JP2015182964A - 加齢又は肥満に伴う慢性炎症の抑制剤、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤、罹患可能性評価装置及びスクリーニング方法 - Google Patents

加齢又は肥満に伴う慢性炎症の抑制剤、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤、罹患可能性評価装置及びスクリーニング方法 Download PDF

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Abstract

【課題】PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害することによって、加齢又は肥満に伴う慢性炎症を抑制する抑制剤、治療剤又は予防剤、罹患可能性評価装置及びスクリーニング方法を提供する。【解決手段】加齢又は肥満に伴う慢性炎症の抑制剤は、PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害する物質からなる。該物質は、PD−1陽性メモリーT細胞を除去する抗体を用いるのが好ましい。加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤は、PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害する物質を有効成分として含む。加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の罹患可能性評価装置は、被験者から採取された試料における、PD−1陽性メモリーT細胞の細胞数を測定可能な手段と、測定可能な手段による測定結果に基づいて、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患に罹患する可能性を評価する手段を有する。【選択図】図8

Description

本発明は、加齢又は肥満に伴う慢性炎症の抑制剤、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤、罹患可能性評価装置及びスクリーニング方法に関する。
超高齢化社会を向かえ、加齢に伴う慢性炎症に関連する疾患が問題となっている。例えば、動脈硬化、慢性腎臓病、神経変性疾患、糖尿病、加齢黄班変性、骨粗鬆症、認知症、慢性閉塞性肺疾患、癌等は、加齢関連慢性疾患として知られている。老化は、これら慢性疾患のリスクファクターとして注目されている。また、肥満は、老化を加速させ、糖尿病、動脈硬化等の原因になっていることが知られている。
加齢に伴う慢性炎症と、免疫老化とは、深く関与していることが知られており、例えば、加齢とともに進行する胸腺の退縮によって、ナイーブT細胞が減少して、CD44highCD62Llow又はCD44+CD62L−で特徴づけられるメモリーフェノタイプ(MP)T細胞が増加することが知られている。
ところで、PD−1(Programmed Death 1)は、免疫系における刺激シグナルと阻害シグナルのバランスの調節を行う細胞表面受容体であることが知られている。非特許文献1には、加齢に伴って、PD−1陽性メモリーT細胞の数が増加することや、オステオポンチン等の炎症性サイトカインの分泌が亢進することが開示されている。
Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Sep 15;106(37):15807−15812.
しかしながら、PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加と、加齢に伴う慢性炎症や、加齢に伴う慢性炎症に関連する疾患との関係については不明な点が多く、PD−1陽性T細胞の数の増加により、加齢に伴う慢性炎症や、加齢に伴う慢性炎症に関連する疾患が発症することは実証されていなかった。
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害することによって、加齢又は肥満に伴う慢性炎症を抑制する抑制剤、治療剤又は予防剤、罹患可能性評価装置及びスクリーニング方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、加齢マウス及び肥満マウスにおいて、PD−1陽性メモリーT細胞の増加を阻害することにより、耐糖能、インスリン抵抗性が改善すること、及び、脾臓及び脂肪組織において炎症性サイトカインが減少することを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
(1)PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害する物質からなる、加齢又は肥満に伴う慢性炎症の抑制剤。
(2)前記物質は、PD−1陽性メモリーT細胞を除去する抗体である(1)記載の抑制剤。
(3)前記慢性炎症は、脂肪組織の慢性炎症である、(1)又は(2)記載の抑制剤。
(4)PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害する物質を有効成分として含む、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤。
(5)加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の罹患可能性評価装置であって、
被験者から採取された試料における、PD−1陽性メモリーT細胞の細胞数を測定可能な手段と、
前記測定可能な手段による測定結果に基づいて、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患に罹患する可能性を評価する手段を有する罹患可能性評価装置。
(6)加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤の候補物質のスクリーニング方法であって、
被験物質とPD−1陽性メモリーT細胞とを接触させる工程と、
接触後、PD−1陽性メモリーT細胞の数を測定する工程と、
測定結果に基づいて、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤の候補物質として被験物質を選択する工程と、を有するスクリーニング方法。
(7)加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤の候補物質のスクリーニング方法であって、
被験物質を、ヒトを除く動物に投与する工程と、
前記被験物質が投与された前記ヒトを除く動物の体液又は組織中のPD−1陽性メモリーT細胞の数を測定する工程と、
測定結果に基づいて、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤の候補物質として被験物質を選択する工程と、を有するスクリーニング方法。
本発明によれば、PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害することによって、加齢又は肥満に伴う慢性炎症を抑制する抑制剤、治療剤又は予防剤、罹患可能性評価装置及びスクリーニング方法を提供することができる。
加齢マウスと若年マウスとについて、体重(a)及び精巣上皮周囲内臓脂肪重量(b)を比較したグラフである。 加齢マウスと若年マウスとについて、耐糖能(a)及びインスリン抵抗性(b)を比較したグラフである。 加齢マウスと若年マウスとについて、空腹時における血清中のインスリン濃度(a)、アディポネクチン濃度(b)及びレプチン濃度(c)を比較したグラフである。 加齢マウスと若年マウスとについて、脾臓から抽出した白血球系細胞中のPD−1陽性メモリーT細胞の数の割合(a)、及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞のPD−1陽性メモリーT細胞の数の割合(b)を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した加齢マウスと、control IgGを投与した加齢マウスとについて、食事摂取量(a)、治療終了後の体重(b)及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪重量(c)を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した加齢マウスと、control IgGを投与した加齢マウスとについて、耐糖能(a)及びインスリン抵抗性(b)を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した加齢マウスと、control IgGを投与した加齢マウスとについて、空腹時における血清中のインスリン濃度(a)、アディポネクチン濃度(b)及びレプチン濃度(c)を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した加齢マウスと、control IgGを投与した加齢マウスとについて、脾臓及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞中のナイーブT細胞の数の割合(a)、及び、脾臓及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞中のメモリーT細胞の数の割合(b)を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した加齢マウスと、control IgGを投与した加齢マウスとについて、(精巣上皮周囲)内臓脂肪におけるM1タイプマクロファージの割合、及び、M2タイプマクロファージの割合を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した加齢マウスと、control IgGを投与した加齢マウスとについて、(精巣上皮周囲)内臓脂肪における制御型T細胞の割合を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した加齢マウスと、control IgGを投与した加齢マウスとについて、(精巣上皮周囲)内臓脂肪における脂肪細胞径(a)、及び、王冠様構造の数(b)を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した加齢マウスと、control IgGを投与した加齢マウスとについて、TNFα、IL−6、CCL2、オステオポンチンのmRNA発現レベルを比較したグラフである。 標準食飼育マウスと高脂肪食飼育マウスとについて、食事の摂取による体重の変化(a)及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪重量(b)を比較したグラフである。 標準食飼育マウスと高脂肪食飼育マウスとについて、耐糖能(a)及びインスリン抵抗性(b)を比較したグラフである。 標準食飼育マウスと高脂肪食飼育マウスとについて、空腹時における血清中のインスリン濃度(a)、アディポネクチン濃度(b)及びレプチン濃度(c)を比較したグラフである。 標準食飼育マウスと高脂肪食飼育マウスとについて、脾臓から抽出した白血球系細胞における、PD−1陽性CD44陽性CD4陽性T細胞(CD3陽性)の割合(a)、及び、PD−1陽性CD44陽性CD8陽性T細胞(CD3陽性)の割合(b)を比較したグラフである。 標準食飼育マウスと高脂肪食飼育マウスとについて、(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞における、PD−1陽性CD44陽性CD4陽性T細胞(CD3陽性)の割合を比較したグラフ(a)、及び、PD−1陽性CD44陽性CD8陽性T細胞(CD3陽性)の割合(b)を比較したグラフである。 標準食飼育マウスと高脂肪食飼育マウスとについて、(精巣上皮周囲)内臓脂肪におけるM1タイプマクロファージ(CD11b陽性F4/80陽性CD11c陽性CD206陰性)の割合を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した高脂肪食飼育マウスと、control IgGを投与した高脂肪食飼育マウスとについて、食事摂取量(a)、治療終了後の体重(b)及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪重量(c)を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した高脂肪食飼育マウスと、control IgGを投与した高脂肪食飼育マウスとについて、耐糖能(a)、空腹時血糖値(b)及びインスリン抵抗性(c)を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した高脂肪食飼育マウスと、control IgGを投与した高脂肪食飼育マウスとについて、空腹時における血清中のインスリン濃度(a)、アディポネクチン濃度(b)及びレプチン濃度(c)を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した高脂肪食飼育マウスと、control IgGを投与した高脂肪食飼育マウスと、標準食で飼育された21週齢雄マウスとについて、(精巣上皮周囲)内臓脂肪におけるM1タイプマクロファージ(CD11b陽性F4/80陽性CD11c陽性CD206陰性)の割合を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した高脂肪食飼育マウスと、control IgGを投与した高脂肪食飼育マウスと、標準食で飼育された21週齢雄マウスとについて、(精巣上皮周囲)内臓脂肪における制御型T細胞(CD3陽性CD4陽性Foxp3陽性)の割合を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した高脂肪食飼育マウスと、control IgGを投与した高脂肪食飼育マウスと、標準食で飼育された21週齢雄マウスとについて、(精巣上皮周囲)内臓脂肪における脂肪細胞径(a)及び王冠様構造の数(b)を比較したグラフである。 抗PD−1抗体を投与した高脂肪食飼育マウスと、control IgGを投与した高脂肪食飼育マウスと、標準食で飼育された21週齢雄マウスとについて、(精巣上皮周囲)内臓脂肪における、TNFα、IL−6、CCL2、IL−10、CD11c、CD206のmRNA発現レベルを比較したグラフである。 標準食飼育の若年マウス及び高脂肪食飼育の加齢マウスに、4週齢マウスの脾臓から抽出しCFSEで標識したCD4陽性及びCD8陽性T細胞が経静脈投与された2週間後のそれぞれのマウスから抽出したCFSE陽性T細胞において、PD−1陽性CD44陽性CD4陽性T細胞の割合(a)及びPD−1陽性CD44陽性CD8陽性T細胞の割合(b)を比較したグラフである。 高脂肪食飼育の加齢マウスの脾臓から抽出したPD−1陽性メモリーT細胞とPD−1陰性メモリーT細胞との増殖能を比較したグラフである。 高脂肪食飼育の加齢マウスの(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出したPD−1陽性メモリーT細胞とPD−1陰性メモリーT細胞とのオステオポンチン陽性細胞(a)及びIL−6陽性細胞(b)の割合を比較したグラフである。 PD−1陽性メモリーT細胞によるマクロファージの遊走能を評価したグラフである。 PD−1陽性メモリーT細胞による、マクロファージの炎症性サイトカインの発現量変化を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は特にこれに限定されない。
加齢又は肥満が進むにつれ、慢性炎症や、慢性炎症に関連する疾患が進行し、また、PD−1陽性Tメモリー細胞の数が増加する。すなわち、加齢又は肥満に伴う慢性炎症、慢性炎症に関連する疾患を抑制、治療又は予防するには、PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害する必要ある。
<加齢又は肥満に伴う慢性炎症の抑制剤>
本発明の加齢又は肥満に伴う慢性炎症の抑制剤は、PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害する物質からなる。これにより、加齢又は肥満に伴う慢性炎症を抑制することができる。本発明の加齢又は肥満に伴う慢性炎症の抑制剤は、PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害することによって、加齢又は肥満に伴う慢性炎症を抑制する物質であるので、例えば、腫瘍細胞が発現するPD−L1やPD−L2のPD−1への結合を阻害し、腫瘍細胞への免疫反応を生じさせる中和抗体等の物質とは、明確に異なる。本願明細書において、「PD−1陽性メモリーT細胞の数」とは、PD−1陽性メモリーT細胞数の絶対値と、T細胞中のPD−1陽性メモリーT細胞数の割合のいずれも含む。
加齢又は肥満に伴う慢性炎症の部位は、特に限定されないが、脾臓、脂肪組織((精巣上皮周囲)内脂肪細胞等)、血管、脳、網膜、骨筋肉、腎臓、肝臓、肺臓、心臓等の慢性炎症があげられる。本発明の抑制剤によると、脂肪組織、脾臓での慢性炎症が抑制されることから、循環血液中の慢性炎症を抑制しうる。よって、本発明の抑制剤は、脾臓又は脂肪組織といった特異的な臓器の慢性炎症と、包括的に各臓器の慢性炎症のいずれにも有効である。
加齢又は肥満に伴う慢性炎症の抑制剤は、PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害する物質であれば、特に限定されず、天然又は合成の有機又は無機の低分子又は高分子物質等の物質であってよい。なお、本願明細書において、「PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害する」とは、PD−1陽性メモリーT細胞の増殖を阻害することと、PD−1陽性メモリーT細胞を除去することのいずれも含む。また、本願明細書において、「除去」とは、細胞の分解(破壊)を意味する。
PD−1陽性メモリーT細胞を除去する物質としては、限定されないが、例えば、PD−1陽性メモリーT細胞を除去する抗体が挙げられる。PD−1陽性メモリーT細胞を除去する抗体は、従来の公知の方法により作製できるが、PD−1陽性メモリーT細胞の除去抗体である「J43 ハムスターIgG」は、Bio X Cell社(West Lebanon、NH、USA)より、順天堂大学免疫学講座 八木田秀雄先生の使用許可のもと購入可能である。(日本正規代理店 Syn Corporation社、田辺、京都)
<加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤>
本発明は、PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害する物質を有効成分として含む加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤を包含する。
加齢又は肥満に伴う慢性炎症は、特に限定されないが、脾臓、脂肪組織((精巣上皮周囲)内脂肪細胞等)、血管、脳、網膜、骨筋肉、腎臓、肝臓、肺臓、心臓等の慢性炎症があげられる。これらのうち、本発明の治療剤又は予防剤によると、脂肪組織、脾臓での慢性炎症に関連する疾患の治療又は予防に有効であることから、循環血液中の慢性炎症に関連する疾患を治療又は予防しうる。よって、本発明の治療剤又は予防剤は、脾臓又は脂肪組織といった特異的な臓器の慢性炎症と、包括的に各臓器の慢性炎症のいずれにも関連する疾患に有効である。
加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患は、特に限定されないが、例えば、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する、糖尿病、動脈硬化、慢性腎臓病、神経変性疾患、加齢黄班変性、骨粗鬆症、認知症、慢性閉塞性肺疾患、癌、心臓病(冠動脈疾患、弁膜症、心不全)等があげられる。本発明の治療剤又は予防剤によると、PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害することができるので、脂肪組織に代表される慢性炎症に関連する疾患を治療又は予防抑制することができる。慢性炎症は、加齢や肥満に伴う慢性疾患の病因になっているため、慢性炎症に関連する疾患を治療又は予防する本発明の治療剤又は予防剤は、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する種々の疾患に対して使用可能であると推察される。
PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害する物質は、特に限定されないが、例えば、天然又は合成の有機又は無機の低分子又は高分子物質等の物質であってよい。PD−1陽性メモリーT細胞を除去する物質としては、限定されないが、例えば、PD−1陽性メモリーT細胞を除去する抗体が挙げられる。
本発明の治療剤又は予防剤は、各種製剤形態に調製し、非経口的に全身又は局所投与することができる。例えば、本剤を非経口投与する場合、静脈内注射剤(点滴を含む)、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、皮下注射剤、坐剤、腫瘍内直接投与剤等に製剤化し、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供されてよい。また、本剤は経口投与してもよく、経口投与のために各種製剤形態に調製してもよい。
これらの各種製剤は、製剤上通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等を適宜用い、常法により製造することができる。
本発明の治療剤又は予防剤の投与量は、投与対象の年齢、投与経路、投与回数、症状、剤型等により異なるが、例えば、PD−1陽性メモリーT細胞を除去する抗体タンパク質の治療的有効量(すなわち、有効量)は、目的等に応じて適宜設定することができる。
<罹患可能性評価装置>
本発明は、被験者から採取された試料における、PD−1陽性メモリーT細胞の細胞数を測定可能な手段と、測定可能な手段による測定結果に基づいて、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患に罹患する可能性を評価する手段を有する、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の罹患可能性評価装置を包含する。
PD−1陽性メモリーT細胞の細胞数は、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患に罹患する可能性を評価する指標となる。よって、本発明の罹患可能性評価装置によると、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患に罹患する可能性を評価することができる。
被験者から採取される試料は、特に限定されないが、体液(血液、尿、胸水、腹水等)や組織等が挙げられる。
被験者から採取された試料における、PD−1陽性メモリーT細胞の細胞数を測定可能な手段は、従来の細胞数を測定可能な手段であれば、特に限定されないが、例えば、フローサイトメーター、血球計算盤、細胞係数分析装置(コールターカウンター)等であってもよい。
上記測定可能な手段による測定結果に基づいて、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患に罹患する可能性を評価する手段は、特に限定されない。例えば、ある被験者について、一定期間の間にわたって、PD−1陽性メモリーT細胞の細胞数を測定し、その測定結果に基づくPD−1陽性メモリーT細胞の細胞数の変動から罹患可能性を評価する手段であってもよい。また、ある特定の母集団(例えば、被験者と同年代の集団、特定の年代の母集団、特定の性別の母集団、特定の疾患に罹患した母集団等)についてのPD−1陽性メモリーT細胞の細胞数の平均値と比較して、罹患可能性を評価する手段、あるいは、他の測定値(例えば、血糖値等)とPD−1陽性メモリーT細胞の細胞数との相関関係に基づいて、罹患可能性を評価する手段であってもよい。また、評価の基準は、評価する手段に合わせて適宜設定することができる。例えば、被験者と同年代の集団についてのPD−1陽性メモリーT細胞の細胞数の平均値と比較して、高い数値であった場合、被験者は罹患可能性が高いと評価し、低い数値であった場合、罹患可能性が低いと評価することができる。また、被験者自身の加齢に伴ってPD−1陽性メモリーT細胞の細胞数が高くなった場合に、罹患可能性が高くなったものと評価してもよい。
<スクリーニング方法>
本発明は、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤の候補物質のスクリーニング方法を包含する。
本発明のスクリーニング方法の一実施形態は、被験物質とPD−1陽性メモリーT細胞とを接触させる工程と、接触後、PD−1陽性メモリーT細胞の数を測定する工程と、測定結果に基づいて、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤の候補物質として被験物質を選択する工程とを有する。
(接触工程)
接触工程は、被験物質とPD−1陽性メモリーT細胞とを接触させる工程である。接触させる方法は、特に限定されず、従来の公知の方法にいずれでも使用することができ、例えば、PD−1陽性メモリーT細胞を含む、体液(血液、尿、胸水、腹水等)、組織検体等と、被験物質を混合してもよく、あるいは、被験物質の存在下でPD−1陽性メモリーT細胞を培養してもよい。
PD−1陽性メモリーT細胞の種類は、特に限定されないが、例えば、体液(血液、尿、胸水、腹水等)、組織検体等から抽出したPD−1陽性メモリーT細胞、ヒト組織検体(カテーテル的、内視鏡的、手術的に採取された組織)から抽出したPD−1陽性メモリーT細胞等が挙げられる。
(測定工程)
測定工程は、上記接触工程後に、PD−1陽性メモリーT細胞の数を測定する工程である。測定方法は、特に限定されず、従来の公知の方法を使用することができ、例えば、PD−1陽性メモリーT細胞の数を測定する工程としては、接触工程における方法に応じて適宜変更することができる。例えば、上述の体液(末梢血液や尿、胸水や腹水等)と被験物質との混合後、フローサイトメトリー法によりPD−1陽性メモリーT細胞を検出する方法、ヒト検体(病理組織)と被験物質との混合後、免疫染色法により組織中のPD−1陽性メモリーT細胞を検出する方法、PD−1陽性メモリーT細胞を培養レベルで誘導し、被験物質と接触させた後に、細胞数をフローサイトメトリー法等で測定する方法等が挙げられる。この測定結果に基づいて、後述の選択工程において、候補物質を選択することができる。
(選択工程)
選択工程は、上記測定結果に基づいて、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤の候補物質として被験物質を選択する工程である。選択方法は、特に限定されず、従来公知の選択方法により候補物質を選択すればよい。例えば、投与前のPD−1陽性メモリーT細胞の数と比較して、PD−1陽性メモリーT細胞の数を低下させる被験物質を候補物質として選択してもよく、あらかじめ測定した他の物質による測定結果と比較して、被験物質を候補物質として選択してもよい(例えば、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤として用いられる物質による測定結果と比較して、同様の測定結果である場合、その被験物質を候補物質として選択することができる)。
本実施形態において、被験物質から選択された候補物質を、ヒトを除く動物に投与し、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤としての効果を確認する工程を更に有してもよい。
また、本発明のスクリーニング方法の上記実施形態とは異なる実施形態は、被験物質を、ヒトを除く動物に投与する工程と、被験物質が投与されたヒトを除く動物の体液又は組織中のPD−1陽性メモリーT細胞の数を測定する工程と、測定結果に基づいて、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤の候補物質として被験物質を選択する工程と、を有する。
(投与工程)
投与工程は、被験物質を、ヒトを除く動物に投与する工程である。
被験物質は、特に限定されず、天然又は合成の有機又は無機の低分子又は高分子物質等の任意の物質であってよい。
ヒトを除く動物は、特に限定されないが、例えば、マウス、ラット、イヌ、ネコ、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウサギ等の哺乳等物等を使用することができる。
投与方法は、特に限定されず、非経口投与であってもよい。非経口投与は、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射等であってもよい。また、経口投与であってもよい。
(測定工程)
測定工程は、被験物質が投与されたヒトを除く動物の体液又は組織中のPD−1陽性メモリーT細胞の数を測定する工程である。
測定方法は、特に限定されず、従来の公知の方法を使用することができ、例えば、被験物質の投与後のヒトを除く動物の体液又は組織から、T細胞を抽出して、フローサイトメーター、血球計算盤、細胞係数分析装置(コールターカウンター)等によって、PD−1陽性メモリーT細胞の数を測定することができる。この測定結果に基づいて、後述の選択工程において、候補物質を選択することができる。
ヒトを除く動物の体液又は組織は、特に限定されないが、循環血液や脾臓や内臓脂肪等の組織が挙げられる。
(選択工程)
選択工程は、上記測定結果に基づいて、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤の候補物質として被験物質を選択する工程である。選択方法は、特に限定されず、従来公知の選択方法により候補物質を選択すればよい。例えば、ヒトを除く動物の投与前のPD−1陽性メモリーT細胞の数と比較して、PD−1陽性メモリーT細胞の数を低下させる被験物質を候補物質として選択してもよい。また、あらかじめ測定した他の物質を、ヒトを除く動物に投与したときの測定結果と比較して、被験物質を候補物質として選択してもよい(例えば、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤として用いられる物質を、ヒトを除く動物に投与したときの測定結果と比較して、同様の測定結果である場合、その被験物質を候補物質として選択することができる)。
<加齢マウスと若年マウスとの比較>
100週齢の雄加齢マウス(ヒト65歳相当)と、10週齢の雄若年マウスとを用いて、以下について比較を行った(各群のマウスのn=6)。なお、図1〜3中の「Young」は、若年マウスを示し、「Aged」は、加齢マウスを示す。図4中の「11W」は、11週齢のマウスを示し、「70W」は、70週齢のマウスを示し、「100W」は100週齢のマウスを示す。
(体重及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪重量の比較)
加齢マウスと若年マウスとの体重及び精巣上皮周囲内臓脂肪重量の比較を行った。その結果、加齢マウスでは、若年マウスと比べ、体重だけでなく(図1(a))、(精巣上皮周囲)内臓脂肪重量も有意に重かったことが確認された(図1(b))。
(耐糖能及びインスリン抵抗性の比較)
加齢マウスと若年マウスとの耐糖能及びインスリン抵抗性の比較を行った。その結果、加齢マウスでは、糖負荷試験(16時間の絶食後、経口で1.5g/kgのブドウ糖を投与)によって耐糖能異常を呈すること(図2(a))、及び、インスリン負荷試験(4時間の絶食後、0.75単位のインスリンを腹腔内投与)によってインスリン抵抗性を呈することが確認された(図2(b))。
(空腹時血清インスリン濃度、アディポネクチン濃度及びレプチン濃度の比較)
加齢マウスと若年マウスとの空腹時血清インスリン濃度、アディポネクチン濃度及びレプチン濃度をELISAキットにより測定し、それぞれの値の比較を行った。その結果、加齢マウスでは、若年マウスと比べ高値で、インスリン濃度が高いこと(図3(a))、アディポネクチン濃度が低いこと(図3(b))、レプチン濃度が高いことが確認された(図3(c))。
(脾臓から抽出した白血球系細胞及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞に関する比較)
脾臓から抽出した白血球系細胞を種々の表面マーカーでラベルし、フローサイトメトリー解析を行った。その結果、加齢に伴い、PD−1陽性CD44陽性CD4陽性T細胞(CD3陽性)の割合、PD−1陽性CD44陽性CD8陽性T細胞(CD3陽性)の割合は有意に増加していたことが確認された(図4(a))。
(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞のフローサイトメトリー解析を行った。その結果、加齢に伴いPD−1陽性CD44陽性CD4陽性T細胞(CD3陽性)、PD−1陽性CD44陽性CD8陽性T細胞(CD3陽性)の割合が有意に増加していたことが確認された(図4(b))。
これらの結果より、マウスでは、加齢に伴い、耐糖脳が低下していること、脾臓、脂肪組織において、PD−1陽性メモリーT細胞が増加することが示された。
<抗PD−1抗体を投与した加齢マウスと、control IgGを投与した加齢マウスとの比較>
77週齢の雄加齢マウスを2群に分け、一群には、PD−1陽性メモリーT細胞を除去する抗PD−1抗体(J43 ハムスターIgG 250 μg)を(抗PD−1抗体治療群)、他の一群にはcontrol IgG(ハムスターIgG 250 μg)(control IgG群)を週3回の割合で、3週間、計9回腹腔内投与した。これらの加齢マウスを用いて、以下について比較を行った(各群のマウスのn=6)。なお、図5〜12中、「IgG」は、control IgG群を示し、「αPD−1」は、抗PD−1抗体治療群を示す。
(食事摂取量、治療終了後の体重及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪重量の比較)
両群間において、食事摂取量、治療終了後の体重及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪重量の比較を行った。食事摂取量は、両群間は同等であった(図5(a))。治療終了後の体重(図5(b))、(精巣上皮周囲)内臓脂肪重量(図5(c))も両群間で同等であったことが確認された。
(耐糖能及びインスリン抵抗性の比較)
両群間において、耐糖能及びインスリン抵抗性の比較を行った。その結果、抗PD−1抗体治療群では、耐糖能(図6(a))、インスリン抵抗性(図6(b))ともに改善していたことが確認された。
(空腹時血清インスリン濃度、アディポネクチン濃度及びレプチン濃度の比較)
両群間において、空腹時血清インスリン濃度、アディポネクチン濃度及びレプチン濃度の比較を行った。その結果、抗PD−1抗体治療群では空腹時血清インスリン濃度(図7(a))、レプチン濃度(図7(c))が有意に低下し、アディポネクチン濃度(図7(b))が上昇したことが確認された。
(脾臓から抽出した白血球系細胞及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞に関する比較)
脾臓及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞をフローサイトメトリーで解析した。抗PD−1抗体治療群では、脾臓及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞のいずれにおいても、CD44陰性CD62L陽性CD4陽性T細胞とCD44陰性CD62L陽性CD8陽性T細胞の割合(ナイーブT細胞)が増加したこと(図8(a))、及び、CD44陽性CD62L陰性CD4陽性T細胞とCD44陽性CD62L陰性CD8陽性T細胞の割合(メモリーT細胞)が減少したことが確認された(図8(b))。
抗PD−1抗体治療群では、(精巣上皮周囲)内臓脂肪におけるM1タイプマクロファージ(CD11b陽性F4/80陽性CD11c陽性CD206陰性)の割合が減少したことが確認された(図9)。
抗PD−1抗体治療群では、(精巣上皮周囲)内臓脂肪における制御型T細胞(CD3陽性CD4陽性Foxp3陽性)の割合が増加したことが確認された(図10)。
両群間において、(精巣上皮周囲)内臓脂肪細胞を観察すると脂肪細胞径には差は認められなかったが(図11(a))、抗PD−1抗体治療群では、王冠様構造の数(脂肪細胞炎症所見)が減少していたことが確認された(図11(b))。
抗PD−1抗体治療群では、(精巣上皮周囲)内臓脂肪におけるIL−6、CCL2、オステオポンチン(OPN)のmRNA発現レベルが低下していたことが確認された(図12)。
これらの結果より、PD−1陽性メモリーT細胞を除去する抗PD−1抗体を投与することによって、耐糖能が改善すること、M1タイプマクロファージが減少すること、IL−6、OPN等の炎症性サイトカインが減少することが示された。特に、脾臓から抽出した白血球系細胞において、抗PD−1抗体治療群では、ナイーブT細胞の割合が増加し、メモリーT細胞の割合が減少していたことから、PD−1陽性メモリーT細胞を除去する抗PD−1抗体によって、PD−1陽性メモリーT細胞が確実に除去されたことが示唆された。これにより、抗PD−1抗体を投与して、PD−1陽性メモリーT細胞を除去することが、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療又は予防効果に結びつくこと示された。
また、脂肪組織において、加齢に伴い、また、過食に伴って、PD−1陽性メモリーT細胞数が増加するため慢性炎症が生じる、あるいは、増悪するので、PD−1陽性メモリーT細胞を脂肪組織から除去することで、脂肪組織における慢性炎症を抑制できることが示唆された。更に、PD−1陽性メモリーT細胞によって慢性炎症が生じる、あるいは、増悪する臓器は脂肪組織に限らずに、多臓器に認められる共通の分子基盤をなしており、種々の加齢や肥満に伴う慢性疾患の治療又は予防が可能であることが示唆された。
<標準食飼育マウスと高脂肪食飼育マウスとの比較>
4週齢の雄マウスを2群に分け、一群は6%脂肪を含む標準飼料で、他の一群は60Kcal%の高脂肪飼料を用いて、食餌自由摂取条件で以後14週間継続飼育した(各群のマウスのn=4)。図13〜18中、「HFD」は、高脂肪食飼育群を示し、「ND」は、標準飼育群を示す。
(体重及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪重量の比較)
食事の摂取による両群の体重の変化について比較を行ったところ、両群ともに体重は増加したことは確認されたが、体重の増加の程度は、高脂肪食飼育群で、有意に大きかったことが確認された(図13(a))。また、両群間において、(精巣上皮周囲)内臓脂肪重量の比較を行った。その結果、標準食飼育群では、ほとんど増加しなかったが、高脂肪食飼育群で有意に重くなり、かつ経時的に増加したことが確認された(図13(b))。
(耐糖能及びインスリン抵抗性の評価)
両群間において、耐糖能及びインスリン抵抗性の比較を行った。その結果、高脂肪食飼育群では、糖負荷試験で耐糖能異常を呈したことが確認され(図14(a))、インスリン負荷試験でインスリン抵抗性を呈したことが確認された(図14(b))。
(空腹時血清インスリン濃度、アディポネクチン濃度及びレプチン濃度の比較)
両群間において、空腹時血清インスリン濃度、アディポネクチン濃度及びレプチン濃度の比較を行った。その結果、高脂肪食飼育群では、空腹時血清インスリン濃度(図15(a))、レプチン濃度(図15(c))が、標準食飼育群と比べ高値で、アディポネクチン濃度は低値であったことが確認された(図15(b))。
(脾臓から抽出した白血球系細胞及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞に関する比較)
両群間において、脾臓から抽出した白血球系細胞及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞に関する比較を行った。
脾臓から抽出した白血球系細胞及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞についてフローサイトメトリー解析を行った。その結果、脾臓から抽出した白血球系細胞においては、高脂肪食飼育群では、PD−1陽性CD44陽性CD4陽性T細胞(CD3陽性)の割合(図16(a))、PD−1陽性CD44陽性CD8陽性T細胞(CD3陽性)の割合(図16(b))が、高脂肪食開始6週の時点より有意に増加したことが確認された。一方、(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞については、高脂肪食飼育群では、高脂肪食開始2週の時点よりPD−1陽性CD44陽性CD4陽性T細胞(CD3陽性)の割合が増加し(図17(a))、高脂肪食開始6週の時点よりPD−1陽性CD44陽性CD8陽性T細胞(CD3陽性)の割合が有意に増加したことが確認された(図17(b))。
高脂肪食飼育群では、高脂肪食開始2週間の時点から(精巣上皮周囲)内臓脂肪におけるM1タイプマクロファージ(CD11b陽性F4/80陽性CD11c陽性CD206陰性)の割合が、増加したことが確認された(図18)。
これらの結果より、加齢マウスと同様に、肥満マウスにおいては、耐糖脳が低下していること、脾臓、脂肪組織において、PD−1陽性メモリーT細胞が増加することが示された。
<抗PD−1抗体を投与した高脂肪食飼育マウスと、control IgGを投与した高脂肪食飼育マウスとの比較>
4週齢から高脂肪食飼育を開始した18週齢の食餌性肥満マウスを2群に分け、一群は抗PD−1抗体(J43 ハムスターIgG 250 μg)を(抗PD−1抗体治療群)、他の一群はcontrol IgG(ハムスターIgG 250 μg)(control IgG群)の腹腔内投与を週3回3週間投与した(各群のマウスのn=6)。治療期間は両群間で同等であった。なお、図19〜25中、「IgG」は、control IgG群を示し、「αPD−1」は、抗PD−1抗体治療群を示し、「HFD」は、高脂肪食マウスを示し、「ND」は、対照群を示す。
(食事摂取量、治療終了後の体重及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪重量の比較)
両群間において、食事摂取量、治療終了後の体重及び(精巣上皮周囲)内臓脂肪重量について比較を行った。その結果、食事摂取量(図19(a))、治療終了後の体重(図19(b))、(精巣上皮周囲)内臓脂肪重量(図19(c))が同等であったことが確認された。
(耐糖能、空腹時血糖値及びインスリン抵抗性の比較)
両群間において、耐糖能及びインスリン抵抗性の比較を行った。その結果、抗PD−1抗体治療群では、耐糖能が改善し(図20(a))、空腹時血糖値も低下していたこと(図20(b))が確認された。また、抗PD−1抗体治療群では、インスリン抵抗性も改善していたことが確認された(図20(c))。
(空腹時血清インスリン濃度、アディポネクチン濃度及びレプチン濃度の比較)
両群間において、空腹時血清インスリン濃度、アディポネクチン濃度及びレプチン濃度の比較を行った。その結果、抗PD−1抗体治療群では、空腹時血清インスリン濃度(図21(a))、レプチン濃度(図21(c))が有意に低下し、アディポネクチン濃度(図21(b))は上昇したことが確認された。
((精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞についての比較)
上記の両群に加え、標準食で飼育された21週齢雄マウスを対照群として用いて、(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出した白血球系細胞について比較を行った(対照群のマウスのn=6)。
抗PD−1抗体治療群では、(精巣上皮周囲)内臓脂肪におけるM1タイプマクロファージ(CD11b陽性F4/80陽性CD11c陽性CD206陰性)の割合が、減少したことが確認された(図22)。
抗PD−1抗体治療群では、(精巣上皮周囲)内臓脂肪における制御型T細胞(CD3陽性CD4陽性Foxp3陽性)の割合が、増加したことが確認された(図23)。
(精巣上皮周囲)内臓脂肪細胞を観察すると、control IgG群と抗PD−1抗体治療群との間に脂肪細胞径には差を認められなかったが(図24(a))、抗PD−1抗体治療群では、control IgG群より王冠様構造の数が減少していたことが確認された(図24(b))。
抗PD−1抗体治療群では、(精巣上皮周囲)内臓脂肪におけるTNFα、IL−6、CCL2、CD11cのmRNA発現レベルが低下し、IL−10、CD206のmRNA発現レベルが増加していたことが確認された(図25)。
これらの結果より、肥満マウスにおいても、耐糖能が改善すること、PD−1陽性メモリーT細胞を除去する抗PD−1抗体を投与することによって、M1タイプマクロファージが減少すること、IL−6等の炎症性サイトカインが減少することが示された。
<4週齢マウスの脾臓のCD4陽性T細胞及びCD8陽性T細胞の経静脈投与についての評価>
4週齢マウスの脾臓からCD4陽性及びCD8陽性T細胞を抽出し、CFSEでラベルした後、標準食飼育を行った11週齢若年マウス又は高脂肪食飼育を行った80週齢加齢肥満マウスに経静脈投与した(マウス各群n=4)。2週間後、それぞれのマウスの脾臓からCFSE陽性のCD4陽性及びCD8陽性T細胞を抽出し、フローサイトメトリー解析を行った。その結果、80週齢加齢肥満マウスから抽出したCFSE陽性T細胞において、PD−1陽性CD44陽性CD4陽性T細胞の割合(図26(a))、PD−1陽性CD44陽性CD8陽性T細胞の割合(図26(b))は、ともに11週齢の若年マウスの割合と比べて高いことが確認された。この結果より、肥満や過食によって、ジェネティックなT細胞のリモデリングが促進することが示唆された。
<高脂肪食飼育の加齢マウスの脾臓から抽出したPD−1陽性メモリーT細胞の増殖能の評価>
高脂肪食飼育を行った80週齢加齢肥満マウスの脾臓からCD3陽性T細胞を抽出し、CD44陰性PD−1陰性(R1)、CD44陽性PD−1陰性(R2)、CD44陽性PD−1陽性(R3)の3分画に分離した(マウスのn=4)。各分画同数のT細胞に抗CD3抗体を加えた後3日間培養し、増殖能をCell Counting Kit−8で測定した結果、R2群では、R1群、R3群と比べ有意に細胞数が多かったことが確認された(図27)。この結果より、PD−1陽性メモリーT細胞は、増殖能が顕著に低下していることが示された。
<高脂肪食飼育の加齢マウスの(精巣上皮周囲)内臓脂肪から抽出したPD−1陽性メモリーT細胞におけるオステオポンチン陽性細胞及びIL−6陽性細胞の割合の評価>
高脂肪食飼育を行った80週齢加齢肥満マウスの(精巣上皮周囲)内臓脂肪からCD4陽性及びCD8陽性T細胞を抽出した(マウスのn=4)。CD4陽性PD−1陽性T細胞ではCD4陽性PD−1陰性T細胞よりオステオポンチン陽性細胞(図28(a))とIL−6陽性細胞(図28(b))の割合が増加したことが確認された。CD8陽性PD−1陽性T細胞においても、CD8陽性PD−1陰性T細胞と比べ、オステオポンチン陽性細胞(図28(a))とIL−6陽性細胞(図28(b))の割合が増加したことが確認された。
<PD−1陽性メモリーT細胞に対するマクロファージの遊走能の評価>
標準食飼育を行った6週齢の若年マウスの脾臓又は高脂肪食飼育を行った80週齢加齢肥満マウスの(精巣上皮周囲)内臓脂肪からマグネットビーズ法でCD4陽性及びCD8陽性T細胞を抽出した(各群n=6)。次に、CD44陰性PD−1陰性、CD44陽性PD−1陰性、CD44陽性PD−1陽性T細胞の3分画に分離した。各分画のT細胞(下段)とRAW264.7マクロファージ(上段)を2層式のBoyden chamberで5.5時間共培養し、マクロファージの遊走能(下層へ移動したマクロファージをcalcein AMで染色しカウント)を評価した。
CD44陽性PD−1陰性T細胞群でも、遊走マクロファージが確認されたが、CD44陽性PD−1陽性T細胞群では、遊走マクロファージ数が顕著に増加した。遊走マクロファージ数は、培養液に抗IL−6抗体又は抗オステオポンチン抗体を加えることで有意に抑制されることが確認された(図29)。なお、図29と、後述の図30中の「αIL−6」は、抗IL−6抗体が投与された群であることを示し、「αOPN」は、抗オステオポンチン抗体が投与された群であることを示す。
上記マクロファージの遊走能の評価の場合と同様に、CD44陰性PD−1陰性とCD44陽性PD−1陽性T細胞の2分画を抽出した(各群のマウスのn=5)。12時間飢餓状態においたRAW264.7マクロファージをそれぞれの分画のT細胞と24時間共培養した後、マクロファージからmRNAを抽出し炎症性サイトカインの発現をreal−time PCRで比較した。その結果、CD44陽性PD−1陽性T細胞群では、TNFα、IL−6、CCL2のmRNA発現レベルが上昇し、培養液に抗IL−6抗体又は抗オステオポンチン抗体を加えることでその上昇は有意に抑制されることが確認された(図30)。

Claims (7)

  1. PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害する物質からなる、加齢又は肥満に伴う慢性炎症の抑制剤。
  2. 前記物質は、PD−1陽性メモリーT細胞を除去する抗体である請求項1記載の抑制剤。
  3. 前記慢性炎症は、脂肪組織の慢性炎症である、請求項1又は2記載の抑制剤。
  4. PD−1陽性メモリーT細胞の数の増加を阻害する物質を有効成分として含む、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤。
  5. 加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の罹患可能性評価装置であって、
    被験者から採取された試料における、PD−1陽性メモリーT細胞の細胞数を測定可能な手段と、
    前記測定可能な手段による測定結果に基づいて、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患に罹患する可能性を評価する手段を有する罹患可能性評価装置。
  6. 加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤の候補物質のスクリーニング方法であって、
    被験物質とPD−1陽性メモリーT細胞とを接触させる工程と、
    接触後、PD−1陽性メモリーT細胞の数を測定する工程と、
    測定結果に基づいて、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤の候補物質として被験物質を選択する工程と、を有するスクリーニング方法。
  7. 加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤の候補物質のスクリーニング方法であって、
    被験物質を、ヒトを除く動物に投与する工程と、
    前記被験物質が投与された前記ヒトを除く動物の体液又は組織中のPD−1陽性メモリーT細胞の数を測定する工程と、
    測定結果に基づいて、加齢又は肥満に伴う慢性炎症に関連する疾患の治療剤又は予防剤の候補物質として被験物質を選択する工程と、を有するスクリーニング方法。
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