JP2013063914A - 循環補助薬 - Google Patents

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Abstract

【課題】あらゆる心不全における心筋保護と個体の生命および循環維持のための循環補助薬の提供。心不全の予防/治療薬として有用である。
【解決手段】赤血球よりも小粒子径の酸素運搬体を有効成分とする循環補助薬。
【選択図】なし

Description

本発明は、あらゆる心不全における心筋保護と個体の生命および循環維持のための循環補助薬に関する。
ポンプ(心臓)失調の病態である心不全は、現代において循環器系における最大の死因となっている。心不全の治療法には、古来用いられているジギタリス(強心配糖体)に代表される強心剤がある。強心剤は、心筋収縮力を増加させる薬剤であり、したがって心筋負荷を増加させるため、心筋保護にはならない。臨床上、心臓の負荷を軽減するアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、β−アドレナリン受容体遮断薬および利尿薬などが適宜併用される。
また、新しい心不全薬も研究されており、たとえば、強心剤の心拍数増加作用の問題に対し、強い心筋収縮力増強作用とともに心拍数減少作用を有する心不全治療薬として、特定構造のクロマン誘導体の有用性の報告がある(特許文献1参照)。また、慢性心不全の治療および/または予防薬として、α−グルコシダーゼ阻害薬などの抗高血糖薬の使用(特許文献2参照)、心臓性喘息とオーバラップする左心室不全の治療薬としてのフマル酸誘導体(特許文献3参照)など、各種提案がある。
ところで、従来より、人工酸素運搬体として、代表的に、リポソーム内にヘモグロビンを封入したヘモグロビン含有リポソームが知られている。このヘモグロビン含有リポソームの平均粒子径は0.2μm程度であり、天然赤血球よりも小粒径であることから、天然赤血球では通過困難な血管の狭窄部位あるいは、末梢循環の不全状態の結果として、通常の組織末端(40mmHg)よりも酸素分圧が低くなっている低酸素部位にも酸素運搬が可能である。このため、天然赤血球の働きを代替し得る輸血用製剤であるだけでなく、脳梗塞や心筋梗塞といった虚血性疾患の病巣部位あるいは癌組織等の低酸素状態の部位への酸素運搬体としての使用が提案されている(特許文献4参照)。
特開平7−300414号公報 特開2006−131564号公報 特開2010−070563号公報 特開2009−234929号公報
血液の循環による酸素運搬能(DO)は、心拍出量(CO)と動脈血液(血漿)中の酸素含有量(CaO)の積(「DO」=「CO」×「CaO」)で与えられる。
貧血が亢進し、CaOの低下が原因でDOが低下している場合は、代償的にCOが増加してDOを保っており、輸血によりCaOを回復させれば心不全の治療となる。このような方法以外には、DOを増加させる手立てはないため、心不全によるCOの低下は、従来、COを増加させる、あるいは補うことで「治療」されてきた。CO低下の原因としては、心筋収縮能の低下(心原性)や弁膜症など心筋以外の要素の作用不全(2次性)によるものがほとんどであり、つまりCOの低下を原因療法として治療する方法としては、機械的補助循環、人工心臓、心移植が存在するが、何れも、侵襲的治療で患者への負荷も大きいこと等から、適用上の多くの制約条件が存在し、また、心移植については、ドナー不足から実施が厳しく制限され、移植できた場合も拒絶反応を抑制するため免疫抑制が欠かせない。
このため、心不全を根本治療する手段の適用は容易ではなく、安静にすることで酸素運搬能(DO)の低下の影響を相対的に軽減する、自然療法に任せられる場合も多かった。一方、より積極的な治療を行う場合には、心不全が軽度の場合は、強心剤の投与、それでも回復しない中等度から高度の場合は、前述の、機械的補助循環が適応とされてきた。特に心臓手術後の心不全は必発であるため、心不全が最も重大な予後決定因子ともなる。心不全の治療法発展の影響は大きく、心臓手術適応の判断にも影響するため、制約条件が少なく、より幅広く適用可能な、心不全の治療手段の出現が切望されていた。
本発明は、あらゆる心不全における心筋保護と個体の生命および循環維持のためのものであって、心不全の予防および/または根本的治療薬として働く循環補助薬を提供する。
本発明者は、心不全の根本治療法を見出すべく循環系の研究を広く鋭意検討する中で、酸素供給による治療を着想した。
まず、人工酸素運搬体を血液に加えることにより、血中の酸素量を増加させることが出来ると考えられることから、ヘモグロビン含有リポソームを投与した健常ラットにおいて、運動耐用能試験を実施した。その結果として、人工酸素運搬体を投与した群では、生理食塩水のみ投与した群はもとより、同ヘモグロビン量の赤血球を投与した群との比較においても、酸素摂取量(VO)は同等以上に維持されながら、心拍数(HR)の増加が少なく、VO/HRが他群に比べ高く保たれていた。すなわち、ヘモグロビン含有リポソーを用いることで、より少ない心拍数の増加で、同等の運動負荷に対する酸素運搬能(DO)の増加に対応可能であると考えられた。
このことから、心不全の病態において、ヘモグロビン含有リポソームを適用することで、DOを維持しつつ、心拍出量(CO)を低く抑え、心筋への負荷を軽減することが、心不全の治療につながるのではないかと想起した。
そこで、次に、ラットの心筋虚血、再灌流モデルにおいて、ヘモグロビン含有リポソームの効果を検討したところ、当該病態モデルのラットでは、生理食塩水や、同等のヘモグロビン量の血液を投与したラットとの比較において、HRに変化が無い状態で、CO、一回 拍出量(SV)、左室駆出率(EF)といった、心筋の活動状態を示す指標が低値を示したが、この時、VOには変化は見られないという結果を得た。すなわち、ヘモグロビン含有リポソームは、ヘモグロビン量が同等で、単位時間当りの灌流量が相対的に低い状態でも、VOを維持し得たということになる。この結果について考察し、ヘモグロビン含有リポソームが赤血球よりも小粒径であることから、末梢の微小循環系への酸素運搬を改善し、酸素拡散距離を短縮して組織への酸素供給を促進させることで、好気代謝を促進し、結果として、相対的に見て、低心拍出量の状態でも、末梢組織の酸素代謝を維持・安定化出来たものとの推論に達した。
従って、上記知見からは、従来の心拍出量(CO)に係る因子ではなく、動脈血酸素含有量(CaO)や、末梢組織における実質的な酸素供給量(DO)を高めることで、心筋への負荷を低減出来る可能性があること。すなわち、心不全患者に対し、ヘモグロビン含有リポソームを投与することにより、本来の赤血球による酸素運搬分に加え、ヘモグロビン含有リポソームの運搬する酸素量により、CaOを増加させることによるDOの上昇を図ることとともに、前述のように、赤血球よりも小粒径の酸素運搬体は末梢の微小循環系への酸素運搬を改善する効果により、末梢組織への実質的なDOをさらに高く保ち、心不全の病態下で、COに依存せずに、末梢組織の酸素代謝を維持し、その結果として、心筋への負荷を軽減することによって、心不全状態の改善とともに心筋保護が図られる。より具体的には、赤血球よりも小粒径の酸素運搬体は、以下のことが期待される、心不全治療に有効な、循環補助薬となることが想定された。
1)DOを構成する、CO以外のもうひとつの因子であるCaOを増加させることで、DOを回復させることが出来る。
2)CaOを増加させてDOを回復させれば、COは低下したままでも個体の生存が可能となり、心筋への過剰な負荷の軽減に通じる。
3)平均的なDOが回復すれば、自律的な血管抵抗の増加などの続発的な心不全症状(代償性機転によるもの)も緩和され、末梢循環の改善が期待できる。
4)小粒子であるヘモグロビン含有リポソームは、末梢組織の微小循環系への通過が容易であり、末梢組織への酸素供給を増加させ、末梢組織における実質的なDO2を改善し、心筋への負荷を低く抑えることが出来る。
上記に基づいて、微粒子の酸素運搬体の投与により心不全に起因する循環不全と心筋障害のいずれもが軽減されることを目論んで、心不全モデル動物において実験を行ったところ、後述する実施例に示すとおり循環状態が維持され(循環不全の治療)、心筋障害も軽減(心筋保護効果)されることを実証することができ、循環補助薬としての本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、赤血球よりも小粒子径の酸素運搬体を有効成分とする循環補助薬を提供する。なお、天然赤血球の粒子径は、約7〜8μmである。
本発明の酸素運搬体は、末梢循環の改善を期待する上では、具体的に、粒子径が最大でも1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以下である。ここでの粒子径は酸素運搬体個々の粒子径である。
上記酸素運搬体の平均粒径は、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは250nm以下である。
上記酸素運搬体は、人工であるか天然由来であるかは問わない。酸素運搬体は酸素運搬物質そのものであってもよく、酸素運搬物質と他の材料との複合体であってもよい。酸素運搬体が複合体である場合、上記粒子径は、複合体としての粒子径を意味する。
酸素運搬体の好ましい態様例は、リポソーム内に酸素運搬物質としてヘモグロビンを封入した複合構造のヘモグロビン含有リポソームであり、循環補助薬の好ましい態様例は当該ヘモグロビン含有リポソームを外水相(通常、生理食塩水)に懸濁した懸濁液(製剤)である。この製剤は、構成成分のリポソーム膜(リン脂質系)、ヘモグロビンおよび外水相が、本質的にすべて生体親和性あるいは、生体由来材料であり、人体への安全性が高いとともに、酸素運搬物質のヘモグロビンは、とりわけ心拍出量(CO)に依存せずに動脈血酸素含有量(CaO)の増加させる高い能力が見込まれ、また平均粒径も300nm以下の微小かつ粒子径の揃った製剤として調製可能であることなどから好ましく選択される。平均粒子径の範囲は150nm〜300nm、好ましくは200nm〜250nmである。
本発明の循環補助薬は、静注剤が好ましい。
本発明において、循環補助薬の投与量は、好ましくは投与前の赤血球による血液中の動脈血酸素含有量(CaO)以上となる量である。
上記投与量は、具体的には、1回あたり、通常、体重に対する前記酸素運搬物質として0.04〜1質量%である。この投与量は、たとえば、循環補助薬がヘモグロビン含有リポソーム製剤である場合には、体重当たり0.6質量%のヘモグロビン量(0.6g/kg-体重)の有効性はラットの実験により示唆されている。なお、体重1kgあたり0.6質量%投与では、具体的に50kg体重に対してヘモグロビン30gの投与に相当する。このようなヘモグロビン量の投与は、通常の出血などにより失われた血液を補充する、いわゆる輸血とは異なる。
一方、投与する液量は少ないほど循環血液量を増やさず、心筋(送出ポンプ)への負荷を増加させないことから、循環補助薬の全液量として1回あたりの体重に対する投与量が1%(10mL/kg-体重)以下であることが好ましい。
このため、本発明の循環補助薬は、送液に支障がなければ高濃度の酸素運搬物質を含むことが好ましい。ヘモグロビン含有リポソーム製剤は、高濃度のヘモグロビンを含有することができ、且つ、末梢組織へ効率的に酸素運搬する能力を持つことから、心不全治療に必用な酸素運搬能(DO)を確保する上での、輸液量を抑制することができる。
ヘモグロビン含有リポソームは、酸素要求量が大きい場合でも、効率的な酸素運搬が可能な特性から、全体としての輸液量を抑制することができる。
酸素運搬体は、酸素運搬効率が高く、容量の負荷を少なくしつつ、酸素供給が可能な特性を有することが好ましく、末梢組織への集中的な酸素供給には、高酸素親和性の酸素運搬体が好ましく使用できる。
本発明の循環補助薬は、心不全の発症前および/または後に投与することができ、心不全の予防および/または治療薬として働く。心不全発症前または早期に投与することが好ましい。
本発明に係る循環補助薬は、特に、虚血性心疾患に由来する心拍出量(CO)の低下に有効であろう。
本発明に係る循環補助薬は、本来の心機能が低下して心拍出量(CO)が低下した状態(心不全)に投与して、心筋を刺激してCOを増加させることなく、すなわち心筋負荷を増加させることなく、全身組織への酸素運搬量を良好に維持することを可能にする。
また、本来の心機能が低下してCOが低下した状態(心不全)のまま、単位血液中の動脈血酸素含有量(CaO)を増加させることで、酸素運搬量(VO2)を維持して、心不全状態を改善することを可能とする。
本発明の循環補助薬によれば、心不全の程度を軽減し、心不全に起因する続発的な末梢循環障害や心筋障害を抑制あるいは治癒させることができる。相当する効果および作用機序を持つ治療法と対比して、以下の優れた効果・適用(手技)の簡便さ・適応範囲の広さがある。
・「強心剤」は、その適用(手技)が本「循環補助薬」と同等に簡便であり、心不全の程度を軽減するが、続発的な末梢循環障害や心筋障害を増悪させ、不整脈も増加させるリスクも有する。
・「機械的循環補助」は本「循環補助薬」と同等に心不全の程度を軽減し、続発的な末梢循環障害や心筋障害を抑制あるいは治癒させることができるが、その適用にともなう手術、危険性、運用の維持に起因する様々な高度の制限・制約・リスクを伴う。
・本「循環補助薬」は、従来から用いられている「強心剤」の簡便性・安全性を持ちながら、「機械的循環補助」と同等の心不全治療効果を持つと言える。
心不全は循環器病の中でも最多・最悪の病態であり、性別・年齢・地域に係らず発生して、社会生活を制限し、生命予後を低下させる。従来の治療法には、症状の程度により「休養」、「強心剤」および「機械的循環補助」などがあるが、これらの治療法では当該疾患の病態に対して必ずしも十分な対応・解決ができていない。上記の各治療法それぞれに利益・不利益やコストの問題もあり、(1)「休養」、(2)「強心剤」、(3)「機械的循環補助」、(4)「人工心臓や心移植」のいずれにも適応とならない心不全疾患が多数存在する。心不全治療の対策として、適用が簡便で効果の高い新たな循環補助薬が望まれているが、その意味で本循環補助薬は、簡便な適用と高い心不全治療効果を有する新たなカテゴリーの新薬と位置付けられる。
本循環補助薬は、酸素需給バランスを改善して、心不全による致死率を抑制し、末梢循環を維持するため、心不全疾患に対する重要な治療法となる。心臓手術においても、酸素需給バランスを改善し、手術の安全性を増加させ、手術適応を拡大することにも繋がる。
即ち、本循環補助薬は、静脈内投与で適用が開始でき、循環維持と心筋保護効果が高いため、心不全の一次的病態(循環不全)のみならず続発的病態(末梢循環障害・心筋障害)をも抑制できる。また心不全の初期段階において投与することで、循環補助効果を予防的に発揮することが期待され、末梢循環不全や心筋虚血や不整脈などへの増悪を阻止し、重大かつ致命的な合併症を回避することが見込まれる。
実施例における各投与と分時酸素消費量(処置前に対する%VO)との関係を示す図である。 実施例における各投与と一回拍出量(処置前に対する%SV)との関係を示す図である。 実施例における各投与と分時心拍出量(処置前に対する%CO)との関係を示す図である。 実施例における各投与と一回心仕事量(処置前に対する%SW)との関係を示す図である。 実施例における各投与に対する心筋梗塞面積をグラフで示す図ある。
本発明に係る循環補助薬の有効成分である酸素運搬体について、完全合成(人工)の酸素運搬体としてパーフルオロカーボンが挙げられ、また、天然由来の酸素運搬物質としては、ヘモグロビン、ミオグロビンが挙げられる。人工でも天然由来であってもよいが、本発明では、生体親和性の観点からも酸素運搬能に優れた天然由来の酸素運搬物質が好ましく使用される。
複合体である酸素運搬体としては、酸素運搬物質の修飾体、酸素運搬物質の微小カプセル封入体等があり、典型的にヘモグロビン含有リポソームが挙げられる。また、例えば、HemoCD(Kano K, et al. Artificial Organs 2009;33(2):189-193)のような、ヘモグロビンに類似した酸素の着脱機能を再現可能な完全合成型の酸素運搬物質も適用可能であろう。
酸素運搬体は、酸素運搬能を有し、上記のとおり粒子径(外径)が毛細血管を閉塞させずに通過できる赤血球より小さいものであればよく特に制限されないが、以下には、本発明に係る循環補助薬を、入手容易な高性能酸素運搬体としてのヘモグロビン含有リポソームを例に挙げ、より具体的に説明する。
ヘモグロビン含有リポソームは、前述の粒子径をもつものであれば、従来数多く提案されている公知技術によるものを特に限定することなく使用することができる。リポソームに内封されるヘモグロビンは、赤血球を溶血し、膜成分を除去してストローマフリーヘモグロビンとした精製ヘモグロビンであり、通常の血液の輸血によるウィルス感染、血液型不適合などのリスクを回避することができる。
リポソーム内には、通常、濃縮ヘモグロビン溶液が封入されており、赤血球内のヘモグロビン濃度は30〜35g/dL程度であるのに対し、ヘモグロビン含有リポソーム製剤での封入されたヘモグロビンの濃度は、通常、35〜40g/dL程度であり、赤血球と同等以上の高濃度のヘモグロビンが封入されている。さらに、ヘモグロビン含有リポソーム製剤の懸濁液としての濃度を高くすることで、より小容量で、多くのヘモグロビン量を投与することが可能となる。この様に、ヘモグロビンを高濃度に含む循環補助薬は、本発明の好ましい態様である。
また、特に制限されるものではないが、高酸素親和性のヘモグロビン含有リポソーム製剤を好適な態様として挙げることができる。酸素親和性は、P50値で評価することができる。P50値は、全ヘモグロビンの50%が酸素と結合する(酸素飽和度50%)時の酸素分圧と定義され、つまりヘモグロビンの酸素親和性を表すパラメータである。
通常の輸血では、酸素運搬効率の観点から末梢組織への酸素運搬効率が求められ、このため上記P50値は、赤血球内のヘモグロビンのP50値27mmHgよりも大きい30mmHgから40mmHg程度のP50値が望まれるのに対し、本発明で使用する酸素運搬体は、末梢組織においてより集中的に酸素を投下することで、結果として酸素運搬の効率を良く出来る、酸素との親和性の強いものでもよい。具体的には、P50値が10mmHg〜20mmHg程度の低いものでもよい。たとえば、赤血球から取り出した精製ヘモグロビンを含むリポソームである場合には、イノシットヘキサリン酸などのアロステリック因子が添加されてないもののP50値は、通常10mmHg前後である。このようにP50値が低く、高酸素親和性のヘモグロビン含有リポソームも好ましく使用することができる。本発明で使用される条件下では、末梢循環の低下・不全により酸素供給が低下しているため、細胞あるいは組織は低酸素状態に近く、そこに投与される酸素運搬体は、酸素親和性が強くても酸素を放出することができると考えられるためである。
このような、精製ヘモグロビン溶液を含むヘモグロビン含有リポソームにおいて、たとえばP50値を調整するために、精製ヘモグロビン溶液のpHを、水酸化ナトリウム水溶液などで7.0〜9.0の範囲に調整することもできる。ヘモグロビン含有リポソームは、アロステリック因子として物質を含んでいてもよい。
またリポソームを形成する膜成分は、特に限定されず、生体内において安全かつ安定した酸素運搬体を提供するという観点から、天然または合成のリン脂質、他の脂質、それらの誘導体、安定化剤、酸化防止剤、荷電物質等が好適に用いられる。リン脂質およびその誘導体としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリン、および、アシル鎖の不飽和結合について一部または完全に水素添加した水素添加リン脂質などが挙げられる。中でも、リポソームの膜成分としては水素添加リン脂質が好ましい。水素添加リン脂質は、部分水素添加物であってもよい。たとえば水素添加率50%以上の卵黄または大豆由来の水素添加リン脂質が好ましい。
安定化剤は、例えば、コレステロール、コレスタノール等のステロール;グリセロール、シュクロース等の糖類が挙げられる。酸化防止剤は、例えば、トコフェロール同族体、即ち、ビタミンEが挙げられる。トコフェロールには、α、β、γおよびδの4個の異性体が存在するが、本発明にはいずれも用いることができる。荷電物質は、例えば、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ジセチルホスフェート、脂肪酸が挙げられる。
また、上記膜成分の脂質が、例えば、親水性高分子化合物で修飾されている態様も好適である。修飾に用いられる親水性高分子化合物は、酸素運搬体の構造安定を損なうものでなければ特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、プルラン、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル−無水マレイン酸交互共重合体、合成ポリアミノ酸、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナン、およびこれらの誘導体、さらにグルクロン酸、シアル酸等の水溶性多糖類が挙げられる。中でも、PEGおよびその誘導体が好ましい。PEG誘導体は、特に限定されないが、PEG鎖とジアシルグリセロールを1分子内に有する化合物であるのが好ましい。
具体的に、PEG結合リン脂質は、リン脂質の親水部(極性頭部)に、PEGを結合させた構造の分子であり、一分子中に1または2以上のPEG鎖を含有する。本発明では、リポソームが血液中においてタンパク等と結合し凝集したり、細網内皮系への取り込みにより血流中から早期に排除されたりするのは好ましくないため、これを避けるために、平均重合度で10〜200(平均分子量として500〜10000)より好ましくは40〜100の鎖長のPEGが結合したリン脂質が好ましい。
本発明では、リポソームの外表面に親水性高分子化合物を配置した形態が好ましい。中でも、リポソームの外表面をPEG等により修飾した形態が好ましい。リポソーム表面をPEG等により修飾するには、様々な手法が挙げられ特に限定されないが、PEG等をリン脂質、長鎖脂肪族アルコール、ステロール、ポリオキシプロピレンアルキル、グリセリン脂肪酸エステル等の疎水性化合物と結合させて、その疎水性化合物の部分をリポソーム表面に挿入する方法が好ましい。
本発明で用いるヘモグロビン含有リポソームは、公知の製造方法から適宜の手段を選択して、所望の粒子径および特性を調整することができる。製造方法の一例として、たとえば特開2001−348341号公報の段落0038および実施例などの記載を参照することができ、そこにある記載を引用することにより本明細書に記載されているものとすることができる。
本明細書において「心不全」とは、内因性あるいは外因性の原因により生体が必要とする心拍出量(CO)に達しない状態であり、先天性心疾患、後天性心疾患(心筋症、虚血性心疾患、弁膜症など)のどちらによるものも含む。また、心不全が急性病因(心筋梗塞、弁膜症、心臓手術後など)によるものでも、慢性病因(心筋症など)によるものも含む。
たとえば、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、心筋症(拡張型心筋症・拘束型心筋症など)および弁膜症(大動脈弁疾患・僧帽弁疾患など)などの原因でCOが低下している状態を指す。
なお、敗血症などにより血管抵抗が病的に低下した場合、COの絶対値が充分であっても循環維持に必要なCOに達しない状態も一般的には相対的な心不全と規定されるが、本明細書ではこれを本循環補助薬による治療対象としない。また、出血性ショックの際の循環血液量の減少によるCOの低下は、一般的に輸血による原因治療が第一選択であり、本明細書ではこれを本循環補助薬による治療対象としない。
心不全状態の生体臓器・心筋に対する影響は以下のとおりである。
1)心拍出量(CO)が低下しているため、末梢循環・冠循環ともに悪化している。
⇒ 臓器循環低下、冠循環低下
2)COを維持するため交感神経刺激により代償性に心筋負荷が増加している。
⇒ 体血管抵抗上昇、心筋酸素需要増加
3)更なる微小循環障害の悪化や心筋負荷の増加が、末梢および冠循環の酸素需給バランスを増悪させる。
⇒ 臓器酸素需給バランス悪化、心筋虚血増悪
4)酸素需給バランスの悪化が、更に循環障害を招き、悪循環が継続する。
⇒ 臓器障害増加、心筋障害増加
5)致命的な臓器障害や心筋梗塞・不整脈の発生
⇒ 臓器障害、心筋梗塞および不整脈
心不全の発症過程は、酸素運搬能(DO)と酸素消費量(VO)とのバランス、すなわち酸素供給と消費の過程がバランスをなすダイナミックなプロセスと考えられている。健常時は、DO>VOとなっていて余分の酸素は使用されず中心静脈血酸素飽和度は高く保たれることになる。心不全の進行とともにDOが低下し、DO=VOという関係を保ったまま絶対値が減少してゆき、臨界的DOを下回り、DO<VOとなり酸素負債の状況となると、好気的代謝が嫌気的代謝へと転換され、エネルギー代謝が立ち行かなくなる。
健常時は、血液の微小循環によって内呼吸の材料となる基質と酸素が末梢組織に供給され、細胞内のTCAサイクルでブドウ糖のような基質と酸素が燃焼(好気的酸化)したエネルギーがATPとして大量に産生・蓄積され、細胞の生命活動の維持と再生に使用される。一方、DO低下で末梢への酸素供給が減少すると、このような好気的エネルギー代謝が嫌気的代謝へ転換され、エネルギー産生が激減し、酸性代謝物が細胞内に蓄積し、代謝性アシドーシスが進行して生命維持が困難となる。
外的な要因で酸素運搬能(DO)が減少すると、それを維持するように自律神経を介した代償機転が働く。典型的には心筋虚血(心筋梗塞)による心拍出量(CO)の低下であるが、動脈血酸素含有量(CaO)を増加させる代償機転がないため、もっぱら低下したCOを復元するように交感神経刺激が活性化し、一回拍出量(SV)、心拍数(HR)を増加させてCOの低下を代償する。心筋虚血(心筋梗塞)が病因のところへ更なる交感神経刺激の活性化が起こることで心筋酸素消費量と供給量のバランスが負に傾いて心筋虚血の増悪へと繋がる。
従来、心不全に対する治療法として最も一般的で推奨されているのは、個体の酸素消費量(需要)を低減することで、需要・供給バランスを改善する「安静」である。心不全が更に増悪してくると、「強心剤」が適応となるが、これは心筋酸素消費量を増加させるため、供給量のバランスが負に傾いて更なる心筋虚血へと繋がる可能性がある。心不全が更に進行すると、機械的に心拍出量(CO)を増加させる機械的循環補助法が適応となるが、これは、外部の機械的エネルギーによって心筋への負荷を軽減しながらCOを増加させるので、理想的ではあるが、適用に様々な制約がある。
これに対し、本発明の循環補助薬が血中に存在すると、動脈血酸素含有量(CaO)を増加させるため、低下した心拍出量(CO)を増加させることなく、酸素運搬能(DO)を維持することが可能である。即ち、心不全に付随する代償機転としてのCO増加のため、心筋への更なる負荷を強いることなく、心筋そのものの酸素需給バランスや全身の酸素需給バランスを改善し、末梢循環抵抗の増加による微小循環の低下など続発的な循環障害による末梢組織への酸素供給の低下を抑制し、好気的エネルギー代謝を維持することが可能と考えられる。これは、循環不全状態下でも、赤血球が到達し難い毛細血管をも灌流することで、末梢組織への酸素供給時の酸素拡散距離を縮小し、酸素供給を促進する、好気的エネルギー代謝を維持させ、続発的な炎症や浮腫を軽減して、末梢組織の微小循環を維持・改善する。その結果、循環不全に由来する末梢循環の遮断や悪化を抑制することで、心不全の続発的影響を抑制する方向に向かうことができる。
実施例として後述する試験では、酸素運搬能を持つ微粒子の酸素運搬体(ヘモグロビン濃度6g/dL)を体重の1%程度の量比で投与するという、出血により失われた血液を補充する、いわゆる輸血とは異なる考え方を基に投与を行っている。その結果、本発明の有効成分の酸素運搬体が、心不全による循環不全〔一次的効果〕および心筋障害〔続発的効果〕をともに抑制する循環補助薬という新たな有用性を示した。
本発明の循環補助薬は、心不全に起因する臓器循環不全と心筋障害の観点から見た場合、
1)循環不全という観点では、末梢臓器と心筋障害は病態が類似している。
2)一方、ポンプたる心筋は自律神経刺激により更なる負荷の下で心拍出量(CO)を増加させるため、心臓以外の臓器還流障害と心臓の心筋障害は夫々に定義する必要があるが、
3)何れにおいても、相当する効果あるいは作用機序を持つ従来の治療法が、その治療法が本来的に有するリスク要因から、適用が制限される中で、本発明の循環補助薬は、既存治療法の問題点を解決し得る、治療効果の極めて高い治療法と言える。
4)循環補助薬の投与により、心不全症状の緩和と心筋保護効果が得られる可能性が高い、などの点から、従来では対策がない状況に適用できる、全く新たな治療法として高い医学的有用性が期待でき、臨床応用された場合の社会的および経済的影響が多大であると見込まれる。
本発明の循環補助薬を用いた心不全治療は、以下のような特徴が挙げられる。
1)循環補助薬を用いた全身臓器循環の改善と心筋保護
2)循環補助薬による単位血液量中酸素含有量の増加により、心拍出量(CO)の低下を補う
3)循環補助薬による微小循環の改善に基づく、末梢組織への酸素供給の促進と続発的循環不全の抑制、合併症の予防
4)酸素親和性を変化させた循環補助薬による酸素供給効率化・酸素供給量増加
本発明において、心不全治療薬・循環補助薬としての臨床的な適用事例としては、心不全のうち特に虚血性心疾患に由来する心不全が挙げられる。
虚血性心疾患では、ポンプ中枢として心筋酸素需給バランスが悪化しても心拍出量を確保しようとする。このため、元来血流分布が不十分な虚血性心疾患の上に、酸素需給バランスが更に悪化して、心筋梗塞や不整脈を発生しやすく、これらが重大で往々にして致命的な合併症となりえる。従来はこうした心不全への対策は限られていたが、有効成分の酸素運搬体による酸素供給は、直接的な治療法としての循環補助効果のみならず、心筋保護効果も見込まれ、臨床的有用性が極めて高い。
本発明の循環補助薬の典型例は、ヘモグロビン含有リポソームの懸濁液などの液状物であり、静注により投与することで即座に薬効が期待できる。特に心臓手術の際の心不全予防に用いられる場合には、術前から心不全が存在することを考慮し、術前に投与することが好ましい。この点において、所謂、輸血代替としての利用と大きく相違する。
また本発明の循環補助薬は、通常の輸血では期待し得ない効果を発揮する。たとえば同等量のヘモグロビンを赤血球として投与しても、心不全緩和効果も心筋保護効果も確認できていない(後述する実施例に示すとおり)。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下の実施例では、上記で想定した心不全における本発明の循環補助薬の作用を、臨床上の実際の問題点に即して心筋虚血モデルにおいて実験的に検討した。心筋虚血は心不全を招来しやすく、またポンプ中枢としての機能から、酸素供給量(DO)を維持するため、心拍出量(CO)を上げようとし、更なる負荷増の結果として、心筋の疲弊により最終的にはCOの維持が困難となり、さらに、その状態での血圧維持のために起こる末梢血管抵抗の上昇による、続発的な全身的な血行障害をも招来しやすく、心不全の悪化、心筋虚血範囲・病態の悪化、不整脈などと進展し、致命的な合併症・障害(=心筋梗塞)に至る実験モデルとして適当である。このような心不全(=CO低下)と心筋保護が最も重大な予後決定因子となるモデルとしての左前下行枝閉塞・再還流実験において、循環血液中の酸素運搬体の存在の有効性を比較検討した。
(実施例1)
<概要>
ラット左前下行枝閉塞・再還流実験モデルにおいて、酸素運搬体のうち、1)高酸素親和性ヘモグロビン含有リポソーム(h-LEH)および2)低酸素親和性ヘモグロビン含有リポソーム(l-LEH)、3)ラット同種血、4)生理食塩水、の各投与群に対して、左前下行枝閉塞前に体重の1%量をそれぞれ静脈内投与したのち、左前下行枝を40分間閉塞後、40分再還流した。この間、呼気分析により酸素消費量(VO),二酸化炭素発生量(VCO)をモニターしつつ、圧容積関係を解析して心機能の推移を比較した。また、組織学的な検索にて心筋梗塞の範囲・程度を比較検討した。
(1)前処置・インスツルメンテーション
SDラットを2%エトレン麻酔下に経口挿管し、呼気分析器に接続して呼気ガスをモニターした。頚静脈に中心静脈ルートを取ったのち、左開胸して、左前下行枝の周囲に閉塞用のループを設けた。心尖からコンダクタンスカテーテルおよび圧カテーテルを挿入して左室の圧容積関係をモニターした。左前下行枝閉塞前に体重の1%量をそれぞれ静脈内投与したのち、左前下行枝を40分間閉塞後、40分再還流した。この間、呼気分析により酸素消費量(VO),二酸化炭素発生量(VCO)をモニターしつつ、圧容積関係を解析して心機能の推移を比較した。また、組織学的な検索で心筋梗塞の範囲・程度を比較検討した。
左前下行枝閉塞・再還流実験モデルにおいて、左前下行枝閉塞前に、下記1)〜4)を体重の1%〔10mL/kg〕量を静脈内投与した(各群10匹)。
1)高親和性ヘモグロビン含有リポソーム:h-LEH(ヘモグロビン濃度6g/dL、リポソーム平均粒径250nm、P50=10mmHg)
2)低親和性ヘモグロビン含有リポソーム:l-LEH(ヘモグロビン濃度6g/dL、リポソーム平均粒径250nm、P50=40mmHg)
3)同種洗浄赤血球液:TX 同腹のラットからヘパリン採血し、血漿や白血球成分を生理食塩水で洗浄、遠心を繰り返して除去した後、ヘマトクリット20%に調整した。
4)生理食塩水:SL
(2)左前下行枝閉塞・再還流
前処置したSDラットにおいて左前下行枝を閉塞し、40分後に再還流した後、さらに40分間血行動態をモニターした。この間、呼気分析により酸素消費量(VO),二酸化炭素発生量(VCO)を連続記録しつつ、圧容積関係を間歇的に計測解析して心機能の推移を比較した。
この後、採血して実験を終了し、心臓を2,3,5-Triphenyltetrazolium Chloride(TTC)液で染め、心筋の短軸割面(上部:左前下行枝閉塞部より心尖方向へ1mm、中部:同3mm=乳頭筋付着部位、下部:同5mm)において梗塞範囲を面積測定した。さらに、4%パラホルムアルデヒドで固定して組織学的に検討した。をミオグロビン染色し、ABC免疫染色の後、梗塞組織の詳細な病理組織学的観察を行なった。
%VO(分時酸素消費量、処置前(IV)の計測値を100%とした):
左前下行枝の閉塞・再還流や前投与薬剤に無関係にほぼ一定に保たれた(図1)。
%SV(一回拍出量、処置前(IV)の計測値を100%とした):
全群、左前下行枝の閉塞後1分(MI−1)もしくは10分(MI−10)までの間で低下した後、生理食塩水群(Saline)のみが経時的に上昇する傾向を示し、他群は低下後、ほぼ一定値を示したが、その中でh-LEHは低値傾向が認められ、再還流20分(RP−20)および再還流40分(RP−40)で生理食塩水群との間に有意な差を認めた(P<0.05)(図2)。
%CO(分時心拍出量、処置前(IV)の計測値を100%とした):
全群、左前下行枝の閉塞後から40分(MI−40)までの間で低下した後、再還流後に生理食塩水群は回復基調にあるのに対し、他群は、漸増もしくは、横ばいとなった。その結果、h-LEH群では、再還流20分(RP−20)および再還流40分(RP−40)で両群間の差は有意となった(P<0.05)(図3)。
%SW(一回心仕事量、処置前(IV)の計測値を100%とした):
全群、左前下行枝の閉塞後1分(MI−1)ないしは10分(MI−10)までの間にて低下した後、生理食塩水群は再還流後に著明な回復傾向を示し、赤血球群(RBC)でも、還流後に上昇する傾向を認めたのに対し、両LEH群では、一旦低下した後、漸増する傾向にあった。各群の中では、h−LEH群が最も低値となり、再還流20分(RP−20)および再還流40分(RP−40)での差は有意となった(P<0.05)(図4)。
心筋梗塞面積(白棒:中部、黒棒:下部、灰:中部+下部):
LEH投与群で中部(乳頭筋付着部位)および下部〔心尖より2mm〕心筋の梗塞面積が抑制されており、中部+下部の合計面積でLEH投与群とそれ以外の洗浄赤血球投与群(RBC)、生理食塩水群(Saline)で有意差が見られた(図5、表1)。
LEH投与群はその酸素親和性に係らず、洗浄赤血球投与群、生理食塩水群に比較して、心筋の梗塞面積が抑制されていた。洗浄赤血球投与群と生理食塩水群との間には有意差は見られなかった。
組織像においては、酸素運搬体を投与したラットのみにおいて縫合部・周辺の炎症像が抑制されており、梗塞範囲が抑制されていた。
酸素運搬体の前投与は左前下行枝の閉塞による虚血40分と再還流40分間にわたって、心拍出量(CO)心筋仕事量(SW)などで現される心筋負荷の指標を押しなべて軽減した。その結果として、心筋梗塞範囲を有意に抑制した。これは、生理食塩水を投与したラットにおいては見られないことから、酸素運搬体の酸素運搬能に由来するものと考えられた。また、同種洗浄赤血球投与を行ったラットにおいても食塩水と同様にこうした効果が見られないことから、単にヘモグロビン投与の影響でもないことも明らかであった。今回、酸素運搬体の酸素親和性の相違による血行動態の差はあるものの、有意差には至らず、組織学的な梗塞範囲にも差は見られなかった。このことから、LEHの酸素親和性は、P50値が10mmHgから45mmHgの間にあれば、心筋虚血・再還流モデルにおいて優れた循環補助薬の効果と心筋保護効果を示し、赤血球や生理食塩水とは明らかに異なる優れた心不全治療効果を持つことが示された。
また、同じく酸素運搬能を有する赤血球を投与した場合と、LEHは、明らかに異なる結果を示していることから、小粒子であるLEHの末梢循環における特性が寄与していると考えられた。
実験的に用いたモデルでも明らかなように、心不全における循環維持と心筋保護はその治療上、最大の課題であり、心不全疾患の予後や心臓手術の成否を規定することにもつながる。こうした心不全において、酸素運搬体は、「強心剤」の簡便さと「機械的循環補助」の強力な効果を併せ持つ、新規の治療法として非常に幅の広い適応を有するものと見込まれる。酸素運搬体による循環維持と心筋保護は、従来型の治療法では不可能であったことを可能にし、心不全対策の新たな治療体系をなすものと見込まれる。
本発明の循環補助薬は、動脈血酸素含有量(CaO)を高めて酸素運搬能を維持できるため、以下のとおり、心不全治療として有効である。
1)心拍出量(CO)が低いままなので、心負荷を増大させず、心筋保護に働く。
2)静脈内投与で治療開始できるため、「強心剤」と同様に適用開始が簡易である。
3)心筋保護+循環維持作用があるため、「強心剤」より安全性が高い。
4)ヘモグロビン含有リポソーム製剤の場合には、血中半減期が赤血球に比較し短いため、適用終了後、長期間影響が残る事は無い。
5)血管アクセス、体外循環がないため抗凝固の必要がない。
6)軽症から重篤な心不全疾患に対して幅広い適応がある。
7)他の心不全治療法との併用による相乗効果も見込める。
以上より、広く心不全疾患に適用できる、全く新しい独立した、直接的な循環補助薬として医学的有用性が高く期待でき、臨床応用された場合の社会的および経済的影響が多大であると見込まれる。

Claims (9)

  1. 赤血球よりも小粒子径の酸素運搬体を有効成分とする循環補助薬。
  2. 前記酸素運搬体の最大粒子径が1μm以下である請求項1に記載の循環補助薬。
  3. 前記酸素運搬体が、人工および/または天然由来である請求項1または2に記載の循環補助薬。
  4. ヘモグロビン含有リポソーム製剤である請求項1ないし3のいずれかに記載の循環補助薬。
  5. 酸素運搬体の平均粒径が300nm以下である請求項1ないし4のいずれかに記載の循環補助薬。
  6. 静注剤である請求項1ないし5のいずれかに記載の循環補助薬。
  7. 投与量が、1回あたり、体重に対する前記酸素運搬体中の酸素運搬物質として0.04〜1質量%である請求項1〜6のいずれかに記載の循環補助薬。
  8. 前記投与量が、1回あたり、前記循環補助薬の全液量として10mL/kg-体重以下である請求項7に記載の循環補助薬。
  9. 心不全の発症前および/または後に投与する心不全の予防および/または治療薬である請求項1〜8のいずれかにの循環補助薬。
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