JP2013510839A - 治療方法およびスクリーニング方法 - Google Patents

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Abstract

心筋細胞の細胞内クレアチン濃度を、特に、クレアチントランスポーターをアップレギュレートすることにより高めることを含んでなる、心血管疾患の予防または治療方法。また、心血管疾患の予防または治療に用いるべき物質を同定するためのスクリーニング方法が記載される。

Description

発明の背景
発明の分野
本発明は、心血管疾患、例えば、虚血、再潅流傷害、冠動脈性心疾患、心筋梗塞および狭心症を、心臓の細胞内クレアチン濃度を高めることにより、特に、クレアチントランスポーターを調節することにより、予防および治療する方法に関する。本発明はまた、これらの症状の治療に有用な物質を同定するためのスクリーニング方法に関する。
発明の背景
ATPは心臓のあらゆる機械的動作の直接的なエネルギー源であり、主としてミトコンドリアにおける酸化的リン酸化により生産される。クレアチンキナーゼ(CK)エネルギーシャトルは、ミトコンドリアから筋原繊維などのエネルギー利用部位へとATP中のエネルギーを送るエネルギー移動機構である。ミトコンドリアクレアチンキナーゼは、ATP中の高エネルギーリン酸結合の、クレアチン(Cr)への移動を触媒して、ADPとホスホクレアチン(PCr)を生成するが、このホスホクレアチンは心臓の主要なエネルギー貯蔵分子であり、虚血または高い作業負荷の間、ATPの再生に利用できる。ホスホクレアチンはミトコンドリアから筋原繊維へ急速に拡散し、この筋原繊維において筋原繊維クレアチンキナーゼがホスホクレアチンからATPの再形成を触媒する。その後、放出された遊離クレアチンが拡散してミトコンドリアに戻る。通常の状態では、総クレアチンプールのおよそ3分の1が遊離クレアチンとして存在し、2分の3がホスホクレアチンとして存在する。クレアチンキナーゼ系は、エネルギー要求がエネルギー供給を上回る場合にATPを通常レベルに維持するためにホスホクレアチンレベルを引き下げることにより、エネルギーバッファーとして働く。
クレアチンは肝臓および腎臓によって生産され、心臓に輸送され、そこで50倍の濃度勾配に逆らって特異的原形質膜クレアチントランスポーター(CrT)に取り込まれる。この取り込みおよび結果としての細胞内クレアチン濃度([Cr])は厳格に制御され、例えば、経口クレアチン摂取により血漿クレアチン濃度が高まるが、心臓のクレアチン取り込み能のダウンレギュレーションのために心筋のクレアチンレベルに影響はない。具体的に言えば、血漿クレアチン濃度の上昇に応じたCrTのダウンレギュレーションが細胞内クレアチン濃度を正常値に維持する働きをする。この厳格な調節のために、心筋クレアチン濃度を通常レベルを超えるように高めるのは極めて困難であることが分かっているが、それはクレアチントランスポーターの遺伝的過剰発現によって達成された。クレアチントランスポーター活性は遺伝子発現により、また、主要には他の機構により調節されると思われる。
エネルギー供給を増やすために種々の療法でクレアチンを用いることが提案されている。例えば、クレアチンの経口摂取は、ある種の筋障害(例えば、デュシェーヌ)、中枢神経系障害(例えば、パーキンソン)ならびに骨および代謝障害(例えば、骨粗鬆症)において変性状態を緩和するのに有効であり得る。クレアチン摂取はまた、ウエイトリフティングなどの筋力競技などで運動性能を向上させるために広く用いられている。
英国での冠動脈性心疾患(CHD)および慢性心不全(CHF)の医療負荷は莫大である。CHDは最も多い死因であり、およそ6人に1人がこの疾患に罹患し、200万人が慢性アンギナに苦しんでいる(www.heartstats.org)。CHFの罹患者は約180万人であり、予後は悪い(診断1年目の死亡率は40%(Dayer & Cowie Clin Med. 2004;4:13-18))。経済的影響も同じように莫大であり、年間コストはCHDで数十億ポンド、CHFで7億1600万ポンドである(www.heartstats.org)。最適な医学療法をもってしても、死亡率および罹患率は両症状とも依然として高く(Graham et al. Eur J Cardiovasc Prev Rehabil. 2007;14 Suppl 2:S1-113; Dickstein et al. Eur J Heart Fail. 2008;10(10):933-989)、より効果的な治療形態が切望される。
心不全では、心臓のエネルギー代謝に様々な変化がある。例えば、進行した病期となるまでは心筋のATPレベルは正常なままであるが、ホスホクレアチンと総クレアチンレベルの双方は初期段階で著しく低下する。このCrT機能のダウンレギュレーションはこれらのレベルの低下によるものである。さらに、ミトコンドリアクレアチンキナーゼおよび筋原繊維クレアチンキナーゼの双方の活性が低下する。しかしながら、心臓でのみCrTを過剰発現するように遺伝子操作され、高レベルのクレアチンを有するマウスは心肥大および心不全の徴候を生じた(Wallis et al. Circulation. 2005;112:3131-3139)ことから、治療として心筋クレアチンレベルを上昇させることは不明瞭である。
心不全の現行の治療は主として、アドレナリン作動系およびレニン−アンギオテンシン−アルドステロン系などの神経ホルモン系の阻害に基づいている。最良の治療をもってしても、死亡率および罹患率は依然として高く、新たな治療アプローチが必要である。
他の心血管疾患、特に、虚血期を含むものにも新たな治療アプローチが必要である。ほとんどの心臓手術中に現在用いられている方法は、手術を容易にし、そして代謝要求を引き下げ、ATPを貯蔵するために、心臓を停止させる心停止法の使用を含んでいる。これは多くの場合、心臓冷却と組み合わせられる。
世界中で、血管再生が不可能であるかまたは症状に部分的軽減をもたらすに過ぎないアンギナ罹患者が数百万人存在する。この衰弱状態に対する改良された医学的療法が切望されている。アンギナの現行の薬理学的治療は、収縮頻度と収縮力を引き下げること(例えば、Ca2+チャネル遮断薬、β遮断薬)により代謝要求を引き下げるか、または血管拡張機構(例えば、硝酸、Kチャネルアクチベーター)により心臓への血流を増すかのいずれかである。
本発明の目的は、このような心血管疾患の治療のための代替戦略を提供することである。具体的には、本発明の目的は、虚血および/またはエネルギー要求の高まった状態の期間、それから保護する、またはそれに対する耐性を向上させるために、心臓のエネルギー貯蓄を高めることである。
本発明のさらなる目的は、これらの症状の治療に用いるための、心筋クレアチンレベルを変化させる化合物を同定するためのスクリーニング方法を提供することである。
第一の態様によれば、本発明は、心筋細胞の細胞内クレアチン濃度を高めることを含んでなる、心血管疾患を予防または治療する方法を提供する。有利には、この方法は、利用可能な治療薬のいずれにも現在使われていない新たな治療戦略を提供する。また、これは、全く異なる作用機序を持つ既存の薬剤との併用療法を可能とする。
一つの実施態様では、本方法は、クレアチントランスポーターのアップレギュレーションにより、例えば、クレアチントランスポーターの発現および/または活性を高めることにより、心筋細胞の細胞内クレアチン濃度を高めることを含んでなる。好ましくは、心筋細胞の細胞内クレアチン濃度は、クレアチントランスポーターの小分子モジュレーターの投与により高めることができる。
好ましくは、心筋細胞の細胞内クレアチン濃度は、通常レベルの20%〜100%増に高められる。
好ましくは、心血管疾患は、虚血、再潅流傷害、冠動脈性心疾患、心筋梗塞および狭心症から選択される。本発明はまた、例えば、心臓が肥大心または不全心である場合、および/または心臓手術または心臓移植の前に、心臓の虚血再潅流傷害から保護するために使用することもできる。
第二の態様によれば、本発明は、心血管疾患の予防または治療のための、クレアチントランスポーター遺伝子を含んでなるベクターを提供する。本発明はまた、クレアチントランスポーター遺伝子を含んでなるベクターを含んでなる、心血管疾患の予防または治療のための医薬組成物、および心血管疾患の予防または治療用薬剤の製造のための、クレアチントランスポーター遺伝子を含んでなるベクターの使用を提供する。
更なる態様によれば、本発明は、心血管疾患の予防または治療に用いるための物質またはその塩もしくは溶媒和物をスクリーニングする方法であって、
(i)クレアチントランスポーター遺伝子を発現する細胞を準備する工程;
(ii)これらの細胞を、標識クレアチン、非放射性標識クレアチンおよび試験物質とともにインキュベートする工程;
(iii)細胞内放射性標識による放射性シグナルを測定する工程;および
(iv)試験物質の存在下での放射性標識の取り込みと試験物質の不在下での放射性標識の取り込みを比較する工程
を含んでなる方法を提供し、該方法において、取り込みの増加は、その試験物質が心血管疾患の予防または治療に有用であり得ることを示す。
本発明は、心血管疾患の予防または治療に用いるための物質またはその塩もしくは溶媒和物をスクリーニングする更なる方法であって、
(i)クレアチントランスポーター遺伝子を発現する細胞を準備する工程;
(ii)これらの細胞を、クレアチンおよび試験物質とともにインキュベートする工程;
(iii)H−MRSを用いて、in vitroで細胞内クレアチンレベルを測定する工程;および
(iv)試験物質の存在下でのクレアチンの取り込みと試験物質の不在下でのクレアチンの取り込みを比較する工程
を含んでなる方法を提供し、該方法において、取り込みの増加は、その試験物質が心血管疾患の予防または治療に有用であり得ることを示す。
本発明はまた、心血管疾患の予防または治療に用いるための物質またはその塩もしくは溶媒和物をスクリーニングする方法であって、
(i)試験物質を非ヒト動物に投与する工程;
(ii)試験物質の投与後に、該非ヒト動物の心臓の細胞内クレアチン濃度をH−MRSにより測定する工程;
(iii)試験物質の投与前の該非ヒト動物の心臓の細胞内クレアチン濃度と試験物質の投与後の該非ヒト動物の心臓の細胞内クレアチン濃度を比較する工程
を含んでなる方法を提供し、該方法において、細胞内クレアチン濃度の増加は、投与されたその物質が心血管疾患の予防または治療に有用であり得ることを示す方法を提供する。
有利には、これらの方法は、心血管疾患、例えば、虚血、再潅流傷害、冠動脈性心疾患、心筋梗塞および狭心症の治療に、新規な治療薬を提供し得る。
in vivo虚血/再潅流の心筋傷害が、83〜140nmol/mgタンパク質の治療的[Cr]範囲内で、マウス心臓においてより低いことを示す。 in vivo虚血/再潅流後の心筋クレアチン濃度と心筋傷害の間の負の相関を示す。 単離された潅流マウス心臓における20分の全虚血(時間=10分から30分まで)の前、間、および後の心機能(心拍数×収縮期圧(rate pressure product)RPPの回復)を示す。菱形は対照野生型マウスを、四角はCrTを過剰発現するトランスジェニックマウスを表す。 単離された潅流マウス心臓における20分の全虚血の前、間、および後のPCr濃度を示す。四角は対照野生型マウスを、菱形はCrTを過剰発現するトランスジェニックマウスを表す。 図5Aは、CrTを安定に発現する繊維芽細胞3T3の培養による14C標識Crの取り込みが細胞外Cr濃度によっていかに異なるかを示す。 図5Bは、同じ3T3細胞系統における、また、250μMのクレアチンとともにインキュベートしたHL1細胞における、β−GPAによるクレアチン取り込みの用量依存的阻害を示す。これにより、このスクリーニング方法が薬理学的調節に応答したクレアチン取り込みの小さな変化を検出するのに十分な感度であることが確認される。
発明の具体的説明
本発明は、細胞内クレアチン濃度を高めることによる、特に、クレアチントランスポーターを調節することによる、心血管疾患、例えば、虚血、再潅流傷害、冠動脈性心疾患、心筋梗塞および狭心症の新規な予防または治療方法に関する。本明細書では、クレアチントランスポーターを過剰発現するマウス(CrT−OEマウス)は心臓において[Cr]および[PCr]の上昇を示し、エネルギーバッファー能を高め、急性虚血/再潅流傷害から保護することが示される。この原理証明データは、例えば、クレアチントランスポーター(CrT)またはその内因性レギュレーターの活性を調節することにより細胞内[Cr]を調節することができる薬理剤の治療上の可能性を示唆する。
本発明は、虚血性発作前に心臓により高いエネルギー貯蓄を与え、それにより虚血性傷害および/またはアンギナなどを軽減することにより、心血管疾患を治療する新規なアプローチを提供する。具体的には、心臓のクレアチンレベルが引き上げられ、その結果、虚血性発作が起こった際に、虚血の悪影響が及ぶ前に元に戻るよう、より大きなエネルギー予備量を有するようになる。これは心臓への血液供給を高める、または酸素および/もしくは栄養要求を引き下げる原稿の療法とは対照的であり、言い換えれば、本発明は虚血性傷害が起こった後にそれを補正することを目的とする。
本発明に従って予防または治療可能な症状としては、心血管疾患、例えば、虚血、再潅流傷害、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症および心不全が含まれる。一般に、「予防」および「治療」とは、疾患または症状の素因を持ち得るがその疾患または症状を持つとはまだ診断されていない患者の疾患または症状の発症の予防;疾患の症状の抑制、すなわち、その進行の抑制または遅延;ならびに疾患の症状の緩和、すなわち、疾患または症状の緩解、または症状の進行の逆転を包含する。
本明細書において「心血管疾患」とは、心臓または血管(動脈および静脈)を含む疾患種を意味する。患者が虚血および/または再潅流傷害のエピソードを受ける心血管疾患は、患者の心臓がエネルギー要求の高まる状態にある心血管疾患と同様に、本発明に関して特に注目される。虚血は臓器への血液供給の絶対的または相対的不足であり、酸素、グルコースおよび他の血液が運ぶ燃料の不足をもたらし得る。相対的不足は、血液供給(酸素/燃料送達)と組織の十分な代謝のための要求量との不一致を意味する。虚血は酸素および栄養の欠如のために組織損傷をもたらし、もしこれが続けば細胞死に至る。虚血は、身体のある部分に供給を行う血管の収縮または遮断により起こるものであり、その結果、その部分への血流が不十分となる。臓器の中でも、不十分血液供給に最も感受性の高いのは心臓、腎臓および脳である。脳組織における虚血は脳卒中または頭部傷害によって起こる場合があり、やがて脳組織が死に至るおそれがある。虚血を「予防」または「治療」するとは、虚血エピソードの期間を短縮し、かつ/または虚血エピソードを逆転もしくは完全に回避し、それにより、問題の臓器の損傷を軽減する、または保護することを意味する。
本発明は特に、通常には冠動脈性疾患(または例えば冠動脈のアテローム性動脈硬化症のために心筋および周囲の組織に十分な循環を供給する冠循環の不全を意味する冠動脈性心疾患)のために減少した心筋への血液供給を特徴とする疾患である虚血性心疾患(IHD)、すなわち心筋虚血に関する。虚血性心疾患は、運動時、寒冷な天候または興奮状態での胸痛);急性胸痛:急性冠動脈症候群、狭心症または心筋梗塞(心臓発作)および心不全(心筋虚弱による呼吸困難または手足のむくみ)を含む様々な症状を呈し得る。
虚血性心疾患を「予防」または「治療」するとは、虚血エピソードの期間を短縮し、かつ/または虚血エピソードを逆転もしくは完全に回避し、それにより、心臓の損傷を軽減する、または保護することを意味する。心筋梗塞を「予防」するは、心筋梗塞のリスクの高い患者の二次的保護としての慢性処置を意味する。狭心症を「予防」または「治療」するとは、アンギナの症状を軽減し、かつ/またはアンギナ閾値をより高い作業負荷にシフトさせ得ること(すなわち、患者は、アンギナが起こる前よりも活動能が高くなり得る)を意味する。
実際には、虚血期間後の血流の回復のほうが虚血自体よりもダメージが大きい場合がある。再潅流傷害とは、虚血期間後に組織に血液供給が戻る際に起こる組織の損傷を意味する。血液からの酸素および栄養の供給が無いということは、循環の回復が正常な機能の回復ではなく炎症、そして酸化ストレスの誘導による酸化損傷を引き起こす条件を作り出す。心臓では、心筋再潅流傷害は、冠動脈閉塞によってそれまで虚血状態であった領域への急激な血流によって引き起こされ、不整脈、梗塞および/または心筋気絶が起こり得る。虚血再潅流傷害は、手術の実施中にしばしば出くわす複雑な現象である。虚血再潅流傷害を「予防」するとは、再潅流時に組織損傷の程度を軽減する、または回避することを意味する。虚血再潅流傷害を「治療」するとは、再潅流により組織に起こる損傷を逆転させて、その組織の正常機能を回復させ、かつ/または処置を行わなかった場合よりも急速な正常組織の心機能の回復が見られるようにすることを意味する。
本発明の具体的な使用は以下の適応を含む。
i)肥大心および不全心を含む心臓における虚血/再潅流傷害からの保護。例えば、本発明は、心臓手術(バイパスグラフトまたは弁置換など)の前の急性処置として、すなわち、心停止前に心臓にCrを負荷して、完全な心虚血中に使えるエネルギーを増やし、それにより、損傷から保護するために使用することができる。
ii)心筋虚血および梗塞のリスクの高い患者の二次的保護としての慢性処置。
iii)アンギナの慢性処置(使えるエネルギーを増やす)。アンギナ閾値をより高い作業負荷にシフトさせることができる(すなわち、患者は、アンギナが起こる前よりも活動能が高くなり得る)。
iv)心不全の治療。この態様では、併用療法が特に有効である可能性がある。
v)健康な臓器提供者への摘出数日前の投与、すなわち、脳幹活動が無いことに基づいて死亡と判定され、かつ、臓器移植に同意が得られていた患者における、心臓の外植前に心筋クレアチンレベルを高めるための処置。
本発明の方法はまた、虚血性脳卒中または一過性脳虚血性発作などの類似の脳症状にも有益であり得る。他の可能性のある適用としては、筋ジストロフィーの、骨格筋強度を構築するための処置が含まれる。
クレアチンおよびクレアチントランスポーター
本発明は、本明細書に述べられている様々な症状を予防または治療するために、心筋細胞の細胞内クレアチン濃度を高めることを提供する。細胞内クレアチン濃度は、例えば、US2007/0203076に記載されているようなクレアチンエステルの使用などのいずれの手段によって高めてもよい。
好ましくは、細胞内クレアチン濃度は、クレアチントランスポーターのアップレギュレーションによって高める。クレアチントランスポーターのアップレギュレーションとは、クレアチントランスポーターの発現および/または活性が高められることを意味する。CrTの発現は、CrTの発現をもたらす構築物を用いた遺伝子療法によって高めることができる。例えば、Wallis et al.は、心筋CrTが過剰発現されるトランスジェニックマウスを記載している(Circulation 2005; 112:3131-3139)。Snow and Murphy (Molecular and Cellular Biochemistry (2001) 224:169-191)は、クレアチンおよびクレアチントランスポーターの総説を示している。
ヒト(遺伝子ID6535;NC_000023.10)、マウス(遺伝子ID102857;NC_000086.6)またはラット遺伝子(遺伝子ID50690;NC_005120.2)(これらの配列はNational Center for Biotechnology Information, NIHデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez)に見出すことができる)またはその保存的改変変異体を含むいずれのCrT遺伝子を発現させてもよい。
「保存的改変変異体」とは、当技術分野で周知のものであり、タンパク質機能に実質的に影響のない変異を含む変異体を示す。例えば、保存的改変変異体は、特定の出発ポリペプチドまたはアミノ酸配列に由来し、その出発ポリペプチドまたはアミノ酸配列と約80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有するポリペプチドまたはアミノ酸配列を含む。この用語はまた、好都合には、米国特許第5,380,712号(かかる目的で引用することにより本明細書の一部とされる)に見られるように定義される。当技術分野では、ペプチドまたはタンパク質の、あるアミノ酸を類似の特性を有する別のアミノ酸で置換しても(例えば、グルタミン酸残基のアスパラギン酸残基での置換)、その置換が行われたペプチドまたはタンパク質の特性または構造を実質的に変化させないことはよく認識されている。
遺伝子療法に利用可能な遺伝子導入ベクターは本技術分野で周知であり、遺伝子導入方法または宿主に応じて適宜選択することができる。このようなベクターの例としては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルスおよびレトロウイルスベクターが挙げられる。CrT遺伝子を遺伝子導入ベクターに連結する場合には、プロモーターまたはターミネーターなどの制御配列、シグナル配列、ポリペプチド安定化配列などを、その遺伝子が宿主内で発現され得るように適宜連結すればよい。このようなベクターの選択または構築は当業者に公知である。CrTの発現は、構成的であっても誘導型であってもよい。例えば、CrT遺伝子は、テトラサイクリン応答エレメントなどの応答エレメントの制御下に置き、それにより、テトラサイクリンの投与でCrT発現(およびそれによりクレアチン用量)を制御することもできる。あるいは、プロモーターは、α−MHCプロモーターなどの心臓特異的プロモーターであってもよい。
その代わりに、またはそれに加えて、CrTの活性は、遺伝子改変によってより活性の高い形態とすることによるか、または個体に例えばクレアチントランスポーターの小分子モジュレーターなどの、CrTの活性の増強をもたらす1以上の物質を投与することによって高めてもよい。このようなCrTの小分子モジュレーターは、好ましくは、クレアチンのように、トランスポーターによって細胞に受け渡されるが、基質フィードバックを阻害することができない分子である。言い換えれば、このような分子はCrTまたは関連の調節タンパク質上のCr調節部位を遮断するよう高い親和性を有し、細胞内Cr濃度の上昇の結果として通常起こるネガティブフィードバックを防止する。このような分子は、トランスポーターの活性を高め、それにより、より多くのクレアチンを細胞に侵入させ、高いクレアチン濃度を細胞内で達成するということから、「CrTアクチベーター」と呼ばれる。
投与
クレアチントランスポーターの小分子モジュレーターの投与を含んでなる処置では、このような物質を薬学上許容される担体と混合してもよく、これにより、それは医薬組成物の形態で提供することができる。いずれの比率の有効成分と担体を用いてもよく、有効成分と担体の比は好ましくは1%〜90重量%の間である。さらに、本発明の医薬組成物は、ヒトまたはヒト以外の生物[例えば、非ヒト哺乳類(例えば、ウシ、サル、ニワトリ、ネコ、マウス、ラット、ハムスター、ブタ、イヌなど)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫など]に、種々の形態で経口投与経路(経管栄養または食物もしくは飲料との混合物)または非経口投与経路(例えば、静注、筋肉内注射、皮下投与、直腸投与、腹腔内、および皮内投与)のいずれかを介して投与することができる。よって、本発明の医薬組成物として、有効成分を単独で使用することもできる。しかしながら、また、好適な投与形を有する処方物を製造するために、投与経路に応じて慣用される方法により、このような有効成分を薬学上許容される担体または希釈剤とともに処方することもできる。当業者に公知のいずれの投与形も使用可能である。例えば、等張性生理食塩水、バッファーなど、任意の適当な担体または希釈剤が使用可能である。このような製薬担体は当技術分野で周知であり、好適な担体の選択は、本明細書に含まれる教示から、当業者の範囲内であるものと思われる。
クレアチントランスポーターの小分子モジュレーターは、in vivoにおいて、CrTの活性の増強を達成し、細胞内クレアチン濃度の上昇、最も好ましくは、通常レベルの20〜100%増の上昇をもたらすのに有効な量で投与される。心筋クレアチンレベルは、当業者に公知のいずれの方法によって測定してもよいが、好ましくは、Schneider et al. (Magnetic Resonance in Medicine, 2004, 52:1029-1035)に記載されているようなH−MRSによって非侵襲的に定量すればよい。H−MRSは、動物ではin vivo薬剤スクリーニングのために、また、ヒトでは治療レベルを監視するために(例えば、処置の至適化のために)行うことができる。本願の目的の「有効量」とは、所望の効果をもたし得る物質の量を意味するものとする。投与される物質の量は、患者の年齢、体重および状態、投与経路、医薬組成物の特性、患者の症状、医師の判断、所望の治療または予防の条件および程度を含む種々の因子によって異なる。物質は、所望の治療または予防の条件および程度に応じて短期療法または長期療法として個体に投与することができる。例えば、短期処置(例えば、一時的遺伝子療法による)は、心筋クレアチンのin vivo分解を遅延させることによって長期作用を持たせることもできる。
下記のマウスモデルでは、83〜140nmol/mgタンパク質の治療域が有効であることが分かり、すなわち、I/R傷害に対して、通常レベルの細胞内クレアチン濃度の20%増(すなわち、83nmol/mgタンパク質)で有益な効果が見られた。これらの測定はホモジネートした組織においてHPLCによって行うことができ、クレアチン濃度はサンプルの総タンパク質含量(標準的な分光光度測定法により測定される)に対してノーマライズする。細胞内クレアチン濃度が通常レベルの100%(マウスでは140nmol)を超えると、毒性作用が見られ、すなわち、Wallis (2005)では、肥大および心不全が記載されている。ヒトまたは他の動物において治療域をどのように決定すればよいかは、当業者には自明である。細胞内クレアチン濃度を通常レベルの20〜100%増に上昇させるために、任意の推定CrT活性化化合物の用量決定の基礎をなす治療域を得ることができる。例えば、本発明の遺伝子療法態様を用いる場合には、CrT遺伝子の発現を制御することにより、例えば、CrT遺伝子を誘導プロモーターの制御下に置くことによって、クレアチンレベルを治療域内に維持することができる。
クレアチントランスポーターの小分子モジュレーターは、単独で用いてもよいし、あるいは心血管疾患、例えば、虚血、再潅流傷害、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症および心不全を予防または治療するための他の技術、薬剤または化合物と併用してもよい。[Cr]の上昇は、利用可能ないずれの治療薬にも現在採られていない新たな治療戦略に相当する。これには、全く異なる作用機序を持つ既存の薬剤に付加的な利益を持つという利点がある。以下の例を挙げることができる。
(i)心停止の現行の実施は、代謝要求を引き下げ、ATPを貯蔵するために心臓を冷却することを含む。本発明者らの新規な戦略は、使用されたATPの再生に利用可能なエネルギー予備量を高めることによりこれに付加される。
(ii)アンギナの現行の薬理学的処置は、収縮頻度と収縮力を引き下げること(例えば、Ca2+チャネル遮断薬、β遮断薬)により代謝要求を引き下げるか、または血管拡張機構(例えば、硝酸、Kチャネルアクチベーター)により心臓への血流を増すかのいずれかである。[Cr]の上昇は、アンギナ発作中に起こる短時間の虚血に対する心臓の感受性を低くすることによる新規なアプローチに相当する。
(iii)心不全の現行の処置は、主として、アドレナリン作動系およびレニン−アンギオテンシン−アルドステロン系などの神経ホルモン系の阻害に基づいている。最良の処置をもってしても、死亡率および罹患率は依然として高く、新たな治療アプローチが必要である。[Cr]の上昇は、不全心臓中の正常な心臓エネルギー論を維持するユニークなアプローチに相当する。
よって、クレアチントランスポーターの小分子モジュレーターは、1以上の上記処置と組み合わせて投与することができる。
本発明の遺伝子療法では、目的の遺伝子をコードする組換えベクターを患者に直接投与するin vivo法、または患者の身体から標的細胞を回収し、CrT遺伝子、もしくは目的の遺伝子をコードする組換えベクター、もしくは例えば操作されたアゴニスト抗体の重鎖および形成などの遺伝子をコードするアゴニストを有するDNA構築物を、身体の外部で標的細胞に導入し、上記遺伝子またはベクターが導入された標的細胞を患者の身体に戻すex vivo法のいずれかを選択することができる。in vivo法の場合、目的の遺伝子をコードする組換えベクターを、レトロウイルスベクターなどの当技術分野で公知の遺伝子導入ベクターを使用することにより、患者に直接投与する。本発明の医薬組成物と同様に、本発明の遺伝子療法に使用されるこのようなCrT遺伝子、またはCrT遺伝子が機能的に連結されている遺伝子導入ベクターは薬学上許容される担体と混合して処方物を作製することができる。このような処方物は例えば非経口投与することができる。あるいは、処方物は、例えば直接的心筋注射(例えば、冠動脈バイパス術中に二次的予防のために)などのIV注射により送達するか、またはカテーテル留置中に冠動脈に直接放出することができる。用量レベルの変動は、当技術分野で十分に理解されている標準的な経験的至適化法によって調節することができる。in vivo投与の別法としては、操作されたアゴニスト抗体の重鎖および軽鎖をコードするDNAを直接送達するための粒子衝撃またはジェット注射などの物理的アプローチを使用することである(Walther et al Mol Biotechnology 28:121-128, 2004; Yang et al PNAS 87:9568-72, 1990)。ex vivo法の場合、このようなCrT遺伝子は、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、またはウイルス形質導入法などの当技術分野で公知の方法に従って標的細胞に導入することができる。ex vivo法を選択する場合、CrT遺伝子、またはCrT遺伝子が機能的に連結されている遺伝子導入ベクターを細胞、好ましくは心筋細胞に導入し、次に、上記ペプチドをその細胞内で発現させる。その後、この細胞を患者に移植し、その結果、心血管疾患が治療され得る。
遺伝子療法によるクレアチントランスポーターのアップレギュレーションは、好ましくは、細胞内クレアチン濃度の上昇をもたらし、最も好ましくは、例えばH−MRSにより測定した際に通常レベルの20〜100%増の上昇をもたす。誘導プロモーターまたは制御エレメントを使用することにより、CrTのアップレギュレーション(例えば、活性および/または発現の増強)を制御することができる。例えば、CrT遺伝子をテトラサイクリン応答エレメントなどの応答エレメントの制御下に置くことにより、テトラサイクリンの投与によってCrT発現(およびそれによりクレアチン用量)を制御することができる。
スクリーニング法
本発明はまた、本明細書に記載される心血管疾患の処置において薬理学的ツールまたは可能性のある治療薬として使用可能なCrTの小分子モジュレーターを同定するための方法を提供する。ねらいとする戦略はCrTを調節することであり、それはこれが大きな濃度勾配に逆らった能動的取り込みを含む、クレアチンが細胞に入り得る唯一の機構であるからである。余分な食事性クレアチンを摂ると骨格筋の[Cr]は上昇し得るが、結果的なCrTのダウンレギュレーションのために心筋細胞の[Cr]は変化しない。実際、クレアチン自体によるネガティブフィードバックは心臓CrTの唯一確認されているレギュレーターであり、従って、このスクリーニング戦略はこれを利用する。
第一の態様では、本発明は、心血管疾患の予防または治療に用いるための物質またはその塩もしくは溶媒和物をスクリーニングする方法であって、
(i)クレアチントランスポーター遺伝子を発現する細胞を準備する工程;
(ii)これらの細胞を、標識クレアチン、非標識クレアチンおよび試験物質とともにインキュベートする工程;
(iii)細胞内標識によるシグナルを測定する工程;および
(iv)試験物質の存在下での標識の取り込みと試験物質の不在下での放射性標識の取り込みを比較する工程
を含んでなる方法を提供し、該方法において、取り込みの増加は、その試験物質が心血管疾患の予防または治療に有用であり得ることを示す。
本発明は、心血管疾患の予防または治療に用いるための物質またはその塩もしくは溶媒和物をスクリーニングする更なる方法であって、
(i)クレアチントランスポーター遺伝子を発現する細胞を準備する工程;
(ii)これらの細胞を、クレアチンおよび試験物質とともにインキュベートする工程;
(iii)H−MRSを用いて、in vitroで細胞内クレアチンレベルを測定する工程;および
(iv)試験物質の存在下でのクレアチンの取り込みと試験物質の不在下でのクレアチンの取り込みを比較する工程
を含んでなる方法を提供し、該方法において、取り込みの増加は、その試験物質が心血管疾患の予防または治療に有用であり得ることを示す。この別法としての測定法は、細胞を、上記のようにインキュベートして試験物質に曝すとともに、非標識クレアチンに曝すことを含む。その後、細胞を洗浄し、溶解させた後、H−MRSを用いてin vitroでクレアチンレベルを測定する。
いずれの分子に対してこれらのスクリーニング法を行ってもよいが、好ましくは、クレアチンと類似の化学的特徴を持つ分子が試験のために選択される。分子は様々なコンピューターアプローチ(例えば、部分構造検索、類似性検索および形状に基づくスクリーニング)を用いて選択することができる。クレアチン自体をクエリー分子として用い、慣用される形状比較パラメーターであるTanimoto係数により比較した際に共通または類似の構造的特徴を有する化合物に関してライブラリーを検索することができる。
より詳細な分析では、クレアチンから複数の立体配座異性体を作製することができ、これらの立体配座異性体を各ライブラリーメンバーから作製された立体配座異性体と重ね合わせることができる(ROCSを使用)。ヒットはそれらのTanimoto係数および「スケールカラー」(類似の官能基のアライメントの尺度)に従ってランク付けし、その後、そのランク順で評価することができる。これらの方法は候補となる薬理プローブの効率的な同定を可能とするはずである。CrT上に、基質としてのクレアチン、また、レギュレーターとしてのクレアチンに対する種々の結合部位が提案されるが、これにより、CrTを介して細胞に侵入するが、Cr調節部位を遮断するためにより高い親和性を有し、細胞内Cr濃度の上昇の結果として通常起こるネガティブフィードバックを防止することができるクレアチン類似体を提供するために、クレアチン類似体の構造を改変することによって選択性が操作可能となる。これは近縁のグルタミントランスポーター(SLC38 System A)と直接的に類似し、この場合、直接的基質阻害(すなわち、アミノ酸基質の減少がトランスポーター活性を増強する)を介して活性の急性調節が生じる。転写調節を介する第二相はより長期間にわたって起こる。急性機構および慢性機構とも、CrTの調節は同様であると思われる。
本明細書に記載のアッセイは、CrT遺伝子を発現する細胞を用いた細胞培養において放射性標識Crの取り込みを測定するための高感度かつ特異的なアッセイである。CrT遺伝子を発現する細胞は、例えば、Mortensen RM and Kingston RE (Unit 9.5, Current protocols in Molecular Biology 2009; John Wiley and Sons Inc., DOI: 10.1002/0471142727.mb0905s86、またはWang Z et al. (Canc Res 2008; 68:492-7)、またはHocevar BA et al. (J Biol Chem 2005; 280(27):25920-7)に記載されているような、当業者に公知の任意の方法で作製することができる。好ましくは、CrT遺伝子は、構成的プロモーター、例えば、心臓特異的α−ミオシン重鎖(a−MHC)プロモーターまたはサイトメガロウイルス(CMV)最小プロモーターの制御下で発現される。あるいは、これらの細胞はCrTを内因的に発現してもよく、これは例えば、RT−PCRにより決定することができる。ヒト(遺伝子ID6535;NC_000023.10)、マウス(遺伝子ID102857;NC_000086.6)またはラット遺伝子(遺伝子ID50690;NC_005120.2)(これらの配列は検索ツールを用いてNational Center for Biotechnology Information, NIHデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez)に見出すことができる)またはその保存的改変変異体を含むいずれのCrT遺伝子を発現させてもよい。
例えば、NIH3T3ネズミ繊維芽細胞、ヒト胚腎臓HEK293およびチャイニーズハムスター卵巣CHO細胞、サルCOS−7(サルCV−1起源、SV40遺伝物質を有する(simian CV-1 in Origin, and carrying the SV40 genetic material))など、任意の細胞種が本発明に従って使用可能である。CrTを内因的に発現する心筋細胞由来細胞系統、またはHL−1細胞もしくはラット心室組織由来のH9c2細胞(Shin et al., 2009 J Cell Physiol, 221:490-497)などの心筋細胞様表現型を有する細胞が好ましい。あるいは、単離された心筋細胞の初代培養物も使用可能である。好ましくは、この単離された心筋細胞を哺乳類に由来する。当業者に公知の任意の方法で、細胞を播種およびインキュベートして単層を形成させる。例えば、1×10細胞を24穴プレートに播種し、18時間インキュベートして単層を形成させる。
第一のスクリーニング法によれば、細胞を標識クレアチン、非標識クレアチンおよび試験物質とともにインキュベートする。好ましくは、クレアチンは放射性標識クレアチン、例えば、14C標識クレアチンまたはH標識クレアチン(R S Carling et al. Ann Clin Biochem 2008; 45:575-584)である。あるいは、クレアチンは蛍光標識(蛍光団)で標識してもよい。好ましくは、これらの細胞を約10μl(37kBq)の放射性標識Cr(0〜500μM)、約500μM(25〜1000μM)の非放射性標識Crおよび約30μM(0〜100μM)の試験化合物とともにインキュベートする。
当業者に容易に決定可能な好適な期間のインキュベーション(例えば、37℃60分(95%空気、5%CO))の後、培地を吸引し、細胞に可溶化処理を施して溶解させることができる(例えば、PBS/TritonX−100を使用)。シンチレーションカウンターで細胞内放射性標識によるシグナルを測定し、Crの取り込みを既知の標品に対して評価する。対照ウェルには、通常のバックグラウンド取り込みを測定するために試験化合物を含まず、細胞のみを含む対照ウェルをタンパク質定量に用いる。実験は好ましくは三反復で行う。
試験物質の存在下での放射性標識の取り込みと試験物質の不在下での放射性標識の取り込みを比較した際、取り込みの増加が、その試験物質が心血管疾患の予防または治療に有用であり得ることを示す。好ましくは、このin vitroスクリーニングにおいて、取り込みが対照ウェルの平均値より2標準偏差を超えて大きい場合に、化合物は陽性とみなされる。これらの化合物を、用量依存性を調べるため、また、Cr取り込み阻害剤(β−GPAまたは塩化物不含バッファー)を含めることによってCrTの関与を確認するためにin vitroで再び試験することができる。これは、膜電位、pHの変化、またはNaの取扱いの変更など、選択的機構を介してクレアチン取り込みを変更する化合物間で異なる。
このスクリーニング法は、当業者により、共通の一般知識を用いて至適化することができる。このスクリーニングは、クレアチン取り込みの小さな変化に対する感度を確認するために、下記実施例3に示されているように、クレアチン類似体β−グアニジノプロピオン(β−GPA)によるクレアチン取り込みの用量依存的阻害を証明することによってバリデートされている。
第二のスクリーニング法によれば、細胞をクレアチン(非標識)および試験物質とともにインキュベートする。好ましくは、細胞を約500μM(25〜1000μM)非標識Crおよび約30μM(0〜100μM)試験化合物とともにインキュベートする。次に、これらの細胞を上記のように洗浄および溶解した後、H−MRSを用いてin vitroでクレアチンレベルを測定する。
さらなるアッセイは、ランゲンドルフ潅流心臓試験(Ten Hove et al. 2008 J. Molecular and Cellular Cardiology 45:453-459と同様)において試験化合物の存在下での14C−クレアチン取り込みを測定することを含んでなってよい。
最後に、化合物は、HPLCによるクレアチン測定のために、化合物投与から1〜5日後に摘出した心臓を用いてin vivoで試験することができる。in vivoにおいて、H−MRSを用いて、心筋[Cr]を非侵襲的に測定することができ(Schneider et al. 2004 Magnetic Resonance in Medicine 52: 1029-1035と同様)、同じ動物で長期的な用量応答試験の性能を見込むことができる。
さらなる態様において、本発明は、心血管疾患の予防または治療に用いるべき物質またはその塩もしくは溶媒和物をスクリーニングする方法であって、
(i)試験物質を非ヒト動物に投与する工程;
(ii)試験物質の投与後に、該非ヒト動物の心臓の細胞内クレアチン濃度をH−MRSにより測定する工程;および
(iii)試験物質の投与前の該非ヒト動物の心臓の細胞内クレアチン濃度と試験物質の投与後の該非ヒト動物の心臓の細胞内クレアチン濃度を比較する工程
含んでなる方法を提供し、該方法において、細胞内クレアチン濃度の増加は、投与されたその物質が心血管疾患の予防または治療に有用であり得ることを示す。
好ましくは、動物はマウスまたはラットなどの齧歯類である。この動物は健康な動物であっても、または心血管疾患を有してもよい。例えば、当業者に公知の標準的な手術モデルを用いて、虚血/再潅流傷害または慢性心不全を引き起こすことができる。あるいは、薬理剤を投与して、心不全(例えば、ドキソルビシンまたは交感神経作用薬)または冠動脈血管攣縮(例えば、バソプレシン)を引き起こすこともできる。
本発明のスクリーニング法では、試験物質の投与(例えば、摂食)前の細胞内クレアチン濃度と、試験物質の投与後の細胞内クレアチン濃度を比較する。細胞内クレアチン濃度が前者のレベルに比べて増加していれば、その試験物質はその疾患の処置に有用であると判定することができる。クレアチン濃度はin vivoではH−MRSにより、またはex vivoではHPLCにより測定することができる。
その代わりに、またはそれに加えて、動物が心血管疾患の症状を示していれば、これらもまた、試験物質の投与前と後とで評価して比較することができる。症状は以下によって測定することができる:
・心エコーまたはMRI、例えば、左室駆出率、左室内径短縮率、1回拍出量、心拍出量、心拍出量および左室心筋重量(LV mass);
・LVカテーテル留置、例えば、左心室収縮期圧および拡張期圧、時間に対するこれらの立ち上がり速度(すなわち、dP/dtmaxおよびdP/dtmin)およびピーク到達時間パラメーター;また、I/R傷害後のこれらの回復または最大LV圧の回復;
・ECG、STセグメントの変化、例えば、虚血の尺度としての開始時間および持続時間;
・CV疾患、例えば、CK、LDH、BNPの血漿マーカー。
本発明のスクリーニング法によってスクリーニングされる物質の種類は特に限定されない。いずれの分子に対してスクリーニングを行ってもよいが、好ましくは、上述のように、クレアチンと類似の化学的特徴を持つ分子が試験のために選択される(CrTアクチベーター)。
試験物質は、当業者に自明である標準的な実験によって確立することができるいずれの経路および投与計画によって非ヒト動物に投与してもよい。好ましくは、投与計画は心筋[Cr]を予め上昇させるための慢性処置(数日〜数週間)を含んでなり、取り込み率を高めるための経口クレアチン補助剤の投与を含み得る。好ましくは、物質は経口投与される。
以下の実施例は本発明の範囲内にある製品および方法の例示である。これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
クレアチントランスポーターを過剰発現するマウス(CrT−OEマウス)は心臓において[Cr]および[PCr]の上昇を示す
実施例1:
本実施例では、クレアチントランスポーターを過剰発現するマウス(CrT−OEマウス)は心臓において[Cr]および[PCr]の上昇を示し、エネルギーバッファー能を高め、急性虚血/再潅流傷害から保護することが示される。
マウス心臓に局部的虚血を外科的に作り出すin vivo実験を行った。CrT−OEマウスの冠動脈をin vivoで45分間閉塞させた後、24時間再潅流した。次に、心臓を摘出し、心筋の損傷程度を定量するために組織学的染色を行った。これは、壊死領域(area-of-necrosis)(AON)とリスク領域(area-at-risk)(AAR)の比、すなわち、死に至った虚血領域の割合として表される(Bohl et al._ Am J Physiol 2009:DOI00836.02009, オンライン発表)。実験の終了時に右心室においてHPLCにより心筋[Cr]を測定した(Ten Hove et al. 2008 J. Molecular and Cellular Cardiology 45:453-459)。治療域は、対照マウスの約20〜100%増の[Cr]上昇(これを超えるレベルは毒性を伴う)(Wallis et al. Circulation. 2005;112:3131-3139))に相当する心筋[Cr]83〜140nmol/mgタンパク質として予め定義した。これらのマウスは、通常の[Cr]を有する対照マウスよりも27%少ない心筋傷害を示した。図1は、in vivo虚血/再潅流後の心筋傷害が、83〜140nmol/mgタンパク質の治療[Cr]域内にあるマウス心臓で少ないことを示す。
さらに、心筋傷害の減少は高い[Cr]と相関していた。図2は、心筋クレアチン濃度とin vivo虚血/再潅流後の心筋傷害の間の負の相関を示す。これは、虚血/再潅流傷害に対するクレアチンの用量依存的保護効果を示唆する。
実施例2:
別の実験において、CrT−OEマウスの心臓をex vivoで潅流し、収縮期機能を心拍数×収縮期圧(rate pressure product)(最大圧×心拍数)として評価した。同時に、磁気共鳴分光法を用いて[PCr]の測定値を得た(ten Hove et al. 2005 Circulation 111: 2477-2485と同様)。CrT−OEマウスは野生型対照に比べて[PCr]の上昇を示したが、基底機能は同じであった。潅流液を停止させることによって全虚血を模倣したところ、全てのマウスで機能が停止した。
全虚血後、再潅流時の心機能の回復はCrT−OEマウスの方が有意に良好であった。図3は、単離された潅流マウス心臓における20分の全虚血(時間=10分から30分まで)の前、間および後の心機能(RPP)を示す。菱形は対照野生型マウスを、四角はCrTを過剰発現するトランスジェニックマウスを表す。これまでの研究では、極めて高い心筋[Cr]は有害であるが、18か月齢までのCrT−OEマウスの追跡研究では、140nmol未満のレベルは十分耐用されることが示されている。このことは心筋クレアチンの適度の上昇が長期間であっても安全であることを示唆する。
PCrの心筋濃度は、Tgマウスの方が基底線において高いことが確認され、再潅流後より急速に再生した。図4は、単離された潅流マウス心臓における20分の全虚血の前、間および後のPCr濃度を示す。四角は対照野生型マウスを、菱形はCrTを過剰発現するトランスジェニックマウスを表す。
このデータは、I/R傷害に見られた有益な効果が以下のいくつかの因子の組合せであり得ることを示唆する。
i)心筋細胞では、クレアチンはクレアチンキナーゼの作用によってリン酸化され、心臓の主要なエネルギー貯蔵分子であるホスホクレアチン(PCr)を形成する。心臓は、血液供給が断たれた後、数回拍動を続けるだけのATPを貯蔵できるにすぎず、このような時、PCrはATPを生成するためのエネルギーバッファーとして働く。[Cr]が上昇すると、より多くのPCrが生じ、エネルギーバッファー能が高まり、その結果、虚血の開始からATPが枯渇するまでを引き延ばす。
ii)虚血前に上昇した[Cr]はPCrのより速い再生をもたらし得る。
iii)上昇したクレアチンは、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(MPTP)の形成を阻害し、アポトーシスおよび細胞の損傷を軽減する。
iv)クレアチンは参加ストレスから保護する効果を有する。
実施例3:CrTを介してクレアチンの取り込みを高める化合物の同定
本発明者らは、CrTを安定発現する繊維芽細胞3T3を用いた細胞培養において14C標識Crの取り込みを測定するための高感度かつ特異的なアッセイを開発した。細胞(1×10細胞)を24穴プレートに播種し、18時間インキュベートして単層を形成させた。各ウェルに10μl(37kBq)の14C−クレアチン、500μMの非放射性標識Cr、および30μMの試験化合物(β−グアニジノプロピオン酸)を添加した(三反復で実施)。37℃で60分(95%空気、5%CO)インキュベートした後、培地を吸引し、PBS/TritonX−100を用い、細胞に可溶化処理を施して溶解させる。シンチレーションカウンターで細胞内放射性標識によるシグナルを測定し、Crの取り込みを既知の標品に対して評価した。対照ウェルには、通常のバックグラウンド取り込みを測定するために試験化合物を含まず、細胞のみを含む対照ウェルをタンパク質定量に用いた。図5Aは、CrTを安定発現する繊維芽細胞3T3の培養による14C標識Crの取り込みが細胞外Cr濃度によってどのように異なるかを示している。
マウス心房腫瘍細胞由来のHL−1細胞は拍動する心筋細胞様の表現型を持つ。これらの細胞が内因性のCrTを発現することがRT−PCRを用いて確認された。クレアチン取り込みの変化を上記の14Cスクリーニングを用いて測定した。
図5Bは、3T3細胞およびHL1細胞の双方における、クレアチン類似体β−グアニジノプロピオン酸(β−GPA)によるクレアチン取り込みの用量依存的阻害を示す。どちらの場合にも、β−GPAの細胞外濃度が高まるにつれ、細胞によるクレアチン取り込みが低下することが見て取れた。β−GPAはCrTによるクレアチン取り込みの競合的拮抗剤であるので、この結果は予期されたことである。これらの結果により、クレアチン取り込みにおける小さな変化に対するこのアッセイの感度が確認される。
実施例4:心筋梗塞後の慢性心不全を有するマウスにおいて心筋クレアチンの上昇は安全である
この実験では、CrT−OEマウスを、H−MRSによりin vivoで測定した心筋クレアチンレベルに基づいて予め選択した(Schneider et al. Magnetic Resonance in Medicine, 2004, 52:1029-1035と同様)。通常の基底値の20〜100%増のクレアチンを有するマウス、および通常の心筋クレアチンレベルを有する対照マウス群に左冠動脈前下行枝の外科的閉塞を施し、慢性心筋梗塞を誘発させた。6週間後、両群の生存率に差は無く、左心室(LV)のリモデリングおよび機能をcine−MRIおよびLV血行力学(ten Hove et al. 2005 Circulation 111: 2477-2485)により比較した。全てのマウスが、慢性心不全の指標となる心臓構造および機能の変化を示したが、梗塞サイズが匹敵する場合には、通常群と心筋クレアチン上昇群の間にLV機能パラメーター(例えば、駆出率、心拍出量、LV拡張末期圧または収縮予備能)に有意な差は見られなかった。これらの結果は、クレアチンの上昇が(少なくとも単独療法として)慢性心不全に効果的でないことを示唆する。しかしながら、これらの結果はまた、CrTのトランスジェニック過剰発現が、慢性心不全を発症しているにもかかわらずプロトコールの間、クレアチンレベルを生理学的レベルに維持するに十分であったこと、および適度なCrの上昇が不全心に安全であることを示す。すでに心不全が存在している患者は心臓手術の、従ってクレアチン上昇による心臓保護の主要な候補であるので、このことは重要である。
実施例5:心筋クレアチンを適度なレベルに慢性的に上昇させることは安全である
本発明者らはこれまでに、CrT−OEマウスにおいて、極めて高レベルの心筋クレアチンがLV肥大および機能不全を生じることを示した(Wallis et al. Circulation. 2005;112:3131-3139)。しかしながら、適度に上昇されたクレアチンレベルへの慢性的曝露が同様の作用を有するかどうかは分かっていない。このことを判断するために、本発明者らは、80週齢のCrT−OEおよび野生型対照において、心臓超音波およびLV血行力学的測定を行った。心筋クレアチンは、死後の心臓組織においてHPLCを用いて測定し、通常心筋クレアチン(平均76nmol Cr/mgタンパク質)を有するマウスと適度に上昇されたクレアチンを有するマウス(最大140nmol Cr/mgタンパク質)の2つの試験群を設けた。例えば、LV/体重、LV圧、収縮性(dP/dtmax)または弛緩(tau)などのいずれのパラメーターにも群間に有意な差は見られなかった。これは、心筋クレアチンの適度なレベルへの長期上昇は心臓に有害ではないことを示す。

Claims (17)

  1. 心筋細胞の細胞内クレアチン濃度を高めることを含んでなる、心血管疾患を予防または治療する方法。
  2. 被験体の心筋細胞の細胞内クレアチン濃度を高めることを含んでなる、被験体の心臓における虚血再潅流傷害から保護する方法。
  3. 細胞内クレアチン濃度がクレアチントランスポーターのアップレギュレーションにより高められる、請求項1または2に記載の方法。
  4. クレアチントランスポーターの発現および/または活性を高めることを含んでなる、請求項3に記載の方法。
  5. クレアチントランスポーターの小分子モジュレーターの投与を含んでなる、請求項3または4に記載の方法。
  6. クレアチントランスポーターの小分子モジュレーターが、CrTまたは関連の調節タンパク質上のCr調節部位を遮断し、それにより、細胞内Cr濃度の上昇の結果として通常起こるネガティブフィードバックを防止し得るものである、請求項5に記載の方法。
  7. 心血管疾患が、虚血、再潅流傷害、冠動脈性心疾患、心筋梗塞および狭心症から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記心臓が肥大心または不全心である、請求項2に記載の方法。
  9. 心臓手術または心臓移植の前の急性処置である、請求項2に記載の方法。
  10. 心筋細胞の細胞内クレアチン濃度が通常レベルの20%〜100%増に高められる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
  11. 心血管疾患の予防または治療のための、クレアチントランスポーター遺伝子を含んでなるベクター。
  12. クレアチントランスポーター遺伝子を含んでなるベクターを含んでなる、心血管疾患の予防または治療のための医薬組成物。
  13. 心血管疾患の予防または治療用薬剤の製造のための、クレアチントランスポーター遺伝子を含んでなるベクターの使用。
  14. 心血管疾患の予防または治療に用いるための物質またはその塩もしくは溶媒和物をスクリーニングする方法であって、
    (i)クレアチントランスポーター遺伝子を発現する細胞を準備する工程;
    (ii)これらの細胞を、標識クレアチン、非標識クレアチンおよび試験物質とともにインキュベートする工程;
    (iii)細胞内標識によるシグナルを測定する工程;および
    (iv)試験物質の存在下での標識の取り込みと試験物質の不在下での標識の取り込みを比較する工程
    を含んでなり、取り込みの増加が、その試験物質が心血管疾患の予防または治療に有用であり得ることを示す、方法。
  15. 心血管疾患の予防または治療に用いるための物質またはその塩もしくは溶媒和物をスクリーニングする方法であって、
    (i)クレアチントランスポーター遺伝子を発現する細胞を準備する工程;
    (ii)これらの細胞を、クレアチンおよび試験物質とともにインキュベートする工程;
    (iii)H−MRSを用いて、in vitroで細胞内クレアチンレベルを測定する工程;および
    (iv)試験物質の存在下でのクレアチンの取り込みと試験物質の不在下でのクレアチンの取り込みを比較する工程
    を含んでなり、取り込みの増加が、その試験物質が心血管疾患の予防または治療に有用であり得ることを示す、方法。
  16. 前記細胞が、CrTを過剰発現する繊維芽細胞3T3、またはHL−1細胞である、請求項14または15に記載の方法。
  17. 心血管疾患の予防または治療に用いるための物質またはその塩もしくは溶媒和物をスクリーニングする方法であって、
    (i)試験物質を非ヒト動物に投与する工程;
    (ii)試験物質の投与後に、該非ヒト動物の心臓の細胞内クレアチン濃度をH−MRSにより測定する工程;
    (iii)試験物質の投与前の該非ヒト動物の心臓の細胞内クレアチン濃度と、試験物質の投与後の該非ヒト動物の心臓の細胞内クレアチン濃度を比較する工程
    を含んでなり、細胞内クレアチン濃度の増加が、投与されたその物質が心血管疾患の予防または治療に有用であり得ることを示す、方法。
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