JP2012172212A - 低Niオーステナイト系ステンレス鋼およびその熱延鋼板の製造法 - Google Patents
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Abstract
【課題】低Mn化したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼の熱間加工性および高速深絞り性を簡便な手法にて大幅に改善する。
【解決手段】質量%で、C:0.030〜0.100%、Si:0.01〜3.00%、Mn:2.00〜3.50%、P:0.020〜0.060%、S:0.005%以下、Ni:2.50〜5.00%、Cr:15.00〜19.00%、N:0.030〜0.130%、Cu:2.00〜3.50%、V:0.020〜0.300%、Mo:0〜2.0%、B:0〜0.010%、Ca:0〜0.010%、Al:0〜1.00%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつP+1.5V≧0.060、およびC+0.5N≦0.125を満たし、Md30が0〜50となる化学組成を有する鋼。
【選択図】図2
【解決手段】質量%で、C:0.030〜0.100%、Si:0.01〜3.00%、Mn:2.00〜3.50%、P:0.020〜0.060%、S:0.005%以下、Ni:2.50〜5.00%、Cr:15.00〜19.00%、N:0.030〜0.130%、Cu:2.00〜3.50%、V:0.020〜0.300%、Mo:0〜2.0%、B:0〜0.010%、Ca:0〜0.010%、Al:0〜1.00%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつP+1.5V≧0.060、およびC+0.5N≦0.125を満たし、Md30が0〜50となる化学組成を有する鋼。
【選択図】図2
Description
本発明は、Ni含有量を低減し、かつMnの多量含有を抑制したオーステナイト系ステンレス鋼であって、特に熱間加工性および高速変形での深絞り性の改善を図った鋼に関する。また、その鋼からなる熱延鋼板の製造法に関する。この鋼は、高速深絞り用に適したものである。
SUS304,SUS301に代表される加工硬化型の準安定オーステナイト系ステンレス鋼は、加工性、耐食性等の良好な特性を活かして種々の用途に広く使用されている。しかし、これらの鋼種は多量のNiを含有するため原料コストが高いという欠点がある。特に近年ではNi原料価格の乱高下の影響を受けて需給バランスが不安定になりやすいという問題も顕在化している。このようなことから昨今では従来にも増して、Ni含有量を低減した「Ni節減型」のオーステナイト系ステンレス鋼のニーズが高まっている。
Ni節減型のオーステナイト系ステンレス鋼としては、Ni含有量を低減する替わりに、オーステナイト形成元素としてMnを4%以上と多量に含有させた鋼種が知られている(特許文献1〜4)。しかし、このように多量のMnを含有させることは、製鋼工程でMn酸化物の微細粒子(Mnヒューム)の飛散を招き、環境保全の観点から特別な対策が必要となる。溶鋼を収容する容器の耐火物損耗も増大する。また、鋼中のMn含有量が高いことに起因して鋼板の表面品質が低下しやすく、焼鈍酸洗や光輝焼鈍などの鋼板製造工程において生産性を損なう場合がある。さらに、多量のMn含有は鋼板製品の耐食性を低下させる要因となりやすい。
Ni節減型オーステナイト系ステンレス鋼において、Mnを概ね4%未満に低減すると、鋳造時に多量のδフェライトが生成しやすくなる。δフェライトを多量に含むオーステナイト系ステンレス鋼の鋳造スラブは熱間加工性が悪く、SUS304,SUS301等と同様の一般的な条件で熱間圧延を行うと耳割れが発生し、操業上の大きな問題となる。したがって、この種の鋼においてMn含有量を低減することは必ずしも容易ではない。
特許文献5には、Mn含有量を3%まで低減可能にした熱間加工性の良いNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。この技術では成分間の限定式によりδフェライト生成量を抑制する手法を採用し、それによって熱間圧延での耳割れを回避している。しかし、Mn含有量を4%未満の領域まで低減しても、表面品質低下や耐食性低下の問題に対しては更なる改善が望まれる場合が多い。
一方、Mn含有量を3%以下の領域まで低減したNi節減型のオーステナイト系ステンレス鋼も、従来から主として成形加工性向上を目的に種々提案されている(特許文献6〜13)。Mn含有量をこの程度にまで低減すると、製鋼工程での環境保全、耐火物寿命の問題や、材料の表面品質、耐食性に関する問題は概ね解消される。しかしながら、Mnを低減することに起因する熱間加工性の低下に関しては抜本的な改善策が明らかにされていない。熱間圧延での耳割れを軽減するためには一般的な汎用鋼種とは違った製造条件を適用する必要があるなど、製造上の制約も大きく、Niを低減したことによるコストメリットが生産性の低下によって十分に活かされない場合もある。
そのような現状において、本出願人はNiおよびMnをともに低減したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼について、熱間圧延での耳割れを抑止する製造技術を開発し、特許文献14に開示した。その技術は、鋳造スラブをオーステナイト単相温度域に加熱保持することにより、スラブエッジ付近に存在するδフェライト相の量および粒径を適切にコントロールするというものである。また、鋳造時の平均冷却速度を高めてδフェライト生成量を低減することが熱延耳割れの抑制に有効であることを開示した。
オーステナイト系ステンレス鋼の主たる用途の一つとして、プレス成形による深絞り用途が挙げられる。深絞り製品の生産性を向上させるためには特に高速変形による深絞り性(以下「高速深絞り性」という)の改善が重要となる。オーステナイト系ステンレス鋼では成分組成を適正化することによって加工誘起マルテンサイト相の生成に起因するTRIP効果を利用することが可能であり、これによって良好な高速深絞り性を得ることができる。このTRIP効果による深絞り性の向上には、(i)加工誘起マルテンサイト相の生成し易さと、(ii)生成したマルテンサイト相の強度のバランスが、深く関与している。前者には成分組成に依存したオーステナイト安定度が大きく影響し、その指標として例えばMd30が知られている。後者には加工誘起マルテンサイト相の強度を左右する固溶強化元素であるCとNの含有量が大きく影響する。Ni節減型オーステナイト系ステンレス鋼においても、良好な高速深絞り性を実現するためには上記(i)(ii)のバランスを考慮した成分設計が必要となる。
しかしながら、上述のようにMn含有量を4%より大幅に低減したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼では熱間圧延で耳割れが生じやすく、良好な生産性を維持した簡便な手法で熱延耳割れの問題を解消することは難しい。例えば、上記特許文献14の技術によれば、鋳造時の平均冷却速度を高める手法や、スラブ加熱を入念に行う手法を採用することによって、熱間圧延の圧下条件に特段の制約を設けることなく、Mnを3%以下に低減したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼における耳割れの問題を解決することが可能となった。しかし、鋳造時の平均冷却速度を高めることは、連続鋳造においてはライン速度を低下させることに繋がり、生産性の低下を招く要因となる。連続鋳造のライン速度低下を避けたい場合は、熱間圧延前に鋳造スラブの加熱をより入念に行う必要が生じ、この場合も生産性は低下する。
最近では、加工製品の品質向上や生産性向上のために、SUS304などの汎用オーステナイト系ステンレス鋼よりもさらに高速深絞り性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の要求が高まっている。加えて、コスト低減のためにNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼への代替にも期待が寄せられている。本発明はこのような現状に鑑み、Mn含有量を4%より大幅に低減したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼において、SUS304,SUS301等の汎用鋼種よりも高速深絞り性が良好であり、かつこれらの汎用鋼種と比べて生産性が大きく低下することのない製造条件を採用しても、耳割れの問題を生じることなく良好な熱延鋼板が製造できる新規な鋼を提供しようというものである。
発明者らは、Mn含有量を4%より大幅に低減したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼の熱間加工性を向上させる手法として、化学組成に関する検討を詳細に行ってきた。その結果、Vを含有させると熱間加工性が顕著に向上することを見出した。ただし、そのVの作用はPの含有量を十分に確保することによって発揮されるのである。また、そのようなNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼では、C,N含有量を厳しく制限した場合に限って、特定のMd30の範囲において従来のSUS304,SUS301等の汎用オーステナイト系ステンレス鋼よりも高速深絞り性を顕著に向上させることができることを見出した。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
上記目的は、質量%で、C:0.030〜0.100%、Si:0.01〜3.00%、Mn:2.00〜3.50%、P:0.020〜0.060%、S:0.005%以下、Ni:2.50〜5.00%、Cr:15.00〜19.00%、N:0.030〜0.130%、Cu:2.00〜3.50%、V:0.020〜0.300%、Mo:0〜2.0%、B:0〜0.010%、Ca:0〜0.010%、Al:0〜1.00%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ下記(1)式好ましくは(1)’式および(2)式を満たし、(3)式で定義されるMd30が0〜50となる化学組成を有する熱間加工性および高速変形での深絞り性に優れた低Niオーステナイト系ステンレス鋼によって達成される。
P+1.5V≧0.060 …(1)
P+1.5V≧0.120 …(1)’
C+0.5N≦0.125 …(2)
Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo …(3)
P+1.5V≧0.060 …(1)
P+1.5V≧0.120 …(1)’
C+0.5N≦0.125 …(2)
Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo …(3)
ここで、Mo,B,Ca,Alは任意添加元素であり、含有量が0%(通常の製鋼における分析限界未満)であっても構わない。Sは通常の製鋼において不可避的に混入する不純物元素である。本明細書において(1)式等の成分限定式の元素記号の箇所には当該元素の質量%で表された含有量の値が代入される。Moを含有しない鋼の場合は、(3)式のMoの箇所には0(ゼロ)が代入される。「高速変形」とはプレス成形加工におけるパンチ速度が500mm/min以上の場合をいう。
また本発明では、上記の化学組成を有する鋼の溶鋼を、スラブ鋳造用モールドに注入して、スラブ厚さ中央部のスラブエッジにおける凝固開始温度から1250℃までの平均冷却速度が25℃/min以上となるように鋳造する工程、
得られた鋳造スラブを加熱炉にて1150〜1250℃で1.5h以上加熱する工程、
上記加熱後のスラブを熱間圧延する工程、
を有する低Niオーステナイト系ステンレス鋼熱延鋼板の製造法が提供される。
得られた鋳造スラブを加熱炉にて1150〜1250℃で1.5h以上加熱する工程、
上記加熱後のスラブを熱間圧延する工程、
を有する低Niオーステナイト系ステンレス鋼熱延鋼板の製造法が提供される。
本発明によれば、低Mn化したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼において、SUS304,SUS301等の汎用鋼種よりも高速深絞り性に優れるものが実現した。しかも、当該Ni節減型オーステナイト系ステンレス鋼種は本来、熱間圧延での耳割れを防止することが難しかったにもかかわらず、本発明に従えばSUS304,SUS301等の汎用鋼種と比べて生産性が大きく低下することのない製造条件にて耳割れの問題を生じることなく良好な熱延鋼板が得られる。また、低Mn化により、従来のMn含有量の高いNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼と比べ、環境保全対策の負荷が軽減し、鋼板品質も改善される。したがって本発明に従うNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼は、従来の汎用鋼種からの代替により、深絞り製品の生産性向上およびコスト低減に寄与するものである。
以下、化学組成に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
〔熱間加工性〕
発明者らは、Mn含有量を4%より大幅に低減したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼について、熱間加工性の改善に有利な化学組成の検討を詳細に行ってきた。その結果、前述のように、Vを含有させること、およびPの含有量を十分に確保することが極めて有効であることを見出した。以下に、Mn含有量を3%以下の領域にまで低減したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼について、熱間圧延での耳割れ発生に及ぼすPおよびVの含有量の影響を調査した実験を紹介する。ここでは、P,V以外の元素の含有量を表1のように一定とした鋼についての結果を例示する。
〔熱間加工性〕
発明者らは、Mn含有量を4%より大幅に低減したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼について、熱間加工性の改善に有利な化学組成の検討を詳細に行ってきた。その結果、前述のように、Vを含有させること、およびPの含有量を十分に確保することが極めて有効であることを見出した。以下に、Mn含有量を3%以下の領域にまで低減したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼について、熱間圧延での耳割れ発生に及ぼすPおよびVの含有量の影響を調査した実験を紹介する。ここでは、P,V以外の元素の含有量を表1のように一定とした鋼についての結果を例示する。
《熱間加工性の実験例》
表1に示す成分組成をベースとし、PおよびVの含有量を種々変化させた鋼を溶製した。各チャージとも270kgの溶鋼を銅製の鋳型に鋳造し、厚さ120mmのスラブとした。鋳造の際、鋳型に取り付けた数本の熱電対を用いて、スラブ厚さ中央部のスラブエッジ(スラブ側面)における凝固開始温度から1250℃までの平均冷却速度が27℃/minとなるように、鋳型を冷却する循環水の水量を調整した。得られた鋳造スラブから厚さ60mm×幅80mm×長さ120mmの熱間圧延用鋼片を採取した。その際、元のスラブのスラブエッジが熱間圧延用鋼片の片側の側面(幅方向端部の表面)に該当するようにした。このスラブエッジに由来する面を「評価面」と呼ぶ。
表1に示す成分組成をベースとし、PおよびVの含有量を種々変化させた鋼を溶製した。各チャージとも270kgの溶鋼を銅製の鋳型に鋳造し、厚さ120mmのスラブとした。鋳造の際、鋳型に取り付けた数本の熱電対を用いて、スラブ厚さ中央部のスラブエッジ(スラブ側面)における凝固開始温度から1250℃までの平均冷却速度が27℃/minとなるように、鋳型を冷却する循環水の水量を調整した。得られた鋳造スラブから厚さ60mm×幅80mm×長さ120mmの熱間圧延用鋼片を採取した。その際、元のスラブのスラブエッジが熱間圧延用鋼片の片側の側面(幅方向端部の表面)に該当するようにした。このスラブエッジに由来する面を「評価面」と呼ぶ。
熱間圧延用鋼片を加熱炉に装入して1200℃で2h加熱したのち抽出し、リバース式の熱間圧延機による大気中での熱間圧延実験に供し、熱延鋼板を得た。熱間圧延のパススケジュールは表2に示すとおりである。各パスでのディレイは約7sec、圧延速度は約30m/minとした。
得られた熱延鋼板(トータル圧延率95%)について評価面に由来するエッジにおける耳割れ深さを測定した。この熱間圧延実験において最大耳割れ深さが1mm以下となれば、良好な熱間加工性を有すると評価される。評価は以下の3段階に分類し、○評価以上を合格と判定した。
◎:耳割れの発生が認められない(熱間加工性;優秀)。
○:最大耳割れ深さが1mm以下の耳割れが認められる(熱間加工性;良好)。
×:最大耳割れ深さが1mmを超える耳割れが認められる(熱間加工性;不良)。
これらの結果を図1に示す。
◎:耳割れの発生が認められない(熱間加工性;優秀)。
○:最大耳割れ深さが1mm以下の耳割れが認められる(熱間加工性;良好)。
×:最大耳割れ深さが1mmを超える耳割れが認められる(熱間加工性;不良)。
これらの結果を図1に示す。
図1からわかるように、Vを0.02質量%以上含有させた場合に良好な熱間加工性を実現することができる。ただし、P含有量を0.02質量%以上確保し、かつ下記(1)式を満たすようにPとVの配合バランスを調整しなければ、Vによる熱間加工性改善効果が発揮されない。下記(1)’式を満たす場合には特に優れた熱間加工性が実現できる。
P+1.5V≧0.060 …(1)
P+1.5V≧0.120 …(1)’
図1は、P,V以外の元素の含有量を表1に示すように一定とした場合の結果を整理したものであるが、発明者らは、本発明で規定する成分組成範囲において上記と同様のPおよびVによる熱間加工性改善効果が得られることを確認している。
P+1.5V≧0.060 …(1)
P+1.5V≧0.120 …(1)’
図1は、P,V以外の元素の含有量を表1に示すように一定とした場合の結果を整理したものであるが、発明者らは、本発明で規定する成分組成範囲において上記と同様のPおよびVによる熱間加工性改善効果が得られることを確認している。
発明者らの調査によれば、低Mn化したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼の熱間圧延での耳割れは、オーステナイト素地とδフェライト相の界面を起点として発生し、またオーステナイト素地とδフェライトの界面が亀裂の伝播経路となっている。熱間圧延での耳割れ感受性が低くなる条件として、δフェライト量が少ないこと、δフェライト相が微細であること、オーステナイト相とδフェライト相の界面ができるだけ不連続となっていることが挙げられる。
PとVの配合バランスを上述のように調整したことにより当該鋼種の熱間加工性が顕著に向上する理由については、現時点で調査中であり十分解明できていないが、以下のことが考えられる。PとVを適正範囲で含有させると、初晶δおよびデンドライトが微細化し、鋳造スラブ中に存在するδフェライト相は従来より微細化したものとなる。そのため熱間圧延前のスラブ加熱によるδフェライト相の減少効果(δ→γ変態の促進効果)が高まり、それが熱間圧延での耳割れ抑止に効いているものと推察される。このことは、PおよびVの配合バランスを調整していない鋼においては鋳造時の冷却速度を50℃/min以上に大きくするか、あるいは鋳造スラブの加熱を通常よりも入念に行わなければ熱延耳割れのトラブルを回避することが難しかったのに対し(特許文献14参照)、本発明に従えば鋳造時の冷却速度を25℃/minまで遅くし、鋳造スラブの加熱を一般的条件で行った場合でも熱延耳割れのトラブルは回避される、という事実からから肯定される。
〔高速深絞り性〕
低Mn化したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼の高速深絞り性を顕著に改善し得る成分組成を見出すべく、発明者らは種々研究を重ねてきた。その結果、C,Nの含有量を下記(2)式のように制限した場合に限って、下記(3)式で表されるオーステナイト安定度の指標Md30の値が特定範囲にある場合に、高速深絞り性が顕著に向上することが明らかとなった。
C+0.5N≦0.125 …(2)
Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo …(3)
以下に、PおよびVの配合バランスを上述のように適正化した低Mn化Ni節減型オーステナイト系ステンレス鋼について、オーステナイト生成元素であるC,Mn,Ni,Nの含有量を調整することによってMd30値を振った場合の、高速深絞り性への影響を調べた実験例を紹介する。
低Mn化したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼の高速深絞り性を顕著に改善し得る成分組成を見出すべく、発明者らは種々研究を重ねてきた。その結果、C,Nの含有量を下記(2)式のように制限した場合に限って、下記(3)式で表されるオーステナイト安定度の指標Md30の値が特定範囲にある場合に、高速深絞り性が顕著に向上することが明らかとなった。
C+0.5N≦0.125 …(2)
Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo …(3)
以下に、PおよびVの配合バランスを上述のように適正化した低Mn化Ni節減型オーステナイト系ステンレス鋼について、オーステナイト生成元素であるC,Mn,Ni,Nの含有量を調整することによってMd30値を振った場合の、高速深絞り性への影響を調べた実験例を紹介する。
《高速深絞り性の実験例》
Ni節減型オーステナイト系ステンレス鋼において、Cを0.060〜0.115%、Mnを1.90〜6.50%、Niを2.36〜4.99%、Nを0.060〜0.100%の範囲で振ることによって種々のMd30値に調整した鋼を溶製した。Pは0.022〜0.054%、Vは0.023〜0.090%の範囲で含有させてある。上記以外の成分元素の含有量は、Si:0.8%、S:0.003%、Cr:17%、Cu:2.8%をベースとして、各鋼とも概ね同等レベルとした。各溶製チャージとも270kgの溶鋼を銅製の鋳型に鋳造し、厚さ120mmのスラブとした。鋳造の際、鋳型に取り付けた数本の熱電対を用いて、スラブ厚さ中央部のスラブエッジ(スラブ側面)における凝固開始温度から1250℃までの平均冷却速度が27℃/minとなるように、鋳型を冷却する循環水の水量を調整した。得られた鋳造スラブを上述の「熱間加工性の実験例」の条件に従って熱間圧延することにより熱延鋼板とし、その後、常法にて冷間圧延および焼鈍を行って板厚0.3mmの冷延焼鈍鋼板を得た。
Ni節減型オーステナイト系ステンレス鋼において、Cを0.060〜0.115%、Mnを1.90〜6.50%、Niを2.36〜4.99%、Nを0.060〜0.100%の範囲で振ることによって種々のMd30値に調整した鋼を溶製した。Pは0.022〜0.054%、Vは0.023〜0.090%の範囲で含有させてある。上記以外の成分元素の含有量は、Si:0.8%、S:0.003%、Cr:17%、Cu:2.8%をベースとして、各鋼とも概ね同等レベルとした。各溶製チャージとも270kgの溶鋼を銅製の鋳型に鋳造し、厚さ120mmのスラブとした。鋳造の際、鋳型に取り付けた数本の熱電対を用いて、スラブ厚さ中央部のスラブエッジ(スラブ側面)における凝固開始温度から1250℃までの平均冷却速度が27℃/minとなるように、鋳型を冷却する循環水の水量を調整した。得られた鋳造スラブを上述の「熱間加工性の実験例」の条件に従って熱間圧延することにより熱延鋼板とし、その後、常法にて冷間圧延および焼鈍を行って板厚0.3mmの冷延焼鈍鋼板を得た。
上記の冷延焼鈍鋼板から70mmφの円板を採取して試験片とした。その試験片(ブランク)をサーボプレス機により、パンチ径40mmφ、ダイス径40.72mm、パンチ肩R0.3mm、ダイス肩R0.3mmの金型にてクッション圧10kN、パンチ速度700mm/min、常温の条件でプレス成形した。その際、パンチ速度が十分に得られた状態で成形できるようにパンチとブランクの間に十分なストロークを設けた。各鋼種につき試験数n=3で種々の高さまでプレス成形を施し、同一高さまでプレスした3個の試験片の全てについて割れが生じなかった場合の最大のプレス高さの値を、当該鋼種における深絞り性の成績として採用した。この成績値を当該鋼種についての「成形高さ」と呼ぶ。種々の用途を考慮したとき、この試験における成形高さが15mm以上であれば高速深絞り性は良好と評価することができる。結果を図2に示す。図2中には、参考のため、MnおよびNi含有量がSUS304,SUS301等の汎用オーステナイト系ステンレス鋼と同等レベルである鋼(以下、単に「従来鋼」ということがある)についての同様の実験結果も併せてプロットしてある。これら従来鋼は後述表3のE1〜E7に相当するものである。
図2からわかるように、下記(2)式を満たすようにC,Nの含有量を制限したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼においてのみ、下記(3)式に従うMd30値が0〜50の範囲で高速深絞り性の顕著な向上が認められた。
C+0.5N≦0.125 …(2)
Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo …(3)
従来鋼(MnおよびNi含有量がSUS304,SUS301と同等レベルのオーステナイト系ステンレス鋼)では、Md30が0〜50の範囲で高速深絞り性の向上傾向は見られるものの、成形高さ15mmには達していない(△プロット)。すなわち、低Mn化したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼においては、従来一般的な汎用オーステナイト系ステンレス鋼種をはるかに凌ぐ高速深絞り性が実現できることが明らかとなった。
C+0.5N≦0.125 …(2)
Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo …(3)
従来鋼(MnおよびNi含有量がSUS304,SUS301と同等レベルのオーステナイト系ステンレス鋼)では、Md30が0〜50の範囲で高速深絞り性の向上傾向は見られるものの、成形高さ15mmには達していない(△プロット)。すなわち、低Mn化したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼においては、従来一般的な汎用オーステナイト系ステンレス鋼種をはるかに凌ぐ高速深絞り性が実現できることが明らかとなった。
低Mn化したNi低減型オーステナイト系ステンレス鋼において、上記のように顕著な高速深絞り性向上効果が発現するメカニズムについては現時点で未解明な点が多いが、以下のようなことが考えられる。
発明者らの詳細な研究によれば、低Mn化したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼とSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼とでは、加工誘起マルテンサイト変態の変形速度依存性に差異があることがわかってきた。すなわち、低Mn化したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼では、変形速度が大きい場合に、変形初期の加工誘起マルテンサイト生成量がSUS304等と比べ少なくなる傾向が見られるのである。
発明者らの詳細な研究によれば、低Mn化したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼とSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼とでは、加工誘起マルテンサイト変態の変形速度依存性に差異があることがわかってきた。すなわち、低Mn化したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼では、変形速度が大きい場合に、変形初期の加工誘起マルテンサイト生成量がSUS304等と比べ少なくなる傾向が見られるのである。
プレス成形では、フランジ部の流入抵抗が小さく、パンチ肩部の加工硬化が大きい材料ほど、よく絞り込まれる。つまり、深絞り性はフランジ流入部の縮みに伴う抵抗とパンチ肩部の強化とのバランスに支配されるところが大きい。本発明に従えば、高速変形初期の加工誘起マルテンサイト生成量が少なくなるという当該鋼種に特有の性質に加えて、C,N含有量を(2)式のように制限することによりフランジ流入部で生成した加工誘起マルテンサイト相の過度の硬質化が抑制される。このような作用はフランジ流入抵抗の低減に極めて有利となる。そして、加工誘起マルテンサイト変態の生じやすさ(Md30)が適切に調整されている場合に、上記作用が最大限に発揮される。そのMd30の適正値は0〜50の範囲にある。一方、パンチ肩部の加工硬化は、C:0.030%以上かつN:0.030%以上の含有および他の成分元素の含有量調整によって十分に確保される。
このようなことから、C:0.030%以上、N:0.030%以上を含み、かつ上記(2)式のようにC,N含有量が制限された低Mn化Ni節減型オーステナイト系ステンレス鋼において、上記(3)式のMd30が0〜50に調整された組成域で、高速深絞り性が顕著に向上するのではないかと推察される。
〔化学組成〕
CおよびNは、オーステナイト生成元素であり、これらの元素の含有量が少なすぎるとδフェライト相の生成量が増大し、熱間加工性が低下する。また、これらの元素は加工誘起マルテンサイト相(α’相)を固溶強化する元素であり、TRIP効果を利用した延性向上に有効である。プレスによる絞り加工ではパンチ肩部の強化を図る上でもC,Nは重要な役割を有する。これらの作用を十分に発揮させるためにはC,Nともそれぞれ0.030%以上の含有量を確保する必要がある。一方、C,Nの含有量が多くなりすぎると過度に硬質化して加工性を阻害する要因となる。種々検討の結果、Cは0.100%以下、Nは0.130%以下の含有量に制限される。そのうえで、高速深絞り性をSUS304等の汎用オーステナイト系ステンレス鋼よりも顕著に向上させるためには、前記(2)式を満たすようにC,Nの含有量を規制する必要がある(前述)。
CおよびNは、オーステナイト生成元素であり、これらの元素の含有量が少なすぎるとδフェライト相の生成量が増大し、熱間加工性が低下する。また、これらの元素は加工誘起マルテンサイト相(α’相)を固溶強化する元素であり、TRIP効果を利用した延性向上に有効である。プレスによる絞り加工ではパンチ肩部の強化を図る上でもC,Nは重要な役割を有する。これらの作用を十分に発揮させるためにはC,Nともそれぞれ0.030%以上の含有量を確保する必要がある。一方、C,Nの含有量が多くなりすぎると過度に硬質化して加工性を阻害する要因となる。種々検討の結果、Cは0.100%以下、Nは0.130%以下の含有量に制限される。そのうえで、高速深絞り性をSUS304等の汎用オーステナイト系ステンレス鋼よりも顕著に向上させるためには、前記(2)式を満たすようにC,Nの含有量を規制する必要がある(前述)。
Siは、製鋼での脱酸に有効であるとともに、固溶強化に寄与する元素である。通常は0.01%以上含有され、0.30%以上とすることがより効果的である。しかし、多量にSiを含有させるとδフェライト相の多量生成を招く要因となる。また、鋼を硬質化させ加工性を損なう要因ともなる。検討の結果、Si含有量は3.00%以下に制限される。特に優れた熱間加工性を必要とする場合は2.00%以下のSi含有量に管理することが望ましい。
Mnは、Niより安価なオーステナイト生成元素であり、Ni節減型のオーステナイト系ステンレス鋼においてNiの代替元素として添加される。C,Nを上述のように厳しく規制している本発明対象鋼においては、2.00%以上のMn含有量を確保する必要がある。ただし、Mn含有量が多くなると、製鋼工程での環境保全対策の負荷が増大する。また、得られる鋼板の表面性状が低下しやすくなるので、その解決対策のために生産性の低下を招くことがある。MnSなどの介在物が増大して加工性低下や耐食性低下を引き起こす要因ともなる。Mnの多量含有によるそれらの欠点を克服するため、本発明ではMn含有量を3.50%以下に制限する。3.00%以下とすることがより効果的であり、3.00%未満に管理してもよい。
Sは、不純物として混入するが、その含有量が多くなると加工性その他の材料特性や製造性に悪影響を及ぼすようになる。検討の結果、S含有量は0.005%以下に制限される。S含有量は低いほど好ましいが、過剰な低S化は製鋼の負荷を増大させる。Sは0.0005%以上の範囲で残存させることが製造コスト的には望ましい。
Niは、オーステナイト系ステンレス鋼に必須の元素であるが、本発明ではコスト低減の観点からNi含有量を極力抑える成分設計を行っており、Ni含有量の上限は5.00%に制限される。5.00%未満、あるいは4.00%以下、あるいはさらに3.00%以下のNi含有量に管理してもよい。ただし、C,N,Mnを上述の範囲に規定する場合、スラブ加熱温度域(例えば1150〜1250℃)でオーステナイト単相となるように成分調整する必要から、Ni含有量は2.50%以上を確保する必要がある。2.50%を超える量、あるいは3.00%以上に管理してもよい。
Cuは、オーステナイト生成元素であることから、Cu含有量の増加に伴って他のオーステナイト生成元素含有量の設定自由度が拡大し、Niを抑制した成分設計が容易になる。また、Cuはプレス成形加工においてフランジ流入部での圧縮変形による加工誘起マルテンサイト相の生成を抑制する作用を呈するので、フランジ流入抵抗の低減化に有効な元素である。これらの作用を十分に発揮させるため、本発明ではCuを2.00%以上含有させる。2.50%以上とすることがより効果的である。ただし、多量のCu含有は低融点合金相の生成を招き、熱間加工性を阻害する要因となる。このためCu含有量は3.50%以下に制限される。3.00%以下に管理してもよい。
Crは、ステンレス鋼の耐食性を確保する上で必須の元素である。本発明では、SUS304,SUS301などの汎用オーステナイト系ステンレス鋼の代替用途に適用できる耐食性を確保すべく、Cr含有量が15.00%以上の鋼を対象とする。ただし、Crはフェライト生成元素であり、過度のCr含有はδフェライト相の多量生成を招くので好ましくない。オーステナイト生成元素であるC,N,Mn,Ni,Cuの前述した含有量範囲とのバランスについて種々検討した結果、Cr含有量は19.00%以下の範囲とする。
PおよびVは、本発明において極めて重要な元素である。前述したように、PとVの配合バランスを適性化した場合に、熱間加工性を顕著に向上させることができる。これらの元素の作用を発揮させるためには、P,Vともそれぞれ0.020%以上の含有量とする必要がある。それに加えて、前記(1)式を満たすようにPおよびVの含有量を調整する必要がある。(1)式に代えて前記(1)’式を採用することがより効果的である。ただし、Pの過剰含有は鋼板の靱性低下を招く。特に溶接を行う場合は母材および溶接部の靱性を低下させる要因となる。一方、Vの過剰含有は製造コストの上昇および鋼の硬質化を招く。種々検討の結果、P含有量は0.060%以下に制限され、V含有量は0.300%以下に制限される。
なお、特許文献13にはVを添加したオーステナイト系ステンレス鋼が記載されている。ただし、そのVの役割はTiやNbと同様に炭窒化物を形成することにあり、低Mn化したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼の熱間加工性を向上させるためにPとVの配合バランス適性化が有効であることについては示唆がない。事実、この文献にはPの含有量が示されておらず、またオーステナイト生成元素であるMn,NiおよびCuを上記のように制限したNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼においてVを含有させた具体例も示されていない。
Moは、耐食性向上作用などを呈するので、必要に応じて添加することができる。0.04%以上のMo含有量を確保することがより効果的であり、0.20%以上とすることがさらに効果的である。ただし、過剰のMo含有は熱間加工性低下を招く要因となるので、Moを添加する場合は2.0%以下の範囲で行う。
BおよびCaは、少量の添加で熱間加工性の向上に有利に作用するので、必要に応じてこれらの1種または2種を添加することができる。その作用を十分に得るためには、Bの場合は0.001%以上、Caの場合も0.001%以上の含有量を確保することがより効果的である。ただし、これらの元素を過剰に添加すると逆に熱間加工性を阻害する要因となる。検討の結果、B,Caの1種以上を添加する場合は、いずれもそれぞれ0.010%以下の範囲で添加する必要がある。
Alは、脱酸剤として必要に応じて添加することができる。その場合、0.01%以上のAl含有量を確保することがより効果的である。ただし、過剰のAl添加は熱間加工性を阻害する要因となるので、Alを添加する場合は1.00%以下の含有量範囲で行う。
本発明では、前述のようにTRIP効果を利用して良好な加工性(特に高速深絞り性)を実現させる。そのためには加工誘起マルテンサイト変態の起こりやすさを適性化することが重要である。種々検討の結果、低Mn化されたNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼においても、加工誘起マルテンサイト変態の起こりやすさを表すオーステナイト安定度の指標として上記(3)式のMd30を採用することができることが確認された。そしてMd30値が0〜50となるように成分調整されている場合に高速深絞り性の顕著な向上が可能となる。
〔熱延鋼板の製造法〕
本発明に従えば、SUS304,SUS301などの汎用オーステナイト系ステンレス鋼と同様の工程にて熱延鋼板を製造することができる。具体的には、成分調整された溶鋼を連続鋳造またはバッチ式で鋳造し、得られた鋳造スラブを加熱したのち抽出して、連続熱間圧延機またはリバース式熱間圧延機にて熱間圧延する手法が採用できる。
本発明に従えば、SUS304,SUS301などの汎用オーステナイト系ステンレス鋼と同様の工程にて熱延鋼板を製造することができる。具体的には、成分調整された溶鋼を連続鋳造またはバッチ式で鋳造し、得られた鋳造スラブを加熱したのち抽出して、連続熱間圧延機またはリバース式熱間圧延機にて熱間圧延する手法が採用できる。
ただし、熱延に供するスラブにおいてδフェライト相ができるだけ少量かつ微細な状態となっていることが重要であるため、鋳造時にδフェライト相が過剰に成長しないように配慮する必要がある。具体的には、上述のとおりに成分調整された溶鋼をスラブ鋳造用モールドに注入して、スラブ厚さ中央部のスラブエッジにおける凝固開始温度から1250℃までの平均冷却速度が25℃/min以上となるように鋳造すればよい。本発明で対象とする鋼はPとVの配合バランスが上述のように適性化されているので、鋳造スラブ中のδフェライト相は、従来の当該鋼種より微細化されたものとなる。このため、従来は後工程でのスラブ加熱処理における負荷増大を避けたい場合には鋳造時の上記平均冷却速度を50℃/min以上としなければならなかったが(特許文献14)、本発明に従えば25℃/minまで小さくすることができる。連続鋳造においては、鋳造時の冷却速度を小さくすることができるということは、モールド内を通過する時間をより短くすることができることを意味し、鋳造速度(ラインスピード)の向上に繋がる。すなわち生産性が向上する。
上記の手法で得られた鋳造スラブは、鋳造ままの状態においてδフェライト相が微細化されているので、熱間圧延前に行うスラブ加熱を特段に入念に行う必要はない。具体的には、1150〜1250℃のオーステナイト単相温度域で1.5h以上加熱する条件を採用すればよい。その後、一般的なオーステナイト系ステンレス鋼熱延鋼板の製造手法に準じて熱間圧延を行えば、耳割れによるトラブルを生じることなく、健全な熱延鋼板を得ることができる。
〔冷延焼鈍鋼板〕
得られた熱延鋼板は、一般的なステンレス鋼冷延焼鈍鋼板の製造工程により例えば板厚0.1〜3mmの鋼板とされ、その後、必要に応じて形状矯正や調質圧延を受け、冷延焼鈍鋼板(調質圧延済みのものを含む)とされる。この冷延焼鈍鋼板は、上述の成分調整によって高速変形での深絞り性が顕著に改善されている。したがって、高速深絞り用のオーステナイト系ステンレス鋼として、SUS304,SUS301等の従来の汎用鋼種が使用されている種々の用途に活用できる他、汎用鋼種では成形が困難であるような、より高度な高速深絞り加工にも適用することができる。
得られた熱延鋼板は、一般的なステンレス鋼冷延焼鈍鋼板の製造工程により例えば板厚0.1〜3mmの鋼板とされ、その後、必要に応じて形状矯正や調質圧延を受け、冷延焼鈍鋼板(調質圧延済みのものを含む)とされる。この冷延焼鈍鋼板は、上述の成分調整によって高速変形での深絞り性が顕著に改善されている。したがって、高速深絞り用のオーステナイト系ステンレス鋼として、SUS304,SUS301等の従来の汎用鋼種が使用されている種々の用途に活用できる他、汎用鋼種では成形が困難であるような、より高度な高速深絞り加工にも適用することができる。
〔実施例1〕
表3に示す鋼を溶製し、前述の「熱間加工性の実験例」と同様の手法にてスラブエッジを評価面とする熱延実験を行った。ただし、ここでは鋳造時における凝固開始温度から1250℃までの平均冷却速度、熱間圧延前のスラブ加熱温度および加熱時間を表4中に示すように変動させた。得られた熱延鋼板(トータル圧延率95%)について評価面に由来するエッジにおける耳割れ深さを測定し、前述の3段階の評価方法にて熱間加工性を評価し、最大耳割れ深さが0〜1mmのもの(◎および○評価)を合格と判定した。結果を表4に示す。
表3に示す鋼を溶製し、前述の「熱間加工性の実験例」と同様の手法にてスラブエッジを評価面とする熱延実験を行った。ただし、ここでは鋳造時における凝固開始温度から1250℃までの平均冷却速度、熱間圧延前のスラブ加熱温度および加熱時間を表4中に示すように変動させた。得られた熱延鋼板(トータル圧延率95%)について評価面に由来するエッジにおける耳割れ深さを測定し、前述の3段階の評価方法にて熱間加工性を評価し、最大耳割れ深さが0〜1mmのもの(◎および○評価)を合格と判定した。結果を表4に示す。
表4からわかるように、本発明に従って各合金成分の含有量およびPとVの配合バランスを適性化し、鋳造時の冷却およびスラブ加熱を適正条件で行った場合には、低Mn化されたNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼において耳割れトラブルの生じない良好な熱間加工性が実現された。特に、本発明例のうち前記(1)’式を満たすようにPとVの配合バランスが調整された鋼C2,C4,C6,C10〜C14を採用したものは、一層優れた熱間加工性を呈した。
ただし、本発明で規定する化学組成を有する鋼であっても、製造条件が不適切であると良好な熱間加工性が得られない場合がある。例えば、比較例であるNo.2はスラブ加熱温度が低すぎ、またNo.4はスラブ加熱時間が短すぎたため、これらはいずれも鋳造スラブ中に存在するδフェライト相の減少が不十分となり、熱間加工性は十分に改善されなかった。No.3はスラブ加熱温度がオーステナイト(γ)単相域を超えて高すぎたことによりδフェライト相が析出し、熱間加工性が低下した。No.5,8は鋳造時の冷却速度が小さすぎたことにより鋳造スラブ中に存在するδフェライト相の微細化が不十分となり、熱間加工性は十分に改善されなかった。
No.21〜26は低Mn化されたNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼であるが本発明の規定を満たさない化学組成を有する鋼を採用したものである。このうちNo.21はPとVの配合バランスが適性化されていない鋼を採用したことにより、1mmを超える熱延耳割れが発生した。No.22〜26はPとVの配合バランスが適性化されている鋼を採用したことにより、熱間加工性に関しては良好な結果が得られている。
No.27〜33は従来鋼(MnおよびNiの含有量がSUS304,SUS301等と同等のレベルにあるオーステナイト系ステンレス鋼)を用いたものである。このような従来鋼種では、熱間加工性は特に問題とならない。
〔実施例2〕
次に、実施例1において耳割れの問題がなく製造された健全な熱延鋼板を用いて、常法にて板厚0.3mmの冷延焼鈍鋼板を作製し、前述の「高速深絞り性の実験例」と同様の手法にて高速深絞り性の評価を行った。その結果を表5および図3に示す。表5中のNo.は、使用した熱延鋼板の製造条件を示す表4中のNo.に対応する。
次に、実施例1において耳割れの問題がなく製造された健全な熱延鋼板を用いて、常法にて板厚0.3mmの冷延焼鈍鋼板を作製し、前述の「高速深絞り性の実験例」と同様の手法にて高速深絞り性の評価を行った。その結果を表5および図3に示す。表5中のNo.は、使用した熱延鋼板の製造条件を示す表4中のNo.に対応する。
表5および図3からわかるように、本発明例の低Mn化されたNi節減型オーステナイト系ステンレス鋼を用いたものは、いずれも成形高さ15mm以上の優れた高速深絞り性を呈した。これに対し、比較例であるNo.22はC含有量が少なすぎたためパンチ肩部の強化が不十分となり、高速深絞り性は改善されなかった。No.23はCu含有量が不足したためフランジ流入部での加工誘起マルテンサイト相の生成が十分に抑制できず、その結果、フランジ流入抵抗が高くなって高速深絞り性は改善されなかった。No.24はC,Nの含有量が(2)式を外れて高いためにフランジ流入部で生成した加工誘起マルテンサイト相が過度に硬くなり、高速深絞り性は改善されなかった。No.25,26はMd30が本発明の規程範囲を外れるため良好な高速深絞り性が実現できなかった。
一方、比較例であるNo.27〜33は従来鋼(MnおよびNiの含有量がSUS304,SUS301等と同等のレベルにある鋼)を用いたものであり、Md30を広範囲に振っても成形高さが15mm以上となるような優れた高速深絞り性は実現できなかった。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.030〜0.100%、Si:0.01〜3.00%、Mn:2.00〜3.50%、P:0.020〜0.060%、S:0.005%以下、Ni:2.50〜5.00%、Cr:15.00〜19.00%、N:0.030〜0.130%、Cu:2.00〜3.50%、V:0.020〜0.300%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ下記(1)式および(2)式を満たし、(3)式で定義されるMd30が0〜50となる化学組成を有する熱間加工性および高速変形での深絞り性に優れた低Niオーステナイト系ステンレス鋼。
P+1.5V≧0.060 …(1)
C+0.5N≦0.125 …(2)
Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo …(3) - 上記(1)式に代えて下記(1)’式を適用する請求項1に記載の低Niオーステナイト系ステンレス鋼。
P+1.5V≧0.120 …(1)’ - さらにMo:2.0%以下、B:0.010%以下、Ca:0.010%以下、Al:1.00%以下の1種以上を含有する請求項1または2に記載の低Niオーステナイト系ステンレス鋼。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の鋼の溶鋼を、スラブ鋳造用モールドに注入して、スラブ厚さ中央部のスラブエッジにおける凝固開始温度から1250℃までの平均冷却速度が25℃/min以上となるように鋳造する工程、
得られた鋳造スラブを加熱炉にて1150〜1250℃で1.5h以上加熱する工程、
上記加熱後のスラブを熱間圧延する工程、
を有する低Niオーステナイト系ステンレス鋼熱延鋼板の製造法。
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CN104711492A (zh) * | 2015-03-20 | 2015-06-17 | 宝钢不锈钢有限公司 | 一种超硬态奥氏体不锈钢及其制造方法 |
CN106319343A (zh) * | 2016-10-10 | 2017-01-11 | 宝钢不锈钢有限公司 | 一种低成本的高强度不锈钢及其焊管制造方法 |
EP3674434A4 (en) * | 2017-08-22 | 2020-07-01 | Posco | LOW-CONTENT AUSTENITIC STAINLESS STEEL WITH EXCELLENT HOT WORKABILITY AND HYDROGEN FRAGILITY RESISTANCE |
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