JP2015518927A - 震盪または爆風の力の対象への損傷効果を低減するための方法及び器具 - Google Patents

震盪または爆風の力の対象への損傷効果を低減するための方法及び器具 Download PDF

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Abstract

爆風または震盪イベントの損傷効果を低減するための方法は、震盪イベントがおこっている間、頭蓋腔からの血液の流出を減じるための少なくとも1本の頸静脈への圧力の印加を含む。頭蓋腔からの血液流出を減じることで、脳脊髄液の頭蓋内圧力が高められて、外傷性脳損傷及び脊柱への損傷のリスクが低められる。さらに、血液流出を減じることで頭蓋内圧力が高められ、よって蝸牛液、硝子体液及び脳脊髄液の圧力が高められ、よって、内耳、眼の内部構造及び脊柱の損傷のリスクが低められる。さらに、頭蓋内圧力を高めることで脳の損傷及び関連する聴覚機能のいかなる喪失の確率も低められる。

Description

本開示は全般に震盪イベントへの曝露の効果を低減するための方法及び器具に関する。
外傷性脳損傷(TBI)は、西欧社会においてさえも、45歳以下の人の死亡及び病的状態の最も普通の原因の1つであり続けている。米国だけで、年に170万人がTBIを患っていると報告されており、この結果、毎年合計で600億ドルをこえると推定される費用が生じている。歴史的に、頭蓋骨及び脳の損傷の予防は外頭蓋保護としてのヘルメットの使用に集中していた。ヘルメットは大きな穿通脳創及び頭蓋骨折にしか有効ではないから、この手法は基本的に不十分である。穿通脳創及び頭蓋骨折は市民生活では頭部損傷の非常に小さな割合しか占めていない。軍事統計は、戦場においてさえ、穿通物による傷害はTBIの0.5%未満でしかないことを示している。しかし、軍人及び運動選手は、ヘルメットでは軽減できず、脳震盪症を引きおこす、高速の加速―減速機構にさらされる。多くの場合、頭蓋腔内の人間の脳の相対運動自由度は、直線及び回転の力ベクトルのいずれの素因にもなり、この結果のエネルギー吸収が細胞の崩壊及び機能不全をもたらし、ときには遅延細胞死にいたらせる。
頭蓋骨及び脊椎管は、神経組織、結合組織及び脂肪細胞並びに間質、血液、及び脳脊髄液(CSF)だけを収める。これらの液体内容物は頭蓋骨及び骨性脊椎管で境界が定められる容器を完全には満たさず、「予備体積」を残す。所与の圧力変化に対する内部の体積変化は「コンプライアンス」と称される。低容器圧力においては頭蓋骨及び骨性脊椎管の内容物の、予備体積の範囲内の、体積増加が(系の高コンプライアンスにより)おこる。予備体積の存在により、正常な生理学的状態において見られるように、頭蓋骨への加速度は頭蓋骨と内容物の間に異なる加速を生じさせ得る。この結果、脳と液体は相互に、また頭蓋骨内壁と、衝突する。哺乳類の脳の半固体特性を考慮して、この効果は「スロッシュ(SLOSH)」と称される。
ヘルメットはまれな頭蓋骨の穿通または骨折の予防には有効であるが、スロッシュ効果を制限する能力はほとんど有していない。したがって、予備体積を満たす(コンプライアンスを消尽する)ことによるスロッシュの軽減は、頭蓋骨とその内容物の間の、及び頭蓋骨の様々な内容物の間の、異なる運動への性向を大きく減じることができる。スロッシュを軽減することにより、頭蓋骨への加速力は頭蓋骨及びその内容物を一致して運動させて、頭蓋内の内容物の間の衝突を防止し、よって、頭脳による、運動エネルギー、音響エネルギー、熱エネルギー及び振動エネルギーの吸収が回避されるであろう。
TBIを生じさせる同じ震盪イベントは、内耳、脊髄及び眼の構造にも損傷効果を有し得る。感音性難聴はTBIにおいて85%の率でおこることが指摘されている。急性爆傷及びその結果の外傷性脳損傷の結果として聴覚系に併発する損傷は、2004年のイラクの自由作戦中の米国海兵隊員の間で全損傷の内の4分の1を占め、最も普通のタイプの単独損傷であった。聴覚機能不全は最もありふれた兵役関連損傷となり、賠償額は年に合計で10億ドルをこえる。
爆風波は鼓膜の破裂及び耳小骨離断の原因になる(したがって伝音難聴を生じさせる)と考えられるかもしれないが、入手できる聴覚学報告書によれば、純感音性難聴が患者における難聴の最もありふれたタイプであった。1999年から2006年に実施された観察研究によれば、難聴を訴えた実戦従軍兵士の内の58%が純感音性難聴と診断されていたことが分かった。この研究からのデータにより、爆風起因TBIの患者の38%が感覚神経性耳鳴(耳鳴り)をもつと報告されていたことも明らかになった。
感音性難聴の部位は蝸牛管及び前庭器官(三半規管)と称される内耳構造である。これらの構造はいずれも液体で満たされ、したがって、スロッシュ誘起エネルギー吸収の影響を特に受け易い。蝸牛殻の鼓室階及び前庭階も液体で満たされ、圧力波及び液体波をコルチ器管の繊細な有毛細胞に伝達する。聴覚有毛細胞は、蝸牛管内の横振動ではなく、有毛細胞が浸されている液体内の振動に直接に反応する。蝸牛殻及びこれにともなう有毛細胞はスロッシュエネルギー吸収の影響を特に受け易い。
140mlの総CSF体積の内のほぼ30ml(21%)は脊椎軸内にあり、CSF系のコンプライアンスの約3分の1は脊椎分画に起因している。脊椎分画は、ある程度水で満たされた、スパゲッティの索(脊髄路)が水中に吊されている、円筒形容器にたとえることができる。水で完全に満たされた容器は、ある程度満たされた容器よりも、かなり大きな圧縮負荷重に耐えることができる。さらに、ある程度満たされた容器内に吊されたスパゲッティは缶内でスロッシュにより激しく損傷を受け得る。同様に、脊椎分画は、分画がCSFで完全に満たされていれば、より高い軸荷重に耐えることができ、スロッシュの発生は極めて最小限に抑えられ得る。
イラクの自由作戦,OIFにおける交戦死傷者報告において207件の重篤な眼外傷の内の82%の原因は爆風及び爆裂片であった。眼外傷は砂漠の盾作戦及び砂漠の嵐作戦中の戦闘支援病院で見られた全戦場外傷の16%(19/149)を占めた。前房出血(前眼房内血液)及び外傷性白内障は非開放性眼球外傷で最も普通に見られ、被眼窩損傷の大半(67%)であった。不朽の自由作戦において戦闘眼外傷(COT)を受けた軍人の内の66%もTBIを有していた。単純に言えば、戦闘関連眼外傷のおよそ3分の2は破裂を生じる近接爆風波エネルギー吸収であった。
外傷性脳損傷、あるいはTBIを生じさせる震盪または爆風起因イベントは、無嗅覚症(嗅覚機能、すなわち匂い感覚、の喪失または損傷)の主要原因であることも分かった。いくつかの研究は外傷後無嗅覚症の患者の大部分が嗅球及び下前頭葉に異常を示すことを報告していて、後者の場合、TBIを抑えることで無嗅覚症のリスクを低め得ることを示唆している。嗅覚機能の喪失または損傷は人間にとって不快以上であり得るが、捜査犬(例えば、火薬探査犬)にとって同じ外傷は最悪であり得る。捜査犬は本質的に震盪イベントの危険にさらされ、その第一義的な目的は兵士のそのようなイベントの回避に役立つことである。TBI及び関連する嗅覚の喪失の可能性を予防するかまたは低めることは捜査犬の使命にとって極めて重大であり得る。
頭部外傷の場合に損傷に対して脳を保護するために設計された標準的予防手段にはこれまでのところ様々なヘルメットしかなかった。ヘルメットは一義的に頭蓋骨を穿通損傷及び骨折から保護するために設計されるが、例として古典的な脳震盪が挙げられる、脳の病理学的運動から保護するようにはほとんどなっていない。さらに、ヘルメットは、耳、脊柱及び眼への爆風起因損傷には有意な効果を有していない。
従来の外頭蓋保護にヘルメットの形態が用いられている間は、外部からの震盪力による頭蓋内損傷はひどい状況のままである。ヘッドギアはほとんどのひどい頭蓋内損傷、穿通損傷及び頭蓋骨骨折を防止するには有効であるが、頭蓋内の構造への震盪または損傷を防止できる能力には限界がある。開示される方法の1つにしたがえば、脳内血液体積を増やして頭蓋内コンプライアンスを低めるため、内頸静脈(IJV)が軽く閉塞される。この結果、頭蓋骨とその内容物の間の加速度差が減じられ、頭蓋骨内の脳及び液体の運動性向が低められ、この結果剪断力及び引裂き力が弱くなり、内容物によるエネルギー吸収が少なくなって、これらの全ての結果として、軸索損傷及びグリア損傷が少なくなる。IJVの圧迫はまた、蝸牛殻圧力(cochlear pressure)を高めて内耳への損傷リスクを軽減し、脳脊髄液の圧力を高めて脊柱への損傷のリスクを低め、眼内圧を高めて眼の内部構造を震盪性イベントから保護する。
頭蓋内スロッシュを軽減するための試みにおいて、体積及び圧力の急速な可逆的変化に最も敏感に反応する単一頭蓋内分画は血液スペースであることが認められた。血液分画を増やす最も単純で最も迅速な手段は頸にある流出静脈を機械的に閉塞することで血液の流出を阻止することである。
したがって、本開示の一態様は少なくとも1本の頸部静脈血管を圧迫することで、1本以上の頸部静脈の血流を減じることにより動物または人間の対象におけるスロッシュエネルギー吸収を低減するための器具の実施形態を含み、器具は動物または人間の対象の頸部を少なくともある程度囲むように構成されたカラー及び、頸部がカラーで囲まれたときに、頸部に接触し、よって頸部静脈に局所圧力を印加するための、内側に向けられた少なくとも1つの領域を有することができる。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態において、頸部に接触するように内側に向けられた少なくとも1つの領域は、動物または人間の対象の頸部がカラーに挿入されたときに内頸静脈の領域に圧力をかけるように、カラー上に配することができる。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態において、カラーは弾力性とすることができる。本開示のこの態様のいくつかの実施形態において、カラーの寸法及びカラーの張力は調節可能とすることができる。本開示のこの態様のいくつかの実施形態において、器具は1つ以上の分離解放機構をさらに有することができる。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態において、対象の頸部に接触するように内側に向けられた器具の少なくとも1つの領域はカラーの一領域の膨張によって形成することができ、器具は、必要に応じて、膨張可能な突出部を、あるいは器具のいかなる領域も、膨張させるためのポンプをさらに有し、必要に応じて、その膨張のための加圧ガス源または流体源をさらに有する。本開示のこの態様のいくつかの実施形態において、器具はカラー内の圧力を調整するための逃がし弁をさらに有することができる。
本開示の別の態様は、
(i)動物または人間の対象の頸部を、動物または人間の対象の頸部に接触するように内側に向けられた少なくとも1つの領域を有するカラーで囲む工程、
(ii)頸部に接触するように内側に向けられた少なくとも1つの領域を、対象の頭蓋腔から血液を運ぶ頸静脈に重なる頸部領域上に配置する工程、及び
(iii)頸部に接触するように内側に向けられた少なくとも1つの領域を頸部表面上に押し付けることで頸静脈に圧力を印加し、よって対象の頭蓋腔から流出する血液を制限し、よって対象の頭蓋内の圧力及び/または血液体積を高める工程、
を含む、動物または人間の対象の頭蓋内圧力を高める方法の実施形態を含む。
本開示のまた別の態様は、内耳、眼構造及び脊柱への損傷を軽減するため、及び嗅覚機能の喪失を防止するための、方法を提供する。内耳への損傷を軽減するための方法において、頸静脈に圧力が印加され、よって震盪イベント中の蝸牛液圧力が高められる。眼構造への損傷を軽減するための方法において、頸静脈に圧力が印加され、よって震盪イベント中の眼内液圧力が高められる。脊椎への損傷を軽減するための方法において、頸静脈に圧力が印加され、よって震盪イベント中の脳脊髄液圧力が高められる。頸静脈への圧力印加は、高められた頭蓋内圧力により、嗅覚の喪失も減じるかまたは防止する。
本開示のさらなる態様は、以下に説明される様々な実施形態の詳細な説明を、添付図面とともに、参照すればより容易に理解されるであろう。
図面は以下の説明及び実施例においてさらに詳細に説明される。
図1(a)から図1(c)は、一開示実施形態にしたがう圧迫カラーの上面図、上面図および側面図である。 図2は別の開示実施形態にしたがう圧迫カラーの上面図である。 図3は別の開示実施形態にしたがう圧迫カラーの上面図である。 図4は、圧迫インジケータを組み込んでいる、別の実施形態の圧迫カラーの上面図である。 図5は図4のカラー上に取り付けられるオーバーレイの上面図である。 図6は図4〜5の圧迫カラー及びオーバーレイの部分上面図である。 図7(a)から図7(c)は、カラーの様々な程度の伸びにおいて示される、圧迫カラーのオーバーレイ及びインジケータストライプの図である。 図8はp値<0.01のIJV圧迫の結果としての頭蓋内圧力(ICP)の変化を示すグラフである。 図9はp値<0.01のIJV圧迫の結果としての眼内圧(IOP)の変化を示すグラフである。 図10は、IJV圧迫の印加(左側矢印)及び除去(右側矢印)によって生じた、15分間にわたり頭蓋内圧力(ICP)及び眼内圧(IOP)に見られる生理学的変化の代表的推移を示すグラフである。IJV圧迫後のICP及びIOPのいずれにも見られる迅速な応答に、またそれらの変化が維持される持続時間にも注意されたい。 図11Aは、本開示にしたがうIJV圧迫具の不適用時の、損傷後にAPP染色された皮質脊髄路のデジタル画像である。 図11Bは、本開示にしたがうIJV圧迫具の適用時の、損傷後にAPP染色された皮質脊髄路のデジタル画像である。 図12は、APP染色で示されるような、軸索損傷へのIJV圧迫の効果、p値<0.01、を示すグラフである。
本開示の方法及びシステムのいくつかの実施形態例の詳細が以下の説明に述べられる。本開示のその他の特徴、目的及び利点は、当業者には、以下の説明、図面、実施例及び特許請求項を吟味すれば、明らかであろう。そのような別のシステム、方法、特徴及び利点の全ては、本説明の内に含まれ、本開示の範囲内にあり、添付される特許請求の範囲によって保護されるとされる。
本開示を一層詳細に説明する前に、本開示が説明される特定の実施形態に限定されず、したがって変わり得ることは当然である。本開示の範囲は添付される特許請求の範囲だけでしか限定されなであろうから、本明細書の用語が特定の実施形態を説明する目的のためだけに用いられ、限定は目的とされていないことも当然である。
槽または容器内の液体が動的運動を受けると、様々な波が相互作用し、液相現象が存在し得る。トラック、航空機及び液体燃料ロケットのような、大量の液体を入れている移動容器内では、「スロッシング」と称される、外力によって生じる液体の振動がおこる。このスロッシング効果はエネルギー吸収において、したがって輸送車両の安定性及び制御において、極めて重大な問題になり得る。本開示は生き物における、特に動物または人間の対象の頭蓋内領域における、スロッシュ効果を低減するための方法及び装置を含む。
爆風及び衝突の損傷の軽減は主として液体で満たされた容器のエネルギー吸収の原理に基づく。容器内の液体の余地が大きくほど、より多くのエネルギーが、容器を通って伝達されずに、吸収(スロッシュ)され得る。このエネルギー吸収を低減するためには、より一層弾性衝突に近づける試みがなされなければならない。弾性衝突は、主に、音響エネルギー、運動エネルギー、振動エネルギーまたは熱エネルギーへの、正味のエネルギー転移が生じない(反発係数(r)がほぼ1.0とも称される)衝突である。以下に説明される様々な実施形態は、スロッシュによるエネルギー吸収の確率を低め、よって反発係数(r)を高めるように、生体の生理学的状態を局所的に変えるか、高めるか、または変えられた状態を一時的に維持することができる。反発係数(r)は衝突する物体の、完全弾性衝突(1.0の(r)=無エネルギー転移)である状態から離れる分散を示す。生体の爆風またはエネルギー吸収は物体の衝突と見なすことができ、よって弾性衝突または非弾性衝突によるエネルギーの転移で定めることができる。生体体液及び分子がエネルギーを吸収するための機構をそのように認定することができ、いくつかのスロッシュ低減手法によって、そのような吸収を軽減するための手段を達成することができる。これらの手法により、爆風後のエネルギーの散逸も促進される。
スロッシュ吸収は生体の器官または細胞内の圧力または体積を可逆的に大きくすることによっても低減することができる。頭蓋内の体積及び圧力は、生体の頭蓋の1本以上の流出血管の血流を減じる器具によって、可逆的に大きくすることができる。そのような器具の一実施形態は静脈抵抗を高める十分に、ただしほぼ80mmHg(1.07×10Pa)の動脈圧はこえないように、流出血管を圧迫するであろう。頭蓋内体積は、動脈血内のpCOを高めることによるかまたは、ミノサイクリン、インスリン様成長因子1、プロベラ及びビタミンAを含むがこれらには限定されない、頭蓋内の体積または圧力の増加を容易にする1つ以上の薬剤の投与により、可逆的に大きくすることもできる。
内耳に関しては、蝸牛水管が脳脊髄液(CSF)に直接通じており、水管の静脈が内頸静脈(IJV)内に直接に流れ出ることは既知である。静脈血は下垂体静脈洞または蝸牛水管に直接注ぐか、あるいは前庭または蝸牛水管を介して別の静脈洞を通って流れる。減じられた内頸静脈血の流出は必然的に蝸牛静脈を充満させ、内耳のコンプライアンスを縮め、よって巨視的レベル、細胞レベル及び分子レベルでの弾性衝突を改善し、したがってこれらの構造へのエネルギー分与を減じる。
脊柱の保護に関しては、CSF体積の増大は一般に、部分的にしか満たされていない缶に対する完全に満たされた円筒缶と同じ効果を有する。満たされた缶が空の缶より大きな耐軸荷重能力を有し得ることとちょうど同じように、脊柱を「満たす」ことは脊柱の耐荷重能力を高め、よって爆風起因脊髄損傷を防止することができる。例えば、空の円筒缶は、座屈するまで、非常に短い時間しか軸荷重を支えることができないことは既知である。満たされた缶は、かなり長時間軸荷重を支えることができ、また空の缶より大きな軸荷重を支えることもできる。脊柱の観点からは、「圧潰する」までに脊柱が支えることができる時間を長くするかまたは脊柱が耐え得る軸荷重を大きくすることは、爆風起因損傷の確率を低めるであろう。さらに、脊髄路内のスロッシュを減じることは、スロッシュによる脊柱内の生きている組織(すなわち脊髄)への損傷を減じるであろう。
眼損傷に関しては、キツツキが、1200Gのつつき衝撃から眼球を保護する「ペクチン器官」を有することは既知である。ペクチン器官の唯一の目的は眼球内の硝子体液の体積及び圧力を大きくすることであると思われる。ペクチン器官は眼球内にあり、眼内圧を短時間で高めるために血液で満たされ、よって、これがなければ平均的なキツツキの寿命にわたって8000万回のつつき打撃中におこり得るであろう損傷を防止するため、水晶体及び網膜にかかる強固な圧力を維持する。人間にはペクチン器官がないが、外頸静脈への周囲圧力の印加により、眼内圧を高めることが可能である。
したがって、本開示の一態様は、対象の動物または人間の頸部に装着されると、脳の流出血管系及び/または脳脊髄液に圧力を印加することにより頭蓋内及び眼内の体積及び圧力を高めることによって脳へのエネルギー吸収の確率を低める、圧迫器具の実施形態を含む。結果は、個人または個体の頸部の周りに周帯またはカラーを取り付けることによる構造の制限計数(r)の上昇であろう。圧迫器具は、帯及び紐を含むがこれらには限定されない、いずれの構造とすることもできる。そのような圧迫器具は、好ましくは、スロッシュ及び外傷性脳損傷リスクをともなうイベントの前に、そのようなイベントを見越して及びそのようなイベント中に、着用され得るであろう。本開示の圧迫器具は、下にある頸静脈に重ねて、頸静脈に局所圧力を印加するために配置することができる、少なくとも1つの突出部または器具の厚化領域を有する。
安全かつ可逆的に脳の血液量を10cmまでのいずれかの大きさで増やし、圧力を70mmHg(9.33×10Pa)までのいずれかの大きさで高めることは、脳血管樹のコンプライアンスを満たし、したがってスロッシュエネルギー吸収により外部エネルギーを吸収できる能力を弱めるに役立つであろう。頸部への調整された圧力の印加により、頭蓋内血液量が急速に増え、新しい高レベルで横ばい状態に達する。モイヤー(Moyer)等は、脳動脈血流量が脳からの静脈血流出の阻害による影響を受けないと報告している。血液量対静脈圧の関係は40〜70mmHg(5.33〜9.33×10Pa)の範囲にわたる頸部圧力の増加毎に血液量増加が低下することを示す。脳の血液量が(この頸部圧力により)10〜30%増加することは重要である。脳脊髄液圧力は個々の頸静脈の圧迫に応答する。平均上昇率は48%である。頸部圧迫は脳の血液量をわずか0.5秒で新しいプラトーに高める。この脳の血液量及び圧力の増大度はスロッシュ軽減に非常に有益であろう。脳内の圧力及び血液量の増大が小さくなっても有益な結果を得ることができ、3cmの血液量増加及び5mmHg(6.7×10Pa)の圧力増大が基本目標である。しかし、圧力を静脈の長さに沿って分散させれば、静脈の血流抵抗を高めるには、例えば5〜10mmHg(6.7×10Pa〜1.33×10Pa)ほどのかなり低い圧力で十分である。
さらに、そのような静脈圧迫処置の安全性は、100年前からあるクエンケンシュタット(Quenkenstadt)操作を反映して、文献には極めて豊富である。この操作において、頸部の圧迫は頭蓋内への動脈流を妨げない。圧迫カフ下の頸部静脈流は一時的に停止させられ得るが、頭蓋からの、特に脊髄静脈及び脳底静脈叢と圧迫できない後頭静脈洞の間の吻合からの、静脈血流出が完全に停止させられることは決してない。事実、脳波計(EEG)の変化または頸部圧迫中におこる収縮期血圧の変化の間には全く相関がなかった。すなわち、70mmHg(9.33×10Pa)までの頸部圧迫は、心拍出量、動脈血圧、心拍数または尿流量に影響しない。
したがって、本開示のカラーの実施形態は、対象の動物または人間の頸部を完全にまたはある程度囲むことができ、カラーが内頸静脈に重なる頸部領域にかけて外部圧力を印加できるような寸法につくられた、カラーを含む。この圧力は、カラーの寸法またはカラーの弾力で生じる頸部直径より小さいカラーの内直径によることができ、あるいは、カラー、カラーの一領域またはカラーの少なくとも1つの突出部を膨張させるような、いずれかの手段によるカラーの内直径の減少の結果によることができる。内頸静脈に印加される外部圧力の結果、静脈を通る血流が制約されるであろう。
したがって、詳しくは、本開示にしたがう器具のカラーは、内側に向けられ、頸静脈の直上に配されるように頸部に装着されたときに皮膚に近接する、カラーの表面上に配された、少なくとも1つの突出部、スタッド、厚化領域または膨張可能領域を含む。少なくとも1つの突出部、スタッド、厚化領域または膨張可能領域は、頸部に圧力を印加したときに変形し難い固定突出部または固定スタッドとすることができ、あるいはカラーに連結された膨張具の膨張によって拡大させることができると考えられる。膨張可能な突出部は、頸静脈に重ねて配置し、次いで下側の血管に圧力を印加するために膨張させることができる。別形において、少なくとも1つの突出部は膨張不能であるが、膨張可能なカラー上に配することができる。
さらに、本開示のカラー及び/またはカラー上に配された膨張可能な突出部は、液体、空気またはガスをカラーに供給することができる、動力ポンプまたは手押しポンプのような、ただしこれらには限定されない、膨張手段に動作可能な態様で連結することができると考えられる。いくつかの実施形態において、カラーはさらに、カラー及び/またはカラーの突出部下側の頸静脈に印加される圧力の大きさ及び持続時間に関して、膨張の度合いを調整することができる膨張手段に動作可能な態様で接続される圧力センサを有することができる。
本開示の突出部は内頸静脈の直径とほぼ同じかまたはその直径より大きい面積に圧力を印加するように構成することができ、尖端をもつ突出部、スタッド、カラーの厚化領域、等を含む、頸静脈を通る血流に部分的制約を与えることができるいずれかの形状とすることができるとも考えられる。
圧迫器具は、弾性材料、さらに詳しくは、対象の頸部の周囲を囲んで弾性的に引き伸ばすことができる材料を含むがこれには限定されない、いずれかの材料で形成することができる。弾性材料は、引き伸ばされたときに自然の状態に戻ろうとするであろういずれかの材料とすることができ、織物、膜(織布、不織布及び網)フィルム、発泡体及び(合成及び天然)ゴム、ポリクロロプレン(例えば、NEOPREN.RTM)、エラステイン及びその他のポリウレタン―ポリユリア共重合体(例えば、SPANDEX.RTM,LYCRA.RTM)、フリース、たて編みニットまたは弾性細幅織物、ラッセルニット、トリコット、ミラネーズニット、サテン、ツイル、ナイロン、綿ツイード、ヤーン、レーヨン、ポリエステル、レザー、キャンバス、ポリウレタン、ゴム引き材料、エラストマー及びビニールの内の1つ以上を含むことができる。また、長時間または運動中の着用に好ましいであろう、通気性または吸湿性の多くの弾性材料もある。さらに、圧迫器具は、ケブラー(パラアミド合成繊維)、ダイニーマ(超高分子量ポリエチレン)、セラミックまたはずり粘稠化液体のような1つ以上の保護材料で一部を構成するか、被覆するか、または構成することができるであろう。
器具は、頸部の周囲全体をまたは頸部の周囲の一部だけを取り囲むことができ、頸部の流出血管、詳しくは、内頸静脈及び外頸静脈、椎骨静脈及び脳脊髄液循環系、ただしこれらには限定されない、の1本以上の部分的または完全な閉塞を与えることができる。器具は頸部の全体を、または上頸部または下頸部だけを、水平に取り囲むことができる。
圧迫器具の幅は、わずかな(1インチ(2.54cm)の何分の1かの)スレッドから(人間では12インチ(30.5cm)まで、また他の生き物ではさらに長い)露わな頸部の長さまでの範囲にあり、長さは頸部一周で6インチ(15.2cm)から36インチ(91.4cm)の範囲にあり得る。圧迫器具の幅は1/4インチ(6.4mm)ほどまで小さくすることができるであろうが、最大幅では、一般には6インチより短いであろう、頸部の高さだけで限定され得る。圧迫器具の厚さは1mmの何分の1かでしかないフィルムから、2〜3インチ(5.1〜7.6cm)のような、わずらわしいが頸部を温かくしておくことができるであろう、最大値までの範囲にあり得るであろう。
圧迫器具の一実施形態はユーザのために円形構成で予備形成することができる。このフリーサイズスタイルは、器具をいかなる頸のサイズにも合わせることを可能にすることが簡単であり得る。あるいは、圧迫器具は締結具で連結される第1の末端及び第2の末端を有することができる。締結具は、フック/はしごアタッチメント、フック/ループアタッチメント、スナップ、ボタンまたは、当業者には既知であろう、多くのアタッチメント機構の内のいずれかとすることができる。締結具付圧迫器具は、カラーが不本意に引っかかるかまたは圧迫し過ぎることを防止するため、あらかじめ定められた力でこじ開けるかまたは引き離すことができる、分離解放機構を有することができるであろう。クイックリリースまたは自動解放の実施形態の1つは、圧迫器具に強すぎる力が印加されると引き外されるであろう、少数のフック/はしごアタッチメントを外周リング内に設けることであろう。器具の別の実施形態は、ユーザがカラーの一端を(犬用首輪のように)力を込めて引っ張ることができ、ユーザがかける力が有効に器具の長さまたは周を縮めるように、締結することができるであろう。(アメリカンフットボールのプレー間インターバルのように)所望の頸部圧迫が必要でなくなると、ユーザは第2の緩やかな引張によるかまたは、同じく器具上に配置された分離解放機構によって、圧迫を解除することができるであろう。
本開示のカラー器具のまた別の実施形態において、内頸静脈に圧迫圧力を印加することができる突出部は、実質的に内頸静脈だけに圧力を印加するための大きさにつくられた圧迫パッドまたは中実成形品である。少なくとも1つのパッドまたは硬質成形品を、下側にある内頸静脈に圧力を印加するための頸部上へのパッドまたは硬質成形品の配置を可能にするためにコネクタの対向する末端が配され得るように、あらかじめ定められた形状と同形である弾性弓形コネクタの対抗する末端の一方または両方に連結することができると考えられる。
圧迫器具は1つ以上の突出部を有するか、そうではなくとも、厚さまたは幅が一定ではない。そのような実施形態の1つは、カラーが締められていると内頸静脈に圧迫圧力を優先的に印加するように内頸静脈と位置合わせされる厚化隆起領域を有することができる。別の実施形態は、以下にさらに説明されるように、膨張可能な隆起を用いることができる。
圧迫器具には1つ以上の、モニタ、記録及び/または通信デバイスが取り付けられるかまたは埋め込まれ得る。本発明のそのような実施形態の1つには、戦場の兵士間の、またはコーチと競技者の間でも、通信を可能にするためのトランシーバ及び/または受信器が埋め込まれるであろう。さらに、心臓モニタは、圧迫器具が所定の位置にある間、心臓生理学の実時間評価を与えることができる心拍数モニタまたはプレチスモグラフィモニタを含むことができる。
圧迫器具には用いられる圧迫器具の高さに応じてポケットまたはパウチも取り付けられ得る。間違いなく、圧迫器具上に広告を刻印するかまたは飾ることができる。本発明のそのような実施形態の1つは、商業デザインまたはブランド名をその上に印刷するためのカラーの幅広の区画が襟首に配置されるであろう。
頸血管系内の血流を制約する他の手段の1つは、カラーの周またはカラーがかけている圧力を変えるため、カラー内に膨張可能なガス袋をもつ1つ以上の区画を組み込むことであろう。そのような実施形態の1つは、ガス袋に連結配置されたゴム球ポンプを用いてカラーのガス袋内に所望の圧力の空気または流体が保持されるまでユーザが1回または複数回ゴム球を押し縮めることができるであろう。別の実施形態はガス袋に連結された圧縮ガスまたは加圧流体を用いることができる。別の実施形態は、ガス袋内があらかじめ定められた圧力に達すると、以降のいかなるポンプ作用も空気またはガスの圧力を大気に転じさせるに過ぎないか、あるいはポンプ自体が単にもはや膨らまない(既存の関連例は歴史的な「リーボックポンプ」であろう)ように、ガス袋と通じる空気抜きバルブを有するであろう。空気抜きバルブを有する実施形態はガス袋の過膨張を防止し、血管系への極めて精確な強さの圧力印加を可能にすることができるであろう。
実施例を含む、これらの用語及び明細書は例として本発明を説明するに役立ち、本発明を限定しない。上述とは異なるが、本明細書に説明され、特許請求される、本発明の範囲を逸脱しない差異に誰かが気付くであろうと考えられる。特に、本明細書に説明される機能要素のいずれも、等価な機能を有するいずれか他の既知の要素で置き換えることができる。
本開示のこの態様のいくつかの実施形態において、器具は実質的に内頸静脈だけに圧力を印加するための寸法につくられた複数の圧縮可能なパッドまたは硬質成形体をさらに有することができ、少なくとも1つのパッドまたは成形体が弾性弓形コネクタの両末端のそれぞれに配される。
カラーの特定の実施形態が図1〜3に示される。図1(a)〜(c)を参照すれば、圧迫カラー10は動物または人間の対象の頸部を取り囲むための様々な寸法で提供され得る細長ストラップ12を有する。特定の実施形態の1つにおいて、ストラップは、人間に対する通常の頸部寸法範囲に適合するように、14インチ(35.6cm)、16インチ(40.6cm)及び18インチ(45.7cm)の標準長で提供することができる。幅は、特定の例において、喉頭隆起の下側の頸部の解剖学的構造に適合するように、約1.5インチ(3.8cm)とすることができる。カラーの突出しを最小限に抑えるため、ストラップは約0.12インチ(3.05mm)の厚さを有することができる。ストラップ12は、綿またはいくつかのポリエステルのような、織られた、通気性があり、皮膚学的に不活性で非刺激性の材料で形成することができる。ストラップの目的は対象の頸静脈に一貫した圧力を印加することであるから、ストラップ材料は一般に弾性があるが、時間がたたっても永久的に著しく伸びたままにはならないであろう、弾性材料で形成されることが好ましい。ストラップの中立長がその本来の状態より長くなるように材料を引き伸ばすとストラップ12が役に立たなくなり得ることは当然である。他方で、ストラップ材料は、長時間着用時に快適なままであるように、及び頸部の筋肉とともに適切に撓むように、十分に弾性的であるかまたは弾性的に伸びることができなければならない。ストラップ12の実効長はストラップの両端に可調嵌合素子16及び18を付加することで調節可能にされる。例えば、図1(a)に示される実施形態においては、ラッチ素子16が他方の素子の弾力性先枝18aを受け入れる鋸歯状溝16aを定める。先枝18aは、特定の鋸歯16bの位置に先枝を保持するため、ラッチの溝16aに外向きの力を与えるようにバイアスされる。図示される実施形態においては、カラーの長さの微調節のための先枝18aとの嵌合のための7つの位置を提供する、7つの鋸歯が示されている。2つのコンポーネント16,18はストラップ12上に縫い付けられるか、または嵌合素子が使用中にストラップから外れないであろうように十分な、従来態様で永続的に取り付けられる。
カラーの2つの形式が図1(a)及び1(b)に示される。図1(a)の形式は男性に提供され、喉頭隆起の位置に切欠き14を有する。図1(b)のストラップ12'には切欠きがなく、一般に女性対象に提供され得る。切欠きは、一般的な喉頭隆起を収めるため、約1.5インチ(3.8cm)の幅及び約0.5インチ(1.3cm)の深さを有することができる。カラー10は、切欠き14が対象にいかなる不快感も与えないために十分に隆起から下側に離れるように、対象の頸部を囲んで嵌められる。
カラー10,10'の別の特徴において、一対の圧迫パッド20がストラップ12,12'の中心線に沿って相互に隔てられて備えられる。パッドは頸静脈の位置において頸部に力をかけるための寸法につくられ、配置される。一実施形態において、パッドは相互に約2.5インチ(6.4cm)隔てられ、1.0〜1.5インチ(2.5〜3.8cm)の幅/長さ寸法及び約0.04インチ(1.0mm)の厚さを有する。図1(c)に示されるように、パッドの一部をストラップ12内に埋め込むことができる。パッド20は、圧縮からの良好な復元を示す、通気性発泡体で形成することができる。パッドは、カラーが着用されたときに5〜30mmHg(6.7×10Pa〜4.0×10Pa)の圧迫をかけることができる、可撓性ポリウレタンフォームのような、材料で形成することができる。
異なる嵌合素子を組み込んでいる圧迫カラーの別の実施形態が図2及び3に示される。例えば。図2のカラー30は一端にスナップ36の対のアレイを有し、他端にある一対のスナップ38がいずれかのスナップ36の対に嵌合する。スナップ対36は、着用されるときのカラー直径の調節を可能にするため、1/4インチ(6.35mm)間隔のような、あらかじめ定められた間隔で相互に隔てることができる。図3のカラー50には一端にフック56の列が組み込まれ、他端にある対応するループ58の列と嵌合する。図3は、嵌合素子が、調節可能であることが好ましいが、可調である必要はない実施形態を示す。図3の実施形態において、この可調性は、ストラップ52とループ58の列の間のベルクロ(登録商標)タイプ接続によって達成することができる。詳しくは、ストラップの長さに沿うことなる位置においてループ58をストラップに取り付けるため、ベルクロタイプパッドインターフェース59を用いることができる。また別の実施形態において、ベルクロインターフェースは、2つの端部の間でそれぞれの端部上のベルクロタイプパッドが相互に張り付く、インターフェースとすることができる。
本明細書に開示される圧迫カラーの一態様において、嵌合素子は、カラーが引っかかるかまたはつかまれた場合の対象の頸及び喉の締め付け及び損傷のリスクを回避するため、ある荷重で緩むかまたは外れるように構成されることが好ましい。したがって、図1の嵌合素子16,18、図2のスナップ36,28及び図3のフックアタッチメント59は、カラーが十分な力で引っ張られたときに外れるように調整することができる。別の実施形態において、スナップ36,38のような嵌合素子は磁石または磁石アレイで置き換えることができる。磁石はカラーが用いられているときに頸静脈に所望の圧力を維持するに十分に強い。磁石の強さはある荷重で緩むように調節することができる。分離構造は嵌合素子とは別にストラップに組み込むこともできる。例えば、ある荷重の下でストラップが裂けるように強度が弱められた領域をパッド20と嵌合素子の間に組み込むことができる。あるいはあらかじめ定められた荷重で外れるように調整された非可調嵌合をこの領域に設けることができる。
図1及び3の実施形態において、頸静脈はパッド20によって圧迫される。パッドはあらかじめ定められた厚さ及び圧縮率を有する。別の実施形態において、パッドは、図2に示されるように、膨張可能なガス袋40で置き換えられる。この実施形態においては、ガス管46がガス袋をポンプ42及び空気抜きバルブ44に連結する。ポンプ42は手動で絞られて大気をガス袋に引き込むタイプとすることができる。ガス袋内の高められた空気圧を維持するため、一方向弁43がポンプ42においてガス管46に設けられる。ポンプ42は小型エンジンの燃料ポンプと同様に構成することができる。ポンプは、カラーが着用されている間、手動で押されるように構成することができる。空気抜きバルブ44はガス袋圧力を抜くために手動で作動させることができる。空気抜きバルブは、ガス袋40の過膨張を防止するため、ある圧力に達すると自動的に通気するように構成することもできる。
別の実施形態において、ポンプ42はストラップ32内に埋め込まれた微小流体ポンプとすることができる。ポンプは、カラーに内蔵された電池によって電気的に動力を供給することができ、またはカラーに隣接して配置されたRF送信器によるように遠隔動力供給を行うことができる。ポンプはカラー内に送信器/受信器を組み込むことで遠隔制御することができる。送信器はガス袋40内のガス圧を示す圧力データを送信することができ、受信器はポンプ42を作動させて圧力を適切な値まで高めるために遠隔生成コマンドを受信することができる。さらに、ポンプ42は、手動動作または電気的動作にかかわらず、機能を所望の圧力まで膨張させるに役立つようにカラーの外側から読み取ることができる圧力ゲージを備えることができると考えられる。
図示される実施形態は対象の頸部を完全に囲むカラーを考えている。あるいは、圧迫器具は頸部の一部だけを囲むことができる。この実施形態において、器具は概ねC字形の弾性弓形バンドとすることができる。バンドは弾性バネ様材料で形成することができ、C字形の端部に圧迫パッドが取り付けられる。したがって、器具は頸静脈に圧力をかけるためにバネクリップのように機能するであろう。C字形のバネ効果は器具を対象の頸部上に、好ましくは、より良い解剖学的手掛かりに確実に支持するため、後頸部上に、保持するにも役立ち得る。
図4に示される圧迫カラー60には、カラーがユーザに嵌められたときに見えるようにすることができる、視認圧迫インジケータを組み込むことができる。カラー60は、上述したストラップ12,32,52のように構成することができ、ストラップが対象の頸部を囲むと頸静脈に圧力を印加するように配置された圧迫パッド20,40を組み込むことができる、ストラップ62を有する。ストラップ62は、IJVに所望の圧力を印加するために着用されたときにストラップが引き伸ばされるかまたは張り広げられるように、弾性的である。ストラップ62は色が交互するストライプ66,67のアレイ65を有する。例えば、ストライプ66は(不可状態を表すために)赤色とすることができ、ストライプ67は(可状態を表すために)緑色とすることができる。圧迫カラー60は、図5に示されるように、多くの窓72を有するオーバーレイ70を有する。ストライプ66,67及び窓72は同数(図示される実施形態においては4)であって、同じ幅を有し、間隔も同じである。特定の実施形態の1つにおいて、ストライプ66,67は2mmの幅を有し、窓72は2mmの幅を有し、相互に2mm隔てられる。
図6に示されるように、オーバーレイ70は一端75でストラップ62に留め付けられる。他端76はストラップに留め付けられず、よってオーバーレイの下でストラップを引き伸ばすことが可能になる。上述した実施形態において、ストラップ全体は弾性的に引き伸ばすことができる。圧迫インジケータのため、オーバーレイ70の領域におけるストラップの少なくとも一部は、弾性的でなければならず、オーバーレイに対して引き伸ばすかまたは張り広げることができなければならない。オーバーレイ70は、図7(a)に示されるように、ストラップが中立で引き伸ばされていない形状にあるときに(すなわち、カラーが対象に嵌められる前に)、「不可」ストライプ66の全てが、またはかなりの部分が、窓75内に見えるように、ストラップ62に取り付けられる。カラーが対象の頸部の周りに留め付けられると、カラーは伸び、カラーが伸びるにしたがってストライプ66,67はオーバーレイ70の窓72に対して前進するであろう。したがって、図7(b)に示されるように、ストライプ66,67のいずれの一部も窓を通して見えるであろう。IJVに所望に圧力を印加するためのあらかじめ定められた長さだけストラップが引き伸ばされると、図7(c)に示されるように、それぞれの窓72内に「可」ストライプ67が完全に、または実質的に完全に、見えるであろう。ストラップが引き伸ばされ過ぎると、「不可」ストライプ66が再び窓内に見えるであろう。したがって、ストライプアレイ65及び窓70によって達成される圧迫インジケータは、カラーがIJVに所望の大きさの圧力を印加しているか否かに関する直接視認インジケータを提供する。カラーは、嵌合素子を調節することで、または異なる出発長を有するカラーを用いることで、「可」ストライプ67が見えるように調節することができる。例えば、図2のカラー30に対して、所望の圧迫を達成するため、異なるスナップ36の列をスナップ38に嵌めることができる。
図4〜7の実施形態において、アレイ65は4組の平行ストライプ66,67の対を有する。しかし、任意の数の対において他の可視表示を、オーバーレイの窓72を適切に改変して、用いることができる。例えば、アレイ65は可視表示、「可」及び「不可」、またはカラーがIJVに適切な大きさの圧力を印加しているときを伝えるに適する他の語を有することができる。あるいは、アレイは、カラーが対象の頸部を囲んで適切に調整されているときをオーバーレイの単一の窓を通して見ることができる、単一の表示を有することができる。圧迫インジケータはカラー上に、反射面で見ると対象に見える場所で配位されることが好ましい。あるいは、ストラップ62上の表示は、オーバーレイの窓を通して対象の指で感じることができる、触覚インジケータとすることができる。
本開示の別の態様は、
(i)動物または人間の対象の頸部を、動物または人間の対象の頸部に接触するように内側に向けられた少なくとも1つの領域を有するカラーで取り囲む工程、
(ii)頸部に接触するように内側に向けられた少なくとも1つの領域を、対象の頭蓋腔から血液を運ぶ頸静脈に重なる頸の領域上に配置する工程、及び
(iii)少なくとも1つの領域を頸部表面上に押し付けることで頸静脈に圧力を印加する工程、
を含む、動物または人間の対象の頭蓋内圧力を高める方法の実施形態を含む。いくつかの実施形態において、この圧迫は、いかなる副作用もなく、また頸動脈に影響を与えずに、25mmHg(3.33×10Pa)もの強さにすることができる。頸静脈を危険にさらさずに80mmHg(1.07×10Pa)もの高さの圧力を印加することができると考えられる。方法の多くの応用に対し、首の静脈、すなわち頸静脈に印加される圧力は3〜15mmHg(4.0×10Pa〜2.0×10Pa)とすることができる。頸静脈への圧力印加は、いかなる副作用もなく、爆風起因スロッシュ効果から頭蓋腔を保護するため、ベースライン圧力より30%高くまでICPを高めることができる。
方法の一実施形態にしたがえば、カラー10,10',30及び50のような、圧迫カラーが対象の下頸部上、さらに詳しくは、鎖骨と輪状軟骨または喉頭隆起の間に配置される。この位置は頸部の高いところにある頸動脈洞から遠くにあり、よって頸部への圧力印加が頸動脈を圧迫することはないであろう。男性対象の場合、ストラップ12の切欠き14が喉頭隆起の直下に配置される。
カラーは、カラーの末端が連結されると適切な大きさの圧迫が自動的に与えられるように、対象に対してあらかじめ定められた寸法につくることができる。さらに、上で説明したように、嵌合素子(すなわち、ラッチ素子16,18、スナップ36,38、フック56,58またはベルクロ連結)を、圧力が所望の値をこえると引き離されるかまたは外れるように構成することができる。この引離し機構は図2のポンプ実施形態にも適用することができ、この場合、素子が外れるまでガス袋40は膨らむことができ、この時点でバルブ44が作動して対象の頸部上にカラーを嵌め直す前にガス袋からいくらかの圧力を抜き取ることができる。圧力ゲージがポンプに備えられている、上で論じたポンプの別の実施形態において、ガス袋はゲージ上に示される所望の圧力まで膨らまされる。ほとんどの場合、カラーによって与えられる所望の圧迫は15〜20mmHg(2.0〜2.7×10Pa)の範囲にあり得るが、いくらかの対象にはより高い圧力が十分許容範囲にあり、ゲージに示され得る。
カラーは、戦闘中の爆風またはスポーツ活動中の激突のような、震盪性イベントに対象がさらされ得るときにのみ着用されることが当然であり得る。そのようなイベントにさらされなくなれば、カラーを取り外すことができる。
実施例1
材料及び方法: 2群の体重が350gと450gの間の10匹の雄のSD(Sprague-Drawley)ラットを用いた。動物を、ラットの餌及び水を自由に摂れるようにして、明12時間/暗12時間の条件下で檻に入れた。
ラットにおけるマーロウ(Marmarou)衝撃加速損傷モデル: 改良された医用麻酔機を用いてイソフルランで麻酔をかけ、維持した。体温を、ほぼ10分の処置中、恒温加熱毛布用い、直腸プローブで制御した。踵骨腱の刺激への反応の評価によって十分な鎮静状態を確認した。動物の毛を剃り、無菌態様で手術の準備をし、続いて、計画した切開部位に1%リドカインを皮下注射して局所麻酔を施した。頭皮に3cmの正中線切開を行い、骨膜を切り開いて、前頂及びラムダを露出させた。10mm径で3mm厚の金属円板を、前頂とラムダの間に中心をおいて、頭蓋骨にシアノアクリレートで取り付けた。
金属円板をプレキシガラス管の直下にして動物を発泡体床の上にうつぶせにおいた。450gの真鍮錘を2mの高さから管を通して1回落下させ、円板に当てた。次いで、頭蓋骨を検査し、円板を取り外して、切開を修復する間、動物を100%酸素で通気した。動物が自発的に呼吸を回復したとき、麻酔を絶ち、術後観察のため、動物を檻に戻した。術後鎮痛にブプレノルフィンを用いた。
実施例2
実験手順: この作業には、それぞれが10匹の動物を含む、合わせて20匹の、2群を含めた。2つの群は、対照損傷群及び実験損傷群に用いた。実験損傷群においては、IJVに重なるように設計された1つの圧迫ビーズをもつ、15mm幅のカラーを嵌め、気道を脅かさずに静脈に軽い圧迫を与えるに十分にきつくした。次いで、カラーをベルクロファスナーで周囲に嵌めた。実験的脳損傷を施す前に3分間所定の位置においたままにした。
頭蓋内予備体積評価頭蓋内圧力(ICP)測定: チャフコ(Chavko)等によって説明されているように、FOP-MIV圧力センサ(FISO Technologies社;カナダ国ケベック(Quebec))を用いて、5匹の動物でICPを測定した。ラットの頭の毛を剃り、無菌態様で手術の準備をした。ラットを定位装置(独国Kopf Instruments社のModel1962:デュアル超精密小動物定位装置)に固定し、頭皮に3cmの正中線切開を行った。骨膜を切り開いて、前頂及びラムダをともに露出させた。前頂から0.9mm後方で正中線から1.5mmに2mmの穿頭孔をドリルで開けた。次いで光ファイバプローブを脳実質内3mmの深さに挿入した。
眼内圧(IOP)測定: 文献に説明されているようにTonoLab反動トノメータ(Colonial Medical Supply社;米国ニューハンプシャー州フランコニア(Franconia))を用いて、全ての動物でIOPを測定した。IOP測定は全ての動物で麻酔後に行い、実験群においてはIJV圧迫器具の装着に続いて2回目の測定を行った。実験群においては、IJV圧迫器具装着に続いて、圧迫器具が所定の位置にある間30秒毎にIOPの読みをとった。
組織準備及び免疫組織化学ラベリング: 損傷後7日目に、全ての動物(n=20)に麻酔をかけ、直ちに。全ての血液を洗い流すため、200mlの冷0.9%食塩水で経心腔的灌流を行った。これに続いて、ミリングス緩衝液内4%パラホルムアルデヒドを40分間輸液した。脳全体、脳幹及び吻側脊髄を取り出し、4%パラホルムアルデヒド内に24時間おいた。24時間固定後、脳橋の上で脳幹を切断し、小脳脚を切断し、次いで錐体に横向きの前後方向切れ目を入れることによって、脳を遮断した。次いで、外傷性損傷軸索が生じることを以前に示した領域である、皮質脊髄路及び内側毛帯を含む、得られた組織をビブラトームで前後方向に切断して50μm厚の切片にした。
先に説明した手法を用いて、組織を温度制御マイクロ波抗原賦活処理にかけた。組織を10%標準血清及びPBS内10%トリトンXを含む溶液内で40分間プレインキュベートした。アミロイド前駆体タンパク(APP)ラベリングについては、組織を、PBS内1%NGSで1:200に希釈した、ウサギでβAPPに対しておこされたポリクロナール抗体(#51-2700; Zymed, Inc.;米国カリフォルニア州サンフランシスコ(San Francisco))内で一晩インキュベートした。一次抗体内のインキュベーションに続いて、PBS内1%NGSで組織を3回洗滌し、次いで、1:200に希釈した、Alexa488フルオロフォア(Molecular Probe社;米国オレゴン州ユージーン(Eugene))と抱合させた二次抗ウサギIgG抗体内で2時間インキュベートした。組織を0.1Mリン酸バッファで最終洗滌にかけ、次いで退色防止剤を用いてスライドに載せカバーガラスをかけた。スライドをアクリル樹脂で封止し、研究室用冷蔵庫内で暗所保管した。
蛍光顕微法及び画像解析: オリンパスAX70蛍光顕微鏡システム(オリンパス(株);日本国東京)を用いて組織を検査し、画像を取り込んだ。それぞれの動物の組織からデジタル画像を撮り、次いで画像をランダム化した。個々の損傷軸索を独立にカウントし、データをスプレッドシート(マイクロソフト(Microsoft)社;米国ワシントン州レドモンド(Redmond))に格納した。対応のあるt検定を用いて群平均間の差を決定し、確率値が0.05未満であれば有意であると見なした。
軸索損傷の立体解析学的定量: 皮質脊髄路及び内側毛帯内1mm当たりのAPP陽性軸索の数の不偏推定値を決定するために立体解析学的方法を用いた。ステレオインベスティゲーター(stereoinvestigator)9.0(MBF Bioscience, Inc,; 米国バーモント州ウイリストン(Williston))及び4X及び40Xの対物レンズをもつオリンパスAX70顕微鏡を用いる、光学フラクショネーター(fractionator)法を実施した。前後方向APP染色試料を低倍率で検査し、皮質脊髄路及び内側毛帯を含む関心領域を引き出した。次いで、ソフトウエアがランダム50μm計数フレームを15μmの深さで選び出し、APP陽性軸索をマークした。関心領域(ROI)の体積をカバリエリ(Cavalieri)法を用いて決定し、計数フレームの和の体積を計算し、計数フレーム内の損傷軸索の総和を計算して、1mm当たりのAPP陽性軸索の数の推定値を計算した。
実施例3
体積頭蓋内圧力(ICP)測定: IJV圧迫器具の装着前後のいずれにおいてもICPを評価した。ベースラインICPは10.23±1.68mmHg(13.64±2.24×10Pa)であり、IJV圧迫器具装着後には16.63±2.00mmHg(22.17±2.67×10Pa)まで上昇した(図8:p<0.01)。特に、このベースラインからの30%をこえる上昇はIJV圧迫後数秒以内におこった。眼内圧(IOP)測定:ICP測定と同様に、IJV圧迫器具の装着前後のいずれにおいても、IOP測定を行った。ベースラインIOPは11.18±2.27mmHg(14.90±3.03×10Pa)であり、IJV圧迫後には16.27±3.20mmHg(21.69±4.27×10Pa)まで上昇した(図9:p<0.01)。
IJV圧迫後のIOPに見られた31%の上昇は、大きさにおいても、応答の迅速性においても、IJV圧迫後のICPに見られた上昇と全く同様である(図10)。
TBI衝撃加速モデル: 頭部損傷で死んだ動物はいなかった。動物は、実験期間中、いかなる有害作用も見せずにカラー着用に耐えた。詳しくは、不快、不寛容または呼吸困難の、外見上のまたは目に見える徴候は全く無かった。全てが併発症無しに回復し、殺処分の日まで正常な挙動及び摂餌習慣を示した。死体解剖時、脳は外見上全く正常であった。
APP陽性軸索の立体解析学的分析: 皮質脊髄路及び内側毛帯における損傷軸索の密度を決定するため、立体解析学的光学フラクショネーター法を用いた。疑似動物による先の実験で見られた正常な解剖学的所見に比較して、カラーを着用しなかった対照動物は、外傷性軸索損傷における損なわれた軸索原形質輸送と一致する、多くの肥大した近接軸索及び終末軸索セグメント内のAPPの病巣表示を示した。複数の組織切片からの皮質脊髄路及び内側毛帯内の複数の領域からの顕微鏡デジタル画像の取込みに続く、IJVカラー圧迫を受けた動物におけるAPP陽性軸索の計数は、IJV圧迫無しで損傷を受けた動物に比較して、疑似動物と同様のかなり大きい頻度で、かなり少ないAPP陽性軸索を示した(図11A及び11B)。これらの異常軸索は外傷性損傷の代表的な形態特徴、主として肥大及び断絶を示した。定量分析により、対照群の77474±25325APP陽性軸索/mmに対して13540±9809APP陽性軸索/mm(平均著±標準偏差)を示した(p<0.01)。
実施例4
10匹の成体の雄のSDラットの2つの群に衝撃加速外傷性損傷を受けさせた。損傷の前に、実験群には、内頸静脈(IJV)に重なる2つの圧迫ビーズを有する、幅15mmの頸部カラーを装着した。対照群は実験損傷だけを受けた。カラー性能を評価するため、IJV圧迫の前後に頭蓋内圧力(ICP)及び眼内圧(IOP)を測定した。全てのラットを7日間の回復の後に殺処分し、脳幹白質路を蛍光免疫組織化学的処理にかけ、軸索損傷のマーカーである、βアミロイド前駆体タンパク(APP)の標識付けを行った。IJV圧迫の結果、損傷軸索数が減じているか否かを判定するため、デジタル撮像及び統計解析を用いた。
実施例5
全ての動物が実験パラダイムを生き抜き、カラー装着後に有害反応は全く見られなかった。実験群において、IJV圧迫の結果、ほぼ30%の、即時かつ可逆的なICP及びIOP上昇が生じ、カラー装着に続発する生理学的変化を示した。最も顕著には、定量分析により、対照群における77474APP陽性軸索に対して実験群では13540APP陽性軸索であり(p<0.0)、80%をこえる著しい低下が示された。
軽TBIの標準加速―減速衝撃実験室モデルを用いれば、APPの免疫組織化学的染色によって示されるように、IJV圧迫に続く軸索損傷の低減が示された。IJV圧迫は、頭蓋内血液体積を大きくし、頭蓋内の脳の動きに対するコンプライアンス及び可能性を低めることによって、スロッシュ媒介脳損傷を抑える。
実施例6
脳の外部保護対内部保護: 頭部外傷前の3分間のIJV圧迫は、ICP及びIOPの穏やかな増大で証拠立てられるように、頭蓋内コンプライアンスに生理学的変化を生じさせ、同時に及び顕著に、TBIの標準ラットモデルにおける一次ニューロン損傷の病理学的指数を低下させる。脳体積コンプライアンスの低下は、エネルギー吸収及びニューロンの一次と二次の損傷を生じさせる、頭蓋と脳の間の差運動を防止することができるであろう。これらの病理学的変化は、損傷した軸索のAPPカウントにおける統計的に有意な減少によってこのモデルで証拠立てられるように、軸索肥大及びアポトーシスカスケードの起発をおこさせる軸索原形質輸送を妨げる軸索断裂を含む。
本開示の動物モデルにおいて、カラーの装着はICP及びIOPをそれぞれ30%及び31%高めた。ICPへの頸静脈圧迫の効果は臨床上周知である。頭蓋骨と脊髄の間のCSFの連続性を示すため、クエンケンシュタット試験が用いられる。この試験においては、IJVの圧迫によってICPが高められると同時に腰椎穿刺を介してCSF圧力が測定される。ICPの上昇は、同様にIJVを圧迫する、きつく嵌まる頸部安定カラーの装着によっておこることも示された。襟がきついシャツまたはネクタイの着用時におこり得るIJVの圧迫もIOPを高めることが示された。IJVは低圧系であるから、IJVをある程度閉塞するには軽度の圧迫圧力しか必要ではない。ある程度の脳静脈血の流出の阻止後も脳動脈血の流入は継続するから、頭蓋内圧力及び静脈圧力は、頸静脈抵抗が乗り越えられるかまたは血液排出が別の静脈道に向けられるまで、高くなる。いずれの場合も、頭蓋内コンプライアンスの低下及び軽度のICP上昇がある。
本開示の研究に用いた免疫組織化学的試験法は軸索損傷に特異的であり、損傷したニューロンの測定値の信頼できる範囲を得られる。さらに、加速―減速損傷のマーロウモデルは、TBIの大きさを定量するための、受け入れられ、良く研究された方法である。APPカウントの顕著な減少で証拠立てられるように、IJV圧迫器具を用いて実験群における損傷軸索の減少は統計的に極めて有意である(p<0.01)。さらに、5匹のラットでカラー装着後のICPの変化を測定した。結果は全てのラットで対照群の95%信頼区間より大きく損傷軸索が減少していた。
本発明の別の態様において、内頸静脈への圧迫適用はTBIのリスクを減じるだけでなく、内耳、脊髄及び眼の構造への損傷のリスクも減じる。耳に関しては、IJV流出の減少が蝸牛静脈を充満させ、よって内耳の、さらに詳しくは内耳内の液体の、コンプライアンスを縮める。聴覚有毛細胞は蝸牛液の振動に直接反応するから、スロッシュエネルギー吸収に特に敏感である。内耳内の液体の圧力を高めることで、爆風エネルギーが、液体の振動の形態で内耳に吸収されるのではなく、内耳を介して機械的に伝達されるように、内耳構造内の液体の圧縮率が低められる。液体圧の上昇は一般に蝸牛管の横振動を弱めず、よって内耳を介する爆風エネルギーの伝達はやはり鼓膜の穿孔を生じさせ得ることに注意されたい。しかし、多くの場合、破裂した鼓膜は治癒するかまたは修復され得る。他方で、微細な聴覚有毛細胞へのスロッシュ起因損傷は治癒せず、修復され得ない。爆風エネルギーによる内部液体振動の軽減が鼓膜破裂の発生を高めるとしても、本明細書に開示される方法は永久的な聴覚機能障害のリスクを大きく減じる。
脊髄に関し、本明細書に説明されるIJV圧力印加低減手法は脊髄軸に沿う液体のコンプライアンスを低め、爆風起因脊髄損傷のリスクを減じる。脊髄損傷モードは、脊髄路が液体環境内の敏感なフィラメントと見なされ得る点において、内耳損傷モードと同様である。スロッシュによる液体振動は脊髄組織を損傷させ、一層過酷であり得る。本明細書に開示される処置にしたがうIJVの圧迫によるCSF圧力の上昇は爆風エネルギーによるCSF振動を大きく弱めるであろう。さらに、CSF圧力の上昇は脊柱の耐軸荷重能力を高め、この結果、爆風エネルギーによる脊柱の崩壊の確率を低めることができる。
眼の構造に関し、損傷モードは、硝子体液の振動が部の内部構造に永久損傷を生じさせ得る点において、内耳及び脊髄の損傷モードと同様である。キツツキによって実証されるように、眼内体積及び眼内圧を高めることで眼の内部構造が保護される。本明細書に開示されるようにIJVに圧力を印加するために圧迫バンドを用いることで眼内圧を36〜60%高めることができる。本明細書に開示される圧迫バンドを用いて、安全かつ可逆的にCSF圧力を高め、よって眼内圧を高めることで、眼内の硝子体液の振動を防止するか、最低でも大きく減じることができ、よって爆風起因損傷のリスクを減じることができる。
最後に、上で論じたように、TBIをもたらす震盪イベントは無嗅覚(嗅覚機能、すなわち臭いの感覚、の喪失)の主因であることも分かった。上述したように、頭蓋内圧力を高めることでTBI及びそれにともなう嗅覚機能障害のリスクを減じることができる。捜査犬または爆弾探知犬の場合、カラーを動物の頸部に嵌まる寸法につくることができ、人間の対象の頸部より厚い、IJVにおける頸部の厚さを考慮して圧力を調節することができる。
上記の説明は、TBIのような、爆風起因の頭蓋腔への外傷性損傷並びに、内耳、脊髄及び眼構造への損傷に対処する。したがって、本明細書に開示される圧迫器具は、戦闘中に軍人によって着用され、非戦闘時は取り外すことができる。それほど劇的ではないことは確かであるが、いくつかのスポーツ、中でもアメリカンフットボールでは、同じ外傷性損傷のリスクを生じる震盪力に頭蓋腔がさらされ得る。本明細書に開示される圧迫カラーはグラウンドにおいてスポーツ参加者に着用されるであろう。本明細書に開示されるカラーの実施形態は使用者に比較的負担をかけず、また。上述した「引離し」機構はカラーが不注意に引っ張られるリスクを排除する。
10,30,50,60 圧迫カラー
12,32,52,62 ストラップ
14 切欠き
16,18 可調嵌合素子
20 圧迫パッド
36.38 スナップ
40 ガス袋
42 ポンプ
43 一方向弁
44 空気抜きバルブ
46 ガス管
56 フック
58 ループ
59 ベルクロタイプパッドインターフェース
65 ストライプアレイ
66,67 ストライプ
70 オーバーレイ
72 窓
75,76 オーバーレイ末端

Claims (26)

  1. 外部震盪力にさらされる対象の内耳への損傷を軽減するための方法において、
    前記対象の頸部上に少なくとも1つのパッドを、前記対象の頸静脈の対応する1本に前記少なくとも1つのパッドを重ねて、支持するステップ、及び
    前記外部震盪力にさらされている間、前記対応する頸静脈を通って頭蓋腔から出てくる血流を抑制するに十分な圧力を前記少なくとも1つのパッドを介して前記対応する頸静脈に印加することによって、蝸牛液圧力を高めるステップ、
    を含むことを特徴とする方法。
  2. 前記少なくとも1つのパッドによって印加された前記圧力を、前記外部震盪力にさらされた後に、取り除くステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 前記対象に前記外部震盪力にさらされるリスクがあるときにのみ、前記圧力を印加するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
  4. 前記対応する頸静脈に印加される前記圧力が5〜25mmHg(6.67×10〜3.33×10Pa)の液圧に等価であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  5. 外部震盪力にさらされる対象の眼構造への損傷を軽減するための方法において、
    前記対象の頸部上に少なくとも1つのパッドを、前記対象の頸静脈の対応する1本に前記少なくとも1つのパッドを重ねて、支持するステップ、及び
    前記外部震盪力にさらされている間、前記対応する頸静脈を通って頭蓋腔から出てくる血流を抑制するに十分な圧力を前記少なくとも1つのパッドを介して前記対応する頸静脈に印加することによって、眼内圧を高めるステップ、
    を含むことを特徴とする方法。
  6. 前記少なくとも1つのパッドによって印加された前記圧力を、前記外部震盪力にさらされた後に、取り除くステップをさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
  7. 前記対象に前記外部震盪力にさらされるリスクがあるときにのみ、前記圧力を印加するステップをさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
  8. 前記対応する頸静脈に印加される前記圧力が5〜25mmHg(6.67×10〜3.33×10Pa)の液圧に等価であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
  9. 外部震盪力にさらされる対象の脊柱への損傷を軽減するための方法において、
    前記対象の頸部上に少なくとも1つのパッドを、前記対象の頸静脈の対応する1本に前記少なくとも1つのパッドを重ねて、支持するステップ、及び
    前記外部震盪力にさらされている間、前記対応する頸静脈を通って頭蓋腔から出てくる血流を抑制するに十分な圧力を前記少なくとも1つのパッドを介して前記対応する頸静脈に印加することによって、脳脊髄液圧を高めるステップ、
    を含むことを特徴とする方法。
  10. 前記少なくとも1つのパッドに印加された前記圧力を、前記外部震盪力にさらされた後に、取り除くステップをさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
  11. 前記対象に前記外部震盪力にさらされるリスクがあるときにのみ、前記圧力を印加するステップをさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
  12. 前記対応する頸静脈に印加される前記圧力が5〜25mmHg(6.67×10〜3.33×10Pa)の液圧に等価であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
  13. 対象の頸静脈に圧力を印加するための器具において、
    前記対象の頸部を囲むための寸法につくられた細長ストラップ、
    前記対象の頸部を囲んでいる前記ストラップと着脱可能な態様で嵌合するように構成された、前記ストラップの両端にある嵌合素子、及び
    前記ストラップが前記対象の頸部を囲むとそれぞれのパッドが対応する頸静脈に重なって配置される位置において前記ストラップに取り付けられた一対のパッドであって、前記ストラップが前記対象の頸部を囲むと、前記対応する頸静脈に局所圧力を印加して静脈圧力を高めるに十分な圧力を頸部に印加するように、前記ストラップから内向きに伸びるパッド、
    を備えることを特徴とする器具。
  14. 前記ストラップが、前記対象の鎖骨と輪状軟骨の間に配置されるための寸法につくられることを特徴とする請求項13に記載の器具。
  15. 前記ストラップが前記対象の頸部を囲むときに喉頭隆起のための余裕を与えるための寸法につくられ、そのように配置される、切欠きを前記ストラップが定めることを特徴とする請求項14に記載の器具。
  16. 前記ストラップが引っ張られると外れるように、前記嵌合素子が構成されることを特徴とする請求項14に記載の器具。
  17. 前記ストラップの周長を調節するように、前記嵌合素子が構成されることを特徴とする請求項14に記載の器具。
  18. 前記パッド対が圧縮性発泡体で形成されることを特徴とする請求項14に記載の器具。
  19. 前記ストラップに取り付けられた流体ポンプ、
    をさらに備え、
    前記パッドが前記流体ポンプに連結された可膨張ガス袋である、
    ことを特徴とする請求項14に記載の器具。
  20. 前記ストラップの少なくとも一部が弾性的に引き伸ばし可能であることを特徴とする請求項14に記載の器具。
  21. 前記ストラップの前記弾性的に引き伸ばし可能な部分に付帯し、前記対象の頸部を囲んでいるときの前記部分の伸びの可視表示を与えるように構成された、圧迫インジケータをさらに備えることを特徴とする請求項20に記載の器具。
  22. 前記圧迫インジケータが、
    前記ストラップに取り付けられた少なくとも1つの知覚可能な表示、及び
    前記ストラップがそれに対して引き伸ばされ得るように前記ストラップに留め付けられたオーバーレイであって、それを通して前記表示が知覚され得る少なくとも1つの窓を定めるオーバーレイ、
    を有することを特徴とする請求項21に記載の器具。
  23. 前記表示が触覚表示であることを特徴とする請求項22に記載の器具。
  24. 前記表示が視覚表示であることを特徴とする請求項22に記載の器具。
  25. 見かけが異なるストライプの少なくとも1つの対を前記表示が有し、前記ストラップが前記対象の頸部を囲んでいるときに、前記ストラップが所望の伸びにある場合には前記少なくとも1つの窓に一方のストライプが見え、前記前記所望の伸びが達成されていない場合には他方のストライプが見えることを特徴とする請求項24に記載の器具。
  26. 前記表示が4対のストライプ及び4つの窓を有することを特徴とする請求項25に記載の器具。
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