JP2015214493A - エルシニア症ワクチン - Google Patents

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Abstract

【課題】エルシニア症ワクチンの製造に伴うなどの欠点を解消する、組換え型のタンパク質によるエルシニアワクチン組成物の提供。
【解決手段】Y.pseudotuberculosisのYadAタンパク質を、遺伝子組み換え法を用いて大腸菌中で生産し、その組み換えタンパク質を免疫原として使用して動物を免疫し、効果的にエルシニア症に対する抵抗性を付与するエルシニア症ワクチン組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は、動物におけるエルシニア症の予防のためのワクチンを提供することに関する発明である。
エルシニアは腸内細菌科に属するグラム陰性通性嫌気性菌で、低温発育細菌であるYersinia属菌には現在14菌種が分類され、病原性Yersinia属菌として、Y. pestis(ペストの病原体)、Y. pseudotuberculosis、Y. enterocoliticaの3種類があり、いずれも人獣共通感染症である。このうち、Y. enterocoliticaとY. pseudotuberculosisの2菌種により生じる急性腸管感染症をエルシニア症という。Y. enterocoliticaは食中毒菌として知られ、Y. pseudotuberculosisはしばしば動物から分離される。
ヒトにY. pseudotuberculosisが感染すると、多くの場合、発熱、下痢、腹痛などの胃腸炎症状を生じる他、多彩な臨床症状を示すことが知られている。しかしながら、死に至ることはほとんどない。これに対して、動物では、ヒトと異なる病態を示し、家畜、野生動物などの多くの動物種においては、Y. pseudotuberculosisに不顕性感染し、保菌動物となる。一方で、ニュージーランドなどの海外では幼若な牧畜でしばしば流行し、経済的な損失が報告されている。
国内では、以前より全国各地の動物園で、エルシニア症が突発的に発生したり、周期的に流行している。宿主域が広く、哺乳類、鳥類を問わず流行し、致死的に働き、リスザルに見出される感染症の45%以上がエルシニア症で、オランウータンやチンパンジーなどの類人猿でも発生している。さらに、カピバラ、マーラ、ハイラックス、ニホンリス、コウモリなどの哺乳類のみならず、鳥類(例えば、オオハシ、ジュウシマツなど)でも、致死的集団発生がおき、動物園動物の損耗に拍車をかけている。特にサル類は、この病原体に対して感受性が高く、ときに飼育動物の半数が死亡するといった流行を引き起こしている。
サル類をめぐる現状としては、世界各地で種数、個体数が減少しており、特に類人猿は危機的状況にある。このため、種の保存対策が急務とされている。また、医学・生物学の分野の研究に欠かせない動物で、バイオリソースとして重要である。加えて、国内の問題として、サル類の輸入は、感染症法によって厳しく制限されていて、実験用の特定の種類のサル以外の輸入は非常に困難な状況にある。このため、国内の動物園では、種の保存を目的とした繁殖技術の確立にも支障があるばかりか、展示する動物の確保もままならない状況にあり、エルシニア症によるサルの死亡数の増加が非常に大きな問題をなっている。よって、我が国においては、動物園におけるエルシニア症の発生は、公衆衛生上の問題のみならず、動物衛生上および種の保存面でも問題となり、また、発生阻止が難しい流行病として位置づけられている。
Y. pseudotuberculosisの主たる感染経路は、家畜や野生動物などの健康保菌動物の糞便とともに排出された菌が感染源となり、これに汚染された飼料、水を感受性動物が摂取することにより生じ、動物間で水平伝播が成立すると考えられている。これまでに保菌が確認されている動物として、ブタ、イヌ、ネコなどの家畜やタヌキ、野鳥など野生動物があるが、感染源としてネズミが最も重要である。このため、保菌動物・感染源との接触を完全に阻止することが必要であるが、展示施設といった動物園の性質から、屋外または半屋外の飼育施設が多く、物理的な障壁による対策は困難で、保菌動物であるネズミや野鳥が、飼育施設内に容易に侵入し、環境を汚染し、高感受性動物との間接的接触が生じ、感染が成立している。このため、物理的な障壁以外の手段で、エルシニア症をコントロールすることが求められている。
このような代替手段として有望と考えられているのは、サル類をはじめとするY. pseudotuberculosisに感受性の高い動物に対して、免疫学的抵抗性を付与して、感染症の発生を防止する方法である。
病原性Yersinia属菌の病原性に関連する因子には、エルシニアの病原性プラスミドにコードされているもの(YadA(Yersinia adhesion A)、Yops(Yersinia Outer Membrane Protein)、Lcr、Yscなどのタンパク質)、染色体DNAにコードされているもの(INVASIN、YPM(Yersinia pseudotuberculosis derived mitogen)、および鉄取り込みタンパク質)がある。
病原性Yersinia属菌は、これらのタンパク質を利用して宿主細胞に感染する。具体的には、INVASINを足がかりにして腸管のM細胞に接着し、腸管上皮細胞への付着、マクロファ−ジの食作用の阻害、食細胞内での殺菌作用に対する抵抗性などに関与すると考えられているYadAが、マクロファージを引き寄せ、その後、III型分泌装置(TTSS)を介して、エルシニア外膜タンパク質であるYopsを宿主細胞に移入する。このYopsは、宿主細胞にとっては毒素としても機能するため、結果的に宿主細胞はアポトーシスを生じて細胞死する。そして、これらの因子が免疫原として検討されてきている。
病原性Yersinia属菌のうち、Y. pestis(ペスト菌)は感染症法1類に掲載される非常に危険度の高い病原体で、ペスト(黒死病)の原因菌で、生物兵器としても重要視されている。このため、Yersinia属菌のワクチン開発分野で、先行するものとして、ペストワクチンが開発され、盛んに研究が行われている。また、ペスト菌の全ゲノム解析より、ペスト菌は Y. pseudotuberculosisの血清型O:1bから進化した菌であることが明らかにされている。そして、いくつかの共通の病原因子を有している。よって、ペストワクチン研究は、エルシニア症ワクチン開発の参考になる。
その現状として、現在、世界で使用されているペストワクチンは、ホルマリンで死菌化したペスト菌を免疫原としていて、ワクチン接種後の局所症状(副反応)が強く、効果が必ずしも十分でないとされている。このため、3日間隔で3回の接種が必要とされ、ペストの流行地での医療従事者や、濃厚な感染の危険性の高い人以外には推奨されていない。また、最近の研究では、感染防御抗原として、Yopsの宿主細胞への注入装置(III型分泌装置TTSS)に注目し、これに外来抗原遺伝子を挿入して、免疫を賦与するものや、TTSSの一部を構成するLerVを大腸菌によって合成し、免疫原とするものがあるが、後者では、宿主の免疫機能が抑制されるという副作用が指摘されている。また、宿主細胞への接着に関与する病原因子であるinvasinに注目した研究もあるが、病変形成をほとんど阻止できない(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。さらに、病原性プラスミドを脱落させた弱毒生ワクチンに関する研究も多い(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)。しかし、いずれも実用に至っていない。
医学領域では、Y.pseudotuberculosisに対するワクチンの研究はほとんどなされていない。動物では、ニュージーランドで牧畜にY.pseudotuberculosis死菌ワクチンが使用されているが、2回の皮下投与が必要で、その効果について検証した学術論文が見当たらない。
Brubaker, R. R. 2003. Infect. Immun. 71:3673-3681. Sing, A., et al., 2005. Proc Natl Acad Sci U S A. 102:16049-16054 Sing, A., et al., 2002. J. Exp. Med. 196:1017-1024. Koberle, M., et al., 2009. PLoS Pathog. 5:e1000551. Najdenski, H., et al., 2008. Zoonoses Public Health. 56:157-168. Najdenski, H., et al., 2003. J. Vet. Med. B Infect. Dis. Vet. Public Health. 50:280-288.
本発明は、これまでに開発されてきたエルシニア症ワクチンの製造に伴うなどの欠点を解消することを目的として、組換え型のタンパク質によるエルシニアワクチン組成物を製造することを課題とした。
本発明の発明者らは、上述した課題を解決するべく、鋭意研究を進めた結果、Y.pseudotuberculosisの特定のタンパク質を、遺伝子組み換え法を用いて生産し、その組み換えタンパク質を免疫原として使用して動物を免疫し、効果的にエルシニア症に対する抵抗性を付与することができることを明らかにし、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は、以下の発明に関するものである:
[1] 組換えYadAタンパク質(SEQ ID NO: 2)を免疫原として含む、エルシニア症ワクチン組成物;
[2] 組換えYadAタンパク質が、大腸菌中で発現されたものである、[1]に記載のエルシニアワクチン組成物;
[3] 組換えYadAタンパク質が、大腸菌発現ベクター中にエルシニアYadAタンパク質をコードする核酸を組み込んだ発現ベクターを大腸菌中に組み換えることにより、大腸菌中で作製されたものである、[1]または[2]に記載のエルシニアワクチン組成物;
[4] 組換えYadAタンパク質が、大腸菌内において封入体中に封入されたものまたは可溶化されたもののいずれかである、[1]〜[3]のいずれかに記載のエルシニアワクチン組成物;および
[5] 皮下投与または経口投与により投与される、[1]〜[4]のいずれかに記載のエルシニアワクチン組成物。
現行のYadA死菌ワクチンの欠点として、1)生産に長期間必要で、労力がかかる。2)病原体を扱うため作業に危険が伴う。3)生産効率が悪い。4)長期保存ができない。5)投与作業時に動物と人に危険が伴うなどが挙げられるが、本発明により、1)〜4)の欠点が解消され、一定品質のワクチンを、安定的に、従来ほどの労力を必要とせずに作製することが可能になった。大量に免疫原を生産できることから、経口ワクチンとしての利用も可能となり、5)の欠点に対応でき、かつ、投与の労力と動物への負担を軽減し、複数回のワクチン投与も容易になることから、さらに免疫効果を高めることができる。以上のことから、本発明によりエルシニア症の流行により多大な被害を被っていた動物園動物(貴重なバイオリソース)の確保ができるようになる。
図1は、リスザル飼育施設におけるエルシニア症の発症状況を示す図である。縦軸は死亡個体数を示している。本施設では2002年まではワクチン接種は行っておらず、2003年(矢印)以降は、毎年施設内の全リスザル個体に対して、YadA死菌ワクチンを皮下投与した。その結果、2007年以降は、エルシニア症の発生がみられないことを示す。 図2は、Y. pseudotuberculosisのyadAのヌクレオチド配列のシークエンス解析の結果を示す図である。上段は、GenBank/DDBJ/NCBI Accession No. NC_010635に記載されていたもの、下段は、解析結果を示す。1003bpにおいて、a→cとなっており、この位置のアミノ酸は、S(Serine)→R(Arginine)となっていた。また、1275 bpの位置でも、c→tとなっていたが、こちらはN(Asparagine)→N(Asparagine)と、変わらなかった。下段の配列(SEQ ID NO: 1)を、発明の以下の実施例において使用した。 図3は、発現ベクターの構築の概略図を示す。図3-1は、発現ベクターとしてpGEX-6P-1を使用し、YadAの全長ヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 1)を挿入した場合の概略を示す。 図3は、発現ベクターの構築の概略図を示す。図3-2は、発現ベクターとしてpColdTM TF DNAを使用し、YadAの全長ヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 1)を挿入した場合の概略を示す。 図3は、発現ベクターの構築の概略図を示す。図3-3は、発現ベクターとしてpColdTM III DNAを使用し、YadAの全長ヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 1)を挿入した場合の概略を示す。 図4は、発現ベクターにより形質転換した大腸菌の培養条件と、発現されるYadAタンパク質との関係を示す図である。 図5は、発現ベクターに基づいて大腸菌内で発現されたYadAタンパク質が、細菌内のどの部分に回収されるかを示す図である。 図6は、YadAタンパク質の精製の条件を検討した結果を示す。 図7は、組換えYadAタンパク質を皮下に(「rYadA(s.c)」)または経口的に(「rYadA(p.o)」)ワクチン投与した場合の生存率の推移を、不活化(死菌)ワクチンの皮下投与(「Yp(s.c)」)または経口投与(「Yp(p.o)」)と比較して示した図である。 図8は、組換えYadAタンパク質を投与した個体と、投与していない個体における、組織学的解析の比較を示す図である。 図9は、組換えYadAタンパク質を皮下にまたは経口的にワクチンとして投与した場合の、血中抗体価(IgG抗体価)の推移を示す図である。
本発明の発明者らは、これまでに、高い免疫原性を有しつつ、副作用ができるだけ少ないワクチンの開発を目指し、Y. pseudotuberculosisに対する不活化ワクチンの開発を試みてきた。なお、生ワクチンの免疫原性は、不活化ワクチンより高いことがよく知られているが、生菌を使用するため、ワクチンの使用期限が短く、製品形態によっては、冷凍・冷蔵など保存方法に注意が必要で、さらに、重要な点は、病原性復帰が危惧され、免疫能の低い動物には適用できないため、本研究の当初から検討項目としなかった。
エルシニアが宿主細胞に感染、傷害する機序
・INVASINを足がかりにして腸管のM細胞に接着し、腸管のパイエル板に侵入した後、
・腸管上皮細胞への付着・マクロファ−ジの食作用の阻害・食細胞内での殺菌作用に対する抵抗性などに多機能的に関与すると考えられているYadA(Yersinia adhesion A)が、マクロファージを引き寄せ、
・その後III型分泌装置(TTSS)を介して、エルシニア外膜タンパク質であるYops(Yersinia Outer membrane proteins)を宿主細胞に挿入し、
・宿主細胞にアポトーシスを生じさせる。
本発明においては、病原性Yersinia 属菌の細胞への感染に関与する上記各種タンパク質の中から、腸管上皮細胞への付着・マクロファ−ジの食作用の阻害・食細胞内での殺菌作用に対する抵抗性などに多機能的に関与すると考えられているYadAタンパク質(アミノ酸配列、核酸配列を開示)に注目し、このタンパク質を分子標的とするワクチンを作製することを目指して開発を行った。
YadAタンパク質は、エルシニアの菌体表面に3量体で存在する分子量41〜44 kDaの膜タンパク質で、抽出することが難しく、回収量も少ない。これまでに、Y. pseudotuberculosisを、RPMI1640培地、37℃の温度条件で、振盪培養を行うことにより、YadAタンパク質を強発現することが知られていた。そこで、東京農工大学林谷秀樹准教授との共同研究として、YadAタンパク質を強発現したエルシニア菌を培養して増殖させた後、ホルマリン処理、不活化ワクチン(YadA死菌ワクチン)を作製し、動物に投与することで一定の効果が得られた(岩田剛敏、岐阜大学大学院連合獣医学研究科獣医学博士論文 飼育サルにおけるエルシニア症の疫学とその予防に関する研究 動衛研研究報告115号;45-46(H21年))。
本発明の発明者らは、培養条件を変えてYadAを強発現したY. pseudotuberculosisをホルマリン処理することにより得られた不活化ワクチン(YadA死菌ワクチン)を、マウスに皮下投与した場合に、高い確率で生き残ることを示した(中村進一. 2011. サル類のエルシニア症の発生と予防に関する病理学的及び疫学的研究 麻布大学大学院獣医学研究科博士論文)。そして、リスザルを対象とした臨床実験も実施した。
この結果、YadA死菌の免疫原性を確実に検証して、それによりもたらされる抗YadA抗体がY. pseudotuberculosisに対する防御効果をもたらすかどうかを確認する実験を行った。ワクチン投与をしていないマウスに対して107個のエルシニア菌を感染させた場合、生存率が0%であったが、YadA死菌ワクチン100 mg/ml/0.2mlを2回マウスに投与して、その1週間後に107個のエルシニア菌を感染させた場合、ワクチン投与間隔が1週間の場合、生存率33.3%、投与間隔が2週間の場合生存率が100%にまで上昇した(表1-1)。したがって、このYadA死菌ワクチンは、エルシニアに対する免疫賦活活性(免疫原性)を有していることがわかり、YadAタンパク質が、ワクチンの標的として好ましいタンパク質であることが明らかになった。
また、このYadA死菌ワクチンがマウスにおいて有効であることが明らかになったことから、100頭程度のリスザルを飼育する飼育施設で、リスザルに毎年、本ワクチンを投与する臨床実験を行ったところ、エルシニア症の発症が有意に減少した(図1)。この実験から、YadAタンパク質が、マウスだけでなく、リスザルにおいても、免疫原として好ましいタンパク質であることが明らかになった。
しかしながら、このようなYadA死菌ワクチンを作製するためには、Y. pseudotuberculosisを培養して、十分な量の菌体を得なければならない。本菌は、4℃という低温下でも増殖が可能である一方で、その増殖速度自体は37℃においても遅く、このYadA死菌ワクチンの投与量を確保するためには、長時間の培養時間が必要となり、大量生産が困難であるというYersinia属菌特有の問題があった。また、不活化(死菌)ワクチンに一般的な問題として、感染性を有する生菌を培養しなければならず、この培養の過程でヒトへの感染の危険性が少なからず存在するという問題点もあった。さらに、YadA死菌ワクチンを凍結保存すると、凝集を生じてしまい、投与時に、すぐに沈降する、また、不均一な懸濁液状態になるという問題があった。このため、保存はホルマリン液添加で変敗を防ぐ方法が用いられたが、ワクチン調製前に、ホルマリン除去の作業が必須という煩雑さもあった。
さらに、生産性の低さから、大量の投与量を必要とする経口投与が困難なため、現時点では、皮下投与という投与経路しか利用できない。皮下投与法では、血中抗体を付与することができるが、Y. pseudotuberculosisの侵入門戸である腸管への免疫付与ができないため、病勢の進行や、発症を抑えることができても、感染は阻止できない。よって、Y. pseudotuberculosisの感染経路を考慮して、投与経路も含めて改良する必要があった。
また、皮下投与の実際として、飼育下とはいえ野生動物に投与する際には、作業に関わる人と投与される動物双方で事故が起きる可能性がある。すなわち、動物による咬傷事故、パニック状態での逃走の際の動物の外傷やストレスにも十分な注意が必要になる。
なお、YadAタンパク質は接着因子としての機能だけでなく、補体や貪食細胞に対する抵抗性などにも関与する多機能を有する病原因子であることから、YadA死菌ワクチンの皮下投与により、YadA抗体が産生された場合、肝臓、脾臓、腸間膜リンパ節およびパイエル板などの臓器から、より早期に菌を排除することができ、死亡を阻止できると考えられた。
以上のことから、YadAタンパク質はエルシニア症の免疫原としての有効性が示唆された。
過去、ペストワクチン開発に際して、Y. pseudotuberculosisを用いて、弱毒生ワクチンや不活化(死菌)ワクチンを作製することは行われてきたが、YadAタンパク質のみを免疫原として使用する試みは行われていなかった。本発明は、エルシニアワクチン組成物の主成分となるYadAタンパク質を組換え技術により作製することを特徴とする。
Y. pseudotuberculosisのYadAタンパク質は、SEQ ID NO: 2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質であり、Y. pseudotuberculosis(作製には血清型4bを用いたが、血清型の違いによる差はない)のもつ病原性プラスミド中にコードされており、その遺伝子配列はSEQ ID NO:1に示される。したがって、本発明の組換えYadAタンパク質(SEQ ID NO: 2)は、このSEQ ID NO:1に示されるヌクレオチド配列を、当該技術分野において一般的に使用されている大腸菌や酵母などの遺伝子発現システムを使用して発現させることにより、調製することができる。
概要として、組換えYadAタンパク質は、大腸菌発現ベクター中にYadAタンパク質をコードする核酸を組み込んだ発現ベクターを大腸菌中に組み換えることにより、大腸菌にYadAタンパク質を生産させることができる。
発現系として、大腸菌を使用して、YadAタンパク質を発現させる場合、まず、大腸菌発現用ベクターとして一般的に知られている種々のベクター、例えば、pColdTMベクターシリーズ(タカラバイオ株式会社;pColdTMI DNA、pColdTM II DNA、pColdTM III DNA、pColdTMIV DNA、pColdTM TF DNA、pColdTM GST DNAなど)、pGEXベクターシリーズ(GE Healthcare;pGEX-4Tシリーズ、pGEX-2T、pGEX-2TK、pGEX-1λT、pGEX5Xシリーズ、pGEX-3X、pGEX-6Pシリーズなど)、およびpETベクターシリーズ(Novagen)のクローニング部位に、YadAタンパク質をコードするSEQ ID NO: 1に示されるヌクレオチド配列を挿入することにより、発現ベクターを作製する。次に、この発現ベクターで宿主大腸菌、例えば、コンピテント細胞BL21細胞などを形質転換し、ベクターごとに適切な選択培地中で形質転換した大腸菌を培養することにより、目的とするYadAタンパク質を、大腸菌中で作製することができる。
このようにして作製した組換えYadA(rYadA)タンパク質を、公知の方法を用いて濃縮する。例えば、発現させたタンパク質が封入体に集中する場合には大腸菌を超音波などで破砕させた後、遠心分離して封入体を回収することにより、rYadAタンパク質を濃縮することが可能である。使用したベクターがHisタグ配列を有するものである場合にはHisタグを使用したアフィニティー精製により、rYadAタンパク質を濃縮することが可能である。また、使用したベクターがグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タンパク質を有するものである場合にはGSTアフィニティー精製により、rYadAタンパク質を濃縮することが可能である。本発明においては、組換えYadAタンパク質を、大腸菌内において封入体中に封入されたものとして回収しても、あるいは可溶化されたものをアフィニティー精製により回収してもよい。
得られたrYadAタンパク質を、動物に投与することにより、エルシニア症ワクチンとして使用することができる。投与の際の経路としては、皮下投与、筋肉内投与、経口投与、経粘膜投与などの投与経路を使用することができる。例えば、ワクチン組成物を皮下注射により投与する場合、IgG抗体を主とする体液性免疫を付与することができる。一方、本発明のエルシニアワクチン組成物を投与する対象は、野生動物や野生鳥類など、飼い馴らされていない動物が多いことから、本発明の目的の一つである野生動物へのワクチン投与を容易にすると言う観点からは、餌に混ぜてまたは飲水に混ぜて、経口投与することもまた好ましい。
本発明の経口投与用のワクチンは、小腸内で腸管粘膜で粘膜免疫を引き起こすことを期待していることから、上述した組換えYadAタンパク質を、胃の酸性条件によっても変性されないように、いずれかの担体と共に製剤化することが好ましい。例えば、組換えYadAタンパク質を、耐酸性の性質を付与するリポソーム、エマルジョン、マイクロカプセル、ナノゲル、ミセル、ミクロスフェア、水溶性高分子などを使用して、封入することにより、製剤を提供することができる。このような製剤は、食餌に添加することにより、または飲水中に溶解または懸濁させることにより、動物に自発的に摂取させることが望ましい。
本発明の組換えYadAタンパク質を主成分とするワクチンは、エルシニアに感染する全ての動物種に対して投与することができる。例えば、投与する対象となる動物種としては、哺乳類(リスザル、オランウータン、チンパンジー、ヒト、カピバラ、マーラ、ハイラックス、シカ、ブタ、イヌ、ネコ、タヌキ、ニホンリス、ネズミ、コウモリなど)のみならず、鳥類(例えば、オオハシ、ジュウシマツなど)を挙げることができる。
上述のようにして得られたrYadAタンパク質は、生体内においてYadA抗体を生じさせるために効果的である一方で、生体内において既に存在しているYadA抗体との結合性も高いものである。この様な特性を利用し、本発明の組換えYadAタンパク質を固体支持体上に固定化することにより、生物サンプル中に含まれるYadA抗体の抗体価を測定するためのELISAプレートを調製することができる。このような本発明の組換えYadAタンパク質を固体支持体上に固定化したELISAプレートは、二次抗体として使用する抗ヒト抗体や発色基質などと共に組み合わせることにより、YadA抗体検出キットの形態とすることができる。
以下において、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の単なる例示を示すものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
実施例1:Y. pseudotuberculosisに対するワクチンの検討(1)
本実施例においては、病原性Yersinia属菌が共通して産生する病原因子であるYersinia adherence A(YadA)タンパク質に着目して、Y. pseudotuberculosisに対する免疫原としての有用性を検討した。
本発明の発明者等は、供試菌株としてY. pseudotuberculosis(血清型4b)を使用し、37℃にて振盪の条件下で培養した場合に、このY. pseudotuberculosisがYadAタンパク質を強発現することを踏まえて、YadAタンパク質強発現Y. pseudotuberculosisを増菌させた後、ホルマリン処理して不活化させた死菌を免疫原として使用した。
YadAタンパク質強発現Y. pseudotuberculosis不活化(死菌)ワクチン(YadA死菌ワクチン)をマウスに投与した際の投与後のワクチンの効果を検討するため、9匹のBALB/cマウス(雄)を3群に分け、1と2群に0.2 ml(100 mg/ml)の濃度でYadA死菌ワクチン2回を皮下投与した。そして、1群は2週間後、2群は1週間後に2回目のワクチン投与をした。その後、それぞれ107個のY. pseudotuberculosis生菌を経口接種し、マウスの生死を経時的に記録して、生存率を算出した(表1-1)。
次に、投与法によるYadA死菌ワクチンの効果を検討した。投与法は皮下および経口投与である。各群5匹のBALB/cマウス(雄)に対して、皮下投与の場合には0.2 ml(100 mg/ml)の濃度で、経口投与の場合には0.2 ml(500 mg/ml)の濃度で、それぞれYadA死菌ワクチンを1週間間隔で2回投与し、投与後1週間後に、それぞれ107個のエルシニア生菌を経口接種し、その後のマウスの生死を経時的に記録して生存率を算出した(表1-2)。
表1-1および表1-2のいずれの実験においても、陰性対照群(無投与)には、免疫原の代わりにPBSを投与し、投与後1週間後に107個のエルシニア生菌を経口接種した。
ワクチンの皮下接種は、マウス背部の皮下に行い、一方ワクチンの経口接種は、マウスの胃にゾンデを挿入して、胃内に直接ワクチン液を注入することにより行った。
結果を、以下の表1に示す。
結果、生存率は、PBS群(3および6群)では、いずれも0%となったが、YadA死菌ワクチン(皮下)2週間の場合(1群)では100%(5/5)、YadA死菌ワクチン(皮下)1週間の場合(2および5群)にはそれぞれ33%および40%(1/3および2/5)、YadA死菌ワクチン(経口)(4群)では40%(2/5)となった。
表1-1に示される抗体価は、それぞれの個体の血清中に含まれるYadA死菌に対するIgGの抗体価を示す。血清中IgG抗体価の上昇と、生存率の上昇が正の相関を示すことが明らかになった。
これらの結果から、YadAタンパク質を強発現したY. pseudotuberculosisの不活化ワクチンが、Y. pseudotuberculosisに対する免疫効果を有していることが明らかになった。
実施例2:Y. pseudotuberculosisに対するワクチンの検討(2)
実施例1において作製したYadA死菌ワクチンの有効性が確認されたことから、本実施例においては、実施例1で作製したYadA死菌ワクチンを用いて、飼育下リスザルを対象に、臨床実験を行った(図1)。
2004年〜2009年の間に、エルシニア症の発生経験をもつ7施設(流行群)と発生のない4施設(非流行群)のリスザル延べ1,092頭にワクチン(0.2 ml(100 mg/ml)/頭)を皮下接種し、エルシニア症の発生状況と血清抗体の推移を観察した。
その結果、ワクチン接種後、7流行群のうち4施設と全ての非流行群では、エルシニア症の発生はみられなかった。その他の3流行群でも、発生回数および頭数が激減し、分娩直後に死亡した1頭を除き、発症個体は1歳未満の幼若個体であった。
血清抗体調査の結果、Yersinia感染を広く検出するYop抗体は、流行群では陽性率が高く(67.6〜100%)、非流行群では低かった(0〜36.4%)。さらに、流行群であるE施設と非流行群のP施設において、YadAならびにYop抗体の推移を比較した結果、YadA抗体はいずれの施設でも、ワクチン接種の翌年から陽転した。Yop抗体は、E施設では1歳以上の個体で保有率が高い(85.9%)が、個体により上昇する時期や値が様々であった。一方、P施設では、成体を含めて多くの個体がYop抗体陰性であり、2005年〜2007年間で陽性になったのは、16頭中1頭(6.25%)のみであった。
本研究により、実施例1で作製したYadA死菌ワクチンを用いたリスザルへのエルシニア症ワクチンの有効性が実証された。
実施例3:組換えワクチンの開発
実施例1および2において、作製したYadA強発現エルシニア死菌を使用したYadA死菌ワクチンが、Y. pseudotuberculosisに対する防御効果を有していることが明らかになったことから、YadAタンパク質が、Y. pseudotuberculosisに対するワクチンを製造する際の効果的な標的タンパク質となることが示された。
しかしながら、このような不活化ワクチンを作製するためには、十分な量のY. pseudotuberculosisの菌体を得なければならないが、培養に長時間と大きな労力が必要となる。また、不活化ワクチンに一般的な問題として、感染性を有する生菌を培養しなければならず、この培養の過程でヒトへの感染の危険性が少なからず存在するという問題点や、YadA死菌を凍結保存すると、凝集し、ワクチン投与の際に支障をきたすという長期保存の困難さもある。
また、YadA死菌ワクチンは大量生産が困難なため、現在、少量で、より確実な免疫を期待して皮下投与法が用いられているが、野生動物に対して投与する際には保定する人にも危険が及ぶという問題がある。一方、腸管免疫を誘導することができないため、Y. pseudotuberculosisの腸管での増殖自体は阻止することができないため、死亡率を抑えたり、臨床症状や病変を軽減させたりすることは可能でも、感染成立により、糞便中への排菌も起こりうる。
そのため、本実施例においては、遺伝子組換え技術を使用して、不活化(死菌)ワクチンが内包する問題点を解決し、十分なYadAタンパク質量を、比較的短い時間で安全に確保し、保存性も向上させたエルシニア症組換えワクチンを作製することを検討した。
組換えワクチンに含まれる免疫原としては、実施例1および2の検討結果に従って、YadAタンパク質を選択した。具体的には、実施例1および2において免疫原として機能することが示されたY. pseudotuberculosisのYadAタンパク質(SEQ ID NO: 2)を、ワクチン中の免疫原として選択した。
このYadAタンパク質を、遺伝子組換え技術を使用して、大量生産する発現系を構築した。具体的には、Y. pseudotuberculosis由来のSEQ ID NO: 1の遺伝子を含む鋳型、YadA1Fフォワードプライマー、配列gaattcatgactaaagattttaag(SEQ ID NO: 3)およびYadA1Rリバースプライマー、配列ctcgagttaccactcgatattaaa(SEQ ID NO: 4)を使用した一般的なPCRにより、YadA遺伝子の全長を増幅した。
発現ベクターとしては、pGEX-6p-1ベクター(GE Healthcare)、またはpColdTM TF DNA(タカラバイオ株式会社)を使用した。
pGEX-6p-1ベクターは、選択因子としてβ-ラクタマーゼをコードする領域を有しており、アンピシリン耐性を付与する特性を有するとともに、目的タンパク質のN末端にGSTを付加し(GSTタグ)、GSTアフィニティー精製を行うことができる(図3-1)。このベクターを用いて、YadA遺伝子全長配列(SEQ ID NO: 1)を含む2種類のベクター(「PS」用のベクターおよび「BX」用のベクター)、を調製した。
PS用のベクターは、YadA遺伝子全長配列(SEQ ID NO: 1)の両端にEcoRI-XhoI制限酵素サイトを付加することを目的として、YadA遺伝子(SEQ ID NO: 1)のヌクレオチド配列を鋳型とし、フォワードプライマー(ggaattcatgactaaagattttaag;SEQ ID NO: 5)およびリバースプライマー(ccgctcgagttaccactcgatattaaa;SEQ ID NO: 6)をプライマーとして使用してPCRを行うことにより、YadA遺伝子(SEQ ID NO: 1)の両端にEcoRI-XhoI制限酵素サイトを付加した(図3-1)。ついで、PCR増幅産物とpGEX-6p-1ベクターとを両方ともEcoRIおよびXhoI(タカラバイオ株式会社)を使用して末端処理し、アニーリングすることにより、GST-YadA融合タンパク質を作製するための発現ベクター、「pGEX-6p-1-yadA」ベクターを作製した(図3-1)。
BX用のベクターは、YadA遺伝子全長配列(SEQ ID NO: 1)の両端にBamHI-XhoI制限酵素サイトを付加することを目的として、YadA遺伝子(SEQ ID NO: 1)のヌクレオチド配列を鋳型とし、フォワードプライマー(cgggatccatgactaaagattttaag;SEQ ID NO: 7)およびリバースプライマー(ccgctcgagttaccactcgatattaaa;SEQ ID NO: 6)をプライマーとして使用してPCRを行うことにより、YadA遺伝子(SEQ ID NO: 1)の両端にBamHI-XhoI制限酵素サイトを付加した(図3-1)。ついで、PCR増幅産物とpGEX-6p-1ベクターとを両方ともBamHIおよびXhoI(タカラバイオ株式会社)を使用して末端処理し、アニーリングすることにより、GST-YadA融合タンパク質を作製するための発現ベクター、「pGEX-6p-1-yadA」ベクターを作製した(図3-1)。
一方、pColdTM TF DNAは、選択因子としてβ-ラクタマーゼをコードする領域を有しており、アンピシリン耐性を付与する特性を有するとともに、目的タンパク質のN末端にトリガー因子(TF)を付加し(可溶化タグ)、このTF領域のN末端にさらにヒスチジン6タグを付加し(Hisタグ)、Hisタグ精製を行うことができる(図3-2)。YadA遺伝子全長配列(SEQ ID NO: 1)の両端にXhoI-EcoRIの制限酵素サイトを付加することを目的として、YadA遺伝子(SEQ ID NO: 1)のヌクレオチド配列を鋳型とし、フォワードプライマー(ccgctcgagatgactaaagattttaag;SEQ ID NO: 8)およびリバースプライマー(cgaattcttaccactcgatattaaa;SEQ ID NO: 9)をプライマーとして使用してPCRを行うことにより、YadA遺伝子(SEQ ID NO: 1)の両端にXhoI-EcoRIの制限酵素サイトを付加した(図3-2)。ついで、PCR増幅産物とpColdTM TF DNAとを両方ともXhoIおよびEcoRI(タカラバイオ株式会社)を使用して末端処理し、アニーリングすることにより、His-TF-YadA融合タンパク質を作製するための発現ベクター、「pColdTMTF-yadA」ベクターを作製した(図3-2)。
pColdTM III DNAは、選択因子としてβ-ラクタマーゼをコードする領域を有しており、アンピシリン耐性を付与する特性を有するものの、可溶化タグやHisタグ配列などの精製用の配列を含まないベクターであり、可溶化型のタンパク質の発現に適している(図3-3)。YadA遺伝子全長配列(SEQ ID NO: 1)の両端にXhoI-EcoRIの制限酵素サイトを付加することを目的として、YadA遺伝子(SEQ ID NO: 1)のヌクレオチド配列を鋳型とし、フォワードプライマー(ccgctcgagatgactaaagattttaag;SEQ ID NO: 8)およびリバースプライマー(cgaattcttaccactcgatattaaa;SEQ ID NO: 9)をプライマーとして使用してPCRを行うことにより、YadA遺伝子(SEQ ID NO: 1)の両端にXhoI-EcoRIの制限酵素サイトを付加した(図3-2)。ついで、PCR増幅産物とpColdTM III DNAとを両方ともXhoIおよびEcoRI(タカラバイオ株式会社)を使用して末端処理し、アニーリングすることにより、YadAタンパク質を作製するための発現ベクター、「pColdTM III-yadA」ベクターを作製した(図3-3)。
これらのベクターで、コンピテント細胞(E. coli BL21細胞)を形質転換し、「pGEX-6p-1-yadA」ベクターによりPS株を、「pColdTM TF-yadA」ベクターによりTF株を、それぞれ作製した。
「pGEX-6p-1-yadA」ベクターにより形質転換したPS株は、1.0 mMのIPTGを含有する培養液中、30℃にて6時間培養すると、効率よくGST-YadA融合タンパク質(70 kDa)を発現することができることが、SDS-PAGEにより示された(図4)。この大腸菌を遠心分離により回収し、得られた大腸菌ペレットを超音波破砕し、さらに遠心分離を行うことにより上清と沈殿に分離し、SDS-PAGEにより組換えタンパク質の発現部位を確認したところ、PS株により作製されたGST-YadA融合タンパク質は沈殿物に回収されることが示された(図5)。これは、GST-YadA融合タンパク質が不溶性であることを示し、封入体に含まれることを示している。このことから、GST-YadA融合タンパク質は、PS株をPBSでの洗浄と超音波破砕と遠心分離とを5回繰り返すことにより回収できることが示された(図6)。
一方、「pColdTM TF-yadA」ベクターにより形質転換したTF株は、1.0 mMのIPTGを含有する培養液中、15℃にて24時間培養すると、効率よくHis-TF-YadA融合タンパク質(90 kDa)を、それぞれ作製することができた(図4)。
この大腸菌を遠心分離により回収し、得られた大腸菌ペレットを超音波破砕し、さらに遠心分離を行うことにより上清と沈殿に分離し、SDS-PAGEにより組換えタンパク質の発現部位を確認したところ、TF株により作製されたHis-TF-YadA融合タンパク質は主として上清に回収されることが示された(図5)。これは、His-TF-YadA融合タンパク質が可溶性であることを示している。このことから、His-TF-YadA融合タンパク質は、TF株をPBSでの洗浄と超音波により破砕した後、金属アフィニティークロマトグラフィーにより回収できることが示された(図6)。
実施例4:組換えワクチンの有効性
本実施例においては、実施例3において作製した組換えYadAタンパク質が免疫原性を有するかどうかを確認することを目的とした。
実施例1と同様に、BALB/cマウスを使用して、YadA死菌ワクチンの免疫原性を対照として、組換えYadAタンパク質を免疫原としたワクチンの有効性について確認した。
組換えYadAタンパク質は、実施例3において作製された、YadA遺伝子全長配列(SEQ ID NO: 1)を含む発現ベクター「pGEX-6p-1-yadA」を用いてコンピテント細胞(E. coli BL21細胞)を形質転換して得られた組換え型大腸菌株、PS株を培養することにより取得した。PS株をPBSでの洗浄と超音波破砕と遠心分離とにより回収したGST-YadA融合タンパク質をそのまま免疫化のために使用した。
YadA死菌ワクチンの投与量は、表1-2に示す投与量と同一にした。一方、組換えYadAタンパク質による組換えワクチンの投与量は、マウス1匹あたり、皮下投与に際しては100μg、経口投与に際しては500μgとした。ワクチンの投与は、107個のエルシニア生菌を経口接種(図7中day 0に相当)の前、14日前および7日前の2回行った。結果を、図7および表3に示す。
YadA死菌ワクチンを投与した1,2群の死亡率40%であったが、組換えYadAタンパク質ワクチンを投与した3,4群の皮下投与、経口投与のいずれにおいても、全てのマウスが107個のエルシニア生菌の経口接種を耐えた(死亡率0%)。
図8は、無処置群と組換えYadAタンパク質ワクチン皮下投与群の生菌接種後の病理所見である。組換えYadAタンパク質ワクチンを投与した個体では、脾腫は軽度で、白色結節なども観察されなかった(図8左上)。また、肝蔵、脾臓、腸管を組織学的に検索したところ、一部に壊死巣がみられたが、その壊死巣の周囲にはマクロファージやリンパ球が増殖してバリアを形成し、感染の拡大を防止している所見が認められた(図8左下、脾臓)。
一方、無処置群では、生菌暴露後7日で死亡し、高度の脾臓と多発性巣状壊死(白色結節)がみられた(図8右上)。また、脾臓の組織像では、中心に菌塊を含む大型の壊死巣が観察された。壊死巣の周囲にマクロファージやリンパ球の浸潤は少なく、エルシニア感染に対して十分に防御ができていないことが分かった(図8右下)。
表3の3群および4群のマウスについて、ワクチン投与後の血中抗体価(すなわち、IgG抗体価)の推移を調べた(図9)。この図中、1回目のワクチン投与を0 day、2回目のワクチン投与を7 day、107個のエルシニア生菌の経口接種を行った日を14 dayとし、生菌暴露後を14日にそれぞれの個体(皮下投与についてはn=5、経口投与についてはn=4)の抗体価を示す。NCは、無処理のマウスの血中抗体価を示す。
皮下投与群では、ワクチン投与により血中抗YadA IgGが産生され、抗体価は経時的に上昇し、さらに107個のエルシニア生菌接種により大幅に上昇した。
これに対して経口投与群(4群)では、107個のエルシニア生菌の経口接種によっても、それほど大幅な血中抗YadA IgGの増加は認められなかった。このことから、2回の経口ワクチン投与の結果として、マウスに抗YadAIgGは産生されず、死亡個体がみられなかった理由として、感染門戸となる腸管(局所)に免疫が付与されたことが示唆された。
本発明のエルシニア症遺伝子組換えワクチンを構成する免疫原(組換えYadAタンパク質)は、従来技術のエルシニアに対する不活化(死菌)ワクチンと比較して、比較的短時間に、そして、作業過程におけるY. pseudotuberculosisの感染の危険性がなく、十分な量のYadAタンパク質を生産することができ、保存性に優れ、しかも、経口投与により粘膜免疫を付与できるという特徴を有する。このような特徴から、皮下投与型のワクチンとしてだけでなく、経口投与型のワクチンとしても利用可能である。
SEQ ID NO: 1:Yersinia pseudotuberculosis血清型4bのYadA遺伝子のヌクレオチド配列
SEQ ID NO: 2:Yersinia pseudotuberculosis血清型4bのYadAタンパク質のアミノ酸配列
SEQ ID NO: 3:Y. pseudotuberculosisの血清型4b由来のSEQ ID NO: 1全長を増幅するためのPCRプライマー(YadA1F;gaattcatgactaaagattttaag)
SEQ ID NO: 4:Y. pseudotuberculosisの血清型4b由来のSEQ ID NO: 1全長を増幅するためのPCRプライマー(YadA1R;ctcgagttaccactcgatattaaa)
SEQ ID NO: 5:YadA遺伝子全長配列(SEQ ID NO: 1)の5'端にEcoRI制限酵素サイトを付加することを目的とする、PCRプライマー(YadA2F;ggaattcatgactaaagattttaag)
SEQ ID NO: 6:YadA遺伝子全長配列(SEQ ID NO: 1)の3'端にXhoI制限酵素サイトを付加することを目的とする、PCRプライマー(YadA2R;ccgctcgagttaccactcgatattaaa)
SEQ ID NO: 7:YadA遺伝子全長配列(SEQ ID NO: 1)の5'端にBamHI制限酵素サイトを付加することを目的とする、PCRプライマー(YadA3F;cgggatccatgactaaagattttaag)
SEQ ID NO: 8:YadA遺伝子全長配列(SEQ ID NO: 1)の5'端にXhoIの制限酵素サイトを付加することを目的とする、PCRプライマー(YadA4F-TF;ccgctcgagatgactaaagattttaag)
SEQ ID NO: 9:YadA遺伝子全長配列(SEQ ID NO: 1)の3'端にEcoRIの制限酵素サイトを付加することを目的とする、PCRプライマー(YadA4R-TF;cgaattcttaccactcgatattaaa)

Claims (5)

  1. 組換えYadAタンパク質(SEQ ID NO: 2)を免疫原として含む、エルシニア症ワクチン組成物。
  2. 組換えYadAタンパク質が、大腸菌中で発現されたものである、請求項1に記載のエルシニア症ワクチン組成物。
  3. 組換えYadAタンパク質が、大腸菌発現ベクター中にエルシニアYadAタンパク質をコードする核酸を組み込んだ発現ベクターを大腸菌中に組み換えることにより、大腸菌中で作製されたものである、請求項1または2に記載のエルシニア症ワクチン組成物。
  4. 組換えYadAタンパク質が、大腸菌内において封入体中に封入されたものまたは可溶化されたもののいずれかである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエルシニア症ワクチン組成物。
  5. 皮下投与または経口投与により投与される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエルシニア症ワクチン組成物。
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