当業者であれば、DSSCがアノードとカソードとの両方を含むことを理解されよう。DSSCの関連では、カソードは、当技術分野においては「対極」と呼ばれる場合もある。
最も単純な形態では、本発明によるカソードは、主として金属ニッケル、およびICPから構成することができる。
カソードは、1種類以上のさらなる材料を含むことができ、一般にはそれらの材料を含む。たとえば、以下により詳細に議論するように、カソードはバインダーをさらに含むことができ、および/またはカソードを基板上に設けることができる。実際には、基板は、典型的には、カソードに構造的支持を付与するために使用される。
基板が使用される場合、基板は電気伝導性であっても電気非伝導性(すなわち絶縁体)であってもよい。基板が電気伝導性の場合、それ自体がカソードの一部として機能することができる。基板が電気非伝導性である場合は、厳密に言えばそれ自体はカソードの一部とはならない。そうは言っても、基板が電気伝導性であるかどうかとは無関係に「カソード」として、基板上に設けられたカソードを意味することは、当業者にとって珍しいことではない。基板を形成できる材料の例としては、ガラス、セラミック、ポリマー、金属、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
一実施形態においては、基板は、ロールツーロール加工用途への使用に好適な可撓性材料である。基板を使用することによって、カソードの製造における1つ以上のステップが、ロールツーロール加工を使用して好都合に行うことが可能となる。
ロールツーロール加工は、ウェブ加工、リールツーリール加工、またはR2Rとも呼ばれ、これは可撓性プラスチックまたは金属箔のロール上に電子デバイスを製造するプロセスである。このような加工においては、基板に要求される可撓性は、直径が50mmまで小さいロールの周囲に、過度の損傷が生じずに、少なくとも90°および最大180°曲げる必要性によって通常は決定される。
ロールツーロール加工によって、好都合には、コンパクトなウェブ経路を実現しながら、さらに、後の加工または巻き戻しの前に、塗布されたコーティングの乾燥または固化十分な時間を確保することができる。
基板の幅は数センチメートルから数メートルの幅で変動させることができるが、太陽電池セルなどの高価な原材料に基づく高価値製品は、より狭い幅、典型的には300〜330mmの範囲内が好都合となる傾向にある。
ロールツーロール加工中に、フォトリソグラフィ印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷、リバースグラビア印刷、スロットダイ印刷、またはスクリーン印刷などの種々の技術によって、基板にパターニングすることができる。このような加工はロールツーロール印刷と呼ばれることが多い。本発明の状況においては、その目的は、印刷された膜厚、均一性、および連続性に関する厳しい品質基準が典型的には要求される機能性コーティング(たとえばカソードが得られるコーティング)を塗布することである。
基板として使用できるポリマー材料の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムなどのロールツーロール印刷に好適な可撓性ポリマーが挙げられる。
後により詳細に議論するように、本発明によるDSSCは、酸化還元対を含む種類のものである。したがって当業者であれば、そのようなセル中で動作するために必要な導電性および触媒活性を有するように本発明によるカソードが構成されることを理解されよう。
本発明によるカソードは、一般に、金属ニッケルを含む層を含む。したがって、カソードは:
(a)金属ニッケルを含む層と;
(b)セルの動作中に、酸化還元対の酸化種を還元する本質的に導電性のポリマーと、
を含む、またはこれらを使用して構成されると記載することができる。
金属ニッケルを含む層は、ICPを含むこともできるし、ICPとは分離されていてもよい。しかしながら、この層は典型的には、他の金属が存在する場合その金属に対して比較的高い比率(たとえば少なくとも50重量%、たとえば少なくとも65重量%、少なくとも75重量%、少なくとも85重量%、または少なくとも95重量%)の金属ニッケルを含む。
一般に、金属ニッケルを含む層は、ICPを含むか、またはICPを含む層と直接隣接している。
DSSC中に使用される酸化還元対は高い腐食性を有する場合があることは、当業者には理解されよう。本発明によるカソードは、好都合には、このような酸化還元対の腐食性に対して抵抗性であることが分かっている。理論によって限定しようと望むものではないが、カソードの金属ニッケル含有率が、このような耐食性の付与を促進すると考えられる。
前述したように、ICPおよび金属ニッケルは、カソード内に種々の方法で空間的に配置することができる。
ICPが金属ニッケルとともに散在することで複合ブレンド構造または層が形成される場合、ニッケルは一般に、その複合ブレンド構造または層の中に、その複合ブレンド構造または層中の金属の全重量に対して少なくとも50重量%、たとえば少なくとも65重量%、少なくとも75重量%、少なくとも85重量%、または少なくとも95重量%の量で存在する。
ICPを含む層が金属ニッケルを含む層の上に配置される場合、金属ニッケルを含む層は、一般に、その層中の金属の全重量に対して少なくとも50重量%、たとえば少なくとも65重量%、少なくとも75重量%、少なくとも85重量%、または少なくとも95重量%の量のニッケルを含む。
金属ニッケルは、カソード中に種々の物理的形態で存在することができる。
これらの金属の2種類以上が存在する場合、それらは他の金属の一方または両方との合金または単純な混合物の形態で存在することができる。ニッケルも、1種類以上さらなる金属との合金または単純な混合物の形態で存在することができる。
金属ニッケル(またはその合金)は、フレークなどの分割された粒子の形態、あるいは連続シートまたはフィルムの形態で提供することができる。
金属ニッケルが分割された粒子の形態である場合、それらの粒子は一般にバインダー中に分散される。バインダーは、ポリマーバインダーなどの有機バインダーであってよい。たとえば、以下により詳細に議論するように、カソードは、粒子形態の金属ニッケルとポリマーバインダーとの液体中の分散体を使用して構成することができる。液体を蒸発させると、ポリマーバインダーは、ニッケル粒子を一体化した塊として維持する機能を果たす。
言い換えると、金属ニッケルは、ポリマーマトリックス中に分散した粒子の形態で提供することができる。ポリマーマトリックス自体が導電性でない場合、当然ながらニッケル粒子は、電流が流れることが可能になるのに十分な結合性および/または濃度をポリマーマトリックス中で有する。
バインダーに加えて、金属ニッケルの分散体は、添加剤などの1種類以上のさらなる材料をも含むことができる。添加剤は、得られる金属/バインダー複合体の導電性を向上させるため(たとえば炭素などの電気的橋絡(electrical bridging)添加剤)、および/または得られる金属/バインダー複合体の物理的性質(たとえば表面または機械的性質)を変化させるために使用することができる。
バインダー中に分散された金属ニッケルを調製するために、当技術分野において周知の技術、装置、および試薬を好都合に使用することができる。
たとえば、ポリマーバインダーと金属粒子との液体分散体を調製する技術は、コーティング産業において知られており、本発明により使用可能な金属ニッケル分散体の調製に好都合に適用することができる。したがって、分散体は、金属ニッケルおよび/またはその合金粒子と、アクリル樹脂などのポリマーバインダーと、有機溶媒または水性溶媒などの液体とを使用して調製することができる。粒子とポリマーバインダーとを液体中で分散状態に維持するために、分散体は一般に界面活性剤をも含む。
本発明により使用される金属ニッケルの分散体は商業的に入手することができる。たとえば、ニッケル/ポリマーバインダー分散体は、MG Chemicals,Canadaより、吹き付けまたは塗装の塗布器による塗布に好適な配合物で入手することができる。
分散体(バインダーとともに)の形態である場合、金属ニッケルは、カソードに好適な導電性が得られる量で存在することが理解されよう。分散体は、必要な電気伝導性の付与を促進する1種類以上の添加剤を含むことができる。
ポリマーバインダーと金属ニッケルとを含む分散体は、たとえば、分散体の重量に対して約15重量%〜約50重量%の範囲の量の1つまたは複数の金属を含むことができる。
金属ニッケルが連続シートまたはフィルムの形態である場合、そのシートまたはフィルムは、一般に、適切な金属の箔から得られる、および/または電気めっき、蒸発、真空スパッタリング、および無電解めっきなどの金属体積技術を使用して得られる。
本発明によるカソードをどのようにして構成するかによるが、金属ニッケルは、カソードの他の成分とともに散在させることも(たとえば分散体から得られる場合)、カソードの個別の連続金属として(たとえば金属の連続シートまたはフィルムとして)存在することもできる。
「散在」させるとは、成分がブレンド全体に分散したブレンド組成物が形成されるように、該当成分を混合することを意味する。
本発明によるカソードはICPをも含む。本明細書において使用される場合、「ICP」または「本質的に導電性のポリマー」は、電流が流れることができる分子構造を有するポリマーを意味することを意図している。このようなポリマーは、金属などの導電性材料を含むポリマー複合材料であって、電流の伝導がその中に含まれる導電性材料を介して生じ、ポリマー自体により生じるのではないポリマー複合材料とは区別すべきである。
ICPは、典型的には拡張共役π電子系を有する有機ポリマーである。拡張共役系を有するすべてのポリマーが、本発明による使用に適したICPとして固有に存在するのではない可能性がある。拡張共役系を有するポリマーの導電性は、ドーピング(すなわち、たとえば(a)電子の除去(酸化またはp−ドーピング)、(b)電子の注入(還元またはn−ドーピング)、または(c)プロトン化(酸ドーピング)による共役系への電荷の導入)によって促進または増加させることができることは、当業者には理解されよう。たとえば、ポリアニリンは、還元状態(ラウコエネラルジン(laucoeneraldine))、部分酸化状態(エメラルジン)、および完全酸化状態(ペルニグラニリン)などの多数の原子価状態で存在しうる。ポリアニリンは、そのエメラルジン形態(+2電子)で最も導電性が高い。このポリアニリンの部分酸化状態は、ドーピングによって容易に形成することができる。
本発明により使用されるICPは、DSSCの動作中に、DSSCが機能するのに十分な電気を伝導する種類のものである。
拡張共役系を有する周知のポリマーの大部分は、電子に富むモノマー単位から構成され、したがってp−ドーピングに適している。本発明により使用されるICPは、一般にp−ドープされる。好適なアニオンドーパントの例としては、塩化物、ドデシルベンゼンスルホネート、パークロレート(per chlorate)、テトロフルロボレート(tetrofluroborate)、サルフェート、スルホネート、オキシレート(oxylate)、スルホサリチレート、ナイトレート、フルオロメチルスルホネート、p−トルエンスルホネート、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
一実施形態においては、本発明により使用されるICPはp−ドープされる。その場合、好適なドーピングアニオンは、本明細書において規定されるものから選択することができる。
電気伝導性であることに加えて、本発明により使用されるICPは、DSSCの動作中に、セル中の酸化還元対の酸化種を還元する種類のものである必要もある。特に、本発明によるDSSCは、酸化還元対を含む種類のものである。前述したように、酸化還元対は、従来のDSSC中に一般に使用されており、その主要な機能は、光励起が進行することによって色素がセルの半導体中に電子を注入することによって得られる、または形成される感光色素の酸化型を還元することである。特に、酸化還元対は、典型的には、特定のイオンまたは中性種の還元型と酸化型との組み合わせを含む。対の還元型は、感光色素の酸化型に電子を移動させて対の酸化型を得ることによって酸化が起こり、対の酸化型は、セルのカソードから電子を受け取って対の還元型を得ることによって還元が起こる。したがってセルの動作中、酸化還元種は、それらの還元型および酸化型を介したサイクルを行うことによって酸化還元対を得ることができる。
したがって、ICPが「酸化還元対の酸化種を還元する」種類のものとは、カソードの一部として、ICPが、酸化還元対の酸化型への電子移動を促進して対の還元型を得る機能を果たすことを意味する。
DSSC中の触媒として機能し、カソードにおけるそのような還元反応を促進することができる特定の材料の性質は、まだ十分に理解されていない。しかしながら、この方法で機能する特定のICPの性質は、当業者によって容易に推定することができる。たとえば、DSSC環境において電解質の酸化還元種が還元される電位においてICPが酸化または部分的に酸化される必要があり、このことは従来のサイクリックボルタンメトリー試験によって容易に立証することができる。
DSSC中に使用されるICPが酸化還元対の触媒として機能できるのであれば、本発明によるDSSCの一部として使用できる酸化還元対の種類に関して特に制限はない。たとえば、酸化還元対は、ヨウ素、臭素、フェロセン、コバルト、またはTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)から選択することができる。白金によってではなくポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)などのICPによって還元できるラジカルアニオンが、TEMPO酸化還元対から得られる。
一実施形態においては、本発明により使用される酸化還元対は三ヨウ化物/ヨウ化物対である。
三ヨウ化物/ヨウ化物酸化還元対が本発明により使用される場合、これは当業者に周知の試薬から誘導することができる。たとえば、三ヨウ化物/ヨウ化物酸化還元対は、分子ヨウ素(I2)と、たとえばアルカリ金属またはアルカリ土類金属のヨウ化物、あるいは有機カチオンのヨウ素塩とを混合することによって得ることができる。
好適なヨウ化物種のより具体的な例としては、Li、Na、K、およびMgのヨウ化物、第4級アンモニウム化合物、たとえばテトラアルキルアンモニウムヨウ素塩、ピリジニウムヨウ素塩、およびイミダゾリウムヨウ素塩、ならびに複素環式窒素含有化合物のヨウ化物、たとえば1,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムヨージド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムヨージド、1−メチル−3−ヘキシルイミダゾリウムヨージド、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾールヨージド、1−エチル−3−イソプロピルイミダゾリウムヨージド、およびピロリジニウムヨージドが挙げられる。これらの化合物から選択される1種類以上を使用することができる。
本明細書において使用される「酸化還元対」という表現は、ある時点で、すべてまたは実質的にすべての酸化還元対がその酸化型または還元型で存在する状態と、酸化還元対の一部が酸化型で存在し、残りが還元型で存在する状態とを含むことを意味する。しかしながら、当業者であれば、セルの動作中に酸化還元対の酸化型と還元型との両方が一般に存在することを理解されよう。
本発明によるDSSC中に使用される酸化還元対は、典型的には電解質組成物の一部を形成する。電解質組成物は、セル内の電流の移動を促進する。
電解質組成物は、酸化還元対と、一般に、有機溶媒、イオン液体、またはそれらの混合物から選択される1種類以上の成分とを含む。
電解質組成物の一部を形成しうる有機溶媒の一例としてはアセトニトリルが挙げられる。
使用可能なイオン液体の一例としては、チオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムなどのチオシアネート類を主成分とするイオン液体が挙げられる。
一実施形態においては、電解質組成物は、アセトニトリル/バレロニトリル(85:15体積%)、ヨウ素(0.03M)、4−tertブチルピリジン(0.5M)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド(0.6M)、およびチオシアン酸グアニジニウム(0.1M)を含む。
別の一実施形態においては、電解質組成物は、テトラシアノホウ酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、ジメチルイミダゾリウムヨージド、チオシアン酸グアニジニウム、ヨウ素、N−メチルベンズイミダゾールを16:12:12:1:1.67:4のモル比で含む。
本発明によるカソードが、ポリマーを含む金属ニッケルの分散体を使用して形成される場合、溶媒がニッケル/ポリマー組成物の耐久性に悪影響を与えないイオン液体系または有機溶媒系を主成分とする電解質組成物を選択することが望ましいことがある。特に、ある種の有機溶媒は、ニッケル/ポリマー分散体のポリマーバインダー成分の損傷(たとえば軟化、膨潤など)を生じさせ、カソードの効率および/または耐久性を低下させることがある。
DSSC中で機能するために必要な導電性および触媒活性を示すのであれば、本発明により使用できるICPの種類に関して特に制限は存在しない。
本発明により使用できる好適なICPの例としては、1種類以上の場合により置換された芳香族モノマー化合物の重合によって形成されるICPが挙げられる。好適な場合により置換された芳香族モノマー化合物の例としては、アニリンなどの場合により置換されたアリール、および場合により置換された5員芳香族複素環式化合物などの場合により置換された芳香族複素環式化合物が挙げられる。場合により置換された5員芳香族複素環式化合物の場合、α位、α’位を介したモノマーのカップリングおよびその後のポリマー鎖の形成が可能となるように、5員環のβ位、β’位のみが置換されうることを当業者は理解されよう。
一実施形態においては、本発明により使用されるICPは、場合により置換されたピロール(N−置換ピロールを含む)、場合により置換されたチオフェン、場合により置換されたアニリン、場合により置換されたフラン、場合により置換されたピリジン、場合により置換されたインドール、および場合により置換されたカルバゾールから選択される場合により置換された芳香族化合物の重合残基を含む。
一実施形態においては、場合により置換された芳香族モノマー化合物は、一般式(I):
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素、場合により置換されたアルキル、場合により置換されたアリール、場合により置換されたアリールアルキルから選択されるか、一緒になって場合により置換された環状置換基を形成するかであり、Xは、O、S、およびNR
3から選択され、R
3は、水素、場合により置換されたアルキル、場合により置換されたアリール、および場合により置換されたアリールアルキルから選択される)
の化合物から選択される5員芳香族複素環式モノマー化合物である。
一実施形態においては、式(I)のR1およびR2、それぞれ独立して、水素、場合により置換されたC1〜C8アルキル、場合により置換されたC6〜C18アリール、場合により置換されたC7〜C18アリールアルキルが選択されるか、一緒になって場合により置換されたC2〜C10環状置換基を形成するかである。
一実施形態においては、式(I)のR3は、水素、場合により置換されたC1〜C8アルキル、場合により置換されたC6〜C18アリール、および場合により置換されたC7〜C18アリールアルキル選択される。
式(I)のR1およびR2が一緒になって「環状置換基」を形成するとは、一般式(I)のβ、β’−炭素原子とともにR1およびR2が環または環状構造を形成することを意味する。得られる環状置換基またはカルボシクリル基は、C2-20(たとえばC2-10またはC2-6)環状置換基であってよい。環状置換基中の1つ以上の炭素原子は、ヘテロ原子で置換されてもよい。好適なヘテロ原子としては、O、N、S、P、およびSeが挙げられ、特にO、N、およびSが挙げられる。2つ以上の炭素原子が置換される場合、これは2つ以上の同じまたは異なるヘテロ原子で置換されてもよい。環状置換基の1つ以上の炭素原子がヘテロ原子で置換される場合、置換基は、好都合には、複素環式置換基またはヘテロシクリル基と呼ぶことができる。
一実施形態においては、本発明により使用されるICPは、場合により置換されたピロール(N−置換ピロールを含む)、および場合により置換されたチオフェンから選択される場合により置換された芳香族の重合残基を含む。場合により置換されたチオフェンの具体例としては、3,4−エチレンジオキシチオフェンおよび3,4−プロピレンンジチオキシチオフェン(3,4−propylenendioxythiophene)が挙げられる。
本発明により使用されるICPはホモポリマーまたはコポリマーであってよい。
本発明により使用できるICPの具体例としては、ポリ(場合により置換されたピロール)、ポリ(場合により置換されたチオフェン)、ポリ(場合により置換されたアニリン)、ポリ(場合により置換されたフラン)、ポリ(場合により置換されたピリジン)、ポリ(場合により置換されたインドール)、およびポリ(場合により置換されたカルバゾール)が挙げられる。
本発明の一実施形態においては、ICPは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)およびポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)(PRODOT)などのポリ(場合により置換されたチオフェン)である。
本発明により使用されるICPは、それ自体ではICPではない1種類以上の別のポリマーを含むことができる。たとえば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などのポリ(場合により置換されたチオフェン)は、PEDOTおよびポリスチレンスルホネート(PSS)の混合物の形態で一般に調製され使用される。その場合、PSSのスルホネート基は、PDOTのドーパントとして機能する。PEDOT:PSSは、液体中のポリマーブレンドの分散体の形態で調製され使用されることが多い。
ICPの導電性を改善するために、非イオン性添加剤またはいわゆる二次ドーパントを使用することもできる。これらの二次ドーパントは、典型的にはICPを調製した後で、カソードを形成する前に加えられ、これらの二次ドーパントとしては、ソルビトールおよびグリセロールなどの多価アルコール、ポリエチレングリコール、あるいはジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランまたはジメチルホルムアミドなどの極性溶媒が挙げられる。
本発明により使用されるICPは、当業者に周知の重合技術、装置、および試薬を使用して調製することができる。
好適な重合技術としては、カチオン重合、ラジカル重合、配位重合、化学酸化重合、逐次重合、および電気化学重合の技術が挙げられる。
使用される重合技術は、本発明によるカソードが構成される方法によって決定されることが多い。
ドーパントを含むICPは、一般に、好適なドーパントの存在下で選択したモノマーを重合させることによって調製される。
ICPを調製するための重合技術は、広く化学的または電気化学的技術に分類することができる。
電気化学重合技術が使用される場合、モノマーが、典型的には電気化学的に酸化されて、電気化学セルの一部を形成するアノードの表面上にポリマーが形成される。一般に、アノードは、ポリマーが塗布される基板のすべてまたは全部を形成する。本発明によるカソードの一部を形成するICPの調製にこのような技術が使用される場合、カソードの金属ニッケルは、重合中にアノードとして機能することができる形態(導電層として)で提供されることを理解されたい。
電気化学重合中に典型的に存在する他の化合物としては、ICPドーパント、および反応に適したpHを得るために加えられる酸、ならびに有機、水性、またはイオン性の性質であってよい好適な溶媒が挙げられる。重合自体は、一定電圧、一定電流、または電気的条件を計画的に変化させることができるサイクリックボルタンメトリー下で行うことができる。
化学重合技術は、化学酸化重合技術と呼ばれることも多い。「化学重合」または「化学酸化重合」は、化学酸化剤によってモノマーが酸化して反応性種が得られ、それが重合してICPを形成することを意味する。特に、選択したモノマーは、化学酸化剤(それ自体は還元される)と反応して酸化することで、反応性種が得られ、それによって重合が進行して、カチオン性のポリマーが形成される。ICPを形成するために、重合時に、ポリマーのカチオン性はドーパント(すなわち好適なアニオン種)と会合させることによって中和させることができる。ドーパントは、化学酸化剤から誘導することもできるし(すなわち自己ドーピング化学酸化剤)、別の異なる化学種として存在することもできる。
好適な化学酸化剤としては、高い酸化力を有する金属塩、たとえば塩化第二鉄およびp−トルエンスルホン酸第二鉄などの第二鉄塩、ならびに対応する銅(II)塩、バナジウム(V)塩、セリウム(IV)塩、および金III)塩が挙げられる。他の好適な化学酸化剤としては、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、過酸化ベンゾイルおよび過酸化水素などの過酸化物、ならびにフルオレン、オゾン、および塩素などの気体が挙げられる。
自己ドーピング化学酸化剤の例としては、スルホン酸、硫酸、塩化物、化塩素酸、およびリン酸の金属(たとえばFe、Cu、V、Ce、Au)塩が挙げられる。
ICPの調製に使用される化学酸化剤の量は、使用されるモノマーおよび化学酸化剤の性質によって変動する。たとえば、気相重合においては、酸化剤対モノマーの比は、酸化剤が消費されるとともに徐々に変化する。一般に、化学酸化剤は、モノマーに対するモル比に基づいて計算して約0.5〜4の範囲の量で最初に使用される。
酸化性対カチオンと関連して使用されてもされなくても、好適なドーパントアニオンとしては本明細書に規定のものが挙げられる。
適切であれば、異なる化学酸化剤および/またはドーパントの混合物を使用することができる。
化学酸化重合は、酸性条件下で行うことができる。モノマーを酸性条件下で重合させてICPが形成される場合、その酸性条件はあらゆる好適な手段によって得ることができる。「酸性条件」は、7未満のpHで重合が起こる反応媒体または界面を意味する。一般に、酸性条件下の重合は、約5未満、たとえば約3未満のpHで行われる。化学酸化剤またはドーパント自体によって酸性条件が得られる場合も、無機酸またはカルボン酸などの追加の酸が使用される場合もある。
化学酸化重合の方式に依存するが、重合されるモノマーは、気相の形態で使用される場合も(すなわち気相重合)、液体反応媒体中に存在して重合される場合もある(すなわちバルク重合)。
液体反応媒体中に存在して重合される場合、モノマーは一般に、他の反応成分およびモノマーを溶解させることができる水、アルコール(典型的には最高4個の炭素原子を有し、好ましくは2〜4個の炭素原子を有する第1級アルコール)、またはアセトニトリルなどの極性溶媒中に溶解される。
前述の概略とは別に、液体反応媒体中のさらなる反応成分として、結晶化または沈殿に対して反応混合物を安定化させるために必要な界面活性剤および分散剤を挙げることができる。この目的に適した材料の例としては、ポリウレタンジオール、ポリプロピレングリコール、および独自開発の界面活性剤配合物、たとえばTeric BL8(C12エトキシル化脂肪酸アルコール、Huntsman)およびGlysolv(1−メトキシ2−プロパノール、Huntsman)が挙げられる。これらの材料は、そのまままたはアルコール中の5%溶液のいずれかで使用することができ、通常使用される量は、使用される化学酸化剤の乾燥質量の約10重量%である。
酸または塩基も液体反応媒体に混入することができ、導電性を増加させるために最終ICPを場合によりプロトン化するため(たとえばHClまたはH2SO4などの無機酸)、または重合を遅延させたり副反応を抑制したりするため(たとえばピリジンなどの塩基)が使用される。
ICPが気相重合によって調製される場合、選択されるモノマーは、そのまま使用される場合も、場合により加熱または撹拌を行うことによって蒸気濃度を増加させることで、反応速度を増加させることもある。
一般に、特定の重合のための試薬は、最初に形成されるICPの性質を考慮して選択される。当然ながら、これによって使用すべきモノマーが決定される。重合のための他の試薬を次に選択することができる。化学酸化剤は、典型的には、それらの適切なモノマーを重合させる能力、および自己ドーピングの能力に基づいて選択される。当然ながら、重合の試薬は、セルの動作中に選択された酸化還元対の酸化種を還元するICPが得られるようにも選択される。
ICPを形成するための試薬を選択した後、次に、気相重合によってポリマーが形成されるように気相のモノマーに化学酸化剤を曝露することができる。あるいは、バルク重合によってポリマーが形成されるように液体形態のモノマーに化学酸化剤を曝露することができる。通常、残存する揮発性液体は、たとえば蒸発または溶媒洗浄によって除去されて、ICPが残される。当業者に周知の気相重合およびバルク重合の試薬、装置、ならびに技術を、本発明により使用するためのICPの調製に好都合に使用することができる。
気相重合による重合を行う場合、化学酸化剤を、基板、たとえば表面に金属ニッケルを含む層を有する基板の表面に塗布することができ、こうしてコーティングされた基板を気相のモノマーに曝露することができる。最初に化学酸化剤の液体組成物を形成し、この液体組成物を基板表面に塗布することによって、化学酸化剤を基板表面に好都合に塗布することができる。この液体組成物は、化学酸化剤を1種類以上好適な溶媒中に混合することによって得ることができる。得られた液体組成物は、あらゆる好適な手段によって、たとえば吹き付け、コーティング塗布器、インクジェットプリンター、スクリーン印刷、フレキソ印刷などの印刷装置/技術、およびそれらの組み合わせによって基板表面に塗布することができる。
化学酸化剤コーティングの全体の厚さを増加させるために、化学酸化剤の複数の層を塗布することができる。化学酸化剤コーティングの厚さを増加させることによって、後に塗布されるICPコーティングの対応した厚さの増加を促進することができる。
化学酸化剤を基板表面に塗布した後、一般に溶媒(存在する場合)を重合を行う前に蒸発させる。たとえば、コーティングされた基板は、基板表面から溶媒を除去するのに十分な時間高温に曝露することができる。次に、基板のコーティングされた領域上にICPが形成されるように好適な温度で十分な時間、コーティングされた基板をモノマー蒸気に曝露することができる。反応速度を増加させるために高温でICP重合を行うことが必要な場合がある。さらに、独立して密閉容器中でモノマーを蒸発させ、アルゴンおよび/または窒素を主として含む不活性ガス流中の蒸気を、酸化剤がコーティングされた基板が入れられた反応容器まで移動させる必要がある。重合手順の終了後、ICPがコーティングされた基板は、一般に、水またはエタノールなどの極性溶媒を使用して洗浄することで、未反応のおよび/またはモノマーが除去される。次に、ICPがコーティングされた基板は、一般に、使用前に風乾される。
バルク重合による重合を行う場合、化学酸化剤とモノマーとの混合物を基板、たとえば表面に金属ニッケルを含む層を有する基板の表面に塗布して、続いて重合させることができる。最初にこれらの成分を含む液体組成物を形成し、この組成物を基板表面に塗布することによって、化学酸化剤およびモノマーを基板表面に好都合に塗布することができる。液体組成物は、化学酸化剤およびモノマーを1種類以上好適な溶媒中に混合することによって得ることができる。得られた液体組成物は、気相重合技術に関して前述したようなあらゆる好適な手段によって基板表面に塗布することができる。通常、残存する揮発性液体は、たとえば蒸発によって除去されて、ICPが残される。
バルク重合による重合を行う場合、モノマーの重合を遅延させ、それによって重合が起こるまでに化学酸化剤/モノマー組成物を塗布可能な時間を延長させることが望ましいことがある。これは、組成物中に重合抑制剤を混入することによって行うことができる。重合抑制剤は、化学酸化剤を一時的に不活性化させることによって機能する場合がある。たとえば、塗布される組成物は、化学酸化剤と錯形成して化学酸化剤を一時的に無効にすることができる揮発性塩基などの揮発性重合抑制剤をさらに含むことができる。化学酸化剤/モノマー組成物を基板表面に塗布すると、その塩基が蒸発することによって化学酸化剤を再活性化ことができ、次に化学酸化剤がモノマーと反応して、その重合を促進することができる。好適な揮発性重合抑制剤の一例としては、場合により置換されたピリジンが挙げられるが、これに限定されるものではない。この方法における場合により置換されたピリジンの使用に関するさらなる詳細は、国際公開第2005/103109号パンフレットに記載されている。
重合抑制剤は、ポリウレタン樹脂の形態であってもよい。その場合、理論によって限定しようと望むものではないが、この樹脂は、化学酸化剤と錯形成して化学酸化剤を一時的に無効にすることができるアミン官能基を提供すると考えられる。化学酸化剤/モノマー組成物を基板表面に塗布した後、塗布した組成物を単に加熱することによって化学酸化剤を再活性化させることができる。
重合抑制剤として機能することに加えて、化学酸化重合中の試薬として場合により置換されたピリジンを使用することで、結果として得られるICPの導電性を向上させることができることもわかっている。理論によって限定しようと望むものではないが、他の場合では環が開裂して、その結果電気伝導性が低下する、ICP形成中のモノマー重合の望ましくない副反応を、重合中に抑制する機能を場合により置換されたピリジンが果たすと考えられる。類似の効果が得られることが分かっている他の化合物としては、ルイス塩基として作用する孤立電子対を有するウレタン、たとえば2−オキサゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、N−エチルウレタン、N−メチルカルバミン酸2−ヒドロキシエチル、およびポリウレタンジオールが挙げられる。このようなウレタンは、好都合には本明細書においてルイス塩基ウレタンと呼ばれる。
本発明の一実施形態においては、ICPは電気化学重合によって調製される。
さらなる一実施形態においては、ICPは気相重合によって調製される。このような一実施形態においては、化学酸化剤を、金属ニッケルを含む表面層に塗布し、化学酸化剤が塗布された表面は、その表面上にICPを形成するために気相の1種類以上のモノマーに曝露することができる。
別の一実施形態においては、ICPはバルク重合によって形成される。そのような一実施形態においては、化学酸化剤と1種類以上のモノマーとを含む組成物を金属ニッケルを含む表面層に塗布して、1種類以上モノマーをその表面で重合させて、ICPを形成することができる。表面に塗布される化学酸化剤および1種類以上モノマーの組成物は、重合抑制剤をさらに含むことができる。
さらに別の一実施形態においては、ICPを形成するための1種類以上のモノマーの重合は、場合により置換されたピリジンまたはルイス塩基ウレタンの存在下で行うことができる。
場合により置換されたピリジン、ルイス塩基ウレタン、または化学酸化剤などの化合物「の存在下で」重合が行われるとは、モノマーが重合してICPを形成するときに、その化合物が分子ベルでモノマーと相互作用できることを意味する。
化学酸化重合によるICPの調製に使用できる他の試薬としては、基板に塗布した液体組成物の乾燥によって、選択された化学酸化剤の結晶化または沈殿が起こるのを抑制する試薬が挙げられる。特に、乾燥による液体中の化学酸化剤の結晶化または沈殿によって、組成物全体または基板表面上に化学酸化剤が比較的不均一に分散することがある。好適な結晶化または沈殿の抑制剤としては、ポリウレタンジオール、ポリプロピレングリコール、Teric and BL8(C12エトキシル化脂肪酸アルコール、Huntsman)およびGlysolv(1−メトキシ−2−プロピノール、Huntsmanなどの界面活性剤配合物、あるいはそれらの組み合わせを挙げることができる。
ICPを形成するための化学酸化重合に使用できるさらなる試薬としては、結果として得られるICPの化学的および/または物理的性質(たとえば均一性および弾性)を変化させることができる試薬が挙げられる。このような試薬としては、必要であれば重合抑制剤としても機能することができるポリウレタン樹脂を挙げることができる。ポリウレタン樹脂の分子量は、化学酸化剤または化学酸化剤/モノマー組成物を特定の基板に塗布する手段に役立つように変動させることができる。たとえば、低分子量の樹脂は、インクジェット印刷に適した粘度およびエラストマー性を有する組成物を得るのに役立つことができ、一方、より高い分子量のポリウレタン樹脂は、スクリーン印刷用に組成物の粘度を増加させるのに必要となり得る。
ICP中のポリマードメインの好都合な分散を促進することによって、ICPの平滑性および導電性を向上させるために、ICPを形成するための化学酸化重合において、ポリエチレングリコールなどの他の試薬を使用することができる。
当然ながら、ICPは最初に特定の重合技術によって調製し、続いて(a)金属ニッケルを含む表面層に塗布するか、または(b)金属ニッケルとともに散在させてそのブレンドを形成することもできる。たとえば、液体中のポリマーの分散体を形成するためにバルク重合によってICPを調製し、得られたICP分散体を(a)金属ニッケルを含む表面層に塗布したり、(b)金属ニッケルとともに散在させてそのブレンドを形成したりすることができる。
本発明によるカソードを構成することができる種々の方法が存在する。カソードが構成される方法とは無関係に、当然ながら、カソードは、DSSC中のカソードとして機能できる必要がある。特に、カソードは、ICPおよび金属ニッケルを含み、実際的な観点から、従来のDSSC中に使用される従来のカソードと類似の方法で機能する。重要なこととして、カソードのICPは、セルの動作中に、酸化還元対の酸化種を還元する種類のものである。
カソードが構成される方法は、部分的には、ICPおよび金属ニッケルの形態およびそれらの調製方法に依存する。
したがって、一実施形態においては、カソードは、散在しブレンドとして存在する、金属ニッケルおよびICPを含む。その場合、カソードは、金属ニッケルの分散体と、ICPの分散体とを使用して構成することができる。たとえば、ICPの液体分散体を金属ニッケルの液体分散体とブレンドして、得られた分散体ブレンドを使用してカソードを作製することができる。特に、使用される分散体ブレンドは液相を含み、これは、たとえば蒸発によって除去して、ICPおよび金属ニッケルの固体均質ブレンドを残すことができる。分散体ブレンドを好適な基板上に塗布することによって、または分散体ブレンドを好適な金型中に導入することによって、この方法を使用してカソードを好都合に作製することができる。
さらなる一実施形態においては、カソードは、ICPを含む層を含み、この層は金属ニッケルを含む層の上に配置される。便宜上、この形態で得られる本発明によるカソードは、本明細書において「二重層カソード」と呼ぶことができる。このような一実施形態によると、金属ニッケルを含む層は、多数の方法で形成することができる。たとえば、この層は、金属ニッケルを含む分散体を基板上に塗布することによって、または金属ニッケルを含む分散体を好適な金型中に導入することによって形成することができる。
二重層カソード中の金属ニッケルを含む層は、電気めっきなどの金属堆積技術によって形成することもできる。電気めっきによる層の形成には、一般に、めっきされる基板(めっきセル中のカソードとして機能する)、アノード(基板上にめっきされる金属を含むことが多い)、好適な可溶性塩、および溶媒系を含む好適な電気化学セルとともに、直流電源が使用される。電気めっきは、電流および/または電圧の計画的な電気条件下、時間、温度、およびpHの選択された条件下で行うことができる。
他の金属堆積技術としては、蒸着またはスパッタリングが挙げられ、この場合、ソース金属が真空中で加熱され、蒸発して蒸気粒子となり、これが基板まで移動して、膜として堆積する。さらに別の技術は無電解めっきであり、これは、還元剤、たとえば次亜リン酸ナトリウムの存在下で金属イオンを還元して、その金属を基板上に堆積させることに依拠する自己触媒化学技術である。
二重層カソード中の金属ニッケルを含む層は、あらかじめ形成された金属箔から得ることもでき、その上にICPが取り付けられる。箔を最初に基板上に取り付け、この箔がコーティングされた基板の薄層の上にICPを堆積することができる。このような箔は、必要な組成の金属インゴットを圧延することによって容易に作製することができる。
金属ニッケルがICPとは別の形態で設けられる場合、一般に、ニッケル含有層は、DSSCの一部として組み立てた場合にアノードとの接触を回避する表面粗さを有することが一般に望ましい。過度に粗いニッケル表面層が設けられたカソードは、組み立てられたDSSC中でニッケルおよびアノードとの間に接触が生じて、短絡が発生することがある。カソードとアノードとの間の接触を防止するために、DSSC中には一般にスペーサーが使用される。しかし、粗いニッケル表面層を補償するためにより大きなスペーサーを使用すると、今度は、アノードとカソードとの間の増加した間隙を満たすためにより多くの電解質の使用が必要となる。電解質は高価な場合があり、セル中への拡散の制限が生じる場合があるので、DSSC中のカソードとアノードとの間の間隙を最小限にすることが望ましい。
DSSC中に典型的に使用されるスペーサーは、厚さが25ミクロンまたは60ミクロンのいずれかである。厚さ25ミクロンのスペーサーは、セルに必要な電解質が少なくなり、それによってコストが削減され、抵抗および拡散の制限が少なくなり、その効果によって効率が改善されるため、好ましい場合が多い。
DSSCが60ミクロンのスペーサーを含む場合、ニッケル層は好ましくは30ミクロン未満、または25ミクロン未満の表面粗さを有する。DSSCが25ミクロンのスペーサーを含む場合、ニッケル層は好ましくは15ミクロン未満、または10ミクロン未満の表面粗さを有する。
「表面粗さ」は、Dektak 6M Stylusプロファイラー(Veeco,USA)を使用して測定される、ニッケル表面層の断面上の最も高い山と最も低い谷との間の距離の測定値を意味する。
二重層カソード中のICPを含む層も多数の方法で形成することができる。たとえば、ICPを含む層は、金属ニッケルを含む層の上にその分散体を塗布することによって形成することができる。分散体の塗布は、本明細書に記載されるような印刷技術を使用して行うことができる。
二重層カソードのICPを含む層の別の形成方法としては、電気化学重合および化学酸化重合の使用が挙げられる。
電気化学重合によるICPを含む層の形成方法は、ニッケルを含む少なくとも1つの層が作用電極として使用され、重合してICPを形成するモノマーを含有する電解質/溶媒を含む、3電極電気化学セルの使用を典型的には含む。溶媒は、モノマーの溶解性により選択することができる。一定または交流の電流または電圧を印加することによって、モノマーが重合する範囲の電圧において、作用電極にICPがコーティングされる。コーティングの厚さは、重合時間によって制御することができる。
ICPを含む層が化学酸化重合によって形成される場合、重合は、本明細書に記載されるようなバルク重合または気相重合として行うことができる。
本発明による二重層カソードは、金属ニッケルおよびICPを含む層の作製に関して前述した技術のあらゆる好適な組み合わせを使用して構成することができる。
二重層カソードが構成される場合、ICPを含む層は、一般に金属ニッケルを含む層の上に直接取り付けられる(すなわちICPを含む層と金属ニッケルを含む層との間に介在層が存在しない)。
二重層カソードがDSSC中で機能するために、カソード層に電流が流れることができるように構成されることは当業者には理解されよう。
一実施形態においては、ICPを含む層が金属ニッケルを含む層の上に形成され、金属ニッケルを含む層が、金属ニッケルを含む分散体から形成され、ICPを含む層が化学酸化重合、好ましくは気相化学酸化重合によって形成されるように、カソードが構成される。
本発明によるカソードは、図1中にカソード(40)で表すことができる。したがってカソード(40)は、ブレンドとして散在する金属ニッケルおよびICPを含むことができる。カソード(40)は、金属ニッケルを含む層の上に配置されたICPを含む層を含むこともできる。その場合、当然ながら、セルの動作中に酸化還元対(30)の酸化種を還元することができるような方法でICPを含む層の方向が決定される。カソード(40)は、ICPおよび金属ニッケルの構造的支持を補助する基板(図示せず)を含むことができる。好適な基板としては、本明細書に記載のものが挙げられる。
好都合には、本発明により使用される金属ニッケルおよびICPは、たとえばロールツーロール加工によって可撓性基板に容易に取り付けることができ、そのため製造コストが単純化される可能性を有し、DSSC技術のための新しい用途も得られる。さらに、カソードの一部または全体は、印刷技術を使用して構成することができ、したがって製造コストの簡略化および削減を行うことができる。
本発明によるカソードの作製のより具体的な例は、最初に金属ニッケルを含む層をポリエステル基板上に形成するステップと、ICPを含む層を金属ニッケルを含む層の上に取り付けるステップとを含むことができる。たとえば、2cm2の接着性ポリマーマスクがあらかじめ取り付けられたポリマー(たとえばポリエチレンテレフタレート(PET))フィルムの表面上に、流延技術を使用して金属ニッケル粒子を含む分散体を塗布することができる。流延した分散体を乾燥させた後、マスクを剥離することで、アクリル樹脂などのポリマーバインダー中に分散した金属ニッケル粒子を含む膜を残すことができる。化学酸化剤(たとえばp−トルエンスルホン酸Fe(III))、ピリジン、および溶媒(たとえばブタノール)を含む溶液を、金属ニッケル粒子を含む層の表面に塗布することができる。次に、塗布した溶液を乾燥させることで、その層の上に自己ドーピング化学酸化剤層を得ることができる。こうして得られた自己ドーピング化学酸化剤がコーティングされた層は、気相重合によって層上にICPを形成するために気相の好適なモノマーに曝露することができる。この結果得られたカソードは、エタノールなどの好適な溶媒中で洗浄し、乾燥させて、他の標準的な設計および構成のDSSC中に後に使用することができる。
当業者であれば、従来のDSSC中に使用される種類の構成要素を理解しているであろう。以下は、図1に概略的に示されるDSSCの特徴に関連する。
透明アノード(5)
DSSC中に使用される透明アノードは、典型的には、ガラス、あるいはPET、PEN、またはPSUなどの透明可撓性プラスチックの上のフッ素スズ酸化物またはインジウムスズ酸化物のコーティングで構成される。単独または組み合わせでのグラフェンおよびカーボンナノチューブなどの導電性材料の他の透明コーティングも現在開発されているが、これらの代替品が商業的に重要になるまでには導電性の改善が必要である。
半導体(10)
従来のDSSC中に使用される半導体の例としては、二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、および酸化ニオブ(Nb2O5)が挙げられる。
感光色素(20)
多数の種類の感光色素が周知である。2つの重要な分類が「有機」色素およびポルフィリン色素であるが、ルテニウム−ポリピリジン色素またはトリカルボキシ−ルテニウムターピリジン色素などのルテニウム金属錯体が最も一般的である。他の代替物としては、テトロシアノホウ酸1−エチル−3メチルイミダゾリウム[EMIB(CN)4]または銅−二セレン[Cu(In,GA)Se2]が挙げられる。
本明細書において使用される場合、単独または複合語のいずれかで使用される用語「アルキル」は、直鎖、分枝、または環状のアルキル、好ましくはC1-20アルキル、たとえばC1-10またはC1-6を意味する。直鎖および分枝のアルキルの例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、1,2−ジメチルプロピル、1,1−ジメチル−プロピル、ヘキシル、4−メチルペンチル、1−メチルペンチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、1,2,2−トリメチルプロピル、1,1,2−トリメチルプロピル、ヘプチル、5−メチルヘキシル、1−メチルヘキシル、2,2−ジメチルペンチル、3,3−ジメチルペンチル、4,4−ジメチルペンチル、1,2−ジメチルペンチル、1,3−ジメチルペンチル、1,4−ジメチル−ペンチル、1,2,3−トリメチルブチル、1,1,2−トリメチルブチル、1,1,3−トリメチルブチル、オクチル、6−メチルヘプチル、1−メチルヘプチル、1,1,3,3−テトラメチルブチル、ノニル、1−、2−、3−、4−、5−、6−、または7−メチルオクチル、1−、2−、3−、4−、または5−エチルヘプチル、1−、2−、または3−プロピルヘキシル、デシル、1−、2−、3−、4−、5−、6−、7−、および8−メチルノニル、1−、2−、3−、4−、5−、または6−エチルオクチル、1−、2−、3−、または4−プロピルヘプチル、ウンデシル、1−、2−、3−、4−、5−、6−、7−、8−、または9−メチルデシル、1−、2−、3−、4−、5−、6−、または7−エチルノニル、1−、2−、3−、4−、または5−プロピルオクチル、1−、2−、または3−ブチルヘプチル、1−ペンチルヘキシル、ドデシル、1−、2−、3−、4−、5−、6−、7−、8−、9−、または10−メチルウンデシル、1−、2−、3−、4−、5−、6−、7−、または8−エチルデシル、1−、2−、3−、4−、5−、または6−プロピルノニル、1−、2−、3−、または4−ブチルオクチル、1−2−ペンチルヘプチルなどが挙げられる。環状アルキルの例としては、単環式または多環式のアルキル基、たとえばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシルなどが挙げられる。アルキル基が一般に「プロピル」、ブチル」などと呼ばれる場合、これが、適切となるあらゆる直鎖、分枝、および環状の異性体を意味することができることを理解されたい。アルキル基は、本明細書において規定される1つ以上の場合による置換基によって場合により置換されていてよい。
本明細書において使用される場合、用語「アリール」は、芳香族炭化水素環系の単核、多核、共役、および縮合の残基を意味する(たとえばC6−C24アリール)。アリールの例としては、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、クアテルフェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、アントラセニル、ジヒドロアントラセニル、ベンズアントラセニル、ジベンズアントラセニル、フェナントレニル、フルオレニル、ピレニル、イデニル(idenyl)、アズレニル、クリセニルが挙げられる。好ましいアリールとしてはフェニルおよびナフチルが挙げられる。アリール基は、本明細書において規定される1つ以上の場合による置換基によって場合により置換されていてよい。
たとえば、「[基]オキシ」と記載される用語は、酸素によって結合する場合の特定の基を意味することを意図している。たとえば、用語「アルコキシ」または「アルキルオキシ」、「アルケノキシ」または「アルケニルオキシ」、「アルキノキシ」またはアルキニルオキシ」、「アリールオキシ」、および「アシルオキシ」のそれぞれは、酸素によって結合する場合の本明細書における定義のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、およびアシル基を意味する。したがって、「[基]チオ」と記載される用語は、硫黄によって結合する場合の特定の基を意味する。たとえば、用語「アルキルチオ」、「アルケニルチオ」、アルキニルチオ」、および「アリールチオ」のそれぞれは、硫黄によって結合する場合の本明細書における定義のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基を意味する。同様に、「[基A][基B]」と記載される用語は、二価の形態の基Bによって結合する場合の基Aを意味する。たとえば、「[基A][アルキル]」は、二価のアルキル、すなわちアルキレンによって結合する場合の特定の基A(ヒドロキシ、アミノなど)を意味する(たとえば、ヒドロキシエチルは、HO−CH2−CH−を意味することを意図している)。したがって、用語「アリールアルキル」は、二価のアルキル基によって結合する場合のアリール基を意味することを意図している。たとえば、アリールアルキル基としては、ベンジル基(すなわち(C6H5)CH2−)が挙げられる。
本明細書において使用される場合、用語「芳香族複素環式化合物」は、1つ以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されており、酸化重合によって拡張共役系を有するポリマー主鎖を形成することができる、あらゆる単環式、多環式、または縮合の芳香族有機化合物を含むことを意図している。好ましい芳香族複素環式化合物は、5または6員環系である。好適なヘテロ原子としては、O、N、S、P、およびSeが挙げられ、特にO、N、およびSが挙げられる。2つ以上の炭素原子が置換されている場合、これは2つ以上の同じヘテロ原子によって、または異なるヘテロ原子によって置換されていてよい。芳香族複素環式化合物の好適な例としては、ピリジン、ピロール、チオフェン、フラン、インドール、カルバゾール、3,4−エチレンジオキシチオフェンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本明細書において使用される場合、用語「場合により置換された」[基]は、その[基]が、たとえば:スルホネート、カルボキシレート、ホスホネート、ナイトレート、アルコキシ(たとえばメトキシ、および環形成性アルコキシ基、たとえばアルキレンジオキシ基、たとえばエチレンジオキシ基またはプロピレンジオキシ基)、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ハロ、ハロアルキル、ハロアルケニル、ハロアルキニル、ハロアリール、ヒドロキシ、アルコキシ、アルケニルオキシ、アリールオキシ、ベンジルオキシ、ハロアルコキシ、ハロアルケニルオキシ、ハロアリールオキシ、ニトロ、ニトロアルキル、ニトロアルケニル、ニトロアルキニル、ニトロアリール、ニトロヘテロシクリル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルケニルアミノ、アルキニルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ベンジルアミノ、ジベンジルアミノ、アシル、アルケニルアシル、アルキニルアシル、アリールアシル、アシルアミノ、ジアシルアミノ、アシルオキシ、アルキルスルホニルオキシ、アリールスルフェニルオキシ、ヘテロシクリル、ヘテロシクロキシ(heterocycloxy)、ヘテロシクラミノ(heterocyclamino)、ハロへテロしクリル、アルキルスルフェニル、アリールスルフェニル、カルボアルコキシ、カルボアリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ、ベンジルチオ、およびアシルチオ、ならびにこれらの基のあらゆる組み合わせから選択される基などの、1つ、2つ、3つ、またはそれを超える数の有機および無機の基で、置換されていても、されていなくてもよいことを意味する。
本明細書において使用される場合、用語「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素炭素二重結合を含む直鎖、分枝、または環状の炭化水素残基から形成される基を意味し、たとえばエチレン性の一価、二価、または多価不飽和の前述の定義のアルキル基またはシクロアルキル基、好ましくはC2-20アルケニル(たとえばC2-10またはC2-6)が挙げられる。アルケニルの例としては、ビニル、アリル、1−メチルビニル、ブテニル、イソブテニル、3−メチル−2−ブテニル、1−ペンテニル、シクロペンテニル、1−メチル−シクロペンテニル、1−ヘキセニル、3−ヘキセニル、シクロヘキセニル、1−ヘプテニル、3−ヘプテニル、1−オクテニル、シクロオクテニル、1−ノネニル、2−ノネニル、3−ノネニル、1−デセニル、3−デセニル、1,3−ブタジエニル、1,4−ペンタジエニル、1,3−シクロペンタジエニル、1,3−ヘキサジエニル、1,4−ヘキサジエニル、1,3−シクロヘキサジエニル、1,4−シクロヘキサジエニル、1,3−シクロヘプタジエニル、1,3,5−シクロヘプタトリエニル、および1,3,5,7−シクロオクタテトラエニルが挙げられる。アルケニル基は、本明細書において規定される1つ以上の場合による置換基によって場合により置換されていてよい。
本明細書において使用される場合、用語「アルキニル」は、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を有する直鎖、分枝、または環状の炭化水素残基から形成される基を意味し、たとえばエチレン性一価、二価、または多価不飽和の前述の定義のアルキル基またはシクロアルキル基が挙げられる。炭素原子数が明記されていない場合、この用語は、好ましくはC2-20アルキニル(たとえばC2-10またはC2-6)を意味する。例としては、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、およびブチニル異性体、およびペンチニル異性体が挙げられる。アルキニル基は、本明細書において規定される1つ以上の場合による置換基によって場合により置換されていてよい。
本明細書において使用される場合、用語「ハロゲン」(「ハロ」)は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素(フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨード)を意味する。好ましいハロゲンは、塩素、臭素、またはヨウ素である。
本明細書において使用される場合、用語「カルボシクリル」は、あらゆる非芳香族の単環式、多環式、縮合、または共役の炭化水素残基、好ましくはC3-20(たとえばC3-10またはC3-8)を含んでいる。環は、飽和していてもよく(たとえばシクロアルキル)、1つ以上の二重結合(シクロアルケニル)および/または1つ以上の三重結合(シクロアルキニル)を有してもよい。特に好ましいカルボシクリル部分は、5〜6員または9〜10員の環系である。好適な例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロオクテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキサジエニル、シクロオクタテトラエニル、インダニル、デカリニル、およびインデニルが挙げられる。
本明細書において使用される場合、単独または複合語で使用される場合の用語「ヘテロシクリル」は、非芳香族残基が得られるように1つ以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されている、あらゆる単環式、多環式、縮合、または共役の炭化水素残基、好ましくはC3-20(たとえばC3-10またはC3-8)を含む。好適なヘテロ原子としては、O、N、S、P、およびSeが挙げられ、特にO、N、およびSが挙げられる。2つ以上の炭素原子が置換される場合、これは、2つ以上の同じヘテロ原子によって、または異なるヘテロ原子によって置換されていてよい。ヘテロシクリル基は、飽和または部分不飽和であってよく、すなわち1つ以上の二重結合を有すウルことができる。特に好ましいヘテロシクリルは5〜6員および9〜10員のヘテロシクリルである。ヘテロシクリル基の好適な例としては、アズリジニル(azridinyl)、オキシラニル、チイラニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、2H−ピロリル、ピロリジニル、ピロリニル、ピペリジル、ピペラジニル、モルホリニル、インドリニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、ピラゾリジニル、チオモルホリニル、ジオキサニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロピロリル、テトラヒドロチオフェニル、ピラゾリニル、ジオキサラニル(dioxalanyl)、チアゾリジニル、イソキサゾリジニル、ジヒドロピラニル、オキサジニル、チアジニル、チオモルホリニル、オキサチアニル、ジチアニル、トリオキサニル、チアジアジニル、ジチアジニル、トリチアニル、アゼピニル、オキセピニル、チエピニル、インデニル、インダニル、3H−インドリル、イソインドリニル、4H−キノラジニル(quinolazinyl)、クロメニル、クロマニル、イソクロマニル、ピラニル、およびジヒドロピラニルを挙げることができる。
本明細書において使用される場合、単独または複合語のいずれかの用語「アシル」は、部分C=Oを有する(カルボン酸、エステル、およびアミドではない)基を意味する 好ましいアシルとしては、C(O)−R(式中、Rは、水素、あるいはアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、カルボシクリル、またはヘテロシクリルの残基である)が挙げられる。アシルの例としては、ホルミル、直鎖または分枝のアルカノイル(たとえばC1-20)、たとえば、アセチル、プロパノイル、ブタノイル、2−メチルプロパノイル、ペンタノイル、2,2−ジメチルプロパノイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ウンデカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ペンタデカノイル、ヘキサデカノイル、ヘプタデカノイル、オクタデカノイル、ノナデカノイル、およびイコサノイル;シクロアルキルカルボニル、たとえばシクロプロピルカルボニル シクロブチルカルボニル、シクロペンチルカルボニル、およびシクロヘキシルカルボニル;アロイル、たとえばベンゾイル、トルオイル、およびナフトイル;アラルカノイル、たとえばフェニルアルカノイル(たとえばフェニルアセチル、フェニルプロパノイル、フェニルブタノイル、フェニルイソブチリル、フェニルペンタノイル、およびフェニルヘキサノイル)、およびナフチルアルカノイル(たとえばナフチルアセチル、ナフチルプロパノイル、およびナフチルブタノイル];アラルケノイル、たとえばフェニルアルケノイル(たとえばフェニルプロペノイル、フェニルブテノイル、フェニルメタクリロイル、フェニルペンテノイル、およびフェニルヘキセノイル、およびナフチルアルケノイル(たとえばナフチルプロペノイル、ナフチルブテノイル、およびナフチルペンテノイル);アリールオキシアルカノイル、たとえばフェノキシアセチルおよびフェノキシプロピオニル;アリールチオカルバモイル、たとえばフェニルチオカルバモイル;アリールグリオキシロイル、たとえばフェニルグリオキシロイルおよびナフチルグリオキシロイル;アリールスルホニル、たとえばフェニルスルホニルおよびナプチルスルホニル(napthylsulfonyl);複素環式カルボニル(heterocycliccarbonyl);複素環式アルカノイル(heterocyclicalkanoyl)、たとえばチエニルアセチル、チエニルプロパノイル、チエニルブタノイル、チエニルペンタノイル、チエニルヘキサノイル、チアゾリルアセチル、チアジアゾリルアセチル、およびテトラゾリルアセチル;複素環式アルケノイル(heterocyclicalkenoyl)、たとえば複素環式プロペノイル(heterocyclicpropenoyl)、複素環式ブテノイル(heterocyclicbutenoyl)、複素環式ペンテノイル(heterocyclicpentenoyl)、および複素環式ヘキセノイル(heterocyclichexenoyl);ならびに複素環式グリオキシロイル(heterocyclicglyoxyloyl)、たとえばチアゾリルグリオキシロイルおよびチエニルグリオキシロイルが挙げられる。R残基は、本明細書に記載されるように場合により置換されていてもよい。
本明細書において使用される場合、単独または複合語のいずれかの用語「スルホキシド」は、基−S(O)R(式中、Rは、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、カルボシクリル、およびアリールアルキルから選択される)を意味する。好ましいRの例としては、C1-20アルキル、フェニル、およびベンジルが挙げられる。
本明細書において使用される場合、単独または複合語のいずれかの用語「スルホニル」は、基S(O)2−R(式中、Rは、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、カルボシクリル、およびアリールアルキルから選択される)を意味する。好ましいRの例としては、C1-20アルキル、フェニル、およびベンジルが挙げられる。
本明細書において使用される場合、単独または複合語のいずれかの用語「スルホンアミド」は、基S(O)NRR(式中、各Rは独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、カルボシクリル、およびアリールアルキルから選択される)を意味する。好ましいRの例としては、C1-20アルキル、フェニル、およびベンジルが挙げられる。好ましい一実施形態においては、少なくとも1つのRが水素である。別の形態では、両方のRが水素である。
本明細書において使用される場合、用語「アミノ」は、本明細書においては当技術分野において理解される最も広い意味で使用され、式NRARB(式中、RAおよびRBは独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、カルボシクリル、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、アリールアルキル、およびアシルから選択されるいずれかであってよい)の基を含む。RAおよびRBとそれらが結合する窒素とを合わせたものは、単環式または多環式の環系、たとえば3〜10員環、特に5〜6員系および9〜10員系を形成することもできる。「アミノ」の例としては、NH2、NHアルキル(たとえばC1-20アルキル)、NHアリール(たとえばNHフェニル)、NHアラルキル(たとえばNHベンジル)、NHアシル(たとえばNHC(O)C1-20アルキル、NHC(O)フェニル)、Nアルキルアルキル(ここで、各アルキル、たとえばC1-20は同種または異種であってよい)、および1つ以上の同じまたは異なるヘテロ原子(たとえばO、N、およびS)を場合により有する5または6員環が挙げられる。
本明細書において使用される場合、用語「アミド」は、本明細書においては当技術分野において理解される最も広い意味で使用され、式C(O)NRARB(式中、RAおよびRBは前述の定義の通りである)を有する基を含む。アミドの例としては、C(O)NH2、C(O)NHアルキル(たとえばC1-20アルキル)、C(O)NHアリール(たとえばC(O)NHフェニル)、C(O)NHアラルキル(たとえばC(O)NHベンジル)、C(O)NHアシル(たとえばC(O)NHC(O)C1-20アルキル、C(O)NHC(O)フェニル)、C(O)Nアルキルアルキル(ここで、各アルキル、たとえばC1-20は同種または異種であってよい)、および1つ以上の同じまたは異なるヘテロ原子(たとえばO、N、およびS)を場合により有する5または6員環が挙げられる。
本明細書において使用される場合、用語「カルボキシエステル」は、本明細書においては当技術分野において理解される最も広い意味で使用され、式CO2R(式中、Rは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、カルボシクリル、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、アリールアルキル、およびアシルを含む群から選択することができる)を有する基を含む。カルボキシエステルの例としては、CO2C1-20アルキル、CO2アリール(たとえばCO2フェニル)、CO2アラルキル(たとえばCO2ベンジル)が挙げられる。
本明細書において最も広い意味で使用される場合、用語「ヘテロ原子」または「ヘテロ」は、環状有機基の構成要素となりうる炭素原子以外のあらゆる原子を意味する。特にヘテロ原子の例としては、窒素、酸素、硫黄、リン、ホウ素、ケイ素、セレン、およびテルルが挙げられ、特に窒素、酸素、および硫黄が挙げられる。
本発明の一部の好ましい実施形態を例示する以下の非限定的な実施例を参照しながら、これより本発明を説明する。しかし、本発明の以上の説明の一般性は、以下の説明の詳細に取って代わるものではないことを理解されたい。
実施例1
ニッケル配合物のコーティング
2段階手順を使用して、色素増感太陽電池セル(DSSC)のカソードを作製した。最初にMG Chemicalsのアクリルニッケル(acrylic nickel)の層をポリエステルまたはガラスの基板に塗布し、次にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOTと略記)の層をニッケルの上部に加える。
ニッケルコーティングは、流延法およびコーティング法の両方を使用して2つの異なる方法で塗布した。アクリルニッケル懸濁液(MG Chemicals,Canadaより入手)を、2cm2の接着性ポリマーマスクをあらかじめ取り付けたPETフィルム(DuPont Melinex ST506)の表面にドローダウンした。乾燥させた後、マスクを剥離すると、基板表面上に必要な形状のアクリルニッケルの硬質膜が、典型的には15〜25μmの厚さで現れた。あるいは、アクリルニッケル懸濁液(MG Chemicals,Canadaより入手)をPETフィルム(DuPont Melinex ST506)の表面に、ドローダウンバーコーター(RK Print Coat Instruments,UK)を使用して塗布し、空気中で少なくとも24時間硬化させた。
ニッケルがコーティングされたPETの小片をスライドガラス上にScotch Poster Tape(3M,USA)を使用して固定し、接触プロフィルメーター(Dektak 6M Stylus Profiler、Veeco,USA)を使用してコーティングの表面粗さを測定して、サンプルの断面を得た。次に、装置のソフトウェアを使用して断面の最も高い山と最も低い谷との間の距離を求め、これをサンプルの「最大粗さ」とした。
コーティングされたニッケル配合物の厚さを求めるため、ドローダウンコーターバーを使用して配合物をガラス(Monash Glass,Australia)上にもコーティングし、接触プロフィルメーターでステップ高さを測定した。
4点プローブ(Jandel Model RM3,UK)を使用して、PET上のニッケルコーティングの表面抵抗率を測定した。
結果
ほとんどの部分で、ニッケル配合物は、PET基板上にむらのない均一なコーティングが得られた。ニッケル配合物の容器を開いてからある時間経過すると、すなわち6か月を超えるとある程度不均一になったが、それは、配合物の揮発性有機溶媒が経時により蒸発し、その結果配合物の粘度が増加したからである。配合物が粘稠になりすぎてコーティングが得られなくなる場合には、メチルエチルケトン(MEK)およびエタノールを使用して作業可能なコンシステンシーまで希釈した。
ガラス上のニッケルコーティングの平均厚さは、24ミクロンであり、標準偏差は3ミクロンであった。完全な結果は付録1に見ることができる。ガラス基板上のニッケルコーティングの厚さは、同じ条件で塗布したPET基板上のコーティングの厚さと同じであると仮定した。
PET上のニッケルコーティングの最大粗さは15ミクロンであり、すなわち最高の山と最低の谷との間が15ミクロンであり、標準偏差は2ミクロンであった。600、1200、および2500グリッドの湿式/乾式シリコンカーバイドペーパーを使用して連続して研磨した後、最大粗さは8ミクロンに減少し、標準偏差は2ミクロンであった。研磨プロセスによってサンプルの山の高さが効果的に減少した。研磨したニッケルコーティングの断面の概略図を図2に示す。
実施例2
ニッケルコーティングの研磨
24時間硬化させた後、ニッケルコーティングを、600、1200、および2500グリッドの湿式/乾式シリコンカーバイドペーパーを使用して連続して研磨した。コーティングされたPETを研磨したものを、次にエタノールで洗浄し、前述の詳細のように接触プロフィルメータを使用して粗さを測定した。
乾燥後にコーティングの抵抗を測定すると8Ω/□であった。
実施例3
DSSC電解質中のニッケルコーティングの耐久性試験
1.DSSC電解質中のニッケルコーティングの耐久性を確認するために、市販のニッケルコーティングをコーティングしたガラスおよびPETを典型的なイオン液体を主成分とするDSSC電解質中に浸漬し、コーティングが電解質溶液に対して耐久性であるかどうかを一定間隔で観察した。この試験で使用した電解質は、文献2に以前に報告されているものに基づいた。この溶液は、PMIIおよびチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(EMINCS)の13:7混合物中の0.14Mのチオシアン酸グアニジン、0.2Mのヨウ素、および0.5Mの4−tert−ブチルピリジンからなった。
結果
イオン液体系電解質溶液中に109日間浸漬した後、ガラス基板およびPET基板の両方の上のニッケル/アクリルバインダーコーティングは依然として無傷のままであった。
実施例4
ニッケルコーティングされたPET上へのPEDOT:PTSの印刷
蒸気圧重合される(Vapour Pressure Polymerised)(VPP)PEDOT:PTSの生成のための酸化剤を、洗浄し研磨したニッケルコーティングされたPETの上に、実験室規模のグラビア印刷機(RK Print Coat Instruments,UK)を4.5の速度で使用して印刷した。この酸化剤を調製するために、0.033gのポリエチレングリコールを0.2mLの脱イオン水中に溶解させた。この溶液を次に1mLのBaytron配合物(1−ブタノール中のp−トルエンスルホン酸Fe(III)、HC Starck,Germany)に加えた。最後に、0.03gのポリウレタンジオール(水中88重量%、Aldrich,USA)を加えて酸化剤溶液を完成した。24mm×150mmの寸法の長方形を印刷し、そのサンプルを直ちにガラス製の気相重合(VPP)処理室に移し、55℃の数ミリリットルのEDOTの上で45分間つり下げた。次にサンプルをエタノール中で洗浄し、風乾した。
PET/ニッケル基板上に1、2、および3層のPEDOT:PTSを有するサンプルを作製した。最初にグラビアプルーファーおよび250ライン/インチの印刷版を使用して酸化剤のすべての層をグラビア印刷し、次にすべての層を一度に重合させることによって、これらの層を取り付けた。
あるいは、Baytron配合物の溶液に、Baytron C−B40中のFe(III)濃度に対して0.50のモル比でピリジンを加えた。ピリジンはルイス塩基として作用し、酸化剤の酸性度を低下させ、最終的なPEDOTポリマーの環の開裂および低電導度を防止する。Baytron−ピリジン混合溶液をピペットで塗布し、流出させることで、ニッケルコーティングされた基板を薄い均一な層で覆った。酸化剤がコーティングされた基板をオーブン中70℃で60秒間乾燥させ、次にガラス製VPP処理室に移し、その中でEDOTの液だまりの上で、この場合もオーブン中70℃で30分間つり下げた。コーティングされたサンプルのエタノール中で10分間の洗浄を2回行い、風乾した。洗浄後、サンプルを乾燥させると、DSSC中のカソードとして使用できる状態になった。
結果
一般に、酸化剤のグラビア印刷によって、PET/ニッケル基板上に明瞭に画定された印刷が形成され、一様に画定され均一なPEDOT:PTSの領域が得られた。印刷品質は、ニッケルコーティングの平滑性と関連し、すなわちニッケルコーティングが平滑であるほど、印刷品質が高かった。さらなる研究が必要であるが、ニッケルコーティングが平滑であるほど、塗布されるVPP PEDOT:PTSの質量の再現性もより高くなると推測される。
各サンプル上に印刷されたPEDOT:PTSの量を求めるために使用した、PEDOT:PTS水晶振動子のサイクリックボルタンメトリースキャンを、図3および4に示す。
スキャンの振幅をEwe/V vs.SCE=1において記録し、未知のサンプルのPEDOT:PTSの質量を求めるために使用した。
サンプル上に印刷されるPEDOT:PTSの量を変化させるために、1、2、および3層の酸化剤をPET/ニッケル基板上に印刷し、すべての層を印刷した後に気相重合を行った。PEDOT:PTSの複数の層を印刷することで、PEDOT:PTSの層がより厚くなること以外に、材料の形態および触媒特性に影響が生じるかどうかはまだ分かっていない。しかし、材料の表面上でのみ触媒活性が得られる白金とは異なり、導電性ポリマー中の触媒活性5は多孔質構造であるために材料全体で得ることができることが知られている。
PET/ニッケル基板上に堆積されたVPP PEDOT:PTSの質量の測定結果を図5〜7に示している。
これらの結果は、PET/ニッケル基板上に堆積されたPEDOT:PTSの量は再現性がなかったことを示している。1層の酸化剤を印刷した場合、基板上に堆積されたPEDOT:PTSの量は3.0〜5.8マイクログラム/cm2の範囲となった。2層の酸化剤を印刷した場合に堆積されたPEDOT:PTSの量は5.4〜7.4マイクログラムの範囲となった。3層の酸化剤を印刷した場合、6.6〜14.7マイクログラムの間が印刷された。
結果に再現性がないことの原因として多数の理由が存在しうる。手作業で行われるサンプルの研磨は、サンプル間でばらつきが生じることがあり、酸化剤の印刷に影響しうる。VPP室に加えられるEDOTモノマーの量が不十分であったため、印刷した酸化剤のすべてが反応してPEDOT:PTSを形成したとは限らなかった可能性がある。2層以上の酸化剤を印刷したサンプルの場合、EDOTモノマーが厚い酸化物層に浸透せず、この場合も未反応の酸化剤が生じた可能性がある。サンプル上の未反応のEDOTモノマーは、サンプルの洗浄中に洗い流されているであろう。
実施例5
サンプル上に印刷されたPEDOT:PTSの質量の測定
PEDOT:PTSの質量を、Stanford Research Systems 水晶振動子微量天秤(QCM 200)(USA)を使用して求めた。PEDOT:PTSの生成のための酸化剤を、Laurellスピンコーター(WS−400B−6NPP/LITE)(USA)を使用して2つの水晶振動子上にスピンコーティングし、EDOTモノマーの気相重合を行った。コーティング前後の水晶発振師の質量差を使用して、塗布されたPEDOT:PTSの質量を求めた。PEDOT:PTSがコーティングされた水晶振動子のサイクリックボルタンメトリースキャンを行い、スキャンの振幅を、水晶振動子上のPEDOT:PTSの質量と関連付けた。次にこのデータを使用して、PET/ニッケル/PEDOT:PTSサンプル上のPEDOT:PTSの質量を求めた。
各サンプルの異なる箇所において、PEDOT:PTSの質量を求めた。これは、グラビアプルーファーから得られる印刷は「くさび」型となり、印刷の終了時よりも印刷開始時の方が多くの酸化剤が堆積されるからである。印刷領域を24mm×10mmの水平区画に分割し、第1、第7(すなわちサンプルの中央)、および最後の区画の上のPEDOT:PTSの質量を求めた。
この電気化学試験に使用した電解質は、2004年にWangらが行った研究2に使用した電解質に基づいたものであった。電解質は、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムヨージド(Aldrich,USA)およびチオシアン酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(Aldrich,USA)の体積比13:7の混合物中に、0.2Mのヨウ素(Aldrich,USA)、0.14Mのチオシアン酸グアニジニウム(Merck,Germany)、および0.5Mの4−tert−ブチルピリジン(Aldrich,USA)を含有した。
実施例6
DSSCの作製、およびPET/ニッケル/PEDOT:PTS対極の電気化学試験
対称セルの電気インピーダンス分光法およびサイクリックボルタンメトリーを行って、PET/ニッケル/PEDOT:PTS対極の電気化学特性を調べた。
この電気化学試験に使用したセルは、対称であり代替のPET/ニッケル/PEDOT:PTS電極または標準ガラス/FTO/白金電極のいずれかを使用して作製した。一方の電極は、Surlynスーペーサーを上に溶融させたものであり(Solarnix Meltonix 1170−60)(Switzerland)、電解質用の5mm×7mm×60μmの空間が得られた。1滴の電解質をこの空間に加え、第2の同一の電極を次に上部に留めた。超音波はんだ付けシステム(USS−9200、MBR Electronics)(Switzerland)およびCerasolver Alloy #143はんだ付けワイヤ(MBR Electronics)(Switzerland)を使用して、これらの電極の上に電線をはんだ付けした。
この電気化学試験に使用した電解質は、各サンプル上に印刷したPEDOT:PTSの量を求めるためのサイクリックボルタンメトリースキャンの場合に使用した電解質と同一であった。
この対極に使用するための電解質を選択するためには、その耐久性および粗さプロファイルを考慮する必要がある。
実験によって、対極のニッケル/アクリルバインダー成分は、ニトリル類およびアルコール類などの一般的な有機溶媒を使用して溶解させることが可能なことが分かった。しかし、電極は、イオン液体電解質溶液に対して良好な耐久性を示した。このため、イオン液体電解質は、電気化学試験および大部分のDSSC製造に使用されている。
この用途でのイオン液体系電解質の使用にはさらなる利点が存在する。研磨したニッケル層の特有の粗さプロファイル(図2)のため、非常に低粘度の電解質、すなわち有機溶媒系電解質では、コーティングのチャネルを介してセルから漏れ出す可能性がある。したがって、より粘稠の電解質、すなわちイオン液体系電解質が好ましい。
結果
PET/ニッケル/PEDOT:PTS対極の電気化学試験は、サイクリックボルタンメトリーおよびインピーダンス分光法を使用して行われている。
2つの同一の電極を使用して作製した対称セルに対するサイクリックボルタンメトリーを行って、PET/ニッケル/PEDOT:PTSに対するスキャンと、従来のガラス/FTO/Pt電極から得られるスキャンとの差を観察し、スキャンから得られたグラフの勾配と、PET/ニッケル基板上に堆積したPEDOT:PTSの量とに相関があるかどうかを調べた。
これらのサイクリックボルタンメトリースキャンから得られたグラフを以下(図8および9)に示す。これらのグラフの勾配は、別々に各グラフの対角方向の垂直線をグラフ化し、図10〜13に示されるようにグラフの式から勾配を求めることによって得られた。たとえば、図10のグラフの勾配は0.89であり、図13のグラフの勾配は21.3である。
これらの対称セルのサイクリックボルタンメトリースキャンから得られるグラフの勾配と、各電極上に印刷されたPEDOT:PTSの量との間の相関のグラフを図14に示す。
各サンプル上に印刷されたPEDOT:PTSの量と、グラフの平均勾配との間の相関に全体的な傾向が存在するが、相関係数(R2)はわずかに0.6であり、これらの因子の相関が低いことを示している。この低い相関は、系の一定でない抵抗に寄与する要因が存在することを示唆している。
系に寄与する抵抗を求める目的で、予備的な電気インピーダンス分光法が系に対して行われている。典型的な電気インピーダンススキャンを図15に示す。
系の電気インピーダンススキャンを分析することによって、抵抗は3つの異なる原因から得られることが示されており、これらは電解質、ワイヤおよび/またはニッケルコーティング、およびPEDOT:PTSコーティングであると推測される。
任意の先行刊行物(またはそれから得られる情報)、または周知の任意の事項に対する本出願における言及は、先行刊行物(またはそれから得られる情報)または周知の事項が、本明細書が関連する努力傾注分野における共通する一般的知識の一部を形成するとの承認または容認またはなんらかの形態の示唆とみなされず、またそのようにみなされるべきではない。
本明細書および以下の特許請求の範囲の全体にわたって、特に文脈上他の意味が必要となる場合を除き、単語「含む」(comprise)、ならびに「含む」(comprises)および「含むこと」(comprising)などの変形は、記載の整数またはステップあるいは一群の整数またはステップを包含することを暗示しているが、任意の他の整数またはステップおよび整数またはステップの群を排除するものではないことを理解されたい。
本発明の範囲から逸脱しない多くの修正形態が当業者には明らかとなるであろう。
参考文献
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