JP2013158297A - サツマイモ由来モノテルペン配糖体化酵素及びその利用方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】サツマイモ由来モノテルペン配糖体化酵素及び同酵素を用いたモノテルペン配糖体の製造方法の提供。
【解決手段】サツマイモ由来モノテルペン配糖体化酵素及び同酵素を用いたモノテルペン配糖体の製造方法、およびサツマイモ由来モノテルペン位配糖体酵素遺伝子を導入した形質転換体及び当該形質転換体の作製方法。モノテルペン化合物が、ゲラニオール又はリナロールであり、UDP-糖が、UDP-グルコースである、モノテルペン配糖体の製造方法。
【選択図】なし
【解決手段】サツマイモ由来モノテルペン配糖体化酵素及び同酵素を用いたモノテルペン配糖体の製造方法、およびサツマイモ由来モノテルペン位配糖体酵素遺伝子を導入した形質転換体及び当該形質転換体の作製方法。モノテルペン化合物が、ゲラニオール又はリナロールであり、UDP-糖が、UDP-グルコースである、モノテルペン配糖体の製造方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、モノテルペンを配糖体化する活性を有するタンパク質及びこれをコードするポリヌクレオチド、同タンパク質を利用したモノテルペン配糖体の製造方法、モノテルペン配糖体化酵素を高発現する形質転換体並びに前記方法により作製されたモノテルペンの配糖体及びその利用に関する。また、本発明は、モノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質の発現が抑制された植物及びその利用に関する。
テルペノイド、特にモノテルペン(C10)やセスキテルペン(C15)など分子量が比較的小さいテルペノイド類は植物の主要香気成分であり、食品、酒類のフレーバーのみならず化粧品や香水に至る工業製品にまで幅広く利用されている。リナロールに代表されるモノテルペンは植物細胞内で合成されるが、一部は配糖体として蓄積していることが知られており、たとえばアブラナ科シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)では水酸化リナロールの配糖体が報告されている(非特許文献1)。モデル植物のみならず産業上重要な作物であるアサ科ホップ(Humulus lupulus)(非特許文献2)やツバキ科チャ(Camellia sinensis)(非特許文献3-6)やショウガ科ショウガ(Zingiber officinale)(非特許文献7)においてもモノテルペン配糖体が蓄積していることが知られている。さらに植物界に幅広く報告されていることから(非特許文献8)、配糖体は香気成分の前駆体として一般的な形であると考えられる。香気前駆物質であるテルペン配糖体を酵素あるいは非酵素的に糖を切除し、香気成分を揮発させるといった人工制御についても産業応用的な見地から検討されている(非特許文献9)。
しかしながらこれまでにモノテルペン配糖体の糖を切る酵素(β-プリメベロシダーゼ(β-primeverosidase))はチャから単離されているものの(非特許文献10)、モノテルペンに糖が付加される(配糖体化される)分子機構については不明である。シロイヌナズナのUDP-sugar依存的配糖体化酵素(UDP-sugar dependent glycosyltransferase:UGT)の網羅的活性スクリーニングによって一部のUGT酵素が試験管内でモノテルペンに反応することが報告されているが、生理的な役割やその活性の意義は示されていない(非特許文献11)。ミカン科スイートオレンジ(Citrus sinensis)にもモノテルペン配糖体が蓄積している為、モノテルペンに対するUGTのスクリーニングが行われたが、活性のあるUGT酵素遺伝子の同定に至っていない(非特許文献12)。
ヒルガオ科サツマイモ(Ipomoea batatas)の黄金千貫品種は鹿児島を中心とする芋焼酎の主原料である。芋焼酎においてもモノテルペンは主要な香気成分であり、それらのほとんどは芋(塊茎)の果皮に配糖体として蓄積されていることが知られている(非特許文献13)。しかしながら、サツマイモのUGTについてはその酵素又は同酵素をコードする遺伝子のいずれも同定されていない。
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本発明者らは鋭意研究を遂行した結果、サツマイモにおいてモノテルペンの配糖化反応を触媒する酵素及び同酵素をコードする遺伝子配列を同定することに成功した。本発明は、上記知見に基づくものである。
即ち、本発明は、以下のとおりである。
[1] 以下の(a)〜(c)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のタンパク質。
(a)配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号2又は4のアミノ酸配列において、1〜95個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質;
(c)配列番号2又は4のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質
[2] 前記モノテルペン化合物が、ゲラニオール又はリナロールである、前記[1]に記載のタンパク質。
[3] 以下の(a)〜(e)よりなる群より選ばれるポリヌクレオチド。
(a)配列番号1又は3の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2又は4のアミノ酸配列において、1〜95個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2又は4のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号1又は3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、モノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
[4] 前記[3]に記載のポリヌクレオチドが導入された非ヒト形質転換体。
[5] 前記ポリヌクレオチドが、発現ベクターに挿入されたものである、前記[4]に記載の形質転換体。
[6] 植物体である、前記[4]に記載の形質転換体。
[7] 前記[4]に記載の形質転換体の抽出物。
[8] 前記[7]に記載の抽出物を含む食品、香料、医薬品又は工業原料。
[9] 前記[4]に記載の非ヒト形質転換体を培養することを特徴とする、モノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質の製造方法。
[10] 前記[1]に記載のタンパク質と、UDP-糖と、モノテルペン化合物とを反応させて前記モノテルペン化合物を配糖化する工程を含む、モノテルペン配糖体の製造方法。
[11] 前記UDP-糖が、UDP-グルコースである、前記[10]に記載の方法。
[12] 前記モノテルペン化合物が、ゲラニオール又はリナロールである、前記[10]に記載の方法。
[1] 以下の(a)〜(c)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のタンパク質。
(a)配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号2又は4のアミノ酸配列において、1〜95個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質;
(c)配列番号2又は4のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質
[2] 前記モノテルペン化合物が、ゲラニオール又はリナロールである、前記[1]に記載のタンパク質。
[3] 以下の(a)〜(e)よりなる群より選ばれるポリヌクレオチド。
(a)配列番号1又は3の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2又は4のアミノ酸配列において、1〜95個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2又は4のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号1又は3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、モノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
[4] 前記[3]に記載のポリヌクレオチドが導入された非ヒト形質転換体。
[5] 前記ポリヌクレオチドが、発現ベクターに挿入されたものである、前記[4]に記載の形質転換体。
[6] 植物体である、前記[4]に記載の形質転換体。
[7] 前記[4]に記載の形質転換体の抽出物。
[8] 前記[7]に記載の抽出物を含む食品、香料、医薬品又は工業原料。
[9] 前記[4]に記載の非ヒト形質転換体を培養することを特徴とする、モノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質の製造方法。
[10] 前記[1]に記載のタンパク質と、UDP-糖と、モノテルペン化合物とを反応させて前記モノテルペン化合物を配糖化する工程を含む、モノテルペン配糖体の製造方法。
[11] 前記UDP-糖が、UDP-グルコースである、前記[10]に記載の方法。
[12] 前記モノテルペン化合物が、ゲラニオール又はリナロールである、前記[10]に記載の方法。
本発明のタンパク質及びこれをコードするポリヌクレオチドを利用することにより、高効率にテルペン化合物の配糖体を製造することができる。また、本発明の形質転換体は、テルペン化合物の配糖体の含有量が高いため、これらの形質転換体から、効率よくテルペン化合物の配糖体を抽出・精製することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
本発明者らは、サツマイモのモノテルペン化合物の配糖体化反応を担う酵素タンパク質が、IbUGT36及びIbUGT42であることを初めて解明した。 IbUGT36のCDS配列及び推定アミノ酸配列は、それぞれ配列番号1及び2である。また、IbUGT42のCDS配列及び推定アミノ酸配列は、それぞれ配列番号3及び4である。これらのポリヌクレオチド及び酵素は、後述の実施例に記載した手法、公知の遺伝子工学的手法、公知の合成手法等によって取得することが可能である。
1.サツマイモ由来モノテルペン配糖体化酵素
本発明は、以下の(a)〜(c)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のタンパク質(以下、「本発明のタンパク質」という)を提供する。
(a)配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号2又は4のアミノ酸配列において、1〜95個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質;
(c)配列番号2又は4のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質
本発明は、以下の(a)〜(c)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のタンパク質(以下、「本発明のタンパク質」という)を提供する。
(a)配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号2又は4のアミノ酸配列において、1〜95個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質;
(c)配列番号2又は4のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質
上記(b)又は(c)に記載のタンパク質は、代表的には、天然に存在する配列番号2又は4のポリペプチドの変異体であるが、例えば、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"、"Nuc. Acids. Res., 10, 6487(1982)"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409(1982)"、"Gene, 34, 315 (1985)"、"Nuc. Acids. Res., 13, 4431(1985)"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488(1985)"等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、人為的に取得することができるものも含まれる。
本明細書中、「配列番号2又は4のアミノ酸配列において、1〜95個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノテルペン化合物のを配糖体化する活性を有するタンパク質」としては、配列番号2又は4のアミノ酸配列において、例えば、1〜95個、1〜90個、1〜85個、1〜80個、1〜75個、1〜70個、1〜65個、1〜60個、1〜55個、1〜50個、1〜49個、1〜48個、1〜47個、1〜46個、1〜45個、1〜44個、1〜43個、1〜42個、1〜41個、1〜40個、1〜39個、1〜38個、1〜37個、1〜36個、1〜35個、1〜34個、1〜33個、1〜32個、1〜31個、1〜30個、1〜29個、1〜28個、1〜27個、1〜26個、1〜25個、1〜24個、1〜23個、1〜22個、1〜21個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個(1〜数個)、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、又は1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。
また、このようなタンパク質としては、配列番号2又は4のアミノ酸配列と80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質が挙げられる。上記配列同一性の数値は一般的に大きい程好ましい。
ここで、「モノテルペン化合物を配糖体化する活性」とは、アグリコンであるモノテルペン化合物のヒドロキシ基に、UDP糖に含まれる糖を付加する(配糖体化する)活性を意味する。糖が付加されるヒドロキシ基は特に限定されない。
モノテルペン化合物を配糖体化する活性は、本発明のタンパク質1〜500 ng(好ましくは、50〜200 ng、最も好ましくは100 ng)、UDP糖(例えば、UDP-グルコース)1〜1000 μM(好ましくは、100〜700 μM、最も好ましくは500 μM)、及びモノテルペン化合物(例えば、リナロール又はゲラニオール)1〜500 μM(好ましくは、100〜500 μM、最も好ましくは250 μM) を含むpH6.0〜8.0の中性領域の緩衝液(例えば、リン酸ナトリウムバッファー又はリン酸カリウムバッファー)中において、20〜40℃の温度でインキュベートした後に、前記モノテルペンを精製し、精製したモノテルペンを液体クロマトグラフィー‐質量分析(Liquid Chromatography-Mass Spectrometry:LC-MS)等の公知の手法により分析することで確認することができる。
配糖体化反応は、一般に、1分〜12時間程度で終了する。
本発明のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたとは、同一配列中の任意かつ1若しくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1若しくは複数個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加があることを意味し、欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2−アミノブタン酸、メチオニン、o−メチルセリン、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン;B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2−アミノアジピン酸、2−アミノスベリン酸;C群:アスパラギン、グルタミン;D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4−ジアミノブタン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸;E群:プロリン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン;F群:セリン、スレオニン、ホモセリン;G群:フェニルアラニン、チロシン。
本発明のタンパク質は、これをコードするポリヌクレオチド(後述する「本発明のポリヌクレオチド」を参照)を適切な宿主細胞内で発現させることにより得ることができるが、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造することができる。また、Advanced Automation Peptide Protein Technologies社製、Perkin Elmer社製、、Protein Technologies社製、PerSeptive社製、Applied Biosystems社製、SHIMADZU社製等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
本発明において、「モノテルペン化合物」とは、イソプレン
を構成単位とする炭化水素であり、植物、昆虫及び菌類等によって作り出される生体物質の他に、化学的に合成された化合物も含む。
本発明において、モノテルペン化合物は、ヒドロキシ基を有するものであれば特に限定されない。
このようなモノテルペンの例としては、ネロール、ゲラニオール及びリナロール等があるが、これらに限定されるものではない。好ましくはゲラニオール又はリナロールである。
本発明において、モノテルペン化合物は、ヒドロキシ基を有するものであれば特に限定されない。
このようなモノテルペンの例としては、ネロール、ゲラニオール及びリナロール等があるが、これらに限定されるものではない。好ましくはゲラニオール又はリナロールである。
例えば、サツマイモ由来のゲラニオールは1位に-OH基を有し、リナロールは3位に-OH基を有する。そこで、本発明のタンパク質を用いてサツマイモ細胞に含まれるゲラニオールを配糖化する場合、1位の-OH基に糖が付加されることになる。また、本発明のタンパク質を用いてサツマイモ細胞に含まれるリナロールを配糖化する場合、3位の-OH基に糖が付加されることになる。
本発明において、「UDP-糖」とは、ウリジン二リン酸(Uridine DiPhosphate:UDP)結合型の糖であり、例としては、UDP-グルクロン酸及びUDP-グルコースが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、UDP-糖は、UDP-グルコースである。
2.モノテルペン配糖体の製造方法
本発明はタンパク質が有する、モノテルペン化合物の配糖化活性を利用することにより、モノテルペン配糖体を容易かつ多量に製造することが可能である。
そこで、別の実施形態において、本発明は、本発明のタンパク質と、UDP糖と、モノテルペン化合物とを反応させて前記モノテルペン化合物を配糖体化する工程を含む、モノテルペン化合物の配糖体の製造方法を提供する。
本発明はタンパク質が有する、モノテルペン化合物の配糖化活性を利用することにより、モノテルペン配糖体を容易かつ多量に製造することが可能である。
そこで、別の実施形態において、本発明は、本発明のタンパク質と、UDP糖と、モノテルペン化合物とを反応させて前記モノテルペン化合物を配糖体化する工程を含む、モノテルペン化合物の配糖体の製造方法を提供する。
本発明のモノテルペン配糖体の製造方法において、UDP-糖の好ましい例としてはUDPグルコースが挙げられ、また、モノテルペン化合物は、リナロールまたはゲラニオールである。
本発明に係るモノテルペン配糖体の製造方法は、本発明のタンパク質と、UDP糖と、モノテルペン化合物とを反応させて前記モノテルペン化合物を配糖体化する工程を含む。本発明の方法は、さらに、前記工程で生成したモノテルペン化合物の配糖体を精製する工程を含んでいてもよい。
モノテルペン化合物の配糖体は、適切な溶媒(水等の水性溶媒又はアルコール、エーテル及びアセトン等の有機溶媒)による抽出、酢酸エチルその他の有機溶媒:水の勾配、高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)、ガスクロマトグラフィー、飛行時間型質量分析(Time-of-Flight mass spectrometry:TOF-MS)、超高性能液体クロマトグラフィー (Ultra (High) Performance Liquid chromatography:UPLC) 等の公知の方法によって精製することができる。
3.モノテルペン配糖体高含有非ヒト形質転換体
モノテルペン配糖体は、本発明のタンパク質を用いて細菌(大腸菌又は酵母など)、植物、昆虫、ヒトを除く哺乳動物などの細胞内で生成することもできる。本発明のタンパク質は、サツマイモに由来する酵素又はその変異体であるため、細胞内環境においても高い活性を有することが期待されるからである。この場合、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチド(後述する「本発明のポリヌクレオチド」を参照)を、細菌、植物、昆虫、ヒトを除く哺乳動物などに由来する宿主細胞に導入して本発明のタンパク質を発現させ、本発明のタンパク質と、前記細胞内に存在するUDP-糖及びモノテルペン化合物とを反応させることによりモノテルペン配糖体を生成することができる。
モノテルペン配糖体は、本発明のタンパク質を用いて細菌(大腸菌又は酵母など)、植物、昆虫、ヒトを除く哺乳動物などの細胞内で生成することもできる。本発明のタンパク質は、サツマイモに由来する酵素又はその変異体であるため、細胞内環境においても高い活性を有することが期待されるからである。この場合、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチド(後述する「本発明のポリヌクレオチド」を参照)を、細菌、植物、昆虫、ヒトを除く哺乳動物などに由来する宿主細胞に導入して本発明のタンパク質を発現させ、本発明のタンパク質と、前記細胞内に存在するUDP-糖及びモノテルペン化合物とを反応させることによりモノテルペン配糖体を生成することができる。
そこで、本発明は、以下の(a)〜(e)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のポリヌクレオチド(以下、「本発明のポリヌクレオチド」という)が導入された非ヒト形質転換体(以下、「本発明の形質転換体」という)を提供する。
(a)配列番号1又は3の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2又は4のアミノ酸配列において、1〜95個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノテルペン化合物のを配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2又は4のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノテルペン化合物のを配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(e)配列番号1又は3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、モノテルペン化合物のを配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(a)配列番号1又は3の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2又は4のアミノ酸配列において、1〜95個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノテルペン化合物のを配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2又は4のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノテルペン化合物のを配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(e)配列番号1又は3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、モノテルペン化合物のを配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
本明細書中、「ポリヌクレオチド」とは、DNA又はRNAを意味する。
本明細書中、「高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、例えば、配列番号1若しくは3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号2若しくは4のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドの全部又は一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法又はサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイゼーションの方法としては、例えば、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor, Laboratory Press 2001"及び"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"などに記載されている方法を利用することができる。
本明細書中、「高ストリンジェントな条件」とは、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃又は0.2 x SSC、0.1% SDS、60℃、0.2 x SSC、0.1% SDS、62℃、0.2 x SSC、0.1% SDS、65℃の条件であるが、これに限定されるものではない。これらの条件において、温度を上げるほど高い配列同一性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度等の複数の要素が考えられ、当業者であればこれらの要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct Labelling and Detection System(GE Healthcare)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコルにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55〜60℃の条件下で0.1%(w/v)SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたDNAを検出することができる。あるいは、配列番号1若しくは3の塩基配列と相補的な塩基配列、又は配列番号2若しくは4のアミノ酸配列をコードする塩基配列の全部又は一部に基づいてプローブを作製する際に、市販の試薬(例えば、PCRラベリングミックス(ロシュ・ダイアグノスティクス社)等)を用いて該プローブをジゴキシゲニン(DIG)ラベルした場合には、DIG核酸検出キット(ロシュ・ダイアグノスティクス社)を用いてハイブリダイゼーションを検出することができる。
上記以外にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、FASTA、BLAST等の相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号1若しくは3のDNA、又は配列番号2若しくは4のアミノ酸配列をコードするDNAと60%以上、61%以上、62%以上、63%以上、64%以上、65%以上、66%以上、67%以上、68%以上、69%以上、70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上の配列同一性を有するDNAをあげることができる。
なお、アミノ酸配列や塩基配列の配列同一性は、FASTA(Science 227 (4693): 1435-1441, (1985))や、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST (Basic Local Alignment Search Tool)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264-2268, 1990; Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたblastn、blastx、blastp、tblastnやtblastxと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。blastnを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore = 100、wordlength = 12とする。また、blastpを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
上記した本発明のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法又は公知の合成手法によって取得することが可能である。
本発明のポリヌクレオチドは、好ましくは、適切な発現ベクターに挿入された状態で宿主に導入される。
適切な発現ベクターは、通常、
(i)宿主細胞内で転写可能なプロモーター;
(ii)該プロモーターに結合した、本発明のポリヌクレオチド;及び
(iii)RNA分子の転写終結及びポリアデニル化に関し、宿主細胞内で機能するシグナルを構成要素として含む発現カセット
を含むように構成される。
(i)宿主細胞内で転写可能なプロモーター;
(ii)該プロモーターに結合した、本発明のポリヌクレオチド;及び
(iii)RNA分子の転写終結及びポリアデニル化に関し、宿主細胞内で機能するシグナルを構成要素として含む発現カセット
を含むように構成される。
発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ又はコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明のポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明のポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
本発明の発現ベクターは、導入されるべき宿主の種類に依存して、発現制御領域(例えば、プロモーター、ターミネーター及び/又は複製起点等)を含有する。細菌用発現ベクターのプロモーターとしては、慣用的なプロモーター(例えば、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等)が使用され、酵母用プロモーターとしては、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が挙げられ、糸状菌用プロモーターとしては、例えば、アミラーゼ、trpC等が挙げられる。また、植物細胞内で目的遺伝子を発現させるためのプロモーターの例としては、カリフラワーモザイクウィルスの35S RNAプロモーター、rd29A遺伝子プロモーター、rbcSプロモーター、前記カリフラワーモザイクウィルスの35S RNAプロモーターのエンハンサー配列をアグロバクテリウム由来のマンノピン合成酵素プロモーター配列の5’側に付加したmac-1プロモーター等が挙げられる。動物細胞宿主用プロモーターとしては、ウイルス性プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等)が挙げられる。
発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては、栄養要求性マーカー(ura5、niaD)、薬剤耐性マーカー(hygromycine、ゼオシン)、ジェネチシン耐性遺伝子(G418r)、銅耐性遺伝子(CUP1)(Marin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 81, p. 337, 1984)、セルレニン耐性遺伝子(fas2m, PDR4)(それぞれ、猪腰淳嗣ら, 生化学, vol. 64, p. 660, 1992;Hussain et al., Gene, vol. 101, p. 149, 1991)などが利用可能である。
本発明の形質転換体の作製方法(生産方法)は特に限定されないが、例えば、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを宿主に導入して形質転換する方法が挙げられる。ここで用いられる宿主細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、植物細胞、ヒトを除く動物細胞等が挙げられる。
上記の宿主細胞のための適切な培養培地及び条件は当分野で周知である。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記宿主細胞で例示した各種微生物又は植物又はヒトを除く動物が挙げられる。
宿主細胞の形質転換方法としては一般に用いられる公知の方法が利用できる。例えば、エレクトロポレーション法(Mackenxie, D. A. et al., Appl. Environ. Microbiol., vol. 66, p. 4655-4661, 2000)、パーティクルデリバリー法(特開2005-287403「脂質生産菌の育種方法」に記載の方法)、スフェロプラスト法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 75, p. 1929, 1978)、酢酸リチウム法(J. Bacteriology, vol. 153, p. 163, 1983)、Methods in yeast genetics, 2000 Edition : A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manualなどに記載の方法)で実施可能であるが、これらに限定されない。
その他、一般的な分子生物学的な手法に関しては、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Methods in Yeast Genetics、A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, NY)"等を参照することができる。
本発明の1つの態様において、形質転換体は、植物形質転換体であり得る。本実施形態に係る植物形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現され得るように植物中に導入することによって取得される。
組換え発現ベクターを用いる場合、植物体の形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、当該植物内で本発明に係るポリヌクレオチドを発現させることが可能なベクターであれば特に限定されない。このようなベクターとしては、例えば、植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーターを有するベクター又は外的な刺激によって誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターが挙げられる。
植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーターの例としては、カリフラワーモザイクウィルスの35S RNAプロモーター、rd29A遺伝子プロモーター、rbcSプロモーター、mac-1プロモーター等が挙げられる。
外的な刺激によって誘導性に活性化されるプロモーターの例としては、mouse mammary tumor virus(MMTV)プロモーター、テトラサイクリン応答性プロモーター、メタロチオネインプロモーター及びヒートショックプロテインプロモーター等が挙げられる。
本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)又は植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。形質転換に用いられる植物としては、特に限定されず、単子葉植物綱又は双子葉植物綱に属する植物のいずれでもよい。
植物への遺伝子の導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、遺伝子銃法、PEG法、エレクトロポレーション法など)が用いられる。例えば、アグロバクテリウムを介する方法と直接植物細胞に導入する方法が周知である。アグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム(例えば、アグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))に導入し、この株をリーフディスク法(内宮博文著、植物遺伝子操作マニュアル(1990)27〜31頁、講談社サイエンティフィック、東京)などに従って無菌培養葉片に感染させ、形質転換植物を得ることができる。また、Nagel et alの方法(Micribiol. Lett., 67: 325 (1990))が用いられ得る。この方法は、まず、例えば発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをPlant Molecular Biology Manual(Gelvin, S.B. et al., Academic Press Publishers)に記載の方法で植物細胞又は植物組織に導入する方法である。ここで、「植物組織」とは、植物細胞の培養によって得られるカルスを含む。アグロバクテリウム法を用いて形質転換を行う場合には、バイナリーベクター(pBI121又はpPZP202など)を使用することができる。
また、遺伝子を直接植物細胞又は植物組織に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法が知られている。パーティクルガンを用いる場合は、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS-1000(BIO-RAD社)など)を用いて処理することができる。処理条件は植物又は試料によって異なるが、通常は450〜2000psi程度の圧力、4〜12cm程度の距離で行う。
遺伝子が導入された細胞又は植物組織は、まずハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性で選択され、次いで定法によって植物体に再生される。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。
植物培養細胞を宿主として用いる場合は、形質転換は、組換えベクターを遺伝子銃、エレクトロポレーション法などで培養細胞に導入する。形質転換の結果得られるカルスやシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライドなど)の投与などによって植物体に再生させることができる。
本発明のポリヌクレオチドが植物に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRは、前記プラスミドを調製するために使用した条件と同様の条件で行うことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などによって染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素などによって標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレートなどの固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応などによって増幅産物を確認する方法も採用することができる。
本発明のポリヌクレオチドがゲノム内に組み込まれた形質転換植物体が一旦取得されれば、当該植物体の有性生殖又は無性生殖によって子孫を得ることができる。また、当該植物体又はその子孫、あるいはこれらのクローンから、例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなどを得て、それらを基に当該植物体を量産することができる。従って、本発明には、本発明に係るポリヌクレオチドが発現可能に導入された植物体、若しくは当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫、又はこれら由来の組織も含まれる。
また、種々の植物に対する形質転換方法が既に報告されている。本発明に係る形質転換体植物としては、ナス科植物(例えば、ナス、トマト、トウガラシ、ジャガイモ、タバコ、チョウセンアサガオ、ホオズキ、ペチュニア、カリブラコア、ニーレンベルギア等)、マメ科植物(例えば、ダイズ、アズキ、ラッカセイ、インゲンマメ、ソラマメ、ミヤコグサ等)、バラ科植物(例えば、イチゴ、ウメ、サクラ、バラ、ブルーベリー、ブラックベリー、ビルベリー、カシス、ラズベリー等)、ナデシコ科植物(カーネーション、カスミソウ等)、キク科植物(キク、ガーベラ、ヒマワリ、デイジー等)、ラン科植物(ラン等)、サクラソウ科植物(シクラメン等)、リンドウ科植物(トルコギキョウ、リンドウ等)、アヤメ科植物(フリージア、アヤメ、グラジオラス等)、ゴマノハグサ科植物(キンギョソウ、トレニア等)ベンケイソウ(カランコエ)、ユリ科植物(ユリ、チューリップ等)、ヒルガオ科植物(アサガオ、モミジヒルガオ、ヨルガオ、サツマイモ、ルコウソウ、エボルブルス等)、アジサイ科植物(アジサイ、ウツギ等)、ウリ科植物(ユウガオ等)、フロウソウ科植物(ペラルゴニウム、ゼラニウム等)、モクセイ科植物(レンギョウ等)、ブドウ科植物(例えば、ブドウ等)、ツバキ科植物(ツバキ、チャノキ等)、イネ科植物(例えば、イネ、オオムギ、コムギ、エンバク、ライムギ、トウモロコシ、アワ、ヒエ、コウリャン、サトウキビ、タケ、カラスムギ、シコクビエ、モロコシ、マコモ、ハトムギ、牧草等)、クワ科植物(クワ、ホップ、コウゾ、ゴムノキ、アサ等)、アカネ科植物(コーヒーノキ、クチナシ等)、ブナ科植物(ナラ、ブナ、カシワ等)、ゴマ科植物(ゴマ等)、ミカン科植物(例えば、ダイダイ、ユズ、ウンシュウミカン、サンショウ)及びアブラナ科植物(赤キャベツ、ハボタン、ダイコン、シロナズナ、アブラナ、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー等)、シソ科(サルビア、シソ、ラベンダー、タツナミソウ等)が挙げられる。植物の好ましい例としては、芳香性を有する植物、例えば、シソやラベンダーなど、あるいは、本来、あまり芳香を有していないが商業的価値の高い園芸植物、例えば、カーネーションなどが挙げられる。
本発明のポリヌクレオチドで形質転換された植物体(以下、「本発明の植物」又は「本発明の植物体」)は、その野生型と比べてモノテルペン化合物の配糖体を多く含む。
本発明の植物は、本発明の植物の種子、挿し木、球根等を育成することにより、容易に完全な植物体を得ることができる。
よって、本発明の植物には、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子、球根等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織等)又は植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルス等が含まれる。
4. 形質転換体の抽出物及びその利用
本発明はまた、別の実施形態において、上記の形質転換体の抽出物を提供する。本発明の形質転換体は、その野生型と比べてモノテルペン配糖体の含有量が高いので、その抽出物には、モノテルペン配糖体が高濃度で含まれると考えられる。
本発明はまた、別の実施形態において、上記の形質転換体の抽出物を提供する。本発明の形質転換体は、その野生型と比べてモノテルペン配糖体の含有量が高いので、その抽出物には、モノテルペン配糖体が高濃度で含まれると考えられる。
本発明の形質転換体の抽出物は、形質転換体をガラスビーズ、ホモジェナイザー又はソニケーター等を用いて破砕し、当該破砕物を遠心処理し、その上清を回収することにより、得ることができる。さらに、上記で述べたモノテルペン配糖体の抽出方法により、さらなる抽出工程を施してもよい。
本発明の形質転換体の抽出物は、常法に従って、例えば、食品、香料、医薬品、工業原料(化粧料、石鹸等の原料)の製造等の用途に使用することができる。
本発明はまた、別の実施形態において、本発明の形質転換体の抽出物を含む食品、香料、医薬、工業原料(化粧料、石鹸等の原料)を提供する。本発明の形質転換体の抽出物を含む食品、香料、医薬、工業原料の調製は、常法による。このように、本発明の形質転換体の抽出物を含む食品、香料、医薬、工業原料等は、本発明の形質転換体を用いて生成されたモノテルペン配糖体を含有する。
本発明の香料(組成物)又は医薬品(組成物)の剤型は、特に限定されず、溶液状、ペースト状、ゲル状、固体状、粉末状等任意の剤型をとることができる。また、本発明の香料組成物又は医薬組成物は、オイル、ローション、クリーム、乳液、ゲル、シャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、エナメル、ファンデーション、リップスティック、おしろい、パック、軟膏、香水、パウダー、オーデコロン、歯磨、石鹸、エアロゾル、クレンジングフォーム等の化粧料若しくは皮膚外用薬の他、浴用剤、養毛剤、皮膚美容液、日焼け防止剤等に用いることができる。
本発明の化粧料組成物は、必要に応じてさらに、その他の油脂、及び/又は色素、香料、防腐剤、界面活性剤、顔料、酸化防止剤等を適宜配合することができる。これらの配合比率は、目的に応じて当業者が適宜決定し得る(例えば、油脂は、組成物中に、1〜99.99重量%、好ましくは、5〜99.99重量%、より好ましくは、10〜99.95重量%含有され得る)。また、本発明の医薬組成物は、必要に応じてさらに、その他の医薬活性成分(例えば、消炎成分)又は補助成分(例えば、潤滑成分、担体成分)を含んでいても良い。
本発明の食品の例としては、栄養補助食品、健康食品、機能性食品、幼児用食品、老人用食品等が挙げられる。本明細書中、食品は、固体、流動体、及び液体、並びにそれらの混合物であって、摂食可能なものの総称である。
栄養補助食品とは、特定の栄養成分が強化されている食品をいう。健康食品とは、健康的な又は健康によいとされる食品をいい、栄養補助食品、自然食品、ダイエット食品等を含む。機能性食品とは、体の調節機能を果たす栄養成分を補給するための食品をいい、特定保健用途食品と同義である。幼児用食品とは、約6歳までの子供に与えるための食品をいう。老人用食品とは、無処理の食品と比較して消化及び吸収が容易であるように処理された食品をいう。
栄養補助食品とは、特定の栄養成分が強化されている食品をいう。健康食品とは、健康的な又は健康によいとされる食品をいい、栄養補助食品、自然食品、ダイエット食品等を含む。機能性食品とは、体の調節機能を果たす栄養成分を補給するための食品をいい、特定保健用途食品と同義である。幼児用食品とは、約6歳までの子供に与えるための食品をいう。老人用食品とは、無処理の食品と比較して消化及び吸収が容易であるように処理された食品をいう。
これらの食品の形態の例としては、パン、麺類、ごはん、菓子類(キャンデー、チューインガム、グミ、錠菓、和菓子)、豆腐及びその加工品等の農産食品、清酒、薬用酒、みりん、食酢、醤油、みそ等の発酵食品、ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーセージ等の畜産食品、かまぼこ、揚げ天、はんぺん等の水産食品、果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、茶等又は調味料であってもよい。
5.モノテルペン配糖体化酵素の発現が抑制された植物
植物中に内在的に存在するモノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質の発現を抑制することにより、モノテルペンの配糖体化が阻害される。その結果、当該植物では、より多くのモノテルペンがアグリコンとして存在することになり、より強い芳香が発せられることが期待できる。
植物中に内在的に存在するモノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質の発現を抑制することにより、モノテルペンの配糖体化が阻害される。その結果、当該植物では、より多くのモノテルペンがアグリコンとして存在することになり、より強い芳香が発せられることが期待できる。
そこで、本発明は、モノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質の発現が抑制された植物を提供する。
モノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質(以下、「モノテルペン配糖体化酵素」という)とは、具体的には、以下の(a)〜(e)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされる。
(a)配列番号1又は3の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2又は4のアミノ酸配列において、1〜95個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2又は4のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(e)配列番号1又は3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、モノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(a)配列番号1又は3の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2又は4のアミノ酸配列において、1〜95個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2又は4のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(e)配列番号1又は3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、モノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(a)〜(e)のポリヌクレオチドの定義等については、「3.モノテルペン配糖体高含有非ヒト形質転換体」で述べたとおりである。
モノテルペン配糖体化酵素の発現を抑制する方法の具体例としては、当該酵素のメッセンジャーRNA(mRNA)の発現量を低下させる物質、例えば、低分子化合物、ホルモン、タンパク質及び核酸等が挙げられ、1つの実施態様では、前記酵素をコードする遺伝子の機能又は発現を抑制する核酸である。このような核酸の例としては、RNA干渉(RNAi)用のsiRNA(small interfering RNAを生じさせる、ヘアピン状のshRNA(Short Hairpin RNA)、二本鎖RNA(Double Stranded RNA: dsRNA)、アンチセンス核酸、デコイ核酸、又はアプタマーなどが挙げられる。これらの阻害性核酸により、上記遺伝子の発現を抑制することが可能である。阻害の対象となるモノテルペン配糖体化酵素遺伝子は上記(a)〜(e)のポリヌクレオチドからなり、それぞれ配列情報を入手することができる。本発明において、モノテルペン配糖体化酵素遺伝子のコード領域のみならず、非コード領域を阻害対象領域として使用することも可能である。
RNA干渉(RNAi)は、複数の段階を経て行われるマルチステッププロセスである。最初に、RNAi発現ベクターから発現したdsRNA又はshRNAが Dicerによって認識され、21〜23 ヌクレオチドの siRNAs に分解される。次に、siRNAs は RNA 誘導型サイレンシング複合体 (RNA-Induced Silencing Complex: RISC) と呼ばれるRNAi 標的複合体に組み込まれ、RISC とsiRNAsとの複合体がsiRNAの配列と相補的な配列を含む標的mRNAに結合し、mRNAを分解する。標的mRNAは、siRNAに相補的な領域の中央で切断され、最終的に標的mRNAが速やかに分解されてタンパク発現量が低下する。最も効力の高い siRNA 二重鎖は、19bpの二重鎖の各3’末端にウリジン残基2個の突出部分を持つ 21 ヌクレオチド長の配列であることが知られている(Elbashir S.M. et al., Genes and Dev, 15, 188-200 (2001))。
一般に、mRNA上の標的配列は、mRNAに対応するcDNA配列から選択することができる。但し、本発明においてはこの領域に限定されるものではない。
siRNA分子は、当分野において周知の基準に基づいて設計できる。例えば、標的mRNAの標的セグメントは、好ましくはAA、TA、GA又はCAで始まる連続する15〜30塩基、好ましくは19〜25塩基のセグメントを選択することができる。siRNA分子のGC比は、30〜70%、好ましくは35〜55%である。あるいは、RNAiの標的配列は、Ui-Tei K. et al.((2004) Nucleic Acids Res. 32, 936-948)の記載に沿って適宜選択することができる。
siRNAを細胞に導入するには、合成したsiRNAをプラスミドDNAに連結してこれを細胞に導入する方法、2本鎖RNAをアニールする方法などを採用することができる。
また、本発明は、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用することもできる。shRNA とは、ショートヘアピンRNAと呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。
shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を配列Aとし、配列Aに対する相補鎖を配列Bとすると、配列A、スペーサー、配列Bの順でこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するように連結し、全体で45〜60塩基の長さとなるように設計する。スペーサーの長さも特に限定されるものではない。
配列Aは、標的となるモノテルペン配糖体化酵素遺伝子の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列Aの長さは19〜25塩基、好ましくは19〜21塩基である。
さらに、本発明は、マイクロRNAを用いてモノテルペン配糖体化酵素の発現を阻害することができる。マイクロRNA(miRNA)とは、細胞内に存在する長さ20〜25塩基ほどの1本鎖RNAであり、他の遺伝子の発現を調節する機能を有すると考えられているncRNA(non coding RNA)の一種である。miRNAは、RNAに転写された際にプロセシングを受けて生じ、標的配列の発現を抑制するヘアピン構造を形成する核酸として存在する。
miRNAも、RNAiに基づく阻害性核酸であるため、shRNA又はsiRNAに準じて設計し合成することができる。
RNAi用の発現ベクターは、pMuniH1プラスミド、pSINsiベクター(タカラバイオ)、pSIF1-H1(システムバイオサイエンス社)等をベースに、市販のDNA/RNAシンセサイザー(例えば、Applied Biosystems394型)を用いて容易に作製することができる。RNAi用の発現ベクターの例としては、例えば、pSPB1876(国際公開公報WO2004/071467)が挙げられるが、これに限定されるものではない。RNAi用の発現ベクターは、コスモ・バイオ株式会社、タカラ・バイオ株式会社、Invitrogen社、Promega社等の第三者機関に作製を委託することもできる。
モノテルペン配糖体化酵素の発現が抑制された植物の製造方法は、以下の工程を含んでいてもよい。
(1) 宿主植物又はその一部にモノテルペン配糖体化酵素に対するRNAi用の発現ベクター(例えば、siRNA発現ベクター又はmiRNA発現ベクターを導入する工程
(1) 宿主植物又はその一部にモノテルペン配糖体化酵素に対するRNAi用の発現ベクター(例えば、siRNA発現ベクター又はmiRNA発現ベクターを導入する工程
宿主植物へRNAi用の発現ベクターを導入する方法は、項目「3.モノテルペン配糖体高含有非ヒト形質転換体」に述べた方法と同様である。宿主植物は、植物体全体、又はその一部である植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)又は植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれであってもよい。植物の種類についても、項目「3.モノテルペン配糖体高含有非ヒト形質転換体」に述べたものと同様である。
(2) 前記工程(1)により得られた形質転換植物を育成する工程
前記工程(1)で用いた宿主植物が、植物器官、植物組織、植物細胞、プロトプラスト、葉の切片又はカルスといった植物体の一部であった場合には、完全な植物体を形成するまで形質転換体を適切な環境で育成してもよい。植物体の一部から完全な植物体を育成する方法については、以下の文献の記載を参照できる:生物化学実験法41 植物細胞工学入門 学会出版センター ISBN 4-7622-1899-5。
前記工程(1)で用いた宿主植物が、植物器官、植物組織、植物細胞、プロトプラスト、葉の切片又はカルスといった植物体の一部であった場合には、完全な植物体を形成するまで形質転換体を適切な環境で育成してもよい。植物体の一部から完全な植物体を育成する方法については、以下の文献の記載を参照できる:生物化学実験法41 植物細胞工学入門 学会出版センター ISBN 4-7622-1899-5。
このようにして得られたモノテルペン配糖体化酵素遺伝子の発現が抑制された植物を栽培することにより、効率的にモノテルペン・アグリコンを製造することができる。
6.モノテルペン配糖体化酵素遺伝子の発現が抑制された植物の加工製品
現代では、生花(例えば、土壌育成植物、鉢植植物、切り花等)のみではなく、生花の加工製品も植物観賞用の製品として販売されている。モノテルペン配糖体化酵素遺伝子の発現が抑制された植物は、芳香が強いため、このような生花の加工製品の材料としても非常に有用である。従って、本発明の別の実施形態として、モノテルペン配糖体化酵素遺伝子の発現が抑制された植物(例えば、生花、切り花)又はその一部(例えば、葉、花弁、茎、根、種子、球根等)の加工製品が挙げられる。前記加工製品の例としては、押し花、ドライフラワー、プリザーブドフラワー、マテリアルフラワー、樹脂密封品等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
現代では、生花(例えば、土壌育成植物、鉢植植物、切り花等)のみではなく、生花の加工製品も植物観賞用の製品として販売されている。モノテルペン配糖体化酵素遺伝子の発現が抑制された植物は、芳香が強いため、このような生花の加工製品の材料としても非常に有用である。従って、本発明の別の実施形態として、モノテルペン配糖体化酵素遺伝子の発現が抑制された植物(例えば、生花、切り花)又はその一部(例えば、葉、花弁、茎、根、種子、球根等)の加工製品が挙げられる。前記加工製品の例としては、押し花、ドライフラワー、プリザーブドフラワー、マテリアルフラワー、樹脂密封品等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
7. モノテルペン配糖体化酵素の発現が抑制された植物の抽出物及びその利用
本発明はまた、別の実施形態において、上記のモノテルペン配糖体化酵素の発現が抑制された植物の抽出物を提供する。モノテルペン配糖体化酵素の発現が抑制された植物は、その野生型と比べてモノテルペン・アグリコンの含有量が高いので、その抽出物には、モノテルペン・アグリコンが高濃度で含まれると考えられる。
上記抽出物の抽出方法は、上記で述べた本発明の形質転換体の抽出物の抽出方法と同様である。
このようにして得られた抽出物は、常法に従って、例えば、食品、香料、医薬品、工業原料(化粧料、石鹸等の原料)の製造等の用途に使用することができる。
本発明はまた、別の実施形態において、上記のモノテルペン配糖体化酵素の発現が抑制された植物の抽出物を提供する。モノテルペン配糖体化酵素の発現が抑制された植物は、その野生型と比べてモノテルペン・アグリコンの含有量が高いので、その抽出物には、モノテルペン・アグリコンが高濃度で含まれると考えられる。
上記抽出物の抽出方法は、上記で述べた本発明の形質転換体の抽出物の抽出方法と同様である。
このようにして得られた抽出物は、常法に従って、例えば、食品、香料、医薬品、工業原料(化粧料、石鹸等の原料)の製造等の用途に使用することができる。
本発明はまた、別の実施形態において、前記抽出物を含む食品、香料、医薬、工業原料(化粧料、石鹸等の原料)を提供する。前記抽出物を含む食品、香料、医薬、工業原料の調製は、常法による。このように、モノテルペン配糖体化酵素の発現が抑制された植物の抽出物を含む食品、香料、医薬、工業原料等は、モノテルペン配糖体化酵素の発現が抑制された植物を用いて生成されたモノテルペン・アグリコンを含有する。
本発明の食品、香料、医薬、工業原料等の種類及び組成などは、先の項目「4.形質転換体の抽出物及びその利用」で述べたものと同様である。
本発明の食品、香料、医薬、工業原料等の種類及び組成などは、先の項目「4.形質転換体の抽出物及びその利用」で述べたものと同様である。
8.テルペン配糖体含有量の高い植物又はモノテルペン・アグリコン含有量の高い植物をスクリーニングする方法
本発明は、モノテルペン・アグリコン含有量の高い植物をスクリーニングする方法を提供する。具体的には、前記方法は、以下の(1)〜(3)の工程を含む。
(1)被検植物からmRNAを抽出する工程
(2)前記mRNA又は前記mRNAから調製したcDNAと、本発明のポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとをハイブリダイズさせる工程
(3)前記ハイブリダイゼーションを検出する工程
本発明は、モノテルペン・アグリコン含有量の高い植物をスクリーニングする方法を提供する。具体的には、前記方法は、以下の(1)〜(3)の工程を含む。
(1)被検植物からmRNAを抽出する工程
(2)前記mRNA又は前記mRNAから調製したcDNAと、本発明のポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとをハイブリダイズさせる工程
(3)前記ハイブリダイゼーションを検出する工程
上記工程(1)は、被検植物から、mRNAを抽出することにより行うことができる。mRNAを抽出する被検植物の部位は、特に限定されないが、好ましくは、花弁である。mRNAを抽出した場合には、逆転写することにより、mRNA からcDNAを調製してもよい。
工程(2)は、上記で抽出したmRNAに対し、本発明のポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド若しくはオリゴヌクレオチドをプローブ又はプライマーとして、高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせることにより行うことができる。高ストリンジェントな条件は、既に述べたとおりである。ポリヌクレオチド若しくはオリゴヌクレオチドは、好ましくは、5〜500 bp、より好ましくは、10〜200 bp、さらに好ましくは、10〜100 bpの長さである。ポリヌクレオチド若しくはオリゴヌクレオチドは、各種自動合成装置(例えば、AKTA oligopilot plus 10/100(GE Healthcare))を用いて容易に合成することが可能であり、あるいは、第三者機関(例えば、Promega社又はTakara社)等に委託することもできる。
工程(2)において本発明のポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドをプローブとして用いた場合には、工程(3)は、通常のサザンブロッティング、ノーザンブロッティング(Sambrook, Fritsch and Maniatis, ”Molecular Cloning: A Laboratory Manual” 2nd Edition (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press)、マイクロアレイ(Affymetrix社;米国特許第6,045,996号、同第5,925,525号、及び同第5,858,659号参照)、TaqMan PCR(Sambrook, Fritsch and Maniatis, ”Molecular Cloning: A Laboratory Manual” 2nd Edition (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press)、又はFluorescent In Situ Hybridization(FISH)(Sieben V.J. et al., (2007-06). IET Nanobiotechnology 1 (3): 27-35)等のハイブリダイゼーション検出方法により行うことができる。一方、工程(2)において本発明のポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドをプライマーとして用いた場合には、工程(3)は、PCR増幅反応を行い、得られた増幅産物を電気泳動又はシークエンシング(Sambrook, Fritsch and Maniatis, ”Molecular Cloning: A Laboratory Manual” 2nd Edition (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press)等によって解析することにより、ハイブリダイゼーションを検出することができる。
ハイブリダイゼーションがより多く検出された植物体は、他の植物体と比べてモノテルペン化合物のを配糖化する活性を有するタンパク質をより多く発現しているといえるので、テルペン配糖体含有量が高いことが予測される。
一方、ハイブリダイゼーションがより少なく検出された植物体は、他の植物体と比べてモノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質の発現が低いため、モノテルペン・アグリコン含有量が高く、特に開花時に強い芳香を放つことが予測される。
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものではない。
サツマイモUGT85ホモログのクローニング
サツマイモの芋表皮をからUGT85酵素遺伝子と相同性の高いUGT遺伝子の単離を試みた。サツマイモ(黄金千貫品種)の表皮を含む塊茎と成熟葉からRNeasy Plant Mini Kit(キアゲン社)を用いてRNAを抽出し、オリゴテックス- dT30 mRNA精製キット(タカラバイオ)によりポリA(+)RNAを得た。このポリA(+)RNA 3.5ugを鋳型とし、ラムダZAP cDNA synthesis kit (cDNA synthesis kit/Uni ZAP XR vector kit/GigaPacl III Gold Packaging Extract (アジレント社))を用いて、同社の推奨する方法によりcDNAライブラリーを作製した。作製したライブラリーは3.5x106pfu/mlであった。このcDNAライブライー約50万プラークに対し、シロイヌナズナUGT85A3(配列番号5)、ホップHlUGT119(配列番号6)、チャCsUGTC30(配列番号7)、ブドウVvUGT020(配列番号8)、キンギョソウAmUGT207(配列番号9)の各遺伝子の全長cDNAをミックスしたものをスクリーニングプローブとして二次スクリーニングを行った。
サツマイモの芋表皮をからUGT85酵素遺伝子と相同性の高いUGT遺伝子の単離を試みた。サツマイモ(黄金千貫品種)の表皮を含む塊茎と成熟葉からRNeasy Plant Mini Kit(キアゲン社)を用いてRNAを抽出し、オリゴテックス- dT30 mRNA精製キット(タカラバイオ)によりポリA(+)RNAを得た。このポリA(+)RNA 3.5ugを鋳型とし、ラムダZAP cDNA synthesis kit (cDNA synthesis kit/Uni ZAP XR vector kit/GigaPacl III Gold Packaging Extract (アジレント社))を用いて、同社の推奨する方法によりcDNAライブラリーを作製した。作製したライブラリーは3.5x106pfu/mlであった。このcDNAライブライー約50万プラークに対し、シロイヌナズナUGT85A3(配列番号5)、ホップHlUGT119(配列番号6)、チャCsUGTC30(配列番号7)、ブドウVvUGT020(配列番号8)、キンギョソウAmUGT207(配列番号9)の各遺伝子の全長cDNAをミックスしたものをスクリーニングプローブとして二次スクリーニングを行った。
プローブはノンラジオアイソトープDIG-核酸検出システム(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて、製造者が推奨する条件に従いPCRによりラベルした。この際、鋳型DNAを1μl(例えば、UGT85A3の場合はUGT85A3発現用プラスミド約1pg)、1x Taq buffer (TakaRa Bio)、 0.2mM dNTPs、プライマー各0.2 pmol/μl、rTaq polymerase 1.25 Uを含むPCR反応液を使用した。
上記各プライマーは以下の通り。
シロイヌナズナUGT85A3増幅用プライマーセット:
CACC-NdeI-UGT85A3-Fw: 5’-CACCCATATGGGATCCCGTTTTGTTTC -3’(配列番号10)
XhoI-stop-UGT85A3-Rv:5’-CTCGAGTTACGTGTTAGGGATCTTTC -3’(配列番号11)
ホップHlUGT119増幅用プライマーセット:
フォワード:5’-CACCCATATGACCATGGAAACTAAGCCTCA-3’(配列番号12)
リバース:5’-CTCGAGTTATGGTTTTGATGATGGCACCAAAAC-3’(配列番号13)
チャCsUGT30増幅用プライマーセット:
XhoI-CsUGTC30-Fw:5’- CACCCTCGAGATGGGTAGCAGAAAGCAG -3’(配列番号14)
BglII-CsUGTC30-Rv:5’- AGATCTTTAGTATTGCTCACAATAGTGAAGAGC -3’(配列番号15)
ブドウVvUGT020増幅用プライマーセット:
VvGT020-Fw:5’-CACCATGGGTTCAGTCACAGCTTCTGATAAA-3’(配列番号16)
VvGT020-Rw:5’-CTACTTCTTTGACAACACATTACGCAGCA-3’(配列番号17)
キンギョソウAmUGT207増幅用プライマーセット:
NdeI-AmUGT207-Fw:5’-CACCCATATGGGTTCCACAGCCGAAAAT-3’(配列番号18)
BamHI-AmUGT207-Rv:5’-GGATCCTTAATGCAAAAGCACCTCCTT-3’(配列番号19)
上記各プライマーは以下の通り。
シロイヌナズナUGT85A3増幅用プライマーセット:
CACC-NdeI-UGT85A3-Fw: 5’-CACCCATATGGGATCCCGTTTTGTTTC -3’(配列番号10)
XhoI-stop-UGT85A3-Rv:5’-CTCGAGTTACGTGTTAGGGATCTTTC -3’(配列番号11)
ホップHlUGT119増幅用プライマーセット:
フォワード:5’-CACCCATATGACCATGGAAACTAAGCCTCA-3’(配列番号12)
リバース:5’-CTCGAGTTATGGTTTTGATGATGGCACCAAAAC-3’(配列番号13)
チャCsUGT30増幅用プライマーセット:
XhoI-CsUGTC30-Fw:5’- CACCCTCGAGATGGGTAGCAGAAAGCAG -3’(配列番号14)
BglII-CsUGTC30-Rv:5’- AGATCTTTAGTATTGCTCACAATAGTGAAGAGC -3’(配列番号15)
ブドウVvUGT020増幅用プライマーセット:
VvGT020-Fw:5’-CACCATGGGTTCAGTCACAGCTTCTGATAAA-3’(配列番号16)
VvGT020-Rw:5’-CTACTTCTTTGACAACACATTACGCAGCA-3’(配列番号17)
キンギョソウAmUGT207増幅用プライマーセット:
NdeI-AmUGT207-Fw:5’-CACCCATATGGGTTCCACAGCCGAAAAT-3’(配列番号18)
BamHI-AmUGT207-Rv:5’-GGATCCTTAATGCAAAAGCACCTCCTT-3’(配列番号19)
このPCR反応液を、94℃で5分反応させた後、94℃1分、52℃1分、72℃2分の反応を30サイクル行い、最後に72℃で5分間処理した。このPCR産物からMini Quick Spinカラム(Roche)でプライマーおよび未反応のdNTPを除去し、これをスクリーニングプローブとして用いた。
ライブラリーのスクリーニングならびに陽性クローンの検出はノンラジオアイソトープDIG−核酸検出システム(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用い、製造者の推奨する方法に従った。ハイブリダイゼーション反応を30%ホルムアミドを含む5xSSC中、37℃で一晩行い、メンブレンの洗浄を5x SSC、 1%SDSを用いて55℃で20分間行った。約50万プラークをスクリーニングした。二次スクリーニング後、得られたた陽性クローンから、DNA Sequencer model 3100 (Applied Biosystems) を用いて合成オリゴヌクレオチドプライマーによるプライマーウォーキング法によってcDNA配列を得た。得られたcDNA配列をBlastxプログラム(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)によってホモロジー解析することで候補遺伝子IbUGT42(CDS配列:配列番号3、アミノ酸配列:配列番号4)を得た。
これまで活性の認められたモノテルペン配糖体化酵素遺伝子と高い相同性(配列同一性のテーブル参照)を示すことからIbUGT42遺伝子が同様の活性を有していることが強く示唆される。さらに同スクリーニングからUGT85ファミリーに属すると予想されるIbUGT36(CDS配列:配列番号1、アミノ酸配列:2)も候補遺伝子として見出された。
ライブラリーのスクリーニングならびに陽性クローンの検出はノンラジオアイソトープDIG−核酸検出システム(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用い、製造者の推奨する方法に従った。ハイブリダイゼーション反応を30%ホルムアミドを含む5xSSC中、37℃で一晩行い、メンブレンの洗浄を5x SSC、 1%SDSを用いて55℃で20分間行った。約50万プラークをスクリーニングした。二次スクリーニング後、得られたた陽性クローンから、DNA Sequencer model 3100 (Applied Biosystems) を用いて合成オリゴヌクレオチドプライマーによるプライマーウォーキング法によってcDNA配列を得た。得られたcDNA配列をBlastxプログラム(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)によってホモロジー解析することで候補遺伝子IbUGT42(CDS配列:配列番号3、アミノ酸配列:配列番号4)を得た。
これまで活性の認められたモノテルペン配糖体化酵素遺伝子と高い相同性(配列同一性のテーブル参照)を示すことからIbUGT42遺伝子が同様の活性を有していることが強く示唆される。さらに同スクリーニングからUGT85ファミリーに属すると予想されるIbUGT36(CDS配列:配列番号1、アミノ酸配列:2)も候補遺伝子として見出された。
このサツマイモUGT(IbUGT42およびIbUGT 36)の生化学活性を検証するために、発現ベクターの構築を行った。サツマイモの塊茎由来cDNAを鋳型にし、RT-PCRによって両遺伝子を増幅した。PCR反応にはIbUGT42及びIbUGT36遺伝子は下記のプライマーセットで増幅した(配列番号14〜17)。
CACC-NdeI-IbUGT42-Fw
5’-CACCCATATGGGTTCTCTTAGCTCAGAAC-3’ (配列番号20)
IbUGT42-BamHI-stop-Rv
5’-GGATCCTTAATATTTTGGAGGAAGGAGA-3’ (配列番号21)
CACC-NdeI-IbUGT36-Fw
5’-CACCCATATGGAGAGTCAACCTCACGTC-3’ (配列番号22)
IbUGT36-XhoI-Stop-Rv
5’-CTCGAGTCAAATTTTCATCTGCCTAATG-3’ (配列番号23)
CACC-NdeI-IbUGT42-Fw
5’-CACCCATATGGGTTCTCTTAGCTCAGAAC-3’ (配列番号20)
IbUGT42-BamHI-stop-Rv
5’-GGATCCTTAATATTTTGGAGGAAGGAGA-3’ (配列番号21)
CACC-NdeI-IbUGT36-Fw
5’-CACCCATATGGAGAGTCAACCTCACGTC-3’ (配列番号22)
IbUGT36-XhoI-Stop-Rv
5’-CTCGAGTCAAATTTTCATCTGCCTAATG-3’ (配列番号23)
PCR反応液(50μl)は、サツマイモの塊茎由来cDNA 1μl、1×ExTaq buffer(TaKaRaBio)、0.2mM dNTPs、プライマー各0.4pmol/μl、ExTaq polymerase 2.5Uからなる組成とした。PCR反応は、94℃で3分間反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で2分間の反応を計30サイクルの増幅を行った。PCR産物を0.8%アガロースゲルによる電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した結果、それぞれの鋳型DNAから推定された約1.4kbのサイズに増幅バンドが得られた。
これらのPCR産物はpENTR-TOPO Directionalベクター(Invitrogen)に製造業者が推奨する方法でサブクローニングした。DNA Sequencer model 3100(Applied Biosystems)を用い、合成オリゴヌクレオチドプライマーによるプライマーウォーキング法によって挿入断片内にPCRによる変異が無いことを確認した。
これらのPCR産物はpENTR-TOPO Directionalベクター(Invitrogen)に製造業者が推奨する方法でサブクローニングした。DNA Sequencer model 3100(Applied Biosystems)を用い、合成オリゴヌクレオチドプライマーによるプライマーウォーキング法によって挿入断片内にPCRによる変異が無いことを確認した。
IbUGT42及びIbUGT36遺伝子を大腸菌発現ベクターpET15b(Novagen)に同社の推奨する方法で挿入し、大腸菌発現用プラスミドを作成して、以下のようにIbUGT42及びIbUGT36をHisTagとの融合タンパク質として発現させた。
上記大腸菌発現用プラスミドで定法に従って大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。得られた形質転換体を、50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地(10 g/l typtone pepton,5 g/l yeast extract,1 g/l NaCl)4 mlにて、37℃で一晩振盪培養した。静止期に達した培養液4 mlを同組成の培地80 mlに接種し、37℃で振盪培養した。菌体濁度(OD600)がおよそ0.5に達した時点で終濃度0.5 mMのIPTGを添加し、18℃で20 hr振盪培養した。
以下のすべての操作は4℃で行った。培養した形質転換体を遠心分離(5,000×g,10 min)にて集菌し、Buffer S[20 mM HEPESバッファー(pH 7.5),20 mM imidazol, 14 mM β-メルカプトエタノール]1 ml/g cellを添加して、懸濁した。続いて、超音波破砕(15 sec×8回)を行い,遠心分離(15,000×g,15 min)を行った。得られた上清を粗酵素液として回収した。粗酵素液をBuffer Sにて平衡化したHis SpinTrap(GE Healthcare)に負荷し、遠心(70×g,30 sec)した。Bufferで洗浄後、100mMおよび500 mMのimidazoleを含むBuffer S 各5mlにて、カラムに結合したタンパク質を段階的に溶出した。各溶出画分をMicrocon YM-30(Amicon)を用いて20 mM HEPESバッファー(pH 7.5)、14 mM β-メルカプトエタノールにバッファー置換した(透析倍率1000倍)。
上記大腸菌発現用プラスミドで定法に従って大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。得られた形質転換体を、50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地(10 g/l typtone pepton,5 g/l yeast extract,1 g/l NaCl)4 mlにて、37℃で一晩振盪培養した。静止期に達した培養液4 mlを同組成の培地80 mlに接種し、37℃で振盪培養した。菌体濁度(OD600)がおよそ0.5に達した時点で終濃度0.5 mMのIPTGを添加し、18℃で20 hr振盪培養した。
以下のすべての操作は4℃で行った。培養した形質転換体を遠心分離(5,000×g,10 min)にて集菌し、Buffer S[20 mM HEPESバッファー(pH 7.5),20 mM imidazol, 14 mM β-メルカプトエタノール]1 ml/g cellを添加して、懸濁した。続いて、超音波破砕(15 sec×8回)を行い,遠心分離(15,000×g,15 min)を行った。得られた上清を粗酵素液として回収した。粗酵素液をBuffer Sにて平衡化したHis SpinTrap(GE Healthcare)に負荷し、遠心(70×g,30 sec)した。Bufferで洗浄後、100mMおよび500 mMのimidazoleを含むBuffer S 各5mlにて、カラムに結合したタンパク質を段階的に溶出した。各溶出画分をMicrocon YM-30(Amicon)を用いて20 mM HEPESバッファー(pH 7.5)、14 mM β-メルカプトエタノールにバッファー置換した(透析倍率1000倍)。
HisTagカラムで精製し、SDS-PAGEを行なって分離したところ、IbUGT42については約50KDa付近に顕著なタンパク質の発現が確認できた(図1)。一方、IbUGT36については顕著なバンドが検出できなかったが、不溶性画分に予想される組換えタンパク質のサイズにバンドが見られることからタンパク質発現自体はしていることが示唆された。
図1において、矢印と四角枠は溶出したHisTag融合IbUGTタンパク質を示す。図1において、各レーンは左から順に空ベクター(pET15b)、IbUGT36、IbUGT36、 IbUGT42を示す。IbUGT42は組換えタンパク質が顕著なレベルで発現している。他方、IbUGT36については精製後の発現タンパク質が少ないが(右部:E500)、不溶性画分(左部:Pellet)に存在していることが分かる。
図1において、矢印と四角枠は溶出したHisTag融合IbUGTタンパク質を示す。図1において、各レーンは左から順に空ベクター(pET15b)、IbUGT36、IbUGT36、 IbUGT42を示す。IbUGT42は組換えタンパク質が顕著なレベルで発現している。他方、IbUGT36については精製後の発現タンパク質が少ないが(右部:E500)、不溶性画分(左部:Pellet)に存在していることが分かる。
次にIbUGT42及びIbUGT36の組換え酵素を用いてLC-MS分析により酵素活性を測定した。 標準的な酵素反応条件は以下の通りである。反応液(2mM UDP-グルコース, 0.2mM 糖受容体基質,100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 7.5),精製VvUGT酵素溶液25μl)を蒸留水で50μlに調製し、30℃、1時間反応させた。
酵素反応液5μlを下記の条件でLC-MS分析を行った。
LC condition
カラム : CAPCELL PAK C18-UG120 (2.0 mmI.D.×150 mm)
移動相:A: 水 (+0.05%蟻酸含有), B: アセトニトリル
グラジエント:15分間のB濃度15%から 90%への直線濃度勾配
流速:毎分0.2ml
カラムオーブン:40℃
MS condition
ESI (negative mode)
SIM mode: (m/z 315, 338, 361, 363, 331, 354, 377, 429 etc)
上記LC-MS分析をIbUGT42及びIbUGT36のそれぞれについて行った。
酵素反応液5μlを下記の条件でLC-MS分析を行った。
LC condition
カラム : CAPCELL PAK C18-UG120 (2.0 mmI.D.×150 mm)
移動相:A: 水 (+0.05%蟻酸含有), B: アセトニトリル
グラジエント:15分間のB濃度15%から 90%への直線濃度勾配
流速:毎分0.2ml
カラムオーブン:40℃
MS condition
ESI (negative mode)
SIM mode: (m/z 315, 338, 361, 363, 331, 354, 377, 429 etc)
上記LC-MS分析をIbUGT42及びIbUGT36のそれぞれについて行った。
その結果、IbUGT42及びIbUGT36は、リナロールおよびゲラニオールにグルコースを一分子転移し、それぞれリナリルグルコシドおよびゲラニルグルコシドを生成する触媒活性(配糖体化)を示した(図2)。またIbUGT42及びIbUGT36の各変性タンパク質との反応液中にはモノテルペングルコシドは見出されなかった。
図2のパネルは、上から順にゲラニオールとIbUGT36との反応液、ゲラニオールとIbUGT42との反応液、リナロールとIbUGT36との反応液、リナロールとIbUGT42との反応液、リナロールと熱変性により失活させたIbUGT36との反応液、リナロールと熱変性により失活させたIbUGT42との反応液についてのLC-MS分析結果を示す。また、図2において、四角枠は酵素反応生成物(ゲラニオール配糖体およびリナロール配糖体)を示す。
以上の結果から、サツマイモIbUGT42およびIbUGT36はモノテルペン配糖体化活性を有する酵素であることが示された。
図2のパネルは、上から順にゲラニオールとIbUGT36との反応液、ゲラニオールとIbUGT42との反応液、リナロールとIbUGT36との反応液、リナロールとIbUGT42との反応液、リナロールと熱変性により失活させたIbUGT36との反応液、リナロールと熱変性により失活させたIbUGT42との反応液についてのLC-MS分析結果を示す。また、図2において、四角枠は酵素反応生成物(ゲラニオール配糖体およびリナロール配糖体)を示す。
以上の結果から、サツマイモIbUGT42およびIbUGT36はモノテルペン配糖体化活性を有する酵素であることが示された。
本発明によれば、in vitroで、もしくは宿主細胞に本発明の遺伝子を導入することにより、モノテルペン類にグルコースを一分子転移することが可能となり、新規機能性食品素材の開発や二次代謝分子育種等に貢献し得るテルペン配糖体をより簡便に生産する、もしくは減少させることができる点で、本発明は極めて有用なものである。
配列番号10:合成DNA
配列番号11:合成DNA
配列番号12:合成DNA
配列番号13:合成DNA
配列番号14:合成DNA
配列番号15:合成DNA
配列番号16:合成DNA
配列番号17:合成DNA
配列番号18:合成DNA
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配列番号23:合成DNA
配列番号11:合成DNA
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配列番号23:合成DNA
例えば、サツマイモ由来のゲラニオールは1位に-OH基を有し、リナロールは3位に-OH基を有する。そこで、本発明のタンパク質を用いてサツマイモ細胞に含まれるゲラニオールを配糖化する場合、1位の-OH基に糖が付加されることになる。また、本発明のタンパク質を用いてサツマイモ細胞に含まれるリナロールを配糖化する場合、3位の-OH基に糖が付加されることになる。
Claims (12)
- 以下の(a)〜(c)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のタンパク質。
(a)配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号2又は4のアミノ酸配列において、1〜95個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質;
(c)配列番号2又は4のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノテルペン化合物を配糖化する活性を有するタンパク質 - 前記モノテルペン化合物が、ゲラニオール又はリナロールである、請求項1に記載のタンパク質。
- 以下の(a)〜(e)よりなる群より選ばれるポリヌクレオチド。
(a)配列番号1又は3の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2又は4のアミノ酸配列において、1〜95個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2又は4のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号1又は3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、モノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド - 請求項3に記載のポリヌクレオチドが導入された非ヒト形質転換体。
- 前記ポリヌクレオチドが、発現ベクターに挿入されたものである、請求項4に記載の形質転換体。
- 植物体である、請求項4に記載の形質転換体。
- 請求項4に記載の形質転換体の抽出物。
- 請求項7に記載の抽出物を含む食品、香料、医薬品又は工業原料。
- 請求項4に記載の非ヒト形質転換体を培養することを特徴とする、モノテルペン化合物を配糖体化する活性を有するタンパク質の製造方法。
- 請求項1に記載のタンパク質と、UDP-糖と、モノテルペン化合物とを反応させて前記モノテルペン化合物を配糖化する工程を含む、モノテルペン配糖体の製造方法。
- 前記UDP-糖が、UDP-グルコースである、請求項10に記載の方法。
- 前記モノテルペン化合物が、ゲラニオール又はリナロールである、請求項10に記載の方法。
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