JP2014004519A - ガス吸着材 - Google Patents

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友佑 向江
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Abstract

【課題】 優れたガス吸蔵能を有するガス吸着材を提供すること。
【解決手段】 金属イオンを含有する複数の金属クラスター及び前記金属クラスター間を架橋する少なくとも1つの多座配位子を含有する金属有機構造体を含むガス吸着材であって、
前記金属有機構造体が、2価以上の元素からなる群から選択される少なくとも1つの添加元素を含有しており、
前記多座配位子が、ベンゼン環を形成する炭素原子及び水素原子からなる群から選択される少なくとも1つの原子が13族元素の原子に置換された芳香環を有していること、
を特徴とするガス吸着材。
【選択図】 なし

Description

本発明は、ガス吸着材に関し、より詳しくは、金属有機構造体を含むガス吸着材に関する。
金属有機構造体(Metal Organic Frameworks:MOF)は、均一な細孔と非常に大きな比表面積を有する多孔質の構造体であり、近年、炭化水素(HC)等を吸蔵するガス吸蔵材や、二酸化炭素(CO)及びHCの混合ガスからCOを選択的に吸着するといったガス分離材としての応用が期待されている。
このような金属有機構造体としては、例えば、特許文献1(米国特許出願公開第2005/0192175号明細書)において、MO(COクラスター(Mは金属カチオン)を含有する2次構造単位と、置換されたフェニル基を有する2価のカルボン酸塩からなりかつ前記2次構造単位を結合する化合物とからなる網状構造の金属有機構造体が記載されている。
また、特許文献2(米国特許出願公開第2009/0005243号明細書)には、ZnO等の金属クラスターとフェニル環を含む多座配位子とからなる金属有機構造体において、水素の吸蔵量を増加させることを目的として陽性ドーパントやアルカリドーパントを含有させることが記載されている。
さらに、特許文献3(特開2012−6854号公報)には、3価の金属イオンと芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成されかつリチウムを含有する金属錯体を含む金属有機構造体が記載されている。また、特許文献4(米国特許出願公開第2011/0236301号明細書)には、共有結合性有機構造体(Covalent Organic Frameworks:COF)において、リチウムやマグネシウム等を添加することが記載されている。
しかしながら、従来の金属有機構造体においては、特許文献2〜3に記載されているような添加元素等によってある程度ガス吸蔵能を向上させることができるもののガス吸蔵量は未だ十分なものではなく、また、得られるガス分離能も未だ十分なものではなかった。
米国特許出願公開第2005/0192175号明細書 米国特許出願公開第2009/0005243号明細書 特開2012−6854号公報 米国特許出願公開第2011/0236301号明細書
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、優れたガス吸蔵能を有するガス吸着材を提供することを目的とし、さらに、ガス分離能をも発揮することが可能なガス吸着材を提供することを目的する。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、金属イオンを含有する複数の金属クラスター及び前記金属クラスター間を架橋する少なくとも1つの多座配位子を含む金属有機構造体において、前記多座配位子をベンゼン環を形成する炭素原子及び水素原子からなる群から選択される少なくとも1つの原子が13族元素の原子に置換された芳香環を有する多座配位子とし、2価以上の元素からなる群から選択される少なくとも1つの添加元素と組み合わせることにより、前記添加元素の電荷が上昇して炭化水素等の気体分子との相互作用エネルギーが増大し、ガス吸蔵能が向上することを見出した。
さらに、本発明者らは、このように電荷が上昇した添加元素は前記添加元素の周囲の気体分子を分極させるため、分極率の大小によって複数の気体分子を高精度で分離することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のガス吸着材は、
金属イオンを含有する複数の金属クラスター及び前記金属クラスター間を架橋する少なくとも1つの多座配位子を含有する金属有機構造体を含むガス吸着材であって、
前記金属有機構造体が、2価以上の元素からなる群から選択される少なくとも1つの添加元素を含有しており、
前記多座配位子が、ベンゼン環を形成する炭素原子及び水素原子からなる群から選択される少なくとも1つの原子が13族元素の原子に置換された芳香環を有していること、
を特徴とするものである。
また、本発明のガス吸着材においては、前記芳香環が、ベンゼン環を形成する炭素原子からなる群から選択される少なくともいずれか1つの原子が13族元素の原子に置換された芳香環であることが好ましく、さらに、前記13族元素がホウ素であることが好ましい。
また、本発明のガス吸着材においては、前記添加元素がマグネシウムであることが好ましく、さらに、前記金属クラスターがZnOであり、かつ、前記多座配位子が2座配位子であることが好ましい。
また、本発明のガス吸着材としては、前記芳香環が前記添加元素の電荷を上昇させることによって、前記添加元素と前記金属有機構造体に供給される気体分子との間の相互作用エネルギーを増大させ、前記気体分子を吸蔵するものであることが好ましい。
さらに、本発明のガス吸着材としては、前記芳香環が前記添加元素の電荷を上昇させることによって、前記添加元素が前記金属有機構造体に供給される混合ガスに含まれる少なくとも2種の気体分子をそれぞれ分極させ、分極率の大小により前記混合ガスを分離するものであることが好ましい。
なお、本発明のガス吸着材によって前記目的が達成される理由について、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明においては、金属有機構造体の金属クラスター間を架橋する多座配位子におけるベンゼン環の一部を炭素原子よりも価電子数が少ない13族元素の原子に置換し、このような13族元素が含有され、電子が不足する芳香環を含む金属有機構造体に2価以上の添加元素を含有させる。これにより、前記添加元素が酸化されて電荷が上昇し、周囲に生じる電場の強さが増大して近くに存在する炭化水素等の気体分子を分極させる。したがって、添加元素と気体分子との間の相互作用エネルギーが増大して添加元素の周囲により多くの気体分子を引きつけることができ、金属有機構造体により多くのガスが吸蔵されるものと本発明者らは推察する。
また、気体分子の分極の大きさは気体分子に固有の分極率によって決まるが、該分極率に依存して前記添加元素と気体分子との間の相互作用エネルギーの大きさも変化する。本発明においては、前述のように電荷が上昇した添加元素は該添加元素の周囲の気体分子を分極させるため、各気体分子の分極率の大小に応じて、分極率の小さい気体分子は通過させつつ、分極率の大きい気体分子をより選択的に吸着することができる。したがって、このような金属有機構造体を含む本発明のガス吸着材においては、優れたガス分離能も発揮されるものと本発明者らは推察する。
本発明によれば、優れたガス吸蔵能を有するガス吸着材を提供することが可能となる。
実施例1における金属有機構造体の格子定数と全エネルギーとの関係を示すグラフである。 実施例1における金属有機構造体の結晶構造を示す模式図である。 図2に示す金属有機構造体の結晶構造における細孔部の拡大図である。 図3に示す金属有機構造体の結晶構造における亜鉛クラスター部の拡大図である。 図3に示す金属有機構造体の結晶構造におけるホウ素置換テレフタル酸配位子及びマグネシウム原子の拡大図である。 実施例1における金属有機構造体及びメタン間距離を示す模式図である。 比較例1における金属有機構造体及びメタン間距離を示す模式図である。 比較例2における金属有機構造体及びメタン間距離を示す模式図である。 実施例1及び比較例1〜2における金属有機構造体及びメタン間の相互作用エネルギー曲線を示すグラフである。 実施例1〜3及び比較例3〜5の金属有機構造体における電荷の大きさを示すグラフである。 実施例1及び比較例1〜2におけるメタン吸着エネルギーの分割解析結果を示すグラフである。 実施例1及び比較例1〜2の金属有機構造体における圧力とメタン吸蔵量との関係を示すグラフである。 実施例1〜2の金属有機構造体における圧力とメタン吸蔵量との関係を示すグラフである。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明のガス吸着材は、
金属イオンを含有する複数の金属クラスター及び前記金属クラスター間を架橋する少なくとも1つの多座配位子を含有する金属有機構造体を含むガス吸着材であって、
前記金属有機構造体が、2価以上の元素からなる群から選択される少なくとも1つの添加元素を含有しており、
前記多座配位子が、ベンゼン環を形成する炭素原子及び水素原子からなる群から選択される少なくとも1つの原子が13族元素の原子に置換された芳香環を有していること、
を特徴とする。
本発明に係る金属クラスターは、少なくとも1つの金属イオンを含有する構造単位であり、前記金属イオンの数としては、1〜10個であることが好ましい。また、酸素イオン(O2−)、硫酸イオン(SO 2−)、亜硫酸イオン(HSO )、硝酸イオン(NO )、亜硝酸イオン(NO )、塩素イオン(Cl)、臭素イオン(Br)、ヨウ素イオン(I)及びこれらの混合物を更に含有していてもよい。前記金属イオンとしては、Zn2+、Li、Nd、K、Rb、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Sc3+、Y3+、Ti4+、Zr4+、Hf4+、V4+、V3+、V2+、Nb3+、Ta3+、Cr3+、Mo3+、W3+、Mn3+、Mn2+、Re2+、Fe3+、Fe2+、Ru3+、Ru2+、Co3+、Co2+、Rh2+、Rh、Ir2+、Ir、Ni2+、Ni、Pd2+、Cu2+、Al3+、Pt4+等が挙げられ、これらの中でも、配位数が4以上になると3次元的フレームワークを形成する傾向にあるという観点から、Zn2+、Co3+、Co2+、Mg2+、Al3+、Cr3+、Mn3+、Mn2+、Fe3+、Fe2+、Ni2+、Pt4+が好ましく、Zn2+がより好ましい。
また、このような金属クラスターとしては、下記一般式(1):
・・・(1)
で表わされるクラスターであることが好ましい。式(1)中、Mは前記金属イオンを示し、Xは酸素原子、窒素原子及び硫酸原子からなる群から選択される少なくとも1つの原子を含む陰イオンを示し、mは前記金属イオンの数であって1〜10の整数を示し、nは前記陰イオンの数であって前記金属イオンとの荷電平衡によって決まる整数を示す。これらの中でも、本発明に係る金属クラスターとしては、二座配位子と組み合わせた場合にガス吸着材として優れた構造を形成することができるという観点から、ZnOで表わされる正四面体構造のクラスターであることが好ましい。
本発明に係る多座配位子は、複数の前記金属クラスター間を配位結合により架橋する配位子であり、ベンゼン環を形成する炭素原子及び水素原子からなる群から選択される少なくとも1つの原子が13族元素の原子に置換された芳香環(以下、場合により13族元素含有芳香環という。)を有している。このようにベンゼン環の一部を炭素原子よりも価電子数が少ない13族元素の原子に置換することにより、添加元素の電荷を上昇させ、炭化水素等の気体分子との相互作用エネルギーを増大させることができる。さらに、本発明に係る多座配位子としては、価電子数が芳香族性を有するために必要な価電子数よりも少なくなることにより酸化力がより増大する傾向にあるという観点から、前記13族元素含有芳香環が、ベンゼン環を形成する炭素原子からなる群から選択される少なくともいずれか1つの原子が13族元素の原子に置換された芳香環であることが好ましい。
前記ベンゼン環としては、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェノール基、フェナントリレン基、ピレニレン基及びこれらが組み合わされた基におけるベンゼン環が挙げられ、これらの中でも、安定な金属有機構造体を得られるという観点から、フェニレン基におけるベンゼン環が好ましい。さらに、本発明に係る多座配位子としては、2価の添加元素から2個の価電子を奪うことができるという観点から、前記13族元素含有芳香環が、下記一般式(2):
[式(2)中、Aは13族元素を示す。]
で表わされる、フェニレン基を形成する炭素原子のうち、水素原子が結合する4つの炭素原子が13族元素の原子に置換された芳香環であることがより好ましい。
また、前記13族元素としては、周期が小さい程炭素との結合エネルギーが大きくなる傾向にあるという観点から、ホウ素、アルミニウムが好ましく、ホウ素がより好ましい。
さらに、本発明に係る多座配位子としては、2座配位子であっても3座以上の配位子であってもよいが、前記金属クラスターがZnOである場合により安定でガス吸着材として優れた構造を形成することができるという観点から、2座配位子であることが好ましい。
また、このような多座配位子としては、12〜60個の原子からなるものであることが好ましく、15〜30個の原子からなるものであることがより好ましい。前記下限値は、芳香環及び2つ以上の配位子を含むことができる最小値である。他方、構成する原子の数が前記上限を超えると、金属クラスター間の距離が大きくなるため、相互貫入が起きたり十分なガス吸着能及びガス分離能が発揮されなくなる傾向にある。
このような多座配位子は、カルボキシ基、アミノ基、スルホ基、チオール基等の配位可能な基を少なくとも2つと、前記13族元素含有芳香環を少なくとも1つ有する化合物を前記金属クラスター中の金属に配位させることにより得ることができる。このような化合物としては、より安定な金属有機構造体を得ることができ、また、炭化水素吸蔵量がより増大する傾向にあるという観点から、テレフタル酸中のベンゼン環を形成する炭素原子が13族元素に置換された化合物であることが好ましい。
また、このようにして得られる本発明に係る多座配位子としては、下記式(3):
で表わされる、テレフタル酸中のベンゼン環を形成する4つの炭素原子がホウ素に置換された化合物から得られる配位子が特に好ましい。
本発明に係る金属有機構造体は、2価以上の元素からなる群から選択される少なくとも1つの添加元素を更に含有している。このような添加元素は前記13族元素含有芳香環により電荷が上昇するため、炭化水素等の気体分子との間の相互作用エネルギーを増大させることができる。他方、リチウムのような価数が前記下限未満の元素では、電荷の上昇率が小さくなるために十分なガス吸蔵能及びガス分離能が発揮されない。
このような添加元素としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、バナジウム、ニッケル、水銀、亜鉛、マンガン、鉄、銅、コバルト、カドミウム、ストロンチウム、スズ、鉛等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、これらはイオンの状態であってよい。
また、通常は添加元素の原子のイオン半径が小さい程クーロン力が大きくなって気体分子との相互作用エネルギーの増大に寄与すると考えられるが、前記2価以上の添加元素の中でも、ベリリウムのようにイオン半径の小さい原子を添加した場合には、前記多座配位子中の芳香環における水素原子、炭素原子、13族元素の原子と気体分子との反発力が大きくなり、相互作用エネルギーが小さくなる傾向にあることを本発明者らは見出した。したがって、本発明に係る添加元素としては、多座配位子中の芳香環と気体分子との間の反発力が減少してさらにガス吸蔵量が向上する傾向にあるという観点から、マグネシウム、カルシウムが好ましく、マグネシウムがより好ましい。
本発明に係る金属有機構造体において、前記金属クラスターと前記多座配位子とのモル比としては、前記金属クラスター及び前記多座配位子の種類に依存するものであるため、一概には言えないが、例えば、前記金属クラスターとしてZnOを用い、前記多座配位子として前記式(3)で表わされる配位子を用いた場合には、前記モル比(金属クラスターのモル数:多座配位子のモル数)としては、1:3であることが好ましい。
前記添加元素の添加量としては、前記金属クラスターと前記多座配位子との合計質量に対して5〜30質量%であることが好ましく、6〜20質量%であることがより好ましい。添加量が前記下限未満である場合には、吸着点が少なくなるために吸蔵量が減少する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、金属クラスターが細孔を塞ぐために吸蔵量が減少する傾向にある。
また、前記添加元素の添加量としては、前記金属有機構造体に前記13族元素含有芳香環として含まれる13族元素とのモル比(13族元素のモル数:添加元素のモル数)が1:10〜10:1であることが好ましく、1:1〜2:1であることがより好ましい。添加量が前記下限未満である場合には、吸着点が少なくなるためにガス吸蔵量が減少する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、添加元素が金属クラスターを形成して細孔を塞ぐためにガス吸蔵量が減少する傾向にある。
本発明に係る金属有機構造体としては、前記金属クラスター、前記多座配位子、及び前記添加元素の他に、水、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、クロロホルム等の他の化合物を更に含有していてもよい。これらの他の化合物を含有する場合、その含有量としては、前記金属有機構造体全体に対して0.01質量%以下であることが好ましい。
本発明のガス吸着材は、このような金属有機構造体を含むものである。本発明に係る金属有機構造体は前述のように優れたガス吸蔵能を有し、また、優れたガス分離能を発揮することが可能であるので、ガス吸着材として使用することができる。
本発明のガス吸着材としては、前記金属有機構造体のうちの1種を単独で含んでいても2種以上を組み合わせて含んでいてもよく、他の構造体を更に含んでいてもよい。このような他の構造体としては、例えば、セリア−ジルコニア複合酸化物、セリア−イットリア−ジルコニア複合酸化物等の複合金属酸化物等が挙げられる。これらの他の構造体を含有する場合、その含有量としては、本発明に係る金属有機構造体100質量部に対して3質量部以下であることが好ましい。
本発明のガス吸着材は、前記芳香環が前記添加元素の電荷を上昇させることによって、前記添加元素と前記金属有機構造体に供給される気体分子との間の相互作用エネルギーを増大させ、前記気体分子を吸蔵するものであることが好ましい。このように吸蔵することができる気体分子としては、メタン、プロパン等の炭化水素;二酸化炭素;水素;窒素が挙げられる。
また、本発明のガス吸着材は、前記芳香環が前記添加元素の電荷を上昇させることによって、前記添加元素が前記金属有機構造体に供給される混合ガスに含まれる少なくとも2種の気体分子をそれぞれ分極させ、分極率の大小により前記混合ガスを分離するものであることが好ましい。このような混合ガスとしては、特に制限されないが、例えば、二酸化炭素とメタンとの混合ガスが挙げられ、分極率の違いにより、より分極率が大きくなる二酸化炭素のみを選択的に吸着して分離することができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明及び図面(図2〜図8)中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
(実施例1)
金属クラスターとしてZnO、多座配位子として上記式(3)で表わされる、テレフタル酸中のベンゼン環を形成する4つの炭素原子がホウ素に置換された化合物からなる配位子(ホウ素置換テレフタル酸配位子)、添加元素としてマグネシウムをそれぞれ用いた金属有機構造体(マグネシウム添加ホウ素置換MOF)の結晶構造を、固体量子力学計算ソフト「Quantum Espresso」によって、交換相関汎関数としてPerdew−Wang 1991汎関数(PW91)を用いて作製した。金属有機構造体の結晶構造における格子定数(Å)と全エネルギー(Ry)との関係を図1に示す。これより、格子定数を最適化した結果、全エネルギーが極小値となるときの格子定数は26.8Åであった。
得られた金属有機構造体(マグネシウム添加ホウ素置換MOF)の結晶構造の模式図を図2〜図5に示す。実施例1における金属有機構造体は、亜鉛クラスター(ZnO)を節、ホウ素置換テレフタル酸配位子を柱とする立方体格子型の網状構造であり、マグネシウム原子がホウ素置換テレフタル酸配位子の芳香環の近傍に保持されていることが確認された(図2〜3)。また、前記亜鉛クラスターは、体心立方格子の頂点に位置する4つの亜鉛原子1及びその中心に位置する酸素原子2からなる構造であり、各亜鉛原子にホウ素置換テレフタル酸配位子の酸素原子3が配位していることが確認された(図4)。さらに、前記ホウ素置換テレフタル酸配位子は、テレフタル酸中のベンゼン環を形成する4つの炭素原子がホウ素原子5に置換された芳香環を有しており、該芳香環の中心付近にマグネシウム原子7が保持されていることが確認された(図5)。
(実施例2)
添加元素としてベリリウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして金属有機構造体(ベリリウム添加ホウ素置換MOF)の結晶構造を作製した。得られた金属有機構造体の結晶構造は実施例1と同様に、ZnOを節、ホウ素置換テレフタル酸配位子を柱とする立方体格子型の網状構造であり、ベリリウム原子がホウ素置換テレフタル酸配位子の芳香環の近傍にイオンの状態で保持されていた。
(実施例3)
添加元素としてカルシウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして金属有機構造体(カルシウム添加ホウ素置換MOF)の結晶構造を作製した。得られた金属有機構造体の結晶構造は実施例1と同様に、ZnOを節、ホウ素置換テレフタル酸配位子を柱とする立方体格子型の網状構造であり、カルシウム原子がホウ素置換テレフタル酸配位子の芳香環の近傍にイオンの状態で保持されていた。
(比較例1)
ホウ素置換テレフタル酸配位子に代えてテレフタル酸配位子(ホウ素原子で置換されていないもの)を用い、添加元素としてリチウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして金属有機構造体(リチウム添加MOF)の結晶構造を作製した。得られた金属有機構造体の結晶構造は、ZnOを節、テレフタル酸配位子を柱とする立方体格子型の網状構造であり、リチウム原子がテレフタル酸配位子の芳香環(ベンゼン環)の近傍にイオンの状態で保持されていた。
(比較例2)
ホウ素置換テレフタル酸配位子に代えてテレフタル酸配位子(ホウ素原子で置換されていないもの)を用い、添加元素を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして金属有機構造体(無添加MOF)の結晶構造を作製した。得られた金属有機構造体の結晶構造は、ZnOを節、テレフタル酸配位子を柱とする立方体格子型の網状構造であった。
(比較例3〜5)
ホウ素置換テレフタル酸配位子に代えてテレフタル酸配位子(ホウ素原子で置換されていないもの)を用いたこと以外は実施例1〜3とそれぞれ同様にして金属有機構造体(比較例3:マグネシウム添加MOF、比較例4:ベリリウム添加MOF、比較例5:カルシウム添加MOF)の結晶構造をそれぞれ作製した。得られた金属有機構造体の結晶構造は、いずれもZnOを節、テレフタル酸配位子を柱とする立方体格子型の網状構造であり、マグネシウム原子、ベリリウム原子、又はカルシウム原子がそれぞれテレフタル酸配位子の芳香環(ベンゼン環)の近傍にイオンの状態で保持されていた。
<金属有機構造体及びメタン間の相互作用エネルギー解析>
各実施例及び比較例で得られた金属有機構造体とメタン分子との間の相互作用エネルギーを、電子相関を考慮するためにMoller−Plessetの2次の摂動法(MP2法)を用い、分子軌道計算ソフト「Gaussian 03」によって計算することで求めた。なお、MP2法を用いた計算は系のサイズの5乗に比例して計算時間が増加するため、金属有機構造体の結晶全体とメタンとの間の相互作用エネルギーを計算する代わりに、図6〜図8に示す各分子間の相互作用エネルギーを計算した。
すなわち、先ず、MP2法により、基底関数としてdef2−TZVPPを用い、分子軌道計算ソフト「Gaussian 03」によって、各金属有機構造体の結晶構造を亜鉛クラスター、添加元素、及び、テレフタル酸分子又はホウ素置換テレフタル酸分子に分割してそれぞれの構造を最適化した。最適化して得られた分子構造において、実施例1においてはマグネシウム原子7とメタン分子18中の炭素原子9間の距離21(図6)を、比較例1においてはリチウム原子17とメタン分子18中の炭素原子9間の距離22(図7)を、比較例2においてはテレフタル酸20中のベンゼン環の中心とメタン分子18中の炭素原子9間の距離23(図8)を、それぞれ金属有機構造体及びメタン間距離とした。なお、メタン分子18の構造は、MP2法により、分子軌道計算ソフト「Gaussian 03」によって、基底関数としてdef2−TZVPPを用いて作製した。
次いで、MP2法により、基底関数としてdef2−TZVPPを用い、分子軌道計算ソフト「Gaussian 03」によって、上記金属有機構造体及びメタン間距離を変えた各位置における相互作用エネルギーをそれぞれ計算して金属有機構造体及びメタン間の相互作用エネルギー曲線を求めた。実施例1及び比較例1〜2において得られた結果を図9に示す。これより、実施例1における金属有機構造体及びメタン間の相互作用エネルギーは−8.68kcal/molとなり、比較例1〜2における金属有機構造体及びメタン間の相互作用エネルギー(比較例1:−5.26kcal/mol、比較例2:−1.61kcal/mol)に比べて非常に大きいものとなった。
また、実施例2における金属有機構造体及びメタン間の相互作用エネルギーも実施例1と同様にして求めた結果、−14.12kcal/molと、十分に大きいことが確認された。ただし、芳香環の垂線に対して約45°傾けた方向からメタン分子を近づけた場合の相互作用エネルギーも同様にして求めたところ、実施例1では−6.12kcal/molであったのに対して、実施例2では−2.63kcal/molとなった。
<電荷解析>
各実施例及び比較例で得られた金属有機構造体における添加元素の電荷を以下のように解析した。先ず、MP2法により、基底関数としてdef2−TZVPPを用い、分子軌道計算ソフト「Gaussian 03」によって、各金属有機構造体の結晶構造を亜鉛クラスター、添加元素、及び、テレフタル酸分子又はホウ素置換テレフタル酸分子に分割してそれぞれの構造を最適化した。次いで、最適化して得られた分子構造について、Bader法により、「Bader Charge Analysis」(インターネット(URL:http://theory.cm.utexas.edu/bader/[2012年6月22日検索])を用いて各添加元素の電荷を計算した。実施例1〜3及び比較例3〜5における結果を図10に示す。
図10に示した結果から明らかなように、添加元素としてマグネシウム、ベリリウム、カルシウムを用いたいずれの場合においても、テレフタル酸中のベンゼン環を形成する4つの炭素原子をホウ素に置換することにより、添加元素の電子が奪われて電荷が上昇することが確認された。また、比較例1における電荷は+0.99であったのに対して、実施例1における電荷は+1.95と、約2倍となった。
<メタン吸着エネルギーの分割解析>
各実施例及び比較例で得られた金属有機構造体におけるメタン吸着エネルギーの分割解析を以下のように実施した。先ず、MP2法により、基底関数としてdef2−TZVPPを用いて、分子軌道計算ソフト「Gaussian 03」によって金属有機構造体の結晶構造を亜鉛クラスター、添加元素、及び、テレフタル酸又はホウ素置換テレフタル酸に分割してそれぞれの構造を最適化した。
次いで、SuとLiの方法(P.Su and H.Li、J.Chem.Phys.、2009、131、014102)により、「GAMESS(General Atomic and Molecular Electronic Structure System)」を用いて、最適化して得られた分子構造におけるメタン吸着エネルギーのエネルギー分割解析を行った。実施例1及び比較例1〜2における結果を図11に示す。
図11に示した結果から明らかなように、ホウ素置換テレフタル酸配位子とマグネシウムとを組み合わせた実施例1はテレフタル酸配位子とリチウムとを組み合わせた比較例1に比べて、特に、静電エネルギー及び分極エネルギーが増大していることが確認された。
<メタン吸蔵量解析>
各実施例及び比較例で得られた金属有機構造体におけるメタン吸蔵量解析を以下のように実施した。先ず、メタン分子同士の相互作用エネルギーを解析した。すなわち、先ず、連結クラスター法(CCSD(T)法)により、基底関数としてaug−cc−pVTZを用い、分子軌道計算ソフト「Gaussian 03」によってメタン分子の構造を作製し、メタン分子中の炭素原子間の距離を変えて各位置における相互作用エネルギーを計算することによりメタン分子間相互作用エネルギー曲線を求めた。
次いで、得られたメタン分子間相互作用エネルギー曲線、及び上記金属有機構造体とメタンとの間の相互作用エネルギー曲線を、メタン分子及び金属有機構造(MOF)中の各原子同士(原子I及び原子II)の2体相互作用の和でそれぞれ近似し、メタン吸蔵量予測に用いる各パラメータをフィッティングして求めた。フィッティングの際には次式(4)で表わされるMorse型の解析関数を用いた。実施例1において得られたパラメータを表1に示す。
[式(4)中、rI,IIは原子Iと原子IIとの間の距離を示し、パラメータDは結合エネルギーを示し、パラメータrは平衡位置を示し、パラメータαは力の定数を示す。]
他の実施例及び各比較例においても同様にしてパラメータを求め、各実施例及び比較例において得られた結晶構造、及びメタン分子の構造について、GCMC(Grand Canonical Monte Carlo)法により、モデリング・シミュレーションソフト「Materials Studio」(accelrys社製)のSorptionモジュールを用いて、各金属有機構造体のシミュレーションセルの大きさを単位格子とし、周期境界条件を適用し、1,000,000モンテカルロステップの平均値を求めることにより、各圧力における室温(27℃)での各金属有機構造体のメタン吸蔵量を求めた。
実施例1及び比較例1〜2の金属有機構造体における圧力とメタン吸蔵量との関係(メタン吸着等温線)を図12に、実施例1〜2の金属有機構造体における圧力とメタン吸蔵量との関係(メタン吸着等温線)を図13にそれぞれ示す。図12〜13に示した結果から明らかなように、実施例1〜2における金属構造体をガス吸着材とすると優れたガス吸着能が発揮されることが確認された。特に、マグネシウムとホウ素置換テレフタル酸配位子とを組み合わせた実施例1では、従来の金属有機構造体(比較例1〜2)と比較しても十分な量のメタン吸蔵量が達成されることが確認された。
以上説明したように、本発明によれば、優れたガス吸蔵能を有するガス吸着材を提供することが可能となる。また、本発明のガス吸着材は、ガス分離能をも発揮することが可能である。したがって、本発明のガス吸着材は、自動車や工場等の内燃機関から排出される排ガス浄化等に応用することができ、非常に有用である。
1…亜鉛クラスター中の亜鉛原子、2…亜鉛クラスター中の酸素原子、3…ホウ素置換テレフタル酸配位子中の酸素原子、4…ホウ素置換テレフタル酸配位子中の炭素原子、5…ホウ素置換テレフタル酸配位子中のホウ素原子、6…ホウ素置換テレフタル酸配位子中の水素原子、7…マグネシウム原子、8…メタン分子中の水素原子、9…メタン分子中の炭素原子、10…ホウ素置換テレフタル酸分子中のホウ素原子、11…ホウ素置換テレフタル酸分子中の酸素原子、12…ホウ素置換テレフタル酸分子中の炭素原子、13…ホウ素置換テレフタル酸分子中の水素原子、14…テレフタル酸分子中の酸素原子、15…テレフタル酸分子中の炭素原子、16…テレフタル酸分子中の水素原子、17…リチウム原子、18…メタン分子、19…ホウ素置換テレフタル酸分子、20…テレフタル酸分子、21…マグネシウム原子及びメタン間距離、22…リチウム原子及びメタン間距離、23…ベンゼン環及びメタン間距離。

Claims (7)

  1. 金属イオンを含有する複数の金属クラスター及び前記金属クラスター間を架橋する少なくとも1つの多座配位子を含有する金属有機構造体を含むガス吸着材であって、
    前記金属有機構造体が、2価以上の元素からなる群から選択される少なくとも1つの添加元素を含有しており、
    前記多座配位子が、ベンゼン環を形成する炭素原子及び水素原子からなる群から選択される少なくとも1つの原子が13族元素の原子に置換された芳香環を有していること、
    を特徴とするガス吸着材。
  2. 前記芳香環が、ベンゼン環を形成する炭素原子からなる群から選択される少なくともいずれか1つの原子が13族元素の原子に置換された芳香環であることを特徴とする請求項1に記載のガス吸着材。
  3. 前記13族元素がホウ素であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス吸着材。
  4. 前記添加元素がマグネシウムであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のガス吸着材。
  5. 前記金属クラスターがZnOであり、かつ、前記多座配位子が2座配位子であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のガス吸着材。
  6. 前記芳香環が前記添加元素の電荷を上昇させることによって、前記添加元素と前記金属有機構造体に供給される気体分子との間の相互作用エネルギーを増大させ、前記気体分子を吸蔵するものであることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のガス吸着材。
  7. 前記芳香環が前記添加元素の電荷を上昇させることによって、前記添加元素が前記金属有機構造体に供給される混合ガスに含まれる少なくとも2種の気体分子をそれぞれ分極させ、分極率の大小により前記混合ガスを分離するものであることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載のガス吸着材。
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