以下、本発明に係る火花点火式直噴ガソリンエンジンの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(全体構成)
図1は、本実施形態に係る火花点火式直噴ガソリンエンジンの構成を示す概略図であり、図2は、火花点火式直噴ガソリンエンジンの制御に係るブロック図である。このエンジン(エンジン本体)1は、車両に搭載される、ガソリンを主成分とする燃料が供給される火花点火式直噴ガソリンエンジンである。エンジン1は、各々頂部に燃焼室19を形成する、複数の気筒18が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯留されるオイルパン13と、を有している。なお、図1では、1つの気筒18のみを図示するが、シリンダブロック11には例えば4つの気筒が直列に設けられている。
各気筒18内には、コンロッド142を介してクランクシャフト15と連結されているピストン14が往復動可能に嵌挿されている。ピストン14の頂面(冠面)には、図3に拡大して示すように、ディーゼルエンジンにおけるリエントラント型のようなキャビティ141が形成されており、このキャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するときには、後述する直噴インジェクタ67に相対するようになっている。そうして、シリンダヘッド12と、気筒18と、キャビティ141を有するピストン14とによって、燃焼室19が区画されている。なお、燃焼室19の形状は、図示する形状に限定されるものではなく、例えば、キャビティ141の形状、ピストン14の頂面形状、及び、燃焼室19の天井部の形状等は、適宜変更することが可能である。
このエンジン1は、理論熱効率の向上や、後述する圧縮着火燃焼の安定化等を目的として、15以上の比較的高い幾何学的圧縮比に設定されている。なお、幾何学的圧縮比は15以上20以下程度の範囲で、適宜設定すればよい。
シリンダヘッド12には、気筒18毎に、吸気ポート16及び排気ポート17が形成されており、これら吸気ポート16及び排気ポート17には、燃焼室19側の吸気ポート開口及び排気ポート開口の周縁部に固定されたバルブシート(図示せず)に当接することによって各ポート開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
これら吸気弁21及び排気弁22をそれぞれ駆動する動弁系のうち、排気側の動弁系には、排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える、例えば油圧作動式の可変機構(Variable Valve Lift、以下、VVLともいう)71が設けられている(図2参照)。VVL71は、その構成の詳細な図示は省略するが、カムプロファイルの異なる2種類のカム(カム山を一つ有する第1カム及びカム山を2つ有する第2カム)、並びに、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁22に伝達するロストモーション機構を含んで構成されている。
排気弁22は、第1カムの作動状態が伝達されているときには、排気行程において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態が伝達されているときには、排気行程において開弁するのみならず吸気行程においても開弁する、所謂「排気二度開き」を行う特殊モードで作動し、これらの通常モードと特殊モードとは、エンジンの運転状態に応じて切り替えられる。具体的には、特殊モードは、内部EGRに係る制御の際に利用される。ここで、「内部EGR」とは、燃焼室19から排気ポート17に追い出された既燃ガスを高温のまま気筒18内に導入することを意味する。本実施形態における内部EGRの実行は、排気二度開きによって、すなわち、排気工程で排気ポート17に追い出された高温の既燃ガスを、吸気行程で排気弁22を開くことにより気筒18内へ導入することで実現されるが、これに限らず、例えば、吸気弁21を二回開く、吸気の二度開きによって内部EGR制御を行ってもよい。これにより、吸気弁21、排気弁22、VVL71、VVT72及びCVVL73等が、本発明でいうところの、排気ガスを気筒18内に導入するために、排気工程における吸気弁21の開弁と吸気行程における排気弁22の開弁との少なくとも一方を実行させる内部EGR導入手段を構成している。
なお、排気行程乃至吸気行程において吸気弁21及び排気弁22の双方を閉じるネガティブオーバーラップ期間を設けて既燃ガスを気筒18内に残留させる内部EGR制御は、既燃ガスの燃焼熱がシリンダ等に奪われることや既燃ガスが再膨張すること等により、既燃ガスの温度が下がってしまうととともに、既燃ガスを再圧縮する際にポンピングロスが生じることから、本実施形態では採用しない。
以下の説明においては、VVL71を通常モードで作動させ、排気二度開きを行わないことを、「VVL71をオフにする」といい、VVL71を特殊モードで作動させ、排気二度開きを行うことを、「VVL71をオンにする」という場合がある。なお、こうした通常モードと特殊モードとの切り替えを可能にする上で、排気弁22を電磁アクチュエータによって駆動する電磁駆動式の動弁系を採用してもよい。
以上に対し、動弁系の吸気側には、図2に示すように、クランクシャフト15に対する吸気カムシャフトの回転位相を変更することが可能な位相可変機構(Variable Valve Timing、以下、VVTともいう)72と、吸気弁21のリフト量を連続的に変更することが可能なリフト量可変機構(Continuously Variable Valve Lift、以下、CVVLともいう)73とが設けられている。VVT72は、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、また、CVVL73も、公知の種々の構造を適宜採用することが可能であり、これらの詳細な構造は図示省略する。これらVVT72及びCVVL73によって、吸気弁21はその開弁タイミング及び閉弁タイミング、並びに、リフト量をそれぞれ変更することが可能となっている。
また、シリンダヘッド12には、燃焼室19内に燃料を直接噴射する直噴インジェクタ(燃料噴射弁)67が、気筒18毎に取り付けられている。直噴インジェクタ67は、図3に拡大して示すように、その噴口が燃焼室19の天井面の中央部分から、当該燃焼室19内に臨むように配設されている。直噴インジェクタ67は、後述するPCM10の指令に従って、エンジン1の運転状態に応じて設定された噴射タイミングで、且つ、エンジン1の運転状態に応じて設定された量だけ、燃料を燃焼室19内に直接噴射する。この例では、直噴インジェクタ67は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型の直噴インジェクタであり、これによって、燃料噴霧が、燃焼室19の中心位置から放射状に拡散されるように、燃料を噴射する。図3に矢印で示すように、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで、燃焼室19の中央部分から放射状に広がるように噴射された燃料噴霧は、ピストン14の頂面に形成されたキャビティ141の壁面に沿って流動する。換言すると、キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで噴射された燃料噴霧を、その内部に収めるように形成されている。この多噴口型の直噴インジェクタ67とキャビティ141との組み合わせは、燃料の噴射後、混合気形成期間を短くするとともに、燃焼期間を短くする上で有利な構成である。なお、直噴インジェクタ67は、多噴口型の直噴インジェクタに限定されず、外開弁タイプの直噴インジェクタを採用してもよい。
図外の燃料タンクと直噴インジェクタ67との間は、燃料供給経路によって互いに連結されている。この燃料供給経路上には、直噴インジェクタ67に比較的高い燃料圧力で燃料を供給することが可能な、燃料ポンプ63とコモンレール64とを含む高圧燃料供給システム(燃圧可変機構)62が介設されている。燃料ポンプ63は、燃料タンクからコモンレール64に燃料を圧送し、コモンレール64は、圧送された燃料を比較的高い燃料圧力で蓄えることが可能に構成されている。そうして、直噴インジェクタ67が開弁することによって、コモンレール64に蓄えられている燃料が直噴インジェクタ67の噴口から噴射される。ここで、燃料ポンプ63は、図示は省略するが、プランジャー式のポンプであり、エンジン1によって駆動される。このエンジン駆動のポンプを含む構成の高圧燃料供給システム62は、30MPa以上の高い燃料圧力の燃料を、直噴インジェクタ67に供給することを可能にし、その燃料圧力は最大で120MPa程度に設定することができる。直噴インジェクタ67に供給される燃料の圧力は、後述するように、エンジン1の運転状態に応じて変更される。なお、高圧燃料供給システム62は、この構成に限定されるものではない。
さらに、シリンダヘッド12には、図3に示すように、燃焼室19内の混合気に点火するための点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、この例では、エンジン1の排気側から斜め下向きに延びるように、シリンダヘッド12内を貫通するとともに、その先端が、圧縮上死点に位置するピストン14のキャビティ141内に臨むように配置されている。
図1に示すように、エンジン1の一側面には、各気筒18の吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている一方、エンジン1の他側面には、各気筒18の燃焼室19からの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている一方、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されており、このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、各気筒18毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒18の吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、空気を冷却又は加熱する、水冷式のインタークーラ/ウォーマ34と、各気筒18への吸入空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。また、吸気通路30には、インタークーラ/ウォーマ34をバイパスするインタークーラバイパス通路35が接続されており、このインタークーラバイパス通路35には、当該通路35を通過する空気流量を調整するためのインタークーラバイパス弁351が配設されている。このインタークーラバイパス弁351の開度調整を通じて、インタークーラバイパス通路35の通過流量とインタークーラ/ウォーマ34の通過流量との割合を調整することにより、気筒18に導入する新気の温度を調整することが可能となっている。
排気通路40の上流側の部分は、各気筒18毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置として、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42とがそれぞれ接続されている。直キャタリスト41及びアンダーフットキャタリスト42はそれぞれ、筒状ケースと、そのケース内の流路に配置した、例えば三元触媒とを備えて構成されている。
吸気通路30におけるサージタンク33とスロットル弁36との間の部分と、排気通路40における直キャタリスト41よりも上流側の部分とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR通路50を介して接続されている。このEGR通路50は、排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52が配設された主通路51と、EGRクーラ52をバイパスするためのEGRクーラバイパス通路53と、を含んで構成されている。主通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するためのEGR弁511が配設され、EGRクーラバイパス通路53には、EGRクーラバイパス通路53を流通する排気ガスの流量を調整するためのEGRクーラバイパス弁531が配設されている。これにより、主通路51とEGRクーラバイパス通路53とを含むEGR通路50、EGRクーラ52、EGR弁511、並びに、EGRクーラバイパス弁531等が、本発明でいうところの、排気ガスが熱交換により冷却された低温のクールドEGRガスを気筒18内に導入可能に構成された外部EGRガス還流手段を構成している。
このように構成されたエンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が本発明で言うところの制御器を構成する。
PCM10には、図1及び図2に示すように、各種のセンサSW1〜SW16の検出信号が入力される。この各種のセンサには、次のセンサが含まれる。すなわち、エアクリーナ31の下流側で、新気の流量を検出するエアフローセンサSW1及び新気の温度を検出する吸気温度センサSW2、インタークーラ/ウォーマ34の下流側に配置され、インタークーラ/ウォーマ34を通過した後の新気の温度を検出する第2吸気温度センサSW3、EGR通路50における吸気通路30との接続部近傍に配置され、外部EGRガスの温度を検出するEGRガス温センサSW4、吸気ポート16に取り付けられ、気筒18内に流入する直前の吸気の温度を検出する吸気ポート温度センサSW5、シリンダヘッド12に取り付けられ、気筒18内の圧力を検出する筒内圧センサSW6、排気通路40におけるEGR通路50の接続部近傍に配置され、それぞれ排気温度及び排気圧力を検出する排気温センサSW7及び排気圧センサSW8、直キャタリスト41の上流側に配置され、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサSW9、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42との間に配置され、排気中の酸素濃度を検出するラムダO2センサSW10、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW11、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW12、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW13、吸気側及び排気側のカム角センサSW14,SW15、及び、高圧燃料供給システム62のコモンレール64に取り付けられ、直噴インジェクタ67に供給する燃料圧力を検出する燃圧センサSW16である。
PCM10は、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じて直噴インジェクタ67、点火プラグ25、吸気弁21側のVVT72及びCVVL73、排気弁22側のVVL71、高圧燃料供給システム62、並びに、各種の弁(スロットル弁36、インタークーラバイパス弁351、EGR弁511、及びEGRクーラバイパス弁531)のアクチュエータへ制御信号を出力する。こうしてPCM10は、エンジン1を運転する。
(エンジン制御の概要)
図4は、エンジンの運転領域の一例を示している。このエンジン1は、燃費を良くすることやエミッションの低減を目的として、エンジン負荷が相対的に低い低負荷域、具体的には、所定負荷(図7(a)の所定負荷T5)よりも低負荷側の領域では、点火プラグ25による点火を行わずに、圧縮自己着火(Homogenious Charge Compression Ignition)によって燃焼を行う圧縮着火燃焼(以下、CI燃焼ともいう)を行う。しかしながら、エンジン1の負荷が高くなるに従って、CI燃焼では、燃焼が急峻になり過ぎてしまい、例えば燃焼騒音等の問題を引き起こすおそれがある。そのため、このエンジン1では、エンジン負荷が相対的に高い高負荷域、具体的には、所定負荷以上の高負荷側の領域では、CI燃焼を止めて、点火プラグ25を用いた火花点火(Spark Ignition)による火花点火燃焼(以下、SI燃焼ともいう)に切り替えるようにしている。換言すると、このエンジン1は、エンジン1の運転状態、特にエンジン1の負荷に応じて、圧縮着火燃焼を行うCIモードと、火花点火燃焼を行うSIモードとを切り替えるように構成されている。ただし、モード切り替えの境界線は、図例に限定されるものではない。
CIモードはさらに、エンジン負荷の高低に応じて3つの領域に分けられている。具体的には、CIモードにおいて負荷が最も低い領域(1)では、CI燃焼の着火性及び安定性を高めるために、相対的に温度の高いホットEGRガスを気筒18内に導入する。かかるホットEGRガスの導入は、詳しくは後述するが、VVL71をオンにして、排気弁22を吸気行程中に開弁する排気二度開きを行うことにより実行される。このようなホットEGRガスの導入は、気筒18内の圧縮端温度を高め、軽負荷である領域(1)において、圧縮着火燃焼の着火性及び安定性を高める上で有利となる。また、領域(1)では、図5(a)に示すように、少なくとも吸気行程初期から圧縮行程中期までの期間内において、直噴インジェクタ67が気筒18内に燃料を噴射することにより、均質なリーン混合気が形成される。混合気の空気過剰率λは、例えば2.4以上(例えば2.5)に設定してもよく、こうすることで、燃焼温度が低下し、Raw NOxの生成を抑制して、排気エミッション性能を高めることが可能になる。そうして、そのリーン混合気は、図5(a)に示すように、圧縮上死点付近において圧縮自己着火する。
詳細は後述するが、領域(1)における負荷の高い領域(図7(a)の所定負荷T1以上所定負荷T2未満の領域)では、少なくとも吸気行程から圧縮行程中期までの期間内において、気筒18内に燃料を噴射するものの、混合気の空燃比を理論空燃比(λ≒1)に設定する。このように、理論空燃比にすることにより、三元触媒が利用可能になるとともに、後述するように、SIモードとCIモードとの間の切り替え時の制御が簡素化し、さらに、CIモードを高負荷側へ拡大可能にすることにも寄与する。
CIモードにおいて、領域(1)よりも負荷の高い領域(2)では、領域(1)の高負荷側と同様に、吸気行程初期から圧縮行程中期までの期間内において、気筒18内に燃料を噴射し(図5(a)参照)、均質な理論空燃比(λ≒1)の混合気を形成する。
領域(2)ではまた、エンジン負荷の上昇に伴い気筒18内の温度が自然と高まることから、過早着火を回避するためにホットEGRガス量を低下させる。これは、詳しくは後述するが、気筒18内に導入する内部EGRガス量の調整による。
さらに、領域(2)では、主にEGRクーラ52を通じて冷却した相対的に温度の低い外部EGRガス(クールドEGRガス)を、気筒18内に導入される全ガス量に対する当該クールドEGRガス量の割合が負荷の増大にともなって徐々に増大するように、気筒18内に導入する。こうして高温のホットEGRガスと低温のクールドEGRガスとを適宜の割合で気筒18内に導入することにより、気筒18内の圧縮端温度を適切にし、圧縮着火の着火性を確保しつつも急激な燃焼を回避して、圧縮着火燃焼の安定化を図る。なお、ホットEGRガス及びクールドEGRガスを合わせた、気筒18内に導入される全ガス量に対するEGRガスの割合としてのEGR率は、混合気の空燃比をλ≒1に設定する条件下で可能な限り高いEGR率に設定される。したがって、領域(2)においては、エンジン負荷の増大に伴い燃料噴射量が増大し、それに合わせて吸気量が増大することから、EGR率は次第に低下するようになる。
なお、領域(1)と領域(2)とが、本発明で言うところの、「圧縮自己着火燃焼領域の低負荷側領域」に当たり、また、後述する領域(3)が、本発明で言うところの、「圧縮自己着火燃焼領域の高負荷側領域」に当たる。
ここで、CI燃焼領域が低負荷領域(領域(1)及び領域(2))内に設定されているのであれば、CI燃焼領域の全域に亘って排気二度開きを実行しても、高温の内部EGRガスが着火性が向上させてエンジンの燃焼を安定化させることから、問題はないが、CI燃焼領域を低負荷領域を超えて高負荷側(領域(3))へ拡大すると、以下のような問題がある。すなわち、CIモードとSIモードとの切り替え境界線を含む、CIモードにおいて最も負荷の高い領域(3)では、気筒18内の圧縮端温度がさらに高くなるため、CI燃焼が急峻な圧力上昇(dP/dt)を伴う燃焼となってしまい、燃焼騒音を増大させるおそれがある。そうして、排気二度開きを行った場合には、高温の内部EGRガスが気筒18内に導入されるので、CI燃焼がより急峻な圧力上昇を伴う燃焼となり、燃焼騒音をより一層増大させるおそれがある。また、領域(1)や領域(2)のように、吸気行程初期から圧縮行程中期までの期間内で気筒18内に燃料を噴射してしまうと、過早着火等の異常燃焼が生じるようになる一方、温度の低いクールドEGRガスを大量に導入して気筒18内の圧縮端温度を低下させようとすると、今度は、圧縮着火の着火性が悪化してしまう。
ここで、燃費改善を図りつつ急峻な圧力上昇を抑えるために、CI燃焼領域を領域(3)まで拡大するものの、排気二度開きを行う領域を領域(2)に制限し、領域(3)においては、温度が内部EGR以下の外部EGRガスを気筒内に導入することが考えられるが、同じCI燃焼領域でありながら、その途中で、ホットEGRガスの気筒18内への導入手法を変更すると、変更の前後(排気二度開きを停止した前後)で、全ガス量に対するEGRガス量の割合に段差が生じたり、トルク段差が生じたりするおそれがあるとともに、これらの段差を解消するような制御を行うには、格別の困難性を伴うことになるという問題がある。その一方で、CI燃焼領域を領域(2)までとし、CI燃焼領域の全領域に亘って排気二度開きを行い、CI燃焼からSI燃焼へ切り換える際に、外部EGRガスを気筒18内に導入するようにすれば、これらの問題は生じないものの、熱効率の向上による燃費改善効果が小さくなるという問題がある。
そこで、CI燃焼領域を領域(3)へ拡大した場合にも、急峻な圧力上昇を伴う燃焼及び異常燃焼を抑えて、CI燃焼領域の全領域に亘って排気二度開きを実行できるように、
この領域(3)では、気筒18内に導入される全ガス量に対する高温の内部EGRガス量の割合が、領域(1)及び領域(2)よりも当該領域(3)の方が小さくなるように、負荷の増大にともなって吸気流量を増大させるのに加えて、高圧燃料供給システム62を用いて直噴インジェクタ67の燃料噴射圧力を30MPa以上の所定圧力に設定するとともに、図5(b)に示すように、着火時期に最も近い燃料噴射の終了時期が、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内になるように、直噴インジェクタ67を駆動させるようにしている。この特徴的な燃料噴射形態を、以下においては「高圧リタード噴射」又は単に「リタード噴射」と呼ぶ。この高圧リタード噴射に詳細については、後述する。
このようにエンジン1では、CIモードにおいては、気筒18内に導入される全ガス量に対するホットEGRガス量の割合を、負荷の増大にともなって減少させることから、CI燃焼領域を高負荷側へ拡大した場合にも、CI燃焼が急峻な圧力上昇を伴う燃焼となるのを抑制することができる。また、着火時期に最も近い燃料噴射の終了時期を、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間まで遅らせる(リタードさせる)ことによって、過早着火等の異常燃焼を抑制する。そうして、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置していることから燃焼室が極めて狭くなっているところ、かかる狭い領域において30MPa以上という非常に高圧で燃料を噴くことによって、燃焼室内における乱れの強度を高めて、ガソリンを主成分とする燃料の気化霧化を促進し、燃焼の安定化を図ることができる。
以上のように、負荷の増大にともなって気筒18内に導入する内部EGRガスの量を減少させることと、30MPa以上の所定圧力でもって、圧縮行程後半噴射を行うこととが相俟って、CI燃焼領域を高負荷側へ拡大した場合にも、急峻な圧力上昇を伴う燃焼を生じさせることなく、排気二度開きを、CI燃焼領域の全領域に亘って継続して行わせることが可能となる。
このように、CI燃焼領域の全領域に亘って排気二度開きを継続して行うことが可能となることから、換言すると、排気二度開きを止める時期を、CIモードからSIモードへの切り換え時期に一致させることが可能となることから、常用性の高いCI燃焼領域において、EGRガスを気筒内へ導入する手法を一貫させることができ、これにより、トルク段差を解消するような制御を省略できるのみならず、トルク段差等が生じること自体を抑制することができる。
また、領域(3)では、領域(2)と同様に、混合気の空燃比を理論空燃比(λ≒1)に設定する。このことにより、三元触媒の利用を可能にするから、エミッション性能の向上に有利になる。そうして、領域(3)では、上述の如く過早着火を回避するべく負荷の増大に伴ってホットEGRガス量(内部EGRガス量)を低下させる一方、クールドEGRガス量(外部EGRガス量)を増大させて、高温のホットEGRガスと低温のクールドEGRガスとを適宜の割合で気筒18内に導入する。このことにより、気筒18内の圧縮端温度を適切にして圧縮着火燃焼の安定化を図る。なお、ホットEGRガス及びクールドEGRガスを合わせた、気筒18内に導入される全ガス量に対するEGRガスの割合としてのEGR率は、混合気の空燃比をλ≒1に設定する条件下で可能な限り高いEGR率に設定される。したがって、領域(3)においても、エンジン負荷の増大に伴い燃料噴射量が増大し、それに合わせて吸気量が増大することから、EGR率は次第に低下するようになる。
CIモードがエンジン負荷の高低に応じて3つの領域に分けられたに対し、SIモードは、エンジン回転数の高低に応じて、領域(4)と領域(5)との2つの領域に分けられている。領域(4)は、図例においては、エンジン1の運転領域を低速、高速の2つに区分したときの低速域に相当し、領域(5)は高速域に相当する。また、領域(4)と領域(5)との境界は、図4に示す運転領域において、負荷の高低に対して回転数方向に傾いているが、領域(4)と領域(5)との境界は図例に限定されるものではない。
領域(4)及び領域(5)のそれぞれにおいて、混合気は、領域(2)及び領域(3)と同等に、理論空燃比(λ≒1)に設定される。したがって、混合気の空燃比は、CIモードとSIモードとの境界を跨って理論空燃比(λ≒1)で一定にされる。このことは、三元触媒の利用を可能にする。また、領域(4)及び領域(5)では、詳細は後述するが、基本的にはスロットル弁36を全開にする一方で、EGR弁511の開度調整により、気筒18内に導入する新気量及び外部EGRガス量を調整する。このように、混合気の空燃比が一定に維持されるように気筒18内に導入するガス割合を調整することにより、ポンプ損失の低減が図られるとともに、大量のEGRガスが気筒18内に導入されることから、火花点火燃焼の燃焼温度が低く抑えられて冷却損失の低減も図られる。領域(4)及び領域(5)では、主にEGRクーラ52を通じて冷却した外部EGRガスを、気筒18に導入する。このことによって、異常燃焼の回避に有利になると共に、Raw NOxの生成を抑制するという利点もある。尚、全開負荷域では、EGR弁511を閉弁することにより、外部EGRをゼロにする。
このエンジン1の幾何学的圧縮比は、前述の通り、15以上(例えば18)に設定されている。高い圧縮比は、圧縮端温度及び圧縮端圧力を高くするため、CIモードの、特に低負荷の領域(例えば領域(1))では、圧縮着火燃焼の安定化に有利になる。一方で、この高圧縮比エンジン1は、高負荷域であるSIモードにおいては、過早着火やノッキングといった異常燃焼が生じ易くなるという問題がある。
そこでこのエンジン1では、SIモードの領域(4)や領域(5)においては、前述した高圧リタード噴射を行うことにより、異常燃焼を回避するようにしている。より詳細には、領域(4)においては、30MPa以上の高い燃料圧力でもって、図5(c)に示すように、圧縮行程後期から膨張行程初期にかけてリタード期間内で、気筒18内に燃料噴射を実行する高圧リタード噴射のみを行う。これに対し、領域(5)においては、図5(d)に示すように、噴射する燃料の一部を、吸気弁21が開弁している吸気行程期間内で気筒18内に噴射するとともに、残りの燃料をリタード期間内で気筒18内で噴射する。つまり、領域(5)では、燃料の分割噴射を行う。ここで、吸気弁21が開弁している吸気行程期間とは、ピストン位置に基づいて定義した期間ではなく、吸気弁21の開閉に基づいて定義した期間であり、ここで言う吸気行程は、CVVL72やVVT73によって変更される吸気弁21の閉弁時期によって、ピストン14が吸気下死点に到達した時点に対しずれる場合がある。
次に、図6を参照しながら、SIモードにおける高圧リタード噴射について説明する。図6は、前述した高圧リタード噴射によるSI燃焼(実線)と、吸気行程中に燃料噴射を実行する従来のSI燃焼(破線)とにおける、熱発生率(上図)及び未燃混合気反応進行度(下図)の違いを比較する図である。図6の横軸はクランク角である。この比較の前提として、エンジン1の運転状態は共に高負荷の低速域(つまり、領域(4))であり、噴射する燃料量は、高圧リタード噴射によるSI燃焼と従来のSI燃焼との場合で互いに同じである。
先ず、従来のSI燃焼では、吸気行程中に気筒18内に所定量の燃料噴射を実行する(上図の破線)。気筒18内では、その燃料の噴射後、ピストン14が圧縮上死点に至るまでの間に、比較的均質な混合気が形成される。そして、この例では、圧縮上死点以降の、白丸で示す所定タイミングで点火が実行され、それによって燃焼が開始する。燃焼の開始後は、図6の上図に破線で示すように、熱発生率のピークを経て燃焼が終了する。燃料噴射の開始から燃焼の終了までの間が未燃混合気の反応可能時間(以下、単に反応可能時間ともいう)に相当し、図6の下図に破線で示すように、この間に未燃混合気の反応は次第に進行する。同図における点線は、未燃混合気が着火に至る反応度である、着火しきい値を示しており、従来のSI燃焼は、低速域であることと相俟って、反応可能時間が非常に長く、その間、未燃混合気の反応が進行し続けてしまうことから、点火の前後に未燃混合気の反応度が着火しきい値を超えてしまい、過早着火又はノッキングといった異常燃焼を引き起こす。
これに対し、高圧リタード噴射は反応可能時間の短縮を図り、そのことによって異常燃焼を回避することを目的とする。すなわち、反応可能時間は、図6にも示しているように、直噴インジェクタ67が燃料を噴射する期間((1)噴射期間)と、噴射終了後、点火プラグ25の周りに可燃混合気が形成されるまでの期間((2)混合気形成期間)と、点火によって開始された燃焼が終了するまでの期間((3)燃焼期間)と、を足し合わせた時間、つまり、(1)+(2)+(3)である。高圧リタード噴射は、噴射期間、混合気形成期間及び燃焼期間をそれぞれ短縮し、それによって、反応可能時間を短くする。このことについて、順に説明する。
先ず、高い燃料圧力は、単位時間当たりに直噴インジェクタ67から噴射される燃料量を相対的に多くする。このため、燃料噴射量を一定とした場合に、燃料圧力と燃料の噴射期間との関係は概ね、燃料圧力が低いほど噴射期間は長くなり、燃料圧力が高いほど噴射期間は短くなる。したがって、燃料圧力が従来に比べて大幅に高く設定された高圧リタード噴射は、噴射期間を短縮する。
また、高い燃料圧力は、気筒18内に噴射する燃料噴霧の微粒化に有利になるとともに、燃料噴霧の飛翔距離を、より長くする。このため、燃料圧力と燃料蒸発時間との関係は概ね、燃料圧力が低いほど燃料蒸発時間は長くなり、燃料圧力が高いほど燃料蒸発時間は短くなる。また、燃料圧力と点火プラグ25の周りに燃料噴霧が到達するまでの時間は概ね、燃料圧力が低いほど到達までの時間は長くなり、燃料圧力が高いほど到達までの時間は短くなる。混合気形成期間は、燃料蒸発時間と、点火プラグ25の周りへの燃料噴霧到達時間とを足し合わせた時間であるから、燃料圧力が高いほど混合気形成期間は短くなる。したがって、燃料圧力が従来に比べて大幅に高く設定された高圧リタード噴射は、燃料蒸発時間及び点火プラグ25の周りへの燃料噴霧到達時間がそれぞれ短くなる結果、混合気形成期間を短縮する。これに対し、同図に白丸で示すように、従来の、低い燃料圧力での吸気行程噴射は、混合気形成期間が大幅に長くなる。なお、多噴口型の直噴インジェクタ67とキャビティ141との組み合わせは、SIモードにおいては、燃料の噴射後、点火プラグ25の周りに燃料噴霧が到達するまでの時間を短くする結果、混合気形成期間の短縮に有効である。
このように、噴射期間及び混合気形成期間を短縮することは、燃料の噴射タイミング、より正確には、噴射開始タイミングを、比較的遅いタイミングにすることを可能にする。そこで、高圧リタード噴射では、図6の上図に示すように、圧縮行程後期から膨張行程初期にかけてのリタード期間内に燃料噴射を行う。高い燃料圧力で気筒18内に燃料を噴射することに伴い、その気筒18内の乱れが強くなり、気筒18内の乱れエネルギが高まるところ、この高い乱れエネルギは、燃料噴射のタイミングが比較的遅いタイミングに設定されることと相俟って、燃焼期間の短縮に有利になる。
すなわち、燃料噴射をリタード期間内に行った場合、燃料圧力と燃焼期間内での乱流エネルギとの関係は概ね、燃料圧力が低いほど乱流エネルギが低くなり、燃料圧力が高いほど乱流エネルギは高くなる。ここで、仮に高い燃料圧力で燃焼室19内に燃料を噴射するとしても、その噴射タイミングが吸気行程中にある場合は、点火タイミングまでの時間が長いことや、吸気行程後の圧縮行程において気筒18内が圧縮されることに起因して、気筒18内の乱れは減衰してしまう。その結果、吸気行程中に燃料噴射を行った場合、燃焼期間内での乱流エネルギは、燃料圧力の高低に拘わらず比較的低くなってしまう。
燃焼期間での乱流エネルギと燃焼期間との関係は概ね、乱流エネルギが低いほど燃焼期間が長くなり、乱流エネルギが高いほど燃焼期間が短くなる。したがって、燃料圧力と燃焼期間との関係は、燃料圧力が低いほど燃焼期間は長くなり、燃料圧力が高いほど燃焼期間は短くなる。すなわち、高圧リタード噴射は、燃焼期間を短縮する。これに対し、従来の、低い燃料圧力での吸気行程噴射は、燃焼期間が長くなる。なお、多噴口型の直噴インジェクタ67は、気筒18内の乱れエネルギの向上に有利であって、燃焼期間の短縮に有効であるとともに、その多噴口型の直噴インジェクタ67とキャビティ141との組み合わせによって、燃料噴霧をキャビティ141内に収めることもまた、燃焼期間の短縮に有効である。
このように高圧リタード噴射は、噴射期間、混合気形成期間、及び、燃焼期間をそれぞれ短縮し、その結果、図6に示すように、燃料の噴射開始タイミングSOIから燃焼終了時期θendまでの、未燃混合気の反応可能時間を、従来の吸気行程中での燃料噴射の場合と比較して大幅に短くすることを可能にする。この反応可能時間を短縮する結果、図6の上段に示す図のように、従来の低い燃料圧力での吸気行程噴射では、白丸で示すように、燃焼終了時における未燃混合気の反応進行度が、着火しきい値を超えてしまい、異常燃焼が発生してしまうのに対し、高圧リタード噴射は、黒丸で示すように、燃焼終了時における未燃混合気の反応の進行を抑制し、異常燃焼を回避することが可能になる。なお、図6の上図における白丸と黒丸とで、点火タイミングは互いに同じタイミングに設定している。
燃料圧力は、例えば30MPa以上に設定することによって、燃焼期間を効果的に短縮化することが可能である。また、30MPa以上の燃料圧力は、噴射期間及び混合気形成期間も、それぞれ有効に短縮化することが可能である。なお、燃料圧力は、ガソリンを主成分とする、使用燃料の性状に応じて適宜設定するのが好ましい。その上限値は、一例として、120MPaとしてもよい。
高圧リタード噴射は、気筒18内への燃料噴射の形態を工夫することによってSIモードにおける異常燃焼の発生を回避する。これとは異なり、異常燃焼の回避を目的として点火タイミングを遅角することが、従来から知られている。点火タイミングの遅角化は、未燃混合気の温度及び圧力の上昇を抑制することによって、その反応の進行を抑制する。しかしながら、点火タイミングの遅角化は熱効率及びトルクの低下を招くのに対し、高圧リタード噴射を行う場合は、燃料噴射の形態の工夫によって異常燃焼を回避する分、点火タイミングを進角させることが可能であるから、熱効率及びトルクが向上する。つまり、高圧リタード噴射は、異常燃焼を回避するだけでなく、その回避可能な分だけ、点火タイミングを進角することを可能にして、燃費を良くするのに有利になる。
以上説明したように、SIモードでの高圧リタード噴射は、噴射期間、混合気形成期間及び燃焼期間をそれぞれ短縮することが可能であるが、CIモードの領域(3)で行う高圧リタード噴射は、噴射期間及び混合気形成期間をそれぞれ短縮することが可能である。つまり、気筒18内に高い燃料圧力で燃料を噴射することにより気筒18内の乱れが強くなることで、微粒化した燃料のミキシング性が高まり、圧縮上死点付近の遅いタイミングで燃料を噴射しても、比較的均質な混合気を速やかに形成することが可能になるのである。
CIモードでの高圧リタード噴射は、比較的負荷の高い領域において、圧縮上死点付近の遅いタイミングで燃料を噴射することにより、例えば圧縮行程期間中の過早着火を防止しつつ、前述の通り、概ね均質な混合気が速やかに形成されるため、圧縮上死点以降において、確実に圧縮着火させることが可能になる。そうして、モータリングにより気筒18内の圧力が次第に低下する膨張行程期間において、圧縮着火燃焼が行われることで、燃焼が緩慢になり、圧縮着火燃焼に伴う気筒18内の圧力上昇(dP/dt)が急峻になってしまうことが回避される。こうして、NVHの制約が解消される結果、CIモードの領域が高負荷側に拡大する。
SIモードの説明に戻り、前述の通り、SIモードの高圧リタード噴射は、燃料噴射をリタード期間内に行うことによって未燃混合気の反応可能時間を短縮させるものの、この反応可能時間の短縮は、エンジン1の回転数が比較的低い低速域においては、クランク角変化に対する実時間が長いため、有効であるのに対し、エンジン1の回転数が比較的高い高速域においては、クランク角変化に対する実時間が短いため、それほど有効でない。逆に、リタード噴射では、燃料噴射時期を圧縮上死点付近に設定するため、圧縮行程においては、燃料を含まない筒内ガス、言い換えると比熱比の高い空気が圧縮されるようになる。その結果、高速域においては、気筒18内の圧縮端温度が高くなり、この高い圧縮端温度がノッキングを招くようになる。そのため、領域(5)においてリタード噴射のみを行うときには、点火タイミングを遅角化して、ノッキングを回避しなければならない場合も起き得る。
そこで、図4に示すように、SIモードにおいて相対的に回転数の高い領域(5)では、図5(d)に示すように、噴射する燃料の一部を、吸気行程期間内で気筒18内に噴射すると共に、残りの燃料をリタード期間内で気筒18内に噴射をする。吸気行程噴射では、圧縮行程中の筒内ガス(つまり、燃料を含む混合気)の比熱比を下げ、それによって圧縮端温度を低く抑えることが可能である。こうして、圧縮端温度が低くなることで、ノッキングを抑制することが可能になるから、点火タイミングを進角させることが可能になる。
また、高圧リタード噴射を行うことにより、前述の通り、圧縮上死点付近の気筒18内(燃焼室19内)において乱れが強くなり、燃焼期間が短くなる。このこともまた、ノッキングの抑制に有利になり、点火タイミングをさらに進角させることが可能になる。そうして、領域(5)においては、吸気行程噴射と高圧リタード噴射との分割噴射を行うことにより、異常燃焼を回避しつつ、熱効率を向上させることが可能になる。
なお、領域(5)において燃焼期間を短縮させるために、高圧リタード噴射を行う代わりに多点点火構成を採用してもよい。つまり、複数の点火プラグを燃焼室19内に臨んで配置し、領域(5)においては、吸気行程噴射を実行するとともに、その複数の点火プラグのそれぞれを駆動することにより、多点点火を行う。こうすることで、燃焼室19内の複数の火種のそれぞれから火炎が広がるため、火炎の広がりが早くて燃焼期間が短くなる。その結果、高圧リタード噴射を採用した場合と同様に燃焼期間を短くして、熱効率の向上に有利になる。
(具体的な制御手順)
図7〜10は、低速域内におけるエンジン負荷の高低に対するエンジン1の各パラメータの制御例を示しており、低負荷から高負荷に向かう方向の負荷の変化は、図4に示すエンジンの運転マップにおいては、一点鎖線の矢印で例示される。
図7(a)〜(d)は、気筒18内の状態に係り、同図(a)は気筒18内のガス組成(ガス割合)、同図(b)は、圧縮開始時の気筒18内の温度、同図(c)は酸素濃度をそれぞれ示している。また、図7(d)は、吸気中の外部EGR割合を示し、これは、気筒18内に導入されるEGRガスから、内部EGRガスを除いた分ということができる。
図8(a)及び(d)は、図7(a)及び(d)と同じであり、それぞれ気筒18内のガス組成、及び、吸気中の外部EGR割合を示している。また、図8(e)〜(g)は、動弁系の制御に係り、同図(e)は排気弁22の開閉時期、同図(f)は吸気弁21の開閉時期、同図(g)は吸気弁21のリフト量である。
図9(a)及び(d)は、図7(a)及び(d)と同じである。また、図9(h)〜(j)は、吸排気系の制御に係り、同図(h)はスロットル弁36の開度、同図(i)はEGR弁511の開度、同図(j)はEGRクーラバイパス弁531の開度を示している。
さらに、図10(a)もまた、図7(a)と同じであり、気筒18内のガス組成を示している。また、図10(k)〜(m)は、燃料噴射及び点火系の制御に係り、同図(k)は噴射開始時期、同図(l)は燃料圧力、同図(m)は点火時期をそれぞれ示している。
図7(a)は、前述の通り、気筒18内の状態を示しており、所定負荷T5以下の、図の左側の領域はCIモードとなり、所定負荷T5よりも負荷が高い、図の右側の領域はSIモードとなる。図示していないが、気筒18内に噴射される燃料量(総括燃料量)は、CIモード及びSIモードに拘わらず、負荷の増大に従って増量される。
(所定負荷T1まで)
CIモードにおいて、所定負荷T1よりも負荷の低い領域(これは、図4における運転マップにおいては領域(1)に相当する)では、リーン混合気となるように新気及び内部EGRガスが導入される。具体的には、スロットル弁36の開度は、図9(h)に示すように全開に設定される一方で、図8(e)に示すように、排気VVL71をオンにして、排気弁22を吸気行程中に開弁する排気二度開きを行う。また、図8(g)に示すように、吸気弁21のリフト量は最小に設定されることで、内部EGR率(気筒18内に導入される内部EGRガス量の比率)は、最も高くなる(図11のS1も参照)。前述したように、領域(1)では、例えば空気過剰率λ≧2.4程度のリーン混合気とすればよく、このことと、大量の内部EGRガスを気筒18内に導入することとが相俟って、燃焼温度が下がりRaw NOxの生成が抑制される。また、大量のEGRガスを気筒18内に導入することは、ポンプ損失の低減にも有利である。なお、図10(k)、図10(l)に示すように、領域(1)では、相対的に低い燃圧で、吸気行程期間内で、燃料噴射が実行される。ただし、燃圧は、エンジン負荷の増大に従って、次第に高くなる。
所定負荷T1まで(より正確には、所定負荷T2まで)は、大量の内部EGRガスが気筒18内に導入されることで、図7(b)に示すように、気筒18内の温度、特に圧縮端温度が高くなり、圧縮着火の着火性の向上及び圧縮着火燃焼の安定性の向上に有利になる。ここで、高温の内部EGRガスを気筒18内に導入することによって気筒18内の温度を高くすることと、上述の如く、大量の内部EGRガスを気筒18内に導入することによって燃焼温度を下げてRaw NOxの生成を抑制することとは、矛盾するようにも見える。しかしながら、Raw NOxは空気の温度が略1800Kを超えたあたりからその生成量が急激に増えるところ、内部EGRガスは所詮一度燃焼したガスゆえ新たな燃焼にはほとんど寄与せず、新気が燃焼した際の燃焼熱は大量の(全ガス量の約80%を占める)内部EGRガスの昇温に用いられるため、気筒18内に新気のみが存在する場合に比して、燃焼温度が下がることになり(例えば1500K程度)、Raw NOxの生成が抑制されるので、両者は矛盾しない。
また、酸素濃度は、図7(b)に示すように、負荷の増大に従い次第に低下する。なお、図示は省略するが、ホットEGRガスを気筒18内に導入する所定負荷T5までの低負荷乃至中負荷の領域では、インタークーラバイパス弁351を閉じることによって、インタークーラ/ウォーマ34によって温められた新気を、気筒18内に導入してもよい。
(所定負荷T1からT2まで)
所定負荷T1以上のエンジン負荷においては、混合気の空燃比は、理論空燃比(λ≒1)に設定される。したがって、噴射される燃料量が増大するに従い、気筒18内に導入される新気量も増大し、それに応じてEGR率は減少する(図7(a)参照)。所定負荷T1からT2においても、相対的に低い燃圧で、吸気行程期間内に燃料噴射が実行される(図10(k)、図10(l)参照)。
また、所定負荷T1からT2においても、図9(h)に示すように、スロットル開度は、基本的には全開である。一方で、図8(e)に示すように、排気VVL71をオンにした状態で、図8(f)及び図8(g)に示すように、吸気弁21の開弁時期やリフト量を調整することにより、気筒18内に導入する新気量及び内部EGRガス量が調整される。
具体的には、図11に示すように、排気VVL71をオンにして排気二度開きを行っている状態で、吸気弁21のリフト量を最小にすれば(同図のS1参照)、内部EGR率が最大になりかつ、気筒18内に導入される新気が最も少なくなる。これは、図8(e)、図8(f)、図8(g)に示すように、所定負荷T1までの、吸気弁21及び排気弁22の制御に相当する。
図11のS2に示すように、排気二度開きを行っている状態で、吸気弁21のリフト量を大きくすれば、吸気弁21の開弁期間と排気弁22の二度開き時の開弁期間との重なりが変わるため、内部EGR率が低下する。なお、吸気弁21の閉弁時期は、吸気弁21のリフト量が変化しても、ほぼ一定となるようにしている。CVVL73及びVVT72の制御により吸気弁21のリフト量を連続的に変更すれば、内部EGR率を連続的に低下させることが可能である。所定負荷T1からT2の間では、理論空燃比λ≒1を維持しながらEGR率が最大となるように、言い換えると可能な限りの内部EGRガスが気筒18内に導入されるように、吸気弁21のリフト量が制御される。具体的には、図8(e)、図8(f)、図8(g)に示すように、吸気弁21のリフト量を次第に増大させ、それに伴い、吸気弁21の開弁時期(IVO)も次第に進角させる。
(所定負荷T2からT3)
所定負荷T2以上のエンジン負荷は、図4における運転マップにおいては領域(2)に相当し、気筒18内の温度が高くなりすぎて過早着火が生じる虞がある。そこで、所定負荷T2以上のエンジン負荷では、内部EGRガス量を減らし、代わりに冷却された外部EGRガス(つまり、クールドEGRガス)を気筒18内に導入する。つまり、図9(i)に示すように、EGR弁511の開度が閉弁状態から次第に大きくされ、それによってEGRクーラ52を通過することによって冷却された外部EGRガス量が、エンジン1の負荷の増大に伴い次第に増量される。なお、図9(j)に示すように、EGRクーラバイパス弁531は、閉じたままである。こうして、クールドEGRガスは、エンジン負荷の増大に従って次第に増量される(図7(d)も参照)。
一方、図7(a)に示すように、内部EGRガス及び外部EGRガスを含むEGR率は、所定負荷T2以上の高負荷側においても、混合気の空燃比を理論空燃比(λ≒1)に設定すべく、負荷の増大に対して所定割合で低下している。このため、所定負荷T2以上の高負荷側においては、内部EGRガスは、より高い低下率で、負荷の増大に従って減量される(つまり、図7(a)における傾きが大きくなる)。具体的には、図8(e)、図8(f)、図8(g)に示すように、吸気弁21のリフト量が、所定負荷T2までの低負荷側よりも高い増大率で、負荷の増大に従って次第に増大させられ、それに応じて吸気弁21の開弁時期(IVO)が次第に進角する。
こうして、図7(b)に示すように、気筒18内の温度は、所定負荷T2以上の高負荷側においては、負荷の増大に従って次第に低下するようになる。
(所定負荷T3からT4)
CIモード全域に亘って、ホットEGRを気筒18内に導入する方法を統一すべく、CIモードとSIモードとの切り替え境界(所定負荷T4)まで、排気二度開きを継続して行う。そのため、気筒18内の温度を下げるべく、図9(i)に示すように、EGR弁511の開度が、所定負荷T2からT3までと同じ増大率で次第に大きくされ、それによってクールドEGRガス量が、図7(d)に示すように、エンジン1の負荷の増大に伴い次第に増量される。なお、図9(j)に示すように、EGRクーラバイパス弁531は、閉じたままである。
一方、図7(a)に示すように、内部EGRガス及び外部EGRガスを含むEGR率は、所定負荷T3以上の高負荷側においても、混合気の空燃比を理論空燃比(λ≒1)に設定すべく、負荷の増大に対して、所定負荷T2からT3までと同じ所定割合で低下している。また、図7(b)に示すように、気筒18内の温度は、所定負荷T3以上の高負荷側においては、負荷の増大に従って次第に低下する一方、酸素濃度は、図7(c)に示すように、負荷の増大に従い次第に増大するようになる。
このように、所定負荷T3以上の高負荷側でも、過早着火を抑制すべくクールドEGRガスを気筒18内に導入するのであるが、CIモードの所定負荷T3以上のエンジン負荷においては、クールドEGRガスとホットEGRガスとの導入割合を調整することだけでは、圧縮着火の着火性確保と、過早着火等の異常燃焼の回避とを両立させることが困難になることから、前述したように、高圧リタード噴射を行う。これは、図4の運転マップにおいては領域(3)に相当する。
図10(k)に示すように、燃料の噴射開始時期は、領域(1)及び領域(2)における吸気行程中の時期から、圧縮上死点付近の時期へと大きく変更される。また、燃料圧力も、図10(l)に示すように、領域(1)及び領域(2)における低燃圧から、30MPa以上の高燃圧へと大きく変更される。このように、領域(2)と領域(3)との間では燃料の噴射形態が大きく変更されるものの、気筒18内のガス組成は連続的に変化しているため、吸気弁21及び排気弁22の開弁期間や閉弁期間、スロットル弁36の開度、EGR弁511の開度及びEGRクーラバイパス弁531の開度はそれぞれ急変することはない(図8(e)、図8(f)、図8(g)、図9(h)、図9(i)、図9(j)を参照)。このことは、領域(2)と領域(3)との間の移行に際しトルクショック等が発生することを抑制する上で有利であり、制御の簡素化が図られる。
所定負荷T3以上の高負荷側において、高圧リタード噴射としての燃料噴射の開始時期は、図10(k)に示すように、エンジン負荷の増大に従って、次第に遅角される。また、燃料圧力も、同図(l)に示すように、エンジン負荷の増大に従って高く設定される。エンジン負荷の増大に伴い、過早着火等が、より発生し易くなるとともに、圧力上昇もより激しくなり得る。そこで、燃焼の噴射開始時期をより遅らせるとともに、燃料圧力をより高く設定することで、これらを有効に回避する。
(所定負荷T4からT5)
所定負荷T4はCIモードとSIモードとの切り替えに係り、所定負荷T4を超える高負荷側においては、SIモードとなる。
ここで、上述の如く、内部EGRガスの導入量の調整は、吸気行程期間内で開弁される排気弁22の開弁期間に対する、吸気弁21の開弁期間の重なり具合を調整することによって行われ、基本的には吸気のCVVL73及びVVT73の制御による。これにより、図11に実線の矢印で示すように、内部EGRガスの導入量は、所定量までは連続的に減少させることができる(同図のS1、S2参照)。もっとも、高温の内部EGRを気筒18内に導入し続けると、過早着火等の異常燃焼が懸念されることや、リフト量を調整できない排気VVL71を開いた状態では、CVVL73のリフト量を最大としても所定量以上の新気を気筒18内に吸い込めなくなること等から、どこかで排気VVL71をオフにして、排気二度開きを停止させなければならない。このため、同図のS3、S4に示すように、排気VVL71のオン・オフの切り替えに伴い、内部EGRガスの導入量は不連続的に減少してしまう(図11の一点鎖線の矢印参照)。
一方、同一燃焼形態の領域(同じCI燃焼領域)において、その途中で、ホットEGRガスの気筒18内への導入手法を変更すると、変更の前後(排気二度開きを停止した前後)で、全ガス量に対するEGRガス量の割合に段差が生じたり、トルク段差が生じたりするおそれがあるとともに、これらの段差を解消するような制御を行うには、格別の困難性を伴うことになる。
そこで、CIモードとSIモードとの切り替えに係る所定負荷T4において、内部EGRガスを気筒18内に導入することを止めるように、つまり、図8(e)に示すように、排気VVL71をオフにして排気二度開きを停止するようにしている。
すなわち、エンジン1では、負荷の増大にともなって気筒18内に導入する内部EGRガスの量を減少させることと、高圧リタード噴射を行うこととが相俟って、急峻な圧力上昇を伴う燃焼を生じさせることなく、領域(3)においても排気二度開きを継続して行うことを可能とすることにより、排気二度開きを停止させる時期を、CIモードからSIモードへの切り換え時期に一致させることが可能となっている。
このように、排気二度開きを停止させる時期を、CIモードからSIモードへの切り換え時期に一致させることにより、例えば図8(f)、図8(g)に示すように、排気VVL71の作動を所定負荷T3で停止させた場合(図中の二点鎖線参照)のように、吸気弁21の開弁時期やリフト量を急変させる必要がなく、さらに、図9(i)に示すように、排気VVL71の作動を所定負荷T3で停止させた場合(図中の二点鎖線参照)のように、EGR弁511の開度を急変させる必要もない。これは、エンジン負荷の増大に対する制御性を高める。なお、所定負荷T4以上のエンジン負荷で高圧リタード噴射を行う点は、前記と同様である(図10(k)、図10(l)、図10(m)参照)。
また、CIモードとSIモードとの切り替えに係る境界を挟んだ低負荷側と高負荷側とのそれぞれにおいて、混合気の空燃比を、理論空燃比(λ≒1)に設定しているため、EGR率は、CIモードからSIモードにかけて連続的に減少するように設定される。このことは、燃焼形態の切り替えが行われるCIモードからSIモードへの移行に際しては、火花点火を開始すること以外に大きな変化はなく、CIモードからSIモードへの切り替え、又は、その逆の切り替えをそれぞれスムースにし、トルクショック等の発生を抑制することが可能になる。特にEGR通路50を通じた排気ガスの還流に係る制御応答性は比較的低いため、EGR率を急変させないような制御は、制御性の向上に有利である。
さらに、前述したようにCIモードにおいては、EGR率をできるだけ高く設定していることに伴い、SIモード内における、CIモードとの境界付近の低負荷領域では、EGR率が高くなってしまう。高いEGR率は、ポンプ損失の低減には有利であるものの、SIモードにおいては、燃焼安定性に不利になる場合がある。
そこで、SIモードにおける低負荷の領域、具体的には所定負荷T5よりも低負荷側においては、高温の外部EGRガスを気筒18内に導入する。つまり、EGRクーラバイパス通路53を通過した、冷却しない外部EGRガスを気筒18内に導入する。このことで、図7(b)に示すように、気筒18内の温度を高めに設定し、着火遅れ時間を短くして、高EGR率の環境下における火花点火燃焼の安定性を高めるようにしている。
具体的には、図9(i)に示すように、EGR弁511の開度を、CIモード時から連続するように、負荷の増大に従い次第に減少させる一方、図9(j)に示すように、EGRクーラバイパス弁531を所定負荷T4で開くとともに、負荷の増大に従い次第に減少させる(なお、EGR弁511の開度とEGRクーラバイパス弁531の開度と比較したとき、EGRクーラバイパス弁531の開度の方が、その低下率は高い)。これにより、エンジン負荷の増大に対してクールドEGRガスは増量し、ホットEGRガスは減量し、クールドEGRガス及びホットEGRガスを含むEGR率は、エンジン負荷の増大に対して次第に低下する。したがって、新気量は増大する。なお、このときにEGR弁511は開いている。また、所定負荷T4からT5の間において、スロットル弁の開度は全開に維持される。
一方、燃料噴射の開始時期は、図10(k)に示すように、エンジン負荷の増大に従って、次第に遅角すると共に、燃圧も、同図(l)に示すように、エンジン負荷の増大に従って、次第に高くする。また、点火時期は、同図(m)に示すように、燃料噴射の開始時期と共に、エンジン負荷の増大に従って、次第に遅角する。なお、SIモードにおいて、所定負荷T4からT5の低負荷側の領域では、所定の点火時期に点火プラグ25を作動させることで火花点火を行うものの、その燃焼形態は、火花点火により火炎核が生成されて、火炎が伝播する形態とは限らず、火花点火により低温酸化反応が促進されて自着火するような形態もあり得る。
(所定負荷T5以上)
SIモードにおいて、所定負荷T5以上の高負荷側においては、気筒18内の温度が高まることにより燃焼安定性が高まるため、EGRクーラバイパス弁531を閉じることから、図7(a)(d)に示すように、ホットEGRガス量はゼロになり、クールドEGRガスのみが気筒18内に導入される。なお、図示は省略するが、所定負荷T5以上の高負荷側では、インタークーラバイパス弁351を開ける(例えばエンジン負荷の増大に応じてその開度を次第に大きくする)ことによって、インタークーラ/ウォーマー34をバイパスする新気量を増やすようにし、気筒18内に導入する新気の温度を低くしてもよい。これは、高負荷側の領域において、気筒18内の温度を低下させて過早着火やノッキング等の異常燃焼を回避する上で有利になる。
また、図9(h)に示すようにスロットル弁36の開度は全開に維持されるとともに、同図(i)に示すように、EGR弁511は、エンジン負荷の増大に従い次第に閉じて、全開負荷で閉弁する。一方で、図8(f)、図8(g)に示すように、エンジン負荷の増大に従い、吸気弁21のリフト量を次第に大きくし、全開負荷で最大リフト量にする。こうして気筒18内に導入する新気量を、エンジン負荷の増大に従って増量させることで、エンジン1の運転領域における高負荷側でのトルクの向上を図る。
さらに、図10(k)、図10(l)、図10(m)に示すように、燃料噴射開始時期は、エンジン負荷の増大に従って次第に遅角されると共に、燃料圧力も、エンジン負荷の増大に従って次第に高く設定される。そうして、点火時期も、エンジン負荷の増大に従って次第に遅角される。エンジン負荷の増大に伴い異常燃焼等が生じやすくなるものの、噴火開始時期の遅角化及び燃料圧力の高圧化によって、それが、効果的に回避される。
以上、図7〜10を参照しながら、エンジン負荷の高低に対する各パラメータの変化を説明したが、図12は、EGR率とエンジン負荷との関係を示している。前述の通り、エンジン負荷の低い軽負荷の領域では、空燃比をリーンに設定している一方で、その軽負荷の領域よりも負荷の高い領域では、エンジン負荷の高低や、燃焼形態の相違に拘わらず、空燃比を理論空燃比(λ≒1)で一定に設定している。エンジン1は、図12に太実線の矢印で示す制御ラインに沿って制御され、空燃比を理論空燃比(λ≒1)に設定する条件下で、EGR率を最大に設定している。したがって、エンジン負荷の高低に対し、また、燃焼形態の切り替えに拘わらず、EGR率は連続的に変化する。このことは、エンジン負荷が連続的に変化するようなときには、気筒18内のガス組成が連続的に変化することになるから、制御性の向上に有利である。
また、大量のEGRガスを気筒18内に導入しつつ、吸気行程中に燃料噴射を行うことで圧縮着火燃焼を行う燃焼形態(つまり、領域(1)及び領域(2)に相当)では、図12に一点鎖線で示すように、dP/dtの制約から、所定以上のエンジン負荷を実現することができないものの、ここにおいては、30MPa以上の高い燃料圧力でかつ、圧縮上死点付近において燃料を噴射する高圧リタード噴射を行うことによって、燃焼を緩慢にしてdP/dtの制約を解消しつつ、圧縮着火燃焼を安定して行うことが可能になる。これは、図4においては領域(3)の燃焼形態に相当し、CIモードを高負荷側に拡大することが可能になる。また、この領域(3)を設けることによって、エンジン負荷の高低に対するEGR率の連続的な変化が実現する、ということもできる。
エンジン1の幾何学的圧縮比が高いことに起因して、過早着火(プリイグニッション)等の異常燃焼が生じ得るSI燃焼の領域(図12における一点鎖線を参照)においては、高圧リタード噴射を行うことにより、そうした異常燃焼を回避して、安定した火花点火燃焼を実行することが可能になる。高圧リタード噴射はまた、燃焼安定性を高めることから、CIモードからSIモードへの切り替え直後の負荷において、高いEGR率が設定されても、所定の燃焼安定性を確保する上で有利である。このこともまた、エンジン負荷の高低に対して、EGR率を連続的に変化させることを可能にしている一因である。
こうして、エンジン負荷の高低に対して、気筒18内の状態量の連続性を確保することは、SIモード及びCIモードの切り替えを伴うエンジン1において、モードの切り替え時のトルクショック等を抑制する上で有利になる。
また、幾何学的圧縮比が高く設定されたエンジン1においては、高圧リタード噴射で燃料を噴射するようなタイミングでは、燃焼室19の容積が比較的小さくなる。これは、燃焼室19内の空気利用率の点では不利になり得るものの、高圧リタード噴射は、高い燃圧で、キャビティ141内に燃料を噴射することで、キャビティ141内の流動を強めて空気の利用率を高める。特に直噴インジェクタ67は、多噴口型であるため、キャビティ141内のガスの乱れエネルギを効果的に高め、空気利用率の向上に有利になる。
その結果、CIモードにおける領域(3)では、比較的均質な混合気が速やかに形成されるようになり、圧縮着火燃焼の着火性及び安定性が向上する。同様に、SIモードにおける領域(4)でも、異常燃焼が回避される。
ここで、CIモードにおける高圧リタード噴射と、SIモードにおける高圧リタード噴射とを比較すると、図10(k)に示すように、CIモードにおける高圧リタード噴射の方が、燃料の噴射開始時期が進角側に設定される。これは、CIモードにおいて高圧リタード噴射を行う領域(3)は、圧縮着火燃焼を行うこととエンジン1の負荷が相対的に低いことにより大量のEGRガスを気筒18内に導入することが可能であって、大量のEGRガスにより燃焼を緩慢化させることが可能である。そこで、燃料噴射の開始時期を、異常燃焼を回避し得る限度で、より早めることで、均質混合気の形成期間を、ある程度長く確保して着火性や燃焼安定性を向上させつつ、圧縮着火の時期を圧縮上死点以降に遅らせて、大量のEGRガスによる燃焼の緩慢化と共に、急激な圧力上昇を回避することが可能になる。
これに対し、SIモードにおける高圧リタード噴射を行う領域(4)(又は領域(5))は、燃焼安定性の観点から大量のEGRガスを気筒18内に導入することができないため、燃料噴射の開始時期をできるだけ遅らせることによって、リタード噴射の作用効果により、異常燃焼を回避することが望ましい。
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。すなわち、前述したエンジン構成への適用に限定されるものではない。例えば、吸気行程期間内における燃料噴射は、気筒18内に設けた直噴インジェクタ67ではなく、別途、吸気ポート16に設けたポートインジェクタを通じて、吸気ポート16内に燃料を噴射してもよい。
また、エンジン1は、直列4気筒エンジンに限らず、直列3気筒、直列2気筒、直列6気筒エンジン等に適用してもよい。また、V型6気筒、V型8気筒、水平対向4気筒等の各種のエンジンに適用可能である。
さらに、前記の説明では、所定の運転領域において混合気の空燃比を理論空燃比(λ≒1)に設定して、三元触媒の利用を可能としているが、これに限らず、例えばNOx吸蔵触媒(LNT:Lean NOx Trap)を用いるのであれば、混合気の空燃比をリーンに設定してもよい。
また、図4に示す運転領域は例示であり、これ以外にも様々な運転領域を設けることが可能である。
さらに、高圧リタード噴射は、必要に応じて分割噴射にしてもよく、同様に、吸気行程噴射もまた、必要に応じて分割噴射にしてもよい。これらの分割噴射では、吸気行程と圧縮行程とのそれぞれにおいて燃料を噴射してもよい。
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。