本発明は、基板上に形成された半導体層の検査方法に関する。
窒化ガリウムGaN、窒化アルミニウムAlN、窒化インジウムInNなど、組成式AlxInyGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y<1)で表現される混晶の総称である窒化物半導体は、一般に機械的に堅牢でかつ化学的にも安定であり、熱伝導率も高く放熱性に優れている。こうした窒化物半導体を用いた半導体素子、例えば、AlGaN層/GaN層を組み合わせた高電子移動度トランジスタ(HEMT:high electron mobility transistor)やInGaN層/GaN層を組み合わせたレーザダイオード(LD:laser diode)は、高出力素子として期待されている。
一方、窒化物半導体の融点は非常に高い。例えば、AlNの融点は3273K(ケルビン)、GaNの融点は2000K以上、InNの融点は1373Kである(文献:酒井士郎、III族窒化物半導体、赤崎勇編、第1章、培風館、1999年)。そのため、高い結晶性を有する窒化物半導体層の成長は比較的困難である。事実、成長条件の微妙な違いによって、窒化物半導体層の表面にnmオーダーのクラックが発生することが知られている。こうしたクラックは、HEMT素子でのゲートリーク電流の増大やパルス応答特性の劣化をもたらす要因となる。従って、クラック密度の定量的評価は、窒化物半導体素子の製造において極めて重要である。
従来、クラック密度などの表面状態の定量的評価は、主に原子間力顕微鏡(AFM:atomic force microscope)を用いて行われてきた。AFMは、カンチレバーの先端に固定された探針と試料表面の原子との間の原子間力に応じてカンチレバーが変位する際、カンチレバーからの反射光を計測することによってカンチレバーの変位を測定する。そして、カンチレバーまたは試料を走査して、探針の変位が一定になるようにカンチレバーまたは試料を上下方向に移動させる。その際の制御信号を画像に変換することによって、試料の表面状態(凹凸の様子)を原子オーダーで測定することができる。
こうしたAFMには表面状態を直接に評価できるという利点があるが、データ取得時のスループットが低く、AFM装置自体も極めて高価であり、量産ラインへの導入には不向きである。
その他、表面状態を直接に評価できる手法として、走査型トンネル顕微鏡(STM:scanning tunneling microscope)、ケルビンフォース顕微鏡(KFM:Kelvin force microscope)が知られているが、いずれもAFMと同じような問題点がある。
従って、比較的簡単な構成で、半導体層の表面状態を短時間で敏感に測定できる手法が要望されている。
半導体層で発生するクラックは、表面の結晶性に大きな影響を与える。それゆえ半導体層の物理的パラメータの中で、結晶性に対して比較的敏感なパラメータを測定することによって、半導体層の表面状態を間接的に評価することが可能である。
こうした結晶性に対して敏感なパラメータの中で一般に利用されているパラメータは、X線回折パターンの半値幅である。この半値幅は、半導体層の結晶性が低下するにつれて大きくなる性質があり、測定も比較的容易であることから、種々の半導体層を成膜させる前のバルク結晶の段階で結晶性評価によく利用されている。
しかしながら、X線回折パターンは結晶表面だけでなく結晶内部の状態も反映してしまうことから、その半値幅の変化は結晶内部の状態変化に大きく左右され、結晶表面の状態変化に対してそれほど敏感ではない。
特開平2−307046号公報
特開平7−92236号公報
特開2003−224171号公報
上述のようにX線回折パターンの半値幅は、結晶表面だけでなく結晶内部の状態変化を反映した物理量であることから、結晶表面の状態のみを評価するのには不向きである。また、異なる組成を有する複数の半導体層が基板上に積層されている場合、X線回折パターンは全ての半導体層の結晶状態および基板の結晶状態を反映してしまうことから、特定の半導体層に関する情報のみを峻別することが困難である。
本発明の目的は、半導体層の表面状態を短時間で精度良く測定できる半導体層の検査方法を提供することである。
本発明に係る半導体層の検査方法は、基板上に形成された半導体層に光を照射するステップと、
該半導体層の物理的特性が変化するように、該半導体層に対して所定周波数の変調を印加するステップと、
該半導体層からの反射光を検出するステップと、
検出した反射光信号の中から変調周波数の成分を取り出すステップと、
照射光の波長を変化させて、半導体層で発生する励起子に特有な反射スペクトルを計測するステップとを含むことを特徴とする。
本発明によれば、光照射によって半導体層で発生する励起子に特有な反射スペクトルを計測する。クラック等の結晶欠陥が少ないと、得られる励起子スペクトルが急峻になり、一方、結晶欠陥が多くなると、励起子スペクトルはブロードになる。従って、励起子スペクトルのブロードニングファクターを解析することによって、半導体層の表面状態を評価することができる。
従って、本発明は光学スペクトル解析手法を用いることから、従来のAFM観察法やX線回折パターン法と比べて、データ取得時のスループットが高く、検査装置自体も比較的簡単な構成で済み、量産ラインへの導入も容易である。
実施の形態1.
図1は、本発明に係る表面検査方法の一例を示すフローチャートである。ここでは、典型的な検査試料として、図2に示すように、基板1の上に、順次、緩衝層2、アンドープGaN層3、アンドープAlGaN層4が形成されたHEMTエピタキシャル構造を有する窒化物半導体素子を用いた例について説明する。
まず、図1のステップa1において、試料の最上層に位置するアンドープAlGaN層4の表面に対してプローブ光を照射する。次に、ステップa2において、光照射によってアンドープAlGaN層4で発生する励起子に特有な光学反射スペクトルを計測する。
反射スペクトル計測方法は、a)プローブ光として単色光を使用し、プローブ光の波長を変化させながら、試料からの反射光の強度変化を計測する方法、b)プローブ光として連続スペクトルの光を使用し、試料からの反射光を分光して反射スペクトルを計測する方法、などが採用できる。
反射率の較正は、以下の手順で行われる。まず、既知の反射率Rref(λ)を持つ参照試料、例えば、金属コートミラーを用いて、波長λに関する反射光強度Iref(λ)を測定する。次に、検査試料について、波長λに関する反射光強度Isample(λ)を測定する。そして、反射率=(試料表面で反射した光の強度)/(試料表面に入射した光の強度)の定義により、(試料表面に入射した光の強度)は、Iref(λ)/Rref(λ)で与えられる。従って、検査試料の反射率Rsample(λ)は、次式(1)で表される。
ここで、Rref(λ)は既知であり、Iref(λ)およびIsample(λ)は実測によって得られることから、コンピュータ等を用いた計算により、検査試料の反射率Rsample(λ)を得ることができる。
次に、図1のステップa3において、検査試料の反射率スペクトルRsample(λ)のブロードニングファクターを解析する。
ここで励起子とは、絶縁材料や半導体材料に発生する電子・正孔対の一種であり、特に、窒化物半導体では室温で安定であることが知られている。励起子は、固体内における一種の素励起であり、そのエネルギーに相当するフォトンエネルギー近傍での光学スペクトルにおいて特徴的な構造が見られる。もし試料表面に不均一性が存在すれば、励起子に特有なスペクトルは幅広になり、このスペクトル幅はブロードニングファクターを用いて定量化することができる。
試料の不均一性がガウス分布に従うと仮定すれば、アンドープAlGaN層4の屈折率nAlGaN(λ)は、現象論的に次式(2)で定義することが可能である。
この式(2)は、任意の表面状態における屈折率関数を、材料固有の屈折率関数(ここでは、nAlGaN(λ)に相当)と分布関数(ここでは、ガウス分布)との重畳による計算モデルで表現したものである。この計算モデルにおいて、ガウス分布の標準偏差σがブロードニングファクターに相当するパラメータである。
次に、試料の屈折率n(λ)が与えられれば、例えば、伝達マトリックス法などの種々の反射スペクトル計算モデルを用いて、反射率スペクトルR(λ)は簡単に求めることができる。簡単な例として、アンドープGaN層3が充分に厚く、アンドープAlGaN層4内での干渉効果のみを考慮すれば足りる場合、アンドープAlGaN層4での励起子エネルギー近傍における反射率スペクトルは、次式(3)で表される。
ここで、nAir(=1)とnGaNは、それぞれ空気とGaNの屈折率である。物理量δは、干渉を引き起こす2つの光、即ち、アンドープAlGaN層4の最上面で反射した光とAlGaN/GaN界面で反射した光との間の位相差であり、次式(4)で表される。
そこで、上記式(2)とこれまでに知られている式(3)(4)を用いて、反射スペクトルを解析することにより、ブロードニングファクターを抽出することができる。
次に、図1のステップa4において、抽出したブロードニングファクターに基づいて、アンドープAlGaN層4の表面状態を評価する。式(2)の計算モデルを用いた場合、励起子スペクトルが幅広になるほど、ブロードニングファクターとしての標準偏差σは大きくなり、アンドープAlGaN層4の表面状態はより不均一であると判断できる。一方、励起子スペクトルが急峻になるほど、ブロードニングファクターとしての標準偏差σは小さくなり、アンドープAlGaN層4の表面状態はより均一であると判断できる。
図3は、窒化物半導体の反射率スペクトルの一例を示すグラフである。縦軸は反射率(%)で、横軸は波長(nm)である。実線は表面クラック無しの試料を示し、破線は表面クラック有りの試料を示す。
励起子スペクトル中心は約320nm付近であり、実線のスペクトルを基準として、破線のスペクトルはより幅広に現れている。各スペクトルのブロードニングファクターは、上述した式(2)〜(4)を用いてコンピュータ等で数値計算することが可能である。従って、得られたブロードニングファクターを用いて、試料の表面状態を定量的に評価することが可能である。
以上の説明では、検査試料として、窒化物半導体HEMT素子を例示したが、その他の絶縁材料や半導体材料、例えば、Si,Ge,GaAs等を用いたトランジスタ素子、発光素子、受光素子などについても本発明は適用可能である。この場合、材料に固有の励起子スペクトルに応じて、照射する光の波長を適宜選択すればよい。
また本発明では、検査試料として、GaN、AlN、InNなど、組成式AlxInyGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y<1)で表現される混晶の総称である窒化物半導体を用いることが好ましい。その理由は、窒化物半導体はエネルギーバンドギャップが大きく、励起子は室温で安定に存在するため、励起子スペクトルが明瞭となり、表面状態を精度良く評価できるからである。
また本実施形態では、試料の励起子スペクトルを反射光学系で計測する方法を説明したが、試料がプローブ光の侵入長に比べ十分薄く、かつ基板がプローブ光に対して透明である場合には、透過光学系を用いて励起子スペクトルを計測することも可能である。
実施の形態2.
図4は、本発明に係る表面検査装置の一例を示すブロック図である。表面検査装置は、光源11と、分光器12と、試料台21と、検出器32と、コンピュータ50などで構成される。
光源11は、スペクトル計測に必要な波長を含む連続スペクトルの光を発生する。分光器12は、光源11からの連続スペクトルを分光して、単色光のプローブ光を出力する。プローブ光の波長は、コンピュータ50からの制御信号に応じて連続的に変化させることができる。分光器12からのプローブ光は、集光レンズ13によって試料S上で所望のスポット径に集光され、試料Sの計測エリアが規定される。
試料台21は、試料Sを保持するものであり、調整機構22によって試料Sの3次元位置(XYZ方向)または3次元角度(ピッチ、ヨー、ロール)が調整可能である。調整機構22は、手動で動作するタイプでもよく、コンピュータ50からの制御信号に応じて動作するタイプでもよい。
試料Sからの反射光は、集光レンズ31によって検出器32に集められる。検出器32は、光強度を電気信号に変換する機能を有し、後段の電流アンプ33によって検出器32からの電流信号が電圧信号に変換され、次段の電圧計34によってデジタル化された検出信号に変換される。
コンピュータ50は、電圧計34からの検出信号を取り込んで、メモリ等に保存し、必要に応じて、ディスプレイ51上にデータを表示する。
こうした表面検査装置は、図1に示したフローチャートに従って動作する。まず、試料S、例えば、図2に示す窒化物半導体素子を試料台21に固定する。次に、コンピュータ50は、分光器12に向けて制御信号(例えば、スキャン開始波長、スキャン終了波長、スキャン速度など)を送信して、スペクトル計測を開始する。
試料Sでは、プローブ光の波長に応じて光の吸収や反射、干渉などの現象が発生する。本発明では、光照射によって発生する励起子に特有な光学反射スペクトルの変化に着目している。
コンピュータ50は、スペクトル計測中に出力される検出信号を取り込んで、メモリ等に保存し、計測終了後、上述した式(3)(4)を用いて、検出信号を反射率スペクトルに変換し、必要に応じてディスプレイ51上に表示する。さらに、式(2)を適用して、試料Sの反射率スペクトルを解析することによって、励起子スペクトルのブロードニングファクターを抽出する。
コンピュータ50には、表面状態(例えば、クラック密度)と励起子スペクトルのブロードニングファクターとの関係が既知である標準試料に関するデータが予め保存されている。従って、標準試料のブロードニングファクターを基準として、今回計測した試料Sのブロードニングファクターを比較することによって、試料Sの表面状態を定量的に評価することができる。
続いて、試料Sの計測エリアを変更する場合、調整機構22を動作させて試料Sを移動し、プローブ光の照射位置を変更する。そして、上述と同様な手順に従って、スペクトル計測、解析を実施する。こうした試料Sの面内走査とスペクトル計測を繰り返すことによって、試料Sの表面全体での欠陥分布を評価することが可能になる。
実施の形態3.
図5は、本発明に係る表面検査装置の他の例を示すブロック図である。表面検査装置は、光源11と、試料台21と、分光器35と、マルチチャンネル検出器36と、コンピュータ50などで構成される。
光源11は、スペクトル計測に必要な波長を含む連続スペクトルのプローブ光を発生する。プローブ光は、集光レンズ13によって試料S上で所望のスポット径に集光され、試料Sの計測エリアが規定される。
試料台21は、試料Sを保持するものであり、調整機構22によって試料Sの3次元位置(XYZ方向)または3次元角度(ピッチ、ヨー、ロール)が調整可能である。調整機構22は、手動で動作するタイプでもよく、コンピュータ50からの制御信号に応じて動作するタイプでもよい。
試料Sからの反射光は、集光レンズ31によって分光器35に集められ、さらにマルチチャンネル検出器36に入力される。分光器35は、回折格子やプリズム等で構成され、連続スペクトル光を波長別に空間的に分解する機能を有する。マルチチャンネル検出器36は、多数の受光面が直線上に配列されたリニアアレイ等で構成され、分光器35によって空間分解された光の強度分布を検出する。従って、マルチチャンネル検出器36を用いた場合、波長スキャンが不要になるため、スペクトル計測の高速化が図られる。
コントローラ37は、マルチチャンネル検出器36からの出力信号を処理して、コンピュータ50へ検出信号として出力する。
コンピュータ50は、コントローラ37からの検出信号を取り込んで、メモリ等に保存し、必要に応じて、ディスプレイ51上にデータを表示する。
こうした表面検査装置は、図1に示したフローチャートに従って動作する。まず、試料S、例えば、図2に示す窒化物半導体素子を試料台21に固定する。次に、光源11からのプローブ光を試料Sに向けて照射すると、マルチチャンネル検出器36は、試料Sからの反射スペクトルを出力する。
コンピュータ50は、マルチチャンネル検出器36からの検出信号を取り込んで、メモリ等に保存し、計測終了後、上述した式(3)(4)を用いて、検出信号を反射率スペクトルに変換し、必要に応じてディスプレイ51上に表示する。さらに、式(2)を適用して、試料Sの反射率スペクトルを解析することによって、励起子スペクトルのブロードニングファクターを抽出する。
コンピュータ50には、表面状態(例えば、クラック密度)と励起子スペクトルのブロードニングファクターとの関係が既知である標準試料に関するデータが予め保存されている。従って、標準試料のブロードニングファクターを基準として、今回計測した試料Sのブロードニングファクターを比較することによって、試料Sの表面状態を定量的に評価することができる。
続いて、試料Sの計測エリアを変更する場合、調整機構22を動作させて試料Sを移動し、プローブ光の照射位置を変更する。そして、上述と同様な手順に従って、スペクトル計測、解析を実施する。こうした試料Sの面内走査とスペクトル計測を繰り返すことによって、試料Sの表面全体での欠陥分布を評価することが可能になる。
実施の形態4.
図6は、反射光の光路補正機構の一例を示す構成図である。この光路補正機構は、図4および図5に示す表面検査装置に適用可能である。
光路検出装置は、分割光学素子38と、光位置検出器39と、差動アンプ40などで構成される。
分割光学素子38は、ビームスプリッタ等で構成され、試料Sからの反射光の一部を取り出す機能を有する。光位置検出器39は、PSD(position sensitive device)や分割型検出器で構成され、分割光学素子38によって取り出された光の位置を検出する。ここでは、2つの受光面A,Bが配列した2分割型検出器を用いた例を示しているが、4つの受光面がXY方向に配列した4分割型検出器でも構わない。
差動アンプ40は、演算増幅器等で構成され、光位置検出器39から出力される2つの信号SA,SBを差動増幅して、SA−SBという差分信号を出力する。
こうした光路検出装置を用いることにより、試料Sからの反射光に対してほとんど影響を与えずに、反射光の光路ずれを高い精度で検出することができる。また、試料Sから分割光学素子38を経由して光位置検出器39に至るまでの光路長を極力長く設定することが好ましく、反射光の光路ずれに対する感度を高くすることができる。
光路補正機構は、上述した光路検出装置と、光路ずれに対応した差分信号に基づいて、試料台21の3次元位置(XYZ方向)または3次元角度(ピッチ、ヨー、ロール)位置を調整するための調整機構22などで構成される。
次に光路補正機構のフィードバック動作について説明する。検査試料Sとして、半導体層が形成されたウエハを用いた場合、ウエハの平坦性を考慮する必要がある。特に、ウエハに反りが生じている場合、面内分布データを測定している際に、反射光の光軸が変動することがある。例えば、図6の一点鎖線で示すように、反射光の本来の光路から、図6の実線で示す光路にずれてしまう。
特に、図5に示すマルチチャンネル測光の場合、反射光の光軸が変動すると、分光器35への入射角度が変化して、マルチチャンネル検出器36の受光アレイにおける光強度分布がシフトしてしまい、光学スペクトルの波長ずれが生ずる。
この対策として、試料Sの面内走査中に、上述した光路検出装置によって試料Sからの反射光の光路ずれを検出しつつ、調整機構22によって光路ずれを解消するように試料台21の位置または角度を調整することによって、ウエハの反りに起因した計測誤差を低減または解消することができる。
図7は、光路補正機構の動作を示すフローチャートである。まずステップb1において、分割光学素子38によって試料Sからの反射光の一部を分割する。次にステップb2において、光位置検出器39は、分割した光を受光して、光の位置を検出する。次にステップb3において、差動アンプ40からの差分信号SA−SBがゼロであるか否かを判定する。差分信号がゼロでない場合、ステップb4に移行して、差分信号がゼロになる方向に、調整機構22が試料台21の位置または角度を調整した後、ステップb2に戻って再び光位置検出と試料台の調整を繰り返す。こうしたフィードバック動作により、差分信号がゼロに収束すると、ステップb3からステップb5に移行して、試料Sのスペクトル計測を開始する。
続いて、試料Sの計測エリアを変更する場合、調整機構22を動作させて試料Sを面内で移動し、プローブ光の照射位置を変更する。そして、図7に示す光路補正動作を行って反射光の光路ずれを解消した後、上述と同様な手順に従って、スペクトル計測、解析を実施する。こうした試料Sの面内走査、光路補正動作、スペクトル計測を順次繰り返すことによって、試料Sの表面全体での欠陥分布を評価することが可能になる。
図8(a)(b)は、図2に示すAlGaN/GaNのHEMTエピタキシャル構造をAFMで観察した像をそれぞれ示す写真である。画像の濃淡を示すグレイスケールは、表面の凹凸の高さに対応している。なお、これらのAFM像を取得するのに要した時間は、それぞれ30分であった。
図8(a)に示す試料Aは、表面が平坦であり、クラックが存在しておらず、標準試料として使用できる。図8(b)に示す試料Bは、表面に凹凸が現れており、多数のクラックが存在している。
図9は、試料A,Bの光学反射スペクトルを示すグラフである。縦軸は反射率(%)で、横軸はフォトンエネルギー(eV)である。実線は表面クラック無しの試料Aを示し、破線は表面クラック有りの試料Bを示す。これらのスペクトルは、図4に示した表面検査装置を用いて計測した。各スペクトルの計測に要した時間は、AFM観察の1/10に相当する3分であった。
励起子スペクトル中心は約3.87eV(≒320nm)であり、クラックが存在している試料Bのスペクトル(実線)は、クラック無しの試料Aのスペクトル(破線)と比べて、より強いブロードニングを示していることが判る。
図10(a)(b)は、図9に示す試料A,Bの光学反射スペクトルをフィッティングした結果をそれぞれ示すグラフである。実線は、図9に示す反射スペクトルの実験値を示し、白丸は、上述した式(2)〜(4)を用いてコンピュータ等でフィッティングした計算値である。
図10(a)に示す試料Aのフィッティング曲線も、図10(b)に示す試料Bのフィッティング曲線も、励起子スペクトル中心付近において、実験値と非常に良く一致している。これらのフィッティング曲線についてブロードニングファクターを計算した結果、試料Aは25meV、試料Bは45meVとなった。従って、表面のクラック密度が増加するほど、ブロードニングファクターは増加することが判る。
このように試料の表面状態を検査する場合、励起子スペクトルのブロードニングファクターを計算することによって、従来のAFM観察法と比べて、より短時間で精度良く定量的な評価を行うことができる。
実施の形態5.
以上では、反射分光法に基づいた半導体表面の定量的評価方法について述べた。これは、反射スペクトルのブロードニング・ファクターを基準として表面状態を定量化する方法である。言い換えれば、スペクトル形状の鋭さを指標として、表面状態を定量化する方法である。スペクトル形状の鋭さは、その微分信号の強度に対応する。従って、反射ペクトルの微分信号、すなわち変調反射スペクトルを測定すれば、得られたスペクトルの強度を指標として表面状態を定量化できると考えられる。一般に、微分信号は、変化に対して高感度である。従って、通常の反射スペクトルでは得ることの出来ない表面状態に関する情報を抽出することが可能である。以下では、変調反射分光法に基づくこと特徴とする半導体表面の定量的評価方法について述べる。
変調反射分光法には、様々な種類が存在する。その中でもPR(Photo reflectance)分光法(光変調反射分光法)は、非破壊非接触でかつ最も簡便な手法である。PR分光法の特徴は、反射率を検出するためのプローブ光に加えて励起光を試料表面に照射するという点にある。励起光により生成されたキャリアは、その遮蔽効果により試料の内部電場を微小変化させる。一般に、内部電場変化に伴い、試料の光学定数も変化する。PR分光法は、光学定数における微小変化を変調反射率として計測する分光技術である。検出されるPR信号には、バンド構造が変化しない程度の内部電場しか存在しないという条件の下では、FK(Franz-Keldysh)振動と三階微分形状信号の2種類に大別できる。
ここで、eを素電荷、hをプランク定数、Fを内部電場強度、μを電子正孔換算質量として、下記の式(5)で表される電気光学定数とライフタイムブロードニングファクターΓの二つの指標を用いると、FK振動と三階微分形状信号は、それぞれ式(7)および式(8)の場合に観測される信号である。
上記PR信号を測定するための分光装置の模式図を、図11および図12に示す。PR分光システムは、図4に示した反射スペクトル測定装置に対して、励起光源、変調器および変調反射信号を計測するためのロックインアンプを追加した装置形態をとる。
プローブ光光学系は、白色光源111と、集光レンズ112と、分光器113と、集光レンズ114などで構成される。白色光源111は、例えばランプなどで構成され、スペクトル計測に必要な波長を含む連続スペクトルの光を発生する。分光器113は、白色光源111からの連続スペクトルを分光して、単色光のプローブ光を出力する。プローブ光の波長は、コンピュータ140からの制御信号に応じて連続的に変化させることができる。分光器112からのプローブ光は、集光レンズ114によって試料S上で所望のスポット径に集光され、試料Sの計測エリアが規定される。
励起光光学系は、励起光源121と、励起光安定器122と、励起光フィルタ123と、変調器124と、集光レンズ125などで構成される。励起光源121は、例えばレーザー光源などで構成され、試料Sでフリーキャリア吸収が発生するように、試料Sのバンドギャップ波長より短い波長の励起光を発生する。励起光安定器122は、励起光源121からの励起光パワーを安定化させる。励起光フィルタ123は、励起光波長のみを通過させ、ノイズ光をカットするバンドパスフィルタである。変調器124は、所定の参照周波数信号に基づいて励起光強度を変調する。変調器124を通過した光は、集光レンズ125によってプローブ光の照射エリアとほぼ一致するように、試料S上で所望のスポット径に集光される。
検出光学系は、集光レンズ131と、光学フィルタ132と、信号検出器133などで構成される。試料Sからの反射光は、集光レンズ131によって信号検出器133に集められる。途中の光学フィルタ132は、励起光を遮蔽し、プローブ光のみを通過させるロングパスフィルタであり、必要に応じて取り外し可能である。
信号処理系は、図12に示すように、電流/電圧変換器134と、バンドパスフィルタ回路135と、直流電圧計136と、ロックインアンプ137と、コンピュータ140と、ディスプレイ141などで構成される。信号検出器133は、光強度を電気信号に変換する機能を有し、後段の電流/電圧変換器134によって検出器32からの電流信号が電圧信号に変換される。バンドパスフィルタ回路135は、検出信号から、反射率Rに相当する直流成分と変調反射率ΔRに相当する交流成分とを抽出する。直流電圧計136は、検出信号の直流成分の電圧を測定し、デジタル信号に変換してコンピュータ140へ出力する。ロックインアンプ137は、変調器124からの参照周波数を用いて、検出信号の交流成分の中から該参照周波数と一致する周波数成分を取り出して、デジタル信号に変換してコンピュータ140へ出力する。コンピュータ140は、直流電圧計136からの反射率信号Rおよびロックインアンプ137からの変調反射率信号ΔRを取り込んで、メモリ等に保存し、必要に応じて、ディスプレイ141上にデータを表示する。
PRスペクトルは、図13に示されるフローチャートに従って測定される。以下、図13に示されたフローチャートに従い、PR分光測定手順の詳細な説明を行う。
試料Sの反射率を検出するためのプローブ光は、白色光源111からの光を分光器113に導入し、単色化することによって得られる。単色化されたプローブ光は、集光レンズ114を通して、試料Sに照射される(ステップc1)。一方、励起光は、変調器124により強度が周期的に時間変化する励起光に変換された後、試料Sに照射される(ステップc2)。
PR信号を検出するロックインアンプ137については、位相調整が必要である。位相調整を行うため、検出器前の光学フィルタ132を光軸から外して、試料S上で散乱された励起光が信号検出器133に入る状態にする。この状態で検出された信号に対して、変調器124から送られてきた参照周波数信号と同期するように、ロックインアンプ137の位相調整を行う(ステップc3)。位相調整後は、光学フィルタ132を光軸に挿入することにより散乱した励起光を遮蔽し、信号検出器133にはプローブ光のみが入るようにする(ステップc4)。
上記セッティングの後、データの測定に移行する。まず分光器113を掃引し、試料Sから反射されたプローブ光を信号検出器133で電気信号に変換する(ステップc5)。得られた信号は、バンドパスフィルタ回路135を通して、反射率Rに相当する直流成分と変調反射率ΔRに相当する交流成分に分け(ステップc6)、それぞれ直流電圧計136とロックインアンプ137で計測する(ステップc7)。コンピュータ140は、各計測値を用いてΔR/Rを計算し、フォトンエネルギーあるいは波長の関数としてプロットすることによりPRスペクトルを得る(ステップc8)。
このようにして得られたPRスペクトルから欠陥密度を求めるためのフローチャートを、図14に示す。まず、上述のようにしてPRスペクトルを測定した後(ステップd1)、得られたスペクトルから着目している層に起因する三階微分形状信号あるいはFK振動の振幅を読み取る(ステップd2)。FK振動は、一般に、複数の振動からなる形状を示す。解析の際には、最も信号対雑音比の良い振動、通常、最も大きい振幅を示す振動を選ぶことで、解析から得られた値の精度を確保することができる。振幅が最大となる振動は、着目層のバンドギャップエネルギー近傍の振動である。従って、この振動から振幅を読み取るのが最適である。このFK振動および三階微分形状信号の振幅を、以下では特に断らない限り、単にPR信号強度と呼ぶことにする。
最後に、得られたPR信号強度から、欠陥密度を求める手順に移る(ステップd3)。前にも述べたように得られたスペクトルは、着目層の状態(結晶性、等)に依存して、着目層に起因するFK振動の振幅が変化する。そこでまずあらかじめ欠陥密度の分かっている標準試料のPR測定を行い、横軸を欠陥密度、縦軸をPR信号強度とした換算曲線(図15)を準備しておく。この換算曲線を基にして、評価の対象となっている試料のPR信号強度と検量線とを比較することにより、欠陥密度を求めることができる。
実施の形態6.
上で述べたPR分光法は、変調反射分光法の中でも最も広く利用されている。しかしながら、実際には、PR分光法を適用できない場合も存在する。例えば、試料を励起できる光源がないというケースである。加えて、励起光照射により試料が強い発光特性を示す場合、発光成分が外乱成分として働くため、本来のPRスペクトルを得られない。こうした場合に適用できる変調反射分光法として、CER(Contactless electroreflectance)分光法(非接触電場変調反射分光法)が存在する。CER分光測定装置の概略図を図16に示す。なお、信号処理系は、図12に示した構成がそのまま使用できるため、図示を省略している。
プローブ光光学系は、白色光源211と、集光レンズ212と、分光器213と、集光レンズ214などで構成される。白色光源211は、例えばランプなどで構成され、スペクトル計測に必要な波長を含む連続スペクトルの光を発生する。分光器213は、白色光源211からの連続スペクトルを分光して、単色光のプローブ光を出力する。プローブ光の波長は、図12に示したコンピュータ140からの制御信号に応じて連続的に変化させることができる。分光器112からのプローブ光は、集光レンズ214によって試料S上で所望のスポット径に集光され、試料Sの計測エリアが規定される。
電場印加回路は、所定の参照周波数を持つ交流電圧を発生する交流電源221と、試料Sを挟むように配置された一対の電極222,223などで構成される。試料Sの光入射側に配置された電極222は、一般には透明電極と呼ばれ、プローブ光を透過可能な電極材料で形成されており、交流電源221の一方の端子に電気接続される。交流電源221の他方の端子は接地される。試料Sの裏面に配置された電極223も試料台を通じて接地される。
検出光学系は、集光レンズ231と、信号検出器232などで構成される。試料Sからの反射光は、集光レンズ231によって信号検出器232に集められる。信号検出器232から検出信号は、図12に示した信号処理系に送られる。
CER分光測定の際、試料Sを挟む二つの電極222,223の間に交流電場を印加すると、試料Sの内部に電場変調が引き起こされる。この電場変調によって生じる光学反射率変調は、プローブ光を介して検出される。得られる変調反射率は、PR信号と等価なため、CERスペクトルの解析・欠陥密度の算出フローは、図14のフローチャートと同様であり、これを図17に示す。
まずCER分光測定の手順に関して、試料Sの反射率を検出するためのプローブ光は、白色光源211からの光を分光器213に導入し、単色化することによって得られる。単色化されたプローブ光は、集光レンズ214を通して、試料Sに照射される。一方、試料Sには、一対の電極222,223を介して交流電場が印加され、試料Sからの反射光が変調される。この状態で信号検出器232から検出信号に対して、交流電源221から送られてきた参照周波数信号と同期するように、ロックインアンプ137の位相調整を行う。
上記セッティングの後、データの測定に移行する。まず分光器213を掃引し、試料Sから反射されたプローブ光を信号検出器232で電気信号に変換する。得られた信号は、バンドパスフィルタ回路135を通して、反射率Rに相当する直流成分と変調反射率ΔRに相当する交流成分に分け、それぞれ直流電圧計136とロックインアンプ137で計測する。コンピュータ140は、各計測値を用いてΔR/Rを計算し、フォトンエネルギーあるいは波長の関数としてプロットすることによりCERスペクトルを得る。
次に、上述のようにしてCERスペクトルを測定した後(ステップe1)、得られたスペクトルから着目している層に起因する三階微分形状信号あるいはFK振動の振幅を読み取る(ステップe2)。FK振動は、一般に、複数の振動からなる形状を示す。解析の際には、最も信号対雑音比の良い振動、通常、最も大きい振幅を示す振動を選ぶことで、解析から得られた値の精度を確保することができる。振幅が最大となる振動は、着目層のバンドギャップエネルギー近傍の振動である。従って、この振動から振幅を読み取るのが最適である。このFK振動および三階微分形状信号の振幅を、以下では特に断らない限り、単にCER信号強度と呼ぶことにする。
最後に、得られたCER信号強度から、欠陥密度を求める手順に移る(ステップe3)。前にも述べたように得られたスペクトルは、着目層の状態(結晶性、等)に依存して、着目層に起因するFK振動の振幅が変化する。そこでまずあらかじめ欠陥密度の分かっている標準試料のCER測定を行い、横軸を欠陥密度、縦軸をCER信号強度とした換算曲線を準備しておく。この換算曲線を基にして、評価の対象となっている試料のCER信号強度と検量線とを比較することにより、欠陥密度を求めることができる。
実施の形態7.
上記CER分光法では、測定に用いるプローブ光に対して透明な電極が必須となる。ところが紫外光領域では、透明電極を得られない場合が存在する。実用的な電子デバイス用透明導電膜として最も普及しているIn2O3系透明導電膜の一種であるITO(In2O3:Sn)は、母体結晶のバンドギャップエネルギーが室温で3.75eVであり、可視光域でのみ透過性を有する。同様にZnO系およびSnO2系透明導電膜の場合、それぞれの母体結晶のバンドギャップエネルギーは3.44eVおよび3.70eVである。従って、上記透明電極より大きいバンドギャップエネルギーをもつ物質で構成される多層膜構造に対しては、CER分光法を適用できない。
CER分光法およびPR分光法が適用できない試料であっても、それらが圧電性物質で構成されている場合、PZR(piezoreflectance)分光法(ピエゾ変調反射分光法)と呼ばれる応力/電場変調反射分光法の一種を適用することにより変調反射スペクトルを測定することができる。
PZR分光装置の概略図を図18に示す。なお、信号処理系は、図12に示した構成がそのまま使用できるため、図示を省略している。
プローブ光光学系は、白色光源311と、集光レンズ312と、分光器313と、集光レンズ314などで構成される。白色光源311は、例えばランプなどで構成され、スペクトル計測に必要な波長を含む連続スペクトルの光を発生する。分光器313は、白色光源311からの連続スペクトルを分光して、単色光のプローブ光を出力する。プローブ光の波長は、図12に示したコンピュータ140からの制御信号に応じて連続的に変化させることができる。分光器312からのプローブ光は、集光レンズ314によって試料S上で所望のスポット径に集光され、試料Sの計測エリアが規定される。
応力印加回路は、所定の参照周波数を持つ交流電圧を発生する交流電源321と、この交流電圧によって駆動される圧電素子322などで構成される。
検出光学系は、集光レンズ331と、信号検出器332などで構成される。試料Sからの反射光は、集光レンズ331によって信号検出器332に集められる。信号検出器332から検出信号は、図12に示した信号処理系に送られる。
PZR分光法では、試料Sの裏面に取り付けられた圧電素子322によりストレスを発生させ、試料Sに周期的な内部歪を誘起する。圧電性試料の場合、この周期的なストレスに応じて、ピエゾ電場が発生し、内部電場変調が生じる。この電場変調によって生じる光学反射率変調は、上記変調反射分光法と同様に、プローブ光を介して検出される。CER分光法と同じく、得られる変調反射率は、PR信号と等価なため、PZRスペクトルの解析・欠陥密度の算出フローは、図14のフローチャートと同様であり、これを図19に示す。
まずPZR分光測定の手順に関して、試料Sの反射率を検出するためのプローブ光は、白色光源311からの光を分光器313に導入し、単色化することによって得られる。単色化されたプローブ光は、集光レンズ314を通して、試料Sに照射される。一方、試料Sには、圧電素子322によって周期的な応力が印加され、試料Sからの反射光が変調される。この状態で信号検出器332から検出信号に対して、交流電源321から送られてきた参照周波数信号と同期するように、ロックインアンプ137の位相調整を行う。
上記セッティングの後、データの測定に移行する。まず分光器313を掃引し、試料Sから反射されたプローブ光を信号検出器332で電気信号に変換する。得られた信号は、バンドパスフィルタ回路135を通して、反射率Rに相当する直流成分と変調反射率ΔRに相当する交流成分に分け、それぞれ直流電圧計136とロックインアンプ137で計測する。コンピュータ140は、各計測値を用いてΔR/Rを計算し、フォトンエネルギーあるいは波長の関数としてプロットすることによりPZRスペクトルを得る。
次に、上述のようにしてPZRスペクトルを測定した後(ステップf1)、得られたスペクトルから着目している層に起因する三階微分形状信号あるいはFK振動の振幅を読み取る(ステップf2)。FK振動は、一般に、複数の振動からなる形状を示す。解析の際には、最も信号対雑音比の良い振動、通常、最も大きい振幅を示す振動を選ぶことで、解析から得られた値の精度を確保することができる。振幅が最大となる振動は、着目層のバンドギャップエネルギー近傍の振動である。従って、この振動から振幅を読み取るのが最適である。このFK振動および三階微分形状信号の振幅を、以下では特に断らない限り、単にPZR信号強度と呼ぶことにする。
最後に、得られたPZR信号強度から、欠陥密度を求める手順に移る(ステップf3)。前にも述べたように得られたスペクトルは、着目層の状態(結晶性、等)に依存して、着目層に起因するFK振動の振幅が変化する。そこでまずあらかじめ欠陥密度の分かっている標準試料のPZR測定を行い、横軸を欠陥密度、縦軸をPZR信号強度とした換算曲線を準備しておく。この換算曲線を基にして、評価の対象となっている試料のPZR信号強度と検量線とを比較することにより、欠陥密度を求めることができる。
次に、以上で述べた変調反射分光法の表面モフォロジー解析への適用可否を議論する。ここではPR分光法を用いた欠陥密度推定の実施例を示す。図20(a)〜図20(c)は、評価対象とした3種類のサファイア基板上にそれぞれ成長したAl0.2Ga0.8N/GaNヘテロ構造を持つ試料A,B,Cを観察した表面AFM像を示す。なお、AlGaN層およびGaN層の各厚さは全ての試料で同じである。
図20(a)に示す試料AのAFM像は、AlGaN表面に多数のクラックが存在していることが判る。こうしたクラックは、図20(b)に示す試料Bおよび図20(c)に示すCではほとんど観測されていない。ただし、試料BのAFM像では、多数のピットが検出されている。一般に、このピットは、貫通転位を伴っており、その形成の際には、貫通転位周辺に集まった不純物が引き金になっていると考えられている。
図21は、室温で測定した試料A,B,CのPRスペクトルを示している。縦軸は変調反射率ΔRを反射率Rで除算したΔR/Rであり、横軸はフォトンエネルギーである。フォトンエネルギー3.4eVに現れている特徴的なスペクトル構造は、その位置がGaNのバンドギャップエネルギーとほぼ等しいので、GaN層に起因する信号に帰属される。従って、フォトンエネルギー3.8eVから連なる振動構造は、AlGaN層のFK振動に帰属される。
AlGaN層に起因するFK振動の振幅は、試料C,B,Aの順に縮小するが、これは図20に示した表面モフォロジーの劣化と対応している。従って、FK振動の振幅解析を、表面モフォロジー定量化の一手段として適用可能であると結論できる。
なお、先に述べた反射分光測定による表面モフォロジー解析では、AlGaN層表面におけるピットの有無に対する有意な差は小さかったが、PR分光法を用いた表面モフォロジー解析は、通常の反射スペクトル測定より高感度な評価方法であることが判る。欠陥密度があらかじめ分かっている複数の標準試料に対してPR分光測定を行い、PR信号強度を欠陥密度に対してプロットすることによって得られる換算曲線を準備すれば、評価対象としている試料のPR信号強度から欠陥密度を推定することが可能となるのは明らかである。
最後に、本明細書で述べた光学的反射およびPRスペクトル測定が、従来用いられてきた結晶評価技術と比較して、表面モフォロジーに対しより高感度であることを説明する。
図22は、GaN(0004)反射のブラッグ角近傍における試料A,B,Cのω−2θのX線回折スペクトルを示している。縦軸はX線回折強度(対数表示、任意単位)であり、横軸は回折角2θ(arcsec)である。破線の位置は、計算によって求められたAl0.2Ga0.8N(0004)反射のブラッグ角に相当する。なお、Al0.2Ga0.8N(0004)反射のブラッグ角の計算では、Al0.2Ga0.8N層がGaN層に対して擬似格子整合(pseudomorphic)に成長していると仮定した。
破線の位置とX線回折パターンとの比較から、3100(arcsec)近傍のピーク構造は、Al0.2Ga0.8N(0004)反射に帰属される。Al0.2Ga0.8N(0004)反射のピーク位置は、試料によって若干異なる。これは各試料のAlGaN層組成比がお互いわずかにずれていることを示している。このピーク位置の違いを除き、Al0.2Ga0.8N(0004)反射X線回折パターンは、反射およびPRスペクトルの場合と異なり、その形状がAlGaN表面モフォロジーに対してほとんど依存しない。このことから反射スペクトル測定およびPRスペクトル測定の方が表面モフォロジーの評価に対してより適していると結論付けることができる。
本発明に係る表面検査方法の一例を示すフローチャートである。
典型的な検査試料を示す断面図である。
窒化物半導体の反射率スペクトルの一例を示すグラフである。
本発明に係る表面検査装置の一例を示すブロック図である。
本発明に係る表面検査装置の他の例を示すブロック図である。
反射光の光路補正機構の一例を示す構成図である。
光路補正機構の動作を示すフローチャートである。
図8(a)(b)は、図2に示すAlGaN/GaNのHEMTエピタキシャル構造をAFMで観察した像をそれぞれ示す写真である。
試料A、Bの光学反射スペクトルを示すグラフである。
図10(a)(b)は、図9に示す試料A,Bの光学反射スペクトルをフィッティングした結果をそれぞれ示すグラフである。
PR分光法装置の一例を示す構成図である。
PR分光法装置の一例を示す構成図である。
PR分光測定手順の一例を示すフローチャートである。
PRスペクトルから欠陥密度を求める手順の一例を示すフローチャートである。
欠陥密度とPR信号強度の関係を示す換算曲線である。
CER分光測定装置の一例を示す構成図である。
CERスペクトルから欠陥密度を求める手順の一例を示すフローチャートである。
PZR分光装置の一例を示す構成図である。
PZRスペクトルから欠陥密度を求める手順の一例を示すフローチャートである。
3種類のサファイア基板上にそれぞれ成長したAlGaN/GaNヘテロ構造を持つ試料A,B,Cを観察した表面AFM像である。
図20(a)〜図20(c)に示す試料A,B,CのPRスペクトルである。
図20(a)〜図20(c)に示す試料A,B,Cのω−2θのX線回折スペクトルである。
11 光源、 12 分光器、 13 集光レンズ、 21 試料台、
22 調整機構、 31 集光レンズ、 32 検出器、 33 電流アンプ、
34 電圧計、 35 分光器、 36 マルチチャンネル検出器、
37コントローラ、 38 分割光学素子、 39 光位置検出器、
40 差動アンプ、 50 コンピュータ、 51 ディスプレイ、
111,211,311 白色光源、 112,114,125,131,212,214,231,312,314,331 集光レンズ、
113,213,313 分光器、 121 励起光源、 122 励起光安定器、
123 励起光フィルタ、 124 変調器、 132 光学フィルタ、
133,232,332 信号検出器、 134 電流/電圧変換器、
135 バンドパスフィルタ回路、 136 直流電圧計、
137 ロックインアンプ、 140 コンピュータ、 141 ディスプレイ、
221,321 交流電源、 222,223 電極、 322 圧電素子。