JP2015059241A - 金属ガラス及び金属ガラス膜の製造方法 - Google Patents

金属ガラス及び金属ガラス膜の製造方法 Download PDF

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明偉 陳
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プルノモ バユー ダイスマン アジ
秋彦 平田
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秋彦 平田
藤田 武志
Takeshi Fujita
武志 藤田
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Abstract

【課題】同じ組成の金属ガラス塊等よりも高強度で、加工性に優れた金属ガラス及びその製造方法を提供する。【解決手段】〔1〕Zr55?10Cu30?5Ni5?4Al10?5の組成を有している金属ガラスであって、前記金属ガラスのTg(ガラス転移温度)が720〜850Kである。〔2〕Zr55?10Cu30?5Ni5?4Al10?5の組成を有している金属ガラスであって、前記金属ガラスのTx(結晶化開始温度)が760〜1100Kである。そして、〔3〕Zr55?10Cu30?5Ni5?4Al10?5の組成を有する金属ガラス塊を形成し、前記金属ガラス塊からスパッタリングのターゲットを形成し、前記ターゲットをスパッタリングして基板上に金属ガラス膜を製造する方法であって、スパッタリングが、50℃以上の前記基板の温度で行われ、前記金属ガラス膜が、前項〔1〕又は〔2〕記載の金属ガラスの金属ガラス膜を得る。【選択図】図1

Description

本発明は金属ガラス及び金属ガラス膜の製造方法に関する。
多元組成からなる金属ガラスは、最近発見された最もユニークで魅力的な材料である(非特許文献1参照)。しかしながら、多くの応用分野では、金属ガラスの応用は、高温での結晶化における準安定な性質、又は、低温における長期間動作における熱的な安定性が低いことにより妨げられている。
金属ガラスの安定性は、通常、ガラス形成能(GFA)という尺度で評価されている。ガラス形成能が高いほど、ガラスは安定である。GFAは、下記の二つの経験的なパラメータに線形の依存性を有している(非特許文献1参照)。
(1)ガラス転移温度(Trg=Tg/Tm、ここで、Tgはガラス転移温度、Tmは 融点である。)の低減。
(2)過冷却液体領域(ΔTx=Tx−Tg)。
ここで、Txは結晶化開始温度である。
GFAは、「熱安定性」とも呼ばれている。熱安定性は、加熱によりガラス状態から過冷却液体領域に、又は等温のアニールでどの位容易に結晶化するかの尺度である。
有機ガラス及び酸化物ガラスと比較して、高い原子の移動度と高温における高速な構造緩和のために、金属ガラスは安定性及びGFAがより低い。熱安定性の不足は、金属ガラスの広い範囲の応用を妨げる主要な障害の一つである。
A. Inoue, Acta Mater. 48, 279, 2000 K. L. Kearns, T. Still, G. Fytas, M. D. Ediger, Advanced Materials 22, 39-42, 2010 L. Zhu, L. Yu, Chem. Phys. Lett. 499, 62-65, 2010 S. Kohara, et al., J. Phys. Condens. Matter 19, 506101, 2007 A. Hirata, P. Guan, T. Fujita, Y. Hirotsu, A. Inoue, A. R. Yavari, T. Sakurai, M. W. Chen, Nature Materials 10, 28-33, 2011 D. B. Miracle, Nature Materials 3, 697-702, 2004
本発明は、ガラス転移点が高く、好ましくは結晶化開始温度が高く、より好ましくは過冷却液体領域が広く、熱的安定性に優れ、高強度で加工性に優れた金属ガラス及びその金属ガラス膜の製造方法を提供することを課題とする。
本発明は、
〔1〕Zr55±10Cu30±5Ni5±4Al10±5の組成を有している金属ガラスであって、前記金属ガラスのTg(ガラス転移温度)が720〜850Kである金属ガラス、
〔2〕Zr55±10Cu30±5Ni5±4Al10±5の組成を有している金属ガラスであって、前記金属ガラスのTx(結晶化開始温度)が760〜1100Kである、金属ガラス、及び、
〔3〕Zr55±10Cu30±5Ni5±4Al10±5の組成を有する金属ガラス塊を形成し、
前記金属ガラス塊からスパッタリングのターゲットを形成し、
前記ターゲットにスパッタリングを行うことで基板上に金属ガラス膜を堆積する方法であって、
前記スパッタリングが、50℃以上の前記基板の温度の下で行われ、
前記金属ガラス膜が、前項〔1〕又は〔2〕に記載の金属ガラスの金属ガラス膜である、金属ガラス膜の製造方法である。
本発明によれば、ガラス転移点が高く、好ましくは結晶化開始温度が高く、より好ましくは過冷却液体領域が広く、熱的安定性に優れ、高強度で加工性に優れた金属ガラスを提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、上記した優れた特性の金属ガラス膜を得ることができる。
実施例の金属ガラス膜、比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜、比較例2の金属ガラス塊の示差走査熱量分析でDSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)曲線を示す図である。 実施例の金属ガラス膜、比較例1の金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊のX線回折パターン(Xray Diffraction Pattern、以下XRDと呼ぶ)を示す図である。 シンクロトロン放射光を用いたXRDの測定結果を示す図である。 実施例の金属ガラス膜、比較例2の金属ガラス塊及び比較例2の金属ガラス塊を熱処理したときのDSC曲線を示す図である。 実施例の金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊のDSC曲線の積分により得たエンタルピーを示す図である。 熱処理をした実施例の金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊のDSC曲線を示す図である。 683Kで熱処理をした実施例の金属ガラス膜のDSC曲線を示す図である。 実施例の金属ガラス膜、比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊のナノインデンテーションで測定した力−深さ曲線を示す図である。 実施例の金属ガラス膜、比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス及び比較例2の金属ガラス塊の硬さとヤング率を示す図である。 実施例の金属ガラス膜及び比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラスの応力−歪み曲線を示す図である。 実施例の金属ガラス膜の応力試験後のSEM像(走査電子顕微鏡像)を示す図である。 実施例の金属ガラス膜の高分解透過電子顕微鏡像(HRTEM像とも呼ぶ)を示す図である。 実施例の金属ガラス膜の選択領域の制限視野電子線回折像(SAED像とも呼ぶ)を示す図である。 実施例の金属ガラス膜のSTEM(走査型透過電子顕微鏡像)による明視野像を示す図である。 実施例の金属ガラス膜のSTEMによるHAADF像(高角散乱環状暗視野)を示す図である。 実施例の金属ガラス膜のABED(オングストロームビーム電子回折法)解析を示す図であり、(a)は金属ガラス膜中のMRO(中範囲規則構造)で取得した典型的なABEDパターン、(b)はABEDパターンのシミュレーション、(c)はMD(分子動力学)シミュレーションの原子配置を示す図である。 基板温度を室温、230℃、250℃としたときのDSC曲線を示す図である。 基板温度を250℃、260℃、270℃、280℃、290℃、300℃としたときのDSC曲線であり、(a)は、100〜600℃、(b)は、260〜510℃の拡大図である。 基板温度を300℃、320℃、350℃、370℃、380℃、390℃としたときのDSC曲線であり、(a)は、300〜1100℃、(b)は、450〜800℃の拡大図である。 基板温度を変えたときの実施例の金属ガラス膜のTg及びTxを示す図である。 基板温度を変えたときの実施例の金属ガラス膜のXRDを示す図であり、(a)は基板温度が200℃、230℃、250℃、260℃、270℃、280℃、290℃、300℃、320℃、(b)は基板温度が320℃、350℃、370℃、380℃、390℃である。 基板温度を変えたときの実施例の金属ガラス膜のTx(℃)及び硬さ(GPa)を示す図である。 基板温度を変えたときの実施例の金属ガラス膜のTx及びヤング率(GPa)を示す図である。
(本発明の金属ガラス)
本発明の金属ガラスは、機械的強度、耐食性、靭性が安定し、MEMS中の材料、ナノインプリント転写用金属ガラス膜、表面皮膜材料、電子素子、磁気素子等の多様な用途が期待されている、Zr55±10Cu30±5Ni5±4Al10±5(原子%)の組成を有し、好ましくは、これらの成分金属元素の合金からなる。
本発明の金属ガラスは、ガラス組成の熱安定性の観点から、
Tg(ガラス転移温度)が720〜850Kであり、好ましくは730〜800Kであり、より好ましくは740〜800Kである。
Tx(結晶化開始温度)は、好ましくは760〜1200K、より好ましくは800〜1100K、より好ましくは850〜1050Kである。
ΔTx(過冷却液体領域の幅)は、好ましくは40〜300Kであり、より好ましくは50〜300Kであり、さらに好ましくは80〜250Kであり、さらに好ましくは100〜240Kであり、さらに好ましくは120〜230Kである。
ガラス組成の熱安定性に伴う安定した高強度性の観点から、
密度は、好ましくは6.5〜7.5g/cmであり、より好ましくは6.8〜7.4g/cmであり、さらに好ましくは6.9〜7.3g/cmである。
20K/分の昇温速度で得たDSC曲線の600K〜1300Kの範囲において、最初に認められる吸熱の立ち上りの直前において、低温側の近傍のベースラインを直線近似した場合の直線と、前記吸熱の立ち上がりの延長にある最初の変曲点における接線との交点に対応する温度をTgとし、
Tgの高温側に最初に認められる発熱の立ち上りの直前において、低温側の近傍のベースラインを直線近似した場合の直線と、前記発熱の立ち上がりの延長にある最初の変曲点における接線との交点に対応する温度をTxとする。
この密度は、X線で測定した値であり、精度は±5%程度である。
本発明の金属ガラスの密度が、従来の金属ガラスの密度よりも大きい理由は、後述するように、本発明の金属ガラスが、中範囲規則構造を有していることによると考えられる。
以上のような好ましい熱力学的特性と密度を有する本発明の金属ガラスは、X線解析パターン(XRD)において、以下に示す好ましい範囲に第1ピークを有している。
即ち、本発明の金属ガラスのXRDにおいて、
第1ピ−クにおける2θは、好ましくは36.00〜38.00°であり、より好ましくは36.50〜37.50°であり、さらに好ましくは36.70〜37.30°であり、さらに好ましくは36.80〜37.00°であり、さらに好ましくは36.90〜37.00°である。
第1ピ−クにおける半値幅(FWHM)は、好ましくは5.70〜9.00°であり、より好ましくは5.90〜8.80°であり、さらに好ましくは6.10〜8.60°であり、さらに好ましくは6.20〜8.40°である。
第2ピ−クにおける2θは、好ましくは64.00〜67.00°であり、より好ましくは64.20〜66.80°であり、さらに好ましくは64.40〜66.60°であり、さらに好ましくは64.60〜66.40°である。
第2ピ−クにおける半値幅(FWHM)は、好ましくは9.00〜12.00°であり、より好ましくは9.03〜11.80°であり、さらに好ましくは9.05〜11.60°である。
本発明の金属ガラスの強度の指標である硬さ(最大応力)は、好ましくは8.00〜15.00Paであり、より好ましくは8.50〜14.50Paであり、さらに好ましくは9.00〜14.00Paである。
本発明の金属ガラスの靭性の指標であるヤング率は、好ましくは120〜200GPaであり、より好ましくは125〜195GPaであり、さらに好ましくは130〜190GPaである。
本発明の金属ガラスの強度は、従来の同じ組成の金属ガラスの値よりも約30%高い値である場合がある。さらに、本発明の金属ガラスでは、ガラス形成能(GFA)が大きいので加工性がよい。
本発明の金属ガラスは、後述するようなZr55±10Cu30±5Ni5±4Al10±±5の組成を有する金属ガラス塊を使用して、高温下でスパッタリングすることにより金属ガラス膜の形態で得ることが出来るが、さらに時間をかけて金属ガラス膜の厚みを大きくすれば塊状とみなし得る形態で得ることが出来る。
(本発明の金属ガラスの製造方法)
本発明の金属ガラスは以下の工程により、ナノプリント転写や、表面被覆材料として、好ましい金属ガラス膜として製造することができる。
具体的には、Zr55±10Cu30±5Ni5±4Al10±±5の組成を有する金属ガラス塊を形成し、
金属ガラス塊からスパッタリングのターゲットを形成し、
ターゲットにスパッタリングを行うことで、基板上に金属ガラス膜を堆積して製造する方法であって、
スパッタリングを、50℃以上の基板の温度の下で行う。
スパッタリングの堆積速度は、従来の金属ガラス金属ガラス膜の堆積速度よりも遅いことが好ましく、より好ましくは0.24nm/s以下の堆積速度であり、さらに好ましくは0.15〜0.23nm/sの堆積速度であり、さらに好ましくは0.18〜0.22nm/sの堆積速度であり、さらに好ましくは0.18〜0.21nm/sの堆積速度である。この方法により、基板上に、安定性に優れ、高強度な本発明の金属ガラス膜を形成することができる。
従来の金属ガラス膜は、スパッタリングを使用し、例えば、基板温度を室温から230℃程度で堆積して得た金属ガラス膜である。同じ組成の従来の金属ガラス膜の製造方法における堆積速度が、0.25nm/sの場合、本発明の金属ガラス膜の製造方法における堆積速度は、例えば0.18〜0.23nm/sであり、従来の同じ組成の金属ガラス膜の堆積速度よりも小さくしている。基板温度は、堆積温度とも呼ぶ。
スパッタリングは、直流又は高周波、マイクロ波のマグネトロンスパッタリングで行うことができる。
スパッタリングをする際の基板の温度は、金属ガラスの熱安定性の向上に伴う強度の向上の観点から、50℃以上であり、好ましくは50〜500℃であり、より好ましくは100〜470℃であり、さらに好ましくは150〜440℃であり、さらに好ましくは200〜420℃であり、さらに好ましくは250〜400℃である。本発明の金属ガラスは、Zr55±10Cu30±5Ni5±4Al10±5の組成を有する金属ガラス塊を用いればスパッタリングをする際の基板の温度と堆積速度を調整して本発明の金属ガラス膜を得ることができる。
本発明の金属ガラス膜の製造方法によれば、従来の金属ガラスに比較して、高強度で加工性のよい金属ガラス膜を、容易に製造することができる。
以下、本発明の金属ガラスと金属ガラス膜の製造方法を実施例により詳細に説明する。
実施例の金属ガラス膜の製造におけるスパッタリングの条件を、以下に示す。
基板温度が300℃で、堆積速度は0.19nm/s
ここで、スパッタリングのターゲットとなる金属ガラス塊は、銅鋳型鋳造法で作製した。金属ガラス塊の直径は50mm、厚さは3mmである。スパッタリングは、Al又は(100)面のSi基板上に行った。スパッタリング装置(東栄科学産業(株)製、型番SPV250TMP−T2−DC2)の真空度は10−4Pa以下とした。スパッタリングは、Arガスをイオン源に用いた高周波(RF)マグネトロンスパッタで行った。スパッタリングにおける制御パラメータは、高周波電力、アルゴン圧力、基板温度、基板と電極との間隔等である。
典型的なスパッタリングの条件を以下に示す。
高周波電力:50W
周波数:13.56MHz
アルゴン圧力:0.3Pa
基板と電極との間隔:8cm
基板温度:300℃
(比較例1)
比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜の製造におけるスパッタリングの条件を、以下に示す。
比較例1:基板温度が300Kで、堆積速度は0.25nm/s
(比較例2)
実施例の金属ガラス膜及び比較例1の金属ガラス膜の製造で使用した比較例2の金属ガラス塊は、銅鋳型鋳造法により作製した。
図1は、実施例の金属ガラス膜、比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜、比較例2の金属ガラス塊の示差走査熱量分析で測定したDSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)曲線を示す図である。図の横軸は温度(K)を、縦軸は吸熱(J/gK)を示している。DSCの加熱速度は、以下に示すデータも含め何れも20K/分である。挿入図は、650〜890KのDSC曲線である。
図1に示すように、実施例のガラス転移温度Tgは、767K、結晶化温度Txは960K、液相温度Tlは1142K、過冷却液体領域における結晶化開始温度Txとガラス転移温度Tgとの温度間隔ΔTx(=Tx−Tg)は193K、通常の冷却速度は4.7×10K/sであった。
比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜のガラス転移温度Tgは、716K、結晶化温度Txは757K、液相温度Tlは1132K、ΔTxは41K、通常の冷却速度は9.8×10K/sであった。
比較例2の金属ガラス塊のガラス転移温度Tgは716K、結晶化温度Txは753K、液相温度Tlは1129K、ΔTxは37K、通常の冷却速度は5.8×10K/sであった。
実施例の金属ガラス膜、比較例1の金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊の特性を纏めて表1に示す。
図2は、実施例の金属ガラス膜、比較例1の金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊のX線回折パターン(Xray Diffraction Pattern、以下XRDと呼ぶ)を示す図である。図の横軸は角度(°)、即ちX線の原子面への入射角度θの2倍に相当する角度であり、縦軸はX線回折強度(任意目盛)を示している。XRDの測定には、CuのKα線を使用した。
図2の2θにおいて、37°近傍の第1のピークP1及び65°近傍の第2のピークP2のブロードなピークが、実施例の金属ガラス膜、比較例1の金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊のX線回折パターンである。他の鋭いピークは、基板のAlからのXRDである。
実施例の金属ガラス膜、比較例1の金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊の第1のピークP1及び第2のピークP2の2θ及び半値幅(Full Width at Half Maximum、以下FWHMと呼ぶ)を表2に纏めて示す。
実施例の第1のピークP1において、2θは36.54°、FWMHは9.11°であった。実施例の第2のピークP2において、2θは、65.84°、FWMHは9.50°であった。
比較例1の第1のピークP1において、2θは37.51°、FWMHは6.55°であった。比較例1の第2のピークP2において、2θは、64.45°、FWMHは11.79°であった。
比較例2の第1のピークP1において、2θは37.56°、FWMHは5.86°であった。比較例2の第2のピークP2において、2θは、64.38°、FWMHは11.84°であった。
上記XRDの測定から第1のピークP1において、実施例の2θは、比較例1及び比較例2に比較して僅かに小さいことが分かる。ピークの低い回折角へのシフトは、安定な有機ガラスでも測定されている(非特許文献3参照)。
EDS測定による組成分析及びDSC測定における液相温度(Tl)の測定により実施例の金属ガラス膜、比較例1の金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊の組成は同じであることを確認している。従って、ピークシフトは、実施例の金属ガラス膜、比較例1の金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊との間の原子配列の違いに由来すると考えられる。
上記XRDの測定から第1のピークP1において、実施例のFWHMは、比較例1及び比較例2に比較して大きいことが分かる。FWHMの増大は、安定な有機ガラスでも測定されている(非特許文献3参照)。これにより、実施例の金属ガラス膜中では、原子間距離がより大きいことを示している。
(シンクロトロン放射光を用いたXRD)
図3は、シンクロトロン放射光を用いたXRDの測定結果を示す図である。図3は、構造因子のフーリエ変換から求めたペア分布関数(PDF)、つまり、2体相関分布関数g(r)を示している。図の横軸は、r(Å)であり、縦軸はg(r)である。挿入図は、rが2.3Å〜3.5Åの拡大図である。シンクロトロン放射光は、SPring−8の113.3KeVのX線源を使用し、XRDの解析は、非特許文献4を参照して行った。
図3から明らかなように、g(r)は、幾つかのピークを有している。図3の拡大図から分かるように、Zr55Cu30NiAl10の最初のピークを詳細に調べると、rが2.80Åと3.15Åの二つのサブピークを有している。二つのサブピークは、最近接の原子の個別の結合長分布に由来するものである。
表3は、原子間の結合距離(rij)と、計算した重量要素の計算値と、混合熱を纏めて示す図である。
表3を参照すると、図3の第1のサブピーク(約2.80Å)はZr−Cuペアに由来する。他方、図3の第2のサブピーク(3.15Å)はZr−Zrペアに由来する。
PDF関数の第1ピークをrが2Åから3.9Åまで積分すると、平均配位数が求まる。比較例1及び比較例2の平均配位数は、13.6と求まった。
他方、実施例の金属ガラス膜では、比較例に対して、より高い重量比率のZr−Cuペアとより低いZr−Zrペアを有している。このことは、実施例の金属ガラス膜では、化学的な秩序が起きていることを示している。
さらに、図3の挿入図に示すように、実施例の金属ガラス膜において、Zr−Zrペアに由来する第2のサブピーク(3.15Å)は、比較例1及び比較例2よりも僅かに長距離側にシフトしている。
従って、図3に示したXRDにおいて、実施例の金属ガラス膜のX線回折強度の広がりと低角度側のシフトは、下記現象に起因すると考えられる。
実施例の金属ガラス膜では、短い原子間結合長を有しているZr−Cuペアの多いドメインと、比較的長い原子間結合長を有しているZr−Zrペアのリッチドメインとの形成による化学的秩序が形成される。
図4は、実施例の金属ガラス膜、比較例2の金属ガラス塊及び比較例2の金属ガラス塊を熱処理したときのDSC曲線を示す図である。図の横軸は温度(K)を、縦軸は吸熱(J/gK)を示している。加熱速度は、20K/分である。DSC曲線は、パーキンエルマー社製の測定機(DSC 8500)を用いて測定した。試料のパージガス及び内部冷却器のキャリヤガスにはアルゴンを用いた。993K以上のDSC曲線は、日立ハイテクサイエンス社製の測定機(Extar DSC 6300)を用いて測定した。
比較例2の金属ガラス塊は、683Kで60分及び300分の熱処理を施した。683K(0.95Tg)は、ガラス転移温度Tgの95%(0.95Tg)に相当する。
熱処理された比較例2の金属ガラス塊のDSC曲線は、熱処理中のエンタルピー損失による吸熱のピークを示している。しかしながら、熱処理された比較例2の金属ガラス塊のガラス転移温度Tgは、熱処理しない比較例2の金属ガラス塊と比較して変化しなかった、つまり同じであった。このことは、熱処理による構造的な緩和は、あきらかに、金属ガラスの機械的な安定性を増強しないことを示している。
図5は、実施例の金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊のDSC曲線の積分により得たエンタルピーを示す図である。図の横軸は温度(K)を、縦軸はエンタルピー(J/g)を示している。挿入図は、温度が650Kから770Kの拡大図である。
図5に示すように、実施例の金属ガラス膜のエンタルピーが、比較例2の金属ガラス塊及び熱処理した比較例2の金属ガラス塊よりも遥かに小さいことは明らかである。
図5の拡大図に示すように、実施例の金属ガラス膜の仮想温度(T)は678Kである。一方、比較例2の金属ガラス塊及び熱処理した比較例2の金属ガラス塊の仮想温度(T)は、705Kであった。これから、実施例の金属ガラス膜の仮想温度(T)は、比較例2の金属ガラス塊及び熱処理した比較例2の金属ガラス塊の仮想温度(T)よりも27K低いことが分かった。
実施例の金属ガラス膜を、893Kで2分の熱処理を施し、室温まで20K/分の冷却速度で室温まで冷却した。この熱処理の後で、20K/分の加熱をしてDSCを測定すると、実施例の金属ガラス膜が通常の金属ガラス膜に変換した。893Kは、実施例の金属ガラス膜の過冷却液体領域の温度である。
図6は、熱処理をした実施例の金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊のDSC曲線を示す図である。図の横軸は温度(K)を、縦軸は吸熱(J/gK)を示している。加熱速度は、20K/分である。
図6に示すように、熱処理後の実施例の金属ガラス膜のTgは約711Kであり、比較例2の金属ガラス塊のTgである716Kに近い温度となった。これから、実施例の金属ガラス膜が熱処理されると、比較例2の金属ガラス塊と同様のDSC曲線となることが分かる。
実施例の金属ガラス膜から通常の金属ガラスへの金属ガラス膜の転換と、実施例の金属ガラス膜の熱的安定性とは、実施例の金属ガラス膜が高い基板温度で低い堆積速度で形成される特異的な原子構造に由来していると推測される。
さらに熱処理を行って、実施例の金属ガラス膜の熱的な安定性を調べた。
実施例の金属ガラス膜を、Tgの95%の683Kにおいて、60分及び300分の熱処理を施した。
図7は、683Kで熱処理をした実施例の金属ガラス膜のDSC曲線を示す図である。図の横軸は温度(K)を、縦軸は吸熱(J/gK)を示している。加熱速度は、20K/分である。
図7に示すように、熱処理によりエンタルピーが増加したにも関わらず、吸熱のピークを示さないことが分かる。これにより、実施例の金属ガラス膜の構造は、ガラス転移温度Tgである767Kよりも低い温度の長時間の熱処理では変化しないことが分かる。
(機械的な性質)
実施例の金属ガラス膜の機械的な特性は、押し込み試験(以下、ナノインデンテーションも呼ぶ)とマイクロ圧縮試験で行った。押し込み試験は、MTS社製(G−200)装置を使用した。最大荷重は5mNであり、荷重速度は1mN/sである。比較例2の金属ガラス塊の試料は、鏡面を形成するために研磨をした。硬さ及びヤング率は、25回の測定からその平均値を求めた。
図8は、実施例の金属ガラス膜、比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜及び実施例と比較例1とで使用した比較例2の金属ガラス塊のナノインデンテーションで測定した力−深さ曲線を示す図である。図の横軸は深さ(nm)を、縦軸は力(mN)を示している。図8に示すように、実施例の金属ガラス膜は、比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊に比して、変形に対してより強いことが分かる。
図9は、実施例の金属ガラス膜、比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊の硬さとヤング率を示す図である。図の左縦軸は硬さ(GPa)、右縦軸はヤング率(GPa)である。
図9に示すように、実施例の金属ガラス膜の硬さは10.46±0.58GPaであり、ヤング率は、156.75±7.54GPaであった。
比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜の硬さは6.99±0.12GPaであり、ヤング率は、109.76±1.94(GPa)であった。
比較例2の金属ガラス塊の硬さは6.69±0.24GPaであり、ヤング率は、106.44±2.91(GPa)であった。
上記の測定結果から、実施例の金属ガラス膜の硬さ及びヤング率は、比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊の場合よりも30%以上大きいことが分かる。ヤング率の増加は、安定有機物ガラスでも報告されている(非特許文献2参照)。
さらに、一軸方向のマイクロ圧縮試験により、実施例の金属ガラス膜、比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜及び比較例2の金属ガラス塊の応力−歪み曲線を測定した。マイクロ圧縮試験は、島津製作所社製(W201S)装置により行った。10μmの平坦な先端を有しているバーコビッチ型の圧子を用いた。
図10は、実施例の金属ガラス膜及び比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜の応力−歪み曲線を示す図である。図の横軸は歪み(%)、縦軸は応力(MPa)である。
図10に示すように、実施例の金属ガラス膜の破壊強度は約3GPaであり、比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜の破壊強度は約2GPaであることが分かる。これから、実施例の金属ガラス膜の破壊強度は、比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜の破壊強度よりも約1GPa大きいことが分かる。
図11は、実施例の金属ガラス膜の応力試験後のSEM像(走査電子顕微鏡像)を示す図である。電子の加速電圧は15kVであり、倍率は1万倍である。
図11に示すように、実施例の金属ガラス膜の変形は比較例1のスパッタリングで形成した金属ガラス膜と同様であった。ナノインデンテーションの押圧の後の近傍では、剪断のバンドを見つけるのは困難であるが、圧縮試験で明確な剪断のバンドが試験をしたマイクロピラーで観測された。
図12は、実施例の金属ガラス膜の高分解透過電子顕微鏡像(HRTEM像とも呼ぶ)を示す図である。透過型電子顕微鏡は、日本電子株式会社(JEOL)製(JEM−2100F)を使用した。加速電圧は200kVである。
図12に示すように、5nmの薄い試料の位相コンラスト像から明確な周期的なコントラストが観察されなかった。これは、実施例の金属ガラス膜も比較例2の金属ガラス塊と同様に、無秩序の非晶質(アモルファス)の構造を有していることを示している。
図13は、実施例の金属ガラス膜の選択領域の制限視野電子線回折像(SAEDとも呼ぶ)を示す図である。図には、制限視野電子線回折像とシンクロトロンのXRD(S(Q))の分布も示している。S(Q)は、構造因子であり、Qは散乱ベクトルである。
図13に示すように、実施例の金属ガラス膜の制限視野電子線回折像は、実施例の金属ガラス膜が非晶質(アモルファス)の構造であることを示している。
制限視野電子線回折像の強度分布の主なピークは、図3に示したXRDと良く一致している。このことは、実施例の金属ガラス膜をTEMの測定のために非常に薄くして箔とした構造においても、図1で説明したDSC曲線やXRDの測定で使用した厚い金属ガラス膜の結果と同じであることを示している。
HRTEMの位相コントラストと異なり、STEM(走査型透過電子顕微鏡像)は、局所的な不均一に敏感である。このため、STEMは、実空間における局所的な原子配列を写し出す。
図14は、実施例の金属ガラス膜のSTEMによる明視野像を示す図である。図14に示すように、実施例の金属ガラス膜は、非晶質(アモルファス)の構造であることを示している。
図15は、実施例の金属ガラス膜のSTEMによるHAADF(高角散乱環状暗視野)像を示す図である。図15に示すように、実施例の金属ガラス膜は、1〜2nmの秩序だったドメインが観察される。
従って、図14及び図15に示すように、実施例の金属ガラス膜では、1〜2nmの秩序だったドメインを持った明確なコントラストの変化が観察される。
HAADF像のコントラストは、構成元素の原子数に結びついているので、秩序だったドメインは明らかに、図3に示すPDF分布により明らかにされた化学的な秩序と関連している。しかしながら、明視野(恐らくZrリッチ)と暗視野(恐らくCuリッチ)に関わらず、秩序だった局所構造が、実空間像から同定される。
化学的に秩序だった原子構造を明らかにするために、ABED(Angstrom Beam Electron Diffraction、非特許文献5参照、以下、オングストロームビーム電子回折法と呼ぶ)を使用した。秩序だったドメインから取得したABEDパターンの回折ベクトルの定量的な測定から、局所的な秩序は、合金における単純などの結晶構造とも一致しないということを示している。
代わりに、大部分の回折パターンは、MD(分子動力学)シミュレーションにより予測された四元合金の一般的なボロノイ二十面体に適合した。
特に、中範囲規則(Midium Range Order、以下MROとも呼ぶ)のドメイン(クラスターとも呼ばれている)は、しばしば<0 2 8 1>又は<0 0 12 0>構造を有している。これらの構造は、局所結晶のような立体対象を有している歪んだ二十面体である。中範囲規則構造は、オングストロームビーム電子回折法により測定できるパラメータであり、1nm(10Å)〜3nm(30Å)程度の値である。中範囲規則は、後述する短範囲規則の3Å〜10Å、好ましくは、5Å〜10Åよりも長い値となる。
図16は、実施例の金属ガラス膜のABED(オングストロームビーム電子回折法)解析を示す図であり、(a)は金属ガラス膜中のMROで取得した典型的なABEDパターン、(b)はABEDパターンのシミュレーション、(c)はMD(分子動力学)シミュレーションの原子配置を示す図である。
歪んだ二十面体のクラスターは通常の金属ガラスで頻繁に観測されるけれども、それらは、通常、短範囲規則(Short Range Order)構造として現れる。短範囲規則は、3〜10Å、好ましくは、5〜10Åの値である。
歪んだ二十面体の中範囲規則構造の形成は、実施例の金属ガラス膜の構造の由来と推測される。
金属ガラスのMROは、通常、結晶秩序又は二十面体に固く結びついた、原子クラスターの群とみなされている(非特許文献6参照)。
実施例の金属ガラス膜の構造で観察された、MROを有している局所結晶のような立体対象の歪んだ二十面体は、従来の理論的考察や実験成果に加えて、MROとガラス安定性との関係において、本発明で新たに見出された知見である。MROは、通常エネルギーが最小の位置に数十から数百の共同する原子を含むので、液体の徐冷や高温における熱処理により多数の歪んだ二十面体を形成することは実際的ではない。
他方、高温における遅い堆積は、後から到着する原子が埋め込まれる前に、堆積された原子が高い効率でMROが充填されるため試料の表面で十分な時間で再配列される。
高温における遅い堆積によって、より高い運動エネルギー又は応力の印加が、MROを過冷却液体領域で活性又は変化させるのに必要であることが分かった。実施例で行った高温における遅い堆積によって金属ガラス膜を得ることで、高密度の原子充填を有している低エネルギーのMROが得られる。本発明の金属ガラス膜により、従来の金属ガラスよりもさらに高い安定性を備えた金属ガラスを提供し得ることが期待される。
マイクロスコピックな密度測定により、原子充填が確認されている。
X線反射率測定の結果、実施例の金属ガラス膜の密度は6.93g/cmであり、通常の金属ガラスの密度は6.89g/cmであった。つまり、実施例の金属ガラス膜の密度は、従来の金属ガラスの密度よりも約0.5%大きいことが分かった。
本発明の金属ガラス膜では、MROにより高密度の原子充填がされる。これにより、本発明の金属ガラス膜は、従来の金属ガラスよりも高い密度となる。このように、実施例の金属ガラス膜の密度が高いことから、従来の金属ガラスよりも機械的な特性及び熱的安定性が高いことが分かる。
(スパッタリングにおける基板温度依存性)
スパッタリングにおける基板温度依存性を調べた。
スパッタリングにおける基板温度を、200℃(473K)、230℃(503K)、250℃(523K)、260℃(533K)、270℃(543K)、280℃(553K)、290℃(563K)、300℃(573K)、320℃(593K)、350℃(623K)、370℃(643K)、380℃(653K)、390℃(663K)として形成して得た実施例の金属ガラス膜の熱的及び機械的な特性を調べた。
図17は、基板温度を室温、230℃、250℃としたときのDSC曲線を示す図である。図の横軸は温度(℃)、縦軸は吸熱(J/gK)である。
図17から、基板温度が室温、230℃では発熱反応が観測されるので、例えば比較例1のような従来のスパッタリングで形成した金属ガラス膜であることが分かり、基板温度が250℃では吸熱反応だけが観察される本発明の金属ガラス膜となることが分かる。
図18は、基板温度を250℃、260℃、270℃、280℃、290℃、300℃としたときのDSC曲線であり、(a)は、100〜600℃、(b)は、260〜510℃の拡大図である。図の横軸は温度(℃)、縦軸は吸熱(J/gK)である。
図18から、基板温度が250〜290℃では大きな発熱があり、吸熱のピークが約410℃近傍にあることが分かる。
図19は、基板温度を300℃、320℃、350℃、370℃、380℃、390℃としたときのDSC曲線であり、(a)は、300〜1100℃、(b)は、450〜800℃の拡大図である。図の横軸は温度(℃)、縦軸は吸熱(J/gK)である。
図19から、基板温度が300〜370℃ではTxが増大し、370℃以上では減少することが分かる。
図20は、基板温度を変えたときの実施例の金属ガラス膜のTg及びTxを示す図である。図20に示すように、基板温度が370℃のときにTg及びTxが最大値を示し、Tgは526K、Txは753Kとなる。
図21は、基板温度を変えたときの実施例の金属ガラス膜のXRDを示す図であり、(a)は基板温度が200℃、230℃、250℃、260℃、270℃、280℃、290℃、300℃、320℃、(b)は基板温度が300℃、320℃、350℃、370℃、380℃、390℃である。
図21に示すように、基板温度が380℃及び390℃以外では、基板温度の上昇に従って第1ピークの角度が減少することが分かる。
金属ガラス膜を形成する際のスパッタリング中の基板温度を変えて得られた実施例の金属ガラス膜のXRDにおける第1ピーク及び第2ピークとFWHMを纏めて表4に示す。表4から、金属ガラス膜のXRDの第1ピ−クは、2θが36.95〜36.94°、第1ピ−クのFWHMは、6.33〜8.48°の範囲である。同様に、金属ガラス膜のXRDの第2ピ−クは、2θが64.67〜66.32°、第2ピ−クのFWHMは9.05〜11.58°の範囲である。
表4に示すように、実施例の金属ガラス膜では、金属ガラス塊に比較して、基板温度が370℃近傍で第1ピークの角度は最小となり、FWHMが大きくなることが分かる。
図22は、基板温度を変えたときの実施例の金属ガラス膜のTx及び硬さを示す図である。図22に示すように、基板温度が370℃のときにTx及び硬さが最大値を示し、Txは753Kのときの硬さは、12.87±0.97GPaである。
図23は、基板温度を変えたときの実施例の金属ガラス膜のTx及びヤング率を示す図である。図23に示すように、基板温度が370℃のときにTx及びヤング率が最大値を示し、Txは、753Kのときのヤング率は、181.12±6.40GPaである。
金属ガラス膜を形成する際のスパッタリング中の基板温度を変えて得られた実施例の金属ガラス膜の硬さとヤング率を纏めて表5に示す。
金属ガラス膜を形成する際のスパッタリング中の基板温度を変えて得られた金属ガラス膜のDSCで測定した熱的パラメータ、硬さ及びヤング率を纏めて表6に示す。本発明の金属ガラス膜の各堆積温度における堆積速度(Vdp)も併せて示している。表6に示すように、本発明の金属ガラス膜は、堆積温度、つまり基板温度が250℃以上390℃以下で得られ、堆積速度は、0.18〜0.23nm/sである。さらに、本発明の金属ガラス膜では、Tgは749〜799K、Txは876〜1026K、Tlは1138〜1144K、ΔTxは127〜227Kの範囲であることが分かる。金属ガラス膜の硬さは、9.78±0.18GPaから12.87±0.97GPaである。つまり、金属ガラス膜の硬さは、9.6GPaから13.84GPaの範囲である。また、金属ガラス膜のヤング率は、134.74±2.52GPaから181.12±6.40GPaであることが分かる。つまり、金属ガラス膜のヤング率は、132.22GPaから187.52GPaの範囲である。
(比較例3)
二元のCuZr金属ガラスの組成では、スパッタリングで形成しても実施例のような金属ガラス膜は得られなかった。CuZrの組成は、Cu51.06〜57.82Zr49.94〜42.18である。
本発明のZr55Cu30NiAl10の組成の金属ガラス(好ましくは金属ガラス膜)は、非常に優れた機械的特性及び熱力学的な安定性を有している。
本発明の金属ガラスは、単一のターゲットによるRFマグネトロンスパッタリングを、高い基板温度で遅い堆積速度で行うことにより、金属ガラス膜として製造することができる。
本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
本発明の金属ガラスは、熱的安定性及び機械的な強度が要求されるメムス(Micro Electro Mechanical Systems、MEMS)中の部品の材料、ナノインプリント転写用金属ガラス膜、表面被覆材料、電子素子、磁気素子の材料等に適用することができる。

Claims (12)

  1. Zr55±10Cu30±5Ni5±4Al10±5の組成を有している金属ガラスであって、
    前記金属ガラスのTg(ガラス転移温度)が720〜850Kである、金属ガラス。
  2. Zr55±10Cu30±5Ni5±4Al10±5の組成を有している金属ガラスであって、
    前記金属ガラスのTx(結晶化開始温度)が760〜1100Kである、金属ガラス。
  3. 前記金属ガラスのTx(結晶化開始温度)と前記Tgとの差ΔTx(過冷却液体領域)が40〜300Kである、請求項1又は2に記載の金属ガラス。
  4. 前記金属ガラスの密度が6.5〜7.5g/cmである、請求項1〜3の何れか1項に記載の金属ガラス。
  5. 前記金属ガラスは、中範囲規則構造を有している、請求項1〜4の何れか1項に記載の金属ガラス。
  6. 前記金属ガラスのXRD(X線回折パターン)において、
    第1ピ−クにおける2θが36.00〜38.00°であり、
    第1ピ−クにおけるFWHM(半値幅)が5.70〜9.00°である、請求項1〜5の何れか1項に記載の金属ガラス。
  7. 前記金属ガラスのXRD(X線回折パターン)において、
    第2ピ−クにおける2θが64.00〜67.00°であり、
    第2ピ−クにおけるFWHM(半値幅)が9.00〜12.00°である、請求項1〜6の何れか1項に記載の金属ガラス。
  8. 前記金属ガラスの硬さは、8.00〜15.00GPaである、請求項1〜7の何れか1項に記載の金属ガラス。
  9. 前記金属ガラスのヤング率は、120〜200GPaである、請求項1〜8の何れか1項に記載の金属ガラス。
  10. Zr55±10Cu30±5Ni5±4Al10±5の組成を有する金属ガラス塊を形成し、
    前記金属ガラス塊からスパッタリングのターゲットを形成し、
    前記ターゲットのスパッタリングにより基板上に金属ガラス膜を製造する方法であって、
    前記スパッタリングが、50℃以上の前記基板の温度の下で行われ、
    前記金属ガラス膜が、請求項1〜9の何れか1項に記載の金属ガラスの金属ガラス膜である、金属ガラス膜の製造方法。
  11. 前記スパッタリングの堆積速度が0.24nm/s以下である、請求項10記載の金属ガラス膜の製造方法。
  12. 前記スパッタリングは、直流又は高周波のマグネトロンスパッタリングで行われる、請求項10又は11に記載の金属ガラス膜の製造方法。
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