以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。また、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態における湾曲型格子の構成を示す図である。図1(A)は、その断面図であり、図1(B)は、その分解斜視図である。図2は、前記湾曲型格子の格子部材の構成を示す図である。図2(A)は、断面図であり、図2(B)は、湾曲する前の平坦状の格子部材を示す斜視図である。
第1実施形態における湾曲型格子DGは、互いに同じ形状の複数の構造体を周期的に配置した周期構造を、前記周期的に配置された方向に沿う平面が曲がるように、湾曲させて成る格子であり、例えば、図1に示すように、格子部材1と、第1狭持部材2と、第2狭持部材3とを備える。
格子部材1は、湾曲した周期構造を持つ部材であり、例えば、図2に示すように、基材となる格子形成母材11と、格子形成母材11の一方主面に形成された格子領域12とを備えている。図1および図2に示す例では、格子部材1は、表面の格子面が拡がるように、凸状に湾曲した凸湾曲面から成る格子面を有するが、格子部材1は、表面の格子面が狭くなるように、凹状に湾曲した凹湾曲面から成る格子面を有してもよい。前記表面の格子面は、格子形成母材11と連接する裏面に対向する表面の格子面、すなわち、格子形成母材11の他方主面に対向する表面の格子面である。
格子形成母材11は、所定の材料から形成され、湾曲した板状部材である。例えば、本実施形態では、湾曲型格子DGは、X線用に用いられることから、格子形成母材11は、X線を透過または吸収する特性を有する所定の材料から形成される。このように格子形成母材11は、湾曲型格子DGの使用用途に応じて適宜な材料で形成されてよい。そして、本実施形態では、微細加工技術が略確立されていることから、格子形成母材11は、X線を透過する特性を有する半導体、例えばシリコン(Si)から形成されており、例えば、シリコンウェハである。この格子形成母材11は、後述するように、その一方主面に格子領域12を持つことから所定の温度に調整されることによって湾曲し、前記所定の温度未満の或る温度(例えば、室温(23℃)等)では、格子形成母材11は、第1および第2狭持部材2、3で狭持されていない単独状態では、平坦な板状となる。
格子領域12は、格子形成母材11の主面に形成され、互いに略同じ形状の複数の構造体を周期的に配列した領域である。格子領域12は、図1および図2に示すように、互いに主面を対向させ所定の間隔を空けて、互いに略並設するように配置された板状(層状)の複数の第1部分121と、互いに隣接する各第1部分121に挟まれるように配置され、互いに主面を対向させ所定の間隔を空けて、互いに略並設するように配置された板状(層状)の複数の第2部分122とを備える。言い換えれば、格子領域12は、図1および図2に示すように、互いに主面を対向させ所定の間隔を空けて、互いに略並設するように配置された板状(層状)の複数の第2部分122と、互いに隣接する各第2部分122に挟まれるように配置され、互いに主面を対向させ所定の間隔を空けて、互いに略並設するように配置された板状(層状)の複数の第1部分121とを備える。すなわち、互いに主面を対向させて互いに隣接して配置された各々1個の第1および第2部分121、122を1組として、この複数組が互いに略並設するように配置されることで格子領域12が構成されている。図1および図2に示す例では、格子領域12は、一次元格子であり、前記湾曲は、複数の第1部分121(または複数の第2部分122)が並設する方向(主方向X)が、曲がるように、生じている。
このように格子領域12は、所定の曲率半径を持つように主方向Xに沿って湾曲しているが、格子領域12における第1および第2部分121、122の各形状をより詳しく説明するために、格子形成母材11および格子領域12が平坦であると仮定して以下に説明する。
この仮定の場合において、図2(B)に示すようにXYZの直交座標系を設定した場合に、格子領域12は、所定の厚さ(深さ)H1(格子面XYに垂直なZ方向(格子面XYの法線方向)の長さ)を有して副方向Yに線状に延びる複数の第1部分121と、前記所定の厚さH1を有して副方向(長尺方向)Yに線状に延びる複数の第2部分122とを備えている。すなわち、この第1部分121は、格子面XYにおいて副方向Yに延びる長尺な線条形状となる板状または層状であって、格子面XYに直交するYZ面に沿った板状または層状である。第2部分122は、格子面XYにおいて副方向Yに延びる長尺な線条形状となる板状または層状であって、格子面XYに直交するYZ面に沿った板状または層状である。そして、これら複数の第1部分121と複数の第2部分122とは、格子面XYにおいて、副方向Yに直交する主方向(幅方向)Xに交互に、主方向Xを法線とするYZ面に略平行に、配設される。このため、複数の第1部分121は、副方向Yと直交する主方向Xに所定の間隔を空けてそれぞれ配設される。言い換えれば、複数の第2部分122は、副方向Yと直交する主方向Xに所定の間隔を空けてそれぞれ配設される。前記所定の間隔(ピッチ)Pは、本実施形態では、一定とされている。すなわち、複数の第1部分121(複数の第2部分122)は、主方向Xに等間隔Pでそれぞれ配設され、周期構造となっている。したがって、前記周期的に設けられた前記複数の構造体は、第1部分121であると見てよく、あるいは、前記複数の構造体は、第2部分122であると見てよく、さらに、あるいは、前記複数の構造体は、第1部分121および第2部分122の組であると見てよい。
そして、本実施形態では、第1部分121は、シリコンから形成される。さらに本実施形態では、第1部分121は、シリコンの格子形成母材11から延設するように、格子形成母材11と一体で構成される。このシリコンから形成された第1部分121が波、例えばX線を透過するように機能させるために、第2部分122は、X線に対し吸収または位相シフト等の作用を持つ金属から形成される。この第2部分122を形成する金属は、一態様として、X線を吸収するものが好適に選択され、例えば、原子量が比較的重い元素の金属や貴金属、より具体的には、例えば、金(Au)およびプラチナ(白金、Pt)等である。また、金属から形成された第2部分122は、例えば仕様に応じて充分にX線を吸収することができるように、適宜な厚さH1とされている。この結果、第2部分122における幅W2に対する厚さH1の比(アスペクト比=厚さ/幅)は、例えば、5以上の高アスペクト比とされている。第2部分122の幅W2は、前記主方向Dxにおける第2部分122の長さであり、第2部分122の厚さH1は、前記格子面DxDyの法線方向(深さ方向)Dzにおける第2部分122の長さである。なお、第1部分121の幅W1は、前記主方向Dxにおける第1部分121の長さであり、格子形成母材11の厚さH2は、前記格子面DxDyの法線方向(深さ方向)Dzにおける格子形成母材11の長さである。
湾曲型格子DGは、一態様として、X線に対する回折条件を満たすように、前記所定の間隔PをX線の波長に応じて適宜に設定することにより、回折格子として機能する。
なお、第2部分122は、金属に限定するものではなく、第1部分121と第2部分122が互いに異なる性質であって湾曲型格子DGの使用用途に応じた性質を有していれば、シリコンから形成される第1部分121と同様に、第2部分122は、湾曲型格子DGの使用用途に応じて適宜な材料で形成されてよい。
図1に戻って、第1および第2狭持部材2、3は、第1狭持部材2が第1曲面を持ち、第2狭持部材3が前記第1曲面の曲面形状に応じた曲面形状の第2曲面を持ち、これら第1曲面と第2曲面との間に、格子部材1を挟み込むことによって、格子部材1を狭持する部材である。
より具体的には、図1に示す例では、第1狭持部材2は、比較的短高な柱状の部材(例えば角柱状部材等)であり、その一方端面は、外方向に膨出する凸湾曲面である第1曲面21を備え、その他方端面は、この例では、平坦面となっている。より詳しくは、第1狭持部材2は、前記一方端面に、軸方向内側に窪むように形成された、格子部材1を収容可能な第1凹部23を持つ。平面視において、第1凹部23の外形形状は、格子部材1の外形形状に応じた形状であって、その外形形状の大きさは、格子部材1の外形形状の大きさより若干大きな大きさである。そして、この第1凹部23の底面が前記第1曲面21であり、主方向Xに沿って所定の第1曲率半径で湾曲して軸方向外側に膨出する凸湾曲面となっている。なお、副方向Yには、湾曲せず、曲率半径が無限大である。また、図1に示す例では、上述のように、第1凹部23の底面が第1曲面21であるので、第1狭持部材2としての柱状部材の前記一方端面における、第1凹部23の領域ではない残余領域は、平坦な第1平坦面となっている。
そして、第1狭持部材2は、上述の形状、すなわち、第1曲面21に貫通開口を持たなくても良いが、図1に示す例では、上述のように、格子部材1を狭持した狭持状態で格子部材1の格子領域12に対応する対応領域に形成された第1貫通開口22を備える。より具体的には、第1狭持部材2は、第1凹部23の底面である第1曲面21に、第1凹部23の平面視における前記外形形状(第1凹部23の底面(第1曲面21))よりも小さい形状で、軸方向に沿って貫通して開口する第1貫通開口22を持つ。第1貫通開口22の周面(側面)は、後述の嵌込部材4を第1貫通開口22に対し脱着可能なように、第1狭持部材2の一方端面(第1曲面21)側からその他方面側まで開口面積が一定となるように、Z方向に沿った垂直面となっている。
図1および図2に示す例では、格子部材1の外形形状は、平面視にて、四角形であることから、第1凹部23の平面視における外形形状も四角形であり、第1貫通開口22の平面視における形状も四角形である。したがって、第1貫通開口22は、四角柱状で形成されている。
また、第2狭持部材3は、図1に示す例では、比較的短高な柱状の部材(例えば角柱状部材等)であり、その一方端面は、第1狭持部材2における外方向に膨出する第1曲面21の曲面形状に応じた曲面形状となるように、内方向に窪む凹湾曲面である第2曲面31を備え、その他方端面は、この例では、平坦面となっている。より詳しくは、第2曲面31は、主方向Xに沿って、前記第1曲率半径に応じた所定の第2曲率半径で湾曲して軸方向内側に窪む凹湾曲面となっている。なお、副方向Yには、湾曲せず、曲率半径が無限大である。平面視において、第2曲面31の外形形状は、格子部材1の外形形状に応じた形状であって、その外形形状の大きさは、格子部材1の外形形状の大きさより若干大きな大きさである。また、図1に示す例では、第2狭持部材3としての柱状部材の前記一方端面における、第2曲面31の領域ではない残余領域は、平坦な第2平坦面となっている。
そして、第2狭持部材3は、上述の形状、すなわち、第2曲面31に貫通開口を持たなくても良いが、図1に示す例では、上述のように、格子部材1を狭持した狭持状態で格子部材1の格子領域12に対応する対応領域に形成された第2貫通開口32を備える。より具体的には、第2狭持部材3は、第2曲面31に、第2曲面31の平面視における前記外形形状よりも小さい形状で、軸方向に沿って貫通して開口する第2貫通開口32を持つ。第2貫通開口32の周面(側面)は、格子部材1から放射される波(例えばX線等)の伝播を阻害しないように、第2狭持部材3の一方端面(第2曲面31)側からその他方面側に向かい開口面積が徐々に広くなるように、テーパ状の傾斜面となっている。
図1および図2に示す例では、格子部材1の外形形状は、平面視にて、四角形であることから、第2貫通開口32の平面視における形状も四角形である。したがって、第2貫通開口22は、四角錘台状で形成されている。
なお、上述の図1に示す例では、第1狭持部材2に第1凹部23が形成され、この第1凹部23に格子部材1が収容されるが、第2狭持部材3に格子部材1を収容するための第2凹部が形成されても良い。また、第1および第2狭持部材2、3それぞれに第1および第2凹部が形成され、これら第1および第2凹部によって格子部材1を収容するための凹部が形成されても良い。この場合、前記第2凹部の底面が第2曲面32となり、前記第1凹部の底面(第1曲面21)から前記第2凹部の底面(第2曲面31)までの距離(長さ)が格子部材1の厚さ(=H1+H2)に応じた長さとなるように、前記第1および第2凹部の各深さが設定される。このため、狭持状態では、第1および第2狭持部材2、3は、前記第1および第2平坦面で互いに当接することになる。また、これら各態様において、前記狭持状態で、第1狭持部材2の前記第1平坦面と第2狭持部材3の前記第2平坦面とは、前記第1および第2凹部の各深さを調整することで、離間していても良い。
そして、このような第1および第2狭持部材2、3は、各熱膨張率が格子部材1の熱膨張率よりも小さい材料で形成されている。例えば、格子形成母材11がシリコンから形成され格子領域12がシリコンおよび金属で形成された格子部材1である場合には、第1および第2狭持部材2、3は、例えば、低熱膨張鋳造品のノビナイト(商標)等の金属から形成される。
そして、湾曲型格子DGは、第1狭持部材2の第1凹部23から成る凹部に格子部材1を収容し、第1狭持部材2の第1曲面(第1凹部23の底面)21と第2狭持部材3の第2曲面31との間に格子部材1を挟み込んだ状態で、格子部材1を第1および第2狭持部材2、3によって狭持することで、構成されている。
このような第1実施形態の湾曲型格子DGは、例えば、次の各工程を実施することによって製造できる。
図3は、第1実施形態における、格子湾曲方法を用いた湾曲型格子の製造方法を説明するための図(その1)である。図3(A)および(B)は、断面図であり、図3(C)および(D)は、斜視図である。図4は、第1実施形態における、格子湾曲方法を用いた湾曲型格子の製造方法を説明するための図(その2)である。図4(A)ないし(C)は、斜視図である。
この第1実施形態の湾曲型格子DGは、第1曲面21を持つ第1狭持部材2における前記第1曲面21と前記第1曲面21の曲面形状に応じた曲面形状の第2曲面31を持つ第2狭持部材3における前記第2曲面31との間に、互いに同じ形状の複数の構造体を周期的に配置した格子領域12を一方面に持ち、所定の温度にされた格子部材1を挟み込むことによって、前記第1および第2狭持部材2、3で前記格子部材1を狭持する第1工程と、前記第1および第2狭持部材2、3で前記格子部材1を狭持した狭持状態で、前記第1および第2狭持部材2、3を互いに固定する第2工程とを実施することによって、製造される。前記第1工程は、好ましくは、前記第1狭持部材2の前記貫通開口22に、前記貫通開口22の形状に応じた形状の嵌込部材4を嵌め込む嵌込工程と、前記第1狭持部材2の前記第1曲面21に、前記格子部材1を載置する載置工程と、前記嵌込工程および前記載置工程後に、前記第1狭持部材2、前記嵌込部材4および前記格子部材1を、前記格子部材1が前記所定の温度となるように、加熱する加熱工程と、前記第1および第2狭持部材2、3で前記格子部材1を狭持する狭持工程とを備える。
より具体的には、本実施形態の湾曲型格子DGを製造するために、まず、シリコンウェハ等のシリコンによって形成された基板である基材BPが用意される(図3(A))。
次に、互いに同じ形状の複数の構造体を周期的に設けた格子領域12が基材BPの一方主面に形成され、板状(平坦状)の格子形成母材11と板状の格子領域12とから成る板状の格子部材1が基材BPから形成される(図3(B)、格子領域形成工程)。前記複数の構造体は、本実施形態では、シリコンから形成される第1部分121および金属から形成される第2部分122である。
このような格子領域12を持つ板状の格子部材1は、例えば、国際公開WO2012/008118号公報、国際公開WO2012/008119号公報、国際公開WO2012/008120号公報、国際公開WO2012/086121号公報および特開2012−127685号公報等に開示された公知の手法を用いて製造することができる。一例を挙げると、この格子部材1は、例えば、第1シリコン層と前記第1シリコン層に付けられた前記第1シリコン層よりも高抵抗な第2シリコン層とを備える基板(本実施形態の基材BPに対応する)における前記第2シリコン層の主面上にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、リソグラフィー法によって前記レジスト層をパターニングして前記パターニングした部分の前記レジスト層を除去するパターニング工程と、ドライエッチング法によって前記レジスト層を除去した部分に対応する前記第2シリコン層を前記第1シリコン層に少なくとも到達するまでエッチングしてスリット溝を形成するエッチング工程と、電鋳法によって、前記第1シリコン層に電圧を印加して前記スリット溝を金属で埋める電鋳工程とを実施することによって、製造される。また例えば、この格子部材1は、シリコン基板(本実施形態の基材BPに対応する)の主面上にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、前記レジスト層をパターニングして前記パターニングした部分の前記レジスト層を除去するパターニング工程と、ドライエッチング法によって前記レジスト層を除去した部分に対応する前記シリコン基板をエッチングして所定の深さの凹部を形成するエッチング工程と、熱酸化法によって、前記シリコン基板における前記凹部の内表面に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、前記凹部の底部に形成された前記絶縁層の部分を除去する除去工程と、電鋳法によって、前記シリコン基板に電圧を印加して前記凹部を金属で埋める電鋳工程とを実施することによって、製造される。
なお、前記エッチング工程における前記エッチング法は、シリコンの基材BPを略垂直にエッチングすることができることから、ボッシュ(Bosch)プロセスであることが好ましい。このボッシュプロセスは、SF6プラズマがリッチな状態と、C4F8プラズマがリッチな状態とを交互に繰り返すことで、エッチングによって形成される凹所における側壁の保護と前記凹所における底面のエッチングとを交互に進行させるエッチング方法である。
一方、第1および第2狭持部材2、3が別途の製造工程によって用意される。例えば、金型鋳造法(ダイキャスティング法)によって、あるいは、削り出し法によって第1および第2狭持部材2、3それぞれが製造される。そして、本実施形態では、第1狭持部材2の第1貫通開口22に嵌め込まれる嵌込部材4も、別途の同様な製造工程によって用意される。この嵌込部材4は、第1貫通開口22の形状に応じた形状の部材であり、例えば、図3(C)に示すように、比較的短高な柱状の部材(例えば角柱状部材等)であり、その一方端面は、第1曲面21と同様な曲率半径を持ち、湾曲して軸方向外側に膨出する凸湾曲面を備え、その他方端面は、この例では、平坦面となっている。嵌込部材4は、第1貫通開口22が四角柱状であることから、略同サイズあるいは若干小さなサイズの四角柱状となっている。
このように湾曲していない湾曲前の格子部材1、第1および第2狭持部材2、3ならびに嵌込部材4が用意されると、まず、第1狭持部材2の第1曲面21と嵌込部材4の前記凸湾曲面とを合わせるように、嵌込部材4が第1狭持部材2の第1貫通開口22内に嵌め込まれる(図3(C)および図3(D)、嵌込工程)。
次に、第1狭持部材2の第1凹部23内に、湾曲前の板状の格子部材1が載置される(図4(A)、載置工程)。
次に、この格子部材1が所定の温度となるように、これら第1狭持部材2、嵌込部材4および板状の格子部材1が、加熱される。この加熱では、例えば、オーブン等の炉内に、第1狭持部材2、嵌込部材4および板状の格子部材1が格納され、加熱される。また例えば、ホットプレート等のヒータ上に、第1狭持部材2、嵌込部材4および板状の格子部材1が配置され、加熱される。この加熱の際に、第2狭持部材3も加熱されてもよい。
この加熱によって板状の格子部材1は、一方面に格子領域12を持つことから、前記一方面(格子領域12の表面(格子面))側の熱膨張率と他方面側の熱膨張率とが互いに異なるため、湾曲する(図4(B)、加熱工程)。より詳しくは、まず、板状の格子部材1において、第2部分122は、その表面が開放されている一方、その底面が第1部分121および格子形成母材11によって拘束されている。このため、例えば、室温(例えば23℃)から昇温すると、第2部分122は、前記表面が前記底面に較べて優位に膨張し、この結果、板状の格子部材1は、格子領域12の表面(格子面)が拡がるように湾曲する。なお、格子形成母材11は、このような作用で湾曲可能な厚さH2である必要がある。
例えば、図5(A)に示すように、シリコンから成る第1部分121および格子形成母材11と金から成る第2部分122とを備える板状の格子部材1が用意され、この板状の格子部材1を150℃昇温すると、この板状の格子部材1は、図5(B)に示すように、湾曲し、その曲率半径rが約60mmであった。なお、板状の状態(初期状態)において、第1部分121は、その幅W1’が6.0μmであって厚さ(深さ)H1が100μmであり、第2部分122は、その幅W2’が16.8μmであって厚さ(深さ)H1が100μmであり、格子形成母材11は、その厚さH2が50μmであった。
このような実験事実に対し、上述の湾曲モデルに従って数値計算すると、次のように計算される。まず、シリコンの熱膨張率は、2.6×10−6/℃であり、金の熱膨張率は、14.2×10−6/℃であり、これら金とシリコンとで熱膨張率に差があり、金の熱膨張率の方がシリコンの熱膨張率より大きい。150℃昇温後において、前記底面での第1および第2部分121、122の幅W3は、(16.8+6.0)×(1+2.6×10−6×150)=22.809μmであり、前記表面での第1部分121の幅W1は、6.0×(1+2.6×10−6×150)=6.002μmであり、そして、前記表面での第2部分122の幅W2は、16.8×(1+14.2×10−6×150)=16.836μmである。したがって、曲率半径rは、曲率半径rの円弧が22.809μmであって、曲率半径(r+100μm)の円弧が22.838μm(=6.002+16.836)となることから、78.65172mmとなって前記実験結果とオーダーレベルで一致している。
このように第2部分122が金で形成されている場合、数値計算では、第2部分122を150℃昇温することによって、前記表面において、16.8μmの幅W2’から、約36nm程度膨張させることで、曲率半径rが約78.75mmで湾曲できる(一実験結果では上述したように曲率半径rは、約60mmであった)。
また例えば、板状の初期状態において、第1部分121は、その幅W1’が2.65μmであって厚さ(深さ)H1が100μmであり、第2部分122は、その幅W2’が2.65μmであって厚さ(深さ)H1が100μmであり、格子形成母材11は、その厚さH2が150μmである場合、この板状の格子部材1を15℃昇温すると、この板状の格子部材1は、湾曲し、その曲率半径rが約1.06mであった。
このような実験事実に対し、上述の湾曲モデルに従って数値計算すると、次のように計算される。15℃昇温後において、前記底面での第1および第2部分121、122の幅W3は、(2.65+2.65)×(1+2.6×10−6×15)=5.300μmであり、前記表面での第1部分121の幅W1は、2.65×(1+2.6×10−6×15)=2.650μmであり、そして、前記表面での第2部分122の幅W2は、2.64×(1+14.2×10−6×15)=2.651μmである。したがって、曲率半径rは、曲率半径rの円弧が5.300μmであって、曲率半径(r+100μm)の円弧が5.301μm(=2.650+2.651)となることから、約1.1mとなって前記実験結果と概ね一致している。
このように第2部分122が金で形成されている場合、数値計算では、第2部分122を15℃昇温することによって、2.65μmの幅W2’から、約1nm程度膨張させることで、曲率半径rが約1.1mで湾曲できる(一実験結果では上述したように曲率半径rは、約1.06mであった)。
格子部材1が格子領域12を一方面に持つことから、格子領域12の底面における熱膨張率は、実質的に格子形成母材11(第1部分121)の熱膨張率とみなすことができ、格子領域12の表面における熱膨張率は、第1および第2部分121、122の総合的な熱膨張率とみなすことができる。このように前記一方面(格子領域12の表面)側の熱膨張率と他方面側の熱膨張率とが互いに異なるため、格子部材1を所定の温度にすることによって格子部材1は、曲がって湾曲する。
上記加熱工程によって、図4(B)に示すように、前記所定の温度にされることで板状の格子部材1が第1狭持部材2の第1曲面21に沿うように湾曲すると、第1曲面21と第2曲面31との間に、この湾曲した格子部材1を挟み込むように、この湾曲した格子部材1を載置した第1狭持部材2上に、第2狭持部材が載置され、格子部材1は、第1および第2狭持部材2、3で狭持される(図4(C)、狭持工程)。そして、その後、必要に応じて嵌込部材4が第1貫通開口22から取り出される。
このような嵌込工程から狭持工程までから成る第1工程が終了すると、この第1および第2狭持部材2、3で格子部材1を狭持した狭持状態で、第1および第2狭持部材2、3が互いに固定される(第2工程)。この固定には、例えば、ネジによるネジ留め、ボルトとナットとによる締結、および、接着剤による接着等が用いられる。このような固定には、第1狭持部材2の前記第1平坦面と第2狭持部材3の前記第2平坦面とが互いに対向している領域が用いられることが好ましい。
このような各製造工程を経ることによって、図1に示す構成の湾曲型格子DGが製造される。
このような格子湾曲方法では、格子部材1が格子領域12を一方面に持つことから、前記一方面(格子領域の表面)側の熱膨張率と他方面側の熱膨張率とが互いに異なるため、平板状の格子部材1を所定の温度にすることによって平板状の格子部材1が曲がって湾曲し、湾曲した格子部材1となる。そして、上記格子湾曲方法では、この湾曲した状態の格子部材1が第1および第2狭持部材2、3で狭持される。このため、本実施形態における格子湾曲方法は、上述の線当たり状態や点当たり状態を解消でき、平板状の格子部材1を湾曲する際に、線当たり部分や点当たり部分の応力集中による格子部材1の破損を低減できる。
一例では、比較例として、上述の製造工程における加熱工程が実施されることなく、載置工程に続けて狭持工程が実施されると、格子部材1は、例えば、図6に示すように、第1狭持部材2の第1曲面21と略中央部分P2で線当たり状態になると共に第2狭持部材3の第2曲面31と両側辺(稜線)P1、P3で線当たり状態となる。このため、この比較例では、この線当たり部分P1〜P3に応力が集中することになり、格子部材1は、破損する虞がある。しかしながら、本実施形態の格子湾曲方法では、載置工程後に加熱工程が実施された後に狭持工程が実施されるので、本実施形態の格子湾曲方法は、上述の線当たり状態を解消でき、平板状の格子部材1を湾曲する際に、線当たり部分の応力集中による格子部材1の破損を低減できる。したがって、本実施形態の格子湾曲方法を用いて製造された湾曲型格子DGは、製造部留まりがより良い。
また、上述の格子湾曲方法は、第1および第2狭持部材2、3のうちの少なくとも一方が貫通開口を備えるので、格子領域12に作用する波に対し狭持部材が与える影響を低減できる。本実施形態では、第1狭持部材2が第1貫通開口22を持つので、第1狭持部材2側から波(本実施形態ではX線等)が入るように、上述の格子湾曲方法を用いて製造された湾曲型格子DGが使用される場合に、第1狭持部材2による、格子へ入る前記波における強度の低減を回避できる。したがって、X線の場合には、第1貫通開口22が無い場合に較べて、X線の線量を低減できる。また本実施形態では、第2狭持部材3が第2貫通開口32を持つので、第1狭持部材2側から前記波が入るように、上述の格子湾曲方法を用いて製造された湾曲型格子DGが使用される場合に、第2狭持部材3に第2貫通開口32を形成することによって、格子領域12を透過した前記波は、そのまま湾曲型格子DGから放射でき、格子領域12における格子としての性能が第2狭持部材3で劣化されない。
また、上述の格子湾曲方法では、格子部材1を載置する第1狭持部材2が第1貫通開口22を持つ場合でも第1貫通開口22に嵌込部材4が嵌め込まれるので、格子部材1を第1曲面21に配置し易くなり、作業性が向上する。また、本実施形態における上述の格子湾曲方法では、格子部材1を載置する第1狭持部材2が第1貫通開口22を持つ場合でも第1貫通開口22に嵌込部材4が嵌め込まれるので、格子部材1の第1狭持部材2に当接する面(当接面)は、嵌込部材4にも当接する。このため、本実施形態における格子湾曲方法では、加熱工程の加熱の際に、熱が第1狭持部材2および嵌込部材4を伝導し、熱が当接面の全面で格子部材1に与えられる。したがって、本実施形態における格子湾曲方法は、作業性が向上し、格子部材1を効率よく略均等に加熱できる。
また、上述の格子湾曲方法は、第1凹部23から形成される凹部に格子部材1を収容できるので、上述の製造方法によって製造された湾曲型格子DGの厚さ(第1狭持部材2から第2狭持部材3に向かう積層方向に沿った長さ)を低減できる。
そして、本実施形態では、第1および第2狭持部材2、3のうちの少なくとも一方は、前記狭持状態において、前記対応領域を除く残余領域(すなわち、第1および第2平坦面)で第1狭持部材2と第2狭持部材3とが互いに当接するような深さで形成された、格子部材1を収容する前記凹部を備える。すなわち、前記凹部は、前記狭持状態において、前記対応領域を除く残余領域で第1狭持部材2と第2狭持部材3とが互いに当接するような深さで形成されている。このような前記凹部を形成することによって、残余領域(第1および第2平坦面)で第1狭持部材2と第2狭持部材3とが互いに当接するので、第1および第2狭持部材2、3が第2工程によってしっかり固定される。
なお、上述の実施形態において、前記第2工程後に、前記所定の温度から室温まで前記格子部材1を冷却する第3工程をさらに備えてもよい。このような格子湾曲方法は、第1および第2狭持部材2、3で格子部材1を狭持しているので、室温まで冷却されても格子部材1の湾曲状態を維持でき、室温で取り扱えるので、上述の格子湾曲方法を用いて製造された湾曲型格子DGの取り扱いが容易となる。
また、上述の実施形態において、前記第2工程後の使用の際に、格子部材1を略前記所定の温度に調整する第4工程をさらに備えてもよい。格子部材1を略所定の温度に調整するために、湾曲型格子DGは、例えば、ヒータをさらに備え、前記ヒータによって格子部材1の温度が調整される。また例えば、後述するようにX線源が用いられる場合には、湾曲型格子DGは、X線源から放射される熱をX線源から格子部材1へ伝導するヒートパイプをさらに備え、前記ヒータによって格子部材1の温度が調整される。このような格子湾曲方法は、上述の格子湾曲方法を用いて製造された湾曲型格子DGの使用の際に、格子部材1を略前記所定の温度に調整するので、格子部材1の内部応力を低減でき、内部応力による格子の歪みを防止または低減できる。したがって、このような格子湾曲方法は、高精度に周期的に配置された複数の構造体を持つ湾曲型格子DGを提供できる。
また、上述の実施形態では、格子部材1は、1個で構成されたが、格子部材1は、1つの格子面を形成するように配置された複数のサブ格子部材を備えて成るものであってもよい。このような格子湾曲方法およびこの格子湾曲方法を用いて製造される湾曲型格子DGは、格子部材1を複数のサブ格子部材で構成するので、格子部材1の格子面をより広くできる。
次に、別の実施形態について説明する。
(第2および第3実施形態;タルボ干渉計およびタルボ・ロー干渉計)
上述の湾曲型格子DGは、一適用例として、X線用のタルボ干渉計およびタルボ・ロー干渉計に好適に用いることができる。この湾曲型格子DGを用いたX線用タルボ干渉計およびX線用タルボ・ロー干渉計について説明する。
図7は、第2実施形態におけるX線用タルボ干渉計の構成を示す斜視図である。図8は、第3実施形態におけるX線用タルボ・ロー干渉計の構成を示す上面図である。図7および図8は、作図の都合上、格子は、湾曲していない状態で図示されている。
第2実施形態のX線用タルボ干渉計200Aは、図7に示すように、所定の波長のX線を放射するX線源201と、X線源201から照射されるX線を回折する位相型の第1回折格子202と、第1回折格子202により回折されたX線を回折することにより画像コントラストを形成する振幅型の第2回折格子203とを備え、第1および第2回折格子202、203がX線タルボ干渉計を構成する条件に設定される。そして、第2回折格子203により画像コントラストの生じたX線は、例えば、X線を検出するX線画像検出器205によって検出される。
そして、このX線用タルボ干渉計200Aでは、第1回折格子202および第2回折格子203の少なくとも一方は、前記湾曲型格子DGである。第1回折格子202および第2回折格子203の少なくとも一方を、上述の製造方法によって製造することによって、前記一方は、上述したいわゆるケラレを低減可能な、点波源による球面波に沿うように湾曲した格子となる。または、前記一方の格子部材1が複数のサブ格子部材で構成された場合、前記一方は、上述したいわゆるケラレを低減可能な、点波源による球面波に沿うように湾曲した格子となり、より大きな格子面を形成できる。
タルボ干渉計200Aを構成する前記条件は、次の式1および式2によって表される。式2は、第1回折格子202が位相型回折格子であることを前提としている。
l=λ/(a/(L+Z1+Z2)) ・・・(式1)
Z1=(m+1/2)×(d2/λ) ・・・(式2)
ここで、lは、可干渉距離であり、λは、X線の波長(通常は中心波長)であり、aは、回折格子の回折部材にほぼ直交する方向におけるX線源201の開口径であり、Lは、X線源201から第1回折格子202までの距離であり、Z1は、第1回折格子202から第2回折格子203までの距離であり、Z2は、第2回折格子203からX線画像検出器205までの距離であり、mは、整数であり、dは、回折部材の周期(回折格子の周期、格子定数、隣接する回折部材の中心間距離、前記ピッチP)である。
このようなX線用タルボ干渉計200Aでは、X線源201から第1回折格子202に向けてX線が照射される。この照射されたX線は、第1回折格子202でタルボ効果を生じ、タルボ像を形成する。このタルボ像が第2回折格子203で作用を受け、モアレ縞の画像コントラストを形成する。そして、この画像コントラストがX線画像検出器205で検出される。
タルボ効果とは、回折格子に光が入射されると、或る距離に前記回折格子と同じ像(前記回折格子の自己像)が形成されることをいい、この或る距離をタルボ距離Lといい、この自己像をタルボ像という。タルボ距離Lは、回折格子が位相型回折格子の場合では、上記式2に表されるZ1となる(L=Z1)。タルボ像は、Lの奇数倍(=(2m+1)L、mは、整数)では、反転像が現れ、Lの偶数倍(=2mL)では、正像が現れる。
ここで、X線源201と第1回折格子202との間に被写体Sが配置されると、前記モアレ縞は、被写体Sによって変調を受け、この変調量が被写体Sによる屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。このため、モアレ縞を解析することによって被写体Sおよびその内部の構造が検出される。
このような図7に示す構成のタルボ干渉計200Aでは、X線源201は、単一の点光源(点波源)であり、このような単一の点光源は、単一のスリット(単スリット)を形成した単スリット板をさらに備えることで構成することができ、X線源201から放射されたX線は、前記単スリット板の前記単スリットを通過して被写体Sを介して第1回折格子202に向けて放射される。前記スリットは、一方向に延びる細長い矩形の開口である。
一方、タルボ・ロー干渉計200Bは、図8に示すように、X線源201と、マルチスリット板204と、第1回折格子202と、第2回折格子203とを備えて構成される。すなわち、タルボ・ロー干渉計200Bは、図7に示すタルボ干渉計200Aに加えて、X線源201のX線放射側に、複数のスリットを並列に形成したマルチスリット板204をさらに備えて構成される。
このマルチスリット板204は、上述の製造方法によって製造された湾曲型格子DGであってよい。マルチスリット板204を、上述の製造方法によって製造することによって、マルチスリット板204は、上述したいわゆるケラレを低減可能な、点波源による球面波に沿うように湾曲した格子となる。特にマルチスリット板204は、第1回折格子202や第2回折格子203より、より波源に距離的に近いので、マルチスリット板204は、第1回折格子202や第2回折格子203より曲率半径の小さな大きく湾曲した格子となる。または、マルチスリット板204の格子部材1が複数のサブ格子部材で構成された場合、マルチスリット板204は、上述したいわゆるケラレを低減可能な、点波源による球面波に沿うように湾曲した格子となり、より大きな格子面を形成できる。
そして、タルボ・ロー干渉計200Bとすることによって、タルボ干渉計200Aよりも、被写体Sを介して第1回折格子202に向けて放射されるX線量が増加するので、より良好なモアレ縞が得られる。
次に、別の実施形態について説明する。
(第4実施形態;X線撮像装置)
湾曲型格子DGは、種々の光学装置に利用することができるが、例えば、X線撮像装置に好適に用いることができる。特に、X線タルボ干渉計を用いたX線撮像装置は、X線を波として扱い、被写体を通過することによって生じるX線の位相シフトを検出することによって、被写体の透過画像を得る位相コントラスト法の一つであり、被写体によるX線吸収の大小をコントラストとした画像を得る吸収コントラスト法に較べて、約1000倍の感度改善が見込まれ、それによってX線照射量が例えば1/100〜1/1000に軽減可能となるという利点がある。本実施形態では、前記格子ユニットを用いたX線タルボ干渉計を備えたX線撮像装置について説明する。
図9は、第4実施形態におけるX線撮像装置の構成を示す説明図である。図9において、X線撮像装置300は、X線撮像部301と、第2回折格子302と、第1回折格子303と、X線源304とを備え、さらに、本実施形態では、X線源304に電源を供給するX線電源部305と、X線撮像部301の撮像動作を制御するカメラ制御部306と、本X線撮像装置300の全体動作を制御する処理部307と、X線電源部305の給電動作を制御することによってX線源304におけるX線の放射動作を制御するX線制御部308とを備える。
X線源304は、X線電源部305から給電されることによって、X線を放射し、第1回折格子303へ向けてX線を照射する装置である。X線源304は、例えば、X線電源部305から供給された高電圧が陰極と陽極との間に印加され、陰極のフィラメントから放出された電子が陽極に衝突することによってX線を放射する装置である。
第1回折格子303は、X線源304から放射されたX線によってタルボ効果を生じる透過型の回折格子である。第1回折格子303は、例えば、上述の湾曲型格子DG(格子部材1が複数のサブ格子部材で構成される場合を含む)である。第1回折格子303は、タルボ効果を生じる条件を満たすように構成されており、X線源304から放射されたX線の波長よりも充分に粗い格子、例えば、格子定数(回折格子の周期)dが当該X線の波長の約20倍以上である位相型回折格子である。なお、第1回折格子303は、振幅型回折格子であってもよい。
第2回折格子302は、第1回折格子303から略タルボ距離L離れた位置に配置され、第1回折格子303によって回折されたX線を回折する透過型の振幅型回折格子である。この第2回折格子302も、第1回折格子303と同様に、例えば、上述の湾曲型格子DG(格子部材1が複数のサブ格子部材で構成される場合を含む)である。
第1回折格子303において、この第1回折格子303を構成する湾曲型格子DGは、受光面(格子面)の中心を通る法線が点光源としてのX線源304の放射源を通るように、そして、前記受光面の曲率半径の中心がX線源304の前記放射源に位置するように、配置され、前記受光面は、X線源304の前記放射源を通る仮想線を中心軸とした仮想的な円筒面に沿うことが好ましい。また、第2回折格子302において、この第2回折格子302を構成する湾曲型格子DGは、受光面(格子面)の中心を通る法線が点光源としてのX線源304の放射源を通るように、そして、前記受光面の曲率半径の中心がX線源304の前記放射源に位置するように、配置され、前記受光面は、X線源304の前記放射源を通る仮想線を中心軸とした仮想的な円筒面に沿うことが好ましい。
そして、これら第1および第2回折格子303、302は、上述の式1および式2によって表されるタルボ干渉計を構成する条件に設定されている。
X線撮像部301は、第2回折格子302によって回折されたX線の像を撮像する装置である。X線撮像部301は、例えば、X線のエネルギーを吸収して蛍光を発するシンチレータを含む薄膜層が受光面上に形成された二次元イメージセンサを備えるフラットパネルディテクタ(FPD)や、入射フォトンを光電面で電子に変換し、この電子をマイクロチャネルプレートで倍増し、この倍増された電子群を蛍光体に衝突させて発光させるイメージインテンシファイア部と、イメージインテンシファイア部の出力光を撮像する二次元イメージセンサとを備えるイメージインテンシファイアカメラなどである。
処理部307は、X線撮像装置300の各部を制御することによってX線撮像装置300全体の動作を制御する装置であり、例えば、マイクロプロセッサおよびその周辺回路を備えて構成され、機能的に、画像処理部371およびシステム制御部372を備えている。
システム制御部372は、X線制御部308との間で制御信号を送受信することによってX線電源部305を介してX線源304におけるX線の放射動作を制御すると共に、カメラ制御部306との間で制御信号を送受信することによってX線撮像部301の撮像動作を制御する。システム制御部372の制御によって、X線が被写体Sに向けて照射され、これによって生じた像がX線撮像部301によって撮像され、画像信号がカメラ制御部306を介して処理部307に入力される。
画像処理部371は、X線撮像部301によって生成された画像信号を処理し、被写体Sの画像を生成する。
次に、本実施形態のX線撮像装置300の動作について説明する。被写体Sが例えばX線源304を内部(背面)に備える撮影台に載置されることによって、被写体SがX線源304と第1回折格子303との間に配置され、X線撮像装置300のユーザ(オペレータ)によって図略の操作部から被写体Sの撮像が指示されると、処理部307のシステム制御部372は、被写体Sに向けてXを照射すべくX線制御部308に制御信号を出力する。この制御信号によってX線制御部308は、X線電源部305にX線源304へ給電させ、X線源304は、X線を放射して被写体Sに向けてX線を照射する。
照射されたX線は、被写体Sを介して第1回折格子303を通過し、第1回折格子303によって回折され、タルボ距離L(=Z1)離れた位置に第1回折格子303の自己像であるタルボ像Tが形成される。
この形成されたX線のタルボ像Tは、第2回折格子302によって回折され、モアレを生じてモアレ縞の像が形成される。このモアレ縞の像は、システム制御部372によって例えば露光時間などが制御されたX線撮像部301によって撮像される。
X線撮像部301は、モアレ縞の像の画像信号をカメラ制御部306を介して処理部307へ出力する。この画像信号は、処理部307の画像処理部371によって処理される。
ここで、被写体SがX線源304と第1回折格子303との間に配置されているので、被写体Sを通過したX線には、被写体Sを通過しないX線に対し位相がずれる。このため、第1回折格子303に入射したX線には、その波面に歪みが含まれ、タルボ像Tには、それに応じた変形が生じている。このため、タルボ像Tと第2回折格子302との重ね合わせによって生じた像のモアレ縞は、被写体Sによって変調を受けており、この変調量が被写体Sによる屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。したがって、モアレ縞を解析することによって被写体Sおよびその内部の構造を検出することができる。また、被写体Sを複数の角度から撮像することによってX線位相CT(computed tomography)により被写体Sの断層画像が形成可能である。
そして、本実施形態の第2回折格子302では、高アスペクト比の第2部分(金属部分)122を備える上述した実施形態における湾曲型格子DGであるので、良好なモアレ縞が得られ、高精度な被写体Sの画像が得られる。
また、湾曲型格子DGがボッシュプロセスによってシリコンウェハがドライエッチングされる場合には、前記凹部の側面(第1部分121の側面)がより平坦となり、高精度に第2回折格子302を形成することができる。このため、より良好なモアレ縞が得られ、より高精度な被写体Sの画像が得られる。
なお、上述のX線撮像装置300は、X線源304、第1回折格子303および第2回折格子302によってタルボ干渉計を構成したが、X線源304のX線放射側にマルチスリットとしての上述の湾曲型格子DGをさらに配置することで、タルボ・ロー干渉計を構成してもよい。このようなタルボ・ロー干渉計とすることで、単スリットの場合よりも被写体Sに照射されるX線量を増加することができ、より良好なモアレ縞が得られ、より高精度な被写体Sの画像が得られる。
また、上述のX線撮像装置300では、X線源304と第1回折格子303との間に被写体Sが配置されたが、第1回折格子303と第2回折格子302との間に被写体Sが配置されてもよい。
また、上述のX線撮像装置300では、X線の像がX線撮像部301で撮像され、画像の電子データが得られたが、X線フィルムによって撮像されてもよい。
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。