JP2012521987A - 放射線照射誘発型上皮障害を予防および治療する方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は放射線照射された真核細胞、例えば、放射線照射された哺乳動物上皮細胞を、微生物病原体、例えば緑膿菌の有害な効果から保護する方法を提供する。本発明はまた、放射線照射された生物をかかる有害な効果から保護して、死亡率と罹患率の低下をもたらす方法を提供する。さらに、ポリエチレングリコールなどの比較的高い分子量の生体適合性ポリマーを含み、任意にデキストランなどの保護ポリマーおよび/またはL-グルタミンなどの必須病原体栄養素を補充した前記キット、ならびに放射線に曝された生物に投与するための取扱説明書を含有するキットを提供する。
【選択図】 なし

Description

本発明は微生物が介在する、放射線照射誘発型上皮細胞障害などの上皮障害を予防または治療するための材料および方法に関する。
微生物が介在する上皮障害、または異常症状は、ヒトおよび動物の健康に大きな脅威を与えて世界中で保険医療システムの負担になっている。かかる障害の一例である腸由来の敗血症は、様々な疾患、障害または苦痛、例えば熱傷、新生児腸炎、重症の好中球減少症、炎症性腸疾患、および移植後の器官拒絶を患う諸生物、例えば、ヒト患者における死亡の主な原因である。さらに、腹部放射線照射後に敗血症をもたらす胃腸毒は、癌治療のための腹部放射線療法および偶発的曝露の両方による大きな保健上のリスクを与え続けている。腸管貯蔵庫は重病の入院患者において細菌が介在する敗血症の潜在的な致死性病巣であると認識されている。細菌病原体、例えば、シュードモナス属(例えば、緑膿菌)の腸上皮バリアの制御機能を動揺させる能力は、腸由来の敗血症を発症しうる日和見性の生物間に見られる明確な特徴でありうる。これらの感染症において、緑膿菌は原因病原体であることが確認されている。意味深いことに、腸は緑膿菌などの日和見性病原体のコロニー形成の初生部位であることが示されている。
腸由来の敗血症などの微生物が介在する上皮障害を予防または治療する通常の治療手法の成功は不完全なものであった。抗生物質に基づく手法は、残存する腸フローラに影響を与えないように腸病原体に対する抗生物質を仕立てることが困難であるため妥協せざるを得なかった。加えて、多くの腸病原体は緑膿菌が典型であるように、抗生物質に対して耐性になることが多く、予防または治療に対して高コストの、進行中の、かつ不完全な成功しかもたらさない。いくつかの問題はまた、免疫治療手法も悩ましている。特に、緑膿菌などの多くの腸病原体は免疫回避性であり、かかる手法の効果を最小化する。
腸由来の敗血症などの障害を予防または治療する他の手法は腸洗浄である。過去数年、ポリエチレングリコール(PEG)溶液を用いる腸洗浄が試みられ、様々な臨床および実験環境において腸由来の敗血症を治療する上である程度の可能性を示しうることを示唆する報文が存在する。これらの溶液中のPEGは3,500ダルトンの平均分子量を有して市販されている(例えば、Golytely)。これらの比較的低分子量(LMW)のPEG溶液が腸由来の敗血症を治療または予防する上で治療効果を与える機構はまだ分かっていない。典型的には、腸由来の敗血症を発症しているかまたは患うリスクがある生物の腸を、これらの溶液を用いて洗浄するかまたは洗い流す。これらのLMW PEG溶液を腸に投与した結果として、使用した化合物の投与方法、濃度、および分子量に応じて、治療した腸のフローラ組成に様々な変化が起こる。例えば、約20%を超えるPEG濃度を有する溶液は殺微生物作用をもたらし、ストレスのかかった宿主の腸内に潜在的に保護された微生物を排除しうる。また、低分子量PEGの溶液はそれらを保存するが、ある特定の病原性生物の病原性能力を減弱する効力を無効化しうる。従って、当技術分野では、微生物の病原性発現(微生物の有害な特性)を抑制する一方、その微生物または近隣微生物を死滅させず、それによって腸のミクロフローラの自然エコシステムを保存する利点を提供する溶液を必要とする。例えば、生来のフローラ組成の保持によって、そうでなければ腸にコロニー形成しうる日和見性病原体と競合することができる。
フローラ組成における変化と同時に、生物の生理学にも変化が起こる。これらの生理学的変化は、いくつかの特徴的な酵素活性、例えば乳酸デヒドロゲナーゼのレベルを試験することによりモニターすることができる。その結果、腸のLMW PEG治療は治療した生物の生理学に有意な変化を生じ、治療した生物の健康および福祉に対して、予測できないかつ有害な可能性のある長期的な結果をもたらす。さらに、かかる治療は、入院患者などの重病の生物体における大量腸放出(massive intestinal voiding)の形態での物理的要求反応を呼び起こす。
微生物が部分的に介在する他の型の上皮細胞障害は、微生物に曝された上皮細胞に対する放射線照射誘発型損傷であり、炎症、上皮細胞(例えば、腸)バリア機能の喪失および細菌播種、次いで重症のそしてさらに致死性の敗血症に至る。放射線照射、例えば、腹部放射線照射が細胞(例えば、上皮細胞)にかかる効果を引き起こす機構は複雑である。放射線照射は、傷害および微生物侵入に対する局所的腸応答の様々な構成要素に影響を与えることが示されていて、それには、速やかな粘液の枯渇、免疫障害、オキシダントが介在する上皮細胞傷害、および放射線照射誘発型上皮細胞アポトーシスが含まれる。さらに、放射線曝露それ自体が腸のミクロフローラに大きなシフトを引き起こし、その際、放射線照射の効果は腸免疫系の正常機能および一過性微生物に対するコロニー形成耐性を維持するのに重要な役割を果たす高密度の共生菌を直接破壊する。放射線照射の腸上皮、上を覆う粘液層、その下に横たわる免疫レパートリー、およびシフトする微生物フローラ環境の応答に対する効果の結果は、放射線照射誘発型上皮細胞バリア機能の喪失および細菌の播種を治療および/または予防するために多角的な手法が必要であることを説明している。最近の報文は、放射線照射誘発型腸傷害およびその後の死亡率は上皮のtoll受容体活性化により防止できるという強い確証を与えているが、動物におけるこれらの有望な結果は、患者における致死的な菌血症は緑膿菌のような毒性と耐性を持つ院内病原体により引き起こされることが多いという通常の観察を考慮していない。緑膿菌は最もありふれた病原体であって、骨髄移植、放射線照射誘発型腸炎、および化学療法後の致死的な腸由来の敗血症を引き起こす。免疫を逃れるこの病原体はこれらの臨床環境において特に問題である。患者は、実験動物とは対照的に、抗生物質選択および交差汚染によって緑膿菌によるコロニー形成が速やかに行われる。入院患者において、腸は緑膿菌のコロニー形成の原発部位であり、入院および抗生物質曝露の5日以内に患者の便の50%が培養陽性である。結果として、上皮バリア機能の喪失で表される放射線照射による腸の損傷および致死性の腸由来の敗血症を制限する戦略は、これらの臨床状態におけるヒトのミクロフローラのシフトが実験動物と実質的に異なることを考慮する必要がある。
従って、当技術分野においては、微生物が介在する上皮障害(例えば、腸由来の敗血症)および/またはかかる障害に関係する症候を予防または治療するのに有効な組成物、ならびに、治療する生物の有意な生理学的改変を介してさらなる合併症を生じる可能性なしに、かかる利点を達成する方法を提供する必要性が残っている。
本発明は当技術分野における上記必要性の少なくとも1つを満たすものであって、微生物病原体の有害な影響に対して、放射線照射された細胞、組織および生物を効果的に保護する高分子量(HMW)ポリエチレングリコール組成物を提供する。また、本明細書に開示した方法に供する医薬品の製造におけるHMWポリエチレングリコール(HMW PEG)の使用を提供する。例示の微生物病原体は緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)などの細菌病原体である。HMW PEGはかかる緑膿菌などの病原体と上皮表面、例えば腸の上皮表面との接触を抑制または防止する。加えて、高分子量PEGはこれらの病原体(例えば、緑膿菌)におけるクオラムセンシングシグナル伝達ネットワークを含む様々なシグナルに応答する病原性発現を抑制する。さらに、HMW PEGは上皮細胞の膜中の脂質ラフトと相互作用し、細胞内のアポトーシスシグナル伝達経路を保護する方式で改変する。感染界面において微生物病原体と宿主上皮の間を阻むHMW PEGの能力は放射線療法による不都合な結果を改善または排除する手法を提供する。重要なこととして、HMW PEGによる治療は費用効率に優れ、かつヒト患者ならびに様々な他の生物、例えば、農業上重要な家畜(例えばウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウなど)、ペットおよび動物園の動物において比較的簡単に実施することができる。
本発明の一態様は、放射線に曝された哺乳動物上皮細胞を治療する方法であって、高分子量ポリエチレングリコール(HMW PEG)化合物の治療上有効な量を哺乳動物上皮細胞に投与するステップを含む前記方法を提供する。本方法のいくつかの実施形態において、哺乳動物上皮細胞はさらに腸病原体、例えば、シュードモナス属(例えば、緑膿菌)に曝される。本方法において、HMW PEG化合物は、少なくとも1,000ダルトン、少なくとも5,000ダルトン、少なくとも8,000ダルトン、少なくとも12,000ダルトンおよび少なくとも15,000ダルトンからなる群より選択される平均分子量を有しうる。上記の最小平均分子量判定基準に適合する様々な構造のHMW PEGを意図しており、それには、1つの疎水性コアと結合した少なくとも2つの炭化水素鎖を含むHMW PEG化合物が含まれており、ここで、それぞれの炭化水素鎖はHMW PEG化合物の少なくとも40%の平均分子量を有しかつ疎水性コアは環構造を含むものである。本方法は、HMW PEGを放射線照射後の比較的短い時間枠内に投与することを条件とし、具体的には細胞を放射線に曝して5分間以内に投与することを含む。
本開示による他の態様は、放射線照射された哺乳動物上皮細胞の微生物病原体誘発型障害を治療する方法であって、高分子量ポリエチレングリコール(HMW PEG)化合物の治療上有効な量を放射線に曝された哺乳動物上皮細胞に投与するステップを含む前記方法である。HMW PEGの治療上有効な量は患者または動物被験体の年齢、体重、一般健康状態などの公知の変数に応じて変わりうるものであり、治療上有効な量は、当技術分野で公知のように、通常の手順を用いて容易に決定することができる。本方法のいくつかの実施形態においては、哺乳動物上皮細胞に放射線照射する前にHMW PEGを投与する。本方法は先に規定した最小平均分子量を有するHMW PEGの投与を含み、かつ先に記載した、少なくとも2つの炭化水素鎖と1つの疎水性コアを有するHMW PEGを投与する実施形態を含むものである。本方法は具体的に、微生物病原体が緑膿菌である治療を含む。
本発明の他の態様は、放射線照射と高分子量ポリエチレングリコール(HMW PEG)化合物の治療上有効な組み合わせを投与するステップを含むものである、放射線療法で哺乳動物上皮細胞を治療する方法である。本開示による他の態様におけるように、HMW PEGは少なくとも1,000ダルトン、少なくとも5,000ダルトン、少なくとも8,000ダルトン、少なくとも12,000ダルトンおよび少なくとも15,000ダルトンからなる群より選択される平均分子量を有しうる。いくつかの実施形態において、放射線はγ線およびX線からなる群より選択される。
本開示によるさらに他の態様は、哺乳動物上皮細胞を放射線照射誘発型損傷から保護する方法であって、高分子量ポリエチレングリコール(HMW PEG)化合物の予防上有効な量を、放射線照射誘発型損傷のリスクがある上皮細胞に投与するステップを含む前記方法である。再び、HMW PEG化合物は少なくとも1,000ダルトン、少なくとも5,000ダルトン、少なくとも8,000ダルトン、少なくとも12,000ダルトンおよび少なくとも15,000ダルトンからなる群より選択される平均分子量を有しうる。
さらに他の態様は、放射線照射された哺乳動物上皮細胞を微生物病原体誘発型損傷から保護する方法であって、高分子量ポリエチレングリコール(HMW PEG)化合物の治療上有効な量を放射線照射された哺乳動物上皮細胞に投与するステップを含む前記方法である。HMW PEG化合物は少なくとも1,000ダルトン、少なくとも5,000ダルトン、少なくとも8,000ダルトン、少なくとも12,000ダルトンおよび少なくとも15,000ダルトンからなる群より選択される平均分子量を有しうる。いくつかの実施形態において、微生物病原体は緑膿菌である。
さらに他の態様として、腹部放射線照射を受けた哺乳動物における敗血症を予防する方法であって、治療上有効な量の高分子量ポリエチレングリコール(HMW PEG)化合物を哺乳動物の腹部領域へ投与するステップを含む前記方法が得られる。いくつかの実施形態においては、腹部領域に放射線照射前にHMW PEGを投与し;他の実施形態においては、放射線照射後にHMW PEGを投与する。いくつかの実施形態においては、HMW PEGを少なくとも48時間、連続的にまたは複数のバッチで投与する。
本開示による以上の態様のそれぞれにおいて、HMW PEGを当技術分野で公知のいずれかの経路、例えば、局所投与、腸内投与および非経口投与からなる群より選択される経路により投与することができる。さらに特に、前記方法のいずれかは、表皮、吸入、鼻腔内、点眼、点耳、経口、胃栄養管、十二指腸栄養管、胃瘻造設、浣腸、坐剤、胃洗浄、肺洗浄、結腸洗浄、眼瞼下洗浄、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、骨注入、くも膜下腔内、皮内、経皮、経粘膜、ガス吹送、または硝子体内によるHMW PEG投与であってもよい。また、本開示による前記態様のそれぞれにおいて、HMW PEGは、それぞれの鎖がHMW PEG化合物の少なくとも40%の平均分子量を有する少なくとも2つの炭化水素鎖、および1以上の芳香族または非芳香族環を含んでもよい1つの疎水性コアを有しうる。
本発明の他の特徴と利点は、図面および実施例を含む以下の詳細な説明を参照することによって良く理解できるであろう。
偽開腹術または30%外科肝切除術で処置し次いで緑膿菌PA27853を盲腸に直接注入した後、48時間におけるマウスの死亡率である。マウスに30%無血左葉肝切除術を行い、直後に1 x 107 cfu/mlのPA27853を直接盲腸に注入した。各グループは7マウスを有した。対照マウスに偽開腹術を行い次いで等量のPA27853を盲腸に注入した。PEGグループのマウスについては、1 x 107 cfu/mlのPA27853をPEG 3.35(LMW PEG 3,350)かまたはPEG 15-20(HMW PEG 15,000〜20,000ダルトン)に懸濁させた後に盲腸に注入した。PEG 15-20に対する用量応答曲線をパネルbに示す。a. PEG 15-20の統計的に有意な保護効果をフィッシャーの正確確率検定により確認した(P<0.001)。b. PEG15-20の保護濃度は5%である(P<0.05)ことを確認した。c. 1 x 107 cfu/mlのPA27853の30%外科肝切除および直接盲腸注入後24時間における盲腸含量(糞)、洗浄盲腸粘膜、肝臓、および血液の定量的な細菌培養値を示す。一元配置の分散分析(ANOVA)は、肝切除後のマウスにおける盲腸含量、粘膜、肝臓、および血液中の細菌数の統計的に有意な増加を示す(P<0.001)。肝臓および血液中の細菌数の有意な減少(P<0.05)がPEG 3350で見られる一方、PEG 15-20はPA27853のマウス肝臓および血液への播種を完全に防止した。 経上皮電気抵抗(TEER)により試験した、PA27853誘発型上皮バリア機能障害に対するPEG 15-20の保護効果を示す。a. データは1 x 107 cfu/mlのPA27853への8時間の頂端曝露中に観察された、三重培養(n=7)の基線からのTEERの平均±SEM%最大降下を示す。統計的に有意なTEERの低下がPA27853に曝したCaco-2細胞において実証された(一元配置のANOVA(P<0.001))。PA27853誘発型TEERの降下に与える統計的に有意な保護効果がPEG 15-20について実証された(P<0.001)。b. PEG 3.35の存在でPA27853へ頂端を曝したCaco-2細胞の画像を示す。4時間の共培養後に撮影した画像は、単層と細胞骨格上方30〜40ミクロンに浮遊する細胞との完全性の喪失を示し、PA27853の細胞膜との付着を表す。c. PEG 15-20の存在のもとで4時間、PA27853へ頂端を曝したCaco-2細胞は、試験したどの平面においても浮遊する細胞の確証が見られなかった。 PA27853におけるPA-I発現に対するPEGの抑制効果を示す。a. ウェスタンブロット分析。PA27853を1mMのクオラムセンシングシグナル伝達分子C4-HSに曝すと、PA-Iタンパク質発現の統計的に有意な増加(P<0.001 ANOVA)をもたらし、この発現は10%PEG 3.35の存在のもとで部分的に抑制されかつ10% PEG15-20によってさらに有意に抑制された。a'. C4-HSLが誘発するPA-I発現に対するPEG 15-20の最小抑制濃度は5%(P<0.01)であった。b. PEGの存在および非存在のもとでC4-HSLに曝された個々の細菌細胞の電子顕微鏡写真は、C4-HSLが緑膿菌の形状および線毛発現の形態学的変化を引き起こすことを示す。C4-HSLが誘発する形態学的効果はPEG 15-20の存在のもとでは完全に排除されるが、PEG 3.35の場合はそうでない。PEG 15-20に曝されたPA27853の周りに暈(かさ)型効果を見ることができる。c. ノーザンハイブリダイゼーション。PA27853を0.1 mMのC4-HSLに曝すと、PA-I mRNA発現の統計的に有意な増加(P<0.001 ANOVA)をもたらし、これは10% PEG 15-20によって強く抑制された。d. Caco-2細胞への4時間曝露により誘発されるPA-I mRNAレベルの増加は、PEG 15-20の存在のもとで抑制されたが、PEG 3.35の場合はそうでなかった(P<0.001 ANOVA)。 PA27853の細菌膜成分および増殖パターンに与えるPEG溶液の効果を示す。a. 細菌膜成分に与える2種のPEG溶液の効果はSYTO9およびヨウ化プロピジウムから成る染色方法により評価した。いずれのPEG溶液も細菌膜透過性に影響を与えなかった。b. PA27853増殖パターンはPEGを含まないTSB培地(対照)と比較して2種のPEG溶液中で同一であった。 PEGに曝されたCaco-2細胞および細菌細胞の原子間力顕微鏡(AFM)写真を示す。a〜c. 培地だけ(a)、PEG 3.35を含む培地(b)、およびPEG 15-20を含む培地(c)におけるCaco-2細胞のAFM写真。PEG 3.35はCaco-2細胞上に滑らかなカーペット(b)を形成するのが観察されたが、PEG 15-20はトポグラフィー的に明確なカバー(c)を形成した。d〜f. PEG 3.35およびPEG 15-20中のPA27853のAFM写真。PEG 3.35は個々の細菌細胞の周りに滑らかなエンベロープ(e)を形成するが、PEG 15-20は個々の細胞をしっかりと抱きこむ(f)だけでなく、ポリマー/細菌の直径を増加し(g、h)、それによって個々の細菌をお互いから遠ざける。 図6はPA27853の分散/集合パターンに対するPEG溶液の効果を示す。dTC3ディッシュ中の細菌細胞の分散パターンを、Axiovert 100 TV蛍光倒立顕微鏡によりDICおよびGFP蛍光フィルターを用いて、63 Xの対物倍率で直接観察した。温度はBioptechsサーモスタット温度制御システムによって調節した。タングステンランプ(100V)をDICおよびGFP励起の両方に使用した。Intelligent Imaging Innovationsから入手した3D画像化ソフトウエア(Slidebook)を用いてZ平面の細菌細胞分散パターンをGFPフィルターを使い画像化した。Caco-2細胞を含まない培地中の均一に分散したプランクトン様の緑膿菌細胞がDIC画像(6a1)とZ平面再構築(6a2)で見られた。Caco-2細胞の存在のもとでは、細菌細胞は集合した外観(6b1)となり、Caco-2細胞と付着するのがみられた(6b2)。10%PEG 3.35が存在すると細菌の運動性が低下しかつキノコ形状の細菌の微小コロニーの即時形成を誘発し(6c1)、ウエルの底に付着した(6c2)。Caco-2細胞の存在のもとでは、細菌の微小コロニーは上皮細胞の平面上に8ミクロンのオーダーで存在した(6d1,2)。10% PEG 15-20が存在すると緑膿菌細胞の運動性は非常に低下した。それにも関わらず、PEG 15-20を含有する培地中で最初の0.5〜1時間インキュベーションの間、細菌細胞はウエルの底に近接してクモ形状の微小コロニーを形成した(6e1,2)。数時間内に、クモ脚形状の微小コロニーは培地の全空間/体積を占めた(示してない)。Caco-2細胞の存在のもとでは、緑膿菌細胞はクモ様配置を失い、上皮の平面上の高い位置に見られた(6f1,2)。 PEG15-20はマウスにおける放射線照射誘発型腸由来の敗血症を有意に減少することを示す。(A)実験設計とプロトコルの時間経過;(B)経口PEG15-20(p<0.001)n=10/グループの保護効果を示すKaplan-Mayer生存曲線。 マウス腸中のPEG 15-20の分布と保持を表す。(A)(i)5%ブドウ糖または(ii)5%ブドウ糖+1%フルオレセイン標識したPEGを飲用する生存マウスのXenogen IVIS 200画像;(iii)5%ブドウ糖または(iv)5%ブドウ糖+1%フルオレセイン標識したPEGを飲用するマウスの排便のXenogen画像である。(B)5%ブドウ糖(対照)または5%ブドウ糖+1%フルオレセイン標識したPEG(Fl-PEG)を飲用するマウスの盲腸および上行結腸の蛍光顕微鏡(SZX16 Olympus立体顕微鏡)である。(C)5%ブドウ糖(i)と対比して、5%ブドウ糖+1%PEG 15-20(ii)を飲用するマウスの腸の中腸区域の原子間力顕微鏡(AFM)画像である。(D)グループ(n=3)の間のAFM高度振れ測定値である(*p<0.05)。 PEG 15-20は、培養した腸上皮およびマウス上皮における、放射線照射誘発型アポトーシスを減弱することを示す。(A)細胞分析のための実験プロトコル。(B)グループ((n=5/グループ、*p<0.005)間における、IEC-18細胞における細胞質のヒストンに関連したDNA断片細胞死ELISAの結果。(C)TUNELアッセイにより検出したIEC-18細胞における核のDNA断片化(i)対照細胞;(ii)PEG 15-20だけで治療した細胞;(iii)5Gy放射線照射した細胞;(iv)5%PEGで1時間プレ治療して放射線照射した細胞。(D)(i)対照マウス、(ii)5%ブドウ糖を飲用する放射線照射されたマウス、および(iii)13Gyを放射線照射されかつ5%ブドウ糖+1%PEG15-20を飲用するマウスから得た腸上皮断面のTUNELアッセイ。白色の矢は陰窩細胞の核DNA断片化を示す。 IEC-18細胞におけるおよびマウス腸におけるp53発現を示す。(A)抗p53抗体および抗アクチン抗体を用いるIEC-18細胞の免疫ブロット(値は平均+SD、n=3、†p<0.005、*p<0.01である)。(B)治療グループ間のp53-対-核染色の比の平均値(平均+SD、n=10、*p<0.05)。(C)対照、(D)放射線照射されたマウス、および(E)PEGを飲用する放射線照射されたマウスから得た断面中のp53を評価する方法の代表的画像。 IEC-18細胞におけるおよびマウスの腸上皮におけるp21発現を示す。(A)抗p21抗体および抗アクチン抗体を用いるIEC-18細胞の免疫ブロット(値は平均+SD、n=3、†p<0.005、*p<0.01である)。(B)治療グループ間のp21-対-核染色に対する比の平均値(平均+SD、n=10、*p<0.05)。(C)対照、(D)放射線照射されたマウス、および(E)PEGを飲用する放射線照射されたマウスから得た断面中のp21を評価する方法の代表的画像。 培養された腸上皮細胞への緑膿菌付着に対するPEG 15-20の効果および上皮バリアを破壊するタンパク質PA-Iレクチン/付着因子の発現より判定した病原性を説明する。(A)緑膿菌 PAO1/EGFPの多重スタック画像のZ平面再構築であって、(i)放射線照射しなかった細胞、(ii)5Gyを放射線照射した細胞、および(iii)PEG 15-20により前処理して5Gyを放射線照射した細胞のIEC-18細胞表面との関係で、緑膿菌の空間配向を示す。(B)細菌のIEC-18細胞との直接接触中の発光により測定した緑膿菌PA01/lecA::luxにおけるPA-Iレクチン/付着因子の発現を示す。(C)様々な処置後のIEC-18 細胞から採集した培養上清に曝した緑膿菌PA01/lecA::luxにおけるPA-Iレクチン/付着因子の発現を示す。 腸の上皮細胞単層修復に対するPEG 15-20の効果を示す。機械的損傷を与えたIEC-18単層(実施例10を参照)を5%PEG 15-20(PEG)、50ng/ml上皮増殖因子(EGF)、または両方の組み合わせ(PEG+EGF)によって24時間治療するかまたは2分間治療し、洗浄し、次いで治療せずに24時間インキュベートした(PEG 2分間、EGF 2分間およびPEG+EGF 2分間)後に単層修復を測定した。
本発明はヒトを含む多くの哺乳動物を悩ませる、様々な放射線照射誘発型の微生物が介在する上皮の障害、すなわち異常症状および疾患を治療および/または予防するための簡便かつ経済的な手法をまとめて提示する生成物および方法を提供する。HMWポリエチレングリコールなどの高分子量極性ポリマーを、数多くの健康または生命を脅かす異常症状のいずれか、すなわち、腸由来の敗血症を含む上皮障害および疾患のリスクがある動物を含む、必要とする動物に投与することにより、最小限の費用と開業医の最小限の訓練で治療することができる。理論に束縛されることを欲することなく、本発明が提供する利点は、微生物が介在する上皮障害はかかる微生物を生存に導く環境を促進することにより首尾よく予防し、改善しまたは治療することができるという原理に一致している。以下のさらに詳細な本発明の説明は、本開示に使用する用語の以下の意味を最初に明確にすることによって容易に理解されよう。
「異常症状」は広く規定されていて、微生物が介在する障害を発症するリスクがある上皮表面により特徴づけられる哺乳動物の疾患、哺乳動物の障害および哺乳動物の健康の異常な状態が含まれる。微生物が介在する障害を発症するリスクがある上皮表面により特徴づけられる異常症状は、上皮表面が微生物が介在する障害を発症した症状を含むものである。例示の症状には、医療介入を必要とするまたは医療介入から生じるヒトの疾患およびヒトの障害、例えば熱傷傷害、新生児腸炎、重症の好中球減少症、炎症性腸疾患、腸疾患(例えば、重病の)、移植(例えば、器官)拒絶、および腹部放射線照射後の敗血症に導く胃腸毒が含まれる。
「熱傷傷害」は、例えば、裸火、水蒸気、熱湯、および熱表面の形態の熱への組織の曝露から生じる哺乳動物組織の損傷を意味する。
「重症の好中球減少症」は、循環中の好中球数の著しい減少の通常および慣用の意味である。
「移植拒絶」は、宿主生物によるその材料の究極的拒絶に関連すると認められる移植材料(例えば、ある器官)の発生を意味する。
「投与」は、当技術分野で認識された好適な手段による送達の通常かつ慣用の意味である。投与の例示の形態には、経口送達、肛門送達、直接穿刺または注射、局所施用、および噴霧(例えば、噴霧器による噴霧)、眼、耳、鼻、口、肛門または尿道開口部へのゲルまたは液施用が含まれる。
「有効用量」は、用量を受ける生物に対して有利な効果を与える物質の量であり、用量を投与する目的、用量を受ける生物のサイズおよび症状、ならびに有効用量の決定に関係すると当技術分野で認識された他の変数に応じて変わりうる。有効用量を決定する過程は当業者が知る通常の最適化手順に関わる。
「動物」は非植物、非原生動物の生物の通常の意味である。好ましい動物はヒトなどの哺乳動物である。
本開示の文脈において、「必要」はその状態により特徴付けられる生物への有効用量の投与から利益を受けることができる生物の器官、組織または細胞の状態である。例えば、腸由来の敗血症を発症するか、またはその症候を表すリスクのあるヒトは、本発明による医薬組成物などの産物の有効用量を必要とする生物である。
「平均分子量」は、組成物の成分(例えば、分子)の分子量の算術平均の通常かつ慣用の意味であり、その平均の決定の精度に関係ない。例えば、3.5キロダルトンの平均分子量を有するポリエチレングリコール、またはPEGは様々な分子量のPEG分子を含有しうる、ただし、これらの分子量の算術平均は、当技術分野で理解される算術平均の見積を反映しうる精度のレベルで3.5キロダルトンであると決定される。同様に、PEG 15-20はその分子量が上記注意事項に基づく算術平均により15〜20キロダルトンの算術平均となったPEGを意味する。これらのPEG分子には、限定されるものでないが、単純なPEGポリマーが含まれる。例えば、複数の比較的小さいPEG分子(例えば、7,000〜10,000 ダルトン)を任意にフェノールなどのリンカー分子で接続し、より高い平均分子量(例えば、15,000〜20,000 ダルトン)を有する単分子にすることができる。
「細胞膜完全性」は、当技術分野で理解されている、生存細胞の機能構成要素としての細胞膜の機能的に有意な改変が相対的に存在しないことを意味する。
「変化が検出される」は、当技術分野で理解されている、その環境下で好適な検出手法を用いて感知しうる変化の通常かつ慣用の意味である。
「増殖パターン」は、当技術分野で細胞増殖を特徴付けると認識されている細胞もしくは細胞群(例えば、細胞集団)の特性値、例えば、細胞の世代時間または倍加時間、細胞の新生群のトポグラフィの出現、および細胞もしくは細胞群の増殖パターンの理解に寄与すると当技術分野で認識される他の変数を総称する。
「抑制する」は、抑制する、低下させるまたは防止するという通常かつ慣用の意味である。例えば、形態学的変化を抑制するは、形態学的変化をより困難にするかまたは完全に防止することを意味する。
「PA-I、またはPA-Iレクチン/付着因子の発現」は、PA-Iレクチン/付着因子の特徴である活性の産生もしくは発生を意味する。典型的には、PA-Iレクチン/付着因子発現は、PA-Iレクチン/付着因子の特徴である少なくとも1つの活性を有するPA-Iレクチン/付着因子ポリペプチドを生じるPA-Iレクチン/付着因子をコードするmRNAの翻訳に関わる。場合によっては、PA-Iレクチン/付着因子発現はさらに、上記mRNAを生じるPA-Iレクチン/付着因子をコードするDNAの転写を含む。
「上皮誘発型活性化」は、上皮細胞の直接的または間接的影響を介する所与の標的(PA-Iレクチン/付着因子)の活性増加を意味する。本発明の文脈において、例えば、PA-Iレクチン/付着因子の上皮誘発型活性化は、上皮細胞の腸病原体との直接接触を介して現われる上皮の間接的影響に起因しうるポリペプチドの活性または発現の増加を意味する。
「形態学的変化」は、形態の変化というその通常かつ慣用の意味である。
「腸病原体」は、ヒトなどの動物において全部または部分に腸由来の敗血症を引き起こすことができる病原性微生物を意味する。当技術分野で公知の腸病原体はこの定義に包含され、それにはシュードモナス属(例えば、緑膿菌)などのグラム陰性桿菌が含まれる。
「改善する」はその通常かつ慣用の意味と一致し、重症度を軽減することを意味する。
「病原性クオラム(pathogenic quorum)」は、当技術分野で公知のように、クオラムセンシングシグナルを開始または維持するのに十分な病原性生物(例えば、緑膿菌)の数の凝集または連合を意味する。
「相互作用」は、2以上の生物学的産物、例えば、分子、細胞などの間の相互作用の通常かつ慣用の意味である。
「経上皮電気抵抗」またはTEERの表現は当技術分野で与えられた意味であり、上皮組織を横切る電気抵抗の測定値を意味し、上皮組織における上皮細胞間の密着結合の状態を評価するのに非排他的に有用である。
「付着」は、過渡的な期間より長く物理的に結合していることを意味する、通常かつ慣用の意味である。
「トポグラフィー的に非対称」は、非対称である3次元オブジェクト(例えば、細胞)の表面の画像、地図または他の表現を意味する。
「原子間力顕微鏡」は走査型力顕微鏡法としても公知であり、当技術分野で理解されているように、物質の高解像トポグラフィー画像を得る技法であって、ラスター走査でサンプルの表面を横切るカンチレバーで保持したプローブを有しかつプローブ偏向を検出する高感度手法を用いることによる前記技法である。
「医薬組成物」はヒト患者などの生存動物に治療薬を投与するための好適な化合物の製剤を意味する。本発明による好ましい医薬組成物には、粘度、電解質プロファイルおよび重量オスモル濃度のバランスがとれた溶液であって、電解質、デキストランをコーティングしたL-グルタミン、デキストランをコーティングしたイヌリン、ラクツロース、D-ガラクトース、N-アセチルD-ガラクトサミンおよび5-20%PEG(15,000〜20,000)を含む前記溶液が含まれる。
「アジュバント」、「担体」または「希釈剤」はそれぞれ当技術分野で与えられた意味を有する。アジュバントは共投与した免疫源の免疫原生の延長または増強を果たす1以上の物質である。担体は操作、例えば運ばれる物質の移動などを容易にする1以上の物質である。希釈剤は希釈剤に曝された所与の物質の濃度を低下させる、または希釈する1以上の物質である。
「HMW PEG」は3.5キロダルトンを超える平均分子量を有するものとして定義される相対的に高い分子量のPEGを意味する。好ましくは、HMW PEGは1キロダルトンを超える平均分子量を有し、そして特別な実施形態において、HMW PEGは少なくとも5キロダルトン、少なくとも8キロダルトン、少なくとも12キロダルトン、少なくとも15キロダルトン、および15〜20キロダルトンである平均分子量を有する。一実施形態において、少なくとも2つの炭化水素鎖を有し、それぞれの鎖は少なくとも40%のHMW PEGと疎水性コアを有し、前記疎水性コアは環構造、例えば1〜4環でそれぞれの環は5または6個の環炭素を有しかつ、限定されるものでないが、芳香環を含むものである。
さらに「HMW PEG」化合物はHMW PEG誘導体を含み、ここで、それぞれのかかる誘導体化合物は少なくとも1つのさらなる官能基が結合した一部分としてHMW PEG化合物を含有する。従って、「HMW PEG」化合物は非誘導体であるHMW PEG化合物とHMW PEG誘導体化合物を含む。好ましいHMW PEG誘導体はカチオン性ポリマーである。この「HMW PEG」化合物の定義は分子、例えば先行する文中で開示した好ましい実施形態の分子(この場合、少なくとも2つの炭化水素鎖と疎水性コアを含む「HMW PEG」化合物を、個人の見方に応じて、HMW PEG化合物またはHMW PEG誘導体化合物と名付けることができる)を特徴付ける際の混乱を避けるものである。ここに定義したように、かかる分子はそれが誘導体化されるまたはされないとみなされるかどうかに関わらず、HMW PEG化合物である。例示の官能基には、任意のアルコキシ系、好ましくはC1〜C10、任意のアリールオキシ系、フェニルおよび置換されたフェニル基が含まれる。かかる官能基はHMW PEG分子の末端または中央を含む任意の場所に結合してもよく、またかかる官能基には、より小さいPEG分子またはその誘導体を単一のHMW PEG様化合物に連結するのに役立つ官能基、例えば、フェニルおよびその置換基が含まれる。さらに、追加の官能基を有するHMW PEG様分子が1つのかかる基または2以上のかかる基を有してもよく、それぞれの分子もまた、追加の官能基の混合物を有してもよい、ただし、かかる分子は少なくとも1つの治療薬をその送達中に安定化するのにまたは上皮細胞の疾患、障害または症状を治療、改善、予防するのに有用なものである。
以下の実施例は本発明の実施形態を説明するものである。実施例1は高分子量PEGによって肝切除マウスに与えた、腸由来の敗血症に対する保護を記載する。実施例2はHMW PEGがいかにして腸上皮細胞への病原体付着を防止するかを開示する。実施例3はHMW PEGがいかにして病原性発現を一般に、かつPA-Iレクチン/付着因子発現を特異的に抑制するかを開らかにする。実施例4はPEGは増殖、または細胞膜完全性に影響を与えないことを示す。実施例5はHMW PEGコートを施した病原体のユニークなトポグラフィーコンフォーメーションを原子間力顕微鏡を用いて説明する。実施例6はHMW PEGにより影響される細胞-細胞相互作用を記載する。実施例7は本発明の組成物を用いる予防方法を記載する。実施例8は放射線照射された細胞を、放射線照射誘発型損傷からおよび/または微生物病原体から保護する方法を提供する。実施例9は本発明の治療方法などにおけるHMW PEGの投与をモニターする方法、および対応するキットを開示する。
(実施例)
HMW PEGは30%肝切除後の腸由来の敗血症を保護する
雄性Balb/c マウスに麻酔をかけ、通常のプロトコルを用いて肝切除の処置をした。柔らかな左葉沿いに肝臓の30%無血切除を実施した。対照マウスは肝切除を行わなず、肝臓を触診した。実験および対照グループはそれぞれ7匹のマウスを含有した。全マウスにおいて、体積200μlの107 cfu/mlの緑膿菌PA27853を生理食塩水、PEG 3.350またはPEG 15-20(PEG)のいずれかで希釈して直接針穿刺により盲腸の底部に注射した。比較的低分子量のPEGは市販されており:15,000〜20,000ダルトンの平均分子量を有するPEG 15-20はビスフェノールコアと共有結合したPEG 7-8とPEG 8-10の組み合わせである。PEG 7-8は7,000〜8,000ダルトンの平均分子量を有しかつPEG 8-10は8,000〜10,000ダルトンの平均分子量を有する。当業者は、HMW PEGが様々なPEGサブユニットを有する化合物を含み、各サブユニットはお互いにまたは1以上のリンカー分子と接続して(好ましくは共有結合して)任意の様々な平均分子量を有し、リンカー分子はPEG分子の接続体に好適な官能基を有する比較的小さい分子であることを理解するであろう。好適なリンカーはHMW PEGの生物学的活性を実質的に保存する(本明細書に開示した有利な予防または治療効果を実現するために十分な生物学的活性を保存する)。
48時間の実験の間、PEGの定常供給源を提供するために、注射針を小腸(回腸)中に挿して、1mlの生理食塩水、PEG 3.35またはPEG 15-20を近位の腸中に逆向して注射した。穿刺部位を絹縫合糸で結紮し、盲腸をアルコールで拭いた。マウスをケージに帰し、次の48時間はH2Oだけを与えた。
PEG 15-20に対する用量応答曲線を図1のパネルbに示す。a. PEG 15-20の統計的に有意な保護効果をフィッシャーの正確確率検定(P<0.001)により確認した。b. PEG 15-20の最小保護濃度は5%(P<0.05)であると確認した。c. 30%外科肝切除および1 x 107 cfu/mlのPA27853の直接盲腸注射後24時間の盲腸内容物(糞)、洗浄した盲腸粘膜、肝臓、および血液の定量的細菌培養を示す。一元配置のANOVAは肝切除後のマウスの盲腸内容物、粘膜、肝臓、および血液の細菌数の統計的に有意な増加を示した(P<0.001)。肝臓および血液細菌数の統計的有意な減少(P<0.05)がPEG 3350について観察される一方、PEG 15-20はPA27853がマウスの肝臓および血液へ播種するのを完全に防止した。
緑膿菌株ATCC 27853(PA27853)は血液培養からの非ムコイド臨床単離物である。予め30%無血外科肝切除処置をしたマウスにおける菌株PA27853の直接盲腸注射は、臨床敗血症の状態をもたらして48時間後に生存するものはなかった。同様に緑膿菌を注射した、肝切除なしの偽開腹術で処置したマウス(対照)は敗血症の臨床徴候が全く無く、生存した(図1a)。このモデルにおいて死亡率を予防または低下させるPEG溶液の能力を確認するために、200μlのPA27853を1 X 107 cfu/mlの濃度で2つの10%溶液のポリエチレングリコール(PEG 3.35-対-PEG 15-20)のうちの1つに懸濁した。PEG3.35を選んだのはこれが最近25年間、臨床用に利用できたPEG(Golytely(登録商標))の分子量を代表するからであった。対照的に、使用した本発明によるPEG溶液は15〜20kDaの分子量を有した。懸濁した菌株を盲腸中に直接穿刺により導入した。PEG3.35は肝切除後のマウスの死亡率に影響を与えなかったが、PEG15-20は完全に保護した。実際、PEG15-20は、フィッシャーの正確確率検定により確認すると、統計的に有意な保護効果を有した(P<0.001)。用量-応答実験は、5%溶液が完全に保護するPEG15-20の最小濃度である(P<0.05;図1b参照)ことを実証したが、5%未満のHMW PEG溶液もなんらかの保護を提供することが期待され、従って本発明の範囲に包含されることを当業者は認識するであろう。実験および対照マウスの細菌数について、一元配置の分散分析(ANOVA)は肝切除後のマウスの盲腸内容物、粘膜、肝臓、および血液中の細菌数の統計的に有意な増加を実証した(P<0.001)。肝臓および血液細菌数の有意な減少(P<0.05)がPEG3.35において観察される一方、PEG15-20はPA27853がマウスの肝臓および血液に播種するのを完全に防止した。PEG15-20は腸のPA27853の肝臓および血流への播種を完全に抑制した(図1c)。データはPEG溶液の作用が殺微生物的な機構に関わらないことを示す。哺乳動物細胞に対して無毒なPEG濃度(すなわち<約10%)であるので、細菌増殖パターンに影響を与えることはなかろう。
本実施例は、部分的肝切除の形で外科介入を受けたマウスにおいてHMW PEGが腸由来の敗血症に関わる死亡率を低下することを示す。このマウスモデルはHMW PEG療法が、侵襲性外科(例えば、部分的肝切除)などの生理学的ストレスを与えた動物種、例えばヒトなどの哺乳動物の死亡率を低下する(すなわち、任意の所与の生物における死亡の可能性を低下する)のに有用であることを示す。HMW PEG療法は、生理学的ストレスの後に(例えば、手術後の看護中に)実施すると、敗血症に関連する死または重病を予防する方法に有効であると期待される。さらに、ストレスの導入が予測可能である環境のもとで、HMW PEG療法を生理学的ストレスがかかる前に(例えば、手術前の看護に)用いて重病または死のリスクを低下することができる。HMW PEG療法はまた、腸由来の敗血症に関連する疾患または異常症状に伴う症候を改善するのにも有用である。
HMW PEGは腸上皮への病原体付着を防止する
密着結合(tight junction)は哺乳動物腸管のバリア機能に重要な役割を果たす上皮細胞骨格の動力学的エレメントである。緑膿菌は、Caco-2細胞およびT-84細胞の両方の経上皮電気抵抗(TEER)により測定した密着結合の透過性に重大な変化をもたらす。Caco-2細胞は培養において安定なTEERを維持する、よく特徴付けられたヒト結腸上皮細胞であり、この細胞株は腸病原体のin vivo挙動のin vitroモデルとして認められている。培養Caco-2単層のTEERの緑膿菌PA27853誘発型減少に対するPEGの保護効果を確認するために、1 X 107 cfu/mlのPA27853を、10%PEG 3.35または10%PEG 15-20の存在のもとで2つのCaco-2細胞単層上の頂端に接種した。TEERを連続的に8時間測定し、TEERの最大降下を記録した。
PEG15-20だけが緑膿菌誘発型TEERの低下に対して有意に保護した(図2a)。図2aに表したデータは1 x 107 cfu/mlのPA27853に対する8時間の頂端曝露中に観察された3つ組の培養(n=7)の基線からのTEER最大降下を平均±SEM%で示す。PA27853に曝したCaco-2細胞で示されたTEERの統計的に有意な減少が一元配置のANOVAにより表された(P<0.001)。PA27853により誘発されたTEERの降下に対する統計的に有意な保護効果がPEG15-20について実証された(P<0.001)。図2bはPEG3.35の存在のもとでPA27853へ頂端曝露したCaco-2細胞を示す。PEG3.35の存在のもとでの共培養の4時間後、局所に付着する細菌を表すCaco-2細胞単層の破壊が観察され、細胞が単層骨格の30〜40ミクロン上方に浮上している(図2b)。対照的に、PEG 15-20の存在のもとでのPA27853へ4時間頂端曝露したCaco-2細胞の画像を示す図2cは、試験したいずれの平面でも浮上する細胞の確証が見られなかった。Caco-2細胞完全性に対するPEG 15-20の保護効果は細菌付着の減少と関係があり、1 X 106 cfu/mlのPA27853への4時間曝露後の細胞上清中の細菌の回収は15倍だけ高いことに反映された。
PEG培養したヒト腸上皮細胞の緑膿菌によるバリア破壊効果に対する、TEERの維持により判定した耐性は、侵入病原体から攻撃される表面の密着結合バリア機能を安定化する実践的手法を提供する。さらなるPEG 15-20の治療価値の確証は、上皮輸送機能(Na+/H+交換、グルコース輸送)がこの化合物により影響を受けないことである。
従って、HMW PEGは腸上皮バリアに対して比較的不活性でありかつ安定化効果を有する。本発明は、哺乳動物、好ましくはヒトなどの動物に対してHMW PEGを投与することにより緑膿菌などの腸病原体に関連する腸バリア異常を治療する方法を包含する。腸バリア異常は当技術分野で公知の診断技法、または他の手法により明らかにすることができる。しかし、腸バリア異常をHMW PEG治療の前に同定する必要はない。HMW PEG治療に関連する低コストと高度の安全性によって、この手法は、好ましくはリスクのある生物に向けた予防施用、ならびに腸バリア 異常の特徴である少なくとも1つの症候を表す動物に施用する治療方法の両方にとって好適である。HMW PEG治療法は腸バリア異常に関連する一症候を改善しうる;好ましいことに、この方法は治療した生物から腸由来の敗血症の影響を軽減または排除しうる。
HMW PEGは病原体の病原性発現を抑制する
肝切除後にマウスの盲腸で緑膿菌PA27853中のPA-Iレクチン/付着因子の発現が増加し、マウス腸における緑膿菌の致死的効果に重要な役割を果たした。PA-Iはマウス腸においてPA27853の上皮への付着を加速することによりならびに細胞毒、外毒素Aおよびエラスターゼに対する有意なバリア欠損を創製することにより、有意な病原性決定因子として機能する。緑膿菌におけるPA-I発現は転写レギュレーターRhIRおよびそのコグネイト・アクチベーターC4-HSLにより調節される。PA27853中のPA-Iの発現はC4-HSLへの曝露により増加するだけでなく、Caco-2細胞、Caco-2細胞膜調製物、およびCaco-2細胞培養由来の上清との接触によっても増加する。
ノーザンハイブリダイゼーションを用いて転写レベルにおけるPA-Iの発現を分析した。改変3界面活性剤法(modified three detergent method)により緑膿菌の全RNAを単離した。プローブをPCRにより、PA-Iプライマー:F(ACCCTGGACATTATTGGGTG)(配列番号1)、R(CGATGTCATTACCATCGTCG)(配列番号2)および16Sプライマー:F(GGACGGGTGAGTAATGCCTA)(配列番号3)、R(CGTAAGGGCCATGATGACTT)(配列番号4)を用いて作製し、pCR2.1ベクター(Invitrogen、Inc.)中にクローニングした。インサートはPA-Iまたは16Sいずれかの配列とマッチする配列であった。PA-Iおよび16Sに対する特異的cDNAプローブはα32P-dCTPで放射標識を付した。特異的放射能をStorm 860ホスホルイメージャー(Molecular Dynamics、CA)により測定し、対照と比較した相対的な%変化をPA-Iおよび16Sの強度比に基づいて計算した。PA-Iタンパク質分析にはウサギのアフィニティ-精製ポリクローナル抗PA-I抗体を使用するウェスタンブロットを用いた。1mlの緑膿菌細胞をPBSで洗浄し、溶解バッファー中(4% SDS、50 mM Tris-HCl、pH 6.8)で100℃にて加熱し;トリシンSDS-PAGE後のタンパク質の電気泳動により免疫ブロット分析を実施した。PA-IレクチンはECL試薬(Amersham、NJ)により検出した。
緑膿菌PA27853を1mMのクオラムセンシングシグナル伝達分子C4-HSLへ曝すと、PA-Iタンパク質発現が統計的に有意に増加(P<0.001、ANOVA)し、その発現は10%PEG3.35の存在のもとで部分的に抑制され、かつ10%PEG15-20の存在のもとではるかに強く抑制された(図3)。C4-HSLが誘発するPA-I発現に対するPEG 15-20の最小完全抑制濃度は5%(P<0.01、ANOVA)であった。PEGの存在および非存在のもとでC4-HSLに曝した個々の細菌細胞の電子顕微鏡試験は、C4-HSLが緑膿菌の形状および線毛発現に形態的変化を引き起こすことを示した(図3b)。C4-HSLが誘発する形態学的効果は、PEG 15-20の存在のもとでは完全に排除されたが、PEG3.35の存在のもとでは完全に排除されなかった。ハロタイプ効果がPEG 15-20に曝されたPA27853周囲に見られた(図3b)。電子顕微鏡については、PA27853をTSB中で1mM C4-HSLおよび10%HMW PEGを用いてまたは用いずに接種し、一晩インキュベートした。1滴の1%緑膿菌を酢酸ウラニルで染色し、0.5M NaClで洗浄した後に電子顕微鏡下で試験した。PA27853を0.1 mMのC4-HSLに曝すと、ノーザンブロットを用いて評価したPA-I mRNA発現に、統計的に有意な増加(P<0.001、ANOVA)をもたらした。このPA-I発現は10%PEG 15-20により強く抑制された。図3dは、Caco-2細胞への4時間曝露により誘発されたPA-I mRNAレベルの増加はPEG 15-20により抑制されたが、PEG3.35により抑制されなかったことを示す(P<0.001 ANOVA)。
ここに提示したデータは、100μM〜1mMのC4-HSLにより誘発された、PA27853におけるPA-I発現(タンパク質およびmRNA)の有意な減弱(3〜4倍減少)は、細菌を10%PEG 15-20を用いて前処理したときに観察された(図3a)ことを示す。C4-HSLが誘発するPA-I発現の減弱はまた、PEG3.35についても観察されたが、その減弱の程度は10%PEG 15-20の場合より有意に少なかった。C4-HSLが誘発するPA-Iタンパク質発現を抑制したPEG 15-20の最小濃度は5%であった(図3b)。C4-HSLに曝した個々の細菌細胞の電子顕微鏡は、C4-HSLがPA27853の形状および線毛の形態学的変化を引き起こすことを実証した(図3b)。C4-HSLが誘発する形態学的影響は、PEG 15-20の存在のもとで完全に排除されたが、PEG3.35のもとではそうでなかった(図3b)。Caco-2細胞への4時間曝露が誘発するPA-I発現(mRNA)はPEG 15-20の存在のもとで抑制されたが、PEG3.35のもとでは抑制されなかった(図3b)。Caco-2細胞が誘発するPA-I発現に対するPEG 15-20による保護効果は一晩曝露の実験において持続した。
HMW PEGはまた、公知の刺激に応答する緑膿菌の病原性発現にも影響を与える。クオラムセンシングのシグナル伝達がこの病原体の病原性発現のよく確立された機構であれば、PA27853におけるC4-HSLが誘発するPA-I発現の減弱はPEG 15-20の主な保護効果でありうる。Caco-2細胞が誘発するPA-I発現に対してPEG 15-20が誘発する干渉は、PEG 15-20の保護効果の重要な態様であると予想される。PEG 15-20は、30%肝切除後のマウスから得た盲腸内容濾過物(糞)に応答する緑膿菌(PA27853)PA-I発現の減弱を介して、宿主動物に対する保護効果を有することが見出された。緑膿菌をその病原性発現を増加する宿主因子から遮蔽する、PEG 15-20の能力は、生物を腸由来の敗血症から保護するさらに他の機構であることが予想される。
従って本発明は、シュードモナス属の1つである腸病原体による病原性因子もしくは決定因子の発現により特徴付けられる症状を予防または治療するためのキットの形態の材料および対応するHMW PEGを動物に投与する方法を包含する。病原性決定因子は直接または間接に病原性に寄与しうる。間接的寄与の一例は、腸上皮への腸病原体付着および/または細胞毒、外毒素Aもしくはエラスターゼに対するバリア欠損の発生に与える緑膿菌のPA-Iレクチン/付着因子の効果である。
PEGは病原体の細胞増殖または細胞膜完全性に影響を与えない
2通りのPEG溶液(PEG 3.35およびPEG 15-20)の細菌膜完全性に与える効果をSYTO 9およびヨウ化プロピジウムから成る染色方法により評価した。いずれのPEG溶液も細菌膜透過性に影響も与えなかった(図4a)。膜完全性を生/死細菌の生存度キット(L- 13152; Molecular Probes)を用いて確認した。色々なインキュベーション時間に採取したサンプルの10倍希釈物をプレーティングすることにより細菌を定量し、細菌数をcfu/mlとして表した。2通りのPEG溶液を含有するTSB培地で一晩増殖した緑膿菌の増殖曲線は、いずれのPEG溶液による細菌量に与える抑制効果は無いことを示した(図4b)。実際、PEGを含有する培地のそれぞれにおける増殖パターンはPEGを含まないTSB培地の増殖パターンと識別できなかった。エネルギー代謝に関わるハウスキーピング酵素、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の活性を、増殖の指数および定常期の間の様々な時点で測定した。LDH活性は、CytoTox96(Promega)から入手した基質混合物を用いて結合ジアフォラーゼ酵素アッセイで測定した。タンパク質濃度はBCAタンパク質アッセイ(Pierce)を用いて決定した。PEGの存在のもとで増殖した緑膿菌の無細胞上清におけるLDH活性に変化はなかった。この実験結果は、HMW PEGが細菌増殖パターンに与える効果は無視しうることを示した。
本発明の方法および対応する製品(例えば、キット)は、腸フローラの組成に有意な影響を与えることなく、腸由来の敗血症に関連する疾患または異常症状を予防または治療する利益を提供する。同様に、本発明の方法および製品を用いて腸の微生物組成に有意な変化を与えることなく、かかる疾患または異常症状に関連する症候を改善することができる。当業者は、腸フローラの組成を有意に攪乱することのない方法(およびキット)は、かかる方法がかかる攪乱から生じる二次的な合併症を生じないと予想される限り所望されることを認識している。
PEGをコーティングした病原体の原子間力顕微鏡
一晩増殖したPA27853の培養の1%アリコートをトリプシン大豆ブロス(TSB)中で、10%HMW PEGを加えてまたは加えないで、4時間、37℃にて継代培養した。各継代培養の1滴を取り出し、緑膿菌PA27853細胞をPBSを用いて徹底的に洗浄し、雲母上で空気を吹き付けて10分間乾燥して直ちに撮像した。乾燥した細菌の画像をタッピングモードのAFMによって空気中でマルチモードナノスコープIIIA走査プローブ顕微鏡(MMAFM、Digital Instruments)を用いて実施した。サブコンフルエントなCaco-2細胞を10%HMW PEGで4時間処理し、PBSを用いて徹底的に洗浄した。細胞のAFM撮像をPBS中でO-リングを使わずに実施した。
Caco-2細胞の原子間力顕微鏡は、刷毛縁の微絨毛をもつ古典的な不均一表面を示す一方、PEG3.35に曝したCaco-2細胞は上皮細胞表面上に滑らかな平面の外観を示した(図5a、c)。PEG 15-20はトポグラフィーで規定された平面沿いに非対称物を満たしてCaco-2細胞を覆うように見え(図5e)、さらに複雑なトポグラフィーで規定された覆いを生じる。いくらか類似した様式で、PEG3.35に曝したPA27853細胞は、ポリマーが細菌細胞を拡散平滑パターンで滑らかにコーティングするパターンを示す(図6d)が、PEG 15-20は細菌をさらにトポグラフィー的に非対称な様式で囲んで抱き締めるように見える。PEG 15-20中の細菌直径の原子間力測定の横断面分析は、PEG溶液内の細菌/PEGエンベロープの有意な増加を示す(図5e、f)。言い換えると、PEG3.35は個々の細菌細胞周りに滑らかな外被を形成する(図 5e)が、PEG 15-20は個々の細胞を密着して抱き締め(図 5f)かつポリマー/細菌の直径を増加させ(図5g、5h)、それにより個々の細菌細胞をお互いから遠ざける。
理論に束縛されることなく、HMW PEGはその有利な効果を、緑膿菌を腸上皮から単に物理的に遠ざけることによって発揮することができる。あるいは、HMW PEGは病原性細胞の細胞−細胞間相互作用から生じる病原性クオラムセンシング活性化シグナルの形成を防止することによって利することができる。再び理論に束縛されることなく、HMW PEGによる生物学的表面のコーティングはコーティングするPEG鎖のコンフォーメーション自由度の喪失と接近するタンパク質の撃退をもたらすことが可能である。HMW PEGとCaco-2細胞の間の極性-極性相互作用はPEG鎖の弾性に影響を与え、ある特定のHMW PEG側鎖をタンパク質を撃退する分子構築物に束縛させることができる。ここに提示したデータは、HMW PEGコーティングしたCaco-2細胞はコーティングしないCaco-2細胞よりも緑膿菌をより遠ざけ、それはおそらく、HMW PEGのCaco-2細胞とのなんらかの動的相互作用の結果である「コンフォーメーションのエントロピー」の喪失に因るであろうという結論を支持する。
この実験結果は、HMW PEG治療は治療した細胞にその細胞の表面トポグラフィに著しく影響する効果を与えることを確かなものとする。さらに、かかる細胞に与えるHMW PEG曝露の効果はPEG3.35がかかる細胞に与える効果とは異なる。理論により束縛されるものでないが、本明細書に開示した結果はPEG3.35のような低分子量PEGと比較してHMW PEGが表す、細胞に与える著しく異なる効果の物理的相関物を提供する。
HMW PEGは細胞-細胞相互作用に影響を与える
PEG溶液の緑膿菌の空間的配向に与える効果を直接観察するために、高感度緑色蛍光タンパク質をコードするegfp遺伝子を運ぶ緑膿菌PA27853/EGFPの生菌株を用いて実験を実施した。実験はCaco-2細胞の存在および非存在のもとで実施した。細菌に与えるPEGの効果および細菌の培養上皮との相互作用に与えるPEGの効果の両方を撮像するために、微分干渉顕微鏡(DIC)とGFP撮像を用いた。
高感度緑色蛍光タンパク質をコードするegfp遺伝子は、テンプレートとしてpBI-EGFPプラスミド(Clontech)を用いて増幅した。XbaIおよびPstI制限酵素切断部位はプライマーTCTAGAACTAGTGGATCCCCGCGGATG(配列番号5)およびGCAGACTAGGTCGACAAGCTTGATATC(配列番号6)を用いて導入した。PCR産物をTA-クローニングキット(Invitrogen)を用いてpCR2.1ベクター中に直接クローニングし、次いでpCR2.1/EGFP構築物の大腸菌DH5a中への形質転換を行った。egfp遺伝子をこの構築物からXbaIおよびPstIによる消化によって切除し、切除した遺伝子を含有する断片を大腸菌-緑膿菌シャトルベクターpUCP24中にクローニングし、これを同じ制限酵素によって消化した。シャトルベクター中にegfp遺伝子を含有する構築物(すなわち、pUCP24/EGFP)を得て、これを25μFおよび2500VにてPA27853エレクトロコンピテント細胞中にエレクトロポレーションにより挿入した。PA27853/EGFPを含有する細胞を100μg/mlゲンタマイシン(Gm)を含有するLB-寒天プレート上で選択した。
PA27853/EGFPを保持する細胞を一晩100μg/mlGmを含有するLB中で増殖し、その培養の1%を用いて50μg/mlGmを含有する新鮮なLBに接種した。3時間の増殖後、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を加えて0.5 mMの最終濃度とし、培養をさらに2時間インキュベートした。100μlの細菌培養を、HEPESで緩衝化しかつ10%ウシ胎児血清(HDMEM HF)および10%HMW PEGを含有する1mlのHDMEM培地(Gibco BRL)と混合した。1mlの細菌懸濁液を0.15 mm厚さのdTC3ディッシュ(Bioptech)中に注いだ。0.15mm厚さのdTC3ディッシュ(Bioptech)に入れてHDMEM HF中で増殖した4日齢のCaco-2細胞(pl0-p30)を、HMW PEGを加えたまたは加えないHDMEM HFで一回洗浄した。前記の調製した細菌懸濁液の1mlをCaco-2細胞を含有するdTC3ディッシュに加えた。dTC3ディッシュ中の細菌細胞の分散パターンをAxiovert 100 TV蛍光倒立顕微鏡により、DICおよびGFP蛍光フィルターを用いて、63Xの対物倍率にて直接観測した。温度はBioptechs サーモスタット温度制御系で調節した。タングステンランプ(100V)をDICおよびGFP両方の励起用に用いた。Intelligent Imaging Innovationsから入手した3Dイメージングソフトウエア(Slidebook)を用い、GFPフィルターを使ってZ平面の細菌細胞分散パターンを撮像した。Caco-2細胞を含まない培地中に均一に分散したプランクトン様緑膿菌細胞がDIC画像(図6a1)およびZ平面再構築(図6a2)に見られた。Caco-2細胞の存在のもとで、細菌細胞は凝集した外観を表し(図6b1)、そしてCaco-2細胞に付着するのが見られた(図6b2)。10%PEG3.35の溶液は細菌の運動性を減少しかつウエルの底に付着するキノコ形状の細菌の微小コロニー(図6c1)の即時形成を誘発した(図6c2)。Caco-2細胞の存在のもとで、細菌微小コロニーは上皮細胞の平面の上、ほぼ8ミクロンにあった(図 6d1,2)。10%PEG 15-20の溶液は緑膿菌細胞の運動性を大きく減少した。それにも関わらず、PEG15-20を含有する培地での最初の0.5〜1時間のインキュベーションの間、細菌細胞は、ウエルの底に近接するクモ脚形状の微小コロニーを形成した(図 6e1,2)。数時間内に、クモ脚形状の微小コロニーは培地の全空間/体積を占有した。Caco-2細胞の存在のもとで、緑膿菌細胞はクモ脚様コンフィギュレーションを失い、上皮の平面の上方高く(30-40ミクロン)に上昇するのが見られた(図6f1,2)。
3次元における細菌の上皮細胞相互作用の空間配向を確認するために、Z平面再構築を実施した。画像は、2通りのPEG溶液は緑膿菌の凝集挙動に異なる効果を有し、Caco-2細胞の存在または非存在に応じて細菌の空間配向に微分的な影響を与えることを示した。培地単独の実験において、緑膿菌は均一に分散したパターンを提示するのが見られた(図6a)。しかし、Caco-2細胞の存在のもとで試験した細菌細胞は凝集した外観を表し、ウエルの底の上皮細胞の平面に隣接しているのが見られた(図6b)。PEG3.35単独の存在のもとで試験した細菌細胞は大きい凝集塊を形成し、培養ウエルの底に残存するが(図6c)PEG3.35を含有する培地においてCaco-2細胞と共に試験した細菌細胞は、上皮細胞の平面の上方(約8ミクロン)に懸濁されて残存し、その凝集した外観を維持した(図6d)。PEG 15-20単独の存在のもとで試験した細菌細胞は均一な微小凝集のパターン(図6e)を提示するが、PEG 15-20を含有する培地においてCaco-2細胞の存在のもとで試験した細菌細胞は凝集した形成の上皮の平面の上方高く(ほぼ32ミクロン)に懸濁された。時間分割した実験において、細菌運動性はPEG3.35により減少しかつPEG 15-20によりさらに大きく減少するのが観察された。
実施例5に開示した実験に類似した方式で、この実施例は、本明細書に開示した有利な予防および治療活性と一致したHMW PEGの細胞-細胞相互作用に与える効果を観察する物理的相関物を提供するものである。HMW PEGを使用することにより、腸における(例えば、腸上皮細胞と腸病原体、例えばシュードモナス属の間の)有害な相互作用を軽減し、腸由来の敗血症に関連する疾患および/または異常症状のリスクを軽減することが期待される。
疾患/異常症状を予防する方法
本発明はまた、ヒトおよび他の動物、特に他の哺乳動物における様々な疾患および/または異常症状を予防する方法を提供する。これらの方法においては、HMW PEGの有効量を、それを必要とするヒト患者または動物被験体に投与する。PEGは、当技術分野で公知の日常の最適化手順を用いて決定した投与スケジュールを用いて投与することができる。好ましくは、PEGは5,000〜20,000ダルトン、そしてより好ましくは10,000〜20,000ダルトンの平均分子量を有する。少なくとも5%のHMW PEGを投与することを考えている。HMW PEGを好適な剤形で、例えば、溶液として、ゲルまたはクリームとして、噴霧(例えば、吸入用の)に好適な溶液として、HMW PEGを含む医薬組成物で、ならびに動物へ注射するのに好適な無菌等張溶液で投与することができる。投与は任意の通常の経路を用いて実施することができ;HMW PEGを経口または局所に投与することが考えられる。いくつかの実施形態において、投与するHMW PEG組成物はさらに、デキストランコーティングしたL-グルタミン、デキストランコーティングしたイヌリン、デキストラン-コーティングした酪酸、フルクト-オリゴ糖、N-アセチル-D-ガラクトサミン、デキストラン-コーティングしたマンノース、ガラクトースおよびラクツロースからなる群より選択される化合物を含む。他の実施形態においては、投与するHMW PEG組成物はさらに、デキストランコーティングしたL-グルタミン、デキストランコーティングしたイヌリン、デキストラン-コーティングした酪酸、1種以上のフルクト-オリゴ糖類、N-アセチル-D-ガラクトサミン、デキストラン-コーティングしたマンノース、ガラクトースおよびラクツロースを含む。
本発明は様々な疾患および異常症状、例えば、外耳炎、急性または慢性中耳炎、換気装置に関連する肺炎、腸由来の敗血症、壊死性腸炎、抗生物質誘発型下痢、偽膜性腸炎、炎症性腸疾患、過敏性腸疾患、好中球減少性腸炎、膵炎、慢性疲労症候、腸内毒素症症候、顕微的大腸炎、慢性尿路感染、性感染症、および感染症(例えば、バイオテロ薬、例えば、炭疽菌、痘瘡ウイルス、病原性大腸菌(EPEC)、腸出血性大腸菌大腸菌(EHEC)、腸凝集性大腸菌(EAEC)、Clostridium difficile、ロタウイルス、緑膿菌、霊菌、Klebsiella oxytocia、Enterobacteria cloacae、鵞口瘡カンジダ、Candida globrataなどにより汚染された環境への曝露)を予防する方法を提供する。
慢性尿路感染を予防するまたはかかる感染を治療する方法の好ましい実施形態においては、HMW PEGを膀胱灌注の形態で送達する。性感染病予防については、本発明の組成を好ましくはコンドームを潤滑するのに用いる。バイオテロ薬による感染を予防する方法の好ましい実施形態においては、本発明による組成物を局所施用に好適なゲルまたはクリームの剤形で提供する。かかる局所施用は、いずれかのバイオテロ薬に関連するまたは、生存、健康または快適についてヒトまたは動物を脅かす様々な化学または物理化学薬に関連する様々な疾患/異常症状を予防するのに有用であると期待される。かかる化学または物理化学薬には熱傷もしくは他の方法で皮膚を傷付ける薬剤が含まれ、これらは不活性になるかまたは本発明の組成物にほとんど溶解しない。
予防方法の一実施形態においては、雄性Balb/c マウスを麻酔し、PEG 15-20の5%水溶液を直接穿刺により盲腸の基底に注射する。48時間の実験の間、PEGを定常的に供給するために、注射針を小腸(回腸)中に向けて1mlのPEG 15-20を近位の腸に逆方向に注射する。穿刺部位を絹縫合糸で縛り、盲腸をアルコールで拭く。マウスをケージに帰し、H2Oだけを与える。48時間後にマウスを、柔らかな左葉沿いの肝臓の30%無血切除に関わる通常の肝切除手順で処置する。対照マウスは肝切除を行わなず、肝臓を触診する。HMW PEGの投与に関わる予防治療は、マウスの外科に関連する腸由来の敗血症の発生を軽減または排除すると予想される。
これらの方法は、ペット、例えば、マウス、モルモット、イヌおよびネコなどの予防看護だけでなく、農業的に重要な動物、例えば、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、およびいずれかの順化した動物まで応用可能である。さらに、これらの予防法はヒトに応用可能であり、疾患および/または異常症状、例えば、外耳炎、急性または慢性中耳炎、換気装置に関連する肺炎、腸由来の敗血症、壊死性腸炎、抗生物質誘発型下痢、偽膜性腸炎、炎症性腸疾患、過敏性腸疾患、好中球減少性腸炎、膵炎、慢性疲労症候、腸内毒素症症候、顕微的大腸炎、慢性尿路感染、性感染症、および、限定されるものでないが、炭疽および痘瘡を含む感染性薬剤(例えば、バイオテロ組成物)による感染症を発症するリスクのある多くの患者または候補者の健康および平均余命を改善すると期待される。以上記載した予防方法は、少なくとも5%HMW PEG(5〜20kDa)を含む組成物の、公知のもしくは通常の投与経路によるヒトまたは他の動物への投与を含むものである。好ましくは、予防方法は1以上の上述の疾患および/または異常症状を発症するリスクのある個体に実施するが、本発明の組成物および方法は、ヒトもしくは他の動物の全集団またはサブ集団におけるかかる疾患もしくは異常症状を広く治療または予防するための予防または治療のいずれかの役割に有用であると考えている。
放射線照射された細胞を放射線照射誘発型損傷および/または微生物病原体から保護する方法
この実施例は、緑膿菌の存在により合併症化した放射線照射傷害から腸上皮細胞およびマウスを保護するHMW PEG15-20の能力を確立する実験結果を提供する。さらに特にこの実施例は、HMW PEGおよび同様の化合物が、上皮細胞アポトーシスを予防し、細菌の侵入を遮蔽し、そして哺乳動物を放射線照射および緑膿菌などの病原体への曝露後の死亡から保護することを確立するデータを提供する。ポリエチレングリコールおよびオキシドは固体表面を細菌の付着から遮蔽し、それによりバイオフィルム形成を防止することは公知である。さらに、非吸収HMW PEGコポリマーは緑膿菌の腸上皮細胞への付着に対して保護し、そして外科の機械的ストレス後のマウスの死亡率を低下することは公知である。
しかし、細胞の放射線への曝露は外科介入と類似した方式で細胞に機械的ストレスを与えるものではない。開示された報文は、比較的低分子量のPEG(PEG 200-600)を注射すると頭部および首の放射線照射に対していくらかの保護を提供することを確立している(米国特許第4,676,979号)。このグループはまた、より高い分子量形態のPEG(例えば、PEG 1,000、PEG 1,450、PEG 4,000およびPEG 20,000)は毒性により用量が制限され、希釈して注入可能な組成物を得なければならず、全身放射線照射に対する保護がなくなることを報じている(Schaeffer ら、Rad. Res. 107:125- 135 (1986))。
当技術分野の見方では、HMW PEGが真核細胞、例えば哺乳動物上皮細胞を微生物病原体(例えば緑膿菌)の有害な効果から(これらの哺乳動物細胞が放射線への曝露によりかかる効果に脆弱化されていたのに)保護することを見出したのは驚きであった。この結果は緑膿菌に曝した、放射線照射された腸上皮細胞および腹部放射線照射されたマウスに対して、HMW PEGが保護効果を提供することを確立する。
総じて、この実施例に記載した実験は、本文書全体に開示しかつ記載した材料および方法に一致した材料および方法に関わる。しかし、混乱を避けるために、この実施例に記載した実験で用いたある特定の材料と方法を以下に記載し、次いで実験結果とこれらの結果の意味の考察を開示する。
細菌株
緑膿菌株PAO1およびその誘導体、Placプロモーターの制御下で発現されるpUCP24プラスミドベクター上の緑色蛍光タンパク質(EGFP)をコードするegfp遺伝子を運ぶ菌株PAO1/EGFP、ならびにPA-Iレクチン/付着因子発光性レポーター菌株PAO1/lecA::luxを用いた。
培養上皮細胞株
ラット腸上皮細胞(IEC-18細胞、30-34継代)を全実験に用いた。IEC-18細胞は元来ラット腸の回腸由来であって、正常な腸の上皮細胞に観察される増殖特徴を提示する。in vitro条件下で、この細胞は接触抑制される細胞増殖を示し、軟寒天においてコロニーを形成せずそしてヌードマウスに注射したときに腫瘍化しない。IEC-18細胞を、10%ウシ胎児血清、10mMグルタミン、50U/mlペニシリン、および50μg/mlストレプトマイシンを補充したDMEMを含有するプラスチック培養フラスコ中で、37℃にて5%CO2-95%空気の加湿雰囲気中で通常通り培養した。細胞はCa2+およびMg2+を含まないリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の0.05%トリプシン-0.02%EDTAを用いて毎週、継代培養した。
高分子量ポリエチレングリコール(PEG 15-20)
本明細書でPEG 15-20と呼ぶ高分子量ポリエチレングリコール15,000-20,000Da(カタログ番号:P2263)はSigma(St. Louis、MO)から購入した。画像作成研究のために、未改変PEG 15-20をSigmaに特注したフルオレセイン(バッチ478-004-2、28-Nov-06)と融合し、Xenogen in vivoイメージングシステムを用いて可視化した。
経口摂取したフルオレセイン標識PEG 15-20のin vivo 画像作成
胃腸内のPEGのin vivo分布を評価する目的で、8週齢の雄性C57BL6マウス(n=3/グループ)のグループに、1週間、フルオレセイン標識PEG 15-20(1%溶液)を補充した無菌飲料水を与えた(IACUC プロトコル # 71744)。PEG 15-20溶液の嗜好性を高めるために、5%ブドウ糖を加えた。対照マウスには5%ブドウ糖を含む無菌水だけを与えた。全マウスに研究期間中、通常の咀嚼餌(チュウ)を許した。飲料を任意にとれる1週間の後、1%PEG 15-20溶液を中止し、全マウスに5%ブドウ糖を含む水を飲むことだけを許した。Xenogen IVIS 200 in vivo蛍光イメージングシステム(Optical Imaging Core Facility、University of Chicago)を用いて、PEG 15-20溶液の中止の日から開始してシグナルが得られなくなるまで、マウスの毎日の連続腹部画像を撮像した。撮像の前に、全マウスをケタミン/キシラジンの腹膜内注射で麻酔し、ナイール液で毛を除去してシグナル感受性を高めた。盲腸画像についてはマウスを犠牲にし、遠位の腸を除去し、管腔を生理食塩水で激しく洗浄した(10回、5mlで洗い流した)。画像はSZX 16 Olympus立体顕微鏡を用いて撮影した。
原子間力顕微鏡
IEC-18細胞をIEC増殖培地中でコンフルエント単層まで増殖し、次いで10%PEG 15-20を用いて4時間処理した。次いで細胞をさらなる増殖培地を用いて徹底的に洗浄し、タッピングモードの原子間力顕微鏡(AFM)を用いて撮像し、実施は空気中でMultimode Nanoscope MA走査プローブ顕微鏡によりO-リングを用いることなく行った(MMAFM;Digital Instruments, Woodbury, NY)。犠牲前の1週間、自由に飲用する5%PEG 15-20溶液または水道水を通常の咀嚼餌と共に与えておいたマウス(n=3/グループ)から、腸の組織セクションを収穫した。収穫した腸セクションは末端回腸および近位の結腸からの3mmサンプルを含んだ。セクションを長軸方向に鋭く解剖して開き、雲母上に管腔側を上に向けて置き、タッピングモードAFMを用いて撮像した。
培養した腸上皮細胞の放射線への曝露
IEC-18細胞を90%集密度まで24-ウエルプレート中で(引き続いてのアポトーシスアッセイ用に)またはガラス底培養ディッシュ(MatTek, Ashland, MA-01721 Part No. P35GCol-0-14-C コラーゲンコーティング)中でコンフルエントな単層へ増殖した。3つのグループの細胞を試験した:グループIは対照グループであって、標準IEC増殖培地で24時間インキュベートした細胞を含み;グループII(5 Gy)は5Gyの放射線照射(Co-60γ源から1.27Gy/分の用量比で発生)に曝し、引き続いて24時間増殖した細胞を含み;
グループIII(5%PEG+5Gy)は5%PEG 15-20へIEC増殖培地中で1時間頂端を曝し、次いで3回増殖培地で穏やかに洗浄し、5 Gyで放射線照射し、引き続いて24時間増殖した細胞を有した。増殖培地は全グループにおいて放射線照射前に変えた。
腹部放射線照射後の緑膿菌誘発型腸由来の敗血症のマウスモデル
放射線照射誘発型腸由来の敗血症のマウスモデルを8週齢の雄性C57BL6マウスを用いて開発した。IACUCプロトコル70931 & 71744のもとで、全マウス(n=10/group)の食を12時間断った後、x線発生放射線照射器から13Gy用量の腹部放射線照射を1回送達した。放射線照射後、続いて全マウスの食を断ったが、5%ブドウ糖を含む水溶液(対照)または5%ブドウ糖を含む1%PEG 15-20水溶液を48時間自由に飲用することを許した。次いでマウスに全麻酔(ケタミン/キシラジンのIP注射)のもとで外科開腹術を施し、107 CFU/mlの緑膿菌PAO1を含む10%グリセロール溶液200μLを27-ゲージのシリンジを用いて盲腸穿刺を介して直接接種した。盲腸注射後、腹腔を2層で閉じ、マウスを加温ランプのもとで回復させた。直接盲腸穿刺モデルは従来記載されかつ特徴付けられており、致死性腸由来敗血症の信頼しうるモデルである。術後、マウスの両グループの死亡率を観察し、それぞれの飲用溶液(5%ブドウ糖を含む水-対-5%ブドウ糖を補充した1%PEG 15-20を含む水)を維持し、そして外科後24時間に咀嚼餌に移行し、実験の残りの間、この条件下に維持した。全マウスを追跡し、日に2回敗血症の発生を観察した。可能であれば、マウスを犠牲にし、率直に敗血症(嗜眠、色素涙、液便、波だった毛(ruffled fur))および率直に瀕死である場合は死亡率として数えた。PEG 15-20の腸上皮アポトーシスおよびp53とp21の発現に与える効果を評価する実験では、限られた数のマウス(n=3)において開腹術および緑膿菌注射なしの再反復研究を実施し、この場合、マウスを放射線照射後24時間に犠牲にした。
細胞死とアポトーシスアッセイ
細胞死ELISAキット(細胞死検出ELISAPLUS、Roche Molecular Biochemicals)を用いて細胞質ヒストンに関連するDNA断片を検出した。放射線照射後24時間に、IEC-18細胞を溶解バッファー(890μl ddH20、10μlの1M Tris-HCl、pH 8.0、5μlの1M MgSO4、5μl RNAse、5μl DNAse、100μlの10 x 完全プロテアーゼインヒビターカクテル、Roche)で処理し、20μlの細胞溶菌液をELISAに使用した。核DNA断片化をTUNELアッセイ(in situ細胞死検出キット、POD(ペルオキシダーゼ)、Roche Diagnostics-カタログ番号11684817910)を用いて検出した。概要を説明すると、IEC増殖培地を捨て、細胞を4%ホルムアルデヒドに固定し、0.2%Triton X-100で透過化処理し、TdTインキュベーションバッファーで60分間、37℃にて加湿インキュベーター中で処理して3'-OH標識を施した。染色した細胞を蛍光共焦点顕微鏡を用いて分析した。
マウス腸上皮のTUNELアッセイとヘモトキシリン&エオシン(H&E)染色
対照、5Gy-放射線照射したまたはPEG-前処理して5Gy-放射線照射したマウス回腸の通常の5μmパラフィンセクションを調製した。TUNELアッセイをin situ細胞死検出キット、POD(Roche Applied Science)を用いて実施した。
p53とpll発現の検出
腸上皮IEC-18細胞におけるp53発現およびp21発現を、適宜、抗p53抗体(ヒト起源のp-53のアミノ酸156-214に対して生じるsc-99マウスモノクローナル抗体、Santa Cruz Biotechnology)および抗p21抗体(Santa Cruz Biotechnology)を用いる免疫ブロットにより確認した。IEC-18細胞単層を5-Gyの放射線に曝し、そして5%PEG 15-20を伴うかまたは伴わない増殖培地中で24時間インキュベートした。その後、細胞を採集し、本明細書に記載の細胞溶解バッファーを用いて溶解した。細胞溶解液中のタンパク質濃度をBioRad標準タンパク質試験試薬(Hercules、CA)を用いて確認した。溶解液中のタンパク質(25μg/ウエル)を10%SDS-PAGEにより分離し、次いで二フッ化ポリビニリデン(PVDF)膜(Polyscreen; NEN, Boston, Mass.)を含む1x Towbinバッファー(25mM Tris、192mMグリシン[pH 8.8]、10%[vol/vol]メタノール)に移した。全ての膜を5%(wt/vol)脱脂乾燥乳を含むTween-Tris緩衝化生理食塩水(T-TBS;150mM NaCl、5mM KCl、10mM Tris[pH 7.4]、0.05%[vol/vol] Tween 20)中でブロックした。ブロットを一晩4℃にて、抗p53または抗p21抗体で、適宜、インキュベートした。膜を次いで5回、T-TBSで洗浄し、抗マウス西洋わさびペルオキシダーゼ-コンジュゲートした二次抗体と1時間、室温でインキュベートし、次いで、4回T-TBSでかつ1回Tris緩衝化生理食塩水で洗浄した。SuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate(Pierce Chemical、Rockford、IL)システムを用いて目的のバンドを可視化した。マウス腸組織におけるp53およびp21の発現を免疫組織化学により確認した。水-対-1%PEG 15-20水溶液を飲用するマウス(n=3/グループ)を、放射線照射(腸の緑膿菌接種なしに)後、24時間に犠牲にし、全部で10個の3mm腸横断面を各マウスの遠位回腸および近位結腸から直ぐに収穫した。組織サンプルを直ぐに10%ホルマリン溶液中に置いて次いでパラフィンに包埋した。横断面のスライドをH&E(ヘマトキシリン&エオシン)、抗p53抗体、または抗p21抗体のいずれかで染色した。熟練した病理学者がp53-対-核の染色比およびp21-対-核の染色比をACISソフトウエア(Automated Cellular Imaging Software)を用いて盲検様式で計算した。
IEC-18細胞に対する緑膿菌の空間配向
放射線照射した細菌の付着を防止するPEGの能力を、ガラス底培養ディッシュ(MatTek、Ashland、MA-01721 Part No. P35GCol-0-14-C、コラーゲンをコーティング)で増殖して緑色蛍光タンパク質(PAO1/EGFP)を産生する緑膿菌に頂端曝露したIEC-18細胞を用いて試験した。概略を説明すると、放射線照射後24時間に、100μLの緑膿菌株PAO1/EGFP(107 CFU/mL)を1mLの増殖培地を含有する各ガラス底培養ディッシュに加えた。Placからのegfp遺伝子の発現を0.5mMイソプロピルチオガラクトシドにより誘発させた。リアルタイム画像作成を、レーザー走査共焦点顕微鏡(Leica、モデルTCS SP2 AOS)を用いて実施し、GFPフィルターを用いてZ平面分散パターンを画像化した。画像は一連の連続Z-スタックを作製し、GFP-タグ付き細菌のIEC-18細胞単層との時間に応じた付着の評価を可能にした。Z-スタックデータを、アメリカ国立衛生研究所から入手可能なImage Jソフトウエアを用いて解析した。
統計解析
データの全ての統計解析はMicrosoft ExcelおよびSigma PlotソフトウエアによるStudentのt-検定および分散分析(ANOVA)を用いて実施した。Kaplan-Meier 生存 分析はSPSS 15.0ソフトウエアを用いて実施した。
これらの実験結果はいくつもの事実を明確にし、それには、PEG 15-20が放射線照射誘発型腸由来の敗血症を保護するという確証が含まれる。腹部放射線照射後の腸由来の敗血症の自然歴を総括するために、C57BL6マウスの腹腔に13Gyを放射線照射し、専用水源として5%ブドウ糖(D5W)またはPEG 15-20を補充したD5Wを飲用するように割り当てた。48時間後、マウスの腸に緑膿菌を直接接種(開腹術を介する盲腸注射)をして、保護的プロバイオティクス・フローラの喪失と優勢なグラム陰性の日和見病原体の過増殖が存在する腹部放射線照射の臨床効果を模倣した。死亡率を3週間までフォローした。図7Bに見るように、生存曲線はマウスがPEG 15-20を飲用した場合、D5Wだけと比較して死亡率に対する大きい保護効果を示した(n=10、p<0.001)。13Gy腹部放射線照射だけ(緑膿菌無しに)を受けた対照マウスは第25日に20%死亡率を示し;緑膿菌とPEG 15-20の両方を受けた放射線照射マウス(n=10、P=NS)と有意差の無いという結果であった。
このデータはまた、経口投与したPEG 15-20が胃腸管腔表面をコーティングする保護効果を提供することも確立した。胃腸分布および経口摂取したPEG 15-20のin vivo保持を確認するために、マウスにフルオレセイン標識したPEG 15-20(Fl-PEG)の1%溶液を7日間飲用させた。次いでそのPEG溶液を断ち、マウスに通常の食を与え、in vivo 蛍光撮像(Xenogen)を毎日行った。図8Aは5%ブドウ糖を含有する対照溶液(図8A-i)またはFl-PEGの1%溶液(図8A-Uii)を消費した生マウスのinvivo画像を示す。
1%Fl-PEGを飲用する動物は胃腸の複数の領域にポリマーの分布を提示し、それには口(咽頭)、中腸/後腸、および排便内が含まれる。蛍光顕微鏡により撮像したex vivo腸セグメント(図8B)は、前記飲用の中止後7日まで、腸の長さ方向に沿って蛍光の保持の持続を示した。以上の知見が上皮表面上のPEG 15-20の存在を表すかどうかを確認するために、マウス腸の中腸をD5W単独またはD5WとPEG 15-20のいずれかを飲用するマウスから収穫し、湿ったセグメントの原子間力顕微鏡(AFM)を用いてポリマーの存在の関数として上皮表面からの偏差の高さを確認した(図 8C-D)。HMW PEG(PEG 15-20)を飲用するマウスはトポグラフィー的に粘膜表面と異なる外観および有意に高いAFM測定値の偏差を有した。
データはさらに、PEG 15-20がp53とp21に関わる経路を介する上皮細胞アポトーシスに影響を与えることを示す。PEG 15-20の上皮細胞アポトーシスに与える直接効果を確認するために、IEC細胞をHMW PEGに1分間または1時間頂端曝露した後に3-5Gy放射線へ曝露し、次いで24時間後に標準TUNELおよびELISA細胞死アッセイを用いて細胞死およびアポトーシスを試験した。対照細胞は培地単独、培地+放射線照射、または培地+PEG+放射線照射なしで処置した。例示のプロトコルを図9Aに総括した。予想しうるように、5Gy放射線に曝したIEC細胞はELISAにより測定すると細胞質ヒストンに関連するDNA断片を形成し(*p<0.001)(図9B)、この効果はIECをPEG 15-20で前処理したときに著しく減弱した。TUNELアッセイはこの知見を確証した(図9C)。腹部放射線照射(13Gy)の24時間後に得たマウス回腸について実施したTUNELアッセイは、類似したPEG 15-20の保護効果を示した(図 9D)。放射線照射誘発型上皮細胞アポトーシスは、HMW PEGに曝すと、対照と対比して80%だけ低下した(図9)。放射線照射したIEC-18細胞は緑膿菌付着による高度の侵入を示し、この付着はHMW PEGによって有意に減少した(図12A)。腸に緑膿菌が存在すると腹部の放射線曝露の死亡率は有意に変化した(図7)。HMW PEGはこの影響に対してマウスを有意に保護した(図7)。
放射線照射誘発型アポトーシスに対するPEG 15-20の保護がp53とp21経路に関わることを確認するために、両方のマーカーの再反復in vitroおよびin vivo免疫組織化学的分析を、図9Aに従って処理した放射線照射されたIEC細胞について、ならびに、5%ブドウ糖単独を飲用する非放射線照射の対照マウス、腹部放射線照射(13Gy)で処理したマウス、およびD5W+PEG 15-20を飲用する腹腔放射線照射したマウスから24時間に得た回腸セグメントについて実施した。放射線照射したIEC細胞はp53レベルの増加を示したが、驚くことに、PEG 15-20は、培養IEC細胞およびマウス回腸セグメントにおいてさらなるかつ有意なp53レベルの増加を生じた(図10A〜E)。p53の増加は傷害に対して保護するかまたは前アポトーシス経路をトリガーすることができるので、再反復研究を実施して処理グループ間のp21レベルの変化を評価した。p53パターンに類似するp21パターンはPEG 15-20に対するin vitroおよびin vivo両方での応答において観察されたので、PEG 15-20の保護効果はp53とp21の活性化に、増殖停止およびDNA修復をもたらす様式で関わることを示した(図11A〜E)。
X線小角散乱分析(SAXS)を用いて、どのようにHMW PEGがリン脂質二重層と相互作用するかを、モデル化した整然とした二重脂質膜を使って確認した。2mol%PEG 15-20によって40±2℃にて調製したサンプル上に採取したSAXSパターンは、q=0.114および0.226Å-1に位置する2つのBraggピークを示し、55.1Åの周期性をもつ1-D層状(二重層)スタックを表す。この観察は、HMW PEGが脂質二重層と2つの対称なPEGブロックを膜-水の界面全体に(表面からそれほど突出しないで)側方に向けるように会合して、脂質二重層全体にポリマーコートを生じることを示唆する。さらに、SAXSプロファイルにおける狭い回折ピークと他の特徴の欠落は単相の存在を示唆し、ポリマーが、事実上、脂質混合物中に組込まれていることを意味することが認められた。HMW PEGが膜-水界面全体に側方に位置することは、バリア形成および腸粘膜の広汎な表面領域の保護にとって理想的なコンフォーメーションの状態である。
HMW PEGは二重脂質膜中に組込まれるので、細胞アポトーシスに重要な役割を果たすPEGの脂質ラフト融合に与える効果、放射線曝露後に起こることが知られる形態学的変化を試験した。対照細胞における脂質ラフト分布の画像は、膜内にほとんど集中した典型的な平らな分布を示した。非放射線照射の対照細胞を5%PEGにより処理すると、脂質ラフト分布が変化し、拡散して分布しかつ分散されるように見えた。上皮細胞を放射線照射し(5Gy)緑膿菌に曝すと、脂質ラフト融合が観察された。細胞の緑膿菌への曝露または放射線照射だけでも脂質ラフト融合を引き起こすが、その程度は低かった。放射線照射と緑膿菌への曝露前に5%PEGを用いて前処理すると、観察された融合が阻止されて劇的な蛍光の分散パターンを生じた。従って、PEGの保護効果は、脂質ラフト、p53およびp21を介する抗アポトーシスのシグナル伝達に関わるようである。具体的には、脂質ラフトは、それを介して放射線照射傷害と緑膿菌が共同して細胞アポトーシスの過程を加速する主な開始標的であるらしく、そしてまた、HMW PEGが保護作用をする部位であるらしい。
実験結果はまた、PEG 15-20が培養腸上皮細胞の頂端表面上の保護効果を維持しかつ緑膿菌の病原性発現を抑制することを確立した。PEG 15-20は代用ムチンとして作用し、細菌が上皮細胞表面に侵入するのを防止できる。これと一致して、HMW PEGの細菌細胞侵入に対する保護効果を蛍光標識緑膿菌を用いて別に試験すると、HMW PEGは上皮細胞バリアの緑膿菌侵入のレベルを低下した。さらにHMW PEGは、外科傷害時にマウスの腸管腔に存在すると、緑膿菌がクオラムセンシング分子に応答して病原性遺伝子を発現する能力に対して有意な効果を有するようである。これらの効果が現モデルで観察されるかを確認するために、5Gy放射線に曝したIEC細胞への細菌侵入を防止するPEG 15-20の能力を試験した。その結果は、放射線照射したIEC細胞の頂端表面が非放射線照射の(対照)細胞と比較して、緑膿菌によって速やかかつ濃密にコロニーが形成されることを実証した。図9Aに総括したように、IEC細胞をPEG 15-20により前処理すると、緑膿菌は細胞の頂端表面から可視距離を維持し、その効果は1時間まで観察された(図12A)。最後に、PEG 15-20の存在のもとで増殖した緑膿菌細胞は、PA-Iレクチン/付着因子(強力な上皮バリアタンパク質)を発現する能力が、図12Bおよび12Cに示すように著しく減弱された。また、HMW PEGは細菌増殖速度に対して影響を与えなかった。
PEG 600より高い平均分子量のPEGは細胞を放射線照射に対して保護する効果を有しないという先に引用した教示とは対照的に、本明細書で開示した研究は、HMW PEG分子が、哺乳動物の腸において放射線照射保護剤として、ならびに上皮バリア機能および細胞骨格構造を保存する薬剤としての使用を促進するユニークな特性を有しかつ放射線照射誘発型上皮細胞アポトーシスに対して保護することを確立する。
HMW PEGの投与をモニターする方法
本発明は、また例えば治療方法におけるHMW PEGの投与をモニターする方法を包含する。前記モニタリング方法においては、標識HMW PEGを単独でまたは非標識HMW PEGと組み合わせて投与し、この標識を単純な終点決定などの連続的または断続的スケジュールで治療中に検出する。用語「標識」HMW PEGは、標識または検出可能な化合物がHMW PEGに直接または間接的に結合しているか、またはHMW PEGが標識をHMW PEGと関係付けることができるレポーター化合物に結合していることを意味する(もちろん、HMW PEGに結合していないかまたはそれと関連付けるように設計された標識も後述のように本発明に包含される)。HMW PEGは当業界において知られる任意の検出可能な標識を用いて標識化され、PEGはそれを検出するのに十分な濃度で標識化される。当業者は、そのレベルが標識および検出方法に応じて変化することを認識するであろう。当業者は通常の最適化手順を用いて標識化の程度を最適化できるであろう。標識は、非共有結合または使用、特に保存の際に安定である共有結合によってHMW PEGに化学的に結合される。HMW PEGに共有結合した標識が好ましい。標識結合の密度はHMW PEGの生物活性を実質的に保持するように調節される(本明細書に開示した有益な予防または治療効果を実現するのに十分な生物活性の保持)。これは、典型的には当技術分野で知られるようにHMW PEG:標識比を調節することによって達成される。HMW PEGの相対的な平均分子サイズであれば、広範囲の標識がその生物活性を実質的に保持してHMW PEGに結合するのに好適であると予想される。
本発明が考慮している標識は当業界で公知の標識であり、例えば放射標識、発色団、フルオロフォアおよびレポーター(検出可能な化合物の生成を触媒する酵素およびレポーター近くの検出可能な化合物に局在化する抗体のような結合パートナーを含む)などが挙げられる。例示の酵素レポーターとしては、発光システムの酵素成分および比色反応の触媒が挙げられる。さらに特に、例示のレポーター分子としては、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンおよび酵素(例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、例えば分泌性アルカリホスファターゼ(SEAP)、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)が挙げられる。かかるレポーターの使用は当業者に周知であり、例えば米国特許第3,817,837号、第3,850,752号、第3,996,345号および第4,277,437号に記載されている。レポーター酵素によって検出可能な化合物に変換され得る例示の酵素基質としては、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルβ-D-ガラクトピラノシドまたはXgalおよびBluo-galが挙げられる。当業界で理解されているように、検出可能な化合物に変換できる化合物として、酵素基質もある特定の実施態様において標識でありうる。標識およびその使用方法を教示する米国特許としては、米国特許第3,817,837号、第3,850,752号、第3,939,350号および第3,996,345号が挙げられる。例示の放射標識は、3H、14C、32P、33P、35Sおよび125Iであり;例示のフルオロフォアは、フルオレセイン(FITC)、ローダミン、Cy3、Cy5、エクオリンおよび緑色蛍光タンパク質である。好ましい標識はフルオレセインなどのフルオロフォアである。
本発明のモニタリング方法は、また2以上の標識を含んでもよい。一実施態様において、1つの標識は治療後または治療中のHMW PEGの位置を同定するのに役立つ一方、第2の標識は、その標識が少なくとも1つの微生物の検出に関わる限り1以上の微生物に特異的である。例えば、モニタリング方法は、HMW PEGの生物活性を実質的に保存する様式でHMW PEGと結合したフルオレセインを含み、原核生物特異的βガラクトシダーゼ活性の検出用のXgalまたはbluo-galを含まない(すなわち、結合していない)ものであってもよい。フルオレセインはHMW PEGに局在化する一方、着色(青色)生成物はシュードモナス属などのラクトース代謝性の原核微生物の存在を示す。本発明はまた、単一標識がこの情報(すなわち、HMW PEGの位置および微生物の存在の表示)を提供するモニタリング方法も含む。
当業界で公知の任意の検出方法を本発明のモニタリング方法で使用することができる。いくつかの因子が選択する検出技術に影響を及ぼし、それらの因子には標識のタイプ、モニタリングに供する生体材料(例えば、皮膚、外耳道または腸の表皮細胞、便、粘液または組織サンプル)、所望の識別レベル、定量化を期待するかどうかなどが含まれる。好適な検出技術としては、肉眼による単純な目視検査、必要に応じて好適な光源および/または記録用カメラを備える内視鏡などの器具による目視検査、ガイガー計数管の通常の使用、X線フィルム、シンチレーションカウンターなど、および当業界で公知の任意の他の検出技法が挙げられる。
当業者は、本発明のモニタリング方法が治療方法を最適化するのに有用であることを認識するであろう。例えば、あるモニタリング方法を用いて、外耳炎を予防または治療するために外耳道の上皮細胞などの上皮細胞に送達するHMW PEGの量および/または濃度を最適化する(例えば、HMW PEGの溶液または混合物に対する所望の粘度を達成する)ことができる。さらなる例として、腸の最適化または腸治療は標識したHMW PEGに曝した腸の内視鏡検査または便サンプルのモニタリングによって促進される。
本発明のモニタリング方法は、腸上皮細胞に付着できる微生物についての便検査を含み、この検査は微生物と腸上皮細胞を接触させるステップ、および微生物の上皮細胞への付着を当業界で公知の技術を用いて検出するステップを含む。好ましい実施態様においては、腸上皮細胞をマイクロタイターウエルの底および/または側面などの好適な表面に固定する。他の好ましい実施態様においては、直接標識または検出可能な生成物を生成することができるレポーターなどの間接標識を検出ステップの前、または検出ステップ中に加える。モニタリング方法は、さらに遊離標識の添加を含んでもよい。例えば、遊離Bluo-galを、ラクトース代謝性の原核微生物を含有すると思われるサンプルに添加し、もし存在すれば、微生物酵素β-ガラクトシダーゼはBluo-galを切断して検出可能な青色生成物を生じるであろう。
一実施形態においては、市販の腸上皮細胞(例えば、Caco-2細胞、ATCC HTB 37、および/またはIEC-6細胞、ATCC CRL 1952)を、通常の方法を用いてマイクロタイターディッシュのウエルに固定する。便サンプルを採集し、リン酸緩衝食塩水などの液体と混合する。懸濁した微生物を含む混合物の液相を得て(例えば、好適な濾過(すなわち、懸濁液中の細菌から固体全体の分離)、デカンテーションなどによって)、PBSで1:100に希釈する。Bluo-galを生微生物の懸濁液に加える。微生物の懸濁液をマイクロタイターのウエルに加えて24℃で1時間後、そのウエルを好適な流体(例えば、PBS)で洗浄して、無結合の微生物を除去する。固定した上皮細胞に結合していないおよび/または結合した微生物を、例えば偏光顕微鏡を用いて計数することによって検出する。別の実施形態においては、好適な免疫学的試薬を使ってイムノアッセイを用いて付着を検出し、前記試薬は、任意に、放射標識、フルオロフォアまたは発色団などの標識を結合した微生物特異的モノクローナルまたはポリクローナル抗体である。
かかる固定は上皮細胞へ付着する微生物の正確な検出を促進するが、当業者は、腸上皮細胞または微生物のいずれも固定する必要がないことを認識するであろう。例えば、一実施形態においては、固定した便微生物を、固定してない腸上皮細胞と接触させる。さらに、当業者は、当業界で公知の任意の好適な液体を用いて微生物懸濁液を得ることができ、好ましい液体は任意の公知の等張性バッファーであることを認識するであろう。また、上記のとおり、任意の公知の標識を用いて細胞付着を検出することができる。
関連する態様において、本発明は微生物細胞付着を試験するキットであって、上皮細胞および上皮細胞への微生物細胞付着を試験するプロトコルを含むものである前記キットを提供する。プロトコルは、微生物を検出する公知の方法を記載する。好ましいキットは、腸上皮細胞を含む。本発明の他のキットは、さらにフルオロフォアまたはレポーターなどの標識を含む。
本発明に含まれる他のモニタリング方法は微生物疎水性の試験である。この方法において、微生物細胞の相対的または絶対的疎水性は任意の従来技術を用いて決定する。例示の技術は、任意の微生物の疎水性相互作用クロマトグラフィーへの曝露に関わり、当技術分野で公知である(参照によりその全てが本明細書に組み込まれるUkukuら, J. Food Prot. 65: 1093-1099 (2002)を参照されたい)。他の例示の技術は任意の微生物の非極性:極性液分配(例えば、1-オクタノール:水またはキシレン:水)である。
PEG投与をモニターする疎水性試験の一実施形態においては、0.15M NaClを含有する50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)に便サンプルを懸濁する。懸濁液中の微生物を遠心分離法により採集し、同じ緩衝液に再懸濁し、そしてこの遠心分離-再懸濁サイクルを繰り返す。可能であれば、微生物を同じ緩衝液に再懸濁して660nmで0.4の吸光度にする、これによって分光光度法で標識PEGを用いずにモニタリングできるようになる。微生物懸濁液をキシレン(2.5:1(v/v)、Merck)で処理し、懸濁液を2分間激しく混合し、懸濁液を20分間室温で静置して沈殿させる。次いで、例えば660nmの吸光度の分光光度法による測定によって、水相中の微生物の存在を確認する。リン酸ナトリウム緩衝液を含有するブランクを用いてバックグラウンドを除去する。
これらの方法で用いる便サンプルから微生物細胞を得る際に、HMW PEGは微生物懸濁液を得るのに用いる液および微生物懸濁液を希釈するのに用いる任意の液に比較的不溶性であることが好ましい。
本発明はさらに、微生物疎水性の試験を含むモニタリング方法を実施するキットであって、腸上皮細胞および微生物疎水性の測定を説明するプロトコルを含むものである前記キットを提供する。好ましいキットは腸上皮細胞を含む。関連するキットは、さらにフルオロフォアまたはレポーターなどの標識を含む。
さらに、本発明は腸微生物フローラのサンプルを得るステップおよびPA-Iレクチン/付着因子活性を検出するステップを含むモニタリング方法を提供する。当業界で公知のPA-Iレクチン/付着因子活性を検出する任意の技術を用いることができる。例えば、PA-Iレクチン/付着因子は、PA-Iレクチン/付着因子を特異的に認識する抗体(ポリクローナル、モノクローナル、Fabフラグメントなどの抗体フラグメント、一本鎖、キメラ、ヒト化または当業界で知られる任意の他の形態の抗体)を用いて検出することができる。イムノアッセイは当業界で公知の任意のイムノアッセイフォーマット、例えばELISA、ウエスタン、免疫沈降などの形態をとる。あるいは、PA-Iレクチン/付着因子の糖質結合能を検出することもでき、または例えばサンプルに曝露する前におよび/またはその際に上皮層の経上皮電気抵抗もしくはTEERをモニターすることによって、PA-Iレクチン/付着因子の腸上皮バリア破壊活性を確認することもできる。関連するキットにおいて、本発明はPA-Iレクチン/付着因子結合パートナーおよびPA-Iレクチン/付着因子活性(例えば、結合活性)を検出するためのプロトコルを提供する。本発明の他のキットはPA-Iレクチン/付着因子と結合することが知られる任意の糖質およびPA-Iレクチン/付着因子活性(例えば、結合活性)を検出するためのプロトコルを含む。
HMW PEGは上皮単層の傷害修復を誘発する
傷害後の上皮単層修復を誘発するHMW PEGの能力を評価するために、IEC-18細胞を60mmディッシュ中で集密まで増殖し、次いでその単層をかみそりの刃で機械的に傷付けた。剥離した細胞を取出し、5%PEG 15-20、50ng/ml上皮増殖因子(EGF)または両方の組み合わせを含有する新鮮培地を加えた。細胞を治療薬の存在のもとで24時間維持するかまたは2分間治療し、洗浄し、次いで24時間無治療でインキュベートした。24時間後に創傷治癒を創傷の長さの減少により評価した。図13に示したように、HMW PEGおよびEGFは両方とも個々に創傷治癒を誘発し、そしてHMW PEGとEGFの組み合わせはこの効果の相乗的誘発をもたらした。このアッセイは機械的に誘発した腸上皮創傷の治癒を測定しているが、類似の効果が他の侵襲、例えば、放射線照射誘発型細胞死により引き起こされた上皮創傷について観察されうると予想される。
本発明の多数の改変および変法が以上の教示に基づいて可能であり、これらは本発明の範囲内に包含される。本明細書に記載した全て刊行物の全ての開示は、参照によりその全てが本明細書に組み込まれる。

Claims (17)

  1. 放射線に曝された哺乳動物上皮細胞を治療するための医薬品の製造における高分子量ポリエチレングリコール(HMW PEG)化合物の使用。
  2. 哺乳動物上皮細胞がさらに腸病原体に曝される、請求項1に記載の使用。
  3. 腸病原体がシュードモナス属である、請求項2に記載の使用。
  4. 腸病原体が緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)である、請求項3に記載の使用。
  5. HMW PEG化合物が少なくとも1,000ダルトン、少なくとも5,000ダルトン、少なくとも8,000ダルトン、少なくとも12,000ダルトンおよび少なくとも15,000ダルトンからなる群より選択される平均分子量を有する、請求項1に記載の使用。
  6. HMW PEGが1つの疎水性コアと結合した少なくとも2つの炭化水素鎖を含み、それぞれの炭化水素鎖はHMW PEG化合物の少なくとも40%の平均分子量を有しかつ疎水性コアは環構造を含むものである、請求項5に記載の使用。
  7. 放射線照射された哺乳動物上皮細胞の微生物病原体誘発型障害を治療するための医薬品の製造における高分子量ポリエチレングリコール(HMW PEG)化合物の使用。
  8. 微生物病原体が緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)である、請求項7に記載の使用。
  9. HMW PEGが少なくとも1,000ダルトン、少なくとも5,000ダルトン、少なくとも8,000ダルトン、少なくとも12,000ダルトンおよび少なくとも15,000ダルトンからなる群より選択される平均分子量を有する、請求項8に記載の使用。
  10. 放射線療法との組み合わせで哺乳動物上皮細胞を治療するための医薬品の製造における高分子量ポリエチレングリコール(HMW PEG)化合物の使用。
  11. HMW PEGが少なくとも1,000ダルトン、少なくとも5,000ダルトン、少なくとも8,000ダルトン、少なくとも12,000ダルトンおよび少なくとも15,000ダルトンからなる群より選択される平均分子量を有する、請求項10に記載の使用。
  12. 哺乳動物上皮細胞を放射線照射誘発型損傷から保護するための医薬品の製造における高分子量ポリエチレングリコール(HMW PEG)化合物の使用。
  13. HMW PEG化合物が少なくとも1,000ダルトン、少なくとも5,000ダルトン、少なくとも8,000ダルトン、少なくとも12,000ダルトンおよび少なくとも15,000ダルトンからなる群より選択される平均分子量を有する、請求項12に記載の使用。
  14. 放射線照射された哺乳動物上皮細胞を微生物病原体誘発型損傷から保護するための医薬品の製造における高分子量ポリエチレングリコール(HMW PEG)化合物の使用。
  15. HMW PEG化合物が少なくとも1,000ダルトン、少なくとも5,000ダルトン、少なくとも8,000ダルトン、少なくとも12,000ダルトンおよび少なくとも15,000ダルトンからなる群より選択される平均分子量を有する、請求項14に記載の使用。
  16. 微生物病原体が緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)である、請求項14に記載の使用。
  17. 腹部放射線照射を受けた哺乳動物における敗血症を予防するための医薬品の製造における高分子量ポリエチレングリコール化合物の使用。
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