圧縮されたビデオビットストリームが無線ネットワークなどのエラーの可能性のある通信チャネルを介し配信されるとき、ビットストリームのある部分が損傷又は欠落するかもしれない。このような誤りのあるビットストリームが受信機に到達し、ビデオデコーダにより復号化されると、再生品質は大きな影響を受けうる。ソースエラー耐性符号化は、この問題に対処するのに用いられる技術である。
ビデオブロードキャスト/マルチキャストシステムでは、1つの圧縮ビデオビットストリームは、通常はセッションとしばしば呼ばれる指定された期間において一斉にユーザグループに配信される。ビデオ符号化の予測性質のため、ビットストリームへのランダムアクセスは、ビットストリーム内のランダムアクセスポイントにおいてのみ利用可能であり、これにより、正確な復号化はこれらのランダムアクセスポイントからのみ可能となる。ランダムアクセスポイントは一般に低い圧縮効率しか有しないため、ビットストリーム内には限られた個数のポイントしかない。この結果、ユーザが自らの受信機をチャネルにチューニングし、セッションに加わるとき、ユーザは正確な復号化を開始させるため、受信したビットストリームの次に利用可能なランダムアクセスポイントを待機する必要があり、これはビデオコンテンツの再生の遅延を生じさせる。このような遅延は、チューンイン遅延(tune−in delay)と呼ばれ、システムのユーザ体感に影響を与える重要なファクタである。
ビデオ配信システムでは、複数の圧縮ビデオビットストリームがしばしば、各ビデオビットストリームがプログラムチャネルに対応する共通の伝送媒体を共有するエンドユーザに配信される。前のケースと同様に、ユーザがあるチャネルから他のチャネルにスイッチするとき、ユーザは復号化を正確に開始するため、チャネルから受信したビットストリームの次に利用可能なランダムアクセスポイントを待機する必要がある。このような遅延は、チャネル変更遅延と呼ばれ、システムのユーザ体感に影響を与える他の重要なファクタとなる。
挿入されたランダムアクセスポイントの効果は、ビデオ符号化の観点から圧縮ビデオビットストリームのエラー耐性を向上させることである。例えば、ビットストリームに挿入されるランダムアクセスポイントは、定期的にデコーダをリセットし、エラーの伝搬を完全に中断させ、エラーに対するビットストリームのロウバスト性を向上させる。
例えば、H.264/AVCビデオ圧縮規格(例えば、ITU−T Recommendation H.264:“Advanced video coding for generic audiovisual services”,ISO/IEC 14496−10(2005):“Information Technology−Coding of audio−visual objects Part 10:Advanced Video Coding”などを参照されたい)を考えると、ランダムアクセスポイント(スイッチ可能ポイントととも呼ばれる)は、IDR(Instantaneous Decoder Refresh)スライス、イントラ符号化マクロブロック(MB)及びSI(Switching I)スライスを含む符号化方法により実現可能である。
IDRスライスに関して、IDRスライスは、正確な復号化のため何れの前のスライスに依存しないイントラ符号化MBのみを含む。IDRスライスはまた、以降のスライスの復号化がIDRスライス前の何れのスライスからも独立なものとなるように、デコーダにおける復号化ピクチャバッファをリセットする。正確な復号化がIDRスライスの後にすぐに利用可能となるため、それはまた瞬時ランダムアクセスポイントと呼ばれる。他方、段階的なランダムアクセス処理がイントラ符号化MBに基づき実現可能である。いくつかの連続する予測ピクチャについて、これらのピクチャを復号化した後、以降のピクチャの各MBはピクチャの1つにおいてイントラ符号化された同一位置にある対応するものを有するように、系統的に符号化される。従って、ピクチャの復号化はピクチャセットの前の他の何れのスライスにも依存しない。同様に、SIスライスは、このタイプの特別に符号化されたスライスをビットストリームに埋め込むことによって、異なるビットストリームの間のスイッチを可能にする。残念なことに、H.264/AVCでは、IDRスライス又はSIスライスの共通の欠点は、それらが他のタイプの圧縮ピクチャより大きいため、符号化効率がないことである。通常、かなりの量のビットレートオーバヘッドがスイッチポイントの埋め込みに費やされる必要がある。
同様に、ランダムアクセスポイントはまた、SVC(Scalable Video Coding)において利用される。SVCでは、依存性の表現はいくつかのレイヤ表現から構成され、アクセスユニットは、1つのフレームに対応するすべての依存性表現から構成される(例えば、Y−K.Wang,M.Hannuksela,S.Pateux,A.Eleftheriadis,and S.Wenger,“System and transport interface of SVC”,IEEE Trans.Circuits and Systems for Video Technology,vol.17,no.9,Sept 2007,っp。1149−1163;and H.Schwarz,D.Marpe and T.Wiegand,“Overview of the scalable video coding extension of the H.264/AVC standard”、IEEE Trans.Circuits and Systems for Video Technology,vol.17,no.9,Sept 2007,pp.1103−1120などを参照されたい)。
ランダムアクセスポイントを埋め込むためのSVCの一般的な方法は、IDRスライスを用いてアクセスユニット全体を符号化することである。特に、上位レイヤ表現(より大きなdependency_id値を有するレイヤ表現)がIDRピクチャにおいて符号化されるとき、すべての下位レイヤ表現(より小さなdependency_id値を有するレイヤ表現)がまたIDRピクチャに符号化される。これは、下位レイヤ表現がIDRピクチャに符号化されるとき、上位レイヤ表現は、それがIDRピクチャ自体に符号化される際により良いレイヤ間予測を利用可能である可能性があるためである。図1において、一例が示される。図1のSVC符号化信号は、2つの依存性表現を有し、各依存性表現は1つのレイヤ表現を有する。特に、ベースレイヤはD=0と関連付けされ、エンハンスレイヤはD=1と関連付けされる(Dの値はまた“dependency_id”とも呼ばれる)。図1は、SVC信号のフレームに発生する9つのアクセスユニットを示す。破線のボックスにより示されるように、アクセスユニット1は、第1レイヤ(D=1)のIDRスライスと、ベースレイヤ(D=0)のIDRスライスとを有する。次のアクセスユニットは2つの予測(P)スライスを有する。図1から、アクセスユニット1,5,9のみがIDRスライスを有していることが観察できる。また、これらのアクセスユニットにおいてランダムアクセスが実行可能である。しかしながら、H.264/AVCのケースと同様に、IDRスライスにより符号化される各アクセスユニットは、IDRスライスが他のタイプの圧縮ピクチャより通常は大きいため、SVC符号化の効率を減少させる。
発明のコンセプト以外の図面に示される要素は周知であり、詳細には説明されない。例えば、発明のコンセプト以外では、DMT(Discrete Multitone)送信(OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)又はCOFDM(Coded Orthogonal Frequency Division Multiplexing)とも呼ばれる)への精通が仮定され、ここでは説明されない。また、テレビ放送、受信機及びビデオ符号化への精通が仮定され、ここでは詳細には説明されない。例えば、発明のコンセプト以外では、NTSC(National Television Systems Committee)、PAL(Phase Alternation Lines)、SECAM(SEquential Couleur Avec Memoire)、ATSC(Advanced Television Systems Committee)、Chinese Digital Television Syste,(GB)20600−2006、DVB−Hなどのテレビ規格の現在及び提案された勧告への精通が仮定される。同様に、発明のコンセプト以外では、8レベル残留側波帯(8−VSB)、QAM(Quadrature Amplitude Modulation)などの他の伝送コンセプトと、無線周波数(RF)フロントエンド(低ノイズブロック、チューナ、ダウンコンバータなど)、復調装置、相関装置、リークインテグレータ、スクエアラなどの受信コンポーネントとが仮定される。さらに、発明のコンセプト以外では、FLUTE(File Delivery over Unidirectional Transport)プロトコル、ALC(Asynchronous Layered Coding)プロトコル、IP(Internet Protocol)及びIPE(Internet Protocol Encapsulator)などのプロトコルへの精通が仮定され、ここでは説明されない。同様に、発明のコンセプト以外では、トランスポートビットストリームを生成するためのフォーマット化及び符号化方法(MPEG(Moving Picture Expert Group)−2システム規格(ISO/IEC13818−1)や上述したSVCなど)が周知であり、ここでは説明されない。また、発明のコンセプトはここでは説明されない従来のプログラミング技術を用いて実現されてもよいことが留意されるべきである。最後に、図面の同様の番号は同様の要素を表す。
上述されるように、受信機がまずオンされるか、チャネル変更中か、又は同一チャネルなでサービスが変更される場合であっても、受信機は受信データを処理可能になるまで要求される初期化データをさらに待機しなければならないかもしれない。この結果、ユーザは、サービス又はプログラムにアクセス可能となるまでにさらなる時間を待機する必要がある。ここで説明されるように、“チャネル変更”、“チューンイン”、“サービス変更”という用語は、それらがすべて新たなプログラムへのスイッチを表しているため、等価である。
SVCでは、SVC信号はいくつかの従属(空間)レイヤを含みうるものであり、各従属レイヤは、同一のdependency_id値を有するSVC信号の1以上の時間的及び/又は品質スケーラブルレイヤから構成されるものであってもよい。ベースレイヤ(dependency_id=0)は、ビデオ信号の最小レベルの解像度を表す。他のレイヤ(dependency_id>0)は、ビデオ信号の増加する解像度のレイヤを表す。例えば、SVC信号が3つのレイヤから構成される場合、ベースレイヤと、レイヤ1と、レイヤ2とが存在する。各レイヤは、異なるdependency_id値と関連付けされる。受信機は、(a)ベースレイヤのみを処理する、(b)ベースレイヤとレイヤ1とを処理する、又は(c)ベースレイヤとレイヤ1とレイヤ2とを処理することが可能である。例えば、SVC信号は、ベース信号の解像度のみをサポートする装置により受信することが可能であり、このタイプの装置は受信したSVC信号のその他のレイヤを単に無視することができる。他方、最大解像度をサポートする装置については、このタイプの装置は、受信したSVC信号の3つすべてのレイヤを処理可能である。
SVCでは、IDRピクチャの符号化は各レイヤについて独立して実行される。また、本発明の原理によると、ビデオ信号を送信する方法は、チャネル変更レイヤなどのスケーラブルビデオ符号化(SVC)信号の第1スケーラブルレイヤを選択し、SVC信号の少なくとも一部について、第1スケーラブルレイヤのランダムアクセスポイントと第2スケーラブルレイヤのランダムアクセスポイントとが異なるアクセスユニットにおいて出現するようにSVC信号を提供するためにビデオ信号をスケーラブルビデオ符号化し、SVC信号を送信することからなり、第1スケーラブルレイヤはSVC信号の第2スケーラブルレイヤの関連するdependency_id値未満の関連するdependency_id値を有する。この結果、ビデオエンコーダは、追加的なスイッチ可能ポイントを圧縮ビデオビットストリームに埋め込むことによって受信機におけるチューンイン遅延(tune−in delay)とチャネル変更遅延(channel−change delay)とを低減し、さらに全体的なビットレートを低減可能である。
本発明の例示的な実施例では、SVC信号はベースレイヤとエンハンスメントレイヤとを有し、ベースレイヤは、IDRスライスなどのエンハンスメントレイヤより多くなランダムアクセスポイントを有するものとして選ばれ、エンハンスメントレイヤがIDRスライスを有するアクセスユニットでは、ベースレイヤは非IDRスライスを有する。発明のコンセプトが2つのレイヤに関して説明されるが、発明のコンセプトはこれに限定されず、2より多くのスケーラブルレイヤが存在してもよい。
発明のコンセプトを説明する前に、図2において、チューンイン遅延とチャネル変更遅延を低減するためのスケーラブルビデオエンコーダで用いられるフローチャートが示される。ステップ105において、スケーラブルビデオエンコーダは、ビデオ信号をベースレイヤと少なくとも1つの他のレイヤと空なるSVC信号に符号化する。特に、ステップ110において、スケーラブルビデオエンコーダは、IDRスライスが結果として得られるSVC信号の他の何れのレイヤより高い頻度でベースレイヤに挿入されるように、ビデオ信号を符号化する。例えば、スケーラブルビデオエンコーダは、既存の符号化パターンIBBP又はIPPPに類似する符号化パラメータに対して、当該符号化パラメータが異なる空間レイヤの異なるIDRインターバルを規定するように応答する。最後に、ステップ115において、SVC信号が送信される。
図3を参照して、図2のフローチャートのステップを実行するSVCエンコーダにより形成される例示的なSVC信号111が示される。本例では、SVC信号111は、ベースレイヤ(D=0)とエンハンスメントレイヤ(D=1)とを有する。図3から観察できるように、ベースレイヤはアクセスユニット1,4,7,9においてIDRスライスを有し、エンハンスメントレイヤはアクセスユニット1,9においてしかIDRスライスを有さない。また、受信機が矢印301により示されるように時間TcにおいてSVC信号111を伝送するチャネルに変更(又はまず調整)すると、受信機は、SVC信号111のベースレイヤの復号化を開始し、低減された解像度のビデオピクチャを提供することが可能となるまで矢印302により示されるように時間Twを待機するだけでよい。ユーザに。従って、受信機は、ベースレイヤビデオ符号化信号を即座に復号化することによって、チューンイン遅延とチャネル変更遅延とを低減することが可能となり、より多くのランダムアクセスポイントを有することになる。図3からさらに観察できるように、受信機は、エンハンスメントレイヤを復号化し、より高い解像度のビデオピクチャをユーザに提供することが可能となるまで、矢印303により示される時間TDを待機する必要がある。
両方のレイヤが同一のIDR周波数を有する図1に示される例と比較すると、図2の方法は、限定的なパフォーマンスロスによるより低いビットレートであるが、同じ機能性の向上を実現する能力を提供する。これは、ベースレイヤがビットストリームのトータルビットレートの少ない部分しか占めないときに特に真となる。例えば、ベースレイヤ(D=0)としてCIF(Common Intermediate Format)(372×288)解像度とエンハンスメントレイヤとして標準品位(SD)(720×480)解像度とについて、ベースレイヤはトータルビットレートの小さなパーセンテージ(約25%など)しかとらない。従って、CIF解像度のIDRの頻度を増加させることによって、ビットレートオーバヘッドはエンハンスメントレイヤのみ又は両方のレイヤにおいてIDRの頻度を増加させることに比べてかなり小さくなる。残念なことに、IDRスライスにより符号化される各アクセスユニットは、IDRスライスが通常は他のタイプの圧縮ピクチャより大きくなるため、SVC符号化効率を依然として低下させる。
従って、本発明の原理によると、ビデオ信号を送信する方法は、SVC信号の第1スケーラブルレイヤをチャネル変更レイヤとして選択し、第2スケーラブルレイヤがランダムアクセスポイントを有するアクセスユニットのSVC信号の少なくとも一部について、アクセスユニットの第1スケーラブルレイヤがランダムアクセスポイントにより符号化されないようにSVC信号を提供するためビデオ信号をスケーラブルビデオ符号化し、SVC信号を送信することからなり、第1スケーラブルレイヤは、SVC信号の第2スケーラブルレイヤの関連するdependency_id値未満の関連するdependency_id値を有する。
図4において、本発明の原理による例示的なフローチャートが示される。本発明の原理によるビデオ信号を符号化する例示的な装置200を示す図5が注目されるべきである。発明のコンセプトに関連する部分のみが示される。装置200は、プロセッサベースシステムであり、図5の破線ボックスにより示されるプロセッサ240とメモリ245とにより表される1以上のプロセッサと付属のメモリとを有する。本実施例では、コンピュータプログラム又はソフトウェアは、プロセッサ240による実行のためメモリ245に格納され、例えば、SVCエンコーダ205を実現する。プロセッサ240は、1以上の格納されたプログラム制御のプロセッサを表し、これらは送信機能に専用とされる必要はなく、例えば、プロセッサ240はまた送信機の他の機能を制御するようにしてもよい。メモリ245は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などの何れかの記憶装置を表し、送信機の内部及び/又は外部のものであってもよく、必要に応じて揮発性及び/又は不揮発性である。
装置200は、SVCエンコーダ205と変調手段210とを有する。ビデオ信号204は、SVCエンコーダ205に印加される。SVCエンコーダ205は、本発明の原理に従ってビデオ信号204を符号化し、SVC信号206を変調手段210に提供する。変調手段210は、アップコンバータ及びアンテナ(図5に図示せず)を介した送信のため変調信号211を提供する。
図4を参照して、ステップ155において、図5のプロセッサ240は、ビデオ信号204をベースレイヤとエンハンスメントレイヤとを有するSVC信号206に符号化する。特に、ステップ160において、プロセッサ240は、IDRスライスがSVC信号206のエンハンスメントレイヤより高い頻度でベースレイヤに挿入されるように図5のSVCエンコーダ205を制御し(例えば、図5の破線で示される信号203などを介し)、さらに2つのIDRスライスが同一のアクセスユニットに生じるとき、ベースレイヤは非IDRスライスにより符号化される。特に、異なる空間レイヤにおける異なるIDRインターバルを規定する符号化パラメータIBBP又はIPPPを規定するのとちょうど同様に、符号化パラメータがSVCエンコーダ205に適用される。ステップ165において、図5の変調手段210はSVC信号を送信する。
図6を参照して、図4のフローチャートのステップを実行するSVCエンコーダにより生成される例示的なSVC信号206が示される。本例では、SVC信号206は、ベースレイヤ(D=0)とエンハンスメントレイヤ(D=1)との2つのレイヤを有する。図6から観察できるように、ベースレイヤは、アクセスユニット4,7においてIDRスライスを有し、エンハンスメントレイヤは、アクセスユニット1,9においてIDRスライスを有する。本発明の原理によると、アクセスユニット1,9において、ベースレイヤは非IDRスライスにより符号化される。SVCエンコーダはエンハンスメントレイヤより多くのランダムアクセスポイントを有するベースレイヤを提供するが(例えば、エンハンスメントレイヤのアクセスユニット9にはIDRスライスの出現前にベースレイヤについてアクセスユニット4,7に2つのIDRスライスがあるなど)、本発明のコンセプトはこれに限定されない。例えば、チャネル変更レイヤのIDRスライスがより大きなdependency_id値を有するレイヤのIDRスライスと異なる回数で出現するように、SVC符号化が実行可能である。これは、実質的にベースレイヤとエンハンスメントレイヤなどにおけるIDRスライスの個数を同じにする可能性がある。
図6の記載に続き、受信機が矢印401により示されるように時間TCでSVC信号206を伝送するチャネルに変更(又はまず調整)すると、受信機は、SVC信号206のベースレイヤを復号化可能となるまで矢印402により表される時間TWを待機し、ユーザに解像度が低減されたビデオピクチャを提供しさえすればよい。従って、受信機は、ベースレイヤビデオ符号化信号を即座に復号化することによって、チューンイン遅延とチャネル変更遅延とを低下させることが可能であり、より多くのランダムアクセスポイントを有することになる。図6からさらに観察できるように、矢印409により示される時間TFにおいてチャネル変更が実行される場合、受信機は、エンハンスメントレイヤを復号化可能となるまで矢印403により示される時間TGを待機し、ユーザに解像度の高いビデオピクチャを提供しさえすればよい。
図7を参照して、本発明の他の例示的な実施例が示される。図7のフローチャートは、ベースレイヤとエンハンスメントレイヤとを有するSVC信号を提供するSVCエンコーダ(図5のSVCエンコーダ205など)を示す。ベースレイヤは、エンハンスメントレイヤより多くのIDRスライスなどのランダムアクセスポイントを有するものとして選択され、SVCエンコーダは、エンハンスメントレイヤがIDRスライスを有するアクセスユニットにおいて、ベースレイヤが非IDRスライスを有するか符号化効率の関数として決定する。この結果、得られるSVC符号化信号は、下位レイヤが非IDRスライスにより符号化され、上位レイヤがSVC符号化信号の少なくとも一部においてIDRスライスにより符号化されるアクセスユニットを有してもよいし、又は有さなくてもよい。ステップ505において、スケーラブルビデオエンコーダは、ビデオ信号をベースレイヤと少なくとも1つの他のレイヤとを有するSVC信号に符号化する。特に、ステップ510において、スケーラブルビデオエンコーダは、IDRスライスが結果として得られるSVC信号の他の何れかのレイヤより高い頻度によりベースレイヤに挿入されるようにビデオ信号を符号化する。例えば、スケーラブルビデオエンコーダは、当該符号化パラメータが異なる空間レイヤで異なるIDRインターバルを規定することを除いて、既存の符号化パターンIBBP又はIPPPに類似する符号化パターンに応答する。ステップ520において、SVCエンコーダは、例えば、IDRスライスとしてアクセスユニット全体を符号化するビットレートが非IDRスライスとしてベースレイヤとIDRスライスとして上位レイヤとを符号化するものより高いかなど、結果としての符号化効率をチェックする。ビットレートがより高くない場合、ステップ525において、2つのIDRスライスが同じアクセスユニットに現れるアクセスユニットにおいて、SVCエンコーダが、符号化効率を向上させるためベースレイヤを非IDRスライスに置換し、その後、ステップ530において、SVC信号が送信される。
図2、4及び7のフローチャートは装置200による処理の上位レイヤを表すことに留意すべきである。例えば、ビデオ信号の一部がSVC符号化されている間、SVC符号化信号の一部が同時に送信されてもよい。また、ベースレイヤと1つのエンハンスメントレイヤとに関して説明されたが、図4及び7のフローチャートは複数の上位レイヤに容易に拡張可能である。
図8を参照して、本発明の原理によるSVC信号を受信するための例示的な装置が示される。発明のコンセプトに関連する部分のみが示される。装置350は、受信信号311により表される本発明の原理に従ってSVC信号を伝送する信号を受信する(例えば、これは、図5の装置200により送信される信号の受信されたものなど)。装置350は、携帯電話、モバイルテレビ、セットトップボックス、デジタルテレビ(DTV)などを表す。装置350は、受信機355と、プロセッサ360と、メモリ365とを有する。また、装置350はプロセッサベースシステムである。受信機355は、SVC信号を伝送するチャネルにチューニングするための復調手段とフロントエンドとを表す。受信機355は、信号311を受信し、それから信号356を復元する。信号356はプロセッサ360により、すなわち、プロセッサ360がSVC復号化を実行する。例えば、本発明の原理に従ってチャネルスイッチ及びチャネルチューンインのための(後述される)図9に示されるフローチャートに従って、プロセッサ360は、復号化されたビデオをパス366を介しメモリ365に提供する。復号化されたビデオは、装置350の一部であるか、又は装置350とは別のものとすることができるディスプレイ(図示せず)への印加のため、メモリ365に格納される。
図9を参照して、装置350に用いられる本発明の原理による例示的なフローチャートが示される。本例では、受信されるSVC信号はベースレイヤとエンハンスメントレイヤとを有し、ベースレイヤのdependency_id値はエンハンスメントレイヤのdependency_id値未満である。チャネルをスイッチ又はチャネルにチューニングすると、プロセッサ360は、指定されたチャネル変更レイヤなどの当初対象とされた従属レイヤに復号化を設定する。本例では、ステップ405において、これは受信したSVC信号のベースレイヤにより表される。しかしながら、発明のコンセプトはこれに限定されず、他の従属レイヤが“当初対象とされたレイヤ”として指定されてもよい。ステップ410において、プロセッサ360は、アクセスユニット(受信SVC NAL(Network Abstraction Layer)ユニットとも呼ばれる)を受信し、ステップ415において、受信したアクセスユニットの上位レイヤがIDRスライスであるかチェックする。それがIDRスライスでない場合、プロセッサ360は、ステップ425において、受信したアクセスユニットのベースレイヤにIDRスライスがあるかチェックする。ベースレイヤにIDRがない場合、プロセッサ360は、次のアクセスユニットを受信するためステップ410に戻る。しかしながら、ステップ415において、上位レイヤにIDRスライスがある場合、プロセッサ360は、それのSVC対象表示レイヤをエンハンスメントレイヤに設定し、ステップ420において、それが最初に通常のビデオストリームなどのエンハンスメントレイヤからIDRピクチャを受信すると、復号化を開始する。
ステップ425に戻り、受信したベースレイヤがIDRスライスである場合、プロセッサ360は、低減された解像度ではあるがビデオ信号を提供するため、ステップ430においてSVCベースレイヤの復号化を開始する。その後、ステップ435において、プロセッサ360はアクセスユニットを受信し、ステップ440において、受信したアクセスユニットの上位レイヤがIDRスライスであるかチェックする。それがIDRスライスでない場合、プロセッサ360は、次のアクセスユニットを受信するためステップ435に戻る。しかしながら、受信したアクセスユニットの上位レイヤがIDRスライスである場合、プロセッサ360は、より高い解像度によりビデオ信号を提供するため、ステップ445においてSVC上位レイヤの復号化を開始する。
すなわち、図9のフローチャートとの概略は以下の通りである。現在の復号化レイヤの値より大きなdependency_idの値を有する従属レイヤにおいてIDRスライスが検出されると、受信機は、検出されたIDRスライスによって当該従属レイヤの符号化されたビデオを復号化する。そうでない場合、受信機は現在の従属レイヤの復号化を継続する。上述されるように、ベースレイヤからのIDRがない場合でさえ、エンハンスメントレイヤからのIDRは当該エンハンスメントレイヤの復号化を開始するのに十分である。
図9のフローチャートは装置350により処理の上位レイヤを表すことに留意すべきである。例えば、ステップ430において、ベースレイヤの復号化が開始されると、プロセッサ350がまたステップ435及び450においてIDRスライスの上位レイヤをチェックしても、これはプロセッサ350により継続される。最後に、ベースレイヤとエンハンスメントレイヤとに関して説明されたが、図9のフローチャートは複数の上位レイヤに容易に拡張可能である。
上述されるように、本発明の原理によると、ビットストリーム符号化パターンは、MPEG SVC(例えば、ITU−T Recommendation H.264 Amendment 3:“Advanced video coding for generic audiovisual services:Scalable Video Coding”などを参照されたい)が高速チャネル変更に利用されるとき、全体的なビットレートを低下させる。この結果、SVC圧縮ビデオストリームの全体的なビットレートは高速チャネル変更のパフォーマンスに影響を与えることなく低下させることができる。発明のコンセプトは2レイヤ空間スケーラブルSVCビットストリームに関して説明されたが、発明のコンセプトはこれに限定されず、複数の空間スケーラブルレイヤと共に、SVC規格において規定される時間及び品質PSNR(信号対雑音比)スカーラビリティに適用可能である。
本発明の原理が上述されたが、当業者がここに明示的に示されない本発明の原理を実現し、その趣旨及び範囲内に属する他の多数の構成を考案可能であることが理解されるであろう。例えば、別々の機能的要素に関して示されたが、これらの機能的要素は1以上の集積回路(IC)により実現されてもよい。同様に、別々の要素として示されたが、これらの要素の何れか又はすべてが、図4及び8などに示されるステップの1以上に対応するソフトウェアを実行するデジタル信号プロセッサなどの格納されたプログラムにより制御されるプロセッサにより実現可能である。さらに、本発明の原理は、衛星、WiFi、セルラなどの他のタイプの通信システムに適用可能である。実際、発明のコンセプトはまた静止した又は可動的な受信機に適用可能である。例示した実施例に多数の改良が可能であり、添付した請求項により規定される本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく他の構成が考案可能であることが理解されるべきである。