおりである。各染色体情報19の第1目標変数T1は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の最適化計算工程S5では、集団18の各染色体情報19に基づいて、架構体2の第2目標変数T2が計算される(工程S52)。工程S52では、集団18に属する全ての染色体情報19に基づいて、架構体2の第2目標変数T2が計算される。なお、第2目標変数T2の計算については、上述したとおりである。各染色体情報19の第2目標変数T2は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の最適化計算工程S5では、第1目標変数T1を満足する少なくとも一つの染色体情報19が存在するか否かが判断される(工程S53)。本実施形態の工程S53では、集団18を構成する全ての染色体情報19のうち、第1目標変数T1が第1目標値を満足する染色体情報19が存在すると判断された場合(工程S53で、「Y」)、次の工程S55が実行される。
一方、第1目標変数T1が第1目標値を満足する染色体情報19が存在しないと判断された場合(工程S53で、「N」)は、コンピュータ1が、少なくとも一部の染色体情報19に対して、交叉及び突然変異等の遺伝子操作を実施し(遺伝子操作工程S54)、再構築した染色体情報19を含む集団18に基づいて、工程S51〜工程S53が再度実行される。これにより、最適化計算工程S5では、第1目標変数T1が第1目標値を満足する染色体情報19を、確実に得ることができる。
次に、本実施形態の最適化計算工程S5では、最適化計算工程S5の終了条件を満足するか否かが判断される(工程S55)。本実施形態では、第2目標変数T2が「0」以下の(即ち、設計制約条件のコストL2を満たす)染色体情報19が、少なくとも一つ存在することを、終了条件としている。これにより、第1目標変数T1及び第2目標変数T2をともに満足する染色体情報19を、確実に得ることができる。
さらに、終了条件には、第2目標変数T2が最も良好な(即ち、架構体2のコストが最も小さい)染色体情報19が、複数回(例えば、5〜15回)更新されないことが追加されるのが望ましい。これにより、第2目標変数T2が収束するまで向上させた染色体情報19を確実に得ることができる。
本実施形態の工程S55では、最適化計算工程S5の終了条件を満足すると判断された場合(工程S55で、「Y」)、次の製造工程S6(図3に示す)が実施される。一方、最適化計算工程S5の終了条件を満足しないと判断された場合(工程S55で、「N」)は、遺伝子操作工程S54が実施され、再構築された染色体情報19を含む集団18に基づいて、工程S51〜工程S54が再度実行される。これにより、最適化計算工程S5では、終了条件を満足しうる染色体情報19を確実に得ることができる。
製造工程S6では、最終世代の集団18において、最適解の染色体情報19(即ち、第1目標変数T1が第1目標値を満たすとともに、第2目標変数T2が最も良好な染色体情報19)に基づいて、架構体2及び建築物Bが製造される。これにより、本実施形態の設計方法では、強度が高く、コストを所定の範囲に抑えた合理的な設計の架構体2及び建築物Bを、容易かつ確実に製造することができる。
図17は、本実施形態の遺伝子操作工程S54の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の遺伝子操作工程S54では、先ず、第1目標変数T1及び第2目標変数T2に基づいて、集団18に属する複数の染色体情報19が並び替えられる(工程S541)。
本実施形態の工程S541では、先ず、第1目標変数T1を満たす(即ち、第1目標値「0」以下の)染色体情報19と、第1目標変数T1を満たさない(即ち、第1目標値「0」よりも大きい)染色体情報19とに分別される。そして、第1目標変数T1を満たす染色体情報19、及び、第1目標変数T1を満たさない染色体情報19のそれぞれにおいて、第2目標変数T1が良好な順(即ち、小さい順)に並び替えられる。
次に、本実施形態の遺伝子操作工程S54では、各染色体情報19が、エリート群23及び非エリート群24に分類される(工程S542)。本実施形態において、エリート群23は、交叉又は突然変異させることなく、新たな(次世代の)集団18に含められる染色体情報19である。本実施形態のエリート群23は、第1目標変数T1を満たす染色体情報19から構成される。一方、非エリート群24は、第1目標変数T1を満たさない染色体情報19から構成される。これにより、第1目標変数T1を既に満たしているエリート群23の染色体情報19が、新たな集団18に含められるため、最適解の染色体情報19(即ち、第1目標変数T1が第1目標値を満たすとともに、第2目標変数T2が最も良好な染色体情報19)を効率よく得ることができる。
エリート群23は、上記のように並び替えられた染色体情報19のうち、最適化度が最も高い染色体情報19から順に、一定の割合だけ選択された染色体情報19で構成されてもよい。これにより、集団18は、最適解に近い一部の染色体情報19を除いて、その大部分を、交叉又は突然変異がなされた染色体情報19で構成されるため、最適解の染色体情報19をより効率よく得ることができる。この場合、エリート群23の割合は、全ての染色体情報19の0%よりも大、かつ、20%以下に定めることができる。
次に、本実施形態の遺伝子操作工程S54では、次の工程S51及び工程S52で用いられる染色体情報19の新たな(次世代の)集団18が生成される(次世代集団生成工程S543)。上述したように、エリート群23の染色体情報19が、交叉又は突然変異させることなく、新たな(次世代の)集団18にそのまま含められる。そして、新たな集団18を構成する残りの染色体情報19は、元の集団18の染色体情報19に基づいて、交叉又は突然変異が実行されることによって設定される。図18は、本実施形態の次世代集団生成工程S543の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の次世代集団生成工程S543では、先ず、エリート群23の染色体情報19が、新たな(次世代の)集団18に含められる(工程S71)。これにより、エリート群23の染色体情報19が、遺伝子操作によって劣化するのを防ぐことができるため、効率よく最適解を求めることができる。このエリート群23の染色体情報19は、次世代の集団18を構成する染色体情報19として、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の次世代集団生成工程S543では、新たな集団18を構成する一部の染色体情報19を交叉によって生成する(交叉工程S72)。交叉工程S72では、元の集団18を構成する全ての染色体情報19(エリート群23及び非エリート群24を含む)において、一部の染色体情報19が、コンピュータ1によってランダムに選択される。そして、選択された染色体情報19を対象に、交叉が実施される。図19(a)は、交叉前の染色体情報の一例を示す概念図である。図19(b)は、交叉後の染色体情報の一例を示す概念図である。
本実施形態の交叉工程S72では、例えば、一対の染色体情報19a、19bにおいて、二つの交叉点26、26で挟まれた遺伝子座21に格納された遺伝子22(種類遺伝子16a又は位置遺伝子16b)を入れ換える。このような交叉では、同一の架構面11A〜12Lを設定する遺伝子座21、21間で、遺伝子16a、16bが入れ替えられる。従って、染色体情報19は、その種類遺伝子16a又は位置遺伝子16bを、同一の架構面11A〜12Lに定義された他の染色体情報19の種類遺伝子16a又は位置遺伝子16bで再構成することができる。この再構成された染色体情報19は、新たな(次世代の)集団18を構成する染色体情報19として、コンピュータ1に記憶される。なお、交叉点26、26は、コンピュータ1によってランダムに設定されるのが望ましい。
本実施形態において、交叉は、二つの交叉点26、26で挟まれた遺伝子22を入れ換える二点交叉である場合が例示されたが、これに限定されるわけではない。交叉としては、例えば、一点交叉、多点交叉、又は、一様交叉などでもよく、これらを組み合わせ実施されるものでもよい。
次に、本実施形態の次世代集団生成工程S543では、新たな集団18を構成する一部の染色体情報19を突然変異によって生成する(突然変異工程S73)。本実施形態の突然変異工程S73では、元の集団18を構成する全ての染色体情報19(エリート群23及び非エリート群24を含む)において、一部の染色体情報19を対象に突然変異が実施される。
突然変異は、遺伝子座21に格納されている遺伝子22(種類遺伝子16a、位置遺伝子16b)を、対立遺伝子群17から選択された他の対立遺伝子16(種類遺伝子16a、位置遺伝子16b)に置換するものである。このような突然変異は、交叉とは異なり、各染色体情報19に設定されている遺伝子22に限定されることなく、新たな対立遺伝子16で、遺伝子座21の遺伝子22を再構成することができる。従って、突然変異は、局所的な最適解に陥ることを防ぎうる。図20は、突然変異工程S73の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の突然変異工程S73では、先ず、突然変異が実施される染色体情報19について、第1目標変数T1が第1目標値を満たすか否かが判断される(工程S731)。工程S731は、第1目標変数T1が、第1目標値を満たさないと判断された場合(工程S731で、「N」)、第1目標変数T1を向上させる可能性が高い第1対立遺伝子が選択される確率を高めて、突然変異させる第1突然変異工程S732が実施される。他方、第1目標変数T1が、第1目標値を満たすと判断された場合(工程S731で、「Y」)、第2目標変数T2を向上させる可能性が高い第2対立遺伝子が選択される確率を高めて、突然変異させる第2突然変異工程S733が実施される。
第1突然変異工程S732では、遺伝子座21に格納されている遺伝子22が、対立遺伝子群17から選択される他の対立遺伝子16に置換される。本実施形態の第1突然変異工程S732では、種類遺伝子座21aに格納されている遺伝子22(種類遺伝子16a)が、種類遺伝子群17aから選択される他の対立遺伝子16(種類遺伝子16a)に置換される。図21は、第1突然変異工程S732の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第1突然変異工程S732では、先ず、遺伝子22を突然変異させる遺伝子座21が選択される(第1選択工程S81)。第1選択工程S81では、染色体情報19毎に、種類遺伝子16aを突然変異させる種類遺伝子座21aが選択される確率(以下、「第3確率」ということがある。)を異ならせている。図22は、本実施形態の第1選択工程S81の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第1選択工程S81では、先ず、遺伝子22を突然変異させる遺伝子座21が選択される確率(第3確率)が求められる(工程S811)。図23は、本実施形態の第3確率の分布(以下、単に「第3確率分布」ということがある。)を示すグラフである。第3確率分布は、第3確率P3と、第1目標変数T1との関係を示している。本実施形態の第3確率P3は、下記式(4)で定義される。
P3=a3×T1+b3…(4)
ここで、
T1:第1目標変数
a3:傾き
b3:切片
なお、上記式(4)は、P3≦P3maxを満たす。
上記式(4)において、傾きa3及び切片b3は、予め定義される下記の定数に基づいて設定される。本実施形態では、傾きa3が0.67、切片b3が0.165である。第3確率P3は、上記式(4)に、突然変異が実施される染色体情報19の第1目標変数T1が代入されることによって求めることができる。これにより、第1目標変数T1が異なる染色体情報19毎に、第3確率P3を異ならせることができる。
例えば、ある染色体情報19の第1目標変数T1が「0.1427」の場合、本実施形態の第3確率P3は、0.2606(即ち、26.06%)である。第3確率P3は、コンピュータ1に記憶される。なお、下記定数は、突然変異させる頻度を変更するために、適宜変更することができる。
第3確率の上限値P3max:0.5(50%)
第3確率の下限値:0.165(16.5%)
第3確率の上限値が設定される第1目標変数T1:0.5
上記式(4)では、第1目標変数T1が大きくなるほど、第3確率P3が大きくなっている。染色体情報19で定義される架構体2は、第1目標変数T1が大きくなるほど、設計制約条件の層間変形角L1が悪化している。このような染色体情報19は、種類遺伝子座21aに格納されている種類遺伝子16aを、積極的に突然変異されるのが望ましい。従って、本実施形態の工程S811では、第1目標変数T1が劣悪な染色体情報19ほど、遺伝子22を突然変異させる遺伝子座21が選択される第3確率P3を高めることができる。なお、第3確率P3の上限値として、P3maxが設定されている。これにより、染色体情報19の遺伝子22が過度に突然変異されるのを防ぐことができる。
次に、本実施形態の第1選択工程S81では、第3確率P3に基づいて、遺伝子22を突然変異させる遺伝子座21(種類遺伝子座21A)が選択される(工程S812)。図24(a)は、突然変異される染色体情報19の一例を示す図である。図24(b)は、第3架構面の対立遺伝子群17を示す図である。工程S812は、先ず、染色体情報19の各架構面11A〜12Lの遺伝子座21について、突然変異を実施させるか否かを判断するための指数が、乱数に基づいて求められる。本実施形態の各遺伝子座21の指数の範囲(乱数の区間)は、0〜1が設定される。
そして、工程S812では、第3確率P3(本実施形態では、0.2606)未満の指数が設定された遺伝子座21(種類遺伝子座21A)が、遺伝子22を突然変異させる遺伝子座21として選択される。従って、第3確率P3が大きくなるほど(即ち、第1目標変数T1が劣悪な染色体情報19ほど)、遺伝子22を突然変異させる遺伝子座21の数を大きくすることができる。図24の例では、第3架構面11Cの遺伝子座21(指数:0.1103)が、遺伝子22を突然変異させる遺伝子座21として選択される。
なお、各遺伝子座21の指数を求める乱数は、一様乱数が望ましい。一様乱数は、分布関数が、所定の区間内では一様、その区間外では0となる乱数である。このような一様乱数が採用されることにより、各遺伝子座21を満遍なく突然変異させることができる。
次に、本実施形態の第1突然変異工程S732では、突然変異させる遺伝子座21に格納されている遺伝子22よりも、第1目標変数T1を向上させる可能性が高い優秀な第1対立遺伝子16Aが選択される第1確率分布が高められる(第1確率分布工程S82)。
上述したように、本実施形態では、種類遺伝子16aの第1定数N1(耐力)が大きいほど、第1目標変数T1が向上する可能性が高い。従って、種類遺伝子群17aにおいて、第1対立遺伝子16Aは、遺伝子座21に格納されている種類遺伝子16aの第1定数N1よりも、第1定数N1が大きい種類遺伝子16aである。本実施形態では、第1目標変数T1を効果的に向上させるために、後述する第1閾値h1以上の第1定数N1を有する種類遺伝子16aを、第1対立遺伝子16Aとして設定している。図25は、本実施形態の第1確率分布工程S82の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第1確率分布工程S82では、先ず、第1対立遺伝子16Aを特定するための第1閾値h1が求められる(工程S821)。第1閾値h1は、下記式(5)で定義される。図26は、第1増分値Δt1と、第1目標変数T1との関係を示すグラフである。第1増分値Δt1は、下記式(6)で定義される。切片b1は、下記式(7)で定義される。
h1=N1+Δt1 …(5)
Δt1=a1×T1+b1 …(6)
b1=c1×(N1max−N1) …(7)
ここで、
T1:第1目標変数
a1:傾き
b1:切片
c1:第1閾値を調整するためのパラメータ
N1max:第1定数の最大値(本実施形態では、2)
N1:第1定数
なお、上記式(6)は、Δt1≦N1max−N1を満たす。
上記式(5)において、第1閾値h1は、第1定数N1に、第1増分値Δt1を加算したものである。上記式(6)において、傾きa1は、予め定義される下記の定数、及び、切片b1に基づいて設定される。N1max−N1は、第1増分値Δt1の上限値である。上記式(7)において、切片b1は、第1増分値Δt1の上限値(N1max−N1)に、パラメータc1を乗じたものである。パラメータc1を適宜変更することにより、第1増分値Δt1が取りうる範囲を増減させることができる。
第1定数の最大値N1max:2.0(種類遺伝子群17aのインデックス:9)
第1増分値の上限値が設定される第1目標変数T1:0.5
パラメータc1:0.7
図24(a)、(b)に示されるように、例えば、第3架構面11Cの種類遺伝子16a(インデックス:3)は、第1定数N1が「0.76」である。従って、第3架構面11Cにおいて、上記式(6)の傾きa1が0.744であり、切片b1が0.868である。上記式(6)に、染色体情報19の第1目標変数T1が代入されることによって、第1増分値Δt1を求めることができる。例えば、図24(a)に示した染色体情報19の第1目標変数T1が「0.1427」の場合、第1増分値Δt1は、0.9741である。なお、上記定数、及び、上記パラメータc1は、第1増分値Δt1を調節するために、適宜変更することができる。
上記式(6)では、第1目標変数T1が大きくなるほど、第1増分値Δt1が大きくなる。上述したように、染色体情報19で表される架構体2は、第1目標変数T1が大きくなるほど、設計制約条件の層間変形角L1が悪化している。従って、本実施形態では、第1目標変数T1が劣悪な染色体情報19ほど、第1増分値Δt1及び第1閾値h1を大きくすることができる。なお、第1増分値Δt1の上限値は、(N1max−N1)となる。
上記式(5)に基づいて、第1定数N1に、第1増分値Δt1を加算することにより、第1閾値h1を求めることができる。例えば、第3架構面11Cでは、第1定数N1(0.76)に、第1増分値Δt1(0.9741)を加算することにより、第1閾値h1(1.7341)を求めることができる。
上述したように、第1増分値Δt1は、第1目標変数T1が劣悪な染色体情報19ほど大きくなる。従って、第1閾値h1も、第1目標変数T1が劣悪な染色体情報19ほど大きくなる。第1確率分布工程S82では、第1閾値h1以上の第1定数N1を有する種類遺伝子16aが、第1対立遺伝子16Aとして設定される。従って、第1目標変数T1が劣悪な染色体情報19は、種類遺伝子座21aに格納されている種類遺伝子16aの第1定数N1よりも、大幅に大きな第1定数N1を有する第1対立遺伝子16Aが設定されるため、第1目標変数T1を効果的に向上させることができる。
次に、本実施形態の第1確率分布工程S82は、第1閾値h1に基づいて、対立遺伝子群17(本実施形態では、種類遺伝子群17a)が並び替えられた第1対立遺伝子群17Aが設定される(工程S822)。図27(a)は、第1対立遺伝子群17Aを示す図である。図27(b)は、第1確率分布を示すグラフである。
本実施形態の第1対立遺伝子群17Aは、第1目標変数T1を向上させる可能性が高い優秀な第1対立遺伝子16Aを構成する第1グループG1と、第1目標変数T1を向上させる可能性が低い劣悪な第3対立遺伝子16Cを構成する第3グループG3とに区分される。上述したように、第1対立遺伝子16Aは、第1閾値h1(例えば、第3架構面の場合:1.7341)以上の第1定数N1を有する種類遺伝子16aである。また、第3対立遺伝子16Cは、第1閾値h1未満の第1定数N1を有する種類遺伝子16aである。
第1グループG1の第1対立遺伝子16Aは、第1定数N1に基づいて、昇順に整列されている。第3グループG3の第3対立遺伝子16Cも、第1定数N1に基づいて、昇順に整列されている。このような第1対立遺伝子群17Aは、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第1確率分布工程S82では、第1対立遺伝子群17Aに基づいて、第1確率分布が設定される(工程S823)。図27(b)に示されるように、第1確率分布は、第1対立遺伝子群17Aの対立遺伝子16のインデックスと、各インデックスに割り当てられた指数の範囲との関係を示している。インデックスは、グラフの原点側に、第3対立遺伝子16Cのインデックスが設定される。さらに、第3対立遺伝子16Cのインデックスの上に、第1対立遺伝子16Aのインデックスが設定される。例えば、第3架構面11Cの場合、第3対立遺伝子16Cのインデックス(0〜8)が設定され、さらに、第1対立遺伝子16Aのインデックス(9)が設定される。第3対立遺伝子16Cのインデックス、及び、第1対立遺伝子16Aのインデックスは、第1対立遺伝子群17Aに基づいて、グラフの原点から、第1定数N1の昇順にそれぞれ整列されている。
各指数の範囲は、後述する乱数(区間0〜1)から特定される指数に基づいて、第1対立遺伝子群17A(種類遺伝子群17a)のインデックスを選択するためのものである。従って、指数の範囲は、0〜1である。本実施形態では、第1対立遺伝子16Aを構成する第1グループG1(インデックス:9)の指数の範囲を、第3対立遺伝子16Cを構成する第3グループG3(インデックス:0〜8)が選択される指数の範囲よりも大きくしている。これにより、第1対立遺伝子16Aを構成する第1グループG1が選択される確率を、第3対立遺伝子16Cを構成する第3グループG3が選択される確率よりも大きくすることができる。本実施形態では、第1グループG1の指数の範囲が0.1以上かつ1.0以下に設定される。他方、第3グループG3の指数の範囲は、0以上かつ0.1未満に設定されている。従って、第1グループG1が選択される確率が90%であり、第3グループG3が選択される確率が10%である。なお、これらの確率は、適宜変更することができる。
第1対立遺伝子16Aの指数の範囲は、第1グループG1の指数の範囲(本実施形態では、0.1以上〜1.0以下)から割り当てられる。本実施形態の第1グループG1は、第1対立遺伝子16Aが一つのみ設定されている。このため、第1対立遺伝子16Aの指数の範囲は、第1グループG1の指数の範囲がそのまま設定される。なお、第1対立遺伝子16Aが複数個設定されている場合は、第1グループG1の指数の範囲を、第1対立遺伝子16Aの個数で分割した範囲が設定される。各第1対立遺伝子16Aの指数の範囲は、第1定数N1が大きくなるほど、大きく設定されるのが望ましい。これにより、第1目標変数T1を向上させる可能性が高い(即ち、第1定数N1が大きい)第1対立遺伝子16Aほど、選択される確率が高められるため、第1目標変数T1が向上する可能性を効果的に高めることができる。
第3対立遺伝子16Cの指数の範囲は、第3グループG3の指数の範囲(本実施形態では、0以上〜0.1未満)から割り当てられる。本実施形態の第3対立遺伝子16Cは、複数個設定されている。このため、第3対立遺伝子16Cの指数の範囲は、第3グループG3の指数の範囲を、第3対立遺伝子16Cの個数(本実施形態では、9個)で分割した範囲が設定される。なお、第3対立遺伝子16Cの指数の範囲は、第1定数N1が大きくなるほど、広く設定されるのが望ましい。これにより、第1定数N1が大きい第3対立遺伝子16Cほど、選択される確率が高められるため、第1目標変数T1が悪化するのを最小限に抑えることができる。
これにより、第1対立遺伝子群17Aの対立遺伝子16(種類遺伝子16a)のインデックスと、各インデックスに割り当てられた指数の範囲との関係を示した第1確率分布を求めることができる。本実施形態の工程S823は、突然変異させるものとして選択された全ての遺伝子座21について、第1確率分布が求められる。これらの第1確率分布は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第1突然変異工程S732では、第1確率分布に基づいて、対立遺伝子群17(本実施形態では、第1対立遺伝子群17A)から、遺伝子座21の遺伝子22を置換するための他の対立遺伝子(以下、単に「他の対立遺伝子」ということがある。)16が選択される(工程S83)。工程S83では、先ず、乱数に基づいて、他の対立遺伝子16(種類遺伝子16a)を選択するための指数が求められる。本実施形態の乱数の区間は、第1確率分布の指数の範囲(0〜1)に設定されている。
そして、工程S83では、第1確率分布に基づいて、乱数で求められた指数から、遺伝子座21に格納されている遺伝子22を置換するための他の対立遺伝子16が選択される。例えば、図27に示した第3架構面11Cにおいて、他の対立遺伝子16を選択するための指数(乱数の数値)が0.3731であった場合、インデックス「9」(指数の範囲:0.1以上かつ1.0以下)に該当する。このため、他の対立遺伝子16として、「大耐力壁×2」が選択される。
上述したように、第1確率分布は、第1対立遺伝子16Aが選択される確率が高められている。このため、工程S83では、第1対立遺伝子16Aを高い確率で選択することができる。工程S83では、突然変異させるものとして選択された全ての遺伝子座21について、他の対立遺伝子16が選択される。これらの他の対立遺伝子16は、コンピュータ1に記憶される。
第1確率分布の指数を求める乱数は、一様乱数が望ましい。上述したように、一様乱数は、分布関数が、所定の区間内では一様、その区間外では0となる乱数である。このような一様乱数が採用されることにより、第1確率分布で定義される確率に基づいて、置換するための他の対立遺伝子16を選択することができる。
次に、本実施形態の第1突然変異工程S732では、遺伝子座21に格納されている遺伝子22(種類遺伝子16a)が、選択された他の対立遺伝子16(種類遺伝子16a)に置換される(工程S84)。これにより、遺伝子座21に格納されている遺伝子22を突然変異させることができる。本実施形態の第3架構面11Cでは、図24に示した遺伝子座21に格納されている種類遺伝子16a(「小耐力壁×2」(インデックス:3))から、工程S83で選択された他の種類遺伝子16a(「大耐力壁×2」(インデックス:9))に置換される。これにより、遺伝子座21に格納されている遺伝子22(種類遺伝子16a)よりも、第1定数N1が大きい第1対立遺伝子16A(種類遺伝子16a)に、突然変異させることができるため、第1目標変数T1が向上する可能性が高くなる。
工程S84では、突然変異させるものとして選択された全ての遺伝子座21について、種類遺伝子座21Aに格納されている遺伝子22(種類遺伝子16a)が、選択された他の対立遺伝子16(種類遺伝子16a)に置換される。これにより、染色体情報19は、新たな対立遺伝子16で、遺伝子座21の遺伝子22を再構成することができる。
このように、本実施形態の第1突然変異工程S732では、染色体情報19の遺伝子座21に格納されている遺伝子22を、それよりも優秀な第1対立遺伝子16Aに変異させる確率が増すため、最適解をより短時間で得ることができる。
次に、第2突然変異工程S733では、上述したように、第2目標変数T2を向上させる可能性が高い第2対立遺伝子が選択される確率を高めて、突然変異が実施される。本実施形態の第2突然変異工程S733では、第1突然変異工程S732と同様に、種類遺伝子座21Aに格納されている遺伝子22(種類遺伝子16a)が、種類遺伝子群17aから選択される他の対立遺伝子16(種類遺伝子16a)に置換される。図28は、第2突然変異工程S733の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第2突然変異工程S733では、先ず、対立遺伝子16を突然変異させる遺伝子座21が選択される(第2選択工程S91)。第2選択工程S91では、染色体情報19毎に、遺伝子22を突然変異させる遺伝子座21が選択される確率(以下、「第4確率」ということがある。)を異ならせている。図29は、本実施形態の第2選択工程S91の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第2選択工程S91では、先ず、遺伝子22を突然変異させる遺伝子座21が選択される確率(第4確率)が求められる(工程S911)。図30は、本実施形態の第4確率の分布(以下、単に「第4確率分布」ということがある。)を示すグラフである。第4確率分布は、第4確率P4と、第1目標変数T1との関係を示している。本実施形態の第4確率P4は、下記式(8)で定義される。
P4=a4×|T1|+b4…(8)
ここで、
T1:第1目標変数
a4:傾き
b4:切片
なお、上記式(8)は、P4≦P4maxを満たす。
上記式(8)において、傾きa4及び切片b4は、第3確率分布と同様に、予め定義される下記の定数に基づいて設定される。本実施形態では、傾きa4が0.67、切片b3が0.165である。第4確率P4は、上記式(8)に、突然変異が実施される染色体情報19の第1目標変数T1(絶対値)が代入されることによって求めることができる。これにより、第1目標変数T1が異なる染色体情報19毎に、第4確率P4を異ならせることができる。
例えば、ある染色体情報19の第1目標変数T1が「−0.3785」の場合、本実施形態の第4確率P4は、0.4186(即ち、41.86%)である。第4確率P4は、コンピュータ1に記憶される。なお、下記定数は、突然変異させる頻度を変更するために、適宜変更することができる。
第4確率の上限値P4max:0.5(50%)
第4確率の下限値:0.165(16.5%)
第4確率の上限値が設定される第1目標変数T1の上限値:0.5
上記式(8)では、第1目標変数T1の絶対値が大きくなる(即ち、第1目標変数T1が小さくなる)ほど、第4確率P4が大きくなっている。染色体情報19で表される架構体2は、第1目標変数T1が小さくなるほど、設計制約条件の層間変形角L1が良好である。このような染色体情報19は、第1目標変数T1を少々悪化させたとしても、第2目標変数T2(架構体2のコスト)がより良好となるように、遺伝子22を積極的に突然変異されるのが望ましい。従って、本実施形態の工程S911では、第1目標変数T1が良好な染色体情報19ほど、遺伝子22を突然変異させる遺伝子座21が選択される第4確率P4を高めることができる。なお、第4確率P4の上限値として、P4maxが設定されている。これにより、染色体情報19の遺伝子22が過度に突然変異されるのを防ぐことができる。
次に、本実施形態の第2選択工程S91では、第4確率P4に基づいて、遺伝子22を突然変異させる遺伝子座21(種類遺伝子座21A)が選択される(工程S912)。図31(a)は、突然変異される染色体情報19の一例を示す図である。図31(b)は、第2架構面11Bの対立遺伝子群17を示す図である。工程S912は、第1選択工程S81と同様に、先ず、染色体情報19の各架構面11A〜12Lの遺伝子座21について、突然変異を実施させるか否かを判断するための指数が、乱数に基づいて求められる。本実施形態の各遺伝子座21の指数の範囲(乱数の区間)は、0〜1が設定される。
そして、工程S912では、第4確率P4未満の指数が設定された遺伝子座21(種類遺伝子座21A)が、遺伝子22を突然変異させる遺伝子座21として選択される。従って、第4確率P4が大きくなるほど、遺伝子22を突然変異させる遺伝子座21の数を大きくすることができる。図31の例では、第2架構面11Bの遺伝子座21(指数:0.1622)が、遺伝子22を突然変異させる遺伝子座21として選択される。各遺伝子座21の指数を求める乱数は、第1選択工程S81と同様に、一様乱数が望ましい。
次に、本実施形態の第2突然変異工程S733は、突然変異させる遺伝子座21(種類遺伝子座21A)に格納されている遺伝子22よりも、第2目標変数T2を向上させる可能性が高い優秀な第2対立遺伝子16Bが選択される第2確率分布が高められる(第2確率分布工程S92)。
上述したように、本実施形態では、対立遺伝子16(種類遺伝子16a)の第2定数N2(コスト順)が小さいほど、第2目標変数T2(架構体2のコスト)が向上する可能性が高い。従って、第2対立遺伝子16Bは、対立遺伝子群17において、遺伝子座21(種類遺伝子座21A)に格納されている遺伝子22(種類遺伝子16a)よりも、第2定数N2が小さい対立遺伝子16(種類遺伝子16a)である。本実施形態では、後述する第2閾値h2未満の第2定数N2を有する対立遺伝子16を、第2対立遺伝子16Bとして設定される。
なお、他の対立遺伝子16として、遺伝子座21(種類遺伝子座21A)に格納されている遺伝子22(種類遺伝子16a)の第1定数N1(耐力)よりも大幅に小さい対立遺伝子16(種類遺伝子16a)が選択された場合、第1目標変数T1を悪化させてしまうおそれがある。このため、本実施形態では、第2目標変数T2を向上させつつ、第1目標変数T1の悪化を最小限に抑えるために、上記条件(第2定数N2が第2閾値h2未満)を満たし、かつ、後述する第3閾値h3以上の第1定数N1を有する対立遺伝子16(種類遺伝子16a)が、第2対立遺伝子16Bとして選択されている。図32は、本実施形態の第2確率分布工程S92の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第2確率分布工程S92では、先ず、第2対立遺伝子16Bを特定するための第2閾値h2が求められる(工程S921)。本実施形態では、突然変異させる遺伝子座21(種類遺伝子座21A)に格納されている遺伝子22(種類遺伝子16a)の第2定数N2(例えば、第2架構面の場合:5(インデックス:4))が、第2閾値h2として設定される。これにより、第2閾値h2に基づいて、遺伝子22(種類遺伝子16a)の第2定数N2未満である第2対立遺伝子16B(種類遺伝子16a)を特定することができる。なお、第2目標変数T2を効果的に向上させるために、第2閾値h2は、第2定数N2よりもさらに小さい値が設定されてもよい。
次に、本実施形態の第2確率分布工程S92では、第2対立遺伝子16Bを特定するための第3閾値h3が求められる(工程S922)。第3閾値h3は、下記式(9)で定義される。図33は、第3減分値Δt3と、第1目標変数T1(絶対値)との関係を示すグラフである。第3減分値Δt3は、下記式(10)で定義される。切片b3は、下記式(11)で定義される。
h3=N1−Δt3 …(9)
Δt3=a3×|T1|+b3 …(10)
b3=c3×N1 …(11)
ここで、
T1:第1目標変数
a3:傾き
b3:切片
c3:第3閾値を調整するためのパラメータ
N1:第1定数
なお、上記式(10)は、Δt3≦N1を満たす。
上記式(9)において、第3閾値h3は、第1定数N1を、第3減分値Δt3で減じたものである。上記式(10)において、傾きa3は、予め定義されている下記の定数、及び、切片b3に基づいて設定される。第3減分値Δt3の上限値は、第1定数N1である。上記式(11)において、切片b3は、第1定数N1に、パラメータc3を乗じたものである。パラメータc3を適宜変更することにより、第3減分値Δt3が取りうる範囲(即ち、第1定数N1−切片b3)を増減させることができる。
第3減分値の上限値が設定される第1目標変数T1(絶対値):0.5
パラメータc3:0.5
図31(a)、(b)に示されるように、例えば、第2架構面11Bの種類遺伝子16a(インデックス:4)は、第1定数N1が「0.96」である。従って、第2架構面11Bにおいて、上記式(10)の傾きa3が、0.96であり、切片b3が、0.48である。上記式(10)に、染色体情報19の第1目標変数T1(絶対値)が代入されることによって、第3減分値Δt3を求めることができる。例えば、図31(a)に示した染色体情報19の第1目標変数T1が「−0.3785」の場合、第3減分値Δt3は、0.8434である。なお、上記定数、及び、上記パラメータc3は、第3減分値Δt3を変更するために、適宜変更することができる。
上記式(10)では、第1目標変数T1の絶対値が大きくなるほど、第3減分値Δt3が大きくなっている。上述したように、染色体情報19で表される架構体2は、第1目標変数T1の絶対値が大きくなる(即ち、第1目標変数T1が小さくなる)ほど、設計制約条件の層間変形角L1が良好である。従って、本実施形態では、第1目標変数T1が良好な染色体情報19ほど、第3減分値Δt3を大きくすることができる。なお、第3減分値Δt3の上限値は、第1定数N1となる。
上記式(9)に基づいて、第1定数N1に、第3減分値Δt3を減じることにより、第3閾値h3を求めることができる。例えば、第2架構面11Bでは、第1定数(0.96)に、第3減分値Δt3(0.8434)で減じることにより、第3閾値h3(0.1166)を求めることができる。
上述したように、第3減分値Δt3は、第1目標変数T1が良好な染色体情報19ほど大きくなる。従って、第3閾値h3は、第1目標変数T1が良好な染色体情報19ほど小さくなる。第2確率分布工程S92では、第3閾値h3以上の第1定数N1を有する対立遺伝子16(種類遺伝子16a)が、第2対立遺伝子16Bとして設定される。従って、第1目標変数T1が良好な染色体情報19は、第1目標変数T1の悪化を一部許容しつつ、遺伝子座21に格納されている遺伝子22(種類遺伝子16a)の第2定数N2よりも、大幅に小さな第2定数N2を有する第2対立遺伝子16Bが設定されるため、第2目標変数T2を効果的に向上させることができる。
次に、本実施形態の第2確率分布工程S92では、第2閾値h2及び第3閾値h3に基づいて、対立遺伝子群17が並び変えられた第2対立遺伝子群17Bが設定される(工程S923)。図34(a)は、第2対立遺伝子群17Bを示す図である。図34(b)は、第2確率分布を示すグラフである。
本実施形態の第2対立遺伝子群17Bは、第2目標変数T2を向上させる可能性が高い優秀な第2対立遺伝子16Bを構成する第2グループG2と、第2目標変数T2を向上させる可能性が低い劣悪な第4対立遺伝子16Dを構成する第4グループG4とに区分される。上述したように、第2対立遺伝子16Bは、第2閾値h2(例えば、第2架構面の場合:5)未満の第2定数N2を有し、かつ、第3閾値h3(例えば、第2架構面の場合:0.1166)以上の第1定数N1を有する対立遺伝子16(種類遺伝子16a)である。他方、第4対立遺伝子16Dは、第2閾値h2以上の第2定数N2、又は、第3閾値h3未満の第1定数N1を有する対立遺伝子16(種類遺伝子16a)である。
第2グループG2の第2対立遺伝子16B(種類遺伝子16a)は、第2定数N2に基づいて、降順に整列されている。第4グループG4の第4対立遺伝子16D(種類遺伝子16a)は、第2定数N2に基づいて、降順に整列されている。このような第2対立遺伝子群17bは、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第2確率分布工程S92では、第2対立遺伝子群17Bに基づいて、第2確率分布が設定される(工程S924)。図34(b)に示されるように、第2確率分布は、第2対立遺伝子群17Bの対立遺伝子16(種類遺伝子16a)のインデックスと、各インデックスに割り当てられた指数の範囲との関係を示している。インデックスは、グラフの原点側に、第4対立遺伝子16D(種類遺伝子16a)のインデックスが設定される。さらに、第4対立遺伝子16Dのインデックスの上に、第2対立遺伝子16B(種類遺伝子16a)のインデックスが設定される。例えば、第2架構面11Bの例では、第4対立遺伝子16Dのインデックス(0、4及び6〜9)が設定され、さらに、第2対立遺伝子16Bのインデックス(1、2、3及び5)が設定される。第4対立遺伝子16Dのインデックス、及び、第2対立遺伝子16Bのインデックスは、第2定数N2の昇順にそれぞれ整列されている。
各指数の範囲は、後述する乱数(区間0〜1)から特定される指数に基づいて、対立遺伝子群17(種類遺伝子群17a)のインデックスを選択するためのものである。従って、指数の範囲は、0〜1である。本実施形態では、第2対立遺伝子16B(種類遺伝子16a)を構成する第2グループG2(インデックス:1、2、3及び5)の指数の範囲を、第4対立遺伝子16D(種類遺伝子16a)を構成する第4グループG4(インデックス:0、4及び6〜9)が選択される指数の範囲よりも大きくしている。これにより、第2対立遺伝子16Bを構成する第2グループG2が選択される確率を、第4対立遺伝子16Dを構成する第4グループG4が選択される確率よりも大に設定することができる。本実施形態では、第2グループG2の指数の範囲が0.1以上かつ1.0以下に設定されている。他方、第4グループG4の指数の範囲は、0以上かつ0.1未満に設定されている。従って、第2グループG2が選択される確率が90%であり、第4グループG4が選択される確率が10%である。なお、これらの確率は、適宜変更することができる。
各第2対立遺伝子16B(インデックス:1、2、3及び5)の指数の範囲は、第2グループG2の指数の範囲(0.1以上かつ1.0以下)から割り当てられる。本実施形態の第2対立遺伝子16Bは、複数個設定されている。このため、各第2対立遺伝子16Bの指数の範囲は、第2グループG2の指数の範囲を、第2対立遺伝子16Bの個数で分割した範囲が設定される。なお、第2対立遺伝子16Bの指数の範囲は、第2定数N2が小さくなるほど、広く設定されるのが望ましい。これにより、第2定数N2が小さい第2対立遺伝子16Bほど、選択される確率が高められるため、第2目標変数T2が向上する可能性を効果的に高めることができる。
各第4対立遺伝子16D(インデックス:0、4及び6〜9)の指数の範囲は、第4グループG4の指数の範囲(0以上かつ0.1未満)から割り当てられる。本実施形態の第4対立遺伝子16Dは、複数個設定されている。このため、第4対立遺伝子16Dの指数の範囲は、第4グループG4の指数の範囲を、第4対立遺伝子16Dの個数で分割した範囲が設定される。なお、第4対立遺伝子16Dの指数の範囲は、第2定数N2が小さくなるほど、広く設定されるのが望ましい。これにより、第2定数N2が小さい第4対立遺伝子16Dほど、選択される確率が高められるため、第2目標変数T2が悪化するのを最小限に抑えることができる。
これにより、第2対立遺伝子群17Bの対立遺伝子16(種類遺伝子16a)のインデックスと、対立遺伝子16を選択するための指数の範囲との関係を示した第2確率分布を求めることができる。本実施形態の工程S924は、突然変異させるものとして選択された全ての遺伝子座21(種類遺伝子座21A)について、第2確率分布が求められる。これらの第2確率分布は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第2突然変異工程S733では、第2確率分布に基づいて、対立遺伝子群17(本実施形態では、第2対立遺伝子群17B)から、遺伝子座21の遺伝子22を置換するための他の対立遺伝子(以下、単に「他の対立遺伝子」ということがある。)16が選択される(工程S93)。工程S93では、乱数に基づいて、他の対立遺伝子16を選択するための指数が求められる。本実施形態の乱数の区間は、第2確率分布の指数の範囲(0〜1)に設定されている。
そして、工程S93では、第2確率分布に基づいて、乱数から求められた指数から、遺伝子座21に格納されている遺伝子22(種類遺伝子16a)を置換するための対立遺伝子16(種類遺伝子16a)が選択される。例えば、図34に示した第2架構面11Bにおいて、他の対立遺伝子16を選択するための指数(乱数の数値)が0.817であった場合、インデックス「1」(指数の範囲:0.550以上かつ1.0以下)が該当する。このため、他の対立遺伝子16として、「小耐力壁」が選択される。
上述したように、第2確率分布は、第2対立遺伝子16B(種類遺伝子16a)が選択される確率が高められている。このため、工程S93では、第2対立遺伝子16Bを高い確率で選択することができる。工程S93では、突然変異させるものとして選択された全ての遺伝子座21について、他の対立遺伝子16(種類遺伝子16a)が選択される。これらの対立遺伝子16は、コンピュータ1に記憶される。なお、第2確率分布の指数を求める乱数は、第2突然変異工程S733と同様に、一様乱数が望ましい。
次に、本実施形態の第2突然変異工程S733では、遺伝子座21に格納されている遺伝子22(種類遺伝子16a)が、選択された他の対立遺伝子16(種類遺伝子16a)に置換される(工程S94)。これにより、遺伝子座21に格納されている遺伝子22を突然変異させることができる。本実施形態の第2架構面11Bでは、図31に示した遺伝子座21に格納されている遺伝子22(「小耐力壁+中耐力壁」(インデックス:4))から、工程S93で選択された他の対立遺伝子16(「小耐力壁」(インデックス:1))に置換される。これにより、遺伝子座21に格納されている遺伝子22よりも、第2定数N2が小さい第2対立遺伝子16Bに、突然変異させることができるため、第2目標変数T2が向上する可能性が高い。しかも、第2対立遺伝子16Bは、第3閾値h3(例えば、第2架構面の場合:0.1166)以上の第1定数N1を有するため、第1目標変数T1が悪化を最小限に抑えることができる。
工程S94では、突然変異させるものとして選択された全ての遺伝子座21について、種類遺伝子座21Aに格納されている遺伝子22(種類遺伝子16a)が、選択された他の対立遺伝子16(種類遺伝子16a)に置換される。これにより、染色体情報19は、新たな種類遺伝子16aで、種類遺伝子座21Aの種類遺伝子16aを再構成することができる。
このように、本実施形態の第2突然変異工程S733では、染色体情報19の遺伝子座21に格納されている遺伝子を、それよりも優秀な第2対立遺伝子16Bに変異させる確率が増すため、最適解をより短時間で得ることができる。
次に、突然変異工程S73では、位置遺伝子座21Bに格納されている遺伝子22(位置遺伝子16b)(図24及び図31に示す)が、他の対立遺伝子16(位置遺伝子16b)に置換される(工程S734)。本実施形態の工程S734では、先ず、染色体情報19の全ての位置遺伝子座21Bから、位置遺伝子16bを突然変異させる位置遺伝子座21Bがランダムに選択される。
次に、工程S734では、選択された位置遺伝子座21Bに格納されている位置遺伝子16bが、他の位置遺伝子16bに置換される。他の位置遺伝子16bは、上述したインデックスの合計範囲(例えば、0〜1)から選択されるインデックス(数値)が、乱数に従って、ランダムに選択される。これにより、染色体情報19は、新たな位置遺伝子16bで、位置遺伝子座21Bに格納されている位置遺伝子16bを再構成することができる。
なお、第1突然変異工程S732及び第2突然変異工程S733において、突然変異させるものとして選択された遺伝子座21を対象に、その位置遺伝子座21Bに格納されている位置遺伝子16bが、他の位置遺伝子16bに置換されるものでもよい。突然変異工程S73では、同一の遺伝子座21に格納されている種類遺伝子16a及び位置遺伝子16bを同時に突然変異させることができるため、染色体情報19を効率よく最適化することができる。しかも、突然変異させる位置遺伝子座21Bを、種類遺伝子座21Aとは別に選択する必要がないため、計算時間を短縮することができる。
次に、突然変異工程S73では、突然変異が予定されている全ての染色体情報19について、突然変異が実施されたか否かが判断される(工程S735)。工程S735では、全ての染色体情報19の突然変異が実施されたと判断された場合(工程S735で、「Y」)、再構築された染色体情報19を含む集団18に基づいて、工程S51〜工程S53(図16に示す)が再度実行される。
他方、全ての染色体情報19の突然変異が実施されていないと判断された場合、突然変異が未だ実施されていない他の染色体情報19が選択され(工程S736)、工程S731〜工程S735が再度実施される。これにより、突然変異の対象の全ての染色体情報19について、突然変異が実施される。突然変異が実施された各染色体情報19は、新たな集団18を構成する染色体情報19として、コンピュータ1に記憶される。
このように、本実施形態の最適化計算工程S5では、第1目標変数T1及び第2目標変数T2の最適化度が高いエリート群23の染色体情報19を残しつつ、交叉及び突然変異によって残りの染色体情報19を再構成し、新たな進化を試みることができる。これにより、本発明の設計方法では、少ないサンプルで、染色体情報19を進化させることができる。従って、本発明の設計方法は、最適解を短時間で求めることができる。
しかも、最適化計算工程S5では、染色体情報19の遺伝子座21に格納されている遺伝子22を、それよりも優秀な第1対立遺伝子16A又は第2対立遺伝子16Bに変異させる確率を高めて、突然変異が実施されるため、最適解をより短時間で得ることができる。
本実施形態では、最適化対象として、架構体2の架構面11A〜12Lに配置される耐力壁5の種類や配置等である場合が例示されたが、これに限定されるわけではない。他の最適化対象としては、架構体2の水平架構面に配置される小梁等を含む梁4の断面や配置等でも良い。さらには、柱3及び耐力壁5の種類等と、梁4の配置等とを組み合わせたものでもよい。このような場合、対立遺伝子16としては、例えば、柱3や梁4の種類又は断面等を表すものが、さらに定義されるのが望ましい。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
[実施例A]
図3に示した処理手順に従って、図5に示した耐力壁を省いた架構体が設定され、耐力壁の配置の最適解が求められた(実施例1、比較例1)。
実施例1の最適化計算工程では、第1目標変数が第1目標値を満たしていない場合に、種類遺伝子座に格納されている種類遺伝子よりも、第1目標変数を向上させる可能性が高い優秀な第1対立遺伝子に置換する第1突然変異工程(図21に示す)が実施された。さらに、実施例1では、第1目標変数が第1目標値を満たす場合に、種類遺伝子座に格納されている種類遺伝子よりも、第2目標変数を向上させる可能性が高い優秀な第2対立遺伝子に置換する第2突然変異工程(図28に示す)が実施された。
比較例1の最適化計算工程では、実施例1と同様の交叉工程、及び、遺伝子座に格納されている対立遺伝子を、ランダムに選択された対立遺伝子に置換する従来の突然変異工程が実施された。このような最適化計算工程が繰り返し実施され、染色体情報で構成される集団を複数の世代に亘って、再構築された。
実施例1及び比較例1について、上記のようなシミュレーションが20回ずつ実施された。そして、各回の最適化度が最も高い染色体情報(20個分)の架構体のコストが、世代毎に求められ、それらの平均値が計算された。第0世代のコストの平均値を100として、実施例1及び比較例1の平均値の指数が求められた。耐力壁の種類等については、明細書に記載のとおりであり、共通仕様は、次のとおりである。
テストの結果を、図35に示す。なお、図35では、0世代から100世代までのテスト結果を抜粋して表示している。
集団を構成する染色体情報の個数:50
第1目標値:0
エリート群の割合:2%
交叉させる染色体情報の割合:70%
突然変異させる染色体情報の割合:28%
テストの結果、実施例1は、比較例1に比べて、架構体のコストを、早期に低減させることができた。従って、実施例1は、耐力壁の配置の最適解を、短時間で求めることができた。
[実施例B]
図3に示した処理手順に従って、図36に示した耐力壁を省いた架構体が設定され、耐力壁の配置の最適解が求められた(実施例2、比較例2)。
実施例2の最適化計算工程では、上記した実施例1の最適化計算工程と同様に、第1突然変異工程(図21に示す)及び第2突然変異工程(図28に示す)が実施された。比較例2の最適化計算工程では、上述した比較例1の最適化計算工程と同様に、交叉工程、及び、遺伝子座に格納されている対立遺伝子が、ランダムに選択された対立遺伝子に置換された。
実施例2及び比較例2について、上記のようなシミュレーションが20回ずつ実施された。そして、各回の最適化度が最も高い染色体情報(20個分)の架構体のコストが、世代毎に求められ、それらの平均値が計算された。第0世代のコストの平均値を100として、実施例2及び比較例2の平均値の指数が求められた。耐力壁の種類等については、明細書に記載のとおりであり、共通仕様は、次のとおりである。
テストの結果を、図37に示す。なお、図37では、0世代から100世代までのテスト結果を抜粋して表示している。
集団を構成する染色体情報の個数:50
第1目標値:0
エリート群の割合:2%
交叉させる染色体情報の割合:70%
突然変異させる染色体情報の割合:28%
テストの結果、実施例2は、比較例2に比べて、架構体のコストを、早期に低減させることができた。従って、実施例2は、耐力壁の配置の最適解を、短時間で求めることができた。