JP2014035679A - 車両の音響振動解析方法及び音響振動解析装置 - Google Patents

車両の音響振動解析方法及び音響振動解析装置 Download PDF

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Abstract

【課題】車両の音響振動解析方法及び音響振動解析装置に関し、統計的エネルギー解析法を用いた車両の音響振動解析において、入力パワーの同定精度を向上させる。
【解決手段】複数の要素のうちの少なくとも一つの計測要素におけるエネルギーの計測値を取得し(A20)、エネルギーの計測誤差に相当する設計変数を設定する(A30)。
また、少なくとも設計変数及び計測値の加算値を用いて計測要素のエネルギーを拘束した状態での要素間のエネルギー平衡に基づき、各要素への暫定入力パワーを演算し(A40,A50)、暫定入力パワー及びこれに対応する設計変数に基づき、各要素への入力パワーを同定する(A60)。
【選択図】図4

Description

本発明は、車両の遮音特性や振動特性を解析する音響振動解析方法及び音響振動解析装置に関する。
従来、車両の遮音性能や振動特性を解析する手法の一つとして、SEA(Statistical Energy Analysis;統計的エネルギー解析法)が知られている。SEAでは、解析対象となるシステムが複数の部分構造や空間といった要素(サブシステム)の集合体としてモデル化され、それぞれの要素が励振されたときの振動エネルギーの伝播状態が演算される。
一般に、各要素間でやり取りされるパワーの大きさは、要素間のエネルギー差と結合損失とに比例する。また、各要素内で熱エネルギー等に変換されて散逸するパワーは、その要素のエネルギーと内部損失とに比例する。これらを踏まえて、個々の要素についての入力パワーとエネルギーとの関係をパワー平衡式として記述し、それぞれの要素のパワー平衡式を連立させて解くことによって、各要素のエネルギーを求めることが可能となる。
例えば、特許文献1には、系外からの入力パワー,要素内の散逸パワー及び要素間の伝達パワーで構成されるパワー平衡式を基礎式としたSEAの解析モデルが記載されている。この技術では、各要素の結合損失率及び内部損失率を成分とした損失率マトリクスLを用いて、入力パワーベクトルPと要素エネルギーベクトルEとの関係が、SEA基礎式「P=ωLE」と表現されている。なお、ωは角周波数(中心角周波数)である。
上述のSEA基礎式のうち、各要素の結合損失や内部損失に対応する損失率マトリクスLは、各要素の素材や物理的な特性に応じて決定される。したがって、例えば車両の車体構造や形状,仕様が設定される先行検討段階で損失率マトリクスLを推定することが可能である。つまり、実際に車両が完成していなくても、任意の入力パワーPに対する各要素の振動エネルギーを演算することが可能となり、その車両の遮音性能や振動特性を評価することができる。
ところで、特許文献1の技術では、実稼働状態で全要素の要素エネルギーEが周波数毎に測定され、その後、すでに構築済みのSEAモデルの損失率マトリクスLを用いて、SEA基礎式から実稼働状態における各要素への入力パワーPが同定されている。一方、各要素への入力パワーPは、要素内で消費される散逸パワー,他の要素への伝達パワー及び他の要素からの伝達パワーを合算したものに等しいことから、これらの関係をエネルギー平衡式として記述することも可能である。
例えば、特許文献2には、二つの要素から構成されたSEAモデルにおいて、要素iについての入力パワーPi,散逸パワーPdi,要素jへの伝達パワーPij,要素jからの伝達パワーPjiの関係を示す平衡式Pi=Pdi+Pij-Pjiが記載されている。また、上述のSEA基礎式に示される関係を用いて、この平衡式をエネルギーEの平衡式として表現することができる旨の記載がある。
特開2010-108456号公報 特開平11-337402号公報
上記のエネルギーEの平衡式を用いれば、入力パワーPを演算することなく、いくつかの音圧レベルの実測値に基づいて、各要素のエネルギーEの分布を求めることができる。しかしこの場合、実測される音圧の分布に影響を及ぼすような要素の変更に対応することができない。例えば、車両のエンジンルーム内に吸音材を設置したような場合には、吸音材を設置しない場合と比較してエンジンルーム内の音圧レベルが低下するため、再び音圧レベルを実測しなければ正しいエネルギーEの分布を求めることができない。
そこで、エネルギーEの平衡式に基づいて得られた各要素のエネルギーEの分布から、音源となる入力パワーPを同定し、その入力パワーPを用いて各要素のエネルギーEの分布を求めることが考えられる。音源となる入力パワーPは、たとえ各要素が変更されたとしても変化しないため、要素の変更前に音圧レベルを一度実測すれば、その後は再び音圧レベルを実測する必要がなくなる。
しかしながら、音圧分布の実測値には、音圧センサー自体に由来する測定誤差が含まれている。また、一つの要素に複数のセンサーを設けて音圧レベルを実測した場合には、それらの平均値が実測値として用いられることになり、演算誤差が混入する可能性がある。これらの誤差の影響で、同定された入力パワーPの値の一部が負の値となってしまう場合があり、入力パワーPの演算精度を向上させることが難しいという課題がある。
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、統計的エネルギー解析法を用いた車両の音響振動解析において、入力パワーの同定精度を向上させることができるようにした音響振動解析方法及び音響振動解析装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置づけることができる。
(1)ここで開示する車両の音響振動解析方法は、統計的エネルギー解析法を用いて車両の複数の要素間における音響,振動の状態を解析する方法である。
まず、前記複数の要素のうちの少なくとも一つの計測要素におけるエネルギーの計測値を取得し、前記エネルギーの計測誤差に相当する設計変数を設定する。また、少なくとも前記設計変数及び前記計測値の加算値(あるいは、例えば前記複数の要素についての前記加算値の線形和)を用いて前記計測要素のエネルギーを拘束した状態での前記要素間のエネルギー平衡に基づき、前記複数の要素への暫定入力パワーを演算する。さらに、前記暫定入力パワー及びこれに対応する前記設計変数に基づき、前記複数の要素への入力パワーを同定する。
上記の加算値を用いたエネルギーの拘束には、前記計測値と前記設計変数との加算値そのものを拘束条件とすることだけでなく、複数の設計要素のそれぞれについての加算値の線形和を拘束条件とすることが含まれる。例えば、前記計測要素が一つの場合、前記計測値をE0とおき前記設計変数をΔE0とおけば、その計測要素のエネルギーが(E0+ΔE0)に等しくなることを拘束条件として、前記暫定入力パワーを演算することが考えられる。
また、前記計測要素が二つの場合、それぞれの計測要素についての前記計測値をE1,E2とおき前記設計変数をΔE1,ΔE2とおけば、それぞれの計測要素のエネルギーが(E1+ΔE1),(E2+ΔE2)に等しくなることを拘束条件として前記暫定入力パワーを演算してもよいし、それぞれの計測要素のエネルギーの合計が線形和(E1+ΔE1)+(E2+ΔE2)に等しくなることを拘束条件として、前記暫定入力パワーを演算してもよい。この場合、個々のエネルギーが拘束される代わりに、トータルのエネルギーが拘束されることになる。
(2)また、複数の前記暫定入力パワーのうち負の値を持つものの累計値に基づき、前記入力パワーを同定することが好ましい。この場合、前記累計値が小さいほど、適切な入力パワーに近いものと評価することが好ましい。
例えば、前記負のパワーの累計値が所定値以下となる前記設計変数を求め、これに基づいて前記入力パワーを同定することが考えられる。あるいは、前記累計値が最小となる前記設計変数を求め、これに基づいて前記入力パワーを同定することが考えられる。
なお、前記入力パワーは、角周波数毎に同定されることが好ましい。例えば、角周波数がある値に固定された状態で適切な入力パワーに近いものが評価され、その角周波数での評価が終了したらその角周波数が異なる値に設定されて、再び適切な入力パワーが評価される。このような評価が全ての角周波数について繰り返され、あらゆる角周波数に対して適切な入力パワーが評価される。
(3)また、複数の前記設計変数の累計値に基づき、前記入力パワーを同定することが好ましい。この場合、複数の前記設計変数の大きさ(絶対値)の累計値が大きく設定されたときに得られた暫定入力パワーよりも、複数の前記設計変数の大きさ(絶対値)の累計値が小さく設定されたときに得られた暫定入力パワーの方が、適切な入力パワーに近いものと評価することが好ましい。
(4)また、前記暫定入力パワーのうち負の値を持つものの累計値と前記設計変数の累計値(合算値)との和が最小となるときの前記暫定入力パワーに基づき、前記入力パワーを同定することが好ましい。例えば、前記設計変数の累計値(合算値)に係数αを乗じたものと、前記暫定入力パワーのうち負の値を持つものの累計値に係数γを乗じたものとの和が所定値以下(又は最小)となる前記暫定入力パワーを、前記入力パワーとして同定することが好ましい。
(5)また、以下に示すエネルギーの拘束式に基づき、前記計測要素のエネルギーを前記加算値で拘束した状態での前記複数の要素のそれぞれについての暫定エネルギーを算出することが好ましい。この拘束式は、ラグランジュの未定乗数法を用いてSEAモデルの総エネルギーを最小とするための条件を求めた後に、それらの条件を行列で表記したものである。
Figure 2014035679
(6)ここで開示する車両の音響振動解析装置は、統計的エネルギー解析手法を用いて車両に関する複数の要素間における音響又は振動の状態を解析する装置であって、前記複数の要素のうちの少なくとも一つの計測要素におけるエネルギーの計測値を取得する取得手段と、前記エネルギーの計測誤差に相当する設計変数を設定する設定手段とを備える。
また、少なくとも前記設計変数及び前記計測値の加算値を用いて前記計測要素のエネルギーを拘束した状態での前記要素間のエネルギー平衡に基づき、前記複数の要素への暫定入力パワーを演算する演算手段と、前記暫定入力パワー及びこれに対応する前記設計変数に基づき、前記複数の要素への入力パワーを同定する同定手段とを備える。
開示の車両の音響振動解析方法及び音響振動解析装置によれば、暫定入力パワー及びこれに対応する設計変数に基づく入力パワーの同定により、統計的エネルギー解析手法の解析モデルに適したエネルギー分布を把握することができ、入力パワーの同定精度を向上させることができる。例えば、現実には生じえない負の入力パワーが演算されてしまうような事態を回避することができ、音響,振動の伝達状態をより正確に解析することができる。
一実施形態に係る音響振動解析方法を説明するための模式図であり、(a)は車両が解析対象であるときの車両内部の要素(サブシステム)を例示する図、(b)は車両外部の要素(サブシステム)を例示する図である。 統計的エネルギー解析法(SEA)の解析モデルを示す概念図である。 一実施形態に係る音響振動解析装置の構成を例示するブロック図である。 音響振動解析方法の手順を例示するフローチャートである。 音響振動解析の結果として得られる各要素(サブシステム)の入力パワーを角周波数毎に示すグラフであり、(a)は本実施形態の手法によるもの、(b)は従来の手法によるものである。 各要素の入力パワーを用いて音圧レベルの分布状態を推定した演算結果を示すグラフである。
図面を参照して音響振動解析方法及び音響振動解析装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
[1.解析モデル]
本実施形態の音響振動解析方法,音響振動解析装置は、統計的エネルギー解析法(SEA)を用いて車両の複数の要素間における音響,振動の伝達状態を解析する方法,装置である。対象系は車両及び車両内外の空間とし、対象系の内部の要素数はrとする。以下、対象系のことをシステムとも呼び、要素のことをサブシステムとも呼ぶ。
図1(a),(b)のそれぞれに車両及びその内外部をモデル化した解析モデル20の一部を示す。ここでは、車体の左半分の要素に対応するモデルが図示されている。この解析モデル20では、図1(a)に示すように、車両を構成する天井パネルやフロントガラス,座席,インストルメントパネル,ダッシュパネル,ボンネットパネル等といった、それぞれの部材(又はそれらの部材の一部分)が、サブシステムの一つとされる。
また、それらの部材に囲まれた車室内の空間もサブシステムの一つとされる。さらに、車両に隣接する外部の空間についても、図1(b)に示すように適宜分割され、サブシステムの一つとされる。このように、解析モデル20では、サブシステムが平面や曲面として、あるいはそれらの面で囲まれた立体としてモデル化される。
本実施形態に係るシステムのSEA基礎式は、以下の式2で表現される。
Figure 2014035679
ロスファクタマトリクス[η]とは、内部損失率(ILF,Internal Loss factor)及び結合損失率(CLF,Coupling Loss Factor)の線形結合を成分とする行列である。また、エネルギーベクトル{E}は各サブシステムのエネルギーを成分としたベクトルであり、パワーベクトル{P}は各サブシステムの入力パワーを成分としたベクトルである。
ここで、図2に示すようにr個のサブシステムのそれぞれに1番からr番までの番号を付し、個々のサブシステムに入力される入力パワーをP1,P2,…Prとし、個々のサブシステムのエネルギーをE1,E2,…Erとする。また、1番目のサブシステムの内部損失率をη1,1とし、1番目のサブシステムから2番目のサブシステムへの結合損失率をη1,2とする。これらの記号を用いてSEA基礎式を行列及びベクトルで表現すると、以下の式3の通りとなる。
Figure 2014035679
一般に、SEAモデルの構築とは、システムのロスファクタマトリクス[η]を構成する内部損失率及び結合損失率を評価(算出)し、ロスファクタマトリクス[η]を生成することを意味する。内部損失率及び結合損失率の評価手法としては、例えば解析対象となる構造物のCADデータと波動理論とに基づいて解析解を理論的に求める解析SEAや、加振応答振動試験で取得されるデータを用いて損失率を演算する実験SEAなどが挙げられる。具体的なロスファクタマトリクス[η]の生成手法は任意であり、公知のさまざまな手法を適用することができる。本実施形態では、ロスファクタマトリクス[η]が予め与えられているものとする。
[2.アルゴリズム]
[2−1.暫定エネルギーベクトルの算出]
本実施形態では、以下の式4に示すエネルギーの拘束式に基づき、ラグランジュの未定乗数法を利用してシステム全体のエネルギーが算出され、そのエネルギーが式2のSEA基礎式に代入されて各サブシステムに入力される入力パワーが演算される。
ここで想定されている拘束条件は、例えばエネルギーが実測されたサブシステムについて、その実測されたエネルギーに所定の誤差が含まれており、誤差を含むエネルギーが定数であると仮定することである。また、エネルギーが実測された複数のサブシステムについて、それぞれのサブシステムでの誤差を含むエネルギーを加算したもの(線形和)が定数であると仮定することも考えられる。つまり、個々のサブシステムのエネルギーを拘束する代わりに、いくつかのサブシステムを一括りのユニットとみなしてそのユニット全体でのエネルギーを拘束してもよい。
あるいは、任意のサブシステムに対して入力パワーが入らない(Pr=0)と仮定してもよい。サブシステムのエネルギーについての線形和で表現される拘束条件であれば、どのような条件であっても本実施形態の拘束条件として適用することが可能である。
上記のような拘束条件下で、システム全体のエネルギーが平衡となる最小のエネルギー分布が算出され、拘束を満たす最小の入力パワーが同定される。
Figure 2014035679
式4から算出されるエネルギーのベクトルは、実測された実測エネルギーベクトル{E0}の各成分(実測エネルギーE0)に誤差エネルギーベクトル{ΔE0}の各成分(誤差エネルギーΔE0)が含まれるものと仮定したときのエネルギー平衡から求められるエネルギー値を成分とするベクトルである。実測エネルギーベクトル{E0}とは、一又は複数のサブシステムについてのエネルギーの計測値,実測値であり、角周波数ω毎に異なる値を持つ。以下、式4から算出されるエネルギーのベクトルのことを暫定エネルギーベクトル{Ez}とも呼び、暫定エネルギーベクトル{Ez}に含まれる個々の成分のことを暫定エネルギーEzとも呼ぶ。
また、暫定エネルギーベクトル{Ez}に対応する入力パワーベクトルのことを暫定入力パワーベクトル{Pz}とも呼び、暫定入力パワーベクトル{Pz}に含まれる個々の成分のことを暫定入力パワーPzとも呼ぶ。なお、ここでいう「暫定」とは、誤差を含む情報に基づく演算値であって、最終的な入力パワーが同定されるまでの間に使用される一時的な演算値であることを意味する。
誤差エネルギーΔE0は、ある実測エネルギーE0に含まれる誤差に相当するものである。実測エネルギーE0が角周波数ω毎に異なる値を持つのに対応して、誤差エネルギーΔE0も角周波数ω毎に異なる値を持つ。具体的な誤差エネルギーΔE0の大きさは任意であり、好ましくは実測エネルギーE0に対して±3[dB]程度の範囲内で設定される。
上記の式4中の[C]は、実測エネルギーE0が実測されたサブシステムの序数に対応する列で1をとり、他の列で0をとる連成マトリクスである。この連成マトリクス[C]の行数は拘束の数と同一であり、列数はサブシステム数と同一である。また、[C]Tは連成マトリクス[C]の転置行列である。例えば、r個のサブシステムのうち、第一番目及び第二番目のサブシステムについてのエネルギーE0,1,E0,2が実測された場合、連成マトリクス[C]及びその転置行列[C]Tは、式5,式6に示すように、1行目の第一番目の成分と2行目の第二番目とが1,他の成分が0の行列となる。したがってこの場合、上記の式4は以下の式7のように表現することができる。
Figure 2014035679
なお、上記の式4は、以下の式8に示すように、SEA基礎式において何れのサブシステムにも入力パワーが与えられていないことを示す式と、実測エネルギーベクトル{E0}及び誤差エネルギーベクトル{ΔE0}の加算値が固定されている(拘束されている)ことを示す数式とからなる連立方程式であるとみなすことができる。この連立方程式の解である暫定エネルギーベクトル{Ez}は、実測エネルギーベクトル{E0}と誤差エネルギーベクトル{ΔE0}との加算値のベクトル{E0+ΔE0}を拘束条件として、システム全体の入力パワーが最小となるようなエネルギー分布に相当する。
Figure 2014035679
[2−2.暫定入力パワーベクトルの演算]
本実施形態では、実測エネルギーベクトル{E0}と誤差エネルギーベクトル{ΔE0}との加算値のベクトル{E0+ΔE0}で拘束された暫定エネルギーベクトル{Ez}に対応する暫定入力パワーベクトル{Pz}が、誤差エネルギーΔE0の値毎に演算される。
例えば、-3[dB]〜+3[dB]の範囲で100種類の誤差エネルギーΔE0が設定された場合には、それぞれの誤差エネルギーΔE0に対応する100種類の暫定入力パワーベクトル{Pz}が演算される。また、誤差エネルギーΔE0が複数のサブシステムに対して与えられる場合には、各成分の組み合わせが異なる全ての誤差エネルギーベクトル{ΔE0}について、それぞれに対して暫定入力パワーベクトル{Pz}が演算される。
暫定エネルギーベクトル{Ez}及び暫定入力パワーベクトル{Pz}の関係は、上記の式2と同様に{Pz}=ω[η]{Ez}である。つまり、暫定入力パワーベクトル{Pz}は、式2の右辺に暫定エネルギーベクトル{Ez}を代入することで演算可能である。
また、暫定エネルギーベクトル{Ez}を算出することなく、直接的に暫定パワーベクトル{Pz}を演算することも考えられる。例えば、以下の式9に従って暫定入力パワーベクトル{Pz}を演算することができる。この式9は、式4を展開して式2に代入したものである。式9の右辺第一項は、誤差を考慮する前の入力パワーベクトルに相当し、右辺第二項は誤差による入力パワーの変動分を成分としたベクトルに相当する。
Figure 2014035679
なお、式10〜式12に示すように、実測エネルギーベクトル{E0}による入力パワーベクトルを{P0}とおき、式9の右辺第二項における二行二列の行列よりも前の部分をマトリクス[β]とおくと、式9の表示を以下のように簡素化することができる。
Figure 2014035679
[2−3.入力パワーベクトルの同定]
上記のような手法で演算された複数の暫定入力パワーベクトル{Pz}のうち、最もSEAモデルに適したものが入力パワーベクトル{P}として同定される。暫定入力パワーベクトル{Pz}の中から最適な入力パワーベクトル{P}を決定するための選別条件は多様に考えられるが、例えば以下に列挙する少なくとも一つ以上の条件とする。
条件1.暫定入力パワーベクトル{Pz}の成分に含まれる負のパワーの累計値が
所定値以下(又は最小)であるもの
条件2.誤差エネルギーΔE0の合算値が所定値以下(又は最小)であるもの
条件3.条件1の累計値と条件2の合算値との和が
所定値以下(又は最小)となるもの
条件4.条件1の累計値に係数αを乗じたものと条件2の合算値に係数γを
乗じたものとの和が、所定値以下(又は最小)となるもの
上記の条件1は、負のパワーの累計値が小さいほど、その暫定入力パワーベクトル{Pz}が適切な入力パワーベクトル{P}に近いと評価するものである。同様に、条件2は、誤差エネルギーΔE0の合算値が小さいほど、その暫定入力パワーベクトル{Pz}が適切な入力パワーベクトル{P}に近いと評価するものである。
条件3は、負のパワーの累計値及び誤差エネルギーΔE0の合算値の何れにも偏ることなく両方が小さいほど、その暫定入力パワーベクトル{Pz}が適切な入力パワーベクトル{P}に近いと評価するものである。さらに、条件4は、負のパワーの累計値と誤差エネルギーΔE0とのどちらをどの程度重視するかを、係数α,γの大きさで定義するものである。
複数の暫定入力パワーベクトル{Pz}のうち上記の選別条件を満たすものが、最終的に実測エネルギーベクトル{E0}が取得されたときにシステムに入力された入力パワーベクトル{P}として同定される。なお、条件4を判定するための条件式は、以下の式13のように表現することができる。式13は、例えば角周波数ω毎に演算される。式13の値が最小となるときの暫定入力パワーPzは、その角周波数ωでの適切な入力パワーベクトル{P}を構成する成分として同定される。
Figure 2014035679
式13中のα,γはそれぞれ重み関数(あるいは重み付け係数)であり、例えば0≦α≦1,0≦γ≦1といった範囲内の値を持つように、それぞれの値α,γが設定される。式13の第一項は誤差エネルギーの絶対値の累計値に相当し、第二項は負のパワーの累計値に相当する。誤差の絶対値の累計値は、誤差が与えられたサブシステムについての累計値である。一方、負のパワーの累計値は、全てのサブシステムについての累計値である。
[3.装置構成]
本実施形態の音響振動解析装置は、例えば音響振動解析用のコンピュータープログラム7を実行可能な汎用のコンピューターによって実現される。図3は、コンピューター10を用いて車両の音響振動解析装置を構成する場合の概略構成図である。
このコンピューター10(音響振動解析装置)は、CPU1(Central Processing Unit,中央処理装置),メモリ2〔Read Only Memory(ROM,読み出し専用メモリ),Random Access Memory(RAM,ランダムアクセスメモリ)等〕,外部記憶装置3〔Hard Disk Drive(HDD),Solid State Drive(SSD),光学ドライブ等〕,入力装置4(キーボード,マウス等)及び出力装置5(ディスプレイ,プリンター装置等)を備える。
これらは、コンピューター10の内部に設けられたバス6(制御バス,データバス等)を介して互いに通信可能に接続される。音響振動解析用のコンピュータープログラム7は、外部記憶装置3にインストールされる。このコンピュータープログラム7は、統計的エネルギー解析手法を用いて車両に関する複数の要素間における音響又は振動の状態を解析するプログラムを含むアプリケーションである。
CPU1は、外部記憶装置3にインストールされたプログラムをメモリ2上に読み込んで実行し、演算結果を出力装置5に出力する。解析モデルとなる車両や車室内,車両に隣接する外部空間等の全体形状は、例えば汎用の三次元CAD(Computer Aided Design)ソフトウェアで作成されたデータをコンピュータープログラム7に流用することによって、あるいは入力装置4からの入力によって設定される。また、解析の初期条件や境界条件,具体的なパラメーター設定値等は、入力装置4からの入力に基づいて、あるいは予め与えられた値として設定される。
音響振動解析のコンピュータープログラム7の機能を図3中に模式的に示す。このコンピュータープログラム7には、取得部7a,設定部7b,エネルギー算出部7c,入力パワー演算部7d,及び同定部7eが設けられる。なお、これらの各要素は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
取得部7a(取得手段)は、図1(a),(b)に示すようなサブシステムのうち、少なくとも一つのエネルギーの計測値を取得するものである。ここでいう計測値とは、上記のアルゴリズム中の実測エネルギーベクトル{E0}の各成分に相当するものであり、以下これを単に実測エネルギーE0とも呼ぶ。
ここでは、例えば図示しない音圧計で実測された音圧レベルの実測値に対応するエネルギーの値が取得される構成としてもよいし、加振応答振動試験を通じて予め取得されたデータから演算されるエネルギーの値が取得される構成としてもよい。あるいは、コンピューター10のユーザーが実測したエネルギーの値が入力装置4から入力され、その値が取得部7aに取得されるような制御構成としてもよい。ここで取得された実測エネルギーE0の値は、設定部7bに伝達される。
設定部7b(設定手段)は、取得部7aで取得された実測エネルギーE0に基づき、そのデータの計測誤差に相当する誤差エネルギーΔE0を設定するものである。この誤差エネルギーΔE0は、定数ではなく設計変数として設定される値である。ここでは、例えば実測エネルギーE0を中心とした-3[dB]〜+3[dB]の範囲内で、誤差エネルギーΔE0の値が設定される。また、後述する入力パワー演算部7dにおける暫定入力パワーの演算が一通り完了したときには、それまでとは異なる誤差エネルギーΔE0の値が設定される。
本実施形態では、角周波数ω毎に誤差エネルギーΔE0の値が異なる値に繰り返し設定され、それに合わせて暫定エネルギーEz及び暫定入力パワーPzの演算も角周波数ω毎に繰り返し実施される。ここで設定された誤差エネルギーΔE0の値は、エネルギー算出部7cに伝達される。
エネルギー算出部7c(算出手段)は、式4に示すエネルギーの拘束式に基づき、ラグランジュの未定乗数法を用いて暫定エネルギーEzを算出するものである。ここでは、実測エネルギーE0を計測したサブシステムのエネルギーが、実測エネルギーE0と誤差エネルギーΔE0との加算値(E0+ΔE0)であるものと仮定した状態で、全てのサブシステムのエネルギー分布が算出される。
例えば、実測エネルギーE0を計測対象が第一番目のサブシステムであり、実測値がE10だった場合には、第一番目のサブシステムのエネルギーE1が(E10+ΔE0)であるものと仮定される。このとき、E1=E10+ΔE0を拘束条件としてエネルギーの拘束式が解かれ、システム全体のエネルギーが平衡となる最小のエネルギーが算出される。ここで演算される各サブシステムのエネルギーは、上記の暫定エネルギーベクトル{Ez}の各成分に相当する。この暫定エネルギーベクトル{Ez}の値は、入力パワー演算部7dに伝達される。
なお、前述の通り、暫定エネルギーベクトル{Ez}の演算時の拘束条件は、実測エネルギーE0と誤差エネルギーΔE0との加算値(E0+ΔE0)のみに限定されない。サブシステムのエネルギーについての線形和で表現される拘束条件であれば、任意の拘束条件を適用することができる。
入力パワー演算部7d(演算手段)は、エネルギー算出部7cで算出された暫定エネルギーベクトル{Ez}に基づき、各サブシステムの暫定入力パワーを演算するものである。ここでは、式2の右辺に暫定エネルギーベクトル{Ez}を代入したときの入力パワーベクトルが、暫定入力パワーベクトル{Pz}として演算される。暫定エネルギーベクトル{Ez}の各成分は、角周波数ω毎に異なる値となることから、暫定入力パワーベクトル{Pz}の各成分も、角周波数ω毎に演算される。ここで演算された暫定入力パワーベクトル{Pz}の値は、同定部7eに伝達される。
また、解析条件となる全ての角周波数ωについての演算が終了したときには、その旨の情報が設定部7bに伝達される。したがって、一つの誤差エネルギーΔE0に対応する全ての暫定入力パワーベクトル{Pz}の演算が完了すると、誤差エネルギーΔE0の値がそれまでとは異なる値に再設定され、引き続き暫定エネルギーベクトル{Ez},暫定入力パワーベクトル{Pz}の演算が継続される。
同定部7e(同定手段)は、入力パワー演算部7dで演算された複数の暫定入力パワーベクトル{Pz}の中から、適切な入力パワーベクトル{P}を同定するものである。ここでは、上記の条件1〜条件4に示すように、暫定入力パワーベクトル{Pz}の成分や、暫定入力パワーベクトル{Pz}に対応する誤差エネルギーΔE0の値に基づき、最もSEAモデルに適した信頼性の高いものが選別され、入力パワーベクトル{P}として同定される。
なお、具体的な同定手法は多様に考えられる。例えば、上記の条件1を用いて第一段階の選別を実施し、その後、上記の条件2を用いて第二段階の選別を実施するといったように、多段階の選別の結果、最も信頼性の高いものを入力パワーベクトル{P}として同定してもよい。あるいは、上記の式9に示すように、誤差エネルギーΔE0の影響が比較的小さく、かつ、暫定入力パワーベクトル{Pz}の負の成分が少ないものを入力パワーベクトル{P}として同定してもよい。ここで同定された入力パワーベクトル{P}の情報は、外部記憶装置3に記録されるとともに出力装置5に出力される。
[4.フローチャート]
図4は、上記のコンピューター10がコンピュータープログラム7を実行する際の手順(音響振動解析方法)を模式的に示すフローチャートである。
ステップA10では、解析モデルや解析条件の初期設定が実行される。例えば、予め与えられたロスファクタマトリクス[η]が用意され、あるいは外部記憶装置3や入力装置4等から入力される。ここでは、ロスファクタマトリクス[η]が、解析条件となる全ての対象周波数のそれぞれに対して計算される。また、これらの対象周波数のうち、解析条件となる角周波数ωが設定される。
続くステップA20では、取得部7aにおいて実測エネルギーベクトル{E0}が取得される。例えば、試験,実験等により予め与えられた音圧レベルの実測値が取得部7aに読み込まれるとともに、それに対応する実測エネルギーE0の値が演算され、実測エネルギーベクトル{E0}が決定される。あるいは、実測エネルギーE0の値がコンピューター10のユーザーによって入力装置4から入力され、実測エネルギーベクトル{E0}が決定されて、取得部7aに伝達される。このとき取得される実測エネルギーベクトル{E0}は、所定の角周波数ωについてのベクトルである。
ステップA30では、設定部7bにおいて誤差エネルギーベクトル{ΔE0}が設定される。ここでは、実測エネルギーベクトル{E0}の各成分の値を中心とした-3[dB]〜+3[dB]の範囲内で、誤差エネルギーベクトル{ΔE0}の各成分の値が設定される。誤差エネルギーベクトル{ΔE0}も、実測エネルギーベクトル{E0}と同様に、角周波数ωに応じて異なる値に設定される。なお、誤差エネルギーΔE0は、一つの実測エネルギーE0に対して多段階の値を持つように制御される。実測エネルギーE0が複数存在する場合には、個々の実測エネルギーE0に対して別個に誤差エネルギーΔE0が設定される。
ステップA40では、エネルギー算出部7cにおいて暫定エネルギーベクトル{Ez}が算出される。ここでは、例えば上記の式4に示すエネルギーの拘束式に基づいて、実測エネルギーを計測したサブシステムのエネルギーが、実測エネルギーベクトル{E0}と誤差エネルギーベクトル{ΔE0}との加算値のベクトル{E0+ΔE0}の成分であるものと仮定した状態での暫定エネルギーベクトル{Ez}が算出される。
また、続くステップA50では、入力パワー演算部7dにおいて暫定入力パワーベクトル{Pz}が演算される。ここでは、前ステップで得られた暫定エネルギーベクトル{Ez}が上記の式2に代入されて、暫定入力パワーベクトル{Pz}が演算される。ここで演算された暫定入力パワーベクトル{Pz}は、角周波数ωとその時点での誤差エネルギーΔE0とともに、メモリ2や外部記憶装置3等に記録される。なお、上記の式9に基づいて暫定入力パワーベクトル{Pz}を求める場合には、ステップA40を省略してもよい。
ステップA60では、同定部7eにおいて入力パワーが同定される。ここでは、上記の式13に示すような条件式で、暫定入力パワーベクトル{Pz}が比較される。比較対象とされる暫定入力パワーベクトル{Pz}は、異なる誤差エネルギーベクトル{ΔE0}に基づいて演算された暫定入力パワーベクトル{Pz}であり、例えば前回の演算周期で得られた暫定入力パワーベクトル{Pz}である。
このステップでは、誤差エネルギーΔE0の絶対値を累積した値と暫定入力パワーベクトル{Pz}の負の成分を累計した値との和が前者及び後者の双方について演算される。前者は、拘束されたサブシステム(添え字i)にわたる累計値であり、後者は、全てのサブシステム(添え字j)にわたる累計値である。これらの二種類の累計値の和が小さい一方は他方よりも適切な暫定入力パワーベクトル{Pz}であると判断される。このとき、適切であると判断されなかった方の暫定入力パワーベクトル{Pz}の情報は、メモリ2や外部記憶装置3等から削除してもよい。
ステップA70では、ステップA10で設定された角周波数ωについて、全ての誤差エネルギーΔE0の組み合わせに基づく暫定入力パワーベクトル{Pz}の演算が完了したか否かが判定される。つまりここでは、実測エネルギーベクトル{E0}の各成分(0以外の値を持つ成分)について、-3[dB]〜+3[dB]の誤差を与えたときの暫定入力パワーベクトル{Pz}が全て演算されたか否かが判定される。この判定条件が成立しない場合にはステップA90に進み、誤差エネルギーベクトル{ΔE0}がそれまでの値とは異なる値へと更新されたのち、制御がステップA40へと進む。
このような演算が繰り返されることで、その角周波数ωで誤差エネルギーΔE0を累積した値と暫定入力パワーベクトル{Pz}の負の成分を累計した値との和が最小となる暫定入力パワーベクトル{Pz}が選別されて残留し、これが最終的な入力パワーベクトル{P}として同定されることになる。
また、ステップA70での判定条件が成立した場合には、ステップA80に進む。ステップA80では、全ての角周波数ωについての演算が完了したか否かが判定される。この判定条件が成立しない場合にはステップA100に進み、角周波数ωがそれまでの値とは異なる値へと更新されたのち、制御がステップA20へと進む。この場合、ステップA20では角周波数ωが変更されているため、実測エネルギーベクトル{E0}の値も異なるものが取得されることになる。
また、続くステップA30においても、前回の演算周期とは異なる誤差エネルギーΔE0が設定される。このような演算が繰り返されることで、解析条件となる全ての角周波数ωについての最適な入力パワーベクトル{P}が演算される。
[5.作用,効果]
図5(a)は、上記の手法で同定された各サブシステムの入力パワー(入力パワーベクトル{P}の各成分)を角周波数ω毎にプロットしたグラフである。一方、図5(b)は、従来の手法で同定された入力パワーを示し、これは上記の手法で誤差エネルギーΔE0が0であるものとして同定される入力パワーに相当するものである。これらの図中では、一本の折れ線グラフが一つのサブシステムの入力パワーの分布に対応し、複数のサブシステムの入力パワーの分布が重ねて表示されている。
従来の手法で同定された入力パワーの一部は、図5(b)に示すように、特定の角周波数ωで大きく負の値を示している。しかし、実現象では入力パワーが負になることは考えられない。これに対して、上記の手法で同定された入力パワーは、図5(a)に示すように、負の入力パワーが大きく減少している。SEAモデルの精度により若干の負の入力パワーが残存しているものの、従来の手法と比較して負の入力パワーの絶対値が極めて小さい。このように上記の手法によれば、適切な入力パワーが演算される。
図6は、演算された入力パワーを用いて音圧レベルの分布状態を推定した演算結果を示すものである。図6中の実線(太実線,中実線,細実線)は、上記の手法で誤差エネルギーΔE0の値を固定した場合に得られた入力パワーに基づくものであり、破線は従来の手法で同定された入力パワーに基づくものである。なお、太実線,中実線,細実線の順に誤差エネルギーΔE0の値を大きくしている。
従来の手法で同定された入力パワーに基づく音圧レベルの分布は、幾つかの周波数帯での音圧が負となり、音響,振動の状態を精度良く評価することができない。例えば、図6中に符号X,Yで示す角周波数領域では評価不能となり、結果としてトータルの音響,振動特性を精度よく把握することができない。これに対し、上記の手法で同定された入力パワーを用いた場合には、全周波数帯にわたって情報の欠落のない適切な音圧レベルの分布が得られていることがわかる。
(1)上述の通り、上記の車両の音響振動解析方法及び音響振動解析装置では、暫定入力パワーベクトル{Pz}とこれに対応する誤差エネルギーΔE0に基づいて、適切な入力パワーベクトル{P}が同定される。これにより、SEAモデルに適した入力パワーやエネルギーの分布を把握することができ、すなわち入力パワーの同定精度を向上させることができる。したがって、音圧レベルの推定精度を向上させることができ、音場,振動場を精度良く把握することができる。
例えば、図5(a)に示すように、現実には生じえない負の入力パワーが演算されてしまうような事態を回避することができる。これにより、図6に示すように、音響振動の状態をより正確に解析することができる。
(2)また、上記の音響振動解析方法及び音響振動解析装置では、例えば条件1,条件3及び条件4に示すように、暫定入力パワーベクトル{Pz}に含まれる負の成分の累計値に基づいて、適切な入力パワーベクトル{P}が同定される。これにより、実車両をSEAモデルへとモデル化したことによって失われた情報に着目して暫定入力パワーベクトル{Pz}を評価することができ、暫定入力パワーベクトル{Pz}を適切に選別することができる。したがって、入力パワーベクトル{P}の同定精度を向上させることができる。
(3)また、上記の音響振動解析方法及び音響振動解析装置では、例えば条件2,条件3及び条件4に示すように、誤差が与えられたサブシステムについての誤差エネルギーΔE0の合算値に基づいて入力パワーベクトル{P}が同定される。これにより、誤差エネルギーΔE0の影響の大きさを考慮して、適切な入力パワーベクトル{P}を同定することができる。
例えば、ある誤差エネルギーΔE0を与えたときに得られる暫定入力パワーベクトル{Pz}について、その暫定入力パワーベクトル{Pz}に負の成分がほとんど含まれなかったとしても、その誤差エネルギーΔE0の値が過大であれば、暫定エネルギーベクトル{Ez}が本来のエネルギーベクトル{E}からかけ離れた値を持つこととなり、演算結果の信頼性が低下する。
これに対し、本実施形態では誤差エネルギーΔE0の合算値が考慮されるため、誤差エネルギーΔE0が大きくなりすぎない範囲で、入力パワーベクトル{P}が同定されることになる。したがって、入力パワーベクトル{P}の同定精度を向上させることができる。
(4)また、上記の音響振動解析方法及び音響振動解析装置では、式13に示すように、角周波数ω毎に誤差エネルギーΔE0を累積した値と暫定入力パワーベクトル{Pz}の負の成分を累計した値との和が最小となるような暫定入力パワーベクトル{Pz}が、最適な入力パワーベクトル{P}として同定される。これにより、誤差エネルギーΔE0と負の入力パワーとの双方の影響を考慮して入力パワーベクトル{P}を同定することができる。したがって、入力パワーの同定精度を向上させつつ、可能な限り、計測誤差を小さくすることができ、入力パワーの同定精度を著しく向上させることができる。
(5)また、上記の音響振動解析方法及び音響振動解析装置では、式4に示すように、エネルギーの実測値E0と誤差エネルギーΔE0との加算値を拘束条件として暫定エネルギーベクトル{Ez}や暫定入力パワーベクトル{Pz}が演算される。これにより、SEAモデル上で矛盾なく分布するエネルギーを精度よく求めることができ、入力パワーの同定精度を向上させることができる。
[6.変形例]
上述の実施形態では、図1(a),(b)に示すように、車両全体をモデル化して音響振動解析の対象としたものを例示したが、具体的な解析モデルの対象はこれに限定されない。少なくとも、車両を構成する一又は複数の要素でSEAモデルを構築すれば、上記の音響振動解析方法及び音響振動解析装置を適用することができる。
また、上述の実施形態では、式13に示すように、誤差エネルギーΔE0の大きさと暫定入力パワーベクトル{Pz}の負の成分との双方の影響を考慮して入力パワーベクトル{P}を同定するものを例示したが、具体的な入力パワーの同定条件はこれに限定されない。例えば、式13中の重み関数αの値を0に設定した場合には、誤差エネルギーΔE0の大小に関わらず、複数の暫定入力パワーベクトル{Pz}のうち最も負の成分の累計値が小さいものが最適なパワーベクトル{P}として同定される。反対に、重み関数γの値を0に設定した場合には、負のパワーの累計値の大小に関わらず、誤差エネルギーΔE0が最も小さいものが最適なパワーベクトル{P}として同定される。このように、重み関数α,γの設定を変更することにより、入力パワーの同定条件を多様に変化させることができる。
また、上述の実施形態のフローチャートでは、ステップA10において全ての対象周波数のそれぞれに対してロスファクタマトリクス[η]を計算するものを例示したが、角周波数ωが更新される度にロスファクタマトリクス[η]を計算するような演算構成としてもよい。つまり、ロスファクタマトリクス[η]の計算を角周波数ω毎に行ってもよい。少なくとも、ロスファクタマトリクス[η]が周波数依存を持つことを考慮して適切なロスファクタマトリクス[η]を用意し、これを暫定エネルギーベクトル{Ez}や暫定入力パワーベクトル{Pz}の演算に反映することで、上述の実施形態と同様の作用,効果を奏するものとなる。
また、上述の実施形態では、一つのサブシステムで計測された実測エネルギーE0についての誤差エネルギーΔE0を設計変数として入力パワーを同定する手法について詳述したが、複数の実測エネルギーE0についての誤差エネルギーΔE0を設計変数として入力パワーを同定してもよい。例えば、二種類の実測エネルギーE0,1,E0,2を取得した場合には、それぞれに対する誤差エネルギーΔE0,1,ΔE0,2を設定し、『E0,1+ΔE0,1=0』,『E0,2+ΔE0,2=0』という二つの拘束条件下で暫定エネルギーベクトル{Ez}及び暫定入力パワーベクトル{Pz}を演算すればよい。
また、実測エネルギーE0,1,E0,2をそのまま拘束条件として適用するのではなく、これらの線形和で表現される拘束条件を適用することで暫定エネルギーベクトル{Ez}及び暫定入力パワーベクトル{Pz}を演算してもよい。少なくとも、サブシステムのエネルギーについての線形和で表現される拘束条件であれば、どのような条件であっても本実施形態の拘束条件として適用することが可能である。
例えば、第一番目及び第二番目のサブシステムの実測値のそれぞれを拘束条件とし、かつ、第一番目のサブシステムには入力パワーが入らないことも拘束条件とするような場合、前述の式4は以下の式14のように表現することができる。
Figure 2014035679
式14中の特定ロスファクタマトリクス[ηx]とは、ロスファクタマトリクス[η]のうち、入力パワーが入らないと仮定したサブシステムの序数に対応する行のみを備えたマトリクスである。また、[η]Tは特定ロスファクタマトリクス[ηx]の転置行列である。したがって、上記の式14は以下の式15のように表現することができる。これらの式14,式15から暫定エネルギーベクトル{Ez}を演算し、暫定入力パワーベクトル{Pz}を求めることができる。
Figure 2014035679
また、上述の実施形態では、図4に示すような手順で入力パワーベクトル{P}を同定する制御を例示したが、具体的な入力パワーベクトル{P}の同定手法はこれに限定されない。例えば、遺伝的アルゴリズムなどの最適化計算を実施して、式13に示される条件式を最小とする暫定入力パワーPzを演算してもよい。
7 コンピュータープログラム
7a 取得部(取得手段)
7b 設定部(設定手段)
7c エネルギー算出部(算出手段)
7d 入力パワー演算部(演算手段)
7e 同定部(同定手段)
10 コンピューター(音響振動解析装置)

Claims (6)

  1. 統計的エネルギー解析法を用いて車両の複数の要素間における音響,振動の状態を解析する方法であって、
    前記複数の要素のうちの少なくとも一つの計測要素におけるエネルギーの計測値を取得し、
    前記エネルギーの計測誤差に相当する設計変数を設定し、
    少なくとも前記設計変数及び前記計測値の加算値を用いて前記計測要素のエネルギーを拘束した状態での前記要素間のエネルギー平衡に基づき、前記複数の要素への暫定入力パワーを演算し、
    前記暫定入力パワー及びこれに対応する前記設計変数に基づき、前記複数の要素への入力パワーを同定する
    ことを特徴とする、車両の音響振動解析方法。
  2. 複数の前記暫定入力パワーのうち負の値を持つものの累計値に基づき、前記入力パワーを同定する
    ことを特徴とする、請求項1記載の車両の音響振動解析方法。
  3. 複数の前記設計変数の累計値に基づき、前記入力パワーを同定する
    ことを特徴とする、請求項1又は2記載の車両の音響振動解析方法。
  4. 前記暫定入力パワーのうち負の値を持つものの累計値と前記設計変数の累計値との和が最小となるときの前記暫定入力パワーに基づき、前記入力パワーを同定する
    ことを特徴とする、請求項2記載の車両の音響振動解析方法。
  5. 以下に示すエネルギーの拘束式に基づき、前記計測要素のエネルギーを前記加算値で拘束した状態での前記複数の要素のそれぞれについての暫定エネルギーを算出する
    ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の車両の音響振動解析方法。
    Figure 2014035679
  6. 統計的エネルギー解析手法を用いて車両に関する複数の要素間における音響又は振動の状態を解析する装置であって、
    前記複数の要素のうちの少なくとも一つの計測要素におけるエネルギーの計測値を取得する取得手段と、
    前記エネルギーの計測誤差に相当する設計変数を設定する設定手段と、
    少なくとも前記設計変数及び前記計測値の加算値を用いて前記計測要素のエネルギーを拘束した状態での前記要素間のエネルギー平衡に基づき、前記複数の要素への暫定入力パワーを演算する演算手段と、
    前記暫定入力パワー及びこれに対応する前記設計変数に基づき、前記複数の要素への入力パワーを同定する同定手段と
    を備えたことを特徴とする、車両の音響振動解析装置。
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