JP2012024019A - 炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法 - Google Patents

炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法 Download PDF

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Abstract

【課題】Ali18の原因遺伝子を同定することにより、炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤の新規なスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】被験物質が、Fgr遺伝子の発現を低下させるか否か、又はFgrタンパク質のリン酸化活性を低下させるか否かを評価することを含む、炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法に関する。更に本発明は、Fgr阻害剤を有効成分として含む炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤に関する。
関節リュウマチを含む炎症性疾患や自己免疫疾患の発症メカニズムは、免疫学の自己非自己のセオリーでは完全に説明できず議論の余地が残されている(Matzinger, Semin Immunol 1998, 10, 399-415, Matzinger, Science 2002, 296, 301-5)。よって自然免疫系と獲得免疫系の相互作用が重要と考えられるが、その分子メカニズムについては現在においてもほとんどが未知のままである。また、これらの疾患はメンデル遺伝する単因子性疾患と異なり、複数の遺伝的要因と環境要因の組み合わせが重要な多因子性疾患である。現在までにこれらの疾患の遺伝因子を同定するために、患者と健常人サンプルを用いた大規模なゲノムワイドな相関解析が行われている(Thomson et al., Nature Genetics 2007, 39, 141-3, Plenge et al. Nature Genetics 2007, 39, 1477-82, Liu et al. PLos Genetics 2008, 4, e1000041)。しかしながら、それらの非常に多くのサンプルを用いても、発症に関わる単一の遺伝子を同定することは困難である。
モデル生物では人為的に高頻度の突然変異を誘発し、表現型を指標として突然変異体をスクリーニングする手法はミュータジェネシスと呼ばれる。スクリーンで得られた変異体は、どのようなメカニズムで表現型がひき起こされるか不明であり、遺伝学的マッピングにより突然変異が位置するゲノム領域を特定する必要がある。ゲノム領域が特定されれば、その領域の物理的地図作製や領域内遺伝子群のDNA配列決定など分子生物学的手法を用いて原因遺伝子の特定を行う(Abe and Yu, Current Pharmaceutical Biotechnology 2009, 10, 252-60)。このようなポジショナルクローニング法によって分子メカニズムに迫る方法は順遺伝学的手法と呼ばれ、分子的基盤の理解がなくとも機能的な新規遺伝子を同定可能という利点がある。実際に自然発生した突然変異マウスの表現型解析とそのポジショナルクローニングによってZAP70キナーゼなど、炎症性関節炎において未確認であったシグナル経路が明らかになってきている(Sakaguchi et al., Nature 2001, 411, 603-6)。これらより実験動物で順遺伝学的手法を用いることで、関節炎発症に関わる未知シグナル経路が明らかとなり、そしてこれらの経路をピンポイントに阻害や亢進などの修飾を加えることによって、より効果的で副作用の少ない新たな治療薬の開発につながる可能性が考えられる。
化学変異原であるENU (N-ethyl-N-nitrosourea) は、DNAをアルキル化することによりゲノムに高頻度に突然変異を誘発することが知られている(Noveroske et al. Mammalian Genome 2000, 11, 478-83)。マウスではENUを腹腔内に投与することにより生殖細胞に作用し、次世代に伝達する突然変異を高率に誘発する。このことを利用して1990年後半より、ドイツや日本を含む複数の国の国家プロジェクトとしてマウスを用いた大規模ミュータジェネシスプロジェクトが始まった。これらのプロジェクトの大きな目的は、ゲノム配列解読後の遺伝子機能解析とヒト疾患モデルの作出・解析であった。前者においては、ノックアウトマウスなどの機能欠損アレルでは検出できなかった新たな表現型にある。例えば、Jaged1遺伝子ノックアウトマウスではホモで胚性致死となる。しかし、ENUにより誘発された新たなアレルではヘテロマウスにおいて難聴の表現型を示すことから、内耳形成においてのJaged1遺伝子の機能が明らかになった。後者については、免疫学的スクリーニングによる血液系疾患モデルや行動解析スクリーニングによる神経系疾患のモデルなど多数の疾患モデルの作出に貢献し、その原因遺伝子の同定についても多くの進展があった(Soewarto et al., Current Pharmaceutical Biotechnology 2009, 10, 198-213)。
Ali18変異マウス系統は、GSFドイツ国立研究センター(現 Helmholtz Zentrum Munchen)の大規模ENUミュータジェネシスプロジェクトにおいて下肢に発赤と腫脹を呈する変異系統として単離された(Abe et al., Mammalian Genome 2006, 17, 915-926)。Ali18/+マウスは生後7週齢以降に後肢において発赤と腫脹を呈する(図1A)。Ali18/Ali18マウスの表現型は4週齢と早期より始まり、後肢のみでなく前肢においても腫脹を呈する。さらにその四肢の表現型は重篤で、皮膚からの出血や壊死による指の欠失などがよく認められる(図1A)。組織学的解析においてAli18マウスでは患部では炎症細胞の浸潤が認められ、骨髄の内腔の細胞にも強い増殖の活性化が認められた。さらに関節腔における炎症細胞の浸潤、骨膜・滑膜において炎症性繊維芽細胞の形態が観察され、皮膚にも強い炎症細胞の浸潤が認められるなど他の関節炎モデルにはないユニークな表現型を呈した。さらに骨形態異常は末端四肢のみならず、全身において検出された。Dual energy X-ray absorptiometry (DXA) によって簡易的解析を行ったところ、全身における骨量低下および骨密度低下が認められた。Computed tomography (CT) において形態解析を行った結果、脊椎骨や大腿骨部において皮質骨の薄膜化および骨端部骨髄内腔の肥大化が認められた。さらにperipheral quantitative CT (pQCT) により定量解析を行った結果、CTで得られた形態的異常を定量化された。Ali18/Ali18マウスでは野生型に比較して、大腿骨部の骨梁部において骨量および骨密度低下及び皮質骨部の厚みの低下がpQCTにより検出された。
組織学的解析よりAli18 マウスの四肢末端部には炎症が生じたときに認められる顆粒球やリンパ球の浸潤が多数認められたため、免疫システムの異常が原因となる可能性が高いと考えられた。そこでAli18マウスの免疫学的解析が行われた(Abe et al. Rheumatology 2008, 47, 292-300)。第一に、Ali18マウスの免疫系自体が四肢関節炎の原因となっているかを知るために、骨髄移植実験が行われた。Ali18/Ali18マウスの骨髄を致死性のX線に照射した野生型マウスへ移植した結果、骨髄キメラとなった野生型マウスは四肢末端部における関節炎を発症した。このことからAli18マウスの骨髄細胞に由来する細胞群で炎症性関節炎には必要十分であると考えられた。また、末梢血における血球系細胞のポピュレーションをフローサイトメトリーによって解析した結果、Ali18/Ali18マウスにおいてCD4陽性T細胞群とCD8陽性T細胞群の有意な細胞数低下が認められた。また、同様にGr1とCD11b両陽性の顆粒球細胞群の増加が認められた。この増加した細胞群は主にCCR3も陽性であったので好酸球であると考えられた。また、末梢血のサイトカインの濃度を測定してAli18マウスと野生型を比較したところ、IL-1やTNFβなどの炎症性サイトカインの濃度は変化ないものの、IL-5濃度の有意な上昇が認められた。IL-5は好酸球の増殖を増加させることが報告されており、このことがAli18マウスの末梢血増加と関連していると考えられた。さらに末梢血のイムノグロブリン濃度ではIgEの激しい上昇が認められたが、IgGや自己免疫抗体については顕著な差は認められなかった。様々なリンパ球に由来する異常が認められたので、Ali18マウスのリンパ球が関節炎発症のトリガーになっている可能性が考えられた。そこでRag1ノックアウトマウスとAli18マウスとの交配を行った。Rag1ノックアウトマウスでは、リンパ球における組み換えが起こらないために成熟したT細胞とB細胞が欠損する。二重変異マウスにおいて関節炎発症を観察した結果、野生型とほぼ変わらない比率で関節炎の発症が認められた。このことよりAli18マウスの関節炎発症には自然免疫系の異常が直接の原因であり、IgEの上昇などのリンパ球に由来する異常は二次的であって直接の引き金ではないことが明らかとなった。
Ali18の原因遺伝子であるが、C57BL/6J系統とのoutcross-intercross交配によって得られたF2マウスよりゲノムDNAを抽出して、多型を示すマイクロサテライトマーカーによって遺伝子型を決定することにより遺伝的マッピングを行った結果、Ali18遺伝子座は第4番染色体の遠位側との高い相関が検出された (Abe et al., Mammalian Genome 2006, 17, 915-26)。しかし、同時にこの交配の過程において遺伝的背景のAli18変異への複雑な影響が明らかになった。Ali18マウスのオリジナルな遺伝的背景はC3HeB/FeJであるが、Ali18/+マウスの表現型はC57BL6/J、BALB/c、CAST/EiJなどの他系統と交配させたハイブリッドな遺伝的背景では完全に抑制される。さらに、遺伝的マッピングに用いた関節炎を示すF2マウスのポピュレーションは、Ali18遺伝子座最近傍の非組み換えマーカーを用いた遺伝子型は90%がホモであり、残りの10%はヘテロであった。このことより、他系統のゲノムに存在する塩基配列多型が、Ali18の原因遺伝子の働く経路中で抑制的に機能することが推測された。ある突然変異によって生じる表現型の強弱を調節する遺伝子は修飾遺伝子と呼ばれる。Ali18の修飾遺伝子群が位置するゲノム領域を決定するため、遺伝的解析が行われた (Abe et al., Mammalian Genome 2009, 20, 152-161)。C57BL/6Jマウスと交配させて得られたF1マウスを同系交配して得られたF2および戻し交配を行って得られたN2個体について、表現型解析およびゲノムワイドな遺伝型解析を行った。表現型と遺伝型の相関解析の結果、F2およびN2の両個体群においてAli18原因遺伝子が位置する第4番染色体が最も高くLODスコア30以上を示した。LODスコアは3以上で統計学的に有意であることから、Ali18変異がただ一つのゲノム領域に存在し、それが第4番染色体であることは明らかであった。さらに、N2では第1番染色体と第15番染色体に、F2では第3番染色体の領域に弱い相関が認められた。このことから、Ali18の原因遺伝子は第4番染色体に存在し、その修飾遺伝子が第1番、3番、15番染色体の領域に存在する可能性が考えられた。
Matzinger, Semin Immunol 1998, 10, 399-415 Matzinger, Science 2002, 296, 301-5 Thomson et al., Nature Genetics 2007, 39, 141-3 Plenge et al. Nature Genetics 2007, 39, 1477-82 Liu et al. PLos Genetics 2008, 4, e1000041 Abe and Yu, Current Pharmaceutical Biotechnology 2009, 10, 252-60 Sakaguchi et al., Nature 2001, 411, 603-6 Noveroske et al. Mammalian Genome 2000, 11, 478-83 Soewarto et al., Current Pharmaceutical Biotechnology 2009, 10, 198-213 Abe et al., Mammalian Genome 2006, 17, 915-926 Abe et al. Rheumatology 2008, 47, 292-300 Abe et al., Mammalian Genome 2009, 20, 152-161
本発明は、Ali18の原因遺伝子を同定することにより、炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤の新規なスクリーニング方法を提供することを解決すべき課題とした。更に本発明は、炎症性疾患又は骨粗鬆症の新規な治療剤を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者らは、Ali18の原因遺伝子の同定を目的として、詳細な遺伝的マッピングとともに第4番染色遠位に位置する候補領域のゲノム解析を行った。遺伝的マッピングの情報によりトランスジェニック系統を作製して表現型のレスキュー実験を行ったが、C57BL/6Jの遺伝的背景に存在する修飾遺伝子の効果によって解釈が困難であった。しかし、候補領域内に位置する候補遺伝子群についてDNA配列を決定する、positional candidate approachによってAli18変異を同定することができた。Ali18の原因遺伝子の発現パターンは骨髄での発現が高く、細胞シグナルの伝達に深く関わる遺伝子であり、Ali18の表現型を説明するためには最適であった。この原因遺伝子の特定は、Ali18マウスの分子病態メカニズムを解明して新たな治療薬、治療法の開発へと結びつくと考えられる。
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 被験物質が、Fgr遺伝子の発現を低下させるか否か、又はFgrタンパク質のリン酸化活性を低下させるか否かを評価することを含む、炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法。
(2) 被験物質を、Fgr遺伝子を発現する細胞に投与し、Fgr遺伝子の発現低下又はFgrタンパク質のリン酸化活性の低下の度合いを測定する、(1)に記載のスクリーニング方法。
(3) 被験物質を、Fgr遺伝子の機能亢進型変異を有する非ヒト哺乳動物に投与し、Fgr遺伝子の発現低下又はFgrタンパク質のリン酸化活性の低下の度合いを測定する、(1)に記載のスクリーニング方法。
(4) 関節炎治療剤のスクリーニングを行う、(1)から(3)の何れかに記載のスクリーニング方法。
(5) Fgr阻害剤を有効成分として含む、炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤。
(6) Fgr阻害剤を有効成分として含む、関節炎治療剤。
(7) Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤PP1を有効成分として含む、炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤。
(8) Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤PP1を有効成分として含む、関節炎治療剤。
本発明により、Ali18変異マウスではFgrの過剰な活性と発現が原因となって関節炎が発症することが判明した。本発明によれば、炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤の新規なスクリーニング方法、並びに炎症性疾患又は骨粗鬆症の新規な治療剤を提供することができる。
図1Aは、野生型(+/+)マウス、Ali18/+マウス及びAli18/Ali18マウスの表現型を示す。図1Bは、Ali18/Ali18のFgrコーディング領域exon 12におけるアデニンからグアニンへの置換を示す。図1Cは、Ali18系統の交配より得られたヘテロやホモマウスについて、Fgrコーディング領域exon 12の変異箇所を含む領域のPCR生成物をMbo IIで切断してゲル電気泳動を行ったその結果を示す。図1Dは、Ali18変異は、アミノ酸502番目のアスパラギン酸のグリシンへの置換をひき起こすことの予想を示す。図1Eは、アミノ酸置換が予想される502番目のアスパラギン酸はSrcチロシンキナーゼファミリーの中で高い相同性を有することを示す。 図2Aは、NIH3T3に野生型FgrとAli18変異を導入した過剰発現コンストラクトをトランスフェクションし、そのリン酸化活性をリン酸化特異的抗体によるウェスタンブロットにより計測した結果を示す。図2Bは、野生型とAli18ホモマウスの骨髄を含む大腿骨関節よりそれぞれRNAを抽出し、Fgr遺伝子の発現をreal time PCR法により解析した結果を示す。図2Cは、Ali18/Ali18マウスの関節炎が始まる4週齢より3週間に渡り1.5 mg/kgのPP1とコントロールvehicleの腹腔内投与を1週間に3回行い。関節炎の重症度を示すスコアを測定した結果を示す。
以下、本発明についてさらに具体的に説明する。
炎症性疾患や自己免疫疾患の発症メカニズムは、自然免疫系と獲得免疫系の相互作用が重要と考えられるが現在においてもほとんどが未知のままである。モデル生物では人為的に高頻度の突然変異を誘発し、表現型を指標として突然変異体をスクリーニングする手法はミュータジェネシスと呼ばれる。得られた変異体の原因遺伝子をポジショナルクローニングによって同定すれば、分子的基盤の理解がなくとも機能的な遺伝子を同定可能という利点がある。Ali18変異マウス系統は、ENUミュータジェネシスプロジェクトにおいて下肢に発赤と腫脹を呈する変異系統として単離された。詳細な表現型解析により、変異マウスでは患部に炎症細胞が多数浸潤していることや骨髄における海綿骨の骨密度が著しく低下していることが認められた。また、関節炎の発症は骨髄細胞に由来するが成熟リンパ球は引き金にはなっていないことが明らかになった。しかしながら、その原因遺伝子およびその分子メカニズムは未知であった。本発明においては、第4染色体の候補領域に含まれる遺伝子群のDNA配列を決定することにより、Ali18変異を同定した。Ali18変異はSrcチロシンキナーゼファミリーの一員であるFgr遺伝子のコーディング領域に存在し、カタリティックドメインのアミノ酸置換をひき起こす。その置換アミノ酸は、不活性型フォームの形成に重要なチロシン残基のすぐ隣に位置することから、不活性型フォーム形成を阻害するために機能亢進タンパクが形成されることが考えられた。予想通り、変異タンパクはin vitroにおいて、野生型より高い活性を示した。また、変異マウスの骨髄において、野生型よりも高いRNAの発現を示した。これらのことから、Ali18変異マウスではFgrの過剰な活性と発現が原因となって関節炎が発症することが示された。さらに、Srcファミリーの阻害剤を腹腔内投与したところ、変異マウスの関節炎の表現型が軽減された。これらのことから、Fgrの活性を阻害することにより炎症を抑制することが示された。Fgrは骨髄の顆粒球細胞やマクロファージ、骨芽細胞で発現しており、特異的に阻害することにより炎症性疾患や骨粗鬆症の病態を軽減することができる。現在までにFgrの特異的阻害剤が炎症性疾患の治療に有用とされる認識はなく、これらの結果はFgrをターゲットとした炎症性疾患や骨粗鬆症の治療法および治療薬の開発に貢献できる。
(1)炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法
本発明による炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法は、被験物質が、Fgr遺伝子の発現を低下させるか否か、又はFgrタンパク質のリン酸化活性を低下させるか否かを評価することを含む。例えば、被験物質を、Fgr遺伝子を発現する細胞に投与し、Fgr遺伝子の発現低下又はFgrタンパク質のリン酸化活性の低下の度合いを測定してスクリーニングを行ってもよいし、あるいは被験物質を、Fgr遺伝子の機能亢進型変異を有する非ヒト哺乳動物に投与し、Fgr遺伝子の発現低下又はFgrタンパク質のリン酸化活性の低下の度合いを測定してスクリーニングを行ってもよい。
Fgr遺伝子を発現する細胞に投与し、Fgr遺伝子の発現低下又はFgrタンパク質のリン酸化活性の低下の度合いを測定する操作は、更に具体的には、
(工程a)Fgr遺伝子を発現する細胞を、被験物質の存在下において、該Fgr遺伝子を発現しうる条件下において培養する工程;および
(工程b)工程(a)により得られる細胞において、Fgr遺伝子発現の低下又はFgrタンパク質のリン酸化活性の低下を検出する工程:により行うことができる。
工程(b)において、Fgr遺伝子発現の低下又はFgrタンパク質のリン酸化活性の低下が検出された場合には、その被験物質は、炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤の候補物質として選別することができる。
工程(a)においては、内因性Fgr遺伝子を有する細胞をそのままの形で用いることができるが、内因性Fgr遺伝子の有無にかかわらず、Fgr遺伝子を発現するように遺伝子操作された細胞を用いてもよい。当業者に公知の通常の遺伝子組み換え技術により、Fgr遺伝子を細胞にトランスフェクトすることができる。
Fgrタンパク質の塩基配列及びアミノ酸配列は公知である。例えば、ヒトFgr遺伝子(NCBIアクセス番号:NM_005248)の塩基配列及びアミノ酸配列を配列番号11および配列番号12に示す。マウスFgr遺伝子(NCBIアクセス番号:NM_010208)の塩基配列及びアミノ酸配列を配列番号13および配列番号14に示す。
工程(a)において用いられる細胞は特に限定さればいが、哺乳動物細胞が好ましい。哺乳動物細胞としては、例えば、COS−7細胞、C127細胞、NIH3T3細胞、CHO細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、BHK細胞、SOAS−2細胞等が挙げられる。また、哺乳動物細胞において用いる発現ベクターとしては、例えば、複製起点、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライス供与部位、スプライス受容部位、ターミネーター、5'非翻訳領域等を適宜含む発現ベクターを使用することが好ましい。
工程(a)における培養は、標準的な細胞培養方法、例えば、被験物質と前記細胞とをインキュベートすることによって行なうことができる。また、Fgr遺伝子を発現しうる条件は、γ線照射、UV照射、MMS処理などの技術を用いてDNA損傷ストレスを与えることによって達成することができ、あるいは、トランスフェクションに用いた発現ベクター中のプロモーターを活性化することによって達成することもできる。培養における培地、温度、時間、候補薬物の量、細胞の量、添加物などは、当業者であれば適切に選択することができる。
工程(b)において、Fgr遺伝子の発現の低下は、当技術分野において周知の標準的な方法、例えば、該遺伝子の発現の強度を測定することによって検出することができる。細胞内の遺伝子発現の強度を測定する方法としては、その発現産物、例えばmRNAまたはタンパク質、の量を測定する方法が挙げられる。さらに、FgrのmRNA量は、これに特異的なプライマーペアを用いるRT−PCRによる増幅の後に電気泳動を行なう方法等により測定することができる。また、Fgrタンパク質の量は、細胞から得られるタンパク質抽出物を電気泳動した後にFgrタンパク質に特異的な抗体を用いてこれを検出するイムノブロット法等により測定することができる。好ましくは、工程(b)においては、工程(a)により得られる細胞におけるFgr遺伝子発現の強度と、被験物質の不在下で培養された対照細胞におけるFgr遺伝子発現の強度とを比較することができる。
工程(b)において、Fgrタンパク質のリン酸化活性の低下は、当技術分野において周知の標準的な方法で検出することができる。例えば、例えば、被験物質とFgrタンパク質発現細胞とをインキュベートした後、タンパク可溶化液を取得し、Anti-Phophotyrosine 抗体を用いるウェスタンブロットにより主要なバンドを定量することにより、Fgrタンパク質のリン酸化活性の低下を測定することができる。 好ましくは、工程(b)においては、工程(a)により得られる細胞におけるFgrタンパク質のリン酸化活性と、被験物質の不在下で培養された対照細胞におけるFgrタンパク質のリン酸化活性とを比較することにより、Fgrタンパク質のリン酸化活性の低下を検出することができる。
本発明においては、被験物質を、Fgr遺伝子の機能亢進型変異を有する非ヒト哺乳動物に投与した後に、当該非ヒト哺乳動物におけるFgr遺伝子の発現低下又はFgrタンパク質のリン酸化活性の低下の度合いを測定することによって、炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤をスクリーニングすることができる。Fgr遺伝子の発現低下又はFgrタンパク質のリン酸化活性の低下の度合いを測定は、本明細書中上記した方法に準じて行うことができる。
Fgr遺伝子の機能亢進型変異を有する非ヒト哺乳動物の動物種は特に限定されず、例えば、マウス、ハムスター、モルモット、ラット、ウサギ等のげっ歯類の他、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタ、サル等を使用することができるが、作製、育成及び使用の簡便さなどの観点から見て、マウス、ハムスター、モルモット、ラット、ウサギ等のげっ歯類が好ましく、そのなかでもマウスが最も好ましい。Fgr遺伝子の機能亢進型変異を有するマウスの代表例としては、Ali18変異マウス系統(Abe et al., Mammalian Genome 2006, 17, 915-926)を使用することができる。
本発明で用いる被験物質としては任意の物質を使用することができる。被験物質の種類は特に限定されず、個々の低分子化合物でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、合成ペプチドでもよい。あるいは、被験化合物はまた、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよい。被験物質は、好ましくは低分子化合物であり、低分子化合物の化合物ライブラリーでもよい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
(2)炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤
本発明の炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤は、Fgr阻害剤を有効成分として含む。
Fgr阻害剤としては、上記した本発明のスクリーニング方法により選択されるFgr遺伝子の発現を低下させる物質、又はFgrタンパク質のリン酸化活性を低下させる物質を使用してもよいし、あるいは公知のSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、例えば、PP1(4-Amino-1-tert-butyl-3-(1′-naphthyl)pyrazolo[3,4-d]pyrimidine)などを使用してもよい。炎症性疾患は、Fgrの過剰な活性と発現が原因となるものであれば特に限定されず、例えば、関節炎、尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、皮膚炎、骨粗鬆症などを挙げることができる。
本発明の炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤の投与方法は特に限定されず、経口投与、又は非経口投与(例えば、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入など)の何れでもよい。本発明の炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤の製剤形態は特に限定されず、経口投与又は非経口投与用の製剤形態の中から治療の目的に最も適した適宜の形態のものを選択することが可能である。経口投与に適した製剤形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、シロップ剤、溶液剤、乳剤、懸濁剤、チュアブル剤などを挙げることができ、非経口投与に適する製剤形態としては、例えば、注射剤(皮下注射、筋肉内注射、又は静脈内注射など)、点滴剤、吸入剤、坐剤などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
経口投与に適当な液体製剤、例えば、溶液剤、乳剤、又はシロップ剤などは、水、ソルビット、果糖などの糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類などを用いて製造することができる。また、カプセル剤、錠剤、散剤、又は顆粒剤などの固体製剤の製造には、乳糖、マンニットなどの賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを用いることができる。非経口投与に適当な注射用又は点滴用の製剤は、好ましくは、受容者の血液と等張な滅菌水性媒体に有効成分である上記の物質を溶解又は懸濁状態で含んでいる。例えば、注射剤の場合、塩溶液、又は塩水と他の溶液との混合物からなる水性媒体などを用いて溶液を調製することができる。
本発明の炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤の投与量及び投与回数は、有効成分の種類、疾患の種類や重篤度、投与形態、患者の年齢や体重などの条件などの種々の要因により適宜設定することができるが、一例としては、有効成分の投与量として一日当たり1μg/kgから10mg/kg程度とすることができる。
本発明を以下の実施例により説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
(A)材料と方法
(1)マウス系統
Ali18変異マウス系統は、ドイツにおける大規模ENUミュータジェネシスプロジェクトにおいてにおいて単離された(Abe et al., Mammalian Genome 2006, 17, 915-926)。Ali18系統のオリジナルな遺伝的背景はC3HeB/FeJ(The Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME) で、Ali18/+マウスをC3H-+/+マウスに20回以上戻し交配することによって維持された。Ali18/Ali18マウスは、Ali18/+の異系交配に得られた。その後はAli18/Ali18マウスの異系交配によって維持された。遺伝的マッピングには、Ali18/Ali18マウスを野生型C57BL/6Jマウス(The Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME) と外交配させ、得られたF1-Ali18/+マウスをさらに異系交配してF2マウスを得た。
(2)遺伝的マッピング
F2マウスは3ヶ月齢以降に関節炎の強度を肉眼で点数化し、1以上のスコアの個体を遺伝型解析に用いた。該当する個体の尾より、標準的なプロテアーゼKを用いた方法によってゲノムDNAを抽出した(Manipulating mouse embryo, ISBN 0-87969-384-3)。マイクロサテライト配列を利用したSimple Sequence Length Polymorphism (SSLP) の解析におけるPCRの条件は以前に記載した(Abe et al., Mammalian Genome 2006, 17, 915-926)。用いたマーカーはほとんどが公開されたものである(Dietrich et al., Genetics 1992, 131, 423-447)であるが、本発明者自身で同定したマーカーについては以下にそのDNA配列を記載する。
D4Neu19-L: 5'-CCATAGGCTCTCAGCTGTTCA-3'(配列番号1)
D4Neu19-R: 5'-CTACAGAGCAAATTCCAGGACA-3'(配列番号2)
D4Neu21-L: 5'-TGTAATAGCCTTTTCTTGTTCAGA-3'(配列番号3)
D4Neu21-R; 5'-TGCAAGACTCTGTCTCAAACAAA-3'(配列番号4)
D4Neu25-L: 5'-TCAGCTCCAAATTGCTAGGG-3'(配列番号5)
D4Neu25-R: 5'-TTCCCAGAAACCAGAAAAGG-3'(配列番号6)
D4Neu26-L: 5'-CACCCGTGGCACTCACTC-3'(配列番号7)
D4Neu26-R: 5'-GAGAAAACAACAGCAGGCATC-3'(配列番号8)
(3)BACトランスジェニックマウス作製
Bacterial artificial chromosome (BAC) クローンであるRP24-330N3およびRP23-265N18はChildren's Hospital Oakland Research Institute, BACPAC Resources Center (http://bacpac.chori.org/home.html)より購入した。BACのDNA抽出には標準的アルカリ法か、NucleoBond BAC100 (Macherey-Nagel)を用いて抽出した。抽出されたBAC DNAはパルスフィールドゲル電気泳動(CHEF Mapper, BioRad)によって制限酵素地図を作成して内部に組み換えがないことを確認した。マイクロインジェクション用には、BAC DNAを制限酵素PI-Sce I (New England BioLabs) で切断して線状化し、パルスフィールド電気泳動して目的のバンドを切り出した。切り出したアガロースよりelectroelution法によって目的DNAを回収し、スポット透析によってマイクロインジェクション用バッファーに置換した(Molecular Cloning, ISBN: 0-87969-577-3)。DNAをC3HeB/FeJの受精卵へとマイクロインジェクションしてファウンダーマウスを得た。BACクローンはC57BL/6由来であることから、トランスジーンの有無をD4Neu21とD4Neu25のSSLPマーカーによって確認した。トランスジェニックファウンダーは、Ali18/Ali18マウスと交配させてF1マウスの関節炎表現型を確認した。また、いくつかのトランスジェニックF1マウスに関しては、さらにAli18/Ali18マウスと戻し交配させて生まれてきた仔の表現型を確認した。
(4)Positional Candidate Sequencing
PosMed (Kobayashi and Toyoda, Bioinformatics 2008, 24, 1002-10)を用いて、arthritisやbone marrowなどのキーワードにより候補遺伝子を選出した。Ali18/Ali18とC3HeB/FeJマウスよりゲノムDNAを抽出し、それぞれ3匹程度をプールしてPCRの鋳型とした。候補遺伝子のタンパク質をコードするエクソンの領域の配列を決定するためのプライマー配列は、ExonPrimer (http://ihg2.helmholtz-muenchen.de/ihg/ExonPrimer.html) を用いて設定された。PCR産物はGel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて精製され、通常のサンガー法によりシークエンサー(ABI3100 Genetic Analyzer)を用いて決定された。得られた配列データはGENETYX MAC version 12.2.7 (GENETYX cooperation) およびSNP Spot (DYNACOM) ソフトウェアによって、配列解析が行われた。
(5)In vitroにおけるリン酸化活性測定
野生型およびFgrAli18タンパクのリン酸化活性測定には、それぞれの発現コンストラクトをNIH3T3細胞へFugene (Roche) によりトランスフェクションして1日培養を行った後、タンパク可溶化液を得た。等量のタンパクをAnti-Phophotyrosine (Upstate) 抗体、Blocking One-P (Nakalai) 洗浄液を用いたウェスタンブロットにより、主要なバンドを定量することにより行った。なお、同じタンパク試料を用いて抗Fgr抗体(Santa Cruz Biotechnology)及び抗β-actin抗体(SIGMA)を用いたウェスタンブロットを行って、その結果より補正を行った。発現コンストラクト作製には、野生型C3HeB/FeJおよびAli18/Ali18マウスの大腿骨関節部由来のcDNAを鋳型として2つのプライマー,Fgr_rt2L (5'- GTCTGTGGGGGCATCTGG -3') (配列番号9) およびFgr_rt2R (5'- TGAACACTTGGGGTCAGAGG -3') (配列番号10),を用いてPCRを行い、そのPCR産物をPTARGET (Promega) へクローニングした。挿入部位については、全体のDNA配列を確認した。
(6)Real time PCR
12週齢の野生型C3HeB/FeJおよびAli18/Ali18マウスの大腿骨および膝関節領域より、クライオプレス(マイクロテックニチオン)によりRNAを抽出した。それらのRNAよりTranscriptor First Strand cDNA Synthesis Kit (Roche) を用いてcDNAを合成した。これらのcDNAを鋳型として、Universal Probe Library (Roche) およびABI7500 FastによりリアルタイムPCRを行った。
(7)阻害剤投与実験
離乳した4週齢Ali18/Ali18雄マウスに、50% DMSOに溶解したPP1 Analog (Calbiochem) (4-Amino-1-tert-butyl-3-(1′-naphthyl)pyrazolo[3,4-d]pyrimidine)を1.5 mg/kgとなるように腹腔内投与を行った。コントロールとしてPP1 Analogを含まない50% DMSOを等量投与した。投与は4週齢より6週齢までで、1週間に3回行った。投与時に関節炎のスコアの記録を行った。
(B)結果
Ali18の原因遺伝子のゲノム領域を知るため、Ali18の遺伝的背景であるC3HeB/FeJ (C3H) 系統とは異なるC57BL/6J (BL6) 系統と交配させ、関節炎の表現型を示したF2マウスの遺伝子型を決定した。それぞれのゲノム領域を判別可能なマイクロサテライトマーカーを用いて遺伝学的地図を作製した結果、Ali18変異は第4番染色体の遠位にマップされた(Abe et al., Mammalian Genome 2006, 17, 915-926)。さらに減数分裂を700程度まで増やす過程で、候補領域付近のマイクロサテライトマーカーを新たAli18に加えることにより、候補領域はD4Neu21とD4Neu26の間の領域200 kb程度まで縮小された。そこで、このゲノム領域をカバーするBAC (Bacterial Artificial Chromosome) クローンにより物理的地図を作製し、さらにそのゲノム領域によってマウスの炎症性関節炎を回復することが可能かどうかを知るために、BACトランスジェニックレスキューを行った。これは目的のBAC DNAよりトランスジェニックマウス系統を作出し、それをAli18系統と交配させて機能回復が生じるかを確認する。もし、BAC DNAが原因遺伝子を含んでいればAli18の表現型が正常な野生型に戻ることが予想される。しかしながら、この方法では突然変異が機能欠損型の場合は機能するが、機能亢進型はレスキューすることができないという問題点がある。候補領域を含む2つのBACクローン, RP24-330N3とRP23-265N18,についてBACトランスジェニック系統を作出した。BACはC57BL/6由来のDNAを用い、マイクロインジェクションする受精卵にはAli18マウスと同じ遺伝的背景であるC3H系統を用いた。このことによりB6とC3Hを識別するマイクロサテライトマーカーであるD4Neu21とD4Neu26によってトランスジーンの有無が確認できた。作出されたトランスジェニック系統とAli18マウスとの交配を行った結果、トランスジーンを持つAli18マウスを得た。それらのマウスは複数においてAli18ヘテロで炎症性関節炎を呈し、表現型の回復は認められなかった。さらに減数分裂の解析を継続する過程で、D4Neu21とD4Neu26の間の領域を候補領域とするには符号しない組み換え体が複数得られた。これらはAli18の修飾遺伝子群(Abe et al., Mammalian Genome 2009, 20, 152-161)の影響により候補領域の境界を限定することが困難であることが示唆された。つまり炎症性関節炎を呈する個体には、修飾遺伝子の組み合わせによりAli18の遺伝型がヘテロであるかホモであるかを厳密に特定できない。そのことによって、候補領域の縮小が困難であると考えられた。
Ali18の候補領域では遺伝的背景からの影響により関節炎の表現型からヘテロとホモマウスの判別ができないために、その境界の決定が困難である。しかしながら、この領域とC3Hゲノムとの相関は明らかなことから、BL6がホモとなる領域には突然変異が存在する可能性はない。そこでBL6がホモとなっている領域からヘテロとなる境界を確実な候補領域とした。その結果、D4Neu12とD4Mit134にはさまれる約3 Mbの領域が候補領域として考えられた。そこで、PosMedデータベース (http://omicspace.riken.jp/PosMed/) によってこの領域内に位置する遺伝子群の文献情報より候補遺伝子の絞り込みを行った。関節炎や骨髄などのキーワードによりサーチした結果、数個の候補遺伝子が検出された。野生型とAli18/Ali18個体のゲノムDNAを用いて、それらの遺伝子のタンパク質コーディング領域のDNA配列決定をサンガーシークエンサーにより行った。その結果、Ali18/Ali18ではFgrのコーディング領域であるexon 12においてアデニンよりグアニンへの置換が認められた(図1B)。この置換により制限酵素Mbo IIの認識部位が消失することが予想されたので、PCR生成物をMbo IIで切断してゲル電気泳動を行った。その結果、予想通りC3HとB6の野生型では切断が生じるが、Ali18系統の交配より得られたヘテロやホモマウスにおいては切断されないバンドパターンが認められた(図1C)。Mbo II切断による遺伝子型決定は、交配のパターンと関節炎の表現型に完全に一致した。これらの結果よりAli18はFgr遺伝子に変異のあるalleleであることが明らかになったので、FgrAli18と変更された。
Ali18変異であるA to G transitionは、Srcチロシンキナーゼファミリーで特に相同性の高いカタリティックドメイン付近に存在する。この領域はヒトFGRアミノ酸配列と高い相同性があり(図1E)、他の脊椎動物においても高度に保存されている。Ali18変異は、アミノ酸502番目のアスパラギン酸のグリシンへの置換をひき起こすことが予想された(図1D)。アスパラギン酸は側鎖のカルボキシル基が負に荷電でしたアミノ酸であり、グリシンは側鎖には2つの水素があるだけの小さなアミノである。FgrはSrcチロシンキナーゼと高い相同性を有し、マウスでは9つあるSrcチロシンキナーゼファミリーの一員である。図1Eで示されるように、アミノ酸置換が予想される502番目のアスパラギン酸はこのファミリーの中で高い相同性を示している。さらに重要なことに、このアスパラギン酸の隣にあるFgrの503番目のチロシンはSrcにおける527番目のチロシンに対応する。Src 527Yは他のチロシンキナーゼであるCskなどによってリン酸化されることによって不活性型になることが報告されている。
Fgr遺伝子についてはノックアウトマウスについての報告があるが、このノックアウトマウスではAli18のような形態的異常を示さないことから(Genes and Development 1994, 8, 387-398)、Ali18変異は機能亢進型変異であることが予想された。そこで、培養細胞であるNIH3T3に野生型FgrとAli18変異を導入した過剰発現コンストラクトをトランスフェクションし、そのリン酸化活性をリン酸化特異的抗体によるウェスタンブロットにより計測した。その結果、Ali18変異を導入したコンストラクトでは野生型に比較して1.8倍ほど酵素活性が高かった(図2A)。さらに野生型とAli18ホモマウスの骨髄を含む大腿骨関節よりそれぞれRNAを抽出し、Fgr遺伝子の発現をreal time PCR法により解析した。その結果、Ali18ホモマウスでは約2.5倍の発現量の増加が認められた(図2B)。これらの結果より、Ali18変異はリン酸化活性の増加と自身の発現量の増加をひき起こすことが推測された。また、Ali18突然変異がFgrタンパク質の機能亢進をひき起こしてそれが関節炎の原因となるならば、Fgrの機能を阻害することによって関節炎の症状が軽減することが予想される。そこで、Srcファミリーチロシンキナーゼの阻害剤であるPP1の投与実験を行った。Ali18/Ali18マウスの関節炎が始まる4週齢より3週間に渡り、1.5 mg/kgのPP1とコントロールvehicleの腹腔内投与を1週間に3回行った。その結果、コントロールを投与したAli18/Ali18マウスに比較して、PP1を投与したAli18/Ali18マウスの関節炎の重症度を示すスコアは低い傾向にあることが認められた(図2C)。これらの結果は、in vivoにおいてFgrの活性を低下させることによって関節炎の表現型が弱まることを示唆していると考えられた。
(C)考察
本発明においては、関節炎を発症する変異系統、Ali18の突然変異を第4番染色体の候補領域内において候補遺伝子の塩基配列決定をすることにより同定した。Ali18変異はSrc チロシンキナーゼファミリーのメンバーであるFgrタンパク質をコードする領域に位置し、アミノ酸置換を起こすことが予想された。Fgrは自然免疫における細胞シグナル伝達において重要な役割を果たすと考えられる。このことはAli18マウスの免疫学的解析の結果と符号することから、原因遺伝子として理想的である。
修飾遺伝子(modifier gene)は、突然変異によって引き起こされる表現型の強弱に影響を与える遺伝的要因と考えられている。マウスでは自然発生による変異マウスの表現型が遺伝的背景によって異なることが以前より知られていた。また、ノックアウトマウスなどの遺伝子改編マウスにおいても同様の現象が知られている。これらは、原因遺伝子が機能する分子経路に存在する遺伝子群の閾値が遺伝的背景によって異なると考えられており、それらの差異は近交系のゲノムに蓄積されたDNA配列の多型に起因すると考えられている。Ali18変異マウスの表現型は遺伝的背景により抑制され、その修飾遺伝子は第1番、3番、15番染色体の領域に存在する。また、その領域の組み合わせが表現型の強弱に重要であることが報告されている。このような修飾遺伝子の効果は、原因遺伝子の候補領域決定の解釈を困難にする。当初、候補領域であると考えられていたD4Neu21とD4Neu26にはさまれた約200 kbの領域領域を用いて、BACトランスジェニックレスキューを試みた。この実験ではトランスジーンに含まれる正常な遺伝子の発現と機能が、変異による原因遺伝子の機能欠損を補うことによって野生型への回復が起こることを期待している。結局、今回用いた領域はAli18突然変異の影響とは無関係であったのだが、今回のような機能亢進型の変異の場合では正しい領域でレスキューを行っても機能回復は困難であったことが予想された。優性変異においても機能欠損型変異の可能性もあるが、遺伝的背景の影響があるような変異の場合には機能亢進型やエンハンサー変異などの遺伝子機能の微妙な変化が原因となる可能性が高いと考えられる。今回のようなケースでは、トランスジェニックレスキューによる機能回復はリスクが高いと考えられた。
Ali18変異は、Fgrタンパク質において502番目アミノ酸のアスパラギン酸をグリシンへと置換させる。アスパラギン酸は負に荷電したアミノ酸であり、荷電が少なく分子量が少ないグリシンへの置換はFgrのタンパク機能へ影響を与えることが予想される。また、このアスパラギン酸はSrcファミリーの配列においてBlkとHckを除いた全てに保存されている(図1E)ことからも重要性が予想される。さらにこの保存されたアスパラギン酸の次の503番目のチロシンについてもBlkを除いて高度に保存されている。さらに興味深いことに、この503番目のチロシンは、Srcにおいては527番目のチロシンに対応すると考えられる。Src 527YはCskなどの他のチロシンキナーゼによってリン酸化され、そのリン酸化はSrcの不活性型の形成に重要であると考えられている(Annual Reviews of Cell and Developmental Biology 1997, 13, 513-609)。Fgrにおいても同様な機構で制御されていることが予想される。このことから、Ali18変異による502番目のアスパラギン酸の置換が、503番目のチロシンのリン酸化を阻害するために常時活性型へとトランスフォームしていることが予想される。しかし、活性型への変換は他のチロシンのリン酸化やリンカーの結合も重要であることから、Ali18のアミノ酸置換はv-Fgrのような非常に強いリン酸化の亢進を起こしているのではないことが予想された。
生体においては組織において複数のチロシンキナーゼファミリー遺伝子が発現していることが知られており、機能的に重複していると考えられている。マウスFgr遺伝子のノックアウトマウスでは、形態学的および免疫系について顕著な異常は認められていない(Genes and Development 1994, 8, 387-398 )。これは、Fgrが発現する組織において他のチロシンキナーゼによる機能回復が起こっていると考えられる。実際、FgrとHckの二重変異マウスでは、それぞれの単一の変異では認められないListeriaへの感受性が高まっていることが報告されている(Genes and Development 1994, 8, 387-398)。このようなFgr遺伝子のノックアウトマウスの表現型と比較すると、Ali18変異が機能欠損であるnull alleleあるいは機能低下であるhypomorphである可能性は低いと考えられる。このことからも機能亢進型変異であることが予想されるが、v-Fgrで認められるような強力な機能亢進でないことも本発明者の実験より明らかである。おそらくAli18変異は自然免疫系の活性化を引き起こすのであるが、微妙な機能亢進であるために腫瘍化には至らないと考えられる。Ali18マウスの関節炎が成体になってからゆるやかに発症することからも、Ali18変異により活性化される自然免疫系の細胞の浸潤が、徐々に組織に蓄積することによってAli18の関節炎が発症すると考えられる。
アトピー性皮膚炎など炎症性疾患の治療薬として、ステロイド系の治療薬が広く使用されている。しかしながら、ステロイドは全身性のホルモンであり嘔吐や情緒不安定などの副作用をひき起こすことが知られている。本発明者の実験より、Ali18マウスへSrcチロシンキナーゼのファミリー全般の阻害剤を投与することによって抑制される傾向にあった。しかしSrcファミリー遺伝子群は、胎児発生、脳や獲得免疫系など様々な組織で機能するので副作用の可能性が否定できない。さらに特異的にFgrを抑制する阻害剤が開発されれば、自然免疫系のみを抑えて副作用を起こさずに炎症をピンポイントで治療することが可能であると考えられた。
本発明においては、遺伝的マッピングと候補遺伝子の配列決定を行うことによって、マウスにおいて炎症性関節炎を引き起こすAli18変異を同定した。Ali18変異はチロシンキナーゼファミリーであるFgrタンパクのアミノ酸置換を引き起こす機能亢進型変異であることが考えられた。この変異タンパクの機能については未知な点が多いが、この領域を解析することによって特異的に自然免疫系を抑制する方法の開発の可能性が考えられる。現在まで、ヒト炎症性疾患におけるFGRの機能はわかっていないが、そのような特異的な阻害剤によって副作用なく自己免疫疾患などで生じる炎症を沈静化する可能性がある。

Claims (8)

  1. 被験物質が、Fgr遺伝子の発現を低下させるか否か、又はFgrタンパク質のリン酸化活性を低下させるか否かを評価することを含む、炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法。
  2. 被験物質を、Fgr遺伝子を発現する細胞に投与し、Fgr遺伝子の発現低下又はFgrタンパク質のリン酸化活性の低下の度合いを測定する、請求項1に記載のスクリーニング方法。
  3. 被験物質を、Fgr遺伝子の機能亢進型変異を有する非ヒト哺乳動物に投与し、Fgr遺伝子の発現低下又はFgrタンパク質のリン酸化活性の低下の度合いを測定する、請求項1に記載のスクリーニング方法。
  4. 関節炎治療剤のスクリーニングを行う、請求項1から3の何れかに記載のスクリーニング方法。
  5. Fgr阻害剤を有効成分として含む、炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤。
  6. Fgr阻害剤を有効成分として含む、関節炎治療剤。
  7. Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤PP1を有効成分として含む、炎症性疾患又は骨粗鬆症の治療剤。
  8. Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤PP1を有効成分として含む、関節炎治療剤。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2015152395A (ja) * 2014-02-13 2015-08-24 株式会社特殊免疫研究所 ヒトの特定分子と結合する分子標的物質のinvivo評価法

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