特許文献1の技術では、栽培用水中の不純物が吸水体表面に固着し、吸水体に目詰まりが生じるため、時間が経つと吸水体の浸透機能が大幅に低下してしまう。したがって、特許文献1の技術では、吸水体を洗浄したり、交換したりする必要が生じるので、維持管理に手間がかかる。また、特許文献1の技術は、草花などを家庭内で栽培するプランタ等の小規模なものに適用される技術であり、大規模な畑作などへの適用は事実上不可能である。
また、特許文献2の技術では、暗渠管を用いて集水しているため、暗渠管の孔に土粒子などが集積し易く、目詰まりを起こし易い。暗渠管の孔に目詰まりが生じると、集水機能が大幅に低下するため、特許文献2の技術では、定期的に暗渠管を洗浄する必要があり、維持管理に手間がかかる。なお、暗渠管の周囲には、暗渠用フィルタ材が充填されているが、その具体的な構成が何ら記載されていないため、その効果は不明である。たとえば、暗渠用フィルタ材として砕石や砂利などを用いると、土粒子がこれらの間隙を通過して暗渠管の孔が目詰まりしてしまう。また、繊維などで形成される目の細かい暗渠用フィルタ材を用いると、暗渠用フィルタ材自体が目詰まりする可能性もある。
さらに、特許文献2の技術では、自然降雨や散水によって土壌に水を供給し、水位調整枡によって排水側で地下水位を調整している。自然降雨が不足しがちな地域などでは、散水によって土壌に水を供給することになるが、土壌への水の供給が不足すると地下水位を目的の水位に保つことができないので、特許文献2の技術では、余剰に水を供給してしまいがちになる。余剰に供給された水は、排水管に排出されるだけであり、水資源の無駄使いが生じる。
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、地下灌漑システムを提供することである。
この発明の他の目的は、維持管理が容易な、地下灌漑システムを提供することである。
この発明のさらに他の目的は、水資源を効率的に利用できる、地下灌漑システムを提供することである。
この発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、この発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、この発明を何ら限定するものではない。
第1の発明は、その上側に土壌を有する遮水部材、遮水部材の上側に給水して重力水状態の土壌部を形成する給水手段、および土壌部の重力水の水位が設定値以上のときに給水手段による給水を停止し、土壌部の重力水の水位が設定値未満のときに給水手段による給水を行う水位管理手段を備える、地下灌漑システムである。
第1の発明では、地下灌漑システム(10)は、遮水部材(16)を備え、耕作地(100)などに適用されて、土壌の水分量を植物の生育にとって適切な状態に保つ。給水手段(12,14)は、遮水部材の上側に水を供給する。この水は、土壌中を浸透していき、重力水となって重力水状態の土壌部(26)を形成する。また、水位管理手段(18)は、給水手段による給水を管理することによって、重力水状態の土壌部の重力水の水位(28)を所望の水位に保つ。
重力水状態の土壌部の重力水は、その上方の土壌に毛細管現象によって吸い上げられる。この上方の土壌の水分量は、重力水の水位の高低によって変動するため、重力水の水位を適切な位置に保つことによって、適切な水分量を有する毛管水状態の土壌部(30)が耕作地などに形成される。
第1の発明によれば、土壌自体の浸透機能を利用するので、目詰まりによる浸透機能の低下が発生せず、維持管理が容易となる。また、給水側で重力水の水位管理を行うので、無駄な水が供給されることが無く、水資源を効率的に利用できる。
第2の発明は、第1の発明に従属し、遮水部材は、上側開口の容器状に形成され、その内部に土壌部が形成される。
第2の発明では、遮水部材(16)は、上側開口の容器状に形成される。つまり、遮水部材は、貯水機能を有する。給水手段(12,14)によって水が供給されると、その水は遮水部材内の土中に浸透していき、重力水となって遮水部材内に留まる。これによって、遮水部材の内部には、重力水状態の土壌部(26)が形成される。したがって、水位管理手段(18)を用いて重力水の水位(28)を適切な位置に保つことにより、適切な水分量を有する毛管水状態の土壌部(30)を耕作地(100)などに形成することができる。
なお、遮水部材は、上側開口の容器状に形成されるため、遮水部材の内部とは、遮水部材の上側に含まれる概念となる。
第3の発明は、第2の発明に従属し、遮水部材は、その上面に開口を設けた横管状に形成される。
第3の発明では、遮水部材(16)は、横管状つまり横長の容器状に形成され、その上面には、開口が形成される。たとえば、遮水部材の全長に亘るような1つの開口を形成することもできるし、所定間隔ごとに複数の開口を形成することもできる。
第4の発明は、第3の発明に従属し、開口は、立ち上がり部を有する。
第4の発明では、遮水部材(16)の開口は、上方に向かって立ち上がる立ち上がり部を有する。これにより、遮水部材は、その横幅を抑えつつその高さを確保することができる。
第5の発明は、第2ないし第4のいずれかの発明に従属し、給水手段は、遮水部材内を通る水路を形成するための給水部材を含む。
第5の発明では、給水手段(12,14)は、給水部材(90,94)を含む。給水部材は、遮水部材(16)内を通る水路(92)を形成し、水路を流れる水は、給水部材に形成される複数の細孔を介して遮水部材内の土壌に供給されて、重力水状態の土壌部(26)を形成する。たとえば、横長に形成される遮水部材を用いるような場合には、給水部材は、その内部全長に亘る水路を形成する。また、たとえば、複数の遮水部材を直列的に接続するような場合には、給水部材は、遮水部材および給水管(14,22b)の内部を通る水路を形成する。
第5の発明によれば、遮水部材内に適切に水を供給することができるので、重力水状態の土壌部を遮水部材内に適切に形成することができる。
第6の発明は、第1の発明に従属し、遮水部材は、その上端に開口を有する縦管状に形成され、給水手段は、縦管状の遮水部材の下端に接続され、縦管状の遮水部材の下端付近に設けられ、土壌部を当該遮水部材内に保持するための透水部材を備える。
第6の発明では、遮水部材(16)は、縦管状に形成され、その上端に開口が形成される。遮水部材の下端付近には、その上側に土壌を保持するための透水部材(94)が設けられる。給水手段(12,14)は、遮水部材の下端に接続され、給水手段からの水は、透水部材を介して遮水部材内の土壌に供給される。これにより、遮水部材の内部には、透水部材の上側において重力水状態の土壌部(26)が形成される。なお、第6の発明においても、遮水部材は、上側開口の容器状に形成されるため、遮水部材の内部とは、遮水部材の上側に含まれる概念となる。
第7の発明は、第2ないし第6のいずれかの発明に従属し、開口は、遮水性を有する鍔状部材を備える。
第7の発明では、遮水性を有する部材によって形成される鍔状部材(96)を備える。鍔状部材は、たとえば、遮水部材(16)の側壁から鍔状に延びるように設けられ、重力水状態の土壌部(26)の水分が、その配置位置の下方の土壌へ浸透していくことを防ぐ。
第7の発明によれば、下方に向かって浸透していく水の量を低減することによって、より効率的に広範囲に広がる毛管水状態の土壌部を形成することができ、使用する水の量を低減することができる。
第8の発明は、第1の発明に従属し、遮水部材は、シート状に形成され、その上側に前記土壌部が形成される。
第8の発明では、遮水部材(16)は、シート状に形成される。そして、給水手段(12,14)による給水によって、その上側に重力水状態の土壌部(26)が形成される。
第9の発明は、第2ないし第7のいずれかの発明に従属し、複数の遮水部材が地中に分散配置され、給水手段は、複数の遮水部材の内部のそれぞれに給水する給水管を含む。
第9の発明では、複数の遮水部材(16)が地中に分散配置される。また、給水手段(12,14)は、給水管(14)を含み、給水管を用いて複数の遮水部材のそれぞれに給水することにより、各遮水部材の内部に重力水状態の土壌部(26)を形成する。
第9の発明によれば、遮水部材を分散配置するため、遮水部材を敷設する際には、その敷設部分のみを掘削するだけでよく、掘削および埋戻しなどの土工費を低減できる。また、降雨などによって余剰に供給された水は、遮水部材の間を通って重力により地下に浸透していくため、余剰水を排出する設備が不要となる。
第10の発明は、第9の発明に従属し、給水管は、本管、および本管から分岐して遮水部材まで延びる複数の分岐管を含み、水位管理手段は、本管から分岐管への給水を管理する。
第10の発明では、給水管(14)は、本管(20)および複数の分岐管(22a,22b)を含む。分岐管は、本管から分岐して複数の遮水部材(16)のそれぞれまで延び、複数の遮水部材のそれぞれに給水することによって、各遮水部材の内部に重力水状態の土壌部(26)を形成する。また、水位管理手段(18)は、本管から分岐管への給水を管理する。つまり、水位管理手段は、重力水の水位(28)が設定値以上のときに本管から分岐管への給水を停止し、重力水の水位が設定値未満のときに本管から分岐管への給水を行うことにより、重力水の水位を所望の水位に保つ。したがって、複数の遮水部材内の重力水の水位を一括管理することができる。
第11の発明は、第9の発明に従属し、給水管は、本管、および本管から分岐して遮水部材まで延びる複数の分岐管を含み、水位管理手段は、分岐管から遮水部材内への給水を管理する。
第11の発明では、給水管(14)は、本管(20)および複数の分岐管(22a,22b)を含む。分岐管は、本管から分岐して複数の遮水部材(16)のそれぞれまで延び、複数の遮水部材のそれぞれに給水することによって、各遮水部材の内部に重力水状態の土壌部(26)を形成する。また、水位管理手段(18)は、分岐管から遮水部材内への給水を管理する。つまり、水位管理手段は、遮水部材ごと、或いは複数の遮水部材ごとに、重力水の水位を個別管理する。
第11の発明によれば、重力水の水位を個別に調節できるので、傾斜地などにも地下灌漑システムが適用可能となる。また、適用する耕作地において、場所ごとに水分量の異なる土壌部を形成することができるので、生育に適する水分量が異なる植物を、同一システム内で同時に栽培できる。
第12の発明は、請求項1ないし11のいずれかに記載の地下灌漑システムにおいて、水位管理手段として用いられる水位管理器であって、給水管から水が供給される縦管、および縦管内に設けられて、縦管内の水位変動と連動するフロートを備え、フロートの動きに応じて、縦管内の水位が設定値以上のときに給水口を閉じ、縦管内の水位が設定値未満のときに給水口を開く、水位管理器である。
第12の発明では、水位管理器(18)は、地下灌漑システム(10)に適用される。水位管理器は、給水管(14,20,22a,22b)から水が供給される縦管(40,70)を含み、その縦管内の水位に応じて水の供給を調整するものである。フロート(54,74)は、縦管内に設けられ、縦管内の水位に応じて上昇および下降する。そして、フロートが上昇すると、弁体(60,80)と弁座(48,82)とが当接して給水口(50,84)を閉じ、フロートが下降すると、弁体と弁座とが離れて給水口を開くことによって、縦管内の水位を所望の水位に保つ。たとえば、水位管理器を遮水部材(16)内に配置して、遮水部材内の重力水の水位(28)と縦管内の水位とを連動させれば、重力水の水位を所望の水位に保つことができ、適切な水分量を有する毛管水状態の土壌部(30)を耕作地(100)などに形成することができる。
第13の発明は、第12の発明に従属し、フロートは、縦管内の水位が設定値以上のときに給水管の端と当接して給水口を閉じ、縦管内の水位が設定値未満のときに、給水管の端から離れて給水口を開く。
第13の発明では、フロート(74)は、たとえば、水位設定具(72)によって固定された給水管(14,22b)の端(82)より下の位置において、縦管(70)内に単に入れられた状態で配置される。そして、フロートは、縦管内の水位に応じて上昇および下降し、縦管内の水位が設定値以上のときに、給水管の端(82)と当接して給水口(84)を閉じ、縦管内の水位が設定値未満のときに、給水管の端から離れて給水口を開くことによって、縦管内の水位を所望の水位に保つ。このような縦管、フロートおよび水位設定具などには、汎用品を利用することができる。
第13の発明によれば、汎用品のみを組み合わせて簡単にかつ安価に製作可能な水位管理器を提供できる。
この発明によれば、土壌自体の浸透機能を利用するので、目詰まりによる浸透機能の低下が発生せず、維持管理が容易となる。
また、給水側で重力水の水位管理を行うので、無駄な水が供給されることが無く、水資源を効率的に利用できる。
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
図1を参照して、この発明の一実施例である地下灌漑システム10(以下、単に「システム10」という。)は、水タンク12、給水管14、遮水部材16および水位管理器18を備え、耕作地100などに適用され、地下から水を供給して土壌中の水分を植物の生育にとって適切な状態に保つ。
水タンク12は、地上に設置されて、耕作地100に供給するための水を貯留する。水タンク12は、たとえば、農業用水配管(図示せず)などと接続されて、農業用水配管から送られてくる水をその内部に貯留する。水タンク12に貯留される水量は、耕作地100の面積などによって適宜設定され、水タンク12内には、常に一定量以上の水が貯留される。たとえば、水タンク12内の水位が一定水位を下回ると、農業用水配管から自動的に水が補給されるようにしてもよいし、手動で栓を開け閉めすること等によって水を適宜補給するようにしてもよい。
給水管14は、水タンク12内の水を遮水部材16の内部まで送る管路であって、水タンク12と接続される本管20、および本管20から分岐する分岐管22を含む。また、分岐管22は、本管20と接続される第1分岐管22a、および第1分岐管22aからさらに分岐して遮水部材16まで延び、遮水部材16の内部に給水する第2分岐管22bを含む。給水管14は、塩化ビニル等の合成樹脂およびSUS等の金属などによって形成され、複数の直管、可撓管および継手などを適宜連結して形成される。
遮水部材16は、図2に示すように、合成樹脂および金属などの遮水性を有する材質によって、上側開口の容器状に形成され、地中に埋設される。この実施例では、遮水部材16は、有底円筒状に形成され、複数(たとえば16個)の遮水部材16が耕作地100の地中に分散配置される。遮水部材16としては、たとえば、汎用の塩化ビニル製のVU管にキャップ等で底をつけたものを用いるとよい。遮水部材16の内径は、たとえば50mm−500mmであり、その高さは、たとえば50mm−300mmである。また、遮水部材16の底面16aから地表面102までの距離は、たとえば100mm−500mmであり、各遮水部材16の間の間隔は、たとえば0.5m−2.0mである。ただし、遮水部材16の大きさ、配置個数、配置深さおよび配置間隔などは、これらの数値に限定されず、このシステム10を適用する耕作地100の面積、土壌成分および気候条件などに応じて、適宜設定される。このことは、後述する他の各実施例においても同様である。たとえば、樹木等の植え付け後に耕起する必要が無い場合には、遮水部材16を植穴の直近に浅く埋設することもできる。
また、遮水部材16の側面下部には、接続口24が形成され、この接続口24に第2分岐管22bが接続される。さらに、遮水部材16の内部には、周囲の土壌と同様の成分によって構成される土が充填される。詳細は後述するように、第2分岐管22bから遮水部材16の内部に水が供給されると、そこに重力水状態の土壌部26が形成される。
なお、上述のように、遮水部材16は上側開口の容器状に形成されるため、この場合の遮水部材16の内部とは、遮水部材16の上側に含まれる概念となる。また、遮水部材16は、地中に埋設されることによって、その上側に土壌を有することになるのはもちろんのこと、遮水部材16の内部に土が充填されることによっても、その上側に土壌を有することになる。
また、給水管14には、水位管理器18が設けられる。水位管理器18は、図3に示すように、貯水機能を有する縦管40、および縦管40の内部に収容される管理器本体42を含み、縦管40内の水位に応じて水の供給を調整するものである。この実施例では、水位管理器18は、本管20(つまり給水側)に設けられ、詳細は後述するように、本管20から分岐管22への水の供給を調整することによって、遮水部材16の内部に形成される重力水状態の土壌部26の重力水の水位28を管理する。
縦管40は、塩化ビニルなどの合成樹脂によって、有底円筒状に形成される。縦管40の上部は開口しており、その開口から上流側の本管20が挿入されて、本管20と管理器本体42とが接続される。また、縦管40の側壁下部には管接続部44が形成され、この管接続部44に下流側の本管20が接続される。したがって、本管20は、水位管理器18の前後でその敷設高さが変わる。
管理器本体42としては、本願出願人が先に出願した特願2007−83825号において提案したものを使用することができる。
具体的には、管理器本体42は、軸部46を含み、軸部46は、金属または合成樹脂などによって直管状に形成される。軸部46の一端部分は、上流側の本管20と管理器本体42とを接続するための接続部分である。また、軸部46の他端は、後述する弁体60を受ける弁座48として用いられ、その他端の開口は、縦管40内に水を供給する給水口50として用いられる。
また、管理器本体42は、軸固定具52およびフロート54を備え、これらは軸部46の周囲に配置される。軸固定具52は、合成樹脂などによって平板状に形成されて、軸部46の上部および下部のそれぞれに取り付けられる。2つの軸固定部52は、互いが直交する方向に延びるように配置され、それらの両端部が縦管40の内面に沿うように当接することによって、軸部46が傾くことを防止する。また、上側の軸固定部52には、その長さを微調整するための長さ調整部56が設けられる。
フロート54は、給水口50の上方に配置されて、縦管40内の水位変動に応じて上昇および下降する浮標であり、塩化ビニル等の合成樹脂によって中空リング状に形成される。フロート54の中心部を貫通するように形成される孔には、軸部46が挿通され、フロート54は、軸部46に沿って移動(上昇および下降)する。
また、フロート54には、リンク機構58を介して弁体60が連結される。弁体60は、給水口50の下方に配置されて、フロート54が上昇すると、弁座48と当接して給水口50を閉じ、フロート54が下降すると、弁座48から離れて給水口50を開く。弁体60は、金属および合成樹脂などによって円盤状に形成され、その上面は、弁座48と隙間無く当接できるように、エチレンプロピレンゴム等の弾性材によって覆われている。
リンク機構58は、フロート54の動きを弁体60に伝え、フロート54の動きと、弁体60が給水口50を開閉する動きとを連動させるものである。リンク機構58は、金属および合成樹脂などによって平棒状に形成される複数のアーム等を組み合わせて形成され、てこの原理を利用して、フロート54が移動する力を増幅して弁体60に伝える。つまり、リンク機構58を用いることによって、弁体60と弁座48とを強い力で押し付けることができ、給水口50を適切に閉じることができる。
このような水位管理器18を本管20に設けるときには、先ず、縦管40を地中に配置し、縦管40の管接続部44に下流側の本管20を接続する。次に、管理器本体42を縦管40内に入れ、管理器本体42の位置を縦管40内の所望の位置(高さ)に調整する。つまり、縦管40内の水位が所定の水位設定値になったときに、フロート54が上昇して弁体60が弁座48に当接し、給水口50が閉じられるような位置に、管理器本体42の位置を調整する。そして、その状態で、長さ調整部56を調整して上側の軸固定部52の長さを長くし、軸固定部52を縦管40の内面に突っ張らせて、軸部46を縦管40内に固定することによって、管理器本体42を縦管40内の所望の位置に固定する。また、縦管40の一端部分に上流側の本管20を接続する。
このようなシステム10では、水タンク12内の水は、水タンク12内の水位と縦管40内の水位との水位差(たとえば、1m程度の水位差)を利用した自然流下によって、本管20および軸部46を介して、縦管40内に供給される。縦管40内に供給された水は、さらに本管20および分岐管22を介して、遮水部材16の内部に供給される。遮水部材16は、上側開口の容器状に形成される、つまり貯水機能を有するので、遮水部材16の内部に供給された水は、その内部の土中に浸透していき、重力水となって遮水部材16の内部に留まる。これによって、遮水部材16の内部には、重力水状態の土壌部26が形成される。
この土壌部26の重力水の水位28、すなわち遮水部材16内の重力水の水位28は、縦管40内の水位と連動しており、重力水の水位28の上昇に伴い、縦管40内の水位も上昇する。そして、縦管40内の水位が所定の水位設定値になると、給水口50が閉じられて、軸部46から縦管40内への給水が停止される。これによって、遮水部材16内への給水が停止され、重力水の水位28は、縦管40内の水位と同じ水位、つまり所定の水位設定値で止まる。また、後述するように、遮水部材16内の重力水が上側の土壌に吸い上げられて、重力水の水位28が低下すると、縦管40内の水位も低下し、給水口50が開かれて、軸部46から縦管40内への給水が行われ、遮水部材16内への給水が行われる。
言い換えると、水位管理器18は、遮水部材16内の重力水の水位28が設定値以上になると、給水口50を閉じて本管20から分岐管22への給水を停止し、遮水部材16内の重力水の水位28が設定値未満になると、給水口50を開いて本管20から分岐管22への給水を行う。これによって、水位管理器18は、遮水部材16内への給水を管理し、遮水部材16内の重力水の水位28を設定水位に保つ。
遮水部材16内の重力水、つまり土壌部26の水分は、その上側の土壌に毛細管現象によって吸い上げられて浸透していき、上側の土壌に毛管水状態の土壌部30を形成する(図2参照)。毛管水状態の土壌部30の水分量は、遮水部材16内の重力水の水位28の高低によって変動するため、重力水の水位28を適切な位置に保てば、毛管水状態の土壌部30の水分量を適切に保つことができる。たとえば、耕作地100で栽培する植物に合わせて、重力水の水位28を調整すれば、その植物にとって最適な水分量を有する作土層が耕作地100に形成される。
なお、遮水部材16の上端16bと重力水の上面(つまり水位28の位置)との距離が短いと、重力水がサイフォン現象によって遮水部材16の外部に流出し続けてしまう可能性がある。本願発明者等による実験によると、毛管水状態の土壌部30の形成に遮水部材16内の重力水を有効に利用するためには、遮水部材16の上端16bと重力水の上面との距離は、3cm以上であることが望ましく、好ましくは6cm以上、より好ましくは16cm〜20cmであることが望ましい。したがって、遮水部材16の形状は、3cm〜20cmの間で自由に水位が設定できる構造が望ましい。
この実施例では、吸水体などの浸透材を用いずに、土壌部26,30自体の浸透機能を利用して、土壌中の水分を植物の生育にとって適切な状態に保つ。土壌部26,30自体は、干ばつ等の水不足によって乾燥状態になったとしても、目詰まりするということは無いので、目詰まりによる浸透機能の低下が発生せず、遮水部材16内の土を洗浄したり、交換したりする必要が生じない。したがって、この実施例によれば、維持管理が容易となる。
また、スプリンクラー等による一般的な散水、つまり表面灌漑によって耕作地100に水を供給すると、供給された水は、土壌表面や植物表面も潤すことになるが、これらは植物の生育には関係無く、大気中に蒸発(つまり表面蒸発)してしまうだけであるので、水の無駄遣いが生じる。また、土壌がぬかるんでしまうため作業に支障が出たり、泥跳ねや土壌表面の凝固などの不具合を招いてしまう。さらに、ハウス栽培の場合には、表面蒸発した水分によってハウス内の湿度が過剰に高くなり、植物の病気発生の原因となる場合もある。
これに対して、この実施例のように、地下から浸透させて耕作地100に水を供給すれば、つまり地下灌漑を行えば、供給した水が表面蒸発することが無いので、水の無駄遣いを低減でき、水資源を効率的に利用できる。その上、上述のような、土壌がぬかるんだり、ハウス内の湿度が過度に上昇したりする等の、表面灌漑に起因する不具合も生じない。
さらに、この実施例では、給水側で遮水部材16内への給水を管理し、遮水部材16内の重力水が毛細管現象によってその上層に吸い上げられて減少した分の水のみを供給するので、余剰に水が供給されることは無く、水資源をより効率的に利用できる。また、このように水資源を効率的に利用することによって、温暖化対策としても貢献できる。
また、水位管理器18によって遮水部材16内への給水を管理し、毛細管現象によって土壌に水を供給するため、動力が不要である。また、降雨などによって耕作地100に過剰の水が供給された場合、その余剰水は地下深くに浸透していくので、余剰水を排出する設備を別途設ける必要が無い。したがって、システム10を簡素化できる。ただし、降雨などによって直ぐに冠水してしまう耕作地100にシステム10を適用する場合には、注意が必要であり、別途排水設備を設ける必要がある場合もある。
なお、土壌が非常に乾燥している場合は、毛細管現象が生じにくいので、栽培開始時などは、土壌に十分灌水して、毛細管がつながる状態を予め作ってやるとよい。
また、給水管14および遮水部材16を敷設する際には、その敷設部分のみを掘削するだけでよいので、耕作地100全面を掘削することと比較して、掘削および埋戻しなどの土工費を低減できる。また、耕作地100全面を掘削する必要が無いので、たとえば、既に樹木の植えられた土地にこのシステム10を適用する場合には、樹木の間に給水管14および遮水部材16を敷設するようにすれば、樹木を植えかえずにそのままシステム10を導入することができ、樹木を傷つけることがない。
また、植物は、背丈が高くなるに伴い、その根を深く張って安定性を保とうとするが、重力水の水位28を適宜調整することによって、その植物にとって必要な深さ(厚さ)まで毛管水状態の土壌部30を耕作地100に形成することができるので、耕作地100では様々な植物を好適に栽培することができる。
また、特許文献2の技術のように、遮水シートによって地下全面を覆ってしまうと、大きな木は、根を深く張ることができず、倒木したり、その生育に悪影響を受けたりする等の問題が生じる。しかし、この実施例のように、遮水部材16を分散配置しておけば、そのような問題が解消され、根を地中深くまで張るような大きな木でも好適に栽培できる。
また、重力水状態の土壌部26より上側の土壌を毛管水状態に適切に保つことができるので、保水力が弱く、雨水などが直ぐに地下深くに浸透してしまう、所謂ざる田や砂地などにも好適に適用できる。また、田畑の輪換も容易に行うことができる。
また、耕作地100の面積などに応じて、遮水部材16の大きさや設置個数などを適宜変更することによって、システム10は、個人用から大規模なものまで幅広く適用できる。たとえば、庭の花壇に用いることもできるし、ベランダや屋上などの緑化に用いることもできるし、大規模な畑作や稲作などに用いることもできる。
なお、上述の実施例では、遮水部材16を給水管14(具体的には第2分岐管22b)に対して並列的に接続するようにしたが、図4に示すように、遮水部材16を直列的に接続することもできる。
この場合の遮水部材16としては、図5に示すように、たとえば、汎用の塩化ビニル製のVU管の下端部にT型の管継手(具体的には90°Tや90°Yなど)を接続したものを用いるとよい。これによって、遮水部材16の側面下部に2つの接続口24が形成されるので、各接続口24に第2分岐管22bを接続することにより、簡単に遮水部材14を直列的に接続することができる。
ただし、この遮水部材16の内部に土を充填すると、第2分岐管22b内の水の流れがそこで遮断され、後続する遮水部材16に対して適切に水を供給できない恐れがある。そこで、図4に示す実施例では、各遮水部材16を給水管14で接続することもできるが、図5に示すように、第2分岐管22bおよび遮水部材16の内部を通る有孔管90を設けるようにすることもできる。有孔管90は、遮水部材16内を通る水路92を形成し、その内部に流れる水をその管壁に形成される多数の細孔を介して遮水部材16内に供給し、遮水部材16内に重力水状態の土壌部26を形成する。つまり、有孔管90は、遮水部材16内を通る水路92を形成するための給水部材として機能する。この際、重力水の水位28は、有孔管90の細孔より高い位置になるように管理される。
なお、重力水の水位28を有孔管90より上方になるように適宜管理すれば、有孔管90は常に満水状態となり、空気に触れないため、酸化鉄などが付着し難い。また、水の流れは有孔管90の内部から外部へ向かう。したがって、図5に示す実施例においては、特許文献2の技術と比較して、有孔管90が目詰まりし難い。つまり、有孔管90を用いても、維持管理の負担はあまり大きくならない。
ただし、有孔管90の上端まで水がなくても、有孔管90内に一定の水位があれば、有孔管90円周面から給水されるので、必ずしも有孔管90を満水状態にする必要はない。
また、図5に示す実施例では、有孔管90を用いることによって水路92を形成したが、これに限定されない。たとえば、図6に示すように、有孔板94を用いることによって、遮水部材16の内部を通り、隣り合う第2分岐管22bの内部同士を連通する水路92を形成することもできる。この場合には、たとえば、VU管の下端部にT型の管継手を接続して遮水部材16を形成する際に、VU管と管継手との間に挟み込むようにして有孔板94を設けるとよい。この遮水部材16では、有孔板94の上に土が充填される。そして、水路92を流れる水が、有孔板94に形成される多数の細孔を介して遮水部材16内の土に供給されることにより、遮水部材16内に重力水状態の土壌部26が形成される。言い換えると、この場合のT型の管継手は、縦管状の遮水部材16の下端に接続される給水管14を形成する部材としても機能する。また、有孔板94は、上述の水路92を形成するための給水部材として機能する他に、縦管状の遮水部材16内に土壌部26を保持するための透水部材としても機能する。
図6に示す実施例においても、重力水の水位28を有孔板94より上方になるように適宜管理すれば、つまり遮水部材16内に重力水状態の土壌部26が常に形成されている状態を維持すれば、図5に示す実施例と同様に、有孔板94は目詰まりし難く、維持管理の負担はあまり大きくならない。
また、上述の各実施例では、1つの水位管理器18を給水管14の本管20に設けるようにし、全ての遮水部材16内の重力水の水位28を一括して管理するようにしたが、これに限定されない。たとえば、第1分岐管22aのそれぞれに水位管理器18を設けて、複数の遮水部材16ごとに、重力水の水位28を管理することもできる。各水位管理器18と各第1分岐管22aとの接続方法は、図3における本管20を、各第1分岐管22aに変えればよいだけであるので、詳しい説明は省略する。この場合には、各第1分岐管22aの敷設高さが、各水位管理器18の前後で変わり、各水位管理器18によって、それより下流側に設けられる複数の遮水部材16内の重力水の水位28が、一括して管理される。
また、図7に示すように、第2分岐管22bごとに、つまり遮水部材16ごとに水位管理器18を設け、各遮水部材16内の重力水の水位28を個別に管理することもできる。この場合には、図8および図9に示すような簡易型の水位管理器18を用いるとよい。なお、上述したことと説明が重複する部分については、説明を省略または簡略化して行う。このことは、後述する他の各実施例においても同様である。
簡易型の水位管理器18は、縦管70を含み、給水管14(この実施例では第2分岐管22b)の端部分に設けられて、縦管70内の水位に応じて水の供給を調整するものである。縦管70は、塩化ビニルなどの合成樹脂によって両端開口の円筒状に形成され、その内径は、たとえば40mmである。縦管70としては、汎用の塩化ビニル製のVU管などを用いるとよい。また、縦管70の内部には、水位設定具72およびフロート74が設けられる。
水位設定具72は、縦管70内に配置されて、その配置高さに基づいて縦管70内の水位設定値を規定するものである。水位設定具72は、有底円筒状に形成され、その外径は、縦管70内の所望の位置(高さ)に配置可能な程度に、縦管70の内径とほぼ同じに設定される。また、水位設定具70の底面には、貫通孔76が形成される。水位設定具72としては、汎用の塩化ビニル製のキャップを用いることができる。
また、縦管70の側壁には、水位設定具72よりも高い位置において、貫通孔78が形成される。その貫通孔78から地下を通る第2分岐管22bの端部分が縦管70内に挿入され、第2分岐管22bの端部分は、さらに水位設定具72の貫通孔76に挿通されて、水位設定具72から下方に向かって突出するように固定される。第2分岐管22bの端は、後述するフロート74の上面80と当接する弁座82として機能し、その開口は、縦管70内に水を供給する給水口84となる。
フロート74は、水位設定具72の下方に配置されて、縦管70内の水位変動に応じて上昇および下降し、その上面80は、弁座82と当接して給水口84を閉じる弁体としても機能する。フロート74は、ゴム等の弾性材および合成樹脂などによって中空円柱状に形成され、その外周面は、縦管70の内周面と若干の隙間を空けて沿う。つまり、フロート74は、給水口84(給水管14の端)より下の位置において、縦管70内に単に入れられた状態で配置され、縦管70にガイドされて動く。ただし、弁体として機能するフロートの上面80において、少なくとも弁座82と当接する部位は、ゴム等の弾性材によって形成する必要がある。これは、フロート74の上昇する力が弱い場合でも、フロート74の上面80(弁体)と第2分岐管22bの端(弁座82)とが隙間無く接触して、給水口84を適切に閉じることができるようにするためである。フロート74としては、乳酸菌飲料用のポリスチレン製の容器、或いはペットボトル等を利用することができ、その上部の開口をゴムシート等の弾性材で封止することによって、弁体として機能する上面80を形成するとよい。
このように、簡易型の水位管理器18は、汎用品のみを組み合わせて簡単にかつ安価に製作できる。なお、上述のように、水位設定具72の底面に形成した貫通孔76から第2分岐管22bの端を突出させて、第2分岐管22bの端自体を弁座82として機能させる代わりに、水位設定具72の底面に、その底面を連通して上方および下方に突出する両端開口の円筒状の軸部を形成しておき、その軸部の上部に第2分岐管22bの端を接続するようにしてもよい。この場合には、軸部の下端が給水管14の端に相当してフロート74の上面80と当接する弁座82として機能し、その下端開口が縦管70内に水を供給する給水口84として機能する。また、縦管70の側壁に貫通孔78を設け、そこから地下を通る第2分岐管22bを縦管70内に挿入する代わりに、第2分岐管22bを地表面102に沿わせて配置し、縦管70の上部開口から第2分岐管22bを縦管70内に挿入するようにしてもよい。さらに、縦管70の上部開口には、適宜な蓋を装着するようにしてもよい。
このような簡易型の水位管理器18を遮水部材16に設ける方法の一例について説明する。先ず、遮水部材16を地中に配置するときに、遮水部材16内の所定高さまで土を充填し、その土の上に縦管70を立て置きする。次に、縦管70内にフロート74を入れた後、水位設定具72を縦管70内の所望の位置(高さ)に固定する。つまり、縦管70内の水位が所定の水位設定値になったときに、フロート74が上昇してその上面80が弁座82に当接し、給水口84が閉じられるような位置に、水位設定具72を固定する。続いて、縦管70の貫通孔78および水位設定具72の貫通孔76に第2分岐管22bを挿通し、第2分岐管22bの端を縦管70の下方に突出させて固定する。最後に、遮水部材16の内部の残りおよびその周辺に土を充填し、縦管70を固定する。
なお、設定水位は、縦管70内における水位設定具72の配置位置を変えることによって設定する代わりに、遮水部材16内における縦管70の埋設深さ(配置高さ)を変えることによって設定することもできる。たとえば、水位設定具72および給水管14の端部分(給水口84)を縦管70内の所定位置に予め固定しておき、遮水部材16内に縦管70を配置するときに、その配置高さを適宜調整することによって、設定水位を所望の位置に設定することができる。この場合には、水位設定具72を必ずしも設ける必要はなく、縦管70内の所定位置に給水口84を固定的に設けるための固定具があればよい。
このように簡易型の水位管理器18を各遮水部材16に設けると、図9(A)に示すように、第2分岐管22bを流れる水は、縦管70内に流入し、遮水部材16内に供給される。遮水部材16内に供給された水は、土中を浸透していき、重力水となって遮水部材16内に留まる。これによって、遮水部材16内に重力水状態の土壌部26が形成される。遮水部材16内の重力水の水位28と縦管70内の水位とは同じであり、重力水の水位28が設定水位に達すると、図9(B)に示すように、給水口84が閉じられて、第2分岐管22bから縦管70内への給水が停止される。また、遮水部材16内の重力水が上側の土壌に吸い上げられて、重力水の水位28が設定水位よりも低下すると、図9(A)に示すように、給水口84が開かれて、第2分岐管22bから縦管70内への給水が行われる。
上述のように、図7に示す実施例によれば、各遮水部材16内の重力水の水位28を個別に調節することができるので、たとえば図10に示すように、遮水部材16ごと、或いは近くに配置される複数の遮水部材16ごとに、重力水の水位28を変えれば、場所ごとに水分量の異なる毛管水状態の土壌部30を耕作地100に形成することができる。したがって、同一のシステム10内で、生育に適する土壌水分量の異なる植物を、最適な状態で同時に栽培することができる。たとえば、同一システム10の耕作地100において、或る範囲ではキャベツを栽培し、他の或る範囲では大豆を栽培し、さらに他の或る範囲では樹木を栽培するというようなことができる。
なお、図10では、簡易型の水位管理器18の水位設定具72を設ける高さを変えることによって、重力水の水位28を個別に変えてあるが、この際には、遮水部材16自体の埋設深さも変えるようにしてもよい。
また、重力水の水位28を個別に調節可能にすることによって、地表面102に起伏や傾斜などを有する耕作地100にも好適にシステム10を適用できる。たとえば、図11に示すように、地表面102と各遮水部材16内の重力水の上面との距離を、最適な距離で一定にすれば、そこで栽培する植物にとって最適な水分量を有する土壌部30を、起伏や傾斜などを有する耕作地100に形成することができる。
また、上述の各実施例では、複数の遮水部材16を規則正しく並べて配置してあるが、遮水部材16は、不規則的な配置位置となっていてもよい。また、耕作地100全体に万遍なく遮水部材16を配置することによって、耕作地100の作土層全体を毛管水状態の土壌部30とすることもできるし、耕作地100の一部の範囲に遮水部材16を配置することによって、耕作地100の作土層の一部の範囲のみ、つまり耕作者が望む範囲のみを毛管水状態の土壌部30とすることもできる。
さらに、地表面102まで毛管水状態の土壌部30を形成するだけでなく、地表面102は乾燥状態であるが、植物が水分を吸収する土壌深さにおいては、毛管水状態の土壌部30が形成されているというような状態にすることもできる。また、植物の成長に伴い、重力水の水位28を適宜調整することによって、その成長段階において必要な土壌深さに、毛管水状態の土壌部30が形成されているというような状態にすることもできる。
また、必ずしも重力水の水位28の上下に対応して給水する必要はない。土壌の条件など、場合によっては間欠的に水を供給し、土壌部30の水分を適宜コントロールしてもよい。
また、遮水部材16内の土の成分を周囲(外部)の土壌成分と同じにしたが、遮水部材16内の土壌成分は、特に限定されない。たとえば、遮水部材16内の土壌成分として、周囲の土壌成分より粒子径の大きい土粒子、或いは小さい土粒子を用いてもよい。また、たとえば、下層から順に、礫層、砂層、およびシルト層を形成するというように、遮水部材16内の土壌を複層状態にすることもできる。
また、図12に示すように、遮水部材16の開口には、鍔状部材96をさらに設けるようにしてもよい。鍔状部材96は、合成樹脂および金属などの遮水性を有する材質によって形成され、遮水部材16の側壁から鍔状に延びるように形成される。たとえば図12(A)に示すように、鍔状部材96は、ビニルシート等を利用して、その内側面が遮水部材16の外側面に沿うリング状に形成され、遮水部材16の側壁上部に配置される。
上述のように、土壌部26の水分は、その上側の土壌に毛細管現象によって吸い上げられて、遮水部材16の上部およびその周辺の土壌へと浸透していき、毛管水状態の土壌部30を形成する。ここで、遮水部材16に鍔状部材96を設けておくと、鍔状部材96はその下方の土壌への水の浸透を遮断するので、浸透水は横方向に浸透していくことになる。これによって、横方向に広範囲に広がる毛管水状態の土壌部30を形成することができる。このように、鍔状部材96を用いて下方に向かって浸透していく水の量を低減することによって、より効率的に広範囲に広がる毛管水状態の土壌部30を形成することができ、使用する水の量を低減することができる。
なお、鍔状部材96は、平面視で遮水部材の側壁から鍔状に延びるように設けられて、その下方の土壌への水の浸透を遮断するものであればよく、たとえば図12(B)に示すように、その外周部を立ち上げるように形成することもできる。また、たとえば図12(C)に示すように、鍔状部材96を漏斗状に形成して、遮水部材16の上部開口に差し込むようにしてもよい。また、図12においてはいずれも、鍔状部材96を遮水部材16の側壁上部に設けてあるが、鍔状部材96の配置位置(深さ)はこれに限定されず、鍔状部材96を遮水部材16の側壁中部に配置してもよいし、遮水部材16の側壁下部に配置してもよい。さらには、鍔状部材96をたとえば皿状に形成し、遮水部材16の下に配置してもよい。このように鍔状部材96の配置位置を調整ことによって、所望の深さまで毛管水状態の土壌部30を形成することができる。また、遮水部材16と鍔状部材96とは一体的に形成されていてもよい。
また、上述の各実施例では、遮水部材16を有底円筒状に形成したが、遮水部材16の形状は、これに限定されず、たとえば有底角筒状に形成してもよい。また、たとえば、図13に示すように、遮水部材16を横長に形成することもできる。
具体的に説明すると、図13に示す実施例では、耕作地100の両端付近まで延びる複数の遮水部材16が、所定の間隔を隔てて並ぶように分散配置される。遮水部材16は、その両端が堰によって封止された溝状、つまり上側開口の容器状に形成される。遮水部材16は、たとえば半円状の断面形状を有する半割り管を利用して形成するとよい。半割り管としては、たとえばその内径が200−500mmの汎用の塩化ビニル製のVU管を、軸方向に沿って2つに切断したものを利用することができる。
このように、遮水部材16を横長に形成しても、その内部の重力水の水位28を水位管理器18によって適切に管理することによって、毛管水状態の土壌部30を適切に形成できる。たとえば、各遮水部材16の中央付近に水位管理器18を設け、図7に示す実施例と同様に、水位管理器18を介して第2分岐管22bから遮水部材16内に水を供給して、各遮水部材16内の重力水の水位28が、所望の水位になるように個別管理するとよい。このように各遮水部材16内の重力水の水位28を個別管理すれば、傾斜地に形成される段々畑などにも好適にシステム10を適用できる。なお、重力水の水位28は必ずしも個別管理する必要はなく、図1に示す実施例と同様に、本管20に水位管理器18を設けて全ての遮水部材16の重力水の水位28を一括管理してもよいし、第1分岐管22aに水位管理器18を設けて複数の遮水部材16ごとに重力水の水位28を管理してもよい。
ただし、遮水部材16の形状を横方向に長くしすぎると、第2分岐管22bから供給される水が、遮水部材16内の端部まで適切に浸透せずにその上部から溢れ出してしまい、重力水状態の土壌部26を適切に形成できない可能性がある。そこで、横長の遮水部材16を用いる場合には、図14および図15に示すように、遮水部材16の内部に有孔管90を設け、遮水部材16の内部を通る水路92を形成してもよい。
具体的には、図14および図15に示す実施例では、遮水部材16の内部に、遮水部材16の底面に沿うように軸方向に延びる有孔管90が設けられる。有孔管90は、遮水部材16の内部において第2分岐管22bと接続されて、第2分岐管22bから送られてくる水を、その管壁に形成される多数の細孔を介して遮水部材16内に供給する。このような有孔管90を用いることによって、遮水部材16を横長に形成した場合であっても、遮水部材16内の端部まで適切に水を浸透させることができ、遮水部材16内に重力水状態の土壌部26を適切に形成することができる。また、この場合には、たとえば第2分岐管22bの途中に水位管理器18を設けて、遮水部材16ごとに重力水の水位28を管理するとよい。
なお、有孔管90は、遮水部材16内の底面付近に設けられるので、重力水の水位28を有孔管90より上方になるように適宜管理すれば、有孔管90は常に満水状態となり、空気に触れないため、酸化鉄などが付着し難い。また、水の流れは有孔管90の内部から外部へ向かう。したがって、図14および図15に示す実施例においては、特許文献2の技術と比較して、有孔管90が目詰まりし難い。つまり、有孔管90を用いても、維持管理の負担はあまり大きくならない。
また、図13−図15に示す実施例では、横長の遮水部材16として半割り管を利用したが、これに限定されない。たとえば、図16に示すように、横長の遮水部材16として、汎用の塩化ビニル製のVU管の管壁上端部をその管軸方向の全長に亘って切り取って開口を形成したものを利用することもできる。また、この場合には、必ずしも管軸方向の全長に亘る開口を形成する必要は無く、VU管の管壁上端部を所定間隔ごとに切り取り、所定間隔ごとに複数の開口を形成して、上側開口の遮水部材16としてもよい。
また、図17に示すように、半割り管の周方向両側縁に、長方形状の側板を垂直方向に接続したものを横長の遮水部材16として用いてもよい。また、所定間隔ごとに複数の開口を形成する遮水部材16の場合には、その開口から立設する管を設けるようにしてもよい。
なお、図16および図17に示す実施例においても、有孔管90を遮水部材16内に設ける場合には、重力水の水位28は有孔管90より上方になるように適宜管理される。
また、図18に示すように、有孔管90の代わりに、遮水部材16内の下部に遮水板94を設けることによって、遮水部材16の底部に水路92を形成してもよい。たとえば、半割り管に側板を接続して遮水部材16を形成する場合には、半割り管と側板との間に挟み込むように長方形状の有孔板94を設けるとよい。この場合にも、重力水の水位28は有孔板94より上方になるように適宜管理される。
なお、重力水の水位28を有孔管90より上方に維持したり、遮水部材16の上端16bと重力水の上面との距離を一定間隔以上に維持したりするためには、遮水部材16は或る程度の高さを有する必要がある。ここで、図15に示す実施例のような半割り管のみで形成される遮水部材16を用いると、遮水部材16自体の製作が容易であるという利点はあるが、その横幅は大きいものになってしまう。しかし、図16−図18に示す実施例の遮水部材16を用いれば、その横幅を抑えつつその高さを確保できる。
また、図13−18に示す実施例においても、図12に示したような鍔状部材96を設けるようにしてよい。ただし、この場合の鍔状部材96は、遮水部材16の全周に亘るものである必要は無く、たとえば、長方形状のビニルシートを管軸方向に沿って遮水部材16の両側部に配置するようなものであってよい。
また、他の実施例として、図19および図20に示すように、ゴムおよび合成樹脂などによって形成される遮水シートを利用して遮水部材16を形成することもできる。
具体的には、図19および図20に示す実施例では、耕作地100の全面に広がるように、シート状の遮水部材16が耕作地100の地下に敷かれる。シート状の遮水部材16の端部は立ち上げられ、これによって遮水部材16は上側開口の容器状に形成される。ただし、耕作地100の周囲が別途の手段、たとえば粘土等によって不透水層となっている場合や、十分な大きさ(広さ)を有する遮水シートを用いる場合には、シート状の遮水部材16を水平方向に設けるだけでよい。水平方向の遮水部材16、つまり遮水部材16の底面の敷設深さは、たとえば300−500mmである。
このような遮水部材16の内部(或いは上側)に、水タンク12から給水管14を介して水を供給しても、そこに重力水状態の土壌部26を形成できる。そして、水位管理器18によって重力水の水位28を適切に管理することで、毛管水状態の土壌部30を適切に形成できる。図19および図20に示す実施例においても、土壌自体の浸透機能を利用するので、目詰まりによる浸透機能の低下が発生せず、維持管理が容易となる。また、給水側で重力水の水位管理を行うので、無駄な水が供給されることが無く、水資源を効率的に利用できる。
なお、シート状の遮水部材16は、必ずしも耕作地100の全面に設ける必要は無く、耕作地100の一部の範囲に形成することもできるし、図1などに示す実施例のように分散配置することもできる。ただし、遮水シートによって遮水部材16を形成する場合、遮水シートは老朽化し易いので、遮水部材16内の水が漏水してしまい、土壌部30の水分量の適切なコントロールが困難になる可能性がある。また、シート状の遮水部材16を耕作地100の全面に設ける場合には、降雨などによる余剰水分が地下深くに浸透できないので、別途排水設備を設ける必要があり、さらに、根を地中深くまで張るような大きな木を適切に栽培できない場合もある。
また、上述の各実施例では、水タンク12は、農業用水配管などと接続されて、そこから送られてくる水を貯留するようにしたが、これに限定されない。たとえば、個人用に使用する小規模なシステム10の場合には、耕作者(使用者)が、バケツ等を用いて水タンク12内に適宜水を補充するようにしてもよい。また、たとえば、水タンク12内に雨水が適宜貯留される構成にすることもできる。さらに、水タンク12は必ずしも設ける必要は無く、農業用配水管などから直接給水管14に水が供給されるようにすることもできる。
また、給水管14の配管構造は、遮水部材16の配置などに合わせて適宜変更され、たとえば、給水管14を本管20のみで形成するようにしてもよいし、第2分岐管22bから分岐する第3分岐管をさらに形成するようにしてもよい。
また、図1に示す実施例では、図3に示すような水位管理器18を用い、図7に示す実施例では、図8に示すような簡易型の水位管理器18を用いたが、これに限定されない。図3或いは図8に示す水位管理器18は、どの実施例にも用いることができるし、図3或いは図8に示す水位管理器18以外の構成の水位管理器18を、システム10に適用することもできる。ただし、図3に示す水位管理器18と比較して、図8に示す簡易型の水位管理器18は、給水口84を閉じる力が弱いので、給水管14から送られてくる水が低圧水の場合にのみ、図8に示す簡易型の水位管理器18を用いることができる。
なお、図8に示す簡易型の水位管理器18は、簡単にかつ安価に製作できるので、小規模な耕作地100にシステム10を適用する際に用いると、最適である。たとえば、図21に示すように、屋外に配置するプランタ104にシステム10を適用する場合には、プランタ104内の耕作地100(つまりプランタ104内の土壌)に1つの遮水部材16を埋設し、その遮水部材16内に1つの簡易型の水位管理器18を設けるとよい。この水位管理器18には、水タンク12と繋がる給水管14が接続される。そして、上述の各実施例と同様に、遮水部材16内に重力水状態の土壌部26を形成し、その重力水の水位28を適切に保てば、プランタ104内の土壌の上層部に、毛管水状態の土壌部30を形成でき、適切に草花などの植物を育成できる。なお、この場合には、降雨などによってプランタ104内に余剰の水が与えられても、プランタ104の底面に予め形成されている孔106から水が抜ける。つまり、図1などに示す実施例における、地下深くに余剰水が浸透していくことと同様の作用が働く。
また、上述の各実施例では、遮水部材16を地中(土壌中)に埋設するようにしたが、遮水部材16は、必ずしも地中に埋設される必要はない。たとえば、図22に示すように、プランタ104や鉢自体を、遮水部材16として利用し、遮水部材16内の土壌の上層部に形成される毛管水状態の土壌部30で草花などを育成するとよい。
具体的には、屋内に配置するプランタ104等にシステム10を適用するとよく、この場合には、プランタ104自体が遮水部材16として機能する。ただし、プランタ104の底面に形成される孔106を、キャップ等の適宜な封止具108によって封止し、プランタ104が貯水機能を有するようにしておく必要がある。このプランタ104内、つまり遮水部材16内には、1つの水位管理器18が設けられ、図21に示す実施例と同様に、遮水部材16内に重力水状態の土壌部26が形成される。この場合には、重力水の水位28を、遮水部材16内の土壌の中程のところに保つとよく、これによって、遮水部材16内の土壌の上層部に毛管水状態の土壌部30が形成される。なお、図22に示す実施例は、屋内に配置するプランタ104に適用するものなので、降雨などによって余剰に水が供給される状態を考慮する必要はない。
また、たとえば、屋上緑化にシステム10を適用する場合には、適宜な大きさの遮水部材16を屋上に配置し、図22に示す実施例と同様に、遮水部材16内の土壌の上層部に毛管水状態の土壌部30を形成し、その土壌部30で植物を育成するとよい。ただし、屋外に適用する場合には、適宜な排水設備を別途備える必要がある。
また、各実施例で示した遮水部材16を組み合わせてシステム10を構成することもできる。たとえば、図2に示す遮水部材16と図15に示す遮水部材16とを同一システム内で適用してもよい。また、たとえば、シート状の遮水部材16の上に図2に示す遮水部材16を配置して、2層の毛管水状態の土壌部30を形成するようなこともできる。