JP2013509882A - カテナ:漿液性癌幹細胞 - Google Patents

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Abstract

本発明は、漿液性癌幹細胞(CSC)のクローン的に純粋な集団、CSCを製造及び培養する方法、並びにその使用に関する。CSCは、ヒアルロン酸とプロテオグリカンとのグリコカリックス被覆を有するカテナ(浮遊性細胞鎖)を形成する。この発見が、グリコカリックス形成の除去又は抑制を標的とすることにより漿液性癌及び卵巣癌を治療する方法であって、グリコカリックス阻害剤との併用による化学療法を用いた併用療法を含む上記方法の開発に至った。また、本発明は、これらのCSC、並びにその他漿液性癌細胞に対する効果的な化合物を同定するための薬物スクリーニングアッセイを提供する。カテナ遺伝子特性、タンパク質、及び表面抗原を使用する方法が、漿液性癌幹細胞の存在について患者試料を監視するために提供される。

Description

本願は、2009年11月5日に出願された米国仮出願番号第61/258,570号、並びに2010年1月7日に出願された米国出願番号第61/293,113号に基づき優先権を主張し、その全内容をここに援用する。
本発明は、漿液性癌幹細胞(serosal cancer stem cells;CSC)のクローン的に純粋な集団、CSCを製造する方法、CSCを培養する方法、並びにその使用に関する。CSCは、ヒアルロン酸とプロテオグリカンとのグリコカリックス被覆(glycocalyx coat)を有するカテナ(catena)(浮遊性細胞鎖)を形成する。この発見が、グリコカリックス形成の除去又は阻害を標的とすることにより漿液性癌及び卵巣癌を治療する方法であって、グリコカリックス阻害剤との併用による化学療法を用いた併用療法を含む上記方法の開発に至った。また、本発明は、これらのCSC、並びにその他漿液性癌細胞に対する効果的な化合物を同定するための薬物スクリーニングアッセイを提供する。カテナ遺伝子特性、タンパク質、及び表面抗原を使用する方法が、漿液性癌幹細胞の存在について患者試料を監視するために提供される。
癌幹細胞(CSC)仮説によると、癌では、正常な組織幹細胞が悪性になるか、又はより分化した組織が形質転換して幹細胞の特性を有するようになることが示唆されている。ヒトCSCは、一般的に、対称性分裂能を有し無限に自己複製することのできる悪性細胞の「稀な」集団として定義される。これら「腫瘍開始細胞(tumor initiating cells」」又は癌幹細胞は、連続的に移植すると、原発腫瘍の全ての構成要素を再生することができる。
癌幹細胞の概念は、癌の治療法についての我々の理解に大きな影響を与えてきた。残念ながら、CSCは根絶されないかぎり再び増殖して癌を生成し、再発につながることもあり得る。CSCは化学療法及び放射線に対してとりわけ耐性を有すると考えられており、腫瘍の大部分を効率的に破壊して寛解させることが出来る治療法をもってしても、除去するのを特に困難にしている。
CSC仮説は、頻度に関わらず腫瘍形成能を有する細胞の将来的な精製に依存する。癌幹細胞仮説によれば、腫瘍の種類や腫瘍の発達段階(例えば転移性に対して非転移性)に応じて、或いはCSC濃度が当初から高い原発腫瘍から選別された腫瘍細胞株を用いて研究が行われたか否かに応じて、より分化した腫瘍細胞に対するCSCの発生率は0.001%%まで大きく変化するこが認識されている。
CSC用に、半固形培地を用いたクローニング、腫瘍スフェロイド形成、限界希釈連続再クローニングや間質コロニー形成等の多くのインビトロ・アッセイが開発されている。しかし、インビトロCSCアッセイは、例えば、成長因子、モルフォゲン、及び/又は相互作用するニッチ成分の適切な組合せと濃度の提供に依存する、未知の、おそらく変動する「プレーティング効率」の問題によって制限される。ヒトCSCのための現在の 「ゴールドスタンダード」は免疫不全マウス(ヌードSCIDまたはNOD-SCID)における腫瘍開始限界希釈アッセイである。しかし、これらのレシピエントは、先天的免疫抵抗性(ナチュラルキラー(NK)、マクロファージ)を有する。さらに、あらゆるインビボアッセイは、細胞がそれらの適切な「ニッチ(適所)」に位置するのにどれだけ効率的であるかに依存する「播種効率」を有する。もし、CSCが、適切な "ニッチ"または微小環境(間葉、上皮)を欠いた非同所部位(例えば、皮下)に注入される場合、それらの数は、死又は最終分化のために低く見積もられ得る。静脈内に注射した場合、例えば、転移モデルでは、血管系から出て適切なニッチを見つけるCSCの能力は、細胞の幹細胞状態とは無関係に、ホーミング受容体(例えば、インテグリン)及びケモカイン受容体(例えば、CXCR4)の変化する発現によって決定され得る。もし、CSCは、成長因子又はモルフォゲン(例えば、IL-6、GM-CSF、M-CSF、IL-3 HGF)によるパラクリン刺激に依存している場合、種特異性が存在し得る。トランジット増幅前駆細胞集団の存在は、ほとんどの組織において確立されており、そのような集団は数十億の分化した細胞を生成することができる。その結果、再継代能力が実証できない限り、腫瘍生成のための一次的なインビボアッセイは、演繹的にCSCアッセイではない。
卵巣癌は女性の癌による死亡で第5位にランクし、他の婦人科悪性腫瘍よりも死を引き起こす。米国では、各年、22,430の新規症例が診断され、15280人が死亡すると推定されている[ジェマル(Jemal)、2008]。卵巣癌は、少なくとも2つの重要な点で謎のままである。第一に、この癌の起源の組織学的領域が不明であり、第二に、癌病理学者によって一般的に認識されている識別可能な前癌病変は依然として定義されていない。患者の大半(80%)が、腹腔内に癌細胞を有する進行期疾患を呈し、高い死亡率(5年生存率は15から45%)に直接つながっている。対照的に、悪性腫瘍と卵巣に制限された早期疾患の生存率は%である。早期疾患と後期疾患の間での生存結果における不一致を考えると、早期における卵巣がんの検出を可能にするであろう戦略が生存率を顕著の向上させることを約束するだろう。残念ながら、早期卵巣癌の検出のための現在のスクリーニング法は不十分である。
進行卵巣癌患者の全生存期間の中央値は、1975年の約1年から現在3年超に向上しており、最適に減量された疾患と、タキサンとプラチナベースの併用化学療法による治療とを有するサブセットにより生存は今や5年を超えている[オゾルス(Ozols)、マルクマン(Markman)事件、2003]。しかし、疾患の経過は、断続的な再治療を必要とする寛解と再発の一つである。CSCの生物学、及び細胞が複数のラウンドの化学療法から生存し、腫瘍を転移し、再生成するメカニズムを理解することが早期検出方法を見つけ、かつ卵巣癌を根絶する探求に重要である。
全体的な生存率と生活の質の両方を向上させるための機会は、卵巣CSC又はその他漿液性CSCを標的とするように特異的に設計された新規治療法の開発を含む。癌幹細胞並びに分化した癌細胞を根絶することは、転移性漿液性癌を含む卵巣又はその他漿液性癌のための治療の効率を向上させ得る。
漿膜(腹膜、胸膜、及び心膜)腔内の滲出液における癌細胞の存在は、進行期癌の臨床的な表明であり、悪い生存率に関連付けられている。滲出液における腫瘍細胞は最も頻繁に卵巣、胸部、及び肺の原発性癌に起因し、さらに悪性中皮腫、この解剖学的部位の固有の腫瘍に由来する[ディ・マリア(Di Maria)、2007;ダビッドソン(Davidson)、2007年]。特に原発部位における固形腫瘍の大部分とは異なり、滲出液における癌細胞は外科的切除が出来ず、それらの根絶の不成功が治療の失敗の主な原因の一つである[ダビッドソン(Davidson)、2007]。
腫瘍スフェロイド(また、オンコスフェロイド(oncospheroids)とも呼ばれる)の形成は、腫瘍細胞が滲出液中で生育するのに適応するメカニズムである。腫瘍スフェロイドは、漿液性癌患者からの胸水、心膜液、及び腹水の試料に見出される。腹膜腹水における癌細胞のかなりの割合はスフェロイドとして存在するので、腫瘍スフェロイドの病態生理学的関連性は卵巣癌に最もよく表されている。癌治療における進歩は、個々の構成要素として又はこれらの多細胞スフェロイドとして存在するCSCを標的にすることができる、新規治療薬の同定に依存する。さらに、スクリーニングシステムは、不活発なGO状態での循環幹細胞及びCSCの両方に毒性のある化合物の開発を可能にする。
免疫不全マウスに移植された場合に腫瘍を形成することができる細胞が濃縮されたように思われる、卵巣癌からの細胞の亜集団の分離に関する幾つかの最近の報告が存在するが[スゾテック(Szotek)、2006;チャン(Zhang)、2008;バパト(Bapat)、2005]、組織培養系において幹細胞状態で維持することができるクローン的に純粋な細胞に関する報告は存在しない。分化することなくクローン的に純粋な細胞を維持及び増やすためのインビトロ系の欠如は、漿液性癌幹細胞の遺伝子発現プロファイリングとプロテオミクス解析を妨げている。また、CSC増殖のためのインビトロ培養系の欠如は、CSCを特異的に標的とする新規化合物を同定する潜在能を有するハイスループット薬物スクリーニングの開発を遅らせている。
一態様において、本発明は、
漿液性癌幹細胞を製造する方法であって、
(a)漿液性上皮腫瘍細胞を、腹腔内腫瘍を生成する量及び条件下で、免疫不全非ヒト哺乳動物の腹腔内に注入する工程;
(b)腹腔内腫瘍を有する非ヒト哺乳動物から腹水を採取する工程;
(c)上記腹水を、漿液性カテナ及び白血球を含む第一の画分と、漿液性スフェロイドを含む第二の画分とに分画する工程;
(d)上記第一の画分から白血球を除去し、カテナ濃縮画分を取得する工程;並びに
(e)付着性の間葉細胞と、漿液性癌幹細胞が濃縮された漿液性カテナ懸濁液とを産生する時間及び条件下で、上記カテナ濃縮画分を培養する工程
を含む、上記方法
を提供する。
別の態様においては、本発明は、
漿液性癌幹細胞を製造する方法であって、
(a)漿液性上皮腫瘍細胞を、腹腔内腫瘍を生成する量及び条件下で、免疫不全非ヒト哺乳動物の腹腔内に注入する工程;
(b)腹腔内腫瘍を有する非ヒト哺乳動物から腹水を採取する工程;
(c)上記腹水を、漿液性カテナ及び白血球を含む第一の腹水画分と、漿液性スフェロイドを含む第二の腹水画分とに分画する工程;
(d)付着性の間葉細胞、及び浮遊性カテナと腫瘍スフェロイドとの懸濁培養物を産生する時間並びに条件下で、上記第二の画分を培養する工程;並びに
(e)上記懸濁培養物を、漿液性癌幹細胞が濃縮された浮遊性カテナを含む第一の培養画分と、漿液性癌幹細胞が濃縮された浮遊性腫瘍スフェロイドを含む第二の培養画分とに分画する工程
を含む、上記方法に関する。この方法は、(f)浮遊性カテナと腫瘍スフェロイドとのさらなる懸濁培養物を産生する時間及び条件下で、上記第二の培養画分を培養する工程;
(g)上記さらなる懸濁培養物を浮遊性カテナ画分と腫瘍スフェロイド画分に分画する工程;並びに
(h)浮遊性腫瘍スフェロイド画分を用いて、(インビトロ再クローニング能によって判定される通り)少なくとも10〜30%の漿液性癌幹細胞を含む浮遊性腫瘍スフェロイドの(安定)懸濁培養物を生成する時間及び条件下で、工程(f)及び工程(g)を繰り返す工程
をさらに含み得る。
さらに別の態様においては、本発明は、
漿液性カテナを単離する方法であって、
(a)漿液性上皮腫瘍細胞を、腹腔内腫瘍を生成する量及び条件下で、免疫不全非ヒト哺乳動物の腹腔内に注入する工程;
(b)腹腔内腫瘍を有する非ヒト哺乳動物から腹水を採取する工程;
(c)上記腹水を、漿液性カテナ及び白血球を含む第一の画分と、漿液性スフェロイドを含む第二の画分とに分画する工程;並びに
(d)上記第一の画分から白血球を除去し、カテナ濃縮画分を取得する工程
を含む、上記方法に関する。本発明によれば、スフェロイドは、(a)哺乳類漿液性卵巣上皮腫瘍細胞を、腹腔内腫瘍を生成する量及び条件下で、免疫不全非ヒト哺乳動物の腹腔内に注入する工程;(b)腹腔内腫瘍を有する非ヒト哺乳動物から腹水を採取する工程;(c)上記腹水を、漿液性カテナ及び白血球を含む第一の画分と、漿液性スフェロイドを含む第二の画分とに分画する工程;並びに(d)上記漿液性スフェロイドを単離する工程によって単離することができる。
本発明の前述の方法では、当該分野において公知の方法を用いて、細胞の注入の前後に、又は該注入と同時に腹腔内炎症を誘発し得る。これらの方法に用いるための免疫不全非ヒト哺乳類は、T細胞、B細胞及び/又はナチュラルキラー(NK)細胞を欠損したマウスを含む。好ましい実施形態では、有用なマウスとしてNOD / SCIDマウス、NSGマウス、及びNOGマウスが含まれるが、これらに限定されるものではない。実施例に示される通り、上記腹水の分画は、30〜60μmのフィルターを介して、さらにより好ましくは40μmのフィルターを介して腹水をろ過し、漿液性カテナ及び白血球を含むフロースルー画分と、より大きいスフェロイドを含む保持画分とを取得することによって有利に達成される。
これらの方法を用いるに当たり、カテナにおいて単離されたクローン的に純粋な漿液性癌幹細胞を取得する。これらのクローン的に純粋な漿液性癌幹細胞は、約3から4個の細胞を有する浮遊性細胞鎖が約72個又はそれ以上の細胞に対称的に分裂することを含む、細胞の自己複製集団である。該鎖は、ヒアルロン酸のグリコカリックス、コラーゲン、及びその他細胞外成分に囲まれている。これらの細胞は、E−カドヘリン陰性であり、漿液性上皮腫瘍細胞と比較して生着能が高く、かつ少なくとも50%の再クローニング能を有する。特定の実施形態では、漿液性細胞が卵巣細胞である。これらの浮遊性鎖はカテナ又は漿液性癌幹細胞と称される。
本発明の別の態様によれば、
以下の工程によって、増殖抑制効果について試験化合物をスクリーニングする方法が提供される:
(a)解離した漿液性カテナ細胞、解離した漿液性スフェロイド細胞、及び解離した漿液性癌付着細胞のいずれか一つを培養する工程、但し、上記細胞の全ては蛍光を発し得るか、又は発光し得る;
(b)上記細胞を上記試験化合物に接触させる工程;
(c)当該培養物が発する蛍光又は発光を検出することによって、上記細胞が応答において増殖するか否かを検出する工程;並びに
(d)上記試験化合物が上記カテナ、スフェロイド又は付着細胞の増殖を阻害するか否かを判定する工程
を含む、上記方法。
いくつかの実施形態では、当該方法は、上記試験化合物がスフェロイド又は付着細胞と比較して上記カテナの増殖を差示的に阻害するか否かを判定する工程をさらに含む。加えて、これらの方法は、工程(c)を、形態的変化(例えば、カテナからスフェロイド、スフェロイドからカテナ、カテナから上皮単層、カテナから間葉系単層、スフェロイドから上皮単層、スフェロイドから間葉系単層、又は形態学的細胞形状における変化、特定の細胞周期段階での停止等の変化)を検出する工程とすることにより、漿液性癌幹細胞に対する形態学的効果について化合物をスクリーニングする方法に適合させることが出来る。これらの方法は、例えば384ウェルプレート又は1536ウェルプレートで上記細胞を培養し、試薬を操作するためのロボット・システムを用いてアッセイを実施し、かつデータを収集及び解析することによって、ハイスループット・スクリーニング(HTS)に容易に適合させることが出来る。このようなシステムは当該分野において公知である。
試験化合物を用いてのスクリーニングアッセイを実施したところ、全てではないが多くのケースで、細胞の感受性が、カテナやスフェロイド上の定着したグリコカリックスの存在に依存することが見出された。従って、細胞を播種した直後または比較的すぐ後(通常は1日以内)に試験化合物を添加した場合、細胞は化合物に対して感受性があった。しかし、数日(通常3〜7日)後に化合物を添加した場合は、グリコカリックスが再定着するには十分な時間であり、細胞は化合物に対しての顕著により耐性となった。いくつかのケースでは、細胞が最も高い感受性を示す化合物を例にとっても、その感受性よりも耐性度が数桁も高い値を示すこともあった。この効果はグリコカリックスが除去されると可逆的であり、結果として細胞は再び化合物に対して感受性となった。経時的に獲得された薬物耐性は、それが細胞周囲のグリコカリックスの再合成および組織化に関連していることを示唆している。したがって、化合物の化学的性質(大きさ、極性、疎水性、拡散)に応じて、グリコカリックスが化合物に対する選択的なバリアーとなっている可能性がある。 これらの観察結果が、本発明の2つのさらなる態様(すなわち(1)別のスクリーニング方法、及び(2)新しい漿液性癌の治療方法)につながった。
よって、本発明のさらなる別の態様によれば、
増殖抑制効果又は形態学的効果について試験化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)漿液性カテナを解離し、かつ単一細胞の均質な集団を調製する工程;
(b)定着したグリコカリックスの被覆を有するカテナを生成するのに充分な時間及び条件下で、それら細胞を播種し、かつ培養する工程;
(c)未処理培養物がコンフルエントに達することなく増殖するのに充分であろう時間、上記培養物を少なくとも一つの試験化合物に接触させる工程;並びに
(d)処理された培養物において上記試験化合物が上記カテナの増殖を阻害するか否か、又は該試験化合物が上記カテナの形態を変化させるか否かを判定する工程を含む、上記方法が提供される。好ましい実施形態では、試験化合物は播種後3日目、4日目、5日目、6日目または7日目、より好ましくは5日目または6日目に培養物に添加される。この方法の一変法として、工程(b)の後かつ工程(c)の前に、上記カテナのグリコカリックス被覆を除去又は破壊するのに充分な時間、上記カテナのグリコカリックス被覆を除去又は破壊するのに充分な量のヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ又はその両方と共に上記培養物をインキュベートしてもよい。このような処理は、通常37℃で約5〜30分間、好ましくは約10分間実施される。これらの酵素は、残りのアッセイ時に除去する必要はない。修飾及びPEG化された酵素も、本発明の方法で使用できる。また、これらのアッセイは上記のようにハイスループット・スクリーニングにも容易に適合させることができる。試験化合物が増殖に影響を及ぼすか否かを判定するために、細胞を染色して若しくは染色せずに手作業で計数するか、又は蛍光シグナル、発光シグナル、又は吸光度を測定することができる。カテナが懸濁液中に存在するため、検出方法は、それに応じて適応させる必要があるが、当業者によって実施され得る。一つの好ましい検出方法として、アラマーブルー(alamarBlue(登録商標))染色を使用し、続いて、(培養物中に存在する生細胞の数に比例し、かつ細胞が付着しているかまたは懸濁液中に存在するかどうかに依存することのない培養物の蛍光または吸光度を測定する方法が挙げられる。
漿液性スフェロイド用の同様のアッセイ系も提供されている。スフェロイドに関しては、解離した細胞は、定着したグリコカリックス被覆を有する充分な数とサイズのスフェロイドが生成するのに充分な時間と条件下で培養される。スフェロイドは多くの細胞によって構成される大きな集合体であるので、カテナの場合と比べると、被覆を再定着するためにより時間がかかる。スフェロイドのタイムフレームは通常約8日から約14日であるため、試験化合物の添加はその期間内、好ましくは播種後11日目に実施される。
本発明のさらなる別の態様は、化学療法又は放射線治療を受けている患者において漿液性癌を治療する方法であって、ヒアルロン酸合成酵素阻害剤、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ、又はグリコカリックスを除去又は分解するその他酵素若しくはその他薬剤を、上記治療計画若しくは治療を増強するのに、患者の生存期間を改善若しくは延長するのに、又は症状の寛解を引き起こすのに充分な時間及び量で投与する工程を含む、上記方法に関する。当該方法は、放射線治療又は化学療法と、ヒアルロン酸合成酵素阻害剤またはグリコカリックスを除去又は分解する酵素若しくはその他の薬剤とを併用する工程を含む。これらの酵素および薬剤は、インビトロでそれらの半減期を増加させるためにPEG化、又はその他方法により修飾されていてもよい。
別の実施形態は、患者において癌幹細胞の自己複製又は形成を阻害する方法であって、グリコカリックス形成阻害剤またはグリコカリックスを分解する薬剤を該患者に特定の時間及び量で投与することにより、CSCの自己複製または形成を阻害するか、またはCSCの分化を引き起こして致死させやすくする工程を含む方法に関する。当該方法は、カテナがスフェロイド形成を経ることを防止し、結果的にCSCが標準的な癌治療計画に耐性を獲得することを防止する。
本発明の別の態様は、カテナと患者試料中でのHAS2スプライス変異体とHAS2変異体の発見に関する。したがって、本発明は、mRNAとcDNAを含む哺乳類HAS2スプライス変異体をコードする単離された核酸、並びに、5'から3'方向に、HAS2遺伝子のエクソン2の全体または一部およびエクソン3の全体(すなわちエキソン1を欠損しているスプライス変異体)からなる連続したヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。一のmRNA HAS2スプライス変異体は、ヒト野生型HAS2のアミノ酸第215位から始まり、通常の停止シグナル、すなわち、アミノ酸第552位で終結するタンパク質をコードしている。本発明はまた、本発明のいずれかの核酸を含むベクター、これらのベクターを含む細胞、コードされたタンパク質を産生する組換え発現系の使用、及びコードされるタンパク質を含む。本発明の他の実施形態は、哺乳類HAS2スプライス変異体RNA、又はSNP変異を含むいずれか一つ以上のHAS2の変異、さらに、好ましくは、表17および18に特定される突然変異を特異的に検出するための、単離された核酸プローブに関する。したがって、本発明はまた、野生型HAS2の変異型及び対立型並びにHAS2スプライス変異体を含む。
本発明のさらに別の態様は、被験者において漿液性癌を監視及び/又は病期分類する方法であって、
(a)癌患者から得た腹水からカテナを調製する工程;
(b)上記カテナが一以上のHAS2変異を有するか否か、及び/又は上記カテナが一以上のHAS2スプライス変異体を発現しているか否かを検出する工程;並びに
(c)上記変異及び/又は変異体を、上記患者における癌の存在及び/又は進行と関連付ける工程を含む、上記方法に関する。さらに、以下の工程によって、患者試料にける漿液性癌幹細胞の存在を特定又は監視することができる:(a)患者から細胞試料を取得する工程;(b)任意に、上記試料の白血球を枯渇させる工程;(c)上記試料の残りからDNA、RNA又はその両方を調製する工程;並びに(d)上記DNA、RNA又はその両方がHAS2変異を有するか否か、又は上記DNA、RNA又はその両方がHAS2スプライス変異体を発現しているか否かを検出する工程であって、変異又はスプライス変異の特定は上記試料における漿液性癌幹細胞の存在を示す、上記工程。そのようなDNA又はRNAの量を定量することによって、得られた結果と患者における漿液性癌の存在及び/又は漿液性癌の進行とを関連付けることができる。
カテナの詳細なキャラクタリゼーションが、特定の表面抗原、カテナ遺伝子特性、サーフェソーム関連カテナ遺伝子特性、サーフェソーム関連カテナタンパク質特性、miRNA関連カテナ特性、カテナ・クラスタ規定遺伝子特性、エキソソームカテナタンパク質特性、セクレトームカテナタンパク質特性、グリコカリックス特性、活性化リンタンパク質の発現の特定、及び抗COL1A2抗体に結合する、ヒアルロン酸とコラーゲンとの低分子複合体の特定によるものを含む、カテナを特定する複数の方法の発見につながった。これらの特性は、患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定および/または監視するための様々な方法へと結実し、漿液性癌幹細胞の存在に対応した治療計画の変更可能を含め、漿液性癌治療へのオーダーメイド医療アプローチを可能にした。
これらの方法は、哺乳動物から得られる漿液、腹水、血液または腫瘍組織を用い、かつ様々な検出技術を用いて実施することができ、マイクロアレイ解析、RNA若しくはDNAの配列決定法、RT-PCRまたはQ-RT-PCRによって、これらのアッセイで核酸を検出するか、或いはその発現レベルを決定することを含むが、これらには限定されない。タンパク質の検出方法としては、質量分析、ウェスタンブロッティング、FACSを用いた抗体結合、並びに当業者には既知のその他技術又は後に開発された技術が挙げられるが、これらには限定されない。
さらに、漿液性癌幹細胞を特定及び/又は監視することから、当該情報は本発明のさらなる方法の開発を可能にし、それら方法としては、漿液性癌を検出する方法、癌治療計画の有効性を監視する方法、治療のために患者を分類する方法、薬効を監視する方法、漿液性癌患者において癌治療計画に対する患者の応答を予測する方法を含み、それら方法は、患者からの試料を用いて、これら方法の何れか一以上を実施しする工程、並びに結果を患者の状態に関連付けることによって、漿液性癌を検出し、癌治療計画の有効性を監視し、治療のために患者を分類し、薬効を監視し、又は癌治療計画に対する患者の応答を予測する工程を含む。同様に、本発明は、漿液性癌を治療する方法であって、(a)漿液性癌患者に対して抗癌療法計画を実施する工程;(b)上記患者からの試料を用いて実施したそれら方法の一以上から得られた結果を定期的に再検討する工程;並びに(c)上記結果に応じて、かつ該結果に一致するように治療法を変更する工程を含む、上記方法に関する。
本発明のさらなる別の態様では、インビボ動物モデルを用いて転移阻害剤又は転移エフェクターをスクリーニングする方法に関する。この方法は、(a)カテナ又はカテナ細胞の調製物を免疫不全非ヒト哺乳動物に静脈内注入する工程;(b)注入の前後又は注入と同時に、上記哺乳動物に一以上の試験化合物を投与する工程;並びに(c)対照哺乳動物の腫瘍産生及び/又は腫瘍部位に対して、上記哺乳動物における腫瘍産生及び/又は腫瘍部位の経時変化を評価することによって、カテナ細胞の転移を阻害する化合物、特に腫瘍産生又は腫瘍部位における変化を減少又は阻害する化合物を特定する工程を含む。
本発明のさらなる態様によれば、動物モデルを用いた薬効をスクリーニングするため別のインビボ方法を提供する。この方法は、(a)カテナ又はカテナ細胞の調製物を免疫不全非ヒト哺乳動物に腹腔内注入する工程;(b)注入の前後又は注入と同時に、上記哺乳動物に一以上の試験化合物を投与する工程;並びに(c)(i)上記哺乳動物における腫瘍産生の経時変化、(ii)上記哺乳動物における漿液産生の経時変化、(iii)上記哺乳動物における腫瘍の形態、(iv)上記哺乳動物の腹水における漿液性癌幹細胞の量、及び/又は漿液性癌幹細胞産生の経時変化、又はそれら何れかの組合せを、対照哺乳動物のそれと比較して評価することによって、漿液性癌の治療における薬物化合物の潜在的若しくは実際の有効性を判定する工程を含む。
別の態様において、本発明は、原発漿液性腫瘍由来のカテナ又は転移性腫瘍細胞からスフェロイドを製造する方法であって、スフェロイド形成を誘導し、かつスフェロイド培養系を作製するのに充分な量のマトリゲルが添加された第一の血清含有培地で、かつスフェロイド形成を誘導し、かつスフェロイド培養系を作製するのに充分な時間で、カテナ又は細胞の懸濁液を培養する工程を含む、上記方法に関する。これらの培養物には、通常週単位で、追加のマトリゲルを含まない血清含有培地が定期的に添加される。第一の血清含有培地のマトリゲルに対する比率は好ましくは50:1である。
本発明のさらなる別の態様は、患者の漿液からカテナを製造する方法である。この方法では、癌患者から漿液試料を取得し、該液から細胞を採取し、かつ無細胞漿液を添加した血清含有培地でこれら採取した細胞を培養する。懸濁培養物における細胞は、無細胞漿液を添加した新鮮な血清含有培地に定期的に継代されることにより、カテナを取得する。好ましい実施形態では、漿液は同一の癌患者からのものであり、培地には1:1の割合で添加される。
本発明はまた、カテナの詳細なキャラクタリゼーションによって特定された哺乳類遺伝子用のPCRプライマーを含む、PCRプライマーセットを提供する。 本発明の別の態様は、電子顕微鏡法用に、カテナ細胞及びスフェロイド、又はグリコカリックス被覆を有する任意の細胞を調整する方法を提供する。
最後に、前述の方法又は製品の何れにおいても、適用可能な場合には、「漿膜」は「卵巣」になり得る。 同様に、それら方法、細胞、核酸、ベクター、タンパク質又は遺伝子で、哺乳類と記載されたものは、適用可能な場合には、ヒト、ネズミ、ブタ、ウシ、ヒツジを含み、又はこれらであり得る。
図1は、NSGマウスを用いた同所性卵巣癌モデルを示す。5万個のOvcar3-GTL細胞をNSGマウスの腹腔内に注入した。マウスはPBS(リン酸緩衝生理食塩水)または36 mg/kgの脂質化オリゴヌクレオチド(オリゴ)のいずれかを週に三回12週間にわたって腹腔内注入された。PBS処置群(▲)での腫瘍成長は、12週間後に平衡に達した。オリゴ処置マウス(◆)では、腫瘍の成長が続いた。 図2は、腹腔内腫瘍増殖に対するチオグリコール酸の効果を示す生物発光の画像である。106個のOvcar3-GTL細胞をNSGマウスの腹腔内に注入した。4週間後、PBSまたは1mLのチオグリコール酸溶液をマウスに腹腔内注入した。画像は8週目に得た。 図3は、50,000個のOvcar3-GTL細胞を腹腔内注射し、かつ脂質化オリゴヌクレオチドで処理した後8週目で採取されたNSGマウスの腹水から得た細胞画分の写真を示す。腹水は、40μmのフィルターでろ過した。(a)>40μmの画分は、大きく、予め形成された球を含み;(b)フロースルー画分は、比較的小さい、予め形成された細胞鎖(カテナ)を含み;並びに(c)フィコール分画によってカテナ画分から赤血球を除去する。(b)では、グリコカリックスが、目に見えて腹水中の赤血球からカテナを分離している。 図4は、カテナ濃縮のためのインビトロ培養系の概略図である。(a)腹水から得られたOvcar3-GTL腫瘍細胞は、組織培養処理プレート上の10%FCSで培養する。(b)及び(c)懸濁液画分は毎週再継代される。(d)連続継代後、培養物は浮遊性カテナが濃縮される。 図5は、(a)タイトジャンクション蛋白質ZO-1およびE-カドヘリン、並びに(b)ジアンチン(giantin)(ゴルジ体マーカー)およびヒト・ビメンチン(vimentin)の免疫蛍光染色を示す。パネル(c)は、培養系の中で発達中の非付着性カテナの写真である。(a)で、細胞間結合部での明るく断続的な染色は、ZO−1からのものである。(b)では、明るく球状の染色はジアンチンからのものであり、ライトグレーの染色はビメンチンからのものである。 図6は、球の形成を伴うOvcar3-GTL由来のカテナ培養物の写真を示す。 Ovcar3-GTLカテナは、高細胞密度での集合(ローリングアップ;rolling up)(矢印)によってスフェロイドを形成した。 図7は、スフェロイドとカテナ形成の写真と模式図を提示する。Ovcar3-GTLスフェア形成細胞(赤)が間葉系単層(白)の上に堆積し[ステージ1〜2]、出芽によって組織だったスフェロイドを形成する[ステージ3]。カテナ(青)は内部で観察され[ステージ4]、または成長するスフェロイドの外に移動している[ステージ5]。成長したスフェロイドは単層から剥離して、懸濁液中で成長を続け[ステージ6]、さらに多くのカテナが懸濁液中に放出される。 図8は、Ovcar3-GTLカテナ、スフェロイド及び単層(それぞれ左のバー、中央のバー、右のバー)を用いたインビトロクローン形成法(インビトロ clonogenic assay)により取得したクローン形成率を図示している。第一のクローン形成法のために、カテナ/スフェロイドの混合培養物は、>40um(スフェロイド)画分と、<40um(カテナと小スフェロイド)画分とに分離した。クローンの数は、2週目に記録された。三度目の単一細胞再クローニング継代後、カテナは55%のクローン形成能があったが、スフェロイドでは10%であり、単層では1%であった。 図9は、カテナ及びスフェロイドにおけるCSCを評価するために用いる免疫不全マウスにおける腫瘍形成/限界希釈法の結果を図示している。左側のパネルには、同数の解離Ovcar3-GTL単層細胞、解離Ovcar3-GTLカテナ細胞、及び非解離Ovcar3スフェロイド(球)を腹腔内注入したNOD-SCID(黒塗バー)とNSG(中空バー)マウスからの生物発光を示す。右側のパネルには、異なる数の同じ単層細胞及びカテナ細胞を腹腔内注射したNSGマウスからの生物発光を示す。 図10は、マトリゲル(商標)とともに200、20または2個のOvcar3由来カテナ細胞を注射したNSGマウスの皮下での限界希釈実験から得られた生物発光画像を示す。 画像は、注射後3週目に撮影された。 図11に示すように、懸濁培養で増殖させた間葉細胞はカテナ及びスフェロイドを産生することができる。上部パネルは、Ovcar3(上皮細胞)、Ovcar5(間葉細胞)及びA2780(間葉細胞)細胞の典型的な培養単層を示す。中央のパネルは、懸濁培養から得られたOvcar5細胞の(a)単層細胞上への凝集、(b)嚢胞構造を有するスフェロイド、(C)懸濁液中のカテナ、および(d)カテナを押し出すスフィアを示す。下のパネルは、(e)集団アメーバー様移行および(f)カテナの見られるA2780-G懸濁培養から得られた細胞を示す。 図12は、カテナ-スフェロイドの概念のモデルを図示している。 図13は、ELISAによって測定される、サブコンフルエントなOvcar3-GTL上皮単層及びカテナによって培地中に分泌されるCA125(MUC16)の量を示す棒グラフである。 図14は、(a)機械的に解離したOvcar3-GTLカテナと(b)ヒアルロニダーゼ処理したOvcar3-GTL カテナについて、赤血球を用いた粒子排除アッセイ(particle exclusion assay)の写真である。 図15は、グリコカリックスを示すカテナの一連の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。アルシアンブルー(alcian blue;AB)はヒアルロン酸糖鎖を可視化するために使用され、塩化セチルピリジニウム(CPC)はプロテオグリカンを可視化するために使用されている。カテナとグリコカリックスを、10μmを表すバーとともに(a)に示す。(b)では同じ画像を2倍に、(c)では同じ画像を5倍に、そして(d)では同じ画像を10倍に拡大している(いずれも(a)の画像に対する相対値)。矢印はカテナの単一細胞を指し示している。 図16はアルシアンブルーのみで染色したカテナとグリコカリックスの拡大SEM像で、細胞のヒアルロン酸被覆、及びグリコカリックスのクモの巣状の性質を表している。ヒアルロン酸は、あちこちに濃度の高い点がある。 図17は、グリコカリックス被覆を除去するためのヒアルロニダーゼ処理後のカテナのSEM像である。染色はアルシアンブルーとCPCで行った。 図18は、グリコカリックス被覆を除去するためのヒアルロニダーゼ処理後のカテナのSEM像である。試料中に存在する他の細胞は赤血球である。画像は染色せずに得た。 図19は、カテナ細胞を染色していないSEM写真である(a、b、c)。(a)広範囲の微絨毛接続による2つの細胞間における結合領域を示すカテナのSEM。(b)ナノチューブで接続されたの二つのカテナ細胞。細胞を表面に付着させている微絨毛(浸潤突起)に注意。細胞は微絨毛と大型細胞膜小疱によって特徴付けられる。(c)10〜15μm長のヒアルロン酸グリコカリックスを超えて延びる長い(20〜30μm)偽足を持つカテナ細胞のSEM像。 図20は、図19の写真を約3倍に拡大したもので、白い有尾の矢印が微絨毛を、黒い矢印が偽足を、白い無尾の矢印が表面水疱を指している。 図21は、(a)カテナ表面上の噴火する 「火山」、及び(b)火山の火口からの粒子の放出を示す火山の拡大図の側面を示すSEMである。 図22は、マイクロアレイ解析によって決定される、Ovcar3上皮単層、Ovcar5間葉単層、並びにOvcar3及びOvcar5カテナにおけるヒアルロン酸合成経路の分別制御を示す表を提示する。下方制御される遺伝子は灰色で、上方制御される遺伝子は黒色で示す。カテナの列(*)の値は454ディープ・シーケンシング(454 deep sequencing)によって決定されたmRNAのコピー数を表している。 図23は、ヒト・ホスホ-RTKアレイキット(Human Phospho-RTK Array Kit)を用いて決定された、上皮(Ovcar3単層)、間葉(Ovcar5単層)、及びカテナ細胞(Ovcar3とOvcar5)におけるRTKのリン酸化パターンを示すドット・ブロットである。 図24は、Ovcar3カテナ(CSC 65%)とOvcar3上皮単層(CSC 1%)について、選択したCDタンパク質の発現差異を示す。 図25は、野生型(wt)HAS2遺伝子のゲノム構造を示し、イントロン及びエキソンの構造が示されており、さらに各要素を定義するヌクレオチドが(上)示されている。下のパネルは、エクソン1のインフレーム欠失及びエクソン2の一部を含む、グリニッジ(Greenwich)変異体として知られる、HAS2スプライスのmRNA構造を示している。
1. 概要
本発明は、漿液性癌幹細胞(CSC)のクローン的に純粋な集団、並びにこれらのCSCを調製及び培養する方法を提供する。純粋なCSCが利用可能であることから、該細胞の広範な特性評価が可能であり、細胞マーカーの解明、細胞の形態、特異的に発現する遺伝子の同定、サーフェソーム・マーカー(surfaceome marker)の同定、セクレトーム・マーカー(secretome marker)、並びにこの情報からの治療剤及び新しい治療法の開発のためのターゲット経路に繋がっている。精製されたCSCは浮遊性細胞鎖として取得され、本明細書ではカテナ(catenae:複数形;catena:単数形)称され、それらは自己複製し、かつ分化する能力を有する。漿液性カテナに加えて、本発明は、分子レベルでのスフェロイドの類似した特性評価の研究を可能にする、精製された漿液性スフェロイド、及びこれらの細胞体を単離する方法を提供する。
漿膜腔は、体の腹膜腔、胸膜腔、及び心膜腔を含み、かつ包含する閉じた体腔であって、液体(漿液)で満たされており、かつ漿膜で囲まれている。漿液性癌は、漿膜腔内に生じる原発癌と、他の癌細胞が漿膜腔に転移することによって生じる二次癌を含む。異なる漿膜部位における主要な漿液性癌は、(1)胸水によるもの、即ち中皮腫、気管支肺癌、乳癌、膀胱癌、卵巣癌、卵管癌、子宮頚癌及び肉腫;(2)腹水によるもの、即ち卵巣癌、卵管癌、胃癌、膵癌、結腸癌、腎癌、及び膀胱癌;並びに(3)心膜液によるもの、即ち中皮腫、気管支肺癌、乳癌、膀胱癌、卵巣癌、卵管癌、子宮頸癌及び肉腫を含む。この列挙は完全ではなく、任意の漿膜腔に転移し、かつ腫瘍を形成するその他あらゆる癌を、「漿液性癌」とみなすことが出来る。
2. 諸定義
漿液性細胞は、漿膜腔に由来するか、若しくは漿膜腔内で見出される任意の細胞、又は漿膜を形成するか、若しくは漿膜に付着する任意の細胞であり、卵巣細胞、内皮細胞、胃細胞、腸細胞、肛門細胞、膵臓細胞、肝細胞、肺細胞、及び心臓細胞を含むが、これらに限定されるものではない。
本明細書では、NSGマウス並びにNSGマウスは、ジャクソン研究所(The Jackson Laboratory)から入手可能であり、かつNOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ JAX(登録商標)マウス系統である、NOD scid ガンマ(NSG)マウス(NOD scid gamma (NSG) mice)又は同等物を意味する。マウスのNOG株は、NSGマウスに類似するものであるが、マウスのNOG株は、NSGマウスの完全なヌル対立遺伝子とは異なり、不完全なIL-2受容体γ鎖を有する。
本明細書では、 「化学療法」とは、ありとあらゆる癌に関連した目的のために一以上の薬物が癌患者に投与される如何なる種類の癌療法を含み、限定されるものでは無いが、腫瘍細胞(又はその他悪性細胞)及び癌幹細胞を阻害又は殺傷する細胞毒性薬、並びにこれら細胞に細胞増殖抑制作用を示す薬剤を含む。このような薬物としては、小分子、抗体、タンパク質、核酸、標的経路阻害剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。誤解を避けるために、本明細書で用いられる化学療法は、また、被験者が特定の遺伝子に遺伝子変異を有しており、その遺伝子を標的とする治療剤、又はその遺伝子が一部を形成する代謝経路若しくは調節経路を標的とする治療剤が投与される場合のように、経路阻害剤療法も含む。
略語"ip"及び"i.p."は、「腹腔内(intraperitoneal)」又は「腹腔内(intraperitoneally)」について、相互に用いられる。
本明細書において、「PEG化(PEGylated)」は、タンパク質又はその他対象となる分子に結合するポリエチレングリコール部分(PEG)を指す。PEG化(PEGylation)は、タンパク質又はその他の分子にPEGを結合させるプロセスを指す。このような修飾のための方法は、当該技術分野で公知である。
3. カテナ(Catena)
クローン的に純粋な漿液性CSCは、分化することができる自己複製漿液性細胞であり、この基準によって幹細胞の定義を満たす。CSCは、鎖当たり3個〜4個の細胞の程度乃至72個の細胞を有する浮遊性の細胞鎖を含むが、より長いカテナも時折観察されることがあり、上記は正確な上限ではない。カテナは、ヒアルロン酸を含むグリコカリックスに囲まれており、組織培養プレートへの付着に抵抗性を有する。本発明の方法に記載した通り、カテナは無限に懸濁培養中で増殖することができる。各カテナは、クローンであり、細胞分裂は同一の軸に沿って対照的に生じ、時折分岐がが観察される。対称分裂の能力は、鎖内の細胞の位置とは無関係であり、つまり、末尾の細胞と中間の細胞は、対称的に、かつ鎖軸とは無関係に分裂することを意味する。培養において分裂及び増殖する当該能力は、カテナ細胞が自己複製することを確立している。
当該細胞は、ZO-1について陽性として染色されるが、E-カドヘリンの存在により陰性となるタイト・ジャンクションを介して相互に結合している。低速度写真撮影法により、カテナが互いに融合はせず、互いに反発している様子が示されている。
インビトロで評価すると、カテナは、限界希釈法において少なくとも50%の連続再クローニング能を示す。個々のカテナ細胞は、漿液性上皮腫瘍細胞と比較してインビボ生着潜在能が実質的に増加している。適切な条件下で、1つまたは2つのカテナ細胞がマウスの癌モデルにおいて腫瘍の生着につながり得る。たとえば、インビボ生着性は、マトリゲルにおける単一カテナ細胞を皮下移植された特定のマウスモデル(NSGマウス)では50から100%である。カテナは、上皮単層上に10,000倍を超えて良く生着する。生体移植後のこの腫瘍形成能力は、カテナが分化能を有していることを確立している。さらに、形成される腫瘍細胞は当該細胞がもともと由来したものに類似した形態を有する。
同様に、カテナは、適切な条件下で、かつインビトロにおいて、上皮単層及び間葉単層を生成する能力を有する。グリコカリックス(例えば、ヒアルロニダーゼ処理によって)を除去すると、カテナは懸濁培養で増殖を停止し、組織培養プレートに定着し、かつ上皮細胞と間葉系細胞との混合培養物に分化し始めることが発見されている。
培養で増殖させたカテナは、カテナを生成し続ける。すなわち、カテナは、非付着細胞として培養において連続継代が可能である。しかし、培養物が飽和状態になった場合など適当な条件下では、カテナは丸くなり、スフェロイドを形成し得る。この集合(rolling up)挙動は、スフェロイドが約10%CSCを含んでいることから、不利な条件からCSCを保護する物理的障壁手段を提供し得る。
カテナは、漿液性上皮癌細胞または漿液性間葉癌細胞(以下に詳述)から製造することができる。上皮細胞は、偏向形態を有しており、E-カドヘリン陽性であり、かつビメンチン(vimentin)陰性である。間葉系細胞は、紡錘体形態を示し、正のE-カドヘリン陰性であり、ビメンチン陽性である。カテナ細胞は、丸く、間葉系細胞のように、E-カドヘリン陰性であり、かつビメンチン陽性である。
カテナにおけるヒアルロン酸のグリコカリックス被覆は、支配的な形態学的特徴であり、ヒアルロニダーゼ処理により除去することができる。グリコカリックスは、カテナの細胞の周り約20μmにまで広がる。グリコカリックスが存在する場合、カテナは、懸濁培養で増殖し、細胞外マトリックス成分と相互作用しない。グリコカリックスが酵素的に除去されると、カテナ細胞が表面に付着し、糸状仮足伸張を形成し、多系統分化能を呈する。機械的に解離したカテナ細胞は、懸濁のままとなり、急速に増殖し、浮遊性鎖を形成する。
カテナ細胞の走査型電子顕微鏡(SEM)は、グリコカリックスに加え得て、微絨毛、ナノチューブ、偽足、アンテナ及び糸状仮足を含む、細胞周囲の様々な構造を示す。ある場合には微絨毛が細胞に渡り観察され、別の場合には微絨毛が細胞の接合部に位置する傾向があったり、それらの細胞間接着における役割が示唆されている。ナノチューブは、CSCの新規な細胞の特徴であり、細胞間連絡に関与している様であり、細胞間における生体分子の経路を可能にしているようである。偽足、アンテナ、及び糸状仮足は、ナノチューブの形成に役割を果たすだけでなく、付着表面としての環境、並びにサイトカイン、成長因子及び免疫細胞の存在の監視を可能にし得る。
加えて、SEMにより、カテナ細胞が、表面小疱、並びに細胞表面から突出し、かつ小粒子を放出しているような構造を有していることが示されている。これらの突出構造は、「火山」或いは陥入「クレーター」のようである。 放出された粒子は外観及びサイズにおいて表面小疱と類似しており、エキソソームであると見受けられる。
透過型電子顕微鏡(TEM)は、カテナ細胞が、幹細胞に典型的な未分化細胞の形態(高い核/細胞質比)を有していることを示す。TEMはまた、細胞間のタイトジャンクションの観察も可能にし、インタクトな機能的ミトコンドリアが存在していることを示した。表面小疱は、細胞膜と連続しており、リボソームを含むことが観察された。
細胞のクローン的に純粋な集団を所持していれば、卵巣カテナ(すなわち、卵巣のCSC)の分子特性評価が可能になる。遺伝子発現を用いて、本発明は、表5に示すように、卵巣の間葉系単層癌細胞に対する卵巣カテナの遺伝子特性を提供する。当該遺伝子特性は、26個の上方制御される遺伝子と、69個の下方制御される遺伝子とを有し、カテナ/CSCにおいてもっとも高く発現される遺伝子であるヒアルロン酸合成酵素(HAS2)を有する。二番目に高く発現する遺伝子は、カテナ/ CSCにおいてPDGF経路の重要な役割を示すPDGFRAであった。
差示的miRNA発現解析を用いることにより、miR-200ファミリーmiRNA(MIR-141、miR-200A、miR-200b、miR-200C及びmiR-429)とlet-7ファミリーmiRNAとが、卵巣上皮単層に比較して、卵巣カテナでは顕著に下方制御されることが見出された。さらに、hsa-miR-23bとhsa-miR-27bが、卵巣間葉系単層と比較して、卵巣カテナでは顕著に下方制御された。
受容体チロシンキナーゼ(RTK)のリン酸化アッセイを用いることにより、卵巣カテナ細胞と卵巣間葉系癌細胞は、質的に類似したリン酸化RTKプロファイル(phosphor-RTKプロファイル)を有することが示された。
市販の抗体とFACSによる細胞表面マーカー分析法を用いると、卵巣カテナは、CD49f(α6-インテグリン)、CD90、GM2及びCD166のマーカーについて陽性であり、かつEpCam(CD326)、MUC16(CA125)及びCD44のマーカーについて陰性である。
4. スフェロイド(Spheroids)
漿液性スフェロイドは、40μmのフィルターを通過しないだろう構成要素として観察された、数万もの細胞から成る巨大な細胞構造である。スフェロイドは、転移と腫瘍形成に重要な役割を果たす可能性がある。スフェロイドはまた、懸濁培養において自己複製し、分化能を有している。インビトロで評価した場合、スフェロイドは、限界希釈法において約10%の連続再クローニング能を有する。
スフェロイドは、「集合(rolloing up)」プロセスによってカテナから生じ、細胞培養のコンフルエントの段階で栄養枯渇時に、スフェロイドがカテナの生存に保護的な環境を提供することが示された。さらに、細胞は、付着した間葉系単層に蓄積し、スフェロイドの形成を開始し得る。この細胞塊は、付着した細胞から「出芽する」ように、付着表面に対して垂直方向に成長し、組織化された嚢胞構造を有するスフェロイドとなる。スフェロイドは、最終的に付着した単層から解離し、球(スフィア)の形態を維持しながら、懸濁液中で急速に増殖し続ける。このプロセスの概略図は図7に示されている。発達するスフェロイドは、懸濁液中に新しいカテナを押し出し、そのカテナは順次に急速に増殖し、新しい浮遊カテナを形成する。
5. カテナ及びスフェロイドの調製
本発明は、カテナ及びスフェロイドを調製する方法に関する。二つの主要な方法が、本明細書中において説明されている。 1つの方法では、漿液性上皮又は間葉系癌細胞が、好ましくは炎症性刺激を加えて、動物の腫瘍モデル(好ましくはマウス)の腹腔内(ip)に注入される。腹水及び/又は固体腫瘍を生じさせるのに十分な時間の後、腹腔内に腫瘍を有する動物から腹水が採取され、二以上のサイズ画分、好ましくは2つの画分に分離される。小さいサイズの画分が、カテナと、単一の細胞、通常、白血球を含む。白血球は容易に除去することが出来、残りの細胞を懸濁培養で連続的に継代し、クローン化漿液性カテナの自己複製集団を得る。大きなフラクションは、フィルター上に保持されるスフェロイドを含む。これらのスフェロイドを回収し、懸濁培養で連続的に継代し、スフェロイドの自己複製集団を得る。
漿液性上皮細胞のソースは、初代漿液性癌細胞、または不死化上皮漿液性癌細胞株若しくは不死化間葉系漿液性癌細胞株であることができる。初代癌細胞又は細胞株は、原発癌または転移性腫瘍であることができる。好ましくは、漿液性癌細胞は卵巣癌細胞である。
本明細書において、動物腫瘍モデルとは、腫瘍形成を可能にする動物であり、通常は高度に免疫不全であって、即ち、少なくともB細胞及びT細胞を欠いており、さらに好ましくはNK細胞も欠いている。例えば、好ましい動物は、B細胞とT細胞とNK細胞とを欠くNOD-SCID ILRガンマ(-/-)マウス(NOD-SCID ILR gamma(-/-)mouse;以下、「NSGマウスと称する」である。NOD-SCIDマウスは、B細胞とT細胞とを欠いており、有用である一方で、腫瘍を生じさせるためには莫大な数の細胞の注入を必要とする。
炎症性刺激には、動物において炎症を刺激し、さらに好ましくは腹腔内投与される任意の薬剤、薬物又は因子(以下総称して炎症剤と称する)が含まれる。炎症剤としては、脂質化オリゴヌクレオチド、チオグリコール酸;ケメリン(chemerin);ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド1(CCL1)、CCL2、CCL4、CCL7、CCL8、CCL12、CCL13、CCL15、CCL16、 CCL23及びCCL25等のマクロファージ遊走誘導性ケモカイン;CCL14等のマクロファージ活性化ケモカイン;並びにビュリュワーズ・チオグリコール酸培地(brewer’s thoglycollate broth)(3%)、熱殺菌BCG(マイコバクテリウム・ボビス(M.bovis)の細胞壁)、ピラン共重合体、クロストリジウム・パルバム(C.parvum)熱殺菌全細胞、クロストリジウム・パルバムのピリジン抽出物、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)由来の無毒化エンドトキシンなどの細菌由来の様々な薬剤;並びにメタ過ヨウ素酸ナトリウムが含まれるが、これらに限定されるものではない。脂質化オリゴヌクレオチドは、通常、約8から約30のヌクレオチドからなる小オリゴマーであり、配列に依存せずに作用する。脂質部分は、ミリスチン酸、パルミチン酸などの任意の有用な基とすることが出来る。当業者であれば、炎症剤を投与するための適切な用量を決定することができる。
サイズ分画は、1以上のフィルターで腹水をろ過することにより実施することができる。有用なフィルターのサイズは、より多くのスフェロイドを通過させることが出来る大きなサイズである、約2060μmの範囲である。好ましいフィルタのサイズは40μmである。
別の方法では、カテナ及びスフェロイドは、不死化間葉系漿液性癌細胞から、インビトロ培養技術により製造することができる。この方法では、間葉系細胞は単層として培養され、培養上清を採取し、懸濁細胞は、穏やかな遠心分離(例えば、1から5分、300gで)によりペレット化する。ペレット化した細胞は、培養のために新鮮懸濁培養フラスコに移し、(通常は前培養密度の10分の1で)新鮮培地に再懸濁される。このサイクルを数回繰り返すことにより、漿液性カテナ及びスフェロイドの自己複製集団を製造する。通常は、細胞が約200,000細胞/mLの細胞密度に到達するか、或いは毎週継代することができるまで、細胞を培養する。同様に、このプロセスは、カテナ及びスフェロイドの形成を阻止する、間葉系単層によって生成される阻害因子を除去するようである。これらの培養物をサイズにより分画し、スフェロイドからカテナを分離し得る。
これらの方法のための増殖培地とは、10%ウシ胎仔血清(FCS)を添加した任意の有用な培地である。細胞は一般に5%CO、37℃で培養される。カテナのための好ましい生育培地は、10%FCS(ハイクローン(Hyclone))と、1%P/S(10,000U/mLのペニシリンG及び10mg/mLのストレプトマイシンのペニシリン‐ストレプトマイシン溶液;ジェミニバイオ・プロダクツ(Gemini Bio-Products))とを含むM5であり、以下、この培地をM5−FCSと称する。M5培地は、DME:F12、6g/L HEPES、2.2g/Lの重炭酸ナトリウムである。カテナはまた、インスリンを添加した無血清、無タンパク質培地中で培養することもできる。そのような好ましい一の培地としては、1%P/S、0.1U/mLの組換えインスリンを含むM5です。インスリンのソースは、細胞のソースと同一であるべきであり、即ち、ヒトのカテナが培養されている場合には、無血清培地に組み換えヒトインスリンが添加される。
スフェロイドのための好ましい生育培地は、ES培地であり、好ましくは添加mTeSR1培地である[ルートヴィヒら、2006]。
6. 遺伝子特性及びCSCを特定するためのその他方法
表5に提供される遺伝子発現情報は卵巣のCSCの特定のための診断マーカーとして使用し得る。例えば、患者からの腹水又は卵巣組織試料を、遺伝子マイクロアレイ、RNA配列決定、RT-PCR、Q-RT-PCR、454ディープ・シーケンシング(454 deep sequencing)、又は当業者に公知のその他方法を用いてアッセイし、表5の遺伝子の1以上の発現レベルを決定し得る。それらレベルは、正常組織、卵巣間葉癌細胞又は卵巣上皮癌細胞において見出される発現レベルと比較してもよい。発現レベルはまた、病状、疾患の進行、特に転移を監視するためのマーカーとして、或いは細胞又は患者に対する候補薬物若しくは薬剤の効果を評価するためのマーカーとして、用いることが出来る。特定の遺伝子マーカー又はマーカーの発現を監視するアッセイでは、関連遺伝子の発現レベルの変化を監視し得る利用可能な如何なる手段も利用することができる。本明細書では、薬剤が細胞内で遺伝子のmRNAレベルを上方制御または下方制御することが出来る場合には、その薬剤は、遺伝子の発現を調節し得ると言う。
本発明によれば、患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する以下の方法が提供される。
カテナ・サーフェソーム(catena surfaceome)に関しては、患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、(a)患者から細胞試料を取得する工程;(b)上記試料の白血球を枯渇させる工程;(c)一群の検出可能な表面抗原抗体と上記試料を反応させる工程;(d)上記反応した細胞を単一細胞又は多細胞試料にソーティングする工程;並びに(e)上記単一細胞又は多細胞試料の何れかが、CD49f、CD90、CD166、PDGFRA及びGM2タンパク質の存在にについて陽性であり、かつCD34、CD133、MUC16及びEPCAMタンパク質の存在について陰性であるか否かを検出する工程であって、上記タンパク質の有無が、上記反応した細胞を、漿液性癌幹細胞を含むものとして特定するか、或いは単一細胞を漿液性癌幹細胞として特定する、上記工程を含む上記方法が提供される。
単一細胞レベルまでのソーティングを含む、細胞のソーティング工程は、例えば、適宜識別可能に標識された抗体を用いた蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって実施することができる。
或いは、サーフェソー(surfacesome)特性は、以下の方法において用いられ得る:患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、(a)患者から細胞試料を取得する工程;(b)上記試料の白血球を枯渇させる工程;(c)上記試料の残りからRNAを抽出する工程;(d)ヒトmRNAトランスクリプトームの発現レベルについて上記RNAを解析する工程;並びに(e)HAS2及びPDGFRAが上方制御されており、MUC16及びEPCAMが下方制御されており、かつ表11に記載の少なくとも7つのその他遺伝子が上方制御されている試料として、サーフェソーム関連カテナ遺伝子特性を有する試料を特定する工程であって、それら特性を有することは、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程を含む上記方法。
同様に、サーフェソーム特性は、以下の方法において用いられ得る:患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、(a)患者の細胞試料から内在性膜タンパク質画分を取得する工程、但し、細胞試料は白血球が任意に枯渇されている;(b)質量分析法によって上記膜タンパク質画分のタンパク質含有量を分析する工程;並びに(c)スペクトルデータが表16に記載されている少なくとも40個のタンパク質の存在を示す試料として、サーフェソーム関連のカテナタンパク質特性を有する試料を特定する工程であって、それらタンパク質の存在は、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程を含む、上記方法。内在性膜画分を調製するための一の方法としては、細胞を単離し、かつトリトンX-114を用いた相分配プロセスを利用し、質量分析によって分析され得る洗浄剤可溶性画分を調製する方法が挙げられる。
特徴付けられたカテナmiRNAからの情報に基づけば、本発明によれば、以下の方法が提供される:患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、(a)患者から細胞試料を取得する工程;(b)上記試料の白血球を枯渇させる工程;(c)上記試料の残りからRNAを抽出する工程;(d)ヒトmiRNAの発現レベルについて上記RNAを解析する工程;並びに(e)let−7及び200ファミリーのmiRNAが下方制御されており、hsa−miR−23b及びhsa−miR−27bが下方制御されており、かつ表8に記載の少なくとも4つのその他miRNAが上方制御されている試料として、miRNA関連カテナ特性を有する試料を特定する工程であって、それら特性を有することは、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程を含む、上記方法。
全てのカテナmRNAの発現についての解析を利用することにより、カテナ遺伝子特性が確立された。従って、本発明の別の実施形態は、また、患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、(a)患者から細胞試料を取得する工程;(b)上記試料の白血球を枯渇させる工程;(c)上記試料の残りからRNAを抽出する工程; (d)ヒトmRNAトランスクリプトームの発現レベルについて上記RNAを解析する工程;並びに(e)HAS2及びPDGFRAが上方制御されており、かつ表5に記載の少なくとも5つのその他遺伝子が上方制御されている試料として、カテナ遺伝子特性を有する試料を特定する工程であって、それら特性を有することは、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程を含む、上記方法に関する。別の実施形態では、カテナ・クラスタ規定遺伝子特性が利用され、患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、(a)患者から細胞試料を取得する工程;(b)上記試料の白血球を任意に枯渇させる工程;(c)上記試料の残りからRNAを抽出する工程;(d)ヒトmRNAトランスクリプトームの発現レベルについて上記RNAを解析する工程;並びに(e)表7のリスト1における9つの遺伝子のうち少なくとも6つが上方制御されており、かつ表7のリスト2における遺伝子のうち少なくとも5つが上方制御されている試料として、カテナ・クラスタ規定遺伝子特性を有する試料を特定する工程であって、カテナ・クラスタ規定遺伝子特性を有することは、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程を含む、上記方法が提供される。
本発明の関連する方法では、以下の工程を含む方法によって被験体において漿液性癌細胞を特定し得る:(a)組織試料において表5に記載の10以上の遺伝子の発現レベルを検出する工程であって、表5に記載の通りの、かつ漿液性間葉系単層細胞内における発現に対する当該遺伝子発現レベルの増加又は減少は、漿液性癌幹細胞の存在を示す、上記工程。
カテナ・エキソソーム(exosome)及びセクレトーム(secretome)は、漿液性癌幹細胞を特定及び/又は監視する方法に特に有用である。例えば、一実施形態では、エキソソームのカテナタンパク質特性は、以下の方法において利用し得る:患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、(a)患者試料から、単離されたエキソソームを取得する工程;(b)質量分析法、抗体結合又はその他方法によって上記エキソソームのタンパク質含有量を分析する工程;並びに(c)スペクトルデータ又はその他データがCD63、COL1A2、及び表13に記載されている少なくとも5つのその他タンパク質の存在を示す試料として、エキソソームのカテナタンパク質特性を有する試料を特定する工程であって、上記タンパク質の存在は、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程を含む、上記方法。
別の実施形態では、エキソソームのカテナタンパク質特性が以下の方法において利用され得る:患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、(a)患者試料から、単離されたエキソソームを取得する工程;
(b)上記エキソソームをCD63、COL1A2及び表13に記載される少なくとも5つのその他タンパク質に特異的な一つ以上の抗体と反応させる工程;並びに(c)CD63、COL1A2及び表13に記載される少なくとも5つのその他タンパク質の存在が陽性である試料として、エキソソームのカテナタンパク質特性を有する試料を特定する工程であって、上記タンパク質の存在は、患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程を含む上記方法。
さらに別の実施形態では、セクレトームのカテナタンパク質特性が以下の方法において利用され得る:患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、(a)細胞と、細胞残屑と、エキソソームとが除去された患者試料から上清画分を取得する工程;(b)質量分析法によって上記上清画分のタンパク質含有量を分析する工程;並びに(c)スペクトルデータが表15に記載される少なくとも20個のタンパク質の存在を示す試料として、セクレトームのカテナタンパク質特性を有する試料を特定する工程であって、それらタンパク質の存在は、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程を含む、上記方法。
さらに別の実施形態では、グリコカリックス特性が利用され、患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、(a)細胞と、細胞残屑と、エキソソームとが除去された患者試料から上清画分を取得する工程;(b)質量分析法によって上記上清画分のタンパク質含有量を分析する工程;並びに(c)スペクトルデータが表4に記載されるグリコカリックスで見出される少なくとも6つのタンパク質の存在、並びにELN、FN1及び表4に記載のカテナで下方制御されている少なくとも2つのタンパク質の非存在を示す試料として、グリコカリックス特性を有する試料を特定する工程であって、それらタンパク質の存在及び非存在は、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程を含む、上記方法が提供される。
チロシンキナーゼ受容体(RTK)のリン酸化に基づき、本発明の別の実施形態は、患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、(a)患者から、細胞試料、又は細胞試料からの細胞溶解物を取得する工程、但し、該試料の白血球は枯渇されている;(b)ヒトチロシンキナーゼ受容体に特異的な抗体の一群とパンホスホチロシン抗体(pan-phosphotyrosine antibody)とともに上記試料又は上記溶解物をインキュベートする工程;並びに(c)上記試料または溶解物が、PDGFRAと、PDGFRβ、EGFR、ERBB4、FGFR2、FGFR3、インスリン‐R(Insulin−R)、IGF1R、DTK/TYRO3、MER/MERTK、MSPR/RON、Flt−3、c−rRET、ROR1、ROR2、Tie−1、Tie−2、TrkA/NTRK1、VEGFR3、EphA1、EphA3、EphA4、EphA7、EphB2、EphB4及びEphB6からなる群から選択される少なくとも6個のタンパク質とからなる群から選択される活性化リンタンパク質について陽性であるか否かを検出する工程であって、上記活性化リンタンパク質の検出は、上記患者試料をが漿液性癌幹細胞を含むものとして特定する、上記工程を含む、上記方法に関する。
グリコカリックスの組成および特性評価に基づけば、以下の工程を含む方法によって、患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視することが出来る:(a)細胞と、細胞残屑とが除去された患者試料から上清画分を取得する工程;(b)上記試料を抗COL1A2抗体と反応させる工程;(c)上記抗体が、ヒアルロン酸とコラーゲンとの20,000ダルトン未満の低分子量複合体と結合するか否かを検出する工程であって、上記複合体の検出は、患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程。
このセクションにおける方法のための試料は、哺乳類の漿液、腹水、血液又は腫瘍組織であり得る。好ましくは、哺乳類はヒトである。
検出、決定(判定)、分析(解析)等の様々な工程は、当業者に公知の方法によって実施することができる。例えば、適切な方法では、核酸の検出又は発現レベルの決定は、マイクロアレイ解析、RNA若しくはDNAの配列決定法、RT−PCR、又はQ−RT−PCR等によって達成され得る。
さらに、上記方法は、本発明のさらなる実施形態の基礎を形成する。例えば、本発明によれば、漿液性癌患者において、漿液性癌を検出し、癌治療計画の有効性を監視し、治療のために患者を分類し、薬効を監視し、癌治療計画に対する患者の応答を予測する方法であって、(a)患者からの試料を用いて、(請求項48から67に記載されるような)一以上の上記方法を定期的に実施する工程;並びに(b)結果を上記患者の状態と関連付けることにより、漿液性癌を検出し、癌治療計画の有効性を監視し、治療のために患者を分類し、薬効を監視し、又は癌治療計画に対する患者の応答を予測する工程を含む、上記方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、DNA、RNA、又はその両方について当該分野で公知である無数のPCR増幅法のいずれかにより、漿液性CSCを特定するためのPCRプライマーセットが提供される。当業者であれば、ヒトゲノムの既知配列からPCRプライマーの適切な配列を選択することがでる。哺乳類遺伝子のための本発明のPCRプライマーセットは、以下の組合せ(それぞれの組合せは、セット内の指定された遺伝子の増幅及び検出にためのPCRプライマーセットである)である:
(a)CD49f、CD90、CD166、PDGFRA、及びGM2遺伝子;
(b)CD49f、CD90、CD166、PDGFRA、GM2、CD34、CD133、MUC16、及びEPCAM遺伝子;
(c)HAS2、PDGFRA、及び表11に記載の少なくとも10個の上方制御される遺伝子;
(d)HAS2、PDGFRA、MUC16、EPCAM、及び表11に記載の少なくとも10個の上方制御される遺伝子;
(e)表16に記載の少なくとも40個の蛋白質の遺伝子;
(f)let−7及び200のmiRNAファミリー、hsa−miR−23b及びhsa−miR−27b、並びに表8に記載の少なくとも4つのその他miRNA;
(g)HAS2、PDGFRA、及び表5に記載の少なくとも5つのその他遺伝子;
(h)表7のリスト1の9つの遺伝子、及び表7のリスト2の少なくとも5つの遺伝子;
(i)表5からの10以上の遺伝子;
(j)CD63、COL1A2、及び表13に記載のタンパク質の少なくとも5つのその他遺伝子;
(k)表15に記載の少なくとも20個のタンパク質の遺伝子;
(l)表4に記載の少なくとも6個のグリコカリックスタンパク質の遺伝子;
(m)ELN、FN1、表4に記載の少なくとも6個のグリコカリックスタンパク質の遺伝子、及び表4に下方制御されているものとして記載されている少なくとも2つのタンパク質の遺伝子;並びに
(n)PDGFRAと、PDGFRβ、EGFR、ERBB4、FGFR2、FGFR3、インスリン‐R(Insulin−R)、IGF1R、DTK/TYRO3、MER/MERTK、MSPR/RON、Flt−3、c−rRET、ROR1、ROR2、Tie−1、Tie−2、TrkA/NTRK1、VEGFR3、EphA1、EphA3、EphA4、EphA7、EphB2、EphB4及びEphB6とからなる群から選択される少なくとも6種のタンパク質の遺伝子。
7. 薬物スクリーニング法
一の実施形態において、本発明の方法は、以下の工程によって増殖抑制効果について試験化合物をスクリーニングする方法を含む:(a)蛍光又は発光によって検出可能である、解離した漿液性カテナ又は漿液性スフェロイド細胞を培養する工程;(b)上記カテナ又はスフェロイドを試験化合物に接触させる工程;(c)対照培養物に対して、当該培養物によって生成される蛍光又は発光を測定することによって、上記カテナ又はスフェロイドの増殖を検出する工程;並びに(d)上記試験化合物が上記カテナ又はスフェロイドの増殖を阻害するか否かを判定する工程。
同様に、漿液性癌幹細胞に対する増殖抑制効果について試験化合物をスクリーニングする別の方法は、以下の工程を含む:(a)解離した漿液性カテナ細胞、解離した漿液性スフェロイド細胞、及び解離した漿液性癌付着細胞を同時に培養する工程、但し、上記細胞のそれぞれは蛍光又は発光によって検出可能である;(b)上記細胞を上記試験化合物に接触させる工程;(c)対照培養物に対して、当該培養物によって発せられる蛍光又は発光を検出することによって、カテナ、スフェロイド及び付着細胞の増殖を検出する工程;並びに(d)スフェロイド及び単層と比較して、上記試験化合物が上記カテナの増殖を差示的に阻害するか否かを判定する工程。
本発明のこれらの方法では、細胞は、96ウェルプレート、384ウェル又は1536ウェルプレート等のマルチウェルプレートにおいて有利に増殖される。培地を添加したり、プレートに播種したり、及び結果を記録するため様々な操作は、手動により、又は当該目的のために設計された装置上でロボット制御により実施することができる。同様に、アッセイの結果を手動で判定することもできるし、または自動化若しくはロボット化した分析器に適合させることができる。増殖抑制効果を検出するために、細胞培養物からの蛍光シグナルは、アッセイに適するように、不連続な時点において評価したり、又は連続的にモニターにすることができる。
別の実施形態においては、本発明は、漿液性カテナ、スフェロイド及び単層に対する表現型の効果又はその他効果について試験化合物(又は薬剤)をスクリーニングする方法を提供する。これらの方法は、検出法を除いて、試験化合物の増殖抑制効果を評価するための上記アッセイと同様の様式で実施される。これらの実施形態では、検出法は、評価され、かつ明確に検出可能である特定の特性に依存する。分化阻害剤については、検出法は、カテナ細胞が化合物に暴露された培養物において分化しないか否かを評価することができる。
試験化合物を用いてスクリーニングアッセイを実施したことにより、グリコカリックスの完全性が、細胞の薬物感受性又は抵抗性に重要な役割を果たし得ることが発見された。ある化合物はグリコカリックスを容易に貫通することが出来るのに対し、他のものは貫通することが出来ない。最終的に患者に有効でなくなる、化学療法で使用される化合物に関しては、薬物または化学療法剤がグリコカリックスの新たな存在のために有効性を失ったと言う見解は、漿液性癌幹細胞のグリコカリックスを除去していればそのような薬剤は有効性を維持でき、再度使用できたことを意味する。この見解によれば、これらの細胞体が定着した、及び/又は実質的なグリコカリックス有する条件下で、試験化合物若しくは薬物をスクリーニングしたり、カテナ及びスフェロイドの増殖を抑制する能力について、若しくはカテナ及びスフェロイドの形態を変化させる能力について化学治療剤を識別したりする他の方法についてのニーズが創出される。
従って、本発明の別の実施形態によれば、以下の方法が提供される:増殖抑制効果又は形態学的効果について試験化合物をスクリーニングする方法であって、(a)漿液性カテナを解離し、かつ単一細胞の均質な集団を調製する工程;(b)定着したグリコカリックスの被覆を有するカテナを生成するのに十分な時間及び条件下で、それら細胞を播種し、かつ培養する工程;(c)未処理培養物がコンフルエントに達することなく増殖するのに充分な時間(即ち、培養物はスクリーニングアッセイの間、サブコンフルエントのままでなければならない)、上記培養物を少なくとも一つの試験化合物に接触させる工程;並びに(d)処理された培養物において上記試験化合物が上記カテナの増殖を阻害するか否か、又は該試験化合物が上記カテナの形態を変化させるか否かを判定する工程を含む、上記方法。好ましい実施形態においては、播種後約第3日目、第4日目、第5日目、第6日目又は第7日目に、上記培養物に上記試験化合物を添加する。本方法における変形形態では、工程(b)の後かつ工程(c)の前に、上記カテナのグリコカリックス被覆を除去又は破壊するのに充分な時間、上記カテナのグリコカリックス被覆を除去又は破壊するのに充分な量のヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ又はその両方と共に上記培養物をインキュベートすることができる。そのような処理は、通常、約5から30分間で、37℃で、好ましく約10分間で実施される。これらの酵素は、アッセイの残りの期間のために除去される必要は無い。本発明の方法では、酵素を修飾及びPEG化したものも用いることが出来る。これらのアッセイは、上記したようなHTS形式に容易に適応させることもできる。試験化合物が増殖に影響するか否かを判定するためには、当該細胞を染色して若しくは染色せずに手動で計数するか、又は蛍光シグナル、発光シグナル若しくは吸光度を測定することができる。カテナは懸濁で存在することから、検出方法はそれに応じて適応させる必要があり、当業者によって実施され得る。一の好ましい検出方法は、アラマーブルー(alamarBlue(登録商標))を用い、その後、培養物に存在する生細胞に比例し、かつ細胞が付着しているか、又は懸濁しているか否かとは無関係である、培養物の蛍光又は吸光度を測定する。
漿液性スフェロイドに関しての同様のアッセイ系も提供される。スフェロイドでは、解離した細胞が、定着したグリコカリックス被覆を有する十分な数及びサイズのスフェロイドを生成する時間及び条件下で培養される。スフェロイドは、多数の細胞の巨大な集合体であるので、カテナの場合と比べて被覆を再定着するのにより長い時間がかかる。スフェロイドのタイムフレームは、通常、約8日から約14日であり、従って、試験化合物の添加は、そのタイムフレームにおいて実施され、好ましくは播種後第11日目に実施される。
それゆえ、これらの方法は、阻害されていない保護性の細胞周囲被覆を有する漿液性(卵巣を含む)癌幹細胞(カテナ)に対して、毒性及び化学特性について化合物をスクリーニングすることを可能にし、従来のスクリーニング方法よりも臨床状況により関連するインビトロの系であることを意味する。インビボ及びインビトロのデータによれば、カテナは腹水液において懸濁状態で増殖するよう適応した卵巣癌幹細胞であり、グリコカリックス形成は、メカニズムに拘泥される事無く、腹水液において癌幹細胞が増殖及び拡大するために、また、癌幹細胞のままであるために必要であることが示唆されている。データによれば、また、腹膜転移を伴う進行期卵巣癌及びその他漿液性癌種における療法に対する抵抗性も説明される。本スクリーニングにおいて完全な細胞周囲被覆を有するカテナに対して毒性であると同定された任意の化合化合物は、進行期卵巣癌の治療において潜在的に有効である。
8. 治療方法
A.グリコカリックスの標的化
ヒアルロン酸のカテナグリコカリックスは支配的な形態学的特徴である。除去するためにこの特徴を標的化することにおいて、漿液性癌を治療する方法であって、管理し得る病状において癌を維持する工程、その他標準の癌治療(例えば、化学療法又は放射線治療を併用して)の後、又はその間において癌幹細胞を除去する工程、並びに再発又は転移までの期間を延長する工程を含む、上記方法が提供される。
ヒアルロン酸の分解、ヒアルロン酸受容体(例えば:CD44、RHAMM)へのヒアルロン酸結合の防止、ヒアルロン酸の排出又はヒアルロン酸と相互作用するタンパク質の防止(例えば、アグレガン(Aggregan)、バーシカン(Versican))を含む様々な経路を介して、ヒアルロン酸及び/又はその他グリコカリックス成分を標的化してもよい。加えて、RNAi、アンチセンス又は酵素阻害剤の添加を含む様々な手法によってヒアルロン酸を生成する合成経路成分を標的化することにより、ヒアルロン酸の発現を阻害又は減じてもよい。ヒアルロン酸合成は、その化学構造の部分の形成を阻害することによって(例えば、繰返し二糖単位又はグリコシド結合を標的化することによって)破壊することができる。さらに、ヒアルロン酸合成の阻害は、DNAレベル、RNAレベル、又はタンパク質レベル(例えば、酵素阻害剤)でヒアルロン酸合成酵素(HAS)を標的化することによって達成してもよい。HAS阻害剤の例としては、4 - メチルウンベリフェロン(4-methylumbelliferone)(4-MUまたはMU)、4 - メチルエスクレチン(4 - methylesculetin)(ME)、ブレフェルディンA(brefelding A)、マンノス(mannos)、ヒアルロン酸合成酵素に対するsiRNA、ヒアルロン酸合成酵素の細胞外または細胞内ドメインに対する抗体、及びヒアルロニダーゼ(細菌又は動物起源、天然又は組換え)、並びに上記の何れか(適切な範囲で)のPEG化又は化学的に修飾された誘導体が含まれるが、これらに限定されるものではない。
ヒアルロン酸は、抗体、小分子、酵素又はその他手段によって分解又は除去の標的とすることができる。ヒアルロン酸は、糖タンパク質であるヒアルロニダーゼによって最も一般的に分解される。ヒアルロニダーゼは、癌において潜在的な治療用途を有するものとして認識されている。動物において用いられ得る、この酵素又は修飾物は、漿液性癌幹細胞を選択的に標的化かするために初めて本発明において用いるものであってもよい。例えば、卵巣癌は、手術、化学療法、放射線療法、またはこれらの組み合わせを含む、標準的療法で一般的に治療される。このような治療は、プラチナを用いた治療法、トポテカン、経口エトポシド、ドセタキセル、ゲムシタビン,5-FU、ロイコボリン、リポソーム・ドキソルビシンを含み得る。
本発明は、グリコカリックスの形成を除去又は阻害する治療の過程において、これらの治療法の補充を提供する。例えば、一の治療計画では、原発性癌を(任意の手段又は治療により)除去した後、治療に対して耐性があるか、又は治療を回避するカテナ又はCSCを根絶するためにヒアルロニダーゼ処理を実施する。ヒアルロニダーゼ処理はまた、標準的な癌治療と並行して実施することができる。さらに、これらの二つの治療様式の後に、必要に応じて、標準的治療の追加ラウンド(例えば、化学療法)を実施することができる。
本発明は、カテナを根絶し、カテナの形態を破壊し、カテナの分化を強制する、又はカテナのクローン形成能を減少させるその他方法であって、当該治療の一部としてヒアルロニダーゼ処理を含む上記方法も企図している。
本発明の特定の実施形態によれば、化学療法計画又は放射線治療を受けている患者において漿液性癌を治療する方法であって、ヒアルロン酸合成酵素阻害剤、ヒアルロン酸経路のその他阻害剤、又はヒアルロン酸を分解する酵素を、上記計画若しくは治療を増強若しくは補充するのに、又は患者の生存期間を改善するのに充分な時間及び量で投与する工程を含む、上記方法が提供される。阻害剤は、化学療法計画又は放射線治療の前後、又はそれと同時に投与することができる。この方法の後に、化学療法又は放射線の追加ラウンドを実施することができる。
本発明の方法は、例えば腫瘍退縮、膨満感の緩和、又は腹水形成を含む、癌の症状の寛解を生じさせ得る。これらの方法は、また、CSCによるグリコカリックス形成を阻害し、それによってCSCの自己複製を阻害し、かつその分化を引き起こすことによって、メカニズムに拘泥されること無く、患者において癌幹細胞(CSC)の自己複製及び/又は形成を阻害する。この分化は、細胞を、当該分野において公知である標準の癌治療計画に再び感受性となるようにし得る。
漿液性癌は、卵巣癌、並びに漿膜腔に出現する任意の癌を含み、さらに原発性又は二次的(例えば、転移性)の起源の何れも含むが、これらに限定されない。
ヒアルロン酸の破壊(ヒアルロン酸の分解)を触媒する酵素は、ヒアルロニダーゼ類(例えば、EC 3.2.1.35)を含む。ヒトの場合、HYAL1、HYAL2、HYAL3、HYAL4、MGEA5及びPH-20/SPAM1を含む、6つの関連遺伝子を有している。本発明では、如何なるヒアルロニダーゼも使用することが出来る。本発明に用いるための好ましいヒアルロニダーゼは、PH20遺伝子に由来する組換え型ヒトヒアルロニダーゼであるヒレネックス(Hylenex)(ハロザイム・セラペウティクス;Halozyme Theraputics)である。PEG化したPH20ヒアルロニダーゼもまた有用である。
ヒアルロニダーゼは、ヒト、その他動物、または細菌起源のものであってもよいし、また、人工的(組換え/合成)に作製してもよい。それは、修飾(PEG化、オリゴマーのトランスポーターの付加、その他一般的に知られる修飾方法)してもよいし、患者に有効な容量を送達する任意の処方において提供し得る。用量の決定、及び化学療法剤の製剤化は、当業者に公知である。
別の態様においては、本発明は、患者において癌幹細胞の自己複製又は形成を阻害する方法であって、患者においてグリコカリックス形成を阻害するか、若しくはCSCのグリコカリックスを分解して上記CSCの自己複製又は形成を阻害するか、CSCの分化を引き起こすか、その他化学療法計画によって該CSCを致死させやすくするか、或いはカテナがスフェロイド形成を経ることを防止するために充分な時間及び量で、グリコカリックス形成阻害剤又はグリコカリックスを分解する薬剤を上記患者に投与する工程を含む、上記方法に関する。
本発明の方法において使用される阻害剤と酵素は、無菌注射剤溶液、懸濁液またはその他有用な製剤の形態で、腹腔内又は漿膜内送達のための医薬組成物として提供することができる。腹腔内送達は特に有用である。経口投与する場合、阻害剤及び酵素は、例えば丸剤、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤又はエリキシル剤の形態にし得る。投与は、例えば座薬の形態で経直腸的に、或いは溶液又は経皮パッチの形態で、或いは注射剤無菌溶液又は懸濁液の形態で非経口的に、例えば静脈内、筋肉内、髄腔内又は皮下に、或いは例えば溶液又は経皮貼布の形態で局所的に、或いはその他方法で、例えばエアゾル又は鼻腔用スプレーの形態で実施することもできる。投与の性質に応じて、医薬組成物は、例えば製造性、投与、味、摂取、吸収などを改善し得る、薬学的に許容される添加剤、賦形剤、担体等をさらに含んでもよい。
B.その他治療方法
本発明のその他の治療法は、漿液性癌を治療する方法であって、(a)漿液性癌患者に対して抗癌療法計画を実施する工程;(b)上記患者からの試料を用いて定期的に実施した上記セクション5における一以上の方法から得られた結果を再検討する工程;並びに(c)それら方法から提供される情報に応じて、かつ該情報に一致するように治療計画を変更する工程(即ち、患者に存在する漿液性癌幹細胞を監視することによって、医療従事者は、何れの療法計画を当該特定の患者に適用するかについて、十分な情報に基づいて決定し、かつ個別的に決定し得る。)を含む、上記方法を含む。
9. 潜在的な治療剤
カテナの遺伝子特性情報に加えて、遺伝子発現解析により、カテナ細胞において機能している分子経路について重要な情報が得られた。この情報に基づいて、表1には、カテナにおいて機能している経路のリスト、並びに漿液性CSC、特に卵巣CSCに対して潜在的に有効な治療剤として、それら経路を標的とする化合物リストが提供されている。下線の引かれた化合物については、カテナに対する有効性が試験されている。
10.HAS2変異、PFGRA変異並びにHAS2スプライス変異体
HAS2及びPDGFRAは、Ovcar3カテナにおいて最も高く発現している遺伝子である。カテナでは、HAS2遺伝子がスプライス変異体として生じており、カテナ並びに患者腫瘍試料ではHAS2及びPDGFRA遺伝子において変異が見出されることが、予想外に発見されている。
従って、本発明は、mRNA及びcDNAを含む、哺乳類HAS2スプライス変異体をコードする単離された核酸、並びに、5’から3’方向に、HAS2遺伝子のエクソン2の全体又は一部、並びにHAS2遺伝子のエクソン3の全体から実質的になる、連続したヌクレオチド配列(即ち、エクソン1を欠損するスプライス変異体)を含む核酸が提供される。一のHAS2スプライス変異体mRNAは、野生型HAS2の第215位のアミノ酸から始まり、かつ通常の停止シグナル(即ち、第552位のアミノ酸)で終結するタンパク質をコードする。本発明はまた、本発明の何れかの核酸を含むベクター、これらのベクターを含む細胞、並びにコードされるタンパク質を産生する組換え発現系を用いること、及びコードされるタンパク質も含む。本発明の他の実施形態は、哺乳類HAS2スプライス変異体RNA、又はSNP変異を含む何れか一以上のHAS2変異を検出に特異的な単離されら核酸プローブ、及び好ましくは表17と18に特定される変異を検出するプローブに関する。したがって、本発明はまた、野生型HAS2、及びHAS2スプライス変異体の変異型並びに対立遺伝子型を含む。
本発明のさらなる別の態様は、以下の方法に関する:被験者において漿液性癌を監視及び/又は病期分類する方法であって、(a)癌患者から得た腹水からカテナを調製する工程;(b)上記カテナが一以上のHAS2変異を有するか否か、及び/又は上記カテナが一以上のHAS2スプライス変異体を発現しているか否かを検出する工程;並びに(c)それら変異及び/又は変異体を、上記患者における癌の存在及び/又は進行と関連付ける工程を含む、上記方法。さらに、以下の工程によって、患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定又は監視することができる:(a)患者から細胞試料を取得する工程;(b)任意に、上記試料の白血球を枯渇させる工程;(c)上記試料の残りからDNA、RNA又はその両方を調製する工程;並びに(d)上記DNA、RNA又はその両方がHAS2変異を有するか否か、又は上記DNA、RNA又はその両方がHAS2スプライス変異体を発現しているか否かを検出する工程であって、変異又はスプライス変異の特定は上記試料における漿液性癌幹細胞の存在を示す、上記工程。上記DNA又はRNAの量を定量することによって、患者において、漿液性癌の存在と、及び/又は漿液性癌の進行と、当該結果を関連付けることができる。
これらの関連付けには、漿液性癌の存在について初期診断する能力、癌及びその病期の早期検出、癌幹細胞の存在、腫瘍のカテナ含有量、腫瘍の悪性度、腫瘍の転移可能性、並びに腫瘍の転移危険性を含む。同様に、患者のHAS2状態は、ヒアルロニダーゼ併用療法について患者を分類するのに用いることができ、さらに、無病生存率及び治療への応答を関連付けるためにも用いることができる。HAS2に基づいたPCRアッセイは、臨床試験に統合することが出来、その結果、癌幹細胞に対する化学療法の効果を追跡し、試験の早期において療法が有効であるか否かを判定することが出来る。
そのようなアッセイのための試料は好ましくは腹水であるが、末梢血も同様に用いることができる。DNA又はRNAは、腹水又は血液試料から直接増幅し、PCR法で用いることが出来る。野生型(WT)及び変異型mRNAに特異的なFISH(蛍光インサイチュ(in situ)ハイブリダイゼーション)プローブは、診断スライド上の血液塗抹標本又は腹水試料において用いることが出来る。同一の細胞におけるこれらプローブの存在もまた判定することが出来る。
HAS2スプライス変異体は、固形腫瘍より腹水試料の多くに発現していると見受けられる。臨床的には、腹水を有すると予後不良であるので、変異体発現と臨床転帰との間には相関関係がある。
様々な省略、付加又は修正が、本発明の範囲から逸脱することなく、上記の発明に為し得ることは当業者に理解され、添付の請求の範囲に規定される通りこのようなすべての修正および変更は本発明の範囲に入ることが意図される。引用される特許、特許出願又はその他文書の全体が援用される。
実施例1:インビボ同所性卵巣癌モデルの開発
Ovcar3細胞株(NCI、NCI-60パネルから入手)は、腹膜転移を伴った卵巣腺癌の進行期の患者の腹水に元々由来するものであった [ハミルトン(Hamilton)、1983年]。細胞株は、M5-FCS培地中で維持した。
ルシフェラーゼおよび緑色蛍光タンパク質を発現するOvcar3は、eGFP-HSV-TK-ルシフェラーゼ(GTL)融合遺伝子を発現するレトロウイルスベクターによる形質導入によって得た[ポノマレフ(Ponomarev)、2004年]。導入効率は約10%であった。形質導入したOvcar3細胞は、フローサイトメトリーコアファシリティ(メモリアル・スローン・ケタリング癌センターMemorial Sloan-Kettering Cancer Center (MSKCC))でFACSによって、最も高いGFP発現についてソートした。GFPによってソートしたOvcar3細胞をOvcar3-GTLと称した。Ovcar3-GTL細胞は、M5-FCS培地中で維持した。Ovcar3-GTLは、組織培養処理したプレート上で上皮単層を形成した。
マウスをイソフルラン(バクスター・ヘルスケア社)で麻酔し、d-ルシフェリン(ゼノゲン;Xenogen)のPBS溶液を体重当たり75mg/kgの投与量で眼窩注入によって投与することで、生物発光イメージングを実施した。電荷結合素子カメラ(IVIS、Xenogen)を用いてのイメージングを、ルシフェリン注入から2分後に開始した。光子の放出源をより精確に同定するために、各動物から各時点で背側および/または腹側の画像を得た。データは、光子放出(ステラジアン当たり平方センチメートル当たり秒当たりの光子数)として表した。統計学的有意性はスチューデントのt検定を用いて求めた。ルシフェラーゼ生体イメージングモデルの統計的分析は、2標本ウィルコクソンの順位和検定を用いて3〜5匹のマウスのグループ間の光子放出の曲線下面積(AUC)を比較することによって生成した。
卵巣癌の末期段階の臨床症状にできるだけ近く、且つOvcar3細胞株が元々由来した部位を表すシステムを確立するために、腹腔内(ip)注射の戦略が採用された。NOD-SCIDマウスであって10〜12週齢の雌マウスに、10×106個のOvcar3-GTL細胞を腹腔内投与して異種移植モデルとした。Ovcar3-GTL単層細胞は、投与前に(メディアテック社)5分間37℃で0.05%トリプシン/0.02 EDTAで処理することで単細胞に解離させた。マウスは、週3回、PBSを腹腔内投与された。腫瘍分布は、ルシフェリンをマウスに投与した際に、ルシフェラーゼ発現Ovcar3-GTL細胞から放出される可視光を用いた非侵襲的な全身の連続イメージングによって追跡した。
確実に腫瘍を発生させるために多数の(500万〜1,000万個)の腫瘍細胞を注入する必要があるために、またNOD-SCIDマウスの残留免疫によって引き起こされる腫瘍増殖の遅発性性状のために、さらに免疫が抑制されたマウスがさらなる実験のために使用された。
NOD-SCIDマウスより免疫が抑制されたマウスとしてNOD-SCID IL2Rガンマ - / - (NSG)マウスが開発されている。NSGマウスは、TおよびBリンパ球に加えてナチュラルキラー(NK)細胞を欠いている。NOD/SCIDマウスの残留免疫がヒト癌細胞の成長を妨げている可能性があるため、ヒト卵巣癌異種移植実験においてNSGマウスをNOD/SCIDマウスと比較した。NSGマウスにOvcar3-GTL細胞を腹腔内注入すると、ほんの25,000細胞ではあったが生着が確認された。これはNOD-SCIDマウスに比べて200倍も高い生着率である。また、腹腔内での腫瘍の成長を何ヶ月も追跡した結果、最終的にマウスは体重減少と共に、腹水の産生を示す腹部膨張を呈した。これらの観察結果から、インビボでのマウスモデルによって、臨床で見られる腹膜転移を伴った卵巣癌の多くの様相を再現したことが示された。
細胞接種前のNSGマウスの致死量以下の放射線照射は、腫瘍の生着に悪影響を及ぼした。放射線照射を受けないマウスでは、Ovcar3-GTL細胞の生着は、注入した細胞数に直接比例することが観察された。しかし、細胞注入前に300ラドの亜致死放射線照射をマウスに施すと、注入された細胞の数にかかわらず生着率は同レベルであった。
NOD-SCIDマウスに代わるNSGマウスの使用は、生着効率の向上における主要な技術進歩であり、NOD-SCIDマウスの残留免疫による抗腫瘍活性の問題を大幅に改善した。NSGマウスでより高い生着効率が得られたことで、この同所性システムが、早期卵巣癌の優れたモデルを提供し、疾患のさらに後期段階への進行を追跡することが可能となる。
実施例2:炎症反応は腫瘍の成長を刺激する
NSGマウスにOvcar3-GTL細胞を腹腔内移植し、さらに13週間、3日おきにPBSを腹腔内注入すると、腹腔内の腫瘍の成長は、図1に示すように、"平衡状態"に達した。いったん平衡状態に達すると、NSGマウスの腫瘍サイズは何か月も同じレベルで維持された。しかし、この卵巣NSGモデルでは、PBS注入群と比較して、脂質化N3'→P5'ホスホルアミダートオリゴヌクレオチド("オリゴ")を注入した群では、腹膜腫瘍の成長が、より大きい容量の腹水を有し、より迅速かつ広範囲であった(図1)。オリゴは以下の構造と配列を有する13量体である:5'-パルミトイル-TAGGTGTAAGCAA-3'。
オリゴ配列のブラスト(BLAST)検索により、多数のマウスおよびヒト遺伝子と一致が見出された。したがって、インビボでのオリゴの腫瘍促進効果は、腫瘍細胞またはマウス腹膜内環境の細胞内での遺伝子発現における何らかの変化によるものであった可能性がある。また、上記脂質化物質の反復注射が、腹膜マクロファージの関与する古典的な炎症を誘発していることも考えられる。もしそれがミスマッチ化合物の脂質部分に起因する炎症反応である場合、チオグリコール酸などの他の炎症性滲出液でも腹腔内腫瘍の成長を促進するはずである。この仮説を検証するために、NSGマウスに106個のOvcar3-GTL細胞を腹腔内注入し、4週間後に液体チオグリコール酸(ハーディ・ダイアグノスティックス;Hardy Diagnostics)又はPBSを1 mL腹腔内に注入した。チオグリコール酸処理されたマウスの腫瘍成長はPBS処理されたマウス(図2)に比べて増加した。これらの結果は、腹膜での炎症の誘導が、腹腔内での卵巣腫瘍の成長を促進することを示唆している。
実施例3:NSGマウス腹水からの腫瘍細胞の単離とカテナの特定
卵巣癌患者の腹水が腫瘍細胞を含むことが報告されており[バーディーズ(Bardi鑚)1992;ベッカー(Becker)、1993;フィリポビッチ(Filipovich)、1997;マクヒジャ(Makhija)、1999]、腹腔内に腫瘍のあるNSGマウスから得られる腹水にも腫瘍が含まれることを示唆している。腫瘍細胞の存在を確認するために、実施例1のオリゴ投与群から腫瘍のあるマウスが腫瘍と腹水組成の分析に供された。オリゴ処理されたNSGマウスは腹膜壁に付着した固形腫瘍(大網ケーキ)と出血性腹水を発症した。
PBSを5mL用いて、腹腔洗浄によって、腹部の膨張したマウスから腹水を採取した。オリゴ注入したマウスから採取した腹水には巨大な浮遊性のスフェロイドが含まれており、該スフェロイドは室温でインキュベーションすると5分後にはコニカルチューブの底に沈殿した。癌スフェロイドは卵巣癌患者からの臨床腹水試料で頻繁に観察されており、癌幹細胞を含むことが確認されている[スゾテク(Szotek)、2006;チャン(Zhang)、2008; バパト(Bapat)、2005;バーディーズ(Bardi鑚)、1992;ベッカー(Becker)、1993;フィリポビッチ(Filipovich)、1997;マクヒジャ(Makhija)、1999 ]。腫瘍スフェロイドはまた、化学療法及び放射線療法に対する腫瘍の抵抗性に関連付けられている[ゴーラッチ(Gorlach)、1994;ブジョージ(Bjorge)、1997;チグノラ(Chignola)、1995;ツンガル(Tunggal)、1999;オリーブ(Olive)、1994]。
Ovcar3-GTL細胞を有するNSGマウスの腹水中のスフェロイドが腫瘍細胞およびCSCを含有するかどうか検証し、さらにスフェロイドを単離するために、腹水は40μmのろ過機(ビーディー・ファルコン(BD Falcon)社製)で濾過して卵巣癌のスフェロイド(直径>40μm)を選別した。赤血球(RBC)とリンパ球はフィコール(1.077g/ mLで、アキュ・プレップ(Accu-Prep)、アクシス・シールド PoC AS(Axis-Shield PoC AS)を使用して、不連続密度勾配上の遠心分離による分画(<40μmの直径)を介して流れの中で腫瘍細胞から除去した。これらの画分の細胞含量は、図3に示されている。
40マイクロメートルよりも大きい直径を有するほとんどのスフェロイドは、フィルタの上に残り、その後の実験(図3a)のために採取した。フロースルー画分は、40マイクロメートルより小さい直径を有する細胞構造を含んでおり、予想外の発見につながった。
フロースルー画分は、互いに付着し、かつ軸に沿って整列する4〜8個のそれぞれ細胞からなる浮遊性細胞鎖を含有することが顕微鏡により観察された(図3b)。鎖は細胞表面から20ミクロンまで伸張する保護被覆(グリコカリックス)に囲まれていた。グリコカリックスは、赤血球又はその他種類の造血細胞との相互作用を防止した。鎖を構成する個々の細胞は赤血球よりも大きく、フィコール勾配において赤血球から分離された(図3c)。
浮遊鎖がヒトOvcar3-GTL細胞又はマウスの細胞から生じたものであるかどうかを判定するために、細胞をウサギ抗GFP抗体とマウス抗ヒトビメンチン抗体(ベクター・ラボ(Vector Labs)社)で染色した。浮遊鎖はポリ-L-リジンコートしたスライド(シグマ;Sigma社製)に固定した。スフェロイドは、パラフィン包埋し、切片化し、ポリ-L-リジンコートしたスライドにマウントした。一次抗体で処理した後、細胞は二次抗体としてチラミド・アレキサ・フロー568(Alexa Fluor(登録商標)568(インビトロジェン社製)で処理し、蛍光イメージをディスカバリーXTプロセッサ(Diccovery XT processor)(ベンタナ・メディカル・システムズ)を使用して取得し、さらにメタモーフ(MetaMorph)7.0ソフトウェア(モレキュラー・デバイス社)により解析した。疑似色は、必要な場合に陽性信号に割り当てた。
鎖は、GFPと、ヒト卵巣癌腫瘍細胞由来の細胞起源を示すヒト特異的ビメンチンに対して陽性で染色した。これらの細胞構造の独特な形態、即ち、腫瘍細胞のこれらの鎖は新規な多細胞体を表し、 「カテナ(catena)」 [複数:カテナ(catenae)]と称される(鎖のラテン語から)。
実施例4:インビトロでのカテナの拡張
腹腔内インビボ継代無しで培養したOvcar3-GTL細胞は、通常、組織培養処理フラスコ内において10%FCSを含む培地の存在下で付着性の上皮単層を形成する。これらの単層は、低付着性プレート上で、無血清培地でさえも浮遊性腫瘍スフェロイドを形成しなかった。
実施例3に記載したようにカテナ又はスフェロイドとして単離されたOvcar3-GTL由来の腫瘍細胞を同一の条件下でインビトロ培養した場合、ほんの一部の細胞しかフラスコに付着して付着性単層を形成しなかった。さらに、付着性単層は、上皮の形態ではなく間葉系の形態を呈していた。加えて、これら間葉系単層上に堆積した細胞群、及び残りの細胞は、浮遊性スフェロイド及びカテナとして懸濁液中にとどまった。しかし、懸濁液画分は廃棄せずに、卵巣癌を発症したNSGマウスの腹水から収集した腫瘍細胞を維持及び拡張させるために培養系が確立された。
培養系確立のために、<40μmの(非スフェロイド)画分と、非解離腫瘍スフェロイド(>40μmの画分)とを、組織培養処理フラスコ(ビー・ディファルコン;BD Falcon)で、M5-FCS培地で別々に培養した(実施例1参照)。懸濁細胞を毎週採取し、大きい腫瘍スフェロイドを<40μmの画分から分離するために、40μmのろ過器に通して濾過し、新鮮培地の入った新しいフラスコに継代した。浮遊性腫瘍スフェロイドを5〜6回連続継代した後、浮遊性スフェロイドを介して育成された安定スフェロイド培養物が確立された。同様にして、<40μmの浮遊性画分を連続継代することで浮遊性の細胞鎖(カテナ)の安定した培養系を確立した。懸濁培養系の概略図を図4に示す。
懸濁液画分を除去した後、各継代で残った単層に新鮮培地を与え、培養液交換から数日後に、間葉系単層上に堆積した細胞群を付着性単層の培養物で観察した。これらの微小で、球形の、屈折した細胞は最終的に単層から分離し、懸濁液中で新たな浮遊性のカテナ及びスフェロイドを形成した。
懸濁画分のいずれの継代でも、スフェロイドとカテナは懸濁状態に留まり、単層を形成した細胞はほんのわずかだった。継代回数の増加に伴い、懸濁培養液は浮遊性カテナが増加し、いくらかのカテナは通常約72個までの細胞から構成されていたが、この上限に限定された訳ではない(図5c参照)。
上皮Ovcar3-GTL細胞はインビボ腹膜での継代の後に、間葉系になることが観察されたことから、カテナの産生プロセスに上皮間葉移行(epithelial-mesenchymal transition;EMT)が関与することが示唆された。この段階に引き続いて、間葉アメーバ様移行(mesenchymal-amoeboid transition;MAT)と表現されるメカニズム、即ち微小で球形の屈折したアメーバ様細胞の間葉細胞上への「堆積」(図4)が起こった[フリエドル(Friedl)、2003]。このカテナの移行は細胞移行の新しい形態で、細胞が懸濁液中にとどまり、同軸に沿って対称的に分裂し、細胞間のZO-1タイトジャンクションが保持される。
カテナ形成が懸濁液中での細胞の凝集によるものであったのか、または増殖による単一細胞からのクローン性増殖によるものであったかどうかを検証するために、カテナをコラゲナーゼIV処理(5mg/mLのコラゲナーゼIV(インビトロジェン社製)の処理10分 37℃)によって単一細胞レベルに解離させ、メタモーフ(MetaMorph)画像取得ソフトウェアと共働させたPerkin Elmer Ultra VIEWERS Spinning Disk(パーキンエルマーウルトラビュアーズスピニングデイスク)共焦点顕微鏡システムを用いて低速度撮影顕微鏡観察により細胞を36時間追跡した。画像分析と動画作製はメタモーフ(MetaMorph)7.0ソフトウェア(モレキュラーディバイス社)を用いてなされた。
低速度撮影の研究のために、解離したカテナは、96ウェルプレートにおいてM5-FCS培地に播種した。次いで、CO2濃度と温度が制御されたカプセル化倒立顕微鏡下にプレートを載置し、10分毎に画像を取得しながら48時間にわたって撮影した。
個々の細胞は懸濁液中で運動性が高く互いに反発するのが観察されたため、カテナ形成が凝集によって引き起こされたものではないことを示唆した。例えば、2細胞からなる細胞鎖が同軸上での対称性分裂によって36時間で9細胞からなる細胞鎖へと成長したことから、カテナがクローン性であり、細胞が急速に増殖して(倍加時間<18時間)浮遊性細胞鎖を形成することが示された。したがって、カテナ形成は、細胞の凝集によるものではなく、懸濁細胞のクローン性かつ対称的な増殖の結果によるものである。また、単一の細胞が、カテナから剥離して新しいカテナを形成することができることも観察された。カテナの急速な細胞周期の進行がこれらの構造の線形性を損うことはなかった。分裂は細胞鎖の両端の細胞に限定されてはいなかった。複数の異なる細胞で同時に有糸分裂が進行しつつ、カテナ中の任意のセルが頻繁に分裂することが可能であった。
これら新規の細胞体の細胞間結合の分子構造を評価するために、カテナは抗E-カドヘリン(接着結合のマーカー; ビーディー・トランスダクション・ラボ(BD Transduction Lab))とZO-l(タイトジャンクションのマーカー;ザイメド(Zymed)社)を用いて(上述したように一般的に)免疫染色を行った。カテナは、E-カドヘリンに対して陰性で、ZO-lに対して陽性に染色された(図5a)。E-カドヘリン染色の消失は、接着結合がカテナ形成に関わっていないことを示唆している。ZO-l染色が接合部に局在していることから、カテナ細胞がタイトジャンクションによって互いに結合していることが示唆された。カテナのビメンチン(vimentin)抗体染色を、図5cに示す。
抗ジアンチン抗体を用いた免疫蛍光染色(図5c)で示されるように、カテナ形成時、ゴルジ体マーカー(ジアンチン)は、細胞が "カテナ軸"に沿って対称的に分裂している場合は細胞の接合部に局在し、分裂がカテナ軸に垂直に起こる場合に反対側の末端に局在した。これらの実験から、タイトジャンクションによって細胞が結合した状態であるカテナが、同一分裂軸に沿った浮遊性単一細胞の急速な対称性分裂によって形成されることが示された。
実施例5:スフェロイドの形成
ほとんどのサブコンフルエントカテナの培養液で、浮遊性細胞鎖が含まれていた。しかし、カテナ密度が高い後の段階で、浮遊性スフェロイドが観察された(図6)。スフェロイドはカテナから集合"ロールアップ"過程によって生じ、細胞培養の密集期における栄養素欠乏がカテナ生存のための保護的環境を提供していることを示唆した。
スフェロイドとカテナ間の相互作用を理解するために、個々のスフェロイドは実施例4で説明したように低速度撮影の顕微鏡観察に供された。これらの実験では、懸濁培養から得られたスフェロイドは、コラゲナーゼIV処理(37℃10分で5 mg/mlのコラゲナーゼIV(インビトロジェン)にて処理)によって単一細胞レベルにまで解離された。単一球を形成する細胞を96ウェルプレートに播種し、顕微鏡観察に先立って2週間培養した。DICとGFPの蛍光画像は、72時間にわたって一定の露光時間で20分ごとに撮影された。
スフェロイド形成の初期段階では、細胞は付着性間葉系単層上に蓄積された。細胞塊は、付着した細胞から"出芽する"かのように、付着面に対して垂直方向に成長し、組織的嚢胞構造を有するスフェロイドへと発達した。最終的にスフェロイドは付着単分層から剥離し、球の形態を維持しながら懸濁液中で急速な増殖を続けた。このプロセスの概略図を図7に示す。また、発達中のスフェロイドが新鮮なカテナを懸濁液中に放出することも確認された。これらの放出されたカテナは急速に増殖して新たな浮遊性カテナを形成した。
抗Ki-67(ベクターラボ(Vector Labs)社)、抗リン酸化ヒストンH3(セリン10)(アップステート(Upstate)社)、抗β-カテニン(シグマ社)非定型抗PKC(aPKC)、抗E-カドヘリン(ビーディートランスダクジョンラボ(BD Transduction Lab))、および抗ZO-L(ザイメド(Zymed)社)を一次抗体として用いて、実施例4と同様にパラフィン包埋されたスフェロイドの免疫蛍光染色を行った。
スフェロイドにおける腺状構造は、細胞分裂と同期化した細胞の組織的運動によって生じ、元のOvcar3-GTL腺癌形質を反復していた。ほとんどの細胞がKi-67陽性で染色され、これらの細胞が活発に増殖していることが示された。カテナで観察されたように、スフェロイド細胞も同様にE-カドヘリン陰性で、ZO-lは細胞間の接合部で検出された。スフェロイド内のすべての細胞でβ-カテニンとaPKCは細胞膜に局在していた。スフェロイドの中央部には内腔があったが、ZO-lと、β-カテニンとaPKCとによる染色が内腔を覆う細胞には限定されずにスフェロイド内において均質であったことから、先端基底の極性が存在しないことが分かった。
これらの実験によって、カテナが集合(roll-up)してスフェロイドを形成し、スフェロイドがカテナを懸濁液中に放出するということが示され、浮遊性カテナとスフェロイドとの間における生物学的な関連が確立された。これらの形態学的状態は、動的であり且つ互換性がある。カテナと腫瘍細胞スフェロイドは、当初はヒト卵巣癌細胞を注入したマウスから得られた腹水中で一緒に観察され、カテナ及びスフェロイド形成が腹腔内での卵巣癌の発達において重要な役割を担う可能性が示唆された。
実施例6:カテナ及びスフェロイドの自己複製(自己再生)
カテナとスフェロイドの両方は、ヒト卵巣上皮細胞株であるOvcar3-GTLのインビボ腹膜継代によって得た。非常に急速な細胞分裂によるカテナ形成の驚くべき生態が、腫瘍形成におけるカテナの役割の研究を推進するための原動力となった。
前述した卵巣癌のスフェロイドは、広範な自己複製能力を有するクローン性CSCを含む[バパト(Bapat)、2005]。本研究におけるカテナとスフェロイドとの間の形態学的関係、並びに懸濁培養において観察された各カテナのクローン性は、カテナと癌幹細胞(CSC)間の機能的関連を示唆した。
マルチウェル細胞培養プレートに、カテナ又はスフェロイドから得た単一細胞をプレーティングすることにより、カテナ及びスフェロイドのクローン形成能をインビトロで検証した。カテナ及びスフェロイドは、5 mg/mlのコラゲナーゼIV(インビトロジェン)を用いて37℃で10分間処理することにより単一細胞レベルにまで解離させた。Ovcar3-GTL単層細胞は、5分間37℃で0.05%トリプシン/0.02 mM EDTA処理することで単一細胞レベルにまで解離させた(メディアテック社)。単一細胞のFACSによるソーティングはMoFloセルソーターを用いて行った。DAPIによって死細胞を除外した後、GFP+の単一細胞を、Ovcar3-GTL カテナと単層用のM5-FCS培地、又はOvcar3-GTLスフェロイド用の無血清mTeSRl培地(ステムセルテクノロジー)を含む96ウェル組織培養処理プレート(BDファルコン)に播種した。ウェルを14日目に倒立位相差顕微鏡(ニコン)を用いて観察することで成長を視覚的に評価した。一次クローン形成能アッセイからコロニーをプールし、コラゲナーゼIV処理によって単一細胞レベルに解離し、二次及び三次のインビトロ・クローン形成能アッセイのためにFACSによる単一細胞ソーティングに供した。
インビトロ・クローン形成能アッセイによれば、カテナ細胞の55〜65パーセントが解離及び単一細胞播種を経て再クローン化され、大部分は新しいカテナを形成(図8)したことから、カテナが非常にクローン形成能のある候補CSCに富んでいることが示された。スフェロイド細胞の再クローニング潜在能も高く(10〜30%)、カテナ形成はほんのわずかで、大部分が新しいスフェロイドを形成した。発達したスフェロイドから得られた単一細胞が主にスフェロイドを生じさせたため、安定な変化がカテナとスフェロイド間の形態上のスイッチを制御することが示唆された。
カテナ及びスフェロイドは、そのクローン形成能を失うことなく、インビトロで24ヶ月間安定に維持されている。一次クローン形成能アッセイからコロニーをプールし、コラゲナーゼIV処理によって単一細胞レベルに解離し、二次及び三次のインビトロクローン形成能アッセイのためにFACSによる単一細胞ソーティングに供した。カテナによるカテナ形成(再クローニング潜在能:FCS含有培地中で55%、無血清ES培地中で45%)、スフェロイドによるスフェロイド形成(再クローニング潜在能10%)に見られるように、この高クローン形成能のパターンは三回目の単細胞再クローニング継代でも持続した。対照的に、Ovcar3-GTL上皮単層細胞をFCS含有培地で単層として培養した場合には、細胞の1%は再クローニング可能であったのに対して、無血清培地では全く再クローニングされなかった。単層細胞はさらにマトリゲルコートしたウェルにもソートされ、1%のクローン形成能を維持した。
よって、これらインビトロでのクローン形成能実験によって、上皮単層と比べてカテナ及びスフェロイドの何れもクローン形成性細胞に富んでいることが示された。24ヶ月間の幾多もの継代を経ても65%ものクローン形成能が維持されていたことから、カテナ細胞が高い自己複製能力を有するクローン形成性細胞に富んでいることが示された。
実施例7:カテナ及びスフェロイドのインビボでの分化
カテナ及びスフェロイドにおけるCSCを評価するために、免疫不全マウスにおける腫瘍形成/限界希釈アッセイを実施した。
Ovcar3-GTLのカテナ及びスフェロイドの三回目の単一細胞再クローニング継代から106個の細胞を使用して、8〜12週齢の雌NSGマウスとNOD-SCIDマウスとに腹腔内移植することで、カテナ及びスフェロイド細胞についてCSCの性質を評価した。これらの実験では、106個の解離カテナ細胞又は106個の解離Ovcar3-GTL単層細胞を3匹の非照射マウス群に腹腔内注入した。別の非照射NSGマウス群に106個の非解離スフィアを腹腔内注入した。実施例1に記載した通りマウスは1週目と2週目で撮像した。マウスを腹部の膨張と衰弱についてモニタリングした。
NSGマウスとNOD-SCIDマウス(図9)のいずれでも、注入された同数の細胞換算で、解離カテナ及び解離スフェロイドの方がOvcar3-GTL単層よりも良好な生着が見られた。さらに、すべての細胞種で、NOD-SCIDマウスに比べてNSGマウスで有意に良好な生着が見られたことから(図9、左のパネル)、高クローン形成能細胞の生着においてNOD-SCIDマウスの残留免疫が依然として負の役割を果たしていることが示唆された。
同様に、解離したOvcar3-GTLカテナ及び単層を用いて、NSGマウスにおいても腫瘍形成/限界希釈実験を行った(図9、右側のパネル)。3匹のマウスからなる群に、それぞれ106、20,000または200個の細胞を注入した。わずか200個のカテナ細胞でも7日以内に腹腔内腫瘍を形成したのに対して、20,000個の単層細胞では14日までに形成は見られず、上皮単層に比べてカテナCSCの濃縮度が少なくとも100倍であることが示唆された。200個のカテナ細胞を注入されたマウスでは2週間以内に3匹中3匹で大きな腫瘍が観察されたのに対して、20,000個の単層細胞を注入されたマウスでは、2週間経っても3匹中1匹で小さな腫瘍が見られたのみであった。
20個のカテナ細胞を腹腔内注入しても、6ヶ月までは腫瘍形成には至らなかった。 腹膜環境における自己分泌因子の希釈が、わずかな数で開始した腫瘍の成長を遅らせたものと考えられる。自己分泌因子の役割の有無を判定し、想定される希釈の影響を打破するために、200個、20個、または2個の解離カテナ細胞を100μLのマトリゲルと共にNSGマウスに皮下注射した。3週目での生体イメージングから、2個のカテナ細胞で皮下モデル(図10)に腫瘍が形成されたことが判明した。腫瘍試料は、皮下腫瘍が直径>0.5cmに達したときに生着したと評価した。
マトリゲルと1:1で混合した血清含有培地にカテナ細胞を懸濁することで、単一カテナ細胞の腹腔内注射によりNSGマウスにおいて3週間後に検出可能な腹膜腫瘍を形成することができた。同様に、マトリゲルと1:1で混合した血清含有培地に懸濁した単一カテナ細胞の皮下注射によっても、NSGマウスにおいて3週間後に検出可能な皮下腫瘍を形成することができた。腹腔内注入におけるマトリゲルの使用は生着効率を向上させる。
形態学的には、上記アッセイから生じる腹水スフェロイドと付着性腫瘍は、定義された乳頭状構造を有する漿液性卵巣腺癌の特徴を維持していた。スフェロイドでは、ある細胞で形態学的復帰(分化)、すなわち、複雑な嚢胞及びダクト構造への分化と発展を伴うアメーバ状から間葉形状への転換が見られた。
これらの実験によって、カテナは、広範な自己複製能力(24ヶ月にもわたる65%のクローン形成能)と多分化能(複雑な嚢胞及びダクト構造)とを有する卵巣CSCから構成される新規の細胞体であることが示された。カテナの特異な細胞形態はまた、極度に高速な倍加時間(<18時間)と高いクローン形成能(〜65%)とも関連がある。
実施例8:卵巣癌幹細胞のインビボ転移モデル:
300,000個のGFP/ルシフェラーゼ標識されたカテナ細胞をNSGマウスに静脈内注射した結果、複数の腫瘍が形成された。生物発光イメージングにより、大腿関節及び腹膜で腫瘍の局在が6週間後に観察された。剖検及び病理組織学検査によって、複数の組織内で腫瘍細胞の存在が確認された。肝臓などのいくつかの組織での浸潤は、通常の臓器機能を妨げるほど重度であった。唾液腺では、検査した組織内には腫瘍細胞は見られなかったが、下顎切歯の一つを囲むように腫瘍が見られた。
病理学的検査によって複数の局所解剖学的部位で癌と多発性粘液分化の存在が示された:皮下組織には適量の黄色くゼラチン状の液が存在した。腹部は著しく膨張していた。右膝関節に隣接する軟部組織には、0.5センチメートル径で自由に可動し適度に堅いオフホワイトの塊があった。多発性で、直径が精確に1ミリメートルで、半透明で、わずかに隆起した病巣が肺葉全体に散在していた。正常な肝臓構造は、播種性で、直径0.3cm〜2.3×1.2×1.2cm大の、適度に堅く、赤味がかった黄褐色の結節によってほぼ見えなくなっていた。肝臓の皮膜表面に付着している透明な粘性流体がわずかに見られた。右卵巣は肥大化して直径0.7センチメートルになっていた。右子宮角の基部側面には直径0.4cmの赤い病巣があった。直径1.0cmで半透明の不定結節が左側腎臓の頭極に隣接していた。
要約すると、NSGマウスへのカテナ細胞の静脈内注入は、卵巣と子宮への浸潤にはつながるが、卵管への浸潤、腫瘍形成および飛節並びに膝関節、肺への浸潤、肝臓への大きな転移、肝臓周囲の粘性物質、肝機能障害による皮下組織の黄色の浮腫、および粘性腹水の形成にはつながらなかった。
実施例9:移植腹腔内腫瘍の組成
実施例7の移植実験により、カテナとスフェロイドは共に、分化した上皮単層に比べて腫瘍開始細胞の濃度が高いことが示された。カテナとスフェロイドの間の形態学的差異が、それぞれが生成する腹腔内腫瘍の組成にどのように反映されているのかを理解するために、Ovcar3-GTLカテナまたは解離スフェロイドのいずれかを注入したマウスから得られた腹水又は固形腫瘍を分析した。カテナを注入したマウスから4週目に採取された腹水が浮遊性スフェロイドを含んでいたのに対して、非解離スフェロイドを注入したマウスから得られた腹水は、4週目での浮遊性スフェロイド含有量が有意に少なかった。カテナまたは非解離スフェロイドのいずれかの注入が大網塊の形成につながる。これらの結果は、カテナ及びスフェロイドが腹腔内での卵巣癌発症の異なる段階を表し、カテナの広範な増殖がスフェロイド形成につながり、それが中皮内層に付着し、固体塊として大網塊に成長することを示唆している。
実施例10:間葉系卵巣細胞株からのカテナ形成
Ovcar3-GTL単層を用いたインビボ実験によって、上皮性卵巣癌細胞が上皮間葉移行(EMT)を経た後、間葉からカテナへと移行することでカテナ及びスフェロイドが産生されるという仮説が導かれた。Ovcar3上皮細胞単層のインビトロ培養では間葉からカテナへの移行は見られなかった。しかし、インビボ腹膜継代した後は、これらの細胞は、単層であれば間葉からカテナへと移行しないような条件下で培養した場合も、自発的に間葉からカテナへと移行してカテナとスフェロイドの懸濁培養物を生成した。これらの結果は、遺伝的に安定したEMTを経た悪性の間葉系細胞が、間葉からカテナへと移行することが可能であり、したがって、自発的にインビボ腹膜継代も必要とせずにカテナ及びスフェロイドを生成することを示唆している。
間葉系細胞がインビボ継代を経ることなくカテナ及びスフェロイドを生成することができるかどうか、即ちこれらの細胞が、腹膜継代したOvcar3-GTL細胞がインビトロでしたように、自発的に間葉からカテナへと移行するのかどうかを確認するために、Ovcar5-GL及びA2780-G単層からの培地中の懸濁細胞を実施例4と同様に連続的に継代して、カテナ及びスフェロイドを濃縮し、それぞれの懸濁培養を確立した。
Ovcar5細胞株は、NCI(NCI-60パネル)より入手した。ルシフェラーゼおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するOvcar5は、eGFP-luciferase(GL)の融合遺伝子を発現するレンチウイルスベクターによる形質導入によって得られた。形質導入したOvcar5細胞は、FACSにより最も高いGFP発現量についてソートされた。GFPによってソートしたOvcar5細胞をOvcar5-GLと称した。本明細書中でA2780-Gとも記載されるA2780-GFP細胞株は、D. Spriggs博士(メモリアル・スローン・ケタリング癌センター)によって提供された。
A2780-G及びOvcar5-GL単層細胞株は、組織培養処理フラスコ内のM5-FCS培地で培養した。これらの条件下で、細胞の大部分は間葉単層として成長し、浮遊性懸濁細胞となったのはほんのわずかだった。カテナ形成細胞とスフェロイド形成細胞を濃縮するために、懸濁液画分を除去することで懸濁細胞を単層から分離した。懸濁細胞は、300×gで5分間遠心分離することにより沈殿させ、新鮮培地に再懸濁した。細胞は新しいフラスコに再播種し、培養物が浮遊性カテナ及びスフェロイドで濃縮されるまで、懸濁画分を毎週継代した。したがって、間葉からカテナへの移行は、インビボ継代を必要とすることなく、インビトロで自発的に生じた(図11)。単一細胞インビトロクローン形成能アッセイによって、Ovcar5-GL単層が5%のクローン形成能を有する細胞を含んでいたのに対してOvcar5-GL カテナは30%クローン形成能を有する細胞を含んでいたことが分かった。
実施例11:分泌間葉系単層阻害因子によるカテナの自己複製の防止と分化の促進
間葉からカテナへの移行が起こるまでに、間葉系腫瘍細胞からの懸濁液画分を数回継代する必要があったため、連続継代プロセスが、間葉系単層培養物での自発的なカテナへの移行を防止する想定される阻害因子を除去又は希釈している可能性が示唆された。このような因子(または複数の因子)が存在するのであれば、両種の細胞を同じフラスコ内で培養し、当該細胞が恒常的に上記因子を分泌する共培養系であれば、間葉系腫瘍細胞はカテナを抑制するに違いない。
カテナは、チャンバーを分離する0.22μmのフィルターを備えたトランスウェルプレートでOvcar5-GLまたはA2780-G間葉系単層と共培養した。間葉細胞はサブコンフルエントなレベルで底部チャンバー内に入れ、カテナ細胞は上部チャンバーに入れた。懸濁液中の浮遊性鎖としてのカテナの成長は劇的に阻害され、カテナは、単一細胞として懸濁液中に残るか、または組織培養フラスコに付着して間葉細胞へと分化した。間葉細胞馴化培地を70°Cに加熱してカテナの培養物に添加した場合は、阻害活性が失われた。これらの結果は、分化した間葉系癌細胞が、懸濁状態の癌幹細胞の制御不能な拡大を防止する、熱に不安定な阻害因子を分泌することを示唆している。
実施例12:初期継代漿液性腫瘍細胞株からのカテナ形成
(MSKCCのロイド・オールド博士(Dr. Lloyd Old)から入手の)SKOV-6及びCAOV-2細胞株は、乳頭漿液性卵巣腺癌患者の腹水に由来し、使用する前にはそれほど継代されていなかった。5〜10回の継代からの凍結細胞を、M5-FCS培地中で解凍して維持した。実施例4に記載したように、SKOV-6およびCAOV-2細胞株の懸濁液画分の連続継代によりカテナを得た。
初期継代培養物では、多数の丸い屈折した細胞が、間葉系単層に堆積した状態で、または懸濁状態の浮遊性鎖として観察された。懸濁画分の連続継代によって、CAOV-2とSKOV-6細胞における間葉系からアメーバ状への移行とカテナ形成の頻度が高くなった。
実施例13:癌患者の腹水からのカテナとスフェロイドの形成
1. カテナの形成
腫瘍細胞を含む胸膜液、心膜液または腹水からの漿液性癌試料を、転移性癌を有する癌患者から得た。腫瘍細胞は、1200rpmで10分間遠心分離することで採取した。漿液を取り除き-20℃で保存した。採取された腫瘍細胞は、血清含有培地と1:1に混合した同じ患者からの漿液の入った組織培養フラスコに入れた。腫瘍細胞の浮遊鎖はすぐに顕微鏡下で観察された。細胞鎖は、何週間にもわたって懸濁液中に残った。腫瘍細胞は37℃で数週間培養し、毎週、懸濁状態の細胞浮遊鎖は、付着細胞から分離し、同じ組成の漿液と血清含有培地の入った新しいフラスコに再播種した。これらの研究では、原発性漿液性腫瘍試料から得られるこのような浮遊性細胞をわずか100個皮下注射すると、3ヶ月でNSGマウスに腫瘍を形成することができた。これらの細胞は、腹腔内に注射した場合3〜6ヶ月でNSGマウスに腹膜腫瘍を形成し、浮遊性腫瘍鎖や肝転移を含む10ml以下の腹水と、腹膜壁に付着した固形腫瘍を伴う。引き続き行われた異種移植片からの腹水試料のインビトロでの培養において、非付着性の浮遊細胞を特定した。
2.原発性漿液性腫瘍試料中のカテナからのスフェロイドの生成:
スフェロイドを生成するために、懸濁液中で生育している原発性漿液性腫瘍試料から得たカテナを、50:1でマトリゲルと混合した血清含有培地に再懸濁し、37℃で培養した。これらの原発性漿液性腫瘍試料から得たカテナは、集合し、約5日で組織立った腫瘍スフェロイドを形成した。培養液には毎週血清を含む培地を添加し、2週間後、腫瘍スフェロイドがカテナを培養液中に放出しているのが観察された。腫瘍スフェロイドはこの細胞培養法によって、インビトロで何週にもわたって維持することができる。
実施例14:カテナ-スフェロイドCSC概念のモデル
データにより、カテナがクローン的に得られ、多様な細胞種の凝集によって生じたものではないことが示された。カテナは形態や分化状態が均一であり、すなわち、クローン的に純粋なCSCである。細胞鎖の移動と間葉からカテナへの移行が腫瘍の浸潤に関連付けられる一方で、カテナはCSCが急速且つ対称的に拡大するためのメカニズムを提供する。CSCの拡大はスフェロイドのように効率的には起こらず、またスフェロイドはカテナよりも比例して少ないCSCしか含まないため、スフェロイドが構造的にCSCを保護することでCSCが静止期に入れるようにしている可能性を示唆している。
図12は、カテナ-スフェロイドの概念、並びに卵巣癌の発症におけるCSCの役割のモデルを提供するものである。卵巣(又は卵管)上皮(緑)の最初の変化は、上皮-間葉移行と間葉-カテナ移行を経て進行する。カテナ細胞(赤)は、細胞外マトリックスまたは腹膜中皮への付着性は全て失うが、毎回対称性分裂した後には互いに付着したままである。この時点で、カテナは、CSCで主に構成されている。カテナは、二次カテナを生成したり、或いはスフェロイドを形成する単一細胞を放出することができる。カテナは集合して、2次元単層または固形腫瘍として成長する腫瘍よりも10倍>高い頻度のCSCを含むスフェアを形成することもできる。スフェロイドは新しいカテナを放出したり、或いは腹膜の中皮壁に付着して大網塊を形成することができる。カテナは、間葉-カテナ移行によって固形腫瘍から放出されることがあり、腹水に再び入ったり、或いは血管に浸透したりしてさらなる遠隔転移につながる可能性がある。
実施例15:薬物感受性についてのカテナのスクリーニング
1. 方法
Ovcar3-GTL由来のカテナの自己増殖能について、平底の384ウェルマイクロタイタープレート(コーニング社)において試験した。Ovcar3-GTLカテナの培養物は、機械的または酵素を用いて単一細胞に解離させた。機械的解離については、カテナ培養物を激しくピペッティングし、粘度を減少させるために等量のM5-FCS培地を添加した後、細胞をペレット化した。酵素解離については、カテナ培養物は5 mg/mlのコラゲナーゼIV(インビトロジェン社製)で、37℃で10分間インキュベートした後、遠心分離して細胞をペレット化した。単一細胞の均質な培養物を生産するために、細胞はM5-FCS培地に再懸濁し、それを表示された細胞密度となるようにウェルあたり50μL分注して播種し、試験化合物または他の試薬を添加するまで表示された時間増殖させた。
細胞増殖を評価するために、細胞を顕微鏡下で観察し、手動で血球計算器を使用して計数するか、又はアラマーブルー(alamarBlue(登録商標))を用いた処理、すなわち、培地に直接1/10量のアラマーブルー(alamarBlue)試薬を添加してさらに37℃で48時間インキュベートした後、蛍光または吸光度を測定した。いずれの分光学的方法でも同様の結果が得られた。蛍光量または吸光度は生細胞数に比例し、細胞の代謝活性に対応する。蛍光測定は吸光度測定よりも感度が高く、プレートリーダーで540〜570 nmの蛍光励起波長(ピーク励起波長は570 nmである)を用いて580〜610 nm(ピーク発光波長は585 nmである)での発光を読んで測定される。アラマーブルー(alamarBlue(登録商標))の吸光度は、参照波長として600 nmを用いて、570nmで測定される。蛍光発光強度(または吸光度)の値が大きくいことは、細胞からの総代謝活性の増加に関連付けされる。
細胞周囲のグリコカリックスの成分が、細胞播種前に、機械的または酵素的なカテナの解離によって大幅に除去されたため、カテナが、定着したグリコカリックスを有することを確認した上で化合物を添加するための最適な時間を決定したところ、播種後3〜6日であることが判明した。これらの実験では、ウェルあたり25個のOvcar3-GTLカテナまたは250個のOvcar3-GTLカテナ細胞を上記同様に播種した。試験化合物は、播種後第一日目から第六日目まで、12pMから100μM(プレート間)の範囲の濃度で添加した。試験化合物を添加した五日後にアラマーブルー(alamarBlue(登録商標))を培養物に添加し、培養物の吸光度を48時間後に測定した。薬物感受性の観点からは、25個または250個の細胞を用いたウェル間で有意差は見られなかった。
2.増殖結果
23種類の試験化合物のOvcar3-GTLカテナに対する結果を表2に示す。表2には、試験化合物を識別する性質、すなわち、試験化合物を播種の1日後に添加した試料(主にグリコカリックスを欠いた細胞)および試験化合物を播種の六日後に添加した試料(定着された又は実質的なグリコカリックスを有する細胞)のμMの単位で測定した50%阻害濃度を記載されている。表の最後の列には、1日目から6日目までに薬物耐性が何倍増加したかが表示している。
結果によれば、カテナが6日間で23種類の薬剤のうち21種に対して耐性となったことが示されている。ボルテゾミブ(bortezomib;ベルケイド(Velcade(登録商標))とデグエリン(deguelin)だけ感受性差を示さなかった。6日間でのグリコカリックスの形成は、例えば、パクリタキセル、フルデロン(fludelone)、9,10-dEpoBに対して8,000,00倍以上の耐性をカテナに付与する。これらの結果は、細胞播種の1日後に化合物を添加することで、化合物の毒性の過大評価につながる可能性があることを示している。
高濃度でもカテナ細胞に影響を与えなかった他の6種類の化合物についても試験を行った。4-メチルウンベリフェロン(4-methylumbeliferone;4-MU)、Y27632、9-アミノカンプトテシン(9-aminocamptothecin;9-AC)、LNMMA、ベラパミル及びダサチニブ(dasatinib)は、播種後の第一日又は第六日に添加されたかどうかに拘わらず、IC50は100μMを示した。
384ウェルプレートに100個のOvcar3単層(上皮)細胞又は25個のOvcar5単層(間葉)細胞を播種することによって上記の合計29種類の化合物を並行して卵巣癌の単層細胞で試験した。薬物は、細胞播種の4日後に添加され、細胞生存率はアラマーブルー(alamarBlue)染色により分析した。一般的に、定着されたグリコカリックスを有するカテナ細胞は、単層に比べて、これらの化合物に対して平均で4〜8倍高い耐性を示した。しかし、表3に示すように、この耐性は、パクリタキセル、イソ-オキサゾール-フルデロン(iso-oxazole fludelone)、フルデロン(fludelone)、9,10-dEpoBを含むいくつかの化合物でより顕著であった。これら4つの化合物は、50%阻害濃度(IC50)がサブナノモルから50nM以下となり、Ovcar3とOvcar5単層細胞に対して非常に高い阻害性を示したのに対して、カテナ細胞(50%阻害濃度:100μM)はこれらの化合物に対して少なくとも2000倍以上高い耐性を示した。
これら29種類の化合物の効果は、樹立した腫瘍細胞スフェロイドでも試験された。これらのアッセイでは、100個のスフェロイド形成細胞を384ウェルプレートに播種し、薬物を添加する前に、腫瘍細胞スフェロイドの形成を可能にするために11日間培養した。化合物の添加から五日後、上記同様に細胞をアラマーブルー(alamarBlue)で染色して評価した。全体的に、スフェロイドは、定着されたグリコカリックスを有するカテナと同じ薬物耐性パターンを示した。デグエリン(deguelin)を添加した場合、スフェロイド形成が細胞の耐性をさらに15倍も高めた。すなわち、カテナの50%阻害濃度(IC50)が0.025μMであったのに対して、スフェロイドの50%阻害濃度(IC50)は0.4μMであった。
3.形態学的結果
顕微鏡下でのカテナ細胞の観察の結果、高濃度の化合物(100μMのトポテカン(topotecan)、25μMのラパマイシン(rapamycin)、50μMのロバスタチン酸(lovastatin acid)、100μMのイソ-オキサゾール-フルデロン(iso-oxazole-fludelone)、100μMのフルデロン(fludelone)、100μMのara-C、100μMの9,10-dEpoB、100μMのパクリタキセル)で処理した培養物で、生きた大きな単一細胞、すなわち、有糸分裂期で停止した細胞の存在が確認された。これらの細胞を採取して薬物の不在下で培養すると、細胞周期が再び開始された。
ラパマイシンで処理したカテナは、区画されて境界のある緊密なスフェロイドを形成した。これらのスフェロイドは、高濃度(>50uM)のラパマイシンの存在下で成長を続け、スフェロイドの形態を保持した。緊密なスフェロイドの形成は、カテナ細胞をSAHA(HDAC阻害剤)で処理したときにも観察された。
5-フルオロウラシル(5-FU)で処理したカテナは融合鎖の形成という形態変化を示し、5-FUがカテナの緊密且つ付着性結合を妨げる可能性があることを示唆した。類似の構造は、卵巣癌の腹水および転移性乳癌患者の試料において観察された。細胞間結合部の変化はまた、細胞が細胞間の接着を高めることによりシグナル伝達経路を活性化したり、或いは細胞が細胞間の分子の輸送をより緊密に制御する耐性機構である可能性もある。
高濃度のベラパミルで処理すると、カテナ細胞はその極性を失い、浮遊性で不規則な細胞の凝集体を形成した。類似の形態学的変化は、カテナ細胞を播種の5日後にPEG化または非PEG化ウシ精巣ヒアルロニダーゼで処理して10日目まで培養したときにも観察された。被覆がヒアルロニダーゼによって除去/破壊されたときに、カテナ細胞はその極性を失い、インビトロで不規則な凝集体を形成する。
実施例16:グリコカリックスの分析
カテナ及びスフェロイド培養物は高細胞密度で粘性が増した。継代しないと、カテナ培養物の粘性は増し、コラゲナーゼIVを添加しての長いインキュベーションおよび/または激しい機械的解離の後でさえも、懸濁細胞を採取することは困難であった。これは、カテナやスフェロイド周囲のグリコカリックス被覆の存在が培地の粘性(または粘液性)を生じさせていたことを示唆している。ムチンとヒアルロン酸の有無について細胞と培地を調べた。
さまざまな種類の癌のバイオマーカーであるムチンCA125(MUC16遺伝子のタンパク質産物)の初期FACS分析によって、CA125がカテナの表面では発現されていないことが示された。同様に、ELISA実験から、CA125はカテナによって分泌されていないことが示された(図13)。対照的に、Ovcar3-GTL上皮細胞はFACS分析によると98%がCA125陽性であり、800ユニット/mlのCA125を培養培地中に分泌していた。ELISA実験については、細胞を除去するために培養物を300×gで5分間遠心分離して細胞上清を回収し、自動機器のADVIAケンタウルスXP免疫測定システム(ADVIA Centaur XP Immunoassay System)(シーメンスヘルスケア診断社)を用いたCA125 ELISAによって分析した。
ヒアルロン酸は細胞外マトリックスで見つかったグリコサミノグリカンで、腫瘍の成長を含む多数の生物学的プロセスで微小環境信号を提供するために機能する[トゥール(Toole)、2004]。上記のように調製した上清に、脱イオン水で10 mg/mlとしたヒアルロニダーゼ(シグマ;Sigma)を数滴加えて処理した。処理によって上清の粘度は急速に減少し、ヒアルロン酸が粘性培地の主要成分であったことを示唆した。
カテナを取り巻くグリコカリックスを可視化するために、赤血球(RBC)を用いて粒子排除実験(particle exclusion experiment)を行った。上記同様に、カテナは、ピペッティングや短時間のヒアルロニダーゼとのインキュベーションによって機械的に解離させた。ヒト末梢血から得られた赤血球を加え、混合物を培地中で一晩インキュベートした。細胞を光学顕微鏡下で観察して、赤血球からカテナ細胞を分離するグリコカリックスの有無を調べた。機械的な解離後に赤血球と混合したカテナが、細胞表面から25μmまで延びたグリコカリックス被覆(図14、左パネル)を有することでカテナ-RBCの直接的な細胞の接触を防止していたのに対して、ヒアルロニダーゼ処理されたカテナは完全にグリコカリックスを欠いており、RBC-カテナの相互作用を可能にしていた(図14、右パネル)。
グリコカリックスの形成が間葉からアメーバ状への移行と相関していたので、グリコカリックスの完全性の維持が、カテナ(および他の漿液性CSC)としての卵巣CSCの対称的な拡大のために必要である可能性がある。たとえば、グリコカリックスが細胞外マトリックスとのインテグリンの相互作用を防ぎ、グリコカリックスの除去によって細胞表面タンパク質が外部に曝され、細胞外マトリックスや他の付着性表面との相互作用を可能にしていることを示唆している。
グリコカリックスの破壊の際にカテナ細胞がどのように成長するかを調べるため、カテナはヒアルロニダーゼ処理によって単一細胞に解離させた後、グリコカリックスの形成を防ぐために10%ヒアルロニダーゼ酵素溶液(10 mg/ml)の存在下あるいは非存在下で、組織培養処理されたフラスコに播種された。並行して、カテナはヒアルロニダーゼの非存在下で機械的に解離して播種した。
機械的に解離したカテナは懸濁液中に残って急速に増殖し、浮遊性細胞鎖を形成した。ヒアルロニダーゼを用いての簡単な処理で単一細胞に解離した後ヒアルロニダーゼ酵素の非存在下で播種されたカテナは、もはや浮遊性細胞鎖を形成せず、むしろ懸濁液中の不規則な凝集体として増殖した。対照的に、継続的にヒアルロニダーゼ処理した細胞は、組織培養プレートに付着して上皮単層と間葉単層を形成した。結果は、保護性の被覆がないと、卵巣CSCは付着性表面と相互作用して下流の分化刺激に応答することができることを示唆している。
これらの培養物における異なるタイプの単層細胞の存在によって、カテナからの卵巣CSCの多分化能が実証された。上皮単層が間葉細胞よりも低頻度で観察されたことから、上皮癌細胞を生成するには間葉癌細胞よりも多くの分化シグナルが必要となることが示唆された。
実施例17:カテナグリコカリックスの組成
1.ヒアルロン酸-コラーゲン低分子量複合体
カテナのグリコカリックスは、相互作用し、安定した複合体を形成する二つの主要な構成要素、すなわち、ヒアルロン酸とコラーゲンを有する。ウェスタンブロット解析によって、抗COL1A2抗体で検出可能なコラーゲンとヒアルロン酸との低分子量複合体(20kDa未満)が確認された。簡単に言うと、カテナ細胞培養物の上清画分を遠心分離によって細胞から分離した。上清をSDS-PAGEゲルで流し、抗COL1A2抗体でブロットした。この複合体はヒアルロニダーゼ処理に感受性であったが、コラゲナーゼ1型、2型または4型を用いての処理では影響を受けなかった。このヒアルロン酸-コラーゲン複合体は、カテナグリコカリックスの形成とグリコカリックスによってカテナ細胞に付与された薬物耐性や転移能に重要である可能性がある。
2. カテナ細胞外マトリックス遺伝子の発現
カテナの細胞外マトリックスを分離し、カテナ細胞のセクレトームのディープ・シーケンシング(deep sequencing)及び質量分析によって実証されたカテナグリコカリックスに存在するタンパク質について分析した。
細胞外マトリックスの2つの重要な構成要素であるエラスチンとフィブロネクチンはカテナで発現されない。ラミニンとコラーゲンは、ヒアルロン酸と共にカテナグリコカリックスの主要な構成要素である。ヒアルロン酸とプロテオグリカンとは、HAPLN1(ヒアルロン酸-プロテオグリカン連結タンパク質1;hyaluronan proteoglycan link protein 1)、HABP1(ヒアルロン酸結合タンパク質1;hyaluronan binding protein 1)、及びHABP4(ヒアルロン酸結合タンパク質4;hyaluronan binding protein 4)蛋白質によって結合し、かつ安定化されている。グリコカリックスの各成分は被覆の完全性に不可欠であり、いかなる組成の変化も細胞の形態及びそれに関連する特性に大きな影響を与える。カテナ細胞が集合し、腫瘍スフェロイドを形成する場合、LUM(ルミカン;lumican)、DCN(デコリン;decorin)とJAM2(接合部接着分子2;junctional adhesion molecule 2)、COL6A1(コラーゲン、VI型、アルファ1)、COL6A2(コラーゲン、VI型、アルファ2)、SGCG(サルコグリカン、γ)遺伝子が上方制御されるが、HAPLN1、VCAN(バーシカン;versican)及びGPC3(グリピカン3)遺伝子が下方制御される。したがって、スフェロイドのグリコカリックスは、カテナグリコカリックスとは異なる。
表4に、カテナ中に存在し上方制御される細胞外マトリックスタンパク質(左列)と、カテナ中で下方制御されるタンパク質(右列)を列挙する。カテナセクレトーム画分について、これらの遺伝子産物の有無を分析したところ、その画分では下方制御される遺伝子の産物はいずれも検出されなかった。
実施例18:ヒアルロニダーゼ処理したカテナのクローン形成能
カテナ細胞をヒアルロニダーゼで解離し、組織培養プレートに付着させ、ヒアルロニダーゼ存在下で7日間培養した。これらの条件下で、細胞は組織培養プレートに付着したままであった。細胞を採取し、ヒアルロニダーゼの存在下および非存在下において、インビトロ・クローン形成能アッセイに供した。並行して、機械的に解離したカテナを、ヒアルロニダーゼの存在下および非存在下において、インビトロ・クローン形成能アッセイに供した。
付着した細胞は浮遊カテナと比べて増殖が大幅に遅く、主に付着性のコロニーを形成し、間葉単層と上皮単層の上に"堆積"する細胞はほんのわずかであった。ヒアルロニダーゼ酵素がクローン形成能アッセイに含まれていると、コロニーの大きさはさらに減少した。これらの結果は、ヒアルロン酸から構成されるグリコカリックスが、カテナの浮遊性鎖の形態と癌幹細胞の特性との維持に関与していることを示唆している。
実施例19:併用薬のスクリーニング
カテナの周囲のグリコカリックスは、パクリタキセル(paclitaxel)、フルデロン(fludelone)及び9,10-dEpoB等のいくつかの治療剤に対する耐性を付与するが、デグエリン(deguelin)及びボルテゾミブ(bortezomib)などのような他の治療剤への耐性は付与しない(実施例15参照)。ヒアルロン酸及びコラーゲンがカテナグリコカリックスの主要な構成要素であるため、ヒアルロニダーゼおよび/またはコラゲナーゼを用いたカテナ細胞の処理がカテナ細胞の薬物耐性を変化させるか否かについて試験した。
1. PEG化
ヒアルロニダーゼ及びコラゲナーゼはインビボでの半減期が短いが、ポリエチレングリコールを付加(PEG、このプロセスをPEG化という)してこれらの酵素を修飾することで、半減期が数分から数時間に延びて酵素の安定性が高まることが分かっている。これらの酵素をPEG化するために、α-メトキシ-ω-カルボン酸スクシンイミジルエステルポリエチレングリコール(PEG 分子量 20,000)(MeO-PEG-NHS)を、100 mgのMeO-PEG-NHSを10 mg/mLのウシ精巣ヒアルロニダーゼ0.5 mL(25000 U / mL)と15mLのPBSと混合することで使用した。混合物は回転子上で、4℃で48時間インキュベートした。コラゲナーゼのPEG化には、ヒアルロニダーゼに代えて10 mg/mLのコラゲナーゼ1(2500 U / mL)を0.5mL用いた。
PEG化および非PEG化試料を、還元および非還元の状態でタンパク質ゲル電気泳動に供し、クマシーブルーで染色した。複数のPEG部の付加を含め、予期されたバンドサイズの増大が観察された。
PEG化が酵素活性を阻害したかどうかを調べるために、カテナを[上記のように]PEG化または非PEG化ヒアルロニダーゼで処理した。いずれの処理もカテナ細胞の凝集を引き起こした。カテナ培養物へのコラゲナーゼ1の添加はこれらの細胞の形態に影響を与えない。同様に、PEG化コラゲナーゼ1の添加も、カテナの形態には何ら影響を及ぼさなかった。
2. 薬物スクリーニング
25個のカテナ細胞を384穴ウェルプレートに播種した。5日後、細胞をPEG化ヒアルロニダーゼ、PEG化コラゲナーゼまたはその両方を用いて37℃で10分間処理した。酵素を除去しないまま、パクリタキセルの希釈系列を添加した後、第9日目にアラマーブルー(alamarBlue)を添加し、その二日後に吸光度を測定した。パクリタキセル単独での50%阻害濃度は、PEG化コラゲナーゼの存在下で変化しなかった。パクリタキセル添加前のPEG化ヒアルロニダーゼによる培養物の処理は、50%阻害濃度を2.5倍減少させ、上記PEG化酵素の組み合わせで処理することにより、パクリタキセルの50%阻害濃度は16倍減少した。この値は、パクリタキセルを細胞播種の1日後にプレートに添加したとき、すなわち、カテナ細胞がグリコカリックスを実質的に欠いていたときに得られる値に匹敵する。
実施例20:カテナの形態に与える基底膜マトリックスの影響
Ovcar3-GTLカテナを機械的解離またはヒアルロニダーゼ処理によって単一細胞に解離させ、基底膜マトリックス(マトリゲル)でコーティングしたプレート上で培養した。類似の培養系をもう一組1mMの4-メチルウンベリフェロン(4-methylumbeliferone;4-MU)及び50μMY27632の存在下で培養した。前者はヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)阻害剤であり、後者はRho-ROCK阻害剤である。培養系は4日後に撮像した。
ヒアルロニダーゼ処理をしなかった場合、カテナはそのグリコカリックスを保持し、細胞外マトリックス成分とは相互作用せず、予想通り浮遊性細胞鎖を形成した。ヒアルロニダーゼのみで処理した細胞は細胞外マトリックスに付着し、付着した不規則な凝集体として生育した。ヒアルロニダーゼで前処理した細胞を4-MU及びY27632と共に培養すると、培養物は粘性にならず、付着した細胞は糸状仮足突起を形成した。同様に、機械的に解離した細胞を4-MUとY27632の存在下で生育させた際の培養物は粘性にならず、細胞はプレートに付着して糸状仮足突起を形成した。
低分子量GTPアーゼ、Rho及びその標的タンパク質であるRho関連コイルドコイル形成タンパク質キナーゼ(Rho-associated coiled-coil-forming protein kinase;ROCK)は、間葉系からアメーバ状への移行(MAT)の調節因子として認識されている。MATの間、Rho-ROCK活性の上方制御は、腫瘍細胞がコラーゲン繊維を変形させて細胞外マトリックスを通過するのに充分なアクトミオシンの力を生成するのに役立つ[ワイコフ(Wyckoff)、2006]。カテナ培養物におけるRho-ROCK活性の阻害は、細胞付着を引き起こし、間葉形態への復帰を示す糸状仮足突起の形成を誘導した。
実施例21:SEM及びTEMでのカテナの形態
標準方法を用いて電子顕微鏡でカテナのグリコカリックス被覆を可視化する最初の試みは成功しなかった。したがって、走査型電子顕微鏡(SEM)によりカテナ細胞の細胞周囲の構造を可視化するために新しいプロトコルを開発した。
簡単に言うと、カテナはM5-FCS培地で増殖させた。カテナ培養物のアリコートを、ポリ-L-リジンで被覆したプラスチック製カバースリップに置き、湿室内で、室温で1時間、細胞を付着させた。細胞懸濁物を洗浄せずに、固定剤(0.75 Mカコジル酸緩衝液中2.5%グルタルアルデヒド/ 2%パラホルムアルデヒド)は、カバースリップ上に直接添加し、湿室で、1時間室温でインキュベートした。この手法では、負に帯電した細胞外粘性被覆が正に荷電した表面に付着した。細胞は、ヒアルロン酸、プロテオグリカン及びコラーゲンの広範な細胞外網目構造の中に閉じ込められていた。洗浄工程の前に付着した細胞グリコカリックス混合物に固定剤を直接添加することによって、細胞と細胞外被覆の構造は保たれていた。染色剤は、用いる場合に、固定剤と共に含めた:糖(この場合はヒアルロン酸鎖)を染色するアルシアンブルー(AB)、及びプロテオグリカンを染色する塩化セチルピリジニウム(CPC)。染色剤のこの組合せは、同時にグリコカリックスの全ての成分を可視化することができた。
固定工程の後、調製物をカコジル酸緩衝液で洗浄し、50%から、75%、95%、無水アルコールまでエタノール溶液の段階的なシリーズで脱水した。試料は、デントン臨界点乾燥機モデルJCP-1(Dentn Critical Point Dryer Model JCP-1)で臨界点乾燥し、デントン真空デスク1Vスパッタリング装置(Denton Vacuum Desk 1V sputtering system)で金/パラジウムでスパッタ被覆した。試料は、ツァイスフィールドエミッション電子顕微鏡スープラ25(Zeiss Field Emission Electromicroscope Supra 25)を用いて撮影された。
細胞内構造及び細胞内小器官は、TEMにより可視化した。
本方法は、細胞周囲の被覆を保持し、カテナに関連する特殊な構造を特定しつつ、カバースリップの上にカテナ細胞を付着するためのプロトコルを確立することに成功した。
図15は、AB及びCPC染色後の広範なグリコカリックスを示す、カテナの異なる倍率でのSEM画像のシリーズを示している。図16は、ABのみで染色したカテナとグリコカリックスの拡大SEM像を表し、ヒアルロン酸が様々な位置に集中した細胞上のヒアルロン酸被覆と、ヒアルロン酸被覆の蜘蛛の巣状性状が示されている。
カテナは、ヒアルロニダーゼで処理することによりグリコカリックス被覆を除去し、AB及びCPC染色によりSEMで観察した。図17に示すように、グリコカリックスの残りは視認できる。
図18は、グリコカリックス被覆を除去するためにヒアルロニダーゼで処理した後の未染色のカテナのSEM像である。試料中に存在するその他細胞は赤血球(RBC)(滑らかな先端のとがったRBCを含む)である。カテナの特異な表面に注意されたい。
カテナ構造は、図19から21に示すSEM画像にで視認できる通り、微絨毛、表面小疱、偽足及びナノチューブ、火山及びクレーターを含む。図19(a)は、細胞間の広範な微絨毛接続を有する未染色カテナのSEM写真を示す。図19(b)では、2個のカテナ細胞はナノチューブで接続され、細胞は微絨毛(浸潤突起)を介して表面に付着してるように見える。大型の細胞膜小疱はまた、これらの細胞上に視認される。図19(c)は、ヒアルロン酸グリコカリックスが占有する10から15μmの空間を超えて伸長する長い仮足(20-30μm)をを有する未染色カテナ細胞を示す。
光顕微鏡写真において(図示せず)は、細胞膜脂溶性色素で染色したカテナ細胞は、点状の染色像を示し、かつヒアルロン酸に対する抗体により濃淡の無い、連続した染色像を示した。ヒアルロン酸染色から突出し、表面を中断する小疱も観察された。ヒアルロン酸グリコカリックスを通して延びる偽足は、細胞膜脂溶性色素で染色して可視化することができ、折り重なって投げ縄状構造を形成しているのが観察された。
カテナ表面上の様々な構造が、図19(a)の写真を拡大したものである、図20の拡大図において示されており、微絨毛、偽足、表面小疱が矢印で強調されている。カテナ微絨毛のSEM像には」、それらの分節性状が示され、多くのSEM画像において、カテナ細胞に存在する広範な小疱形成が示されている。
TEMにより、細胞を通した平面上の構造が視覚化され得る。そのようなイメージでは、カテナ細胞の細胞膜と連続接続する小疱が示されたが、細胞に隣接するものも示された。小疱は、容量において均質であるように見受けられ、大きな細胞小器官を欠いていた。さらに、カテナ細胞の画像は、その幹細胞性、即ち、高い核/細胞質比、並びに細胞の表面において連続的な境界を形成する微絨毛を示す未分化細胞の形態を示した。
カテナ細胞上の火山状構造の出現は珍しい発見であった。図21のSEM像は、カテナ表面上の噴火する「火山」(a)、並びに該火山の拡大図(b)の側面図を示し、火山のクレーターから、エキソソームと思われる粒子が放出されるのが示されている。細胞を上から下方へ見下ろした図では、外側の細胞膜と内部小疱とが融合したものと考えられる表面クレーターが一見して存在していた。このクレーターは、その縁の周囲に目立たない境界のような外観を有し、さらにクレーター内部に小さな小胞状粒子を有していた。表面小疱も、この細胞で観察された。
実施例22:カテナにおける遺伝子発現
遺伝子発現研究のために、トライゾル(TRIzol(登録商標))試薬(インビトロジェン)を用いてRNAを抽出した。遺伝子発現は、試料当たり3つの生物学的反復試料を用い、アフィメトリクスU133 Plus 2.0アレイ(Affymetrix U133 plus 2.0 array)を用いて決定した。データは、ジーンスプリングGXソフトウェア(Genespring GX Software)(アジレント)を用いて解析した。OVCAR3、Ovcar5及びA2780スフェロイド、カテナ及び単層並びにSV-40不死化正常卵巣上皮単層(NOE、T-80細胞)を解析した。遺伝子アノテーションはwww.ncbi.nlm.nih.gov/遺伝子で見出すことが出来る。
Ovcar3-GTLカテナとOvcar3GL単層との間において、総数2121個の遺伝子が差示的に発現していた。単層と比較してカテナでは、これらの遺伝子のうち、1125個の遺伝子が上方制御され、996個の遺伝子が下方制御されていた。NOE T-80細胞とOVCAR3-GL単層との間では、総数378個の遺伝子が差示的に発現していた。T-80細胞と比較してOvcar3-GTL単層では、これらのうち、101個の遺伝子が上方制御され、277個の遺伝子が下方制御されていた。
OVCAR3カテナとOvcar5カテナにおける遺伝子発現をOvcar5間葉系単層における遺伝子発現と比較した。統合したトランスクリプトーム解析では、この間葉からアメーバ/カテナへの移行において26個の上方制御された遺伝子と、69個の下方制御された遺伝子が特定され、即ち、それら遺伝子はカテナ/ CSCにおいて差示的に発現していた(表5)。最も上方制御される遺伝子は、ヒアルロン酸合成酵素(HAS2)であった。二番目に高く発現する遺伝子は、PDGFであり、カテナ/ CSCにおけるPDGF経路の重要な役割が示された。
HAS2は、グリコシルアミノグリカン・ヒアルロナン(glycosylaminoglycan hyaluronan)(HA)の産生に関与する3つの合成酵素の1つである。OVCAR3上皮単層と比較すると、カテナでは、HA結合“リンク”タンパク質(HA-binding “link” protein)であるC1QBP、HABP4及びHAPLN1、並びにプロテオグリカンバーシカン/VCAN(Versican/VCAN)を含む、ヒアルロン酸結合タンパク質のための多くの遺伝子もまた上方制御されていた(図22)。HA受容体のCD44とHMMRとはカテナでは差示的に下方制御されていた。HAS2は、間葉系又は上皮単層のいずれでも有意なレベルで発現されていなかった。
幹細胞関連遺伝子であるLin−28、Bmi−1、RBPMS及びZFXはすべてカテナで発現されていた。RBPMSは、造血幹細胞、胚性幹細胞、神経幹細胞、白血病幹細胞、白血病並びに胚細胞腫瘍において発現されている。これまでに胚性幹細胞と造血幹細胞の自己複製を制御していることが示されている、ZFXジンクフィンガー転写調節因子は、上皮単層に比べてカテナ及びスフェロイドではまた上方制御される。
テロメラーゼ逆転写酵素成分のhTERT、TERF1、TERF2、及びタンキラーゼは、正常卵巣上皮と比べて、癌及びOvcar3-GTL単層腫瘍細胞において上方制御されるテロメラーゼ経路の一部である。しかし、スフェロイド又は単層よりも、カテナはこれらの遺伝子のより高い発現さえ有し、抗テロメラーゼ療法は卵巣癌におけるCSCターゲティング(標的化)について効率的であろうことが示された。
サーフェソームに関連するその他遺伝子発現データは、実施例27に記載されている。
実施例23:その他組織で上方制御カテナ特異的遺伝子の発現
アマゾニア!(Amazonia!)(ル・カルール;Le Carrourら、2010)は、特定の遺伝子の組織発現パターンを決定するために照会することができる、公的に利用可能なヒトトランスクリプトームデータのウェブアトラスを提供している。表5に記載の上方制御されるカテナ遺伝子がこの方法で解析された。それら遺伝子は限定的な組織発現パターンを有することが見出され、その発現の組織又は細胞の種類は表6に記載されている。残りの上方制御されるカテナ遺伝子はアマゾニア!に対して組織限定的な発現パターンを示さなかった(表6において組織又は細胞の種類は何ら示されていない)。ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)及びヒトにおいて発現していることが見出された、上方制御されるカテナ遺伝子の多くは多能性幹細胞(hIPS細胞)を誘導し、並びに正常成人組織及び細胞種においては発現していなかった(この群において、アマゾニア!データベースは、組織特異的幹細胞を含む)。ヒトES細胞において発現していることが見出された遺伝子は、HAS2、HAPLN1、NTS、及びLOC643401を含む。カテナにおいて下方制御される遺伝子は、胚性幹細胞では発現せず、正常成人組織及び細胞種において幅広い発現パターンを有していた。
実施例24:癌ゲノムアトラス(The Cancer Genome Atals)の遺伝子発現プロファイルの解析
336人の進行期卵巣癌患者及び10個の正常卵巣試料の遺伝子発現プロファイルが、癌ゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas)(TCGA;http://tcga.cancer.gov)を介して利用可能であり、表5における上方制御および下方制御されるカテナ遺伝子の発現について解析した。これら遺伝子発現プロファイルは、腫瘍試料から単離されたRNA中のmRNAのマイクロアレイ解析による発現データからを表す。カテナ特異的遺伝子を、次いでTCGAデータベースにおけるこれら腫瘍遺伝子発現プロファイルに対して照会した。
この解析は、カテナ遺伝子の特定のセットに応じた患者クラスタの特定を可能にし、卵巣癌患者に対する一種のカテナ遺伝子特性を規定し始める。例えば、質量分析によってOvcar5間葉系細胞及びA2780間葉系細胞に対してカテナにおいてはより高い量でで分泌されているものとして特定されたCOL1A2を含む、表7においてリスト1として示される9個の上方制御されるカテナ遺伝子は、これら9個の遺伝子のうち少なくとも6個を高いレベルで共発現する83人の患者の群(又はクラスタ)を規定し、この患者群は高い割合のカテナ細胞(即ち、卵巣癌幹細胞)を有することが示唆された。この患者のクラスタにおいて発現されていたその他カテナ特異的遺伝子は、表7にリスト2として示されている。表7のリスト3は、そのクラスタの患者試料と正常卵巣試料の両方で発現されていたカテナ遺伝子を特定するものである。リスト4の遺伝子は、分化した腫瘍と比較した場合に、カテナ細胞で有意に下方制御されている卵巣癌マーカー遺伝子である。
実施例25:カテナにおける差示的なmiRNA発現
miRNA解析のために、トライゾル(TRIZOL(登録商標))試薬(インビトロジェン)を用いてRNAを抽出した。miRNA発現は、サンガー・ミルベイスリリース9.1(Sanger mirBase release 9.1)(2007年2月)上の全ヒトmiRNA()に対するプローブが含まれているアジレントヒトmicroRNAアレイVl.0(Agilent Human microRNA Array V1.0)を用いることによって決定した。miRNA発現について、試料当たり二つの生物学的反復試料を解析した。データは、ジーンスプリングGXソフトウェア(Genespring GX Software)(アジレント;Agilent)を用いて解析した。
OVCAR3単層と比較した、カテナにおいて上方制御及び下方制御されたmiRNAの結果が表8にまとめられている。
26個のmiRNAが、OVCAR3単層に比べてカテナでは下方制御されていた。これらには、LIN28及びLin28Bによって調節されているlet-7ファミリーのmiRNAが含まれていた。LIN28のmRNA及びタンパク質は、正常卵巣上皮とOVCAR3上皮単層細胞に比べてカテナで有意に上方制御されていた。スフィアと比較した場合、それはカテナにおいて最も上方制御される遺伝子であった。LIN28の近縁なホモログであるLIN28Bは、OVCAR3上皮に対してカテナにおいて有意かつ差示的に上方制御されていた。
OVCAR3上皮単層に比べてカテナでは、miR-200ファミリー(MIR-141、miR-200a、miR-200b、miR-200C及びmiR-429)の5つのすべてのメンバーが有意に下方制御された。miR-200ファミリーの阻害は、EMTを誘導するのに十分であることが報告されており、60個の腫瘍細胞株のNCIパネルの分析においては、miR200ファミリーは上皮性卵巣癌細胞株において発現されていたが間葉系卵巣細胞株では喪失していた(グレゴリー(Gregory)ら、2008年;パーク(Park)ら、2008)。本研究のデータは、細長い線維芽細胞形態に関連するEMTが生じている様々な腫瘍細胞種におけるmiR-200b、miR-200C、let-7b、let-7c、let-7d及びlet-7eの有意な下方制御、E-カドヘリンの低発現、並びにZEB1の高発現に関する他の報告と一致しいている(パーク(Park)ら、2008)。
さらに、間葉系単層に比べてカテナでは、hsa-miR-23b及びhsa-miR-27bは、有意に下方制御されていた。標的予測解析では、HAS2がhsa-miR-23bの標的であることが示された。さらに、ヒアルロン酸プロテオグリカン結合タンパク質1(hyaluronan proteoglycan link protein-1;HAPLN1)及び血小板由来増殖因子受容体α(platelet-derived growth factor receptor alpha)(PDGFRA、或いはPDGRαとも記載される)は何れもHSA-MIR-27Bの標的である。したがって、結果は、カテナ細胞において最も上方制御される3つの遺伝子(HAS2、HAPLN1、PDGFRA)とhsa-miR-23bとhsa-miR-27bの下方制御との間において有意な相関を示した。
実施例26:上皮細胞、間葉細胞、及びカテナ細胞におけるRTKリン酸化
ヒトリン酸化-RTKアレイキット(Human Phospho-RTK Array Kit)(アール・アンド・ディー・システムズ;R&D Systems)を製造元の指示に従って用い、Ovcar3-GTL及びOvcar5-GLのカテナ又は単層において42個の受容体チロシンキナーゼ(receptor tyrosine kinase;RTK)タンパク質のパネルのリン酸化状態を決定した。アッセイでは、ニトロセルロース膜ドットアレイが各RTKの細胞外ドメインに対する捕捉抗体を有し、細胞溶解物をアレイと共にインキュベートし、HRPに結合したパンホスホチロシン(pan-phosphotyrosine)抗体を用いて化学発光により活性化(リン酸化)タンパク質を可視化する。そのために細胞を10%FCSの存在下で生育させた。42個のRTKタンパク質のリストが表9に提供されており、これらのタンパク質の34個についての結果が図23に示されている。
EGFR及びDTK(AXL受容体ファミリー)が、OVCAR3上皮単層においてリン酸化されていた。対照的に、間葉系Ovcar5単層内では、複数のシグナル伝達経路がが活性化されており(22個/試験した44個)(図23)、それらは、PDGFRβ、EGFR、ERBB4、 FGFR2、FGFR3、インスリンR(Insulin-R)、IGF1R、DTK/TYRO3、MER/MERTK、MSPR/RON、Flt-3、c-rRET、ROR1、ROR2、Tie-1、Tie-2、TrkA/NTRK1、VEGFR3、EphA1、EphA3、EphA4、EphA7、EphB2、EphB4、及びEphB6を含んでいた。OVCAR3及びOvcar5にそれぞれ由来するカテナ細胞は、少なくとも定性的に類似したリン酸化RTKプロファイル有し、それらプロファイルはOvcar5間葉系単層のものとも類似するものであり、Ovcar5単層における17/22リン酸化受容体もまた両種のカテナにおいて活性であった。それにも関わらず、上記二つのソースのカテナの間、並びにこれらカテナと間葉系単層との間には、特定の受容体のリン酸化の程度に違いがあった。例えば、PDGFRαのリン酸化により、アメーバ状カテナ細胞とOvcar5間葉系単層とは区別された。データは、複数のRTKのリン酸化が上皮/間葉移行にリンクする概念を支持している。
実施例27:カテナ表面の表現型
1.FACSサーフェソーム解析
マルチパラメータ・フローサイトメトリーによる評価が、コラゲナーゼIVで解離したOvcar3-GTLカテナ及びスフェロイド、又はトリプシンにより解離した単層を用いて実施された。原発性卵巣癌の腹水試料をディスパーゼ処理により解離し、その後、CD45+磁性ビーズ除去法を用いてリンパ球及び造血細胞を枯渇させた。細胞は、適切な抗体とMACSバッファーとを含む100μLの総容積で染色した。
分析のため以下の抗体を使用した:CD45-APC-Cy7(クローン2D1)、CD34-APC(クローン8G12)、CD44-PE(クローンG44-26)、CD49f-PE(クローンGoH3)及びCD90-APC(クローンSE10)(全てビーディー・ファーミンゲン(BD Pharmingen)社);CD133-APC(クローンAC133)、CD133-PE(クローン293C3)及びCD326-FITC、-PE、-APC(クローンHEA-125)(全てミルテニー・バイオテク(Miltenyi Biotec)社)、並びにCXCR4-PE(クローン12G5)(R&Dシステムズ社)のほか、表10に記載の抗体。死細胞の排除のためにDAPI(インビトロジェン社製)を添加した。すべてのフローサイトメトリー解析は、MoFloセルソーターを使用し、試料ごとに1〜25×104イベントを取得するFACSキャリバー(FACS Calibur)(ベクトン・ディッキンソン (Becton-Dickinson))上で実施した。データはFlowJo 7.2.2ソフトウェア(ツリースター社(Tree Star, Inc))を用いて解析した。
カテナは、95%超(>95%)が、CD49f(alpha6インテグリン)及びCD90 d(Thy-1)について陽性であり、CD34及びCD133(2つの異なる抗体を用いた)について陰性であった。
Ovcar3-GTL及びOvcar5-GLの細胞株に由来するカテナは非常に類似した表現型を有していた。間葉系単層で観察されたように、EpCam(CD326)及びMUC16(CA125)を含む表面抗原のほとんどはカテナでは無かった。GM2は、Ovcar5-GLカテナの98%が染色され、Ovcar3-GTLカテナの74%が染色された。
カテナと間葉系細胞との間における唯一の有意差はムチン1(Mucin 1)(CA15-3)の発現であった。ムチン1は、間葉系単層細胞の65%が染色されたが、Ovcar3-GTLカテナのわずか6%と、Ovcar5-GLカテナの75%がムチン1について陽性であった。ムチン1は、Ovcar3上皮単層細胞の75%もまた染色された。サーフェソームのデータは表10に要約されている。
2.CD遺伝子発現解析
カテナ特異的細胞表面タンパク質は、実施例22で説明した通りアフィメトリクス・ジーンチップ・ヒトゲノムU133プラス2.0アレイ(Affymetrix GeneChip(登録商標)Human Genome U133 Plus 2.0 Array)を用いた遺伝子アレイ解析によって同定した。選択したCDタンパク質の発現は、Ovcar3カテナ(CSC65%)及びOvcar3上皮単層(CSC1%)について図24に示されている。5〜150倍に情報制御される遺伝子は濃灰色(赤)であり、5〜150倍で下方制御される遺伝子は中間の灰色又は薄灰色(緑)である。
CSCにおいて上方制御される受容体は、CD220(インスリンR)、CD221(IGF1R)、CD222(IGF2R)、CD295(レプチンR)、CD331(FGFR1)、CD71(トランスフェリン受容体)、CD166(マンノース受容体)、CDC323(JAM3)、CALCRL(カルシトニン受容体様)及びPDGFRAを含む。カテナで選択的に上方制御されるその他CDマーカーは、CD90(Thy1)及びCD49f(α6インテグリン)であった。このトランスクリプトーム解析は、さらに、CD49f、CD90、CD99、CD166(それらの切断されたものがカテナセクレトームにあった)、IGF1R(CD221)、IGF2R(CD222)及びCALCRL(カルシトニン受容体様)が、Ovcar3-GTL上皮単層と比較してカテナにおいて強力に上方制御(>5〜100倍)されることを示した。
カテナにおいて下方制御されるが、Ovcar3-GTL単層では高く発現するCD遺伝子には、CD58、CD74、CD109、CD118、CD146、CD148、CD167、CD168、CD200、CD205、CD322/JAM2及びJAM3(接合部接着分子)、CD326/Ep-CAMが含まれていた。CD133は、分化した癌細胞と癌幹細胞との間で差示的に発現はしていなかった。
3.ヒトサーフェソーム遺伝子に対応するカテナ特異的遺伝子の発現
デ・クーニャ(De Cunha)ら、2009年に記載される予測されるヒトサーフェソーム(surfaceome)遺伝子のリストを用い、間葉系及び上皮性卵巣癌単層、卵巣低悪性度(LMP)患者試料、並びに正常卵巣と比較して、カテナ細胞の細胞表面タンパク質の発現を調査した。この解析により、他の細胞種と比較してカテナにおいて差示的に上方制御される、膜貫通ドメインを有する28個の細胞表面タンパク質、並びに他の細胞種と比較してカテナでは差示的に下方制御される細胞表面タンパク質が同定された(表11)。
実施例28:無血清培地におけるカテナの培養
定義された条件下(すなわち、血清を含まない)においてカテナの培養が可能であることには、血清成分による汚染が全く無く、自己分泌経路の同定、分泌タンパク質の同定、並びにエキソソームの単離及び特性評価を可能にするなど、いくつかの利点がある。
カテナ細胞はM5-FCS培地中で維持した。細胞が200,000細胞/mLの密度に達したとき、細胞を300×gでペレット化し、残留血清タンパク質を除去するためにPBSで2回洗浄し、1%P/Sを含み、かつ生育のために0.1U/mL(4.7μg/mLの最終濃度)で組換えインスリンを含む無血清M5培地に再懸濁した。インスリンの存在下では、カテナ細胞はその形態を維持し、血清を含む条件下の細胞と同程度増殖する。
実施例29:カテナ由来の分泌及びエキソソームタンパク質の解析
1.細胞分画の単離
カテナ由来の分泌及びエキソソーム画分を準備するために、カテナを、培養がほぼコンフルエントになるまで、5日間、実施例28に記載される通りインスリンを含む無血清培地で増殖させた。すべての遠心分離は、タンパク質の完全性を保持するために4℃で実施した。細胞を300×gで10分間遠心分離することによって除去した。上清画分を、2000×g20分間で、さらに10,000×gで30分間遠心することにより細胞残屑を除去した。この上清を100,000×gで2.5時間、超遠心分離に供試した。カテナから分泌される可溶性タンパク質(即ち、カテナセクレトーム(catena secretome))を含む新しい上清画分を、10kDa分子量カットオフフィルターを通して200倍に濃縮した。超遠心分離から得られたペレットは、PBSで2回洗浄したが、各洗浄の後には同一条件下で別のラウンドの超遠心分離を実施し、さらなる分析のために4°Cに保った。エキソソームは、付着した間葉系単層として、かつ同一の方法を使用して2つの卵巣癌患者腹水試料から増殖させた、Ovcar5及びA2780ヒト卵巣癌細胞株から単離した。
2.エキソソームの特性評価
単離されたエキソソームは、ポリ-L-リジンでコートされたスライドにに付着させ、パラホルムアルデヒド及びグルタルアルデヒドで固定し、SEMにより可視化した。エキソソームは、丸く、30〜100nmの直径の構造であった。ヒアルロン酸プロテオグリカン被覆は、実施例21に記載される通りSEMによって可視化された。エキソソームは、グリコカリックス被覆に付着して観察観察され、ヒアルロニダーゼ処理によって放出されるものと思われた。
また、カテナエキソソームを透過型電子顕微鏡(TEM)により解析し、その構造についてさらなる洞察を得た。
TEMのために、エキソソームは、ホルムバール(Formvar)/炭素で被覆されたEMグリッドに付着させ、室温で15分間、2%酢酸ウラニル溶液で染色した。 TEM下では、カテナエキソソームは、中空の内部を有するカップ又は皿状の構造を有していた。
ショ糖密度勾配法では、カテナのエキソソームは、勾配において1.11g/mLの間であった。
3.エキソソームのFACS解析
上記の通り単離されたエキソソームを、2時間、室温で、4μMラテックス・アルデヒド/硫酸塩ビーズ(インビトロジェン社)に吸着した。1 Mグリシンで洗浄を実施することによりビーズ上の非占有の部位への抗体の非特異的結合を防止し、さらに洗浄した後、蛍光色素結合抗体と共にインキュベーとした。FACS解析では、カテナエキソソームは、CD63について陽性であったが、CD45及びCD9について陰性であった。
さらに10uMホルボール12-ミリステート13-アセテート(phorbol 12-myristate 13-acetate;PMA)によりカテナ細胞の処理はエキソソームの放出を誘導したが、ブレビスタチン(blebbistatin)はエキソソーム放出を阻害した。エキソソーム単離及びその後のFACS解析は、定量的にも定性的にも卵巣癌幹細胞エキソソームの迅速な解析を可能にする。癌幹細胞特異的エキソソームを測定する本プロトコルは、腹水又は末梢血血漿試料を用いて、癌幹細胞の早期検出、又は治療の間に癌幹細胞の内容を監視するために用いることができる。
4.エキソソームタンパク質の内容
カテナエキソソームのタンパク質の内容を質量分析によって分析した。エキソソームを標準ゲル電気泳動のための還元サンプルバッファー(インビトロジェン)に再懸濁し、エキソソームタンパク質を4〜12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動において電気泳動により分離した。タンパク質は、クーマシーブルー(単にブルー・インビトロジェン;質量分析法に対応した染色)により可視化した。エキソソームタンパク質を含むタンパク質のレーンを15個の断片に切断し、それぞれの断片から抽出したタンパク質とタンパク質の内容とを質量分析によって分析した。
表12には、カテナエキソソームの質量分析によって特定された、>95%の信頼度で3を超える割り当てられたペプチド配列を有するタンパク質が列挙されている。表13には、卵巣間葉系単層エキソソームと比較してカテナエキソソームにおいて高い(陽性)量で存在するタンパク質が列挙されている。これら表におけるアクセション番号及び本実施例におけるその他は、国際タンパク質指数(International Protein Index) によるものである(カーシー(Kersey)ら、2004)。カテナのエキソソームの組成は、シンプソン(Simpson)ら、2008によって記載されたヒトのエキソソームに類似していた。
5.セクレトームタンパク質含量
質量分析による分析により、インスリンを含有する無血清タンパク質培地においてカテナ細胞によって分泌された210個のタンパク質を同定した。表14には、カテナセクレトームの質量分析によって同定された、10を超える割り当てられたペプチド配列(>95%の信頼度)を有するタンパク質が列挙されている。2つのその他卵巣間葉癌細胞株(A2780及びOvcar5)のセクレトームも質量分析によって分析した。表15には、遺伝子発現又は質量分析によって決定された、分化した間葉系単層細胞と比較してカテナ細胞で多量に産生されたタンパク質が列挙されている。
カテナセクレトームの質量分析により、カテナが、間葉系卵巣癌単層よりも500倍に上るCOL1A2(コラーゲンタイプ1アルファ2)を産生していることも示された。
6.カテナ細胞表面タンパク質
膜タンパク質は、非イオン性界面活性剤トリトンX-114を用いた相分配によりカテナ細胞から単離した。カテナ細胞は、実施例28に記載される通り5日間、インスリンを含む無血清タンパク質培地において培養した。細胞は、室温で10分間、1500rpmで遠心分離によってペレット化した。トリトンX-114可溶性膜タンパク質(カテナサーフェソーム)は、相分配技術により細胞用怪物から分離し(ボルディエール(Bordier)、1981)、質量分析に供試した。表16には、カテナ細胞における3を超える割り当てられたペプチド配列(>95%信頼度)をと表16のタンパク質。
実施例30:HAS2スプライス変異体の同定
実施例22に記載したとおりカテナmRNAを調製し、cDNAに変換し、454ディープ・シーケンシング(454 deep sequencing)とゲノムシークエンサーFLX(Genome Sequencer FLX)システム及びソフトウェアによる分析に製造元の使用説明書に従って供試した。野生型(WT)HAS2配列に対して当該カテナmRNAから読み取られる配列のアライメントは、5 'UTRからエクソン3までをよりカバーする不均質な分布を示した。これらの結果はカテナで発現されるHAS2スプライス変異体の存在を示唆した。
スプライス変異体を特定するために、フォワード及びリバースPCRプライマーを、ヒトHAS2遺伝子配列(NCBIアクセッション番号NM_005328)に基づいて、それぞれ、HAS2 mRNAの5'UTRおよび3'UTR領域に対して調製した。フォワードプライマーは、第487位から第509位に位置しており、配列:CGGGACCACACAGACAGGCTGAG(配列番号1)を有していた。リバースプライマーは、第2202位から第2227位に位置しており、配列:GTGTGACTGCAAACGTCAAAACATGG(配列番号2)を有していた。野生型HAS2mRNAの予想されるPCR増幅産物は1741bpである。カテナmRNAを用いたRT-PCRにより、増幅産物は、予想された1741bpの断片だけでなく、約1100bpの別の断片を生成した。小さい断片はHAS2遺伝子のエクソン1を欠損した1115bp断片として同定された。このHAS2スプライス変異体は、グリニッジ(Greenwich)変異体として名づけられいる。グリニッジ(Greenwich)変異体は、図25に示すように、インフレーム欠失を含んでおり、野生型HAS2遺伝子のアミノ酸第215位から始まり、かつ正常なC末端のアミノ酸第552位で終結するタンパク質をコードしている。このタンパク質の翻訳は、スプライスポイントの後の最初のメチオニンである、エクソン2における第557位のヌクレオチドから始まる。
HAS2は、UniProtKB/Swiss-Protデータベース、配列番号Q92819(http://www.uniprot.org/uniprot/Q92819)に示すように、複数の膜の予測構造、細胞質および細胞外ドメインを有する膜結合タンパク質である。HAS2スプライス変異体は、最初の細胞質ドメインの中間で開始し、いくつかの予想される膜貫通ドメインを保持している。
実施例31:卵巣癌細胞株と原発性腫瘍におけるHAS2及びPDGFRAの発現
実施例30のPCRプライマーセットを用いたRT-PCR法によって、HAS2の転写物の存在について、Ovcar3単層、Ovcar5単層およびA2780単層から調製したmRNAを分析した。これらの細胞株のいずれにおいても、転写物は野生型でもスプライス変異でも検出されなかった。
試料は進行期卵巣癌患者の腹膜固形腫瘍から得た。試験した220もの検体のうち5つはHAS2遺伝子にヘテロ接合性ミスセンス変異を有していた。5つの突然変異のうち4つはエクソン1、エクソン1からエクソン2付近に位置していた(第954位、第981位、第1099位及び第1136位のヌクレオチド;ジャンクションは第1165位のヌクレオチドで発生)。このような変異は、カテナHAS2のmRNAで観察された選択的スプライシングにつながる可能性がある。五つ目の変異はエクソン3のヌクレオチド第2009位に位置していた。HAS2は第8番染色体上に位置しており、プラス鎖の変異と正常な対立遺伝子に位置するヌクレオチドは以下の表17に示されている。 Ovcar3カテナ細胞から抽出したmRNAの変異解析を表18に示す。全細胞RNAの分析によると両方の対立遺伝子からの量がほぼ等しかったが、活発に翻訳されるmRNAの分析によると、変異体mRNAの優先的な翻訳が示された(変異体96%に対して野生型4%)。
表17及び18では、染色体部位は第8番染色体のプラス(+)鎖のヌクレオチド位置を指す。対応するmRNAの部位や位置も共に示されている。
カテナ細胞におけるPDGFRA mRNAの変異プロファイルを得るために、SOLiD RNAシークエンシングシステム(アプライドバイオシステムズ社)を使用し、5つの相同変異を同定した(表19)。これらの変異は全体の100%を占め、ポリソームのPDGFRAのmRNAであった。表19では、染色体部位は第4番染色体の+鎖のヌクレオチド位置を指す。対応するmRNAの位置も共に示す。
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Claims (81)

  1. 漿液性癌幹細胞を製造する方法であって、
    (a)哺乳類漿液性上皮腫瘍細胞を、腹腔内腫瘍を生成する量及び条件下で、免疫不全非ヒト哺乳動物の腹腔内に注入する工程;
    (b)腹腔内腫瘍を有する非ヒト哺乳動物から腹水を採取する工程;
    (c)上記腹水を、漿液性カテナ及び白血球を含む第一の画分と、漿液性スフェロイドを含む第二の画分とに分画する工程;
    (d)上記第一の画分から白血球を除去し、カテナ濃縮画分を取得する工程;並びに
    (e)付着性の間葉細胞と、漿液性癌幹細胞が濃縮された漿液性カテナ懸濁液とを産生する時間及び条件下で、上記カテナ濃縮画分を培養する工程
    を含む、上記方法。
  2. (f)上記漿液性カテナ懸濁液を採取する工程;
    (g)形成され得る漿液性スフェロイドから、上記漿液性カテナを分離する工程;並びに
    (h)少なくとも50〜100%の漿液性癌幹細胞を含む浮遊性漿液性カテナの培養物を生成する時間及び条件下で、懸濁液中の上記カテナを連続継代する工程
    をさらに含む、請求項1に記載の方法。
  3. 漿液性癌幹細胞を製造する方法であって、
    (a)哺乳類漿液性上皮腫瘍細胞を、腹腔内腫瘍を生成する量及び条件下で、免疫不全非ヒト哺乳動物の腹腔内に注入する工程;
    (b)腹腔内腫瘍を有する非ヒト哺乳動物から腹水を採取する工程;
    (c)上記腹水を、漿液性カテナ及び白血球を含む第一の腹水画分と、漿液性スフェロイドを含む第二の腹水画分とに分画する工程;
    (d)付着性の間葉細胞、及び浮遊性カテナと腫瘍スフェロイドとの懸濁培養物を産生する時間並びに条件下で、上記第二の画分を培養する工程;並びに
    (e)上記懸濁培養物を、漿液性癌幹細胞が濃縮された浮遊性カテナを含む第一の培養画分と、漿液性癌幹細胞が濃縮された浮遊性腫瘍スフェロイドを含む第二の培養画分とに分画する工程
    を含む、上記方法。
  4. (f)浮遊性カテナと腫瘍スフェロイドとのさらなる懸濁培養物を産生する時間及び条件下で、上記第二の培養画分を培養する工程;
    (g)上記さらなる懸濁培養物を浮遊性カテナ画分と腫瘍スフェロイド画分に分画する工程;並びに
    (h)浮遊性腫瘍スフェロイド画分を用いて、少なくとも10〜30%の漿液性癌幹細胞を含む浮遊性腫瘍スフェロイドの懸濁培養物を生成する時間及び条件下で、工程(f)及び工程(g)を繰り返す工程
    をさらに含む、請求項3に記載の方法。
  5. 漿液性カテナを単離する方法であって、
    (a)哺乳類漿液性上皮腫瘍細胞を、腹腔内腫瘍を生成する量及び条件下で、免疫不全非ヒト哺乳動物の腹腔内に注入する工程;
    (b)腹腔内腫瘍を有する非ヒト哺乳動物から腹水を採取する工程;
    (c)上記腹水を、漿液性カテナ及び白血球を含む第一の画分と、漿液性スフェロイドを含む第二の画分とに分画する工程;並びに
    (d)上記第一の画分から白血球を除去し、カテナ濃縮画分を取得する工程
    を含む、上記方法。
  6. 漿液性スフェロイドを単離する方法であって、
    (a)哺乳類漿液性上皮腫瘍細胞を、腹腔内腫瘍を生成する量及び条件下で、免疫不全非ヒト哺乳動物の腹腔内に注入する工程;
    (b)腹腔内腫瘍を有する非ヒト哺乳動物から腹水を採取する工程;
    (c)上記腹水を、漿液性カテナ及び白血球を含む第一の画分と、漿液性スフェロイドを含む第二の画分とに分画する工程;並びに
    (d)上記漿液性スフェロイドを単離する工程
    を含む、上記方法。
  7. 上記細胞の注入の前後に、又は該注入と同時に、腹腔内腫瘍を生成するのに充分な時間、腹腔内の炎症を誘発する工程をさらに含む、請求項1から6の何れか1項に記載の方法。
  8. 上記非ヒト哺乳動物がT細胞、B細胞及び/又はナチュラルキラー細胞を欠損したマウスである、請求項1に記載の方法。
  9. 上記マウスがNOD/SCIDマウス、NSGマウス又はNOGマウスである、請求項8に記載の方法。
  10. 分画工程が、30〜60μmのフィルターを介して上記腹水をろ過し、上記漿液性カテナ及び白血球を含むフロースルー画分と漿液性スフェロイドを含む保持画分とを取得する工程を含む、請求項1、3、5及び6の何れか1項に記載の方法。
  11. 漿液が卵巣である、請求項1から10の何れか1項に記載の方法。
  12. 単離されたクローン的に純粋な漿液性癌幹細胞。
  13. クローン的に純粋であり、かつ自己複製する漿液性癌幹細胞の集団であって、
    該漿液性癌幹細胞の集団は、対称的に分裂し、かつ浮遊性である細胞鎖を含み、
    上記鎖は、約4個から約72個又はそれ以上の細胞を含み、
    上記鎖は、ヒアルロン酸を含むグリコカリックスに囲まれており、
    上記細胞は、E−カドヘリン陰性であり、漿液性上皮腫瘍細胞と比較して生着能が高く、連続的な再クローニング潜在能を保持し、かつインビトロで少なくとも50%の再クローニング能を示す、
    上記漿液性癌幹細胞の集団。
  14. 上記細胞が卵巣癌幹細胞である、請求項12又は13に記載の漿液性癌幹細胞。
  15. 漿液性癌幹細胞に対する増殖抑制効果について試験化合物をスクリーニングする方法であって、
    (a)解離した漿液性カテナ細胞、解離した漿液性スフェロイド細胞、及び解離した漿液性癌付着細胞のいずれか一つ以上を培養する工程、但し、上記細胞は蛍光を発し得るか、又は発光し得る;
    (b)上記細胞を上記試験化合物に接触させる工程;
    (c)当該培養物が発する蛍光又は発光を検出することによって、上記細胞がカテナ、スフェロイド及び付着細胞を増殖させるか否かを検出する工程;並びに
    (d)上記試験化合物が上記カテナ、スフェロイド又は付着細胞の増殖を阻害するか否かを判定する工程
    を含む、上記方法。
  16. (e)上記試験化合物がスフェロイド又は付着細胞と比較して上記カテナの増殖を差示的に阻害するか否かを判定する工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
  17. 漿液性癌幹細胞に対する形態学的効果について試験化合物をスクリーニングする方法であって、
    (a)解離した漿液性カテナ細胞、解離した漿液性スフェロイド細胞、及び解離した漿液性癌付着細胞のいずれか一つ以上を培養する工程、但し、上記細胞は蛍光を発し得るか、又は発光し得る;
    (b)上記細胞を上記試験化合物に接触させる工程;
    (c)当該培養物が発する蛍光又は発光を検出することによって、上記細胞がカテナ、スフェロイド及び付着細胞を増殖させるか否かを検出する工程;並びに
    (d)上記試験化合物が上記カテナ、スフェロイド又は付着細胞の増殖を阻害するか否かを判定する工程
    を含む、上記方法。
  18. (e)上記試験化合物がスフェロイド又は付着細胞と比較して上記カテナの形態を差示的に変化させるか否かを判定する工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
  19. 増殖抑制効果又は形態学的効果について試験化合物をスクリーニングする方法であって、
    (a)漿液性カテナを解離し、かつ単一細胞の均質な集団を調製する工程;
    (b)定着したグリコカリックスの被覆を有するカテナを生成するのに充分な時間及び条件下で、上記細胞を播種し、かつ培養する工程;
    (c)未処理培養物がコンフルエントに達することなく増殖するのに充分な時間、上記培養物を少なくとも一つの試験化合物に接触させる工程;並びに
    (d)処理された培養物において上記試験化合物が上記カテナの増殖を阻害するか否か、又は該試験化合物が上記カテナの形態を変化させるか否かを判定する工程
    を含む、上記方法。
  20. 播種後約3日、4日、5日、6日又は7日から、上記培養物を上記試験化合物に接触させる、請求項19に記載の方法。
  21. 工程(b)の後かつ工程(c)の前に、上記カテナのグリコカリックス被覆を除去又は破壊するのに充分な時間、上記カテナのグリコカリックス被覆を除去又は破壊するのに充分な量のヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ又はその両方と共に上記培養物をインキュベートする工程をさらに含む、請求項19又は20に記載の方法。
  22. 上記インキュベートする工程を37℃かつ約10分間で実施する、請求項21に記載の方法。
  23. 化合物の増殖への効果の判定は、細胞を染色して又は染色せずに手作業で計数することによって、又は蛍光シグナル若しくは発光シグナルを測定することによって、或いはアラマーブルー(alamarBlue)による染色及び検出によって実施する、請求項19から22の何れか1項に記載の方法。
  24. 培養は、ハイスループット・スクリーニングを可能にする384ウェルプレート又は1536ウェルプレートにおいて実施される、請求項19から23の何れか1項に記載の方法。
  25. 増殖抑制効果又は形態学的効果について試験化合物をスクリーニングする方法であって、
    (a)漿液性スフェロイドを解離し、かつ単一細胞の均質な集団を調製する工程;
    (b)定着したグリコカリックスの被覆を有する十分な数かつサイズのスフェロイドを生成するのに充分な時間及び条件下で、上記細胞を播種し、かつ培養する工程;
    (c)未処理培養物がコンフルエントに達することなく増殖するのに充分な時間、上記培養物を少なくとも一つの試験化合物に接触させる工程;並びに
    (d)処理された培養物において上記試験化合物が上記スフェロイドの増殖を阻害するか否か、又は該試験化合物が上記スフェロイドの形態を変化させるか否かを判定する工程
    を含む、上記方法。
  26. 播種後約8日から約14日に上記培養物を上記試験化合物に接触させる、請求項25に記載の方法。
  27. 工程(b)の後かつ工程(c)の前に、上記スフェロイドのグリコカリックス被覆を除去又は破壊するのに充分な時間、上記スフェロイドのグリコカリックス被覆を除去又は破壊するのに充分な量のヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ又はその両方と共に上記培養物をインキュベートする工程をさらに含む、請求項25又は26に記載の方法。
  28. 上記インキュベートする工程を37℃かつ約10分間で実施する、請求項27に記載の方法。
  29. 化合物の増殖への効果の判定は、細胞を染色して若しくは染色せずに手作業で計数することによって、又は蛍光シグナル若しくは発光シグナルを測定することによって実施する、請求項25から28の何れか1項に記載の方法。
  30. 培養は、ハイスループット・スクリーニングを可能にする384ウェルプレート又は1536ウェルプレートにおいて実施される、請求項25から29の何れか1項に記載の方法。
  31. 化学療法又は放射線治療を受けている患者において漿液性癌を治療する方法であって、
    ヒアルロン酸合成酵素阻害剤、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ、又はそれらの組合せを、上記療法若しくは治療を増強するのに、患者の生存期間を改善若しくは延長するのに、又は症状の寛解を引き起こすのに充分な時間及び量で投与する工程を含む、上記方法。
  32. 患者において漿液性癌を治療する方法であって、
    症状の寛解、又は癌の根絶若しくは減少のその他指標を引き起こすのに充分な時間及び量で、
    放射線治療と、ヒアルロン酸合成酵素阻害剤、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ、又はそれらの組合せとを併用する工程を含む、上記方法。
  33. 上記ヒアルロン酸合成酵素阻害剤、ヒアルロニダーゼ、及びコラゲナーゼのいずれか一つは、インビボにおいてその半減期を増加させるためにPEG化又はその他の方法により修飾されている、請求項31又は32に記載の方法。
  34. 患者において癌幹細胞の自己複製又は形成を阻害する方法であって、
    患者においてグリコカリックス形成を阻害するか、若しくはCSCのグリコカリックスを分解して上記CSCの自己複製又は形成を阻害するか、或いはCSCの分化を引き起こして該CSCを致死させやすくするか、或いはカテナがスフェロイド形成を経ることを防止するか、或いはそれらの任意の組合せ起こすために充分な時間及び量で、グリコカリックス形成阻害剤又はグリコカリックスを分解する薬剤を上記患者に投与する工程を含む、上記方法。
  35. 上記阻害剤又は薬剤が、インビボにおいてその半減期を増加させるためにPEG化又はその他の方法により修飾されている、請求項34に記載の方法。
  36. 哺乳類HAS2スプライス変異体をコードする、単離された核酸。
  37. HAS2スプライス変異体をコードするmRNA又はcDNA配列を有する、請求項36に記載の核酸。
  38. 上記核酸が、5’から3’方向に、HAS2遺伝子のエクソン2の全体又は一部、並びにHAS2遺伝子のエクソン3の全体から実質的になる、連続したヌクレオチド配列を含む、請求項37に記載の核酸。
  39. 上記HAS2スプライス変異体が、ヒトHAS2コード配列の第215位から第552位までのアミノ酸から実質的になる、請求項36に記載の単離された核酸。
  40. 請求項36から39の何れか1項に記載の核酸を含む、ベクター。
  41. 請求項40に記載のベクターを含む、細胞。
  42. 哺乳類HAS2スプライス変異体RNA、又は表17及び18に特定される変異から選択される任意の一以上のHAS2変異の検出に特異的な単離された核酸プローブ。
  43. HAS2スプライス変異体mRNA又は対応するcDNAによってコードされる、単離された哺乳類HAS2タンパク質。
  44. 請求項36から39の何れか1項に記載の核酸によってコードされる、単離されたHAS2タンパク質。
  45. 哺乳類変異HAS2又は哺乳類変異HAS2スプライス変異体をコードする、単離された核酸。
  46. 請求項45に記載の核酸を含む、ベクター。
  47. 請求項46に記載のベクターを含む、細胞。
  48. 被験者において漿液性癌を監視及び/又は病期分類する方法であって、
    (a)癌患者から得た腹水からカテナを調製する工程;
    (b)上記カテナが一以上のHAS2変異を有するか否か、及び/又は上記カテナが一以上のHAS2スプライス変異体を発現しているか否かを検出する工程;並びに
    (c)上記変異及び/又は変異体を、上記患者における癌の存在及び/又は進行と関連付ける工程
    を含む、上記方法。
  49. 患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定又は監視する方法であって、
    (a)患者から細胞試料を取得する工程;
    (b)任意に、上記試料の白血球を枯渇させる工程;
    (c)上記試料の残りからDNA、RNA又はその両方を調製する工程;並びに
    (d)上記DNA、RNA又はその両方がHAS2変異を有するか否か、又は上記DNA、RNA又はその両方がHAS2スプライス変異体を発現しているか否かを検出する工程であって、変異又はスプライス変異の特定は上記試料における漿液性癌幹細胞の存在を示す、上記工程
    を含む、上記方法。
  50. HAS2変異を有するか、又はHAS2スプライス変異体を発現しているDNA、RNA又はその両方の量を定量する工程、並びに
    上記量を上記患者における癌の存在及び/又は進行に関連付ける工程
    をさらに含む、請求項49に記載の方法。
  51. 患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、
    (a)患者から細胞試料を取得する工程;
    (b)上記試料の白血球を枯渇させる工程;
    (c)一群の検出可能な表面抗原抗体と上記試料を反応させる工程;
    (d)上記反応した細胞を単一細胞又は多細胞試料にソーティングする工程;並びに
    (e)上記単一細胞又は多細胞試料の何れかが、CD49f、CD90、CD166、PDGFRA及びGM2タンパク質の存在にについて陽性であり、かつCD34、CD133、MUC16及びEPCAMタンパク質の存在について陰性であるか否かを検出する工程であって、上記タンパク質の有無が、上記反応した細胞を、漿液性癌幹細胞を含むものとして特定するか、或いは単一細胞を漿液性癌幹細胞として特定する、上記工程、
    を含む、上記方法。
  52. ソーティングは蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)によって実施される、請求項51に記載の方法。
  53. 患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、
    (a)患者から細胞試料を取得する工程;
    (b)上記試料の白血球を枯渇させる工程;
    (c)上記試料の残りからRNAを抽出する工程;
    (d)ヒトmRNAトランスクリプトームの発現レベルについて上記RNAを解析する工程;並びに
    (e)HAS2及びPDGFRAが上方制御されており、MUC16及びEPCAMが下方制御されており、かつ表11に記載の少なくとも7つのその他遺伝子が上方制御されている試料として、サーフェソーム関連カテナ遺伝子特性を有する試料を特定する工程であって、それら特性を有することは、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程
    を含む、上記方法。
  54. 患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、
    (a)患者の細胞試料から内在性膜タンパク質画分を取得する工程、但し、細胞試料は白血球が任意に枯渇されている;
    (b)質量分析法によって上記膜タンパク質画分のタンパク質含有量を分析する工程;並びに
    (c)スペクトルデータが表16に記載されている少なくとも40個のタンパク質の存在を示す試料として、サーフェソーム関連のカテナタンパク質特性を有する試料を特定する工程であって、それらタンパク質の存在は、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程
    を含む、上記方法。
  55. 上記内在性膜タンパク質画分がトリトンX−114を用いた相分配プロセスにより調製される、請求項54に記載の方法。
  56. 患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、
    (a)患者から細胞試料を取得する工程;
    (b)上記試料の白血球を枯渇させる工程;
    (c)上記試料の残りからRNAを抽出する工程;
    (d)ヒトmiRNAの発現レベルについて上記RNAを解析する工程;並びに
    (e)let−7及び200ファミリーのmiRNAが下方制御されており、hsa−miR−23b及びhsa−miR−27bが下方制御されており、かつ表8に記載の少なくとも4つのその他miRNAが上方制御されている試料として、miRNA関連カテナ特性を有する試料を特定する工程であって、それら特性を有することは、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程
    を含む、上記方法。
  57. 患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、
    (a)患者から細胞試料を取得する工程;
    (b)上記試料の白血球を枯渇させる工程;
    (c)上記試料の残りからRNAを抽出する工程;
    (d)ヒトmRNAトランスクリプトームの発現レベルについて上記RNAを解析する工程;並びに
    (e)HAS2及びPDGFRAが上方制御されており、かつ表5に記載の少なくとも5つのその他遺伝子が上方制御されている試料として、カテナ遺伝子特性を有する試料を特定する工程であって、それら特性を有することは、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程
    を含む、上記方法。
  58. 患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、
    (a)患者から細胞試料を取得する工程;
    (b)上記試料の白血球を任意に枯渇させる工程;
    (c)上記試料の残りからRNAを抽出する工程;
    (d)ヒトmRNAトランスクリプトームの発現レベルについて上記RNAを解析する工程;並びに
    (e)表7のリスト1における9つの遺伝子のうち少なくとも6つが上方制御されており、かつ表7のリスト2における遺伝子のうち少なくとも5つが上方制御されている試料として、カテナ・クラスタ規定遺伝子特性を有する試料を特定する工程であって、カテナ・クラスタ規定遺伝子特性を有することは、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程
    を含む、上記方法。
  59. 被験者において漿液性癌を特定する方法であって、
    (a)組織試料において表5に記載の10以上の遺伝子の発現レベルを検出する工程であって、表5に記載の通りの、かつ漿液性間葉系単層細胞内における発現に対する当該遺伝子発現レベルの増加又は減少は、漿液性癌幹細胞の存在を示す、上記工程
    を含む、上記方法。
  60. 患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、
    (a)患者試料から、単離されたエキソソームを取得する工程;
    (b)質量分析法、抗体結合又はその他方法によって上記エキソソームのタンパク質含有量を分析する工程;並びに
    (c)スペクトルデータ又はその他データがCD63、COL1A2、及び表13に記載されている少なくとも5つのその他タンパク質の存在を示す試料として、エキソソームのカテナタンパク質特性を有する試料を特定する工程であって、上記タンパク質の存在は、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程
    を含む、上記方法。
  61. 患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、
    (a)患者試料から、単離されたエキソソームを取得する工程;
    (b)上記エキソソームをCD63、COL1A2及び表13に記載される少なくとも5つのその他タンパク質に特異的な一つ以上の抗体と反応させる工程;並びに
    (c)CD63、COL1A2及び表13に記載される少なくとも5つのその他タンパク質の存在が陽性である試料として、エキソソームのカテナタンパク質特性を有する試料を特定する工程であって、上記タンパク質の存在は、患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程
    を含む、上記方法。
  62. 患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、
    (a)細胞と、細胞残屑と、エキソソームとが除去された患者試料から上清画分を取得する工程;
    (b)質量分析法によって上記上清画分のタンパク質含有量を分析する工程;並びに
    (c)スペクトルデータが表15に記載される少なくとも20個のタンパク質の存在を示す試料として、セクレトームのカテナタンパク質特性を有する試料を特定する工程であって、それらタンパク質の存在は、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程
    を含む、上記方法。
  63. 患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、
    (a)細胞と、細胞残屑と、エキソソームとが除去された患者試料から上清画分を取得する工程;
    (b)質量分析法によって上記上清画分のタンパク質含有量を分析する工程;並びに
    (c)スペクトルデータが表4に記載されるグリコカリックスで見出される少なくとも6つのタンパク質の存在、並びにELN、FN1及び表4に記載のカテナで下方制御されている少なくとも2つのタンパク質の非存在を示す試料として、グリコカリックス特性を有する試料を特定する工程であって、それらタンパク質の存在及び非存在は、上記患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程
    を含む、上記方法。
  64. 患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、
    (a)患者から、細胞試料、又は細胞試料からの細胞溶解物を取得する工程、但し、該試料の白血球は枯渇されている;
    (b)ヒトチロシンキナーゼ受容体に特異的な抗体の一群とパンホスホチロシン抗体とともに上記試料又は上記溶解物をインキュベートする工程;並びに
    (c)上記試料または溶解物が、PDGFRAと、PDGFRβ、EGFR、ERBB4、FGFR2、FGFR3、インスリン‐R(Insulin−R)、IGF1R、DTK/TYRO3、MER/MERTK、MSPR/RON、Flt−3、c−rRET、ROR1、ROR2、Tie−1、Tie−2、TrkA/NTRK1、VEGFR3、EphA1、EphA3、EphA4、EphA7、EphB2、EphB4及びEphB6からなる群から選択される少なくとも6個のタンパク質とからなる群から選択される活性化リンタンパク質について陽性であるか否かを検出する工程であって、上記活性化リンタンパク質の検出は、上記患者試料をが漿液性癌幹細胞を含むものとして特定する、上記工程
    を含む、上記方法。
  65. 患者試料において漿液性癌幹細胞の存在を特定及び/又は監視する方法であって、
    (a)細胞と、細胞残屑とが除去された患者試料から上清画分を取得する工程;
    (b)上記試料を抗COL1A2抗体と反応させる工程;
    (c)上記抗体が、ヒアルロン酸とコラーゲンとの20,000ダルトン未満の低分子量複合体と結合するか否かを検出する工程であって、上記複合体の検出は、患者試料が漿液性癌幹細胞を含むことを示す、上記工程
    を含む、上記方法。
  66. 上記試料が哺乳類の漿液、腹水、血液又は腫瘍組織である、請求項49から65の何れか1項に記載の方法。
  67. 核酸の検出又は発現レベルの決定が、マイクロアレイ解析、RNA若しくはDNAの配列決定法、RT−PCR、又はQ−RT−PCRによって達成される、請求項48、49、50、53、及び56から59の何れか1項に記載の方法。
  68. 漿液性癌患者において、漿液性癌を検出し、癌治療計画の有効性を監視し、治療のために患者を分類し、薬効を監視し、癌治療計画に対する患者の応答を予測する方法であって、
    (a)患者からの試料を用いて、請求項48から67に記載の一以上の方法を定期的に実施する工程;並びに
    (b)上記方法から得られた結果を上記患者の状態と関連付けることにより、漿漿液性癌を検出し、癌治療計画の有効性を監視し、治療のために患者を分類し、薬効を監視し、又は癌治療計画に対する患者の応答を予測する工程
    を含む、上記方法。
  69. 漿液性癌を治療する方法であって、
    (a)漿液性癌患者に対して抗癌療法計画を実施する工程;
    (b)上記患者からの試料を用いて実施した請求項48から67に記載の一以上の方法から得られた結果を定期的に再検討する工程;並びに
    (c)上記結果に応じて、かつ該結果に一致するように治療法を変更する工程
    を含む、上記方法。
  70. 転移阻害剤又は転移エフェクターをスクリーニングする方法であって、
    (a)カテナ又はカテナ細胞の調製物を免疫不全非ヒト哺乳動物に静脈内注入する工程;
    (b)注入の前後又は注入と同時に、上記哺乳動物に一以上の試験化合物を投与する工程;並びに
    (c)対照哺乳動物の対照哺乳動物の腫瘍産生及び/又は腫瘍部位に対して、上記哺乳動物における腫瘍産生及び/又は腫瘍部位の経時変化を評価することによって、カテナ細胞の転移を阻害する化合物を特定する工程
    を含む、上記方法。
  71. 腫瘍産生の減少又は腫瘍部位の変化により、上記一以上の試験化合物を転移阻害剤または転移エフェクターとして特定する、請求項70に記載の方法。
  72. 薬効をスクリーニングするインビトロ方法であって、
    (a)カテナ又はカテナ細胞の調製物を免疫不全非ヒト哺乳動物に腹腔内注入する工程;
    (b)注入の前後又は注入と同時に、上記哺乳動物に一以上の試験化合物を投与する工程;並びに
    (c)
    (i)上記哺乳動物における腫瘍産生の経時変化、
    (ii)上記哺乳動物における漿液産生の経時変化、
    (iii)上記哺乳動物における腫瘍の形態、及び/又は
    (iv)上記哺乳動物の腹水における漿液性癌幹細胞の量、及び/又は漿液性癌幹細胞産生の経時変化
    を、対照哺乳動物のそれと比較して評価することによって、漿液性癌の治療における薬剤化合物の潜在的若しくは実際の有効性を判定する工程
    を含む、上記方法。
  73. 原発漿液性腫瘍由来のカテナ又は転移性腫瘍細胞からスフェロイドを製造する方法であって、
    スフェロイド形成を誘導し、かつスフェロイド培養系を作製するのに充分な量のマトリゲルを含有する第一の血清含有培地で、かつスフェロイド形成を誘導し、かつスフェロイド培養系を作製するのに充分な時間で、上記カテナ又は上記細胞の懸濁液を培養する工程、並びに
    追加のマトリゲルを含まない血清含有培地を定期的に上記培養系に添加する工程を含む、上記方法。
  74. 第一の血清含有培地のマトリゲルに対する比率が50:1であり、かつ上記培養系が毎週添加される、請求項73に記載の方法。
  75. 漿液からカテナを製造する方法であって、
    (a)癌患者から漿液の試料を取得する工程;
    (b)上記液から細胞を採取する工程;
    (c)無細胞漿液を添加した血清含有培地中で上記細胞を培養する工程;並びに
    (d)無細胞漿液を添加した新鮮血清含有培地中に、上記細胞によって産生された懸濁培養液を定期的に継代することによって、カテナを取得する工程
    を含む、上記方法。
  76. 上記漿液は、同一の癌患者から取得されたものであり、かつ1:1の割合で培地を添加される、請求項75に記載の方法。
  77. 上記細胞が毎週継代される、請求項75又は76に記載の方法。
  78. (a)CD49f、CD90、CD166、PDGFRA、及びGM2遺伝子;
    (b)CD49f、CD90、CD166、PDGFRA、GM2、CD34、CD133、MUC16、及びEPCAM遺伝子;
    (c)HAS2、PDGFRA、及び表11に記載の少なくとも10個の上方制御される遺伝子;
    (d)HAS2、PDGFRA、MUC16、EPCAM、及び表11に記載の少なくとも10個の上方制御される遺伝子;
    (e)表16に記載の少なくとも40個の蛋白質の遺伝子;
    (f)let−7及び200のmiRNAファミリー、hsa−miR−23b及びhsa−miR−27b、並びに表8に記載の少なくとも4つのその他miRNA;
    (g)HAS2、PDGFRA、及び表5に記載の少なくとも5つのその他遺伝子;
    (h)表7のリスト1の9つの遺伝子、及び表7のリスト2の少なくとも5つの遺伝子;
    (i)表5からの10以上の遺伝子;
    (j)CD63、COL1A2、及び表13に記載のタンパク質の少なくとも5つのその他遺伝子;
    (k)表15に記載の少なくとも20個のタンパク質の遺伝子;
    (l)表4に記載の少なくとも6個のグリコカリックスタンパク質の遺伝子;
    (m)ELN、FN1、表4に記載の少なくとも6個のグリコカリックスタンパク質の遺伝子、及び表4に下方制御されているものとして記載されている少なくとも2つのタンパク質の遺伝子;並びに
    (n)PDGFRAと、PDGFRβ、EGFR、ERBB4、FGFR2、FGFR3、インスリン‐R(Insulin−R)、IGF1R、DTK/TYRO3、MER/MERTK、MSPR/RON、Flt−3、c−rRET、ROR1、ROR2、Tie−1、Tie−2、TrkA/NTRK1、VEGFR3、EphA1、EphA3、EphA4、EphA7、EphB2、EphB4及びEphB6とからなる群から選択される少なくとも6種のタンパク質の遺伝子
    からなる群から選択される哺乳類遺伝子用のPCRプライマーを含む、PCRプライマーセット。
  79. 電子顕微鏡法用にグリコカリックス被覆を有する細胞を調製する方法であって、
    (a)電子顕微鏡における使用に適合したカチオン性表面上に上記細胞を分注する工程;
    (b)上記カチオン性表面上に上記細胞を定着及び付着させる工程;
    (c)上記分注した細胞に、固定剤、及び任意に一以上の染色剤を添加し、かつ該細胞及びグリコカリックスを固定し得る時間及び条件下でインキュベートする工程;並びに
    (d)上記表面から、上記固定剤、及び使用されている場合は染色剤を洗い流す工程
    を含む、上記方法。
  80. 漿液が卵巣である、上記請求項の何れか1項に記載の方法。
  81. 哺乳類がヒト、マウス、ブタ、ウシ又はヒツジである、上記請求項の何れか1項に記載の方法、細胞、核酸、ベクター、タンパク質又は遺伝子。
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