JP2014153205A - 疾病診断装置及び疾病診断方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】一検体に要する診断時間を従来より大幅に短縮することでADA欠損症等の先天性代謝異常疾患に対するスクリーニング検査のスループットを向上させる。
【解決手段】DART法によるイオン源10を用いたタンデム四重極型質量分析装置を用い、被検者から採取した血液検体にアデノシンを添加する前処理を行った試料22について、ADAの代謝作用で生成される筈のイノシン等の代謝生成物をターゲットとした質量分析を実施する。検出器34で得られた検出信号に基づきデータ処理部44は代謝生成物に対応するピークの面積値を算出し、診断処理部45はその面積値を予め定められた閾値と比較することでADA欠損症である可能性を判断する。一つの試料に対する質量分析は10秒程度で終了し、また分析対象である試料の交換も自動的に高速で行えるので、高いスループットを実現できる。
【選択図】図1

Description

本発明は、質量分析を利用して先天性代謝異常疾患などの各種疾病を診断する疾病診断装置、及び、該装置を用いた疾病診断方法に関する。
先天性代謝異常疾患の中には、発症に至ると、免疫不全や成長・精神発達の遅滞をもたらしたり、生命に影響を及ぼすような重篤な症状を呈したりするものがある。このようなリスクを下げるには、代謝異常疾患を有している患者をできるだけ早期に発見し、発症に至る前に適切な治療を開始することが非常に重要である。こうした観点から、我が国では、ほぼ全ての新生児に対し、特定の先天性代謝異常疾患についてスクリーニング検査が実施されている。
上記のような新生児スクリーニング検査の一手法として、近年、液体クロマトグラフタンデム四重極型質量分析装置(LC/MS/MS)が注目され、その利用が促進されている。これは一般に、「タンデムマス法を用いた新生児マス・スクリーニング検査」などと呼ばれる手法であり、被検者から採取した血液などの検体に対し特定の物質の定量分析を行うことで、従来の新生児スクリーニング検査では対象とならなかった、アミノ酸代謝異常、有機酸代謝異常、脂肪酸代謝異常などについての初期的診断が実施されている。しかしながら、現在のところ、信頼性等の観点から、検査対象である疾病の種類は限定されており、アデノシンデアミナーゼ(ADA=Adenosine Deaminase)欠損症や副腎白質ジストロフィー(ALD=Adrenoleukodystrophy)などは検査対象となっていない。
ADA欠損症診断やALD診断、或いはそのほかの代謝異常疾患の確定的な診断には、PCR(Polymerase Chain Reaction)法やELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法などが専ら用いられているが、これら方法はいずれも分析のスループットが悪く、コストが高いという問題がある。そのため、膨大な数の検体の処理が必要となる新生児スクリーニング検査には不向きである。
これに対し本願発明者らは、検体に対し適切な前処理を行い且つ分析条件を適切に設定することで、液体クロマトグラフタンデム四重極型質量分析装置を用いてADA欠損症やALDなどの診断を高い信頼性を以て行えることを確認している(非特許文献1参照、また、平成24年11月27日に第54回日本先天代謝異常学会総会において「タンデムマスを用いた副腎白質ジストロフィー診断法の開発」として口頭発表)。これは、液体クロマトグラフタンデム四重極型質量分析装置を用いた新生児スクリーニング検査のさらなる展開の可能性を示すものといえる。
しかしながら、昨今の分析技術の急速な進展により、液体クロマトグラフの高速化が図られているとはいうものの、それでも液体クロマトグラフタンデム四重極型質量分析装置を用いた場合には、一検体の測定に10分程度以上の時間を要する。そのため、膨大な数の検体の測定が必要な新生児スクリーニングにおいては、多数の装置を用意して並行して測定を行う必要があり、かなりのコストを要することになる。
また、液体クロマトグラフで適切に成分分離を行うには或る程度の分析の知識が必要であり、こうした知識を有するオペレータを診断現場に配置する必要がある。さらにまた、液体クロマトグラフでは適切な移動相溶媒を用意する必要があるとともに、測定の信頼性を確保するためにはカラム等の保守が欠かせず、装置の保守・管理が煩雑で面倒であるという問題もある。
特開2008−145221号公報
渡辺ほか4名、「LC/MS/MSを用いた代謝異常症診断マーカー分析系の検討」、第25回バイオメディカル分析科学シンポジウム、ポスター発表、平成24年8月8日 ロバート・ビー・コディー(Robert B. Cody)、ほか2名、「バーサタイル・ニュー・イオン・ソース・フォー・ザ・アナリシス・オブ・マテリアルズ・イン・オープン・エア・アンダー・アンビエント・コンディションズ(Versatile New Ion Source for the Analysis of Materials in Open Air under Ambient Conditions)」、アナリティカル・ケミストリ(Analytical Chemistry)、2005年、77巻、8号、p.2297-2302
上述したように、従来の液体クロマトグラフタンデム四重極型質量分析装置を用いた疾病診断は、検査対象の疾病の種類の制約、スループットの低さ、装置の保守・管理の煩雑さなどの点で未だ課題を有しており、こうして点を改善した疾病診断方法の確立、疾病診断装置の開発が強く望まれている。
本発明はこうした課題に鑑みて成されたものであり、その主な目的は、先天性代謝異常疾患を初めとする各種疾病について、高いスループットで以て信頼性の高い診断を行うことができる疾病診断装置及び疾病診断方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、取扱いや保守・管理の手間が掛からず、分析作業に関する専門知識の乏しい者でも作業にあたることができる疾病診断装置を提供することである。
上述したような従来の診断手法における問題点の多くは、質量分析装置の前段に液体クロマトグラフを接続していることに起因する。液体クロマトグラフを用いることで、検体に夾雑成分が含まれている場合でも、観測したい目的成分のみを抽出して質量分析することができるという利点がある。しかしながら、タンデム四重極型質量分析装置においてしばしば利用される多重反応モニタリング(MRM=Multiple Reaction Monitoring)測定などの測定モードでは、夾雑成分の影響を排除しつつ目的成分を高い選択性を以て検出することができる。
一方、液体クロマトグラフを用いない場合であっても、例えばマトリクス支援レーザ脱離イオン化(MALDI=Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)法によるイオン源を用いた質量分析装置のように、質量分析を実施するための試料を調製するのに手間を要すると、スループットを上げるのは難しい。また、真空雰囲気中でイオン化を行う質量分析装置では、試料を入れ替える際に真空解除、真空引き等の工程が必要になり、やはりスループットを上げることが難しい。そこで、本願発明者は、近年、提案されている様々な新しいイオン化法の中で、DART(Direct Analysis in Real Time)法(特許文献1、非特許文献2など参照)などのいわゆる直接イオン化法に着目し、こうしたイオン化法によるイオン源を備えた質量分析装置を用いた疾病診断について各種実験や検討を重ねてきた。そうした中で、本願発明者は、適切な前処理を実施した試料に対し上記のような質量分析装置で得られた分析結果に基づいて、信頼性の高い疾病診断が可能であることを見出し、本発明をするに至った。
即ち、上記課題を解決するためになされた本発明に係る疾病診断装置は、質量分析を用いて特定の疾病の診断を行う疾病診断装置であって、
a)大気圧雰囲気の下で、イオン化のための前処理がなされていない状態の試料を該試料が置かれた状態のままでイオン化することが可能であるイオン源と、該イオン源で生成された試料由来のイオン又は該イオンから派生したイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分離器と、該分離されたイオンを検出する検出器と、を具備する質量分析部と、
b)検査対象である疾病について、疾病毎に予め決められた化合物に由来するイオンを検出するように、前記質量分析部を動作させる分析制御部と、
c)検査対象である疾病に対し決められた化合物由来のイオンの検出結果から、該化合物の濃度に関連した評価値を取得し、該評価値を予め定められた基準値と比較することにより、検査対象である疾病の罹患の可能性を評価する結果判定部と、
を備えることを特徴としている。
ここで、「イオン化のための前処理」とは試料中の目的化合物をイオン化するために必要な前処理のことであり、典型的には、MALDI法において、目的試料にイオン化され易いマトリクスを混合し、マトリクス中に目的化合物が分散した特別なサンプルを調製するという処理である。また、「試料が置かれた状態のまま」のイオン化とは、いわゆるイン・サイチュ(in-situ)のイオン化であり、液体状又は固体状の試料が或る位置に置かれた状態のまま、該試料に対する外部からの何らかの作用によって該試料中の化合物をイオン化することをいう。
具体的に、本発明に係る疾病診断装置の質量分析部におけるイオン源としては、DART法によるイオン源、脱離エレクトロスプレイイオン化(DESI)法によるイオン源、エレクトロスプレイ支援/レーザ脱離イオン化(ELDI)法によるイオン源、大気圧固体分析プローブ(ASAP=Atmospheric Solids Analysis Probe)によるイオン源、などを用いることができるが、特にDART法によるイオン源が好ましい。
DART法によるイオン源では、ヘリウム、窒素などの不活性ガス中のガス分子を放電によって励起し、それによって生成された中性の励起分子を大気中の水分子と反応させて励起状態の水分子を生成する。この励起状態の水分子を試料に吹き付けることで、試料中の化合物をイオン化する。試料は固体状でも液体状でもよく、イオン化のための特別な前処理は不要である。イオン源の構造が簡単であってコスト的にも有利である。また、イオン化のために外部から供給するのは不活性ガスのみであるので取扱いも容易である。さらには、試料に溶媒等の液体が吹き掛けられることがないので、分析後の試料の扱いも簡便である。
また、本発明に係る疾病診断装置の質量分析部における質量分離器としては、例えば四重極マスフィルタを用いたものとすることができる。特に、間にイオンを解離させるコリジョンセルを挟んで前段と後段とにそれぞれ四重極マスフィルタを配置したタンデム四重極型の構成とするとよい。この構成では、前段及び後段の四重極マスフィルタによりそれぞれ、特定の質量電荷比を有するプリカーサイオン、特定の質量電荷比を有するプロダクトイオンを選択するMRM測定を実行することで、同時にイオン化される夾雑成分の影響を受けることなく、目的化合物を高い精度で定量することができる。
本発明に係る疾病診断装置においては、例えば検査対象である疾病の種類が自動的に又は手動で指定されると、分析制御部は検査対象である疾病に対して予め決められた化合物を特定し、該化合物由来のイオンを選択的に検出するように質量分析部を動作させる。この化合物は疾病毎に定められた診断マーカであり、その疾病に罹患した場合に存在量が有意に減少する又は増加する化合物が選ばれる。なお、分析制御部は、疾病とそれに対応した化合物(診断マーカ)又はその化合物由来のイオンの質量電荷比値との関係を示す情報を保持し、この情報に基づいて化合物又はその化合物由来のイオンを特定できるようにするとよい。
例えばDART法によるイオン源では、励起状態の水分子が試料に吹き付けられているときにのみ、試料中の化合物がイオン化される。したがって、イオン源において励起状態の水分子が試料に吹き付けられる期間を含む所定期間中の検出信号の時間的変化を観測すると、目的化合物由来のイオンの発生量に応じたピークが現れる。そこで、結果判定部は例えば目的化合物に対応するピークの面積値又は高さ値を計算し、この面積値又は高さ値を評価値とする。上述したように、検査対象である疾病に罹患すると、目的化合物の存在量が有意に減少又は増加するから、上記評価値を予め定められた基準値と比較し、該基準値に対する大小によって、検査対象である疾病の罹患の可能性を評価する。なお、基準値は多数の健常者及び罹患者に対する結果に基づいて予め求めておけばよい。
DART法等の直接イオン化法によるイオン源を用いた質量分析部では、例えば10秒程度の短い時間で一つの試料に対する測定を終了することができる。また、結果判定部における上記のようなデータ処理はコンピュータにおいては非常に簡単な処理であり、短時間で結果が得られる。したがって、本発明に係る疾病治療装置では、従来の液体クロマトグラフタンデム四重極型質量分析装置を用いた疾病診断装置に比べて、大幅に短い時間で一つの試料に対する診断結果を提供することができる。また、大気圧雰囲気中でイオン化が行われ、前述のようにイオン化のための試料の前処理も不要であるため、多数の試料を一つずつ順次測定するように自動的に試料の移送や交換を行いながら、測定及び診断処理を実施することも容易である。それ故に、診断のスループットを大幅に向上させることができ、新生児スクリーニングなど、膨大な数の検体をできるだけ短い時間で処理するような用途に特に有用である。
なお、質量分析部において観測したい目的化合物の種類によって、該化合物由来のイオンは正イオンである場合と負イオンである場合とがある。そこで、複数の疾病の診断を同時に、つまりは一回の測定結果に基づいて実施するには、質量分析部による1回の質量分析において正イオン及び負イオンの両方を分析する構成とするとよい。一般に、DART法等の直接イオン化法によるイオン源では正イオン化、負イオン化のいずれも行うことができるので、質量分析に供するイオンの極性を切り替えるように質量分析部の各部への印加電圧を適宜切り替えることで、正イオン、負イオンの両方を検出することができる。
本発明に係る疾病診断装置の一実施態様としては、検査対象である疾病はアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症であり、それに対応して予め決められた化合物は少なくともイノシン、デオキシイノシン、又はヒポキサンチンのいずれかとすることができる。
また本発明に係る疾病診断装置の他の実施態様としては、検査対象である疾病は副腎白質ジストロフィー(ALD)であり、それに対応して予め決められた化合物は少なくとも炭素数26の飽和脂肪酸、炭素数24の飽和脂肪酸、又はそれらを分子内に含むリン脂質のいずれかであり、その炭素数26の飽和脂肪酸又は炭素数24の飽和脂肪酸の濃度を評価値とすることができる。また、少なくとも、炭素数26の飽和脂肪酸若しくは炭素数24の飽和脂肪酸、それらを含む分子、又はそれらを含む長鎖脂肪酸の代謝物のいずれかである第1の化合物由来のイオンと、炭素数16の飽和脂肪酸、それを含む分子、又はそれを含む長鎖脂肪酸の代謝物のいずれかである第2の化合物由来のイオンとを検出するようにし、第1の化合物の濃度と第2の化合物の濃度との比を評価値とすると、より信頼性の高い診断が可能となる。
また上記課題を解決するためになされた本発明に係る疾病診断方法は、上記発明に係る疾病診断装置を利用した疾病診断方法であって、
被検者から採取した血液、体液、又は細胞を含む臓器の一部である検体に検査対象である疾病に応じた基質を添加し、該検体中に存在する物質の作用で前記基質が変化して生じる化合物を、前記検査対象である疾病に対し決められた化合物として、該疾病の罹患の可能性を判断することを特徴としている。
例えばADA欠損症診断においては、基質はアデノシンやデオキシアデノシンであり、ADAの代謝作用によってそれら基質から生成されるイノシンやデオキシイノシン或いはヒポキサンチンが観測対象の化合物である。また、ALD診断においては、ABCD1遺伝子産物であるトランスポータの機能不全の結果蓄積される長鎖脂肪酸及びそれを含む代謝物が観測対象の化合物である。
本発明の疾病診断方法は、信頼性の高い診断が高いスループットで行えるという特徴がある。この特徴が活きるのは、特に試料の数が多い場合である。そこで、本発明の疾病診断方法は、被検者が新生児であって検査対象である疾病が先天性代謝異常疾患である場合、つまりは先天性代謝異常疾患に関する新生児スクリーニング検査に特に有用であるということができる。
本発明に係る疾病診断装置及び疾病診断方法では、質量分析部の前段に液体クロマトグラフなどを接続することなく、質量分析部のイオン源としてDARTなどの直接イオン化法を用いることで、次のような利点がある。
(1)一つの試料に対する分析時間が約10秒程度で済み、診断のための処理の時間を含めても一つの試料について30秒程度以下で診断結果を出すことができる。また、試料自体はその場に置かれた状態のままイオン化が行われるので、例えば試料が載置されたステージを移動させる等、簡単に且つ短時間に分析対象の試料を入れ替えることができる。こうしたことから、診断のスループットを従来よりも大幅に向上させることができ、特に多数の試料を連続的に処理する際に、その効率の向上に有用である。
(2)試料が液体であっても、例えばAPCIやESIのように試料自体を噴霧するような工程がないので、流路中でのコンタミネーションのおそれがない。
(3)液体クロマトグラフ用の移動相溶媒を用意したり、カラムの保守・管理を行ったりする面倒な手間が省ける。また、一般に液体クロマトグラフの分析条件の設定は難しく、分析作業に関する専門的な知識を要することが多いが、本発明ではこうした知識は不要であり、分析作業に熟練していない者でも簡便に作業にたずさわることができる。こうした点でも、診断コストを引き下げるのに有利である。
本発明の一実施例による疾病診断システムの全体構成図。 代謝によるアデノシンの化学構造の変化を示す図。 本実施例の疾病診断システムにおける試料を調製するための前処理の手順を示すフローチャート。 本実施例の疾病診断システムにおいてADA欠損症診断を実施した場合の、健常者と罹患者とに対するイノシン実測結果の比較を示す図。 ALD診断の際の観測対象である化合物の化学構造を示す図。
以下、本発明の一実施例である疾病診断システム及び該システムを用いた疾病診断方法について、添付図面を参照して説明する。
図1は本実施例による疾病診断システムの全体構成図である。
この疾病診断システムでは、DARTイオン源が搭載されたタンデム四重極型質量分析装置を本発明における質量分析部として使用している。このタンデム四重極型質量分析装置は、大気圧雰囲気であるイオン化室20と図示しない高性能の真空ポンプにより真空排気される高真空雰囲気である分析室29との間に、段階的に真空度が高められた第1中間真空室24及び第2中間真空室27を備えた多段差動排気系の構成を有する。イオン化室20には、DARTイオン化ユニット10及び分析対象である試料22が多数載置された試料ステージ21が配設されており、このイオン化室20と次段の第1中間真空室24との間は細径の加熱キャピラリ23を通して連通している。
第1中間真空室24と第2中間真空室29との間は頂部に小孔を有するスキマー26で隔てられ、第1中間真空室24と第2中間真空室29とにはそれぞれ、イオンを収束させつつ後段へ輸送するためのイオンガイド25、28が設置されている。この例では、イオンガイド25は、イオン光軸Cに沿って配列された複数の電極板を1本の仮想的なロッド電極とし、イオン光軸Cの周囲に複数本(例えば4本)の仮想的ロッド電極を配置した構成である。また、イオンガイド28は、イオン光軸Cに沿う方向に延伸するロッド電極をイオン光軸Cの周囲に複数本(例えば8本)配置した構成である。ただし、イオンガイド25、28の構成はこれに限らず適宜変更することができる。
分析室29内部には、多重極イオンガイド32が内部に設置されたコリジョンセル31を挟んで、いずれもイオンを質量電荷比m/zに応じて分離する前段四重極マスフィルタ30と後段四重極マスフィルタ33とが配置され、さらにはイオン検出器34が設置されている。コリジョンセル31と接続されたCIDガス供給部42は、コリジョンセル31の内部にアルゴン、窒素などのCIDガスを供給するものである。ステージ駆動部40はモータなどの駆動源や該駆動源で発生した駆動力を伝達する伝達機構などを含み、試料ステージ21を移動させることで多数の試料22の中で分析対象である一つの試料を所定の分析位置に設定する。電源部41は、DARTイオン化ユニット10、イオンガイド25、28、32、四重極マスフィルタ30、33などにそれぞれ所定の電圧を印加するものである。ステージ駆動部40、電源部41、CIDガス供給部42はそれぞれ分析制御部47から与えられる制御信号により動作する。
DARTイオン化ユニット10は、放電室11、反応室12、加熱室13の3室を有する。初段の放電室11にはヘリウム(又はネオン、窒素などの他の不活性ガス)を導入するためのガス導入管14が接続され、また放電室11内部にはニードル電極15が配設されている。最終段の加熱室13には図示しないヒータが付設されており、また該加熱室13の出口18にはグリッド電極19が設けられている。このDARTイオン化ユニット10は、以下のような動作原理により、所定の分析位置に置かれた試料22に含まれる各種化合物をイオン化する。
即ち、ガス導入管14を通して放電室11内にヘリウムが供給され、ヘリウムが放電室11内に充満した状態でニードル電極15に高電圧が印加されると、ニードル電極15と例えば接地電位である隔壁16との間でコロナ放電が生じる。この放電によって、例えば基底一重項分子ヘリウムガス(11S)は、ヘリウムイオン、電子、及び励起された励起三重項分子ヘリウム(23S)の混合物に変化する。これら混合物は次の反応室12に入るが、反応室12の入口側隔壁16と出口側隔壁17とにそれぞれ印加されている電圧により生成される電場の作用により、電荷を有するヘリウムイオンと電子とは反応室12で遮断され、電気的に中性である励起三重項分子ヘリウムのみが加熱室13へと送り込まれる。
そうして加熱室13において高温に加熱された励起三重項分子ヘリウムがグリッド電極19を通して出口18から噴出する。DARTイオン化ユニット10は大気雰囲気中に設置されており、出口18の外側には大気が存在する。そのため、加熱された励起三重項分子ヘリウムは大気中の水分子をペニングイオン化する。この水分子イオンは励起状態にあり、これが試料22に吹き付けられると、試料22中の化合物と反応して該化合物をイオン化する。一般にDARTイオン源では固体状や液体状の試料をそのまま、つまり、その場に置いた状態でイオン化することができる。この例の場合、分析対象である試料は被検者から採取した血液を前処理したものである。
上述したようにDARTイオン化ユニット10から吹き付けられる励起種の作用により試料22から発生したイオンは、主として加熱キャピラリ23の両端の圧力差により生じる空気流を乗って加熱キャピラリ23に吸い込まれ、第1中間真空室24に送られる。そして、それらイオンはイオンガイド25で収束されスキマー26頂部の小孔を経て第2中間真空室27に送られる。さらに、試料成分由来のイオンはイオンガイド28で収束されて分析室29に送り込まれ、前段四重極マスフィルタ30の長軸方向の空間に導入される。
この質量分析装置においてMS/MS分析を行う際には、前段四重極マスフィルタ30及び後段四重極マスフィルタ33の各ロッド電極に電源部41からそれぞれ所定の電圧(高周波電圧と直流電圧とが重畳された電圧)が印加され、コリジョンセル31内にはCIDガス供給部42から連続的に又は間欠的にCIDガスが供給される。前段四重極マスフィルタ30に送り込まれた各種イオンの中で、前段四重極マスフィルタ30の各ロッド電極に印加されている電圧に応じた特定の質量電荷比を有するイオンのみが該フィルタ30を通過し、プリカーサイオンとしてコリジョンセル31に導入される。コリジョンセル31内でプリカーサイオンはCIDガスに衝突して解離し、各種のプロダクトイオンが生成される。生成された各種プロダクトイオンが後段四重極マスフィルタ33に導入されると、後段四重極マスフィルタ33の各ロッド電極に印加されている電圧に応じた特定の質量電荷比を有するプロダクトイオンのみが該フィルタ33を通過し、イオン検出器34に到達して検出される。イオン検出器34はパルスカウント型検出器であり、入射したイオンの数に応じた個数のパルス信号を検出信号として出力する。
一般にタンデム四重極型質量分析装置では、MS/MS分析として、MRM測定モード、プリカーサイオンスキャン測定モード、プロダクトイオンスキャン測定モード、ニュートラルロススキャン測定モードなどの各種測定モードが用意されているが、ここでは、観測したい目的化合物は決まっており、その質量電荷比は既知であるので、MRM測定モードを用いて特定の質量電荷比を有するプリカーサイオンから生成された特定の質量電荷比を有するプロダクトイオンをターゲットとして検出する。なお、MRM測定では、プリカーサイオンの質量電荷比とプロダクトイオンの質量電荷比とを1組とするチャンネルを複数設定した測定を行うことができる。そのため、一つの疾病に対応した複数の目的化合物、或いは複数の疾病にそれぞれ対応した複数の目的化合物を、同時並行的に測定することができる。
データ処理部44は、イオン検出器34で得られる検出信号に対し所定のデータ処理を行い、目的化合物由来のイオンの強度を求める。診断処理部45は、疾病を有している可能性があるか否かを判断するための診断基準データを記憶しておく診断基準データ記憶部46を備え、該診断基準データに基づいて各試料に対して得られた目的化合物由来のイオンの強度を判定し、その結果として診断結果を取得する。ユーザインターフェイスである入力部50や表示部51が接続された中央制御部48は分析条件記憶部49を備え、多数の試料に対する一連の分析及びその分析により得られたデータの処理を実行するための統括的な制御やユーザインターフェイスのための処理を担う。
なお、中央制御部48、分析制御部47、データ処理部44、及び診断処理部45の少なくとも一部の機能は、パーソナルコンピュータをハードウエア資源とし、該コンピュータに予めインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアをコンピュータ上で実行することにより実現することができる。
次に、本実施例の疾病診断システムを用いて先天性代謝異常疾患に伴う免疫不全症の一つであるADA欠損症の診断を行う場合を例に挙げて、診断のための一連の手順や装置の動作について説明する。
ADAは生体内で重要な役割を持つアデノシンやデオキシアデノシンをそれぞれイノシン、デオキシイノシンへ代謝するプリン代謝経路の酵素である。図2は生体内での代謝によるアデノシンの化学構造の変化を示す図である。
図2(a)に示す化学構造を持つアデノシンは、ADAの代謝作用により、図2(b)に示す化学構造を持つイノシンに変化する。さらに、イノシンは、ADAと同様に体内にあるプリンヌクレオシドホスホリラーゼの作用により、図2(c)に示す化学構造を持つヒポキサンチンに変化する。そのため、被検者がADA欠損症の罹患者であると、イノシンやヒポキサンチンの生成量が健常者に比べて少なくなる。そこで、本実施例の疾病診断システムでは、被検者から採取した血液又は臓器由来の細胞抽出液にアデノシン又はデオキシアデノシンを添加し、その代謝物であるイノシン又はデオキシシノシンと、さらにそれらの代謝物であるヒポキサンチンの量(濃度)を質量分析装置により測定し、それを事前に定められた基準値つまりは判定閾値と比較することで、ADA欠損症疾患の罹患の可能性を判断する。即ち、本実施例の疾病診断システムにおいてADA欠損症の診断を行う際には、イノシン又はデオキシイノシンやヒポキサンチンを診断マーカとした質量分析を実施することになる。
図3は、本実施例の疾病診断システムで分析する試料を調製するための試料前処理の手順を示すフローチャートである。なお、この前処理は質量分析装置においてイオン化を行うための処理ではなく、診断マーカを生成するための必須の処理である。
まず、被検者から所定量の血液や細胞を含む臓器の一部を検体として採取し(ステップS1)、該検体に基質としてアデノシン又はデオキシアデノシンを添加する(ステップS2)。このとき、溶媒としては例えば酢酸アンモニウム(AcONH4)を用いるとよい。そして、所定時間の撹拌又は震とう処理を実施した(ステップS3)あとに、濾過して所定量の試料を抽出する(ステップS4)。さらに、体温と同程度の温度(例えば37℃)雰囲気中に所定時間、試料を置くことで(ステップS5)、代謝反応を促進させる。こうして調製された液体状の試料を質量分析に供する。
なお、測定上必須ではないが、装置自体の汚染を軽減するには、代謝反応を促進させた後に、遠心分離→上清→濾過といった処理を行い、その処理後の液体状の試料を質量分析に供することが望ましい。
試料ステージ21上には、上述したように調製された、それぞれ別の被検者から得られた多数の試料22が用意される。オペレータは入力部50より、診断対象の疾患を識別する情報、ここではADA欠損症を指示する。分析条件記憶部49には、予め診断対象の疾患と該疾患に対応した診断マーカを測定するためのプリカーサイオン及びプロダクトイオンの質量電荷比とが格納されている。例えばADA欠損症に対しては、上述したようにイノシン又はデオキシイノシンとヒポキサンチンとが診断マーカであるから、これら化合物を定量分析するのに適当なプリカーサイオン質量電荷比及びプロダクトイオン質量電荷比が記憶されている。また、これ以外の分析条件、例えばCIDガス流量、コリジョンエネルギ、なども併せて記憶しておくようにしてもよい。
検査対象の疾病が指定されると、中央制御部48は分析条件記憶部49から指定された疾病に対応する分析条件を読み出して分析制御部47へと送る。そして、入力部50より分析実行開始が指示されると、中央制御部48の制御の下に分析制御部47は各部に制御信号を送り、分析を開始する。具体的には、用意された多数の試料のうちの1番目の試料が分析位置に来るようにステージ駆動部40を駆動し、1番目の試料が分析位置にセットされたならば、DARTイオン化ユニット10のニードル電極15に所定電圧を印加するように電源部41を駆動する。それにより、DARTイオン化ユニット10から試料22に励起状態にある水分子イオンが吹き付けられ、それによって試料22中の化合物由来のイオンが発生する。
上述したような試料前処理によって試料22中にイノシン、デオキシイノシン、ヒポキサンチンが生成された状態であれば、イオン化によってそれら化合物イオンが生成される。こうして発生した各種イオンは加熱キャピラリ23、イオンガイド25、28を経て分析室29内の前段四重極マスフィルタ30に導入される。前段四重極マスフィルタ30には電源部41から、例えばイノシン由来のイオンのみを選択的に通過させ得るような電圧が印加されており、イノシン由来のイオンは前段四重極マスフィルタ30を通過してコリジョンセル31内に入射する。コリジョンセル31内で該イオンはCIDガスに接触して解離する。後段四重極マスフィルタ33には電源部41から、イノシン由来イオンの解離により生成されたプロダクトイオンの中で特徴的なイオンのみを選択的に通過させ得るような電圧が印加されている。そのため、イノシン由来の特徴的なプロダクトイオンが存在すれば、該イオンは後段四重極マスフィルタ33を通過してイオン検出器34に到達する。
データ処理部44はイオン検出器34で得られる検出信号の時間的変化を示すグラフを作成する。即ち、DARTイオン化ユニット10から試料22への励起状態の水分子イオンの吹き掛けはパルス的に行われるため、試料22から化合物由来のイオンが発生する時間幅も限られる。そのため、その励起状態の水分子イオンを吹き掛ける時点前後の所定時間範囲の検出信号をグラフ化すると、発生したイオンに対応したピークが観測される。そこで、データ処理部44ではこのグラフ上でピーク検出を行い、波形処理によってピークの開始点及び終了点を定め、ピーク面積値を算出する。このピーク面積値は測定対象である化合物、この場合、イノシンの含有量に依存するから、試料中に含まれるイノシンが多ければ、ピーク面積値は大きくなる。
図4は、健常者とADA欠損症罹患者におけるイノシンの実測結果を示すグラフである。この例では、健常者と患者(A、B)から採取した血液にアデノシンを添加した後に一定時間(3時間、6時間、及び12時間)保温することで代謝反応を促進させて、それぞれ試料を調製した。それら試料に含まれるイノシン由来のイオンを上記実施例のシステムの質量分析装置により順次検出し、時間経過に伴う信号強度をプロットしたのが図4である。
上述したように、試料中にイノシンが存在すれば図4のグラフ上でピークが現れる。図4の結果では、患者からの試料に対してはいずれも全くピークが観測されないのに対し、健常者からの試料に対してはいずれも明瞭なピークが観測される。このことから、本実施例のシステムにおける質量分析装置を用い、上述したような手順で試料前処理や質量分析を実施した場合、検出されるイノシンの量には健常者とADA欠損症罹患者とで明確な差異があることが分かる。また、デオキシイノシンやヒポキサンチンでも同様の結果となる。そこで、本実施例の疾病診断装置においては、事前に多数の健常者及びADA欠損症罹患者について同様の手順でイノシン又はデオキシイノシン、さらにはヒポキサンチンを定量測定した結果に基づいて、ADA欠損症罹患者である可能性があることを判断できるピーク面積値の閾値を定め、これを診断基準データとして診断基準データ記憶部46に格納しておく。
診断処理部45は、算出されたピーク面積値をデータ処理部44から受け取ると、それを診断基準データ記憶部46から読み出した閾値と比較し、ピーク面積値が閾値を超えていれば、ADA欠損症である可能性はないと判断する。逆に、ピーク面積値が閾値以下であれば、ADA欠損症である可能性があると判断する。
分析制御部47の制御の下に、質量分析装置では1番目の試料に対する質量分析を終了すると、試料ステージ21を移動させて2番目の試料を分析位置にセットし、該試料に対し同様に質量分析を実行する。質量分析装置では、用意された全ての試料についてこれを繰り返す。データ処理部44及び診断処理部45は、試料毎に得られた検出信号に基づいて、上述したように目的化合物由来のピークの面積値を求め、これを用いてADA欠損症罹患の可能性を判定する。そうして、全ての試料の分析が終了したならば、その診断結果を中央制御部48を介して表示部51から出力する。もちろん、一つの試料に対する診断を終了する毎にその結果を出力するようにしてもよい。
また、イオン化室20は大気圧雰囲気であるから、決められた数の試料を順次分析するのではなく、例えば自動試料チェンジャや試料搬送コンベアなどを用い、実質的にほぼ無制限に連続的な分析を行うようにしてもよい。
次に、本実施例の疾病診断システムにおいてALDの診断を行う場合について説明する。ALDに罹患すると、多くの場合、細胞内にあるペルオキシソーム膜上のALDタンパク質の機能が低下し、極長鎖脂肪酸やそれを含む代謝物、例えばリン脂質が蓄積される。そこで、本実施例の疾病診断システムを用いたALD診断では、試料前処理において被検者から採取した血液又は細胞を含む臓器の一部などの検体に含まれる極長鎖脂肪酸C26:0(炭素数26の飽和脂肪酸)、C24:0(炭素数24の飽和脂肪酸)などを含むリン脂質を直接イオン化させて定量するか、或いは、アルカリによるケン化によって加水分解することで脂肪酸を遊離させ、飽和脂肪酸の量(濃度)を質量分析により定量する。長鎖飽和脂肪酸の量が多ければ、ペルオキシソーム膜上のALDタンパク質の機能不全による、ALDの可能性があると判断できる。
図5は炭素数26の飽和脂肪酸(C26:0)及びそれを含むリン脂質の化学構造の一例を示す図である。こうしたリン脂質由来のイオンをプリカーサイオンとしてCIDにより解離させると、図中に示すような位置で結合が切断され、質量電荷比m/zが104又は184であるプロダクトイオンが生成される。そこで、MRM測定モードにおいて例えばm/z104であるプロダクトイオンを検出することで、飽和脂肪酸を精度よく定量することができる。
ただし、この場合、単純にC26:0やC24:0に対応するピーク面積値を閾値と比較しても信頼性の高い診断が困難な場合がある。そこで、ペルオキシソーム膜上のALDタンパク質の機能の影響を殆ど受けないC16:0の定量も併せて行い、このC16:0に対応するピーク面積値に対するC26:0又はC24:0のピーク面積値の比を求め、これを評価値として用い、この評価値を予め求めておいた閾値と比較するようにするとよい。
また、ADA欠損症、ALD以外にも、上記のような質量分析装置により高精度、高感度で検出可能な低分子化合物(おおよそ質量電荷比m/zが1000以下である化合物)を診断マーカとして使用することができる疾病であれば、検査対象とすることができる。例えば、糖類を診断マーカとしてライソゾーム病を検査対象とすることができる。もちろん、検査対象の疾病は先天性代謝異常疾患に限るものではなく、例えば、尿酸を診断マーカとして痛風の診断を行うこともできる。さらにまた、免疫抑制剤等として使用されるFK506の血中濃度測定、抗癌剤等として使用されるMTXやその代謝物の血中濃度測定など、疾病の治療に使用される薬剤の血中濃度測定に本実施例のシステムを用いることにより、治療効果の診断を行うこともできる。
なお、本実施例の疾病診断システムの質量分析装置において特定の化合物由来のイオンのみを検出する場合には、そのイオンの極性に合わせて正イオン測定モード又は負イオン測定モードのいずれか一方で質量分析装置を動作させればよいが、例えば複数の疾病の診断を同時に行うような場合には、正イオン測定モードと負イオン測定モードとを高速で切り替えるようにし、正イオンと負イオンとを実質的に同時に検出できるようにするとよい。
また上記実施例の疾病診断システムにおける質量分析装置はイオン源としてDARTイオン源を用いているが、DARTと同様に、試料の態様を変えることなく、つまりは液体試料は液体状のまま、固体試料は固体試料のまま、大気圧雰囲気の下でイオン化可能である他のイオン化法を用いてもよい。
具体的には、例えば脱離エレクトロスプレイイオン化(DESI)法によるイオン源を用いることができる。DESI法では、帯電させた溶媒の微小液滴を試料表面に噴霧し、該試料表面に付着した帯電液滴と試料表面との相互作用により試料中の成分をイオン化する。DESIの詳細については、例えば、文献(ゾルタン・タカス(Zolta'n Taka'ts)ほか2名、「マス・スペクトロメトリー・サンプリング・アンダー・アンビエント・コンディションズ・ウィズ・デソープション・エレクトロスプレイ・イオナイゼイション(Mass Spectrometry Sampling Under Ambient Conditions with Desorption Electrospray Ionization)」、サイエンス(Science)、2004年、306巻、5695号、p.471-473)に記載されている。
また、エレクトロスプレイ支援/レーザ脱離イオン化(ELDI)法によるイオン源を用いることもできる。ELDI法では、試料の上方空間に帯電液滴が噴霧されるとともに、微小径に絞られたレーザ光が試料に照射される。レーザ光照射によって試料から試料成分が蒸発して脱離し、脱離した微粒子は帯電液滴の噴霧流中に取り込まれ、帯電液滴の作用によりイオン化される。ELDIの詳細については、例えば、文献(ミン・ゾン・ファン(Min-Zong Huang)、ほか4名、「ダイレクト・プロテイン・デテクション・フロム・バイオロジカル・メディア・スルー・エレクトロスプレイ-アシステッド・レーザ・ディソープション・イオナイゼイション/マス・スペクトロメトリー(Direct Protein Detection from Biological Media through Electrospray-Assisted Laser Desorption Ionization/Mass Spectrometry)」、ジャーナル・オブ・プロテイン・リサーチ(J. Proteome Res.)、2006年、5巻、5号)に記載されている。
さらにまた、大気圧固体分析プローブ(ASAP=Atmospheric Solids Analysis Probe)によるイオン源を用いてもよい。ASAPでは、加熱した窒素脱溶媒ガスを使用して試料を気化させ、その気化した試料をコロナ放電によりイオン化する。
また上記実施例のシステムにおける質量分析装置はタンデム四重極型質量分析装置であるが、単一の四重極マスフィルタを用いた四重極型質量分析装置でもよい。もちろん、タンデム四重極型質量分析装置によりMRM測定を行うことで、夾雑物の影響を排除し易くなり検出信号のSN比も向上するので、タンデム四重極型質量分析装置が好ましいのは言うまでもない。また、四重極マスフィルタ以外の質量分析器を用いた質量分析装置、例えば飛行時間型質量分析装置でもよい。
なお、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
10…DARTイオン化ユニット
11…放電室
12…反応室
13…加熱室
14…ガス導入管
15…ニードル電極
16…入口側隔壁
17…出口側隔壁
18…出口
19…グリッド電極
20…イオン化室
21…試料ステージ
22…試料
23…加熱キャピラリ
24…第1中間真空室
25、28…イオンガイド
26…スキマー
27…第2中間真空室
29…第2中間真空室
29…分析室
30…前段四重極マスフィルタ
31…コリジョンセル
32…多重極イオンガイド
33…後段四重極マスフィルタ
34…イオン検出器
40…ステージ駆動部
41…電源部
42…CIDガス供給部
44…データ処理部
45…診断処理部
46…診断基準データ記憶部
47…分析制御部
48…中央制御部
49…分析条件記憶部
50…入力部
51…表示部
C…イオン光軸

Claims (9)

  1. 質量分析を用いて特定の疾病の診断を行う疾病診断装置であって、
    a)大気圧雰囲気の下で、イオン化のための前処理がなされていない状態の試料を該試料が置かれた状態のままでイオン化することが可能であるDART法によるイオン源と、該イオン源で生成された試料由来のイオン又は該イオンから派生したイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分離器と、該分離されたイオンを検出する検出器と、を具備する質量分析部と、
    b)検査対象である疾病について、疾病毎に予め決められた化合物に由来するイオンを検出するように、前記質量分析部を動作させる分析制御部と、
    c)検査対象である疾病に対し決められた化合物由来のイオンの検出結果から、該化合物の濃度に関連した評価値を取得し、該評価値予め定められた基準値と比較することにより、検査対象である疾病の罹患の可能性を評価する結果判定部と、
    を備えることを特徴とする疾病診断装置。
  2. 請求項1に記載の疾病診断装置であって、
    前記質量分離器は四重極マスフィルタを含むことを特徴とする疾病診断装置。
  3. 請求項2に記載の疾病診断装置であって、
    前記質量分離器は、間にイオンを解離させるコリジョンセルを挟んで前段と後段とにそれぞれ四重極マスフィルタを配置したタンデム四重極型の構成であることを特徴とする疾病診断装置。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の疾病診断装置であって、
    前記質量分析部では1回の質量分析において正イオン及び負イオンの両方を分析することを特徴とする疾病診断装置。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の疾病診断装置であって、
    前記検査対象である疾病はアデノシンデアミナーゼ欠損症であり、それに対応して予め決められた化合物は少なくともイノシン、デオキシイノシン、又はヒポキサンチンのいずれかであることを特徴とする疾病診断装置。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載の疾病診断装置であって、
    前記検査対象である疾病は副腎白質ジストロフィーであり、それに対応して予め決められた化合物は少なくとも炭素数26の飽和脂肪酸若しくは炭素数24の飽和脂肪酸、それらを含む分子、又はそれらを含む長鎖脂肪酸の代謝物のいずれかであり、その炭素数26の飽和脂肪酸又は炭素数24の飽和脂肪酸の濃度を評価値としたことを特徴とする疾病診断装置。
  7. 請求項1〜4のいずれかに記載の疾病診断装置であって、
    前記検査対象である疾病は副腎白質ジストロフィーであり、それに対応して予め決められた化合物は少なくとも、炭素数26の飽和脂肪酸若しくは炭素数24の飽和脂肪酸、それらを含む分子、又はそれらを含む長鎖脂肪酸の代謝物のいずれかである第1の化合物と、炭素数16の飽和脂肪酸、それを含む分子、又はそれを含む長鎖脂肪酸の代謝物のいずれかである第2の化合物とであり、第1の化合物の濃度と第2の化合物の濃度との比を前記評価値としたことを特徴とする疾病診断装置。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の疾病診断装置を利用した疾病診断方法であって、
    被検者から採取した血液、体液、又は細胞を含む臓器の一部である検体に検査対象である疾病に応じた基質を添加し、該検体中に存在する物質の作用で前記基質が変化して生じる化合物を、前記検査対象である疾病に対し決められた化合物として、該疾病の罹患の可能性を判断することを特徴とする疾病診断方法。
  9. 請求項8に記載の疾病診断方法であって、
    前記被検者は新生児であり、検査対象である疾病は先天性代謝異常疾患であることを特徴とする疾病診断方法。
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