実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1について図1乃至図15を用いて説明する。図中、同一符号は、同一又は相当部分を示しそれらについての詳細な説明は省略する。まず、この発明の実施の形態1に係る全体システム、通信端末、基地局を図1乃至図3により説明する。実施の形態1では、複数の通信端末が、CDMA(Code Division Multiple Access)拡散されたバースト状のデータをランダムに衛星に向けて送信する、いわゆるpure(純)ALOHA方式によるランダムアクセスを行う。
図1(a)は実施の形態1に係る通信システム(ショートメッセージ通信システム)の構成を示す構成図、図1(b)は実施の形態1に係るチップクロック生成方法及び直交符号生成方法に用いるチップクロック発生部(送信タイミング発生部,情報取得部)及び直交符号発生部の機能ブロック図、図1(c)はチップクロック生成(発生)のフローチャート、図1(d)はチップクロック生成(発生)及び直交符号生成(発生)のフローチャート、図1(e)はチップクロック生成(発生)のフローチャート(S001省略)である。図2(a)は実施の形態1に係る通信端末の機能ブロック図、図2(b)は実施の形態1に係る通信システムの概略図、図3は実施の形態1に係る基地局の機能ブロック図である。
図1(a)において、基地局2は、フォワードリンク通信回線8により、準天頂衛星に代表される非静止衛星3を介して、通信端末1−1乃至通信端末1−3に対して、データを送信する(前記3台の通信端末は例示的に示したものであり、通信端末の台数はこれに限らない。よって、本願では、通信端末1を通信端末1−nと称する場合がある。nは正の整数)。前記データには、各通信端末に対する個別の通信データあるいは制御データが含まれるが、各通信端末に共通の制御データを含んでもよい。通信端末1−1乃至通信端末1−3は、それぞれ個別に、リターンリンク通信回線9により、非静止衛星3を介して、基地局2に対して、通信データあるいは制御データを送信する。基地局2は地上ネットワーク5を介してサービスセンター6及び衛星追跡管制センター7と接続されている。サービスセンター6は、基地局2経由で、通信端末1−1乃至通信端末1−3とメッセージを送受信して、サービスを提供する。
準天頂衛星やGPS(Global Positioning System)衛星を利用して、安否情報などの極めて短いメッセージ(短メッセージ,ショートメッセージ,ロケーション・ショートメッセージともいえる、以下、ショートメッセージと称する)を衛星(準天頂衛星)経由で送信することが想定される旨の記載が、非特許文献2の「あらまし」に開示されている。したがって、ショートメッセージを用いた前記サービスの一例としては、災害時等において、被災者のユーザ端末(携帯端末)から発信された位置情報を含んだ救難メッセージ,緊急メッセージ,救難信号などを、リターンリンク信号(送信信号)として、衛星回線によりサービスセンターへ伝送するとともに、サービスセンターにおいては、受信したショートメッセージに対し、同じく衛星回線により、そのユーザ端末に返信メッセージを送信するサービスが考えられる。なお、本願に係る発明では、準天頂衛星がGPS衛星の機能を有しているものでもよい。
本願に係る発明は、これらのサービスに関連するものである。本願の実施の形態に係る発明は、通信システム(ショートメッセージ通信システム),通信端末(ショートメッセージ通信端末),通信方法(ショートメッセージ通信方法),チップクロック生成方法,直交符号生成方法から構成されている。
衛星追跡管制センター7は、基地局2に対し、非静止衛星3の衛星軌道情報等を送信する。通信端末1−1乃至通信端末1−3は、例えば救難メッセージに自端末の位置情報を含めるために、GPS衛星4から位置情報、時刻情報(時間情報)を含むGPS信号10を受信している(なお、GPS衛星4は、GPS測位機能を持つ準天頂衛星を含んでもよい)。
図1(a)のような非静止衛星通信システム(実施の形態1に係る通信システム)の一例として、準天頂衛星システムがある。この準天頂衛星システムの一例として、3機の衛星が所定の軌道を通って1日で地球を1周し、3機の衛星の少なくとも1機が日本の上空(天頂)付近に存在する地域限定型の衛星システムがある。また、衛星の切り替えを8時間ごとに行えば、常に60度以上の仰角が確保され、ユーザは、常に、ビル等による通信回線の遮断が少ない良好な移動体通信サービスの提供を受けられる。
次に、図2を用いて、複数の通信端末1と通信する基地局2とを具備した通信システムに使用する通信端末1の構成を説明する。通信端末1は、直交符号を生成する直交符号発生部22、外部から時間情報を取得する情報取得部310が取得した時間情報を基準としたチップクロックを生成し、このチップクロックを直交符号発生部22による直交符号の生成タイミングの基準とする送信タイミング発生部23、直交符号発生部22が生成した直交符号により基地局2へ送信する送信信号を拡散してCDMA信号を生成するCDMA拡散部21を有している。よって、複数の通信端末1は、時間情報から、直交符号発生部22による直交符号の生成タイミングを複数の通信端末1−n間で同期することができる。
詳しくは、通信端末1において、基地局2からのフォワードリンク通信回線8の信号は、通信端末1の衛星通信用アンテナ11で受信され(図2(b))、図2(a)に示すように、信端末1の衛星通信用アンテナ11が受信し、デュプレクサ12により送信信号から分離された後、無線受信部13で低雑音増幅等されたのち、QPSK復調部14において、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)変調波が復調される。QPSK復調された後の受信データは、誤り訂正復号部15で誤り訂正復号が行われて、元の情報データとなる。ここで、フォワードリンク回線の情報データは、TDM(Time Division Multiplex、時分割多重)により送信され、各通信端末1宛の通信データあるいは制御データが時分割多重されている。TDM分離部16は自端末宛の受信データを分離して、受信データ出力端子34に出力するとともに、制御データの一部である衛星の軌道情報を分離して、軌道情報受信部17(第1情報取得部17(情報取得部17))に出力する。
一方、GPS衛星4からのGPS信号10は、GPS用アンテナ30経由GPS受信機31で受信され、GPS信号処理部32において信号処理されて、GPS時刻信号とGPS位置データが求められる。第2情報取得部310(情報取得部310)は、GPS用アンテナ30,GPS受信機31,GPS信号処理部32から構成される。
次に、通信端末1の送信側について説明する。データ入力端子18(送信データ(ショートメッセージ)入力端子)に入力した送信データは、データ生成部19において、送信データに同期ビット、制御ビットなどが付加されて所定のバーストフォーマットに変換された後、誤り訂正符号化部20において誤り訂正符号化され、さらにCDMA拡散部21において、直交符号発生部22において発生させられた直交符号系列とモジュロ2加算されて、CDMAのために拡散される。送信信号発生部180は、データ入力端子18,データ生成部,誤り訂正符号化部20,CDMA拡散部21から構成される。
送信タイミング発生部23は、GPS信号処理部32からのGPS時刻信号に同期した各部へのクロック信号及びタイミング信号を発生する。詳しくは、図1(b)に示すチップクロック発生部(送信タイミング発生部23,情報取得部310)及び直交符号発生部と、図1(c)(d)(e)に示す実施の形態1に係るチップクロック生成方法(及び直交符号生成方法)とを用いて説明する。
図1(c)のS002(Sはステップを表す)は、所定の時間精度よりも長い1チップ長から成るチップクロックを生成するものである(クロック発生ステップ)。このS002の前に所定の時間精度を有する時間情報を取得するものであるS001(取得ステップ)を行ってもよい。そして、S003(決定ステップ)にて、時間情報(S001でGPS衛星4から取得したものでもよい)から、S002(クロック発生ステップ)のチップクロック開始のタイミングを決定する。なお、S001は、GPS衛星4から時間情報を取得するものでもよい。所定の時間精度よりも長い1チップ長から成るチップクロックに関しての詳細説明は後述する。
このチップクロック生成方法にて生成されたチップクロック開始のタイミングを基準にして直交符号を生成するものが、図1(d)に示すS004(直交符号発生ステップ)である。換言すると、図1(c)はチップクロック開始のタイミングの決定までを示しており、図1(d)はチップクロック開始のタイミングに基づく、直交符号の生成までを示している。また、チップクロック生成方法は、所定の時間精度を有する時間情報を事前に取得することができるのであれば、図1(e)に示すようにS001を省略してもよい。
CDMA拡散部21出力のCDMA拡散されたデータは、遅延補正部24において、通信端末1間の衛星までの距離差による遅延時間差を補正したあと、BPSK変調部25(変調部25)にて搬送波発生部26の出力を搬送波としてBPSK変調され、無線送信部27にて、電力増幅等され、デュプレクサ12を経由して衛星通信用アンテナ11から、リターンリンク通信回線9の送信バースト信号として、非静止衛星3に向けて送信される(図2(b))。
遅延時間計算部29は、通信端末1間の衛星3までの距離差による遅延時間差を、GPS信号処理部32出力のGPS位置データを用いて計算する。遅延処理部240は遅延補正部24及び遅延時間計算部29から構成される。ドップラー周波数計算部28は、軌道情報受信部17からの衛星軌道情報、GPS信号処理部32からのGPS位置データを用いて、非静止衛星3が通信端末1に対して移動することにより発生する、RF搬送波周波数相当のドップラー周波数偏移を計算する。
換言すると、ドップラー周波数計算部28は、衛星3と通信端末1との相対距離の変化からCDMA信号のドップラー周波数偏移による周波数のずれを計算するものであるといえる。なお、通信端末1が移動する場合に関する説明は、実施の形態3で行う。つまり、実施の形態1に係る通信システム,通信端末,通信方法では、ドップラー周波数計算部28は、衛星3の移動速度から、ドップラー周波数偏移を計算するものであるといえる。一方、実施の形態3に係る通信システム,通信端末,通信方法では、ドップラー周波数計算部28は、通信端末1の移動速度から、ドップラー周波数偏移を計算するもの、若しくは、ドップラー周波数計算部28は、通信端末1の移動速度及び衛星3の移動速度から、ドップラー周波数偏移を計算するものであるといえる。
ドップラー周波数処理部250はBPSK変調部25,搬送波発生部26,ドップラー周波数計算部28から構成される。搬送波発生部26からの搬送波のON/OFFは、送信タイミング発生部23が生成するチップクロックに応じて、CDMA拡散部21から送出されるCDMA信号に合わせている。搬送波のON/OFF自体は、BPSK変調部25又は搬送波発生部26のいずれかで行なうか、BPSK変調部25と搬送波発生部26との間にスイッチを設けるなどが考えられる。
次に、図3を用いて、基地局2の構成について説明する。図3において、サービスセンター6から地上ネットワーク5経由で基地局2に向けて送信された各通信端末1に送信するデータは、基地局2の地上インターフェース部41において受信される。一方、衛星追跡管制センター7から地上ネットワーク5経由で基地局2に向けて送信されたデータ(主として衛星の軌道情報)は、同じく、基地局2の地上インターフェース部41において受信される。
基地局2のデータ生成部42は、地上インターフェース部41から各通信端末1別に送信するデータを受信し、各通信端末1別に送信データを生成し、TDM多重化部43において、制御情報送信部から送信される制御データ(衛星軌道情報等)とともに、TDM多重化される。TDM多重化されたデータは、誤り訂正符号化部45で誤り訂正符号化された後、QPSK変調部46でQPSK変調され、無線送信部47において、RF周波数に周波数変換後、大電力増幅されて、デュプレクサ48経由で衛星通信用アンテナ49から、非静止衛星3に向けて、フォワードリンク通信回線信号として送信される。
次に、基地局2の受信側について説明する。複数の通信端末1が送信した信号は、非静止衛星3経由(中継)で、衛星通信用アンテナ49で受信され、デュプレクサ48を経由して、無線受信部50において低雑音増幅された後、IF周波数信号に周波数変換される。CDMA逆拡散部51は、受信CDMA信号からチップクロック及び直交符号開始タイミングを捕捉して、CDMA逆拡散を行う。
基地局2のCDMA逆拡散部51において逆拡散された信号は、BPSK復調部52においてBPSK復調された後、誤り訂正復号部53にて誤り訂正復号され、データ処理部54において、サービスセンター6に出力するデータを形成して、地上インターフェース部41に送信する。地上インターフェース部41は、地上ネットワーク5経由でサービスセンター6にデータを送信する。
実施の形態1に係る通信方法(なお、実施の形態1の衛星通信アクセス方式は、複数の通信端末と、基地局との間の通信方法に関連するものである)について説明する。実施の形態1に係る通信方法は、複数の通信端末1は、時間情報から、直交符号発生部24による直交符号の生成タイミングを複数の通信端末1−n間で同期するものである。
構成は、通信端末1の情報取得部310がGPS衛星4から所定の時間精度を有する時間情報を取得する取得ステップ,通信端末1の送信タイミング発生部23が所定の時間精度よりも長い1チップ長から成るチップクロックを生成するクロック発生ステップ,通信端末1の送信タイミング発生部23が取得ステップで取得した時間情報からクロック発生ステップのチップクロック開始のタイミングを決定する決定ステップから成るS104と、通信端末1の直交符号発生部22が、決定ステップで決定されたクロック発生ステップのチップクロック開始のタイミングを基準にして直交符号を生成する直交符号発生ステップ(図4のS105)と、通信端末1のCDMA拡散部21が直交符号発生ステップで生成された直交符号により基地局2へ送信する送信信号を拡散してCDMA信号を生成するCDMA信号発生ステップ(図4のS108)とを備えたものである。
詳細を図4により説明する。図4は本実施の形態1の衛星通信アクセス方式に係る通信端末の動作を示すフローチャートである。図4において、通信端末が電源ONされるとS101でGPS衛星4からのGPS信号10を受信し、次にS102において、データを送信するかどうかを判断する。例えば、ユーザが、通信端末1(携帯端末)の操作により、データ送信を選択したかどうかを判断する。もし、S102においてデータを送信すると判断すると、S103にて通信端末1の受信系を立ち上げて、基地局2からのフォワードリンク信号を受信する。なお、フォワードリンク信号は、データ送信の有無に係らず、常に受信していてもよく、その場合は、S103は、S102の前のステップとなる。
次に、S104において、送信タイミング発生部23はGPS信号処理部32で生成したGPS時刻信号に同期した送信タイミング信号を生成する。ここで、送信タイミング信号とは、直交符号発生のためのチップクロック、直交符号開始タイミング、誤り訂正符号化クロック、データクロックなどである。S105において、直交符号発生部22は、複数の直交符号の中から1つの直交符号をランダムに選択して、前記GPS時刻信号に同期したチップクロックと直交符号開始タイミングにより、前期選択した直交符号を発生させる。この結果、複数の通信端末が衛星に向けて送信するCDMA信号の直交符号のチップクロック及び直交符号開始タイミングを、複数の通信端末間で同期させることができ、各通信端末から衛星までの距離が同じであれば、衛星のトランスポンダ上で各端末が送信したCDMA信号の直交符号のチップクロックと直交符号開始タイミングが同期することになる。
しかしながら、一般的に、衛星通信を行う通信端末は、広域(例えば日本全域)に広がっているので、各通信端末が存在する地理的位置によって衛星までの距離が異なり、したがって、各通信端末のCDMA信号送信時点と衛星トランスポンダ到着時点との間の遅延時間も各通信端末の位置によって異なる。このため、S106では、遅延時間計算部29において、GPS信号処理部32で測定した位置データを用いて、自端末の位置から衛星までの距離と、予めメモリ等に記憶されている基準地上位置から衛星までの距離との差を求め、その距離差に相当する遅延時間差分を計算し、遅延補正部24において、その遅延時間差分を補償する。なお、ここでGPSの位置データとは、具体的には緯度データ、経度データ、及び高度データを指す。
次に、各通信端末が送信するCDMA信号の搬送波周波数に差がある場合は、後述するように直交符号の直交性が崩れるので、S107において、ドップラー周波数計算部28が衛星の移動によるドップラー周波数偏差を、通信端末1の位置に応じて計算し、搬送波発生部26において補償するようにしている。S108において、前記GPS時刻信号に同期したチップクロックと直交符号開始タイミングにより直交符号発生部22において発生させた直交符号により送信データを拡散して、CDMA信号として、衛星に向けて送信する。
図5は図2の直交符号発生部22の詳細を示したものである。符号分割多元接続(CDMA)を行う場合には、発生できる符号系列数が多いこと、発生した符号系列間の相互相関値が小さいことを満たすような系列が望まれる。そのような条件を満たすものの一例として、直交ゴールド符号がある。図5は、例えば、非特許文献1に記述されている直交ゴールド符号の発生回路について説明している。しかしながら、直交符号は、直交ゴールド符号に限らず、携帯電話システムでよく用いられているウォルシュ符号(Walsh Code)をPNコードで拡散したものでもよい。
図5において、M系列発生器61の発生するM系列(周期:N−1)とM系列発生器62の発生するM系列(周期;N−1)はプリファードペアであり、モデュロ2加算器63の出力のゴールド符号系列(周期;N−1)を発生する。ここで、Nはチップ数であり、図5の0挿入器64は、周期N−1ごとに発生されたゴールド符号系列の最後に0を加えるもので、その結果、0挿入器64の出力は、周期Nの直交ゴールド符号系列となる。また、与えられたプリファードペアから発生できる直交ゴールド符号系列の数は、その系列長と同数であるので、数Nの直交ゴールド符号系列が生成できる。
このように発生された系列は、互いにシフト0で、すなわち位相差0において互いに直交しており、相互相関値を0に抑えることができる。したがって、衛星通信において直交符号を用いた符号分割多元接続(CDMA)を行う場合、各通信端末1が送信した直交符号により拡散されたCDMA信号を、衛星トランスポンダ上で直交させるためには、各通信端末1から送信された直交符号間の位相差が、衛星トランスポンダ上で1チップ以内のできるだけ小さい位相差となるように、各端末の送信タイミングを制御して同期させる必要がある。
そのために、特許文献2に示される方法のように、基地局から各端末の送信タイミングを制御する方法が考えられるが、アクセスする端末の数が多くなると、基地局と各端末間でやり取りされる制御ビットの数が膨大となり、基地局の処理量が大きくなったり、周波数利用効率が悪化したり、制御に遅延が発生したり、輻輳が発生したりする。そこで、実施の形態1に係る発明では、各通信端末1の送信タイミングを同期させるために、図1(b)(c)(d)(e)を用いて説明した実施の形態1に係るチップクロック生成方法(及び直交符号生成方法)を用いる。実施の形態1に係る通信端末(通信システム)では、GPS信号処理部32から出力されるGPS時刻信号を用いる場合を想定したもので説明を行う。
次に、直交符号間の1チップ以内の位相差をどの程度まで抑えればよいか検討する。図6に示すように、今、所望信号と干渉信号の2つの直交符号によるCDMA信号がアクセスしているとし、両信号の直交符号の1チップの長さをTc、両信号の直交符号間の1チップ以内の位相差を△Tcとする。ただし、△Tcは下記の数1の数式の範囲である。
直交符号の周期をNチップとすると、所望信号の直交符号1周期分の自己相関値を所望信号の信号成分(Signal)と考えると、下記の数2の数式となる。
次に、所望信号直交符号と干渉信号直交符号の相互相関値を考える。図6に示すように、これら2つの直交符号系列の相互相関は、2つの部分に分かれる。すなわち、図6の斜線部以外の部分のように、両者が重なっている部分の相互相関値は、位相の揃った直交符号列の相関値と同じなので無相関、すなわち相互相関値が0になる。
一方、斜線部は1チップ以内の位相差の部分であり、この部分は隣の符号チップとの相関になるので、相互相関値はランダムになり、所望信号成分に対する雑音成分と考えることができる。その雑音成分の量(Noise)は、下記の数3の数式と表される。
したがって、所望信号の信号対雑音比は数4の数式と表される。
数4において、20*logN/√Nは、一般的な直交符号を用いないCDMAにおける拡散符号間の相互相関干渉によるS/N比と考えることができる。
また、20*logTc/√(Tc/△Tc)は、CDMAに直交符号を用い、かつ、本発明のCDMA信号の直交符号を1チップ以内の位相差で、衛星上で同期させる技術を用いたときの前記S/N比の改善度、性能指数(figure of merit)と考えることができる。例えば、△Tc/Tc=1/10チップのとき、前記改善度は10dBとなる。
数4の数式において、周期N=1024とし、△Tc/Tc=1/10チップとすると、数4より、数5の数式となって、所望信号の信号対雑音比は40dBとなる。
△Tc/Tc=1/10チップの場合、同時にアクセスする端末の数を仮に150とし、所望信号が他のすべての信号から、同じ相互相関による干渉量を受けるとすると、上記信号対雑音比は、10×log(149)≒22dB劣化するので、所望信号の信号対雑音比は、約18dBとなるが、この値は通常衛星通信で要求される信号対雑音比(数dB)よりも十分高い。
また、例えば、△Tc/Tc=1/100チップとすると、上記と同様にして、所望信号の信号対雑音比は、50dBとなる。△Tc/Tc=1/100チップの場合は、周期1024の場合の直交符号系列の数1024に等しい同時アクセス端末数があった場合でも、上記信号対雑音比は約30dBの劣化となり、所望信号の信号対雑音比は、約20dB取れることになる。ただし、上記は1つの所望信号に対し、他のすべての干渉信号が1/10チップあるいは1/100チップずれていて、所望信号が他の総ての干渉信号から干渉を受けた場合に相当する最悪ケースであり、実際は、もっと良好な信号対雑音比が得られると考えられる。よって、前述のとおり、所定の時間精度(時刻精度)よりも長い1チップ長から成るチップクロックであればよいということになる。
次に、具体的なシステムパラメータを仮定して検討する。一般的に、衛星通信におけるリターンリンクの情報レートは、端末の送信電力で制限されるが、例えば、端末として携帯電話程度の大きさを考えても、情報レート50bps程度のメッセージ通信は可能であると考えられる。符号化率1/2の誤り訂正符号を考え、符号系列長1024チップの直交符号で拡散する場合、直交符号のチップレートは、50×2×1024=102.4kcpsとなり、1チップの長さは約10μsecとなる。GPS時刻信号の時刻精度は、0.1μsec乃至1μsecは取れるので、各端末送信信号の△Tc/Tcを1/100チップ乃至1/10チップ以内で同期させることが可能となる。
上記から、実施の形態1に係る通信システム(通信端末、通信方法)では、特に、低速のチップレートの直交符号によるCDMAに有効である。すなわち、1チップの持続時間が、GPSの時刻精度より十分長いようなチップレートを持つ直交符号によるCDMAに有効である。これは、換言すると、所定の時間精度(時刻精度)よりも長い1チップ長といえる。
このような低速のチップレートの直交符号によるCDMAを適用できるアプリケーション例として、例えば、前述したような準天頂衛星によるショートメッセージによる救難メッセージサービスが考えられる。その理由は、救難メッセージに必要な最低限の情報は、遭難者(通信端末1保持者)のIDと位置情報であるので、情報ビット数が少なく、したがってメッセージの情報レートを低速とすることができるため、直交符号のチップレートも低速にできるからである。
また、大規模災害時は多数の遭難者から、ほぼ同時に救難メッセージが送信されるので、できるだけ多くの回線容量を確保するためには、CDMAによる符号間の相互相関干渉をできるだけ少なくする必要があり、そのために、本発明による各通信端末1の直交符号を1チップ以内で同期させる技術が有効である。具体的には、実施の形態1に係る通信端末(通信システム)では、第2情報取得部310が、所定の時間精度を有する時間情報を取得し、送信タイミング発生部23が、所定の時間精度よりも長い1チップ長から成るチップクロックを生成することになる。
図7は、図2の通信端末1のブロック図における送信回路の各部の波形例を示し、これらの波形がGPS時刻信号(秒信号、1PPS)に同期している様子を示す。図7において、GPS時刻信号はGPS信号処理部32の出力波形、直交符号とチップクロックは、直交符号発生部22の出力波形、誤り訂正符号化後データは誤り訂正符号化部20の出力波形、拡散後データはCDMA拡散部21の出力波形をそれぞれ示す。また、図7において、直交符号C1(t)の1周期(Nチップ)と誤り訂正符号化後のデータD1(t)は同期して、モデュロ2加算されて、CDMA拡散後データとなる。
図8は、通信端末1−1及び通信端末1−2の図2における直交符号発生部22の出力を示しており、通信端末1−1及び通信端末1−2がそれぞれ送信する直交符号A及び直交符号Bの直交符号開始タイミングが、チップクロックレベルで、GPS時刻信号に同期している様子を示す。ただし、図8ではGPS時刻信号の時刻精度による直交符号間の位相差はないものと仮定している。両通信端末1におけるCDMA拡散部21以降の送信回路の遅延時間が等しくなるように回路が構成されており、両通信端末1の位置が近接していて両通信端末1から衛星トランスポンダまでの距離に差がない場合は、衛星トランスポンダ上で図7に示す直交符号Aと直交符号Bの間のタイミング関係が保持され、直交符号AとBの間の相互相関値は0となる。
次に、図4におけるS106の処理について、その詳細を以下に説明する。図9に、端末の地上位置と準天頂衛星までの距離との関係を示す。図9において、計算の簡略化のため、準天頂衛星S(衛星3)は、基準地上位置A点の真上akmにあると仮定する。また、端末位置B点は、前記A点からdkm離れているとし、準天頂衛星Sとの間の距離をbkmとし、地球の半径をrkmとし、地球中心Oから見たA点とB点のなす角度をθradとすると、余弦定理より次の数6の数式が成り立つ。
ここで、地球半径rはA点とB点間の距離よりも十分大きいので、下記の数7の数式が成り立つ。よって、数6の数式は数8の数式となる。
したがって、a=39,000km、r=6400kmとすると、例えば、d=30kmの場合は、光速c=300、000km/秒とすると、遅延時間差τは、τ=(b−a)/c=0.27μsec、また、d=200kmの場合は、τ=(b−a)/c=12.1μsec、となる。
前述のシステムパラメータを用いると、直交符号のチップレートは約100kcpsであるので、1チップ持続時間は約10μsecである。図9のA点に位置する端末とB点に位置する端末により、直交符号によるCDMA信号を同時に衛星に向けて送信するとする。両端末間の衛星までの遅延時間差は、d=30kmの場合、上記の結果から、2.7/100チップとなって非常に小さく無視できるが、d=200kmの場合は、1.21チップとなって、1チップよりも衛星までの遅延時間差が大きくなり、衛星トランスポンダ上で直交符号間の直交性が確保できない。したがって、端末は、自端末の位置に応じて、衛星までの遅延時間差を補償する必要がある。その処理内容について、実施の形態1に係る通信端末(通信端末)1を用いて、以下に説明する。
図10に示すように、非静止衛星Sは、地表面に対し衛星軌道上を時々刻々移動しているとし、その最新の軌道は、基地局からダウンロードされる最新の衛星軌道情報により、予測可能であるとする。ここで、衛星軌道情報とは、人工衛星の軌道を表すパラメータのことであり、例えば、人工衛星の軌道要素として、元期、平均運動、離心率、軌道傾斜角、昇交点赤経、近地点離角、平均近点角がある。
まず、通信端末1の軌道情報受信部17(第1情報取得部17)は、図11に示すように、基地局2から最新の衛星軌道情報を受信し(S201)、次に図示しないメモリ内の衛星軌道情報を常に更新している(S202)。通信端末1の遅延時間計算部29は、図12に示すように、S301で、前記メモリ内の衛星軌道情報を読み出す。ここで、衛星の軌道情報は、基地局からフォワードリンク回線を通じて、各端末にダウンロードされる最新の軌道情報を用いるとしているが、予めメモリ内に記憶された、デフォールトの軌道情報を用いてもよい。
計算の単純化のために、準天頂衛星が常に天頂付近にあることを利用して、上記衛星の軌道情報の代わりに、図9に示すように、近似的に衛星の位置が基準地上位置の天頂方向上空に固定高度で存在すると計算してもよい。この場合、基準地上位置と自端末位置から衛星までの遅延時間差は、前述の数8の数式を用いて計算することができる。さらに、非静止衛星3が準天頂衛星であり、かつ前記準天頂衛星がGPS衛星機能を具備している場合は、準天頂衛星が送信するGPS信号から前記衛星軌道情報を取得してもよい。この場合、第1情報取得部17(軌道情報受信部17)が第2情報取得部310の機能を有しているといえる。詳しくは、第2情報取得部310を構成するGPS用アンテナ30,GPS受信機31は、それぞれ、衛星通信用アンテナ11,無線受信部13に相当しているので、軌道情報受信部17がGPS信号処理部32の機能を有しているといえる。
次に、遅延時間計算部29は、S302において、GPS信号処理部32より自端末(通信端末1)のGPS位置データ(緯度、経度、高度)を入力する。S303では、上記衛星軌道情報と上記GPS位置データより、自端末(通信端末1)から衛星3までの距離bを算出する。次に、遅延時間計算部29は、S304において、メモリに記憶されている基準地上位置データを読み出す。さらに、S305において、上記衛星軌道情報と上記基準地上位置データとより、基準地上位置から衛星3までの距離aを算出する。
さらに、S306において、遅延時間計算部29は、距離差b−aを計算し、光速cで割り算することによって、遅延時間差τを算出し、S307において、前記遅延時間差τを遅延補正部24に設定する。なお、ここで、自端末(通信端末1)の位置と衛星3までの距離bが、基準位置と衛星3までの距離aより短い場合は、τの符号は負(すなわち、信号を絶対値τ分GPS時刻信号より遅らせる)となる。
逆に、自端末(通信端末1)の位置と衛星3までの距離が、基準地上位置と衛星3までの距離より長い場合は、τの符号は正(すなわち、信号を絶対値τ分GPS時刻信号より進ませる)となる。ただし、衛星3の軌道情報、基準地上位置と衛星3までの距離a、自端末(通信端末1)から衛星までの距離bは、すべて時間の関数であるので、遅延時間差τも時間の関数となり、当該通信端末がCDMA信号を衛星に送信する時間におけるτを予測して遅延補正部24に設定する必要がある。
なお、上記では、遅延時間差τが正の場合(すなわち、信号を絶対値τ分GPS時刻信号より進ませる場合)も考慮したが、この場合、制御が複雑になる。したがって、基準地上位置を常に距離差b−aが0または負になるような地上位置とし、τの符号を常に負(すなわち、信号を絶対値τ分常にGPS時刻信号より遅らせる)とすると、遅延時間を設定するための制御が単純化される効果がある。
また、上記では、基準地上位置と衛星3までの距離aと自端末(通信端末1)から衛星3までの距離bを算出して、距離差b−aを算出したが、上記基準地上位置と衛星3までの距離aはデフォールトの固定値であってもよい。これにより、計算の簡略化が図れる。
さらに、上記では、衛星3の軌道情報と自端末(通信端末1)のGPS位置データを用いて、自端末(通信端末1)と衛星3までの距離bを算出したが、衛星3である非静止衛星が準天頂衛星であり、かつ前記準天頂衛星がGPS衛星機能を具備している場合は、準天頂衛星が送信するGPS信号から自端末のGPS位置データを算出する際に自端末と衛星までの距離を算出するので、この値を上記自端末と衛星までの距離bとして用いてもよい。これにより、計算の簡略化が図れる。
以上のように、各通信端末1が、自端末が送信するCDMA信号のGPS時刻信号に対する遅延時間を調整することによって、衛星トランスポンダ上で、各通信端末が送信するCDMA信号の直交符号間の同期を、1チップ以内の位相差で取ることができるので、通信端末1は、複数の通信端末1−n間で、衛星3へ送信する送信信号の送信タイミングを同期した送信タイミングを生成する送信タイミング発生部23と、送信信号を生成する送信信号発生部180と、送信信号発生部180が生成した送信信号を送信タイミングで衛星3へ送信するときに、通信端末1と衛星3との距離により生じる遅延を補正する遅延処理部240とを備えているといえ、複数の通信端末1−nは、個々の衛星3との距離による送信信号の遅延をそれぞれ補正するものであるといえる。
次に図4のS107の処理について、その詳細を以下に説明する。各通信端末1の送信するCDMA信号の搬送波周波数に偏差がある場合、直交符号間の相互相関に悪影響を与えることを、最初に説明する。今、通信端末1−1が送信する直交符号C1(t)でBPSK変調された変調波を下記の数9の数式とおく。
同様に、別の通信端末1−2が送信する直交符号C2(t)がBPSK変調された変調波を下記の数10の数式とおく。
ここで、A,Bは搬送波の振幅、f1,f2は搬送波の周波数であり、θ1,θ2は搬送波の位相である。ただし、簡略化のため、データ変調はないものとした。衛星トランスポンダ上で、上記2つの信号は足しあわされて、次の数11の数式となる。
基地局受信側のCDMA逆拡散/復調において、通信端末1−1からの信号を復調する場合、下記の数12の数式を上記の数11の数式に掛けて相関をとる。
相関をとった結果は次の数13の数式で表される。
ここで、Tは相関をとる時間であり、直交符号の周期の整数倍である。また、説明の簡略化のためA=B=1とし、高調波成分はフィルタリングされるので無視した。数13の数式の第1項は所望信号であり、第2項が符号間干渉成分となる。数13の数式の第2項はf1=f2のとき、すなわち、両搬送波の周波数偏差がなければ、C1(t)とC2(t)とは直交符号であるので、0となる。しかしながら、f1≠f2であれば、数13の数式の第2項は0とならずに、相互相関による干渉成分が残ることになる。そのため、各通信端末1の送信するCDMA信号の搬送波周波数偏差を小さくして、直交符号間の相互相関を小さくすることが必要である。
一般的に、衛星通信では、端末は、衛星トランスポンダのローカル周波数偏差を基地局側で補償したフォワード信号を基地局から受信して、そのフォワード信号の受信搬送波周波数を基準として、自端末のリターンリンク信号の搬送波周波数を発生させることによって、端末が送信するリターンリンク信号の搬送波周波数偏差を小さくするようにしている。
また、非静止衛星の場合は、非静止衛星が基地局に対して相対移動することによって、フォワードリンク信号の搬送波にドップラー周波数偏移を生じ、この周波数偏移は各端末で共通なので、非静止衛星の基地局に対する相対移動によるフォワードリンク信号搬送波のドップラー周波数偏移についても、基地局側で補償することができる。これらの基地局側でのフォワードリンク信号の搬送波周波数補償については、基地局側で、パイロット信号を衛星折り返しすることにより達成でき、その方法の詳細は、特許文献3に記載されている。
しかしながら、非静止衛星が端末に対して相対移動することによるフォワードリンク信号のドップラー周波数偏移及び、非静止衛星が端末に対して相対移動することによるリターンリンク信号のドップラー周波数偏移は、各端末の地理的位置が異なると、そのドップラー周波数偏移の大きさが異なるため、基地局側では補償することができない。
そこで、本実施の形態1では、各通信端末1の送信するCDMA信号の搬送波周波数偏差を小さくして、直交符号間の相互相関を小さくするために、各通信端末1側で、その通信端末1の地理的位置に基づいて、非静止衛星の移動による非静止衛星と端末間の搬送波ドップラー周波数偏移を補償して、各通信端末1間で搬送波周波数偏差が小さいリターンリンク信号を送信する方法を用いている。なお、本実施の形態1では、各通信端末1は移動していないか、移動していてもゆっくりと移動していて、通信端末1の移動による非静止衛星に対する搬送波のドップラー周波数偏移は無視できるものとしている。
図13に、通信端末1の搬送波周波数のドップラー周波数偏移を示す。今、通信端末1−nが、地理的位置Pnに存在するとする。ここでは、通信端末1−nは地表面で静止しており、端末の移動速度VTn=0であるとする。
今、通信端末1−nの受信フォワードリンク信号の搬送波周波数をFrnとし、光速をCとする。また、通信端末1−nが受信するフォワードリンク信号搬送波周波数の中心周波数をFroとする。ただし、前述のように、衛星のローカル周波数偏差及び非静止衛星の基地局に対する相対移動によるドップラー周波数偏移は基地局送信側で補償されているので、上記Froには、これらに起因する周波数偏差は含まれていない。図13から衛星移動による端末方向の受信搬送波相当のドップラー周波数偏移△Fro1は、下記の数14の数式と表される。
ただし、△Fro1は、衛星3と通信端末1とが近づく場合を正とする。
したがって、通信端末1−nの受信フォワードリンク信号の搬送波周波数Frnは次の数15の数式で表される。
通信端末1−nは、まず衛星の軌道情報と端末のGPS位置データにより、非静止衛星が通信端末1に対して移動する相対移動速度VSnを求め、次に上式から受信搬送波中心周波数相当のドップラー周波数偏移△Fro1を計算により求める。次に、図14に示すように、周波数減算器71において、通信端末1−nは、受信フォワードリンク信号の搬送波周波数Frnを基準として、下記の数16の数式によってFroを生成する。
すなわち、受信搬送波中心周波数相当のドップラー周波数偏移△Fro1を補償する。受信フォワードリンク信号の搬送波中心周波数Froと送信リターンリンク信号の搬送波中心周波数Ftoの比をRrtとすると、周波数逓倍器72において、下記の数17の数式によって、Ftoを生成することができる。
ただし、ここで、Rrtは予め設定された値である。次に、図13より、送信搬送波中心周波数相当のドップラー周波数偏移△Fto1を計算により求める(数18の数式)。ただし、△Fto1は、衛星3と通信端末1が近づく場合を正とする。
さらに、周波数減算器73において、下記の数19の数式によって、
Ftnを得て、送信搬送波中心周波数相当のドップラー周波数偏移△Fto1を補償することができる。すなわち、上式で与えられるFtnの搬送波周波数を持つリターンリンク信号を通信端末1−nが送信したときに、前記リターンリンク信号は衛星トランスポンダで受信される際に、非静止衛星の移動による自端末の位置に応じたドップラー周波数偏移を受けるので、衛星トランスポンダ上で通信端末1−nから受信されるリターンリンク信号の搬送波周波数Ftn’は次の数20の数式で表される。
したがって、衛星トランスポンダ上で各通信端末1が送信するリターンリンクCDMA信号間の搬送波周波数偏差がほぼ0となり、各通信端末1が送信する直交符号間の直交性の搬送波周波数偏差による劣化を小さくすることができる。
図15には、通信端末1−nにおける搬送波周波数のドップラー周波数偏移補償フローチャートを示し、これらの処理は、主として、図2の搬送波発生部26及びドップラー周波数計算部28において行われる。まず、S401において、ドップラー周波数計算部28は、メモリ内の衛星軌道情報を読み出し、次にS402において、GPS信号処理部32より、自端末(通信端末1)のGPS位置データを入力する。さらに、ドップラー周波数計算部28は、S403において、上記衛星軌道情報と上記GPS位置データにより、非静止衛星の自端末(通信端末1)方向の速度VSnを計算し、S404において、上記VSnを用いて、フォワードリンク信号の搬送波中心周波数Fro相当のドップラー周波数偏移△Fro1を計算する。
次に、搬送波発生部26はS405において、QPSK復調部14から入力される受信フォワードリンク信号の搬送波周波数Frnより、フォワードリンク信号の搬送波中心周波数FroをFro=Frn−△Fro1より生成する。さらに、搬送波発生部26はS406において、送信リターンリンク信号の搬送波中心周波数FtoをFto=Fro×Rrtにより生成する。次に、ドップラー周波数計算部28はS407において、上記非静止衛星の自端末方向の速度VSnを用いて、リターンリンク信号の搬送波中心周波数△Fto1を計算する。最後に、搬送波発生部26は、S408において、Ftn=Fto−△Fto1より、リターンリンクの送信搬送波中心周波数Fto相当のドップラー周波数偏移を補償する。
ここで、実施の形態1に係る通信システム及び通信端末の動作をまとめると、通信端末1が直交符号を生成する直交符号発生部22と、外部から時間情報を取得する第2情報取得部310と、情報取得部310が取得した時間情報を基準としたチップクロックを生成し、このチップクロックを直交符号発生部22による直交符号の生成タイミングの基準とする送信タイミング発生部23と、直交符号発生部22が生成した直交符号により衛星3へ送信する送信信号を拡散してCDMA信号を生成するCDMA拡散部21とをするものを基本構成としている。
さらに、通信端末1の遅延処理部240によって、通信端末1の位置情報から衛星3までの距離を導出し、遅延時間を計算し(遅延時間計算部29)、計算した遅延時間から、送信信号を補正(遅延補正部24)してもよい。また、通信端末1のドップラー周波数処理部250によって、衛星3と通信端末1との相対距離の変化から送信信号のドップラー周波数偏移による周波数のずれを補正してもよい。
ここで、実施の形態1に係るショートメッセージ通信システム(ショートメッセージ方法)及びショートメッセージ通信端末としての本実施の形態1の説明を行う。まず、実施の形態1に係るショートメッセージ通信システムは、フォワードリンク信号を送信する基地局2が送信したフォワードリンク信号を受信し、ショートメッセージを含む送信信号をリターンリンク信号として、基地局2へ送信する複数のショートメッセージ通信端末1−nと基地局2との通信を中継する衛星3とを備えたものであり、複数のショートメッセージ通信端末1−nは、時間情報から、直交符号発生部22による直交符号の生成タイミングを複数のショートメッセージ通信端末1−n間で同期するものである。
具体的には、ショートメッセージ通信端末1は、直交符号を生成する直交符号発生部22と、外部から所定の時間精度を取得する情報取得部310と、情報取得部310が取得した時間情報を基準とし、所定の時間精度よりも長い1チップ長から成るチップクロックを生成し、このチップクロックを直交符号発生部22による直交符号の生成タイミングの基準とする送信タイミング発生部23と、送信信号を生成する送信信号発生部180と、直交符号発生部22が生成した直交符号により送信信号発生部180が生成した送信信号を拡散してCDMA信号を生成するCDMA拡散部21と、CDMA信号を衛星3へ送信するときに、ショートメッセージ通信端末1と衛星3との距離により生じる遅延を補正する遅延処理部240と、搬送波を生成する搬送波発生部26と、搬送波発生部26が生成した搬送波を用いて、遅延処理部240による補正後のCDMA信号を変調する変調部25と、変調部25により変調されたCDMA信号を衛星3に送信する送信部27とを有しているものである。
また、ショートメッセージ通信端末1は、衛星3とショートメッセージ通信端末1との相対距離の変化からCDMA信号のドップラー周波数偏移による周波数のずれを計算するドップラー周波数計算部28を有し、搬送波発生部26が、ドップラー周波数計算部28が計算したドップラー周波数偏移による周波数のずれを搬送波の周波数で補償するものである。さらに、ショートメッセージ通信端末1の遅延処理部240は、ショートメッセージ通信端末1の位置情報から衛星3までの距離を導出し、遅延時間を計算する遅延時間計算部29と、遅延時間計算部29が計算した遅延時間から、送信信号を補正する遅延補正部24とからなるものである。
なお、災害時等において、基地局2から発信されたフォワードリンク信号を受信したユーザ端末(携帯端末1)が、位置情報を含んだ救難メッセージ,緊急メッセージ,救難信号などを、リターンリンク信号(送信信号)として、衛星回線を用いて、基地局2を介して、サービスセンター6へ伝送するかどうかは、ユーザ端末(携帯端末1)側で判断できるようにしてもよいし、フォワードリンク信号を受信した場合は、強制的に、リターンリンク信号(送信信号)を発信するようにしてもよい。
実施の形態2.
この発明の実施の形態2について図16乃至図23を用いて説明する。実施の形態1と異なる部分を中心に説明を行い、実施の形態1と共通の部分の説明は、省略する場合がある。図中、同一符号は、同一又は相当部分を示しそれらについての詳細な説明は省略する。実施の形態1では、直交符号の開始タイミングを、チップクロックレベルで、GPS時刻信号に同期させて、各通信端末1はバースト上のCDMA信号をランダムに非静止衛星(3)に向けて送信したが、実施の形態2では、通信端末は、さらにCDMA拡散されたバースト上のデータを時間軸上のスロットにランダムに衛星に向けて送信することにより、いわゆるslotted(スロッテッド)ALOHA方式による衛星通信アクセスを行って、スループットを向上させる。このとき、通信端末1は、直交符号の開始タイミングを、チップクロックレベルで、GPS時刻信号に同期させるだけでなく、スロットタイミングもGPS時刻信号に同期させることによって、各端末間でのスロットの同期を容易にする。
つまり、実施の形態2に係る通信システム(ショートメッセージ通信システム)及び通信端末(ショートメッセージ通信端末)並びに通信方法(ショートメッセージ通信方法)は、送信信号発生部180が、送信タイミング発生部23が生成したチップクロックを基準としたスロットタイミングで、変調部25により変調されたCDMA信号を衛星3に送信すること、又は、送信信号発生部180が、情報取得部310が取得した時間情報を基準とし、所定の時間精度よりも長い1チップ長から成るチップクロックを生成し、このチップクロックを基準としたスロットタイミングで、変調部25により変調されたCDMA信号を衛星3に送信することで、複数のショートメッセージ通信端末1−nは、スロットタイミングを複数のショートメッセージ通信端末1−n間で同期するものである。
実施の形態2に係る通信端末1の構成を図16(a)(b)に示す。なお、全体システムの構成は、実施の形態1において説明した図1及び図2に相当する構成を有しており、この実施の形態2において特に説明する部分の構成及び動作の他、実施の形態1において説明した部分の構成及び動作に相当する構成及び動作を有するものである。図16(a)と図16(b)とに記載の通信端末1は、図16(b)に記載の通信端末1はドップラー周波数計算部28が省略されている点である。つまり、周波数偏移の補償が必要でない場合には、図16(b)に記載の構成を採用すればよい。
実施の形態2に係る基地局2の構成を図17に示す。なお、全体システムの構成は、実施の形態1において説明した図1及び図2に相当する構成を有しており、この実施の形態2において特に説明する部分の構成及び動作の他、実施の形態1において説明した部分の構成及び動作に相当する構成及び動作を有するものである。詳しくは、図17(a)は実施の形態2に係る通信システム(ショートメッセージ通信システム)の構成を示す構成図、図17(b)は実施の形態2に係るチップクロック生成方法に用いるチップクロック発生部(受信タイミング発生部,情報取得部)の機能ブロック図、図1(c)はチップクロック生成(発生)のフローチャート、図1(d)はチップクロック生成(発生)のフローチャート(S001省略)である。
図17(a)に示す実施の形態2に係る基地局2の構成について説明する。図3に示す実施の形態1に係る基地局2の構成に対し、以下の構成が実施の形態2に係る基地局2に追加されている。図17(a)において、基地局2は、通信端末1と同様に、GPS衛星4からGPS信号10をGPSアンテナ30及びGPS受信機31により受信する。GPS信号処理部32は前記受信されたGPS信号10を処理して、GPS時刻信号を受信タイミング発生部55に出力する。
受信タイミング発生部55は、地上インターフェース部41からの衛星軌道情報及び入力端子56からの基地局位置及び基準地上位置を用いて、GPS信号処理部32からのGPS時刻信号を基準とし、基準地上位置から非静止衛星経由基地局受信までの遅延時間分遅延させたチップクロック、直交符号開始タイミング、スロットタイミングを発生する。CDMA逆拡散部51は、前記チップクロック、直交符号開始タイミング、スロットタイミングにより、通信端末1から送信された信号の時間的位置を予測して、CDMA逆拡散を行う。
上記のとおり、受信タイミング発生部23は、GPS信号処理部32からのGPS時刻信号に同期した各部へのクロック信号及びタイミング信号を発生する。詳しくは、図1(b)に示すチップクロック発生部(受信タイミング発生部55,情報取得部310)と、図1(c)(d)に示す実施の形態1に係るチップクロック生成方法とを用いて説明する。
図17(c)のS002(Sはステップを表す)は、所定の時間精度よりも長い1チップ長から成るチップクロックを生成するものである(クロック発生ステップ)。このS002の前に所定の時間精度を有する時間情報を取得するものであるS001(取得ステップ)を行ってもよい。そして、S003(決定ステップ)にて、時間情報(S001でGPS衛星4から取得したものでもよい)から、S002(クロック発生ステップ)のチップクロック開始のタイミングを決定する。
そして、S003で決定したタイミングで、チップクロック開始するのではなく、S005にて、所定の遅延時間を加えて、チップクロック開始タイミングを最終決定する。これは、タイミング決定ステップが実施の形態1で説明したものと異なる点である。その理由は、前述のとおり、通信端末(端末)からの送信信号(リターンリンク信号)を基準地上位置から非静止衛星経由基地局受信までの遅延時間分遅延させて、基地局2はチップクロック、直交符号開始タイミング、スロットタイミングを発生する必要があるためである。
つまり、所定の遅延時間とは、通信端末(端末)からの送信信号(リターンリンク信号)を基準地上位置から非静止衛星経由基地局受信までの遅延時間を意味する。なお、S001は、GPS衛星4から時間情報を取得するものでもよい。所定の時間精度よりも長い1チップ長から成るチップクロックに関しての詳細説明は実施の形態1で説明したとおりである。なお、チップクロック生成方法は、所定の時間精度を有する時間情報を事前に取得することができるのであれば、図1(d)に示すようにS001を省略してもよい。
次に、実施の形態2に係る通信方法(なお、実施の形態2の衛星通信アクセス方式は、複数の通信端末と、基地局との間の通信方法に関連するものである)について説明する。実施の形態2に係る通信方法は、複数の通信端末1は、時間情報から、直交符号発生部24による直交符号の生成タイミング及びスロットタイミングを複数の通信端末1−n間で同期するものである。
図18において、通信端末1−1、通信端末1−2、通信端末1−3はそれぞれ、GPS時刻に同期したチップクロック、直交符号開始タイミング、スロットタイミングにより、CDMA拡散されたバースト信号を、時間スロットにランダムに送信する。つまり、送信タイミング発生部23が生成したチップクロック,直交符号開始タイミング,スロットタイミングをデータ生成部19,誤り訂正符号化部20,CDMA拡散部21へそれぞれ送ることにより、CDMA拡散されたバースト信号を、時間スロットにランダムに送信する。
これにより、各通信端末1が送信するCDMA信号の直交符号間の位相が、1チップ以内の位相差となるように制御されたslotted(スロッテッド)ALOHA方式によるランダムアクセスを実現する。図19に示す表(通信端末1(ショートメッセージ端末1)の送信パラメータ例)に、実施の形態2の典型的な通信端末1のデータバースト送信のためのパラメータを例示する。
図19に示す表の送信パラメータ例において、スロットのGPS時刻信号への同期は、例えば次のようにする。GPS時刻信号の毎分の00秒を基準とし、2.5秒ごとにスロットを発生させる。したがって、1分間で24のスロットを発生できる。また、直交符号の開始時間も同様に、毎分の00秒を基準にすると、1スロットで250周期の直交符号を発生できる。
図20は実施の形態2における図16(図17)の送信タイミング発生部23の動作フローを示す図である。図20において、S501〜S503については、実施の形態1にける図4に示すS101,S104,S105にそれぞれ相当する同じ動作であるが、実施の形態2では、S504において、GPS時刻信号に同期した時間スロット開始タイミングを発生させる。このことにより、各通信端末1の送信スロットタイミングを、容易に各通信端末1間で同期させることができる。なお、図20では、図4のS102,S103に相当するステップやS106以降のステップの説明は、実施の形態2の特徴の理解を優先して省略するが、実際は存在するので、図21を用いて説明する。
図21は、通信端末の動作フローであり、図4と同一の番号を付したステップは、実施の形態1と同一の機能である。S601においてGPS時刻信号に同期したスロットタイミング信号を発生し、S602において送信スロットの一つをランダムに選択する。前記ランダムに選択する方法としては、例えば実際に送信するスロットまでの待ち時間をランダムに発生する方法等がある。S603において、S105で選択した直交符号によりデータを拡散して、CDMAバースト信号として上記送信スロットにおいて衛星に向けて送信する。
なお、図21では、送信スロットの1つと直交符号の1つとをランダムに選択して、ランダムアクセスする方法を示したが、さらに、FDMAされた複数の周波数チャネルのうちの一つをランダムに選択して、選択された送信スロット、直交符号、周波数チャネルでランダムアクセスしてもよい。この動作は、送信信号発生部180で行なわれる。これによって、送信スロット、直交符号、周波数チャネルがすべて一致しない限り、ランダムアクセスバーストの衝突が発生することがなくなるので、さらに、ランダムアクセスバーストの衝突確率を下げることができ、その結果、ランダムアクセスのスループットを高めることができるという効果がある。
次に、実施の形態2に係る基地局2の受信側について説明する。図22に示すように、通信端末1−1〜1−3が送信したCDMA信号のGPS時刻に同期したチップクロック、直交符号開始タイミング(図示しない)及び送信スロットタイミングは、基地局2の受信において、非静止衛星までの往復遅延時間D秒の遅延を受ける。実施の形態1で示したように、リターンリンクにおける各通信端末1の位置の差による遅延時間差は、各端末送信において補償されているので、基地局2側では、基準地上位置からの衛星往復時間を計算することによって、上記遅延時間D秒を推定することができる。
例えば、非静止衛星として準天頂衛星を用いる場合、基準地上位置の真上36,000kmに準天頂衛星があるとし、また、基地局が基準地上位置と同じ地理的位置にあるとすると、上記遅延時間Dは0.24秒と計算される。なお、衛星トランスポンダによる遅延や基地局受信系による遅延が無視できない場合は、予め遅延時間を測定しておくことにより、これらを上記遅延時間Dに加算して計算できる。
したがって、基地局2においてもGPS衛星4からGPS信号を受信して、GPS時刻信号を発生させ、それに同期して発生させたチップクロック、直交符号開始タイミング及びスロットタイミングをD秒遅延させれば、各通信端末1から受信するCDMA信号のチップクロック、直交符号開始タイミング及びスロットタイミングを基地局受信側で容易に推定することができ、CDMA逆拡散部51における直交符号、チップクロック、バースト信号の捕捉及び同期を速める効果がある。なお、チップクロック、直交符号開始タイミング及びスロットタイミングをD秒遅延させることが、前述の所定の遅延時間に相当することはいうまでもない。
図23は、図17に示す基地局2の受信タイミング発生部55の動作フローを示す図であり、S701において、まず、GPS時刻信号をGPS受信処理部32より入力する。次に、S702において、GPS時刻信号に同期したチップクロック、直交符号開始タイミング、スロットタイミングを発生させる。次に、S703において、衛星軌道情報、基準地上位置、基地局位置を用いて、基準地上位置から非静止衛星経由基地局受信までの遅延時間を計算する。ここで、衛星軌道情報は図3の地上インターフェース部41より入力し、また、基準地上位置と基地局位置は入力端子53より入力する。基準地上位置と基地局位置は、予め図示しないメモリ内に記憶されていてもよい。
S704において、前記チップクロック、直交符号開始タイミング、スロットタイミングを、前記遅延時間分遅延させ、S705において、これらのタイミング信号をCDMA逆拡散部51に出力する。CDMA逆拡散部51において、各通信端末1からのCDMAバースト信号を逆拡散するためには、受信信号からチップクロック、直交符号開始タイミング、及びバーストタイミングを推定する必要があるが、上記遅延したチップクロック、直交符号開始タイミング、及びスロットタイミングを用いることにより、上記推定に要する処理を少なくでき、したがって、推定に要する時間を短くできるので、直交符号、チップクロック、バースト信号の捕捉及び同期を速める効果がある。
以上のように、実施の形態2では、通信端末1は、CDMA拡散されたバースト上のデータを時間軸上のスロットにランダムに衛星に向けて送信することにより、いわゆるslotted(スロッテッド)ALOHA方式による衛星通信アクセスを行うので、スループットを向上させることができる。さらに、FDMAされた複数の周波数チャネルのうちの一つをランダムに選択して、選択された送信スロット、直交符号、周波数チャネルでランダムアクセスすると、ランダムアクセスのスループットをさらに高めることができる。
また、通信端末1は、直交符号の開始タイミングを、チップクロックレベルで、GPS時刻信号に同期させるだけでなく、スロットタイミングもGPS時刻信号に同期させるので、各端末間でのスロットの同期を容易にとることができる。さらに、基地局受信側では、チップクロック、直交符号開始タイミング、スロットタイミングを、基準地上位置から非静止衛星経由基地局受信までの遅延時間(所定の遅延時間)分遅延させるので、直交符号、チップクロック、バースト信号の捕捉及び同期を速める効果がある。
実施の形態3.
この発明の実施の形態3について図24乃至図27を用いて説明する。実施の形態1及び2と異なる部分を中心に説明を行い、実施の形態1及び2と共通の部分の説明は、省略する場合がある。図24(a)は実施の形態3に係る通信端末の機能ブロック図、図24(b)は実施の形態3に係る通信システムの概略図である。図中、同一符号は、同一又は相当部分を示しそれらについての詳細な説明は省略する。実施の形態1では、図13における非静止衛星の移動速度の通信端末1−nの位置方向の速度VSnによるドップラー周波数偏移を補償するが、実施の形態3では、さらに、図13における通信端末1−nの移動速度の非静止衛星方向の速度VTnsによるドップラー周波数偏移も補償する。
つまり、実施の形態3に係る通信システム(ショートメッセージ通信システム)及び通信端末(ショートメッセージ通信端末)は、ドップラー周波数計算部28は、通信端末1の移動速度から、ドップラー周波数偏移を計算するもの、若しくは、ドップラー周波数計算部28は、通信端末1の移動速度及び衛星3の移動速度から、ドップラー周波数偏移を計算するものである。
詳しくは、通信端末1は、移動速度を検出する移動速度検出部33を有し、ドップラー周波数計算部28が、移動速度検出部33が検出した移動速度から、ドップラー周波数偏移を計算するものである。なお、通信端末1は、実施の形態1及び2と同様に、衛星3の移動速度を外部から取得する軌道情報受信部17(移動速度取得部17)を有し、ドップラー周波数計算部28が、移動速度取得部17が取得した移動速度からも、ドップラー周波数偏移を計算するものであってよい。
実施の形態3に係る通信端末1の構成を図24(a)に示す。なお、全体システムや基地局2の構成は、実施の形態1において説明した図1〜図3に相当、及び、実施の形態2において説明した図16,図17に相当する構成を有しており、この実施の形態3において特に説明する部分の構成及び動作の他、実施の形態1及び2において説明した部分の構成及び動作に相当する構成及び動作を有するものである。
図24(a)に示す実施の形態2に係る通信端末1の構成について説明する。図2に示す実施の形態1に係る通信端末1の構成に対し、以下の構成が実施の形態3に係る通信端末1の構成に追加されている。
移動速度計算部33はGPS信号処理部32出力のGPS位置データにより、通信端末1の移動速度と移動方向を計算して、ドップラー周波数計算部28に出力する。ドップラー周波数計算部28は、軌道情報受信部17からの衛星軌道情報、GPS信号処理部32からのGPS位置データ、移動速度計算部33からの端末移動速度データ、端末移動方向データを用いて、非静止衛星及び通信端末が移動することにより発生する、RF搬送波周波数相当のドップラー周波数偏移を計算する。
実施の形態3に係る通信端末における搬送波周波数のドップラー周波数偏移補償ブロック図を図25に示す。図25において、図14の実施の形態1との違いは、図14における△Fro1及び△Fto1が、それぞれ、図25における△Fro1+△Fro2、
△Fto1+△Fto2に置き換わっている点である。ここに、実施の形態1において述べたように、△Fro1は非静止衛星の端末に対する相対移動によるFro相当のドップラー周波数偏移を表し、また、△Fto1は非静止衛星の端末に対する相対移動によるFto相当のドップラー周波数偏移を表す。△Fto2及び△Fto2は、実施の形態3に特徴的であり、それぞれ、端末の非静止衛星に対する相対移動によるFro相当のドップラー周波数偏移と非静止衛星の端末に対する相対移動によるFto相当のドップラー周波数偏移を表す。ただし、△Fto2、△Fto2は、衛星3と通信端末1が近づく場合を正とする。図13を参照すると、下記の数21の数式が成り立つ。
ここで、Cは光速であり、VTnsは非静止衛星位置方向の端末移動速度である。したがって、図14の実施の形態1と同様に、実施の形態3では、図25に基づいて、通信端末1−nの送信搬送波周波数のドップラー周波数偏差を補償することができる。しかしながら、図25に基づくドップラー周波数偏差を補償するためには、通信端末1−nの移動速度と移動方向を知る必要がある。
図26には、図24における移動速度計算部33において、通信端末1の移動速度と移動方向を、GPS位置データを用いて求めるための機能フローを示す。まず、S801では、GPS信号処理部32より、GPS位置データとその取得時刻を定期的に入力する。S802では、それらを位置履歴データとしてメモリに記憶する。S803では、上記メモリから読み出した位置履歴データから、現在の通信端末1の移動速度と移動方向を推定する。S804では、上記現在の通信端末1の移動速度と移動方向を、現在の移動速度と移動方向として、メモリに記憶する。
なお、図26では、移動速度計算部33は、GPS位置データを用いて、通信端末1の移動速度と移動方向を求めたが、通信端末(携帯端末)に装備されているジャイロセンサーや加速度センサー、地磁気センサーを用いて、端末の移動速度と移動方向を求めてもよい。この場合は、ジャイロセンサーや加速度センサー、地磁気センサーが移動速度検出部33となるので、移動速度検出部33とGPS信号処理部32(情報取得部310(第2情報取得部310))とを接続する必要性はない。
図27は、実施の形態3に係る通信端末1における搬送波周波数のドップラー周波数偏移補償フローである。図27において、S901において、ドップラー周波数計算部28は、移動速度計算部33のメモリ内から現在の自端末(通信端末1)の移動速度と移動方向を読み出す。次に、ドップラー周波数計算部28は、S902において、上記現在の自端末(通信端末1)の移動速度から、自端末が移動しているかどうか判定する。
移動していない場合は、図15にしたがって、ドップラー周波数偏移の補償を行う。移動していると判断した場合は、S903において、軌道情報受信部17から衛星軌道情報を読み出す。さらに、S904において、GPS信号処理部32から、GPS位置データを入力する。次にドップラー周波数計算部28は、S905において、衛星軌道情報とGPS位置データから、衛星の自端末方向の速度VSnを計算し、また、衛星軌道情報とGPS位置データと通信端末の現在の移動速度と移動方向から、通信端末の衛星方向の移動速度VTnsを計算する。
さらに、ドップラー計算部28はS906において、上記VSn及びVTnsを用いて、フォワードリンク信号の搬送波中心周波数Fro相当のドップラー周波数偏移△Fro1,△Fro2を計算し、搬送波発生部26に出力する。さらにまた、ドップラー周波数計算部28はS907において、上記VSn及びVTnsを用いて、リターンリンク信号の搬送波中心周波数Fto相当のドップラー周波数偏移△Fto1,△Fto2を計算し搬送波発生部26に出力する。
まず、搬送波発生部26は、S908において、受信フォワードリンク信号の搬送波周波数Frnより、FroをFro=Frn−(△Fro1+△Fro2)により生成する。さらに、搬送波発生部26は、S909において、送信リターンリンク信号の搬送波中心周波数Ftoを、Fto=Fro×Rrtにより生成する。最後に、搬送波発生部26は、S910において、Ftn=Fto−(△Fto1+△Fto2)より、送信搬送波周波数Ftoのドップラー周波数偏移を補償する。
以上のように、実施の形態3では、通信端末1は、直交符号を生成する直交符号発生部22と、外部から時間情報を取得する情報取得部310と、情報取得部310が取得した時間情報を基準としたチップクロックを生成し、このチップクロックを直交符号発生部22による直交符号の生成タイミングの基準とする送信タイミング発生部23と、前記直交符号発生部22が生成した直交符号により衛星3へ送信する送信信号を拡散してCDMA信号を生成するCDMA拡散部21と、CDMA信号を衛星3へ送信するときに、通信端末1と衛星3との距離により生じる遅延を補正する遅延処理部240と、搬送波を生成する搬送波発生部26と、搬送波発生部26が生成した搬送波を用いて、遅延処理部240による補正後のCDMA信号を変調する変調部25と、衛星3と通信端末1との相対距離の変化からCDMA信号のドップラー周波数偏移による周波数のずれを計算するドップラー周波数計算部とを備えているといえる。
よって、搬送波発生部26は、ドップラー周波数計算部28が計算したドップラー周波数偏移による周波数のずれを搬送波の周波数で補償することができる。つまり、通信端末1が地上を移動する場合も、その移動速度と移動方向に応じて、通信端末1が送信するリターンリンク信号の搬送波周波数のドップラー周波数偏差を補償するので、衛星トランスポンダ上で各通信端末1が送信するリターンリンクCDMA信号間の搬送波周波数偏差がほぼ0となり、各通信端末1が送信する直交符号間の直交性の搬送波周波数偏差による劣化をほぼ0に抑えることができるという効果を得ることができる。
実施の形態4.
この発明の実施の形態4について図28乃至図32を用いて説明する。実施の形態1〜3と異なる部分を中心に説明を行い、実施の形態1〜3と共通の部分の説明は、省略する場合がある。図28(a)は実施の形態4に係る通信システムの概略を示す概略図(GPS衛星4からの受信無し)、図28(b)は実施の形態4に係る通信システムの概略を示す概略図(GPS衛星4からの受信無し)である。図中、同一符号は、同一又は相当部分を示しそれらについての詳細な説明は省略する。
実施の形態1及び2では、各通信端末1は移動していないか、移動していてもゆっくりと移動している場合を想定し、実施の形態3では、各通信端末1が移動している場合を想定していた。実施の形態4では、各通信端末1は固定か、殆ど移動しない場合、或いは、各通信端末1が所定の範囲内で移動する場合を想定している。つまり、実施の形態4は、通信端末1間の衛星3までの距離差による遅延時間差が生じない程度に集中的に、各通信端末1が配置される場合、又は、通信端末1間の衛星3までの距離差による遅延時間差が生じない範囲内(前述の「所定の範囲内」に相当)で移動する場合を想定したものである。これは、通信端末1に遅延処理部240を形成する必要がないことを意味する。
実施の形態4に係る通信システム(ショートメッセージ通信システム)及び通信端末(ショートメッセージ通信端末)並びに通信方法(ショートメッセージ通信方法)は、適用先としては、図28に示すように、実施の形態4に係る通信端末を山間部などの小規模集落に各戸に設置する場合などが考えられる。図28(a)は、GPS衛星4からの受信無しに実施する場合を示している。図28(b)は、GPS衛星4からの受信を行ない実施する場合を示している。図28(a)の場合は、図29に記載の通信端末1及び図32に記載の通信端末1の運用が考えられる。図28(b)の場合は、図30に記載の通信端末1及び図31に記載の通信端末1の運用が考えられる。もちろん、図28(a)(b)に示す複数の通信端末1は、それぞれ、通信端末1間の衛星3までの距離差による遅延時間差が生じない範囲内で移動するものであってもよい。
まず、図29に記載の通信端末1は、直交符号を生成する直交符号発生部22と、時間情報を取得する情報取得部310と、情報取得部310が取得した時間情報を基準としたチップクロックを生成し、このチップクロックを直交符号発生部22による直交符号の生成タイミングの基準とする送信タイミング発生部23と、直交符号発生部22が生成した直交符号により衛星3へ送信する送信信号を拡散してCDMA信号を生成するCDMA拡散部21と、搬送波を生成する搬送波発生部26と、搬送波発生部26が生成した搬送波を用いて、CDMA信号を変調する変調部25と、衛星3と通信端末1との相対距離の変化からCDMA信号のドップラー周波数偏移による周波数のずれを計算するドップラー周波数計算部28とを備えている。
そして、搬送波発生部26は、ドップラー周波数計算部28が計算したドップラー周波数偏移による周波数のずれを搬送波の周波数で補償する。ここでは、ドップラー周波数計算部28は、通信端末1自身が保持している通信端末1の位置データが、GPS位置データの代替として入力される。もちろん、ドップラー周波数計算部28自体が通信端末1の位置データを保持していてもよい。なお、情報取得部310は、所定の時間精度を有する時間情報を取得又は保持し、送信タイミング発生部23は、所定の時間精度よりも長い1チップ長から成るチップクロックを生成するものである。
図30に記載の通信端末1は、ドップラー周波数計算部28が、衛星3の移動速度から、ドップラー周波数偏移を計算するものである。図30に記載の通信端末1は、図2(a)に記載の通信端末1における遅延処理部240を削除した構成であるので、詳細説明は省略する。また、図31に記載の通信端末1は、ドップラー周波数計算部28が、衛星3の移動速度及び通信端末1の移動速度から、ドップラー周波数偏移を計算するものである。図31に記載の通信端末1は、図24(a)に記載の通信端末1における遅延処理部240を削除した構成であるので、詳細説明は省略する。
図32に記載の通信端末1は、図29に記載の通信端末1の端末装置に、通信端末(携帯端末)に装備されているジャイロセンサーや加速度センサー、地磁気センサーなどの移動速度計算部33が追加されたものである。よって、図32に記載の通信端末1は、実施の形態3で説明したような方法のドップラー周波数偏移による周波数のずれを補償することが可能である。
実施の形態1〜4では、衛星通信アクセス方式や衛星通信アクセス方式に必要なチップクロック生成方法及び直交符号生成方法を得ることができる。詳しくは、準天頂衛星などの非静止衛星を介して、複数の端末装置が直交符号によるCDMAを用いて基地局にアクセスする場合、非静止衛星上で各端末装置から送信されたCDMA信号の直交符号を1チップ以内の位相差で同期させて、直交符号間の相互相関による干渉の小さい衛星通信アクセス方式に好適なクロック生成方法及び直交符号生成方法を含む通信システム(ショートメッセージ通信システム)及び通信端末(ショートメッセージ通信端末)並びに通信方法(ショートメッセージ通信方法)を得ることができる。
また、実施の形態1〜4に係るクロック生成方法及び直交符号生成方法を含む通信システム(ショートメッセージ通信システム)及び通信端末(ショートメッセージ通信端末)並びに通信方法(ショートメッセージ通信方法)は、実施の形態間で相互に構成、状況、ショートメッセージの内容を置換して実施することが可能であることはいうまでもない。実施の形態1〜4に係るショートメッセージは、緊急時に限らす、インターネット上へ情報を提供する場合なども利用してもよいことはいうまでもない。実施の形態1〜4に係る通信端末は、移動式でも固定式でもよい。また、実施の形態1〜4に係る通信端末は、携帯電話、通信機器、防災無線などの端末装置にハードウェアやソフトウェアを追加することで構成してもよい。