JP2013103858A - 肥料 - Google Patents

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Abstract

【課題】エチレンを長期間に渡って安定的に発生させる肥料を提供すること。
【解決手段】肥料1は、エチレンの前駆物質2であるメチオニンを生物由来の樹脂3であるシェラックによりコーティングしたエチレン発生粒4と、有機物を含む肥料素材5を有している。エチレン発生粒4は、肥料素材5に混合されて、分散した状態となっている。エチレン発生粒4が混合された肥料素材5は圧縮成形されてペレット6となっている。肥料1が撒布された土壌中の土壌微生物は、シェラックを分解してメチオニンに到達しなければ、メチオニンを分解することができない。この結果、土壌微生物によるエチレンの前駆物質2の分解の速度が抑制されるので、エチレンの生成速度が抑制され、エチレンを長期間に渡って安定的に発生させることができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、エチレンを長期間に渡って安定的に発生させることができる肥料に関する。
植物ホルモンのひとつであるエチレンは、植物に対して花芽分化の促進作用、開花の促進作用などの成長促進作用があることが知られている。特許文献1には、根菜類の成長を促進するためにエチレンの前駆物質であるメチオニンを含有する肥料を用いることが記載されている。同文献では、メチオニンおよび天然多糖類を含有する肥料を水に溶いて葉面散布肥料として用いている。
特開2007−326767号公報
メチオニンなどのエチレンの前駆物質を含有する肥料を作物に施す際には、水に溶いて撒布するほかに、エチレンの前駆物質を堆肥などの肥料材料と混合して圃場に撒くことが考えられる。しかし、このような施肥を行うと、短期間のうちにメチオニンが土壌微生物によって分解されてエチレンが生成され、作物の成長促進に必要な量を超えた大量のエチレンが発生することがある。ここで、大量のエチレンの発生によって土壌中のエチレン濃度が高濃度となると、作物の成長を、逆に、阻害してしまうという問題がある。
かかる問題に鑑みて、本発明の課題は、エチレンを長期間に渡って安定的に発生させることができる肥料を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明の肥料は、エチレンの前駆物質を生物由来の樹脂によりコーティングしたエチレン発生粒を含有することを特徴とする。
本発明によれば、エチレンの前駆物質は生物由来の樹脂によってコーティングされているので、肥料が施用された土壌中の土壌微生物は、生物由来の樹脂を分解してエチレンの前駆物質に到達しなければ、このエチレンの前駆物質を分解することができない。この結果、土壌微生物によるエチレンの前駆物質の分解の速度が抑制されるので、エチレンの生成速度が抑制され、エチレンが長期間に渡って安定的に発生する。従って、作物の成長を促進することができる。また、肥料の施用により土壌中に発生するエチレンの静菌作用によって、圃場における糸状菌や病原菌の繁殖を長期間に渡って抑制することができる。なお、生物由来の樹脂は、シェラックなどの動物由来の樹脂や松脂などの植物由来の樹脂である。
本発明において、有機物を含む肥料素材を有し、前記エチレン発生粒は、前記肥料素材に混合されていることが望ましい。このようにすれば、エチレン発生粒を植物の成長に必要な栄養分と共に圃場に施用することができる。
この場合において、前記肥料素材には、キノコ人工栽培の廃倍地が含まれていることが望ましい。キノコ人工栽培は、オガ粉や米ぬかなどを主成分とする培地を栽培用のビンに充填してキノコの菌糸を受け付け、温度や湿度を管理した施設内でキノコを栽培するものであり、この培地は、通常、キノコを一回収穫する毎に新しいものに取り替えられて廃棄される。従って、キノコ人工栽培の廃培地を肥料素材として用いれば、廃棄物の利用となるので、環境負荷を低減することができる。また、肥料素材の調達コストを低減して、肥料の製造コストを抑えることができる。さらに、キノコ人工栽培の廃培地は、ヘミセルロースを中心とする易分解性炭水化物、或いは、セルロースなどの中程度の分解性炭水化物を主体としているので、土壌微生物によって無機化されやすく、植物に吸収されやすい。従って、施用効果の高い肥料となる。
本発明において、前記エチレン発生粒が混合された前記肥料素材を圧縮成形してペレットとすることが望ましい。このようにすれば、圃場などへの撒布が容易となる。また、ペレット化のための肥料素材の圧縮によっても、土壌微生物によるエチレンの前駆物質の分解速度が抑制される。
この場合において、前記ペレットを、前記樹脂または前記樹脂とは異なる種類の生物由来の樹脂によりコーティングしてもよい。このようにすれば、肥料が施用された土壌中の土壌微生物は、ペレットをコーティングする樹脂およびエチレンの前駆物質をコーティングする樹脂を分解してエチレンの前駆物質に到達しなければ、このエチレンの前駆物質を分解することができない。従って、エチレンが、より長期間に渡って発生する。また、有機物を含む肥料素材も樹脂によってコーティングされるので、土壌微生物による有機物の分解速度が抑制される。従って、ペレットをコーティングする樹脂の種類の選択、或いは、樹脂によるペレットのコーティング膜の膜厚などを調整することにより、肥料が効いている状態を長期間に渡って持続させるなどの肥効制御を行うことができる。さらに、ペレットはコーティングされることにより、せん断抵抗が上昇する。従って、肥料を搬送する際、或いは、肥料を撒布する際などに、ペレットが粉末化することが抑制されるので、肥料が扱い易いものとなる。ここで、ペレットをコーティングする樹脂は、エチレンの前駆物質をコーティングする樹脂と同一の樹脂とすることができる。また、ペレットをコーティングする樹脂とエチレンの前駆物質をコーティングする樹脂は、異なる種類の樹脂とすることもできる。
次に、本発明の別の形態の肥料は、有機物を含む肥料素材にエチレンの前駆物質を混合して圧縮成形したペレットを有し、前記ペレットは、生物由来の樹脂によりコーティングされていることを特徴とする。
本発明によれば、ペレットは生物由来の樹脂によってコーティングされている。従って、肥料が施用された土壌中の土壌微生物は、生物由来の樹脂を分解して有機物を含む肥料素材に混合されているエチレンの前駆物質に到達しなければ、このエチレンの前駆物質を分解することができない。この結果、土壌微生物によるエチレンの前駆物質の分解の速度が抑制されるので、エチレンの生成速度が抑制され、エチレンが長期間に渡って安定的に発生する。従って、作物の成長を促進することができる。また、肥料の施用により土壌中に発生するエチレンの静菌作用によって、圃場における糸状菌や病原菌の繁殖を長期間に渡って抑制することができる。さらに、有機物を含む肥料素材も樹脂によってコーティングされるので、土壌微生物による有機物の分解速度が抑制される。従って、樹脂の種類の選択、或いは、第2の樹脂によるコーティング膜の膜厚などを調整することにより、肥料が効いている状態を長期間に渡って持続させるなどの肥効制御を行うことができる。また、ペレットはコーティングされることにより、せん断抵抗が上昇する。従って、肥料を搬送する際、或いは、肥料を撒布する際などに、ペレットが粉末化することが抑制されるので、肥料が扱い易いものとなる。
本発明において、前記樹脂は、シェラックであることが望ましい。シェラックは市場に流通しており、比較的安価に手に入る。従って、肥料の製造が容易となり、肥料の製造コストを抑制することができる。
本発明によれば、エチレンの前駆物質の周りに生物由来の樹脂によるコーティング膜が存在しているので、土壌微生物によるエチレンの前駆物質の分解速度が抑制される。従って、エチレンの生成速度が抑制され、エチレンが長期間に渡って安定的に発生する。また、肥料の施用により土壌中に発生するエチレンの静菌作用によって、圃場における糸状菌や病原菌の繁殖を長期間に渡って抑制することができる。
本発明を適用した実施例1の肥料を模式的に示す断面図である。 肥料の施用日からの土壌中のエチレン濃度の変化を示すグラフである。 エチレンの静菌作用を示すグラフである。 実施例1の変形例の肥料を模式的に示す断面図である。 肥料の施用日からの肥料素材の無機化率の変化を示すグラフである。 樹脂の添加率と肥料のせん断抵抗の関係を示すグラフである。 実施例2の肥料を模式的に示す断面図である。
以下に図面を参照して、本発明を適用した肥料を説明する。
[実施例1]
図1は本発明を適用した肥料を模式的に示す断面図である。本発明の肥料1は、圃場撒布用の肥料である。肥料1は、エチレンの前駆物質2を生物由来の樹脂3によりコーティングしたエチレン発生粒4と、有機物を含む肥料素材5を有している。エチレン発生粒4は、肥料素材5に混合されて、分散した状態となっている。エチレン発生粒4が混合された肥料素材5は圧縮成形されてペレット6となっている。本例の肥料1は、例えば、レタスの圃場に撒かれるものであり、ペレット6は直径が2mm〜3mm、長さが10mm程度の円柱形状をしている。
エチレンの前駆物質2は、メチオニンの粉体である。メチオニンはアミノ酸の一種であり、白色の結晶あるいは粉末で市場に流通している。メチオニンとしては、L−メチオニン、D−メチオニン、DL−メチオニンのいずれを用いることもできるが、本例では、これらの中でも比較的安価なDL−メチオニンを用いている。なお、エチレンの前駆物質2として、魚粕などのメチオニンを豊富に含有する動物性有機物を用いることもできる。また、蛋白質を含む有機物を用いることができる。
生物由来の樹脂3は、シェラックである。シェラックは動物由来の樹脂であり、カイガラムシの分泌物を精製して得られる。また、シェラックは市場に流通しており、比較的安価に入手できる。ここで、動物由来の樹脂には、蜜蝋、鯨蝋などがあり、これらをコーティングに用いることもできる。また、生物由来の樹脂3としては、松脂、カルナバロウなどの植物由来の樹脂があり、これらをコーティングに用いることもできる。ここで、生物由来の樹脂3は難分解性であるが、土壌微生物により二酸化炭素となるまで完全に分解される。なお、生物由来の樹脂3は常温で溶融することがないものを用いることが望ましい。
エチレンの前駆物質2に対する樹脂3のコーティングは、エチルアルコールなどの有機溶媒にシェラックを溶融させたシェラック溶液を、スプレーを用いてメチオニンの粉体に噴霧するなどの周知の方法により行う。なお、コーティング処理は常温で行うことができるが、それよりも高温、例えば、50°の雰囲気中においてコーティング処理を行うことにより、シェラックのメチオニンの粉体への展着性を向上させることができる。
肥料素材5は、えのき茸、エリンギ、ブナシメジ、マイタケなどのキノコ人工栽培の廃培地である。ここで、キノコ人工栽培は、オガ粉や米ぬかなどを主成分とし、これに、ふすま、コーンコブ、豆皮などが配合された培地を栽培用のビンに充填してキノコの菌糸を受け付け、温度や湿度を管理した施設内でキノコを栽培するものである。また、培地は、通常、キノコを一回収穫する毎に新しいものに取り替えられて廃棄され、廃培地となる。従って、キノコ人工栽培の廃培地を肥料素材5として用いれば、廃棄物の利用となるので、環境負荷を低減できる。また、廃棄物の利用となるので、肥料素材5の調達コストを低減することができる。よって、肥料1の製造コストを抑えることができる。さらに、キノコ人工栽培の廃培地は、ヘミセルロースを中心とする易分解性炭水化物、或いは、セルロースなどの中程度の分解性炭水化物を主体としており、土壌微生物によって無機化されやすく、植物に吸収されやすい状態となっている。従って、廃培地を用いることにより、施用効果が高くなる。なお、肥料素材5としては、土手草などを刈ったもの、コーヒー豆のコーヒー抽出後の残渣などを用いることができ、これらを用いた場合にも廃棄物の利用となるので、環境負荷を低減できる。なお、肥料素材5は、バーク堆肥などの難分解性炭水化物を主成分とするものよりも、易分解性炭水化物、或いは、中程度の分解性炭水化物を主体とする有機物の方が好ましい。
ここで、本例では、肥料素材5に液体硫安を混合することにより、肥料素材5の窒素含有量を5%程度に調節している。なお、窒素の他、燐酸、カリなどの要素を含むものを必要に応じて肥料素材5に混合して、燐酸含有量、カリ含有量を調節してもよい。
(作用効果)
図2は本例の肥料1の施用日からの土壌の気相におけるエチレン濃度の変化を示すグラフである。メチオニンの施用量は土壌1kg当たり0.2gであり、圃場10a当たり20kgである。土壌の水分量は28%である。なお、土壌の水分量は、森林土壌表面層の晴天時における水分量に対応させたものである。図2において、黒丸で示す各点を結ぶグラフは、常温でコーティング処理を施したペレット6を施用した場合の土壌中のエチレン濃度の変化であり、三角で示す各点を結ぶグラフは、50°でコーティング処理を施したペレット6を施用した場合の土壌中のエチレン濃度の変化である。エチレン濃度はフォトイオン化検出法により測定している。なお、比較例として、メチオニンをコーティングせずに肥料素材5と混合したものをペレットとした肥料を施用した場合を、四角で示す各点を結ぶグラフにより示している。
図2に示されるように、本例の肥料1では、施用の後、土壌の気相におけるエチレン濃度が10ppm以下の低い値で安定的に推移しており、エチレンが長期間に渡って安定的に発生することが認められる。すなわち、本例によれば、エチレンの前駆物質2は生物由来の樹脂3によってコーティングされているので、土壌中の土壌微生物は、生物由来の樹脂3を分解してエチレンの前駆物質2に到達しなければ、エチレンの前駆物質2を分解することができない。この結果、土壌微生物によるエチレンの前駆物質2の分解の速度が抑制されるので、エチレンの生成速度が抑制され、エチレンが長期間に渡って安定的に発生する。従って、本例の肥料1によれば、圃場の作物の成長を促進することができる。一方、エチレンの前駆物質2であるメチオニンを樹脂3でコーティングせずに肥料素材5に混合したものをペレット6とした肥料1では、土壌中のエチレン濃度が大幅に上昇しており、その平均濃度は123.9ppmとなっている。このようなエチレン濃度は、作物の成長を阻害する濃度障害を発生させるレベルであり、肥料1として適するものではない。
また常温で樹脂3のコーティング処理を行ったペレット6を肥料として撒布した場合の土壌中のエチレン濃度の平均値は4.7ppmであり、50°で樹脂3のコーティング処理を行ったペレット6を肥料として撒布した場合の土壌中のエチレン濃度の平均値は3.2ppmである。従って、高温でコーティング処理を施したペレット6を肥料とすれば、常温でコーティング処理を施したペレット6を肥料とする場合と比較して、メチオニンの分解速度を抑制する作用が高く、エチレンの生成が抑制されていることが認められる。
ここで、降雨が無い場合の森林の土壌の気相におけるエチレン濃度は約4ppmであり、このような気相成分の森林では、エチレンの静菌作用によって、糸状菌の繁殖が抑制されている。従って、生体生理的活性を持つ肥料を設計する際には、土壌の気相におけるエチレン濃度を約4ppmとすることが一つの設計基準となるが、本例の肥料1によれば、施用により圃場の土壌の気相のエチレン濃度が4ppm前後となるので、この設計基準に適合するものとなる。従って、エチレンの静菌作用によって、圃場における糸状菌や病原菌の繁殖を長期間に渡って抑制することができる。
なお、発明者らは、エチレン(メチオニン)の静菌作用を確認する実験を行っている。実験は、圃場の土壌にレタス根腐病菌およびメチオニンを添加して25°で培養した試験区における菌数と、圃場の土壌にレタス根腐病菌のみを添加して25°で培養した対照区における菌数とを調べたものである。より具体的には、対照区の土壌は、圃場の土壌2500gに対して蒸留水550mlを加えることにより、その水分量を最大水分量60%に調整して、レタス根腐病菌108を100ml添加したものである。試験区の土壌は対照区の土壌200gに対してメチオニン80mgを添加したものである。レタス根腐病菌は、連作障害の原因菌のひとつである。菌数は1g当たりの乾土のコロニー数であり、実験開始日、開始3日後、開始10日後の3回計数した。
図3(a)は実験開始日からのフザリウム菌数の変化を示し、図3(b)は実験開始日からの糸状菌菌数の変化を示す。なお、フザリウムは作物に障害を発生させる病原菌の一種であり、レタス根腐病菌はフザリウムに含まれる。糸状菌はカビであり、フザリウムなどの病原菌も糸状菌に含まれる。また、図3(b)に示すグラフには、圃場の土壌(水分量を最大水分量60%に調整したもの)を25°で管理した第2の対照区における糸状菌菌数の変化も併せて示してある。図3(a)、(b)に示されるように、メチオニンを添加した試験区では、対照区と比較して、試験開始から3日後には、フザリウム菌数および糸状菌菌数が激減しており、10日後においても、この状態が維持されている。従って、メチオニン(エチレン)の静菌作用が認められる。
(変形例)
図4は変形例の肥料1Aを模式的に示す断面図である。本例の肥料1Aでは、実施例1の肥料1のペレット6が生物由来の樹脂7によりコーティングされている。なお、本例の肥料1Aは、上記の実施例1の肥料1と同様の構成を備えているので、共通する部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
本例において、樹脂7はシェラックであり、エチレンの前駆物質2であるメチオニンの粉体をコーティングしている樹脂3と同一である。ここで、ペレット6に対する樹脂7のコーティングは、エチルアルコールなどの有機溶媒にシェラックを溶融させたシェラック溶液に、ペレット6を浸すことにより行うことができる。この場合には、エチルアルコールに対するシェラックの添加率、或いは、シェラック溶液へのペレット6の浸漬時間を調節することにより、ペレット6への樹脂7の展着量(コーティング層の厚さや密度)を調整することができる。また、ペレット6に対する樹脂7のコーティングは、メチオニンの粉末に対するコーティングと同様に、エチルアルコールなどの有機溶媒にシェラックを溶融させたシェラック溶液を、スプレーを用いてペレット6に噴霧するなどの方法によっても行うことができる。この場合には、エチルアルコールに対するシェラックの添加率、或いは、噴霧量を調整することにより、ペレット6への樹脂7の展着量(コーティング層の厚さや密度)を調整することができる。
本例の肥料1Aにおいても、エチレンの前駆物質2であるメチオニンが生物由来の樹脂3によってコーティングされているので、エチレンを長期間に渡って安定的に発生させることができる。
また、本例によれば、肥料1Aが撒布された土壌中の土壌微生物は、ペレット6をコーティングしている樹脂7およびメチオニンをコーティングしている樹脂3を分解してメチオニンに到達しなければ、このメチオニンを分解してエチレンを生成できない。従って、エチレンを、より長期間に渡って発生させることができる。さらに、エチレンの静菌作用によって、圃場における糸状菌や病原菌の繁殖を長期間に渡って抑制することができる。
さらに、本例によれば、有機物を含む肥料素材5が樹脂7によってコーティングされているので、土壌微生物による有機物の分解速度が抑制される。図5は肥料素材5の無機化率の変化を示すグラフである。実線で示すグラフは、肥料1Aを施用した場合の施用日からの肥料素材5の無機化率の変化を示している。グラフに示す肥料1Aは、シェラック溶液にペレット6を瞬間的に浸すことにより樹脂7のコーティングを施したものであり、溶液におけるシェラックの添加率(混合割合)は体積比で30%である。点線で示すグラフは、ペレット6がコーティングされていない実施例1の肥料1を施用した場合の施用日からの肥料素材5の無機化率の変化を示している。図5に示すように、本例の肥料1Aでは、肥料1と比較して、無機化率が短期間に上昇することが抑制されている。従って、本例の肥料1Aによれば、肥料1Aが効いている状態を長期間に渡って持続させることができる。ここで、樹脂7の種類の選択、樹脂7の展着量、樹脂7のコーティングの方法、或いは、コーティングを行う温度などを調整することにより、肥料1Aが効いている状態を長期間に渡って持続させるなどの肥効制御を行うことができる。
また、本例によれば、ペレット6が樹脂7によりコーティングされることにより、ペレット6のせん断抵抗が上昇する。図6は、シェラック溶液にペレット6を浸すことによって樹脂7のコーティングを施す際に、シェラック溶液におけるシェラックの添加率(体積比)を変化させて、シェラックの添加率と肥料1Aのせん断抵抗との関係を調べた結果を示すグラフである。図6に示すように、樹脂7の添加割合の増加に伴って、ペレット6のせん断抵抗値が上昇している。ここで、せん断抵抗が高くなれば、肥料1Aを搬送する際に、或いは、肥料1Aを撒布する際に、ペレット6が粉末化することが抑制されるので、肥料1Aが扱い易いものとなる。なお、せん断抵抗は、ペレット6の成形時における成形圧力によっても、高めることができる。
ここで、変形例の肥料1Aにおいて、ペレット6をコーティングしている樹脂7は、エチレンの前駆物質2をコーティングしている樹脂3と同一の樹脂(シェラック)となっているが、コーティングしている樹脂7とエチレンの前駆物質2をコーティングしている樹脂3を、それぞれ異なる種類の生物由来の樹脂とすることもできる。
[実施例2]
図7は本発明を適用した実施例2の肥料を模式的に示す断面図である。なお、本例の肥料1Bは実施例1の肥料1および実施例1の変形例の肥料1Aと共通する構成を備えているので、対応する構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
本例の肥料1Bは、有機物を含む肥料素材5にエチレンの前駆物質2を混合して圧縮成形したペレット6を有している。ペレット6は、生物由来の樹脂7によりコーティングされている。なお、本例においても、エチレンの前駆物質2はメチオニンの粉体であり、生物由来の樹脂7はシェラックであり、肥料素材5は、キノコ人工栽培の廃培地である。ペレット6に対する生物由来の樹脂7のコーティングは、エチルアルコールなどの有機溶媒にシェラックを溶融させたシェラック溶液に、ペレット6を浸すことにより行うことができる。或いは、エチルアルコールなどの有機溶媒にシェラックを溶融させたシェラック溶液を、スプレーを用いてペレット6に噴霧するなどの方法により行うことができる。また、肥料素材5には液体硫安が混合され、肥料素材5の窒素含有量が5%程度に調節されている。
本例によれば、ペレット6は生物由来の樹脂7によってコーティングされている。従って、肥料1Bが撒布された土壌中の土壌微生物は、生物由来の樹脂7を分解して有機物を含む肥料素材5に混合されているエチレンの前駆物質2に到達しなければ、エチレンの前駆物質2を分解することができない。この結果、土壌微生物によるエチレンの前駆物質2の分解の速度が抑制されるので、エチレンの生成速度が抑制され、エチレンを長期間に渡って安定的に発生させることができる。よって、作物の成長を促進できる。また、本例によれば、エチレンの静菌作用によって、圃場における糸状菌や病原菌の繁殖を長期間に渡って抑制することができる。
さらに、本例では、有機物を含む肥料素材5が樹脂7によってコーティングされるので、土壌微生物による有機物の分解速度が抑制される。従って、樹脂7の種類の選択、或いは、樹脂7によるコーティング膜の膜厚、および、コーティング処理の温度などを調整することにより、肥料1Aが効いている状態を長期間に渡って持続させるなどの肥効制御を行うことができる。また、ペレット6はコーティングされることにより、せん断抵抗が上昇する。この結果、肥料1Bを撒布する際などに、ペレット6が粉末化することが抑制されるので、肥料1Bが扱い易いものとなる。
なお、上記の例では肥料1、1A、1Bは、レタスの圃場に撒かれるものであるが、他の作物用の肥料として用いることができることは勿論である。例えば、本例の肥料1、1A、1Bをアスパラガス用の肥料として用いることができる。また、上記の例では、ペレット6の直径は2mm〜3mmであるが、ペレットのサイズもこの例に限られるものではない。例えば、アスパラガス用の肥料として、ペレットの直径を3mm〜4mmとしたものを用いることができる。
1・1A・1B 肥料
2 エチレンの前駆物質
3 生物由来の樹脂
4 エチレン発生粒
5 肥料素材
6 ペレット
7 生物由来の樹脂

Claims (7)

  1. エチレンの前駆物質を生物由来の樹脂によりコーティングしたエチレン発生粒を含有することを特徴とする肥料。
  2. 請求項1において、
    有機物を含む肥料素材を有し、
    前記エチレン発生粒は、前記肥料素材に混合されていることを特徴とする肥料。
  3. 請求項2において、
    前記肥料素材には、キノコ人工栽培の廃培地が含まれていることを特徴とする肥料。
  4. 請求項2または3において、
    前記エチレン発生粒が混合された前記肥料素材を圧縮成形してペレットとした肥料。
  5. 請求項4において、
    前記ペレットを、前記樹脂または前記樹脂とは異なる種類の生物由来の樹脂によりコーティングしたことを特徴とする肥料。
  6. 有機物を含む肥料素材にエチレンの前駆物質を混合して圧縮成形したペレットを有し、
    前記ペレットは、生物由来の樹脂によりコーティングされていることを特徴とする肥料。
  7. 請求項1ないし6のうちのいずれかの項において、
    前記樹脂は、シェラックであることを特徴とする肥料。
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