JP2015199692A - 2’−ヒドロキシフラバノンを含む前立腺癌の予防・治療組成物 - Google Patents
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Abstract
Description
前立腺癌(PCa)は最も多く見られる悪性腫瘍であり、米国男性の癌関連死では上位の原因である(非特許文献1)。初期の進行性PCaはアンドロゲン依存性であることから、進行性PCaにはアンドロゲン遮断療法(ADT)が初めに選択される。ADTの一例である、去勢及び抗アンドロゲン剤の併用により、症状の改善又は前立腺特異抗原(PSA)の減少は前立腺癌患者の90%以上に見られる。しかしながら、ADTで最初に反応した後、最終的にPCaはアンドロゲン遮断への応答性を失い、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)へ進行してしまう。
特に、PCaのアンドロゲン過敏状態は、副腎から分泌されるアンドロゲンの去勢レベルへ適合することに重要な役割を担っている。さらに、PCa又は骨転移領域における腫瘍内アンドロゲン合成によっても、アンドロゲン過敏性PCa細胞が生存及び増殖するに十分なアンドロゲンが供給されている(非特許文献4、5)。
フラボノイド類は、植物起源の飲食物に含まれるポリフェノール化合物であり、フラボノール類、フラボン類、フラボノン類、フラバン-3-オール類、アントシアニジン類、イソフラボン類の6つのサブクラスに分類することができる。また、フラボノイド類は、抗酸化活性、抗炎症活性、抗増殖活性と広い薬理学的活性を持つことが知られている。
特許文献1は、「前立腺由来間質細胞を使用した新規な酵素活性測定法に関するものであり、さらには、酵素阻害剤の評価方法」を開示している。
特許文献2は、「ヒトTMP-2蛋白質に対する抗体を含む製剤学的組成物を処置を要求される患者に投与することを特徴とする前立腺癌の治療方法」を開示している。
特許文献3は、「カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼキナーゼ2(CAMKK2)若しくはCAMKK2同等物、並びに/又はCAMKK2遺伝子若しくはCAMKK2遺伝子同等物を有効成分として含む前立腺癌の予防・治療剤」を開示している。
(1)前立腺癌細胞の増殖の阻害作用
(2)アンドロゲン受容体活性抑制作用
(3)アンドロゲン受容体タンパク質の核内移行阻害作用
(4)アンドロゲン反応性の抑制作用
(5)アンドロゲン受容体の発現阻害作用
「1.2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含むアンドロゲン受容体活性抑制組成物。
2.2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含むアンドロゲン反応性の抑制組成物。
3.2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含むアンドロゲン受容体タンパク質の核内移行阻害組成物。
4.2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含むアンドロゲン受容体の発現阻害組成物。
5.2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含む前立腺癌の予防・治療組成物。
6.前項1〜5のいずれか1に記載の組成物を含む前立腺癌の予防・治療剤。
7.前記前立腺癌は、去勢抵抗性前立腺癌である前項5の予防・治療剤。
8.前記前立腺癌は、アンドロゲン合成経路阻害作用を有する前立腺癌治療剤に耐性のある前立腺癌である前項6又は7の予防・治療剤。
9.ドセタキセル抵抗性を示す前立腺癌の再発予防剤である前項5〜8のいずれか1の予防・治療剤。」
2'-ヒドロキシフラバノンは、下記の構造を有する化合物である。
本発明の「2'-ヒドロキシフラバノン誘導体」は、2'-ヒドロキシフラバノンの有する作用(前立腺癌細胞の増殖の阻害作用、アンドロゲン受容体活性抑制作用、アンドロゲン受容体タンパク質の核内移行阻害作用及びアンドロゲン反応性の抑制作用のいずれか1以上の作用)と同等の作用を有し、2'-ヒドロキシフラバノンの塩、溶媒和物、若しくは生理学的に機能性の誘導体を含む構造を意味する。
(1)ナリンゲニン(5,7-ジヒドロキシ-2-(4-ヒドロキシフェニル)クロマン-4-オン)
(2)3'-ヒドロキシフラバノン
(3)4'-ヒドロキシフラバノン
(4)5'-ヒドロキシフラバノン
(5)6'-ヒドロキシフラバノン
(6)7'-ヒドロキシフラバノン
(7)8'-ヒドロキシフラバノン
本発明のアンドロゲン受容体活性抑制組成物は、有効成分として、2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含む。特に、本組成物は、前立腺癌細胞のアンドロゲン受容体活性を抑制する。
本発明のアンドロゲン受容体タンパク質の核内移行阻害組成物は、有効成分として、2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含む。特に、本組成物は、前立腺癌細胞のアンドロゲン受容体タンパク質の核内移行を抑制する。
本発明のアンドロゲン受容体の発現阻害組成物は、有効成分として、2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含む。特に、本組成物は、前立腺癌細胞のアンドロゲン受容体のmRNAの発現を阻害せずに、直接、タンパク質発現を阻害する。
本発明のアンドロゲン受容体の発現阻害組成物は、有効成分として、2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含む。特に、本組成物は、前立腺癌細胞のアンドロゲン反応性を抑制する。
本発明の前立腺癌の予防・治療組成物は、有効成分として、2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含む。特に、本発明の前立腺癌の予防・治療組成物は、従来治療が困難であった去勢抵抗性前立腺癌にも効果がある。
さらに、本発明の前立腺癌の予防・治療組成物は、アンドロゲン合成経路阻害作用を有する前立腺癌治療剤に耐性のある前立腺癌の効果及びドセタキセル抵抗性を示す前立腺癌の再発の予防効果を有する。
本発明の組成物は、予防(再発予防も含む)又は治療等の目的に応じて、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、腸溶剤、液剤、注射剤(液剤、懸濁剤)又は遺伝子療法に用いる形態などの各種の形態に、常法にしたがって調製することができる。本発明の前立腺癌の予防・治療組成物は、通常は1種又は複数の医薬用担体を用いて医薬組成物として製造することが好ましい。
本発明の組成物の投与量又は摂取量については、本発明のいずれか1の効果が得られるものであれば特に限定されるものではなく、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状及び他の医薬の使用の有無等)、及び担当医師の判断等に応じて適宜選択される。本発明の前立腺癌の予防・治療組成物は、1日1〜数回に分けて投与又は摂取することができ、数日又は数週間に1回の割合で間欠的に投与又は摂取してもよい。
本発明の前立腺癌の予防・治療剤は、上記で説明した組成物を含む。
本発明の前立腺癌の予防・治療剤は、前立腺癌細胞のアンドロゲン受容体活性の抑制作用、前立腺癌細胞のアンドロゲン受容体タンパク質の核内移行の阻害作用及びアンドロゲン受容体タンパク質の発現阻害作用等を有する。
さらに、本発明の前立腺癌の予防・治療剤は、アンドロゲン合成経路阻害作用を有する前立腺癌治療剤に耐性のある前立腺癌の効果及びドセタキセル抵抗性を示す前立腺癌の再発の予防効果を有する。
本実施例で使用した材料及び方法は、以下の通りである。
LNCaP及びDU145 細胞株 (ATCC, Manassas, VA, USA) を、それぞれ、1% ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S; Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)及び5%ウシ胎仔血清(FBS; Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA) を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で培養した。
PC-3細胞株(ATCC)は、1% P/S (Invitrogen) 及び5% FBSを添加したRPMI-1640で培養した。
5×104細胞を、DMEM-5%チャコールストリップしたウシ胎仔血清(CCS; Thermo Scientific HyClone, UK) を入れた12-ウェルプレートに播種し、さらに、24時間後、該細胞をDMEM-5% CCS 培地において2'-ヒドロキシフラバノン存在下又は非存在下で、エタノール、adione、テストステロン、DHTのいずれかで処理し、そして、該培地を2日おきに交換した。
それぞれの実験において、細胞を採取し、そして血球計で細胞数を3回計測した。
データは、三回の実験の平均値±標準偏差で示した。
RT-PCRに関し、1×105細胞を、DMEM-5% CCSを含む6-ウェルプレートに播種し、さらに、24時間後、該細胞を2'-ヒドロキシフラバノン存在又は非存在下において、adione有り又は無し、 DHT有り又は無しで24時間処理して、さらに総RNAを抽出した。
細胞からの総RNA抽出並びにAR、前立腺特異抗原(PSA)、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)のRT-PCRは、先の報告(Cancer Res 64:765-771, 2004及びEndcor Relat Cancer 16:1139-1155, 2009)を基にして行った。
ウェスタンブロッティング解析に関し、ブラッドフォード法を用いてタンパク質を定量し、そして、同等量のタンパク質を、10%又は12.5% Ready Gel J (Bio-Rad, Hercules, CA, USA)で泳動した。膜は、AR (NH27)及びGAPDH (NovusBiologicals, Littleton, CO, USA)に対するマウスモノクローナル抗体とインキュベートした。マウスモノクローナル又はウサギモノクローナル抗体特異性を持つ西洋ワサビペルオキシダーゼ標識2次抗体を使用し、化学発光剤(SuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate; Pierce, Rockford, IL, USA) とChemiDoc XRS (Bio-Rad)を用いてタンパク質のバンドを可視化し定量化した。
GFP融合全長野生型ARを発現する組換プラスミドpEGFP-fARは、pSGAR2の全長ARcDNA(開始コドンから24 to 3110 bp)をpEGFP-fARに挿入して、構築した。fARcDNAsの挿入部位は、配列分析で確認した。
ARの転写活性を確認するため、DMEM-5% CCSを含む12-ウェルプレートにLNCaP又はPC-3 細胞を5×104細胞播種し、24時間後、5.8 kb PSAプロモーターを持つルシフェラーゼレポータープラスミドpGL3PSAp-5.8を0.5 μg Lipofectamine transfection reaction (Invitrogen)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションしてから24時間後、細胞を2'-ヒドロキシフラバノン存在下又は非存在下においてDHTで24時間処理した。処理した細胞を回収し、該細胞をluciferase lysis buffer (Promega, Madison, WI, USA)で融解し、ルシフェラーゼ活性を照度計で計測した。LNCaP 細胞中のEGFP-fARを過剰発現させるため、5×104のLNCaP 細胞に0.1 μgのpEGFP-fARと0.4 μgの pGL3PSAp-5.8をトランスフェクションし、その後、細胞を、さらに、adione、DHT及び/又は2'-ヒドロキシフラバノンにより24時間処理した。
2'-ヒドロキシフラバノンがPCa細胞のアポトーシスを誘導するかどうかを調べるため、Annexin-V-FLUOS Staining kit (Roche,Mannheim,Germany)を製造元のプロトコルに従い、使用した。1×105のLNCaP、 DU145細胞及び5×104のPC-3細胞を、DMEM-5% CCSを含む6-ウェルプレートに播種し、72時間10 μM 2'-ヒドロキシフラバノンで処理した。培地を取り除きそしてPBSで洗浄した後、細胞をpropidium iodideを添加した100 μl Annexin-V-FLUOS labeling solutionで15分間、室温でインキュベートした。染色細胞をFSX100 (Olympus, Tokyo, Japan) 蛍光顕微鏡で観察した。
PC-3細胞を、5×104でDMEM-5% CCS培地を含む12-ウェルプレートに播種後、10 nM adione 又は10 nMのテストステロンを、10 μM 2'-ヒドロキシフラバノン存在下又は非存在下、で処理した。次に、該培地を、24時間後に回収した。培地中のadione、テストステロン及びDHT濃度を、LC-MS/MS (Division of Pharmacological Research, Aska Pharma Medical Co. Ltd., Kawasaki, Japan)で測定した。
PC-3細胞にpEGFP-fARを導入して24時間後、該細胞を24時間10 μM 2'-ヒドロキシフラバノンの存在下又は非存在下の条件で処理した。次に、細胞を10 nM DHT存在下又は非存在下で8時間培養し、緑色蛍光タンパク質(GFP) 結合型のfARをFSX100で観察した。
統計学的有意は、Prism 6.0ソフトウェアを用いて検定した。χ2 検定を、2者間の割合の有意性を評価するために用いた。2グループ間の連続変数の解析には、一元配置分散分析を行い、その後に、Fisher's PLSDを行った。図中の「*」、「**」及び「***」は、それぞれ、 p<0.05、p<0.01及びp<0.001を意味する。
2'-ヒドロキシフラバノンがPCa細胞増殖を阻害するかどうかを確認した。詳細は、以下の通りである。
図1Aから明らかなように、PC-3 細胞とDU145 細胞の増殖は、2'-ヒドロキシフラバノンにより用量依存的に抑制された。特に、10 μM 2'-ヒドロキシフラバノンは、PC-3 細胞とDU145 細胞増殖を、それぞれ、コントロールの22%と31%までに阻害した。
PC-3 細胞とDU145 細胞の増殖阻害は、2'-ヒドロキシフラバノンによるアポトーシスであるかどうかを確認するために、アネキシン V染色を行った。
72時間2'-ヒドロキシフラバノン処理したPC-3 細胞は、Annexin-V-FLUOSでよく染色されたので、アポトーシスの誘導を確認した。一方で、2'-ヒドロキシフラバノンを入れなかったPC-3 細胞は緑色蛍光が確認できなかった。DU145 細胞も同様の結果が得られた(図1B)。
図1Cから明らかなように、10 μM 2'-ヒドロキシフラバノンは、アンドロゲン非存在(コントロール)と比較して、59%まで増殖阻害をしたが、この阻害効果はPC-3 や DU145 細胞よりも低かった。LNCaP細胞は、PC-3やDU145 細胞とは異なり、10 μM 2'-ヒドロキシフラバノンではAnnexin-V-FLUOS染色を確認できなかった。つまり、LNCaP細胞では10 μM 2'-ヒドロキシフラバノンによるアポトーシスの誘導がなかった(図1D)。しかし、2'-ヒドロキシフラバノンは、10 nM adione を添加したLNCaP 細胞の増殖刺激作用を用量依存的に抑制した。10 μM の2'-ヒドロキシフラバノンは、該増殖刺激作用を基底レベルにまで抑制した。興味深いことに、1 nMテストステロン又は1 nMDHTによるLNCaP細胞増殖刺激も、2'-ヒドロキシフラバノンによって阻害された。これにより、2'-ヒドロキシフラバノンは、LNCaP細胞のテストステロン合成阻害をしたわけではなく、テストステロン及びDHTによる細胞増殖刺激を阻害した。
次に、2'-ヒドロキシフラバノンのPSA(前立腺特異抗原)発現に対する効果を調べた。LNCaP細胞を、2'-ヒドロキシフラバノン存在下又は非存在下において、10 nM adione又は1 nM DHTで処理した。図1Eから明らかなように、PSA mRNAの基底値に変化は見られないが、2'-ヒドロキシフラバノン はadione及びDHTによるPSA mRNA発現の誘導を用量依存的に抑制した。これらの結果は、2'-ヒドロキシフラバノンがアンドロゲン合成に影響を与えずに、LNCaP細胞のアンドロゲン反応性を抑制したことを示した。
2'-ヒドロキシフラバノンは、PCa細胞のアンドロゲン誘導性PSAプロモーター活性を抑制するかどうかを確認した。詳細は、以下の通りである。
しかし、2'-ヒドロキシフラバノンは、pGL3PSAp-5.8をトランスフェクションしたLNCaP 細胞において、10 nM adione、1 nM テストステロン又は1 nM DHTによって誘導されるPSA プロモーター活性を用量依存的に抑制した。さらに、10 μM の2'-ヒドロキシフラバノンは、これらの誘導をPSA プロモーター活性の基底値まで抑えた。
LNCaP 細胞のAR遺伝子はコドン 877に変異があるので、この変異は2'-ヒドロキシフラバノンによる抑制と関係している可能性がある。この可能性を排除するために、PC-3 細胞に野生型AR 発現プラスミド(pSGAR2)をトランスフェクションし、2'-ヒドロキシフラバノンの効果を調べた(図2B)。野生型AR存在下での10 nM adione又は1 nM テストステロンにより誘導されるPSAプロモーター活性は、10 μM 2'-ヒドロキシフラバノンにより抑制された。つまり、この抑制は、「2'-ヒドロキシフラバノンは培地のアンドロゲン濃度とは関係なく、直接AR 活性に影響を及ぼすこと」を示している。
2'-ヒドロキシフラバノンは、PCa細胞のHSD17B及び5α-レダクターゼ活性に影響を与えるかどうかを確認した。詳細は、以下の通りである。
PC-3 細胞を、10 μM 2'-ヒドロキシフラバノン存在又は非存在下において、10 nM adione 又は10 nM テストステロンで処理し、24時間後、LC-MS/MSで培地内のadione、テストステロン及びDHTの濃度を測定した。
2'-ヒドロキシフラバノンは、adione添加条件下ではテストステロン及びDHTの濃度変化を起さず、同様にテストステロン添加条件下ではDHTの濃度変化を起さなかった。つまり、2'-ヒドロキシフラバノンは、in vitroではHSD17B 及び5α-レダクターゼ活性に影響を及ぼさないことを示している(図3)。
2'-ヒドロキシフラバノンは、ARmRNAの発現ではなく、ARタンパク質の発現を阻害していることを確認した。詳細は、以下の通りである。
次に、2'-ヒドロキシフラバノンがARタンパク質の発現に影響を与えるかどうかを調べた。ウェスタンブロット解析より、2'-ヒドロキシフラバノンがLNCaP細胞のARタンパクを用量依存的に下方制御していることが分かった(図4B)。加えて、SV40 プロモーターをもつpSGAR2をトランスフェクションしたPC-3 細胞での外因性ARの発現レベルは、同様に、2'-ヒドロキシフラバノン添加によって抑制された。
ARは、通常、アンドロゲン非存在下では細胞質に局在しており、アンドロゲン存在下では核内に移行することが知られている。そこで、2'-ヒドロキシフラバノンがAR局在に影響を与えるかどうかを調べた。
GFPタンパク質融合型全長ARを発現するpEGFP-fARプラスミドをPC-3 細胞にトランスフェクションし、2'-ヒドロキシフラバノン存在下又は非存在下でARの核局在性を確認した。
DHT非存在下で細胞質に局在しているGFP-fARタンパク質は、DHT存在下で8時間以内に核へと移行した(参照:図5)。しかし、このARから核への移行は、2'-ヒドロキシフラバノン存在下では阻害され、DHT存在下でも細胞質にとどまり続けた。
本実施例では、以下のことを確認した。
(1)2'-ヒドロキシフラバノンは、アンドロゲン非依存性のPCa細胞増殖をアポトーシスにより抑えた。すなわち、本発明の組成物は、前立腺癌の予防・治療効果を有する。
(2)2'-ヒドロキシフラバノンは、テストステロン及びDHT誘導性のアンドロゲン反応性を抑制した。なお、2'-ヒドロキシフラバノンは、アンドロゲン合成系に影響を与えなかった。すなわち、本発明の組成物は、アンドロゲン反応性の抑制効果を有する。
(3)2'-ヒドロキシフラバノンは、アンドロゲン受容体タンパク質の核内移行を阻害した。すなわち、本発明の組成物は、アンドロゲン受容体タンパク質の核内移行阻害効果を有する。
(4)2'-ヒドロキシフラバノンは、PCa細胞でアンドロゲン受容体タンパク質を減少させることでアンドロゲン受容体活性を抑制した。すなわち、本発明の組成物は、アンドロゲン受容体活性抑制効果及びアンドロゲン受容体の発現阻害効果を有する。
(5)本発明の前立腺癌の予防・治療組成物は、去勢抵抗性前立腺癌の効果及びドセタキセル抵抗性を示す前立腺癌の再発の予防効果を有する。詳しくは以下の通りである。
アンドロゲン受容体経路は、前立腺癌の細胞増殖の主な原因であることから、進行性前立腺癌患者への内科的去勢術として、ADTが用いられる。しかしながら、PCaは最終的にADTへの反応性を失い、いわゆる去勢抵抗性前立腺癌へと進行する。AR 経路は、ホルモン感受性PCaから去勢抵抗性前立腺癌に移行する過程にも強く関与していることが知られている。すなわち、本発明の前立腺癌の予防・治療組成物は、アンドロゲン受容体活性抑制を有するので、去勢抵抗性前立腺癌に効果がある。
また、ADT開始後、血清中テストステロンは5%以下に減少するが、PCaはいくつかのメカニズムにより血清中低テストステロンに適応してしまう。重要な因子として副腎アンドロゲンであるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)が知られている。DHEAは、テストステロンへと代謝され、PCa組織内で5α-レダクターゼにより、ジヒドロテストステロン (DHT) へと変換され、ARを活性化することが知られている。事実、PCa組織のDHT濃度は治療前の20-40 %であることが報告されている。上皮細胞と間質細胞の相互作用は、PCa組織内のDHT産生に大きくかかわっていることが知られている。去勢後、間質細胞と上皮細胞において、副腎アンドロゲンのDHEAは、協調的に、DHTに代謝される。さらに、プレグネノロンからDHEAへの変換を阻害するCYP17A阻害剤(abiraterone acetate とTAK-700)は、ドセタキセル治療後の70% 以上の去勢抵抗性前立腺癌で有効である。これらの結果(知見)は、AR経路はドセタキセル抵抗性を示す前立腺癌の再発に関与していると考えられる。すなわち、本発明の前立腺癌の予防・治療組成物は、アンドロゲン受容体活性抑制を有するので、ドセタキセル抵抗性を示す前立腺癌の再発の予防剤になる。
以上により、果物や野菜に含まれる天然産物である2'-ヒドロキシフラバノンは、PCa細胞の増殖を抑制し、さらに、アンドロゲン受容体タンパク質を下方制御することでアンドロゲン抵抗性を示す。
Claims (9)
- 2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含むアンドロゲン受容体活性抑制組成物。
- 2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含むアンドロゲン反応性の抑制組成物。
- 2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含むアンドロゲン受容体タンパク質の核内移行阻害組成物。
- 2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含むアンドロゲン受容体の発現阻害組成物。
- 2'-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体を含む前立腺癌の予防・治療組成物。
- 請求項1〜5のいずれか1に記載の組成物を含む前立腺癌の予防・治療剤。
- 前記前立腺癌は、去勢抵抗性前立腺癌である請求項5の予防・治療剤。
- 前記前立腺癌は、アンドロゲン合成経路阻害作用を有する前立腺癌治療剤に耐性のある前立腺癌である請求項6又は7の予防・治療剤。
- ドセタキセル抵抗性を示す前立腺癌の再発予防剤である請求項5〜8のいずれか1の予防・治療剤。
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