JP2013032991A - 金属材料の残留応力測定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】比較的大きな試料であっても、その試料全域において、金属組織レベルで金属材料の残留応力分布を、簡易的に、精度よく測定する方法を提供する。
【解決手段】金属材料の後方散乱電子回折像から結晶方位分布を取得するステップS1と、結晶方位分布から隣接格子点間の格子ひずみを算出するステップS2と、結晶方位分布における方位差で示す転位密度から塑性ひずみを算出するステップS3と、格子ひずみと塑性ひずみの差分から弾性ひずみを算出するステップS4と、金属材料に所定の荷重を負荷して塑性変形させた後、塑性変形後の金属材料について、再度ステップS1〜ステップS4を実行し、かつ、塑性変形後の金属材料表面の座標変位を測定するステップS5と、座標変位から塑性変形前後の座標を対応させて、塑性変形前の残留応力成分と塑性変形後の残留応力成分との差分を求めるステップS6とにより金属材料の残留応力を測定する。
【選択図】図1
【解決手段】金属材料の後方散乱電子回折像から結晶方位分布を取得するステップS1と、結晶方位分布から隣接格子点間の格子ひずみを算出するステップS2と、結晶方位分布における方位差で示す転位密度から塑性ひずみを算出するステップS3と、格子ひずみと塑性ひずみの差分から弾性ひずみを算出するステップS4と、金属材料に所定の荷重を負荷して塑性変形させた後、塑性変形後の金属材料について、再度ステップS1〜ステップS4を実行し、かつ、塑性変形後の金属材料表面の座標変位を測定するステップS5と、座標変位から塑性変形前後の座標を対応させて、塑性変形前の残留応力成分と塑性変形後の残留応力成分との差分を求めるステップS6とにより金属材料の残留応力を測定する。
【選択図】図1
Description
本発明は、金属材料の残留応力測定方法に関するものである。特に、本発明は、金属組織レベルでの金属材料の残留応力測定方法に関する。
金属材料に残留した局所的なひずみや応力は、金属材料のマクロ特性に影響を及ぼす。例えば、鋼板に荷重が加えられたときに発生する破壊起点、即ち、微小き裂は、金属組織レベルでの局所的な応力集中により発生する。
また、冷間圧延等で塑性変形した金属材料の再結晶において、再結晶率は、ひずみと塑性変形後の金属材料の温度により決まるとされている。
金属材料の再結晶においては、微視的には、結晶粒内での転位セル形成や、せん断帯等のひずみ集中部で再結晶粒が発生する。そのため、金属組織、結晶粒程度の微視的なレベルでの不均一変形挙動を、定量的に把握するための測定技術が求められている。
非特許文献1には、結晶方位の角度差(ミスオリエンテーション)を測定することが提案されている。しかしながら、測定された方位差からひずみを求めるまでには至っていない。
従来技術においては、結晶格子ひずみを弾性ひずみと仮定して残留応力を測定している方法がある。このような仮定をしている測定方法としては、X線回折法を利用する方法が一般的に知られている。
しかしながら、X線回折法を利用する方法は、X線のビーム径の範囲内での平均的な残留応力を評価しているにすぎない。
また、X線ビーム径の範囲は、残留応力を測定することができる最も小さい領域である。即ち、X線回折法を利用する方法では、金属組織レベルでの微視的な残留応力測定はできない。X線は、収束させたビーム径であっても十μm程度であるため、金属組織内のひずみ分布を測定するにあたって十分な空間分解能を有していないからである。
したがって、X線回折法を利用する方法は、金属組織内や結晶粒内における残留応力の測定には適しない。
メソスケールにより、X線で弾性格子ひずみを測定する方法も、微視的スケールに適さない。メソスケールもX線を利用するからである。また、メソスケールでは、弾性ひずみと塑性ひずみを分離することは不可能である。
金属組織レベルの微視的な領域での残留応力測定方法としては、TEM膜を作成する方法がある。この方法は、TEM膜のディフラクションパターンから格子ひずみを測定した後、この格子ひずみを弾性論にしたがって処理し、残留応力を算出するものである。
しかしながら、この方法は、金属組織レベルでの微視的な領域においても、残留応力測定が精度よく行えるものの、測定範囲がTEM膜を作成できる大きさに制限される。加えて、観察試料作成に多大の手間を要する。
この他に、金属組織レベルでの微視的な領域で残留応力を測定する方法として、前すべり面上における透過電子像の転位長さを測定する方法がある。この方法は、測定された転位長さから転位密度を求め、その転位密度から残留応力を算出するものである。しかしながら、転位密度を求めるには多大な手間を要する。
また、ひずみが標点間で生じた変位量であることに着目した、非特許文献2に提案される方法がある。非特許文献2に提案される方法は、試験片の表面にランダムなパターンを転写して要素を定義し、変形前と変形後での要素の変形を測定する方法である。即ち、非引用文献2に提案される方法は、変形前と変形後における要素の変形量を画像処理してひずみを測定し、このひずみから残留応力を算出するものである。
この方法は、試験片の全領域において、ひずみがどこに集中するかを測定できるため、メソスケールでの測定を非常に簡易的に行うことが出来る。しかしながら、この方法は、転写するパターンを点としたときには、その点のサイズよりも小さい領域の変形量を測定することはできない。転写するパターンをグリッドとしたときには、グリッドの幅よりも小さい領域での変形量を測定することはできない。例えば、数μmの析出物を析出させた金属組織では、析出物周辺のひずみ勾配等を測定することはできない。
非特許文献3には、変形特性が異なる固体間について、連続体における力学計算を適用し、残留応力を求める方法が提案されている。しかしながら、回転楕円体以外の形状に、連続体における力学計算を適用することはできない。
非特許文献4には、金属組織を有限要素法でモデル化し、そのモデルにおける要素の変形状態を計算する、結晶塑性論を利用した残留応力算出方法が提案されている。しかしながら、この方法においては、金属材料の塑性変形モデル、即ち、材料構成則及び硬化則の反映や、材料パラメータの設定が非常に困難である。
非特許文献5には、金属材料に電子線を照射したときに得られる菊池線から格子ひずみを求める方法が提案されている。この方法は、走査型電子顕微鏡(SEM)に設置できる大きさの試料であれば、その試料全域で、金属組織レベルでの残留応力分布を測定することができる。
しかしながら、菊池線は、金属材料に照射する電子線の強度等によって、求める格子ひずみの誤差が大きいため、精度よく測定できる残留応力の範囲が限られているという問題がある。また、格子ひずみの弾性成分と塑性成分とを分離することも、残留応力の測定精度を低下させている原因のひとつである。
日本機械学会論文集A編71巻712号、2005年12月25日発行、p1722−1728。
釜谷昌幸、電子後方散乱回折(EBSP)による結晶方位差分布の測定、INSSJ、Vol.14 Page253−265(2007)。
マイクロメカニクス、培風館(1972)。
高橋寛、多結晶塑性論、アグネ社。
Material Science and Technology,vol.22,No.11,p1271−1278(2006)。
本発明は、上記の実情に鑑み、比較的大きな試料であっても、その試料全域において、金属組織レベルで鋼板の残留応力分布を、簡易的に、精度よく測定する方法を提供することを目的とする。
本発明者は、比較的大きな試料全域で、金属組織レベルで残留応力を測定する方法について鋭意検討した。その結果、本発明者らは、格子ひずみを鋼板の後方散乱電子回折像そのものから求めるのではなく、後方散乱電子回折像から取得した結晶格子分布から隣接格子点間の格子ひずみを算出することで、精度よく格子ひずみを求めることができることを知見した。
そして、本発明者らは、後方散乱電子回折像から得た転位密度から塑性ひずみを求め、この塑性ひずみと格子ひずみから、結晶内でのひずみを、弾性ひずみと塑性ひずみとに分離できることを知見した。
さらに、本発明者らは、これらの弾性ひずみと塑性ひずみとを、金属材料の塑性変形前後で算出することにより、金属材料の残留応力を求めることができることを併せて知見した。
本発明は、上記の知見に基づきなされたもので、その要旨は次のとおりである。
(1)金属材料の後方散乱電子回折像から結晶方位分布を取得するステップS1と、
前記結晶方位分布から隣接格子点間の格子ひずみを算出するステップS2と、
前記結晶方位分布における方位差で示す転位密度から塑性ひずみを算出するステップS3と、
前記格子ひずみと前記塑性ひずみの差分から弾性ひずみを算出するステップS4と、
前記金属材料に所定の荷重を負荷して塑性変形させた後、塑性変形後の金属材料について、再度ステップS1〜ステップS4を実行し、かつ、塑性変形後の金属材料表面の座標変位を測定するステップS5と、
前記座標変位から塑性変形前後の座標を対応させて、塑性変形前の残留応力成分と塑性変形後の残留応力成との差分を求めるステップS6と、
を有することを特徴とする金属材料の残留応力測定方法。
前記結晶方位分布から隣接格子点間の格子ひずみを算出するステップS2と、
前記結晶方位分布における方位差で示す転位密度から塑性ひずみを算出するステップS3と、
前記格子ひずみと前記塑性ひずみの差分から弾性ひずみを算出するステップS4と、
前記金属材料に所定の荷重を負荷して塑性変形させた後、塑性変形後の金属材料について、再度ステップS1〜ステップS4を実行し、かつ、塑性変形後の金属材料表面の座標変位を測定するステップS5と、
前記座標変位から塑性変形前後の座標を対応させて、塑性変形前の残留応力成分と塑性変形後の残留応力成との差分を求めるステップS6と、
を有することを特徴とする金属材料の残留応力測定方法。
(2)前記金属材料に、さらに荷重を加えて塑性変形させ、ステップS5及びステップS6を繰り返すことを特徴とする上記(1)に記載の金属材料の残留応力測定方法。
(3)前記弾性ひずみを弾性ひずみ定数(弾性コンプライアンス)により算出することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の金属材料の残留応力測定方法。
本発明によれば、格子ひずみ、弾性ひずみ、及び塑性ひずみを、金属材料の後方散乱電子回折像と、後方散乱電子回折像から得られる結晶方位分布とから、金属組織レベルで求めるため、特殊な試料を調整することなく、簡易的に、精度よく、金属組織レベルでの残留応力を測定することができる。
本発明を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の金属材料の残留応力測定方法の手順を示す図である。以下、ステップごとに説明する。
(ステップS1)
金属材料に電子線を照射し、後方散乱電子回折像(EBSP)から結晶方位分布を取得する。結晶方位分布は、任意の測定間隔ごとに測定された点群データで、Euler角で表示されている。
金属材料に電子線を照射し、後方散乱電子回折像(EBSP)から結晶方位分布を取得する。結晶方位分布は、任意の測定間隔ごとに測定された点群データで、Euler角で表示されている。
本発明においては、金属組織レベルでの残留応力測定を行うため、点群データの間隔は、可能な限り小さくすることが必要である。したがって、使用する電子線の加速電圧は10〜30kVの範囲とすることが好ましい。
後方散乱電子回折像を利用する場合における分解能は、加速電圧が30kVでは150nm、10kVでは50nmである。よって、分解能としては十分である。一般的な金属組織の結晶粒のサイズは数μm以上であるためである。
また、後方散乱電子回折像を利用した場合には、金属組織中の析出物周りのひずみ分布測定として、50nmまでの析出物サイズまでの測定が可能である。したがって、点群データは、Euler角で表される電子線の後方散乱電子像から求められたものが好ましい。
(ステップS2−1、ステップS2−2)
ステップS2は、ステップS1で取得した結晶方位分布から格子ひずみを算出するステップであり、ステップS2−1、ステップS2−2を有する。
ステップS2は、ステップS1で取得した結晶方位分布から格子ひずみを算出するステップであり、ステップS2−1、ステップS2−2を有する。
ステップS1で取得した結晶方位分布は、Euler角で、Bungeの表記により、(φ1、Φ、φ2)と表される。この(φ1、Φ、φ2)は、全体座標系での表記である。格子ひずみを算出するためには、全体座標系での表記を、結晶格子座標系へ変換することが好ましい。そこで、ステップS2−1では、(1)式を用いて、この変換を行う。
一般的に、金属は、金属組織内にひずみを有している。したがって、隣接する結晶格子点間において結晶方位が一致しない。そして、結晶の連続性より、隣接する結晶格子点間で、結晶が回転することを補うように、格子ひずみが発生する。
隣接する結晶格子点間の格子ひずみは、結晶方位分布の情報、即ち、Euler角で表された結晶方位の分布の情報さから算出することができる。
この格子ひずみを求める方法は、菊池線から直接格子ひずみを求める場合と違って、菊池線のずれを画像処理で修正する必要はない。
図2は、隣接する結晶格子の格子像を示す模式図である。図2(a)は、図2(a)中の結晶方位測定点A及びBから描いた格子像の模式図である。図2(b)は、結晶の連続性を考慮して描いた格子像の模式図である。
図2(a)から明らかなように、結晶の連続性を考えない場合、格子間の接触面にずれが生じる格子像となる。
一方、図2(b)から明らかなように、結晶の連続性を考慮することで、格子点間のずれを補う格子ひずみが、各格子点間において受け持たれる。なお、この格子間のひずみは図2(b)中に記載した式のように弾性成分εelasticと塑性成分εplasticの和である。
実格子においては、図2(b)のように、格子座標において、ひずみ勾配を生じており、ある曲率をもった格子が配列している。このような格子ひずみは、TEM観察等のディフラクションパターンから直接測定される。したがって、ごく微小領域でしか格子ひずみを測定することはできなかった。
そこで、本発明は、結晶方位分布から格子ひずみを算出し、比較的広い領域での格子ひずみ分布を得ることができる。ここで、比較的広い領域とは、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察できる領域のことをいう。後方散乱電子回折像は、走査型電子顕微鏡(SEM)に付随した装置で取得されるからである。
結晶の連続性を考慮して格子ひずみを算出するには、まず、結晶方位測定点A及び結晶方位測定点Bの境界において、それぞれの格子が受け持つ変位量を求める必要がある。被測定試験片に固溶元素が固溶している場合には、局所的な弾性ひずみが発生しており、弾性係数がわずかに異なる。しかしながら、後方散乱電子回折像から取得した結晶方位の間隔は、最大でも150nmである。一方、鉄の結晶格子の間隔は0.2867nmであるため、固溶原子の影響は、各結晶格子で均一とみなせる。
したがって、結晶方位測定点A及び結晶方位測定点Bの両方で結晶構造が同じ場合、力学特性はほぼ同値である。即ち、両格子に作用する力が等しくなるためには、結晶方位測定点Aと結晶方位測定点Bとの間の結晶方位は、両測定位置の平均方位となる。この場合、各格子に発生する格子ひずみは、(2−1)式〜(2−3)式で示される。ステップS2−2では、これらの(2−1)式〜(2−3)式を用いて格子ひずみを算出する。
(2−1)式及び(2−2)式中の右辺のRijは、(1)式の3×3行列のij成分を表わしており、上付きの添え字AあるいはBは対象とする結晶方位測定点を示す。また、結晶方位を四角形格子状に測定した場合、それぞれの測定点の結晶方位を持つ領域は、測定点間隔dの立方体となる。このような立方体内部のひずみは、格子の節点変位と形状関数から求められる。まず、結晶方位測定点Aの格子ひずみを算出する場合、例えば、(111)の位置の節点変位は(2−2)式となる。なお、(2−2)式の左辺のdui A1の上付き添え字A1は、結晶方位測定点Aにおける(111)である節点1の変位であることを示す。下付き添え字のiは全体座標系における方向を示す。iが1、2、3であるときは、直交座標系の基底(001)、(010)、(001)を示す。結晶方位測定点Aの8つの各節点の1の方向の変位が求められれば、結晶方位測定点Aまわりの各節点に囲まれる立方体領域内部の変位は(2−3)式より与えられる。iが2の方向、3の方向も同様にして求められ、さらに(2−4)式の変位勾配を求めれば、格子ひずみが算出される。
(ステップS3−1、ステップS3−2)
ステップS3は、ステップS1で取得した結晶方位分布において、その方位差で表された転位密度から、塑性ひずみを算出するステップであり、ステップS3−1、ステップS3−2を有する。
ステップS3は、ステップS1で取得した結晶方位分布において、その方位差で表された転位密度から、塑性ひずみを算出するステップであり、ステップS3−1、ステップS3−2を有する。
ステップS2−1、ステップS2−2で算出した格子ひずみは、弾性ひずみと塑性ひずみの合計である全ひずみである。
金属材料の残留応力を考える場合、弾性ひずみと塑性ひずみを分けて考える。したがって、応力−ひずみ線図を用いて、弾性ひずみと塑性ひずみを求めることが一般的に行われている。
しかしながら、応力−ひずみ線図を用いる方法は、応力−ひずみ線図を得るために、実際に金属材料を破壊試験する必要がある。また、応力−ひずみ線図からは、破壊試験の試験片断面全体の巨視的な降伏挙動しか把握することができない。したがって、応力−ひずみ線図を用いる方法は、本発明のような金属組織レベルでの残留応力を測定する場合には適さない。
金属組織レベルでの微視的な塑性変形は、転位によって発生する。図3は、2つの結晶方位を有する結晶格子像において、結晶方位測定点間で幾何学的に存在する転位を示す模式図である。
図3に示したような曲率をもった2つの結晶方位は、幾何学的に導入される転位量と塑性変形勾配との間に成立する(3)式の関係で表示できる。
(3)式における曲率κijは、結晶方位分布における隣接格子点間での結晶方位差ωで表される。ステップS3−1においては、この(3)式を用いて、ステップS1で取得した結晶方位分布から転位密度分布を求める。
ここでκijのうち、z方向を含む成分は、z方向の結晶方位分布を必要とする。したがって、z方向の結晶方位分布を予め測定しておくことが好ましい。例えば、FIB法により被測定試験片の測定領域をz方向に削り出すことで、z方向の結晶方位差を測定することができる。
しかしながら、FIB法では削り出す試料の領域に限りがある。また、κijはj方向でのi軸の回転であるので、z方向の削り出す厚さに対して精度を要する。そして、より微視的に測定を行う場合には、減厚量を結晶方位の測定間隔と同程度にする必要がある。このためFIB法等でのz方向の結晶方位分布の取得には工数を要する。したがって、本発明のように、後方散乱電子回折像から結晶方位分布を取得することは有効である。
z方向の結晶回転を求めるには、ステップS2−1、ステップS2−2で求められる結晶面の回転量を用いればよい。ステップS2−1、ステップS2−2においては、各結晶方位測定点の周りを、同じ大きさの8節点要素として格子ひずみを算出するからである。そして、+z方向と−z方向とで異なる結晶面となるからである。
また、ステップS3−2において、転位量と塑性ひずみ勾配との関係である(4−1)式及び(4−2)式と、上記の(3)式で求められた結晶方位差とから、塑性ひずみ勾配との関係が求められる。なお、(4−1)式及び(4−2)式中の∈ijkはパーミュテーションテンソルと呼ばれ、∈123=∈231=∈312=1、∈132=∈213=∈321=−1である。そして、(5)式により、偏微分方程式を解くことで、塑性ひずみが求められる。なお、(4−1)式及び(4−2)式のβijは塑性ひずみのij成分を示している。
(ステップS4)
ステップS2−1、ステップS2−2で算出した格子ひずみは、弾性ひずみと塑性ひずみとが合算された全ひずみである。そこで、格子ひずみと、ステップS3−1、ステップ3−2で算出した塑性ひずみの差分から弾性ひずみを算出する。この差分は、(6)式で算出される。
ステップS2−1、ステップS2−2で算出した格子ひずみは、弾性ひずみと塑性ひずみとが合算された全ひずみである。そこで、格子ひずみと、ステップS3−1、ステップ3−2で算出した塑性ひずみの差分から弾性ひずみを算出する。この差分は、(6)式で算出される。
これまでに述べたステップS1〜ステップS4を、金属材料に荷重を加えない状態で行う。
(ステップS5)
次に、金属材料に所定の荷重を負荷し、金属材料に所定の塑性変形を加えた後に、再度ステップS1〜ステップS4を実行する。
次に、金属材料に所定の荷重を負荷し、金属材料に所定の塑性変形を加えた後に、再度ステップS1〜ステップS4を実行する。
図4は、金属材料に荷重を加えたときの塑性変形を受けた金属組織を示す模式図である。被測定領域が外力により塑性変形を受けた場合、試験片全体で形状変化を生ずる。この際に、従来技術で行われているようなイメージ相関によるひずみ測定方法では、図4中の要素で区切った領域で、その要素の変位量からひずみ成分を求めることができる。
しかしながら、その要素内において、局所的に曲率を持った結晶格子があると、結晶方位測定点間の結晶方位差は変化する。そこで、外力により塑性変形を受ける前と受けた後で、ステップS1〜ステップS4の方法でひずみ測定する。
また、金属材料に荷重を負荷すると、金属材料の塑性変形によって、当該金属材料表面の座標が変化する。そこで、荷重負荷の前後で座標位置を対応させることができるように、荷重負荷後の座標変位を測定する。座標位置の変化は、巨視的に判別できればよいので、例えば、従来から画像処理による方法等を適用することができる。
(ステップS6)
塑性変形前後においてステップS1〜ステップS4の方法で測定されたひずみは、ステップS5で測定した座標変位により、塑性変形前後で相対的に一致する座標位置において比較し、外力により微視的に発生したひずみ成分が求められる。また、変形前後での弾性ひずみを比較することで、塑性変形に伴って金属組織内で発生した残留応力を微視的に測定することが可能となる。
塑性変形前後においてステップS1〜ステップS4の方法で測定されたひずみは、ステップS5で測定した座標変位により、塑性変形前後で相対的に一致する座標位置において比較し、外力により微視的に発生したひずみ成分が求められる。また、変形前後での弾性ひずみを比較することで、塑性変形に伴って金属組織内で発生した残留応力を微視的に測定することが可能となる。
具体的には、塑性変形前の残留応力成分σij R0と塑性変形後の残留応力成分σij R1の差分により求められる。ここで、上添え字のR0及びR1は、それぞれ、塑性変形前と塑性変形後を示す。下添え字のijは応力成分を示す。また、差分は、σij R1−σij R0で求められ、正の値のときは引張残留応力、負の値のときは圧縮残留応力を示すものとする。なお、弾性ひずみ成分から残留応力成分の算出は、次に説明するステップS50で行う。
(ステップS50)
上記の差分を求める際、結晶方位分布の各測定点により結晶方位が異なるのを是正するため、座標変換を行ってもよい。座標変換方法に特に制限はないが、弾性ひずみ定数(弾性コンプライアンス)を用いる場合には、(7)式に示す、格子座標系の弾性ひずみと全体座標系における弾性応力の関係式を使用する。
上記の差分を求める際、結晶方位分布の各測定点により結晶方位が異なるのを是正するため、座標変換を行ってもよい。座標変換方法に特に制限はないが、弾性ひずみ定数(弾性コンプライアンス)を用いる場合には、(7)式に示す、格子座標系の弾性ひずみと全体座標系における弾性応力の関係式を使用する。
なお、(7)式中のCijkl Latticeは各格子の弾性コンプライアンスを表し、Pは8節点立方体要素の形状関数を表す。
bcc結晶の場合C1111=C2222=C3333、C1122=C2233=C3311、C1212=C2323=C3131となり、独立の3成分を求めておく必要がある。
本発明は、金属材料に電子線を照射して後方散乱電子回折像を取得できる金属組織を有する金属材料であれば適用することができる。特に、塑性ひずみを転位密度から容易に求めることができるbcc結晶構造を有する金属材料に好適である。
bcc結晶構造以外の金属材料の結晶構造としては、面心立方格子fccや最密六方格子hcpが挙げられる。hcp結晶構造、あるいは、fcc結晶構造を有する金属材料では、積層欠陥に代表される面欠陥が存在する。したがって、面欠陥がどの程度拡張しているかを定義できる場合に、ステップS3−1における転位密度テンソルを求めることができる。したがって、本発明は、bcc結晶構造を有する金属材料に好適である。なお、bcc結晶構造においても、積層欠陥は、存在が確認されているものの、その拡張幅は測定間隔に対して十分に小さいため、転位のほとんどを通常転位として取り扱うことが可能である。
(ステップS7)
外力により塑性変形を加える必要が、これ以上ないと判断した場合には、ステップS8で算出した差分、即ち、塑性ひずみ分と弾性ひずみ分とに分離された残留応力を表示する。
外力により塑性変形を加える必要が、これ以上ないと判断した場合には、ステップS8で算出した差分、即ち、塑性ひずみ分と弾性ひずみ分とに分離された残留応力を表示する。
これまでに述べた、図1に示した本発明の残留応力測定方法の手順は、コンピュータにより処理することができる。
本発明を実施例でさらに説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
質量%で、Cが0.001%、Crが16.4%、Niが0.1%、Pが0.03%、Sが0.006%、Tiが0.1%、残部鉄及び不可避的不純物からなる、フェライト単相組織を有するステンレス鋼板を準備した。なお、このステンレス鋼板は、bccの結晶構造を有する。
このステンレス鋼板は、転炉で溶製し、連続鋳造後、粗圧延及び仕上げ圧延を施し、板厚を1.5mmの熱延板とした後、この熱延板を1300℃で72時間保持し、結晶粒径を4mm程度まで成長させたものである。
このようにして得られた熱延板の熱処理材の一部を、長さ16mm、幅30mm、厚さ1.9mmの形状に加工し、インストロン社の引張試験機を用いて、真ひずみで5%、10%まで単純せん断試験を行った。
単純せん断変形を与える前、予め試験片表面を5vol.%過塩素酸エタノールにて電解研磨を施し、表面ひずみを除去し、後方散乱電子回折像(EBSP)から試験片表面の結晶方位分布を取得した。点群間隔は25μm間隔とした。試験片の結晶平均粒径は3mm程度であるため、結晶粒内のひずみを測定するのに十分な結晶方位分布を得られるからである。
試験片に荷重を加えた後も、同様に結晶方位分布を取得した。荷重は、試験片のz方向両側をチャックで固定し、0.02秒−1の速度で加えた。したがって、試験片は、単純せん断変形した。
図5は、単純せん断変形後における変形部の格子ひずみを示す図である。図5は、本発明のステップS2−1、ステップS2−2を実行した結果である。なお、図5中の実線は結晶粒界を示し、色分けは、図5の右側にある凡例にしたがって、格子ひずみ量を表す。
図5から明らかなように、結晶粒ごとにひずみ量が異なり、例えば、図5中の結晶粒Aと結晶粒Bでは、結晶粒Bの粒界付近でより格子ひずみが大きいことが確認できる。
図6は、単純せん断変形後における変形部の塑性ひずみを示す図である。図6は、本発明のステップS3−1、ステップS3−2を実行した結果である。なお、図6中の実線は結晶粒界を示し、色分けは、図6の右側にある凡例にしたがって、塑性ひずみ量を表す。
図6から明らかなように、結晶粒Dにおいては、隣接する結晶粒の拘束を受けることにより、帯状に塑性ひずみが蓄積している領域が確認できる。また、結晶粒Eにおいては、結晶粒内全域で方向性をもつ帯状の塑性ひずみの蓄積が確認される。
図7は、格子ひずみと塑性ひずみの差分から求めた弾性ひずみを示す図である。図7は、本発明のステップS4を実行した結果である。なお、図7中の実線は結晶粒界を示し、色分けは、図7の右側にある凡例にしたがって、弾性ひずみ量を表す。
図7から明らかなように、結晶粒Bでは結晶粒A側で塑性ひずみが大きいのに対して、弾性ひずみはその反対側の結晶粒D側で高い。また、結晶粒A側では、ひずみの大部分が塑性変形に移っているのに対して、結晶粒D側では、未だに未降伏領域が多いことが確認できた。
図8は、結晶粒A、結晶粒B及び結晶粒Cの結晶粒界三重点付近の硬さ測定結果を示す図である。図8中に示した硬さは、ビッカース硬さである。また、図9は、転位密度を示す図である。図9は、本発明のステップS3−1を実行した結果である。
図8及び図9から明らかなように、結晶粒界三重点付近では、結晶粒Bが最も転位密度が高く、次いで、結晶粒C、結晶粒Aの順に転位密度が高い。そして、硬さ測定値と転位密度とは高い相関があることを確認できた。
図10は、硬さ測定値と転位密度の関係を示す図である。図10中、縦軸には転位密度の平方根をとった。図10から明らかなように、硬さ測定値と転位密度の平方根とは高い相関があることを確認できた。これは、硬さと転位密度との間には、材料定数α、横剛性率G及びバーガースベクトルbとした際に、α・G・bを勾配とした直線関係にあるという従来の知見と一致する。そして、本実施例においても同様の相関が認められる。
本発明のステップS3−1、ステップS3−2を実行して得られた転位密度と硬さ測定値に相関があることから、曲率テンソルから転位密度を求めることは妥当であるといえる。また、格子ひずみは幾何学量であることから、弾性ひずみ成分の算出値も妥当である。この実施例から、本発明の残留応力測定方法が有効であることを確認できた。
なお、上述したところは、本発明の実施形態を例示したものにすぎず、本発明は、特許請求の範囲の記載範囲内において種々変更を加えることができる。
例えば、本発明は、鋼材に適用して好適であるが、それ以外の非鉄金属材料等にも適用することができる。
本発明は、金属組織レベルでの微視的な残留応力測定に好適であるが、構造部材等の巨視的な残留応力測定にも適用することができる。
上述したように、本発明によれば、格子ひずみ、弾性ひずみ、及び塑性ひずみを金属組織レベルで求めるため、特殊な試料を調整することなく簡易的に、精度よく、金属組織レベルでの残留応力を測定することができる。
したがって、本発明の残留応力測定方法は、金属材料の金属組織と力学特性の現象解明において重要なツールとなりうる。また、本発明は、せん断型相変態挙動やひずみを駆動力とした再結晶挙動と関連付けることで、金属材料の開発においても利用可能なツールとなりうる。本発明は、産業上、利用価値の高いものである。
Claims (3)
- 金属材料の後方散乱電子回折像から結晶方位分布を取得するステップS1と、
前記結晶方位分布から隣接格子点間の格子ひずみを算出するステップS2と、
前記結晶方位分布における方位差で示す転位密度から塑性ひずみを算出するステップS3と、
前記格子ひずみと前記塑性ひずみの差分から弾性ひずみを算出するステップS4と、
前記金属材料に所定の荷重を負荷して塑性変形させた後、塑性変形後の金属材料について、再度ステップS1〜ステップS4を実行し、かつ、塑性変形後の金属材料表面の座標変位を測定するステップS5と、
前記座標変位から塑性変形前後の座標を対応させて、塑性変形前の残留応力成分と塑性変形後の残留応力成分との差分を求めるステップS6と、
を有することを特徴とする金属材料の残留応力測定方法。 - 前記金属材料に、さらに荷重を加えて塑性変形させ、ステップS5及びステップS6を繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の金属材料の残留応力測定方法。
- 前記弾性ひずみを弾性ひずみ定数(弾性コンプライアンス)により算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の金属材料の残留応力測定方法。
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