JP2016013116A - 家畜の飼育方法 - Google Patents

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敦裕 田村
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晃将 田村
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Abstract

【課題】より好適に繁殖障害を改善することができる家畜の飼育方法を提供すること。【解決手段】甘草または甘草を混合した飼料を家畜に給与し、該家畜の内分泌系に影響を与えて必要なホルモン分泌を補佐することによって、該家畜の繁殖障害を改善することを家畜の飼育方法。好ましくは、前記甘草により前記家畜のプロジェステロンおよびエストロゲンの分泌を補佐するように該家畜の内分泌系に影響を与える。好ましくは、前記甘草により前記家畜の発情徴候を強く発現させる。【選択図】図1

Description

本発明は、牛などの家畜の飼育方法に関するものである。
牛などの家畜に関して、繁殖が成功し続けることは農家経営に重要な課題となっている。肉牛農家においては仔牛の販売により、また酪農家においては成牛が出産することで初めて搾乳が可能となるので、農家は収入を得ることが出来る。あるいは他の家畜においても仔畜を販売することが一般的であり、農家が永続的に畜産業を営む上で重要なものとなっている。
繁殖における問題として、子畜が出来ないという症状がある。これを繁殖障害と呼称する。繁殖障害の改善の為に、現在では一般的にGn−RH剤、hCG剤、エストラジオール剤などのホルモン剤の投与、CIDR(膣内留置型黄体ホルモン製剤)プログラムなどの対策が取られている。また、特許文献1中では甘草を給与することで繁殖障害が改善した臨床例が開示されている。
特開2011−167184号公報
H.Kamomae, et al.,"Effects of LH-RH Analogue on LH Release and Ovarian Function in Ovarian Quiescent Heifers", Jpn. J. Vet. Sci. 50(3), 613-621(1988)
ところで、近年は畜産業や酪農業が大規模化し、家畜1頭にかける飼育・管理時間は短くなってきている。また、飼料の品質の問題や飼育管理方法など、多岐に渡る原因から繁殖成績は低下傾向にあるが、現在まで、決定的な打開策については提案されていない。このような繁殖成績の低下傾向のために、より規模を拡大し、1頭あたりの産子数を減らし、回転を上げることで対応する方法が行われている。たとえば、以前は成牛1頭から10頭程度の仔牛を取っていたが、現在では平均2.3頭程度である。しかしながら、このような方法も必ずしも成果を上げていない。したがって、繁殖障害を改善し、繁殖成績を向上させることはますます重大な課題になってきている。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、より好適に繁殖障害を改善することができる家畜の飼育方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る家畜の飼育方法は、甘草または甘草を混合した飼料を家畜に給与し、該家畜の内分泌系に影響を与えて必要なホルモン分泌を補佐することによって、該家畜の繁殖障害を改善することを特徴とする。
本発明の一態様に係る家畜の飼育方法は、前記甘草により前記家畜のプロジェステロンおよびエストロゲンの分泌を補佐するように該家畜の内分泌系に影響を与えることを特徴とする。
本発明の一態様に係る家畜の飼育方法は、前記甘草により前記家畜の発情徴候を強く発現させることを特徴とする。
本発明の一態様に係る家畜の飼育方法は、前記甘草を前記家畜の体重1kg当たり0.025g〜0.15gだけ給与することを特徴とする。
本発明によれば、家畜の内分泌系に影響を与えて必要なホルモン分泌を補佐することによって、家畜の繁殖障害を改善するので、より好適に繁殖障害を改善することができるという効果を奏する。
図1は、AI20日前、AI日、およびAI後20日目におけるIGF−1の濃度およびAI日におけるIGF−1の濃度とE2の濃度との関係を示す図である。
以下に、図面を参照して本発明に係る家畜の飼育方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
本発明者は、甘草が家畜の内分泌系に影響を与えて必要なホルモン分泌を補佐する作用があることを発見し、これによって家畜の繁殖障害を改善できることに想到し、本発明を成したものである。
すなわち、本発明の実施の形態に係る家畜の飼育方法は、甘草または甘草を混合した飼料を家畜に給与し、該家畜の内分泌系に影響を与えて必要なホルモン分泌を補佐することによって、該家畜の繁殖障害を改善するものである。
家畜とは、牛、豚、馬、山羊、羊、鶏などである。甘草は、マメ科の植物であり、根と根茎が生薬として利用されるものであるが、家畜に対する作用は従来あまり明らかになっていなかったものである。甘草を家畜に給与する方法としては、たとえば、甘草を粉砕し、糖蜜等でペレット化したもの飼料に配合して家畜に給与する方法がある。ただし、甘草を家畜に給与する方法は特に限定されず、甘草をそのまま、又は粉砕して家畜に給与してもよい。
甘草または甘草を混合した飼料を家畜に給与することにより、特に家畜の繁殖に関連する内分泌系に作用し、繁殖前後におけるホルモンの分泌を補佐することができる。ここで、雌の成畜である家畜において、繁殖前後に分泌される代表的なホルモンとして、たとえばステロイドホルモンであるプロジェステロン(P4)やエストロゲン(E2)が知られている。P4は黄体から分泌されるホルモンである。また、E2は卵胞から分泌されるホルモンである。
P4は家畜の発情前までは高く分泌され、発情時には低下し、その後徐々に上昇する。一方、E2は発情前までは分泌が低く、発情時に高く分泌される。発情時にE2の分泌が低い場合、或いはP4の分泌が高い場合、発情が弱くなってしまい、鈍性発情、あるいは無発情と判断されてしまう場合がある。E2が不足する原因としては、特に体内のエネルギーバランスの悪化やストレスなどがある。なお、家畜の発情は、発情徴候によって判断することができる。一般的に発情徴候とは、外陰部の充血や腫脹、外陰部からの粘液の流出、食欲減退、スタンディング(乗駕行動)などがある。個体差などがあるものの、発情徴候の持続時間は凡そ15〜17時間である。
甘草または甘草を混合した飼料を家畜に給与することにより、P4やE2の分泌は、低くなるべき時期に低くなり、高くなるべき時期に高くなる。これによって、正常な発情が促進され、発情徴候が強く発現する。発情徴候が強く発現すれば、畜産業や酪農業の従事者が発情を発見しやすいというメリットがあるとともに、正常な発情が行われていることを示すものであるから、繁殖障害の改善上非常に意義があることである。
甘草の給与量については、給与する家畜の体調や状態により調整することが好ましいが、たとえば家畜の体重1kg当たり0.025g〜0.15g(0.025g/kg〜0.15g/kg)だけ給与する。この場合、たとえば通常の体調や状態の家畜に対しては給与量を0.05g/kgとし、体調や状態の悪い家畜に対しては給与量をその2〜3倍の0.1g/kg〜0.15g/kgとし、体調や状態の良い家畜に対しては給与量をその1/2の0.025g/kgとしてもよい。
また、甘草の給与期間については、繁殖障害の改善の観点から、発情が始まると考えられる時期までの15日間の給与を一つの基準とするが、期間の多少の前後はあり得、たとえば20日間としてもよい。また、症状によっては人工授精後に給与を開始してもよい。
つぎに、本発明の実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
ここでは、雌の成牛(乳牛)に対して、CIDRプログラムを行い、分娩後70日目に発情が来るようにコントロールし、2日後にAI(人工授精)を行った。その際、実施例として甘草を給与する甘草供与群と、比較例としての無給与群(対照群)の二群を設け、各群をそれぞれ雌の成牛20頭で構成し、試験を行った。
このCIDRプログラムでは、両群ともに、分娩後59日目に安息香酸エストラジオール(EB)を注射し、膣内留置型プロジェステロン製剤(CIDR)を膣内に8日間留置し、その後プロスタグランジン(PG)を注射し、2日後に人工授精を行った。
甘草供与群では甘草を分娩後50日目から70日目まで給与し、対照群は無処置(無給与)とした。甘草としては、中国産のウラル甘草の粉末を用いた。なお、甘草は1日当たり30g(30g/日)給与した。この給与量は家畜の体重に対して0.05g/kg程度に相当する。
各群に対して、AI実行後30日目で妊娠鑑定を行い、受胎率を算出した。また、採血を行い、肝機能、あるいはBHB(β−ヒドロキシ酪酸)、NEFA(血中遊離脂肪酸)、IGF(インスリン様成長因子)−1、P4またはE2の血中濃度を調べた。ここで、BHB、NEFAは、体内のエネルギー収支の指標となる物質である。なお、肝機能については、γ−GTP(γ−グルタミルトランスペプチターゼ)、AST(アスパラギン酸アミノ基転移酵素)の血中濃度について調べた。また、肝機能については、甘草給与開始前(AI20日前)、AI時、およびAI後20日目の採血により調べた。P4については、甘草給与開始前(AI20日前)、甘草給与10日目(AI10日前)、18日目(AI2日前)、AI時、ならびにAI後5日目、20日目および30日目の採血により調べた。E2については、AI日に6時間毎に採血を行い、得られた濃度値のピーク値を示している。
表1に発情徴候の発現結果および受胎率を示す。発情徴候に関しては、スタンディング、マウンティングについては20頭中の発現頭数およびその割合を示している。また、陰部から出る粘液の質・量、陰部の充血・腫脹状況、子宮収縮状況については4段階評価とし、強い物を3、中程度を2、弱い物を1、なかったものを0とし、20頭での平均値および標準偏差を示している。
Figure 2016013116
表1に示すように、給与群では、対照群よりも発情徴候が強く発現する傾向があることが確認できた。上述したように、発情徴候が強く発現すれば、畜産業や酪農業の従事者が発情を発見しやすいというメリットがあるとともに、正常な発情が行われていることを示すものであるから、繁殖障害の改善上非常に意義があることである。そして、発情徴候の強い発現に伴い、受胎率についても、給与群では13頭/20頭(65%)であり、対照群の9頭/20頭(45%)よりも高い確率で成功することが確認された。
表2に血中のステロイドホルモン濃度を示す。なお、表2において検査日(採血日)についてはAlの日を基準日(0)として、それより前の検査日を負の整数で表し、それより後の検査日は正の整数で表している。また、濃度値は平均値と標準偏差を示している。
Figure 2016013116
上述した様に、P4は家畜の発情前までは高く分泌され、発情時には低下し、その後徐々に上昇するのが正常である。一方、E2は発情前までは分泌が低く、発情時に高く分泌されるのが正常であり、高い分泌により発情徴候を引き起こすと考えられている。
表2に示されるように、給与群では、対照群と比較して、発情時にE2の濃度がより高まり、逆にP4の濃度はより低く抑えられている。さらには、その後の受胎牛においては、給与群では、対照群と比較して、P4の濃度が確実に高まっている。
表1、表2の結果から、給与群では、対照群と比較して、甘草の給与の効果により、P4やE2の分泌が、低くなるべき時期にはっきりと低くなり、高くなるべき時期にはっきりと高くなるため、正常な発情が促進され、発情徴候が強く発現したものと考えられる。このように、甘草は、家畜の繁殖に関連する内分泌系に作用し、繁殖前後におけるホルモンの分泌がより適切になるように補佐していると考えられる。
近年では、無発情、あるいは鈍性発情といった、発情徴候が見えにくい例や起こらない例が多数報告されており、大きな問題となっている。甘草給与は、このような問題を解決するために大きく寄与できるものである。
つぎに、血中のIGF−1の濃度について説明する。図1(a)は、AI20日前、AI日、およびAI後20日目におけるIGF−1の濃度を示す図であり、図1(b)は、AI日におけるIGF−1の濃度とE2の濃度との関係を示す図である。図1に示すように、給与群では、対照群と比較して、AI日およびその後にIGF−1の濃度が高まる傾向があることが確認された。また、IGF−1の濃度とE2の濃度とには正の相関関係があることが示唆された。
なお、肝機能およびエネルギー収支に関連する物質の値については、給与群と対照群とで特に大きな差はなかった。
つぎに、実際に臨床現場で起こっているリピートブリーダーの牛および卵巣静止の牛に対して本発明に従って甘草を給与した試験結果について説明する。なお、リピートブリーダーとは、特に異常な所見は認められないにも関わらず3回以上AIを行っても受胎しない症例である。また、卵巣静止とは、性成熟の時期あるいは分娩後の生理的休止期を過ぎても発情徴候がなく、卵巣の形状は正常に近く小卵胞が存在するが、その発育が認められないか、あるいは卵胞は発育するが排卵に至らず、閉鎖退行を繰り返しているものをいい、繁殖障害の代表的な疾病の一つである。
試験は、臨床獣医師が管轄内で治療を行っていく中で、卵巣静止またはリピートブリーダーと診断された牛を対象として行った。各疾病については家畜共済の診療指針に基づいて診断した。甘草の給与に関しては本発明に従って行われた。すなわち、甘草は純粉末タイプ、純粗めタイプ、ペレットタイプ等を使用し、30g/日または50g/日程度を給与した。この給与量は、家畜の体重に対して0.025g/kg〜0.05g/kg程度に相当する。給与期間は10日〜20日とした。なお、リピートブリーダー牛に対しては、リピートブリーダーと診断した後、AI直後またはAI後1日目から給与を開始した。また、卵巣静止牛に対しては卵巣静止と診断した後に、給与を開始し、その後発情徴候が発見されたらAIを行った。
その結果、卵巣静止牛については、11頭中7頭(62.5%)で種付け成功、リピートブリーダー牛については、9頭中6頭(66.7%)で種付けに成功した。
ここで、卵巣静止と診断された場合、通常治療としてはホルモン剤を用いた治療が行われる。非特許文献1によれば、未経産牛(まだ仔牛を産んだ事の無い牛)8例に対してホルモン剤の一種であるGn−RH剤を投与した場合、改善したのは3頭(全頭の37.5%)であったと報告されている。また、別な治療方法として、CIDR処置及びPG製剤を用いた方法があるが、この有効率は33%(N=3)という報告がある。これらの報告と比較して、本発明に従った試験によれば、より顕著に繁殖障害が改善されるということが確認された。
以上のように、本発明によれば、繁殖障害を起こしている家畜について、種付け成功率を飛躍的に向上させるものであり、畜産業発展に寄与する所は極めて大きい。
なお、上記試験では、リピートブリーダーや卵巣静止の牛に対して効果があることが確認されたが、上述したように、本発明は、家畜の内分泌系に影響を与えて必要なホルモン分泌を補佐することによって、家畜の繁殖障害を改善するものであって、その個体の持つ通常の生理機能を補佐することによって、正常に繁殖を行えるようになるものである。したがって、本発明は、リピートブリーダーや卵巣静止に限らず、その他の原因による繁殖障害にも効果を発揮すると考えられる。
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。

Claims (4)

  1. 甘草または甘草を混合した飼料を家畜に給与し、該家畜の内分泌系に影響を与えて必要なホルモン分泌を補佐することによって、該家畜の繁殖障害を改善することを特徴とする家畜の飼育方法。
  2. 前記甘草により前記家畜のプロジェステロンおよびエストロゲンの分泌を補佐するように該家畜の内分泌系に影響を与えることを特徴とする請求項1に記載の家畜の飼育方法。
  3. 前記甘草により前記家畜の発情徴候を強く発現させることを特徴とする請求項1または2に記載の家畜の飼育方法。
  4. 前記甘草を前記家畜の体重1kg当たり0.025g〜0.15gだけ給与することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の家畜の飼育方法。
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