JP2014089341A - 電気光学素子、および電気光学素子の製造方法 - Google Patents

電気光学素子、および電気光学素子の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】環境に優しい電気光学素子を提供する。
【解決手段】下方に配置された基板2aの上方に電気光学効果を発現する物質からなる電気光学効果層4aが積層されているとともに、当該電気光学効果層の両面側に薄膜状の電極(3a,5a)が配置されてなる電気光学素子1aであって、前記電極として、前記基板上に形成された薄膜状の金属電極3aと、前記電気光学効果層の上に形成された透明電極5aとを備え、前記電気光学効果層は、化学溶液法によって、KTa1−xNbで表される強誘電体(KTN)とSrTiOとが混合された薄膜を積層してなり、前記KTNは、成分中のKが化学量論組成より過剰となるように添加されている。
【選択図】図2

Description

この発明は、KTa1−xNbを用いた電気光学素子に関する。また、電気光学素子の製造方法にも関する。
強誘電体であるチタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT)は、外部電界によって物質の屈折率が変化する電気光学効果を有し、可変利得等価器などに組み込まれる電気光学素子として利用されている。そして、PLZTを用いた電気光学素子は、薄膜状のPLZT結晶の片面、あるいは両面に薄膜電極を配置した構造となっている。例えば、以下の特許文献1には強誘電体薄膜の製造方法に係る発明について記載されているとともに、その発明の一実施例として、その方法によって製造された電気光学素子について記載されている。
そして、この特許文献1に記載の電気光学素子は、PLZT薄膜を層状に複数層積層させて得たPLZT結晶の片面に電極を備えた構造であり、その製造手順は、まず、石英ガラス基板上に周知のゾルゲル法やMOD法などの化学溶液法によりチタン酸鉛(PT)からなるシード層と呼ばれるPLZTの結晶成長を促す膜を形成し、そのシード層上に化学溶液法を用いてPLZTの薄膜を積層させていく。そして、そのPLZTの層上に櫛形電極を形成している。なお、引用文献1に記載の電気光学素子では、光シャッターとして用いるため、基板、PLZTの層、電極からなる積層体をクロスニコルの関係で配置された二枚の偏光板で挟持している。
特開2001−356309号公報
PLZTは、優れた電気光学効果を有し、とくに、光通信の分野における電気光学素子としてよく利用されている。しかし、このPLZTには鉛が含まれているため、近年の環境問題を考慮すると、今後は、電気光学素子に用いられる強誘電体を鉛が含まれていないものに置換させていく必要がある。そして、近年、PLZTに代替する強誘電体としてKTa1−xNbの化学式で表される物質(以下、KTN)が注目されている。
周知のごとく、KTNは、電気光学定数がPLZTよりも大きな材料であり、組成(上記化学式におけるx)により相転移温度が変化し、温度に応じて様々な結晶構造に相転移する。そして、KTNは、立方晶系のペロブスカイト構造であるときに電気光学素子として利用することができる。したがって、均一なKTN結晶からなる薄膜が得られれば環境に優しい電気光学素子を実現することが可能となる。
しかしながら、KTNは、温度に応じて様々な結晶構造に相転移するとともに、アルカリ成分であるKが熱によって蒸発し、組成変動が起こりやすい。そのため、熱処理を要する化学溶液法では、結晶の面方位や結晶構造などの結晶性が均一となるように制御することが難しい、という問題がある。特許文献1に記載の製造方法を適用してKTNを基板上に結晶成長させることも考えられるが、化学溶液法を用いて基板上にKTNを均一に結晶成長させるための技術自体が開発途上であり、従来の製造方法をそのまま転用できるかどうかは未知である。
もちろん、スパッタリングなどの真空プロセスを用いることも考えられるが、この方法では、そもそも結晶の方位面を均一にすることが難しい。また、製造設備も含めて製造コストが嵩む。したがって、KTNの結晶性や結晶構造が均一となるように制御するためには、結局、ゾルゲル法やMOD法などの化学溶液法を用いた製造技術を基本として技術開発を進めた方が現実的である。
そこで本発明は、電気光学効果を発現する強誘電体としてKTNを含んで、環境に優しい電気光学素子を提供することを目的としている。
上記目的を達成するための本発明は、下方に配置された基板の上方に電気光学効果を発現する物質からなる電気光学効果層が積層されているとともに、当該電気光学効果層の両面側に薄膜状の電極が配置されてなる電気光学素子であって、
前記電極として、前記基板上に形成された薄膜状の金属電極と、前記電気光学効果層の上に形成された透明電極とを備え、
前記電気光学効果層は、ゾルゲル法によって、KTa1−xNbで表される強誘電体(KTN)とSrTiOとが混合された薄膜を積層してなり、
前記KTNは、成分中のKが化学量論組成より過剰となるように添加されている、
電気光学素子としている。
また、前記金属電極と前記電気光学効果層との間に、ゾルゲル法によって形成された薄膜状のSrTiOからなるシード層が形成されている電気光学素子とすれば好適である。なお、前記基板が石英ガラスである電気光学素子とすることもできる。
シード層を有する電気光学素子であれば、前記シード層にNbあるいはLiが添加されている電気光学素子としてもよい。そして、シード層を有する電気光学素子であれば、前記基板を所定の面方位を有するSrTiOである電気光学素子とすることもできる。
本発明は、電気光学素子の製造方法にも及んでおり、当該方法は、下方に配置された基板の上方に電気光学効果を発現する物質からなる電気光学効果層が積層されているとともに、当該電気光学効果層の両面側に薄膜状の電極が配置されてなる電気光学素子電気光学素子の製造方法であって、
上方に薄膜状の金属電極が形成された基板を用いるとともに、
前記金属電極上に、Kが化学量論組成より過剰に添加されたKTNのゾルゲル溶液と、SrTiOのゾルゲル溶液との混合溶液を塗布する第1ステップと、
前記混合溶液を乾燥させたのち、当該混合溶液が塗布された前記基板を熱処理し、当該基板上に前記KTNと前記SrTiOとが含まれる薄膜を形成する第2ステップと、
前記第1ステップにおける前記混合溶液を塗布した後、前記第2ステップにおける乾燥と熱処理を実行するステップを繰り返えして前記KTNと前記SrTiOとが含まれる薄膜を所定の厚さとなるまで積層して前記電気光学効果層を形成するステップと、
を含む電気光学素子の製造方法としている。
あるいは、上記シード層を有する電気光学素子に対応して、下方に配置された基板の上方に電気光学効果を発現する物質からなる電気光学効果層が積層されているとともに、当該電気光学効果層の両面側に薄膜状の電極が配置されてなる電気光学素子電気光学素子の製造方法であって、
上方に薄膜状の金属電極が形成された基板を用いるとともに、
前記金属電極上に、SrTiOのゾルゲル溶液を塗布するステップと、
前記SrTiOのゾルゲル溶液を乾燥させたのち、当該ゾルゲル溶液が塗布された前記基板を熱処理し、当該基板上にSrTiOの薄膜からなるシード層を形成するステップと、
前記シード層上に、Kが化学量論組成より過剰に添加されたKTNのゾルゲル溶液と、SrTiOのゾルゲル溶液との混合溶液を塗布する第1ステップと、
前記混合溶液を乾燥させたのち、当該混合溶液が塗布された前記基板を熱処理し、当該基板上に前記KTNと前記SrTiOとが含まれる薄膜を形成する第2ステップと、
前記第1ステップにおける前記混合溶液を塗布した後、前記第2ステップにおける乾燥と熱処理を実行するステップを繰り返えして前記KTNと前記SrTiOとが含まれる薄膜を所定の厚さとなるまで積層して前記電気光学効果層を形成するステップと、
を含む電気光学素子の製造方法とすることもできる。
本発明によれば、環境に優しい電気光学素子を提供することが期待できる。
本発明の実施例に係る電気光学素子の一利用形態である可変利得等価器の構造を示す図である。 本発明の第1の実施形例に係る電気光学素子の構造を示す図である。 上記第1の実施例に係る電気光学素子の製造手順を示す図である。 上記第1の実施例に係る電気光学素子のX線回折特性を示す図である。 本発明の第2の実施形例に係る電気光学素子の構造を示す図である。 上記第2の実施例に係る電気光学素子の製造手順を示す図である。 上記第2の実施例に係る電気光学素子のX線回折特性を示す図である。 本発明の第3の実施例に係る電気光学素子のX線回折特性を示す図である。
===本発明に至る過程について===
本発明に係る電気光学素子の用途として、光通信用途がある。そして光通信用途の電気光学素子では、上述した引用文献1に記載の電気光学素子のように強誘電体薄膜からなる層(強誘電体層)の片面に電極を形成するのではなく、強誘電体層を挟持するように形成することが多い。例えば、強誘電体層を備えた電気光学素子を、光波長分割多重通信網の伝送路の途上に介在する可変利得等価器、所謂「波長イコライザー」と呼ばれる装置の主要部品である空間光変調器(SLM)として使用する場合には、必ず強誘電体層の両面側に電極を配置することになる。そのため、光通信用途の電気光学素子では、電極上に均一なKTN結晶を化学溶液法によって結晶成長させる技術を確立することが必須となる。そこで、まず、上記特許文献1に記載の製造方法をKTNに適用し、石英ガラス基板上にKTNの層をゾルゲル法を用いて形成してみた。しかし、均一なKTNの層を形成することができないことが判明した。そして、KTNを主体としながら、強誘電体層の組成自体を見直すこととし、その強誘電体の層を電極で挟持した電気光学素子を実用化することを目標にして鋭意研究を重ねた。その結果、本発明に想到した。
===電気光学素子の利用形態===
図1は、本発明の実施例に係る電気光学素子の一利用形態である可変利得等価器10の構成図である。この図1に示したように、光波長分割多重通信網を構成する伝送路Lを伝搬する光線は、光サーキュレーターCによって分岐され、その分岐先の光ファイバーFBの末端から出射し、可変利得等価器10へ案内される。そして、本実施例の電気光学素子は、この可変利得等価器10を構成する空間光変調器(SLM)1とほぼ同様の基本構成を備えている。以下に、可変利得等価器10についての構造と動作について簡単に説明する。
可変利得等価器10は、コリメートレンズ11、回折格子12、テレセントリックレンズ15、SLM1、およびSLM1を駆動するための駆動回路16から構成されており、光サーキュレーターCを経て光ファイバーFBより出射した光L1は、コリメートレンズ11により平行光L2に変換され、その平行光L2が回折格子12に入射する。
回折格子12は、入射光L2に対して直交する方向(図中、紙面奥行き方向)に延長する溝13が平行に配列された構造を有するとともに、その光の入射面14が入射光L2に対して所定の角度で傾いている。そして、回折格子12は、入射光L2に含まれる各波長成分の光L3を、溝13の延長方向に対して直交する方向に波長に応じた角度で屈折させて出射する。回折格子12にて分光された各波長成分の光L3は、テレセントリックレンズ15に入射し、各波長のそれぞれに対応する多数の光束L4として出射される。そして、その出射光L4がSLM1に入射する。
SLM1は、強誘電体層4の両面に薄膜電極(3,5)が配置された構成であり、この例では、光の入射側は透明電極5であり、各波長の光束L4に対応するセル電極が個別に形成されている。SLM1において、光L4の入射側を前方とすると、強誘電体層4の後方には反射板を兼ねる金属電極3が配置されている。そして、駆動回路16からの電気信号を電極間(3,5)に印加することによって強誘電体層4の電気光学特性が制御され、強誘電体層4の前後のそれぞれの面から反射した光の干渉状態が変化する。それによって、入射した各波長成分の光L4の利得が個別に調整され、その調整後の光が前方のテレセントリックレンズ15方向に向けて出射する。そして、SLM1からの出射光は、入射光L4と逆の光路(L4→L3→L2→L1)を辿り、最終的に光サーキュレーターCを介して伝送路Lに戻される。
===第1の実施例===
本発明の実施例に係る電気光学素子は、上述したSLM1への適用を想定した構成を備えている。すなわち、対面する二つの薄膜電極の一方を金属電極とし、他方を透明電極として、強誘電体としてKTNを含んで電気光学効果を発現する層(以下、EO層)をその二つの電極間に配置した構造を基本としている。そして、本実施例の電気光学素子は、EO層の組成に特徴を有して、当該EO層の結晶性が均一に制御されている。
<構造>
図2は、本発明の第1の実施例に係る電気光学素子1aの構造を示す断面図である。この電気光学素子1aは、基板2aを下方として、その基板2a上に薄膜状の金属電極(下側電極層)3aが形成され、その下側電極層3a上にEO層4aが形成され、そのEO層4aの上に透明電極(上側電極層)5aが形成されている。
具体的には、石英ガラスからなる基板2a上にTiとPtの合金(以下、Ti/Pt)からなる下側電極層3aが積層され、その下側電極層3a上にKTNとSrTiO(以下、STO)を含むEO層4aが形成されている。EO層4aは、本発明の本質でもあり、熱処理によって蒸発するKTN中のKを補うために、Kが過剰に添加されているKTNと、当該KTNの結晶性を均一に制御するSrTiOとを含んでいる。本実施例では、Kを10%過剰に添加している。そして、このEO層4aの上には、酸化インジウムスズ(ITO)からなる薄膜状の透明な上側電極層5aが形成されている。
<電気光学素子の製造方法>
つぎに、上記実施例に係る電気光学素子1aの製造方法の一例を示す。図3に、図2に示した第1の実施例に係る電気光学素子1aの製造手順を示した。当該製造方法では、EO層4aにおける結晶性を均一に制御することを重視し、MOD法やゾルゲル法などの化学溶液法を用いてEO層4aを形成することを基本としている。そして、当該製造方法では、まず、石英ガラス基板2a上にTi/Ptの薄膜をスパッタリングなどの適宜な方法で製膜し下側電極層3aを形成する(s1)。そして、下側電極層3a上にEO層4aを形成するための化学溶液として、KTN用のゾルゲル溶液とSTO用のMOD溶液を混合した化学溶液をスピンコートにより下側電極層3a上に塗布する(s2)。なお、KTN用のゾルゲル溶液は、KTaO用スピンコート液(株式会社豊島製作所製)とKNbO用スピンコート液(株式会社豊島製作所製)を等量混合したものであり、これらのスピンコート液は、等量混合することによってKが化学量論組成より10%過剰となるように調整されている。なお、STO用のMOD溶液は市販のスピンコート液(例えばST−06:株式会社高純度化学研究所)を用いた。
そして、基板上に塗布された各種化学溶液の混合溶液を150℃で乾燥した後、750℃で熱処理する(s3,s4)。それによって、一層分のEO薄膜が形成される。なお、一層分のEO薄膜は極めて薄いため、電気光学素子として機能させるために必要な厚さ(例えば1μm)になるまで、化学溶液の塗布から熱処理までの処理を繰り返す(s5→s2)。所定の厚さに相当する層数分のEO薄膜(EO層)4aが形成されたならば、そのEO層4a上に透明の上側電極層5aとなるITO薄膜をスパッタリングなどにより形成する(s5→s6)。以上のようにして第1の実施例に係る電気光学素子1aが完成する。なお、電気光学素子1aを上記のSLM1などに用いる場合は、必要に応じ、上側電極層6aをフォトリソグラフィ技術などを用いてパターンニングすればよい。また、KTNにおけるKの過剰添加量は、10%に限らず、EO層4aの膜厚やKTNゾルゲル溶液の濃度などに応じて調整すればよい。
===第1の実施例の特性===
上記の方法によって作成した第1の実施例に係る電気光学素子(以下、第1実施例)1aについて、EO層4aの結晶性をX線回折装置(以下、XRD)を用いて解析した。また、上記第1実施例1aの特性を評価するために、図2に示した構造の電気光学素子1aにおけるEO層4aをKTNのみの層に置換した電気光学素子(比較例1)を作成し、この比較例1についても同様にXRDによる解析を行った。なお、比較例1におけるEO層は、上記のKNT用のゾルゲル溶液のみを用いたゾルゲル法によって形成した。
図4は、第1実施例1aと比較例1についてのXRDによるX回折強度の測定結果を示している。この図4に示したように、比較例1の測定結果を示す曲線(以下、特性曲線)40には、ペロブスカイト相に対応する[100]方位の結晶面を示すピーク41と、[110]方位の結晶面を示すピーク42がある。しかし、比較例1の特性曲線40には、これらのピーク(41,42)の他に、KTNが強誘電体となるときのペロブスカイト相とは結晶構造が異なるパイロクロア相を示すピーク(44,45)と、KNb17化合物を示すピーク43が明確に現れている。すなわち、KTNのペロブスカイト型とパイロクロア型に加え、KNb17化合物の結晶も混在している。
一方、第1実施例1aに対する特性曲線30には、ペロブスカイト相に対応する[100]方位および[110]方位の結晶面に対するピーク(31,32)が現れている。そして、図示したグラフの横軸、および縦軸の解像度では、パイロクロア相を示す目立ったピークは見られなかった。すなわち、第1実施例1aは、比較例1に対してパイロクロア相の成長が抑制されて、結晶性が均一に制御されていることが解った。
以上より、第1実施例1aは、KTNとSTOを含んだEO層4aを備えることで、このEO層4aの結晶性が均一に制御され、優れた電気光学効果を発現することが期待できる。そして、第1実施例1aは、KTN中のKが過剰に添加されて、熱処理中に蒸発するKを補い、組成変動に起因する結晶性の制御困難性が効果的に抑制されている。加えて、EO層4aには、安定したペロブスカイト構造を有するとともに、組成変動の原因となるアルカリ成分を含まず、かつ格子定数がKTNに近似したSTOが含まれている。それによって、ペロブカイト構造のKTNが形成され易くなり、かつ格子定数も一定に維持され易くなる。その結果、均一なEO層4aが形成されたものと思われる。
===第2の実施例===
つぎに、本発明の第2の実施例として、第1の実施例における技術思想をさらに発展させて、より均一なEO層を有する電気光学素子を挙げる。図5は、第2の実施例に係る電気光学素子(第2実施例)1bの構造を示す図である。
<構造>
図5は、本発明の第2の実施例に係る電気光学素子1bの構造を示す断面図である。この第2実施例1bは、先に挙げた第1実施例1aに対し、下側電極層3bとEO層4bとの間にSTOの薄膜からなるシード層6bが形成されている点が異なっている。そして、このシード層6b以外の構成である、基板2b、下側電極層3b、EO層4b、上側電極層5bは、第1実施例1aにおける構成(2a,3a,4a,5a)と同じである。
<電気光学素子の製造方法>
つぎに、上記第2の実施例に係る電気光学素子1bの製造方法の一例を示す。図6に、図5に示した第2の実施例に係る電気光学素子1bの製造手順を示した。まず、第1実施例1aと同様に、石英ガラス基板2b上にTi/Ptの薄膜をスパッタリングなどの適宜な方法で製膜し、下側電極層3bを形成する(s11)。そして、第2の実施例では、下側電極層3b上にシード層6bを形成する。具体的には、下側電極層3b上に6%濃度のSTOのMOD溶液(例えばST−06:株式会社高純度化学研究所)をスピンコート法により塗布し(s12)、その塗布膜を150℃で乾燥させる(s13)。さらに、750℃で熱処理を行いSTOによるシード層6bを形成する(s14)。そして、第1実施例1aと同様に、このシード層6b上にKTNとSTOからなる薄膜を積層していき(s15〜s18→s15)、その薄膜を所定の厚さとなるまで積層してEO層4bを形成したならば、そのEO層4bの上に上側電極層5bを形成する(s18→s19)。
===第2の実施例の特性===
上記の方法によって作成した第2の実施例に係る電気光学素子(以下、第2実施例)1bについて、EO層4bの結晶性をX線回折装置(以下、XRD)を用いて解析した。そして、第2実施例1bと第1実施例1aのXRDによる解析結果を比較した。図7に、第1、および第2実施例(1a,1b)についてのXRD解析結果を示した。なお、この図7では、先に図4に示した特性グラフに対応する測定結果に対し、測定対象となる試料の回転角度(横軸)とX線回折強度(縦軸)の解像度を高めて測定したときの結果が示されている。それによって、この図6では、図4の第1実施例の特性曲線30においてノイズに埋もれていたり、検出できなかったりしたピークも示されている。
まず、図7に示した第1実施例1aの特性曲線60をみると、図4に示した特性曲線30でも現れていたペロブスカイト相に対応する[100]方位および[110]方位の結晶面を示すピーク(61,62)に加え、図4では目立たなかったパイロクロア相を示すピークも現れている(63,64)。一方、第2実施例1bの特性曲線50では、第1実施例1aと比較すると、同様にペロブスカイト相に対応する[100]方位および[110]方位の結晶面を示すピーク(51,52)がある。しかし、パイロクロア相を示すピークについては検出されていない。したがって、第2実施例1bでは、第1実施例1aよりもさらに均一なEO層4bが形成されている、ということが解った。
なお、第2実施例1bのEO層4bの結晶性がより均一に制御されているのは、第2実施例1bには、STOのみからなるシード層6bがあり、そのシード層6bでは結晶性制御が難しいKTNを含むEO層よりも均一で安定したペロブスカイト構造が形成されているものと予想される。そして、第2実施例1bでは、この均一でかつ格子定数がKTNと近似する結晶構造を有するシード層6bの上にEO層4bを形成したため、結晶構造と格子定数がともに制御され、その結果、極めて均一なEO層4bが形成されたものと思われる。
具体的には、EO層4bを構成するKTNとSTOからなる薄膜(以下、EO薄膜)をシード層6b上に最初に形成する際、このシード層6bが均一な結晶性を有し、かつ格子定数もKTNと近似しているため、その最初のEO薄膜は、結晶相がほぼ完全にペロブスカイト相のみとなり、かつ格子定数も安定したものとなる。そして、以後は、その最初のEO薄膜の上にEO薄膜をさらに積層させていくため、各EO薄膜は、化学溶液法による製膜過程において、自身よりも下層のEO薄膜の結晶構造に従った構造となるように結晶成長し、その結果、ペロブスカイト相の結晶のみが支配的となるEO層4bが形成されたものと考えられる。
===第3の実施例===
上記第1、第2の実施例において、EO層に含まれるSTOについてはMOD溶液を用い、KTNについてはゾルゲル溶液を用いていた。そこで、本発明の第3の実施例として、STOとKTNの双方についてMOD溶液を用いたEO層を有する電気光学素子を挙げる。そして、STOとKTNとを含むEO層を備えたことを特徴とする本発明の電気光学素子は、そのEO層の起源となる化学溶液の種別に依存することなく、優れた特性を有している、ということを確認する。したがって、第3の実施例に係る電気光学素子は、第1の実施例に係る電気光学素子1aと同じ構造であり、その製造方法も、EO層の形成に用いた化学溶液が異なるだけで、製造手順や、EO層以外の構成(基板、電極など)の原材料などは、第1実施例の電気光学素子1aの製造方法と同じである。
具体的には、EO層は、KTaOとKNbOが、それぞれ、62%と38%の重量比で混合された濃度3%のKTNのMOD溶液(株式会社高純度化学研究所製)と、第1および第2の実施例にて用いたSTOのMOD溶液とを等量混合したものを用いた。なお、このKTNのMOD溶液も、Kが化学量論組成より10%過剰となるように調整されている。そして、このKTNのMOD溶液と上記のSTOのMOD溶液との混合溶液を塗布し、その塗布膜を乾燥、熱処理して薄膜を形成し、この薄膜を所定の厚さとなるまで繰り返して積層してEO層を形成した。
===第3の実施例の特性===
上記の方法によって作成した第3の実施例に係る電気光学素子(以下、第3実施例)について、EO層の結晶性をXRDを用いてX線回折強度を測定した。そして、当該第3実施例に対する比較例として、EO層をKTNのMOD溶液のみから形成した電気光学素子(以下、比較例2)を作成し、この比較例2についても、X線回折強度を測定した。図8に、第3実施例と比較例2についてのX線回折強度の測定結果を示した。
この図8に示しされているように、比較例2の特性曲線80をみると、先に図4に示した比較例1の特性曲線40では現れていたペロブスカイト相に対応する[100]方位および[110]方位の結晶面を示すピーク(41,42)に対応するピークがほとんど現れていない。[100]方位の結晶面を示すピーク81が僅かに確認できる程度である。そして、パイロクロア相を示すピーク82や、KNb17相を示すピーク(83,84)が明確に現れている。
一方、第3実施例の特性曲線70では、ペロブスカイト相に対応する[100]方位および[110]方位の結晶面に対するピーク(71,72)が明確に現れている。そして、図示したグラフの横軸、および縦軸の解像度では、パイロクロア相やKNb17相を示す目立ったピークは見られなかった。すなわち、第3実施例は、第1実施例と同様に、パイロクロア相やKNb17相の結晶成長が抑制されて、結晶性が均一に制御されていることが解った。以上より、KTNとSTOを含んだEO層を、KTNのMOD溶液とSTOのMOD溶液とから形成した場合でも、EO層の結晶性が均一に制御され、優れた電気光学効果を発現することが期待できる。
===その他の実施例===
<基板について>
ところで、上記第2実施例1bにおいて、シード層6bを構成するSTO薄膜は、下側電極層3bを介して基板2bに接している。そして、石英ガラスからなる基板2bの熱膨張係数は、シード層6bの熱膨張係数とは大きく異なる。そのため、電気光学素子の製造過程における熱処理とその後の冷却によって基板2bとシード層6b間で発生する歪みが大きい。この歪みはシード層6bにおける均一な結晶成長を阻害する要因になり得る。換言すれば、この歪みを抑制すれば、シード層6bの結晶性はさらに均一となり、結果的にさらに均一なEO層4bを形成することが期待できる。
そこで、第2実施例1bにおける基板2bをSTOからなる基板に置換してもよい。さらに、そのSTO基板の結晶方位面を所定の方位にすれば、シード層6bやEO層4bでは、STO基板と同じ方位面の結晶が支配的となり、結晶相のみならず、結晶方位面も揃った極めて均一な結晶に成長させることが期待できる。
<シード層の厚さについて>
第2実施例1bでは、下側電極層3bとEO層4bの間にシード層6bを設けることで、より均一なEO層を形成することができた。そして、そのシード層6bの厚さは、化学溶液の濃度やスピンコート時の基板回転数などによって調整することが可能である。しかし、シード層6bが薄すぎれば、基板2bの面積に対して実際にシード層6bが形成されている面積の比(基板被服率)が下がり、EO層4bを均一に結晶成長させる機能が不十分となる。厚すぎれば、電気光学効果に寄与しない層の厚さが増すことになり、十分な電気化学定数を得ることができない。なお、本発明の想到過程における経験から、シード層の厚さは25nm〜100nmであれば、ほぼ均一なEO層を形成することができ、誘電率の数値も一定であった。
<シード層の導電性について>
電気光学素子では、電気光学効果を奏する強誘電体に印加される電界によって屈折率が変化する。そのため、シード層6bとEO層4bが積層された第2実施例の電気光学素子1bでは、電極間(3b−5b)に電界を印加した場合、その電極間(3b−5b)の電圧がシード層6bとEO層4bとに分割されることになる。そのため、シード層6bの誘電率が低い場合、EO層4bに十分に電界が印加されなくなる可能性がある。そこで、シード層6bに導電性物質であるNbやLiを添加して、シード層6bに導電性を付与し、EO層4bに効果的に電界が印加されるようにしてもよい。
また、上記第1〜第3の実施例では、EO層やシード層を形成するために、入手が容易な市販の化学溶液を用いていた。すなわち、STOについては市販のMOD溶液を用い、KTNについては市販のゾルゲル溶液やMOD溶液を用いていた。もちろん、STOにつてもゾルゲル溶液を用いてもよい。いずれにしても、EO層やシード層をMOD溶液やゾルゲル溶液などの化学溶液を用いた化学溶液法によって形成すればよい。
なお、当然のことながら、本発明に係る電気光学素子の用途はSLM途に限るものではない。金属電極や透明電極の素材、あるいは結晶成長させるべき面方位などについても上記実施例に限るものではない。
本発明は、光通信における可変利得等価器などの利用に適している。
1 SLM、1a,1b 電気光学素子、2a,2b 基板、
3,3a,3b 金属電極(下側電極層)、4 強誘電体層、4a,4b EO層、
5,5a,5b 透明電極(上側電極層)、6b シード層、10 可変利得等価器

Claims (7)

  1. 下方に配置された基板の上方に電気光学効果を発現する物質からなる電気光学効果層が積層されているとともに、当該電気光学効果層の両面側に薄膜状の電極が配置されてなる電気光学素子であって、
    前記電極として、前記基板上に形成された薄膜状の金属電極と、前記電気光学効果層の上に形成された透明電極とを備え、
    前記電気光学効果層は、化学溶液法によって、KTa1−xNbで表される強誘電体(KTN)とSrTiOとが混合された薄膜を積層してなり、
    前記KTNは、成分中のKが化学量論組成より過剰となるように添加されている、
    ことを特徴とする電気光学素子。
  2. 請求項1において、前記金属電極と前記電気光学効果層との間に、化学溶液法によって形成された薄膜状のSrTiOからなるシード層が形成されている、ことを特徴とする電気光学素子。
  3. 請求項1または2において、前記基板が石英ガラスであることを特徴とする電気光学素子。
  4. 請求項2において、前記シード層にNbあるいはLiが添加されていることを特徴とする電気光学素子。
  5. 請求項2または4において、前記基板は、所定の面方位を有するSrTiOであることを特徴とする電気光学素子。
  6. 下方に配置された基板の上方に電気光学効果を発現する物質からなる電気光学効果層が積層されているとともに、当該電気光学効果層の両面側に薄膜状の電極が配置されてなる電気光学素子電気光学素子の製造方法であって、
    上方に薄膜状の金属電極が形成された基板を用いるとともに、
    前記金属電極上に、Kが化学量論組成より過剰に添加されたKTNの化学溶液と、SrTiOの化学溶液との混合溶液を塗布する第1ステップと、
    前記混合溶液を乾燥させたのち、当該混合溶液が塗布された前記基板を熱処理し、当該基板上に前記KTNと前記SrTiOとが含まれる薄膜を形成する第2ステップと、
    前記第1ステップにおける前記混合溶液を塗布した後、前記第2ステップにおける乾燥と熱処理を実行するステップを繰り返えして前記KTNと前記SrTiOとが含まれる薄膜を所定の厚さとなるまで積層して前記電気光学効果層を形成するステップと、
    を含むことを特徴とする電気光学素子の製造方法。
  7. 下方に配置された基板の上方に電気光学効果を発現する物質からなる電気光学効果層が積層されているとともに、当該電気光学効果層の両面側に薄膜状の電極が配置されてなる電気光学素子電気光学素子の製造方法であって、
    上方に薄膜状の金属電極が形成された基板を用いるとともに、
    前記金属電極上に、SrTiOの化学溶液を塗布するステップと、
    前記SrTiOの化学溶液を乾燥させたのち、当該化学溶液が塗布された前記基板を熱処理し、当該基板上にSrTiOの薄膜からなるシード層を形成するステップと、
    前記シード層上に、Kが化学量論組成より過剰に添加されたKTNの化学溶液と、SrTiOの化学溶液との混合溶液を塗布する第1ステップと、
    前記混合溶液を乾燥させたのち、当該混合溶液が塗布された前記基板を熱処理し、当該基板上に前記KTNと前記SrTiOとが含まれる薄膜を形成する第2ステップと、
    前記第1ステップにおける前記混合溶液を塗布した後、前記第2ステップにおける乾燥と熱処理を実行するステップを繰り返えして前記KTNと前記SrTiOとが含まれる薄膜を所定の厚さとなるまで積層して前記電気光学効果層を形成するステップと、
    を含むことを特徴とする電気光学素子の製造方法。
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