JP2015227862A - 山形鋼部材で構成された鋼構造物の付加応力推定方法 - Google Patents

山形鋼部材で構成された鋼構造物の付加応力推定方法 Download PDF

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智昭 宇都宮
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Abstract

【課題】残留応力と外力による付加応力とからなる現有応力が発生している山形鋼部材の応力測定において、ひずみゲージ法における穿孔法を用い、穿孔法による現有応力の測定結果から付加応力を推定する方法を提供する。【解決手段】穿孔法を用いて付加応力を推定する方法であって、穿孔法用ひずみゲージを山形鋼部材の部材表面に貼り付け、穿孔法用ひずみゲージの所定箇所を穿孔してその位置での応力を解放させ、応力の解放により変化したひずみ量を穿孔法用ひずみゲージで測定して現有応力を算出し、前記算出した部材軸方向の現有応力からフランジ幅方向の現有応力を差し引いて応力差を算出することで、穿孔法用ひずみゲージ貼付箇所における部材軸方向の付加応力を推定する。【選択図】図8

Description

本発明は、山形鋼部材で構成された鋼構造物に用いるものであって、外力によって山形鋼部材に生じている応力を推定する方法に関するものである。
鋼構造物は、自然災害などによって予期せぬような大きな外力を受けることがある。例えば、鋼構造物の基礎が脚ごとに独立した一脚独立基礎である場合、地震や雨などによって生じる地すべりや地盤沈下により、基礎の不同変位が生じることがある。基礎が不同変位した鋼構造物は、常に基礎不同変位による大きな外力を受けている状態となる。そして、このような基礎の不同変位は自然に回復することはないため、基礎が不同変位した鋼構造物に風などの更なる外力が加わると、鋼構造物が倒壊に至る恐れがある。
基礎の不同変位などにより既に大きな外力を受けている鋼構造物を健全に維持するためには、鋼構造物を構成する山形鋼部材の部材応力を測定して鋼構造物の安全性を確認し、改修の要否を判断する必要がある。
鋼構造物を構成する部材の応力を測定する方法として、鋼構造物の建設時に、鋼構造物の支持材と、この支持材により上部に支持されている構造材との間にセンサーを介在させることで、支持材により支持されている構造材の定常状態(正常に機能していたときの状態)からの変位量や応力の変化を検出する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、前記支持材と構造材との間にセンサーを介在させる応力測定方法の場合、センサーを鋼構造物の建設時に設置する必要があるため、既設鋼構造物の応力測定には対応できないという問題があった。
既設鋼構造物の部材応力を測定する方法としては、磁歪法、X線法、ひずみゲージ法などが知られている。これらの部材応力を測定する方法において、大きな破壊を伴う応力測定方法では、鋼構造物自体を傷めてしまい、鋼構造物の機能を維持したままで応力測定を行うことができない上に、鋼構造物の補修に多大な費用、手間、労力を要するという問題がある。したがって、非破壊、もしくは鋼構造物の耐力にほとんど影響しない程度の微小破壊での応力測定方法が求められる。
前記磁歪法は、強磁性体に応力が負荷されると透磁率が変化することを利用した応力測定方法であり、被測定部材表面の現有応力を非破壊で測定することが可能である。
前記現有応力は、外力により付加されている応力(以下、付加応力という。)と元々部材が有していた残留応力とが加算された値のことである。
前記X線法は、金属材料の結晶粒に弾性限界内の応力が生じると、応力の大きさに比例して結晶の格子面間隔が伸縮することを利用した応力測定方法であり、X線回折現象を利用して結晶の格子面間隔の変化を測定し、この格子面間隔の変化から応力を求める方法である。前記X線法は、被測定部材表面の現有応力を非破壊で測定することが可能である。なお、応力測定部は、製造過程での表面状態の影響を除去するために、表面を電解研磨する必要がある。
前記ひずみゲージ法は、被測定部材にひずみゲージを貼り付けて被測定部材表面の応力を測定する手法である。ひずみゲージ法のうち、現有応力を測定する手法としては、切断法と穿孔法とが広く知られている。
前記切断法は、予め被測定部材の表面にひずみゲージを貼り付け、そのひずみゲージを囲むように被測定部材を切断することで、ひずみゲージ貼付箇所の応力を解放させ、応力の解放により変化したひずみ量をひずみゲージで測定することにより、ひずみゲージ貼付箇所に作用していた応力を算出するものである(例えば、特許文献2参照。)。前記切断法では、被測定部材の内外面に貼り付けられたひずみゲージでひずみ変化量を測定し、板厚内の各方向応力を直線分布と仮定して現有応力を求める。
前記穿孔法は、孔の周囲に3軸分のひずみ測定部が配置されたロゼットひずみゲージ(以下、穿孔法用ひずみゲージという。)を予め被測定部材の表面に貼り付け、その穿孔法用ひずみゲージの孔位置で被測定部材を穿孔することで、その位置での応力を解放させ、応力の解放により変化したひずみ量を穿孔法用ひずみゲージで測定することにより、穿孔法用ひずみゲージ貼付箇所に作用していた応力を算出するものである(例えば、特許文献2および3参照。)。前記穿孔法では、被測定部材表面の現有応力を微小破壊で測定することが可能である。
特開平10−274523号公報 特開2009−216514号公報 特表2011−504589号公報
磁歪法、X線法およびひずみゲージ法における切断法と穿孔法で得られる応力測定結果は、付加応力と元々部材が有していた残留応力とが加算された現有応力である。ここで、残留応力とは、山形鋼の圧延成形および矯正過程などにおいて山形鋼内部に残留した応力のことである。なお、この残留応力は、部材の板厚方向に応力分布があり、部材表面で最も大きくなる傾向がある。
一般に、鋼構造物を構成する山形鋼部材は静的な荷重に対して強度の確認が行われている。したがって、磁歪法、X線法、切断法および穿孔法で得られる現有応力の測定結果を山形鋼部材の強度の確認に用いるためには、測定された現有応力から残留応力を除いて、付加応力だけを抽出する必要がある。しかし、これらの応力測定方法は、現有応力を測定するものであり、測定された現有応力から付加応力だけを抽出することができず、既設鋼構造物の付加応力の測定には対応できなかった。特に、部材表面の現有応力を測定する磁歪法、X線法および穿孔法では、測定結果が残留応力の影響をより顕著に受けるため、現有応力の測定結果と実際の付加応力との差が大きくなるという問題がある。
また、前記磁歪法は、まだ広く実用化された測定方法ではないため、測定に要する装置から開発が必要であり、その開発には多大な費用がかかるため、安価に応力測定を行うことができないという問題がある。
前記X線法は、X線発生装置などの高価な特殊装置が必要となり、また、X線を扱うため、使用する際には安全に対して十分な注意を要し、放射線管理区域の設置が必要になる。したがって、X線法による応力測定には、多大な費用と手間がかかるため、安価に応力測定を行うことができないという問題がある。また、X線を使用しているので、関係機関への届出が必要であり、緊急を要する際に使用できない場合がある。
前記切断法では、被測定部材の内外面に貼り付けられたひずみゲージでひずみ変化量を測定し、板厚内の各方向応力を直線分布と仮定して現有応力を求めるため、部材表面の現有応力を測定する磁歪法、X線法および穿孔法と比べて残留応力の影響が小さく、実際の付加応力に近い値が得られる。しかし、前記切断法は被測定部材の大きな破壊を伴うため、鋼構造物の機能を維持したままで応力測定を行うことができないという問題がある。
そこで、本発明の課題は、被測定部材の大きな破壊を伴わず、安価かつ安全な応力測定方法である穿孔法を用い、穿孔法による現有応力の測定結果から残留応力の影響を低減させて、付加応力を推定する方法を提供することにある。
上記の課題を解決するため、付加応力と残留応力とからなる現有応力が発生している山形鋼部材に対して、穿孔法を用いて付加応力を推定する方法であって、穿孔法用ひずみゲージを山形鋼部材の圧延端付近の部材表面に貼り付け、前記穿孔法用ひずみゲージで山形鋼部材のひずみ初期値を測定した後、穿孔法用ひずみゲージの所定箇所を穿孔してその位置での応力を解放させ、応力の解放により変化したひずみ量を穿孔法用ひずみゲージで測定して現有応力を算出し、前記算出した部材軸方向の現有応力からフランジ幅方向の現有応力を差し引いて応力差を算出することで、穿孔法用ひずみゲージ貼付箇所における部材軸方向の付加応力を推定することを特徴としている。
また、前記穿孔法用ひずみゲージの山形鋼部材への貼付位置は、山形鋼部材の圧延端付近とすることを特徴としている。
本発明は、既往の穿孔法を利用するため、磁歪法のように測定装置を新たに開発する必要がなく、また、X線法のように高価な特殊装置を用意する必要がないことから、他の応力測定方法と比較して、安価に応力測定ができる。
また、本発明は、X線を使用しないため、放射線に対する安全性に留意する必要がなく、放射線管理区域の設置など使用に特に制限がない。さらに、関係機関への届出も必要がないことから、緊急を要する際にも使用することができる。
さらに、穿孔法は鋼構造物の耐力にほとんど影響しない程度の微小破壊で応力測定を行うため、切断法のように山形鋼部材に大きな破壊を伴わず、鋼構造物の機能を維持したままで応力測定を行うことができる。
また、本発明は、山形鋼部材に穿孔法用ひずみゲージを貼り付け、穿孔法用ひずみゲージ貼付箇所における部材軸方向の現有応力からフランジ幅方向の現有応力を差し引いて応力差を算出するだけで、穿孔法用ひずみゲージ貼付箇所における、部材表面の残留応力の影響が低減された部材軸方向の付加応力を推定することができる。
さらに、穿孔法用ひずみゲージの貼付位置を山形鋼部材の圧延端付近とすることで、より部材表面の残留応力の影響が低減され、前記穿孔法用ひずみゲージ貼付箇所における部材軸方向の付加応力の推定値の精度を向上させることができる。
穿孔法用ひずみゲージの例を示す上面図である。 被測定部材となる山形鋼部材を示す斜視図である。 山形鋼部材外面への穿孔法用ひずみゲージの貼付状態の一例を示す上面図である。 山形鋼部材内面への穿孔法用ひずみゲージの貼付状態の一例を示す下面図である。 実施例1における山形鋼部材内面への穿孔法用ひずみゲージの貼付位置を示す正面図である。 実施例1における山形鋼部材内面への穿孔法用ひずみゲージの貼付位置を示す下面図である。 実施例1において、山形鋼部材内面の穿孔法用ひずみゲージより得られた部材軸方向およびフランジ幅方向の現有応力と、山形鋼部材に載荷した部材軸方向の引張荷重との関係図である。 実施例1において、山形鋼部材内面の穿孔法用ひずみゲージ貼付箇所における部材軸方向の付加応力の推定値と、山形鋼部材に載荷した部材軸方向の引張荷重との関係図である。 実施例2における山形鋼部材への一軸ひずみゲージおよび穿孔法用ひずみゲージの貼付位置を示す正面図である。 実施例2における山形鋼部材外面への一軸ひずみゲージおよび穿孔法用ひずみゲージの貼付位置を示す上面図である。 実施例2における山形鋼部材内面への一軸ひずみゲージおよび穿孔法用ひずみゲージの貼付位置を示す下面図である。 実施例2において、山形鋼部材外面に貼り付けた穿孔法用ひずみゲージより得られた部材軸方向の現有応力およびフランジ幅方向の現有応力と、山形鋼部材外面の穿孔法用ひずみゲージの貼付位置との関係図である。 実施例2において、山形鋼部材内面に貼り付けた穿孔法用ひずみゲージより得られた部材軸方向の現有応力およびフランジ幅方向の現有応力と、山形鋼部材内面の穿孔法用ひずみゲージの貼付位置との関係図である。 実施例2において、山形鋼部材内外面に貼り付けた一軸ひずみゲージより得られた部材軸方向の現有応力の平均値と、山形鋼部材内外面の一軸ひずみゲージの貼付位置との関係図である。 実施例2において、山形鋼部材内外面の穿孔法用ひずみゲージ貼付箇所における部材軸方向の現有応力の推定値、および山形鋼部材内面の一軸ひずみゲージ貼付箇所における部材軸方向の現有応力と、山形鋼部材内外面の穿孔法用ひずみゲージおよび一軸ひずみゲージの貼付位置との関係図である。
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、穿孔法用ひずみゲージの例を示す上面図である。穿孔法用ひずみゲージ1は、図1の(a)および(b)に示すように、3軸分のひずみ測定部3が穿孔部4を中心として放射状に配置されたロゼットひずみゲージである。なお、穿孔法用ひずみゲージ1における各ひずみ測定部3の中心は、穿孔部4を中心とした同一半径上にある。
穿孔法は、前記穿孔法用ひずみゲージ1を被測定部材に貼り付け、前記穿孔法用ひずみゲージ1で被測定部材のひずみ初期値を測定した後、前記穿孔部4位置にある被測定部材を穿孔してその位置での応力を解放させ、応力の解放により変化したひずみ量を前記ひずみ測定部3で測定し、この測定したひずみ量から被測定部材の現有応力を算出する方法である。なお、穿孔法では、前記測定したひずみ量と、穿孔穴径、穿孔部4中心からひずみ測定部3中心までの寸法(以下、ゲージ中心半径という。)、被測定部材の弾性係数およびポアソン比とを用いて、測定したひずみ量から被測定部材の現有応力を算出している。
前記穿孔法用ひずみゲージ1の穿孔部4位置の被測定部材を穿孔する方法には、ドリルやエンドミルで切削加工する方法と、細かな研磨粒子を含むエアを高速で噴射して加工する方法とがあるが、本発明ではいずれの穿孔方法を用いてもよい。なお、穿孔法では、一般にゲージ中心半径が2.57mmの穿孔法用ひずみゲージ1が用いられており、この穿孔法用ひずみゲージ1の場合、穿孔部4位置での穿孔穴径は直径1.52mm〜2.54mmとしている。
図2は、被測定部材となる山形鋼部材の斜視図である。山形鋼部材2は1つの頂角部6と、部材幅方向の両端に圧延端5を有している。
山形鋼部材2の表面に穿孔法用ひずみゲージ1を貼り付け、前記穿孔法用ひずみゲージ1の穿孔部4位置にある山形鋼部材2を穿孔し、部材表面に生じるひずみを測定して算出される山形鋼部材2の現有応力は、部材表面における残留応力と付加応力とが加算された値であるため、実際に山形鋼部材2に発生している付加応力と差が生じてしまうという問題がある。そこで本発明者等は、穿孔法による現有応力の測定結果から部材表面の残留応力の影響を低減させる方法について検討を行い、穿孔法で算出した部材表面における部材軸方向の現有応力からフランジ幅方向の現有応力を差し引いた応力差が、実際に山形鋼部材2に発生している部材軸方向の付加応力に近い値となり、部材表面の残留応力の影響が低減されることを見出した。
次に、山形鋼部材2に作用している部材軸方向の付加応力を推定する方法について詳細に説明する。まず、穿孔法用ひずみゲージ1は応力測定を行う山形鋼部材2のフランジの外面、内面又は内外面に貼り付ける。山形鋼部材2外面への穿孔法用ひずみゲージ1の貼付状態の一例を示す上面図を図3、山形鋼部材2内面への穿孔法用ひずみゲージ1の貼付状態の一例を示す下面図を図4に示す。
山形鋼部材2の内外面に穿孔法用ひずみゲージ1を貼り付ける場合、山形鋼部材2外面に貼り付けた穿孔法用ひずみゲージ1a,1bと同じ位置の内面側に穿孔法用ひずみゲージ1c,1dを貼り付けるようにするのが理想ではあるが、穿孔による応力解放の影響がフランジ7の内外面で影響を及ぼしあわないように、山形鋼部材2外面の穿孔法用ひずみゲージ1a,1b貼付位置と山形鋼部材2内面の穿孔法用ひずみゲージ1a,1b貼付位置は部材軸方向に穿孔穴径の10倍以上離すようにしている。したがって、山形鋼部材2の外面に貼り付ける穿孔法用ひずみゲージ1aと穿孔法用ひずみゲージ1bとを同じ部材断面上に貼り付け、当該部材断面から部材軸方向へ穿孔穴径の10倍以上離れた位置に、山形鋼部材2の内面に貼り付ける穿孔法用ひずみゲージ1cと穿孔法用ひずみゲージ1dとを貼り付けるようにする。例えば、穿孔法で一般に用いられているゲージ中心半径が2.57mmの穿孔法用ひずみゲージ1の場合、穿孔穴径が直径1.52mm〜2.54mmであることから、山形鋼部材2外面の穿孔法用ひずみゲージ1貼付位置の部材断面と山形鋼部材2内面の穿孔法用ひずみゲージ1貼付位置の部材断面とを15.2mm〜25.4mm以上離すようにする。
次に、山形鋼部材2に貼り付けたすべての穿孔法用ひずみゲージ1a,1b,1c,1dにおいて、順次、山形鋼部材2のひずみ初期値をひずみ測定部3で測定し、穿孔部4位置の山形鋼部材2を穿孔してその位置での応力を解放させ、応力の解放により変化したひずみ量をひずみ測定部3で測定する。この応力の解放により変化したひずみ量の測定結果から、穿孔法用ひずみゲージ1a,1b,1c,1d貼付箇所の部材表面における部材軸方向とフランジ幅方向の現有応力を算出する。
次に、山形鋼部材2に貼り付けたすべての穿孔法用ひずみゲージ1a,1b,1c,1dごとに、前記部材軸方向の現有応力から前記フランジ幅方向の現有応力を差し引いた応力差を算出する。この応力差が、当該穿孔法用ひずみゲージ1a,1b,1c,1d貼付箇所における、部材表面の残留応力の影響が低減された部材軸方向の付加応力の推定値となる。
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
山形鋼部材に付加応力に相当する部材軸方向の引張荷重を載荷した状態で、山形鋼部材に生じる現有応力を穿孔法で測定して付加応力を推定した。本実施例では、JIS G 3101(一般構造用圧延鋼材)に規定されるフランジ幅90mm、厚み10mm、長さ400mmの山形鋼(SS400)を用いた。この山形鋼部材には特別な熱処理を施していないため、圧延成形および矯正過程などでの残留応力があり、残留応力の大きさは未知である。なお、本実施例では前記山形鋼部材を4体用いて、それぞれの山形鋼部材に120kN、160kN、200kN、240kNの部材軸方向の引張荷重を載荷した状態で穿孔法による応力測定を行った。
図5および図6は、山形鋼部材8への穿孔法用ひずみゲージ9の貼付位置を示した正面図および下面図である。穿孔法用ひずみゲージ9は、山形鋼部材8の部材軸方向の中心位置で、一方のフランジの幅方向中心の山形鋼部材8内面に貼り付けた。
次に、前記山形鋼部材8に所定の部材軸方向の引張荷重を載荷した状態で穿孔法による応力測定を行った。まず、前記山形鋼部材8内面に貼り付けた穿孔法用ひずみゲージ9において、山形鋼部材8のひずみ初期値をひずみ測定部3で測定し、穿孔部4位置の山形鋼部材8を穿孔してその位置での応力を解放させ、応力の解放により変化したひずみ量をひずみ測定部3で測定した。この応力の解放により変化したひずみ量の測定結果から、穿孔法用ひずみゲージ9貼付箇所の部材表面における現有応力を算出した。例えば、山形鋼部材8の部材軸方向に200kNの引張荷重を載荷した場合、穿孔法用ひずみゲージ9より得られた部材軸方向の現有応力は−142.3N/mm、フランジ幅方向の現有応力は−300.8N/mmであった。図7に、穿孔法用ひずみゲージ9より得られた部材軸方向およびフランジ幅方向の現有応力と、載荷荷重との関係を示す。なお、図7には、載荷した部材軸方向の引張荷重を山形鋼部材8の公称断面積で除した付加応力の理論値も同時に示している。
図7に示すように、前記付加応力の理論値と、穿孔法用ひずみゲージ9より得られた部材軸方向の現有応力が一致していないことが分かる。これは、前述したように、山形鋼部材8が有している残留応力は板厚方向に応力分布があり、部材表面で最も大きくなる傾向があることから、部材表面の現有応力を測定する穿孔法は、その部材表面の残留応力の影響を大きく受けているためである。
そこで、前記穿孔法用ひずみゲージ9より得られた前記部材軸方向の現有応力から前記フランジ幅方向の現有応力を差し引いた応力差を算出し、部材軸方向の付加応力を推定した。例えば、山形鋼部材8の部材軸方向に200kNの引張荷重を載荷した場合、穿孔法用ひずみゲージ9より得られた部材軸方向の現有応力からフランジ幅方向の現有応力を差し引いた応力差は158.5N/mmとなる。図8に、穿孔法用ひずみゲージ9貼付箇所における部材軸方向の付加応力の推定値と、載荷荷重との関係を示す。なお、図8には、載荷した部材軸方向の引張荷重を山形鋼部材8の公称断面積で除した付加応力の理論値も同時に示している。
図8に示すように、前記穿孔法用ひずみゲージ9貼付箇所における部材軸方向の付加応力の推定値は、穿孔法用ひずみゲージ9より得られた部材表面における部材軸方向の現有応力と比べて、付加応力の理論値に近い値となっていることが分かる。これは、前記部材軸方向の現有応力から前記フランジ幅方向の現有応力を差し引いて応力差を算出することで、部材表面の残留応力の影響が低減され、実際の部材軸方向の付加応力に近づくことを示している。
山形鋼部材に付加応力に相当する部材軸方向の荷重を載荷しない状態で、山形鋼部材に生じている現有応力を穿孔法および切断法で測定し、測定した応力の比較を行った。本実施例では、JIS G 3101(一般構造用圧延鋼材)に規定されているフランジ幅120mm、厚み8mm、長さ400mmの山形鋼(SS540)を用いた。この山形鋼部材には特別な熱処理を施していないため、圧延成形および矯正過程などでの残留応力があり、その残留応力の大きさは未知である。
図9、図10および図11は、それぞれ山形鋼部材10への一軸ひずみゲージ11,12と穿孔法用ひずみゲージ13,14の貼付位置を示した正面図、上面図および下面図である。本実施例では、まず、山形鋼部材10の部材軸方向の中心位置で、山形鋼部材10の頂角部6から圧延端5の方向に40mm、65mm、90mmの位置の山形鋼部材10内面に穿孔法用ひずみゲージ14a,14b,14c,14d,14e,14fを貼り付けた。次に、山形鋼部材10の部材軸方向の中心から25mm離れた位置で、山形鋼部材10の頂角部6から圧延端5の方向に40mm、65mm、90mmの位置の山形鋼部材10外面に穿孔法用ひずみゲージ13a,13b,13c,13d,13e,13fを貼り付けた。そして、山形鋼部材10の部材軸方向の中心から穿孔法用ひずみゲージ13を貼り付けていない側に40mm離れた位置で、山形鋼部材10の頂角部6から圧延端5の方向に40mm、65mm、90mmの位置の山形鋼部材10外面に一軸ひずみゲージ11a,11b,11c,11d,11e,11fを貼り付け、山形鋼部材10内面に一軸ひずみゲージ12a,12b,12c,12d,12e,12fを貼り付けた。
次に、山形鋼部材10外面に貼り付けた穿孔法用ひずみゲージ13a,13b,13c,13d,13e,13fにおいて、山形鋼部材10のひずみ初期値をひずみ測定部3で測定し、穿孔部4位置の山形鋼部材10を穿孔してその位置での応力を解放させ、応力の解放により変化したひずみ量をひずみ測定部3で測定した。この応力の解放により変化したひずみ量の測定結果から、穿孔法用ひずみゲージ13a,13b,13c,13d,13e,13f貼付箇所の部材表面における現有応力を算出した。例えば、山形鋼部材10外面の穿孔法用ひずみゲージ13aより得られた部材軸方向の現有応力は20.3N/mm、フランジ幅方向の現有応力は15.2N/mmであった。なお、本実施例では、山形鋼部材10に付加応力を載荷していないため、前記穿孔法用ひずみゲージ13貼付箇所の部材表面における現有応力は、部材表面における残留応力を表している。図12に、穿孔法用ひずみゲージ13より得られた部材軸方向の現有応力およびフランジ幅方向の現有応力と、山形鋼部材10外面の穿孔法用ひずみゲージ13の貼付位置との関係を示す。図12の横軸は、図9に示す山形鋼部材10の正面図において、頂角部6位置を基点としたときの穿孔法用ひずみゲージ13の貼付位置を示している。
次に、山形鋼部材10内面に貼り付けた穿孔法用ひずみゲージ14a,14b,14c,14d,14e,14fにおいて、山形鋼部材10のひずみ初期値をひずみ測定部3で測定し、穿孔部4位置の山形鋼部材10を穿孔してその位置での応力を解放させ、応力の解放により変化したひずみ量をひずみ測定部3で測定した。この応力の解放により変化したひずみ量の測定結果から、穿孔法用ひずみゲージ14a,14b,14c,14d,14e,14f貼付箇所の部材表面における現有応力を算出した。例えば、山形鋼部材10内面の穿孔法用ひずみゲージ14aより得られた部材軸方向の現有応力は33.5N/mm、フランジ幅方向の現有応力は49.6N/mmであった。なお、本実施例では、山形鋼部材10に付加応力を載荷していないため、前記穿孔法用ひずみゲージ14貼付箇所の部材表面における現有応力は、部材表面における残留応力を表している。図13に、穿孔法用ひずみゲージ14より得られた部材軸方向の現有応力およびフランジ幅方向の現有応力と、山形鋼部材10内面の穿孔法用ひずみゲージ14の貼付位置との関係を示す。図13の横軸は、図9に示す山形鋼部材10の正面図において、頂角部6位置を基点としたときの穿孔法用ひずみゲージ14の貼付位置を示している。
次に、山形鋼部材10内外面に貼り付けた一軸ひずみゲージ11,12において、切断法により部材軸方向の現有応力を算出した。穿孔法用ひずみゲージ11,12の貼付位置ごとに、山形鋼部材10外面の一軸ひずみゲージ11a,11b,11c,11d,11e,11fより得られた部材軸方向の現有応力と、山形鋼部材10内面の一軸ひずみゲージ12a,12b,12c,12d,12e,12fより得られた部材軸方向の現有応力との平均値を算出し、一軸ひずみゲージ11,12貼付箇所の板厚中心における部材軸方向の現有応力を算出した。例えば、山形鋼部材10外面の一軸ひずみゲージ11aより得られた部材軸方向の現有応力は0.6N/mm、山形鋼部材10内面の一軸ひずみゲージ12aより得られた部材軸方向の現有応力は−6.6N/mmであり、前記一軸ひずみゲージ11aより得られた部材軸方向の現有応力と前記一軸ひずみゲージ12aより得られた部材軸方向の現有応力の平均値は−3.0N/mmであった。なお、本実施例では、山形鋼部材10に付加応力を載荷していないため、前記一軸ひずみゲージ11,12貼付箇所の板厚中心における現有応力は、板厚中心における残留応力を表している。図14に、山形鋼部材10内外面の一軸ひずみゲージ11,12より得られた部材軸方向の現有応力の平均値と、山形鋼部材10内外面の一軸ひずみゲージ11,12の貼付位置との関係を示す。なお、図14の横軸は、図9に示す山形鋼部材10の正面図において、頂角部6位置を基点としたときの一軸ひずみゲージ11,12の貼付位置を示している。
図12に示す穿孔法用ひずみゲージ13貼付箇所の部材表面における部材軸方向の現有応力と、図14に示す一軸ひずみゲージ11,12より得られた部材軸方向の現有応力の平均値とを比較すると、値に差があることが分かる。同様に、図13に示す穿孔法用ひずみゲージ14貼付箇所の部材表面における部材軸方向の現有応力と、図14に示す一軸ひずみゲージ11,12より得られた部材軸方向の現有応力の平均値とを比較すると、値に差があることが分かる。これは、残留応力が山形鋼部材10の板厚方向に応力分布があるためであり、穿孔法では部材表面における現有応力を算出しているのに対して、切断法では板厚中心における現有応力を算出していることから値に差が生じている。一般に、切断法は、山形鋼部材の板厚内の各方向応力を直線分布と仮定して現有応力を求めるため、部材表面の現有応力を測定する穿孔法と比べて残留応力の影響が小さくなる。
そこで、山形鋼部材10外面に貼り付けた穿孔法用ひずみゲージ13a,13b,13c,13d,13e,13f貼付箇所の部材表面における部材軸方向の現有応力からフランジ幅方向の現有応力を差し引いた応力差を算出し、部材表面の残留応力の影響を低減させた部材軸方向の応力を推定した。例えば、山形鋼部材10外面の穿孔法用ひずみゲージ13aより得られた部材軸方向の現有応力からフランジ幅方向の現有応力を差し引いた応力差は5.1N/mmであった。また、山形鋼部材10内面に貼り付けた穿孔法用ひずみゲージ14a,14b,14c,14d,14e,14f貼付箇所の部材表面における部材軸方向の現有応力からフランジ幅方向の現有応力を差し引いた応力差を算出し、部材表面の残留応力の影響を低減させた部材軸方向の応力を推定した。例えば、山形鋼部材10外面の穿孔法用ひずみゲージ14aより得られた部材軸方向の現有応力からフランジ幅方向の現有応力を差し引いた応力差は−16.1N/mmであった。図15に、穿孔法用ひずみゲージ13,14貼付箇所における部材表面の残留応力の影響を低減させた部材軸方向の応力の推定値、および一軸ひずみゲージ11,12貼付箇所における部材軸方向の現有応力の平均値と、山形鋼部材10内外面の一軸ひずみゲージ11,12および穿孔法用ひずみゲージ13,14の貼付位置との関係を示す。図15の横軸は、図9に示す山形鋼部材10の正面図において、頂角部6位置を基点としたときの一軸ひずみゲージ11,12および穿孔法用ひずみゲージ13,14の貼付位置を示している。
図15に示すように、穿孔法用ひずみゲージ13,14より得られた部材表面の残留応力の影響を低減させた部材軸方向の応力の推定値は、一軸ひずみゲージ11,12より得られた部材軸方向の現有応力の平均値とほぼ一致することが分かる。これは、残留応力は部材の板厚方向に応力分布があり、部材表面で最も大きくなる傾向があることから、穿孔法用ひずみゲージ13,14貼付箇所の部材表面における部材軸方向の現有応力からフランジ幅方向の現有応力を差し引いて応力差を算出することで、部材表面の残留応力の影響が低減されることを示している。
また、図15に示すように、山形鋼部材10は圧延端5に近いほど残留応力が小さくなり、0N/mmに近づくことが分かる。すなわち、穿孔法により山形鋼部材の付加応力を測定する際には、穿孔法用ひずみゲージの貼付位置を山形鋼部材の圧延端付近とすることで、より部材表面の残留応力の影響が低減され、前記穿孔法用ひずみゲージ貼付箇所における部材軸方向の付加応力の推定値の精度を向上させることができる。
なお、実施例1において、穿孔法用ひずみゲージ9の貼付位置をフランジ7の幅方向中心としたが、実施例2の結果からも分かるように、穿孔法用ひずみゲージ9の貼付位置を山形鋼部材2の圧延端5付近とすることで、より部材表面の残留応力の影響が低減され、部材軸方向の付加応力の推定値は、より実際の部材軸方向の付加応力に近づくようになる。
1 穿孔法用ひずみゲージ
2 山形鋼部材
3 ひずみ測定部
4 穿孔部
5 圧延端
6 頂角部
7 山形鋼部材のフランジ
8 実施例1に用いた山形鋼部材
9 実施例1において、山形鋼部材内面に貼り付けた穿孔法用ひずみゲージ
10 実施例2に用いた山形鋼部材
11 実施例2において、山形鋼部材外面に貼り付けた一軸ひずみゲージ
12 実施例2において、山形鋼部材内面に貼り付けた一軸ひずみゲージ
13 実施例2において、山形鋼部材外面に貼り付けた穿孔法用ひずみゲージ
14 実施例2において、山形鋼部材内面に貼り付けた穿孔法用ひずみゲージ

Claims (2)

  1. 外力による付加応力と残留応力とからなる現有応力が発生している山形鋼部材に対して、穿孔法を用いて外力による付加応力を推定する方法であって、
    穿孔法用ひずみゲージを山形鋼部材の部材表面に貼り付け、
    前記穿孔法用ひずみゲージで山形鋼部材のひずみ初期値を測定した後、
    穿孔法用ひずみゲージの所定箇所を穿孔してその位置での応力を解放させ、応力の解放により変化したひずみ量を穿孔法用ひずみゲージで測定して現有応力を算出し、
    前記算出した部材軸方向の現有応力からフランジ幅方向の現有応力を差し引いて応力差を算出することで、穿孔法用ひずみゲージ貼付箇所における部材軸方向の付加応力を推定すること、
    を特徴とする山形鋼部材で構成された鋼構造物の付加応力推定方法。
  2. 請求項1に記載の山形鋼部材で構成された鋼構造物の付加応力推定方法において、
    前記穿孔法用ひずみゲージの山形鋼部材への貼付位置は、山形鋼部材の圧延端付近とすること、
    を特徴とする山形鋼部材で構成された鋼構造物の付加応力推定方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN110095213A (zh) * 2019-05-31 2019-08-06 南京工程学院 一种薄板工件残余应力测试计算方法
CN113432578A (zh) * 2021-07-22 2021-09-24 中交隧道工程局有限公司 一种可持续性钢筋表面应变计固定装置及其使用方法

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