以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態を説明する。
[試料観察装置の全体構成例]
図1は、本発明に係る試料観察装置の全体構成例を示した図である。この試料観察装置は、写像投影型の低加速電子ビーム装置であり、電子ビーム源10と、1次系レンズ20と、コンデンサレンズ30と、電磁場発生手段(E×B)40と、トランスファーレンズ50と、開口数(NA:Numerical Aperture)調整用のNA調整用アパーチャ60と、プロジェクションレンズ70と、検出器80と、画像処理装置90と、観察対象となる試料200を載置するためのステージ100と、照射エネルギ設定手段110と、電源115とを備えている。
NA調整用アパーチャ60には、少なくとも1つのNAアパーチャ61が設けられており、このNAアパーチャ61により開口数(NA)が決定される。NAアパーチャ61は平面内での位置調整が可能とされ、後述するE×B40の作用により方向付けが異なる導電領域の構造情報を得た電子と絶縁領域の構造情報を得た電子を、選択的に検出器80に導くことができる。なお、この試料観察装置は、必要に応じて、試料200の表面に電子ビームを照射して試料面201を帯電させるための帯電ビーム照射手段120を備える構成としてもよい。
試料面201は絶縁領域と導電領域を有しており、当該試料面201の観察は、電子ビーム源10からの撮像電子ビームの照射により行われる。電子ビーム源10は、例えば、電子源11と、ウェーネルト電極12と、アノード13とを備えており、電子源11で電子を発生させ、ウェーネルト電極12で電子を引き出し、アノード13で電子を加速して試料面201に向けて照射する。
電子ビーム源10は、複数の画素を同時に撮像できるような、複数画素を包含できる所定の面積を有する面状の電子ビームを生成してよい。これにより、1回の電子ビームの試料面201への照射で、複数画素を同時に撮像することができ、広い面積の二次元画像を高速に取得することができる。
照射エネルギ設定手段110は、電子ビーム源10から射出される電子ビームの照射エネルギを設定する手段である。照射エネルギ設定手段110の電源115は、電子ビーム源10に電力を供給し、電子源11から電子を発生させる。電源115は、電子源11から電子を発生させるため、負極が電子源11に接続される。電子ビームの照射エネルギは、試料200の電位と、電子ビーム源10の電子源11に備えられたカソードの電位差により定められる。よって、照射エネルギ設定手段110は、電源115の電圧(以後、「加速電圧」と呼ぶ。)を調整することにより、照射エネルギを調整及び設定することができる。
本発明に係る試料観察装置においては、照射エネルギ設定手段110により電子ビームの照射エネルギが適切な値に設定され、取得される画像のコントラストが高められる。本発明では、電子ビームの照射エネルギは、撮像電子ビームの照射により試料面201の構造情報を得た電子がミラー電子と2次電子の双方を含む遷移領域に設定される。照射エネルギの具体的な設定方法については、後述する。
1次系レンズ20は、電子ビーム源10から射出された電子ビームを電磁場の作用により偏向させ、試料面201上の所望の照射領域に導くための手段である。なお、1次系レンズ20は、複数設けられていてもよい。このような1次系レンズ20には、例えば、四極子レンズが用いられる。
E×B40は、電子ビーム又は電子に電界と磁界を付与し、ローレンツ力により電子ビーム又は電子を方向付けし、電子ビーム又は電子を所定の方向に向かわせるための手段である。E×B40は、電子ビーム源10から射出された電子ビームについては、試料面201の方向に向かわせるローレンツ力を発生させるように電界と磁界が設定される。
また、E×B40は、試料面201への電子ビームの照射により試料面201の構造情報を得た電子については、そのまま上方に直進させ、検出器80の方向に向かわせるように電界と磁界が設定される。なお、後述するように、撮像電子ビームの照射により試料面201の構造情報を得た電子は、E×B40の作用により、撮像電子ビームの入射方向と逆向きに進行する速度に応じて、電界と磁界により方向付けがなされる。
このようなE×B40の作用により、試料面201に入射する電子ビームと、当該入射電子ビームとは逆向きに進行する試料面201側から生じた電子とを、分離することができる。なお、E×Bは、ウィーンフィルタと呼んでもよい。
コンデンサレンズ30は、電子ビームを試料面201に結像させるとともに、試料面201の構造情報を得た電子を収束させるためのレンズである。よって、コンデンサレンズ30は、試料200の最も近傍に配置される。
トランスファーレンズ50は、E×B40を通過した電子を、検出器80の方向に導くともに、NA調整用アパーチャ60のNAアパーチャ61付近でクロスオーバーを結ばせるための光学手段である。
NA調整用アパーチャ60は、通過電子数を調整するための手段である。NA調整用アパーチャ60は、その中央部に、開口数(NA)を決める孔部であるNAアパーチャ61を有している。NAアパーチャ61は、トランスファーレンズ50により導かれた試料面201側からの電子を通過させて検出器80への通路となるとともに、撮像の雑音となる電子が検出器80に向かうのを遮断し、通過電子数を調整する。また、上述したように、このNAアパーチャ61は、平面内で位置調整可能であり、E×B40の作用により方向付けが異なる導電領域の構造情報を得た電子と絶縁領域の構造情報を得た電子を、選択的に検出器80に導くことができる。その詳細については後述する。なお、NAアパーチャは孔径が異なる複数種類のものが設けられていてもよい。この場合、所望のNAアパーチャがNAアパーチャ移動機構により選択されることとなる。
プロジェクションレンズ70は、NA調整用アパーチャ60を通過した電子について、検出器80の検出面81上に像を結像させるための最終焦点調整手段である。
検出器80は、電子ビームが試料面201に照射され、試料面201の構造情報を得た電子を検出し、試料面201の画像を取得するための手段である。検出器80は、種々の検出器80が適用され得るが、例えば、並列画像取得を可能にするCCD(Charge Coupled Device)検出器や、TDI(Time Delay Integration)−CCD検出器が適用されて
もよい。CCDやTDI−CCD等の2次元画像撮像型の検出器80を用い、電子ビーム源10に複数画素を含む所定の面積を照射できる面ビームを用いることにより、1箇所のビーム照射で並列撮像による広い面積の画像取得が可能となり、高速な試料面201の観察が可能となる。なお、CCDやTDI−CCDは、光を検出して電気信号を出力する検出素子であるので、検出器80にCCDやTDI−CCDを適用する場合には、電子を光に変換する蛍光板や、電子を増倍するMCP(マイクロチャンネルプレート)を必要とするので、検出器80には、それらも含まれるようにする。
検出器80は、EB−CCD又はEB−TDIを用いるようにしてもよい。図1で例示した試料観察装置の検出器80には、EB−CCD81を用いている。EB−CCD及びEB−TDIは、二次元画像撮像型の検出器である点は、CCD及びTDI−CCDと同様であるが、電子を直接検出し、光−電子間の変換を経ることなく、そのまま電気信号を出力する。よって、上述のような蛍光板やMCPを必要とせず、途中の信号ロスが減少するので、高分解能な画像取得が可能となる。
画像処理装置90は、検出器80から出力された電気信号に基づいて、試料面201の画像を生成する装置である。具体的には、検出器80から出力された座標情報及び輝度情報に基づいて、二次元画像を生成する。本実施形態に係る試料観察装置においては、試料面201に絶縁材料と導電材料を含む試料200を観察するので、絶縁領域と導電領域とに輝度差が発生し、コントラストの高い画像が取得されることが好ましいが、画像処理装置90においては、良好な画像が取得できるように、必要な画像処理及び画像生成を行う。
ステージ100は、上面に試料200を載置して、試料200を支持する手段である。ステージ100は、試料面201の被観察領域の全体に電子ビームの照射が可能なように、水平面内(XY面内)のX方向及びY方向に移動可能であったり、水平面内で回転可能であったりしてよい。また、必要に応じて、鉛直方向(Z方向)に移動可能として試料面201の高さを調整できるように構成されていてもよい。ステージ100を移動可能に構
成さする場合には、例えば、モータやエア等の移動手段を設けるようにすればよい。
帯電電子ビーム照射手段120は、電子ビーム源10から撮像用の撮像電子ビームを照射する前に、試料面201を帯電させるために設けられる。帯電電子ビーム照射手段120は、必要に応じて設けられてよい。
試料面201を撮像する前に、試料面201に予め電子ビームを照射すると、導電領域は帯電せずにその電位は接地電位のままであるのに対し、絶縁領域が負に帯電する。従って、これら導電領域と絶縁領域との間に、材料に応じた電位差を形成することができる。そしてこの電位差により、導電領域と絶縁領域とのコントラストを高めることができる。よって、撮像電子ビームの前に、帯電電子ビームを試料面201に照射したい場合には、帯電電子ビーム照射手段120を設けるようにしてもよい。
なお、帯電電子ビーム照射手段120を別途設けることなく、電子ビーム源10が当該帯電電子ビーム照射手段を兼ねる構成の試料観察装置としてもよい。
つまり、上述の帯電電子ビームは、帯電電子ビーム照射手段120を用いずに、電子ビーム源10から照射してもよい。そして、この帯電電子ビームの照射に続いて、撮像電子ビームを試料面201に照射するようにしてもよい。
よって、帯電電子ビーム照射手段120は、例えば、帯電電子ビームを試料面201に照射したい場合であって、かつ、帯電電子ビームの照射の後、すぐに撮像電子ビームを照射したい場合等に設けるようにしてもよい。一般的に、撮像電子ビームと帯電電子ビームは照射エネルギが異なるので、帯電電子ビーム照射手段120を設けることにより、帯電電子ビーム照射と撮像電子ビーム照射の間の照射エネルギの調整を不要とすることができ、迅速な撮像を行うことができる。よって、観察時間の短縮等の要請が高い場合には、帯電電子ビーム照射手段120を設けることにより、観察時間短縮の要請に応えることができる。
試料200は、その表面の試料面201に、絶縁材料からなる絶縁領域と、導電材料からなる導電領域とを含む。試料200は、種々の形状のものが適用され得るが、例えば、半導体ウエハ、レチクル等の基板状の試料200が適用されてよい。本発明に係る試料観察装置は、試料面201の絶縁領域が、導電領域よりも面積比が大きい場合にも好適に試料面201を観察することができるように構成することとしてもよい。このような構成とすれば、例えば、半導体ウエハのコンタクトプラグや、レチクルのコンタクト構造についても、良好に試料面201の画像を取得し、観察を行うことができる。
なお、導電材料及び絶縁材料には種々の材料が適用され得るが、例えば、導電材料にはW(タングステン)等のプラグ材料、絶縁材料には半導体ウエハの絶縁層として利用されるSiO2(シリコン酸化膜)等が適用されてもよい。
[試料観察の具体的内容]
次に、図1に例示した構成の試料観察装置を用いた試料観察の内容について、具体的に説明する。
図2は、撮像電子ビームの照射エネルギと取得された画像中の材料コントラストとの関係の一例を示した図である。ここで、材料コントラストとは、導電材料から発生する電子と絶縁材料から発生する電子との差に起因して形成されるコントラストを意味する。図2(A)は照射エネルギ帯域により得られる画像の一例を示した図であり、図2(B)は撮像電子ビームの照射エネルギと検出器電流との相関関係を示した図である。
図2(B)において、横軸は撮像電子ビームの照射エネルギ(ランディングエネルギ(LE)とも呼ぶ。)を示し、縦軸は検出器80における検出器電流の大きさを示している。また、図2(B)において、実線は10〜300〔μm〕のアパーチャ径を有するNA調整用アパーチャ60を用いた場合の特性曲線であり、一点鎖線は、1000〜3000〔μm〕のアパーチ・BR>レAを有するNA調整用アパーチャ60を用いた場合の特性曲線である。この図に示した例では、ランディングエネルギ(LE)2〜10〔eV〕は「二次電子領域」、−2〜2〔eV〕は「遷移領域」、−2〔eV〕以下は「ミラー電子領域」となっている。
なお、ここで、「二次電子」とは、電子ビームが試料面201に衝突し、試料200から放出される電子のことを言う。二次電子は、試料面201に電子ビームが衝突し、試料200から放出される電子であれば、いわゆる二次電子の他、入射エネルギと反射エネルギが略等しい反射電子や、後方に散乱する後方散乱電子等を含んでよいが、「二次電子領域」において主として検出されるのは、試料200からの放出の仕方がコサイン則に従う二次電子である。
また、「ミラー電子」とは、試料面201に向かって照射された電子ビームが、試料面201に衝突せず、試料面201近傍で進行方向を逆向きとして反射する電子のことを意味する。例えば、試料面201の電位が負電位であり、電子ビームのランディングエネルギが小さい場合には、電子ビームは試料面201近傍の電界により、試料面201に衝突せず、逆向きに進行方向を変える現象が認められる。本発明に係る試料観察装置及び試料観察方法においては、このような、試料面201に衝突することなく、進行方向を逆向きとして反射してゆく電子をミラー電子と呼ぶ。
図2(B)において、ランディングエネルギ(LE)2〜10〔eV〕の二次電子領域では、NA調整用アパーチャ60のアパーチャ径の相違により、検出電流が大きく異なっている。これは、二次電子の試料面放出角がコサイン則で表されるため、NA調整用アパーチャ60の位置での電子の広がりが大きいためである。
次に、ランディングエネルギ(LE)を2〔eV〕以下に低下させるに従い、ミラー電子が少しずつ増加し、ミラー電子と二次電子が混在する「遷移領域」となるが、NA調整用アパーチャ60のアパーチャ径の大きさの相違による検出器電流の差は小さい。
次に、ランディングエネルギー(LE)が−2〔eV〕以下になると、ミラー電子領域に入って二次電子の放出は認められなくなり、ミラー電子の放出量は一定となる。この領域では、検出器電流は、NA調整用アパーチャ60のアパーチャ径に依存しない。このことから、ミラー電子は、NA調整用アパーチャ60の位置では、φ300〔μm〕以下でφ10〔μm〕以上のあたりに集束していると考えられる。これは、ミラー電子は、基板表面に衝突せず反射されるため、指向性が良く、直進性が高いためである。
なお、図2(B)に示した例において、アパーチャ径が10〔μm〕未満の場合の特性曲線は実線で示したものと同様のものとなり、アパーチャ径が3000〔μm〕よりも大きい場合の特性曲線は破線で示したものと同様のものとなると考えられる。しかし、ここでは、ノイズ増大による測定限度の理由から、10〔μm〕以上、及び、3000〔μm〕以下とした。
図3は、試料面201の構造情報を得たミラー電子と二次電子の角度の相違を模式的に示した図で、横軸が実効ランディングエネルギ(LE)である。図3において、ミラー電子領域と遷移領域のそれぞれについて、実効ランディングエネルギと電子の挙動との関係
が示されている。
図3には、実効ランディングエネルギ(LE)が0〔eV〕以下の領域がミラー電子領域となる例が示されている。この図に示したように、ミラー電子は、照射電子ビームが試料面201に衝突することなく試料面201の前方に反射する。この場合、照射ビームが試料面201に対して垂直に入射した場合には、ミラー電子は試料面201に対して垂直に反射する。その結果、ミラー電子の進行方向は一定となる。
これに対して、遷移領域においては、照射電子ビームのうちのある部分は試料面201に衝突することなく試料面201の前方に反射するミラー電子となるが、一部の照射電子ビームは試料面201に衝突して試料200の内部から外部へと二次電子を放出する状態となる。ここで、ミラー電子領域と同様に、照射ビームが試料面201に対して垂直に入射した場合には、ミラー電子は試料面201に対して垂直に反射し、ミラー電子の進行方向は一定となる。一方、二次電子の方は、その放出量が試料面201の法線と放出方向(観測方向)との成す角度の余弦に比例するように、いわゆる「コサイン則」に従い、種々の方向に放出されている。そして、ランディングエネルギが高くなる程(図3の右側になる程)、二次電子のミラー電子に対する割合が高くなる。
つまり、図3に示すように、ミラー電子は進行方向が一定で良好な指向性を有するが、二次電子は、コサイン則に従って種々の方向に進行し指向性は高くないことが分かる。
上述した例では、ランディングエネルギが−2〔eV〕〜2〔eV〕の範囲が遷移領域、つまりミラー電子と二次電子が混在する領域となる。しかし、このようなランディングエネルギ範囲は観察対象となる試料により変動し得る。本発明者等は、種々の実験を重ねた経験から、遷移領域のランディングエネルギの照射電子ビームを利用すると、試料表面のパターンの高コントラスト観察、とりわけ、絶縁領域と導電領域が形成されている試料面を高コントラストで観察するのに大変効果的であることを見いだした。
本発明者等の検討によれば、遷移領域の最低照射エネルギをLEAとし最高照射エネルギをLEBとしたときに、1次系の撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)は、LEA≦LE≦LEB、又は、LEA≦LE≦LEB+5eVに設定されることが好ましい。
以下、この内容について詳細に説明を行う。
図4は、ランディングエネルギ(LE)に対する試料面201の階調の変化を示した図である。ここで、階調は、検出器80で取得する電子数に比例している。
図4に示すように、ランディングエネルギ(LE)がLEA以下の領域がミラー電子領域、ランディングエネルギー(LE)がLEB以上の領域が二次電子領域、ランディングエネルギ(LE)がLEA以上LEB以下の領域が遷移領域である。
本発明者等が種々の実験を重ねた経験によれば、LEA〜LEBが、−5〔eV〕〜+5〔eV〕の範囲が好ましい範囲であることが多く確認されている。
そして、絶縁領域と導電領域でミラー電子の形成状況の差により階調差が生じ、当該階調差が大きいほど高いコントラストが形成されることになる。つまり、材料や構造の違いにより、ミラー電子の形成状況の差が生じて階調差が形成されるのである。取得された画像中の絶縁領域と導電領域との間に高いコントラストを生じさせるためには、上述したランディングエネルギ(LE)をどのように設定するのかが極めて重要である。具体的には、LEA≦LE≦LEB(例えば、−5〔eV〕〜+5〔eV〕)の領域、又は、LEA
≦LE≦LEB+5〔eV〕(例えば、−5〔eV〕〜+10(5+5)〔eV〕)の領域のランディングエネルギ(LE)を用いるのが、高いコントラストを得るために大変有効である。
再び図2に戻り、各発生電子領域における絶縁材料と導電材料とのコントラストについて説明する。なお、導電材料と絶縁材料は、導体又は絶縁体で形成された材料であれば、種々の材料を適用してよいが、例えば、導電材料はW(タングステン)、絶縁材料はSiO2(シリコン酸化膜)等が適用されてもよい。
図2(A)に、各発生電子領域のランディングエネルギ(LE)の照射電子ビームにより取得された画像中の材料コントラストの一例を示す。図2(A)には、二次電子領域、遷移領域及びミラー電子領域における材料コントラストの例が示されている。まず、ミラー電子領域における材料コントラストに着目すると、導電材料と絶縁材料とで輝度に差が無く、材料コントラストは得られない。これは、ミラー電子領域では、試料面201より手前ですべての照射電子が反射されるので、導電材料と絶縁材料との間に輝度の差、すなわち電子数の差が生じないためである。
また、遷移領域と二次電子領域の何れにおいても、導電材料と絶縁材料とで輝度差が生じているが、遷移領域の方が、導電材料と絶縁材料の輝度差が大きく、その結果、材料コントラストが高くなっている。これは、遷移領域では、二次電子のみならず、指向性の高いミラー電子も検出されるため、その分だけ信号量が増加して輝度が高まるためであると考えられる。
このように、二次電子とミラー電子が混在する遷移領域で試料面201の画像を取得すれば、導電材料と絶縁材料との間の材料コントラストを高めることができる。
なお、遷移領域において、撮像前に、予め試料表面201に電子ビームの照射を行うと、導電材料の電位は接地電位のままである反面、絶縁材料は帯電してマイナス数〔eV〕程度電位が変化する。その結果、導電材料の構造情報を得た電子と絶縁材料の構造情報を得た電子とでは、そのエネルギ(速度)が異なることとなる。
そして、このような速度の異なる電子がE×B40を通過する際には、下記の理由により、それぞれの速度に応じて軌道のずれ(軌道シフト)が生じる。
E×B40は、電場Eと磁場Bの発生手段であり、このE×B40を通過する電子は、電場によるFE=e・Eの力と、磁場によるFB=e・(v×B)の力を受ける。ここで、eは電子の電荷1.602×10―19〔C〕であり、EおよびBはそれぞれ、電場〔V/m〕および磁場〔Wb/m2〕である。
これらの力のうち、電場によるFE=e・Eの力は電子の速度v〔m/s〕に依存しないのに対し、磁場によるFB=e・(v×B)の力は電子の速度v〔m/s〕に依存する。
通常は、導電性基板から出射された電子がE×B40を直進する条件(ウィーン条件)が設定されているが、上述したような理由により電子の速度v〔m/s〕が変化すると、磁場の作用により受ける力が変化するため、E×B40を通過した電子の軌道がシフトすることとなる。
つまり、上述したとおり、E×B40は、撮像電子ビームの照射により試料面201の構造情報を得た電子の軌道を、撮像電子ビームの入射方向と逆向きに進行する速度に応じ
て方向付けする手段である。そして、上述した電子軌道のシフトを利用して、導電領域の構造情報を得た電子と絶縁領域の構造情報を得た電子の何れか一方をNAアパーチャ61を通過させて、選択的に検出器80に導くことが可能である。
なお、遷移領域は、二次電子とミラー電子が混在するエネルギ領域であるから、このエネルギ領域では、絶縁領域からの二次電子とミラー電子の電子軌道は何れも、シフトを生じる。
図5は、試料面201の構造情報を得た電子の軌道の一例を示した模式図で、図5(A)は電子軌道の側面図であり、図5(B)は可動NAアパーチャの下側から見た電子軌道の部分拡大図である。
図5(A)において、試料200には、試料用電源101により、負電位が印加されている。試料200は、導電材料202の上を、絶縁材料203が覆っており、絶縁材料203の切れ目であるホール204から、導電材料202が露出して試料面201を構成している。例えば、レチクルのコンタクト構造は、図5(A)に示す試料200のように、ホール204の底面が導電材料202で構成された形状となっている場合が多い。なお、簡略化のため、試料観察装置の構成要素としては、E×B40と、NA調整用アパーチャ60と、検出器80のみが示されている。
図5(A)において、電子ビームEBが右上方から射出され、E×B40により電子ビームが偏向されて試料面201に垂直に入射している。そして、試料面201の構造情報を得た電子のうち、導電領域202の構造情報を得た電子ecは直進してNA調整用アパーチャ60のNAアパーチャ61を通過する。一方、絶縁領域201の構造情報を得た電子eiは、E×B40の作用により軌道がシフトし、NAアパーチャ61の周辺のNA調整用アパーチャ60の部材に衝突してNAアパーチャ61を通過しない。その結果、導電領域202の構造情報を得た電子ecは検出器80に到達する一方、絶縁領域201の構造情報を得た電子eiは検出器80には到達しない。
レチクルのコンタクト構造においては、試料面201の大部分を絶縁材料201が占め、一部(ホール204の底面)に導電材料202を含む構造が多い。このような構造において、導電材料202の表面構造情報を得た電子ecのみを検出器80に導き、絶縁材料201の表面構造情報を得た電子eiを検出器80に到達させないことにより、特異的に高いコントラストの画像を取得することができる。
これとは逆に、絶縁材料201の表面構造情報を得た電子eiのみを検出器80に導き、導電材料202の表面構造情報を得た電子ecを検出器80に到達させないことによっても、特異的に高いコントラストの画像を取得することができる。
このようなコントラストの反転の手法は、特に、試料面上の導電材料と絶縁材料の面積が同等程度のパターン中に存在する欠落欠陥(ショート欠陥)および開放欠陥(オープン欠陥)の検出に有効である。導電材料と絶縁材料の何れか一方の材料の面積が他方の材料の面積に比較して顕著に狭いパターンでは、広い面積の材料領域中に顕著に狭い面積の材料領域が点在する状態となる。広い面積の材料領域からの電子は検知器に至るまでの光路中で僅かに拡散するから、この拡散作用により、狭い面積の材料領域からの電子により得られる像は本来の像よりも小さなものとなり、欠陥検出がし難くなってしまう。例えば、シリコン基板上に設けられた広い絶縁領域中に、顕著に狭い面積のコンタクトプラグ形状の導電領域が点在して形成されている構造(コンタクトプラグ構造)では、導電領域からの電子により形成される画像は、絶縁領域からの電子の拡散(廻り込み)により、本来の面積よりも狭い画像として得られてしまう。
なお、ここで、電子ec、eiには、ミラー電子及び二次電子の双方が含まれるものとする。また、このような材料の種類に応じた発生電子の分離検出は、レチクルのみならず、半導体ウエハ等のライン/スペースパターンにおいても同様に適用することができる。
図5(B)は、NA調整用アパーチャ60の下側から見た、NAアパーチャ61と、導電材料202の表面構造情報を得た電子ec及び絶縁材料201の表面構造情報を得た電子eiの関係を説明するための拡大図である。
この図に示した例では、長方形状のNA調整用アパーチャ60の一部に形成された孔部であるNAアパーチャ61は、導電領域202の構造情報を得た電子ecがNAアパーチャ61を通過させる一方、絶縁領域203の構造情報を得た電子eiの大部分をNA調整用アパーチャ60により遮ってNAアパーチャ61を通過できない位置に調整されている。
ミラー電子についてみると、導電材料202と絶縁材料203の電子軌道は、NA調整用アパーチャ60の位置がクロスオーバー点となり、最小スポットの100〔μm〕となる。よって、E×B40による軌道シフトを利用し、NA調整用アパーチャ60によって、光学的な分解能を失わずに導電材料202の構造情報を得た電子ecを選択的に分離することが容易である。
上述した帯電による、導電材料と絶縁材料との間の電位差が大きいほど、NA調整用アパーチャ60の位置における位置移動も大きい。従って、当該帯電電位差を大きくすれば、大きな孔径のNAアパーチャ61を用いても、導電領域202の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiの分離が可能となる。そして、大きな孔径のNAアパーチャ61を用いることにより、検出電子数を増加させて画像を形成することが可能となる。
なお、撮像電子ビームを照射する前に、試料面201の絶縁領域203に帯電電子ビームを照射する場合には、電子ビーム源10か、又は設置されている場合には帯電電子ビーム照射手段120を用いて、検出器80による撮像を行わない状態で、帯電電子ビームを試料200の試料面201に照射すればよい。この場合、絶縁領域203にのみ帯電電子ビームを照射するようにしてもよいが、導電領域202は、帯電電子ビームを照射しても、表面電位はゼロ電位となるので、特に区別せず、所定の照射エネルギの帯電電子ビームを、試料面201の撮像領域に照射するようにしてもよい。
図6は、高い材料コントラストを得るためのNAアパーチャ61の最適位置を、ミラー電子の場合と二次電子の場合のそれぞれについて説明するための図である。図6(A)は、ミラー電子の場合のNA調整用アパーチャ60の最適NAアパーチャ61位置を示した図であり、図6(B)は、二次電子の場合の最適NAアパーチャ位置を示した図である。また、図6において、黒で示された円が、導電領域202の構造情報を得た電子ecを示し、灰色で示された円が、絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを示している。この図に示したように、ミラー電子と二次電子のそれぞれの軌道の広がりの相違により、NA調整用アパーチャ60の位置におけるNAアパーチャ61の最適位置は異なる。
図6(B)において、NA調整用アパーチャ60の位置において、導電領域202の構造情報を得た二次電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た二次電子eiの電子軌道シフト量の差は概ね100μmであるが、これらの電子分布の大部分は重なっている。これは、上述したように、二次電子はコサイン則に従って種々の方向に進行するために指向性が高くないためである。よって、二次電子による材料コントラストを高めるためには、N
A調整用アパーチャ60のNAアパーチャ61の中心を、導電領域202から放出された電子ecの軌道の中心に略一致した位置に合わせるのが、最適であると考えられる。このような位置にNAアパーチャ61の中心を合わせると、試料面201の導電領域202から放出された電子ecの最も電子密度の高い部分を中心として電子ecを検出することができる。
しかしながら、図6(B)に示すように、絶縁領域203から放出された電子eiの電子軌道も、ほぼ導電領域202から放出された電子ecの軌道と重なっているため、両者を分離して検出することはできない。よって、二次電子領域においては、材料コントラストは、導電領域202から放出された二次電子ecと絶縁領域203から放出された二次電子ei自体の信号の相違に基づいて、両者を区別することになる。
これに対して、図6(A)においては、導電領域202の構造情報を得たミラー電子ecと絶縁領域203の構造情報を得たミラー電子eiでは、電子軌道シフト量の差が顕著に表れる。図6(A)に示した例では、NA調整用アパーチャ60の位置において、導電領域202の構造情報を得たミラー電子ecと絶縁領域203の構造情報を得たミラー電子eiの電子軌道シフト量の差は概ね100μmであるが、これらの電子分布の大部分は重ならず、実質的に分離されている。これは、上述したように、ミラー電子は進行方向が一定で良好な指向性を有するためである。
このような場合、例えば、導電領域202の構造情報を得た電子ecがNAアパーチャ61を総て通過する一方、絶縁領域203の構造情報を得た電子eiはあまりNAアパーチャ61を通過できないような配置とすることが容易に可能である。そして、そのようなNAアパーチャ61の位置調整を行えば、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiを分離し、導電領域の構造情報を得た電子ecのみを多く検出器80に導くことができる。その結果、導電領域202と絶縁領域203の材料コントラストを高くすることができる。つまり、遷移領域において発生するミラー電子を利用すれば、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを分離することが可能であり、その結果、高い材料コントラストの画像の取得が容易になる。
通常、このような分離を行うためには、複数の磁界と電界から構成される色収差補正器(モノクロメータ)が必要であるが、本発明に係る試料観察装置及び試料観察方法によれば、色収差補正器を設置しなくても、NA調整用アパーチャ60に孔部であるNAアパーチャ61の位置調整のみにより、高い材料コントラストの画像を取得することができる。
なお、図5及び図6においては、導電領域202の構造情報を得た電子ecを選択的に検出器80に導き、絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを検出器80に導かない例を説明している。しかし、E×B40の設定とNA調整用アパーチャ60の配置及びアパーチャ径の調整により、絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを選択的に検出器80に導き、導電領域202の構造情報を得た電子ecを検出器80に導かない態様とすることも可能である。
導電領域202の構造情報を取得した電子ecと、絶縁領域203の構造情報を取得した電子eiのうち、いずれの電子を選択的に検出器80に導いて検出するかは、用途に応じて適宜自由に設定してよい。
上述したとおり、本発明に係る試料観察装置は、絶縁領域と導電領域を有する試料面に撮像電子ビームを照射する電子ビーム源と、撮像電子ビームの照射により試料面の構造情報を得た電子が、撮像電子ビームの入射方向と逆向きに進行する速度に応じて、電界と磁界により前記電子を方向付けする電磁場発生手段(E×B)と、当該電磁場発生手段(E
×B)により方向付けされた電子を検出し、該検出された電子から前記試料面の画像を取得する検出器と、撮像電子ビームの照射エネルギを、電子がミラー電子と2次電子の双方を含む遷移領域に設定する照射エネルギ設定手段と、開口数(NA)を定めるNAアパーチャの位置を面内で調整可能とするNAアパーチャ移動機構と、試料面に電子ビームを照射して絶縁領域を帯電させるための帯電電子ビーム照射手段とを備えている。そして、NAアパーチャ移動機構によるNAアパーチャの位置調整により、上記E×Bの作用により方向付けが異なる導電領域の構造情報を得た電子と絶縁領域の構造情報を得た電子が、選択的に検出器に導かれるように構成されている。
また、画像処理装置90に、導電領域の構造情報を得た電子により得られた画像により欠落欠陥(ショート欠陥)の存否を判定し、絶縁領域の構造情報を得た電子により得られた画像により開放欠陥(オープン欠陥)の存否を判定する演算機能(演算部)を設けることとすれば、上記試料観察装置は試料検査装置として用いることが可能である。
さらに、本発明の試料観察方法は、上記構成の試料観察装置を用いて実行可能であり、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下での画像取得と絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下での画像取得を行うことにより絶縁領域と導電領域が形成されている試料面の観察を高コントラストで行い、且つ、欠落欠陥や開放欠陥の検出と欠陥種類の分類を容易なものとする。
以下に、本発明の試料観察方法について説明する。
本発明の試料観察方法では、絶縁領域と導電領域を有する試料面に、試料面の構造情報を得た電子がミラー電子と2次電子の双方を含む遷移領域に調整されるように撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)を調整し、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下での画像取得と絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下での画像取得を行う。つまり、本発明の試料観察方法では、導電領域と絶縁領域とでコントラストが反転する関係にある条件下において、画像取得が行われる。
[導電領域と絶縁領域のコントラスト形成]
上述したとおり、遷移領域において発生するミラー電子を利用すれば、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを分離することが可能であり、その結果、高いコントラストの画像の取得が容易になる。本発明はこの原理を利用するものであるので、本発明の試料観察方法の特徴の理解を容易にするために、予め、導電領域と絶縁領域のコントラストの形成に関しての基本的な検討結果について説明をしておく。
図7は、既に図2に関連して説明した試料200の構造と、当該試料200の観察により取得された画像の一例を示した図である。図7(A)は、試料200であるコンタクトプラグの断面構造を示した図であり、図7(B)は、コンタクトプラグ構造を有する試料面201の取得画像の一例を示した図である。
図7(A)において、半導体基板であるシリコン基板205の上に、絶縁領域203及び導電領域202が形成されている。絶縁領域203は、SiO2で形成されている。また、導電領域202は、タングステン(W)の材料で、コンタクトプラグ形状で構成されている。試料面201は、絶縁領域203をベースとした中に、導電領域202が点又は円として形成されている平面構造となる。
図7(B)は、試料観察により取得された試料面201の画像の一例を示した図である。この画像は、導電領域202から発生する電子を選択的に検出するようにNA調整用ア
パーチャ60のNAアパーチャ61の位置の調整を行い、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得されたものである。その結果、絶縁領域203が黒く画像のベースを占め、その中から白い円形の導電領域202が浮かび上がるような高いコントラストの画像となっている。
このように、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを分離することにより、コントラストを高めることができる。その結果、絶縁領域203を導電領域202の区別が容易な画像を取得することができ、欠陥等の観察や検査も容易に行うことが可能となる。
これとは逆に、絶縁領域203から発生する電子を選択的に検出するようにNA調整用アパーチャ60のNAアパーチャ61の位置の調整を行えば、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像が取得されることとなるから、図7(B)とは逆に、絶縁領域203が高輝度で白くなり、導電領域202が低輝度で白くなる画像が取得される。
次に、高コントラストの画像を取得するための条件設定例について説明する。
図8は、高コントラストの画像を取得するためのランディングエネルギ(LE)条件を検討した結果を例示により説明するための図である。この例では、電子ビーム源10の電子源11のカソードの電圧を−3995〜−4005〔eV〕として、試料面201の電圧を−4000〔eV〕に設定した。また、遷移領域は、ランディングエネルギ(LE)を−1〔eV〕として最適化を行った。電子ビームの照射電流密度は、0.1〔mA/cm2〕とし、検出器80の画素サイズは、50〔nm/pix〕とした。NA調整用アパーチャ60のNAアパーチャ61のアパーチャ径はφ150〔μm〕とし、帯電電子ビームによるプレドーズ量は1〔mC/cm2〕とした。
図8(A)は、上述の条件下で、電子ビームのランディングエネルギ(LE)を変化させ、図7(A)に示した断面構造を有するコンタクトプラグを観察した際のコントラストを測定した結果を纏めた表であり、図8(B)は、図8(A)の測定結果をグラフ化した図である。
図8(B)において、横軸がランディングエネルギ(LE)、縦軸が取得された画像の平均階調を示している。絶縁領域の特性曲線は、略正方形の点を結んだ曲線として示され、導電領域の特性曲線は、菱形の点を結んだ曲線として示されている。また、絶縁領域と導電領域の平均階調から、コントラストを算出した結果が、三角の点を結んだ曲線として示されている。なお、コントラストは、下記の式(1)を用いて算出される。
図8(A)、(B)において、ランディングエネルギ(LE)=−1〔eV〕のときに、コントラストが0.8で最高となっている。ランディングエネルギ(LE)=−1〔eV〕は、既に図2において説明したように、この試料200において、ミラー電子と二次電子が混在する遷移領域にある。また、図2に示したように、−5〔eV〕はミラー電子領域のランディングエネルギ(LE)であり、5〔eV〕は二次電子領域のランディングエネルギ(LE)であって、何れにおいてもコントラストは低い。
つまり、最高のコントラストは、ランディングエネルギ(LE)が遷移領域にある場合に得られることが分かる。
図9は、帯電電子ビームのドーズ量とコントラストとの相関関係を説明するための図である。図9(A)は、帯電電子ビームのドーズ量とコントラストとの相関関係を示した測定結果の表であり、図9(B)は、図9(A)の測定結果をグラフ化した図である。なお、試料観察装置の種々の設定条件と、測定対象の試料200は、上述のとおりであるので、その説明を省略する。
帯電電子ビームを試料面201に照射した後に試料面201の撮像を行って得られた画像中の絶縁領域と導電領域の平均階調から、上式(1)によりコントラストを測定した。図9(A)、(B)に示すように、帯電電子ビームのドーズ量が高くなるにつれてコントラストは高くなるが、あるドーズ量でコントラストは飽和する。図9に示した例では、撮像前の試料面201に予め1〔mC/cm2〕以上の帯電電子ビームを照射しても、コントラストは0.8のままである。つまり、帯電電子ビームのドーズ量が1〔mC/cm2〕以上のときに、コントラストは飽和している。これは、帯電電子ビームのドーズ量が1〔mC/cm2〕以上のときに、試料面201の絶縁領域203の帯電が飽和して負電位となり、安定したコントラストが得られることを意味している。
図10は、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを分離することにより高いコントラストが得られることを、補充的に説明するための図である。図10(A)は、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiを分離しない場合の、導電領域(Cu)と絶縁領域(SiO2)のそれぞれの材料における二次電子放出効率およびコントラストの、ランディングエネルギ(LE)依存性を纏めた表である。また、図10(B)は、この表をグラフとして示した図である。
導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを分離しない場合には、得られるコントラストは、各材料がもつ二次電子の放出効率に応じた輝度の差のみに依存する。つまり、NAアパーチャ61の位置調整により、何れかの領域からの構造情報を得た電子のみを強調した画像を取得することにより得られるコントラストは生じ得ない。
図10(A)、(B)に示した結果によれば、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを分離しない場合、得られるコントラストは高々0.4程度であり、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを分離することにより得られるコントラスト(例えば、上述の0.8)に比較して、顕著に低いものでしかない。
つまり、本発明のように、遷移領域において発生するミラー電子を利用し、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを分離することにより、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得したり、これとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得することとすれば、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiの分離を行わずに試料観察して得られる画像に比較して、顕著に高いコントラストを得ることが可能となる。
図11は、試料面201の導電領域202と絶縁領域203の面積比(パターン幅)を変化させたときのコントラストを、低加速電子ビーム装置を用いたLEEM(Low-energy
Electron Microscopy:低エネルギ電子顕微鏡)方式とSEM方式とで比較した結果を示した図である。図11(A)は、試料面201とコントラストとの相関関係を示した測定結果の表であり、図11(B)は、図11(A)の測定結果とグラフ化した図である。な
お、ここで示した測定結果は、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像に基づくものであり、上述の種々の設定条件下で得られたものであるので、その説明を省略する。
LEEM方式の試料観察装置及び試料観察方法は、図6(B)において示したように、主に導電領域202が高輝度で明るいため、導電領域202の面積比が低下すると、周囲からの干渉を受けにくいので、コントラストは高くなる。SEM方式(例えば、ランディングエネルギ1000〔eV〕程度)は、材料の二次電子放出係数で絶縁材料203の方が明るく、その割合が増加すると、導電領域202の信号が二次電子の軌道の広がりにより消されてしまい、コントラストは極めて低くなる。
図11(A)、(B)に示すように、導電領域202対絶縁領域203の面積比が小さいときには、まだコントラストの差が比較的小さく、導電領域202:絶縁領域203=1:2のときには、コントラストの差は0.3程度に抑えられている。しかしながら、絶縁領域203の試料面201における面積が増加するにつれて、LEEM方式のコントラストは増加するが、従来からのSEM方式のコントラストは低下している。導電領域202:絶縁領域203=1:10の場合においては、コントラスト差は0.75に達している。
このように、LEEM方式の試料観察は、導電材料202の割合が低い試料200の試料面201の観察には特に有効であり、試料面201が絶縁材料203の割合が大きいコンタクト構造の場合の観察には、コントラストの高い画像を取得することができ、大きな利点を有する。また、これとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得することとすれば、絶縁材料203の割合が低く、導電材料202の割合が高い試料面201を有する試料200に対しても、効果的に観察を行うことができる。
[開口数(NA)選択可能なNA調整用アパーチャの構成例]
図12は、本発明に係る試料観察装置の第2の全体構成例を示した図で、図1に示したものと基本的構成は共通する。つまり、図12に示した構成は、電子ビーム源10と、1次系レンズ20と、コンデンサレンズ30と、E×B40と、トランスファーレンズ50と、NA調整用アパーチャ60aと、プロジェクションレンズ70と、検出器80と、画像処理装置90と、ステージ100と、エネルギ設定手段110と、電源115とを備える点で、図1に示した構成と共通する。
また、必要に応じて、帯電電子ビーム照射手段120を備えてよい点、並びに、関連構成要素として、試料200が試料面201を上面としてステージ100上に載置されている点も、図1に示した構成と同様である。
一方、図12に示した構成は、NA調整用アパーチャ60aが、可動式かつ複数選択式のNA調整用アパーチャ移動機構を備えている点で、図1に示した構成とは異なっている。つまり、NA調整用アパーチャ60aにはアパーチャ径の異なる複数種類のNAアパーチャ61、62が設けられており、開口数(NA)を定めるこれらのNAアパーチャ61、62が、NAアパーチャ移動機構(不図示)により面内で位置調整可能(切替可能)に構成されている。
なお、図12に示した試料観察装置において、図1に示した試料観察装置と同様の構成要素については、同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
図12に示した試料観察装置において、NA調整用アパーチャ60aは、サイズの異なる複数のNAアパーチャ61、62を備えており、NA調整用アパーチャ60aが水平方
向(面内)に移動可能である。従って、NAアパーチャ61とNAアパーチャ62の切り替えを行うことで、所望の開口数(NA)とすることができる。これにより、試料200の種類や、試料面201の構造等の種々の条件に応じて、最適な開口数(NA)のNAアパーチャを選択し、材料コントラストの高い試料面201の画像を取得することが可能となる。
図13は、上述した可動式のNA調整用アパーチャ60aの構成例を示した図である。図13(A)は、スライド移動式のNA調整用アパーチャ60bとして構成した場合の一例を示した上面図であり、図13(B)は、回転移動式のNA調整用アパーチャ60cとして構成した場合の一例を示した上面図である。
図13(A)において、NA調整用アパーチャ60bは、複数のNAアパーチャ61、62、63を備えており、これらのNAアパーチャのアパーチャ径は各々異なっている。また、NA調整用アパーチャ60bは、長手方向の両側に、スライド式NA調整用アパーチャ移動機構65を備えている。このように、長方形の板状のNA調整用アパーチャ60bに複数のNAアパーチャ61、62、63を形成し、スライド式NA調整用アパーチャ移動機構65により、水平方向への移動を可能に構成すれば、用途に応じてNA調整用アパーチャ60bのアパーチャ径及びNAアパーチャ位置を調整することができ、種々の試料200や用途に対応して最適な試料面201の画像を取得することが可能となる。
なお、スライド式NA調整用アパーチャ移動機構65は、例えば、NA調整用アパーチャ60bを上下からレール状部材で挟み込み、リニアモータのような移動機構を有していてもよいし、回転式のレール部材でNA調整用アパーチャ60bを挟持し、回転式モータで回転レール部材を回転させて移動させてもよい。スライド式NA調整用アパーチャ移動機構65は、用途に応じて種々の形態とすることができる。
図13(B)において、NA調整用アパーチャ60cは、円盤状の板に複数のNAアパーチャ61〜64を有し、中心に回転式NA調整用アパーチャ移動機構66を備える。NAアパーチャ61〜64のアパーチャ径は、各々異なり、NAアパーチャ61が最も大きく、NAアパーチャ62はNAアパーチャ61よりもアパーチャ径が小さく、さらに、NAアパーチャ63はNAアパーチャ62よりもアパーチャ径が小さく、アパーチャ径が小さく、NAアパーチャ64が最も小さくなっている。
回転式NA調整用アパーチャ移動機構66は、回転式のモータ等が適用されてよい。このように、例えば、回転移動により、NA調整用アパーチャ60cのアパーチャ径を切り替えるような構成としてもよい。
図12及び図13に例示した構成の試料観察装置によれば、NA調整用アパーチャ60a〜60cを、複数のNAアパーチャ61〜64の間で選択可能、かつ位置の調整可能な構成とすることにより、用途や試料200の種類にも柔軟に対応でき、様々な条件下においても最適なコントラスト画像を取得することができる。
[高分解能観察のための検出器の構成例]
図14は、高分解能観察のために好ましい検出器80aの構成の一例を示した図である。検出器80aに、電子直接入射型のEB−CCD又はEB−TDIを使用した場合、従来の構成であるMCP、FOP(Fiber Optical Plate)、蛍光板及びTDIの構成に比
較すると、MCPとFOP透過による劣化が無いので、従来の3倍程度のコントラスト画像を取得することができる。特に、コンタクト構造のホール底面202からの光を検出する際、従来型の検出器では、スポット(ドット)がなだらかになってしまうため、有効である。また、MCP使用によるゲイン劣化が無いため、有効画面上の輝度ムラが無く交換
周期が長い。よって、検出器80のメインテナンスの費用及び時間を削減することができる。
このように、EB−CCD及びEB−TDIは、高コントラストの画像の取得及び耐久性等の面で好ましい。以下に、EB−CCD及びEB−TDIの使用態様の一例について説明する。
図14に例示した検出器80aは、EB−TDI82と、EB−CCD81を切り替え可能に、用途に応じて双方を交換可能に使えるように構成されている。図14において、検出器80aは、EB−CCD81及びEB−TDI82を備えている。EB−CCD81及びEB−TDI82は、電子ビームを受け取る電子センサであり、検出面に直接に電子を入射させる。この構成においては、EB−CCD81は、電子ビームの光軸調整、画像撮像条件の調整と最適化を行うのに使用される。一方、EB−TDI82を使用する場合には、EB−CCD81を移動機構Mによって光軸から離れた位置に移動させてから、EB−CCD81を使用するときに求めた条件を使用して又はそれを参考にしてEB−TDI82による撮像を行って、試料面201の観察を行う。
このような構成の検出器80aは、EB−CCD81を使用するときに求めた電子光学条件を用いて又はそれを参考にして、EB−TDI82による半導体ウエハの画像取得を行うことができる。EB−TDI82による試料面201の検査の後に、EB−CCD81を使用してレビュー撮像を行い、パターンの欠陥評価を行うことも可能である。このとき、EB−CCD81では、画像の積算が可能であり、それによるノイズの低減が可能で、高いS/Nで欠陥検出部位のレビュー撮像が可能となる。このとき、更に、EB−CCD81の画素がEB−TDI82の画素に比べてより小さいものを用いると有効である。つまり、写像投影光学系で拡大された信号のサイズに対して、多くのピクセル数で撮像することが可能となり、より高い分解能で検査や欠陥の種類等の分類・判定のための撮像が可能となる。
なお、EB−TDI82は電子を直接受け取って電子像を形成するために使用することができるよう、画素を二次元的に配列した例えば矩形形状をしており、画素サイズは、例えば12〜16〔μm〕である。一方、EB−CCD81の画素サイズは、例えば6〜8〔μm〕のものが使用される。
また、EB−TDI82は、パッケージ85の形に形成され、パッケージ85自体がフィードスルーの役目を果たし、パッケージのピン83は大気側にてカメラ84に接続される。
図14に示した構成とすると、FOP、ハーメチック用の光学ガラス、光学レンズ等による光変換損失、光伝達時の収差及び歪み、それによる画像分解能劣化、検出不良、高コスト、大型化等の欠点を解消することができる。
[複合型試料観察装置としての構成例]
図15は、本発明に係る試料観察装置の第3の全体構成例を示した図で、この試料観察装置は、光学顕微鏡による試料観察及びSEMによる試料観察も可能な、複合型試料観察装置として構成されている。
図15に示した複合型の試料観察装置は、試料キャリア190と、ミニエンバイロメント180と、ロードロック162と、トランスファーチャンバ161と、メインチャンバ160と、電子コラム130と、画像処理装置系90とを備えている。ミニエンバイロメント180には、大気搬送ロボット、試料アライメント装置、クリーンエアー供給機構等
が設けられている(図示せず)。また、常に真空状態のトランスファーチャンバ161には、真空用搬送ロボットが設けられており(図示せず)、これにより、圧力変動によるパーティクル等の発生を最小限に抑制することが可能である。
メインチャンバ160には、水平面内(xy平面内)でx方向、y方向、およびθ(回
転)方向に移動可能なステージ100が設けられており、当該ステージ100上には静電
チャックが設置されている。試料200そのもの或いはパレットや冶具に設置された状態の試料200は、この静電チャックによりステージ100上に載置される。
メインチャンバ160の内部は、真空制御系150により、真空状態が保たれるように圧力制御される。また、メインチャンバ160、トランスファーチャンバ161及びロードロック162は、除振台170上に載置され、床からの振動が伝達されないように構成されている。
メインチャンバ160には電子コラム130が設置されている。この電子コラム130には、電子ビーム源10及び1次系レンズ20を含む1次光学系と、コンデンサレンズ30、E×B40、トランスファーレンズ50、NA調整用アパーチャ60、60a〜60c及びプロジェクションレンズ70を含む2次光学系のコラムと、試料200からの二次電子及びミラー電子を検出する検出器80が設置されている。また、電子コラム130の関連構成要素として、試料200の位置合わせに用いる光学的顕微鏡140や、レビュー観察に用いるSEM145が備えられている。
検出器80からの信号は、画像処理装置系90に送られて信号処理される。信号処理は、観察を行っているオンタイム中の処理と画像のみ取得して後で処理するオフライン処理の両方が可能である。画像処理装置90で処理されたデータはハードディスクやメモリなどの記録媒体に保存される。また、必要に応じて、コンソールのモニタに表示することが可能である。例えば、観察領域・欠陥マップ・欠陥分類・パッチ画像等である。このような信号処理を行うため、システムソフト95が備えられている。また、電子コラム系130に電源を供給すべく、電子光学系制御電源118が備えられている。電子光学系制御電源118の中には、電子ビーム源10の電子源11に電力を供給する電源115と、電源115を制御する照射エネルギ制御手段110が含まれている。
次に、試料200の搬送機構について説明する。
ウエハ、マスクなどの試料200は、ロードポート190より、ミニエンバイロメント180中に搬送され、その中でアライメント作業がおこなわれる。さらに、試料200は大気搬送ロボットによりロードロック162に搬送される。ロードロック162内では、真空ポンプ(図示せず)により、大気状態から真空状態となるように排気がなされる。この排気によりロードロック162内が一定圧力(例えば、1〔Pa〕程度)以下になると、試料200は、トランスファーチャンバ161に設けられた真空搬送ロボットによりロードロック162からメインチャンバ160に搬送され、ステージ100が有する静電チャック機構の上に設置される。
[本発明の基本的原理]
上述したとおり、遷移領域において発生するミラー電子を利用し、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiを分離することにより、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得したり、これとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得することとすれば、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域203の構造情報を得た電子eiの分離を行わずに試料観察して得られる画像に比較して、顕著に高いコントラストを得ることが可能となる。
しかし、本発明者らの検討によれば、観察対象となる試料の表面に絶縁領域と導電領域が形成されており、その試料面上の欠落欠陥と開放欠陥の双方を高い精度で検出する必要がある場合には、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得するか、或いはこれとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得することのみでは、何れか一方の種類の欠陥の検出は容易になる反面、他方の種類の欠陥の検出がし難くなる場合が生じ得ることが分かってきた。
具体的には、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得した場合には、欠落欠陥の検出は容易になる反面、開放欠陥(オープン欠陥)の検出がし難くなる場合がある。これとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得した場合には、開放欠陥(オープン欠陥)の検出は容易になる反面、欠落欠陥(ショート欠陥)の検出がし難くなる場合がある。
本発明に係る試料観察方法は、このような知見に基づき、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得と、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得とを行い、これらの画像に基づいて、試料面上の欠落欠陥と開放欠陥の双方を高い精度で検出することとしている。
つまり、本発明に係る試料観察方法では、絶縁領域と導電領域を有する試料面に、当該試料面の構造情報を得た電子がミラー電子と2次電子の双方を含む遷移領域に調整された照射エネルギ(LE)の撮像電子ビームを照射し、当該撮像電子ビームの照射を受けた試料面の画像を、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)と絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)とで取得する。なお、これらの画像は、A条件に続いてB条件で取得されてもよく、B条件に続いてA条件で取得されてもよい。
図16は、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)下で取得した画像と絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)下で取得した画像のそれぞれにおける、欠落欠陥(ショート欠陥)と開放欠陥(オープン欠陥)の現れ方を概念的に示すための図である。ここで、欠落欠陥(ショート欠陥)は、WやCuなどの導電材料でライン状に形成された領域(導電領域)の一部に短絡(ショート)がある状態であり、開放欠陥(オープン欠陥)は、導電材料でライン状に形成された領域(導電領域)の一部が断線(オープン)している状態である。
具体的には、既に図6(A)において説明したように、これらA条件およびB条件はそれぞれ、NAアパーチャ61の位置調整により、導電領域の構造情報を得た電子ecのみを多く検出器80に導くことおよび絶縁領域の構造情報を得た電子eiのみを多く検出器80に導くことにより実現される。
図16(A)はWやCuなどの導電材料の領域(導電領域)310とSiO2などの絶縁材料の領域(絶縁領域)320とを有する試料面上の一部300を模式的に表した図で、図16(A)(a)はライン状に形成された導電材料の一部領域に欠落欠陥(ショート欠陥)330がある状態を示しており、図16(A)(b)はライン状に形成された導電材料の一部領域に開放欠陥(オープン欠陥)340がある状態を示している。
また、図16(B)は、上記試料面に、当該試料面の構造情報を得た電子がミラー電子と2次電子の双方を含む遷移領域に調整された照射エネルギ(LE)の撮像電子ビームを照射し、当該撮像電子ビームの照射を受けた試料面の画像を、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)で取得した画像を模式的に表した図で、図16(B)(a)は図16(A)(a)に対応し、図16(B)(b)は図16(A)(b)に対応し
ている。
さらに、図16(C)は、上記と逆の撮像条件とし、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)として、コントラストを反転させて取得した画像を模式的に表した図で、図16(C)(a)は図16(A)(a)に対応し、図16(C)(b)は図16(A)(b)に対応している。
図16(B)を参照すると、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)で取得した画像では、導電領域の輝度が相対的に高いことに起因して、欠落欠陥(ショート欠陥)は強調されて実際の欠陥サイズよりも大きく表れている(図16(B)(a))。これとは逆に、絶縁領域の輝度が相対的に低いことに起因して、開放欠陥(オープン欠陥)は実際の欠陥サイズよりも小さく表れている(図16(B)(b))。
一方、図16(C)を参照すると、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)で取得した画像では、絶縁領域の輝度が相対的に高いことに起因して、欠落欠陥(ショート欠陥)は実際の欠陥サイズよりも小さく表れている(図16(C)(a))。これとは逆に、導電領域の輝度が相対的に低いことに起因して、開放欠陥(オープン欠陥)は実際の欠陥サイズよりも大きく表れている(図16(B)(b))。
同様の現象は、欠陥が不完全な場合であっても生じる。
図17(A)(a)はライン状に形成された絶縁材料の一部領域に不完全な欠落欠陥(ショート欠陥)335がある状態を示しており、図17(A)(b)はライン状に形成された絶縁材料の一部領域に不完全な開放欠陥(オープン欠陥)345がある状態を示している。
また、図17(B)は、上述した撮像電子ビームの照射条件下で、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)で取得した画像を模式的に表した図で、図17(B)(a)は図17(A)(a)に対応し、図17(B)(b)は図17(A)(b)に対応している。
さらに、図17(C)は、上記と逆の撮像条件とし、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)として、コントラストを反転させて取得した画像を模式的に表した図で、図17(C)(a)は図17(A)(a)に対応し、図17(C)(b)は図17(A)(b)に対応している。
図17(B)を参照すると、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)で取得した画像では、導電領域の輝度が相対的に高いことに起因して、不完全欠落欠陥(不完全ショート欠陥)は強調されて実際の欠陥サイズよりも大きく表れている(図17(B)(a))。これとは逆に、絶縁領域の輝度が相対的に低いことに起因して、不完全開放欠陥(不完全オープン欠陥)は実際の欠陥サイズよりも小さく表れている(図17(B)(b))。
一方、図17(C)を参照すると、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)で取得した画像では、絶縁領域の輝度が相対的に高いことに起因して、不完全欠落欠陥(不完全ショート欠陥)は実際の欠陥サイズよりも小さく表れている(図17(C)(a))。これとは逆に、導電領域の輝度が相対的に低いことに起因して、不完全開放欠陥(不完全オープン欠陥)は実際の欠陥サイズよりも大きく表れている(図17(B)(b))。
このような現象が起こる理由は、下記のような理由によるものと考えられる。すなわち、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件(A条件)で画像を取得する場合には、欠落欠陥(ショート欠陥)や開放欠陥(オープン欠陥)の近傍の導電材料から放出された電子が拡散し、その作用により、欠落欠陥(ショート欠陥)部分はより広く、開放欠陥(オープン欠陥)部分はより狭く、撮像される。これとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件(B条件)で画像を取得する場合には、欠落欠陥(ショート欠陥)や開放欠陥(オープン欠陥)から放出された電子が拡散し、その作用により、欠落欠陥(ショート欠陥)部分はより狭く、開放欠陥(オープン欠陥)部分はより広く、撮像される。
このように、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得と、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得とを行うこととすれば、これらのコントラストが反転した画像に基づいて、試料面上の欠落欠陥と開放欠陥の双方を高い精度で検出することが可能となる。
以下に、実施例により本発明をより具体的に説明する。
[材料コントラストの最適化]
本実施例で用いた試料は、図16及び図17に示したものと同様のライン・アンド・スペース(L&S)が形成されたパターンを有するものであり、その表面には、導電材料であるCuの領域(導電領域)310と絶縁材料であるSiO2の領域(絶縁領域)320が形成され、ライン幅およびスペース幅は何れも43nmである。
図18は、この試料の表面に照射される撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)の最適値を決定するために行った実験結果を示したものである。図18(A)は、照射エネルギ(LE)、導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]、およびコントラストを表として纏めたものである。また、図18(B)は、この表をグラフとして示した図で、横軸には照射エネルギ(LE)を、左縦軸には導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]を、右縦軸にはコントラストを示している。なお、このときの撮像は、NA調整用アパーチャ60のNAアパーチャ61の中心を、導電領域202から放出された電子ecの軌道の中心に略一致した位置に合わせて行っている。なお、階調を示す[DN]は「Digital Number」に意味であり、黒と白階調を8bitで表したもので、DN=0は黒を、DN=255は白を意味する画素情報である。
この例では、照射エネルギ(LE)が3.2[eV]のときに最も高いコントラスト(0.41)が得られている。
[帯電電子ビームのドーズ量の最適化]
図19は、この試料の表面に照射する帯電電子ビームのドーズ量の最適値を決定するために行った実験結果を示したものである。図19(A)は、ビームドーズ量[mC/cm2]、導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]、およびコントラストを表として纏めたものである。また、図19(B)は、この表をグラフとして示した図で、横軸にはビームドーズ量[mC/cm2]を、左縦軸には導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]を、右縦軸にはコントラストを示している。なお、このときの撮像もまた、NA調整用アパーチャ60のNAアパーチャ61の中心を、導電領域202から放出された電子ecの軌道の中心に略一致した位置に合わせて行っている。ここで、ビームドーズ量は、ビーム電流密度と照射時間の積で定義される。
この例では、ドーズ量に伴ってコントラストは高くなるが、概ね2[mC/cm2]の
ドーズ量でコントラストは飽和している。つまり、高いコントラストで撮像するために照射すべき帯電電子ビームのドーズ量は、概ね2[mC/cm2]程度で十分であることが分かる。
[NA結像モードによる電子分布の位置確認]
本発明では、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiとの分離を行うことにより高いコントラストを得て、欠落欠陥(ショート欠陥)と開放欠陥(オープン欠陥)の双方を高感度・高精度で検出することとしている。このような導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiとの分離はNAアパーチャの位置調整により行うことが可能であることから、本発明では、NA結像モードにより試料面の導電領域および絶縁領域からの電子の分布を直接観察することにより、NAアパーチャの位置調整を高い精度で行うことを可能としている。以下に、具体的な手順の例を説明する。
NA調整用アパーチャ60と検出器80との間に設けられているプロジェクションレンズ70を所定の電圧である5500Vとし、NA結像モードにより、NA調整用アパーチャ60の位置における導電材料202の表面構造情報を得た電子ec及び絶縁材料201の表面構造情報を得た電子eiのそれぞれの分布の位置関係を確認した。具体的には、帯電電子ビームのドーズ量を変化させ、当該ドーズ量の変化に伴って、絶縁材料201の表面構造情報を得た電子eiの分布状態(軌道の中心)が、導電材料202の表面構造情報を得た電子ecの分布状態(軌道の中心)からどれだけシフトするかを確認した。
図20は、NA結像モードによる電子分布の位置確認の結果を説明するための図である。図20(A)は、ビームドーズ量[mC/cm2]と当該ドーズ量の帯電電子ビームを照射した際の、絶縁材料201の表面構造情報を得た電子eiの分布状態のずれ、すなわち、導電材料202の表面構造情報を得た電子ecの分布状態からどれだけシフトしたかを纏めた表である。また、図20(B)は、この表をグラフとして示した図で、横軸にはビームドーズ量[mC/cm2]を、左縦軸には絶縁材料201の表面構造情報を得た電子eiの分布状態のシフト量を示している。ここで、シフト方向をY方向とした。
なお、左縦軸に示した電子eiの分布状態のシフト量は規格化した値として示している。このシフト量の規格化は、導電材料からの電子を通すNAアパーチャの位置を0とし、コントラストが反転する条件でのNAアパーチャの位置を1として行った。また、上述した帯電電子ビームのドーズ量の最適化実験の結果に基づき、帯電電子ビームの照射量の上限値を2[mC/cm2]とした。さらに、参考のため、L&S幅が35nmの試料およびL&S幅が65nmの試料についても同様の実験を行った。
図20に示した結果によれば、帯電電子ビームのドーズ量と絶縁材料201の表面構造情報を得た電子eiの分布状態のずれ量はほぼ比例している。従って、帯電電子ビームのドーズ量の最適化実験の結果を考慮すると、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiを分離して高いコントラストを得るためには、帯電電子ビームの照射量を2[mC/cm2]程度とし、さらに、NA調整用アパーチャ60の孔部であるNAアパーチャ61を所定の量だけY方向にずらすことで、導電領域202の構造情報を得た電子ecを選択的に検出器80に導く条件と絶縁領域203の構造情報を得た電子eiを選択的に検出器80に導く条件での撮像を行えばよいことが分かる。
また、図20に示した結果によれば、配線幅(L&S幅)が広い試料では、絶縁材料の体積が大きい分だけ、基板電位の変化(ΔV)が大きくなり、そのため絶縁材料201の表面構造情報を得た電子eiの分布のシフト量も大きい。これとは逆に、配線幅(L&S幅)が細くなるに従って絶縁材料の体積が小さくなるため、基板電位の変化(ΔV)は小
さくなり、そのため、高いコントラストを得ることが難しくなる。
[基板帯電時における最適照射エネルギ(LE)]
上述したとおり、帯電電子ビームの照射により導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiの分離が容易になり、その結果、高いコントラストを得易くなる。これは、帯電電子ビームの照射により基板電位が変化(ΔV)し、これにより絶縁材料の表面構造情報を得た電子eiの分布がシフトすることによる。このことは、基板電位の変化量(ΔV)から、絶縁材料の表面構造情報を得た電子eiの分布がシフト量を推定することができることを意味する。
図21は、帯電状態にある試料の表面に照射される撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)の最適値を決定するために行った実験結果を示したものである。図21(A)は、照射エネルギ(LE)、導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]、およびコントラストを表として纏めたものである。また、図21(B)は、この表をグラフとして示した図で、横軸には照射エネルギ(LE)を、左縦軸には導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]を、右縦軸にはコントラストを示している。なお、このときの撮像も、NA調整用アパーチャ60のNAアパーチャ61の中心を、導電領域202から放出された電子ecの軌道の中心に略一致した位置に合わせて行っている。
図21(B)を図18(B)と比較すると、帯電状態にある試料の表面に撮像電子ビームが照射された場合(図21(B))には、非帯電状態にある試料の表面に撮像電子ビームが照射された場合(図18(B))に比較して高いコントラスト(7.8)が得られ、これに対応する照射エネルギ(LE)は低エネルギ側にシフトしている。これは、既に説明したように、試料面の絶縁領域が帯電状態にあるために基板電位が変化(約1V)し、その結果、絶縁領域203から放出された電子eiの軌道の中心が帯電領域202から放出された電子ecの軌道の中心と顕著にずれたために、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiの分離の度合いが大きくなったためである。
従って、予め、試料表面の帯電状態(基板電位)により最適照射エネルギ(LE)がどのように変化するかを知っておくことにより、絶縁領域203から放出された電子eiの軌道の中心のずれ量を推定することが可能である。つまり、基板電位から電子eiの軌道の中心位置のシフト量が推定できる。具体的には、帯電前後の照射エネルギ(LE)のシフト量から基板電位のシフト量を読み取る。上述したように、帯電状態が変化するとそれに伴って電子のエネルギ(速度)が変化することとなり、電磁場発生手段(E×B)を通過する際に受けるF=e・(v×B)の力も変化するから、E×B通過時の軌道シフト量を計算することができる。そして、このE×B通過時の軌道シフト量からNAアパーチャの位置におけるシフト量が計算できるから、電子eiの軌道の中心位置の実際のシフト量を検証することができる。
[NAアパーチャの位置調整によるコントラストの反転]
図22は、NAアパーチャの位置調整によるコントラストの反転について説明するための図である。図22(A)は、NAアパーチャの中心位置を、導電領域から放出された電子ecの軌道の中心に略一致した位置(規格化位置=0)からY方向に移動(規格化位置=1.0まで)させた際の、導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]、およびコントラストを表として纏めたものである。また、図22(B)は、この表をグラフとして示した図で、横軸にはNAアパーチャの中心位置[規格化位置]を、左縦軸には導電材料と絶縁材料それぞれの輝度[DN]を、右縦軸にはコントラストを示している。なお、この際の撮像は、帯電電子ビームを試料面に2[mC/cm2]照射し、導電材料の輝度が最大となるNAアパーチャの中心位置を規格化位置=0として行った。ここで、「規格化位置」とは、上述したとおり、導電材料の電子を通すNAアパーチャの位置を0、コントラス
トの反転するNAアパーチャの位置を1とした場合の相対的な座標を示す。
この図に示すように、NAアパーチャの位置を規格化位置=0からY方向にずらしてゆくと、導電材料の輝度が低下する一方で絶縁材料の輝度は高くなり、その結果、コントラストは徐々に低くなる。そして、NAアパーチャの中心位置が規格化位置=0.6では導電材料の輝度と絶縁材料の輝度は等しくなり、コントラストが得られなくなる。さらにNAアパーチャの位置をY方向にずらしてゆくと、導電材料の輝度は更に低下する一方で絶縁材料の輝度は更に高くなり、その結果、コントラストは反転して徐々に高くなる。このように、NAアパーチャの位置を調整することにより、コントラストを反転させることができる。
図23は、NAアパーチャの位置調整に伴うコントラスト反転の様子を概念的に説明するための図で、NAアパーチャの中心位置が導電領域から放出された電子ecの軌道の中心に略一致した位置(規格化位置NP=0)にあるときには、主として電子ecが検出器に導かれる。NAアパーチャの中心位置をY方向にずらしてゆくと、NAアパーチャを通過できる電子ecの量は減少する一方でNAアパーチャを通過できる電子eiの量は増大し、規格化位置NP=0.6では、両者の電子量は一致して輝度に差が生じなくなり、コントラストが得られなくなる。さらにNAアパーチャの中心位置をY方向にずらしてゆくと、NAアパーチャを通過できる電子ecの量は更に減少する一方でNAアパーチャを通過できる電子eiの量は更に増大し、規格化位置NP=1.0では、両者の電子量は逆転してコントラストが反転する。
[本発明の試料観察方法の手順]
図24は、本発明の試料観察方法における、電子軌道シフト量のドーズ量依存性を決定する手順、および、材料コントラストの反転を確認する手順を例示により説明するためのフローチャートである。なお、個々のステップにつき既に説明した部分については、その詳細は省略する。
先ず、撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)を上述した遷移領域に調整し(S102)、絶縁領域と導電領域を有する観察対象試料の表面に撮像電子ビームを照射する(S103)。
NAアパーチャ移動機構によりNAアパーチャの位置を面内で調整して、導電領域の構造情報を得た電子ecの軌道の中心にNAアパーチャの中心位置を合わせる(S104)。そして、この状態で、絶縁領域と導電領域の輝度の差、すなわち材料コントラストが最大となるように、撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)を調整する(S105)。
次に、試料面に所定のドーズ量の帯電電子ビームを照射して絶縁領域を帯電させ(S106)、帯電状態にある絶縁領域からの電子eiの軌道の中心がNAアパーチャの位置でどの程度シフトしたかを確認する(S107)。以後、ステップS106とステップS107を繰り返し、帯電状態にある絶縁領域からの電子eiの軌道シフト量のドーズ量依存性を求める(S108)。
帯電状態にある絶縁領域からの電子eiの軌道シフト量のドーズ量依存性が求められたら(S108:Yes)、そのデータに基づいて適正なドーズ量を決定する(S109)。
適正ドース量の決定後、再度、撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)の調整を行う。具体的には、上記手順で決定された適正ドーズ量の帯電電子ビームを試料面に照射し、この状態で材料コントラストが最大となる照射エネルギ(LE)を決定する(S110)。
そして、この照射エネルギ(LE)の撮像電子ビームが照射された試料面の画像を取得して、材料コントラストを測定する(S111)。ステップS107に関連して説明したとおり、このときのNAアパーチャの中心位置は導電領域の構造情報を得た電子ecの軌道の中心にあるから、上記取得画像中の輝度は、導電領域が相対的に高く絶縁領域が相対的に低い。
続いて、適正ドーズ量の帯電電子ビーム照射を行った際の電子eiの軌道シフト量だけNAアパーチャの中心位置を移動させ、NAアパーチャの中心位置を電子eiの軌道中心に一致させる。そして、この状態で再度、材料コントラストを測定する(S112)。
既に説明したように、このようなNAアパーチャの中心位置調整を行えば、材料コントラストは反転し、絶縁領域の輝度が相対的に高く導電領域の輝度が相対的に低い画像が取得されているはずである。従って、この材料コントラストの反転が確認されれば(S113:Yes)、終了となる(S114)。もし、材料コントラストの反転が確認されない場合には(S113:No)、ここまでの手順に何らかの問題があるはずであるから、ステップS102に戻ってやり直す。
上述の手順により、電子軌道シフト量のドーズ量依存性、および、材料コントラストの反転確認がなされ、本発明の試料観察に必要な条件設定が完了する。
図25は、本発明の試料観察方法の手順を例示により説明するためのフローチャートである。なお、個々のステップにつき既に説明した部分については、その詳細は省略する。
本発明に係る好ましい態様の試料観察方法は、絶縁領域と導電領域を有する試料面に材料コントラストが最大となる照射エネルギ(LE)の撮像電子ビームを照射するステップ(S203)と、当該撮像電子ビームの照射を受けた試料面からの構造情報を得た電子を検出して試料面画像を取得するステップ(S205、S207)を備えている。上述したように、撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)は、試料面の構造情報を得た電子がミラー電子と2次電子の双方を含む遷移領域に調整されており、試料面画像の取得のステップは、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得が行われるステップ(S205)と、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得が行われるステップ(S207)とを含む。
上述したように、撮像電子ビーム照射ステップ(S203)に先立ち、試料面に適正ドーズ量の帯電電子ビームを照射して絶縁領域を帯電させておくこととすれば(S202)、基板電位が変化する結果、絶縁領域から放出された電子eiの軌道の中心と帯電領域から放出された電子ecの軌道の中心とのずれが大きくなり、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiの分離の度合いも大きくなる。上述の適正ドーズ量は、既に説明したようにステップS109で予め決定されており、電子ビーム照射による絶縁領域の帯電が飽和するドーズ量とすることが好ましい。
ステップ203で撮像電子ビームを試料面に照射した状態で、NAアパーチャの中心位置を導電領域の構造情報を得た電子ecの軌道の中心に合わせて材料コントラストを最大にする(S204)。この条件下で得られる画像は、導電領域の輝度が相対的に高く絶縁領域の輝度が相対的に低い画像となる(S205)。
次いで、NAアパーチャの中心位置を絶縁領域の構造情報を得た電子eiの軌道の中心に合わせて材料コントラストを最大にする(S206)。この条件下で得られる画像は、絶縁領域の輝度が相対的に高く導電領域の輝度が相対的に低い画像となる(S207)。つまり、ステップS205で得られた画像とは、コントラストが反転した画像となってい
る。
なお、ステップS206におけるNAアパーチャの位置調整は、ステップS107で予め求められている電子eiの軌道シフト量に基づき、当該軌道シフト分だけNAアパーチャの位置を調整するようにしてもよい。
図26は、本発明の試料観察方法の手順の他の例を説明するためのフローチャートである。図25で示した手順とは、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得が行われるステップ(S305)に続いて、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得が行われるステップ(S307)が実行される点において相違している。
つまり、この態様の試料観察方法は、絶縁領域と導電領域を有する試料面に材料コントラストが最大となる照射エネルギ(LE)の撮像電子ビームを照射するステップ(S303)と、当該撮像電子ビームの照射を受けた試料面からの構造情報を得た電子を検出して試料面画像を取得するステップ(S305、S307)を備えている。そして、試料面画像の取得のステップは、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得が行われるステップ(S305)と、導電領域の輝度が導絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得が行われるステップ(S307)とを含んでいる。
図25の手順と同様に、撮像電子ビーム照射ステップ(S303)に先立ち、試料面に適正ドーズ量の帯電電子ビームを照射して絶縁領域を帯電させておくこととすれば(S302)、基板電位が変化する結果、絶縁領域から放出された電子eiの軌道の中心と帯電領域から放出された電子ecの軌道の中心とのずれが大きくなり、導電領域の構造情報を得た電子ecと絶縁領域の構造情報を得た電子eiの分離の度合いも大きくなる。
ステップ303で撮像電子ビームを試料面に照射した状態で、NAアパーチャの中心位置を絶縁領域の構造情報を得た電子eiの軌道の中心に合わせて材料コントラストを最大にする(S304)。この条件下で得られる画像は、絶縁領域の輝度が相対的に高く導電領域の輝度が相対的に低い画像となる(S305)。
次いで、NAアパーチャの中心位置を導電領域の構造情報を得た電子ecの軌道の中心に合わせて材料コントラストを最大にする(S306)。この条件下で得られる画像は、導電領域の輝度が相対的に高く絶縁領域の輝度が相対的に低い画像となる(S307)。つまり、ステップS305で得られた画像とは、コントラストが反転した画像となっている。
なお、ステップS306におけるNAアパーチャの位置調整は、ステップS107で予め求められている電子eiの軌道シフト量に基づき、当該軌道シフト分だけ、シフト方向とは反対の方向に、NAアパーチャの位置を調整するようにしてもよい。
上述したように、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得した場合には、欠落欠陥(ショート欠陥)の検出は容易になる反面、開放欠陥(オープン欠陥)の検出がし難くなる場合がある。また、これとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得した場合には、開放欠陥(オープン欠陥)の検出は容易になる反面、欠落欠陥(ショート欠陥)の検出がし難くなる場合がある。従って、絶縁領域と導電領域が形成されている試料面上の欠落欠陥と開放欠陥の双方を高い精度で検出するためには、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得するか、或いはこれとは逆に、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像を取得することのみでは、不十分である。
本発明に係る試料観察方法によれば、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得と、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で画像の取得とが行われるため、これらの画像に基づいて、試料面上の欠落欠陥と開放欠陥の双方を高い精度で検出することが可能となる。
つまり、上述の本発明に係る試料観察方法により得られた試料面の画像を用いれば、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像により欠落欠陥(ショート欠陥)の存否を高感度・高精度で検出し、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で取得した画像により開放欠陥(オープン欠陥)の存否を高感度・高精度で検出することができるため、高感度・高精度の試料検査方法としての利用も可能である。
[本発明による試料検査例]
以下に、上述の手法により試料表面の欠陥検査を実施した例について説明する。
観察対象として、図16及び図17に示したものと同様に、導電材料であるCuの領域(導電領域)と絶縁材料であるSiO2の領域(絶縁領域)のライン・アンド・スペース(L&S)パターンを有する試料を準備した。なお、ライン幅およびスペース幅は何れも43nmとした。このL&Sパターンの導電領域の一部に、種々のサイズの欠落欠陥(ショート欠陥)と開放欠陥(オープン欠陥)を形成し、これらの欠陥を検出することとした。
試料観察に際しては、電子源ビームの加速電圧を−4005V、試料面201の電位を−4002.6Vとした。従って、撮像電子ビームの照射エネルギ(LE)は、試料面の構造情報を得た電子がミラー電子と2次電子の双方を含む遷移領域にある2.4eVとなる。また、NAアパーチャ61の孔径は100〜300μmとし、撮像に先立つ帯電電子ビームの照射により絶縁領域を帯電させ(帯電量2mC/cm2)、撮像電子ビームの電流密度を1mA/cm2として撮像を行った。なお、欠陥検査時の検査ピクセルサイズは、電子光学系レンズの倍率設定により29nm角とした。また、検査速度は50MPPS(Mega Pixels Per Second)とした。
図27は、上記の条件で欠陥検査を行った結果を説明するための図である。図27(A)は導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像による欠陥検出の可否を纏めた表、図27(B)は絶縁領域の輝度が絶導電領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像による欠陥検出の可否を纏めた表、そして、図27(C)は上記2つの欠陥検出結果を総合して欠陥検出の可否を纏めた表である。なお、これらの表中、欠陥検出されたものは「○」とし、欠陥検出できなかったものは「×」とし、両方の検査で欠陥検出されたものは「◎」とした。
これらの結果から分かるように、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像によれば欠落欠陥(ショート欠陥)の検出が高精度で行える一方、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像によれば開放欠陥(オープン欠陥)の検出が高精度で行える。このことは、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像によれば開放欠陥(オープン欠陥)を見落とすことがあり、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像によれば欠落欠陥(ショート欠陥)を見落とすことがあり得ることを意味している。
これに対して、本発明のように、導電領域の輝度が絶縁領域の輝度よりも高い条件下で取得された画像と、絶縁領域の輝度が導電領域の輝度よりも高い条件下で取得した画像とにより、欠陥の存否を判断することとすれば、少なくとも25nmよりも大きなサイズの
欠落欠陥(ショート欠陥)と開放欠陥(オープン欠陥)の双方を、高感度・高精度で検出することができる。
これまで説明してきた本発明の試料観察装置及び試料観察方法は、例えば、半導体製造プロセスにおいて、半導体ウエハを加工した後の当該半導体ウエハの表面の観察や検査に用いることができる。本発明に係る試料観察装置及び試料観察方法を用いて、試料面に絶縁領域と導電領域を有する半導体ウエハを観察し、高コントラストの画像を取得して半導体ウエハの良否を検査することにより、欠陥の無い半導体ウエハの製造のための有力な手段となる。このように、本発明に係る試料観察装置及び試料観察方法は、半導体製造方法に好適に適用することができる。
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、これらの実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。