JP2014153195A - 吸収率予測に有用な人工多層膜 - Google Patents

吸収率予測に有用な人工多層膜 Download PDF

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Abstract

【課題】消化管吸収率を予測するために有用な新規の膜を提供すること、及び消化管上皮細胞内代謝率を予測又は予測するために有用な新規の膜を提供することを目的とする。
【解決手段】第1層、第2層、第3層の順で積層された多層膜であって、第1層及び第3層がリン脂質液を保持する疎水性多孔質膜であり、第2層が水性溶液を保持する多孔質膜である、多層膜。
【選択図】なし

Description

本発明は、被検物質の消化管吸収率を予測するために有用な多層膜に関する。さらには、被検物質の消化管上皮細胞内代謝率を予測するために有用な多層膜にも関する。
薬物を経口投与する場合のバイオアベイラビリティは、小腸等の消化管における薬物の吸収率や、消化管を透過して門脈に入る際の代謝率等によって大きく影響を受ける。したがって、消化管吸収率や消化管上皮細胞内代謝率を簡便且つ迅速に予測することは、被検物質の医薬品としての有用性を評価する上で極めて重要である。
現在の所、消化管吸収率の予測には、消化管上皮細胞の透過性を測定することが重要であるとの考えのもと、擬似的に消化管上皮細胞を再現した人工膜を用いて消化管からの吸収率を予測する方法が開発されている(特許文献1〜3)。しかしながら、これらの人工膜に対する透過性は、使用する溶媒や試験条件によっては、消化管吸収率との相関の程度が低いものであった。そこで、消化管吸収率を予測するための新規の膜の開発が求められている。
特許第3954847号 特開2007-118003号公報 特開2009-250727号公報
本発明は、消化管吸収率を予測するために有用な新規の膜を提供することを目的とする。さらに、本発明は、消化管上皮細胞内代謝率を予測するために有用な新規の膜を提供することも目的とする。
従来、消化管上皮細胞の細胞膜を擬似的に再現することで、消化管吸収率を予測できると考えられており、消化管上皮細胞の細胞質が消化管吸収率に影響を与えるかどうかは考慮されてこなかった。現に、特許文献1〜3に記載されるような細胞膜を擬似的に再現した膜は開発されていたものの、細胞質をも擬似的に再現した膜は開発されていなかった。
このような状況下において、本発明者等は、細胞の物質透過が、(a)脂質二重膜の透過、(b)細胞質内の移行、および(c)脂質二重膜の透過という3つの過程から成るのとに着目して鋭意研究を進めた結果、性質の異なる(特に(a)、(b)と(c)の間で)過程が存在し、これが消化管吸収率に影響を与えることを発見した。そこで、細胞質を擬似的に再現した膜の両側に細胞膜を擬似的に再現した膜が積層された多層膜を作成した。そして、該多層膜に対する被検化合物の透過性が、消化管吸収率と極めて高い相関を示すことを見出した。また、該多層膜を用いることによって、被検化合物の消化管上皮細胞内代謝率をも予測できることを見出した。これらの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
項1.第1層、第2層、第3層の順で積層された多層膜であって、第1層及び第3層がリン脂質液を保持する疎水性多孔質膜であり、第2層が水性溶液を保持する多孔質膜である、多層膜。
項2.前記リン脂質液が溶媒として炭素数6〜18の鎖式炭化水素を含有する項1に記載の多層膜。
項3.前記第2層が代謝酵素を含有する項1又は2に記載の多層膜。
項4.項1〜3のいずれかに記載の多層膜に対する被検物質の透過性、及び該多層膜に対する、消化管吸収率が既知の対照物質の透過性に基づいて、被検物質の消化管吸収率を予測する方法。
項5.項3に記載の多層膜を用いることを特徴とする、被検物質の消化管上皮細胞内代謝率を予測する方法。
項1の発明によれば、消化管吸収率を精度よく予測するために有用であり、項2の発明によれば、膜の作製が容易になるため有用であり、且つ項3の発明によれば、消化管上皮細胞内代謝率を予測するために有用な、新規の多層膜を提供できる。また、項4の発明によれば、この多層膜に対する物質の透過性は、物質の消化管吸収率と極めて高い相関性を有しているため、該透過性に基づいて消化管吸収率を簡便且つ迅速に精度よく予測することができる。また、項5の発明によれば、本願発明の多層膜に代謝酵素を含ませることにより、該多層膜を透過する際の代謝率をも予測することができる。さらに、予測された消化管吸収率及び消化管上皮細胞内代謝率に基づいて、被検物質を経口投与した場合のバイオアベイラビリティをも簡便に予測することができる。このように、本発明によれば、被検物質の医薬としての各種有用性を簡便且つ迅速に評価することができる。
実施例1の多層膜に対する膜透過性と経口吸収率の相関関係を示す。 実施例2の多層膜に対する膜透過性と経口吸収率の相関関係を示す。 比較例1の多層膜に対する膜透過性と経口吸収率の相関関係を示す。 比較例2の多層膜に対する膜透過性と経口吸収率の相関関係を示す。 ヒト消化管上皮細胞層透過性予測値と経口吸収率との相関関係を示す。
1.多層膜
本発明は、第1層、第2層、第3層の順で積層された多層膜であって、第1層及び第3層がリン脂質液を保持する層であり、第2層が水性溶液を保持する層である、多層膜に関する。
リン脂質液は、リン脂質そのものであってもよいし、リン脂質及び溶媒を含有するリン脂質溶液であってもよい。リン脂質液の好ましい例としては、リン脂質溶液が挙げられる。
リン脂質は、構造中にリン酸エステル部位をもつ脂質である限り特に限定されない。リン脂質としては、例えば細胞膜を構成しているリン脂質が挙げられる。これは、レシチンとも呼ばれ、具体例として、卵黄を由来とする卵黄レシチン、大豆を由来とする大豆レシチンが挙げられるが、レシチンであれば、その由来は特に問われない。リン脂質(レシチン)を構成する物質の具体例としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、及びスフィンゴミエリン等が挙げられ、好ましくはホスファチジルコリンが挙げられる。リン脂質には、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
リン脂質液が溶媒を含有する場合、溶媒は、有機溶媒である限り特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、炭化水素、アルコール、及び脂質等が挙げられ、炭化水素が好ましく挙げられる。溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
炭化水素は、環状又は鎖式でもよく、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、不飽和でも飽和でも良い。炭化水素として、例えば炭素数6〜18の鎖式炭化水素が挙げられ、より好ましくは炭素数6〜18の直鎖状鎖式炭化水素が挙げられる。本発明の多層膜によれば、従来技術において効果が悪いことが示されている炭素数10以上の炭化水素(特許文献1の比較例1)をリン脂質溶液の溶媒として用いても、消化管吸収性を予測するための優れた性能を発揮できる。炭化水素として、具体的には、ヘキサン、ドデカン、ヘキサデカン、ヘプタジエン(好ましくは1,6−ヘプタジエン)、オクタジエン(好ましくは1,7−オクタジエン)、及びノナジエン(好ましくは1,8−ノナジエン)等が例示される。炭化水素は1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アルコールとしては、例えば、エタノール、ブタノール、ヘキサノール、イソプロピルアルコール、及びペンタノール等が挙げられる。アルコールは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
脂質としては、例えば、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、及びステロール等が挙げられる。飽和脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、及びベヘン酸等が挙げられる。不飽和脂肪酸としては、例えば、パルミトレイン酸、リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、及びアラキドン酸等が挙げられる。ステロールとしては、フィトステロール、及びコレステロール等が挙げられる。これらの脂質については、ポリエチレングリコール等で修飾されたものを用いてもよい。脂質は1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
リン脂質液には、リン脂質や溶媒以外の他の成分が含まれていてもよい。例えば、本発明の多層膜の性質を生体膜(消化管上皮細胞層等)の性質に近づけるために、輸送タンパク質等の細胞膜タンパク質を含ませてもよい。
リン脂質を保持する層は、リン脂質液を一定の層厚で安定に保持している層である限り特に限定されない。具体的には、例えばリン脂質を保持する担持体が挙げられる。リン脂質液を保持するために担持体を用いる場合においては、担持体の構造は特に限定されず、例えば、グリッド形状の担持体でもよいが、疎水性の材質からなり、少なくとも膜厚方向に連通した連通孔を有する多孔質からなる、担持体を用いることが、取り扱いのしやすさから好ましい。担持体としては、具体的には多孔質膜が挙げられ、好ましくは疎水性多孔質膜が挙げられる。疎水性多孔質膜として、例えば、PTFE膜、疎水性PVDF膜、疎水性繊維でできた疎水性不織布膜、及び不織布を疎水加工してできた疎水性不織布膜等が挙げられ、好ましくは疎水性PVDF膜が挙げられる。疎水性多孔質膜の孔径は、例えば0.001〜20μm、好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.05〜5μm、さらに好ましくは0.05〜0.5μmであることができる。疎水性多孔質膜の膜厚は、例えば1〜1000μm、好ましくは10〜700μm、より好ましくは50〜300μm、さらに好ましくは70〜200μmであることができる。
リン脂質液を保持する疎水性多孔質膜を作製する方法は、リン脂質液が疎水性多孔質膜の表面及び/又は間隙に存在するように作製する方法である限り特に限定されない。例えば、リン脂質液を疎水性多孔質膜に滴下したり、リン脂質液中に疎水性多孔質膜を浸漬することにより得ることができる。この際に、疎水性多孔質膜の表面などに余分に存在しているリン脂質液を除去してもよい。
第2層における水性溶液は、水そのものであってもよいし水溶液であってもよい。水性溶液としては、例えば緩衝液が好ましく挙げられる。緩衝液としては、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、及びトリス緩衝液等が挙げられる。水性溶液は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
水性溶液のpH は、特に限定されるものではない。好ましくは生理的pH により近いpH が挙げられる。例えば、水性溶液のpH はpH 5〜8、好ましくはpH 6〜7.8、より好ましくはpH 6.5〜7.6であることができる。
第2層は、細胞質内に存在する各種成分(以下、「細胞質成分」と示す)を含んでいてもよい。細胞質成分としては、酵素(特に代謝酵素)、補酵素、及び塩等が挙げられる。なお、代謝酵素としては、代謝酵素そのものを用いてもよいが、ミクロソームのように代謝酵素を多く含む細胞画分を用いてもよい。これらの中でも、特に代謝酵素を水性溶液に含ませた本発明の多層膜を用いることによって、消化管上皮細胞内代謝率を予測することができる。この場合、代謝酵素は、消化管上皮細胞内代謝率の予測対象の被検物質の種類に応じて適宜選択することができる。また、塩や補酵素も、選択された代謝酵素に応じて適宜選択することができる。
水性溶液を保持する層は、第1層と第3層の間に水性溶液を一定の層厚に保持している層である限り特に限定されない。具体的には、例えば水性溶液を保持するフレーム状の枠体、又はスペーサー、ボール、及びグリッドなどの支持体が挙げられる。支持体の構造は特に限定されず、例えば取り扱いのしやすさから、少なくとも膜厚方向に連通した連通孔を有する多孔質からなる支持体を用いることが好ましい。支持体としては、例えば多孔質膜が挙げられ、好ましくは親水性多孔質膜が挙げられる。多孔質膜として、例えば、不織布膜、セルロース繊維膜、ガラス繊維膜、パルプ繊維膜、及び多孔質金属膜等が挙げられ、好ましくはセルロース繊維膜が挙げられる。多孔質膜の孔径は、例えば0.001〜500μmであることができる。多孔質膜の膜厚は、例えば1〜1000μm、好ましくは30〜800μm、より好ましくは80〜500μm、さらに好ましくは160〜350μmであることができる。
水性溶液を保持する多孔質膜を作製する方法は、水性溶液が多孔質膜の表面及び/又は間隙に存在するように作製する方法である限り特に限定されない。例えば、水性溶液を多孔質膜に滴下したり、水性溶液中に多孔質膜を浸漬することにより得ることができる。この際に、多孔質膜の表面などに余分に存在している水性溶液を除去してもよい。
本発明の多層膜は、例えば水性溶液を保持する多孔質膜の両側にリン脂質液を保持する疎水性多孔質膜を積層することにより得ることができる。なお、積層する際には、気泡が入らないように各膜の隅から積層するとよい。積層後、多層膜の端を公知の止め具により固定することにより、各層が容易に分離しないようにすることもできる。
本発明の多層膜に対する被検物質の透過性は、該被検物質の消化管吸収率と非常に高い相関を有しているため、後述のように該多層膜を用いることによって簡便且つ迅速に消化管吸収率を予測することができる。また、本発明の多層膜を用いることによって、後述のように被検物質の消化管上皮細胞内代謝率をも測定(予測)することができる。
2.消化管吸収率を予測する方法
本発明の多層膜に対する物質の透過性は、該物質の消化管吸収率と非常に高い相関を示す。したがって、消化管吸収率が既知の対照物質の透過性を測定することにより、該測定条件下における消化管吸収率と透過性との相関関係(相関グラフ等)を導き出すことができる。そして、この相関関係に、該測定条件下で測定された被検物質の透過性を当てはめることにより、該被検物質の消化管吸収率を求めることができる。
このため、本発明は、本発明の多層膜に対する被検物質の透過性(以下、「被検物質透過性」と示すこともある)、及び本発明の多層膜に対する、消化管吸収率が既知の対照物質の透過性(以下、対照物質透過性)と示すこともある)に基づいて、被検物質の消化管吸収率を予測する方法にも関する。
本発明において、消化管吸収率とは、経口投与された物質が、消化管から、消化管上皮細胞層を通って、血管やリンパ管に移行する割合を意味する。したがって、消化管吸収率には、経口吸収率も包含される。
被検物質透過性は、公知の方法に従って測定することができるが、例えば、本発明の多層膜を介して2槽に分けられた装置(以下、「膜透過性測定装置」と示す)を用いて、次のように測定することができる。
膜透過性測定装置の一方の槽に被検物質含有水性溶液を満たし(管腔側槽)、もう一方の層に水性溶液を満たす(血管側槽)。この状態で一定時間経過後に管腔側槽中又は血管側槽中の被検物質の濃度を測定することにより、被検物質の透過量を求める。該透過量を、経過時間で割ることにより、被検物質透過速度が求められる。さらにこの透過速度を多層膜の表面積と管腔側槽に導入した被検物質濃度で割ることにより、被検物質透過性が求められる。具体的には下記式に基づいて求めることができる。
Figure 2014153195
被検物質含有水性溶液は、被検化合物を含有する水性溶液である限り特に限定されない。
被検物質は、消化管吸収率を調べる対象となり得る限り特に限定されない。被検物質としては、例えば、医薬品、薬物、農薬、農薬原体、食品添加物、医薬品として開発段階にある化合物、及び医薬品としての効果を評価するため収集した化合物等が挙げられる。
水性溶液は上記「1.多層膜」において記載したものと同様のものを用いることができる。
被検物質含有水溶液には、他成分、例えば被検物質の溶解性を高めるためにDMSO等を含ませてもよい。
管腔側槽中の被検物質含有水性溶液と血管側槽中の水性溶液のpH は、生体内により近いpH を採用することが好ましい。例えば、管腔側槽中の被検物質含有水溶液のpH はpH 5〜7、好ましくはpH 5.5〜6.8、より好ましくはpH 5.8〜6.6であることができ、血管側槽中の水性溶液のpH はpH 6〜8、好ましくはpH 6.5〜7.8、より好ましくはpH 6.8〜7.6であることができる。
被検物質の濃度、対象物質野濃度、槽中の溶液の温度、及び試験時間などは、被検物質等の種類などに応じて適宜選択することができる。
膜透過性測定装置は、本発明の多層膜を介した2槽を有する限り特に限定されない。複数の被検物質の透過性を迅速に測定するためには、複数のウェルを有するウェルプレートを使用することも好ましい。この場合、例えば、複数のウェルを有するウェルプレートを血管側槽容器として使用し、各ウェル中に水性溶液を満たし、その上を本発明の多層膜で覆ってから、各ウェルと適合する位置に貫通孔を有する上部プレート(管腔側槽容器として使用)を載せ、そこに被検物質含有水性溶液を入れることによって、膜透過性測定装置を得ることができる。
管腔側槽中又は血管側槽中の被検物質の濃度は、公知の方法に従って、例えば、吸光度測定、HPLC法、TLC(薄層クロマトグラフィ)法、GC-MS(ガスクロマトグラフィ−マススペクトル)法、LC-MS(液体クロマトグラフィ−マススペクトル)法、蛍光法、NMR法、IR法、CE(キャピラリー電気泳動)法等を用いて測定することができる。このようにして求められた濃度と溶液量に基づいて、被検物質の透過量が求められる。さらに、被検物質の透過量に基づいて被検物質透過性が求められる。
対照物質透過性も、上記した被検物質透過性と同様に、公知の方法に従って測定することができる。
被検物質の消化管吸収率は、被検物質透過性及び対照物質透過性に基づいて予測することができる。例えば、いくつかの対照物質について対照物質透過性を測定し、該透過性と該対照物質の既知の消化管吸収率との相関関数を求め、被検物質透過性をこの相関関数に代入することにより、被検物質の消化管吸収率の予測値が求められる。
さらに、消化管吸収率の予測は、被検物質透過性及び対照物質透過性に代えて、上記膜透過性に基づいて、公知の方法に従って予測される細胞層透過性を用いて行ってもよい。概要として、細胞層透過性は、被検物質の分子サイズなどから求められる細胞間隙の透過性の値等により上記膜透過性の数値を補正することにより求められる。具体的には、例えばInternational Journal of Pharmaceutics 414, 2011, 69−76に記載の方法に従って求めることができる。
3.消化管上皮細胞内代謝率を予測する方法
本発明の多層膜に対する物質の透過性は、該物質の消化管吸収率と非常に高い相関を示すことから、本発明の多層膜は消化管上皮細胞層を擬似的に再現していると考えられる。したがって、本発明の多層膜に代謝酵素を含ませて、該膜を物質が透過する際に生じた該物質の代謝物の量を調べることにより、物質が消化管上皮細胞層を透過する際に代謝された割合(消化管上皮細胞内代謝率)を求めることができる。
したがって、本発明は、第2層が代謝酵素を含有する本発明の多層膜を用いることを特徴とする、被検物質の消化管上皮細胞内代謝率を予測する方法にも関する。
消化管上皮細胞内代謝率は、水性溶液が代謝酵素を含有する本発明の多層膜を介して2槽に分けられた装置(代謝率測定用装置)を用いて、上記「2.消化管吸収率を予測する方法」に記載の方法において、管腔側槽及び血管側槽の被検物質濃度に加えて、両槽の被検物質代謝物の濃度も測定し、該測定結果に基づいて求めることができる。すなわち、管腔側槽及び血管側槽の被検物質濃度及び被検物質代謝物濃度から導き出された、両槽における、被検物質量及び被検物質代謝物量から、被検物質が本発明の多層膜を透過する際に代謝された割合(消化管上皮細胞内代謝率)を求めることができる。
代謝率の求め方についてはJ Pharmacol Exp Ther. 1999 289(2):1143−50.等に詳細が記載されている。一例として、下記式により求めることができる。
Figure 2014153195
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1〜2及び比較例1〜2:多層膜及び単層膜の製造
リン脂質溶液保持膜(第1層)、リン酸緩衝液保持膜(第2層)、リン脂質溶液保持膜(第3層)の順で積層された多層膜(実施例1〜2)、及びリン脂質溶液保持膜からなる単層膜(比較例1〜2)を製造した。いずれの膜も、膜表面積は1.77 cm2である。具体的には次のように行った。
リン酸水素二ナトリウム・12水和物(和光純薬工業株式会社)の50 mM水溶液約4重量部に対して、リン酸二水素ナトリウム・2水和物(和光純薬工業株式会社)の50 mM水溶液を約1重量部混合してpH 7.4の溶液を調製し、さらに該溶液にDMSO(和光純薬株式会社)を5 v/v%の濃度になるように溶解させて得られた液を「リン酸緩衝液(+DMSO,pH 7.4)」とした。一方で、リン脂質として卵黄レシチン(キューピー株式会社、PC-98C)を、20 mg/mLの濃度になるようにドデカン(和光純薬工業株式会社)又は1,7-オクタジエン(和光純薬工業株式会社)に溶解させて、ドデカンを溶媒とするリン脂質溶液(以下、「リン脂質溶液(ドデカン)」と表記する)、及びオクタジエンを溶媒とするリン脂質溶液(以下、「リン脂質溶液(オクタジエン)」と表記する)を作成した。
70μLのリン酸緩衝液(+DMSO,pH 7.4)を直径25 mmの多孔質膜(Filter paper、アドバンテック東洋株式会社)に滴下してリン酸緩衝液保持膜を得た。一方で、40〜90μLのリン脂質溶液(ドデカン)を直径25 mmの疎水性多孔質膜(Durapore membrane filter(VVLP02500)、Millipore社)に滴下してリン脂質溶液保持膜を得た。リン酸緩衝液保持膜の両側にリン脂質溶液保持膜を積層して、3層からなる多層膜(実施例1)を得た。
リン脂質溶液(ドデカン)の代わりにリン脂質溶液(オクタジエン)を用いて、実施例1と同様の方法により多層膜(実施例2)を得た。
リン脂質溶液(ドデカン)を用いて実施例1と同様の方法によりリン脂質溶液保持膜を得て、これを単層膜(比較例1)とした。
リン脂質溶液(オクタジエン)を用いて実施例1と同様の方法によりリン脂質溶液保持膜を得て、これを単層膜(比較例2)とした。
試験例1:被検化合物の膜透過性の測定
多層膜(実施例1若しくは2)、又は単層膜(比較例1若しくは2)を介して2槽に分けられた膜透過性測定装置を用いて、被検化合物の膜透過性を測定した。具体的には次のように行った。
リン酸水素二ナトリウム・12水和物の50 mM水溶液約1重量部に対して、リン酸二水素ナトリウム・2水和物の50 mM水溶液を約2重量部混合してpH 6.5の溶液を調製し、さらに該溶液に、後述の表1に示す、経口吸収率が既知の各種被検化合物のいずれかを2 mMの濃度になるように溶解させたDMSO溶液を、5 v/v%の濃度になるように添加して「薬液」を得た(薬液中の被検化合物の濃度は100μM(=0.1μmol/cm3))。
膜透過性測定装置の一方の槽に薬液を8 mL導入し(管腔側槽)、もう一方の槽にリン酸緩衝液(+DMSO,pH 7.4)を5.5 mL導入した(血管側槽)。管腔側槽及び血管側槽の溶液を200 rpmの速度で撹拌しながら、37℃でインキュベーションした。インキュベーション開始後、15分、30分、60分、90分、及び120分経過時点で血管側槽の溶液を0.5 mL採取し、採取溶液中の被検化合物濃度を測定し、該濃度に基づいて透過した被検化合物量(透過量)を求め、さらに該被検化合物量から被検化合物の透過速度(μmol/s)を求めた。具体的には、求められた透過量を、横軸をインキュベーション開始後の時間として縦軸を透過量としたグラフにプロットし、該プロットに基づいて得られたグラフを描き、最小自乗法によって該グラフの傾き(透過速度)を求めた。透過速度に基づいて、下記式により、被検化合物の膜透過性を求めた。結果を表1に示す。
Figure 2014153195
Figure 2014153195
試験例2:膜透過性測定値に基づくヒト消化管上皮細胞層透過性の予測
薬物が生体内の細胞層(消化管上皮細胞層など)を透過する経路には、細胞を透過する経路と、細胞間隙を透過する経路の2経路がある。そこで、細胞を擬似的に再現している上記実施例に係る多層膜の透過性、及び被検化合物の分子サイズ等から求められる細胞間隙の透過性に基づいて、既知の方法(International Journal of Pharmaceutics 414, 2011, 69-76)に従って、生体内の細胞層の透過性(ヒト消化管上皮細胞層透過性)を予測した。予測方法の概要は下記のとおりである。
被検化合物の分子サイズとヒト消化管上皮細胞間隙のパラメータより、ヒト消化管上皮細胞間隙経路の透過性を算出した。一方で、試験例1で測定された実施例2に係る多層膜に対する被検化合物の膜透過性に、係数(ヒト消化管上皮細胞層透過性と基準化合物膜透過性との比)を掛け合わせることによって、ヒト消化管上皮細胞の透過性を算出した。このようにして算出されたヒト消化管上皮細胞間隙経路の透過性と、ヒト消化管上皮細胞の透過性を足した値を、ヒト消化管上皮細胞層透過性の予測値とした。
なお、被検化合物がメトプロロールの場合、実施例2に係る多層膜に対する被検化合物の膜透過性が「6.50E-07(cm/s)」であり、係数が「1.75E+02」(係数は全化合物共通)であり、ヒト消化管上皮細胞間隙経路の透過性が「1.77E-05(cm/s)」である。したがって、この場合のヒト消化管上皮細胞層透過性の予測値は「1.31E-04(cm/s)」となる。被検化合物の予測値は表1の最右欄に示す。
試験例3:被検化合物の膜透過性又はヒト消化管上皮細胞層透過性予測値と、被検化合物の経口吸収率との相関
試験例1で測定された被検化合物の膜透過性、又は試験例2で予測されたヒト消化管上皮細胞層透過性予測値と、被検化合物の既知の経口吸収率との相関関係を求めた。相関関係を示すグラフを図1〜5に示す。図1、2、4、及び5のグラフ中に、相関関係の程度を示す決定係数(R2)も示す。なお、図3のグラフについては、相関が明らかに認められないため、相関係数を求めなかった。
図1及び図2より、実施例1及び2に係る多層膜に対する被検化合物の膜透過性は、被検化合物の既知の経口吸収率と、極めて高い相関を示した。この相関の程度は、リン脂質溶液保持膜からなる既知の人工膜に対する膜透過性との相関の程度(図3及び4)に比べて、極めて高いものであった。また、図2と図5との比較より、多層膜に対する膜透過性から予測されたヒト消化管上皮細胞層透過性予測値は、より高い相関を示すことが明らかとなった。以上より、多層膜に対する膜透過性、及び該膜透過性から予測されたヒト消化管上皮細胞層透過性予測値を測定することによって、経口吸収率等に代表される消化管吸収率を簡便に予測できることが示された。
試験例4:代謝率の測定
薬物は、生体内の細胞層(消化管上皮細胞層など)を透過する際に、細胞層の表面(管腔側)や細胞内に存在する酵素の作用によって代謝される。この代謝によって、投与薬物の活性が失われたり、あるいは発揮されるため、代謝率を予測することは極めて重要である。そこで、被検化合物が多層膜を透過する際の代謝率を測定し、該代謝率が、生体内の細胞層を透過する際の代謝率の予測に有用であるか否かを調べた。具体的には次のように行った。
[多層膜の調製]
リン酸水素二カリウム(和光純薬工業株式会社)の50 mM水溶液4重量部に対して、リン酸二水素カリウム(和光純薬工業株式会社)の50 mM水溶液を1重量部混合してpH 7.4の溶液を調製し、さらに該溶液に塩化マグネシウム(和光純薬工業株式会社)を3.3 mMの濃度になるように、SD RAT由来microsome(Pooled IGS Sparague-Dawley rat liver microsomes, XENOTECH)を2 mg/mLの濃度になるように、NADPH(Sigma-Aldrich)を20 mMの濃度になるように添加して得られた液を「細胞内溶液」とした。この細胞内溶液をリン酸緩衝液(+DMSO,pH 7.4)の代わりに用いる以外は実施例1と同様の方法により多層膜を得た。
[溶液の調製]
リン酸水素二ナトリウム・12水和物の50 mM水溶液1重量部に対して、リン酸二水素ナトリウム・2水和物の50 mM水溶液を2重量部混合してpH 6.5の溶液を調製し、さらに該溶液にMidazolam(和光純薬工業株式会社)を2 mMの濃度になるように溶解させたDMSO溶液を、1 v/v%の濃度になるように、最終DMSO濃度が5v/v%となるようにDMSOを添加して「Midazolam溶液」を得た(該溶液中のMidazolamの濃度は20μM)。
[代謝率測定試験]
上記多層膜を介して2槽に分けられた装置(代謝率測定用装置)を作成した。代謝率測定用装置の一方の槽にMidazolam溶液を8 mL導入し(管腔側槽)、もう一方の槽にリン酸緩衝液(+DMSO,pH 7.4)を5.5 mL導入した。管腔側槽及び血管側槽の溶液を200 rpmの速度で撹拌しながら、37℃でインキュベーションした。インキュベーション開始後、120分経過時に、管腔側槽及び血管側槽の溶液を0.5 mL採取し、採取溶液中のMidazolam(未変化体)濃度、及びMidazolamの代謝物(1’-Hydroxymidazolam及び4-Hydroxymidazolam)(変化体)濃度を測定し、該濃度に基づいて各槽の溶液中の未変化体量及び変化体量を求めた。さらに、下記式に基づいて代謝率を求めた。なお、代謝率の求め方についてはJ Pharmacol Exp Ther. 1999 289(2):1143-50.等に詳細が記載されている。結果を下記表2に示す。
Figure 2014153195
Figure 2014153195
測定された代謝率は、ヒト消化管内でのMidazolamの既知の代謝率(43±18%、Clin Pharmacol Ther. 1996 60(1):14-24.)と近い値であった。このことから、多層膜を用いることにより、消化管上皮細胞内代謝率を予測(予測)できることが示された。

Claims (5)

  1. 第1層、第2層、第3層の順で積層された多層膜であって、第1層及び第3層がリン脂質液を保持する疎水性多孔質膜であり、第2層が水性溶液を保持する多孔質膜である、多層膜。
  2. 前記リン脂質液が溶媒として炭素数6〜18の鎖式炭化水素を含有する請求項1に記載の多層膜。
  3. 前記第2層が代謝酵素を含有する請求項1又は2に記載の多層膜。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の多層膜に対する被検物質の透過性、及び該多層膜に対する、消化管吸収率が既知の対照物質の透過性に基づいて、被検物質の消化管吸収率を予測する方法。
  5. 請求項3に記載の多層膜を用いることを特徴とする、被検物質の消化管上皮細胞内代謝率を予測する方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2018503065A (ja) * 2014-11-17 2018-02-01 スードダンスク ウニヴァシテーツSyddansk Universitet 調整可能な生体模倣特性を備えた薬物透過性評価アセンブリ

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