JP2015138027A - コンプトン散乱を用いた元素濃度の決定方法 - Google Patents

コンプトン散乱を用いた元素濃度の決定方法 Download PDF

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真義 伊藤
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    • G01N23/20066Measuring inelastic scatter of gamma rays, e.g. Compton effect

Abstract

【課題】リチウムイオン2次電池などの内部の特定の領域におけるリチウム元素の定量を非破壊かつその場測定により高精度で行う。
【解決手段】試料に単色X線を照射して該試料のコンプトン散乱X線スペクトルを取得し、該コンプトン散乱X線スペクトルのエネルギー分布の線形状を解析することにより前記試料に含まれる化学元素の濃度を決定する。エネルギー分布の線形状の解析には、コンプトン散乱スペクトルにおけるX線のエネルギーを物質中の電子運動量に換算したコンプトンプロファイルにおける、特定の電子運動量値以下のコンプトンプロファイルの積分値と該特定の電子運動量値以上のコンプトンプロファイルの積分値の比であるS−パラメータを用いることができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、試料中の元素濃度を決定するための分析技術に関する。特に、コンプトン散乱を用いて金属元素の濃度を決定する方法に関する。また、リチウムイオン2次電池などの密閉容器内部のリチウム元素の濃度分布を非破壊かつその場測定するために好適に用いることができる、リチウム元素の定量方法と装置に関する。
従来から用いられているリチウム元素の定量法の一つに誘導結合プラズマ分光法(ICP)がある。これは試料を酸などに溶解して定量する手法であり、リチウム元素の最も一般的な定量方法である。また、リチウムを含む化合物が結晶であり、その化合物の特定の結晶面間隔がリチウム元素の組成の1次式で表される場合(ベガード則)には、X線の回折線の位置からリチウム元素の組成を求める手法が知られている。特許文献1には、高真空中でオージェ電子分光を利用し、0.5nm以上5nm以下の大きさの、リチウム元素を含む化合物についてリチウム元素を定量することが記載されている。特許文献2には、液漏れによって電池表面に漏出したリチウム元素を、レーザ光照射による蛍光を利用して定量することが記載されている。特許文献3には、レーザ光により試料表面を除去し、それと同時に生ずる蛍光を利用してリチウム元素を定量することが記載されている。特許文献4には、カーボンが塗布された銅箔基材からなるリチウム電池の負極にX線を照射し、コンプトン散乱したX線強度を測定することで、塗布厚を測定することが記載されている。
特開2004−347566号公報 特開2006−275794号公報 特開2006−23092号公報 特開2011−133251号公報
M. J. Cooper et al., "X-ray Compton scattering", Chapter 5, Oxford University Press, 2014 H. Arai, et al. J. Mater. Chem. 1, 10442 (2013) S. Chandrashekar, et al. Nature Mater. 11, 311 (2012) J. Liu, et al. J. Phys. Chem. Lett. 1, 2120 (2010) M. Lanz, et al., J. Power Sources 101, 177 (2001) D. Goers, et al., J. Power Sources 130, 221 (2004) N. Sharma, et al. J. Power Sources 195, 8258 (2010) A. Senyshyn, et al., J. Power Sources 203, 126 (2012) Xun-Li Wang, et al. Scientific Reports 2, 1 (2012) J. M. Sharaf, Appli. Rad. Isotope 54, 801 (2001) G. Harding and E. Harding, Appl. Rad. Isotope 68, 993 (2010) R. S. Holt, et al., Nucl. Instr. Math. 221, 98 (1984) M. Itou, et al., in preparation M. J. Cooper, et al., X-ray Compton Scattering (Oxford Univ. Press, Oxford, 2004) p.31-39; p.134-139 I. G. Kaplan, et al., Phys. Rev. B 68, 2351041 (2003) R. Ribberfors, Phys. Rev. B 12, 2067 (1975) B. Barbiellini, J. Phys. Chem. Solids 61 341 (2000) B. Barbiellini and A. Bansil, J. Phys. Chem. Solids 62 2181 (2001) A. Koizumi, et al. Phys. Rev. Lett. 86, 5589 (2001) H. Sakurai, et al., Appl. Phys. Lett. 88, 062507 (2006) M. Ota, et al., Appl. Phys. Lett. 93, 116801 (2010) Y. Sakurai, et al., Science 332, 698 (2011) N. Hiraoka, et al., J. Synchrotron Rad. 8, 26 (2001) M. Itou, et al., Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A 467-468, 1109 (2001) F. Biggs, et al., Atomic data and nuclear data tables 16, 201 (1975) A. Bansil, et al., J. Phys. Chem. Solids 62, 2191 (2001) A. Bansil, et al., Phys. Rev. B 60, 13 396 (1999)
上述したリチウム元素の定量法のうち、誘導結合プラズマ分光法(ICP)では、対象を破壊する必要があり、試料を非破壊でその場測定することができない。また、レーザ光を用いる分析(特許文献2、3)、オージェ電子分光(特許文献1)を用いる分析では、試料を非破壊で測定することができるものの、試料の表面近傍しか測定することができないため、対象内部に関する情報を得ることができない。さらに、オージェ電子分光では高真空環境を形成するための装置が必要である。コンプトン散乱X線の強度積分値を測定する方法(特許文献4)では、測定領域に入射するX線の強度の影響を受け、測定結果に不確定さが生じる。X線の回折線の位置からリチウム元素の組成を求める方法では、対象がベガード則に従う試料しか測定することができず、また、回折条件が幾何学的に決まってしまうため特定の領域を測定することが難しい。
本発明が解決しようとする課題は、従来の技術では困難な、リチウムイオン2次電池などの内部の特定の領域におけるリチウム元素の定量を非破壊かつその場測定により高精度で行うことである。
上記課題を解決するために成された本発明に係る化学元素の濃度の決定方法は、
試料に単色X線を照射して該試料のコンプトン散乱X線スペクトルを取得し、該コンプトン散乱X線スペクトルのエネルギー分布の線形状を解析することにより前記試料に含まれる化学元素の濃度を決定することを特徴とする。
本発明に係る元素濃度決定方法は、例えば(a)化学元素を含む試料を取得する工程と、(b)前記試料のコンプトン散乱スペクトルを測定する工程と、(c)前記試料に含まれる元素の濃度を決定するために測定したスペクトルの線形状を解析する工程と、を含む。
化学元素は、例えば金属元素であり、例えばアルカリ金属元素、あるいはアルカリ土類金属元素である。
また、ある実施形態では、金属元素はリチウムである。この場合、ある実施形態では、試料にリチウム遷移金属酸化物が含まれる。また、ある実施形態では、試料には、LixMn2O4、LixCoO2、LixMnO2、LixPO4、LixNiO2、LixTi5O12、LixFeSiO4、LixNiaCobAlcO2、及びLixNiaMnbCocO2のうちの少なくとも1つが含まれる。ここで、a, b, cはそれぞれ、負でない値であり、a+b+c=1である。この場合、線形状の解析によってxが決まる。
ある実施形態では、試料は固体である。また、ある場合には、固体試料は多結晶体の試料である。
ある実施形態では、試料は液体である。
ある実施形態では、試料は黒鉛層間化合物(graphite intercalation compound)、あるいはシリコン化合物である。
ある実施形態では、線形状の解析により測定したスペクトルにおける中央−裾パラメータ(center-to-tail parameter)を決定し、該パラメータから化学元素の濃度を決定する。この場合、ある実施形態では、測定したスペクトルにおいて元素濃度と中央−裾パラメータを関連付ける検量曲線を用いることによって元素濃度を決定する。この検量曲線は、化学元素の濃度が既知である1乃至複数の校正用試料のコンプトン散乱スペクトルを測定し、その1乃至複数の校正用試料のコンプトン散乱スペクトルにおける中央−裾パラメータを決定することにより得ることができる。
ある実施形態では、線形状の解析において、測定したコンプトン散乱スペクトルを、原子単位の運動量に対する原子数の逆数を単位とする強度で示すコンプトンプロファイルで表す。また、ある場合には、中央領域(central area)は運動量の値が0から境界値の範囲において規格化されたコンプトンプロファイルの面積であり、一方、裾領域(tail area)は運動量の値が境界値から無限大までの範囲において規格化されたコンプトンプロファイルの面積である。運動量の境界値は、例えば2原子単位から8原子単位の間の値である。
ある実施形態では、コンプトン散乱測定において、50keVよりも高く1.022MeVよりも低いエネルギーの入射X線が用いられる。
ある実施形態では、試料は光電子を透過しない容器内に収容される。この場合には、試料を容器に収容したままでコンプトン散乱測定を行う。本発明に係る化学元素の濃度の決定方法を用いると、試料を密閉容器に収容したままで該試料のコンプトン散乱X線スペクトルを取得して、該試料に含まれる化学元素の濃度を決定することができる。容器内に収容される試料は、例えば電子部品や、バッテリーのような電気化学的な装置である。
本発明に係る元素濃度決定方法あるいは装置を用いることにより、リチウムイオン2次電池などの内部の特定の領域におけるリチウム元素の定量を非破壊かつその場で高精度に行うことができる。これは、特に大型リチウムイオン2次電池内部の電極における反応分布をその場観察するうえで重要であり、同電池の高性能化に必須である情報を与えることができる。これは、従来用いられてきた測定方法を単独あるいは組み合わせて用いても不可能であり、本発明に係る方法あるいは装置を用いることによって初めて可能となる。
コンプトン散乱測定装置の概略構成図。 種々のリチウム濃度xにおけるLixMn2O4のコンプトン散乱X線のエネルギースペクトル。 種々のリチウム濃度xにおけるLixMn2O4のコンプトンプロファイル。横軸の単位a.u.: 原子単位(atomic units)。 図4(a)は、Hartree-Fock計算によって求めた、リチウム原子、マンガン原子、酸素原子、及びLiMn2O4のコンプトンプロファイル。LiMn2O4のコンプトンプロファイルは、リチウム原子、マンガン原子、及び酸素原子の合計で重み付けをすることにより得た。図4(b)は、マンガン原子と酸素原子の価電子のコンプトンプロファイル。 S−パラメータからリチウム濃度を求めるための検量線。 S−パラメータの統計的な誤差とd=4, 6, 及び7に関するコンプトン散乱X線の積分光子数の関係を示す図。dは中央領域と裾領域の間の境界値。
本明細書において、“S−パラメータ”、及び“中央−裾パラメータ”という文言は、同一あるいは類似の意味を持つ。また、これらは“R−パラメータ”とも呼ばれる。
また、“元素(element)”とその派生語(例えばelemental)は、当該元素の原子状態及び/又はイオン化状態における化学元素を意味する。
本明細書では、コンプトン散乱スペクトルの線形状を解析することにより元素濃度を決定する方法に関する技術を提供する。
この方法は、コンプトン散乱スペクトルに寄与する元素に関する未知の濃度を決定するために用いることができる。いくつかの実施形態において、こうした元素は金属元素である。こうした金属元素は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、フランシウムといったアルカリ金属元素、あるいはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムといったアルカリ土類金属である。
コンプトン散乱強度が、特定の元素における全電子数に依存することを考慮すると、本発明に係る方法は、全原子数が多いほど高感度になる。例えば、本発明に係る方法では、リチウムの濃度を決定する場合よりもナトリウム(Z=11)やマグネシウム(Z=12)の濃度を決定する場合の方が高感度になる。これは、ナトリウムイオンやマグネシウムイオンの方がリチウム(Z=3)イオンよりも多くの電子を有するためである。
本発明の方法では、直接的にあるいは間接的に、元素濃度が不明である試料のコンプトン散乱スペクトルの線形状を、その試料と(濃度を除いて)同一の元素組成であり、問題とする元素の濃度が既知である試料のコンプトン散乱スペクトルの線形状と比較する。好ましくは、元素濃度が不明の試料のコンプトン散乱スペクトルの線形状を、問題とする元素の濃度が既知であり、その濃度が異なる複数の同一の試料のコンプトン散乱スペクトルの線形状と比較する。
本発明の方法は、多様な材料において、未知の元素濃度を決定するために用いることができる。
ある実施形態では、本発明の方法は、リチウムの未知濃度を決定するために用いることができる。例えば、本発明の方法は、リチウム遷移金属酸化物におけるリチウム濃度を決定するために用いることができる。こうした材料は、例えば、バッテリーのような電気化学的な装置に電極を形成するために用いられる。電気化学的な装置を動作させると、リチウム遷移金属酸化物からなる電極におけるリチウム濃度が変化することがある。本発明の方法では、そうした変化の後でもリチウム濃度を決定することができる。リチウム遷移金属酸化物としては、例えばLixMn2O4、LixCoO2、LixMnO2、LixFePO4、LixNiO2、LixTi5O12、LixFeSiO4、LixNiaCobAlcO2、及びLixNiaMnbCocO2が挙げられるが、これらのみに限定されない。最後の2つの化学式において、a、b、及びcはそれぞれ負でない値であり、a+b+c=1である。非限定的な一つの例では、LixNiaCobAlcO2はLixNi0.8Co0.15Al0.05O2であり、また非限定的な別の一例では、LixNiaMnbCocO2はLixNi1/3Mn1/3Co1/3O2である。上に例示したリチウム遷移金属酸化物の場合には、リチウムの濃度を決定するために、xを決定する。
ある実施形態では、コンプトン散乱スペクトルの線形状から元素濃度を決定するために、コンプトン散乱スペクトルにおける中央−裾パラメータを決定する。この中央−裾パラメータから元素濃度を決定することができる。このような中央−裾パラメータは、コンプトン散乱スペクトルの中央部分をその末端の(裾の)部分を比較するパラメータである。例えば、中央−裾パラメータはコンプトン散乱スペクトルの中央部の面積とコンプトン散乱スペクトルの末端部の面積の比とすることができる。対象試料の元素濃度は、例えば、検量用の関係を用いて中央−裾パラメータの値を決定することにより求めることができる。ここで、この検量用の関係は、例えば検量曲線あるいはグラフで表された、問題となる元素の濃度と中央−裾パラメータの関係を表すものとすることができる。このような検量用の関係は、1乃至複数の検量用試料のコンプトン散乱スペクトルを測定し、それらのスペクトルにおける中央−裾パラメータの値を決定することによって得ることができる。検量用試料とは、分析対象試料と同一であって問題とする元素の濃度が既知の試料である。
ある実施形態では、測定したコンプトン散乱スペクトルの解析結果がコンプトンプロファイルに変換される。運動量(x軸)は原子単位で表すことができる。このような変換方法は、例えば後述の実施例における式(4)として当業者に知られている。ある実施形態では、コンプトンプロファイルを、そのy軸が原子単位の逆数で示す強度とすることができる。コンプトンプロファイルへの変換は、コンプトン散乱に対する内殻電子の影響を取り去ることを含みうる。この変換はさらに特定の値に対するコンプトンプロファイルを規格化することを含む。ある実施形態では、コンプトンプロファイルを規格化して、校正曲線を得るために使用したコンプトンプロファイルを規格化した値と同じ値に規格化することが好ましい。コンプトンプロファイルは、以下のうちの1あるいは複数の方法によって補正することもできる。試料、分析器及び検出器の効率による吸収X線、起こりうる多重散乱の寄与、X線の散乱断面積、及びX線バックグラウンド。非特許文献1に記載されているように、こうした補正は当業者に良く知られている。
コンプトンプロファイルは、中央−裾比を決定するために用いることができる。中央−裾比は、コンプトンプロファイルの中央領域の面積と、規格化されたプロファイルの周辺領域の面積の比である。中央―裾パラメータは中央―裾比として定義される。中央領域と周辺領域は、運動量の境界値によって分割することができる。ある実施形態では、運動量の境界値はコンプトンプロファイルの中央から遠く離れて任意に選択された値であって、その値に対応する強度が実質的にゼロでない値とすることができる。例えば、2原子単位から8原子単位であって、対象とする元素の濃度と中央−裾パラメータが良く規定された校正関係を有し、校正関係の誤差が最適化された値とすることができる。あるいは、ある実施形態では、運動量の境界値は、Hartree-Fock計算のような理論的なモデルを構築することによって、及び/又は既知の組成を有する物質を解析することによって決定することができる。運動量の境界値は、コンプトンプロファイルの裾領域における対象元素からの寄与が、コンプトンプロファイルの中央領域における同元素からの寄与に対して無視できるような値に選択することができる。例えば、コンプトンプロファイルの裾領域における対象元素からの寄与は、コンプトンプロファイルの中央領域における同元素からの寄与に対して少なくとも3分の1、少なくとも5分の1、少なくとも10分の1、少なくとも20分の1、少なくとも50分の1、あるいは少なくとも100分の1とすることができる。全体としては、運動量の境界値は、分析対象物質の組成に依存したり、分析対象物質において濃度を決定することが望まれる特定の元素に依存したりし得る。LixMn2O4のようなリチウム遷移金属酸化物について、コンプトンプロファイルからリチウムの濃度を決定する場合には、運動量の境界値は、例えば、2原子単位から8原子単位とすることができる。
中央−裾比を決定するために、コンプトンプロファイルの中央領域は、運動量の値が0から境界値までの範囲の領域とすることができ、コンプトンプロファイルの裾領域は、運動量が境界値から無限大の範囲の領域とすることができる。その代わりに、コンプトンプロファイルの中央領域を、運動量の値が負の境界値の値から(正の)境界値の値までの範囲の領域とすることができ、コンプトンプロファイルの裾領域は、a)運動量の値が負の無限大から負の境界値までの範囲の領域とb)運動量の値が(正の)境界値から無限大までの範囲の領域の合計とすることができる。中央領域及び裾領域の決定は、コンプトンプロファイルの中央−裾比の決定と同様に、パーソナルコンピュータなどの計算機上で適当なプログラムを用いて行うことができる。実用上は、上記定義における無限大の代わりに、有限の運動量の値であって、対象とする元素の濃度によってコンプトン散乱強度が影響を受けないような値とすることができる。例えば、LixMn2O4のリチウムの濃度を決定する場合には、上記定義における無限大の代わりに、10原子単位あるいはそれよりも大きい有限の値を用いることができる。
コンプトン散乱スペクトルの測定は、X線分光器を用いて行うことができる。入射X線のエネルギー範囲は、例えば50keVから1,022MeVの間、100keVから1,022MeVの間、あるいは50keVから500keVの間とすることができる。X線散乱測定は、例えば45度から178度の間、あるいはこの範囲内の任意の値あるいは部分範囲において散乱角を固定して行うことができる。
図1は、コンプトン散乱スペクトルを測定するために用いられる装置の一例の概略図である。この装置100は、単色X線生成器であるX線源101、入射X線103のサイズを規定するために用いられる一組のスリット及び/又はコリメータ102、対象元素の濃度を決定する試料105を保持するとともに試料の保持位置を調整する位置調整ステージ104、散乱X線107、つまり試料105から所定の方向に散乱されたコンプトン散乱X線107を通過させる一組のスリット及び/又はコリメータ106、及びコンプトン散乱X線107を検出するためのX線検出器108を備えている。図1では入射X線103と散乱X線107の間の角度を90度としているが、実際には入射X線と散乱X線の間の角度は90度から変わりうる。
本発明の方法を用いると、容器内に載置された試料について、該容器がX線を透過するものである限りは該試料を容器から取り出すことなく、その試料に含まれる元素の濃度を非破壊で決定することができる。ある実施形態では、容器は光電子を透過しない。この場合、X線光電子分光のような光電子測定技術で容器内に載置された試料を分析することはできない。容器内に載置される試料は、例えば電子部品や、バッテリーのような電気化学的な装置の一部である。本発明の方法を用いると、電極及び/又は電解質のような装置の構成要素の元素濃度を、その場及び/又は動作条件下での測定(in situ and/or operando)により決定することができる。本発明の方法は、装置の大きさやその構成要素によって特に制限されることなく用いることができる。従って、本発明の方法は、オートバイや自動車、バスやトラックといった動力車のバッテリーのような大きな装置とその構成要素だけでなく、スマートフォンやタブレット、ノートパソコンといった消費者向けの製品のような小さな装置とその構成要素を分析するためにも用いることができる。
ある実施形態では、本発明の方法を用いることにより、操作中に元素濃度が変化するような装置内の元素濃度を決定することもできる。例えば、バッテリーのような電気化学的な装置では、その装置の構成要素内、例えば電極や電解質において、それらの間でのイオン交換によっていくつかの元素の濃度が変化することがある。そのような電気化学的な装置の一例はリチウムイオンバッテリーである。このようなバッテリーでは、放電中にはリチウムイオンが負電極から正電極へと移動し、充電中にはリチウムイオンが逆の方向、つまり正電極から負電極へと移動する。本発明の方法は、正電極、負電極、及び電解質のようなリチウムイオンバッテリーの1乃至複数の構成要素におけるリチウムイオンの濃度を決定するために用いることができる。
リチウムイオンバッテリーの正電極を形成する材料としては、例えばLixMn2O4、LixCoO2、LixMnO2、LixFePO4、LixNiO2、LixFeSiO4、LixNiaCobAlcO2、あるいはLixNiaMnbCocO2が挙げられる。ただし、これらの材料のみには限定されない。最後の2つの分子式において、a、b、及びcはそれぞれ負でない数値であり、a+b+c=1である。上記分子式のxはリチウム濃度であり、本発明の方法を用いることによりその値を決定することができる。通常、xは負でない数値であり、xが0であることはリチウムを含有しない材料であることを意味する。
リチウムイオンバッテリーの負電極を形成する材料としては、例えば、分子式LixC8あるいはLixC6で表される黒鉛層間化合物のような炭素化合物や、チタン酸リチウム(LixTi5O12)、ケイ素、炭素、ケイ素/炭素、あるいは錫/コバルトが挙げられる。ただし、これらの材料のみには限定されない。本発明の方法は、負電極において、上記分子式のxのようなリチウムイオン濃度を決定するために用いることができる。
リチウムイオンバッテリーにおいて用いられる電解質は、液体あるいは固体電解質である。液体電解質は、例えばLixPF6、LixBF4、LixClO4、LixAsF6、LixH2PO4、LixAlCl4、LixGaAl4、CF3SO3Lix、LixB(C2O4)2、あるいはC2BF2LixO4といったリチウム塩のようなリチウム含有化合物を、エチレンカーボネート、ダイメチルカーボネート、あるいはダイエチルカーボネートのような有機溶媒を1乃至複数混合した溶媒に溶解した溶液である。固体電解質は、例えばLa0.51Li0.34+xTiO2.94、Li1.3+xAl0.3Ti1.7(PO4)3、Li7+xLa3Zr2O12、50Li4+xSiO4*50Li3+yBO3、Li2.9+xPO3.3N0.46(LIPON) 、Li1.07+xAl0.69Ti1.46(PO4)3、Li1.5+xAl0.5Ge1.5(PO4)3、Li3.25+xGe0.25P0.75S4、Li10+xGeP2S12、Li6+xPS5Cl、30Li2+xS*26B2S3*44Li1+yI、63Li2+xS*36SiS2*1Li3+yPO4、57Li2+xS*38SiS2*5Li4+ySiO4、Li3.25+xP0.95S4、Li7+xP3S11である。
本発明の方法は、電解質において、上記分子式においてx及びyで表されるリチウムイオン濃度を決定するために用いることができる。
本発明の方法は、他の電気化学的な装置においてイオン濃度を決定するために用いることができる。例えば、本発明の方法は、電気化学的な装置において用いられる電解質中のH+、O2-、及びCO3 2-といった流動性イオンの濃度を決定するために用いることができる。
こうした流動性イオンを測定する際の原則は、H+は1個、O2-は16個、CO3 2-は30個の電子が付随し、一方、Li+イオンは3個の電子が付随するという点を考慮してLi+イオンを測定する、後述のLi+イオン測定と同じである。本明細書に記載の実施形態は、さらに以下の実施例により示される。ただし、それらのみには限定されない。
[実施例]
多結晶LixMn2O4のX線コンプトン散乱測定実験から、コンプトン散乱X線の線形状はリチウム組成に対して敏感であることが分かった。この線形状を特徴づけるため、S−パラメータを導入する。実験的なS−パラメータはリチウム濃度に対して直線性を有する。この直線性は、原子モデルとバンド構造計算の両方により再現できる。本実施例における結果により、S−パラメータを用いた線形状の解析によってバッテリー電極におけるリチウム濃度を測定できることが示された。本発明において提案する線形状の解析法を用いると、試料によるX線吸収によって分析が影響されてしまうというコンプトン散乱強度法の問題を解決することができる。本発明において提案する方法では、100keV以上の高エネルギーX線を用いると、再充電可能な大型のリチウムイオンバッテリーをその場かつそのバッテリーを動作させる条件で測定する際に用いることもできる。
その場かつ動作条件下での測定において電気化学的なプロセスを観察し分析するための実験的な方法の開発は、リチウムイオンバッテリーの高性能化を図る上で極めて重要である。X線吸収端近傍スペクトル法(XANES、非特許文献2参照)、核磁気共鳴法(NMR、非特許文献3参照)、X線回折法(非特許文献4参照)、及び中性子線回折法(非特許文献5−9参照)といった方法は、バッテリーの内部で起こる化学的な変化を視覚化するために開発されてきた。
しかし、プローブ深さが浅く、あるいは空間分解能が悪いために、これらの技術は試験用の電池や小型のバッテリーに対してしか用いることができなかった。電気自動車などに搭載される大型のバッテリーの性能を評価するために、高透過性と高空間分解能の両方を有する新しい非破壊プローブが必要とされている。
X線浸透深さ及びコンプトン散乱の実効強度はX線のエネルギーとともに増加するため、高エネルギーX線を用いたコンプトン散乱による濃度測定(非特許文献10)やイメージング(非特許文献11、12)は、有望な非破壊測定法である。コンプトン散乱X線の強度は、散乱体積の電子密度に対して直線的に比例する。これにより、材料を特徴付けることができる。また、X線ビームを走査することによって対象物の内部構造をイメージングすることもできる。最近では、高エネルギーシンクロトロンX線を用いたコンプトン散乱イメージング法がコイン電池の測定に用いられ、内部構造と正電極の化学反応の可視化に成功している(非特許文献13)。しかしながら、散乱強度が対象物内部におけるビーム経路に沿ったX線吸収に依存するため、この方法にも欠点がある。この問題は、対象物が大きくなるほど重大になる。従って、この方法を大型のバッテリーに用いる場合、充電と放電のサイクルにおける電極内でのリチウム化合物の変化によって生じるコンプトン散乱X線強度の変化を検出するのが困難である。
この問題を解決するために、本実施例では、電子運動量密度分布によって決まるコンプトン散乱X線の線形状、いわゆるコンプトンプロファイルを解析することに焦点をあてた。インパルス近似(非特許文献14、15参照)を用いると、二重微分断面積は以下の簡単な式で表すことができる。
Figure 2015138027
ここで、関数Fの詳細は非特許文献16に記載されている。従って、二重微分断面積はコンプトンプロファイルJ(pz)に比例する。コンプトンプロファイルは、基底状態での電子運動量密度ρ(p)の関数として次式のように与えられる。
Figure 2015138027
ここで、p=(px, py, pz)は電子運動量であり、pzは散乱ベクトルの方向である。運動量密度は、
Figure 2015138027
で表すことができる(非特許文献17、18)。ここで、Ψj(r)はj状態における電子の波動関数であり、njはj状態の電子占有数である。インデックスjは構成する原子と軌道の全てにわたる。従って、コンプトンプロファイルの線形状は構成元素と軌道に応じて敏感に変化する。
これまで、X線コンプトン散乱法は、固体物理や材料化学における種々の研究に用いられてきた。
この実施例では、S−パラメータの概念を導入し、コンプトン散乱X線の線形状を定量的に評価して、LixMn2O4について実験的に求めたS−パラメータと理論的に求めたS−パラメータがリチウム濃度xに比例することを示す。この結果は、バッテリーの電極のリチウム濃度をその場かつ動作条件下でモニタリングするために、S−パラメータを用いた線形状の解析を使用できることを示している。
コンプトン散乱測定は、日本のSPring-8のビームラインBL08Wに設置されているCauchois型X線分光器を用いて行った(非特許文献23、24)。入射X線のエネルギーは115keVであり、散乱角は165度に固定した。全体の運動量の分解能は0.1原子単位(a.u.)である。測定は、真空下で室温において行った。リチウムを化学的に抽出/挿入することにより多結晶試料LixMn2O4 (x=0.5, 1.1, 1.2, 1.8, 1.9, 2.0, 2.1, 3.3)を準備した。リチウムの組成は、誘導結合プラズマ(ICP)測定により求めた。X線粉末回折により、x=0.5〜1.2ではスピネル構造のみが存在し、1.2<x<3.3ではスピネル構造と正方構造が共存していることを確認した。試料の大きさは、半径10mm、厚さ2mmとした。
図2に、LixMn2O4(x=0.5, 1.1, 2.0)のコンプトン散乱X線のエネルギースペクトルを示す。スペクトルの面積は、同じ値に規格化されている。80keVにおけるピーク高さはリチウム組成の増加に伴って高くなっており、X線コンプトン散乱がリチウム組成に敏感であることを示している。75keV以下の低エネルギー、及び85keV以上の高エネルギー領域では、スペクトルがリチウムの組成に依存していない。X線のエネルギーは以下の式(4)により電子の運動量pzに変換される(非特許文献14)。
Figure 2015138027
ここで、E1とE2は入射X線のエネルギーとコンプトン散乱X線のエネルギーであり、mは電子の重量、cは光の速度、θは散乱角である。図2において、80keV、75keV、及び85keVはそれぞれ0原子単位(a.u.)、-6原子単位(a.u.)、及び6原子単位(a.u.)に相当する。X線吸収と多重散乱の補正をした後、エネルギー−運動量変換式である上式(4)により、式(2)のコンプトンプロファイルが得られる。
各元素について計算されたハートリー−フォック(Hartree-Fock)コンプトンプロファイル(非特許文献25)を用いてコンプトン散乱X線の線形状をシミュレーションした。図4(a)に、リチウム原子(JLi)、マンガン原子(JMn)、酸素原子(JO)、及びLiMn2O4(JLMO)のコンプトンプロファイルを示す。LiMn2O4(JLMO)のコンプトンプロファイルは、リチウム原子、マンガン原子、及び酸素原子のプロファイルを組成に基づいて重み付けした合計である。ここでは価電子と内殻電子の両方が含まれている。図4(b)にマンガン原子及び酸素原子の価電子からの寄与Jval Mn及びJval Oを示す。ここで、Jval Mnは3d及び4s電子を含み、Jval Oは2s及び2p電子を含む。これらのうち、リチウム原子(JLi)が|pz|=2.5原子単位(a.u.)の範囲で最も細く分布しており、Jval Mn及びJval Oは|pz|=6原子単位(a.u.)まで広がっている。
|pz|=6原子単位(a.u.)よりも高い領域では、マンガンの内殻電子が支配的になっている。従って、LixMn2O4のコンプトンプロファイルは|pz|<2.5原子単位(a.u.)という低運動量の領域においてリチウムの組成に敏感である。この結果は、図2と図3に示したリチウム組成への依存性を裏付けている。
S−パラメータは次のように定義することができる。
Figure 2015138027
Figure 2015138027
Figure 2015138027
ここで、SL及びSHは、それぞれ中央領域と裾領域におけるコンプトンプロファイルの面積である。パラメータdは中央領域と裾領域の間の境界値である。SL及びSHは、各元素の寄与、つまりSL_LiとSH_Li、SL_OとSH_O、及びSL_MnとSH_Mnに分解することができる。S−パラメータは次式で与えられる。
Figure 2015138027
ここで、係数x, 2, 4はLixMn2O4の組成である。式(6), (7)においてSH_Liが無視できるようにdの値を選択すると、式(8)におけるS−パラメータはリチウムの組成xに対して線形に比例する。d=2.5で既にSH_Liを無視できるが、ここではd=6を選択した。これは、|pz|=< 6原子単位(a.u.)ではリチウムの導入あるいは排出によってマンガン及び酸素の価電子状態が変化するためである。
図5に、実験的に求めたS−パラメータとリチウム濃度xの線形関係を示す。この傾向を説明するために、局所スピン密度近似の範囲内で第一原理KKR−CPA(Korringa-Kohn-Rostoker coherent-potential-approximation)計算(非特許文献26、27参照)で求めたLixMn2O4(x=0.5, 1.0, 1.2, 1.5, 1.8, 2.0)の理論的なコンプトンプロファイルからS−パラメータを評価した。KKR−CPA計算による理論的なS−パラメータとHartree-Fock原子モデルによる理論的なS−パラメータはリチウム濃度xに対する線形性を示した。これは、実験的に得られた傾向と合致する。その一次式は、次式で近似できる。
Figure 2015138027
この一次式を検量線として使用する。
図6に、S−パラメータの統計誤差を積算光子計測数Isの関数として示す。d=6では、誤差ΔSは次式で与えられる。
Figure 2015138027
この誤差はdの値に依存する。小さなdの値を選択すれば誤差が小さくなる。LixMn2O4の場合、S−パラメータとリチウム濃度の線形性を保つためには、dの最小値は6となる。
以上のとおり、LixMn2O4のX線コンプトン散乱測定を行い、S−パラメータを用いたコンプトン散乱X線スペクトルの線形状の解析を、正電極材料におけるリチウム濃度の測定に用いることができることが示された。この正確な方法は、自動車に搭載されるような大型のバッテリーをその場かつ動作条件下で測定する際に用いることができる。これは、100keVを超える高エネルギーX線を使用するためである。この方法は、バッテリーの負電極の測定にも同様に適用することができる。
[コンプトン散乱を用いたリチウム濃度の決定方法]
ここでは、コンプトン散乱X線のエネルギースペクトル(ここでは線形状という。)を解析することにより、その場かつ装置の動作条件下でリチウムイオンバッテリーの電極のリチウム濃度を非破壊で決定する方法及び装置について説明する。図1は、装置の概略構成図である。また、図2はコンプトン散乱X線の線形状の一例である。
線形状の解析法では、コンプトン散乱X線のエネルギー軸を材料の電子の運動量軸に変換する。図3は、図2に示したコンプトン散乱X線の線形状を、横軸を電子運動量軸とするグラフに変換したものである。線形状は、運動量の境界点によって2つの部分に分割される。また、運動量の境界値よりも低い中央領域と高い裾領域としてそれぞれ規定される線形状の2つの領域の面積が評価される。そして、2つの領域の面積の比(以下、「S−パラメータ」と呼ぶ。)が評価される。運動量の境界値は多くの方法により決定することができる。ある場合には、運動量の境界値は、S−パラメータが物質に含まれるリチウムの濃度に比例するように理論計算することによって決定することができる。検量線は、リチウム濃度が既知である標準試料を測定すること、及び/又は理論計算(図5参照)により取得することができる。検量線は、実験的に測定されたS−パラメータと目的物質に含まれるリチウム濃度と関連付けられる。
ある場合には、運動量の境界値は2原子単位と8原子単位の間の範囲において、目的物質に応じて選択される。また、ある場合には、境界値は、理論計算(例えば図4)及び/又は標準試料の測定、つまりリチウム濃度が既知である試料の測定により決定することができる。この方法及び装置は、例えば1.022MeVよりも低エネルギーのX線を入射してバッテリーのような容器内を測定するために用いられる。
この装置はモノクロメータ、入射X線のサイズを規定する一組のスリットあるいはコリメータ、散乱X線用の一組のスリットあるいはコリメータ、試料位置決めステージ、及びX線検出器を含みうる。この方法及び装置では、バッテリーのような目的容器内の探索容積におけるリチウム濃度を定量的に測定することができる。電極内のリチウム濃度の測定には、ICP(誘導結合プラズマ)、X線回折、オージェ電子分光、レーザ分光、及びX線コンプトン散乱を用いることができる。しかし、ICPは材料を破壊する計測法であり、オージェ電子分光及びレーザ分光は、材料の表面に敏感な測定法である。X線回折では、容器の内部を探索してX線回折ピークの位置からリチウム濃度を評価することができる。しかし、角度走査モードには回折角が変化するという性質があり、また、エネルギー分散モードではX線エネルギーの分解能が悪いため、X線回折では精度良く特定されたバッテリー内部の領域におけるリチウム濃度を観察することが難しい。これに対し、高エネルギーX線を用いたX線コンプトン散乱では、材料内部を測定することができる。
従来のX線コンプトン散乱法は、対象試料の探索領域からのコンプトン散乱X線の強度を測定することであった。コンプトン散乱X線の強度は、線形状全体の面積を測定時間で割ったものである。この強度測定法の欠点は、測定強度の全体にわたり、試料中の探索領域におけるリチウム濃度だけでなく、対象試料内部における入射X線及び散乱X線の減衰にも敏感なことである。これは、コンプトン散乱X線の強度からリチウム濃度を評価できないことを意味する。対象試料が大きくなるほど両方のX線の減衰の影響が大きくなる。実際には、自動車に搭載されるような、大型のバッテリーといった大きな装置に対しては、強度測定法は不向きである。
本発明の方法は、対象試料内でX線が減衰することにより起こる、従来法での上述した問題を解決することができる。本発明において提案する新規で独特な方法は、上述したS−パラメータを用いることである。S−パラメータは、対象試料におけるX線の減衰に対して独立であり、物質内のリチウム濃度に比例する。
標準試料を用いてS−パラメータを校正すると、バッテリー内部の特定の探索領域におけるリチウム濃度をS−パラメータから評価することができる。
X線コンプトン散乱の強度を測定する方法、あるいはその他の方法に対する本発明の1つの利点は、リチウム濃度を直接的に、その場で及び/又は動作条件下で測定できる点である。また、別の利点は、他の技術や方法では不可能なプラグイン型のハイブリッド電気自動車や電気自動車に搭載されるような大型の商用バッテリーに対しても適用可能である点である。
上記はいずれも好ましい実施例であるが、本発明は上記の例のみに限定されない。当業者であれば、上述した実施例を種々に改良することができ、そうした改良後の形態も本発明の範囲に含まれる。
本明細書において引用した文献、特許公報、及び特許に記載の事項も本願の開示に含まれる。
101…X線源
102、106…スリット(又はコリメータ)
103…入射X線
104…試料ステージ
105…試料
107…散乱X線
108…X線検出器

Claims (5)

  1. 試料に単色X線を照射して該試料のコンプトン散乱X線スペクトルを取得し、該コンプトン散乱X線スペクトルのエネルギー分布の線形状を解析することにより前記試料に含まれる化学元素の濃度を決定することを特徴とする化学元素の濃度の決定方法。
  2. 前記コンプトン散乱スペクトルにおけるX線のエネルギーを物質中の電子運動量に換算したコンプトンプロファイルにおいて、特定の電子運動量値以下のコンプトンプロファイルの積分値と、該特定の電子運動量値以上のコンプトンプロファイルの積分値の比であるS−パラメータを用いて化学元素の濃度を決定することを特徴とする請求項1に記載の化学元素の濃度の決定方法。
  3. 前記特定の電子運動量の値が2原子単位から8原子単位の間であり、前記単色X線のエネルギーが50keV以上1.022MeV以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の化学元素の濃度の決定方法。
  4. 前記化学元素が、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の化学元素の濃度の決定方法。
  5. 密閉容器に収容された試料のコンプトン散乱X線スペクトルを非破壊で取得することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の化学元素の濃度の決定方法。
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