JP2013199726A - エレクトロ蛍光クロミズムを示す高分子ナノファイバー - Google Patents

エレクトロ蛍光クロミズムを示す高分子ナノファイバー Download PDF

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Abstract

【課題】導電性やエレクトロクロミック特性を持つ共役高分子の合成を行う。
【解決手段】n-ヘキシル-2,7-ジ(2-チエニル)カルバゾールを、電解液中において電気化学重合することにより高分子ナノファイバーとその集合体が得られる。この高分子ナノファイバーのフィルムは、還元状態で400〜500nmの励起光照射によって蛍光を発し、フィルムへの印加電圧の変化によって、酸化還元状態に基づいて可逆的に発光するエレクトロ蛍光クロミズムを示し、蛍光は偏光特性を示す。
【選択図】図4

Description

本発明は、電気化学重合によって合成される共役高分子に関するものであり、さらに詳しくは、ナノ構造を有する共役高分子に関するものである。
フォトルミネッセンスおよびエレクトロルミネッセンスは励起電子の緩和を介して起こる発光のプロセスであり、合成染料たけでなく、生物や植物、特に深海魚で観察することができる。驚くことには、いくつかの種では発光を制御することができる。
フォトルミネッセンスおよびエレクトロルミネッセンスを示すπ共役系ポリマーは、発光デバイスにおける応用のために、そして感光材料として開発された。
共役ポリマーを得るための多くの合成法の中で、電気化学重合は、電気活性高分子薄膜の作製のための有用な方法である。
電気化学的プロセスは、非触媒反応であり、そして電気化学セルを通過する電流および蓄積電荷をモニターすることによって、重合プロセスを簡便に制御することができるので、この重合法は良好な再現性を提供する。
電気化学重合のためのモノマーは、-Cl、-Br、-I、-SnR3、および-B(OR)2のような反応性サイトを得るための化学構造の修飾を必要としない。さらに、電気化学的方法は、発熱反応ではない。
一般に、電気化学重合の初期段階はモノマーの酸化重合であるため、比較的低い酸化電位を持つピロール、フラン、チオフェン、および3,4-エチレンジオキシチオフェンなどの電子豊富なヘテロ芳香環が電気化学重合用モノマーの構造に導入される。酸化電位の低いモノマーを重合させることで、バンドギャップの低いポリマーを生成することができる。
現在までに、エレクトロクロミック素子、有機発光ダイオード、有機光起電技術などの様々な応用のために、多くの種類の電気化学的に合成したポリマーが報告された。
電気化学重合は、モノマー構造および重合条件に依存する種々の表面構造や形態を持つ共役系高分子膜を生成する(非特許文献1〜3)。
表面構造および形態は、高分子材料の特性に影響を及ぼす。電気化学的に合成したポリマーの表面構造および形態を制御するために、ナノアレイ、ナノチューブ、ナノスフェアを生成することができる多くの技術が開発された。このようなナノ構造共役ポリマー、特にナノファイバーは、オプト-エレクトロニック機能の観点から注目を集めている。
導電性やエレクトロクロミック特性を持つ共役高分子は、化学および物理の両方の面において、そして工業的な応用において多くの注目を集めている。本発明者らは、これまでに各種の液晶場での電気化学重合の技術によって、このような共役高分子の合成について検討を進めてきた(特許文献1〜3参照)。
特開2008−223016号公報 特開2011−084599号公報 特開2011−127033号公報
Darmanin, T.; Guittard, F. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 15627-15634. Ashrafi, A.; Golozar, M. A.; Mallakpour, S. Synth. Met. 2006, 156, 1280-1285. Niua, L.; Kvarnstroma, C.; Froberg, K.; Ivaska, A. Synth. Met. 2001, 122, 425-429.
本発明者らは、N-ヘキシル-2,7-ジ(2-チエニル)カルバゾールをモノマー原料として、アセトニトリル溶液中で電気化学重合を行ったところ、驚くべきことに、ナノファイバー形状のポリマー構造体が得られることを見出した。そして、このナノファイバーのフィルムは蛍光を示し、さらに、電気化学的に駆動されるフォトルミネッセントスイッチング機能を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、n-ヘキシル-2,7-ジ(2-チエニル)カルバゾールを、電解液中において電気化学重合させて得られる高分子ナノファイバーが提供される。
この高分子ナノファイバーは、直径が、例えば、100〜200nmの範囲内である。
この高分子ナノファイバーは、典型的には、高分子共役主鎖が高分子ナノファイバーの長手方向軸に対して垂直に配向している。
また本発明によれば、上記の高分子ナノファイバーが交絡している高分子ナノファイバー集合体が提供される。この高分子ナノファイバー集合体は、典型的には、薄膜状の高分子ナノファイバーフィルムである。
この高分子ナノファイバーフィルムは、還元状態で400〜500nmの励起光照射によって緑色の蛍光を発し、フィルムへの印加電圧の変化によって、酸化還元状態に基づいて可逆的に発光するエレクトロ蛍光クロミズムを示す。また、この蛍光は、偏光特性を示す。
白金ディスク作用電極、白金線対電極、およびAg/Ag+の参照電極を用いた単量体の電気化学重合のためのサイクリックボルタモグラムである。電解質溶液は、アセトニトリル中に0.1Mの過塩素酸テトラブチルアンモニウムと1.0mMのTCz6が含まれている。スキャン速度は100mV/sである。 繰り返し電圧サイクルによって電気化学重合の間にITOガラス電極上に堆積したPTCz6フィルムのin-situ UV-Vis吸収スペクトルである。スキャン速度は100mV/sである。各スペクトルは、ポリマーが還元した状態である-0.2V(対Ag/Ag+)で測定された。 電気化学重合により調製したPTCz6のMALDI-TOF-MSスペクトルである。 (a),(b)はITOガラス電極上に電着したPTCz6膜の表面の走査型電子顕微鏡画像、(c)はガラス基板上のPTCz6ナノファイバーのタッピングモードAFM画像、(d)は断面プロファイル、(e)は3Dプロファイルである。 未ドープ(左)と電気化学的にドープされた(右)部分の境界における、(a)可視白色光下および(b)入射UV光下での、ITOガラス電極上に堆積したPTCz6ナノファイバーフィルムの写真と、(c)PTCz6ナノファイバーフィルム表面の蛍光顕微鏡像である。 (a)電気化学的酸化および(b)電気化学的還元のプロセスの間の様々な印加電圧(対Ag/Ag+)における、ITOガラス電極上に堆積したPTCz6のin-situ UV-VIS-NIRスペクトルである。 (b)電気化学的酸化および(c)電気化学的還元のプロセスの間の写真(a)と、様々な印加電圧(対Ag/Ag+)におけるITOガラス電極上に堆積したPTCz6のin-situ フォトルミネッセンススペクトルである。 繰り返し電圧サイクルにおけるPTCz6フィルムの425nm(青)、565nm(緑)、および1300nm(赤)でのUV-VIS-NIR吸収強度と、535 nmでのPL強度の時間依存性を示す。電圧は、-0.2〜0.6V(対Ag/Ag+)の間で、走査速度100mV/sで400秒間印加した。 PTCz6ナノファイバーに垂直(a)および平行(b)な偏光方向を持つPTCz6ナノファイバーの偏光蛍光顕微鏡画像である。 ITOガラス電極上に堆積したPTCz6ナノファイバー膜(上)とITOガラス電極(下)のX線回折パターンである。 ナノファイバー中のPTCz6分子鎖の可能な充填構造の模式図である。 ITOガラスフィルム上に電着したPTCz2フィルム((a),(b))、PTCz4フィルム((c),(d))、PTCz8フィルム((e),(f))の表面の走査型電子顕微鏡画像である。
本明細書において、「高分子ナノファイバー」とは、直径が、例えば300nm以下、特に50〜300nm、さらには100〜200nmの範囲内であり、長さが、例えば30μm以下、特に1〜20μmの繊維状のものとして定義される。
「高分子ナノファイバー集合体」は、集合体を構成する大部分の繊維の直径と長さが上記の範囲にあり、これらの繊維が交絡している繊維の集合体として定義される。
すなわち、高分子ナノファイバーの直径(太さ)と長さは走査型電子顕微鏡像によって計測でき、これらは高分子ナノファイバー集合体中で分布を持つが、その大部分が上記の範囲内にある。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の高分子ナノファイバーは、n-ヘキシル-2,7-ジ(2-チエニル)カルバゾールを、電解液中において電気化学重合させて得られる。
電解液は、原料モノマーのn-ヘキシル-2,7-ジ(2-チエニル)カルバゾールを溶媒に溶解して調製される。必要に応じて、支持電解質が溶媒に添加される。
溶媒は、原料モノマーや支持電解質を溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、有機溶媒、特に、アセトニトリル、ジクロロメタンなどの極性溶媒などを用いることができる。
支持電解質は、液体に添加して導電性を上げるための電解質である。溶液中に電解質を加えることで、電極間のインピーダンスを下げることができる。支持電解質には、目的化合物と相互作用せず、また電極表面で副反応を起こさない物質が選ばれる。通常は目的化合物に対し過剰量加えるため、用いる溶媒に十分な溶解度を持つこと、およびその濃度で十分に解離することも必要である。
支持電解質としては、例えば、有機溶媒系では過塩素酸テトラブチルアンモニウム(TBAP)、過塩素酸リチウムなどの過塩素酸塩などを用いることができる。
支持電解質の添加量は、特に限定されないが、例えば、原料モノマーの100モル倍程度の量が添加される。
原料モノマーの添加量は、特に限定されないが、例えば、サイクリックボルタンメトリーによって反応をモニターする場合には、0.1〜1mM程度にすることができる。
電気化学重合のための装置は、電極を有する各種の構成とすることができる。例えば、ポリマー堆積させるために酸化インジウムスズ(ITO)被覆ガラスを電極に用いることができる。
また、サイクリックボルタンメトリーによって電気化学測定を行う装置構成とすることで、電圧サイクルでの電流応答強度によって反応をモニターできる。サイクリックボルタンメトリーは、例えば、ファンクションジェネレーターとポテンショスタット、電気化学計測用セル、X-Yレコーダーなどを備えた、コンピューター制御できる装置系で測定を行うことができる。電極は、実際に物質との電子の授受を行う作用極、作用極の電位を決定する際の基準となる参照極、作用極で発生するのと同じ電流値を系に返すための対電極から構成される3電極系を用いることができる。
電気化学的酸化カップリング反応は、チオフェン環の間でα-位結合を与え、対応する共役ポリマーが得られる。このとき、電気化学重合プロセス中に共役ポリマーの自己凝集が起き、これによってナノファイバーが生成する。
高分子ナノファイバーのフィルムは、典型的には、アセトニトリル、アセトンに不溶であり、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルムでは部分的に可溶である。
なお、N-ヘキシル-2,7-ジ(2-チエニル)カルバゾールとはアルキル鎖長が異なる誘導体(エチル鎖、ブチル鎖、オクチル鎖)ではファイバーの形成は認められなかった。これは、モノマーの化学構造が、得られるポリマーの凝集形態に強く影響を及ぼすことを示す。
電気化学重合によって、高分子ナノファイバーが電極上に堆積され、高分子ナノファイバー集合体が形成される。典型的な態様では、この高分子ナノファイバー集合体は、薄膜状の高分子ナノファイバーフィルムである。
この高分子ナノファイバーフィルムは、還元状態(未ドープ)で400〜500nmの励起光照射によって緑色の蛍光を発し、フィルムへの印加電圧の変化によって、酸化還元状態に基づいて可逆的に発光するエレクトロ蛍光クロミズムを示す。
また、ナノファイバーにおける高分子鎖の秩序構造、すなわち共役主鎖が高分子ナノファイバーの長手方向軸に対して垂直に配向している結晶秩序に起因し、この蛍光は、偏光特性を示す。これらはX線回折測定と偏光蛍光顕微鏡観察から確認される。このナノファイバーの非テンプレートのボトムアップ形成は、電気化学重合の間に成長するポリマーの自己組織化によるものである。
このように、n-ヘキシル-2,7-ジ(2-チエニル)カルバゾールの成長ポリマーは一次元に凝集しナノファイバーを形成する。本発明は、ボトムアップ技術の観点から、電気化学重合によって電極基板上にナノ構造ポリマーを堆積させる簡便かつ直接的な方法を提供し、各種の産業分野への応用が期待できる。
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
以下の実施例において、サイクリックボルタンメトリー測定はμAUTOLAB TYPE III(ECO Chemie社)を用いて行った。紫外-可視近赤外(UV-VIS-NIR)吸収スペクトルはUV-3100PC(島津製作所)を用いて行った。フォトルミネッセンス(PL)スペクトルは、F-4500分光光度計(日立)を用いて測定した。赤外線(IR)吸収スペクトルは、KBr錠剤法によってFT / IR 550(JASCO)を用いて測定した。マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)分析は、ジスラノールを用いて、マトリックスTOF/TOF 5800(AB SCIEX社)を用いて行った。走査型電子顕微鏡観察は、JSM-5610(JEOL)を用いて行った。タッピングモード原子間力顕微鏡(AFM)は、Agilent 5500(Agilent社)とシリコンプローブNCH-10T(Nanoworld社)を用いた。偏光蛍光顕微鏡は、蛍光顕微鏡(X-Cite 120, Exfo)を備えた偏光光学顕微鏡(ECLIPSE LV100, NIKON)を用いた。X線回折測定は、CuKα線(λ=1.5418A)を用いてRigaku RAD-Bを用いて行った。
次のスキームに従ってPTCz6の電気化学重合を行った。
n-ヘキシル-2,7-ジ(2-チエニル)カルバゾール(TCz6)は以前に報告された方法に従って合成した(Kawabata, K.; Goto, H. Synth. Met. 2010, 160, 2290-2298.)。
TCz6の間での電気化学的酸化カップリング反応は、チオフェン環の間でα-位結合を与え、上記スキームに示すように、対応する共役ポリマーPTCz6を得た。
単量体の電気化学重合は、酸化インジウムスズ(ITO)被覆ガラスまたは白金ディスク作用電極、Ag/Ag+参照電極、白金線対極からなる三電極系を用いた繰り返しの電圧サイクリングを用いて行った。
電解液は過塩素酸テトラブチルアンモニウム(TBAP, 0.1M)とモノマー(1.0mM)のアセトニトリル溶液を用いた。
図1は、白金ディスク作用電極を用いたTCz6の電気化学重合のためのサイクリックボルタモグラムを示す。最初のサイクルの酸化電流の開始は、TCz6の酸化電位0.67V(対Ag/Ag+)に相当する。続くサイクルにおける電流応答強度の増大は、重合反応の進行を示す。
約0.5Vと0.3Vでの酸化および還元電流のピークは、それぞれ、電極上に堆積した生成ポリマーのπ共役系の減少に対応する。サイクル数の増加に伴う酸化および還元の開始電流の低下は、ポリマー骨格の有効共役長の延長を示す。
共役ポリマー鎖の成長は、TCz6の電気化学重合中のin-situ UV-Vis吸収分光法でも確認された(図2)。重合前は、400nm(TCz6の吸収極大は353nm)よりも長波長では吸収バンドが観察されなかった。一方、繰り返しの電圧サイクルの後では、共役主鎖のπ-π*遷移に起因する約425nmでの新たな吸収帯が出現し、サイクルの増加と共に吸収極大と吸収開始波長はレッドシフトした。これは、電気化学重合による共役ポリマーの生成と成長を示す。さらに、490nmの小さな吸収ショルダーは、フィルム状の共役骨格の間でのπ-スタッキングに起因すると考えられる。
未ドープPTCz6の赤外(IR)吸収スペクトルは、吸収帯がわずかにブロードになるが、モノマー(TCz6)と同様の吸収スペクトル示す。しかし、チオフェンユニットのC-H変角振動(δC-H)による806cm-1でTCz6の吸収帯は、電気化学重合後、792cm-1にシフトした。この792cm-1のバンドは、2,5-置換チオフェンのC-H変角振動(δC-H)の特徴である。従って、このエネルギーシフトは、電気化学重合の間にチオフェン単位のα-位でのモノマー間カップリング反応が起こったことを示す。
さらに、チオフェン環のα-位のC-H伸縮振動の特徴である3100cm-1でのTCz6の吸収帯は、重合後に消失した。一方、チオフェンのβ-位のC-H伸縮振動(νC-H)による3070cm-1でのTCz6の吸収帯は、重合後も残存し、5cm-1だけ若干レッドシフトした。これによって、TCz6の電気化学重合が、TCz6のチオフェン単位のα-位の間のカップリング反応を経由してPTCz6が生成したことが確認される。
PTCz6フィルムは、アセトニトリル、アセトンに不溶であったが、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルムには部分的に可溶であった。
PTCz6フィルムの可溶部分の分子量はポリスチレン標準でTHFを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。PTCz6の可溶部分のGPC曲線は、ダイマー、トリマー、およびテトラマーに相当する3つの異なるピークを示した。測定前に、不溶性の凝集ポリマーを除去するために試料溶液を0.2μmのシリンジフィルターで濾過したため、決定された分子量は非常に小さかった。
また、MALDI-TOF-MSによりPTCz6フィルムの分子量を調べた。PTCz6フィルムはITO基板から掻き取り、マトリックスとして使用するジスラノールと混合した。図3は、PTCz6のMALDI-TOF-MSスペクトルを示す。スペクトルは、モノマー単位の分子量(m/z=413.13)に相当するm/z=約413の周期を持つ周期的なピークを示した。この測定では、13mersに相当するm/z=5375までのピークが検出された。スペクトルのピーク強度はm/z値の増加に伴って減少した。この結果は、電気合成したポリマーのMALDI-TOF-MS測定は、ポリマーの低分子量画分の分子量を評価できることを示している。
ITOガラス電極上に電着したPTCz6膜の表面形態を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した。一般に、電気化学的に重合したポリマーフィルムの表面形態は、平坦(flat)、多孔性(porous)、あるいは起伏に富むか(rugged)、球形(globular)である。しかし、未ドープのPTCz6の表面は、絡み合ったナノ構造を示した(図4(a),(b))。
このナノファイバーは、直径100〜200nmで10〜20μm程度までの長さを有している。ナノファイバーは、基板上に積み重なってフィルムを形成した。PTCz6ナノファイバーフィルムはアセトニトリルに不溶であるが、絡み合ったナノファイバーは、アセトニトリル中での超音波処理によってある程度解繊した。
図4(c)および図4(e)は、それぞれ、ガラス基板上で解繊したナノファイバーのAFM像とその3次元プロファイルを示している。図4(d)は、ナノファイバーの断面プロファイルを示す。これらの画像では、2つのファイバーが基板上で交差している。長いほうのファイバーの長さは約7μmであり、断面プロファイルから推定したその直径は約150nmであった。このナノファイバーは、電気化学重合プロセス中に自己凝集によって形成することができる。
次に、光学的性質について考察する。一般に、電気化学重合によって得られた共役系高分子膜は、フィルム中の残留ドーパント、ポリマーの凝集構造、および共役主鎖間の望ましくない架橋のために、PLの消光が起こり、蛍光性を示さない(または非常に弱い)。しかし、このPTCz6ナノファイバーフィルムは、その未ドープの状態でPL特性を示した。
図5(a)および図5(b)は、可視白色光とUV光下でのPTCz6フィルムの写真を示す。可視白色光下では、ポリマーフィルムの未ドープ領域(左側)は黄色になり、ドープ領域(右側)は黒色になった。一方、入射UV光下では、未ドープ領域(左側)は、蛍光のライトグリーンを示し、ドープ領域(右側)は蛍光を示さなかった。
また、蛍光顕微鏡で450-490nmの励起波長を用いてPTCz6膜を観察した(図5(c))。未ドープ部分にはナノファイバーからのPL発光が観察され、一方でドープされた部分には、PL発光は見られなかった。
ドープ状態のポリマーフィルムのこの消光は、電気化学的酸化によって生成された共役系骨格に沿って生成したラジカルカチオン(ポーラロン)とジカチオン(バイポーラロン)によるものである(Kaneto, K.; Hayashi S.; Yoshino, K. J. Phys. Soc. Jpn. 1988, 57, 1119-1126., Hayashi, S.; Kaneto, K.; Yoshino, K. Solid State Commun. 1987, 61, 249-251., Bradley, D. D. C.; Friend, R. H. J. Phys.: Condens. Mater. 1989, 1, 3671-3678.)。ニュートラル状態では、基底状態の分子は、共役主鎖のπ-π*遷移に相当する約425nmでの光吸収によって光励起される。その後、光励起分子は、放射過程を経由して緩和し緑色の光を発光する(λem,max=535nm)。酸化状態では、無放射励起子の減衰がポーラロニック消光中心で起こり、PL強度が減衰する。
電気化学的酸化還元プロセス中に、PTCz6フィルムのUV-VIS-NIR吸収とPLスペクトルを可逆的に変化させた。図6は、三電極系で様々な印加電圧でのPTCz6フィルムのUV-VIS-NIR吸収スペクトルを示す。
還元状態の-0.2V(対Ag/Ag+)では、ポリマーは、共役主鎖のπ-π*遷移に起因する425nmでの吸収帯のみ示した。425nmの吸収帯が減少し、電圧の増加に伴って407nmにブルーシフトし、565nm付近と1300nm付近に新たな吸収帯が出現した。これは共役主鎖の酸化によって生成されたポーラロンとバイポーラロンにそれぞれ対応する。
π-π*遷移帯域のブルーシフトは、ポーラロンとバイポーラロンによる未ドープ分子鎖の有効共役長の短縮により観察されたものである(Hayashi, S.; Kaneto, K.; Yoshino, K. Solid State Commun. 1987, 61, 249-251.)。一方、還元過程の間に、ポーラロンバンドとバイポーラロンバンドが消失し、425 nmのバンドは元の強度を取り戻した。
酸化過程における0.4〜0.5Vで大きな光学変化が観察され、一方で還元過程においてゆっくりした変化が観察されたことは注目に値する。言い換えれば、強度の非線形スペクトル変化が電気化学プロセスの間に観察された。
Dyerらは、エレクトロクロミックポリ(ジアルコキシチオフェン)でこれらの現象を報告し(Dyer, A. L.; Craig, M. R.; Babiarz, J. E.; Kiyak, K.; Reynolds, J. R. Macromolecules, 2010, 43, 4460-4467.)、強調的な分子内ドミノ効果(a cooperative intramolecular domino effect)と言及した。これはポリ(アルキルチオフェン)とポリ(アルコキシチオフェン)のサーモクロミズムについてLeclercによって記述された“twiston'”に類似している(Casado, J.; Hotta, S.; Hernandez, V.; Navarrete, J. T. L. J.Phys. Chem. A 1999, 103, 816-822., Leclerc, M. Adv. Mater. 1999, 11, 1491-1498.)。
図7は、三電極系(対Ag/Ag+)での様々な印加電圧における励起波長425nmのPTCz6フィルムのPLスペクトルを示す。還元状態で、PTCz6フィルムは535nmの緑色の光を発し、印加電圧の増加に伴って発光は減少した。その後、0.6Vの酸化状態(対Ag/Ag+)では、ポリマーはPLを示さなかった。これは、ポリマーの共役主鎖でのポーラロンとバイポーラロンの生成が、光励起のエネルギー緩和に放射過程よりもむしろ無輻射遷移過程を促進したためである。還元過程では、PL強度は印加電圧の減少と共に次第に回復した。
エレクトロクロミック特性の可逆性と再現性を調べるために、繰り返し電圧サイクルの間のPTCz6フィルムの425nm、565nm、および1300nmの吸収強度の変化と535nmでのPL強度の変化について検討した(図8)。電圧は、-0.2〜0.6V(対Ag/Ag+)の間で走査速度100mV/sで400秒間連続的に印加した。425nm、565nm、および1300nmでの吸収強度と535nmでのPL強度は、周期的な電圧サイクルに応答した。
吸収強度は、PTCz6フィルムは良好な再現性を示した。最初のサイクル後に、PL強度は初期段階の強度の90%に復元された。しかし、第二サイクルの後に、それは約99%の可逆性を示した。24サイクル後に、可逆性は初期強度の82%にわずかに減少した。これらの結果は、ポリマーは良好な再現性で、動的な制御可能な変化を示すことを証明した。
PTCz6ナノファイバーからの偏光PL発光を視覚的に偏光蛍光顕微鏡で観察した。図9(a)と図9(b)は、異なる偏光方向での入射UV光下でのPTCz6ナノファイバーの偏光蛍光顕微鏡画像を示す。ナノファイバーに垂直な方向の偏光において、ナノファイバーからのフォトルミネセンス発光は平行方向の場合よりもより明るく観察された。これは、線形共役ポリマーは通常、共役主鎖に沿って遷移双極子モーメントを持っているが、PTCz6の共役主鎖がナノファイバーの長手方向軸に対して垂直に揃ったためである。
このナノファイバーの分子配向は、共役主鎖がファイバーの長軸に沿って配向された、エレクトロスピニングにより作製した共役高分子ナノファイバーのそれとは異なっている(Tu, D.; Pagliara, S.; Camposeo, A.; Persano, L.; Cingolani, R.; Pisignano, D. Nanoscale 2010, 2, 2217-2222., Pagliara, S.; Vitiello, M. S.; Camposeo, A.; Polini, A.; Cingolani, R. J. Phys. Chem. C2011, 115, 20399-20405.)。この分子配向は、むしろ、ポリマー鎖がナノファイバー軸に垂直な長手方向軸に詰まった、キャストフィルム、ウィスカ法、またはシャドウマスクを用いて作製したポリチオフェンナノファイバーに共通している(Merlo, J. A.; Frisbie, C. D. J. Phys. Chem. B 2004, 108, 19169-19179., Samitsu, S.; Shimomura, T.; Heike, S.; Hashizume, T.; Ito, K. Macromolecules 2008, 41, 8000-8010., Zhang, R.; Li, B.; Iovu, M. C.; Jeffries-EL, M.; Sauve, G.; Cooper, J.; Jia, S.; Tristram-Nagle, S.; Smilgies, D. M.; Lambeth, D. N.; McCullough, R. D.; Kowalewski, T. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 3480-3481.)。
さらに、ITOガラス電極上に堆積したPTCz6ナノファイバー膜のX線回折(XRD)測定を行い、ナノファイバーにおける高分子鎖の秩序構造を調べた。図10は、PTCz6フィルムとITOガラス電極基板のXRDパターンを示す(21.3°のピークはITOガラス電極からの特徴的な回折によるものである)。
PTCz6膜のXRDパターンはそれぞれ、2.7°と4.4°(=2θ)の付近において、明確に定義されたピークを示し、これは32.1A、20.1Aのd-間隔にそれぞれ対応する。これらのd-間隔は、反対方向で交互に置換された、主鎖に垂直な隣接するアルキル鎖の理論計算距離と、隣接する主鎖の理論計算距離によく一致している。
XRDパターンは、6.2°と17.8°(=2θ)で2つの小さなピークを示し、これらはそれぞれ14.3Aと5.0Aのd-間隔に対応する。5.0Aのd-間隔は、隣接する主鎖の間のπ-スタッキング距離に同定される。図11に示すように、これらの結果は、ナノファイバーのPTCz6のポリマー鎖の充填可能な構造につながる。
以上のように、良く構造化されたナノファイバーは、アセトニトリル中でのTCz6の電気化学重合によって合成された。しかし、異なるアルキル鎖長の誘導体(PTCz2:エチル鎖、PTCz4:ブチル鎖、PTCz8:オクチル鎖)ではファイバーの形成は認められなかった(図12)。これは、モノマーの化学構造が、得られるポリマーの凝集形態に強く影響を及ぼすことを示す。

Claims (7)

  1. n-ヘキシル-2,7-ジ(2-チエニル)カルバゾールを、電解液中において電気化学重合させて得られる高分子ナノファイバー。
  2. 直径が100〜200nmの範囲内である請求項1に記載の高分子ナノファイバー。
  3. 高分子共役主鎖が高分子ナノファイバーの長手方向軸に対して垂直に配向している請求項1または2に記載の高分子ナノファイバー。
  4. 請求項1から3のいずれかに記載の高分子ナノファイバー同士が交絡している高分子ナノファイバー集合体。
  5. 請求項4に記載の高分子ナノファイバー集合体からなり薄膜状である高分子ナノファイバーフィルム。
  6. 還元状態で400〜500nmの励起光照射によって蛍光を発し、フィルムへの印加電圧の変化によって、酸化還元状態に基づいて可逆的に発光するエレクトロ蛍光クロミズムを示す請求項5に記載の高分子ナノファイバーフィルム。
  7. 蛍光が偏光特性を示す請求項6に記載の高分子ナノファイバーフィルム。
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