JP2012016166A - モータ制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】制御系が定常状態でない場合に誘起電圧や電源電圧の未知なる変動によって制御系が不安定になることや電源電圧を誘起電圧が越えて制御破綻に至ることを的確に防止するとともに、高効率化の追求に適したモータ制御装置を提供する。
【解決手段】定常状態の場合は、電流指令ベクトルのうちトルク指令Trefに関連付けられた電流指令ベクトルを用いる定常制御モードを実行する。そして、誘起電圧又は電源電圧の変動に対応する変動情報を取得し、取得した変動情報に基づいて制御系が定常状態であるか否かを判定し、定常状態でないと判定した場合には、非定常制御モードに移行して、誘起電圧を抑制する抑制電流成分が増大する方向に電流指令ベクトルを補正して、補正した電流指令ベクトルを用いて制御を行う。
【選択図】図2
【解決手段】定常状態の場合は、電流指令ベクトルのうちトルク指令Trefに関連付けられた電流指令ベクトルを用いる定常制御モードを実行する。そして、誘起電圧又は電源電圧の変動に対応する変動情報を取得し、取得した変動情報に基づいて制御系が定常状態であるか否かを判定し、定常状態でないと判定した場合には、非定常制御モードに移行して、誘起電圧を抑制する抑制電流成分が増大する方向に電流指令ベクトルを補正して、補正した電流指令ベクトルを用いて制御を行う。
【選択図】図2
Description
本発明は、電流指令ベクトルに応じた電流をモータに通電することによりモータの駆動を制御するモータ制御装置に係り、特にベクトル制御を適正化したモータ制御装置に関するものである。
IPM(Interior Permanent Magnet)モータを始めとする逆突極性を有する同期モータの駆動を制御するモータ制御装置は、所望のトルクを発生させる電流指令ベクトルを生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源からモータに通電することによりモータの駆動を制御する装置である。電流指令ベクトルは、IPMモータの三相各相に流す電流を、回転子に配置された永久磁石の磁束の方向であるd軸電流成分とd軸に直交するq軸電流成分との二つのベクトル成分に変換して、d軸電流成分及びq軸電流成分をこれらの合成ベクトルで表現したものである。この電流指令ベクトルの向きに応じて変化するd軸電流成分は、モータの回転により生ずる誘起電圧を抑える方向に作用する抑制電流成分であり、この抑制電流成分を利用して、電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧がモータへ印加可能な電源電圧を越えて制御破綻に陥らないように抑制電流成分の大きさを制御する弱め磁束制御が知られている(特許文献1参照)。
この弱め磁束制御を適切に実施する構成として、電源電圧を越えないように誘起電圧を抑制する電流指令ベクトルとトルクと関連付けた電流指令ベクトルに関する情報を制御系が定常状態であるときの実測値に基づき予め設定しておき、この電流指令ベクトルに関する情報における複数の電流指令ベクトルのうち外部から指示されたトルク指令に関連付けられた電流指令ベクトルを生成し、この電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御するように構成することが一つの有効な手段として考えられる。
しかしながら、かかる構成は、制御系が定常状態であるときの実測値に基づく制御を行うものであるので、定常状態においては誘起電圧を有効に抑制するものの、定常状態ではない過渡状態であるとき、すなわち誘起電圧又は電源電圧が如何なる要因で変動するか分からない状態においても誘起電圧を有効に抑制する保証はない。そのため、未知なる誘起電圧や電源電圧の変動によって制御系が不安定になることや電源電圧を誘起電圧が越えて制御破綻に至るおそれがある。
さらに、上記弱め磁束制御では誘起電圧又は電源電圧が多少変動したとしても電源電圧を誘起電圧が越えないように所定の電圧余裕度を設定することが一般的である。この場合、制御系が定常状態でない過渡状態(非定常状態)では誘起電圧や電源電圧の変動が未知であることから、電圧余裕度を未知の変動分を見越して大きく設定する必要が生じるので、定常状態において必要以上の電圧余裕度を設定して過度な抑制電流成分を作用させることになり、効率を追求するうえでの障害となる。
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、制御系が定常状態でない場合に誘起電圧や電源電圧の未知なる変動によって制御系が不安定になることや電源電圧を誘起電圧が越えて制御破綻に至ることを的確に防止するとともに、高効率化の追求に適したモータ制御装置を提供することである。
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
すなわち、本発明のモータ制御装置は、回転により誘起電圧が発生するモータに対し、前記誘起電圧を抑える方向に作用する抑制電流成分がベクトルの向きに応じて変化する電流指令ベクトルのうち制御系が定常状態にあることを条件にモータに印加可能な電源電圧を前記誘起電圧が越えないようにトルクに応じて関連づけられた電流指令ベクトルをトルク指令に応じて生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源から前記モータに通電することにより当該モータの駆動を制御する定常制御モードを具備するモータ制御装置であって、前記誘起電圧又は前記電源電圧の変動に対応する変動情報を検出し、検出した変動情報に基づき定常状態であるか否かを判定する判定部と、前記トルク指令に応じて生成する電流指令ベクトルを前記抑制電流成分が増大する方向に補正する補正部とを更に設け、前記判定部において定常状態でないと判定した場合に、前記補正部により補正された後の電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御する非定常制御モードに移行するように構成したことを特徴とする。
定常状態は、制御系が安定している状態又は制御系が安定しているとみなせる状態をいい、例えばトルク指令、モータの回転数(速度)、電源電圧及び誘起電圧の値が一定の状態、或いはこれらの値の単位時間あたりの変動量が一定範囲内に留まる状態などが挙げられる。
このように、制御系が定常状態にある場合は、トルク指令に関連付けられた電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって誘起電圧をモータに印加可能な電源電圧を越えないように適切に抑制する定常制御モードでの制御が実行される。一方で、制御系が定常状態にない場合には、定常状態にないことを誘起電圧又は電源電圧の変動に対応する変動情報に基づいて判定して非定常制御モードに移行し、電流指令ベクトルを抑制電流成分が増大する方向に補正することで定常制御モードでの制御に比べて誘起電圧の抑制量を増大させるので、制御系が定常状態でない非定常状態に移行した場合でも誘起電圧や電源電圧の未知なる変動によって制御系が不安定になることや電源電圧を誘起電圧が越えて制御破綻となることを防止することができる。しかも、制御系が非定常状態に移行した場合に定常制御モードでの制御に比べて誘起電圧の抑制量が増大するので、非定常状態における未知なる電圧変動分を見越して電圧余裕度を大きく設定する必要がなくなり、電圧余裕度の設定値を低減させることができ、効率を追求するうえで有用となる。
制御系が定常状態であるか否かを判定する具体的構成としては、前記判定部は、前記変動情報として前記電源電圧を取得し、取得した電源電圧の値又は当該電源電圧の単位時間あたりの変化量が所定の閾値を越えた場合に前記制御系が定常状態でないと判定することが挙げられる。
制御系が定常状態であるか否かを判定する他の具体的構成としては、前記判定部は、前記変動情報として前記モータの回転数又は回転速度を取得し、取得値の単位時間あたりの変化量が所定の閾値を越えた場合に前記制御系が定常状態でないと判定することが挙げられる。
制御系が定常状態であるか否かを判定する上記以外の具体的構成としては、前記判定部は、前記変動情報として前記トルク指令を取得し、取得したトルク指令の単位時間あたりの変化量が所定の閾値を越えた場合に前記制御系が定常状態でないと判定することが挙げられる。
簡素な構成で且つ効果的に電流指令ベクトルの抑制電流成分を増大させるためには、前記補正部は、予め定められた一定の補正量を用いて前記電流指令ベクトルを補正することが有効である。
誘起電圧又は電源電圧の変動に合わせて電流指令ベクトルの抑制電流成分を増大させるためには、前記判定部は、前記変動情報を表す値が所定の閾値を越えた場合に前記制御系が定常状態でないと判定するものであり、前記補正部は、前記変動情報を表す値と前記所定の閾値との偏差に応じた補正量を用いて前記電流指令ベクトルを補正することが望ましい。
本発明は、以上説明したように、制御系が定常状態でない非定常状態であることを誘起電圧又は電源電圧の変動に対応する変動情報に基づいて判定して非定常制御モードでの制御に移行し、電流指令ベクトルを抑制電流成分が増大する方向に補正することで定常制御モードでの制御に比べて誘起電圧の抑制量を増大させるので、制御系が非定常状態となる場合であっても誘起電圧や電源電圧の未知なる変動によって制御系が不安定になることや制御不能に陥ることを防止することが可能となる。しかも、非定常制御モードでの制御の方が定常制御モードでの制御に比べて誘起電圧の抑制量を上昇させるので、過渡状態における未知なる電圧変動分を考慮して電圧余裕度を多めに設定する必要を省き、電圧余裕度の設定を低減させることが可能となり、効率を追求するうえで有用である。したがって、モータ制御装置の信頼性及び高効率化を追求することが可能となる。
以下、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置を、図面を参照して説明する。
図3に示すように、このモータ制御装置の制御対象であるIPM(Interior Permanent Magnet)モータ1は、周知のとおり永久磁石11aを埋め込んだ回転子11と、三相交流を通電することにより回転磁界φ’を発生させる固定子12とからなり、逆突極性を有する磁石内装型モータである。このモータ1に通電する三相の電流を、図3及び図4に示すように、永久磁石11aが発生する磁束の方向であるd軸電流成分Id及びd軸に直交するq軸電流成分Iqの二つの電流成分に変換して表現し、これら二つの電流成分の合成ベクトルを電流指令ベクトルAとして表現する。電流指令ベクトルAの向きは、ベクトルAとq軸とのなす角度で表現でき、この角度を以下、電流位相角βや単に位相角βと呼ぶ。
モータ制御装置は、図1に示すように、図4に示す電流指令ベクトルAを用いてモータ1の駆動を制御する装置であり、外部から指示されたトルク指令Trefに応じたトルクをモータ1に発生させる電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成する電流指令生成部2と、この電流指令生成部2で生成されたd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqに基づいて三相電流指令uvwを生成する電流制御部3と、電流制御部3で生成された三相電流指令uvwに応じた電流をバッテリ等の電源4からモータ1に通電する主回路部5とを有する。
電流制御部3は、主回路部5からモータ1に通電される電流を電流検知部3aを介して検出し、検出した電流がd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqに対応する電流となるようにフィードバック制御を行う。主回路部5は、PWM制御を用いて三相電流指令uvwに応じた三相の電流を電源4からモータ1に通電する。これらの各部3〜5は周知のものと同様であるため、その構成及び動作の詳細な説明は省略する。
電流指令生成部2は、外部から指示されたトルク指令Trefに対応するトルクを発生させる電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成するにあたり、以下の要求に対応する必要がある。
すなわち、IPMモータの出力トルクは、図5に示すように、図3に示す永久磁石11aにより発生するマグネットトルクと、突極性に起因するリラクタンストルクとの和となり、電流指令ベクトルAの大きさが一定である場合に、出力トルクはベクトルの向き(位相角β)に応じて変化するものである。トルク指令を通じて要求されるトルクを得るためには、この出力トルクの特性を考慮して電流指令ベクトルの大きさと向きとを適切に決定する必要がある。
この適切な出力トルク制御に加えて、図1及び図3に示すモータ1の回転により発生する誘起電圧は、モータ1の永久磁石11aが発生する磁束及びモータ1の回転数に比例して増大するが、電源4からモータ1への通電に印加する電源電圧Vbatがモータ1の誘起電圧よりも高くなければ電流を流せずに制御不能となるので、誘起電圧が電源電圧Vbatを越えないように抑制する必要がある。勿論、電源4にバッテリを適用するなど電源電圧Vbatに変動が生じる場合には、電源電圧Vbatの変動を考慮して誘起電圧を抑制する必要がある。誘起電圧を抑制するために、図4(a)に示すように、電流指令ベクトルAのうちd軸電流成分Idにより生じる磁束φdで永久磁石により生じる磁束φMGの一部を相殺して、相殺後の磁束(φMG−φd)を相殺前の磁束φMGよりも低減させることにより誘起電圧を抑制する弱め磁束制御が一つの有効な手段として挙げられる。
この弱め磁束制御は、電流指令ベクトルAの向きを示す位相角を例えば図4(a)→図4(b)のようにβからβ’に変えると、誘起電圧を抑制する方向に作用する抑制電流成分であるd軸電流成分がId→I’dに変化(この例では増大)することを利用して、誘起電圧を抑制するに足りる抑制電流成分を確保するように位相角を制御するものであるが、上述のとおり位相角βの変化によって図5に示す出力トルクも変化するので、電流指令ベクトルの向きによっては、所望のトルクを得られても誘起電圧の抑制に足りる抑制電流成分を確保できないベクトルの向きや、逆に誘起電圧の抑制に足りる抑制電流成分を確保することができても所望のトルクを得ることができないベクトルの向きがあり、所望のトルクの発生と変動する電源電圧を越えないように誘起電圧を抑制するに足りる抑制電流成分の確保とを両立する必要がある。
さらに上記要求に加えて、効率が最大となるように電流指令ベクトルを生成することが望まれる。高効率化を追求するために、図5に示す出力トルクが最大となる位相角βを用いる最大トルク制御が一つの有効な手段として考えられる(特許文献1参照)。しかしながら、この最大トルク制御によって銅損を最小にしても効率が最大となるわけではなく、推定が難しい鉄損を始めとして、メカロス、FET損等も考慮しなければならないことが分かった。真に高効率化を追求するためには、これら全ての損失を含めたシステム全体での効率を考慮する必要がある。
そこで、本実施形態では、所望のトルクの発生と、変動する電源電圧を越えないように誘起電圧を抑制するに足りる抑制電流成分の確保とを両立する電流指令ベクトルを生成するために、図6(a)に模式的に示すように、実機を用いて或る回転数N1の下に所望のトルクT1を発生させる電流指令ベクトルA1を生成してモータを駆動し、この電流指令ベクトルA1による駆動時に電流指令ベクトルA1の向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧V1をパワーメータ等の検出値から測定(推定)する。なお、ここでは、或る回転数N1の下に所望のトルクT1を発生させる電流指令ベクトルは図6(a)の曲線Wで示すように多数存在するが、ここでは説明の簡略化のために一部のみを示している。そして、この測定を、図6(a)に示すように、回転数N1及びトルクT1を維持した状態で電流指令ベクトルの向き(位相角β)を異ならせて向きの異なる複数の電流指令ベクトル毎に誘起電圧を測定し、回転数とトルクと電流指令ベクトルに関する情報と抑制後の誘起電圧とを関連付けた誘起電圧情報を実測値に基づき予め設定し、この誘起電圧情報を図2に示すメモリMeに記憶する。この実測は、回転数やトルク、誘起電圧、電源電圧が定常状態又は定常状態とみなせる状態で行う。具体例としては、図6(a)に示すように、或る回転数N1の下、或るトルクT1を発生させる複数の電流指令ベクトルA1…A2…A3…A4は、各々のベクトルの向きを表す位相角がβ1…β2…β3…β4であり、各々の電流指令ベクトルによるモータの駆動時に実測した誘起電圧はV1…V2…V3…V4である。この場合、電流指令ベクトルに関する情報を位相角として簡易化すると、誘起電圧情報は、トルクT1と回転数N1と位相角βiと誘起電圧Viとを関連付けたテーブル等で示される。(i=1〜N。Nは実測したベクトルの数)
そして、図6に示す誘起電圧情報における電流指令ベクトルA1等を用いてモータの駆動の制御を行えば、モータに発生するであろう誘起電圧が当該電流指令ベクトルA1等に関連付けられた抑制後の誘起電圧V1等の値に抑制される。この事実を利用して、図1に示すように、モータ1の回転数Nrefを検出するレゾルバ等を用いた回転数検出部6と、電源4からモータ1に印加可能な電源電圧Vbatを検知する電圧検出部7とを設け、図2に示すように、誘起電圧情報において回転数検出部6で検出した回転数Nref及びトルク指令Trefに関連付けられた複数の電流指令ベクトルのうち、抑制された後の誘起電圧を電圧検出部7で検出される電源電圧Vbatよりも小さくする方向に抑制する電流指令ベクトルを決定する第1の電流指令ベクトル決定部2aを設け、決定した電流指令ベクトルを生成するように構成している。
さらに、効率が最大となる電流指令ベクトルを生成するために、図7(a)に示すように、上記誘起電圧情報を設定する場合と同様に、実機を用いて或る回転数N1の下に所望のトルクT1を発生させる電流指令ベクトルA1を生成してモータを駆動し、この電流指令ベクトルA1による駆動時の効率e1をパワーメータ等で実測する。この測定を、図7(a)に示すように、回転数N1及びトルクT1を維持した状態で電流指令ベクトルの向き(位相角β)を異ならせて向きの異なる複数の電流指令ベクトル毎に効率を測定し、測定値の中から効率が最大となる電流指令ベクトルに関する情報を回転数とトルクとに関連付けた効率情報を実測値に基づき予め設定し、この効率情報を図2に示すメモリMeに記憶する。この実測は、回転数やトルク、誘起電圧、電源電圧が定常状態又は定常状態とみなせる状態で行う。具体例としては、図7(a)に示すように、或る回転数N1の下、或るトルクT1を発生させる複数の電流指令ベクトルA1…A2…A3…A3…A4は、ベクトルの向きを表す位相角がそれぞれβ1…β2…β3…β4であり、各々の電流指令ベクトルによるモータの駆動時に実測した効率はe1…e2…e3…e4である。図7(b)に示すように、測定した値を近似した効率が最大となる電流指令ベクトルはA2(以下、Amaxともいう)であり、その位相角はβ2(以下、βmaxともいう)である。この場合、電流指令ベクトルに関する情報を位相角として簡易化すると、効率情報は、トルクT1と回転数N1と位相角βmaxとを関連付けたテーブル等で示される。
そして、図7に示す効率情報における電流指令ベクトルAmaxを用いてモータの駆動の制御を行えば、推測が困難な鉄損を始めとして銅損、メカロス、FET損等を含めたシステム全体での効率が最大となる。この事実を利用して、図2に示すように、効率情報において回転数検出部6で検出した回転数Nref及びトルク指令Trefに関連付けられた電流指令ベクトルを決定する第2の電流指令ベクトル決定部2bを設け、決定した電流指令ベクトルを生成可能に構成している。
これら第1及び第2の電流指令ベクトル決定部2a、2bを実現する電流指令生成部2の具体的な構成は、図2に示すように、誘起電圧が電源電圧を越えないように抑制するための電流指令ベクトルの向きを示す位相角βvを決定する電源電圧位相角算出ブロック21と、効率が最大となる電流指令ベクトルの向きを示す位相角βmaxを決定する効率電流位相角算出ブロック22と、これら双方のブロック21、22が決定したベクトルの向きβv、βmaxのうち抑制電流成分が大きい方のベクトルの向きを選択する選択部23と、選択部23が選択したベクトルの向きと外部から指示されたトルク指令Trefとに基づいて電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成する電流指令生成ブロック24とを有している。
電源電圧位相角算出ブロック21は、図2に示すように、上記の第1の電流指令ベクトル決定部2aを構成するものであり、上記の誘起電圧情報を内部のメモリMeに予め記憶しており、外部から指示されたトルク指令Trefと図1の回転数検出部6で検出した回転数Nrefと図1の電圧検出部7で検出した電源電圧Vbatとを入力して、誘起電圧情報における複数の電流指令ベクトルに関する情報のうち、入力値に関連付けられた電流指令ベクトルの向きを示す電源電圧補償位相角βvを出力する。また、図8(b)に示すように、誘起電圧情報において誘起電圧を電源電圧Vbatよりも小さくする方向に抑制する電流指令ベクトルは、例えばA3やA4など複数存在するが、これらのうち抑制電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトルA3を決定するように構成している。この入出力関係を簡単に下記に示す。
電源電圧補償位相角βv=fβv(トルクTref,回転数Nref,電源電圧Vbat)
電源電圧補償位相角βv=fβv(トルクTref,回転数Nref,電源電圧Vbat)
効率電流位相角算出ブロック22は、図2に示すように、上記の第2の電流指令ベクトル決定部2bを構成するものであり、上記の効率情報を内部のメモリMeに予め記憶しており、外部から指示されたトルク指令Trefと図1の回転数検出部6で検出した回転数Nrefとを入力して、効率情報における複数の電流指令ベクトルに関する情報のうち、入力値に関連付けられた電流指令ベクトルの向きを示す効率電流位相角βbaseを出力する。この入出力関係を簡単に下記に示す。
効率電流位相角βbase=fβbase(トルクTref,回転数Nref)
効率電流位相角βbase=fβbase(トルクTref,回転数Nref)
誘起電圧情報及び効率情報は、上述したとおり、電流指令ベクトルに関する情報を位相角βとして簡易化しているが、この位相角βに関連付けられる項目は、トルク、回転数等と多岐に亘り、これらトルク、回転数及び位相角の値は複数あるので、実測値が膨大となる。そこで、電流指令ベクトルに関する情報を離散データとして予め図2に示すメモリMeに記憶しておき、離散データから条件に合致する位相角βを演算により補間して求めるように構成している。
この演算の一例として、離散データから直線補間で位相角βを演算により求めることが挙げられる。具体的には、図6(b)に示すように、電源電圧値Vbat、トルク指令Tref及び回転数Nrefに関連付けられた電源電圧補償位相角βvを離散データから算出するにあたり、トルクTrefの前後値であるトルクT1、T2及び回転数Nrefの前後値である回転数N1、N2を取得する。ここでは、入出力関係を「出力=f(入力)」として簡易に示す。
前後値であるトルクT1、T2=fT_table(トルクTref)
前後値である回転数N1、N2=fN_table(回転数Nref)
次に、取得した前後値であるトルクT1、T2及び回転数N1、N2の四つ組合せ{T1,N1}、{T1,N2}、{T2,N1}、{T2,N2}に関連付けられた電源電圧補償位相角βv11、βv12、βv21、βv22をそれぞれ誘起電圧情報テーブルから取得する。
電源電圧補償位相角βv11=fβv_table(T1,N1)
電源電圧補償位相角βv12=fβv_table(T1,N2)
電源電圧補償位相角βv21=fβv_table(T2,N1)
電源電圧補償位相角βv22=fβv_table(T2,N2)
続けて、取得した電源電圧補償位相角βv11、βv12、βv21、βv22からβvを直線補間で求めるための補間係数X11、X12、X21、X22をトルクTref、T1、T2及び回転数Nref、N1、N2に基づいて算出する。
補間係数X11=fx11(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
補間係数X12=fx12(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
補間係数X21=fx21(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
補間係数X22=fx22(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
そして、補間係数X11、X12、X21、X22及び電源電圧補償位相角βv11、βv12、βv21、βv22から電源電圧補償位相角βvを算出する。
電源電圧補償位相角βv=βv11×X11+βv12×X12+βv21×X21+βv22×X22
なお、本実施形態では直線補間を用いているが、演算方法は直線補間に限定されるものではない。
前後値であるトルクT1、T2=fT_table(トルクTref)
前後値である回転数N1、N2=fN_table(回転数Nref)
次に、取得した前後値であるトルクT1、T2及び回転数N1、N2の四つ組合せ{T1,N1}、{T1,N2}、{T2,N1}、{T2,N2}に関連付けられた電源電圧補償位相角βv11、βv12、βv21、βv22をそれぞれ誘起電圧情報テーブルから取得する。
電源電圧補償位相角βv11=fβv_table(T1,N1)
電源電圧補償位相角βv12=fβv_table(T1,N2)
電源電圧補償位相角βv21=fβv_table(T2,N1)
電源電圧補償位相角βv22=fβv_table(T2,N2)
続けて、取得した電源電圧補償位相角βv11、βv12、βv21、βv22からβvを直線補間で求めるための補間係数X11、X12、X21、X22をトルクTref、T1、T2及び回転数Nref、N1、N2に基づいて算出する。
補間係数X11=fx11(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
補間係数X12=fx12(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
補間係数X21=fx21(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
補間係数X22=fx22(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
そして、補間係数X11、X12、X21、X22及び電源電圧補償位相角βv11、βv12、βv21、βv22から電源電圧補償位相角βvを算出する。
電源電圧補償位相角βv=βv11×X11+βv12×X12+βv21×X21+βv22×X22
なお、本実施形態では直線補間を用いているが、演算方法は直線補間に限定されるものではない。
図2の選択部23は、図4に示すように、電流指令ベクトルの向きを示す位相角βが電流指令ベクトルとq軸とのなす角度であり、0〜90度範囲において位相角βが大きくなるほど抑制電流成分が増大することを利用して、図2に示す電源電圧位相角算出ブロック21で決定された電源電圧補償位相角βvと、効率電流位相角算出ブロック22で決定された効率電流位相角βbaseとを比較して、大きい方(抑制電流成分が大きい方)を選択し、選択した位相角を電流位相指令βrefとして電流指令生成ブロック24に入力する。
電流指令生成ブロック24は、図2に示すように、選択部23から入力された電流位相指令βrefが示すベクトルの方向を向き且つ外部から指示されたトルク指令Trefに応じたトルクを発生させる電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成する。具体的には、モータの極対数q及び誘起電圧定数Keが既知であることから下記のような関数より磁束φを算出し、算出した磁束φ、既知のd軸のインダクタンスLd、q軸のインダクタンスLqを用いて下記のような関数から電流指令ベクトルAの大きさ|A|を算出する。
磁束φ=fφ(Ke,q)
電流指令ベクトルAの大きさ|A|=fA(Tref,βref,q,Ld,Lq,φ)
電流指令ベクトルAの大きさ|A|が求まると、ベクトルAの位相角βrefは既知であることから、下記のような関数を用いてd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを算出する。
d軸電流指令Id=|A|×sinβref
q軸電流指令Iq=|A|×cosβref
磁束φ=fφ(Ke,q)
電流指令ベクトルAの大きさ|A|=fA(Tref,βref,q,Ld,Lq,φ)
電流指令ベクトルAの大きさ|A|が求まると、ベクトルAの位相角βrefは既知であることから、下記のような関数を用いてd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを算出する。
d軸電流指令Id=|A|×sinβref
q軸電流指令Iq=|A|×cosβref
上記のように構成したモータ制御装置の動作を説明する。モータ1が或る一定の回転数N1で高速回転しており、或るトルクT1を出力する状態で、電源電圧が十分に高い場合と、経年劣化等により電源電圧が低い場合とで、各々の電流指令ベクトル決定部2a、2bで決定される電流指令ベクトルを図8(a)及び図8(b)に示す。なお、ここでは簡略化のため複数の電流指令ベクトルのうちの一部のベクトルのみを示し、誘起電圧を電源電圧よりも小さく抑制する範囲を斜線で示す。
電源電圧Vbatが十分に高い場合は、図8(a)に示すように、図2の効率電流位相角算出ブロック22は、最も効率の高い電流指令ベクトルがAmax(位相角βmax)であると決定する。また、図2の電源電圧位相角算出ブロック21は、発生するであろう誘起電圧を電源電圧Vbatよりも小さくなる方向へ抑制するための電流指令ベクトルがA1、Amax(A2)、A3、A4であり、これらのうち最も抑制電流成分が小さくなる(位相角βが小さくなる)電流指令ベクトルがA1(位相角β1)あると決定する。そして、図2の選択部23は、効率電流位相角βmaxの方が電源電圧補償位相角β1よりも大きいので、効率電流位相角βmaxを選択し、このβmaxに対応する電流指令ベクトルAmaxでモータの駆動を制御することになる。
一方、電源電圧Vbatが低い場合は、図8(b)に示すように、図2の効率電流位相角算出ブロック22は、最も効率の高い電流指令ベクトルがAmax(位相角βmax)であると決定する。また、図2の電源電圧位相角算出ブロック21は、発生するであろう誘起電圧を電源電圧Vbatよりも小さくなる方向へ抑制するための電流指令ベクトルがA3、A4であり、これらのうち最も抑制電流成分が小さくなる(位相角βが小さくなる)電流指令ベクトルがA3(位相角β3)あると決定する。そして、図2の選択部23は、電源電圧補償位相角β3の方が効率電流位相角βmaxよりも大きいので、電源電圧補償位相角β3を選択し、このβ3に対応する電流指令ベクトルA3でモータの駆動を制御することになる。
このように、モータの回転数(又は速度)及び電源電圧を検出し、検出した回転数の下にトルク指令に応じたトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルA1…Amax…A3…A4…のうち、効率が最大となる電流指令ベクトルAmaxと、誘起電圧を検出した電源電圧よりも小さくなるように抑制するための電流指令ベクトルとをそれぞれ求め、誘起電圧を抑制する範囲内(図8中の斜線部分)に効率が最大となる電流指令ベクトルAmaxがある場合には、電流指令ベクトルAmaxを用いて効率が最大となる制御を行い、誘起電圧を抑制する範囲内(図8中の斜線部分)に効率が最大となる電流指令ベクトルAmaxがない場合には、誘起電圧を適切に抑制する制御を実施する。
ところが、上記の構成は、制御系が定常状態であるときの実測値に基づき設定された誘起電圧情報及び効率情報を用いてトルク指令に関連づけられた電流指令ベクトルを生成し、この電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御する定常制御モードでの制御を行うものであるので、制御系が定常状態であることを条件(前提)としており、定常状態においては誘起電圧を有効に抑制するものの、定常状態ではない過渡状態であるとき、すなわち誘起電圧又は電源電圧が如何なる要因で変動するか分からない状態においても誘起電圧を有効に抑制する保証はない。そのため、未知なる誘起電圧や電源電圧の変動によって制御系が不安定になることや電源電圧を誘起電圧が越えて制御破綻に至るおそれがある。具体例を挙げて説明すると、定常状態では、誘起電圧を抑制する範囲が図8(b)に示す斜線範囲であることを実測値により特定しており、この範囲内にある電流指令ベクトルA3によって制御を行うものである。この場合、非定常状態では、誘起電圧や電源電圧の未知なる変動によって誘起電圧を抑制する範囲が図8(b)に示す斜線範囲よりも狭くなり、その結果、電流指令ベクトルA3が斜線範囲外となって、誘起電圧を適正に抑制できず、制御の不安定や制御破綻に至る場合がある。
さらに、上記弱め磁束制御では誘起電圧又は電源電圧が多少変動したとしても電源電圧を誘起電圧が越えないように所定の電圧余裕度を設定することが一般的である。この場合、制御系が定常状態でない過渡状態(非定常状態)では誘起電圧や電源電圧の変動が未知であることから、電圧余裕度を未知の変動分を見越して大きく設定する必要が生じるので、定常状態において必要以上の電圧余裕度を設定して過度な抑制電流成分を作用させることになり、効率を追求するうえでの障害となる。
そこで、このような不具合を解決すべく、本実施形態では、図2に示すように、誘起電圧又は電源電圧の変動に対応する変動情報を検出し、検出した変動情報に基づき定常状態であるか否かを判定する判定部8と、トルク指令Trefに応じて生成する電流指令ベクトルを抑制電流成分(d軸電流成分Id)が増大する方向に補正する補正部9とを更に設け、判定部8において定常状態でないと判定した場合に、補正部9により補正された後の電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御する非定常制御モードに移行するように構成している。
具体的構成として、図2に示すように、判定部8は、誘起電圧又は電源電圧Vbatの変動に対応する変動情報として電源電圧Vbatとモータ1の回転数Nrefとトルク指令Trefとを取得するように構成されている。変動情報は、誘起電圧や電源電圧の変動に対応する情報であり、例えば誘起電圧や電源電圧の値自体や、誘起電圧又は電源電圧の少なくともいずれか一方の変動の原因となり得る要素を示す情報である。誘起電圧の変動の原因となり得る要素としては、例えば、モータの回転数や回転速度、回転角度等が挙げられ、電源電圧の変動の原因となり得る要素としては、トルク指令等が挙げられる。なお、本実施形態ではモータの回転数を取得しているが、モータの回転速度を取得するように構成してもよい。
また、判定部8は、下記の三つの条件のうちいずれかの条件が成立した場合に制御系が定常状態ではないと判定するように構成されている。一つ目の条件は、変動情報として取得した電源電圧の値若しくは電源電圧の単位時間あたりの変動量が所定の閾値を越えることであり、二つ目の条件は、変動情報として取得したモータの回転数(又は回転速度)の単位時間あたりの変動量が所定の閾値を越えることであり、三つ目の条件は、変動情報として取得したトルク指令の単位時間あたりの変動量が所定の閾値を越えることである。なお、本実施形態では、電源電圧Vbatとモータ1の回転数Nrefとトルク指令Trefとを参照しているが、これらを全て参照する必要はなく、少なくとも一つを参照するように構成してもよい。
補正部9は、上記判定部8により制御系が定常状態ではないと判定された場合にのみ、選択部23で選択された位相角βに予め設定された補正量βofsを加算器9aで加算してβrefとすることで、生成する電流指令ベクトルを抑制電流成分(d軸電流成分Id)が増大する方向に補正する。
すなわち、図9に示すように、回転数Nref又はトルク指令Trefが変動する場合、期間S1、S3、S5では、回転数Nref又はトルク指令Trefの単位時間あたりの変動量が所定の閾値th1を越えず大きくならないので、制御系が定常状態であると判定され、図2の選択部23で選択された位相角に加算する補正量βofsが0とされ、抑制電流成分たるd軸電流成分Idが増大する方向への補正が行われない。一方で、期間S2、S4では、回転数Nref又はトルク指令Trefの単位時間あたりの変動量が所定の閾値th1を越えて大きくなるので、制御系が定常状態でないと判定され、図2の選択部23で選択された位相角に加算する補正量βofsが予め設定された固定値とされ、抑制電流成分たるd軸電流成分Idが増大する方向への補正が行われ、定常状態での誘起電圧の抑制量よりも非定常状態での誘起電圧の抑制量が多くなる。勿論、期間S2→S3又は期間S4→S5に移行した場合は、非定常制御モードから定常制御モードに制御を戻すが、この場合、非定常制御モードから定常制御モードに戻すための復帰閾値を上記所定の閾値th1よりも高い値に設定してヒステリシス性を持たせるように構成すると、定常制御モードと非定常制御モードとの切り換えが頻発するチャタリングを防止するうえで好ましい。
同様に、図10に示すように、電源電圧Vbatが変動する場合、期間S6、S8では、電源電圧Vbatの値が所定の閾値th2を越えて小さくならないので、制御系が定常状態であると判定され、図2の選択部23で選択された位相角に加算する補正量βofsが0とされ、抑制電流成分たるd軸電流成分Idが増大する方向への補正が行われない。一方で、期間S7では、電源電圧Vbatの値が所定の閾値th2を越えて小さくなるので、制御系が定常状態でないと判定され、図2の選択部23で選択された位相角に加算する補正量βofsが予め設定された固定値とされ、抑制電流成分たるd軸電流成分Idが増大する方向への補正が行われ、定常状態での誘起電圧の抑制量よりも非定常状態での誘起電圧の抑制量が多くなる。勿論、期間S7→S8に移行した場合は、非定常制御モードから定常制御モードに制御を戻すが、この場合、非定常制御モードから定常制御モードに戻すための復帰閾値を上記所定の閾値th2よりも低い値に設定してヒステリシス性を持たせるように構成すると、定常制御モードと非定常制御モードとの切り換えが頻発するチャタリングを防止するうえで好ましい。
このように、非定常状態では、誘起電圧又は電源電圧の未知なる変動によって図8(b)で斜線として示す誘起電圧を抑制する範囲が小さくなる可能性があるので、誘起電圧を抑制する範囲に収まるように電流指令ベクトルAの向きを変更する補正(位相βを大きくする)を行う一方で、非定常状態から定常状態に戻ったときは、この補正を停止するものである。
以上のように、本実施形態のモータ制御装置は、回転により誘起電圧が発生するモータ1に対し、誘起電圧を抑える方向に作用する抑制電流成分(d軸電流成分Id)がベクトルの向きに応じて変化する電流指令ベクトルAのうち制御系が定常状態にあることを条件にモータ1に印加可能な電源電圧Vbatを誘起電圧が越えないようにトルクT1に応じて関連づけられた電流指令ベクトルAをトルク指令に応じて生成し、この電流指令ベクトルAに対応する電流を電源4からモータ1に通電することによりモータ1の駆動を制御する定常制御モードを具備する装置であって、誘起電圧又は電源電圧Vbatの変動に対応する変動情報を検出し、検出した変動情報に基づき定常状態であるか否かを判定する判定部8と、トルク指令Trefに応じて生成する電流指令ベクトルAを抑制電流成分(d軸電流成分Id)が増大する方向に補正する補正部9とを更に設け、判定部8において定常状態でないと判定した場合に、補正部9により補正された後の電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御する非定常制御モードに移行するように構成している。
このように、制御系が定常状態にある場合は、トルク指令Trefに関連付けられた電流指令ベクトルAの向きに応じた抑制電流成分(d軸電流成分Id)によって誘起電圧をモータ1に印加可能な電源電圧Vbatを越えないように適切に抑制する定常制御モードでの制御が実行される。一方で、制御系が定常状態にない場合には、定常状態にないことを誘起電圧又は電源電圧Vbatの変動に対応する変動情報に基づいて判定して非定常制御モードに移行し、電流指令ベクトルAを抑制電流成分(d軸電流成分Id)が増大する方向に補正することで定常制御モードでの制御に比べて誘起電圧の抑制量を増大させるので、制御系が定常状態でない非定常状態に移行した場合でも誘起電圧や電源電圧の未知なる変動によって制御系が不安定になることや電源電圧を誘起電圧が越えて制御破綻となることを防止することが可能となる。しかも、制御系が非定常状態に移行した場合に定常制御モードでの制御に比べて誘起電圧の抑制量が増大するので、非定常状態における未知なる電圧変動分を見越して電圧余裕度を大きく設定する必要がなくなり、電圧余裕度の設定値を低減させることが可能となり、効率を追求するうえで有用となる。
さらに、本実施形態では、判定部8が、変動情報として電源電圧Vbatを取得し、取得した電源電圧Vbatの値が所定の閾値th2を越えた場合に制御系が定常状態でないと判定するので、電源電圧Vbatの変動を直接捉えて制御系が定常状態であるか否かを直接的且つ的確に判定することが可能となる。特にモータ1以外の電装品等の負荷が電源4に対して並列に接続されている場合は、この負荷の電力消費が電源電圧Vbatの変動を招くので、かかる構成に適用すると有用である。
さらにまた、本実施形態では、モータ1の回転数や回転速度の増大に伴い誘起電圧が大きくなる等、回転数や回転速度の変化に応じて誘起電圧が変動することに着目して、判定部8が、変動情報としてモータ1の回転数Nrefを取得し、取得値の単位時間あたりの変化量が所定の閾値th1を越えた場合に制御系が定常状態でないと判定するので、誘起電圧の変動を間接的に捉えて制御系が定常状態であるか否かを適切に判定することが可能となる。
加えて、本実施形態では、発生させるトルクの増大に伴い消費電力が増大して電源電圧が低下する等、トルク指令Trefの変化に応じて電源電圧が変動することに着目して、判定部8が、変動情報としてトルク指令Trefを取得し、取得したトルク指令Trefの単位時間あたりの変化量が所定の閾値th1を越えた場合に制御系が定常状態でないと判定するので、電源電圧の変動を間接的に捉えて制御系が定常状態であるか否かを適切に判定することが可能となる。
その他、本実施形態では、補正部9が、予め定められた一定の補正量を用いて電流指令ベクトルを補正するので、簡素な構成で且つ効果的に電流指令ベクトルの抑制電流成分を増大させることが可能となる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
例えば、本実施形態では、変動情報を表す値(トルク指令Tref、回転数Nref、電源電圧Vbat)が所定の閾値th1、th2を越えた場合に制御系が定常状態でないと判定し、定常状態でない場合に一定の補正量を用いて電流指令ベクトルを補正するように構成しているが、図11及び図12に示すように、変動情報を表す値(トルク指令Tref、回転数Nref、電源電圧Vbat)と所定の閾値th1、th2との偏差に応じた補正量を用いて電流指令ベクトルを補正するように構成してもよい。このように構成すると、誘起電圧又電源電圧の変動に合わせて電流指令ベクトルの抑制電流成分を増大させることが可能となる。
さらに、本実施形態では、判定部8をモータ制御装置に設けているが、判定部8を外部の上位コントローラに設け、補正部9をこの上位コントローラからの指令に応じて電流指令ベクトルAを補正するように構成したモータ制御システムとすることも挙げられる。
加えて、本実施形態では、第1及び第2の電流指令ベクトル決定部を、位相角βを決定する各々の算出ブロック21、22としているが、効率情報及び誘起電圧情報の構成によっては電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを直接求めるように構成してもよい。また、効率情報や誘起電圧情報を記憶するメモリMeに余裕があれば、実測値をそのまま記憶して、回転数等の条件に関連付けられた実測値をそのまま用いるように構成してもよい。さらに、本実施形態では、効率情報や誘起電圧情報を示す離散データから演算により補間して近似値を求めるように構成しているが、この演算を行わずに回転数等の条件に関連付けられた離散値を用いるように構成してもよい。このように構成すると、ある程度の誤差を含むものの有効な値を得ることが可能である。また、効率を重視しない装置に適用する場合は、第2の電流指令ベクトル決定部2bである効率電流位相角算出ブロック22を省略するとよい。
本発明のモータ駆動装置は、本発明を適用できるモータであればIPMモータに限られず、また、種々の機器に適用可能であり、特に高トルク出力を必要としバッテリを電源とするフォークリフトや電動乗用車等の電動車両の駆動装置としての用途に適しており、これらに適用すると、高信頼度を得るとともに高効率化による稼働時間の向上やバッテリの簡素化による車両の軽量化などを追求するうえで有用である。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
1…モータ
4…電源
8…判定部
9…補正部
A1、A2、A3、A4…電流指令ベクトル
Id…抑制電流成分(d軸電流成分)
Tref…トルク指令
Nref…回転数
Vbat…電源電圧
βofs…補正量
4…電源
8…判定部
9…補正部
A1、A2、A3、A4…電流指令ベクトル
Id…抑制電流成分(d軸電流成分)
Tref…トルク指令
Nref…回転数
Vbat…電源電圧
βofs…補正量
Claims (6)
- 回転により誘起電圧が発生するモータに対し、前記誘起電圧を抑える方向に作用する抑制電流成分がベクトルの向きに応じて変化する電流指令ベクトルのうち制御系が定常状態にあることを条件にモータに印加可能な電源電圧を前記誘起電圧が越えないようにトルクに応じて関連づけられた電流指令ベクトルをトルク指令に応じて生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源から前記モータに通電することにより当該モータの駆動を制御する定常制御モードを具備するモータ制御装置であって、
前記誘起電圧又は前記電源電圧の変動に対応する変動情報を検出し、検出した変動情報に基づき定常状態であるか否かを判定する判定部と、
前記トルク指令に応じて生成する電流指令ベクトルを前記抑制電流成分が増大する方向に補正する補正部とを更に設け、
前記判定部において定常状態でないと判定した場合に、前記補正部により補正された後の電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御する非定常制御モードに移行するように構成したことを特徴とするモータ制御装置。 - 前記判定部は、前記変動情報として前記電源電圧を取得し、取得した電源電圧の値又は当該電源電圧の単位時間あたりの変化量が所定の閾値を越えた場合に前記制御系が定常状態でないと判定する請求項1に記載のモータ制御装置。
- 前記判定部は、前記変動情報として前記モータの回転数又は回転速度を取得し、取得値の単位時間あたりの変化量が所定の閾値を越えた場合に前記制御系が定常状態でないと判定する請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
- 前記判定部は、前記変動情報として前記トルク指令を取得し、取得したトルク指令の単位時間あたりの変化量が所定の閾値を越えた場合に前記制御系が定常状態でないと判定する請求項1〜3のいずれかに記載のモータ制御装置。
- 前記補正部は、予め定められた一定の補正量を用いて前記電流指令ベクトルを補正する請求項1〜4のいずれかに記載のモータ制御装置。
- 前記判定部は、前記変動情報を表す値が所定の閾値を越えた場合に前記制御系が定常状態でないと判定するものであり、
前記補正部は、前記変動情報を表す値と前記所定の閾値との偏差に応じた補正量を用いて前記電流指令ベクトルを補正する請求項1〜4のいずれかに記載のモータ制御装置。
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