JP2012102426A - 積層防護服 - Google Patents

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泰弘 丸本
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Abstract

【課題】酸性雰囲気下であっても強度の低下を抑制することができ、破断強度と高温雰囲気下での寸法安定性とのバランスに優れた新規なメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を構成布帛とする積層防護服を提供する。
【解決手段】特定の凝固浴を用いて湿式紡糸することにより多孔質の凝固糸を得て、続いて、特定倍率で可塑延伸を実施し、さらに、飽和水蒸気中で特定の熱処理を実施して得られるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて布帛を作成し、得られた布帛を、積層防護服を構成する少なくとも1層とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、積層布帛からなる防護服に関する。より詳しくは、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を少なくとも1層として含む積層防護服に関する。
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミドが耐熱性および難燃性に優れていることは公知であり、かかる全芳香族ポリアミドのうち、ポリメタフェニレンイソフタルアミドに代表されるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、耐熱性および難燃性の観点から特に有用なものである。このような特性を活かして、メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、産業用途のみならず、耐熱性、防炎性、耐炎性が重視される用途等に好適に使用されている。
ここで、従来、消防士が消火作業中に着用する耐熱防護服を構成する繊維としては、不燃性のアスベスト繊維、ガラス繊維等が使われていたが、環境問題や、動き易さなどの観点から、近年では、全芳香族ポリアミド繊維からなる布帛に輻射熱を防止する目的から金属アルミニウム等をコーティングあるいは蒸着等して表面加工したものが多く使用されるようになった。
特に近年では、耐熱性防護服に関する遮熱性の評価方法についての標準化がなされ、輻射熱はもとより、伝導熱にも注目した評価方法が確立された(試験法番号:ISO9151)。この評価方法による基準をクリアするにあたり、熱伝導を遅延させるためには、防護服内に大量の空気層を作ることが効果的である。そこで、表地層・透湿防水性を有する中間層・遮熱性を有する裏地層からなる3層構造や、表地層と裏地層のそれぞれに充分な量の空気を含有させることで中間層を簡略化した2層構造などが提案されており、2層または3層を重ねて縫製して最終的な耐熱性防護服が作成されている。
そして、このような耐熱性防護服を構成する裏地層には、耐炎性および防炎性に加えて、酸性ガス雰囲気中での耐酸性も、重要な要求性能となっている。しかしながら、従来のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、十分な耐熱性は有しているものの、繊維中にオリゴマーと呼ばれる低分子量成分が残留しているため、酸性雰囲気下での長期安定性について未だ満足できるものではなかった。
また、メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、その製造プロセスにおいてアミド系有機溶媒が使用されることが一般的であり、このアミド系溶媒が繊維中に残留することが知られている(特許文献1参照)。繊維中に残存する溶媒は、高温加工時において揮発あるいは分解してガスを発生するだけでなく、本来、メタ型全芳香族ポリアミド繊維が有している難燃性の発現を阻害する。このため、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の難燃性の向上にあたっては、残留溶媒量を低減することも手段のひとつとなっている。
そこで、メタ型全芳香族ポリアミド繊維に含まれる溶媒を低減する方法として、メタ型全芳香族ポリアミドと塩類を含むアミド系溶媒からなる重合体溶液を、アミド系溶媒と水からなり塩類を実質的に含まない凝固浴中に吐出して、多孔質の線状体として凝固せしめ、続いて、アミド系溶媒の水性溶液からなる可塑延伸浴中にて延伸し、これを水洗後、熱処理する方法が提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、特許文献2に記載された方法では、凝固せしめた後に可塑延伸浴にて延伸するため、繊維の分子配向を一旦は高めるものの、続いて実施する水洗および/または温水洗浄工程により配向が緩和されやすくなる。このため、高い強度を有する繊維を得るためには、熱処理工程において再度延伸を施し、分子配向を高める必要があった。しかしながら、熱処理工程においては、配向と同時に急激な結晶化が進行し、急激な結晶化は、結果として不十分な結晶化となり、得られる繊維は、高温下での熱収縮率が高くなってしまうという問題を生じていた。このため、特許文献2の方法によれば、残存溶媒量が低減された繊維を得ることができる一方で、強度を高くするために、高温下での熱収縮率を犠牲にするほかなかった。
したがって、耐酸性を有し、破断強度と高温雰囲気下での寸法安定性とのバランスに優れたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を構成布帛とする積層防護服は、未だ知られていないのが実情であった。
特開2001−348726号公報 特開2005−232598号公報
本発明は、上記背景技術に見られる問題点を解決するものであり、その目的とするところは、酸性雰囲気下であっても強度の低下を抑制することができ、破断強度と高温雰囲気下での寸法安定性とのバランスに優れた新規なメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を構成布帛とする積層防護服を提供することにある。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を重ねた。その結果、特定の凝固浴を用いて湿式紡糸することにより多孔質の凝固糸を得て、続いて、特定倍率で可塑延伸を実施し、さらに、飽和水蒸気中で特定の熱処理を実施して得られるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて布帛を作成し、得られた布帛を、積層防護服を構成する少なくとも1層とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、積層布帛からなる防護服であって、前記積層布帛は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を少なくとも1層として含むものであり、前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、分子量10000未満の低分子量成分の含有率が1.0質量%以下であり、残存溶媒量が1.0質量%以下であり、300℃での乾熱収縮率が3.0%以下であり、破断強度が3.0cN/dtex以上である積層防護服である。
本発明の積層防護服は、酸性雰囲気下であっても強度の低下を抑制することができ、破断強度と高温雰囲気下での寸法安定性とのバランスに優れた積層防護服となる。したがって、本発明の積層防護服は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維が本来備える、難燃性、断熱性、機械的強度に優れるとともに、例えば、より過酷な高温酸性雰囲気下で使用された場合であっても、熱収縮やへたり、強度の低下を抑制することができ、その結果、長期使用に耐えうるものとなる。このような特性を活かして、本発明の積層防護服は、例えば、化学工場等の火災現場における消火活動において、好適に使用することができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維>
本発明の積層防護服の少なくとも1層となる、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、以下の特定の物性を備える。本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性、構成、および、製造方法等について以下に説明する。
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性]
〔分子量10000未満の低分子量成分の含有率〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維における分子量10000未満の低分子量成分の含有率は、繊維質量全体に対して1.0質量%以下であることが必要である。低分子量成分の含有率が1.0質量%を超える場合には、繊維中の低分子量成分の加水分解が著しく早く進行するため、酸性雰囲気における各種物性の低下が起こりやすくなる。分子量10000未満の低分子量成分の含有率は、繊維質量全体に対して0.8質量%以下であることがさらに好ましく、0.6質量%以下であることが特に好ましい。
繊維における分子量10000未満の低分子量成分の含有率を1.0質量%以下とするためには、例えば、繊維の製造工程において、実質的に塩を含まない凝固液を用いることにより、実現することができる。
なお、本発明における「分子量10000未満の低分子量成分の含有率」は、以下の測定方法で測定して得られる値をいう。
(低分子量成分の含有率の測定方法)
N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す)に塩化リチウム(LiCl)を0.01モル/Lとなるよう溶解した溶液に繊維を溶解し、ポリスチレン換算のゲル浸透クロマトグラフ(GPC)測定を実施する。低分子量成分量(OV)は、GPCで求められる分子量(M)から、次式により求める。
OV(%)=100×ΣMi(10000未満)Ni/ΣMi(Total)Ni
なお、式中、MiおよびNiは、以下の通りである。
Mi:GPC測定から得られるi番目の溶出時間の分子量
Ni:分子量Miの個数
〔残存溶媒量〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、通常、ポリマーをアミド系溶媒に溶解した紡糸液から製造されるため、必然的に繊維中に数%の溶媒が残存するのが通常である。しかしながら、本発明の積層防護服を構成する布帛に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維中に残存する溶媒の量(残存溶媒量)が、繊維質量全体に対して1.0質量%以下であることが必要である。繊維中に残存する溶媒の量(残存溶媒量)は、0.7質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
繊維質量全体に対して1.0質量%を超えて溶媒が残存する場合には、残存する溶媒により繊維の加水分解が著しく早く進行して分子構造が破壊されるため、これに伴う繊維物性の低下が著しくなり、その結果、酸性雰囲気における各種物性の低下が起こりやすくなるため好ましくない。また、著しい黄変や、製品品位の低下等を生じる原因となる。
繊維中の残存溶媒量を1.0質量%以下とするためには、繊維の製造工程において、スキンコアを有しない凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を調節し、かつ、特定倍率で可塑延伸を実施し、さらに、飽和水蒸気中で特定の熱処理を実施する。
なお、本発明における「残存溶媒量」とは、以下の方法で得られる値をいう。
(残存溶媒量の測定方法)
洗浄工程の出側にて繊維をサンプリングし、該繊維を遠心分離機(回転数5,000rpm)に10分かけ、このときの繊維質量(M1)を測定する。この繊維を、質量M2gのメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド系溶媒および水を抽出する。抽出後の繊維を105℃雰囲気下で2時間乾燥し、乾燥後の繊維質量(P)を測定する。また、抽出液中に含まれるアミド系溶媒の質量濃度(C)を、ガスクロマトグラフにより求める。
繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、上記のM1、M2、P、およびCを用いて、下記式により算出する。
N=[C/100]×[(M1+M2−P)/P]×100
〔300℃での乾熱収縮率〕
本発明の積層防護服を構成する布帛に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、300℃乾熱収縮率が3.0%以下である。3.0%以下であることが必須であり、2.9%以下が好ましく、2.8%以下がさらに好ましい。収縮率が3.0%を超える場合には、高温雰囲気下での使用時に製品寸法が変化し、製品の破損が生じる等の問題が発生するため好ましくない。
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の300℃での乾熱収縮率は、繊維の製造工程において、飽和水蒸気中で特定の熱処理を実施することにより制御することができる。300℃乾熱収縮率を3.0%以下とするためには、飽和水蒸気処理工程における延伸倍率を、0.7〜5.0倍の範囲とすればよい。延伸倍率が5.0倍を超える場合には、延伸時の単糸切れが増大し、毛羽や工程断糸が発生するため好ましくない。
なお、本発明における「300℃での乾熱収縮率」とは、以下の方法で得られる値をいう。
(300℃での乾熱収縮率の測定方法)
約3300dtexの捲縮トウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、捲縮トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、再び98cN(100g)の荷重を吊るし、印間の長さLを測定する。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とする。
300℃乾熱収縮率(%)=[(30−L)/30]×100
〔破断強度〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の破断強度は、3.0cN/dtex以上であることが好ましく、3.5cN/dtex以上であることがさらに好ましく、4.0cN/dtex以上であることが特に好ましい。破断強度が3.0cN/dtex未満である場合には、布帛への加工工程における通過性が悪化するため好ましくない。
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の「破断強度」は、繊維の製造工程において、特定倍率で可塑延伸を実施することにより制御することができる。破断強度を3.0cN/dtex以上とするためには、可塑延伸浴延伸工程における延伸倍率を1.5〜10倍とすればよい。
なお、本発明における「破断強度」とは、JIS L 1015に基づき、測定機器としてインストロン社製、型番5565を用いて、以下の条件で測定して得られる値をいう。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
〔破断伸度〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の破断伸度は、30%以上であることが好ましい。35%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることが特に好ましい。破断伸度が30%未満である場合には、布帛への加工工程における通過性が悪化するため好ましくない。
本発明において、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の「破断伸度」は、繊維の製造方法における紡糸・凝固工程において、凝固浴条件を適正化することにより制御することができる。30%以上とするためには、凝固浴中のアミド系溶剤濃度を45〜60質量%とし、凝固浴温度を20〜70℃とすればよい。
なお、ここでいう「破断伸度」とは、JIS L 1015に基づき、測定機器としてインストロン社製、型番5565を用いて、上記した「破断強度」と同一の測定条件で測定して得られる値をいう。
〔強度保持率〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の耐酸性としては、25℃で20質量%硫酸水溶液中に600時間浸漬した後の強度保持率が60%以上であることが必要である好ましい。強度保持率が60%未満である場合には、当該メタ型全芳香族ポリアミド繊維を主成分として含む布帛から構成された積層防護服を、長期間にわたって酸性雰囲気で使用すると、繊維の機械的強度の低下により防護服の劣化が起こり、ひいては破損してしまうため好ましくない。25℃で20質量%硫酸水溶液中に600時間浸漬した後の強度保持率は、65%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが特に好ましい。
本発明において、強度保持率を60%以上とするためには、繊維の製造工程において、スキンコアを有しない凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を調節し、かつ、洗浄工程を経た後に特定温度で乾熱処理を実施する。
なお、本発明における「25℃で20質量%硫酸水溶液中に600時間浸漬した後の強度保持率」は、以下の測定方法で測定して得られる値をいう。
(測定方法)
セパラブルフラスコへ20質量%の硫酸水溶液を入れ、繊維51mmを浸漬する。続いて、セパラブルフラスコを恒温水槽中に浸漬し、温度25℃に維持し、繊維を600時間浸漬する。浸漬前後の繊維につき、それぞれ、破断強度の測定を実施し、浸漬後の繊維の強度保持率を求める。
〔繊度〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の総繊度は、織成作業上、200〜1,700dtexの範囲であることが好ましい。繊度が200dtex未満となる場合には、必要とする目付けを有する布帛を得ることが困難となる。
また、単糸繊度は、0.5〜6dtexの範囲であることが好ましい。0.5dtex未満となる場合には、織成の際、単糸切れによる毛羽を生じ、織成作業が困難となる。一方で、単糸繊度が6dtexを超える場合には、単糸間のバラケを生じやすくなる。
<メタ型全芳香族ポリアミド>
[メタ型全芳香族ポリアミドの構成]
本発明の積層防護服を構成する布帛に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の原料は、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるメタ型全芳香族ポリアミドであり、本発明の目的を損なわない範囲内で、パラ型等の他の共重合成分が共重合されていてもよい。
本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性の観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドである。メタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドとしては、メタフェニレンイソフタルアミド単位が、全繰り返し単位の90モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
[メタ型全芳香族ポリアミドの原料]
〔メタ型芳香族ジアミン成分〕
メタ型全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン等、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば、2,4−トルイレンジアミン、2,6−トルイレンジアミン、2,4−ジアミノクロルベンゼン、2,6−ジアミノクロルベンゼン等を例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを70モル%以上含有する混合ジアミンであることが好ましい。
〔メタ型芳香族ジカルボン酸成分〕
メタ型全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3−クロルイソフタル酸クロライド、3−メトキシイソフタル酸クロライド等を例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドのみ、または、イソフタル酸クロライドを70モル%以上含有する混合カルボン酸ハライドであることが好ましい。
〔共重合成分〕
上記のメタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分以外で使用しうる共重合成分としては、例えば、芳香族ジアミンとして、パラフェニレンジアミン、2,5−ジアミノクロルベンゼン、2,5−ジアミノブロムベンゼン、アミノアニシジン等のベンゼン誘導体、1,5−ナフチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、4,4’−ジアミノジフェニルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。一方、芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸クロライド、1,4−ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸クロライド、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライド等が挙げられる。
これらの共重合成分の共重合比は、あまりに多くなりすぎるとメタ型全芳香族ポリアミドの特性が低下しやすいため、ポリアミドの全酸成分を基準として20モル%以下とすることが好ましい。特に、好適なメタ型全芳香族ポリアミドは、上記した通り、全繰返し単位の90モル%以上がメタフェニレンイソフタルアミド単位であるポリアミドであり、なかでもポリメタフェニレンイソフタルアミドが特に好ましい。
[メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法]
メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸クロライド成分とを原料とした溶液重合や界面重合等により製造することができる。
なお、本発明の布帛に用いられるメタ型全芳香族ポリアミドの分子量は、繊維を形成し得る程度であれば特に限定されるものではない。一般に、十分な物性の繊維を得るには、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100mL硫酸で30℃において測定した固有粘度(I.V.)が、1.0〜3.0の範囲のポリマーが適当であり、1.2〜2.0の範囲のポリマーが特に好ましい。
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明の積層防護服を構成する布帛に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、上記の製造方法によって得られたメタ型全芳香族ポリアミドを用いて、例えば、以下に説明する紡糸液調製工程、紡糸・凝固工程、可塑延伸浴延伸工程、洗浄工程、飽和水蒸気処理工程、乾熱処理工程を経て製造される。
[紡糸液調製工程]
紡糸液調製工程においては、メタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解して、紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常、アミド系溶媒を用い、使用されるアミド系溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができ、これらは単独、または少なくとも1種を含む混合溶媒として用いることができる。これらのなかでは溶解性と取扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドで溶媒がNMPの場合には、通常は10〜30質量%の範囲とすることが好ましい。なお、紡糸液には、塩化カルシウム、塩化リチウム等の無機塩を少量(例えば10質量%以下)含んでいても差しつかえない。
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、上記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させ、多孔質繊維状物(凝固糸)を得る。紡糸方法は特に限定されないが、繊維中に残存する低分子量成分の低減が可能であることから、湿式紡糸法あるいは半乾半湿式紡糸法を採用することが好ましい。
紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が500〜30,000個、紡糸孔径が0.05〜0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、10〜90℃の範囲が適当である。
残存溶媒量が十分に低減した繊維を得るためには、十分な程度にまで繊維の緻密化を行う必要があり、そのためには、紡糸・凝固工程の凝固段階で形成される多孔質繊維状物(凝固糸)の構造を、できる限り均質なものとすることが極めて重要である。ここで、多孔構造と凝固浴の条件とは緊密な関係があり、凝固浴の組成と温度条件の選定は極めて重要である。
本発明で使用する繊維を得るための凝固浴は、実質的にアミド系溶媒と水との2成分からなる水溶液で構成される。この凝固浴組成におけるアミド系溶媒としては、メタ型全芳香族ポリアミドを溶解し、水と良好に混和するものであれば特に限定されるものではないが、特に、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン等を好適に用いることができる。
アミド系溶媒と水との最適な混合比は、重合体溶液の条件によっても若干変化するが、一般的に、アミド系溶媒の割合が水溶液全体に対して40質量%〜60質量%の範囲であることが好ましい。この範囲を下回る条件では、繊維表面に強固なスキン層が形成され低分子量成分の残存量が多くなる。さらに凝固繊維中に非常に大きなボイドが生じやすくなり、その後の糸切れの原因となりやすくなる。一方で、この範囲を上回る条件では、凝固が進まず、繊維の融着が起こりやすくなる。
凝固糸表面に強固なスキン層が形成されることを抑制するためには、アミド系溶媒の水溶液からなり、実質的に塩を含まない凝固液を用いることが重要である。実質的に塩を含まない凝固液を用いることにより、凝固糸表面に強固なスキン層が形成されることを抑制し、その結果、効率的に低分子量成分を除去することができる。
実質的に塩を含まない凝固液としては、実質的にアミド系溶媒と水だけで構成されることが好ましい。しかしながら、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等の無機塩類がポリマー溶液中から抽出されてくるため、実際には、凝固液にはこれらの塩類が少量含まれる。工業的な実施における塩類の好適濃度は、凝固液全体に対して0.3質量%〜10%質量の範囲である。無機塩濃度を0.3質量%未満とするためには、凝固液の回収プロセスにおける精製のための回収コストが著しく高くなるため適切ではない。一方で、無機塩濃度が10質量%を超える場合には、凝固速度が遅くなることから、紡糸口金から吐出された直後の繊維に融着が発生しやすくなり、また、凝固時間が長時間となるため凝固設備を大型化せざるを得なくなり好ましくない。
凝固浴の温度は、凝固液組成と密接な関係があるが、一般的には、生成繊維中にフィンガーとよばれる粗大な気泡上の空孔が出来にくいため、高温にする方が好ましい。しかしながら、凝固液濃度が比較的高い場合には、あまり高温にすると繊維の融着が激しくなる。このため、凝固浴の好適な温度範囲は20〜70℃であり、より好ましくは25〜85℃である。
なお、凝固浴中での繊維状物(糸条体)の浸漬時間は、1.5〜30秒の範囲とすることが好ましい。浸漬時間が1.5秒未満の場合には、繊維状物の形成が不十分となり断糸が発生する。一方で、浸漬時間が30秒を超える場合には、生産性が低くなるため好ましくない。
[可塑延伸浴延伸工程]
可塑延伸浴延伸工程においては、凝固浴にて凝固して得られた多孔質繊維状物(糸条体)からなる繊維束が可塑状態にあるうちに、当該繊維束を可塑延伸浴中にて延伸処理する。
本発明の積層防護服を構成する布帛に使用するメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得るための可塑延伸浴は、アミド系溶媒の水溶液からなり、塩類は実質的に含まれない。このアミド系溶媒としては、メタ型アラミドを膨潤させ、かつ、水と良好に混和するものであれば、特に限定されるものではない。かかるアミド系溶媒しては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン等を挙げることができる。工業的には、可塑延伸浴液とするアミド系溶媒は、上記凝固浴に用いたものと同じ種類の溶媒を用いることが特に好ましい。すなわち、重合体溶液、凝固浴および可塑延伸浴に用いるアミド系溶媒は同種であることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドのうちから選ばれる単独溶媒、または、2種以上からなる混合溶媒を用いることが好都合である。同種のアミド系溶媒を用いることによって、回収工程を統合・簡略化することができ、経済的に有益となる。
可塑延伸浴の温度と組成とはそれぞれ密接な関係にあるが、アミド系溶媒の質量濃度が20〜70質量%、かつ、温度が20〜70℃の範囲であれば、好適に用いることができる。この範囲より低い領域では、多孔質繊維状物の可塑化が十分に進まず、可塑延伸において十分な延伸倍率をとることが困難となる。一方で、これの範囲より高い領域では、多孔質繊維の表面が溶解して融着するため、良好な製糸が困難となる。
本発明の積層防護服を構成する布帛に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得るにあたっては、可塑延伸浴中の延伸倍率を、1.5〜10倍の範囲とする必要があり、好ましくは2.0〜6.0倍の範囲とする。延伸倍率が1.5倍未満の場合には、得られる繊維の強度、弾性率等の力学特性が低くなり、本発明の積層防護服を構成する布帛を構成する繊維に必要な破断強度を達成することが困難となる。また、多孔質繊維状物からの脱溶剤を十分に促進することが困難となり、最終的に得られる繊維の残存溶媒量を1.0質量%以下とすることが困難となる。なお、可塑延伸浴延伸工程において高倍率で延伸を施すことにより、強度、弾性率等が向上して良好な物性を示す繊維が得られるようになると同時に、多孔質繊維状物の微細孔が引きつぶされ、後の熱処理工程における緻密化が良好に進行するようになる。ただし、延伸倍率が10倍を超えるような高倍率で延伸した場合には、工程の調子が悪化して毛羽や単糸切れが多く発生するため好ましくない。
[洗浄工程]
洗浄工程においては、上記可塑延伸浴延伸工程を経た繊維を、十分に洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質面に影響を及ぼすことから、多段で行うことが好ましい。特に、洗浄工程における洗浄浴の温度および洗浄浴液中のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態および洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とする目的においても、洗浄工程を多段とし、温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件を制御することが好ましい。洗浄工程を多段とすることにより、低分子量成分を低減させることができる。
温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件については、最終的に得られる繊維の品質を満足できるものであれば特に限定されるものではないが、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入が一気に起こるため、繊維中に巨大なボイドが生成し、品質の劣化を招く。このため、最初の洗浄浴は、30℃以下の低温とすることが好ましい。引き続き、50〜90℃の温水で洗浄することが好ましい。
[飽和水蒸気処理工程]
飽和水蒸気処理工程においては、洗浄工程において洗浄された繊維を、飽和水蒸気中で熱処理する。飽和水蒸気処理をおこなうことにより、繊維の結晶化を抑制しつつ配向を高めることが可能となる。飽和水蒸気雰囲気での熱処理は、乾熱処理と比較して繊維束内部まで均一に熱処理することが可能となり、均質な繊維を得ることができる。
さらに驚くべきことに、飽和水蒸気雰囲気で熱処理を行うと、繊維表面が結晶化せず、スキン層が形成されない。このため、繊維束の各単繊維中に残存する溶媒を、急速に拡散することができ、繊維内部からほぼ完全に除去することが可能となる。したがって、飽和水蒸気熱処理を実施することにより、最終的に得られる繊維中の残存溶媒量を、1.0質量%以下にまで低減することが可能となる。
飽和水蒸気処理工程における飽和水蒸気圧は、0.02〜0.50MPaの範囲とする。好ましくは0.03〜0.30MPaの範囲、さらに好ましくは0.04〜0.20MPaの範囲である。飽和水蒸気圧が0.02MPa未満の場合には、十分な蒸気処理効果が得られず、残存溶媒量を低減させる効果が小さくなるため好ましくない。一方で、飽和水蒸気圧が0.50MPaを超える場合には、繊維の結晶化が促進されすぎて繊維表面にスキン層が形成されるため、残存溶媒量を十分に低減することが困難となる。
飽和水蒸気処理工程における延伸倍率は、繊維の強度の発現にも密接な関係を持っている。延伸倍率は、製品に求められる物性を考慮して必要な倍率を任意に選択すればよいが、本発明においては0.7〜5.0倍の範囲であり、好ましくは1.1〜2.0倍の範囲とすることが好ましい。延伸倍率が0.7倍未満の場合には、飽和水蒸気雰囲気中での繊維束(糸条)の収束性が低下するので好ましくない。一方で、延伸倍率が5倍を超える場合には、延伸時の単糸切れが増大し、毛羽や工程断糸が発生するため好ましくない。また、飽和水蒸気処理工程における延伸倍率を0.7〜5.0倍の範囲とすれば、本発明の積層防護服を構成する布帛に用いられる繊維に必要な300℃での乾熱収縮率を、3.0%以下とすることができる。
なお、ここでいう延伸倍率とは、処理前の繊維長に対する処理後の繊維長の比で表される。例えば、延伸倍率0.7倍とは、飽和水蒸気処理工程により繊維が原長の70%に制限収縮処理されることを意味し、1.1倍とは10%伸長するよう処理されることを意味する。
なお、飽和水蒸気処理の時間は、0.5〜5.0秒の範囲とすることが好ましい。走行する繊維束を連続的に処理する場合には、水蒸気処理槽中の繊維束の走行距離と走行速度とによって処理時間が決まるため、これらを適宜調整して最も効果のある処理時間を選択すればよい。
[乾熱処理工程]
乾熱処理工程においては、飽和水蒸気処理工程を経た繊維を、乾燥・熱処理する。乾熱処理の方法としては特に限定されるものではないが、例えば、熱板、熱ローラ等を用いる方法を挙げることができる。乾熱処理を経ることにより、最終的に、本発明の積層防護服を構成する布帛に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
乾熱処理工程における熱処理温度は、250〜400℃の範囲とすることが好ましく、より好ましくは300〜380℃の範囲である。乾熱処理温度が250℃未満である場合には、多孔質の繊維を十分に緻密化させることが出来ないため、得られる繊維の力学特性が不十分となる。一方で、乾熱処理温度が400℃を超える高温では、繊維の表面が熱劣化し、品位が低下するため好ましくない。
乾熱処理工程における延伸倍率は、得られる繊維の強度の発現に密接な関係を持っている。延伸倍率は、繊維に要求される強度等に応じて任意の倍率を選ぶことができるが、0.7〜4倍の範囲とすることが好ましく、1.1〜3倍の範囲とすることがさらに好ましい。延伸倍率が0.7倍未満の場合には、工程張力が低くなるために繊維の力学特性が低下し、一方で、延伸倍率が4倍を超える場合には、延伸時の単糸切れが増大し、毛羽や工程断糸が発生する。なお、ここでいう延伸倍率とは、上記飽和水蒸気処理工程で説明したのと同様に、延伸処理前の繊維長に対する処理後の繊維長の比で表される。例えば、延伸倍率0.7倍とは、乾熱処理工程により繊維が原長の70%に制限収縮処理されることを意味し、延伸倍率1.0倍とは定長熱処理を意味する。
乾熱処理工程における処理時間は、1.0〜45秒の範囲とすることが好ましい。処理時間は、繊維束の走行速度と熱板、熱ローラ等との接触長とによって調整することができる。
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛>
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛は、上記したメタ型全芳香族ポリアミド繊維を主成分として含むものである。布帛におけるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の含有量は、50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100%である。
なお、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛において、メタ型全芳香族ポリアミド繊維以外に含まれる成分としては、特に限定されるものではない。例えば、繊維状、パルプ状成分等を挙げることができる。繊維としては、例えば、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ノボロイド繊維、難燃アクリル繊維、ポリクラール繊維、難燃ポリエステル繊維、難燃綿繊維、難燃ウール繊維、パラ型アラミド繊維などが例示できる。これらの中では特に、繊維の強度や耐熱性の観点から、パラ型アラミドを混合することが好ましい。
繊維の混合形態としては、特に限定されるものではないが、混紡して紡績糸の形態で使用することが好ましい。
[布帛の形態]
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛の形態は特に限定されるものではない。本発明においては、不織布、織物、および編物からなる群から選ばれるいずれかであることが好ましい。
布帛の目付は、150〜350g/mの範囲にあることが好ましい。目付が150g/m未満の場合には、充分な耐熱性能が得られない恐れがあり、目付けが350g/mを超える場合には、防護服にした際に重くなるため着用感が阻害されて好ましくない。
<積層防護服>
本発明の積層防護服は、上記したメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を少なくとも1層として含むものである。上記のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛が少なくとも1層として用いられていれば、積層防護服の構成は特に限定されるものではないが、好ましくは、上記メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を裏地層として配する。
積層防護服の構成としては、例えば、上記のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を裏地層とし、透湿防水性の薄膜フィルムと難燃繊維を含む層を中間層とし、少なくとも1層の表地層を重ね合わせて縫製する構成を挙げることができる。なお、本発明の積層防護服における遮熱層は、難燃繊維の織物またはフェルトとすることが好ましく、1層のみの構成であっても、2〜4層が積層された構成であってもよい。
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
<測定方法>
実施例および比較例における各物性値は、以下の方法で測定した。
[固有粘度(I.V.)]
ポリマー溶液から芳香族ポリアミドポリマーを単離して乾燥した後、ポリマー濃度が100mg/100mLとなるよう97%濃硫酸に溶解し、得られた溶液をオストワルト粘度計を用いて30℃において測定した。
[ポリマー溶液のポリマー濃度(PN濃度)]
ポリマー溶液(紡糸液)の全質量部に対するポリマーの質量%、すなわちPN濃度は、次式により求めた。
PN濃度(%)={重合体/(重合体+溶媒+その他成分)}×100
[繊維中に残存する低分子量成分量N(%)]
N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す)に塩化リチウム(LiCl)を0.01モル/Lとなるよう溶解した溶液に繊維を溶解し、ポリスチレン換算のゲル浸透クロマトグラフ(GPC)測定を実施した。低分子量成分量Nは、GPCで求められる分子量(M)から、次式により求めた。
N(%)=100×ΣMi(10000未満)Ni/ΣMi(Total)Ni
なお、式中、MiおよびNiは、以下の通りである。
Mi:GPC測定から得られるi番目の溶出時間の分子量
Ni:分子量Miの個数
[繊度]
JIS L1015に基づき、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛繊度にて表記した。
[繊維の破断強度、破断伸度]
積層防護服を構成する布帛に用いられる繊維の破断強度および破断伸度は、インストロン社製 型番5565を用いて、JIS L1015に基づき、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
[繊維中に残存する溶媒量(アミド化合物溶媒質量)SV(%)]
洗浄工程の出側にて繊維をサンプリングし、該繊維を遠心分離機(回転数5,000rpm)に10分かけ、このときの繊維質量(M1)を測定した。この繊維を、質量M2gのメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド系溶媒および水を抽出した。抽出後の繊維を105℃雰囲気下で2乾燥し、乾燥後の繊維質量(P)を測定した。また、抽出液中に含まれるアミド系溶媒の質量濃度(C)を、ガスクロマトグラフにより求めた。
繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)SV(%)は、上記のM1、M2、P、およびCを用いて、下記式により算出した。
SV=[C/100]×[(M1+M2−P)/P]×100
[繊維の300℃乾熱収縮率]
約3300dtexの捲縮トウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつけた。荷重を除去後、捲縮トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、再び98cN(100g)の荷重を吊るし、印間の長さLを測定した。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とした。
300℃乾熱収縮率(%)=[(30−L)/30]×100
[繊維の耐酸性]
セパラブルフラスコへ20質量%の硫酸水溶液を入れ、サンプル糸51mmを浸漬固定した。続いて、セパラブルフラスコを恒温水槽中に浸漬し、温度25℃に維持し、サンプル糸を600時間浸漬した。浸漬前後のサンプル糸につき、それぞれ、上記の測定方法によって破断強度の測定を実施し、浸漬後の繊維の強度保持率を求めた。
[布帛の破断強度]
JIS L1096の引張強さA法(ストリップ法:ラベルドストリップ法)に基づき、インストロン社製、型番1122を用いて、以下の測定条件にて測定を実施した。
(測定条件)
切断採取時の試験片の大きさ :幅5.5cm×長さ30cm
試験片の幅 :5.0cm
試験片の枚数 :3枚
測定回数 :各試験片につき、たて方向およびよこ方向それぞれ3回
つかみ間隔 :20cm
初荷重 :50g
引張速度 :20mm/分
[布帛の強度保持率(耐酸性テスト)]
セパラブルフラスコへ20質量%の硫酸水溶液を入れ、幅5.5cm×長さ30cmの大きさの染色布帛を浸漬した。続いて、セパラブルフラスコを恒温水槽中に浸漬し、温度25℃に維持し、染色布帛を600時間浸漬した。浸漬前後の布帛につき、それぞれ、上記の測定方法によって布帛の破断強度の測定を実施し、浸漬後における布帛の強度保持率を求めた。
<実施例1>
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造]
〔紡糸液調整工程〕
乾燥窒素雰囲気下の反応容器に、水分率が100ppm以下のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)721.5質量部を入れ、このNMP中にメタフェニレンジアミン(以下、MPDAと略す)97.2質量部(50.18モル%)を溶解させて0℃に冷却した。冷却したジアミン溶液に対して、さらに、イソフタル酸クロライド(以下、IPCと略す)181.3質量部(49.82モル%)を徐々に撹拌しながら添加し、重合反応を実施した。粘度変化が止まった後、さらに40分攪拌を継続した。
引き続き、重合反応が完了したポリマー溶液に対して、水酸化カルシウム粉末(平均粒径10μm以下)を66.6質量部添加し、中和反応を行った。水酸化カルシウムの投入が完了した後、さらに40分間撹拌し、透明なポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液からポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離し、還元粘度(I.V.)を測定したところ、1.30であった。また、溶液のポリマー濃度は20%であった。
〔紡糸・凝固工程〕
得られたポリマー溶液を紡糸原液として、孔径0.07mm、孔数1500の紡糸口金から、浴温度40℃、水/NMP=45/55の組成の凝固浴中に糸速7m/分で吐出して紡糸した。
〔可塑延伸浴延伸工程〕
引き続き、温度40℃で水/NMP=40/60の組成である可塑延伸浴中にて、5.0倍の延伸倍率で延伸を行った。
〔洗浄工程〕
可塑延伸工程に続いて、糸速35m/分にて20℃の水/NMP=70/30の浴(浸漬長5m)、続いて20℃の水浴(浸漬長15m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長15m)に通して十分に洗浄を行った。
〔飽和水蒸気処理工程〕
引き続き、飽和水蒸気圧力0.05MPaに保たれた容器中にて、延伸倍率1.1倍で飽和水蒸気による熱処理を行った。このとき、繊維束が約1.0秒間飽和水蒸気で処理されるよう諸条件を調整した。
〔乾熱延伸処理工程〕
続いて、表面温度120℃の熱ローラに巻回して乾燥し、引き続き、表面温度360℃の熱ローラーにて1.2倍に乾熱延伸して巻き取り、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
〔繊維の物性〕
得られた繊維の物性を、表1に示す。
[織物の作製]
得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維のトウに押込捲縮を付与した後、2インチにカットし、通常の紡績工程を通して紡績糸(番手:30/2)を作製し、当該紡績糸から2/1の綾織に織成した織物(目付:240g/m)を作製した後、公知の方法により精練処理し、布帛表面にある糊剤、油剤を除去した。
〔布帛の物性〕
得られた織物の物性を、表1に示す。
[積層防護服の作製]
(表地層)
ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ(株)製、商標名:コーネックス)とコポリパラフェニレン・3、4‘オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ(株)製、商標名:テクノーラ)とを、混合比率が90:10となる割合で混紡した紡績糸(番手:20/2)を作製した。得られた紡績糸を用いて、2/1の綾織に織成した織物(目付:280g/m、厚み:0.8mm)作製し、これを表地層とした。
(裏地層)
透湿防水性のポリテトラフルオロエチレン製フィルム(ジャパンゴアテックス(株)製、目付:35g/m)の片面に、上記で得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維からなる織布(目付:240g/m)を貼り合わせた。フィルムのもう一方の面には、遮熱性を持たせるために、上記で得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維の丸編物(目付:180g/m、ハニカムメッシュ構造)を貼り合せ、内層となる複合体を得た。
(積層工程)
上記の表地層および裏地層の2層を重ねて縫合することにより、本発明の積層防護服を得た。
<比較例1>
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造]
温度125℃、NMP/水/CaCl=18/42/40の組成の凝固浴を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。得られた繊維の物性を、表1に示す。
[織物の作製・評価]
得られた繊維を用いて、実施例1と同様にして織物を得た。得られた織物の評価結果を、表1に示す。
[積層防護服の作製]
(表地層)
実施例1と同様にして、表地層となる織物を作製した。
(裏地層)
上記で得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維からなる織布を用いて、実施例1と同様にして裏地層となる複合体を得た。
(積層工程)
実施例1と同一の方法により、積層防護服を得た。
Figure 2012102426
本発明の積層防護服は、酸性雰囲気下であっても強度の低下を抑制することができ、破断強度と高温雰囲気下での寸法安定性とのバランスに優れたものとなる。したがって、本発明の積層防護服は、より過酷な消火活動雰囲気においても、優れた長期安定性を有し、例えば、化学工場の火災現場等に好適に使用することができる。

Claims (3)

  1. 積層布帛からなる防護服であって、
    前記積層布帛は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を少なくとも1層として含むものであり、
    前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、分子量10000未満の低分子量成分の含有率が1.0質量%以下であり、残存溶媒量が1.0質量%以下であり、300℃での乾熱収縮率が3.0%以下であり、破断強度が3.0cN/dtex以上である積層防護服。
  2. 前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、25℃の20質量%硫酸水溶液に600時間浸漬した後の強度保持率が60%以上である請求項1記載の積層防護服。
  3. 前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛は、裏地層である請求項1または2記載の積層防護服。
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