JP2014038066A - マイクロ液体デバイスシステム及び脂質二重膜の形成方法 - Google Patents

マイクロ液体デバイスシステム及び脂質二重膜の形成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】機能性の高いマイクロ液体デバイスシステム1を提供する。
【解決手段】マイクロ液体デバイスシステム1は、第1の送液部31Aと、第2の送液部31Bと、第1の送液部31Aから注入された第1の液体W1で満たされる第1の流路11と、第2の送液部31Bから注入された第2の液体W2で満たされる第2の流路12と、脂質二重膜が形成される第1の流路11と第2の流路12とを挿通する挿通部13と、が内部に形成された主基板20と、第1の液体W1の温度T1及び第2の液体W2の温度T2を所定の温度T1、T2に調整する温度調整部50と、を具備する。
【選択図】図3

Description

本発明は、バイオテクノロジー、バイオチップ、膜タンパク質分析、創薬スクリーニング、又はバイオセンサーなどの分野に用いられる脂質二重膜が形成されるマイクロ液体デバイスシステム及び脂質二重膜の形成方法に関する。
生体膜の内外で物質輸送/情報伝達に関与する膜タンパク質の機能を、1分子計測によって理解し工学的に応用するためには、単離膜タンパク質が組み込まれた人工脂質二重膜モデル実験系を構築する必要がある。しかし、かかる実験系を構築するには熟練した技術を要する。このため、構築された実験系は、再現性が良くはなく、また、構築のスループットも高くはないことがあった。
発明者らは、特開2009−128206号公報において、図1に示すMEMS技術により作製した脂質二重膜(lipid bilayer membrane)を有するマイクロ液体デバイス(microfluidic device)110を開示している。マイクロ液体デバイス110は、構築のスループット向上、小型化、分析時間の短縮化、必要な試薬の少量化及び高い再現性等を提供した。マイクロ液体デバイス110は、主流路103と、主流路103の側壁に開口する微小憩室(マイクロチャンバー)104と、を有する。
主流路103に、水溶液からなる第1液と、脂質二重膜の成分である脂質Lを溶解した油性溶液からなる第2液と、水溶液からなる第3液とが、順に注入されると、開口部に脂質二重膜LBが形成される。すなわち、第1液が注入されると、第1液が主流路103及び微小憩室104を満たす。第2液が注入されると、第2液は主流路中の第1液を押し流しながら、微小憩室104に取り残された第1液との間に界面を形成する。第3液が注入されると、第3液は主流路中の第2液を押し流すので、開口部を封止する脂質二重膜LBが形成される。
ここで、第1液として、膜タンパク質として例えばα−ヘモリシンを含む水溶液を用いた場合には、第3液注入工程において、脂質Lが脂質二重膜になると、図2に示すように、符号Pで示すα−ヘモリシンは自己集合して脂質二重膜LBを貫通した微細貫通孔を有する7量体を形成する。すなわち、膜タンパク質であるα−ヘモリシンが脂質二重膜LBに微小憩室104側から挿入される。
また、発明者らは、特開2011−2385号公報において、脂質二重膜に組み込まれた膜タンパク質の機能について時間分解能の高い測定を行うために、マイクロ液体デバイスに電極機能を付与し膜タンパク質の電流計測が可能な装置を開示している。
しかし、マイクロ液体デバイス110は、閉鎖空間である微小憩室104の開口部に脂質二重膜が形成される。このため、開口部104に脂質二重膜が形成された微小憩室104に新たな化合物等を含む溶液を注入することはできない。また脂質二重膜に対して膜タンパク質(α−ヘモリシン)の組み込み方向(挿入方向)は、例えば、微小憩室104側からに限定されていた。
このため、脂質二重膜に膜タンパク質を挿入できる方向が限定されず、更に、新たな化合物を挿入したりできる、より機能性の高いマイクロ液体デバイスシステム及び脂質二重膜の形成方法が求められていた。
特開2009−128206号公報 特開2011−2385号公報
本発明の実施形態によれば、機能性の高いマイクロ液体デバイスシステム及び脂質二重膜の形成方法を提供できる。
本発明の一態様のマイクロ液体デバイスシステムは、第1の送液部と、第2の送液部と、前記第1の送液部から注入された第1の液体で満たされる第1の流路と、前記第2の送液部から注入された第2の液体で満たされる第2の流路と、脂質二重膜が形成される前記第1の流路と前記第2の流路とを挿通する挿通部と、が内部に形成された主基板と、前記第1の液体の温度及び第2の液体の温度を所定の温度に調整する温度調整部と、を具備する。
また、本発明の一態様の脂質二重膜の形成方法は、第1の送液部と、第2の送液部と、前記第1の送液部から注入された第1の液体で満たされる第1の流路と、前記第2の送液部から注入された第2の液体で満たされる第2の流路と、前記第1の流路と前記第2の流路とを挿通する挿通部と、が内部に形成された主基板と、前記第1の液体及び第2の液体の温度を所定の温度に調整する温度調整部と、を具備するマイクロ液体デバイスを用いて、前記第1の送液部から脂質を溶解した第1の温度の第1の油性液体を前記第1の流路に注入するとともに、前記第2の送液部から脂質を溶解した第2の温度の第2の油性液体を前記第2の流路に注入する油性液体注入工程と、前記第1の送液部から第3の温度の第1の水溶性液体を前記第1の流路に注入するとともに、前記第2の送液部から第4の温度の第2の水溶性液体を前記第2の流路に注入する水溶性液体注入工程と、を具備する。
従来のマイクロ液体デバイスの主要部を上面から観察した写真である。 脂質二重膜にαヘモリシンを組み込んだ状態の模式図である。 第1実施形態のマイクロ液体デバイスシステムの構成図である。 第1実施形態のマイクロ液体デバイスシステムのマイクロ液体デバイスの分解斜視図である。 第1実施形態のマイクロ液体デバイスシステムの液体注入部の斜視図である。 第1実施形態のマイクロ液体デバイスシステムの挿通部の上面図である。 第1実施形態のマイクロ液体デバイスシステムによる脂質二重膜形成方法を説明するためのフローチャートである。 第1実施形態のマイクロ液体デバイスシステムによる脂質二重膜形成方法を説明するための模式図であり、図8(A)は第1溶液及び第2溶液注入工程、図8(B)は第3溶液注入工程、図8(C)は第4溶液注入工程、図5(D)は第5溶液注入工程、を示している。 脂質二重膜にαヘモリシンを組み込んだ状態の模式図である。 第2実施形態のマイクロ液体デバイスシステムの液体注入部の斜視図である。 第3実施形態のマイクロ液体デバイスシステムのマイクロ液体デバイスの斜視図である。
<マイクロ液体システムの構造>
図3〜図6を用いて、第1実施形態のマイクロ液体デバイスシステム1について説明する。
図3に示すように、マイクロ液体デバイスシステム1は、マイクロ液体デバイス10と、マイクロ液体デバイス10に5種類の液体W1〜W5を注入する液体注入部2と、制御部9と、を有する。液体注入部2は、5種類の液体W1〜W5の温度T1〜T5を独立して調整可能な温度調整部50を有する。
なお、以下、複数個ある構成要素のそれぞれを符号末尾のアルファベット1文字を省略していうことがある。例えば、5個のシリンジポンプ34A〜34Eのそれぞれをシリンジポンプ34という。また、以下の図において、電気配線41〜44等の図示は一部を除いて省略している。また、制御部9からの電気配線の図示は全て省略している。
シリンジポンプ34は、貯槽であるシリンジ内の液体を、所定の流速又は所定の圧力で送液する。例えば、シリンジポンプ34Aが第1の液体W1を蓄える第1の貯槽であり、シリンジポンプ34Bが第2の液体W2を蓄える第2の貯槽である。なお、シリンジポンプ34に替えて、気体の圧力で、それぞれの貯槽内の液体を送液する送液部であってもよい。
図5に示すように、シリンジポンプ34(34A〜34E)には、それぞれリボンヒーター51(51A〜51E)と温度センサ52(52A〜52E)とが配設されている。
温度調整部50は、シリンジポンプ34A〜34Eの貯槽内の液体W1〜W5の温度T1〜T5を、温度センサ52A〜52Eにより検出し、所定の温度になるように、巻回されたリボンヒーター51A〜51Eに供給する電力を調整する。もちろん、設定温度T1〜T5は全てが異なっている必要はなく、複数の設定温度が同じであってもよい。
流路切替部61Aは、2つのシリンジポンプ34A、34Cから供給される一の液体を、送液部31Aと接続された送液チューブ33Aに供給する。流路切替部61Bは、3つのシリンジポンプ34B、34D、34Eから供給される一の液体を、送液チューブ33Bに供給する。なお、送液チューブ33の長さが長い場合には、送液チューブ33の外周部に断熱材を配設してもよい。
シリンジポンプ34及び流路切替部61は、制御部9により制御される。制御部9が温度調整部50の機能を有していてもよい。
図4に示すように、マイクロ液体デバイス10は、主基板20と、第1の送液部31A及び第1の排液部32Aと、第2の送液部31B及び第2の排液部32Bと、を有する。マイクロ液体デバイス10では、第1の基板21と第1の基板21と接合された第2の基板22とが、主基板20を構成している。
第1の基板21には、第1の溝部11Tと、壁面の開口部13Tを介して第1の溝部11Tと挿通している第2の溝部12Tと、が形成されている。第2の基板22には、送液口又は排液口となる4つの貫通孔が形成されている。
第1の基板21と第2の基板22とが接合された主基板20では、第1の溝部11Tが第1の流路11を構成し、第2の溝部12Tが第2の流路12を構成し、開口部13Tが挿通部13を構成している。すなわち、第1の基板21の第1の溝部11Tが流路11、12の底面及び2つの側面を構成し、第2の基板22が流路11、12の天面を構成している。
そして、主基板20は、第1の送液部31A及び第1の排液部32Aと接続された第1の流路11と、第2の送液部31B及び第2の排液部32Bと接続された第2の流路12と、挿通部13と、が内部に形成されている。
そして、第2の基板22の貫通孔すなわち主基板20の上面の開口には、配管が接続可能な、送液部31(31A、31B)、排液部32(32A、32B)が配設されている。電源40は、第1の流路11の内部の液体と第2の流路12の内部の液体との間に電圧を印加する場合に用いられる。
なお、送液部31A、31B及び排液部32A、32Bの少なくともいずれかが、主基板20の側面に配設されていてもよい。
第1の流路11に注入される液体と、第2の流路12に注入される液体と、が同じ組成の液体であってもよいが、その場合には注入するタイミングが異なる。このため、第1の送液部31Aと第2の送液部31Bはマイクロ液体デバイス10必須の構成要素である。これに対して、第1の流路11から排出される第1の液体と、第2の流路12から排出される第2の液体と、は混合状態で排出されてもよい。すなわち、第1の流路11と第2の流路12とは排出口側で一体化していてもよく、2つの排液部32A、32Bは共通の排液部であってもよい。
図6に示すように、流路11、12は、幅60μm、で、挿通部13は、開口幅20μm、である。また、溝部11T、12Tの深さ、すなわち、流路11、12の深さは10μmである。流路11、12は、挿通部13の近傍では平行に配置されている。
マイクロ液体デバイス10では制御部9が、第1の流路11の溶液の圧力と第2の流路の溶液の圧力とを正確に制御することで、広い面積の脂質二重膜を長時間、保持可能である。マイクロ液体デバイス10の挿通部13に形成される脂質二重膜の面積は、200μm(20μm×10μm)であった。
脂質二重膜の面積は広いほど、多くの膜タンパクが挿入可能であり高感度となるため、150μm以上が好ましい。脂質二重膜の面積の上限は保持時間との関係で決定されるが、例えば、1000μm程度である。
また、第1の流路11と第2の流路12とが、複数の挿通部1で挿通されていてもよい。複数の挿通部に、それぞれ脂質二重膜が形成されるマイクロ液体デバイスは高感度である。また1つの大面積の脂質二重膜に対して、合計すると同じ面積であっても複数の脂質二重膜は安定性に優れており、長時間の計測が可能である。
また、1つのマイクロ液体デバイスに、異なる面積の脂質二重膜が形成されてもよい。イメージング計測であれば、大面積の脂質二重膜が破壊されても、小面積の脂質二重膜により光学的計測を継続できる。
なお、マイクロ液体デバイス10では、第1の基板21及び第2の基板22は、透明材料であるパイレックス(登録商標)ガラスからなる。第1の基板21に溝部11T等を形成するには、例えば、NLD(magnetic neutral loop discharge)プラズマエッチング装置を用いる。溝部11T等の領域以外をマスクで覆った後に、異方性エッチングすることで、垂直な壁面のある溝部11T等を形成できる。
第1の基板21及び第2の基板22との接合には、溶融接合、フッ酸接合又は陽極接合等の直接接合技術を用いることが好ましい。ガラスからなる流路11、12及び挿通部13は、外部から視認可能であるため、マイクロ液体デバイス10は例えば蛍光発光によるイメージング計測が可能である。
マイクロ液体デバイス10では、第1の流路11を満たす液体と、第2の流路12を満たす液体との間が、挿通部13を除いて電気絶縁状態にあるため、後述するように電源40を用いて、電圧を印加することで、脂質二重膜に組み込まれた膜タンパク質の電気的な解析が可能である。
なお、リボンヒーター51に替えて、公知の各種の加熱デバイス、例えば、シースヒーター、電熱線又はオイルヒーター等を用いてもよい。また加熱デバイスとして、冷却も可能なペルチェ素子等を用いたり、冷却デバイスを配設したりしてもよい。前記の構成によれば、設定温度を下げたときに、短時間で液体を新たな温度に調整可能である。
なお、上記説明のように、実施形態のマイクロ液体デバイスシステム1は、5種類の液体W1〜W5の温度T1〜T5が独立して制御可能である。しかし、少なくとも、第1の流路11に供給する第1の液体の温度と第2の流路12に供給する第2の液体の温度とを温度調整部により所定の温度に調整できるマイクロ液体デバイスシステムは、従来のマイクロ液体デバイスでは実施できなかった各種のモデリング実験が可能である。
すなわち、第1の送液部と、第2の送液部と、前記第1の送液部から注入された第1の液体で満たされる第1の流路と、前記第2の送液部から注入された第2の液体で満たされる第2の流路と、脂質二重膜が形成される前記第1の流路と前記第2の流路とを挿通する挿通部と、が内部に形成された主基板と、前記第1の液体の温度及び第2の液体の温度を所定の温度に調整する温度調整部と、を具備するマイクロ液体デバイスシステムは、機能性が高い。
マイクロ液体デバイスシステム1により効率的に脂質二重膜を形成するには、第1の流路11と第2の流路12とに、それぞれ油性溶液と水溶液とを順に注入することが好ましい。このため、マイクロ液体デバイスシステム1は、N種類(N≧2)の液体(油性溶液、水溶液)から第1の流路11に注入する第1の液体を選択する第1の流路切替部61Aと、N種類(N≧2)の液体(油性溶液、水溶液)から第2の流路12に注入する第2の液体を選択する第12の流路切替部61Bと、を具備することが好ましい。
更に、より複雑なモデル実験のためには、それぞれの流路切替部61が、3種類以上(N≧3)の液体から流路に注入する液体を選択できることが好ましい。なお、Nの上限は例えば、実務上、10程度である。
<脂質二重膜の形成方法>
次に、図7のフローチャートに沿って、実施形態の脂質二重膜の形成方法について説明する。
<ステップS10> 溶液準備
脂質二重膜の形成に用いる各種の溶液が準備される。本実施形態では、液体W1〜W5がシリンジポンプ34A〜34Eに充填された。
溶液W1は、スクアレンに、脂質L1として、DMPC(Dimyristoyl phosphatidyl choline:ジミリストイルホスファチジルコリン)を、20mg/mL添加した油性溶液である。
溶液W2は、ヘキサデカンに、脂質L2として、DPPC(Dipalmitoyl phosphatidy lcholin:ジパルミトイル ホスファチジルコリン)を、20mg/mL添加した油性溶液である。
溶液W3及び溶液W5は、脂質二重膜の形成に影響がない、pH緩衝生理食塩水である。
溶液W4は、ヘキサデカンに、脂質L4として、DMPG(Dimyristoyl-L-α-phoshatidy-DL-glycerol:ジミリストリルホスファチジルグリセロール)を、20mg/mL添加した油性溶液である。
そして、温度調整部50により溶液W1、W2及びW4を45℃に調整し、溶液W3及びW5を23℃に調整した。なお室温が23℃超の場合には、溶液W3及びW5は冷却される。
<ステップS11> 油性液体注入工程
図8(A)に示すように、温度T1(45℃)の脂質L1を溶解した油性溶液W1が第1の流路11に注入されるとともに、温度T2(45℃)の脂質L2を溶解した油性溶液W2が第2の流路12に注入される。油性溶液W1及び油性溶液W2は、流路内の圧力が等しくなるように制御部9により制御されており、更に、流路内を層流状態で流れるため、挿通部においても大きくは混合しない。
なお、脂質は、脂質二重膜形成成分であり、親水基(親水性原子団)と疎水基(疎水性原子団)とを有する。脂質としては、例えば、リン脂質、糖脂質、コレステロール、又は、その他の化合物から、形成する脂質二重膜に応じて適宜選択される。リン脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン等である。糖脂質は、セレブロシド、ガングリオシド等である。
一方、油性溶液W1、W2、W4の有機溶媒は、例えば、ヘキサデカン、ヘプタデカン、デカン等の炭化水素、又はスクアレン等から選択される。
ここで、油性溶液の有機溶媒の相転移温度(ゲル化温度、凝固点)Tgが室温近傍の場合には注意が必要である。例えば、ヘキサデカン(Tg=18℃)及びヘプタデカン(Tg=22℃)等は、室温が相転移温度Tg以下になると粘度が上昇するため、冬季に使用するのは容易ではない。
また、夏期であっても、相転移温度Tgが室温以上の脂質、例えば、DPPC(Tg=41.5℃)を用いることができない。
しかし、マイクロ液体デバイスシステム1では、温度調整部50により液体の温度を相転移温度Tgを超えるように調整できる。このため、相転移温度Tgが低い油性溶液を用いる場合であっても、室温に依存しないで安定して脂質二重膜を形成できる。また、相転移温度Tgが室温を超える脂質も使用することができる。
<ステップS12> 水溶性液体注入工程
図8(B)に示すように、温度T3(23℃)の水溶液W3が第1の流路11に注入される。水溶液W3は、第1の流路11に充填されていた油性溶液W1を押し流す。
このとき、油性溶液W1の脂質L1は、水溶液W3との界面では水溶液W3に疎水基に向けて配列する。界面が、挿通部13に到達すると、挿通部13に脂質L1の単分子膜が形成される。また、油性溶液W2の脂質L2の一部は疎水基を、単分子膜の脂質L1の疎水基と、安定構造を形成する。
ここで、脂質L1(DMPC)の相転移温度Tgは、23℃である。このため、水溶液W3により冷却されて温度が低下した、脂質L1の単分子膜は流動性が無くなり、固くなる。なお、水溶液W3の温度T3は、脂質L1の相転移温度Tg1に対して、T3=Tg1±5℃であれば、前記効果が顕著である。
また、脂質L2(DPPC)相転移温度Tg2は、42℃である。このため、単分子膜の脂質L1の疎水基と安定構造を形成した脂質L2も、固くなる。ただし、油性溶液W2の脂質L1の単分子膜近傍以外の温度T2は、45℃に保持されている。
<ステップS13> 油性液体注入工程
図8(C)に示すように、温度T4(45℃)の油性溶液W4が第2の流路12に注入される。油性溶液W4は油性溶液W2を押し流しながら挿通部13に到達する。
<ステップS14> 水溶性液体注入工程
図8(D)に示すように、温度T5(23℃)の水溶液W5が第2の流路12に注入される。水溶液W5は油性溶液W4を押し流しながら挿通部13に到達する。すると、油性溶液W4の脂質L4は、脂質L2が配列していない脂質L1の疎水基に向けて配列する。
すなわち、両側が水溶液で満たされた挿通部13に、脂質L1、L2及びL4からなる複合脂質二重膜LB1が形成される。
複数の脂質からなる複合脂質二重膜LB1は、単純な構成の脂質二重膜よりも、より生体組織に類似しているため、従来にないモデリング実験が可能である。
さらに、脂質L4(DMPG)相転移温度Tg4は、24℃である。このため、両側が23℃の水溶液W3、W5で満たされた複合脂質二重膜LB1は固くなっている。
なお、複合脂質二重膜LB1を固くするためには、複合脂質二重膜LB1を構成する複数の脂質の少なくともいずれかの相転移温度Tgに対して、保持する溶液温度Tを、Tg±5℃、好ましくは(Tg)℃〜(Tg−5)℃、とすればよい。
脂質を溶解するには、油性溶液の温度は、脂質の相転移温度Tgに対して例えば、3℃以上が好ましいことから、実施形態の脂質二重膜の形成方法では、最初に流路に注入される油性溶液の温度に対して、後から注入される水溶液の温度は低い。
なお、上記で説明した実施形態の脂質二重膜の形成方法では、3種類の油性溶液を順に用いたため、3種類の脂質L1、L2及びL4からなる複合脂質二重膜LB1が形成された。これに対して、2種類の脂質からなる複合脂質二重膜を形成するには、2種類の油性溶液を用いればよいことは明らかである。
そして、図9(A)に示すように、第2の流路12に注入する水溶液に、符号Pで示すα−ヘモリシンを含む溶液W5Aを用いた場合には、第2の流路12側からα−ヘモリシンが脂質二重膜LB1に挿入された7量体が形成される。また、第1の流路11にα−ヘモリシンを含む溶液W6を更に注入した場合には、図9(B)に示すように、第1の流路11側からα−ヘモリシンが脂質二重膜LB1に挿入された7量体が形成される。
すなわち、実施形態のマイクロ液体デバイスシステム1によれば、脂質二重膜に膜タンパク質を挿入できる方向が限定されず、更に、新たな化合物を挿入したりすることもできる。
更に、マイクロ液体デバイスシステム1は、脂質二重膜の形成後及び膜タンパク質挿入後にも、従来は容易ではなかった実験を容易に行うことができる。
例えば、油脂の相転移温度Tgよりも低い温度に脂質二重膜を保持し、固くして実験を行うこともできる。
また、脂質二重膜に挿入された膜タンパク質は、安定構造ではなく、数十秒で脱離することがある。より長時間にわたり膜タンパク質を脂質二重膜に挿入しておくためには、膜タンパク質を挿入後に溶液の温度を低下させることが有効である。すなわち、温度が高い程、膜タンパク質の挿入は起こりやすいが、脱離も早い。このため、溶液温度を変化させることで、効率良く、膜タンパク質の挿入操作及び保持が可能となる。
更に、マイクロ液体デバイスシステム1では、脂質二重膜LB1の両側の溶液の温度が異なるように制御したり、温度を徐々に上昇又は低下させたり、と種々のモデル実験が可能である。
以上の説明のように実施形態のマイクロ液体デバイスシステム1および実施形態の脂質二重膜の形成方法は、機能性が高い。
<第2実施形態>
次に、第2実施形態のマイクロ液体デバイスシステム1Aについて説明する。マイクロ液体デバイスシステム1Aは、マイクロ液体デバイスシステム1と類似している類似の構成要素については同じ符号を付し、説明は省略する。すなわち、マイクロ液体デバイスシステム1Aは、マイクロ液体デバイス10Aはマイクロ液体デバイス10と同じであり、液体供給部が異なる。
図10に示すように、マイクロ液体デバイスシステム1Aの液体供給部2Aは、送液チューブ33(33A、33B)に、リボンヒーター53(53A、53B)と温度センサ54(54A、54B)が配設されている。温度調整部50Aは、送液チューブ33の内部の液体の温度を調整する。一方、シリンジポンプ34には温度調整機能が付加されていない。
マイクロ液体デバイスシステム1Aは、送液チューブ33において液体の温度を調整するため、温度調整部50Aは、2つの温度を調整するだけでよい。このため、マイクロ液体デバイスシステム1Aは、マイクロ液体デバイスシステム1の効果を有し、更に構成が、よりシンプルで、より安価である。
なお、送液チューブ33に替えて、マイクロ液体デバイスの送液部31から挿通部13までの流路11、12の近傍に、例えば薄膜抵抗体からなるヒーターおよび温度センサ等を配設し、マイクロ液体デバイスの流路において液体の温度を調整してもよい。
さらに、マイクロ液体デバイスシステム1にマイクロ液体デバイスシステム1Aの構成を付加してもよい。すなわち、シリンジポンプ34A〜34Eの貯槽内の液体W1〜W5の温度T1〜T5及び送液チューブ33内の液体の温度を調整するマイクロ液体デバイスシステムは、精度の高い温度調整が可能である。
<第3実施形態>
次に、第3実施形態のマイクロ液体デバイスシステム1Bについて説明する。マイクロ液体デバイスシステム1Bは、マイクロ液体デバイスシステム1、1Aと類似している類似の構成要素については同じ符号を付し、説明は省略する。すなわち、マイクロ液体デバイスシステム1Bは、液体供給部2、2Aはマイクロ液体デバイスシステム1、1Aと同じであり、マイクロ液体デバイスが異なる。
図11に示すように、マイクロ液体デバイスシステム1Bのマイクロ液体デバイス10Bでは主基板20は、ペルチェ素子からなる温調(温度調整)プレート70の上に配設されている。温調プレート70の温度は温度センサ71により検出され温度調整部50Bが所定温度T6に調整する。
例えば、液体注入部2、2Aから注入される液体W1〜W5の温度T1〜T5が、いずれも室温以上の場合には、マイクロ液体デバイス10の全体の温度T6を、温度T1〜T5よりも低く、かつ、室温を超える温度に調整することで、精度の高い温度調整が可能である。
また、ペルチェ素子からなる温調プレート70は冷却機能も有しているため、流路内の液体温度を効率的に低下できる。なお、温調プレート70は、主基板20より大きい必要は無く、挿通部13の直下領域にだけ配設されていてもよいし、主基板20の背面に形成された薄膜抵抗体等であってもよい。
マイクロ液体デバイスシステム1Bは、マイクロ液体デバイスシステム1、1Aの効果を有し、更に液体の温度制御が容易である。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等ができる。
1、1A、1B…マイクロ液体デバイスシステム、9…制御部、10…マイクロ液体デバイス、11…第1の流路、12…第2の流路、13…挿通部、20…主基板、31…送液部、32…排液部、33…送液チューブ、34…シリンジポンプ、40…電源、41〜43…配線、50…温度調整部、51…リボンヒーター、52…温度センサ、53…リボンヒーター、54…温度センサ、61…流路切替部、70…温調プレート、71…温度センサ

Claims (9)

  1. 第1の送液部と、
    第2の送液部と、
    前記第1の送液部から注入された第1の液体で満たされる第1の流路と、前記第2の送液部から注入された第2の液体で満たされる第2の流路と、脂質二重膜が形成される前記第1の流路と前記第2の流路とを挿通する挿通部と、が内部に形成された主基板と、
    前記第1の送液部と一端が接続される前記第1の液体を送液する第1のチューブと、前記第1のチューブの他端と接続される前記第1の液体を蓄える第1の貯槽と、
    前記第2の送液部と一端が接続される前記第2の液体を送液する第2のチューブと、前記第2のチューブの他端と接続される前記第2の液体を蓄える第2の貯槽と、
    前記第1の液体の温度及び第2の液体の温度を所定の温度に調整する温度調整部と、を具備することを特徴とするマイクロ液体デバイスシステム。
  2. 前記温度調整部が、前記第1の液体の温度と前記第2の液体の温度とを異なる温度に調整することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ液体デバイスシステム。
  3. 前記温度調整部が、前記第1の貯槽の前記第1の液体の温度を第1の温度に調整し、前記第2の貯槽の前記第2の液体の温度を第2の温度に調整することを特徴とする請求項2に記載のマイクロ液体デバイスシステム。
  4. 前記温度調整部が、前記第1のチューブの前記第1の液体の温度を前記第1の温度に調整し、前記第2のチューブの前記第2の液体の温度を前記第2の温度に調整することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のマイクロ液体デバイスシステム。
  5. 複数の液体から前記第1の液体を選択する第1の流路切替部と、
    複数の液体から前記第2の液体を選択する第2の流路切替部と、を具備することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のマイクロ液体デバイスシステム。
  6. 前記温度調整部が、前記脂質二重膜に膜タンパク質を挿入後に前記第1の流路の液体の温度及び前記第2の流路の液体の温度を低下することを特徴とする請求項5に記載のマイクロ液体デバイスシステム。
  7. 第1の送液部と、第2の送液部と、前記第1の送液部から注入された第1の液体で満たされる第1の流路と、前記第2の送液部から注入された第2の液体で満たされる第2の流路と、前記第1の流路と前記第2の流路とを挿通する挿通部と、が内部に形成された主基板と、前記第1の液体及び第2の液体の温度を所定の温度に調整する温度調整部と、を具備するマイクロ液体デバイスを用いて、
    前記第1の送液部から脂質を溶解した第1の温度の第1の油性液体を前記第1の流路に注入するとともに、前記第2の送液部から脂質を溶解した第2の温度の第2の油性液体を前記第2の流路に注入する油性液体注入工程と、
    前記第1の送液部から第3の温度の第1の水溶性液体を前記第1の流路に注入するとともに、前記第2の送液部から第4の温度の第2の水溶性液体を前記第2の流路に注入する水溶性液体注入工程と、を具備することを特徴とする脂質二重膜の形成方法。
  8. 前記第1の温度と前記第3の温度との温度が異なるか、又は、前記第2の温度と前記第4の温度との温度が異なるか、の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項7に記載の脂質二重膜の形成方法。
  9. 前記第1の温度及び前記第2の温度よりも、前記第3の温度及び前記第4の温度が低いことを特徴とする請求項8に記載の脂質二重膜の形成方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US20220120271A1 (en) * 2019-02-28 2022-04-21 Hamamatsu Photonics K.K. Liquid supply device, microdevice system, and liquid supply method

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