JP2015009080A - 筒形膜モジュールと孔拡散を利用した徐放化局所投与剤およびその製法 - Google Patents

筒形膜モジュールと孔拡散を利用した徐放化局所投与剤およびその製法 Download PDF

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豊充 板井
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征一 真鍋
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Abstract

【課題】
ただ1回の体内投与で、体内の局所部分における薬剤放出の方向とその放出を所望の一定期間で持続して、目的の使用期間後には体内から取り外し可能となる徐放化局所投与剤を提供するにあたって、徐放化剤の形状が複雑になりながらも、徐放化剤の加工精度を向上させる一方で、徐放化剤の作製に使用する接着剤の量を極小化すること。
【解決方法】
薬剤を封入する再生セルロース多孔膜に囲まれた空間をあらかじめ設計された孔特性を持つセルロース誘導体膜の製膜条件を調整することによって、鋳型内でミクロ相分離を生起する簡便なプロセスを確立し、その後ケン化反応をと薬剤を注入し、再生セルロースの接着材量が極小化されて使用できることを特徴とする徐放化局所投与剤。
【選択図】 なし

Description

本発明は、医薬品分野における徐放化局所投与剤およびその製法に関し、更に詳しくは該投与剤は体内に固定的に埋め込まれ1カ月以上の長期にわたって埋め込まれた周辺の局所的な場所で薬理効果を示す投与剤であり、該投与剤の拡散律速を示す箇所が多孔膜で構成され、該多孔性膜をミクロ相分離法で作製する方法に関する該投与剤は主として外科的手法で埋め込まれる。例えば、眼科領域における加齢黄斑変性、増殖硝子体網膜症、糖尿病網膜症などに適用する網膜疾患の徐放化局所投与剤であり、あるいは外科的手術において臓器移植などの際に他人からの組織を体内に移植する際に移植箇所の周辺に埋め込む血液凝固剤や免疫抑制剤を内包した投与剤およびその製法に関するものである。
これまでの徐放化剤は、投与される方法によってその構造が調整される。たとえばマトリックス(支持体としての基質)、マイクロカプセル、多孔膜などが開発され、それぞれの徐放メカニズムおよび徐放特性を生かして医療分野、食品、農業および化学分野などにおいて用途展開がなされてきた。医療用途の代表事例として、緑内障、喘息、癌などのように口以外の投与経路になる外科的ドラッグデリバリーシステムの手法の1つとしてマイクロカプセルの開発が進み、具体的に眼組織においてはステロイドや5−フルオロウラシルの結膜下注射(非特許文献1)のジレンマの解決を目的として、マイクロカプセル製剤の眼内注入(非特許文献2)などが行われている。さらには、特開平5−17370号(特許文献1)では従来よりも少ない手術回数によって疾患部位のみを効率よく治療することを目的として、生分解性高分子であるポリ乳酸あるいはポリ乳酸とグリコール酸の共重合体に薬物を分散させた製剤を眼内に埋め込む療法についての試みがなされている。その一方で、セルロースのような生体内非分解性高分子による試みは、特開2003−192595号(特許文献2)のように薬剤投与後に徐放化剤を摘出する必要が生じるために、摘出が繁雑になるような疾患部位においての使用は避けられてきた。
特開平5−17370号公報 特開2003−192595号公報
中野ら,臨眼,43,1929-1933(1989) 森寺ら,日眼会誌,94,508-513(1990)
医薬品および医薬部外品の製造工程中で利用される素材として最適な再生セルロースの利用が積極的に使用されるケースは、人工腎臓やウイルス除去フィルターなどが主流であった。一方、薬剤単体あるいは徐放化剤として放出する薬物を取り囲むために再生セルロースが使用される場合、人体の体液成分は再生セルロースを分解する酵素などを含まないため、生体内に埋め込まれた再生セルロースは分解することなく体内に留まる。徐放化剤の作製に使用する医療用接着材は少量に留めつつも、薬剤放出の方向とその放出を所望の一定期間で持続させるような加工精度を実現することは必ずしも容易ではない。放出速度、放出場所、放出方向、放出量を設定するには薬剤を埋め込む徐放化投与剤の外壁を構成する再生セルロースの微細構造を厳密に制御することが必要である。さらに徐放化剤を作製する工程においてオートクレーブなどのような熱滅菌を施すと接着材が軟化して徐放化剤の接着部に隙間が生じて、薬剤が不本意に漏れる可能性があった。つまり、治療すべき疾患部には徐放機能を示すセルロースと薬剤以外の素材を極力無くすという課題が残っており、これが疾患部位において徐放化剤が所望の長期間にわたり固定化するという目的達成への障壁となっていた。
本発明者らは、かかる状況に鑑み、徐放化局所投与剤の開発について鋭意検討した結果、薬剤を覆う再生セルロース膜および再生セルロース多孔膜が複雑な形状で且つ極めて小さくても、製膜条件の調整によって従来よりも簡便に且つ精度良く徐放化剤を作製できる方法を見出し本発明を完成するに至った。徐放化剤の微細構造と徐放特性との関連を明らかにし、さらに徐放機構として新たに孔拡散機構が利用できることを発見し本発明に至った。
本発明の最大の特徴は、徐放化機構として孔拡散による物質輸送機構を利用している点にある。ここで孔拡散とは拡散する物質のブラウン運動による拡散を膜内部の孔で実現していることを意味し、この拡散の見掛けの活性化エネルギーが水の拡散の活性化エネルギーに近いことによって認識できる。この孔拡散を徐放化剤として利用できるのは膜としての孔特性が平均孔径5nm〜500nm、膜厚30μm〜1000μmで空孔率は50%以上が必要条件である。本発明で多孔膜となる空孔率が50%以上であり平均孔径が5nm以上の膜である。膜の素材としては親水性でかつ生分解性を示さない安全な素材であることが必要である。具体的には再生セルロース、特にセルロース誘導体をケン化処理で作製された再生セルロースが生体内に埋め込む素材として望ましい。
本発明の第2の特徴は徐放化機能を示す部が該親水性の多孔膜で構成され該膜が円筒形に一括成型され、さらに該膜は多層構造を有している点にある。層の厚さは0.1μm〜0.4μmの厚さを有し、この層はミクロ相分離法で作製できる。多層構造を持つ膜の孔拡散は層に垂直方向の拡散と層に沿った平行方向の拡散の2方向の拡散があり、いずれの拡散方向を利用するかは目的とする拡散物質の濃度勾配の方向によって設定できる。
すなわち本発明は、再生セルロース多孔膜に囲まれた空間に封入してその再生セルロースの分解を必要としないままで使用できることを特徴とする、患部での薬物の放出開始場所と放出方向を定め且つ所望の一定期間持続しうる徐放化局所投与剤に関するものである。患部近傍に局所的に薬物が働くために円筒形に一括成型された徐放剤であり、本発明のさらなる特徴は該円筒状の長さ方向に垂直な方向に多層構造の層が配向して積層した連続体であることである。
本発明の徐放化局所投与剤に用いられる薬物は、例えば眼科系ではシンバスタチン、あるいはキサラタンに含まれるラタノプロストなどをあげることができる。このラタノプロストに類似した化合物としてビタミンAあるいはビタミンB12があげられる。徐放化薬剤の種類としては体液への溶解度が低いことが必要条件である。体液の孔拡散速度は薬剤のそれよりも大きいので該溶解度の高い薬剤の場合には徐放期間が短くなる。
本発明に係る徐放化局所投与剤の形状は筒状に一括で成型が可能であり、実施例に記載された接着法において接着材使用量を極小化して製造することができる。ミクロ相分離を円筒形状の容器内で円筒軸方向に進行させることによって、層状構造を円筒状の長さ方向に垂直に配向した連続体を作ることが可能である。
本発明の徐放化局所投与剤によれば、長期間にわたって組織の局所部に薬物を取り囲む再生セルロースの分解を必要とせずに徐々に放出し続けることができる。さらには実施例に示すように、再生セルロース多孔膜の膜厚、平均孔径を調整することにより、薬物の移動速度を調節できるため、組織内での薬物の放出を一方向に定め且つ比較的短いまたは極めて長い所望の期間をかけて持続的に薬物が放出されるように投与剤を設計することができる。さらに、薬剤の放出開始場所と放出方向を定めることによって、治療すべき疾患部以外へ薬剤が及ぶことが無くなる。薬剤の放出方向は円筒状の側面より放射状である。
以下に実施例を5例にて示し本発明について具体的に説明する。
徐放化剤は再生セルロース多孔膜(平均孔径500nm、空孔率85%、膜厚600μm)によって作製した。再生セルロース多孔膜の形状は鋳型となるガラス管の形状および寸法を選定することによって精度良く作製することが可能であった。ミクロ相分離を生起していない再生セルロース多孔膜の前駆体であるセルロースアセテート溶液をガラス管内部にシリンジで減圧して注入し、セルロースアセテート溶液がガラス管内部に充填された状態で水またはアルコール系溶媒中に浸漬することによってミクロ相分離を起こし、円柱形のセルロースアセテート多孔膜を作製した。0.1規定濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いケン化反応によりセルロースアセテートを再生セルロースへ変化させ、しかる後に徐放される薬剤のモデル物質としてファーストレッドなどの染料を注射器で注入後に、徐放化剤の頭頂部または底面部を接着剤で目止めした。再生セルロース材料の接着は、歯科用光硬化接着剤(4−メタクリロキシエチルトリメリット酸無水物)または皮膚・角膜用接着剤(シアノアクリレート)を使用して行った。接着剤の使用量は、本作製法を用いない場合と比較して約5%までに減らすことが可能となった。作製された徐放化用の円筒状容器の空間部に注入する薬剤の粉末、または溶液の形態にて充填した。
実施例1 酸性染料ファーストレッドAを用いた徐放化局所投与剤
徐放速度の検証として、シンバスタチンやラタノプロストと同程度の分子量を有し、再生セルロースとの相互作用の少ない酸性染料ファーストレッドAを使用して行った。ファーストレッドA(分子量:400.39)を1mg秤量して注射用水1.0mL中にかき混ぜて、この溶液を徐放化剤内に注入して室温下にて48時間静置した。静置前後のファーストレッドAの紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、膜厚0.6mmの単一の再生セルロース多孔膜を介したファーストレッドAの移動量は約1.8%であった。
実施例2 塩基性染料ベーシックブルー7を用いた徐放化局所投与剤の徐放速度の検証
徐放速度の検証として、シンバスタチンやラタノプロストと同程度の分子量を有し、再生セルロースとの相互作用の大きい塩基性染料ベーシックブルー7を使用して行った。ベーシックブルー7(分子量:305.83)を1mg秤量して注射用水1.0mL中にかき混ぜて、この溶液を徐放化剤内に注入して室温下にて48時間静置した。静置前後のベーシックブルー7の紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、膜厚0.6mmの単一の再生セルロース多孔膜を介したベーシックブルー7の移動量は約2.7%であった。
実施例3 直接染料ダイレクトブルー2Bを用いた徐放化局所投与剤の徐放速度の検証
徐放速度の検証として、シンバスタチンやラタノプロストと同程度の分子量を有し、化学構造式が類似した直接染料を使用して行った。ダイレクトブルー2B(分子量:932.75)を2mg秤量して注射用水1.0mL中にかき混ぜて、この溶液を徐放化剤内に注入して室温下にて48時間静置した。静置前後のダイレクトブルー2Bの紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、膜厚0.6mmの単一の再生セルロース多孔膜を介したダイレクトブルー2Bの移動量は約2.9%であった。
実施例4 分散染料ディスパースオレンジ1を用いた徐放化局所投与剤の徐放速度の検証
徐放速度の検証として、シンバスタチンやラタノプロストと同程度の分子量を有し、化学構造式が類似した分散染料を使用して行った。ディスパースオレンジ1(分子量:318.33)を1mg秤量して注射用水1.0mL中にかき混ぜて、この溶液を徐放化剤内に注入して室温下にて48時間静置した。静置前後のディスパースオレンジ1の紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、膜厚0.6mmの単一の再生セルロース多孔膜を介したディスパースオレンジ1の移動量は約2.6%であった。
実施例5 ビタミンB12を用いた徐放化局所投与剤の徐放速度の検証
徐放速度の検証として、シンバスタチンやラタノプロストと同程度の分子量を有し、化学構造式が類似したビタミンB12を使用して行った。ビタミンB12(分子量:1355.38)を4mg秤量して注射用水1.0mL中にかき混ぜて、この溶液を徐放化剤内に注入して室温下にて48時間静置した。静置前後のビタミンB12の紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、膜厚0.6mmの単一の再生セルロース多孔膜を介したビタミンB12の移動量は約9.0%であった。ビタミンB12は上記実施例の市販の各種染料よりも純度が高いため、移動量について若干の差が生じた。
本発明は、比較的分子量の小さい薬物の徐放化局所投与剤に利用できる。また、親水性の薬物の徐放化局所投与剤にも利用できる。生体適合性を持つ再生セルロースにより構成された徐放化剤であるので、食品あるいは化粧品の分野においても本発明の利用可能性が見込める。

Claims (5)

  1. 体液への溶解度が低い薬剤を体内の特定個所に局所的に外科的手法で投与するのに際し、該薬剤は親水性多孔膜によって囲まれた徐放化機構を示す部に封入されており、該膜が円筒形に一括成型され更に該膜は多層構造を有し、該層は円筒状の垂直に配向した連続体であることを特徴とする徐放化局所投与剤。
  2. 請求項1において、親水性多孔膜が再生セルロースあるいはセルロース誘導体で構成されることを特徴とする徐放化局所投与剤。
  3. 請求項1において、円筒形の徐放化剤の直径Wおよび円筒の長さLとが2mm〜10mmの範囲にあり多孔該膜の平均孔径2rfは1500nm以下でかつ5nm以上で膜厚は1000μm以下でかつ30μm以上であることを特徴とする徐放化局所投与剤。
  4. 請求項1の徐放化局所投与剤の製法において、多層構造を持つ親水性膜がミクロ相分離法で成膜され、かつ該ミクロ相分離を同筒形状の容器内において湿式法によって円筒形状の頭頂および底面で起こし、円筒軸方向に進行させることを特徴とする製法。
  5. 請求項4において、ミクロ相分離後に親水性膜がセルロース誘導体をケン化反応によって再生セルロースとし、しかる後に円筒内に薬剤を注入し頭頂部および底面部を歯科用光硬化接着剤または医療用接着剤で目止めすることに特徴とする製法。
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