JP2012193048A - 酸化チタン微粒子の製造方法、およびその製造方法によって製造される酸化チタン微粒子 - Google Patents
酸化チタン微粒子の製造方法、およびその製造方法によって製造される酸化チタン微粒子 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】 結晶性酸化チタン微粒子の結晶構造を容易に制御することが可能な酸化チタン微粒子の製造方法を提供することに加え、その製造方法で製造される酸化チタン微粒子を提供することである。
【手段】 チタン酸塩のコロイド分散液と、前記チタン酸塩のチタンイオンに配位結合する水溶性有機化合物の水溶液と、を、水熱合成して反応させる酸化チタン微粒子の製造方法において、前記水溶性有機化合物が、芳香族化合物であることを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法であり、その製造方法によって顕著な作用効果を奏する酸化チタン微粒子が製造される。この製造方法により、従来技術の課題であった結晶性酸化チタン微粒子の結晶構造を容易に制御することができる。
【選択図】図4
【手段】 チタン酸塩のコロイド分散液と、前記チタン酸塩のチタンイオンに配位結合する水溶性有機化合物の水溶液と、を、水熱合成して反応させる酸化チタン微粒子の製造方法において、前記水溶性有機化合物が、芳香族化合物であることを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法であり、その製造方法によって顕著な作用効果を奏する酸化チタン微粒子が製造される。この製造方法により、従来技術の課題であった結晶性酸化チタン微粒子の結晶構造を容易に制御することができる。
【選択図】図4
Description
本発明は、色素増感太陽電池用電極材料、光触媒、フォトクロミズム材料、ガスセンサー材料などへの多面的な産業分野において応用することができる酸化チタン(IV)(組成式で表すとTiO2であり、その名称を以下、単に「酸化チタン」と称する)微粒子の製造方法、およびその製造方法によって製造される酸化チタン微粒子に関する。
酸化チタン結晶は結晶構造の違いにより、ルチル型(正方晶高温型)、アナターゼ型(正方晶低温型)、ブルッカイト型(斜方晶型)の3種に分けられる。この結晶構造によって酸化チタン結晶が奏する性質は異なる。
所定の結晶構造の酸化チタン微粒子を製造する方法の例として、例えば特許文献1がある。特許文献1には、従来のアナターゼ型結晶構造とは相違する、光触媒活性が高くて新規なアナターゼ型結晶構造を有する酸化チタンの製造方法が開示されている。
酸化チタンの結晶構造に応じて結晶性酸化チタン微粒子の製造方法は大きく異なる。たとえば、上記特許文献1に開示された方法はアナターゼ型結晶構造を有する酸化チタン微粒子を製造する方法であってそれ以外の結晶構造を有する酸化チタン微粒子を製造する方法ではない。ルチル型結晶構造を有する酸化チタン微粒子の製造には、上記特許文献1に開示された方法とはまったく異なる製造方法が必要である。同様の製造方法において酸化チタンの結晶構造を意図的に制御することは困難である。このことは、結晶構造が互いに異なる2種類以上の酸化チタン微粒子を製造しようとする者が、互いに大きく構成が異なる2種類以上の製造プラントを設けなくてはならないことを意味する。
そこで、本願発明の目的は、上記課題を鑑み、酸化チタン微粒子の結晶構造を容易に制御することが可能な酸化チタン微粒子の製造方法を提供することである。また、別の目的は、その製造方法で製造される酸化チタン微粒子を提供することである。
上記の課題を解決するために、本願発明に係る酸化チタン微粒子の製造方法は、チタン酸塩のコロイド分散液と、前記チタン酸塩のチタンイオンに配位結合する水溶性有機化合物の水溶液と、を、水熱合成して反応させる酸化チタン微粒子の製造方法において、前記水溶性有機化合物が、芳香族化合物であることを特徴としている。
本願発明に係る酸化チタン微粒子の製造方法によれば、従来技術の課題であった酸化チタン微粒子の結晶構造を容易に制御することができる。
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る酸化チタン微粒子の製造方法は、チタン酸塩のコロイド分散液と、チタン酸塩のチタンイオンに配位結合する水溶性有機化合物の水溶液と、を、水熱合成して反応させる酸化チタン微粒子の製造方法において、水溶性有機化合物が、芳香族化合物であることとし、本実施形態に係る酸化チタン微粒子は、その製造方法によって製造される。
[チタン酸塩のコロイド分散液]
本実施形態に係る酸化チタン微粒子の製造方法では、まず、出発原料としてチタン酸塩のコロイド分散液を準備する。このチタン酸塩のコロイド分散液は、チタン化合物をアミン類の存在下で加水分解することによって得ることができる。
本実施形態に係る酸化チタン微粒子の製造方法では、まず、出発原料としてチタン酸塩のコロイド分散液を準備する。このチタン酸塩のコロイド分散液は、チタン化合物をアミン類の存在下で加水分解することによって得ることができる。
[水酸化チタン]
ここで、チタン化合物としては、チタンアルコキシドおよびチタン塩のうち少なくとも一方の加水分解により生成された水酸化チタン、その他の方法で生成された水酸化チタン、およびチタン錯体が挙げられる。ここでいう水酸化チタンの概念は、Ti(IV)の水酸化物であり、Ti(OH)4、およびH4TiO4の組成式で表されるもの全てを包含する。
ここで、チタン化合物としては、チタンアルコキシドおよびチタン塩のうち少なくとも一方の加水分解により生成された水酸化チタン、その他の方法で生成された水酸化チタン、およびチタン錯体が挙げられる。ここでいう水酸化チタンの概念は、Ti(IV)の水酸化物であり、Ti(OH)4、およびH4TiO4の組成式で表されるもの全てを包含する。
[チタンアルコキシド]
チタンアルコキシドとしては、下記一般式(1)で表されるチタンテトラアルコキシドが好ましい。
Ti(OR1)4 (1)
式中、R1は、炭素数1〜10のアルキル基を示し、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜6、更に好ましくは炭素数2〜4のアルキル基である。
前記チタンテトラアルコキシドの具体例としては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラー2ーエチルヘキソキシドが挙げられる。
本実施形態では、一般的な入手の容易さの観点から、特にチタンテトライソプロポキシドおよびチタンテトラエトキシドが好ましい。
チタンアルコキシドとしては、下記一般式(1)で表されるチタンテトラアルコキシドが好ましい。
Ti(OR1)4 (1)
式中、R1は、炭素数1〜10のアルキル基を示し、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜6、更に好ましくは炭素数2〜4のアルキル基である。
前記チタンテトラアルコキシドの具体例としては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラー2ーエチルヘキソキシドが挙げられる。
本実施形態では、一般的な入手の容易さの観点から、特にチタンテトライソプロポキシドおよびチタンテトラエトキシドが好ましい。
[チタン塩]
チタン塩としては、例えば、四塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、硝酸チタニル等が挙げられる。これらのうち、一般的な入手の容易さの観点から、四塩化チタン、硫酸チタンおよび硫酸チタニルが好ましい。
チタン塩としては、例えば、四塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、硝酸チタニル等が挙げられる。これらのうち、一般的な入手の容易さの観点から、四塩化チタン、硫酸チタンおよび硫酸チタニルが好ましい。
[チタン錯体]
チタン錯体としては、例えば、チタンジイソプロポキシド(ビス−2、4ペンタンジオネート)、チタンジ−n−ブトキシド(ビス−2、4ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタンジイソプロポキシドビス(テトラメチルへプタンジオネート)、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコーレート、チタンペルオキソクエン酸錯体、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートが挙げられる。
チタン錯体としては、例えば、チタンジイソプロポキシド(ビス−2、4ペンタンジオネート)、チタンジ−n−ブトキシド(ビス−2、4ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシドビス(エチルアセトアセテート)、チタンジイソプロポキシドビス(テトラメチルへプタンジオネート)、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコーレート、チタンペルオキソクエン酸錯体、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートが挙げられる。
チタン化合物は、単一種が含まれていてもよく、また、複数種が含まれていてもよい。
[アミン類]
さらに、アミン類としては、炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基およびヒドロキシアルキル基から選ばれる有機基または水素原子を含む第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、および第四級アンモニウムヒドロキシドから選ばれる少なくとも一種以上が用いられる。
これらアミン類は水溶液中では有機カチオンとなり、上記チタン化合物の加水分解を促進させる。
第一級アミンの具体例としては、エチルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、1、3−ジアミノプロパン、ペンチルアミン等が挙げられる。
第二級アミンの具体例としては、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジペンチルアミン等が挙げられ、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミンがより好ましい。
第三級アミンの具体例としては、n、n−ジメチルエチルアミン、n、n−ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等が挙げられ、トリエチルアミン、トリプロピルアミンがより好ましい。
また、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、プロパノールアミン等のアルカノールアミン等の置換アミン類も用いることができる。
第四級アンモニウムヒドロキシドの具体例としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド(コリン)、テトラエタノールアンモニウムヒドロキシド、メチルトリエタノールアンモニウムヒドロキシド等が挙げられ、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドがより好ましい。
これらは、単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。
さらに、アミン類としては、炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基およびヒドロキシアルキル基から選ばれる有機基または水素原子を含む第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、および第四級アンモニウムヒドロキシドから選ばれる少なくとも一種以上が用いられる。
これらアミン類は水溶液中では有機カチオンとなり、上記チタン化合物の加水分解を促進させる。
第一級アミンの具体例としては、エチルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、1、3−ジアミノプロパン、ペンチルアミン等が挙げられる。
第二級アミンの具体例としては、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジペンチルアミン等が挙げられ、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミンがより好ましい。
第三級アミンの具体例としては、n、n−ジメチルエチルアミン、n、n−ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等が挙げられ、トリエチルアミン、トリプロピルアミンがより好ましい。
また、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、プロパノールアミン等のアルカノールアミン等の置換アミン類も用いることができる。
第四級アンモニウムヒドロキシドの具体例としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド(コリン)、テトラエタノールアンモニウムヒドロキシド、メチルトリエタノールアンモニウムヒドロキシド等が挙げられ、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドがより好ましい。
これらは、単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。
なお、第四級アンモニウムヒドロキシドは、具体的には下記一般式(2)で示される有機カチオンを含む化合物が挙げられる。
式中、R2、R3、R4、R5の少なくとも1つは炭素数8〜22のアルキル基もしくはアルケニル基、またはR6−A−R7−で示される有機基である。残りは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、およびベンジル基から選ばれる有機基である。但し、R6は炭素数8〜22アルキル基もしくはアルケニル基であり、Aは−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、および−O−から選ばれる結合であり、R7は炭素数2〜4のアルキレン基である。また、X−は陰イオンであり、好ましくはOH−、塩素イオン、臭素イオン、または炭素数1〜4のアルキル硫酸イオンである。
式中、R2、R3、R4、R5の少なくとも1つは炭素数8〜22のアルキル基もしくはアルケニル基、またはR6−A−R7−で示される有機基である。残りは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、およびベンジル基から選ばれる有機基である。但し、R6は炭素数8〜22アルキル基もしくはアルケニル基であり、Aは−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、および−O−から選ばれる結合であり、R7は炭素数2〜4のアルキレン基である。また、X−は陰イオンであり、好ましくはOH−、塩素イオン、臭素イオン、または炭素数1〜4のアルキル硫酸イオンである。
[チタン酸分散液の製造]
上述したように、チタン酸分散液は、チタン源であるチタン化合物を、有機カチオン(アミン類、特に第四級アンモニウムヒドロキシド)の存在下で加水分解することにより得ることができる。
チタン化合物の加水分解は、アミン類の存在下で行えばよく、その他の条件は特に限定されないが、以下に示す方法によれば、効率的に行うことができる。
例えば、チタン源であるチタン化合物とアミン類の含水溶液とを混合して加水分解する方法である。アミン類の含水溶液には、アミン類の溶解を容易にするため、有機溶媒が含有されていてもよい。係る有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソペンチルアルコール等のアルコールが好ましい。
上述したように、チタン酸分散液は、チタン源であるチタン化合物を、有機カチオン(アミン類、特に第四級アンモニウムヒドロキシド)の存在下で加水分解することにより得ることができる。
チタン化合物の加水分解は、アミン類の存在下で行えばよく、その他の条件は特に限定されないが、以下に示す方法によれば、効率的に行うことができる。
例えば、チタン源であるチタン化合物とアミン類の含水溶液とを混合して加水分解する方法である。アミン類の含水溶液には、アミン類の溶解を容易にするため、有機溶媒が含有されていてもよい。係る有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソペンチルアルコール等のアルコールが好ましい。
なお、分散液とは、微細な粒子が浮遊している溶液である。肉眼での観察で透明な場合もあるが、そのような場合でも、浮遊している粒子により光線が散乱されるティンダル現象が起きる。
以下、本発明の一実施形態を実施例および比較例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
[事前準備:原料溶液である層状チタン酸塩のコロイド溶液の調製]
実施例を示す前に準備段階として原料溶液の調製を行う。
詳しくは、まず、常温、常圧下で、第四級アンモニウムヒドロキシドであるテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAOH;和光純薬工業株式会社製)と、純水(Millipore社製の装置で精製)とを混合し、0.01M TMAOHの15%水溶液を調製する。
そこに、蒸留済みのチタンアルコキシドである0.1Mチタニウムテトライソプロポキシド(TTIP;ALDRICH社製)を加えて0.01M TMAOHの15%水溶液と反応させる。
以上の実験操作をすることにより、コロイド粒子が分散した分散液を得ることができる。このコロイド粒子が層状構造のレピドクロサイト型チタン酸塩である結晶性層状チタン酸アルキルアンモニウム化合物(以下、「層状チタン酸塩」とする)コロイドであることは、文献Crystal Growth&Design、 2008、 8、 935-940およびT.Ohya et al.、 Chem. Mater.、 14、 3082-3089(2002)で示されている。
この層状チタン酸塩コロイドは、図1(a)に示されるような結晶構造を有している。図1(a)は、本発明の一実施形態に係る層状チタン酸塩コロイドの結晶構造モデルである。この図の結晶構造モデルは、Ti、O、TMA+(テトラメチルアンモニウムイオン、以下、「TMA+」とする)、H2Oで構成される。この層状チタン酸塩コロイドは、チタンを中心として6個の酸素が配位した8面体構造を基本ユニットとし、層間には、TMA+と水分子H2Oを規則的に挟んだ構造を有している。
分散液中においては、図1(b)に示すような、層状チタン酸塩とTMA+の挙動をしていると考えられる。
実施例を示す前に準備段階として原料溶液の調製を行う。
詳しくは、まず、常温、常圧下で、第四級アンモニウムヒドロキシドであるテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAOH;和光純薬工業株式会社製)と、純水(Millipore社製の装置で精製)とを混合し、0.01M TMAOHの15%水溶液を調製する。
そこに、蒸留済みのチタンアルコキシドである0.1Mチタニウムテトライソプロポキシド(TTIP;ALDRICH社製)を加えて0.01M TMAOHの15%水溶液と反応させる。
以上の実験操作をすることにより、コロイド粒子が分散した分散液を得ることができる。このコロイド粒子が層状構造のレピドクロサイト型チタン酸塩である結晶性層状チタン酸アルキルアンモニウム化合物(以下、「層状チタン酸塩」とする)コロイドであることは、文献Crystal Growth&Design、 2008、 8、 935-940およびT.Ohya et al.、 Chem. Mater.、 14、 3082-3089(2002)で示されている。
この層状チタン酸塩コロイドは、図1(a)に示されるような結晶構造を有している。図1(a)は、本発明の一実施形態に係る層状チタン酸塩コロイドの結晶構造モデルである。この図の結晶構造モデルは、Ti、O、TMA+(テトラメチルアンモニウムイオン、以下、「TMA+」とする)、H2Oで構成される。この層状チタン酸塩コロイドは、チタンを中心として6個の酸素が配位した8面体構造を基本ユニットとし、層間には、TMA+と水分子H2Oを規則的に挟んだ構造を有している。
分散液中においては、図1(b)に示すような、層状チタン酸塩とTMA+の挙動をしていると考えられる。
[SDA]
本実施形態における「SDA」は、「Structure Directing Agent」の各頭文字を略したものである。SDAとは、チタン酸塩のチタンイオンに配位結合する性質をもった官能基を有する水溶性有機化合物であり、本実施形態において、その水溶性有機化合物は芳香族化合物である。その水溶性有機化合物が有する官能基としては、例えば、親水基であるアミノ基、カルボキシル基、リン酸基、ヒドロキシル基およびスルホ基からなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
上記水溶性有機化合物としては、芳香環を有する分子であることが好ましく、さらには自己会合性であることが好ましい。なお、水素原子を有する官能基が、溶媒中にて、その水素原子をプロトンとして放出し自らはマイナスイオンの状態として存在していてもよいし、水素原子を放出せずにそのまま水素原子を有した状態で存在していてもよい。
SDAは、チタン酸塩のチタンイオンにSDAが配位結合することで最終的に生成する酸化チタンの結晶成長に大きく作用する。
芳香環を有する自己会合性SDAを用いる場合、これらの会合体が酸化チタン形成の際に共存することで、Ti−O−Tiの結合挙動、つまり酸化チタンの結晶成長に影響し、結果的に非自己会合性SDAの場合とは異なるナノ構造の酸化チタンが生じると考えられる。
また、SDA濃度と、SDA/酸化チタン複合体の溶解度とは大きく関係していて、SDA濃度が変化することによってSDA/酸化チタン複合体の溶媒に対する溶解度も大きく変化する。特に、SDA濃度が低く、SDA/酸化チタン複合体の溶解度が低い反応条件下においては、酸化チタンの水熱合成の結晶成長では一般的とされる溶解−再析出型の結晶成長とは異なり、SDA/酸化チタン複合体の溶解度に起因する結晶成長メカニズムで様々な結晶構造を有する酸化チタンが形成すると推定される。
本実施形態における「SDA」は、「Structure Directing Agent」の各頭文字を略したものである。SDAとは、チタン酸塩のチタンイオンに配位結合する性質をもった官能基を有する水溶性有機化合物であり、本実施形態において、その水溶性有機化合物は芳香族化合物である。その水溶性有機化合物が有する官能基としては、例えば、親水基であるアミノ基、カルボキシル基、リン酸基、ヒドロキシル基およびスルホ基からなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
上記水溶性有機化合物としては、芳香環を有する分子であることが好ましく、さらには自己会合性であることが好ましい。なお、水素原子を有する官能基が、溶媒中にて、その水素原子をプロトンとして放出し自らはマイナスイオンの状態として存在していてもよいし、水素原子を放出せずにそのまま水素原子を有した状態で存在していてもよい。
SDAは、チタン酸塩のチタンイオンにSDAが配位結合することで最終的に生成する酸化チタンの結晶成長に大きく作用する。
芳香環を有する自己会合性SDAを用いる場合、これらの会合体が酸化チタン形成の際に共存することで、Ti−O−Tiの結合挙動、つまり酸化チタンの結晶成長に影響し、結果的に非自己会合性SDAの場合とは異なるナノ構造の酸化チタンが生じると考えられる。
また、SDA濃度と、SDA/酸化チタン複合体の溶解度とは大きく関係していて、SDA濃度が変化することによってSDA/酸化チタン複合体の溶媒に対する溶解度も大きく変化する。特に、SDA濃度が低く、SDA/酸化チタン複合体の溶解度が低い反応条件下においては、酸化チタンの水熱合成の結晶成長では一般的とされる溶解−再析出型の結晶成長とは異なり、SDA/酸化チタン複合体の溶解度に起因する結晶成長メカニズムで様々な結晶構造を有する酸化チタンが形成すると推定される。
図2は、本発明の一実施形態における層状チタン酸塩コロイドから酸化チタン微粒子のナノ結晶までの反応模式図である。詳しくは、層状チタン酸塩コロイドと芳香族SDAとを水熱合成反応させ、チタンイオンの縮合反応の際、SDAを共存させることにより酸化チタン微粒子のナノ結晶の生成反応を示した図である。
図2に示すように、チタン酸塩コロイドと、所定の濃度に制御したSDAである水溶性有機化合物とを水熱合成反応して、チタンイオンにSDAを配位結合させる。
結晶のナノスケールの大きさ、形状および結晶構造のうち少なくとも一つが制御された結晶性の酸化チタン微粒子を生成することができる。反応の際、図1(a)に図示された層状チタン酸塩の層間からTMA+と水分子が抜けた状態になっている。これらのことを以下、実例を元に説明する。
図2に示すように、チタン酸塩コロイドと、所定の濃度に制御したSDAである水溶性有機化合物とを水熱合成反応して、チタンイオンにSDAを配位結合させる。
結晶のナノスケールの大きさ、形状および結晶構造のうち少なくとも一つが制御された結晶性の酸化チタン微粒子を生成することができる。反応の際、図1(a)に図示された層状チタン酸塩の層間からTMA+と水分子が抜けた状態になっている。これらのことを以下、実例を元に説明する。
本実施形態における実施例および比較例で用いた各SDAに共通する性質は、チタンイオンに配位結合することができるカルボキシル基を有する色素であり、水溶性有機化合物である水溶性の色素を用いていることである。
実施例1、2には、芳香環を有する分子であり、分子内にキサンテン環をもつ色素分子であるローダミンB、エオシンYをそれぞれ用い、比較例1には、芳香族ではないクエン酸を用いている。
ローダミンB、エオシンYおよびクエン酸は、それぞれ下記の構造式で表される色素である。
実施例1、2には、芳香環を有する分子であり、分子内にキサンテン環をもつ色素分子であるローダミンB、エオシンYをそれぞれ用い、比較例1には、芳香族ではないクエン酸を用いている。
ローダミンB、エオシンYおよびクエン酸は、それぞれ下記の構造式で表される色素である。
(3)ローダミンB
(4)エオシンY
(5)クエン酸
[実施例1]
上記にて調製した層状チタン酸塩(チタン(IV)イオン濃度:0.1M)と、SDAとして下記表1にて示した所定濃度のローダミンB(東京化成工業株式会社製)とをメスフラスコ中で水溶媒のみで調製し、暗所で1時間室温攪拌する。続いて、その混合水溶液をテフロン(登録商標)製容器に移し、密閉条件下で攪拌しながら摂氏170℃まで加熱昇温させて水熱反応させた。ここで言う「水熱反応」とは「標準化学用語辞典(日本化学会編、丸善株式会社平成3年3月30日発行)」の「水熱反応」の項に記載があるように、高温の水、特に高温高圧の水の存在のもとで行われる物質の合成あるいは変性反応を指し、特に水熱反応を利用した合成反応を「水熱合成」という。
この密閉条件下での水熱合成反応により得られた反応生成物は、SDAと酸化チタンの複合体である。
尚、反応温度は、熱電対を用いてモニタリングしており、この反応条件の場合の温度プロファイルは、図3(a)に示すように、昇温時間26分、維持時間5分であった。
この水熱合成反応により、分散している層状チタン酸塩の層の末端に分布するチタンアルコキシドイオン(TiO−)の縮合反応によりTi−O−Ti結合が形成して酸化チタン微粒子が結晶成長する。
この水熱処理後、添加したSDAや過剰なテトラメチルアンモニウムヒドロキシドといった余分な有機成分を取り除くために、コロイド溶液にエタノール(和光純薬工業株式会社製、99.5%)を添加して沈殿した生成物を、エタノールで充分洗浄する。その後、遠心分離機(日立工機株式会社製、装置名「日立多用途小形遠心機 himac CF16RX」)にその調製液をセットし、回転数10000rpm、10分の条件下で生成物と溶媒とを充分に遠心分離させた。その後、分離した生成物を取り出し、室温で乾燥させて酸化チタン粉末を得た。乾燥には、乾燥剤であるシリカゲルなどを二重底の底に敷き詰めたデシケーター中に保存しておくのが好ましい。
なお、実施例1では、表1に示すように、ローダミンBの濃度と、水熱合成による反応時間とを、次のように変更して実験を行った。なお、図3(b)に示すように、水熱合成による反応時間が60分の場合の温度プロファイルは、室温から170度までの昇温時間26分、維持時間34分である。
上記にて調製した層状チタン酸塩(チタン(IV)イオン濃度:0.1M)と、SDAとして下記表1にて示した所定濃度のローダミンB(東京化成工業株式会社製)とをメスフラスコ中で水溶媒のみで調製し、暗所で1時間室温攪拌する。続いて、その混合水溶液をテフロン(登録商標)製容器に移し、密閉条件下で攪拌しながら摂氏170℃まで加熱昇温させて水熱反応させた。ここで言う「水熱反応」とは「標準化学用語辞典(日本化学会編、丸善株式会社平成3年3月30日発行)」の「水熱反応」の項に記載があるように、高温の水、特に高温高圧の水の存在のもとで行われる物質の合成あるいは変性反応を指し、特に水熱反応を利用した合成反応を「水熱合成」という。
この密閉条件下での水熱合成反応により得られた反応生成物は、SDAと酸化チタンの複合体である。
尚、反応温度は、熱電対を用いてモニタリングしており、この反応条件の場合の温度プロファイルは、図3(a)に示すように、昇温時間26分、維持時間5分であった。
この水熱合成反応により、分散している層状チタン酸塩の層の末端に分布するチタンアルコキシドイオン(TiO−)の縮合反応によりTi−O−Ti結合が形成して酸化チタン微粒子が結晶成長する。
この水熱処理後、添加したSDAや過剰なテトラメチルアンモニウムヒドロキシドといった余分な有機成分を取り除くために、コロイド溶液にエタノール(和光純薬工業株式会社製、99.5%)を添加して沈殿した生成物を、エタノールで充分洗浄する。その後、遠心分離機(日立工機株式会社製、装置名「日立多用途小形遠心機 himac CF16RX」)にその調製液をセットし、回転数10000rpm、10分の条件下で生成物と溶媒とを充分に遠心分離させた。その後、分離した生成物を取り出し、室温で乾燥させて酸化チタン粉末を得た。乾燥には、乾燥剤であるシリカゲルなどを二重底の底に敷き詰めたデシケーター中に保存しておくのが好ましい。
なお、実施例1では、表1に示すように、ローダミンBの濃度と、水熱合成による反応時間とを、次のように変更して実験を行った。なお、図3(b)に示すように、水熱合成による反応時間が60分の場合の温度プロファイルは、室温から170度までの昇温時間26分、維持時間34分である。
[実施例2]
実施例1と同様に、エオシンY(和光純薬工業株式会社製)をSDAとして実験を行い、実施例2では、表2に示すように、エオシンYの濃度を一定に揃え、水熱合成による反応時間のみ変更して実験を行った。
実施例1と同様に、エオシンY(和光純薬工業株式会社製)をSDAとして実験を行い、実施例2では、表2に示すように、エオシンYの濃度を一定に揃え、水熱合成による反応時間のみ変更して実験を行った。
[比較例1]
比較例1では、上記にて調製した層状チタン酸塩コロイドに、ローダミンBの代わりにクエン酸(キシダ化学株式会社製)を加えて実施例1と同様の手順で実験を行い、比較例1では、表3に示すように、クエン酸の濃度と、水熱合成による反応時間とを、次のように変更して実験を行った。
比較例1では、上記にて調製した層状チタン酸塩コロイドに、ローダミンBの代わりにクエン酸(キシダ化学株式会社製)を加えて実施例1と同様の手順で実験を行い、比較例1では、表3に示すように、クエン酸の濃度と、水熱合成による反応時間とを、次のように変更して実験を行った。
上記[実施例1]、[実施例2]および[比較例1]それぞれによって得られた反応生成物である乾燥粉末を用いて、
TEM写真による結晶性および結晶面の同定、ある結晶面に沿った結晶成長の態様、
SEM像による結晶の形状およびサイズ、
XRDの回折ピークとJCPDSカードとの照合による結晶構造の同定、
を調べた。
なお、分析に使用した装置は以下の通りである。
走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、装置名「HITACHI S-4800」)、
透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)(JEOL Ltd.製、装置名「JEM-2100」)、
多機能型X線回折装置(X-ray Diffraction:XRD)(株式会社リガク製、装置名「RINT-Ultima III」、入射X線:Cu Kα)、
上記装置にて測定したXRD回折パターンからの乾燥粉末試料の結晶構造解析はJCPDSカードに基づいて同定した。なお、同定に使用したJPCDSカードそれぞれのJCPDS番号は、アナターゼ型結晶構造:PDF#99−0008、ルチル型結晶構造:PDF#73−1232である。
図4は、本発明の一実施形態に係る実施例1、2および比較例比較例1それぞれにて生成した酸化チタン微粒子の結晶構造をXRDの回折パターンにより同定した結果を示す図であり、(a)は実施例1a、1b、1c、(b)は実施例2a、2b、(c)は比較例1a、1b、1cそれぞれの測定図である。
なお、図4の解析結果から、図4(c)の比較例1a、1b、1c測定図ではいずれもアナターゼ型結晶性酸化チタンに帰属される回折ピークのみ(単相ピーク)が観測された。このことから、比較例1に用いたクエン酸は、アナターゼ型酸化チタン微粒子しか生成しないといえる。
TEM写真による結晶性および結晶面の同定、ある結晶面に沿った結晶成長の態様、
SEM像による結晶の形状およびサイズ、
XRDの回折ピークとJCPDSカードとの照合による結晶構造の同定、
を調べた。
なお、分析に使用した装置は以下の通りである。
走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、装置名「HITACHI S-4800」)、
透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)(JEOL Ltd.製、装置名「JEM-2100」)、
多機能型X線回折装置(X-ray Diffraction:XRD)(株式会社リガク製、装置名「RINT-Ultima III」、入射X線:Cu Kα)、
上記装置にて測定したXRD回折パターンからの乾燥粉末試料の結晶構造解析はJCPDSカードに基づいて同定した。なお、同定に使用したJPCDSカードそれぞれのJCPDS番号は、アナターゼ型結晶構造:PDF#99−0008、ルチル型結晶構造:PDF#73−1232である。
図4は、本発明の一実施形態に係る実施例1、2および比較例比較例1それぞれにて生成した酸化チタン微粒子の結晶構造をXRDの回折パターンにより同定した結果を示す図であり、(a)は実施例1a、1b、1c、(b)は実施例2a、2b、(c)は比較例1a、1b、1cそれぞれの測定図である。
なお、図4の解析結果から、図4(c)の比較例1a、1b、1c測定図ではいずれもアナターゼ型結晶性酸化チタンに帰属される回折ピークのみ(単相ピーク)が観測された。このことから、比較例1に用いたクエン酸は、アナターゼ型酸化チタン微粒子しか生成しないといえる。
[評価(1):実施例1a、1cと比較例1cとの比較:図5、図6参照]
SDA種が、
(a)クエン酸(比較例1c:0.01M、60分)、
(b)ローダミンB(実施例1a:0.01M、31分、実施例1c:0.001M、60分)
である場合の各反応生成物について図5、図6を元に説明する。
層状チタン酸塩と各SDA種とを水熱合成させ、チタンイオンの縮合反応の際、SDAを共存させることにより反応生成物として酸化チタン微粒子のナノ結晶を生成させた。
図5は、その反応生成物である酸化チタン微粒子のナノ結晶に対するXRD測定による結晶構造の同定、SEM像であり、(a)はSDA種がクエン酸(比較例1c)の場合、(b)はSDA種がローダミンB(実施例1a、1c)の場合の観測図である。
図6は、図5での各SDA種での反応生成物である酸化チタン微粒子のナノ結晶に対するTEM写真である。
SDA種が、
(a)クエン酸(比較例1c:0.01M、60分)、
(b)ローダミンB(実施例1a:0.01M、31分、実施例1c:0.001M、60分)
である場合の各反応生成物について図5、図6を元に説明する。
層状チタン酸塩と各SDA種とを水熱合成させ、チタンイオンの縮合反応の際、SDAを共存させることにより反応生成物として酸化チタン微粒子のナノ結晶を生成させた。
図5は、その反応生成物である酸化チタン微粒子のナノ結晶に対するXRD測定による結晶構造の同定、SEM像であり、(a)はSDA種がクエン酸(比較例1c)の場合、(b)はSDA種がローダミンB(実施例1a、1c)の場合の観測図である。
図6は、図5での各SDA種での反応生成物である酸化チタン微粒子のナノ結晶に対するTEM写真である。
[評価(1)―1:実施例1aと比較例1cとの比較:図5参照]
まず、比較例1cと実施例1aとの比較について説明する。
図5のSEM像からでは、SDAがクエン酸の場合(比較例1c)にはロッド状の結晶が8割以上観察され、SDAがローダミンBの場合(実施例1a)には、針状の結晶が9割以上観察された。
また、XRD回折パターンは共にアナターゼ型結晶性酸化チタンに帰属される回折ピークのみが見られ、比較例1cと実施例1aいずれも、アナターゼ型結晶構造の酸化チタン微粒子が生成していることが分かった。
なお、図5において、アナターゼ型に帰属される回折ピークは、「実線の直線」が位置している回折角度のピークで指し示されている。また、アナターゼ型の結晶面は回折パターン上にそれぞれ黒塗りの丸印で示されている。
まず、比較例1cと実施例1aとの比較について説明する。
図5のSEM像からでは、SDAがクエン酸の場合(比較例1c)にはロッド状の結晶が8割以上観察され、SDAがローダミンBの場合(実施例1a)には、針状の結晶が9割以上観察された。
また、XRD回折パターンは共にアナターゼ型結晶性酸化チタンに帰属される回折ピークのみが見られ、比較例1cと実施例1aいずれも、アナターゼ型結晶構造の酸化チタン微粒子が生成していることが分かった。
なお、図5において、アナターゼ型に帰属される回折ピークは、「実線の直線」が位置している回折角度のピークで指し示されている。また、アナターゼ型の結晶面は回折パターン上にそれぞれ黒塗りの丸印で示されている。
[評価(1)―2:実施例1cについて:図5参照]
一方、実施例1aよりも濃度が10分の1薄い実施例1cでは、図5のSEM像からでは、9割以上の粒子状結晶が観察された。
また、XRD回折パターンはルチル型結晶性酸化チタンに帰属される回折ピークが見られた。
なお、図5において、ルチル型に帰属される回折ピークは、「破線の直線」が位置している回折角度のピークで指し示されている。また、ルチル型の結晶面は回折パターン上にそれぞれ黒塗りの逆三角形印で示されている。
一方、実施例1aよりも濃度が10分の1薄い実施例1cでは、図5のSEM像からでは、9割以上の粒子状結晶が観察された。
また、XRD回折パターンはルチル型結晶性酸化チタンに帰属される回折ピークが見られた。
なお、図5において、ルチル型に帰属される回折ピークは、「破線の直線」が位置している回折角度のピークで指し示されている。また、ルチル型の結晶面は回折パターン上にそれぞれ黒塗りの逆三角形印で示されている。
[評価(1)―3:実施例1a、実施例1cと比較例1cとの比較:図6参照]
次に、TEM写真の結果について述べる。
図6のTEM写真から、図5のSEM像で観察されたクエン酸との反応で生成したロッド状の酸化チタン微粒子(比較例1c)、ローダミンBとの反応で生成した針状の酸化チタン微粒子(実施例1a)は、結晶面のうち(101)面が多く露出した高結晶性の酸化チタンであることが判明した。
これらはともにアナターゼ型結晶構造で、比較例1cにおけるロッド状の酸化チタン微粒子の大きさは、20×100nm程度、その他が50〜100nm程度であった。一方、実施例1aでは、針状の酸化チタン微粒子の大きさは、30×300nm程度、その他が50〜100nm程度のナノスケールの大きさであった。
図6に示されているように、比較例1cではロッド状に、実施例1aでは針状の形状になったのは、酸化チタン微粒子がその結晶面(001)面方向に沿って結晶成長したものであると考えられる。
さらに、粒子状以外の酸化チタンについては、同じ層状チタン酸塩を原料として用いた従来のバッチ式水熱反応では観察されていないことから、SDAと層状チタン酸塩との水熱反応で一定の結晶面方向への異方性結晶成長が生じるものと推測される。
一方、図5にて、ルチル型結晶構造であることが判明した実施例1cでは、粒子状の酸化チタン微粒子の大きさは100nm程度、針状結晶も50×300nm程度観察された。また、TEM写真より、粒子状の酸化チタン微粒子は、(110)面が多く露出した高結晶性の酸化チタンであることが判明した。
なお、ここでいう「高結晶性」とは、TEM写真の観察結果から、結晶面に対応する格子縞が観察されれば結晶性が高いとする。
以上の比較結果を表4にまとめる。
次に、TEM写真の結果について述べる。
図6のTEM写真から、図5のSEM像で観察されたクエン酸との反応で生成したロッド状の酸化チタン微粒子(比較例1c)、ローダミンBとの反応で生成した針状の酸化チタン微粒子(実施例1a)は、結晶面のうち(101)面が多く露出した高結晶性の酸化チタンであることが判明した。
これらはともにアナターゼ型結晶構造で、比較例1cにおけるロッド状の酸化チタン微粒子の大きさは、20×100nm程度、その他が50〜100nm程度であった。一方、実施例1aでは、針状の酸化チタン微粒子の大きさは、30×300nm程度、その他が50〜100nm程度のナノスケールの大きさであった。
図6に示されているように、比較例1cではロッド状に、実施例1aでは針状の形状になったのは、酸化チタン微粒子がその結晶面(001)面方向に沿って結晶成長したものであると考えられる。
さらに、粒子状以外の酸化チタンについては、同じ層状チタン酸塩を原料として用いた従来のバッチ式水熱反応では観察されていないことから、SDAと層状チタン酸塩との水熱反応で一定の結晶面方向への異方性結晶成長が生じるものと推測される。
一方、図5にて、ルチル型結晶構造であることが判明した実施例1cでは、粒子状の酸化チタン微粒子の大きさは100nm程度、針状結晶も50×300nm程度観察された。また、TEM写真より、粒子状の酸化チタン微粒子は、(110)面が多く露出した高結晶性の酸化チタンであることが判明した。
なお、ここでいう「高結晶性」とは、TEM写真の観察結果から、結晶面に対応する格子縞が観察されれば結晶性が高いとする。
以上の比較結果を表4にまとめる。
[評価(2):実施例1a、実施例1bおよび実施例1cとの比較:図4(a)、図7(a)、(b)、(c)参照]
SDA種が、
(c)ローダミンB(実施例1a:0.01M、31分:実施例1b:0.01M、60分、実施例1c:0.001M、60分)
である場合の各反応生成物について図4(a)、図7を元に説明する。
図4(a)は、実施例1(実施例1a、実施例1b、実施例1c)に係る酸化チタン微粒子の結晶構造をXRDの回折パターンにより同定した結果を示す図である。
図7は、SDA種がローダミンBの場合のSEM像であり、(a)は実施例1a、(b)は実施例1b、(c)は実施例1cの像である。
図4、図7の実験データより、SDA濃度が同一でも、実施例1aより反応時間が長い実施例1bがアナターゼ型の結晶の割合が減り、ルチル型の結晶が生成していることが観察できる。
また、反応時間が長く同一でも、濃度が薄い実施例1cが、ルチル型結晶構造の酸化チタン微粒子が極めて多く生成していることが分かる。
以上の比較結果を表5にまとめる。
SDA種が、
(c)ローダミンB(実施例1a:0.01M、31分:実施例1b:0.01M、60分、実施例1c:0.001M、60分)
である場合の各反応生成物について図4(a)、図7を元に説明する。
図4(a)は、実施例1(実施例1a、実施例1b、実施例1c)に係る酸化チタン微粒子の結晶構造をXRDの回折パターンにより同定した結果を示す図である。
図7は、SDA種がローダミンBの場合のSEM像であり、(a)は実施例1a、(b)は実施例1b、(c)は実施例1cの像である。
図4、図7の実験データより、SDA濃度が同一でも、実施例1aより反応時間が長い実施例1bがアナターゼ型の結晶の割合が減り、ルチル型の結晶が生成していることが観察できる。
また、反応時間が長く同一でも、濃度が薄い実施例1cが、ルチル型結晶構造の酸化チタン微粒子が極めて多く生成していることが分かる。
以上の比較結果を表5にまとめる。
[評価(3)実施例2aと実施例2bとの比較:図4(b)、図8(a)、(b)参照]
SDA種が、
(d)エオシンY(実施例2a:0.001M、31分:実施例2b:0.001M、60分)
である場合の各反応生成物について図4(b)、図8を元に説明する。
図4(b)は、実施例2(実施例2a、実施例2b)に係る酸化チタン微粒子の結晶構造をXRDの回折パターンにより同定した結果を示す図である。
図8は、SDA種がエオシンYの場合のSEM像で、(a)、(b)は実施例2a、(c)、(d)は実施例2bの像であり、(b)は(a)の部分拡大図、(d)は(c)の部分拡大図である。
実施例2aと実施例2bとの比較について説明する。
実施例2aおよび実施例2bは共に同一の濃度であり、この濃度はSDA種がローダミンBの場合にルチル型が観察された濃度である0.001Mである。実施例2aの反応時間が31分で、実施例2bでの反応時間が60分の場合の反応生成物について測定した。
XRDの回折パターンを示す図4(b)より、アナターゼ型とルチル型に帰属される回折ピークが共に現れているが、XRDの回折パターンのピークからは、反応時間が長い60分(実施例2b)のほうがアナターゼ型のピークに対するルチル型のピークが、反応時間が短い31分(実施例2a)に比べて大きくなっているのが確認することができる。
次に、結晶の大きさおよび形状を示す図8(a)、(b)に示す実施例2aのSEM像、図8(c)、(d)に示す実施例2bのSEM像からは、いずれの場合も結晶の形状はアナターゼ型酸化チタン微粒子に混じってルチル型酸化チタン微粒子が多く分布しているのが観察された。
エオシンYの長手方向の長さが、実施例2aの濃度でも反応時間を長くすることで(実施例2b)凝集し、酸化チタン微粒子が自己会合して結晶成長をしている。図8に示すように、針状の結晶であるアナターゼ型酸化チタン微粒子については、ある結晶面にはSDA分子が配位結合されてカバーされた態様を示し、別の結晶面にはSDA分子が配位結合しておらず、そこにチタン酸塩が結合することによってその結晶面に沿って結晶成長することになる。
以上の比較結果を表6にまとめる。
SDA種が、
(d)エオシンY(実施例2a:0.001M、31分:実施例2b:0.001M、60分)
である場合の各反応生成物について図4(b)、図8を元に説明する。
図4(b)は、実施例2(実施例2a、実施例2b)に係る酸化チタン微粒子の結晶構造をXRDの回折パターンにより同定した結果を示す図である。
図8は、SDA種がエオシンYの場合のSEM像で、(a)、(b)は実施例2a、(c)、(d)は実施例2bの像であり、(b)は(a)の部分拡大図、(d)は(c)の部分拡大図である。
実施例2aと実施例2bとの比較について説明する。
実施例2aおよび実施例2bは共に同一の濃度であり、この濃度はSDA種がローダミンBの場合にルチル型が観察された濃度である0.001Mである。実施例2aの反応時間が31分で、実施例2bでの反応時間が60分の場合の反応生成物について測定した。
XRDの回折パターンを示す図4(b)より、アナターゼ型とルチル型に帰属される回折ピークが共に現れているが、XRDの回折パターンのピークからは、反応時間が長い60分(実施例2b)のほうがアナターゼ型のピークに対するルチル型のピークが、反応時間が短い31分(実施例2a)に比べて大きくなっているのが確認することができる。
次に、結晶の大きさおよび形状を示す図8(a)、(b)に示す実施例2aのSEM像、図8(c)、(d)に示す実施例2bのSEM像からは、いずれの場合も結晶の形状はアナターゼ型酸化チタン微粒子に混じってルチル型酸化チタン微粒子が多く分布しているのが観察された。
エオシンYの長手方向の長さが、実施例2aの濃度でも反応時間を長くすることで(実施例2b)凝集し、酸化チタン微粒子が自己会合して結晶成長をしている。図8に示すように、針状の結晶であるアナターゼ型酸化チタン微粒子については、ある結晶面にはSDA分子が配位結合されてカバーされた態様を示し、別の結晶面にはSDA分子が配位結合しておらず、そこにチタン酸塩が結合することによってその結晶面に沿って結晶成長することになる。
以上の比較結果を表6にまとめる。
[評価(4)比較例1a、比較例1bおよび比較例1cについて:図4(c)、図9(a)、(b)、(c)参照]
比較例としてSDA種が、
(d)クエン酸(比較例1a:0.1M、31分:比較例1b:0.01M、31分、比較例1c:0.01M、60分)
である場合の各反応生成物について図4(c)、図9を元に説明する。
図4(c)は、比較例1(比較例1a、比較例1b、比較例1c)に係る酸化チタン微粒子の製造方法により製造した酸化チタン微粒子の結晶構造をXRDの回折パターンにより同定した結果を示す図である。
図9は、SDA種がクエン酸の場合のSEM像であり、(a)は比較例1a、(b)は比較例1b、(c)は比較例1cの測定図である。
SDA種がクエン酸の場合は、反応時間およびSDA濃度がいずれにしてもアナターゼ型の結晶構造であり、その結晶の形状はロッド状の結晶である。比較例1bが比較例1aに比べて結晶の大きさが小さいのは、比較例1aのSDA濃度が比較例1bのSDA濃度の10倍だからであり、比較例1bの濃度でも反応時間を長くすることで(比較例1c)凝集し、酸化チタン微粒子が自己会合して結晶成長をしている。上述したように、クエン酸はロッド状の結晶であり、ある結晶面にはSDA分子が配位結合されてカバーされた態様を示し、別の結晶面にはSDA分子が配位結合しておらず、そこにチタン酸塩が結合することによってその結晶面に沿って結晶成長することになる。
以上の比較結果を表7にまとめる。
比較例としてSDA種が、
(d)クエン酸(比較例1a:0.1M、31分:比較例1b:0.01M、31分、比較例1c:0.01M、60分)
である場合の各反応生成物について図4(c)、図9を元に説明する。
図4(c)は、比較例1(比較例1a、比較例1b、比較例1c)に係る酸化チタン微粒子の製造方法により製造した酸化チタン微粒子の結晶構造をXRDの回折パターンにより同定した結果を示す図である。
図9は、SDA種がクエン酸の場合のSEM像であり、(a)は比較例1a、(b)は比較例1b、(c)は比較例1cの測定図である。
SDA種がクエン酸の場合は、反応時間およびSDA濃度がいずれにしてもアナターゼ型の結晶構造であり、その結晶の形状はロッド状の結晶である。比較例1bが比較例1aに比べて結晶の大きさが小さいのは、比較例1aのSDA濃度が比較例1bのSDA濃度の10倍だからであり、比較例1bの濃度でも反応時間を長くすることで(比較例1c)凝集し、酸化チタン微粒子が自己会合して結晶成長をしている。上述したように、クエン酸はロッド状の結晶であり、ある結晶面にはSDA分子が配位結合されてカバーされた態様を示し、別の結晶面にはSDA分子が配位結合しておらず、そこにチタン酸塩が結合することによってその結晶面に沿って結晶成長することになる。
以上の比較結果を表7にまとめる。
[比較例に対して実施例の効果]
本実施形態における実施例および比較例で用いた各SDAに共通する性質は、チタンイオンに配位結合することができるカルボキシル基を有する色素であり、水溶性有機化合物である水溶性の色素を用いていることである。実施例には、芳香環を有する分子であり、分子内にキサンテン環をもつ色素分子であるローダミンB、エオシンYを用い、比較例には、芳香族ではないクエン酸を用いていた。
比較例1に対して実施例1では、実施例1で用いたSDAであるローダミンBの濃度を制御することにより、酸化チタン微粒子の結晶構造がアナターゼ型かルチル型かのいずれかを選択的に合成できることが分かった。それに対し、比較例1では、クエン酸の濃度を制御しても、酸化チタン微粒子の結晶構造はアナターゼ型のみであった。
しかしながら、比較例1においてSDA種としてクエン酸を用いた場合、生成した酸化チタン微粒子の結晶形状はロッド状の結晶であり、実施例1においてSDA種としてローダミンBを用いた場合、生成した酸化チタン微粒子の結晶形状は針状の結晶であった。これらについて、同じ層状チタン酸塩を原料として用いた従来のバッチ式水熱反応では粒子状以外の酸化チタンが観察されていない。一方、本発明において、SDA濃度条件、反応温度によっては、例えばロッド状、針状の酸化チタンのTEM結果から判断されるように一定の結晶面方向への異方性成長が促進されやすくなると推定される。
また、塊状のルチル型酸化チタンが形成するメカニズムについては、芳香族系SDAを用いた場合のみの結果であることから、SDAの自己会合特性が酸化チタンの結晶構造の形成に寄与するものと推定される。つまり、芳香環を有する自己会合性SDAを用いた場合、これらの会合体が酸化チタン形成の際に共存することで、Ti−O−Tiの結合挙動、つまり酸化チタンの結晶成長に影響し、結果的に非自己会合性SDAの場合とは異なるナノ構造の酸化チタンが生じると考えられる。特に、SDA濃度が低く、SDA/酸化チタン複合体の溶解度が低い反応条件下においては、酸化チタンの水熱合成の結晶成長では一般的とされる溶解−再析出型の結晶成長とは異なり、SDA/酸化チタン複合体の低溶解度に起因した結晶成長メカニズムでルチル型の結晶構造を有する酸化チタンが形成したと推定される。
また、実施例1および実施例2の実験結果から、図7(c)、図8(a)および図8(c)に示すように、SDAであるローダミンBおよびエオシンYの濃度が同一の0.001Mの場合において、ルチル型の粒子状の結晶が非常に多く分布しているのが観察された。特にSDAであるエオシンYの濃度を0.001Mに限定し、反応時間のみを制御した図8のSEM像では、アナターゼ型の結晶である針状結晶よりも、ルチル型の結晶である粒子状結晶が非常に多く分布しているのがよく観察できる。
以上より、チタン酸塩のコロイド分散液と、チタン酸塩のチタンイオンに配位結合する水溶性有機化合物の水溶液と、を、水熱合成して反応させる酸化チタン微粒子の製造方法において、水溶性有機化合物が芳香族化合物であることにより、従来技術の課題であった結晶性酸化チタン微粒子の結晶構造を容易に制御することができる。
本実施形態における実施例および比較例で用いた各SDAに共通する性質は、チタンイオンに配位結合することができるカルボキシル基を有する色素であり、水溶性有機化合物である水溶性の色素を用いていることである。実施例には、芳香環を有する分子であり、分子内にキサンテン環をもつ色素分子であるローダミンB、エオシンYを用い、比較例には、芳香族ではないクエン酸を用いていた。
比較例1に対して実施例1では、実施例1で用いたSDAであるローダミンBの濃度を制御することにより、酸化チタン微粒子の結晶構造がアナターゼ型かルチル型かのいずれかを選択的に合成できることが分かった。それに対し、比較例1では、クエン酸の濃度を制御しても、酸化チタン微粒子の結晶構造はアナターゼ型のみであった。
しかしながら、比較例1においてSDA種としてクエン酸を用いた場合、生成した酸化チタン微粒子の結晶形状はロッド状の結晶であり、実施例1においてSDA種としてローダミンBを用いた場合、生成した酸化チタン微粒子の結晶形状は針状の結晶であった。これらについて、同じ層状チタン酸塩を原料として用いた従来のバッチ式水熱反応では粒子状以外の酸化チタンが観察されていない。一方、本発明において、SDA濃度条件、反応温度によっては、例えばロッド状、針状の酸化チタンのTEM結果から判断されるように一定の結晶面方向への異方性成長が促進されやすくなると推定される。
また、塊状のルチル型酸化チタンが形成するメカニズムについては、芳香族系SDAを用いた場合のみの結果であることから、SDAの自己会合特性が酸化チタンの結晶構造の形成に寄与するものと推定される。つまり、芳香環を有する自己会合性SDAを用いた場合、これらの会合体が酸化チタン形成の際に共存することで、Ti−O−Tiの結合挙動、つまり酸化チタンの結晶成長に影響し、結果的に非自己会合性SDAの場合とは異なるナノ構造の酸化チタンが生じると考えられる。特に、SDA濃度が低く、SDA/酸化チタン複合体の溶解度が低い反応条件下においては、酸化チタンの水熱合成の結晶成長では一般的とされる溶解−再析出型の結晶成長とは異なり、SDA/酸化チタン複合体の低溶解度に起因した結晶成長メカニズムでルチル型の結晶構造を有する酸化チタンが形成したと推定される。
また、実施例1および実施例2の実験結果から、図7(c)、図8(a)および図8(c)に示すように、SDAであるローダミンBおよびエオシンYの濃度が同一の0.001Mの場合において、ルチル型の粒子状の結晶が非常に多く分布しているのが観察された。特にSDAであるエオシンYの濃度を0.001Mに限定し、反応時間のみを制御した図8のSEM像では、アナターゼ型の結晶である針状結晶よりも、ルチル型の結晶である粒子状結晶が非常に多く分布しているのがよく観察できる。
以上より、チタン酸塩のコロイド分散液と、チタン酸塩のチタンイオンに配位結合する水溶性有機化合物の水溶液と、を、水熱合成して反応させる酸化チタン微粒子の製造方法において、水溶性有機化合物が芳香族化合物であることにより、従来技術の課題であった結晶性酸化チタン微粒子の結晶構造を容易に制御することができる。
また、酸化チタン微粒子の製造方法をより効果的に実施することができる態様において好適に用いられる構成として、前記水溶性有機化合物が、芳香環を有する分子であること、親水基であるアミノ基、カルボキシル基、リン酸基、ヒドロキシル基およびスルホ基からなる群から選択される少なくとも1種を有すること、および自己会合性の有機化合物であること、の少なくとも一つであることが挙げられる。このような製造方法により、SDA種として作用する水溶性有機化合物が、より効率的に安定してチタン酸塩のチタンイオンに配位結合することができる。なお、水素原子を有する官能基が、溶媒中にて、その水素原子をプロトンとして放出し自らはマイナスイオンの状態として存在していてもよいし、水素原子を放出せずにそのまま水素原子を有した状態で存在していてもよい。
さらなる製造方法の多様性を示す例としての態様として、本願発明に係る水溶性有機化合物が水溶性色素であることが挙げられる。上記実施例1、2では、水溶性色素として、分子内にキサンテン環をもつ色素であるエオシンY、ローダミンBをSDA種として層状チタン酸塩との水熱反応による実験結果を示した。つまり、従来技術の課題であった結晶性酸化チタン微粒子の結晶構造を容易に制御することができる。
よって、結晶性酸化チタン微粒子の結晶構造が制御された酸化チタン微粒子を合成することができることを実験にて示した。
よって、結晶性酸化チタン微粒子の結晶構造が制御された酸化チタン微粒子を合成することができることを実験にて示した。
以上より、本発明の一実施形態に係る酸化チタン微粒子の製造方法を用いると、従来技術の課題であった結晶性酸化チタン微粒子の結晶構造を容易に制御することができる。詳しくは、SDAの濃度を適宜設定することでSDA/酸化チタン複合体の溶解度を変化させることができ、溶解度に起因する結晶成長メカニズムで様々な結晶構造を有する酸化チタン微粒子を形成することができる。
その実施例にて行った具体的な方法としては、チタン酸塩のコロイド分散液は、チタンアルコキシドをアミン類の存在下で加水分解することで調製され、チタン酸塩のコロイド分散水溶液に、そのチタン酸塩のチタンイオンに配位結合する水溶性有機化合物である水溶性色素を添加した後に水熱合成して反応させた。
チタンアルコキシドとしては、下記一般式(1)で表されるチタンテトラアルコキシドであることが挙げられる。
Ti(OR1)4 (1)
一般式(1)におけるR1は、炭素数1〜10のアルキル基を示し、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜6、更に好ましくは炭素数2〜4のアルキル基である。
チタンアルコキシドは、一般的な入手の容易さの観点から、チタンテトライソプロポキシドまたはチタンテトラエトキシドであることが好ましい。
また、アミン類は、炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基およびヒドロキシアルキル基から選ばれる有機基または水素原子を含む第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、および第四級アンモニウムヒドロキシドから選ばれる少なくとも一種以上であることが挙げられる。
チタンアルコキシドとしては、下記一般式(1)で表されるチタンテトラアルコキシドであることが挙げられる。
Ti(OR1)4 (1)
一般式(1)におけるR1は、炭素数1〜10のアルキル基を示し、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜6、更に好ましくは炭素数2〜4のアルキル基である。
チタンアルコキシドは、一般的な入手の容易さの観点から、チタンテトライソプロポキシドまたはチタンテトラエトキシドであることが好ましい。
また、アミン類は、炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基およびヒドロキシアルキル基から選ばれる有機基または水素原子を含む第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、および第四級アンモニウムヒドロキシドから選ばれる少なくとも一種以上であることが挙げられる。
チタンアルコキシドの加水分解と、水酸化物チタンと第四級アンモニウムヒドロキシドとの酸塩基反応により、チタン酸塩コロイドの溶液が調製することができる。
なお、酸化チタンは、基本特性として、高屈折率、光半導体特性、紫外線吸収能、高誘電特性を有する。酸化チタンは、ペンキ、化粧品などの原料に広く使われ、食品添加物としても認められている安価で安全な材料である。一方、酸化チタンはn型半導体性を示し、光電極や光触媒の材料として太陽エネルギー変換材料への応用、特に色素増感太陽電池の増感色素を吸着させる半導体微粒子としての応用が注目されている。本発明は、色素増感太陽電池用材料、光触媒、白色顔料、紫外線吸収料、フォトクロミズム材料、ガスセンサー材料などへの多面的な産業分野において応用することができる酸化チタン微粒子の製造方法およびその製造方法によって製造される酸化チタン微粒子である。
ここで、色素増感太陽電池用材料への利用可能性について説明する。
現在、化石燃料に頼らないでエネルギー供給することができる仕組みづくりが、地球規模での問題として重要視されている。主要一次エネルギーの代替として、太陽光発電技術が従来から注目されている。
現在、化石燃料に頼らないでエネルギー供給することができる仕組みづくりが、地球規模での問題として重要視されている。主要一次エネルギーの代替として、太陽光発電技術が従来から注目されている。
中でも本発明が関連する色素増感型太陽電池は、変換効率、耐久性ともあと一歩で実用化が充分可能となる目処が得られており、酸化チタン微粒子の高度ナノ構造制御技術などの材料製造技術が完成すれば、低価格太陽電池の市場拡大による経済への波及効果は極めて大きいと考えられる。
ちなみに、市場としては、2007年度富士経済での予測では、2015年度には、1、500億円の色素増感太陽電池の普及が予測されており、その酸化チタンナノ粒子市場は、50億円と想定できる。
Claims (14)
- チタン酸塩のコロイド分散液と、
前記チタン酸塩のチタンイオンに配位結合する水溶性有機化合物の水溶液と、
を、水熱合成して反応させる酸化チタン微粒子の製造方法において、
前記水溶性有機化合物が、芳香族化合物であることを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法。 - 請求項1に記載の酸化チタン微粒子の製造方法において、
前記水溶性有機化合物が、芳香環を有する分子であることを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法。 - 請求項1または請求項2に記載の酸化チタン微粒子の製造方法において、
前記水溶性有機化合物が、親水基を有することを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法。 - 請求項1から請求項3のいずれかに記載の酸化チタン微粒子の製造方法において、
前記水溶性有機化合物が有する前記親水基は、カルボキシル基であることを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法。 - 請求項1から請求項4のいずれかに記載の酸化チタン微粒子の製造方法において、
前記水溶性有機化合物が、自己会合性の有機化合物であることを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法。 - 請求項1から請求項5のいずれかに記載の酸化チタン微粒子の製造方法において、
前記水溶性有機化合物が、水溶性色素であることを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法。 - 請求項6に記載の酸化チタン微粒子の製造方法において、
前記水溶性色素が、分子内にキサンテン環をもつ色素であることを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法。 - 請求項7に記載の酸化チタン微粒子の製造方法において、
前記分子内にキサンテン環をもつ色素が、エオシンBおよびローダミンYの少なくとも一方であることを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法。 - 請求項1に記載の酸化チタン微粒子の製造方法において、
前記チタン酸塩のコロイド分散液は、チタンアルコキシドをアミン類の存在下で加水分解することで調製され、
前記チタン酸塩のコロイド分散水溶液に、そのチタン酸塩のチタンイオンに配位結合する水溶性有機化合物を添加した後に水熱合成して反応させることを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法。 - 請求項9に記載の酸化チタン微粒子の製造方法において、
前記チタンアルコキシドは、下記一般式(1)で表されるチタンテトラアルコキシドであることを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法。
Ti(OR1)4 (1)(式中、R1は、炭素数1〜10のアルキル基を示す。) - 請求項10に記載の酸化チタン微粒子の製造方法において、
前記一般式(1)におけるR1は、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜6、更に好ましくは炭素数2〜4のアルキル基であることを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法。 - 請求項10または請求項11に記載の酸化チタン微粒子の製造方法において、
前記チタンアルコキシドが、チタンテトライソプロポキシドまたはチタンテトラエトキシドであることを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法。 - 請求項10または請求項12に記載の酸化チタン微粒子の製造方法において、
前記アミン類は、炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基およびヒドロキシアルキル基から選ばれる有機基または水素原子を含む第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、ならびに第四級アンモニウムヒドロキシドから選ばれる少なくとも一種以上であることを特徴とする酸化チタン微粒子の製造方法。 - 請求項1から請求項13のいずれかに記載の酸化チタン微粒子の製造方法によって製造される酸化チタン微粒子。
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