JP2014179166A - プロトン伝導体 - Google Patents
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Abstract
【課題】100〜200℃の作動温度において、無加湿で、プロトン伝導性を長期安定的に発揮するプロトン伝導体であって、高いプロトン伝導性と低い活性化エネルギーを有するとともに、容易に薄肉化や大型化が可能であるプロトン伝導体を提供する。
【解決手段】(1)リン酸塩ガラスと、(2)イミダゾール系誘導体との混合によって得られるプロトン伝導体であって、上記(1)と上記(2)との混合比は、重量比で(1):(2)=1:3.5〜1:5の範囲であり、上記プロトン伝導体は非晶質性の物品であることを特徴とするプロトン伝導体。
【選択図】図5
【解決手段】(1)リン酸塩ガラスと、(2)イミダゾール系誘導体との混合によって得られるプロトン伝導体であって、上記(1)と上記(2)との混合比は、重量比で(1):(2)=1:3.5〜1:5の範囲であり、上記プロトン伝導体は非晶質性の物品であることを特徴とするプロトン伝導体。
【選択図】図5
Description
本発明は、プロトン伝導体に関する。
従来、電圧を印加することにより物質中をイオンが移動する場合、これを用いて電池やセンサーなどの電気化学デバイスを設計することができるので、極めて多くの研究開発がなされている。水素イオン(プロトン)を電荷担体とする伝導体は、燃料電池への応用の面から、非常に大きな期待が寄せられている。現在では、この種のプロトン伝導体としてイオン交換膜を用いた高分子固体電解質型燃料電池の開発が盛んであり、すでに据置型電源として実用化されている。室温付近で高い伝導性を示すプロトン伝導体には、ウラニルリン酸水和物やモリブドリン酸水和物などの無機結晶、あるいは、フッ化ビニル系高分子にパースルホン酸を含む側鎖の付いた高分子イオン交換膜(NAFION(登録商標))などの有機物、ケイ酸塩を主成分としリン酸を少量添加してゾルゲル法により作製された多孔質ガラス(例えば、特許文献1参照)がよく知られている。また、プロトン伝導性付与剤を含有させたもの(例えば、特許文献2参照)、無機−有機複合膜を使用したもの(例えば、特許文献3参照)、あるいはイオン性液体複合膜を使用したもの(例えば、特許文献4参照)やガラスを水和させて得られる非晶質ゾルあるいはゲル状態のもの(例えば、特許文献5参照)も開発されている。
最近では、発電効率、電極に用いる白金の被毒の問題、システム効率の観点から、100〜200℃で、かつ無加湿で作動する、いわゆる中温型燃料電池が注目されており、研究開発が盛んになっている。先に挙げた室温付近で高い電導性を示すプロトン伝導体は、プロトンが水を介して移動する機構を利用するものである。しかし、固体高分子膜やゾルゲル法ガラスでは、これらの素材に存在する微小な孔に付着した水がプロトンの伝導性を高めるため、高い電導度を得るために飽和水蒸気圧に近い加湿が必要である。また、湿度によって導電率が大きく変化することが難点であるし、中温域では水の蒸発を防ぐための高圧容器が必要となるという問題点を有していた。モリブドリン酸水和物などの無機結晶、固体高分子膜、あるいはガラスを水和させて得られる非晶質ゾルあるいはゲルは、耐熱性に乏しく100℃以上では使用できない。
一方、リン酸型燃料電池の作動温度は200℃程度であり、実用化にほぼ至っているが、リン酸の揮発の問題があり、長期間の安定作動においては未だ十分でない。また、固体酸化物型燃料電池の作動温度は非常に高い。このように、中温域、とくに100〜200℃という温度域で安定して作動する燃料電池は実現されていないのが現状である。
このような問題を解決すべく、非特許文献1には、100〜240℃の作動温度において、無加湿で10−4S/cm程度のプロトン伝導性と、92kJ/mol程度の活性化エネルギーを、長期安定的に発揮するプロトン伝導体が開示されている。
また、特許文献6及び7には、150℃にて10−2S/cm程度の非常に高い電導度と、20kJ/mol程度の活性化エネルギーを示すプロトン伝導体が開示されている。
Hiroki Kato, Toshihiro Kasuga,"Preparation of proton-conducting hybrid materials by reacting zinc phosphateglass with benzimidazole", Materials Letters, 79, 109-111 (2012)
上記非特許文献1に記載のプロトン伝導体を燃料電池の電解質として用いれば、200℃付近の中温域においても作動させることができ、また、上記特許文献6及び7に記載のプロトン伝導体を燃料電池の電解質として用いれば、優れた性能を有する中温型燃料電池が期待される。
しかし、中温型燃料電池の実用化のためには、プロトン伝導体の電導度を向上させることや活性化エネルギーを低減させることと同時に、200℃付近の中温域まで作動温度を広くすることが要求される。このように、中温型燃料電池の実用化のためには、長期安定性に優れた性能を、200℃付近の中温域においても発揮する電解質の開発が期待される。また、プロトン伝導体を燃料電池の電解質として使用するにあたり、粘度を制御し、容易に薄肉化や大型化が可能であることも望まれる。
非特許文献1に記載のプロトン伝導体は、活性化エネルギーが約90kJ/molと高く、また、150℃未満の温度域では良好なプロトン伝導性を有しておらず、電導度のさらなる向上が望まれる。また、特許文献6及び7に記載のプロトン伝導体では、材料中のリン酸ジルコニウム結晶の分解が懸念され、170℃以上の温度域での使用は困難であることから、作動温度域の向上が要求される。
本発明は上記点に鑑みて、100〜200℃の作動温度において、無加湿で、プロトン伝導性を長期安定的に発揮するプロトン伝導体であって、高いプロトン伝導性と低い活性化エネルギーを有するとともに、容易に薄肉化や大型化が可能であるプロトン伝導体を提供することを目的とする。
本発明のプロトン伝導体は、(1)リン酸塩ガラスと、(2)イミダゾール系誘導体との混合によって得られるプロトン伝導体であって、上記(1)と上記(2)との混合比は、重量比で(1):(2)=1:3.5〜1:5の範囲であり、上記プロトン伝導体は非晶質性の物品であることを特徴とする。
本発明のプロトン伝導体において、上記リン酸塩ガラスは、P2O5を30〜70mol%含むことが好ましい。
本発明のプロトン伝導体において、上記リン酸塩ガラスは、ZnO及び/又はCoOを含むことが好ましい。
本発明のプロトン伝導体において、上記リン酸塩ガラスは、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群より選ばれる少なくとも1種を15mol%以下含むことがより好ましい。
本発明のプロトン伝導体において、上記リン酸塩ガラスは、Nb2O5を含むことが好ましく、Nb2O5を5mol%以下含むことがより好ましい。
本発明によれば、100〜200℃の作動温度において、無加湿で、プロトン伝導性を長期安定的に発揮するプロトン伝導体であって、非特許文献1に記載の従来のプロトン伝導体と比較して高い電導度と低い活性化エネルギーを有するとともに、容易に薄肉化や大型化が可能である。さらに、特許文献6及び7に記載のプロトン伝導体よりも作動温度域が広いプロトン伝導体を得ることができる。このプロトン伝導体を電解質として用いれば、長期安定性に優れた中温型燃料電池を得ることができるので、中温型燃料電池の実用化を飛躍的に早めることができる。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
本発明のプロトン伝導体は、(1)リン酸塩ガラスと、(2)イミダゾール系誘導体との混合によって得られるプロトン伝導体であって、上記(1)と上記(2)との混合比は、重量比で(1):(2)=1:3.5〜1:5の範囲であり、上記プロトン伝導体は非晶質性の物品であることを特徴とする。
上記リン酸塩ガラスは、P2O5を含んでいる。P2O5はガラスを形成する主成分であり、また、イミダゾール系誘導体とを混合して加熱することで高いプロトン伝導性を持たせるために必須の成分である。
ガラス中のP2O5の含有量が30mol%未満であると、ガラス化しにくく、また、プロトン伝導性も低くなる。一方、ガラス中のP2O5の含有量が70mol%を超えると、ガラスの耐湿性が悪くなり、また、イミダゾール系誘導体と均一に混合しにくくなるため、プロトン伝導体を合成しにくくなる。したがって、ガラス中のP2O5の含有量は、好ましくは30〜70mol%、より好ましくは40〜70mol%、さらに好ましくは45〜70mol%、特に好ましくは45〜65mol%、最も好ましくは50〜60mol%である。
上記リン酸塩ガラスは、ZnO及び/又はCoOを含むことが好ましく、ZnOを含むことがより好ましい。ZnOやCoOは、ガラスを形成するとともに、イミダゾール系誘導体との反応性を維持したまま、ガラスの熱耐久性及び耐湿性を向上させることができる。
ガラス中のZnOの含有量が25mol%未満であると、ガラスを形成しにくくなるとともに、リン酸塩ガラスで問題となる熱耐久性及び耐湿性の改善が不充分となり、また、イミダゾール系誘導体と均質に混合しにくくなり、プロトン伝導体を合成しにくくなる。一方、ガラス中のZnOの含有量が70mol%を超えると、P2O5の含有量が少なくなるため、プロトン伝導性が低くなる。したがって、ガラス中のZnOの含有量は、好ましくは25〜70mol%、より好ましくは25〜50mol%、さらに好ましくは25〜45mol%、特に好ましくは30〜45mol%である。なお、ガラス中のCoOの含有量、ZnO及びCoOの含有量の好ましい範囲も同様である。
上記リン酸塩ガラスは、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの成分は、ガラスを形成するとともに、イミダゾール系誘導体との反応性を維持したまま、ガラスの熱耐久性及び耐湿性を向上させることができる。また、これらの成分を含有させることにより、良好なプロトン伝導性と低い活性化エネルギーを有するプロトン伝導体とすることができ、さらに、プロトン伝導体の粘性を低下させることができる。
これらの成分の中では、SrO又はBaOが好ましい。例えばBa2+イオンはZnO2+イオンと比較して電界強度が小さい。そのため、Ba2+イオン付近のガラス構造が弱くなり、反応場として効果的に寄与するため、後述するリン酸鎖の切断が進行すると考えられる。これにより、イミダゾール系誘導体と反応物が豊富に形成されるため、プロトン伝導性が向上する。
これらの成分の中では、SrO又はBaOが好ましい。例えばBa2+イオンはZnO2+イオンと比較して電界強度が小さい。そのため、Ba2+イオン付近のガラス構造が弱くなり、反応場として効果的に寄与するため、後述するリン酸鎖の切断が進行すると考えられる。これにより、イミダゾール系誘導体と反応物が豊富に形成されるため、プロトン伝導性が向上する。
ガラス中のBaOの含有量は、プロトン伝導性を向上させる観点から、好ましくは15mol%以下、より好ましくは10mol%以下、さらに好ましくは8mol%以下である。具体的には、1〜15mol%が好ましく、1〜10mol%がより好ましく、1〜8mol%がさらに好ましい。なお、ガラス中のMgOの含有量、CaOの含有量、SrOの含有量、これらの混合物の含有量の好ましい範囲も同様である。
上記リン酸塩ガラスは、Nb2O5を含むことが好ましい。Nb2O5はガラスの熱耐久性及び耐湿性を向上させる成分である。また、Nb2O5を含有させることにより、ガラスの安定性が増すため、イミダゾール系誘導体と均質に混合し、プロトン伝導体を合成しやすくなる。
ガラス中のNb2O5の含有量が5mol%を超えると、ガラスが過度に安定化するため、プロトン伝導体のプロトン伝導性が低下する場合や、プロトン伝導体を合成することができない場合がある。したがって、ガラス中のNb2O5の含有量は、ガラスに適度な熱耐久性及び耐湿性を与えるために、好ましくは5mol%以下、より好ましくは4mol%以下、さらに好ましくは3mol%以下である。具体的には、0.5〜5mol%が好ましく、0.5〜4mol%がより好ましく、0.5〜3mol%がさらに好ましい。
上記リン酸塩ガラスは、実質的に上記成分からなることが好ましいが、これにSnO、FeO、F2O3、Al2O3等の微量成分を合量で5mol%まで含有してもよい。
上記イミダゾール系誘導体は、構造中にイミダゾールと同じ五員環を持っており、分子間にプロトンを自己解離できる程度の水素結合ネットワークが形成され、かつ自身がプロトンアクセプターそしてプロトンドナーとして働ける分子である。なお、イミダゾール系誘導体には、イミダゾールも含まれるものとする。
上記イミダゾール系誘導体としては、イミダゾールの構造の一部を変化させて得られる化合物が挙げられ、例えば、イミダゾール環の1つの水素原子を炭化水素基と置換した2−ウンデシルイミダゾールや、ベンゾイミダゾール、ベンゾイミダゾールが有するベンゼン環の1つの水素原子を水酸基で置換したもの等が挙げられる。
上記リン酸塩ガラスと上記イミダゾール系誘導体との混合比は、重量比で、リン酸塩ガラス:イミダゾール系誘導体=1:3.5〜1:5である。1:3.5の重量比よりもイミダゾール系誘導体が少ないと、均質なプロトン伝導体を合成することが難しくなり、プロトン伝導性も低くなる。一方、1:5の重量比よりもイミダゾール系誘導体が多いと、プロトン伝導体の熱耐久性が低下する。さらに、1:5の重量比よりもイミダゾール系誘導体が多いと、高温でのイミダゾール系誘導体の揮発が起こりやすくなり、また、イミダゾール系誘導体の融点以下の温度でプロトン伝導性が極端に低下する現象が顕著に表れる。
本発明のプロトン伝導体は、非晶質性の物品である。プロトン伝導体が結晶質性であると、融点付近で急激に特性(粘度等)が変化するのに対し、プロトン伝導体が非晶質性であると、連続的に特性が変化するため好ましい。
なお、本明細書において、非晶質性とは、粉末X線回析法による測定パターンにおいて、ブロードなピーク(ハロー)が確認されるものをいい、そのような物品の中で、特には、明確な鋭いピークがないものが好ましい。
なお、本明細書において、非晶質性とは、粉末X線回析法による測定パターンにおいて、ブロードなピーク(ハロー)が確認されるものをいい、そのような物品の中で、特には、明確な鋭いピークがないものが好ましい。
本発明のプロトン伝導体は、例えば、リン酸亜鉛ガラス等のリン酸塩ガラスとベンゾイミダゾール等のイミダゾール系誘導体とを混合し、熱処理を行うことにより製造することができる。
リン酸亜鉛ガラス及びベンゾイミダゾールを用いる場合、ベンゾイミダゾールは、リン酸亜鉛ガラス構造中のリン酸鎖を切断する働きを有する。この切断は、リン酸鎖の末端から起こると考えられている。まず亜鉛イオンとリン酸鎖との結合が切断され、不安定になったリン酸鎖が切断される。切断されたリン酸グループ及び亜鉛イオンがベンゾイミダゾールと反応する。上記の反応が繰り返し起こることにより、リン酸イオンと、亜鉛イオンと、ベンゾイミダゾールとを成分とするプロトン伝導体を製造することができる。
ベンゾイミダゾールは、リン酸グループや亜鉛イオン等と反応し、クラスターを形成すると考えられる。このうち、リン酸グループと反応したクラスターは、プロトン伝導性に寄与する。一方、亜鉛イオンと反応したクラスターは、プロトン伝導性にはほとんど寄与しないものの、熱耐久性や耐湿性に寄与するとされている(例えば、Toshihiro Kasuga, “PROTON CONDUCTING VISCOUS MATERIALS DERIVED FROM ZINC METAPHOSPHATE GLASS”,Phosphorus Research Bulletin, 24, 26-31 (2010)参照)。そのため、2つのクラスターの割合を適切に制御することで、プロトン伝導性、熱耐久性及び耐湿性を兼ね備えたプロトン伝導体を製造することが可能となる。
ここで、ベンゾイミダゾールに対して、リン酸イオン及び亜鉛イオンを同時に供給すると、リン酸イオンと亜鉛イオンとの間の酸塩基反応が生じてしまう。そこで、ベンゾイミダゾールとリン酸亜鉛ガラスとを混合すれば、リン酸イオンや亜鉛イオンが徐々に放出され、これらとベンゾイミダゾールとを反応させることができる。
上記の例では、リン酸亜鉛ガラス及びベンゾイミダゾールを用いる場合について説明したが、その他のリン酸塩ガラス及びイミダゾール系誘導体を用いる場合も同様である。
上記リン酸イオンとは、正リン酸を構成する三価の陰イオンPO4 3−であるが、製造方法によっては縮合リン酸塩として用いることも可能であり、この場合には、ピロリン酸イオンP2O7 4−やポリリン酸イオンPO3 −を含有する。
本発明のプロトン伝導体を製造する際、熱処理温度は、150〜250℃が好ましい。熱処理温度が150℃未満では反応が不充分となり、均質なプロトン伝導体を合成することが難しくなる。一方、熱処理温度が250℃を超えると、イミダゾール系誘導体の揮発が起こりやすくなり、所望の組成のプロトン伝導体を合成することが難しくなる。
本発明のプロトン伝導体を製造する際、熱処理時間は、リン酸塩ガラスとイミダゾール系誘導体とが反応し、均質なプロトン伝導体を合成することができれば特に限定されないが、生産性の観点から72時間以内が好ましい。
本発明のプロトン伝導体は、リン酸等の比較的安価な無機化合物を原料としており、かつ、その製造方法も比較的簡便であるため、製造コストの低廉化が可能である。
本発明のプロトン伝導体では、190〜200℃における電導度が10−4S/cm以上であることが好ましい。また、190〜200℃における活性化エネルギーが50kJ/mol以下であることが好ましい。電導度が10−4S/cm未満である場合、又は、活性化エネルギーが50kJ/molを超える場合、200℃付近までの作動温度域を有する中温型燃料電池の電解質としてプロトン伝導体を使用することは不適切である。
以下、本発明の実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
<試験1>
比較例1(試験品1)
ガラス原料として、酸化亜鉛(キシダ化学、特級、99.5%)と正リン酸(キシダ化学、特級、99.5%)それぞれの試薬を酸化物換算モル比でZnO:P2O5=50:50となるように秤量し、これに水を入れ混合スラリーとし、充分に混合撹拌したものを100℃に保持した乾燥機に入れ、1日放置し水分を蒸発させた。これを白金製のルツボに入れ、1350℃に保持した電気炉に入れ、この状態で30分間保持したのち、電気炉から取り出し、黒鉛板状に融液を流し出した。これをそのまま室温まで冷却することでリン酸亜鉛ガラスを作製した。このガラスを、アルミナ乳鉢を用いて10μm程度の粒径になるまで粉砕した。
比較例1(試験品1)
ガラス原料として、酸化亜鉛(キシダ化学、特級、99.5%)と正リン酸(キシダ化学、特級、99.5%)それぞれの試薬を酸化物換算モル比でZnO:P2O5=50:50となるように秤量し、これに水を入れ混合スラリーとし、充分に混合撹拌したものを100℃に保持した乾燥機に入れ、1日放置し水分を蒸発させた。これを白金製のルツボに入れ、1350℃に保持した電気炉に入れ、この状態で30分間保持したのち、電気炉から取り出し、黒鉛板状に融液を流し出した。これをそのまま室温まで冷却することでリン酸亜鉛ガラスを作製した。このガラスを、アルミナ乳鉢を用いて10μm程度の粒径になるまで粉砕した。
続いて、リン酸亜鉛ガラス粉末とベンゾイミダゾール(ナカライテスク、98%)とを重量比で1:3となるように混合し、これをテフロン(登録商標)シャーレに入れ、開放した状態でベンゾイミダゾールとの混合物を作製した。この混合物に対し、170℃の乾燥機中で1日熱処理を行った。
実施例1(試験品2)
リン酸亜鉛ガラスとベンゾイミダゾールとの混合比を、重量比で1:4となるように作製した。他の条件は試験品1と同様である。
リン酸亜鉛ガラスとベンゾイミダゾールとの混合比を、重量比で1:4となるように作製した。他の条件は試験品1と同様である。
実施例2(試験品3)
リン酸亜鉛ガラスとベンゾイミダゾールとの混合比を、重量比で1:5となるように作製した。他の条件は試験品1と同様である。
リン酸亜鉛ガラスとベンゾイミダゾールとの混合比を、重量比で1:5となるように作製した。他の条件は試験品1と同様である。
比較例2(試験品4)
リン酸亜鉛ガラスとベンゾイミダゾールとの混合比を、重量比で1:6となるように作製した。他の条件は試験品1と同様である。
リン酸亜鉛ガラスとベンゾイミダゾールとの混合比を、重量比で1:6となるように作製した。他の条件は試験品1と同様である。
熱処理を行うことにより、各試験品のガラス粉末は完全に溶解し、粘稠性を示す茶褐色の物質となった。この試料を室温まで冷却して固化することにより有機無機ハイブリッド材料(プロトン伝導体)を合成した。また、得られた試料は空気中、室温で放置しても吸湿性を示さなかった。
得られた各試料を評価するために、X線回折装置(Philips社製、X’pert)を用いたX線回折測定、全自動元素分析装置(Elementar Analytical社製、Vario EL cube)を用いたCHN分析、示差熱天秤(Rigaku社製、Thermo plus TG8120)を用いた熱重量分析、超伝導固体核磁気共鳴装置(Agilent社製、Varian Unity plus Inova 400)を用いたリンの固体核磁気共鳴(31P MAS−NMR)測定、及び、伝達関数測定装置(Solartron社製、1260型Impedance Analyzer)を用いた電導度測定を行った。
CHN分析は、試料を燃焼させ、発生した分解ガスから材料中の炭素、水素、窒素の含有量を測定する分析方法である。これにより、材料中の有機物の含有量を計算から求めることができる。
電導度の測定は次のように行った。鏡面研磨を施した円柱状の真鍮の表面にスパッタ装置を用いて白金をコーティングし、この面を試料に接着させることにより電極とした。両面を研磨したガラス管に試料を封入し、両側から、白金コーティングした真鍮で挟み、これを乾燥器に置いた。白金線の一端を真鍮と接触させ、もう一端を交流インピーダンスアナライザに接続した。周波数を1Hzから10MHzまで変化させて測定し、Cole−Coleプロットが複素平面の実軸と交わったところの値を抵抗値として読み取った。電導度は、電極間距離を電極面積と抵抗値で除して算出した。
図1に、試験品1、3、4及びベンゾイミダゾールのX線回折パターンを示す。試験品3においてもベンゾイミダゾールに帰属されるピークは確認されず、アモルファス(非晶質)状態であったが、試験品4ではわずかにピークが見られ、わずかに不均質化していることを示している。
図2に、試験品1〜4のCHN分析により求めた、各組成のハイブリッド材料(プロトン伝導体)中のベンゾイミダゾールの含有量を示す。図2中、BImはベンゾイミダゾールを意味している。混合比を増加させると、プロトン伝導体中のベンゾイミダゾールの含有量も向上し、試験品4ではガラス1.0molに対して2.0molに達した。
図3に、試験品1、試験品3及びベンゾイミダゾールの熱重量分析(TG)の結果を示す。昇温速度は毎分5℃とし、空気中で重量変化を測定した。ベンゾイミダゾールの含有量の多い試験品3においても200℃付近まで重量減少は確認されなかった。ベンゾイミダゾールは、リン酸や亜鉛イオンと反応した状態で材料中に存在しており、結果として中温域における熱耐久性が向上したと考えられる。
図4に、試験品1及び試験品3の31P MAS−NMRスペクトルを示す。図中のQp0とは正リン酸、Qp1とはピロリン酸、Qp2とはポリリン酸を示している。両試験品を比較すると、試験品3では試験品1よりQp2グループのリンが減少し、Qp0グループのリンが増加している。この結果から、材料中のプロトン濃度が向上したことが考えられる。
図5に、試験品1、試験品3及びベンゾイミダゾールの電導度の温度依存性を示す。試験品3では、180℃以下においても10−6S/cm以上の電導度を示した。試験品1に比べて試験品3では電導度が向上し、活性化エネルギーについても、103kJ/molから80kJ/molへと低下した。プロトン伝導体中のベンゾイミダゾール含有量の増加により、リン酸鎖の切断が進み、プロトン濃度が増加したためであると考えられる。
<試験2>
実施例3(試験品5)
ZnO:P2O5のモル比が40:60となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品3と同様である。
実施例3(試験品5)
ZnO:P2O5のモル比が40:60となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品3と同様である。
実施例4(試験品6)
ZnO:P2O5のモル比が60:40となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品3と同様である。
ZnO:P2O5のモル比が60:40となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品3と同様である。
比較例3(試験品7)
ZnO:P2O5のモル比が70:30となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品3と同様である。
ZnO:P2O5のモル比が70:30となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品3と同様である。
なお、さらにリン酸比を向上させたガラスでは吸湿性が見られ、粒径が10μm程度のガラス粉末にすることが困難であった。
熱処理を行うことにより、試験品5及び試験品6では、粘稠性を示す物質となった。粘度は亜鉛の含有量が向上するごとに高くなり、試験品7では全く流動性のない試料が得られた。また、最もリン酸の比率の高い試験品5においても、空気中、室温で放置しても吸湿性を示さなかった。
試験品3及び5〜7を評価するために、X線回折測定、31P MAS−NMR測定、及び、電導度測定を行った。
図6に、試験品3、5〜7及びベンゾイミダゾールのX線回折パターンを示す。試験品6及び試験品7において、ベンゾイミダゾールとは異なるピークが見られた。試験品6のピークは、ZnOとベンゾイミダゾールとをメカノケミカルにて反応させて得られた試料の回折ピークと一致している。試験品7では、この反応物に加えて、他の結晶が含まれている。
図7に、試験品3及び5〜7の31P MAS−NMRスペクトルを示す。試験品3、5及び6でピークシフトが確認されなかったことから、リン酸グループの状態に大きな変化はないと考えられる。一方、試験品7では−6ppm付近にシャープなピークが見られた。これは、リン酸とベンゾイミダゾールとの結晶性の反応物の存在も考えられる。
図8に、試験品3、5〜7及びベンゾイミダゾールの電導度の温度依存性を示す。190℃以上において、試験品5ではベンゾイミダゾール単体の数値を上回った。
上述したように、ベンゾイミダゾールとリン酸とが反応したクラスターがプロトン伝導に寄与する一方、ベンゾイミダゾールと亜鉛イオンとが反応したクラスターはプロトン伝導にほとんど寄与しないと考えられている。亜鉛の含有量が増加すると、プロトン伝導体中にリン酸と反応したクラスターが減少したことにより、導電率の低下や活性化エネルギーの増加につながったものと考えられる。しかし、試験品7では、リン酸の含有量が少ないにも関わらず、試験品3と同程度の電導度が得られた。試験品7では、ベンゾイミダゾールとリン酸からなる結晶が材料内に存在し、効率よくプロトンを伝導していると考えられる。
これらの結果から、リン酸鎖の短い、P2O5含有量が40mol%であるガラスでは、ベンゾイミダゾールがまず亜鉛とリン酸鎖との結合を切断し、次に付近に豊富に存在する切断された亜鉛と反応する。そのため、亜鉛とベンゾイミダゾールとの化合物は生成しやすく、リン酸鎖の切断は進まなかったと考えられる。一方で、リン酸鎖の比較的長い、P2O5含有量が60mol%であるガラスやP2O5含有量が50mol%であるガラスでは、同様に亜鉛とリン酸鎖との結合を切断するものの、Qp2グループのリンが豊富であることからベンゾイミダゾールの反応場が豊富である。そのため、ベンゾイミダゾールとの反応では、リン酸鎖の長いガラスを用いることでQp0グループのリンとベンゾイミダゾールの化合物の生成量が増加するため有利である。
試験1と比較して、試験2における試料は、ガラス組成により電導度や活性化エネルギーを細かく制御することができる。
<試験3>
実施例5(試験品8)
BaO:ZnO:P2O5のモル比が5:45:50となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品3と同様である。
実施例5(試験品8)
BaO:ZnO:P2O5のモル比が5:45:50となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品3と同様である。
実施例6(試験品9)
BaO:ZnO:P2O5のモル比が10:40:50となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品3と同様である。
BaO:ZnO:P2O5のモル比が10:40:50となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品3と同様である。
熱処理後の試験品8及び試験品9は、試験品3と比較して粘度が低く、高い透明度を有していた。
試験品3、8及び9を評価するために、CHN分析、31P MAS−NMR測定、及び、電導度測定を行った。
図9に、試験品3、8及び9のCHN分析により求めた、各組成のハイブリッド材料(プロトン伝導体)中のベンゾイミダゾールの含有量を示す。図9中、BImはベンゾイミダゾールを意味している。材料中のベンゾイミダゾールの含有量はBaOを添加しても含有量に大きな変化はなかった。BaOとイミダゾールは反応しないことが報告されているが(例えば、Jose Fernandez-Bertran, Lila Castellanos-Serra, H. Yee-Madeira, Edilso Reguera,“Proton Transfer in Solid State: Mechanochemical Reactions of Imidazole with Metallic Oxides”, Journal of Solid State Chemistry, 147, 561-564 (1999)参照)、ベンゾイミダゾールについても同様に反応しないと考えられる。そのため、この結果は、リン酸鎖を切断し、リン酸とベンゾイミダゾールとが試験2と比較して反応が進行していることを示していると考えられる。
図10に、試験品3、8及び9の31P MAS−NMRスペクトルを示す。試験品8及び9では、試験品3と比較して、Qp0グループのリンが増加した。これは、Ba2+の電界強度がZn2+よりも弱いため、リン酸鎖の結合強度の低下により、ベンゾイミダゾールがリン酸を攻撃しやすくなったためであると考えられる。また、試験品8及び9では、Qp0グループのリンが増加したことから、材料中のプロトン濃度が向上したことが考えられる。
図11に、試験品3、8及び9の電導度の温度依存性を示す。試験品8及び9では、試験品3と比較して低温側における電導度が向上し、180℃にて10−3S/cm程度を示した。この結果は、ベンゾイミダゾールの含有量は大きく変化していない上に、Qp0グループのリンが増加したことによると考えられる。
試験2と比較して、試験3における試料は170℃付近から高い電導度を示し、活性化エネルギーは比較的低い。また、中温域における粘度が非常に低いことから、薄肉化及び大型化が容易である。このため、このプロトン伝導体を例えば燃料電池用の電解質として使用すると、内部抵抗を抑え、より大きな出力と高い発電効率とを発揮し得る。
<試験4>
実施例7(試験品10)
Nb2O5:BaO:ZnO:P2O5のモル比が1:5:34:60となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品5と同様である。
実施例7(試験品10)
Nb2O5:BaO:ZnO:P2O5のモル比が1:5:34:60となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品5と同様である。
実施例8(試験品11)
Nb2O5:BaO:ZnO:P2O5のモル比が2:5:33:60となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品5と同様である。
Nb2O5:BaO:ZnO:P2O5のモル比が2:5:33:60となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品5と同様である。
実施例9(試験品12)
Nb2O5:BaO:ZnO:P2O5のモル比が3:5:32:60となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品5と同様である。
Nb2O5:BaO:ZnO:P2O5のモル比が3:5:32:60となるように秤量しガラスを作製した。その他条件は試験品5と同様である。
試験品10、11及び12を評価するために、31P MAS−NMR測定、及び、電導度測定を行った。
図12に、試験品10、11及び12の31P MAS−NMRスペクトルを示す。ニオブの含有量が向上するごとにQp0グループのピーク強度が向上した。
図13に、試験品5、10及び12の電導度の温度依存性を示す。試験品5、10及び12の電導度は、180℃以上で10−4S/cmより高い値を示し、また、試験品5と比較して、試験品10及び12は、低い活性化エネルギーを示した。また、試験品10及び12では、試験品5と比較してリン酸(Qp0グループのリン)の含有量が増加しているが、リン酸グループとの結合力が強いニオブを含有させることにより、このようなプロトン伝導体を作製することが可能となった。また、高い電導性を示す温度域についても、ニオブの含有量を調整することにより、活性化エネルギーを抑えたまま制御することができる。
本発明によれば、100〜200℃の中温域の空気中の開放環境でも、長期にわたって安定に、高いプロトン伝導性が得られ、さらに容易に薄肉化や大型化が可能であるので、中温型燃料電池として、自動車、据え置き型電源に利用可能である。
Claims (7)
- (1)リン酸塩ガラスと、(2)イミダゾール系誘導体との混合によって得られるプロトン伝導体であって、
前記(1)と前記(2)との混合比は、重量比で(1):(2)=1:3.5〜1:5の範囲であり、
前記プロトン伝導体は非晶質性の物品であることを特徴とするプロトン伝導体。 - 前記リン酸塩ガラスは、P2O5を30〜70mol%含む請求項1に記載のプロトン伝導体。
- 前記リン酸塩ガラスは、ZnO及び/又はCoOを含む請求項1又は2に記載のプロトン伝導体。
- 前記リン酸塩ガラスは、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜3のいずれかに記載のプロトン伝導体。
- 前記リン酸塩ガラスは、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群より選ばれる少なくとも1種を15mol%以下含む請求項4に記載のプロトン伝導体。
- 前記リン酸塩ガラスは、Nb2O5を含む請求項1〜5のいずれかに記載のプロトン伝導体。
- 前記リン酸塩ガラスは、Nb2O5を5mol%以下含む請求項6に記載のプロトン伝導体。
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JP2017033704A (ja) * | 2015-07-30 | 2017-02-09 | 株式会社デンソー | プロトン伝導体、プロトン伝導体の製造方法、及び燃料電池 |
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