JP2015059105A - オクトレオチド類似体及びそれを用いた放射性画像診断剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】腫瘍集積性に優れるとともに、長時間にわたって腎集積が低減されたオクトレオチド類似体を提供する。
【解決手段】下記式(1)の配列で表わされるオクトレオチド類似体又はその塩。
DTPA-Phe-X-D-Phe-Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys-Thr(ol) …(1)
(式(1)中、Xは酸性アミノ酸であり、N末端のPhe残基はD体及びL体の何れであってもよく、Thr(ol)はL-トレオニノール残基を示し、2つのCys残基は互いにジスルフィド結合している。)、及び、
上記のオクトレオチド類似体と放射性インジウムとの錯体、並びに、該錯体を有効成分として含有する放射性画像診断剤が提供される。
【選択図】なし

Description

本発明は、腎集積が低減されかつ腫瘍集積性が向上した新規オクトレオチド類似体及びそれを用いた放射性画像診断剤に関する。
放射性金属元素で標識されたオクトレオチドや、その誘導体は、ソマトスタチン受容体を発現する腫瘍の診断や治療に有用である(非特許文献1-3)。しかし、かかる放射性標識オクトレオチド誘導体は腎臓へ非特異的に集積することから、診断時には精度の低下、治療時には過剰の放射線被曝を受けることが問題となっている (非特許文献4-7)。また、オクトレオチド誘導体の腫瘍集積性もあまり高くないことから、その向上も求められていた。
腎臓の被曝を低減するためには、臨床において多量の塩基性アミノ酸の投与が行われている(非特許文献8及び9)。これに対して、本発明者等は、111In-DTPAで標識されたオクトレオチド(本明細書において「111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチド」と表示することもある)の化学構造を修飾することによる腎集積低減法を検討し、これまでに酸性アミノ酸による負電荷の導入が、腎集積の低減に有用である可能性を示してきた(非特許文献10-12)。
実際に、本発明者等は、オクトレオチドのN末端にAsp残基を導入したペプチド(本明細書において「Asp0-D-Phe1-オクトレオチド」と表示することもある)に111In-DTPAで標識したオクトレオチド類似体(本明細書において「111In-DTPA-Asp0-D-Phe1-オクトレオチド」と表示することもある)は、インビボで腫瘍集積が111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドと同等である一方で、腎集積は111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドと比べて半減することを報告した (非特許文献13)。
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しかしながら、111In-DTPA-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドは、投与後、長時間が経過すると、111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドの腎集積を上回るという問題があった(非特許文献13)。
本発明は、腫瘍集積性に優れるとともに長時間にわたって腎集積が低減されたオクトレオチド類似体を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、D-Phe1-オクトレオチドのN末端に、酸性アミノ酸を導入し、この酸性アミノ酸のN末端に更にPhe残基を導入したオクトレオチド類似体が、長時間にわたって腎集積を低減させるだけでなく、驚くべきことに、腫瘍集積性を有意に向上させることも見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、一局面によれば、下記式(1)の配列で表わされるオクトレオチド類似体又はその塩を提供する。
DTPA-Phe-X-D-Phe-Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys-Thr(ol) …(1)
(式(1)中、Xは酸性アミノ酸であり、N末端のPhe残基はD体及びL体の何れであってもよく、Thr(ol)はL-トレオニノール残基を示し、2つのCys残基は互いにジスルフィド結合している。)
本発明のオクトレオチド類似体は、腫瘍集積性に優れるとともに、長時間にわたって腎集積が低減されているので、放射性画像診断剤として有用である。
なお、本明細書において「D-Phe-Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys-Thr(ol)(ただし、Thr(ol)はL-トレオニノール残基を示し、2つのCys残基は互いにジスルフィド結合している)」を「D-Phe1-オクトレオチド」と表示することもある。
また、本発明は、他の局面によれば、上記本発明のオクトレオチド類似体と、放射性インジウム(In-111)との錯体を提供する。
したがって、本発明は、他の局面によれば、上記本発明の錯体を有効成分として含有する放射性画像診断剤を提供する。
本発明によれば、腫瘍集積性に優れるとともに長時間にわたって腎集積が低減されたオクトレオチド類似体が提供される。
本発明のオクトレオチド類似体の一態様である111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドを示す模式図である。 実施例3における111In-DTPA-オクトレオチド誘導体の電気泳動法による分析結果を示す図である。 実施例4における細胞取込み実験の結果を示す図である。 実施例6における111In-DTPA-オクトレオチド誘導体の担がんマウスでの体内挙動を示す図である。 実施例8におけるインビトロ受容体結合試験の結果を示す図である。
(本発明のオクトレオチド類似体及びその製造方法)
本発明のオクトレオチド類似体のペプチド部分を規定する式(1)中、Xは酸性アミノ酸であればよく、例えば、アスパラギン酸又はグルタミン酸が挙げられる。腫瘍への集積性を高める観点からは、アスパラギン酸が好ましい。
N末端のPhe残基はD体及びL体の何れであってもよいが、その他のアミノ酸残基はD-の接頭辞が付いている場合はD体を意味し、D-の接頭辞が付いていない場合はL体を意味する。N末端のPhe残基は安定性及び腫瘍集積性の点からD体であることが好ましい。
図1には、本発明のオクトレオチド類似体のより好ましい態様を示す。
なお、式(1)中のアミノ酸残基の表記はアミノ酸の三文字略号に従ったものである。
本発明のオクトレオチド類似体は、塩を形成していてもよく、かかる塩が製薬学的に許容される塩において本発明に包含される。本発明の「塩」には、無機若しくは有機の酸、又は、無機若しくは有機の塩基から誘導されるものが挙げられる。具体的には、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、p‐トルエンスルホン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、マロン酸塩、ナフタレン‐2‐スルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、アミン塩及びアンモニウム塩等が挙げられるが、これらに限定はされない。
本発明のオクトレオチド類似体は、例えば、公知のペプチド合成法に従って、式(1)の配列を備えたペプチド部分を合成した後、公知の方法に従って、該ペプチドにジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)をキレート部位として結合させることにより製造できる。DTPAは、放射性金属の結合部位となる。放射性金属としては、放射性インジウムが好ましい。
(本発明の錯体及びその製造方法)
本発明の錯体は、上記本発明のオクトレオチド類似体と、放射性インジウムとの錯体である。放射性インジウムとしては、SPECTなどの核医学用画像診断装置で体外から正確に放射線を検出でき、適度な半減期を有する点で、インジウム‐111(111In)がより好ましい。
本発明の錯体は、上記本発明のオクトレオチド類似体又はその塩に、放射性インジウムイオンを添加してDTPAに111Inを担持させることにより製造することができる。また、本発明の錯体は、上記本発明のオクトレオチド類似体又はその塩と、pH緩衝液、安定化剤、等張化剤、保存剤等の医薬的に許容される添加剤とを含むキットに、放射性インジウムイオンを添加して作製してもよい。
放射性インジウムイオンとしては、好ましくは、放射性塩化インジウム([111In]InCl3)が用いられる。放射性インジウムイオンは、溶液として用いられることが好ましく、より好ましくは水溶液であり、塩酸などの酸性溶液が更に好ましい。
(本発明の放射性画像診断剤)
本発明の放射性画像診断剤は、他の一般に知られている放射性画像診断剤と同様に、本発明の錯体を所望により適当なpHに調整された水又は生理食塩水若しくはリンゲル液等に配合させた液として調製することができる。この場合における本発明のオクトレオチド類似体の濃度は、配合された本類似体の安定性が得られる濃度以下とする必要がある。本類似体の投与量は、診断するために十分な濃度であれば特に限定されない。本類似体は、被験者の状態に応じた必要量を、静脈投与又は局所投与して使用することができる。
(診断可能な疾患)
本発明のオクトレオチド類似体は腎集積が低減され腫瘍集積性が向上しているので、該類似体を有効成分として含有する本発明の放射性画像診断剤は、各種の増殖性疾患の診断に使用することができる。増殖性疾患としては、例えば、悪性腫瘍を初めとする腫瘍が挙げられる。悪性腫瘍としては、例えば、消化管ホルモン産生腫瘍(カルチノイド腫瘍、インスリン産生腫瘍、ガストリン産生腫瘍、VIP産生腫瘍)が挙げられる。
つづいて、本発明の効果について説明する。本発明のオクトレオチド類似体は、従来のD-Phe1-オクトレオチドのN末端に、酸性アミノ酸、及び、フェニルアラニンをこの順で導入した化合物で、投与後長時間にわたって腎集積が低減されるだけでなく、腫瘍集積性も向上する。したがって、本発明の錯体は、腫瘍の放射性画像診断剤の有効成分として用いることができる。
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。
なお、本実施例においては特に断りのない限り、以下の試薬及び機器を用いて分析・測定を行った。
(試薬及び溶媒)
O-(t-Butyl)-L-threoninol-2-chlorotrityl樹脂、Fmoc-Cys(Acm)-OH、Fmoc-Thr(t-Bu)-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-D-Trp(Boc)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-D-Phe-OH、Fmoc-Asp(Ot-Bu)-OHは渡辺化学工業株式会社より購入した。
N,N'-ジイソプロピルカルボジイミド、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール1水和物は国産化学株式会社より購入した。
特級ピペリジン、特級トリフルオロ酢酸 (TFA)、は Sigma Aldrich Chem. Co. より購入した。
特級グアニジン塩酸塩は和光純薬工業より購入した。
塩化インジウム-111 (74 MBq/mL、塩酸溶液(濃度 0.02 mol/L)) は日本メジフィジックス社より購入した。
mDTPA(1-tert-Butyl Hydrogen 3,6,9-Tris((tertbutoxycarbonyl)methyl)-3,6,9-triazaundecanedioic Acid)
はArano らの方法 (非特許文献17) に従って合成した。
HPLC の溶離液は HPLC グレードの有機溶媒および蒸留水製造装置 (ORGANO PURELAB ultra) で得た蒸留水を用いた。
その他の試薬および溶媒については、特に記載のない限り、市販の特級品をそのまま用いた。
(機器)
質量分析は JEOL JMS-T100LP を用いて測定した。分析 HPLC には、日立ハイテクノロジー社製送液ポンプ L-2130、同社製 UV 検出器 L-2400、ナカライテスク社製 C18逆相カラム 5C18-ARII 4.6 x 250 mm を使用した。分取HPLC には 島津製作所製送液ポンプ LC-10ADVP、同社製 UV 検出器 SPD-10AVP、ナカライテスク社製 C18逆相カラム 5C18-ARII 10.0 x 250 mm を使用した。
実施例1(DTPA-D-Phe -1 -Asp 0 -D-Phe 1 -オクトレオチドの合成)
下記(1)及び(2)に示す 側鎖保護 Nα-Fmoc-アミノ酸誘導体の縮合反応とNα-Fmoc-基の除去を繰り返すことで、保護ペプチド鎖を延長した後、下記(3)の方法でDTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチド(図1に示す構造を有する化合物)を得た。
(1)側鎖保護Nα-Fmoc-アミノ酸誘導体の縮合反応
O-(t-Butyl)-L-threoninol-2-chlorotrityl 樹脂(0.51 mmol/g, 50 mg, 26 μmol)に側鎖保護Nα-Fmoc-アミノ酸誘導体 (65μmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール1水和物(65μmol)、N,N'-ジイソプロピルカルボジイミド(65μmol) を加え、N,N-ジメチルホルムアミド (DMF)2 mL に溶解し、室温で 1.5 時間振盪撹拌した。振盪撹拌後充分量のDMF で 樹脂を洗浄後、樹脂の一部を採取し Kaiser 試験(非特許文献18参照)を行い、陰性を示すまで上記の縮合反応を繰り返した。
(2)Nα-Fmoc 基の除去
Kaiser 試験(非特許文献18参照)で陰性を示した樹脂に20 v/v% ピペリジン の DMF 溶液3 mLを加え、20 分間振盪撹拌した。反応終了後、充分量のDMFで樹脂を洗浄した。
なお、側鎖保護 Nα-Fmoc-アミノ酸誘導体には Fmoc-Cys(Acm)-OH、Fmoc-Thr(t-Bu)-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-D-Trp(Boc)-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-D-Phe-OH、Fmoc-Asp(Ot-Bu)-OH を用いた。
(3)mDTPAの結合及び樹脂からの切り出し
保護ペプチド鎖を導入した樹脂を DMF 中で、トリフルオロ酢酸タリウム (52μmol) で 1 時間処理し、樹脂を充分量の DMF およびジクロロメタンで洗浄した。その後、樹脂にmDTPA (65μmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール1水和物(65μmol)、N,N'-ジイソプロピルカルボジイミド(65μmol) を加え、DMF 中、室温で 1.5 時間振盪撹拌した。得られた mDTPA の結合した保護ペプチド樹脂にTFA/トリイソプロピルシラン/水 = 95/2.5/2.5 の混液を加え、室温で 2 時間撹拌した。反応溶液を氷冷し、ジエチルエーテルを加え、粗ペプチドを析出させた後、6 mol/L 塩酸グアニジン水溶液でペプチドを抽出した。ジエチルエーテルで 2 回洗浄した後、樹脂をグラスフィルターで除去し、抽出溶液中に含まれるエーテルを減圧下で留去した。残渣を孔径 0.45 mm の水系フィルターでろ過し、逆相 HPLC (ナカライテスク; 5C18-ARII, 10.0 x 250 mm, 254 nm, 5.7 mL/min, 20 v/v% シアノメタン水溶液 (0.1 v/v% TFA 含有)) により精製し、目的化合物 (11.6 mg, 7μmol, 27%) を白色羽毛状物質として得た。ESI-LRMS m/z 1732 [M-H+2K]+
実施例2( 111 In-DTPA-D-Phe -1 -Asp 0 -D-Phe 1 -オクトレオチドの合成)
実施例1で得られたDTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチド(10μg)、クエン酸三ナトリウム (4.91 mg)、クエン酸 (0.37 mg)、イノシトール (10.0 mg)、ゲンチジン酸 (2.0 mg) を含む超純水の溶液 (300μL) を凍結乾燥することで、111In 標識用キットを作製した。得られたキットに 111InCl3 の 0.02 mol/L 塩酸溶液 (74 MBq/mL, 0.1-1.0 mL) を加え、1 時間室温で静置した。その後、細胞実験に用いる場合には、キット中に存在するペプチドの化学形を統一するために、非放射性の三塩化インジウム(6.3 nmol)、未反応の非放射性 インジウムイオンを捕捉するためエチレンジアミン四酢酸(EDTA) (最終濃度 10 mmol/L)、未反応のEDTAを捕捉するため塩化カルシウム(最終濃度 10 mmol/L) を順次加えた。なお、対照として、実施例1及び2の方法と同様にして111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドを作成した。得られた111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチド及び111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドの放射化学的純度は、何れもセルロースアセテート膜電気泳動法(CAE) および薄層クロマトグラフィー(TLC)で95%以上であった。
実施例3(電気泳動による電気的性質の測定)
尿および血液における 111In 標識ペプチドの電気的性質を比較するためにセルロースアセテート膜電気泳動法(CAE) (Separax-SP, Joko) により分析した。すなわち、実施例2で得られた111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチド及び111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドを、尿、血液の pH に相当する pH 5.0、6.0、7.0 および 7.4 (尿:pH 5.0〜 7.4、血液:pH 7.4) の 20 mmol/Lリン酸緩衝液を用い、40 分間 1.0 mA/cm の条件で電気泳動した。
図2にpH 5.0、6.0、7.0 および 7.4での 111In-DTPA-標識ペプチドの CAE の結果を示す。図2から明らかなように、どのpHでも 111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドに比べて 111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドは陽極側へ移動した。
実施例4(細胞取り込み実験)
ラット膵臓がん細胞AR42Jは DS ファーマメディカルより購入した。AR42J 細胞はHam’s F12K培地(10 v/v% FBS、100 units/mL ペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン含有) を用いて37℃、5% CO2の条件下で培養し、常法により維持した。
細胞取り込み実験 (非特許文献19)は 次の手順で3回実施した。AR42J 細胞を 5 x 105 個/ウェルの濃度で 12-ウェルプレートに播種し、37℃、5% CO2 の条件下で 2 日間培養した。
2 日後、培地を除去し、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS) (1 mL x 1) で洗浄し、取り込み実験用のHam’s F12K 培地 (0.1 v/v% FBS、ペニシリン、ストレプトマイシン含有) 0.5 mL で 2 時間インキュベートした。2 時間後、111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチド(対照)および111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドを含む取り込み実験用培地 0.5 mL をそれぞれのペプチドの最終濃度が 1 nmol/L になるように添加し、所定の時間インキュベートした。インキュベートを開始して0.5、1、2、4 時間経過した後、培地を除去し、10 v/v% FBS を含有する Ham’s F12K 培地 (1 mL x 1)、D-PBS (1 mL x 1) で洗浄した。
0.1 v/v% Triton X-100/ 0.3 mol/L水酸化ナトリウム水溶液 (1 mL) を加えて細胞を溶解し、その 500μLの放射能を測定した。また、それぞれのウェルのタンパク量をmicroBCA 法 (Analytical Biochemistry; 1985, 150, 76-85)で定量し、測定した放射能を、タンパク1 mgあたりの量に換算し、%dose/mg proteinとして標準化した。なお、結果は、平均 ± 標準偏差 (mean ± S.D.) で示し、Student のt検定により対照群との間の有意差を検定した。
図3に細胞取り込み実験の結果を示す。111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドの細胞への取り込みは、111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドと比べて、インキュベート 4時間後には約 7 倍だった。
実施例5(血漿中安定性実験)
実施例2で得られた111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドの溶液 (8μL, 40 ng, 592 kBq) を ddY 系雄性マウスの血漿 (400μL) に加え、37℃でインキュベートした。インキュベートを開始して1および3 時間後にインキュベーション溶液の一部を取り出し、直ちに CAE および TLCにより分析した。また、3 時間後のインキュベーション溶液の一部を分画分子量 10,000 の限外濾過膜 (Amicon Ultra, Millipore 社) で濾過し、逆相 HPLC により分析した。
その結果、95% 以上が未変化体として残存していることが 逆相HPLCより確認できた(標識時: 96.4%, 1時間点: 96.6 ± 0.15%, 3時間点: 97.1 ± 0.18%)。CAEおよびTLC による分析でも同様の結果を示した。
実施例6(担がんマウスでの体内分布実験)
雄性 8 週齢の Balb/c Slc-nu/nu ヌードマウスを 1 週間訓致し、5 x 106 個 の AR42J 細胞を 100μLのリン酸緩衝生理食塩水で懸濁し、左背側部へ移植した。AR42J 移植後 14〜16 日後に、0.1 w/v% BSA 含有10 mmol/L HEPES 緩衝生理食塩水 (100μL) に溶解した放射性ペプチド、すなわち、実施例2で得られた111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチド又は111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチド (0.1μg) を尾静脈より投与した。投与後それぞれ 30分点、1 時間点、3時間点、24 時間点の各時間点で、エーテル麻酔下、心臓より全採血致死(各時間点4匹)させ、関心臓器を摘出、重量の測定後に放射能を測定した。測定した放射能は組織重量 1 g あたりの量に換算し %ID/g として標準化した。なお、結果は、平均 ± 標準偏差 (mean ± S.D.) で示し、Student のt検定により対照群との間の有意差を検定した。
結果を表1及び図4に示す。どちらのペプチドも血中から速やかに放射能が消失した。しかし、脾臓、膵臓、肺、腎臓において全ての時間点で有意差が認められた。脾臓、膵臓、肺においては 111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドの放射能の集積が 111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドに比較して有意に高く、一方で腎臓においては、全ての時間点で 111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドの放射能集積が有意に低かった。腫瘍では全ての時間点で 111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドの集積が有意に高く、その集積量は 111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドと比較して、投与後30分点と 1時間点 で約 2 倍、投与後 3時間点で 約 3.4 倍、投与後 24 時間点 では約 4.4 倍であった (図4)。
Figure 2015059105


実施例7(インビボ 阻害実験)
担がんマウスを実施例6に示す方法と同様にして作製し、111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチド(0.1μg) と非放射性のオクトレオチド (10μg) を溶解した 0.1 w/v% BSA 含有10 mmol/L HEPES 緩衝生理食塩水 (100μL) を尾静脈より投与した。投与 3 時間後、エーテル麻酔下、心臓より全採血致死(頭数4匹)させた。以降の操作は実施例6と同様に行い、各臓器での放射能の分布を測定した。また対照群として、非放射性オクトレオチドを含有せず111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドのみ含有した(0.1μg) 0.1 w/v% BSA 含有10 mmol/L HEPES 緩衝生理食塩水 (100μL)を調製し、上記と同様にして担がんマウスに投与後、3時間点での各臓器の放射能の分布を測定した。結果を表2に示す。なお、結果は、平均 ± 標準偏差 (mean ± S.D.) で示し、Studentのt検定により対照群との間の有意差を検定した。
表2に示される通り、非放射性オクトレオチド共存下で111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドの腫瘍、膵臓、肺での集積は、非放射性オクトレオチド非共存下での投与群と比較して有意に低下し、逆に血液、肝臓、脾臓、腎臓の集積は有意に高かった。
Figure 2015059105
実施例8(インビトロ受容体結合試験)
111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチド及び111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドのソマトスタチン受容体親和性を下記の方法により評価した。
培養 AR42J 細胞をトリプシンで処理し、10 mmol/Lトリスヒドロキシメチルアミノメタン―塩酸(Tris-HCl)緩衝液 (pH = 7.4、塩化マグネシウム10 mmol/L、バシトラシン10μmol/L含有) に懸濁させ、5 sec x 3 回、4℃でホモジネートした。得られた懸濁液を 4℃下、遠心加速度 39,000 g で 10 min 遠心した。得られたペレットを 10 mmol/L Tris-HCl緩衝液で 1 度洗浄し、Bradford 法(Analytical Biochemistry;1976, 72, 248-254)で総タンパク量を算出した。この懸濁液を、細胞膜懸濁液として以下使用した。
下記反応用緩衝液 (250μL) に、上記の通り調製した細胞膜懸濁液 (20μg) と、非放射性インジウムイオンと結合させたペプチドとして In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドまたはIn-DTPA-D-Phe1-オクトレオチド(最終濃度10-12〜10-6 mol/L) 、および [125I]Tyr11-somatostatin-14 (0.75 kBq) をそれぞれ加え混合溶液を作成し、30℃で 25 分間インキュベート後、あらかじめ 0.1 v/v% ポリエチレンイミンに浸漬したガラス繊維ろ紙 (Whatman GF/B) 上に急速吸引ろ過し、ただちにろ紙を氷冷した洗浄用緩衝液 (2 mL) で 5 回洗浄した後、ろ紙の放射能を測定し、In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドおよびIn-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドの阻害濃度IC50を測定した。また、上記混合溶液にオクトレオチド (最終濃度 10-4 mol/L) を添加したものを用いて、上記と同様の方法で得られたろ紙の放射能を、In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドまたはIn-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドの非特異的結合量とした。結果を図5に示す。
<反応用緩衝液>
1 w/v% BSA、塩化マグネシウム5 mmol/L、アプロチニン200 KIU/mL、バシトラシン0.02 mg/ mL、フッ化フェニルメチルスルフォニル0.02 mg/mLを含有する50 mmol/L HEPES 緩衝液。
<洗浄用緩衝液>
1 w/v% BSAを含有するPBS。
IC50値は、111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドが約 1.6 nmol/Lであるのに対し、111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドが 3.4 nmol/Lであり、前者は後者の約 2.1 倍の高い親和性を示した (図5)。この結果から、111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドの培養AR42J 細胞への高い取り込みは、ソマトスタチン受容体への特異的結合を介したものと考えられる。
以上のとおり、本実施例の111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドは、従来の111In-DTPA-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドのN末端にD-Phe-1を導入した化合物で、投与後長時間にわたって腎集積が低減されるだけでなく、腫瘍集積性も向上した。したがって、本実施例の111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドは、腫瘍の放射性画像診断剤の有効成分として用いることができる。
従来の111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドの場合、体内投与後長時間経過後における腎集積が低かったのに対し、従来の111In-DTPA-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドの場合、体内投与後長時間経過後における腎集積が高かった(非特許文献13)。本実施例の111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドの場合、生成する最終代謝産物がD-Phe1-オクトレオチドと同じ化合物と推定され(非特許文献14-16)、このことが、111In-DTPA-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドと異なり、投与後長時間経過後でも腎集積を低下させたものと考えられる。
また、従来の111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドと従来の111In-DTPA-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドの腫瘍集積性がインビボで同等であったことに鑑みれば、本実施例の111In-DTPA-D-Phe-1-Asp0-D-Phe1-オクトレオチドが従来の111In-DTPA-D-Phe1-オクトレオチドよりも腫瘍集積性が有意に向上したことは予想外の驚くべき結果である。
本発明のオクトレオチド類似体は、腫瘍集積性に優れるとともに、長時間にわたって腎集積が低減されているので、各種増殖性疾患の放射性画像診断薬の分野で広く利用できる。

Claims (5)

  1. 下記式(1)の配列で表わされるオクトレオチド類似体又はその塩。
    DTPA-Phe-X-D-Phe-Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys-Thr(ol) …(1)
    (式(1)中、Xは酸性アミノ酸であり、N末端のPhe残基はD体及びL体の何れであってもよく、Thr(ol)はL-トレオニノール残基を示し、2つのCys残基は互いにジスルフィド結合している。)
  2. 前記式(1)記載のDTPAは、放射性インジウムとの結合部位である、請求項1記載のオクトレオチド類似体又はその塩。
  3. 前記式(1)中、Xはアスパラギン酸である、請求項1記載のオクトレオチド類似体又はその塩。
  4. 請求項1乃至3いずれか一項に記載のオクトレオチド類似体と、放射性インジウムとの錯体。
  5. 請求項4の錯体を有効成分として含有する放射性画像診断剤。
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