JP2013132220A - 超音波照射による発酵方法及びその装置 - Google Patents

超音波照射による発酵方法及びその装置 Download PDF

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Abstract

【課題】超音波照射による発酵方法及びその装置を提供する。
【解決手段】発酵槽内に設置した超音波照射ユニット内の超音波素子から該発酵槽内の発酵媒体に照射した超音波が、該超音波を反射する発酵槽内壁又は該発酵槽内に配設した反射体で反射して、その反射波の信号を上記超音波素子で受信するまでに要する時間である超音波伝搬時間を、該超音波素子における受信信号の自己相関関数のピーク位置を求めることにより計測し、その超音波伝搬時間に基づき、あるいは、超音波伝搬時間に発酵媒体の温度の影響による補正を加えた値に基づき、発酵媒体の発酵状態を検知する発酵方法、及び発酵槽、該発酵槽内に回転自在に設置される超音波素子ユニット、該超音波素子ユニットを複数個連結して回転軸化した連結ユニット構造を有する超音波照射ユニットを備え、上記超音波照射ユニットにより、発酵槽内の発酵媒体に均一に超音波を照射するようにした発酵装置。
【選択図】図3

Description

本発明は、超音波照射を利用した発酵方法及びその装置に関するものであり、更に詳しくは発酵槽内の発酵媒体における超音波伝搬時間を利用して該発酵媒体の発酵状態を検知し、それに基づいて発酵媒体に照射する超音波のレベルを制御して発酵媒体の発酵状態の管理を行うことを可能とする超音波照射による発酵方法及びその装置に関するものである。本発明は、発酵媒体の種類に制限されることなく当該発酵媒体の発酵状態の管理を行うことができる超音波照射を利用した発酵方法に関する新技術・新製品を提供するものである。
食品製造の技術分野において、食用微生物の生育、代謝などを制御する外部因子として、主に、温度、圧力などの示強変数が検討されている。しかし、食品微生物の生育、代謝については、操作因子の種類が少なくて制御が難しく、食用微生物の安定的な生育、代謝による機能発現には、食品製造過程で常に注意が必要とされる。
例えば、醸造の場合を例にとると、醸造製品の安定生産と品質向上に欠かせない重要課題は、製麹工程と仕込工程に関与する麹菌、酵母を如何にうまく増殖させ、働かせ、かつ制御するかにあり、新たな外部因子の検討と、その利用による発酵の制御技術の開発が強く求められている。近年、圧力、通電処理、音波などの物理的因子による反応制御の研究開発に関心が高まっており、その開発、研究は、世界中で試みられている。
一般に、発酵過程で、菌体とそれを取り囲む媒体との境界層は、菌体内外の物質移送の障壁となる上に、発酵生成物による拮抗的阻害が起こる確率を高めると考えられている。一方、超音波が媒質に与える影響には、熱、振動効果、圧力変動などが想定され、特に、超音波の振動効果により、菌体又は媒質が振動し、菌体とそれを取り囲む媒体との境界層の極小化が期待される。また、超音波による圧力変動が、菌体にストレスを与えて、菌体の増殖、代謝の促進につながる可能性もあると考えられる。
発酵食品、例えば、伝統発酵食品や、その製造過程においては、麹菌や、酵母、乳酸菌など、様々の食用微生物が関与している。食用微生物の増殖、代謝は、発酵食品の品質に大きな影響を与えるため、発酵過程に関与する麹菌や、酵母、乳酸菌などの食用微生物を如何にうまく増殖させ、働かせ、その増殖、代謝を好適に制御するかは非常に重要な課題となっている。そして、発酵過程における課題として、発酵の安定性と生産効率の向上、生産の管理と調整システムの確立、効率的な設備投資、生産規模の大小に適応できる、簡便、かつ低コストで、汎用性のある新たな発酵技術、設備の開発などがあげられている。
一般に、超音波は、20kHz以上で人間には聞こえない音である。超音波の効果は、該超音波が媒質に与える影響として、熱、圧力変動、振動効果などが考えられる。超音波の振動効果により、例えば、発酵槽内の菌体又は媒質が振動し、発酵媒体の拡散を促進する可能性が想定される。菌体の細胞膜には、刺激受容体など様々なレセプターが局在すると考えられているため、低レベルの超音波照射による圧力変動が、何らかの受容体を介し又は直接、細胞内小器官や機能タンパクに影響を与えて、菌体の増殖、代謝の促進につながる可能性が想定される。
従来、超音波照射技術の発酵への応用に関して、先行技術文献には、例えば、糖質原料からアミノ酸、ペプチド、ビタミン類及び核酸関連物質を製造する際に、糖質原料、例えば、白米液化液に酵母を加えて発酵させた醪又はその圧搾、ろ過後の残渣に、超音波を照射することにより、発酵した醪に生成されるグルタチオンの生成量を大幅に増加させることができ、更に、アミノ酸、ペプチド、ビタミン類及び核酸関連物質などの生理活性物質を生成することができることが記載されている(特許文献1)。
また、他の先行技術文献には、米糠、又は玄米粉を原料とする乳酸発酵液の製造法において、得られた発酵液に超音波を当てることにより、米糠や玄米の悪息や悪味が著しく軽減された乳酸発酵液が得られることが記載されている(特許文献2)。
また、他の先行技術文献には、原料となるセラミド類組成物に、浄化水、ミネラルを添加して混合し、次に、このセラミド類組成物混合液に、麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌を含む麹菌を加えて発酵させ、得られたセラミド類組成物発酵液に有機酸を混合して35℃〜45℃の温度に保持して熟成する際に、磁気雰囲気下において超音波振動を加えながら撹拌して流動させ、熟成して有機酸発酵させることが記載されている(特許文献3)。
また、他の先行技術文献には、超音波などの振動エネルギーによる、気泡の放出により溶存酸素を低減させ、嫌気呼吸、すなわち酸素以外の無機化合物を電子受容体とする生物を活性化させ、発酵により有機化合物を電子受容体とする生物を活性化させ、例えば、乳酸菌、酵母などの増殖速度を向上させることが記載されている(特許文献4)。
また、他の先行技術文献には、浄化水に、イオン化ミネラル液を添加し、直径が50μm以下の微細気泡を発生させ、更に25〜30kHzの超音波を照射して微細気泡に物理的刺激を与えて超微細気泡水を調製すること、上記イオン化ミネラル液である澱粉、穀類と種子と卵殻を含む混合原料に水を加え、50〜100℃に加熱して澱粉をα化した後、30〜40℃に保温して麹菌を加えて複合発酵させること、それらにより、生物に対する活性作用などの機能、効果を飛躍的に向上させることが記載されている(特許文献5)。
また、他の先行技術文献には、周波数20KHzの超音波により、米酒(Rice wine)の熟成時間をかなり短縮でき、その効果が酒原料によって異なることが記載されている(非特許文献1)。
また、他の先行技術文献には、リボフラビン(ビタミンB2)を生産するための、Ecomthecium ashbyii発酵において、超音波照射により、最大乾燥菌糸体重量に達する所要時間が短縮したことが記載されている(非特許文献2)。
また、他の先行技術文献には、ワイン、ビール、日本酒などの発酵において、30mW/cmの弱い超音波照射により、発酵時間を従来の50〜64%に短縮できることが記載されている(非特許文献3)。
その他、先行技術として、超音波を照射し、食品微生物の菌体の増殖や代謝生成物の生成を増大させる超音波による食用微生物の増殖方法が知られている。しかし、この方法は、産業上の実用的な容量の発酵媒体に適用する場合には、大容量の発酵媒体に適合する超音波照射の方法を開発する必要がある。
更に、先行技術として、超音波の音速から発酵による凝固の程度を把握する、超音波によるヨーグルトの発酵工程をモニタリングする方法が知られている。この方法では、水を入れて計測した信号とヨーグルトを入れて計測した信号の位相差から音速を求めていることから、水の計測が必須であり、また、恒温槽内での計測を前提としており、水やヨーグルトの温度が変化した場合は、計測ができなくなる。
特開平7−16096号公報 特開平8−280341号公報 特開2009−100725号公報 特開2009−190018号公報 特開2009−226386号公報 特願2011−010287号
Chang et al.(2002). The application of 20 kHz ultrasonic waves to accelerate the aging of different wines. Food Chemistry,79,501−506 Dai et al.(2003). Low ultrasonic stimulates fermentation of riboflavin producing strain Ecemothecium ashbyii. Colloids and Surfaces B:Biointerfaces,30,37−41 Matsuura et al.(1994). Acceleration of cell growth and ester formation by ultrasonic wave irradiation. Journal of Fermentation and Bioengineering,77(1),36−40 食品と技術、技術解説、「超音波によるヨーグルト発酵工程モニタリング」(2008−10)
このように、従来、先行技術として、超音波を利用した発酵技術の開発例が幾つか報告されているが、これらの技術は、小容量〜大容量の発酵媒体に対して超音波を照射して安定して発酵食品を製造するための実用化可能な技術としては未だ十分とはいえないものであった。そこで、当技術分野においては、産業上の実用的な容量の発酵媒体に対して、超音波を均一に効率良く照射して発酵媒体の発酵状態を検知し、かつ発酵食品の発酵の状態を管理して安定的に発酵食品を製造することが可能な新しい超音波を利用した発酵方法とその装置を確立することが強く要請されていた。
本発明は、このような状況の中で開発されたものであり、1)発酵槽内において小容量〜大容量の発酵媒体に超音波を均一に照射することが可能な装置、2)発酵槽内の発酵媒体における超音波伝搬時間を利用して発酵媒体の発酵状態を検知する方法、上記2)に基づいて、発酵媒体に照射する超音波の強度や照射・非照射のON・OFFを制御して発酵媒体の発酵状態を管理する方法を提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)発酵媒体の発酵状態を検知する発酵方法であって、発酵槽内に設置した超音波照射ユニット内の超音波素子から該発酵槽内の発酵媒体に照射した超音波が、該超音波を反射する発酵槽内壁又は該発酵槽内に配設した反射体で反射して、その反射波を上記超音波素子で受信するまでに要する時間である超音波伝搬時間を、該超音波素子における受信信号の自己相関関数のピーク位置を求めることにより計測し、その超音波伝搬時間に基づき、あるいは、超音波伝搬時間に発酵媒体の温度の影響による補正を加えた値に基づき、発酵媒体の発酵状態を検知することを特徴とする発酵方法。
(2)超音波の反射波の信号の自己相関関数のピークを求め、更にそのピーク位置を内挿することにより補間し、超音波伝搬時間を計測する、前記(1)に記載の発酵方法。
(3)超音波素子の近傍に設置した温度センサにより発酵媒体の温度を計測し、該温度センサによる温度データを用いて、超音波伝搬時間に補正を加えることによって、温度の変動の影響を受けない計測を行う、前記(1)又は(2)に記載の発酵方法。
(4)前記(1)から(3)のいずれかに記載の方法により発酵媒体の発酵状態を検知し、その結果に基づき、超音波照射の照射・非照射の切り替え及び/又は超音波の照射強度を制御することにより、発酵媒体の発酵状態を管理する発酵方法。
(5)発酵媒体に超音波を照射して超音波伝搬時間を計測し、発酵状態を検知し、その後、発酵状態の検知結果に応じて、超音波の照射・非照射のいずれかを選択し、その後、超音波伝搬時間を計測し、上記のサイクルを続けて、発酵媒体の発酵速度を制御する、前記(1)から(4)のいずれかに記載の発酵方法。
(6)発酵槽、該発酵槽内に回転自在に設置される超音波素子ユニット、該超音波素子ユニットを複数個連結して回転軸化した連結ユニット構造を有する超音波照射ユニットを備え、上記超音波照射ユニットによる超音波回転照射により、発酵槽内の発酵媒体に均一に超音波を照射するようにした装置。
(7)超音波照射ユニットに固定した反射板、及び/又は液面検知センサを有する、前記(6)に記載の装置。
(8)超音波素子ユニットを複数個連結して回転軸化した連結ユニット構造において、各超音波素子ユニットの超音波素子の面が任意の方向に位置して直列接続により連結している、前記(6)に記載の装置。
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、発酵媒体の発酵状態を検知する発酵方法を提供するものであり、発酵媒体の発酵状態を検知する発酵方法であって、発酵槽内に設置した超音波照射ユニット内の超音波素子から該発酵槽内の発酵媒体に照射した超音波が、該超音波を反射する発酵槽内壁又は該発酵槽内に配設した反射体で反射して、その反射波の信号を上記超音波素子で受信するまでに要する時間である超音波伝搬時間を、該超音波素子における受信信号の自己相関関数のピーク位置を求めることにより計測し、その超音波伝搬時間に基づき、あるいは、超音波伝搬時間に発酵媒体の温度の影響による補正を加えた値に基づき、発酵媒体の発酵状態を検知すること、を特徴とするものである。
また、本発明は、超音波の照射が可能な発酵装置を提供するものであり、基本構成として、発酵槽、発酵装置に配設する通常の装備、該発酵槽内に回転自在に設置される超音波素子ユニット、該超音波素子ユニットを複数個連結して回転軸化した連結ユニット構造を有する超音波照射ユニットを備え、そして、任意に、液面検知センサ、超音波素子過熱防止手段(サーマルプロテクター)、超音波ノイズ防止手段などを備え、上記超音波素子ユニットによる超音波回転照射により、発酵槽内の発酵媒体に均一に超音波を照射するようにしたこと、を特徴とするものである。
本発明の方法では、超音波の反射波の信号の自己相関関数のピークを求め、更にそのピーク位置を内挿することにより補間し、超音波伝搬時間を計測すること、あるいは、超音波素子の近傍に設置した温度センサにより発酵媒体の温度を計測し、該温度センサによる温度データを用いて、超音波伝搬時間に補正を加えることによって、温度の変動の影響を受けない計測を行うこと、を好ましい実施の態様としている。
また、本発明の方法では、上記の方法により発酵媒体の発酵状態を検知し、その結果に基づき、超音波照射の照射・非照射の切り替え及び/又は超音波の照射強度を制御することにより、発酵媒体の発酵状態を管理することや、あるいは、発酵媒体に超音波を照射して超音波伝搬時間を計測し、発酵状態を検知し、その後、発酵状態の検知結果に応じて、超音波の照射・非照射のいずれかを選択し、その後、超音波伝搬時間を計測し、上記のサイクルを続けて、発酵媒体の発酵速度を制御すること、を好ましい実施の態様としている。
更に、本発明の装置では、超音波照射ユニットに固定した反射板、及び/又は液面検知センサを有すること、超音波素子ユニットを複数個連結して回転軸化した連結ユニット構造において、各超音波素子ユニットの超音波素子の面が任意の方向に位置して直列接続により連結していること、任意に、超音波素子加熱防止手段を備えること、を好ましい実施の態様としている。
次に、本発明で用いる超音波照射ユニットの構造について詳しく説明する。
本発明において、超音波照射ユニットを構成する超音波照射部は、超音波素子ユニットが接続自在に構成されたユニット構造となっている。そして、該超音波素子ユニットは、発酵槽の大きさに合わせて、任意に直列接続することができ、ユニットとユニットの間隔、すなわち超音波素子の間隔は、スペーサ、例えば、図13の白色樹脂部の長さを変えることで、任意の間隔に設定することができる。
本発明では、例えば、上記の超音波照射ユニットには、適宜、任意の形状及び構造の液面レベル検知センサを配設することができ、本液面レベル検知センサが発酵媒体を検知した場合にのみ、超音波を照射する構造とすることができる。これにより、超音波素子の破損や、無駄な電力の消費を防止することが可能となる。
上述の直列接続された超音波照射ユニットは、回転軸となって回転するように配設することができる。また、超音波照射ユニットを直列接続させる際の各ユニット同士の角度を、任意に設定することができる。超音波素子自体の取り付け角度も任意であり、例えば、回転軸に対して垂直あるいは垂直とは限らない所定の角度で設定することができ、これらにより、発酵槽内の発酵媒体の広い範囲に超音波を照射することが可能となる。
回転する超音波照射ユニット内の超音波素子には、ユニット最上部に回転ブラシ(図示せず)を配設して、該回転ブラシを通じて電力を供給するようにすることができる。回転ブラシの個数は任意であり、後述する超音波信号や温度信号なども該回転ブラシを通じて取得するようにすることができる。
次に、超音波を用いた発酵媒体の発酵状態の検知について詳しく説明する。
本発明では、発酵媒体中を超音波が伝搬するに要する時間を求めるが、それにより、発酵媒体の発酵状態、すなわち発酵に伴う弾性率や密度の変化などを検知することができる。具体的には、発酵槽内の発酵媒体において、超音波照射ユニット内の超音波素子から照射した超音波が、超音波を反射する物体、すなわち発酵槽の内壁や、任意の位置に配設した反射板などの反射体で反射して、その反射波を上記超音波素子で受信するまでに要する時間(超音波伝搬時間)を、該超音波素子における受信信号の自己相関関数のピーク位置を求めることにより計測することにより、発酵状態を検知することができる。なお、超音波素子と反射体との往復距離を、超音波伝搬時間で除すことにより、超音波の速度が求められることから、超音波伝搬時間を計測することは、超音波速度を計測することと同等である。
本発明において、上記の時間の計測は、超音波の反射波の信号の自己相関関数のピークを求め、更にそのピーク値を内挿して補間する方法により、精度良く、微小な時間の変化をも正確に捉えることが可能となる。
上記超音波素子の近傍には、適宜、温度センサを設置して、発酵媒体の温度を計測することができる。発酵媒体における超音波伝搬時間は、一般に、発酵媒体の温度によって変動するが、上記温度センサの温度データを用いて、超音波伝搬時間に補正を加えることによって、発酵媒体の温度の変動の影響を受けない計測が可能になる。また、発酵媒体の発酵状態の検知、すなわち超音波伝搬時間の計測は、複数の超音波照射ユニットのうち、一つ以上のユニットを用いて行うことができる。この場合、任意に、超音波照射ユニットに反射板などの反射体を取りつけることが可能である。
超音波を用いた発酵媒体の発酵状態の検知結果に基づいた超音波照射の制御について説明する。
本発明では、発酵媒体の発酵状態の検知、すなわち超音波伝搬時間の計測をし、その結果に基づいて、超音波照射の照射・非照射のON・OFFを切り替えたり、超音波の照射強度を制御することができる。
超音波の検知に際しては、複数の超音波照射のユニットのうち、1つ以上を、例えば、10分間のうち、1分間は超音波を照射して超音波伝搬時間を計測し、発酵媒体の発酵状態を検知する。そして、その後の9分間は、発酵媒体の発酵状態の検知結果に応じて、超音波の照射・非照射のいずれかを自動的に選択する。例えば、発酵が遅れていれば、超音波の照射を選択するなどである。その後、再び、1分間、超音波伝搬時間を計測し、上記のサイクルを続ければ、発酵の進むスピードが好適ないし最適になるように超音波を照射することが可能となる。
本発明における超音波伝搬時間(すなわち超音波の音速)の解析方法の基本原理について図1により説明する。まず、パルス状の電気信号を発生させる装置、例えば、パルサーレシーバーを使用して、超音波素子を振動させ、発酵槽の発酵媒体に超音波を照射する。照射された超音波は反射体、例えば発酵槽の壁面や任意に設けた反射板、更には超音波素子で反射し、超音波素子と反射体との間を往復する。この時、往復する超音波を超音波素子で受信し、受信波を増幅器、例えばパルサーレシーバーで増幅する。このようにして得られた超音波受信波信号のピーク間の時間差をオシロスコープなどで解析することで、発酵槽における超音波伝搬時間、すなわち超音波の音速を計測することができる。
次に、自己関数を用いて超音波伝搬時間を解析する方法について図2により説明する。超音波伝搬時間を解析するに際しては、超音波受信波信号の自己相関関数を計算し、自己相関関数のピーク位置、すなわち横軸の値により、超音波伝搬時間を算出する。図2では、30.00μの位置を拡大してピーク位置を検出することができる。この場合、自己相関関数のピーク位置は、超音波受信波信号のピーク間の時間差より、正確かつ簡単に求まり、また、自己相関関数のピーク位置を内挿により補間すれば、高い時間分解能で、超音波伝搬時間を求めることができる。図2では、自己相関関数のピーク位置の近傍を2次の多項式で近似してピーク位置を補間しているが、3次以上の多項式などで近似して補間しても良い。
次に、超音波伝搬時間と発酵との関係を図3により詳しく説明する。
超音波伝搬時間と発酵との関係をみると、図3に示されるように、発酵の指標値であるpHと、超音波伝搬時間もしくは音速の変化が類似していること、また、発酵が進むに従って、超音波伝搬時間が小さくなる(音速が速くなる)ことが分かる。このことは、超音波伝搬時間もしくは音速から発酵の進み具合を検知できることを示している。
次に、超音波伝搬時間に対する温度変動の影響をみると、図4に示されるように、発酵媒体の温度の変動とともに、超音波伝搬時間も大きく変動することが分かる。このことは、このままでは超音波伝搬時間から発酵状態を正確に求められないこと、すなわち温度の影響の補正が必要であることを示唆している。
次に、温度の影響の補正方法について、超音波振動子に温度センサを設置して、温度データにより補正する方法について、図5により説明する。超音波伝搬時間と温度との関係についてみると、図6に示されるように、温度が低下すると、超音波伝搬時間が大きくなる(音速が遅くなる)関係があるものの、直線上に完全にはフィットしないことが分かる。これは、温度センサの位置と超音波の照射位置とは厳密には一致しないため、温度波形と超音波伝搬時間波形がずれていることが原因している。
温度の影響を補正するために、超音波伝搬時間と温度の関係について、図7に示されるように、近似直線とデータの差をみるために、温度のグラフを右方向に0〜4分シフトさせてみると、2分シフトさせた場合、近似直線データとの差の絶対値の平均が最小となり、最も直線にフィットすることが分かる。ここで、2分シフトの場合、1℃温度変化すると、超音波伝搬時間は、−3.53×10−8(s)変化すること、すなわち図8に示されるように、直線の傾きは、−3.53×10−8となることが分かる。
したがって、補正値は、以下の式で計算される。
式:補正値=超音波伝搬時間−3.53×10−8×(補正温度−2分前の温度)
補正係数は、超音波素子と温度センサの位置関係、発酵媒体の種類、発酵槽の形状や容量によって決まるので、これらが変化しない場合は、予め補正係数を求めておけばよい。また、発酵媒体の種類が定まらない場合など、予め補正係数を求められない場合でも、発酵の最中に、図8のような温度との関係を求めて、随時、補正係数を求めればよい。また、上式は1次式であるが、2次式や3次式を用いても良い。
温度補正については、例えば、図9に示されるように、温度と超音波伝搬時間との関係は、補正後のグラフとpH測定値に類似性がみられることから、温度補正により、超音波伝搬時間から温度の影響を排除することができ、それにより、温度補正後の超音波伝搬時間から発酵媒体の発酵状態、すなわち発酵の進み具合などを検知できることが分かる。
超音波反射波の受信方法について説明すると、例えば、図10に示されるように、方法1は、発酵槽内壁で超音波を反射させ、発酵槽内壁と超音波素子間の超音波伝搬時間を測定する方法である。この方法は、簡便であるが、回転軸が軸ブレする場合は測定精度が悪化し、壁面までの距離が長いと超音波の反射を受信できない場合もある。方法2は、反射板などの反射体を超音波素子ユニットに固定し、反射板に超音波を反射させ、反射板と超音波素子間の超音波伝搬時間を測定する方法である。この方法では、超音波ユニットとともに反射板を回転させる必要があるが、安定して超音波の反射波を受信できる利点がある。
本発明では、超音波反射波の受信方法として、上記方法1、及び上記方法2のいずれも使用することができる。本発明により、発酵槽内の発酵媒体の広い範囲に超音波を照射することができ、これにより、広範に超音波照射の効果を及ぼすことができる。pH計などを用いることなく、発酵媒体の発酵状態を検知することができ、pH計とは異なり、発酵媒体の弾性率(硬さ)や密度を直接評価することができ、計測毎の装置の洗浄や計測値の校正は不要である。また、超音波素子を回転させることにより、発酵槽内の発酵状態の分布、例えば、発酵状態の偏りの有無などを正確に知ることができる。また、水を用いた測定は不要であり、温度の変動があったとしても、正確な測定ができ、発酵状態の検知をしながら、好適な速度で発酵を進めることができる。本発明は、発酵媒体の種類に制限されることなく、当該発酵媒体の発酵状態の管理を行うための超音波照射による発酵方法に関する新技術・新製品を提供するものとして有用である。
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)大容量の発酵媒体に対して、超音波を照射することができ、先行技術(特許文献6など)の効果(食用微生物の増殖・代謝の促進)を大容量の発酵媒体に対して得ることができる。
(2)本発明は、様々な容量の発酵槽に適用することができ、例えば、発酵槽の大きさに応じて、装置の構成を簡単に変更することができる。
(3)発酵槽内の発酵媒体の占める割合は任意であり、例えば、満タン状態でも良いし、あるいは半分以下の量でも良く、また、発酵の過程で発酵媒体の量が変化しても良く、発酵媒体の量に応じて、超音波素子のON・OFFを制御することにより、超音波素子の破損を防ぐことができる。
(4)発酵槽内の発酵媒体の広い範囲に超音波を照射することができ、これにより、広範に超音波照射の効果を及ぼすことができる。
(5)超音波を用いて、発酵食品の発酵の状況を検知することができ、それにより、発酵状態の管理を行うことができる。
(6)pH計などを用いずに、発酵媒体の発酵状態を検知することができ、pH計とは異なり、発酵媒体の弾性率(硬さ)や密度を直接評価することができる。
(7)pH計での計測時のように、計測毎の装置の洗浄や計測値の校正は不要であり、また、超音波素子を回転させることにより、発酵槽内の発酵状態の分布、例えば、発酵状態の偏りの有無などを知ることができる。
(8)先行技術とは異なり、水を用いた測定は不要であり、また、温度の変動があったとしても、正確な測定が可能である。
(9)発酵媒体の発酵状態を検知しながら、その結果に基づいて、超音波照射のON・OFFの切り替えや、超音波の強度を制御することにより、好適ないし最適な速度で発酵を進めることができる。
超音波伝搬時間(音速)の解析方法(基本原理)を示す説明である。 超音波伝搬時間の解析方法(自己相関を用いる方法)を示す説明図である。 超音波伝搬時間と発酵との関係を示す説明図である。 温度変動時の影響を示す説明図である。 温度の影響の補正方法(接続図)を示す説明図である。 温度の影響の補正方法(超音波伝搬時間と温度との関係)を示す説明図である。 温度の影響の補正方法(超音波伝搬時間と温度との関係)を示す説明図である。 温度の影響の補正方法(超音波伝搬時間と温度との関係)を示す説明図である。 温度補正の例を示す説明図である。 超音波反射波の受信方法を示す説明図である。 実施例のパイロットプラント発酵システムの写真を示す。 実施例の超音波素子ユニットと写真を示す。 実施例の超音波素子を5連結して形成した軸の例を示す。 実施例の超音波素子回転軸に発酵槽タンクを装着した例を示す。
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
本実施例では、パイロットプラント発酵システムを開発した例を示す。本システムは、発酵槽タンク(容量:100リットル)、超音波素子(5個内蔵)、超音波回転照射手段、超音波素子過熱防止サーマルプロテクター、液面検知機能を具備し、超音波ノイズ防止対策として発振回路を回転軸に内蔵させた。その概要を図11に示す。
本実施例で用いた超音波素子ユニットを、図12に示す。すなわち、本ユニットは、超音波素子(発振周波数:2.4MHz)、液面検知センサを有し、該液面センサが液面に入ると超音波出力が開始される。この超音波素子ユニットを5連結して軸を形成した例を図13に示す。
本実施例では、超音波素子(間隔:100mm)を5連結して軸形成したが、超音波素子の連結個数は任意に直列接続することができ、発酵槽の大きさに合わせて超音波素子ユニットの軸を作ることができる。また、図中、白色樹脂部の長さを変えることで素子間隔を任意に設定することができる。超音波素子回転軸に発酵槽タンクを装着した例を、図14に示す。
発酵媒体の一例である豆乳に対して、食用微生物の一例である乳酸菌を接種して発酵させる際に本発明を適用して、乳酸菌を接種した豆乳の発酵状態の検知を行った。
本実施例では、発酵媒体の温度が変動しない条件で発酵状態の検知を実施した。
乳酸菌(Lactobacillus plantarum LB−K−2株)をMRS培地10mLで30℃、15時間、静置培養して得られた乳酸菌培養液(10cells/mL程度)を生理食塩水にて希釈し、10cells/g程度となるように豆乳(株式会社東京めいらく製有機豆乳)に接種した。
これをプラスチック容器に入れて恒温槽内に静置し、発酵させた。発酵槽内の温度は30℃とした。容器内には超音波素子を設置して超音波を発酵媒体内に随時照射し、超音波素子と約3.5cmの距離に設置されたステンレス製の反射板で反射した超音波を超音波素子で受信し、超音波伝搬時間、すなわち超音波素子と反射板間を超音波が往復するのに要する時間を求めた。なお、超音波伝搬時間は1分間に8回の頻度で求め、これを1分ごとに時間平均した。
この際、超音波素子にパルサーレシーバー(オリンパス Model 5800)を接続することにより、超音波素子にパルス状の電圧を印加して超音波素子からの超音波を照射するとともに、受信した超音波信号の増幅を行った。また、パルサーレシーバーとオシロスコープとを接続し、増幅した超音波受信をオシロスコープで観測した。
更に、オシロスコープとパソコンとを接続し、オシロスコープでの観測波形をパソコン上に転送し、観測波形の自己相関関数をパソコン上で動作するソフトウェアによって計算した。次に、自己相関関数のピークの位置をパソコン上で動作するソフトウェアによって求め、更に、それを内挿により補間してピークの位置の分解能を高めた上で、超音波伝搬時間を求めた。また、比較のため、pH計を用いて、一定時間ごとにpH値の測定も行った。
このようにして求めた超音波伝搬時間とpH値の関係を図3に示す。一般に、pH値から発酵の進み具合を知ることができ、本例においても時間の経過とともにpH値が低下して発酵が進んでいることが分かる。一方で、超音波伝搬時間も時間の経過ともに低下(音速が上昇)し、更に、pH値との相関も認められた。このように、図3の超音波伝搬時間とpH値の関係より、超音波伝搬時間から、発酵の進み具合を検知することができることが確認された。
本実施例では、発酵媒体の温度が変動する条件で実施した。
発酵媒体の温度が変化しない条件で実施した実施例2の場合と同様に、豆乳に乳酸菌を接種して、恒温槽に静置した。ただし、発酵媒体の温度が約26.5℃を中心に約1℃の変動が生じるように、恒温槽の温度を一定時間ごとに変動させた。また、超音波素子と反射板との距離は約2.5cmとした。
また、発酵媒体の温度が変動しない条件で実施した実施例1の場合と同様に、パルサーレシーバー、オシロスコープ、超音波素子を用い、パソコン上のソフトウェアにより超音波伝搬時間を求めた。更に、超音波素子の近傍に温度センサを設置して発酵媒体の温度を計測し、その温度信号も、随時、パソコンに集録した。また、比較のため、pH計を用いて、一定時間ごとにpH値の測定も行った。
このようにして求めた超音波伝搬時間、温度、pH値の関係を図9に示す。更に、次式によって、温度の影響を補正した超音波伝搬時間も図9に示す。
式:超音波伝搬時間の温度補正値=超音波伝搬時間−3.34×10−8 ×(補正温度−超音波伝搬時間を取得した時刻の2分前の温度)
ここで、補正温度は28℃とした。つまり温度が28℃であった場合の、超音波伝搬時間を求めた。超音波伝搬時間の温度補正値は、時間の経過ともに低下し、更に、pH値との相関も認められた。このように、本実施例により、超音波伝搬時間の温度補正値から、発酵の進み具合を検知することができることが確認された。
以上詳述した通り、本発明は、超音波照射による発酵方法及びその装置に係るものであり、本発明は、例えば、発酵槽の大きさに応じて、装置の構成を簡単に変更することができるので、様々な容量の発酵槽に適用することができる。また、発酵槽内の発酵媒体の占める割合は任意であり、例えば、満タンでも良いし、半分以下の量でも良く、また、発酵の過程で発酵媒体の量が変化しても良く、量に応じて、超音波素子のON・OFFを制御することにより、超音波素子の破損を防ぐことができる。本発明は、1)発酵槽内において小容量〜大容量の発酵媒体に超音波を均一に照射することが可能な装置、2)発酵槽内の発酵媒体における超音波伝搬時間を利用して、発酵媒体の発酵状態を検知する方法、上記2)に基づいて、発酵媒体に照射する超音波の強度やON・OFFを制御して、発酵媒体の発酵状態を管理する方法、を提供するものとして有用である。

Claims (8)

  1. 発酵媒体の発酵状態を検知する発酵方法であって、発酵槽内に設置した超音波照射ユニット内の超音波素子から該発酵槽内の発酵媒体に照射した超音波が、該超音波を反射する発酵槽内壁又は該発酵槽内に配設した反射体で反射して、その反射波を上記超音波素子で受信するまでに要する時間である超音波伝搬時間を、該超音波素子における受信信号の自己相関関数のピーク位置を求めることにより計測し、その超音波伝搬時間に基づき、あるいは、超音波伝搬時間に発酵媒体の温度の影響による補正を加えた値に基づき、発酵媒体の発酵状態を検知することを特徴とする発酵方法。
  2. 超音波の反射波の信号の自己相関関数のピークを求め、更にそのピーク位置を内挿することにより補間し、超音波伝搬時間を計測する、請求項1に記載の発酵方法。
  3. 超音波素子の近傍に設置した温度センサにより発酵媒体の温度を計測し、該温度センサによる温度データを用いて、超音波伝搬時間に補正を加えることによって、温度の変動の影響を受けない計測を行う、請求項1又は2に記載の発酵方法。
  4. 請求項1から3のいずれかに記載の方法により発酵媒体の発酵状態を検知し、その結果に基づき、超音波照射の照射・非照射の切り替え及び/又は超音波の照射強度を制御することにより、発酵媒体の発酵状態を管理する発酵方法。
  5. 発酵媒体に超音波を照射して超音波伝搬時間を計測し、発酵状態を検知し、その後、発酵状態の検知結果に応じて、超音波の照射・非照射のいずれかを選択し、その後、超音波伝搬時間を計測し、上記のサイクルを続けて、発酵媒体の発酵速度を制御する、請求項1から4のいずれかに記載の発酵方法。
  6. 発酵槽、該発酵槽内に回転自在に設置される超音波素子ユニット、該超音波素子ユニットを複数個連結して回転軸化した連結ユニット構造を有する超音波照射ユニットを備え、上記超音波照射ユニットによる超音波回転照射により、発酵槽内の発酵媒体に均一に超音波を照射するようにした装置。
  7. 超音波照射ユニットに固定した反射板、及び/又は液面検知センサを有する、請求項6に記載の装置。
  8. 超音波素子ユニットを複数個連結して回転軸化した連結ユニット構造において、各超音波素子ユニットの超音波素子の面が任意の方向に位置して直列接続により連結している、請求項6に記載の装置。
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