JP2015529327A - 乳がん治療を決定する方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は、乳がんに対する治療法を決定する方法、乳がん治療に成功する可能性を予測する方法、及び乳がんを治療する内分泌療法剤を選択する方法を提供する。具体的には、本発明の方法は、組織試料中のアンドロゲン受容体(AR)及びエストロゲン受容体(ER)の量に依存する。【選択図】図1

Description

本発明は、乳がんに対する治療法(treatmentprocedure)を決定する方法、乳がん治療に対する臨床応答を予測する方法、及び乳がん治療における内分泌療法剤を選択する方法に関する。概して、本発明の方法は、エストロゲン受容体(ER)とアンドロゲン受容体(AR)との比を判定することを含む。具体的には、乳がんに有効な治療を決定するため、乳がんの特定の様式の治療に対する臨床応答を予測するため、及び乳がん治療用の内分泌療法剤を選択するため、ERに対するARの比を使用することができる。
[関連出願の相互参照]
本願は2012年8月23日に出願された米国仮出願第61/692,331号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする)の優先権の利益を主張する。
乳がんは、非常に複雑な疾患である。しかしながら、最も簡潔には、乳がんは、全乳がんの約70 %を占めるエストロゲン受容体(ER)陽性乳がんと、ER陰性乳がんの2つのタイプに分けることができる。ホルモン療法とも呼ばれることがある内分泌療法は、エストロゲン受容体陽性がんを標的とする。そのため、過去には、ERは、内分泌療法により乳がんを治療するか、又は他の非内分泌系療法により乳がんを治療するかを判定するバイオマーカーとして使用されてきた。
近年、乳がんにおいて、アンドロゲン受容体(AR)はエストロゲン受容体(ER)アルファ又はプロゲステロン受容体(PR)よりも広く発現されることが示された。それにより、ARは、乳がんサブタイプ分類の精度を更に高めるための有用なマーカーであることが最近になって明らかになった(1、2)。看護師健康調査に登録された女性の2171件の浸潤性乳がんを含む或る特定の研究において、77 %が免疫組織化学(IHC)よりARに陽性であったことが見出された(3)。上記サブタイプのうち、88 %のER+(すなわち、エストロゲン受容体陽性)、59 %のHER2+、及び32 %のトリプルネガティブ乳がん(ER-/PR-/HER2-)が、IHCによるAR発現に対して陽性であった(3)。ER及びPRと同様に、AR発現は高分化状態(4)及びより緩慢性の乳がん(5)と関連する。
ER+腫瘍はエストロゲンにより刺激されることから、アンドロゲンからエストロゲンへの変換を遮断する、ERアンタゴニストのタモキシフェン又はアロマターゼ阻害剤(AI)等の治療法は、かかる腫瘍の進行を阻害するのに一般的に有効である。しかしながら、ER+乳がんの全患者の30 %〜50 %は、これら従来の内分泌療法に対して新たに耐性を呈し、最終的に全ての転移性ER+乳がんが耐性を獲得する(6、7)。
興味深いことに、ER+腫瘍のなかであっても、乳がんによっては従来の内分泌療法によく応答するものもあれば、応答しないものもある。現在、乳がんが従来の内分泌療法又は抗アンドロゲン療法により良好に応答するかどうかを判定する確かな方法は存在しない。そのため、ほとんどの場合、乳がんの第1選択化学療法治療は、一部の乳がん患者にしか有効ではない従来の内分泌療法を使用する。ほとんどの化学療法治療のように、陽性に応答しない可能性が高い者に従来の内分泌療法を行うことは、過度の身体的及び経済的なストレス及び負担をもたらす。
したがって、特定の乳がんが内分泌療法に陽性に応答するかどうかを判定する方法が必要とされている。
本発明の幾つかの態様は、乳がんがERを対象とする治療法に応答する可能性があるかどうか、又は抗アンドロゲン療法により良好に応答し得るかどうかを判定する方法を提供する。本明細書で使用される「ERを対象とする治療法」の用語は、従来の抗エストロゲン剤(例えば、タモキシフェン又はフルベストラント等のエストロゲン受容体アンタゴニスト)、又はアロマターゼ阻害剤(AI)クラスの薬物を使用する化学療法を指す。
本発明は、従来の内分泌(すなわち、抗エストロゲン又はAI)療法に応答する腫瘍がARとERとの間に正の相関(例えば、ARが高い場合はERも高く、ARが低い場合はERも低い)を有するが、内分泌療法にあまり応答しない腫瘍(腫瘍の縮小、又はより短い再発までの時間又はより短い無病生存期間により計測される)はこの正の相関を呈さないか、又はERよりも有意に多いAR(例えば、AR:ER比が3より大きく、典型的には2より大きく、しばしば1.3より大きい)を有するという、本発明者による発見に少なくとも一部基づく。
本発明の幾つかの態様は、乳がんに対する内分泌療法の最も有効な形態(ERを対象とする、すなわち、内分泌療法、又は例えばARアンタゴニストを使用するARを対象とする治療法)を決定する方法を提供する。本発明の更に別の態様は、特定の様式の乳がん治療に対する臨床応答を予測又はモニタリングする方法を提供する。本発明の更に別の態様は、どの化学療法治療を特定の乳がん患者に使用するかを判定する方法を提供する。
本発明の1つの特定の態様は、所与の治療様式に対して乳がん患者の臨床応答を予測する方法を提供する。
概して、本発明の方法は、患者の細胞試料中のアンドロゲン受容体(AR)とエストロゲン受容体(ER)との比を判定することを含む。ARとERとの間の正の相関(例えば、ERが高い場合ARも高く、その逆も同様である)が、従来のERを対象とする内分泌療法(タモキシフェン若しくはフルベストラントのような抗エストロゲン、又はAI等)に対する陽性の応答の可能性の指標である。対照的に、ARとERとの間に正の相関を呈しない(又は「逆相関」)腫瘍細胞(例えば、1.3より大きいAR:ER比)は、抗アンドロゲン療法に対する陽性の応答の可能性の指標である。
本発明の別の態様は、乳がん患者に対する治療法を決定する方法を提供する。かかる方法は、患者の細胞試料中のアンドロゲン受容体(AR)とエストロゲン受容体(ER)との比を判定することを含む。ARとERとの間に正の相関が存在する場合、上記患者を従来の内分泌療法により治療し、AR:ERの正の相関がないか又は逆相関が存在する、例えば、上記比が1.3より大きい場合は、上記患者を抗アンドロゲン療法により治療する。典型的には、抗アンドロゲン療法は、乳がんを患う患者にアンドロゲン受容体阻害剤を投与することを含み、一方、従来の内分泌療法は、エストロゲン受容体阻害剤(タモキシフェン又はフルベストラント又はラロキシフェン等)、アロマターゼ阻害剤、又はそれらの組合せを投与することを含む。
細胞試料中のAR対ERのグラフ、また乳腺腫瘍細胞(A及びB)並びに周辺の正常細胞(C)のAR及びERの免疫染色のスライドを示す図である。4カ月のネオアジュバント内分泌療法を受ける前に患者からコア生検材料を採取し、AR及びERについて染色した。ARについての染色スコア(陽性染色パーセント×強度)をERについての染色スコアに対してプロットし、応答した患者(A、左)、応答しなかった患者(B、左)、及び周辺の正常細胞(C、左)について示した。P値及びスピアマン相関と同じく、直線の傾き(β)を示す。また、応答者(A、右)、非応答者(B、右)のAR及びER染色、並びに周辺の正常細胞(C、右)のAR及びER染色の代表画像を示す。 エストロゲン誘導性増殖アッセイの結果を示す図である。
本発明者は、ネオアジュバント免疫療法に応答するER+腫瘍において、ER及びAR mRNA、並びにタンパク質発現の両方が減少したことを発見した。しかしながら、内分泌療法に応答しなかった腫瘍において、AR mRNA及びタンパク質の発現は高いままであった(8、9)。さらに、ARの過剰発現は、invitro及びin vivoの乳がんモデルにおいてタモキシフェン耐性を増加した(10)。また興味深いことに、本発明者は、異種移植片腫瘍においてARレベルがE2に応答して増加し、またタモキシフェンにも応答して増加したことを観察した。いかなる理論にも束縛されるものではないが、これは、タモキシフェンの部分アゴニスト活性がARの上方制御をもたらしたという指標と考えられる(8)。これらのデータは、乳腺腫瘍における抗エストロゲン療法に対して新たに又は獲得された耐性が、エストロゲン依存からアンドロゲン依存へと転換した結果であることを示す。
ARを保持する分子アポクリン又は管腔アンドロゲン受容体(LAR)と呼ばれるER陰性乳がんのサブセットが存在し(11〜14)、これらの腫瘍におけるAR活性化遺伝子発現のパターンは、ER+乳がんのものと酷似する(15、16)。抗アンドロゲン化合物であるビカルタミドは、in vitro及び代表的な細胞株であるMDA-MB-453を用いたマウスにおける前臨床データにおいて分子アポクリン細胞株の成長を阻害し、抗アンドロゲンがかかる腫瘍に対する有用な標的療法となり得ることを示す(2、17〜20)。しかしながら、ビカルタミドは部分アゴニスト特性を有し、ビカルタミド耐性は前立腺がんにおいて頻発する(21、22)。
エンザルタミドは、ビカルタミドより5倍高い親和性でARに結合する新規なARシグナル伝達阻害剤であり、AR核移行を妨げ、前立腺がん細胞におけるDNA結合を阻害し、有効量でアゴニスト活性を欠く(23〜25)。エンザルタミドは、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)の患者における第III相臨床試験で全生存期間を有意に改善することを示した(26)。
本発明の幾つかの態様は、腫瘍、具体的には抗エストロゲン療法に応答する乳がん、及び抗アンドロゲン療法により良好に応答する乳がんを同定する方法を提供する。本明細書で使用される「応答する」の用語は、特定の治療法を指す場合、その治療法が、腫瘍の成長を減速若しくは阻止する、又は腫瘍成長の退行(すなわち、腫瘍の減少)が達成されるように、腫瘍の治療に有効であることを意味する。本明細書で使用される「抗エストロゲン療法」の用語は、タモキシフェン等のエストロゲン受容体(ER)アンタゴニストを使用する内分泌療法を指す。他のERアンタゴニストとしては、ICI又はアロマターゼ阻害剤等のエストロゲン合成の阻害剤、また当業者に既知のものが挙げられる。本明細書で使用される「抗アンドロゲン療法」の用語は、アンドロゲン受容体(AR)アンタゴニストを使用する治療法を指す。アンドロゲンアンタゴニストの例としては、エンザルタミド、ビカルタミド、又はアビラテロン等のアンドロゲン合成阻害剤、また当業者に既知のものが挙げられる。「ERアンタゴニスト」及び「ARアンタゴニスト」の用語は、他の受容体に対して活性なかかる化合物を除外するものではないことを理解されたい。上記用語は、ERアンタゴニストの活性が、AR等の他の受容体よりもERに対してより活性であること、同様に、ARアンタゴニストがER等の他の受容体よりもARに対してより活性であることを示すにすぎない。典型的には、特定の受容体に関する活性は、他の受容体の少なくとも2倍、しばしば少なくとも5倍、たいてい少なくとも10倍である。
本発明の態様は、抗エストロゲン療法に応答する腫瘍がR値=0.6397の直線に沿うER対ARの関係を有するという、本発明者による発見に少なくとも一部基づく。代替的には、抗エストロゲン療法に応答する腫瘍におけるAR:ERの比は、1.3未満である。AR:ERの比は、免疫染色により容易に判定することができる。そのため、染色された細胞の割合×染色強度を掛け算することによって、AR及びERに対する免疫染色を採点又は判定することができる。代替的には、単にAR及び/又はERに対して陽性染色される細胞の割合を求めてもよい。抗エストロゲン療法に応答しない腫瘍は、ERとARの間に有意性のない関係又は相関を有することが見出された。
本発明の他の態様は、診断的なER対AR相関に従って化学療法治療を決定する方法を提供する。本明細書に記載される方法を使用するAR:ERの比の判定により、抗エストロゲン化学療法又は抗アンドロゲン化学療法を行うかどうかを選択することができる。概して、当業者に既知の任意のER及びARの相対的又は絶対的な量又は値を求める方法(例えば、mRNA発現レベル、mRNAの量、ELISA及びウェスタンブロッティング等の免疫染色法)を使用して、腫瘍に存在するERとARとの比を判定することができる。1つの特定の実施形態では、免疫染色を使用して、AR:ERの比を判定することができる。本明細書に開示される方法を使用して、抗エストロゲン療法に陽性に応答することを示す特性を伴う腫瘍を有することが見出された患者を抗エストロゲン療法により治療し、抗エストロゲン療法に陽性に応答しないことを示す特性を伴う腫瘍を有する患者を異なる治療法(例えば、抗アンドロゲン又はアンドロゲン経路阻害剤)により治療する。上記分析が、抗エストロゲン療法が有効であると示す場合、抗アンドロゲンと抗エストロゲンとの併用療法を行うことができると理解されたい。
驚くべきことに、また予想外に、本発明者は、エストロゲン受容体とアンドロゲン受容体との間に正の相関を有する(すなわち、ERが高い場合にARが高く、その逆も同様である)乳がん腫瘍は、従来の内分泌又は抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン又はアロマターゼ阻害剤による)療法により応答性であり、正の相関を有しない腫瘍又はARとERとの間に逆相関を有する傾向のある腫瘍は、抗エストロゲン療法に応答しないことを見出した。したがって、ARとERとの間に正の相関を有しない(すなわち、ERよりも有意に多いARを有する、例えば、AR:ERの比が1.3以上、典型的には2以上、しばしば3以上の)腫瘍は、抗アンドロゲン又はアンドロゲン経路阻害剤による治療の候補である。本明細書で使用される「ARとERとの間の正の相関」の用語は、1.3未満、典型的には0.5〜1.3の範囲、しばしば0.7〜1.3のAR:ERの比を指す。
幾つかの実施形態では、エストロゲン受容体及びアンドロゲン受容体スコア(例えば、細胞染色パーセント×染色強度)に対する免疫染色により、ER対ARの比又は相関を判定した。代替的には、単に免疫染色に陽性の細胞の割合を求めることにより、AR:ERの比を得ることができる。
上述のように、本発明の態様は、これらの値(例えば、AR及びERの免疫染色)を同じグラフ上で互いに対してプロットした場合に、抗エストロゲン療法に応答した腫瘍が本明細書に記載されるようなR値を有するという本発明者による発見に少なくとも一部基づく。具体的には、この相関研究の結果は、従来の内分泌療法(タモキシフェン又はアロマターゼ阻害剤による)に応答する腫瘍がERとARの間に統計学的に有意な正の相関(すなわち、ERが高い場合ARが高くなる傾向があり、その逆も同様である)を有することを示した。しかしながら、内分泌療法に応答しなかった患者の腫瘍は、正の相関を呈さず、むしろ、典型的には、しばしばARスコアがERよりも有意に高い、例えば、AR:ERの比が1.3以上、典型的には2以上、しばしば3以上の逆相関の傾向を示した。
本発明の更なる目的、利点及び新規の特徴は、限定の意図を有しない以下の実施例を検討すれば当業者にとって明らかになる。実施例では、積極的に実行に移される手法は現在時制で記載されており、研究所で行った手法は過去時制で記載されている。
方法
細胞培養。
これらの研究で使用した全ての細胞株を単一のタンデムリピート分析により確認した。BCK4細胞は、胸水に由来する乳がん細胞株である。BCK4細胞及びMCF7細胞をMEM、5 % FBS、NEAA、インスリン及びペニシリン/ストレプトマイシン中で成長させた。ZR75細胞をHEPES及びL-グルタミンを添加した同じ培地中で成長させた。T47D細胞を10 % FBS、L-グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM中で成長させた。LNCaP細胞をRPMI、5 % FBS及びペニシリン/ストレプトマイシン中で成長させた。全ての細胞を5 % CO2を含む37℃のインキュベーターにおいて成長させた。MDA-MB-453及びMDA-kb2(AR依存性MMTV-ルシフェラーゼレポーター遺伝子コンストラクトを安定的に発現するMDA-MB-453の誘導体、ATCC)を、10 % FBS(Gibco)及びペニシリン/ストレプトマイシンを含有するLeibovitz's L-15培地(Invitrogen)中で培養した。チミジンキナーゼ、GFP及びルシフェラーゼのトリプルフュージョンをコードするレトロウイルスSFG-NES-TGLベクターの安定的発現によりMCF7-TGL細胞を作出した。融合タンパク質を発現する細胞をGFPについて分類した。Identifiler Kit(Applied Biosystems)を使用して、DNAプロファイリングにより全ての細胞株の同一性を確認した。
増殖アッセイ。
MCF7細胞又はBCK4細胞(それぞれ、1ウェル当たり1000細胞及び10000細胞)を、96ウェルプレート内のチャコール処理血清(CSS)を含有するフェノールレッド不含培地にて平板培養した。平板培養から24時間後に細胞をビヒクル対照(エタノール+DMSO)、10 nMエストラジオール(E2、Sigma)、10 nMジヒドロテストステロン(DHT, Sigma)、1 μMビカルタミド(ChemPacific)、10 μMエンザルタミド(Medivation)又は上記の組合せで処理した。細胞を3日目に再処理した。MTSアッセイ(製造業者の指示書により、Roche)を使用して増殖を評価した。全ての値を処理の日(0日目)に対する倍率変化として報告した。
図2は、エストロゲン誘導性増殖アッセイの結果を示す。ビヒクル対照、10 nM E2、10 nM E2+1 uMビカルタミド、10 nM E2+10 uM Enza、10 nM E2+30 uMMJC13(De Leon et al., PNAS, 2011, 108(29), 11878-11883を参照されたい)、又は10 nM E2+10 nM ICIのいずれかで処理する72時間前に、5 % CSSを含有する培地中にMCF7細胞を平板培養した。時間に対する倍率変化(A)又は7日目に対する倍率変化(B)としてデータを示す。エラーバーは標準偏差を表す。*p<0.05、***p<0.01
腫瘍研究。
齧歯動物の餌で輸送されたエンザルタミド(すなわち、MDV3100)を用いるMCF7実験を行った。エンザルタミドを経口強制飼養により輸送したMCF7実験及びMDA-MB-453実験を行った。簡潔には、IVIS画像化の目的で、チミジンキナーゼ、GLP及びルシフェラーゼのトリプルフュージョン(SFG-NES-TGLレトロウイルスベクター)を安定に発現する106個のMCF7-TGL細胞をMatrigel(BDBiosciences)と混合し、雌の卵巣を摘出した胸腺欠損nu/nuマウス又は非肥満糖尿病の(NOD)/SCIDマウス(Taconic)の第4鼠径部乳房脂肪体に注入した。腫瘍を注入する際、E2ペレット(60日放出、1.5 mg/ペレット、InnovativeResearch of America)又はDHT(8 mg/ペレット、サイラスティック管に充填して密封した)を首の後ろの皮下(SQ)に埋め込んだ。腫瘍量をin vivo画像化システム(IVIS)又はノギスによる計測を使用して評価した。一旦腫瘍が定着すると、IVIS又はノギスで計測した全腫瘍量に基づいてマウスを群に対応させた。タモキシフェンを受ける群は、皮下に埋め込まれたペレット(90日放出、5 mg/ペレット、InnovativeResearch of America)を有した。マウスに、餌にエンザルタミドを混ぜて(およそ50 mg/kgの1日量)投与するか、又は経口強制飼養(10 mg/kg/日又は25 mg/kg/日、Medivation Inc)により投与した。エンザルタミドを、餌1グラム当たり0.43 mgで粉に挽いたマウスの餌(Cat # AIN-76、ニュージャージー州ニューブルンスウィックのResearchDiets Inc)と混合した。食餌に放射線照射を行い、使用まで4℃で保管した。対照群のマウスには、エンザルタミドを含まない粉に挽いた同じマウスの餌が与えられた。全ての動物は、調査の全期間に亘り、1日当たり平均3.5 gの食物摂取量で餌又は対照餌と混合したMDV3100を自由に利用できた。動物ケージの食餌を1週間に2回替えた。水及び食餌は自由摂取で調製した。屠殺の2時間前に、マウスに50 mg/kg BrDU(Sigma-Aldrich)を腹腔内注射した。マウスをCO2窒息の後に頸椎脱臼により安楽死させ、血液、腫瘍、結腸、子宮及び乳腺を採取した。
MDA-453腫瘍研究のため、6×106細胞をNOD-SCID-IL2Rgc-/-雌マウスの第4乳房脂肪体に注入した。細胞注入の際にDHTペレット(60日放出、Innovative Research of America)を皮下に埋め込んだ。ノギスを使用して腫瘍サイズを計測し、腫瘍が100 mm3に達したところで、マウスに10 mg/kgのエンザルタミド又はビヒクルを経口強制飼養により与え始めた。腫瘍が400 mm3に達したところで別の群に25 mg/kgのエンザルタミドを開始した。マウスを安楽死させ、腫瘍を計量し、免疫組織化学分析用に固定した。
統計学的分析。
Graphpad Prism 5.0ソフトウェア及びSAS統計ソフトウェア(バージョン9.1)を使用して統計を行った。AR染色とER染色との間の相関について検定するため、スピアマン相関を使用した。2つの群を比較した場合、ステューデントのt検定(正規分布データに対し)又はウィルコクソン順位和(非正規分布データに対し)を使用した。対応のあるt検定又はウィルコクソン符号順位検定を使用して、対応のあるデータを比較した。複数の群の比較には、ボンフェローニの多重比較検定補正(正規分布したデータ)を用いるANOVA、又はダンの多重比較検定補正(非正規分布データ)を用いるクラスカル−ウォリス検定を使用した。各時間点について算出された倍率変化が独立した計測であったin vitroデータに対し、異なる日及び治療群に関する平均倍率変化を比較する二要因母数ANOVAを使用した。上記モデルにて一定期間(fixed terms)の間の相互作用を検定した。ボンフェローニt検定を使用する事後検定を行って、どの群が互いと有意に異なるかを判定した。統計学的検定は両側性であり、0.05未満のp値を統計学的に有意とした。
ネオアジュバント内分泌療法研究。
組入れ基準及び治験計画は他に記載される(8、11)。簡潔には、ER+乳がんを伴う女性を無作為化第II相臨床研究に登録し、エキセメスタン単独(毎日25 mg)又はタモキシフェンと組み合せたエキセメスタン(毎日20 mg)を手術の前4カ月に亘り与えた。上記治験に組み入れられた女性は、新たに診断されたステージII/III、T2〜3のがんを伴い、閉経後であった。治療前にコア針生検材料を取り、最後の切除手術に由来する腫瘍片を分析用に採取した。「応答者」の基準は、やや有効(minor response)から完全緩解(complete response)の範囲であり、一方、「非応答者」は安定しているか、又は進行性の疾患を有した。
タモキシフェン研究。
この研究は、1977年〜1993年にマサチューセッツ総合病院(MGH)にて乳がんと診断され、アジュバントのタモキシフェンを用いて治療されて1998年までMGHにおいて追跡された221名の女性患者のサブセットを含む。診断時の患者の年齢、腫瘍サイズ、腫瘍グレード及び結節の状態、並びに患者が治療開始から60カ月以内にタモキシフェン治療に失敗したかどうかに基づいて、このデータセットの保管資料のホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍を対応させた。タモキシフェン治療に関するデータが完全ではなかったため、治療開始の60カ月以内に失敗の記録を有しなかった患者を失敗しなかったとし、60カ月以内に失敗の記録のある患者を失敗と分類した。ペアリングが完了すると、一部の残っているホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍スライドは、カットスライドが古いためAR染色について評価できないと判定された(合計10症例、各群5症例)。上記症例を排除したことにより、分析用の各群に合計38の症例が残った。したがって、これは部分一致を表し、症例対照研究として分析した。
ARと他の変数との間の関連を説明するためピアソンの積率相関を使用した。分割表を使用して、AR/ER比と臨床病理学的変数との関係を研究した。この分析において、各臨床病理学的変数を2又は3のカテゴリーに分けた(リンパ節陰性対リンパ節陽性;リンパ節陰性対1〜3陽性対4以上の陽性;患者年齢50歳未満対50歳以上;腫瘍サイズ2 cm以下対2cm超;グレード1対グレード2対グレード3;プロゲステロン受容体(PgR)陰性対陽性;erbB2 30 %以下対30 %超、MIB-1中央値未満対中央値以上、有糸分裂/10高倍率視野(MI)中央値未満対中央値以上;EGFR中央値未満対中央値以上)。手動の受信者動作特性(ROC)分析を使用して、AR:ER比を算出し、無病生存期間に関する予後良好と予後不良との間の最大の差が生じた比をこの変数のカットポイントを同定するため調べた。他の予測マーカーとAR:ER比を比較するため、全ての二分した変数に対してフィッシャー直接確率法を使用し、全ての三分した変数に対してカイ二乗を使用した。算出したAR:ER比を使用してカプランマイヤー曲線を描いた。全ての統計をStatView(バージョン5.0、ノースカロライナ州ケーリーのSAS Institute)を使用して算出した。有意性はp<0.05で判定し、全ての検定は両側性であった。
免疫組織化学。
一連のキシレン及びエタノール中でスライドを脱パラフィン化し、10mMクエン酸バッファー(pH 6.0)(BrdU、Ki67)又はpH 9.0の10mMTris/1mM EDTAバッファー(AR、ER、カスパーゼ3)のいずれかにおいて熱により抗原を回復した。BrdU用の組織を2 NのHCl中でインキュベートした後、抗原回復の後0.1 Mのホウ酸ナトリウムでインキュベートした。使用した抗体は、ARクローン441、及びERクローン1D5(Dakocytomation)、切断型カスパーゼ3(Cell Signaling Technology)、Ki67(Santa Cruz sc-15402)及びBrdD(BD Biosciences)であった。Envision-HRP(Dakocytomation)を抗体の検出に使用した。製造業者の指示書により、ApopTagPlus Peroxidase In SituApoptosis Detection Kit(Millipore)を使用してアポトーシスに対してTUNEL染色を行った。AR及びER染色は病理学者により評価され、スコアは強度に陽性細胞パーセントを掛けたものとして報告されるか、又はタモキシフェン治療コホートの場合は細胞陽性パーセントに基づくKM曲線であるが、結果は同様であり、強度に陽性パーセントで掛けた場合であっても有意であった。異種移植片研究におけるBrdU及びTUNEL染色のため、SPOTInsight Mosaic 4.2カメラ及びソフトウェア(ミシガン州スターリングハイツのDiagnosticInstruments, Inc.,)を備えたOlympus BX40顕微鏡(ペンシルベニア州センターバレー)を使用して、各異種移植片腫瘍の3つの別々の200倍視野を撮影した。各画像について色彩の閾値(核の陽性染色に対するRGB、及び全核に対するHSB)をImageJ(米国国立衛生研究所)を使用して手動で調整し、その閾値により生じた粒子を全領域について分析した。RGB領域をHSB領域で除し、各画像について100倍した。核アンドロゲン受容体の分析用に、切断型カスパーゼ3及びKi67のスライドをAperio Scan ScanScope XTにおいて20倍でスキャンした。乳腺腫瘍組織を、Aperio's Scanscopeソフトウェアのネガティブペンツールを使用して、各腫瘍及び摘除した腫瘍の壊死領域について別々にトレースした。核アルゴリズムを利用して、Ki-67及びアンドロゲン受容体染色スライドに対する陽性細胞パーセントを計測し、データをエクスポートした。切断型カスパーゼ3染色スライドを変型Positive Pixel Countアルゴリズムを使用して分析した。
免疫ブロッティング。
全細胞タンパク質抽出物(50 μg)を変性し、SDS PAGEゲル上で分離してPVDF膜に転写した。TBS-T中の3% BSAにおいてブロッキングした後、4℃で一晩、膜をプローブした。利用した一次抗体は、ERα(Neomarkers Ab-16、1:500希釈)、AR(UpstatePG-21、1:500希釈、又はSanta Cruz N-20、1:1000希釈)、GAPDH(SantaCruz V-18、1:1000希釈)、Topo 1(Santa Cruz C-21、1:1000希釈)及びα−チューブリン(SigmaによるクローンB-5-1-2、1:15000希釈)を含む。適切な二次抗体とのインキュベーションの後、Western Lightning Chemiluminescence Reagent Plus(Perkin Elmer)を使用して結果を検出した。
細胞分画。
MDA-MB-453に対し、Current Protocols in Cell Biology(57)に記載されるように細胞分画分析を行った。簡潔には、MDA-kb2細胞を氷冷ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)(pH 7.4)で洗浄し、遠心分離を使用してペレット化して2容量の氷冷NSB(10 mM Tris&middot;Cl(pH7.4)、10 mM NaCl、2 mM MgCl2、1×プロテアーゼ阻害剤)中に再懸濁した。初期容量の15倍まで氷冷NSBを用いて容量を調整し、氷上で30分間インキュベートした。最終濃度0.3 %までNP-40を添加することにより、細胞質画分を得た。0.4 mmのクリアランスダウンス型ホモジナイザーを使用して核及び細胞質を分離した。遠心分離後、細胞質画分を含有する上清を回収した。核画分を含有するペレットを10 mM MgCl2を含有する250 mMショ糖溶液に再懸濁し、その後、核画分のもとで5 mM MgCl2を含有する880 mMのショ糖に対して1容量を添加した。その後、ショ糖クッションによる遠心分離によって核を精製した。MCF7には、製造業者の指示書によりNE-PER Nuclear and Cytoplasmic Extraction Kitを使用して細胞分画を行った。
核移行アッセイ。
光学マイクロプレート内の5 % CSSを添加したLeibovitz's L-15培地中に2×103細胞/cm2でMDA-kb2細胞を播種した。培養の3日後、細胞をEnza(1 μM又は10 μM)で2時間に亘り前処理し、その後、Enzaの存在下で(合計3時間のEnzaによる処理)1 nMのDHTで1時間に亘り共処理を行った。細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、室温にて30分間4 %ホルムアルデヒドで固定し、0.2 %のtriton X-100で透過処理した。その後、1時間に亘り5 % BSAで試料をブロックし、PBS(0.1 % triton)中のARに対する抗体(AR [N20] Santa Cruz sc-815 1:100)と共に一晩インキュベートした。二次抗体である抗ウサギAlexa Fluor 488(1:1000)とのインキュベーションを周囲温度で2時間、2.5 % BSA中で行った。核を30分間DAPI(1 μg/ml)で染色した。60倍対物レンズ及び黄色蛍光タンパク質(YFP)フィルタ(Chroma U-N31040)を使用するOlympus X71蛍光顕微鏡に連結されたQimagingデジタルカメラにより細胞を可視化した。ImageJソフトウェアを使用して、最低48個の細胞でARの核分布(核ARシグナル/全ARシグナルの比)を定量した。
リアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)。
M-Mulv逆転写酵素(Promega)を使用して、1 μgの全RNAからcDNAを合成した。FASN、PRLR及びGCDFP-15には、以下のプライマー:
FASN F 5'-AAGGACCTGTCTAGGTTTGATGC-3'、
FASN R 5'-TGGCTTCATAGGTGACTTCCA-3';
PRLR F 5'-TATTCACTGACTTACCACAGGGA-3'、
PRLR R 5'-CCCATCTGGTTAGTGGCATTGA-3';
GCDFP-15 F 5'-TCCCAAGTCAGTACGTCCAAA-3'、
GCDFP-15 R 5'-CTGTTGGTGTAAAAGTCCCAG-3';
18S F 5'-TTGACGGAAGGGCACCACCAG-3'、
18S R 5'-GCACCACCACCCACGGAATCG-3'、
を使用してSYBRグリーン定量的遺伝子発現分析を行った。PR及びSDF-1には、AppliedBiosystemsからの検証されたプライマー/プローブセット(アッセイID:PR Hs01556702_m1、SDF-1 Hs00171022_m1、18S Hs99999901_s1)を使用してtaqmanリアルタイムPCRを行った。比較Ct法を使用して相対遺伝子発現を算出し、18Sに対して値を正規化した。
ルシフェラーゼ分析。
MDA-kb2細胞を96ウェルのルミネセンスプレート中に1ウェル当たり5×103細胞で平板培養し、一晩インキュベートした。DMSO中に調製されたEnza(10 μM、1 μM、0.1 μM)及びDHT(10 nM、1 nM、0.1 nM、0.01 nM、0.001 nM)の10倍段階希釈で細胞を処理した。24時間のインキュベーションの後、ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を用いて発光レベルを求めた。3つの独立した実験を行い、発光値を相対単位(R.U.)として求め、ビヒクルに対して正規化した。値を平均倍率誘導±標準誤差(SE)として表した。
放射性リガンド結合アッセイ。
Ricera Biosciences, LLCにより放射性リガンド結合アッセイが行われた。インキュベーションバッファー(10 mM Tris-HCl、0.1 % BSA、10 %グリセロール、1 mM DTT)中、25℃で2時間に亘り、0.1 μM〜100 μMの範囲の濃度で0.5 nM [3H]エストラジオール及び非標識化MDV3100(エンザルタミド)と共にERα及びERβをインキュベートした。MathIQTM(英国のID Business Solutions Ltd.)を使用して非線形最小二乗回帰分析によりIC50値及び%阻害を求めた。
結果
ネオアジュバント内分泌療法に応答性の腫瘍における正の相関。
ネオアジュバントAI療法に応答性の管腔乳がんにおいてAR発現は減少したが、応答しなかった腫瘍においては維持された(8)。ERに対するARの比と臨床応答との間に関係があるかどうかを判定するため、ネオアジュバントAI療法により治療された患者のコホートを調査した。AI応答性腫瘍において、治療前生検材料でARとERとのタンパク質発現に強い正の相関があった(p=0.006、図1A、左)。対照的に、応答しなかった腫瘍では、ARとERとの発現に有意な相関はなかった(p=0.59、図1B、左)。応答性腫瘍におけるAR及びER染色の代表的な画像は、低(上)、中(真ん中)、又は高(下)に関わらず、同様の量の2つの受容体(図1A、右)を実証し、一方、非応答性腫瘍はERより高いレベルのARを有する傾向がある(図1B、右)。応答性及び非応答性の両方の腫瘍からの周辺正常上皮も調査し、AR及びERについて採点した。「周辺正常上皮」の用語は、乳腺腫瘍部位周辺の非腫瘍細胞を指す。
また、周辺正常上皮は、2つの受容体の間の有意な正の相関を含むものであった(p=0.0003、図1C、左)。腫瘍においてみられるように、ERに対するARの実質的な相関は、受容体の発現の低、中、又は高に関わらず、維持される(図1C、右)。周辺正常胸部上皮細胞におけるER発現に対するAR発現の比の中央値は0.94であり、応答性腫瘍では1.00であったが、非応答性腫瘍ではAR:ER比の中央値は3.79であった(示していない)。そのため、概して、3未満、典型的には、2.5未満、しばしば2未満、たいてい1.5未満の周辺正常胸部上皮細胞におけるERに対するARの比は、乳がんが内分泌療法に応答するという指標である。よって、内分泌療法の後のERに対するARの初期比率及びAR発現の維持は、内分泌療法の応答の決定因子となると思われる。また、リガンドに結合された場合にARが核内に存在することから、ARシグナル伝達もまた、ERを対象とする治療法に対する耐性において役割を果たすと考えられる。これは、ERに対してより高いレベルのARが、ER経路を標的とする従来の内分泌療法に対して新たな又は獲得した耐性を提供したという観察により更に示された。また、この観察は、かかる乳がんがエストロゲンへの依存からアンドロゲンへの依存(reliant)へと変換したことを示す。
高AR:ER比はタモキシフェンに対する乏しい応答を示す。
ERと比較して多量のARタンパク質がERを対象とする治療法に対する失敗を予測し得るかどうかを判定するため、転帰データを伴うタモキシフェン治療患者のコホートを調査した。この研究は、1977年〜1993年の間にマサチューセッツ総合病院(MGH)で乳がんと診断され、アジュバントのタモキシフェンを用いて治療されて1998年までMGHにおいて追跡された221名の女性患者のサブセットを含むものであった。診断時の患者の年齢、腫瘍サイズ、腫瘍グレード及び結節の状態に基づいて、タモキシフェンに対して失敗した患者及び失敗しなかった患者を、最初に対応させた。しかしながら、一部の保管資料組織は分解し、分析から排除した(合計10症例、各群5症例)。最適以下の症例のマッチング及び排除の後、分析のため各群に合計38症例が残った。試料選択は部分一致の結果であったため、研究を症例対照研究として大きく分析し、治療失敗と非失敗との間の患者の相違及び腫瘍の特性における相違を判定した。1.3のAR:ER比は、予後良好と予後不良とを最もよく分離する点と判定した。カプラン−マイヤー分析を行って、AR:ER比の状態による失敗率の差を調査した。失敗までの平均時間45+/-23カ月を有するAR:ERが1.3未満の群と比べて、より高いAR:ER比の群は、失敗までの平均時間29+/-4.3カ月とより短い無病生存期間を有した。
失敗までの時間の中央値を調査する場合(上記に報告される平均と反対に)、AR:ERが1.3以上の腫瘍においては、失敗までの時間の中央値は30+/-2カ月であり、一方、AR:ERが1.3未満の腫瘍においては、失敗までの時間の中央値がなおも120カ月に達していなかった。全データセットによるタモキシフェン療法に失敗しなかった患者の総数は失敗した患者数のおよそ3倍であったが、このサブセットを失敗及び非失敗に均等に分けた。患者の全コホートにおける陽性AR染色は、分裂指数及びerbB2発現と負の相関関係にあった。しかしながら、低及び高AR:ER比群に分離した場合、どの腫瘍特性とも有意な相関はなかった。
アンドロゲンは、ER+/AR+乳がん細胞株において増殖性であり、アンドロゲン媒介増殖は、エンザルタミド等のARシグナル伝達阻害剤により遮断され得る。臨床データが、アンドロゲンシグナル伝達が乳がんにおいて役割を果たすことを示したため、乳がんのin vitroモデルを使用してアンドロゲン媒介増殖を調査した。ARは管腔乳がんにおいて広く発現され(3、27〜29)、臨床試料において、管腔乳腺腫瘍の100 %(35/35)がARを発現したのに対し、IHCにより一部の三重陰性乳がんがARを発現したにとどまることが見出された。4つの管腔乳がん細胞株に由来する溶解物を、AR及びERの発現についてプローブした。高レベルのARを発現する、前立腺がん細胞株LNCap及び分子アポクリン乳がん細胞株MDA-MB-453をAR発現の陽性対照として使用した(20、30、31)。新たなアンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤であるエンザルタミドは、ARタンパク質のリガンド媒介安定化を抑制した。MCF7細胞及び新たに誘導されたBCK4細胞株は、AR及びERの両方を発現し、いずれの細胞株もin vitroでDHTに応答して増殖した。研究は、MCF7細胞は短縮されたGAGリピート(32)にもかかわらず、野生型ARを発現し、しばしばより活性な受容体の指標であることを実証した(33)。乳がん細胞におけるアンドロゲン媒介増殖を抗アンドロゲンにより遮断することができるかどうかを判定するため、エンザルタミドの有効性を試験した。DHT刺激性増殖は、いずれの細胞株でもエンザルタミドにより遮断された。さらに、細胞分画は、エンザルタミドがARのDHT媒介核移行を阻害したことを明らかにした。
エンザルタミドがin vivoでアンドロゲン媒介成長を阻害するかどうかを判定するため、構成的にルシフェラーゼを発現するMCF7細胞(MCF7-TGL)を、DHTペレットが埋め込まれ、卵巣を摘出した免疫不全マウスの乳房脂肪体に注入した。全腫瘍量を全身の発光画像化及びノギス計測を使用して計測した。腫瘍が定着すると、発光により計測された腫瘍量に基づいてマウスを、一方は対照の餌を与え、他方は50 mg/kgのエンザルタミドを含有する餌を与える、2つの治療群(-2日目)に対応させた。DHT処理マウスにおける腫瘍を引き続き成長させ、一方でDHT+エンザルタミドを受けるマウスは、in vivo発光画像化システム(IVIS)及びノギス計測により腫瘍の退縮を示した。画像化の最終日(19日目)に、腫瘍は、DHT群と比較してDHT+エンザルタミドを受けるマウスにおいて83.2 %の発光の減少を伴って、検出不可能なレベル近くまで退縮した。BrdUの取り込みによって求められるように、エンザルタミド処理腫瘍における増殖は、DHT単独により処理した腫瘍よりも31.3 %低かった。さらに、TUNEL染色は、エンザルタミド処理腫瘍におけるアポトーシス細胞の50 %の増加を示した。ARの核移入を妨げるエンザルタミド(25)と一致して、AR核局在の劇的な減少(92.5 %)が、エンザルタミドにより処理された腫瘍において観察された。同様に、経口強制飼養によりエンザルタミドが投与されたマウスにおいて、腫瘍量は用量依存的に減少した。
エンザルタミドはin vitro及びin vivoでER-乳がん細胞におけるアンドロゲン媒介成長を阻害する。
この研究は、エンザルタミドが、in vitroでAR+乳がん細胞株(ER+及びER-の両方)のアンドロゲン誘導性増殖を遮断し得るかどうか、またin vivoで腫瘍成長を遮断し得るかどうかを判断するため計画された。データは、ERの状態に関わらず、エンザルタミドがAR+乳がんのアンドロゲン媒介腫瘍成長を阻害するのみならず、ER+/AR+乳がんの前臨床モデルでエストロゲン刺激性腫瘍成長も阻害し得ることを示す。
以前の報告(3、34)と同様に、管腔乳がんの大半及びおよそ25 %のER-乳腺腫瘍は、AR発現に対して陽性であることが観察された。ER-細胞株及びER-組織は、不均一なパターンのAR発現を呈した。MDA-MB-453細胞は、DHTに対する感受性の低減を伴う点突然変異を含有する、高レベルのARを有する分子アポクリン細胞株である(35)。それにもかかわらず、これらの細胞は、アンドロゲンに応答して増殖し(30、31)、そのため、エンザルタミドが遺伝子発現及び増殖に対するDHT媒介効果を遮断し得るかどうかを判定するため実験を行った。実際に、エンザルタミドは、DHTにより誘導された増殖を実質的に完全に抑止した。アンドロゲン/AR依存性遺伝子脂肪酸合成酵素(FASN)、総嚢胞性疾患液体タンパク質(GCDFP-15)及びプロラクチン受容体(PRLR)の発現(31)は、エンザルタミドにより減少された。さらに、アンドロゲン応答性ルシフェラーゼレポーター(MDA-kb2(36))を安定に発現するMDA-MB-453細胞の亜系において、エンザルタミドは、用量依存的にルシフェラーゼコンストラクトの活性化を阻害した。エンザルタミドは、前立腺細胞において、ARのリガンド媒介核移入を妨げる(25)。IHCを使用して全ARシグナルに対する核を定量し、細胞分画を行った。MDA-MB-453細胞においても同様であることが見出された。
エンザルタミドがアンドロゲン誘導性腫瘍性成長を阻害するかどうかを判定するため、DHTペレットを埋め込んだ免疫不全のマウスの同所でMDA-MB-453異種移植片を成長させた。以前の報告(20)と同様に、DHTは腫瘍成長を刺激した。腫瘍が100 mm3に達したところで、マウスを経口強制飼養により10mg/kg/日のエンザルタミド又はビヒクルで処理した。エンザルタミドで処理したマウスは、DHT処理を受けていないマウスと実質的に同じサイズで腫瘍を維持した。より高用量のエンザルタミド(経口強制飼養により25 mg/kg/日)を受けた別のマウスの群は、一旦腫瘍が400 mm3に達した。この高用量において、腫瘍サイズの減少傾向があった。低用量又は高用量のいずれかのエンザルタミドで処理した腫瘍の重量は、DHTで処理したマウスの腫瘍よりも有意に低く、それぞれ85.2 %及び65.0 %の減少であり、高用量のエンザルタミドに関するノギスによる計測は、この群における腫瘍量の減少を過小評価したことを示す。興味深いことに、いずれの群のKi67染色により計測される増殖速度にも有意差はなかったが、DHTに対して両方のエンザルタミド治療群で、切断型カスパーゼ3の量により計測されるアポトーシスの統計学的に有意な増加があった(低用量群及び高用量群で、それぞれ60.0 %及び54.3 %の増加)。これは、MDA-MB-453腫瘍において、DHTがアポトーシスから細胞を保護し、エンザルタミドがこの抗アポトーシス効果を妨げることを示した。in vitroデータと一致して、エンザルタミドは、エンザルタミドで処理した腫瘍におけるAR陽性核の数の有意な減少(低用量群で50.0 %、高用量群で44.3 %)があることから、リガンドにより媒介されるARの核移行を減弱することができた。同様に、MDA-MB-453異種移植片研究を低用量及び高用量のエンザルタミド処理を用いて行った場合、いずれも、腫瘍が100 mm3に達した際に開始し、核AR染色の減少を伴い用量依存的に腫瘍成長が減少された。
エンザルタミドはin vitro及びin vivoでエストロゲン媒介成長を阻害する。
E2がER+腫瘍において主要なマイトジェンであることから、エンザルタミドがER+/AR+乳がん細胞においてE2媒介増殖に影響を及ぼすかどうかを判定するため研究を行った。エンザルタミドがARに対して高い親和性結合を有する一方、in vitro放射性リガンド結合アッセイは、エンザルタミドがERα又はERβのいずれにも有意に結合しなかったことを示した。しかしながら、エンザルタミドは、in vitroでMCF7細胞及びBCK4細胞の両方のE2誘導性増殖を有意に阻害した。また、エンザルタミドは、2つのエストロゲン応答性遺伝子である、PR及びストロマ細胞由来因子1(SDF-1)(CXCL12としても知られる)のE2誘導性の上方制御を阻害した。他の抗アンドロゲンもE2媒介増殖を阻害するかどうかを判定するため、in vitroでE2媒介増殖に対するビカルタミドの効果を試験した。ビカルタミドは予想通り、MCF7細胞におけるDHT媒介増殖を阻害したが、エンザルタミドとは対照的に、E2媒介増殖を有意に増加した。このE2媒介作用の誘導は遺伝子発現レベルでも検出され、ビカルタミドがPR及びSDF-1 mRNAのE2媒介誘導を増加した。
エンザルタミドがin vivoでE2媒介乳腺腫瘍の成長に影響を及ぼすかどうかを判定するため、E2ペレットが埋め込まれ、卵巣摘出した免疫不全のマウスにおいて成長させた構成的にルシフェラーゼを発現するMCF7-TGL細胞を用いて異種移植片研究を行った。細胞を同所に注入し、腫瘍が定着したところで(平均サイズ100 mm3)、マウスを3つの群、1)対照餌、2)対照餌及びタモキシフェンペレット、3)50 mg/kgのエンザルタミドを含有する餌に対応させた。エンザルタミドは、11日目にタモキシフェン群について59.9 %、及びエンザルタミド群においては70.3 %の全身発光の減少を伴って、タモキシフェンと同じくらい効果的にE2媒介MCF7異種移植片腫瘍成長を有意に阻害した。発光が飽和に近くなり、大きな腫瘍量のためマウスを安楽死させなければならなかったことから、11日目は、E2群にとって最後の画像化の日であった。個々の動物に対する発光光束を計測し、対応させた日(-3日目)及び全てのマウスが生きている場合には最後の画像化の日(11日目)についてマウスの画像を撮影した。両薬物は、BrdU取り込みにより計測されるように、E2群と比較して、E2+タモキシフェン群において46.4 %の減少、及びE2+エンザルタミド群において54.2 %の減少を伴って、有意に細胞増殖を減少したことがわかった。DHT媒介成長で観察されたものとは対照的に、エンザルタミドはE2刺激性成長条件下でアポトーシスを誘導しなかった。これらの結果は、経口強制飼養によりエンザルタミドでマウスを処理した異種移植片研究において再現された。
考察
本明細書で記載される実験は、MCF-7細胞及び胸水から新たに得られた乳がん細胞株(BCK4)の両方において、アンドロゲンがER-/AR+乳がんの増殖を誘導することができるという、以前の報告(31、37〜39)と一致する観察結果を実証する。さらに、実験は、ARアンタゴニストであるエンザルタミドが、in vivoでER+/AR+及びER-/AR+の両方の乳腺腫瘍のアンドロゲン誘導性成長を阻害することを示した。また、ER+乳がんの大多数はAR+(84 %〜91 %)であり(5、40、41)、ARとER及びPRとを共発現する腫瘍を伴う患者は、おそらくかかる腫瘍がより高分化されていることから、3つ全ての受容体に陰性の腫瘍の患者よりも長い無病生存期間を有する(40)。しかしながら、ARは腋窩転移の独立した予測因子であり(41)、リンパ節陽性状態と相関する(42)。どのようにしてリガンド結合ARがER+乳がんの増殖及び成長に影響を及ぼすのか(43)、またこれが、循環エストロゲン量が異なる場合に閉経前の女性と閉経後の女性と、又はタモキシフェン若しくはAIを用いて治療されている乳がんを伴う女性で異なるのかについては、いまだ議論の的となっている。本明細書で開示されるように、ERタンパク質に対するARタンパク質のより高い比率は、ネオアジュバントAI治療に対する応答を欠き、またタモキシフェンを用いて治療された患者におけるより短い無病生存期間の指標である。これらの知見は、AR:ER比が従来のエストロゲン経路を対象とする内分泌療法に対する応答の新規な独立した予測因子であることを示す。また、本発明は、タモキシフェン又はAIを受けている間に再発する患者が、ARを対象とする治療法の良好な候補であることを開示する。
DHTに応答して増殖するER+/AR+ MCF7細胞及びBCK4細胞におけるin vitroデータとは対照的に、一部のER+/AR+乳がん細胞株において、DHTはE2誘導性増殖を減少した(30、44〜46)。また、本発明者は、ビカルタミドがE2媒介増殖を増加することを観察し、ビカルタミドがER媒介増殖を減少するARの能力を阻害することを示した。ARがより良好な予後の指標であるという事実と組み合せると、これらの結果は、ARがE2刺激性乳がんに対して保護的であることを示すと考えられる。本発明者は、ARシグナル伝達阻害剤であるエンザルタミドが、in vitro及びin vivoでAR核局在を妨げ、E2媒介増殖を阻害することを見出した。
ARが乳腺の発達において増殖性の役割を果たすという証拠は、ARを欠損する雌性マウスの分析に由来する。乳腺発達は、乳管分岐の減少、末梢芽状突起におけるより少数の帽細胞、小葉腺胞発達の減少、及び乳腺におけるより少ない乳汁産生腺房を伴って、AR-/-マウスにおいて遅延される。4週齢〜6週齢においてAR-/-マウスの乳腺は、AR+/+マウスの乳腺よりも50 %少ない増殖を有する(47)。興味深いことに、ARを欠失したMCF7細胞は、E2に対して大幅に妨げられた増殖性応答を呈し、これらの細胞の成長は正常及びステロイド欠乏培地において阻害された(47)。
乳房に対するホルモンの影響は、閉経前の女性と閉経後の女性とでは全く異なると考えられている。アンドロゲンの保護効果を示唆するデータは、エストロゲンの存在下でアンドロゲンを利用し、それによって閉経前の状態をより厳密にモデル化する実験に由来する(48)。そのため、アンドロゲン及びARがE2媒介増殖に対して保護的であるという理論は、閉経前の女性において正しい可能性がある。ARは、これらの遺伝子座でERよりも弱い転写活性化因子にもかかわらず、ERコファクターであるFOXA1、及びエストロゲン応答因子(ERE)に結合することができる。したがって、リガンド結合型ERと競合するリガンド型ARの正味の効果は、E2媒介増殖の減少であるかもしれない(44)。さらに、MDA-MB-453細胞株等のER-/AR+腫瘍において、全体的なAR結合事象は、ER+管腔A腫瘍におけるERのプロファイルと広く重複するプロファイルを明らかにする(15)。ER+乳がんを伴う閉経後女性(大半の症例を占める)、特にAIを用いて治療された者において、E2の循環レベルは非常に低いが、AIがアンドロゲンのエストロゲンへの変換を遮断するため、循環アンドロゲンレベルは比較的高い(49)。実際、テストステロン、アンドロステンジオン、及び硫酸デヒドロエピアンドロステロン(DHEA-S)の循環レベルは、AI療法中にある女性で増加する(50)。これに関連して、おそらくARは、増殖性及び抗アポトーシス性シグナル伝達経路を活性化することができる。実際、治療前の高レベルの副腎アンドロゲンDHEA-Sは、AIに対する失敗の予測するものであり、循環DHEA-Sは、AI治療に応答しなかった腫瘍を伴う患者において治療中に増加する(51)。
本発明者は、エンザルタミドがER陽性及び陰性の腫瘍のいずれにおいてもアポトーシスに対するDHT媒介保護を効果的に遮断することを見出した。しかしながら、ER+/AR+細胞におけるE2刺激腫瘍成長に対抗する場合、エンザルタミドは増殖を阻害した。エンザルタミドはERに対してごくわずかな競合結合親和性を示したにすぎないが、エンザルタミドは古典的なER調節遺伝子のE2媒介上方制御を遮断することが見出された。ケモカインSDF-1はE2により誘導され、乳がん細胞におけるE2のマイトジェン作用を媒介する(52)。実際、SDF-1/CXCR4経路は、E2媒介増殖がこの経路の阻害によって遮断されるように、リン酸化を介してERを活性化する(53)。しかしながら、E2誘導性SDF-1の阻害が、エンザルタミドがE2媒介増殖を阻害する主要な機構であるかどうかは不明である。ARが直接にE2媒介増殖に関与するという別の可能性がある。
エンザルタミドと対照的に、ビカルタミドはアンドロゲンの不在下でE2調節遺伝子の上方制御を増強し、E2媒介乳がん細胞増殖を増強する。エンザルタミドとビカルタミドとがどのようにしてER活性に影響を及ぼすかということにおけるこの相違は、それらの作用機序における相違の結果と考えられる。この相違は、乳がんにおけるARの役割に対する見通しをもたらす可能性がある。ビカルタミドに結合された場合、ARは核に移行してDNAに結合するが、コアクチベーターの代わりにコリプレッサーが集められるため転写は活性化されない(54)。対照的に、エンザルタミドはARの核移入を妨げる(25、55)。エンザルタミドがE2誘導性増殖を遮断し、古典的なER調節遺伝子に対するリガンド型ER活性を阻害するという、この観察結果及び事実は、核(おそらくはDNAに結合した)ARがER機能に関して重大な意味を持つ可能性があることを示唆する。実際、AR及びERは、直接に相互作用すると報告されている(56、57)。
本開示の前に、ARは乳がんにおいてバイオマーカーとして使用されていない。しかしながら、本明細書に開示されるように、腫瘍生物学の有意な指標であるのは、ER又はARの合計量ではなく、むしろその比である。ERに対するARの比が高いことは、内分泌療法に対する乏しい応答を予測するものである。いかなる理論にも束縛されないが、この乏しい応答は、抗エストロゲンに対する新たな及び/又は獲得された耐性によるものと考えられる。さらに、ERに対してより高いARの核発現は、ARタンパク質が核内へ移行し、リガンド結合により安定化されることから、活性なリガンド型ARの指標である。本開示は、AR及びERのタンパク質が、ネオアジュバント内分泌療法に応答する腫瘍及び周辺の関与していない上皮においておよそ等しい量で発現されることを示し、同等レベルに近いARとERとはより正常又は高分化状態を反映することを示す。ERを対象とする治療法に対する応答の指針であるのに加えて、ERに対して高いレベルのARは、エンザルタミド等の抗アンドロゲン療法による利益を受け得る腫瘍も示す。
ARがER-/AR+乳がんにおいて可能性のある治療標的とされてきたが(13、14、16、20)、ER+乳がんにおいてはこれまで標的として示唆されたことはなかった。しかしながら、一部のER+乳がん患者は、最終的には、従来の抗エストロゲンを対象とする治療法に失敗することから、アンドロゲン刺激性の腫瘍成長を阻害するため、又はE2媒介成長を阻害する代替的/追加的な方法としてARを標的とすることは臨床上、非常に有用となり得る。さらに、ERに対するARの比が高いことは、抗エストロゲン対象療法よりも高アンドロゲン療法(例えば、エンザルタミドを使用する)に対してより好ましく応答し得る乳がんのサブセットを示すか、又は少なくとも、かかる腫瘍が従来のERを対象とする治療法を受けている間の再発の際にエンザルタミド等の抗アンドロゲン化合物により利益を受けることを示す。ARよりもERを多く発現するMCF-7異種移植片においてさえも、エンザルタミドは腫瘍成長の阻害においてタモキシフェンと同じくらい有効であることが観察された。まとめると、本明細書に提示されるデータは、特に閉経後の女性での従来の内分泌療法に対する耐性におけるARに対する役割を示唆する。さらに、本明細書に開示されるデータは、抗アンドロゲン化合物又はARアンタゴニストの薬物がアンドロゲン媒介腫瘍成長及びエストロゲン媒介腫瘍成長の両方を遮断する能力を有することから、ERの状態に関わらずAR+腫瘍の治療にエンザルタミド等の抗アンドロゲン化合物又はARアンタゴニストを使用することを示す。
本発明の上記の記述は例示及び説明のために提示されている。上記の記載は本明細書において開示されている形態(単数又は複数)に本発明を限定する意図はない。本発明の記載には1つ又は複数の実施形態並びに或る特定の変形形態及び変更形態の記載が含まれているが、例えば本開示を理解した後に当業者の技術及び知識内にあり得るような他の変形形態及び変更形態も本発明の範囲内である。許容される程度まで代替的な実施形態(特許請求されるものに対して代替的な、交換可能な及び/又は均等な構造、機能、範囲又は工程が含まれる)を含む権利を、かかる代替的な、交換可能な及び/又は均等な構造、機能、範囲又は工程が本明細書に開示されているか否かにかかわらず、また任意の特許可能な主題を公衆に捧げる意図なく取得することが意図される。
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Claims (18)

  1. 乳がん患者の内分泌療法に陽性に応答する可能性を予測する方法であって、
    前記患者の組織試料中に存在するアンドロゲン受容体(AR)及びエストロゲン受容体(ER)の量を求めることと、
    前記組織試料中のAR及びERの量を比較することと、
    を含み、
    ARとERとの間の正の相関が抗エストロゲン内分泌療法に対する陽性の応答の可能性の指標である、乳がん患者の内分泌療法に陽性に応答する可能性を予測する方法。
  2. ARとERとの間の正の相関が、1.3未満のERに対するARの比を有することを含む、請求項1に記載の方法。
  3. ARとERとの間の正の相関が、約0.45〜約0.85の範囲のERに対するARの比を有することを含む、請求項2に記載の方法。
  4. ARとERとの間の正の相関が、約0.55〜約0.75の範囲のERに対するARの比を有することを含む、請求項2に記載の方法。
  5. ARとERとの間の正でない相関が、抗アンドロゲン療法に対する陽性の応答の可能性の指標である、請求項1に記載の方法。
  6. 前記組織試料が、乳がん組織、周辺上皮細胞、又はそれらの組合せを含む、請求項1に記載の方法。
  7. 前記組織試料中のAR及びERの量を求める前記工程が、該組織試料を免疫染色することを含む、請求項1に記載の方法。
  8. 前記組織試料中のAR及びERの量を求める前記工程が、免疫染色により染色される細胞の割合を求めることを含む、請求項7に記載の方法。
  9. 前記組織試料中のAR及びERの量を求める前記工程が、免疫染色により染色される細胞の染色強度を求めることを更に含む、請求項8に記載の方法。
  10. 乳がんの治療を必要とする対象者において乳がんを治療するのに化学療法剤を選択する方法であって、
    前記対象者の組織試料中に存在するアンドロゲン受容体(AR)及びエストロゲン受容体(ER)の量を求めることと、
    前記組織試料中のARとERとの間に正の相関が存在する場合にERモジュレータを選択するか、又は前記組織試料中のARとERとの間に正の相関が存在しない場合にARモジュレータを選択することと、
    を含む、乳がんの治療を必要とする対象者においてかかる治療のための化学療法剤を選択する方法。
  11. ARモジュレータが、AR阻害剤又はアンドロゲン合成の阻害剤を含む、請求項10に記載の方法。
  12. ARとERとの間の正の相関が、約0.5〜約1.0の範囲のERに対するARの比を有することを含む、請求項10に記載の方法。
  13. ARとERとの間の正でない相関が1.3より大きい、請求項10に記載の方法。
  14. 前記ERモジュレータが、タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、又はそれらの組合せを含む、請求項10に記載の方法。
  15. 前記組織試料が、乳がん組織、周辺上皮細胞、又はそれらの組合せを含む、請求項10に記載の方法。
  16. 前記組織試料中のAR及びERの量を求める前記工程が、該組織試料を免疫染色することを含む、請求項10に記載の方法。
  17. 前記組織試料中のAR及びERの量を求める前記工程が、免疫染色により染色される細胞の割合を求めることを含む、請求項16に記載の方法。
  18. 前記組織試料中のAR及びERの量を求める前記工程が、免疫染色により染色される細胞の染色強度を求めることを更に含む、請求項17に記載の方法。
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