JP2013015029A - 脱硝システム用尿素水分解解析プログラム - Google Patents

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Abstract

【課題】尿素の分解反応を正確に予測することを可能とする。
【解決手段】尿素に関するパラメータを設定するステップS12と、排ガスに関するパラメータを設定するステップS14と、尿素に関するパラメータを用いて、尿素水の液滴径変化と液滴温度変化とを算出するステップS18と、水分の蒸発時における尿素水の尿素濃度を算出するステップS20と、尿素水の水分が水分閾値MIN1以下となったかを判定するステップS24と、尿素の熱分解反応を求めるステップS28と、尿素濃度が濃度閾値MIN2以下となったかを判定するステップS30と、算出結果を出力するステップS32と、を備える処理を行う脱硝システム用尿素水分解解析プログラムとする。
【選択図】図2

Description

本発明は、脱硝システム用尿素水分解解析プログラムに関する。
国際海事機関(IMO)による窒素酸化物(NOx)の三次規制に対する対策の一つとして、尿素水を用いた選択触媒還元(SCR:Selective Catalytic Reduction)の研究開発が行われている。このSCRによる脱硝では、通常以下の反応が触媒中で起こっていることが知られている。
この反応には還元剤としてアンモニア(NH)が必要になるが、アンモニア(NH)の代わりにアンモニア(NH)の類似化合物として尿素水を使用する手法が、安全面や貯蓄、輸送面の理由から広く採用されている。
一方、三次規制は指定された海域内でのみ適用され、それ以外の海域では二次規制が適用されるが、この海域は基本的に港湾や輻輳海域等の船舶交通量の比較的大きく、陸地に近い場所に設定されると考えられる。その時、SCRはこの海域を航行する限られた時間のみで運用され、航行中の大部分はSCRを作動させないことが想定できる。そうなると、SCRの運用に関する自由度は上がり、例えば劣化した触媒の再生をNOx還元の必要のない海域航行中に行うようなことも可能になるためSCRの寿命や劣化再生方法について調べることが重要となってくる。しかし、これらの検討の手段として実験を行おうとすると非常に長い時間がかかることや温度や排ガス成分等のパラメータが非常に多いことから、数値解析による予測が有効な手段になると考えられる。
SCRを用いた脱硝反応に関して基礎的な実験・解析から数値解析まで,数多くの研究が行われている。例えば、窒素酸化物を含有する排ガス中に還元剤であるアンモニアを投入する際の制御について開示されている(特許文献1,2等)。特許文献1では、触媒ユニット、エンジンの作動に関するパラメータを用いて制御が行われる。特許文献2では、窒素酸化物(NOx)浄化特性の多項式を用いてアンモニア吸着量の目標値を設定する方法が採用されている。また、脱硝システムにおける脱硝触媒の劣化を診断する診断装置が開示されている(特許文献3)。ここでは、アンモニアが漏れるまで脱硝触媒へ供給された還元剤の総量に基づいて脱硝触媒が劣化したか否かを判定している。
特表平08−509795号公報 特開2008−196340号公報 特開2009−127496号公報
ところで、脱硝触媒の劣化又は再生を予測する計算において、上記の尿素の分解反応を正確に予測することが望まれる。すなわち、還元剤として尿素水を用いる場合、触媒での脱硝反応の前までに尿素水から蒸発、分解によって、アンモニア(NH)を生成し、想定している脱硝反応を行えるようにすることが必要である。さらに、どのような条件でアンモニア(NH)の供給量を満たせるかを予測することが、触媒容量や噴射ノズルの設置等を決定する上で重要になる。
本発明は、上記の課題を鑑み、尿素の分解反応によるアンモニアの生成量を予測することを可能とする脱硝システム用尿素水分解解析プログラムを提供することを目的とする。
請求項1に対応した脱硝システム用尿素水分解解析プログラムは、コンピュータによって、燃焼装置からの排ガスに尿素水を添加して脱硝触媒で窒素酸化物の分解を行う脱硝システムにおける尿素の分解反応を算出するプログラムであって、尿素に関するパラメータを設定するステップ1と、前記排ガスに関するパラメータを設定するステップ2と、前記尿素に関するパラメータを用いて、前記尿素水の液滴径変化と液滴温度変化とを算出するステップ3と、水分の蒸発時における前記尿素水の尿素濃度を算出するステップ4と、前記尿素水の水分が水分閾値以下となったかを判定するステップ5と、尿素の熱分解反応を求めるステップ6と、前記尿素濃度が濃度閾値以下となったかを判定するステップ7と、算出結果を出力するステップ8と、を備えることを特徴とする。
ここで、前記尿素に関するパラメータは、前記尿素水の液滴温度、液滴径、液滴速度、尿素水滴内尿素濃度(尿素水1kgあたりの尿素質量)が挙げられる。また、前記排ガスに関するパラメータは、前記排ガスの流速及び温度等(例えば、空気の流速、温度、圧力)が挙げられる。
また、前記液滴径変化と前記液滴温度変化は、後述するSpaldingの式(32)に基づいて算出されることが好ましい。
また、前記尿素の熱分解反応では、尿素減少量とイソシアン酸生成量を算出することが好ましい。これは、後述する式(37)〜(39)で表されるYimの実験式及び反応モデルを用いて算出されることが好ましい。
また、前記ステップ8は、時間と液滴径、温度及び尿素濃度の少なくとも1つとの関係、時間と尿素濃度、イソシアン酸濃度及びアンモニア濃度の少なくとも1つとの関係であることが好ましい。
本発明の脱硝システム用尿素水分解解析プログラムでは、尿素の分解反応を正確に予測することが可能となる。これによって、脱硝触媒の劣化又は再生を予測する計算において還元剤として尿素水を用いる場合、触媒での脱硝反応の前までに尿素水からアンモニア(NH)がどのように生成され、想定している脱硝反応がどのように行われるかを正確に予測することが可能となる。さらに、尿素に関するパラメータや排ガスに関するパラメータが変わった場合、どのような条件でアンモニア(NH)の供給量を満たせるかを予測することで、触媒容量や噴射ノズルの設置等を決定することが可能となる。
本発明の実施の形態におけるコンピュータシステムの構成例を示す図である。 本発明の実施の形態における脱硝システム用尿素水分解解析処理のフローチャートを示す図である。 本発明の実施の形態における蒸発による液滴径の変化を示す図である。 本発明の実施の形態における蒸発による液滴内の温度の変化を示す図である。 本発明の実施の形態における尿素水濃度による液滴寿命の変化を示す図である。 本発明の実施の形態における液滴速度の時間変化を示す図である。 本発明の実施の形態における還元剤による触媒性能及び劣化性能の比較を示す図である。 本発明の実施の形態における尿素の分解割合による脱硝性能の変化を示す図である。 本発明の実施の形態における尿素熱分解割合変更時の触媒中のNO,NH濃度の変化を示す図である。
<脱硝システム用尿素水分解解析処理>
本発明の実施の形態における脱硝システム用尿素水分解解析処理は、コンピュータシステム100を用いて実行される。コンピュータシステム100は、図1に示すように、処理部10、記憶部12、入力部14及び出力部16を含んで構成される。
処理部10は、CPU等で構成され、記憶部12に予め記憶された脱硝システム用尿素水分解解析プログラムを実行することにより脱硝システム用尿素水分解解析処理の演算を行う。記憶部12は、脱硝システム用尿素水分解解析プログラム及びそれに関する各種パラメータを格納及び保持する。記憶部12は、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶装置を含んで構成され、処理部10から読み出し及び書き込み可能とされる。入力部14は、脱硝システム用尿素水分解解析処理に必要なデータ等を入力するために用いられる。入力部14は、キーボード、ポインティングデバイス等の入力装置を含んで構成される。出力部16は、入力部14から入力されたデータの表示、脱硝システム用尿素水分解解析処理で得られる中間処理結果や最終処理結果の表示等を行う。出力部16は、ディスプレイ、プリンタ等の出力装置を含んで構成される。
以下、本発明の実施の形態における脱硝システム用尿素水分解解析処理について説明する。脱硝システム用尿素水分解解析処理は、処理部10によって記憶部12に記憶されている脱硝システム用尿素水分解解析プログラムを実行することによって、図2に示すフローチャートに沿って行われる。
なお、脱硝システム用尿素水分解解析処理は以下の前提条件下において行われる。(前提1)尿素水液滴の周りにあるガスは、排気ガスではなく、空気である。(前提2)尿素水液滴から発生するのは水のみである。(前提3)尿素水液滴は、周囲にある空気と直接情報(物理量:質量、熱)のやり取りをせず、「フィルム」と称する中間体が尿素水と空気を仲介するものとする。
ステップS10では、脱硝システム用尿素水分解解析処理で使用される定数の設定が行われる。処理部10は、入力部14から定数の入力を受け、記憶部12に記憶させる。ここで入力される定数は、水及び空気のガス定数、水の臨界定数、水、空気、尿素の分子量等が挙げられる。
ステップS12では、尿素(尿素水)に関するパラメータについて初期設定が行われる。処理部10は、入力部14からパラメータの入力を受け、記憶部12に記憶させる。ここで、尿素に関するパラメータは、液滴温度T、液滴直径d、液滴速度u、尿素水滴内尿素濃度W(尿素水1kgあたりの尿素質量)が挙げられる。これら尿素(尿素水)のパラメータ設定は、尿素の含有形態、供給方法、パラメータの表現方法等により各種のパラメータや組み合わせがあり得る。
また、処理部10は、これらの設定値から尿素水液滴内の尿素モルn、水モル数Nの比n/Nを式(1)により、尿素水密度ρを式(2)により、尿素水液滴質量mを式(3)、尿素水液滴内尿素及び水質量を式(4)により算出する。ただし、f1は、尿素水液滴温度及びn/Nを引数として実験結果から多項式にて尿素水密度ρを算出する関数である。
ステップS14では、排ガスに関するパラメータについて設定が行われる。処理部10は、入力部14から定数の入力を受け、記憶部12に記憶させる。ここで入力される排ガスに関するパラメータは、排ガスはほぼ空気に近いものと考えて、空気の流速u、温度T、圧力P等が挙げられる。これら、排ガスのパラメータ設定は、排ガスそのものの流速を用いたり、過渡的な温度も考慮したりすることも可能である。また、パラメータの表現方法やパラメータの組み合わせは各種の方法があり得る。
ステップS16では、現時刻tにおける各種の物性値が算出される。以下の処理は、時刻tをステップΔt毎に進めながら、各時刻tにおける物性値を算出することによって行われる。まず、処理部10は、時刻tに対して、式(1)に基づいてn/Nを算出する。次に、フィルム内の水の温度、質量分率は以下の1/3ルールに従うと仮定して、フィルム内の温度Tfを算出する。
フィルム内の空気の比熱Cp_air、粘性係数μ_air、熱伝導率λ_air、密度ρ_airを算出する。ここで、関数f2,f3,f4は、実験結果から得られたフィルム内の温度Tを引数とする多項式の関数である。
また、フィルム内の水(気体)の比熱Cp_H2O、粘性係数μ_H2O、熱伝導率λ_H2O、密度ρ_H2Oを算出する。ここで、関数f5,f6,f7は、実験結果から得られたフィルム内の温度Tを引数とする多項式の関数である。
次に、水と空気の拡散係数D[m/s]を算出する。水と窒素の拡散係数D=0.222×10−4/s(P=0.1MPa、T=273.15K)から、式(8)で温度と圧力の関数として算出する。ここで、温度Tはフィルム内温度Tfと等しく設定する。mは定数であり、1.75とした。
水蒸発潜熱Hを算出する。水の蒸発潜熱H[J/kg]はワトソン(Watson)の式(9)により算出することができる。ここで、Cは1atm,373.15Kでの蒸発潜熱2.256J/kgからC=3.128×10とする。Tは水の臨界温度[K]である。温度Tは、尿素水液滴温度Tと等しいとする。
尿素水蒸気圧pを式(10),(11),(12)から算出する。A,B,C,Dは定数であり、それぞれ−7.76451,1.45838、−2.77580、−1.23303、Pは水の臨界圧力である。上記のように、nは液滴内の尿素モル数、Nは液滴内の水モル数である。pは水の蒸気圧であり、ワンガー(Wanger)の式で表される。
次に、尿素水密度ρを算出する。ここで、f8は、尿素水液滴温度及びn/Nの関数である。
尿素水(液体)の比熱Cpuを式(14)により算出する。Dは希釈度(溶質1molに対する水のモル数=N/n)、Mは尿素の分子量である。但し、実測値がD=5.5までしかないため、D<5.5ではD=5.5の時の値を用いる。尿素水の密度は、計測値から温度とn/Nの関数として求めた。
なお、水(液体)の比熱Cpwは式(15)によって算出した。ここで、f9は、液滴温度Tを引数とする多項式の関数である。
フィルム内の質量分率Ywfは式(16)により算出される。ここで、尿素水蒸気圧pは式(10)で算出された値を用いる。また、周囲空気中の水の質量分率YW∞は0とする。また、液滴表面の水の質量分率YWsは以下の式で算出される値とする。
Ws=(p×水分子量)/((P−p)×空気分子量+p×水分子量)
トランスファ数Bは数(17)により算出される。トランスファ数Bは、後述の尿素水からの水の蒸発過程の算出処理に用いられる。
また、気液相対速度Urelを式(18)から算出する。気液相対速度Urelは、液滴の運動を運動方程式から求める際に用いられる。ここで、気液相対速度Urelは、空気の速度uと液滴の速度uとの差で表される。
フィルム内の混合ガス(水+空気)の粘性係数μ、熱伝導率λ、比熱Cpf及び密度ρを式(19),(20),(21),(22)から算出する。フィルム内は水と空気の混合ガスになるため、粘性係数μ、熱伝導率λ、比熱Cpf及び密度ρは成分を考慮した物性値を用いる。粘性係数μは、ウィルキー(Wilke)の式により算出される。熱伝導率は、ワシルジェワ(Wassiljewa)の式により算出される。
ここで、フィルムは水と空気のみによって構成されているとして、添字1が水、添字2が空気とすると式(19)のφijはφ12,φ21のみとなり、以下の式で算出される。
φ12=(1+(μ_H2O_air)1/2(空気分子量/水分子量)1/4)2/(2×21/2(1+空気分子量/水分子量)1/2)
φ21=(1+(μ_air_H2O)1/2(水分子量/空気分子量)1/4)2/(2×21/2(1+水分子量/空気分子量)1/2)
また、フィルム内のモル分率の比X/X,X/Xは以下の式(24)で表される。
式(23)及び(24)から式(19)は以下の式(25)のように書き替えられる。
また、式(20)におけるΨijは、添字1が水、添字2が空気とすると式(26)のようにリンゼイ−ブロンリィ(Lindsay−Bromley)の式で表される。Cはサザーランド(Sutherland)定数、Cijは混合気体のサザーランド(Sutherland)定数、Xはモル分率である。本研究の場合、考慮する成分は空気と水であるため、サザーランド(Sutherland)定数はそれぞれ102,659とする。
ここで、ΨijはΨ12,Ψ21のみとなり、以下の式で算出される。
Ψ12=(1/4)(1+((μ_H2O_air)(空気分子量/水分子量)3/4(1+C1/Tf)/(1+C2/Tf))1/2)2
(1+C12/Tf)/(1+C1/Tf)
Ψ21=(1/4)(1+((μ_air_H2O)(水分子量/空気分子量)3/4(1+C2/Tf)/(1+C1/Tf))1/2)2
(1+C21/Tf)/(1+C2/Tf)
式(26)から式(20)は以下の式(27)のように書き替えられる。
また、比熱Cpf及び密度ρは式(28),(29)として書き替えられる。
さらに、無次元数である以下の値を算出する。
これらの値を用いて、抗力係数Cを算出する。
ステップS18では、現時刻tにおける蒸発による液滴の直径の変化と液滴の温度の変化が算出される。処理部10は、上記において算出された値を用いてSpaldingの式(32)の関係から液滴の直径の変化を算出する。
式(32)を変形すると式(33)として書き替えることができる。ここで、拡散係数Dは式(8)、フィルム内の混合ガス密度ρは式(22)で表されるものとし、微小時間での温度変化は0とする。なお、液滴の直径の変化の算出は、液滴の半径に基づくものであってもよく、また、Spaldingの式(32)に限定されるものでなく、パラメータの設定や表現方法、簡略式や厳密式等、各種の式に基づくことができる。
また、液滴の温度Tの変化は式(34)で算出される。なお、液滴の温度Tの変化の算出は、この式(34)に限定されるものでなく、パラメータの設定や表現方法、簡略式や厳密式等、各種の式に基づくことができる。
ステップS20では、蒸発による液滴内の尿素濃度が算出される。処理部10は、上記ステップS18で算出された液滴の直径の変化dd/dtを式(33)によりdm/dtに変更する。これらから、時刻のステップΔt後の液滴質量は式(35)で算出することができる。
この質量変化は前提2より水の蒸発のみで生じているものとし、式(36)で尿素水の濃度Wを算出する。なお、尿素濃度の算出は、式(36)に限定されるものでなく、パラメータの設定や表現方法、また、補正係数を掛ける等による各種の式に基づくことができる。
ステップS22では、液滴速度が算出される。処理部10は、式(37)から液滴の速度uを更新する。ここで、雰囲気速度u、相対速度Urel、抗力係数Cを適用しており、抗力係数Cはレイノルズ数Reに応じて式(31)により算出して用いている。
ステップS24では、液滴内の水分が所定の基準値である水分閾値MIN1以下となったか否かが判定される。水分閾値MIN1は、液滴内の水分が減って、液滴内の尿素が分解反応を起こし始める液滴内の水分の下限値である。液滴内の水分が水分閾値MIN1以下である場合にはステップS26へ処理を移行させ、そうでない場合には時刻tをステップΔtだけ進めてステップS16から処理を繰り返す。なお、水分が水分閾値以下となったか否かの判定は、例えば尿素濃度をもっても等価に判定できるものであり、実態として尿素の分解反応の開始が推定できる他の方法を含めることができる。
ステップS26では、排ガス配管内を流れている空気に含まれている尿素、イソシアン酸、水及びアンモニアの空間内の濃度の初期値を設定する。処理部10は、入力部14から尿素濃度C、イソシアン酸CHNCO、水CH2O及びアンモニアCNH3の初期値を受付け、記憶部12に記憶させる。
ステップS28では、尿素の減少量、イソシアン酸の生成量及びアンモニアの生成量が算出される。SCRの還元剤に用いられている尿素水はアンモニア(NH)に分解されて一酸化窒素(NO)又は二酸化窒素(NO)と触媒上で反応するが、尿素水からアンモニア(NH)の生成は総括反応では化学式(2)のように示される。
ここで、aqは水溶液を表している。この反応は化学式(3)〜化学式(5)で表される尿素水(液滴)から水の蒸発、尿素の熱分解及びイソシアン酸の加水分解の3つの現象に分けられることが知られている。ここで、lは液体、gは気体を表している。なお、イソシアン酸(HNCO)は気相では安定な物質であり、式(5)の加水分解は触媒表面で起こる反応であると考えられている。
処理部10は、式(38),(39),(40)により尿素の減少量、イソシアン酸の生成量及びアンモニアの生成量を求める。本実施の形態では、化学式(3)〜(5)で示されている尿素水の分解過程は、以下のような条件下で進行していくとする。(条件1)尿素の熱分解はYimの式に従いイソシアン酸とアンモニア(NH)を生成する。なお、熱分解は触媒中でも起こる。(条件2)イソシアン酸の加水分解はYimの式に従い、触媒表面上でのみ反応する。
ただし、k,kは反応速度定数[l/s]である。Yimらは、触媒の有無によるkとkを求めているが、ここではkには触媒なしでの、kには触媒有りでの結果を用いる。kに関しては触媒の有無による差がほとんどなかったことから、触媒中でも触媒なしでの式(41),(42)を用いる。ここでR=1.986kcal/kmolKとする。なお、式(41),(42)はCuZSM5触媒の結果であり、今回対象としているV−TiO系触媒の結果ではないが、V−TiO系触媒での活性化エネルギとほとんど変わらないことから、本実施の形態では式(41),(42)を採用した。なお、式(41),(42)を用いずに、V−TiO系触媒の結果を用いることもできる。また、尿素の熱分解反応を求める方法は、Yimの実験式や反応モデルに限定されるものでなく、パラメータの設定や表現方法を変えた式、簡略式や厳密式等、各種の式や各種の反応モデルに基づくことができる。
ステップS30では、尿素濃度Cが所定の基準値である濃度閾値MIN2以下となったか否かが判定される。濃度閾値MIN2は、尿素の分解反応の演算を終了する尿素濃度Cの下限値である。尿素濃度Cが濃度閾値MIN2以下である場合にはステップS32へ処理を移行させ、そうでない場合には時刻tをステップΔtだけ進めてステップS28の処理を繰り返す。なお、尿素濃度が濃度閾値以下となった否かの判定は、例えば水分量をもっても等価に判定できるものであり、実態として尿素の分解反応の進行度が推定できる他の方法を含めることができる。
ステップS32では、上記の脱硝システム用尿素水分解解析処理によって得られた結果が出力される。処理部10は、時刻tに対する液滴径d、温度T、尿素水の濃度W、尿素濃度C、イソシアン酸CHNCO、水CH2O及びアンモニアCNH3等の変化を出力部14に出力させる。なお、処理結果の出力は、上記したものに限定されるものでもなく、また、処理途中の結果の出力を含めてもよく、出力の形式も各種の方法を採り得る。
<脱硝システム用尿素水分解解析処理の評価>
まず、単一の尿素水液滴の蒸発過程について評価した。ノズルから噴射された尿素水が液体のまま、直接触媒もしくは管壁面に衝突することはできる限り避けたい。そのために、尿素水の蒸発過程における液滴噴射速度、初期液滴径、雰囲気温度の蒸発速度に与える影響を単一液滴で検討した。
単一液滴は実際の噴霧と比べて液滴間の干渉が考慮されないため、液滴の蒸発速度は速くなることが考えられる。しかし実際の噴霧の場合には噴射ノズルの種類や噴射量によって液滴間の干渉度合いが変わってしまうため、ここでは一次的な検討として各条件の影響を抽出しやすい単一液滴にて計算を行った。
図3に雰囲気温度を200、300、400℃、液滴径を50、100、200μm、速度を10、50、100m/sと変更した時の液滴径の時間変化を示す。雰囲気速度は触媒の空塔速度(SV)が11000h-1で、直径40cmの円管をガスが通過する時の速度とし、尿素水濃度は40wt%、計算期間は液滴温度が100℃になるまでとしている。液滴噴射方向は雰囲気の流れ方向と等しくした。
図3から、雰囲気温度が低く、液滴径が大きく、噴射速度が遅い方が、液滴寿命が長くなることが確認された。尿素水の蒸発は、液滴径によって雰囲気温度の影響が異なり、小液滴径では温度による蒸発時間の変化を小さくすることができるといえる。それに対して噴射速度の影響は大きくなかった。雰囲気温度はエンジンの種類や運転負荷によって決められてしまうため、排気管内への尿素水噴射が制御できるパラメータは尿素水の噴射速度と液滴径になる。そのため液滴径を小さくすることが、液滴の管内での滞留時間を小さくし、噴射ノズルと触媒の距離を短縮するのに有効であるといえる。また、エンジンの運転条件の影響も小さくできることがわかる。
図4は、図3の条件時の尿素水液滴温度変化を示す。どの条件でも時間が経過して、液滴径が小さくなり、液滴内の尿素濃度が大きくなると液滴温度が急激に上昇した。これは、尿素水の飽和蒸気圧の影響であると考えられる。
飽和蒸気圧は、式(10)に示されるように液滴内の尿素濃度が上昇すると低下するため、蒸発が進むと蒸発速度は減少していく。そこで尿素濃度の影響を調べるため、図5に雰囲気温度200、300℃での尿素濃度を変更した時の液滴寿命の変化を示す。
寿命は液滴から水が蒸発するまでの時間とし、初期液滴径は100μmである。尿素濃度の増加によって、液滴寿命は短くなる。これは蒸発すべき液滴内の水分量が減少しているからであると考えられる。寿命に対する濃度の効果はほぼ直線的であるが、濃度が高くなると図5に見られる一定温度で保持される時間が短くなり、液滴温度の上昇速度が上がるため、蒸発速度が低下し寿命の減少は若干緩和される。また、液滴寿命に与える雰囲気温度の影響は尿素濃度の増加によって小さくなる。
雰囲気温度が400℃の時の尿素水蒸発中の液滴速度の時間変化を図6に示す。初期液滴径によって液滴速度が雰囲気速度と一致する時間は異なっていたが、噴射初期速度が変更されても液滴が雰囲気速度に収束するまでの時間はほとんど変わらなかった。また本条件では、蒸発速度より液滴と雰囲気との運動量交換の速度の方が速く、蒸発時間の約半分は雰囲気に流されながら蒸発していることがわかった。
次に、触媒での分解過程および性能劣化について確認した。尿素水が完全に蒸発して化学式(4)の反応が終了した状態で、全て触媒中で尿素が熱分解、イソシアン酸が加水分解する時の雰囲気温度による脱硝率の変化を調べた。図7にアンモニア(NH)ガスを導入した時と比較した結果を示す。空塔速度(SV)は11000h−1とした。
温度が低下するに従って脱硝率は減少したが、還元剤による違いはほとんど現れなかった。このことは、触媒の尿素の熱・加水分解速度が脱硝反応速度よりも速く、脱硝時に還元剤としてアンモニア(NH)を用意できていることを示していると考えられる。これより、尿素水を用いる時には、尿素水が触媒に導入される前に液滴を蒸発させ尿素と水を分離しておけば良いことがわかる。また、触媒性能を化学式(6)及び(7)の酸性硫安の生成によって劣化させるために、二酸化硫黄(SO)を800ppm含むガスにて8時間運転した時の性能劣化による脱硝率低下への影響も併せて示している。
温度が低いほど脱硝率は低くなり、性能劣化する割合も大きくなっていた。本条件では300℃以下になると性能劣化を生じることがわかった。劣化時の結果から、劣化しない条件より還元剤による違いは現れているが、劣化特性に与える還元剤の影響は小さいと考えられる。
式(38)〜(40)に示されるように、尿素の分解過程については一次反応を仮定しており、反応は触媒内での滞留時間に依存している。そこで、空塔速度(SV)を25000h−1としてより反応時間の短い条件での尿素の分解による影響を調べた。二酸化硫黄(SO)は導入せず、脱硝性能のみを比較した結果を図8に示す。
触媒に導入される還元剤は、導入前に雰囲気中での尿素の熱分解が完全に終了している条件(CNH30,CHNCO0=300ppm)から熱分解が全く行われていない条件(Cu0=300ppm)までの熱分解の割合を変えた4条件で行った。比較のため、アンモニア(NH)ガス(CNH30=600ppm)での結果を併せて示す。
アンモニア(NH)ガスを導入した場合とそうでない場合において脱硝率がほとんど変わらないことから、空塔速度(SV)が25000h−1になっても触媒には十分な尿素分解能力があることがわかった。温度が低下すると、尿素を分解する能力も低下するため脱硝率に差異が生じているが、その影響は大きくなかった。なお、脱硝率は空塔速度(SV)が大きくなったことから、図7の11000h−1での結果と比べて低下した。
触媒中でのアンモニア(NH)の生成過程を調べるため、触媒へ導入される尿素の熱分解割合を図7の条件と同様に変更した時の雰囲気ガス流れ方向の触媒中アンモニア(NH)、一酸化窒素(NO)濃度の変化を図9に示す。計算条件は触媒性能が劣化した二酸化硫黄(SO)を800ppm、雰囲気温度を200℃とした。
触媒入口で尿素の熱分解が完全に終了していない場合には、熱・加水分解過程により、触媒中でアンモニア(NH)を生成しながら脱硝を行っているため、触媒入口側のアンモニア(NH)濃度は小さくなった。触媒導入前に熱分解が行えておらず、全て尿素として触媒に導入された場合でも触媒を約6割通過して以降、触媒出口までアンモニア(NH)濃度はアンモニア(NH)ガスの結果と一致した。それに対して一酸化窒素(NO)濃度はほとんど変化しない。これは各位置で必要なアンモニア(NH)が存在し、脱硝反応が行えていることを示していると考えられる。
以上の実施形態は、舶用ディーゼルエンジンのみならず、還元剤として尿素水を用いた他の内燃機関の脱硝触媒システムにも適用することができる。
10 処理部、12 記憶部、14 入力部、16 出力部、100 コンピュータシステム。

Claims (7)

  1. コンピュータによって、燃焼装置からの排ガスに尿素水を添加して脱硝触媒で窒素酸化物の分解を行う脱硝システムにおける尿素の分解反応を算出するプログラムであって、
    尿素に関するパラメータを設定するステップ1と、
    前記排ガスに関するパラメータを設定するステップ2と、
    前記尿素に関するパラメータを用いて、前記尿素水の液滴径変化と液滴温度変化とを算出するステップ3と、
    水分の蒸発時における前記尿素水の尿素濃度を算出するステップ4と、
    前記尿素水の水分が水分閾値以下となったかを判定するステップ5と、
    尿素の熱分解反応を求めるステップ6と、
    前記尿素濃度が濃度閾値以下となったかを判定するステップ7と、
    算出結果を出力するステップ8と、
    を備えることを特徴とする脱硝システム用尿素水分解解析プログラム。
  2. 請求項1に記載の脱硝システム用尿素水分解解析プログラムであって、
    前記尿素に関するパラメータは、前記尿素水の液滴温度、液滴径、液滴速度及び尿素濃度であることを特徴とする脱硝システム用尿素水分解解析プログラム。
  3. 請求項1又は2に記載の脱硝システム用尿素水分解解析プログラムであって、
    前記排ガスに関するパラメータは、前記排ガスの流速及び温度であることを特徴とする脱硝システム用尿素水分解解析プログラム。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の脱硝システム用尿素水分解解析プログラムであって、
    前記液滴径変化と前記液滴温度変化は、Spaldingの式に基づいて算出されることを特徴とする脱硝システム用尿素水分解解析プログラム。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の脱硝システム用尿素水分解解析プログラムであって、
    前記尿素の熱分解反応では、尿素減少量とイソシアン酸生成量を算出することを特徴とする脱硝システム用尿素水分解解析プログラム。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の脱硝システム用尿素水分解解析プログラムであって、
    前記尿素の熱分解反応は、Yimの実験式及び反応モデルを用いて算出されることを特徴とする脱硝システム用尿素水分解解析プログラム。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の脱硝システム用尿素水分解解析プログラムであって、
    前記ステップ8は、時間と液滴径、温度及び尿素濃度の少なくとも1つとの関係、時間と尿素濃度、イソシアン酸濃度及びアンモニア濃度の少なくとも1つとの関係であることを特徴とする脱硝システム用尿素水分解解析プログラム。
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