以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(第1の実施形態)
<形状測定装置の全体構成について>
まず、図1〜図16を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る形状測定装置の全体構成について、詳細に説明する。
なお、以下の説明では、線状レーザ光源とTDIカメラとを用いて形状測定を行う場合を例にとるが、本実施形態に係る形状測定装置は、かかる例に限定されるわけではなく、物体に対して空間的な周期パターンを照射可能な光源と撮像装置とを用いたものであってもよい。
本実施形態に係る形状測定装置10は、物体の形状を光学的に測定する装置であって、例えば図1に示したように、物体撮像装置100と、演算処理装置200と、を主に備える。形状測定の対象(以下、測定対象物とも称する。)としては、例えば、製鉄所等で製造される鋼板Sが想定される。測定対象物である鋼板Sは、鋼板の長手方向(図1の左右方向)に一定の速さで搬送されている。本実施形態に係る形状測定装置10は、鋼板Sの搬送中に、この鋼板Sの形状を測定し、鋼板表面に存在する凹みや疵などの欠陥を検出する。
[物体撮像装置について]
まず、物体撮像装置100について説明する。
本実施形態に係る物体撮像装置100は、例えば図1に示したように、レーザ光源101と、ロッドレンズ103と、遅延積分型(TDI)カメラ105と、を主に備える。
レーザ光源101は、例えば、連続的にレーザ発振を行うCWレーザ光源を用いることが可能である。レーザ光源101が発振する光の波長は、例えば、400nm〜800nm程度の可視光帯域に属する波長であることが好ましい。レーザ光源101は、後述する演算処理装置200から送出される照射タイミング制御信号に基づいて、レーザ光の発振を行う。
ロッドレンズ103は、レーザ光源101から射出されたレーザ光を、測定対象物である鋼板Sの幅方向(図1の紙面に垂直な方向)に沿って扇状に広げるレンズである。これにより、レーザ光源101から射出されたレーザ光は線状レーザ光Lとなり、鋼板Sに照射されることとなる。なお、本実施形態に係る物体撮像装置100では、レーザ光を扇状に広げることが可能なものであれば、ロッドレンズ以外のレンズを利用してもよい。
ここで、図1に示したように、レーザ光源101およびロッドレンズ103は、線状レーザ光Lが鋼板Sに対して斜めに入射するように配置されている。
測定対象物である鋼板Sの表面の線状レーザ光Lが照射された部分には、鋼板Sの幅方向に沿って線状の明るい部位が形成される。また、鋼板Sは、鋼板Sの長手方向に沿って搬送されているため、鋼板Sからみると、線状の明るい部位も鋼板Sの長手方向に沿って移動していることとなる。線状の明るい部分からの反射光(線状反射像)は、遅延積分型カメラ105まで伝送され、遅延積分型カメラ105によって撮像される。
遅延積分型(TDI)カメラ105は、搬送されている鋼板Sの線状反射像を撮像する。TDIカメラ105は、多数の光電変換素子がマトリクス状に配置された、2次元の受光面を備える。鋼板Sの線状反射像が、TDIカメラ105のレンズ107を介して、1列分の幅で光電変換素子に入射すると、TDIカメラ105の各光電変換素子は、それぞれで蓄積した電荷を、光電変換素子と同じ行に位置し、かつ、一つ後ろの列に位置する光電変換素子へと転送する。この転送のタイミングは、全ての光電変換素子で同一であり、後述する演算処理装置200から送出されるカメラシフトパルス信号によって制御される。すなわち、カメラシフトパルス信号が入力するたびに、各光電変換素子は電荷を一列ごとに転送する。最終列に位置する光電変換素子は、カメラシフトパルス信号が入力されると、蓄積している電荷を読み出して、後述する演算処理装置200に出力する。これにより、後述する演算処理装置200には、線状反射像に対応する光切断画像が出力されることとなる。
ここで、鋼板Sは、鋼板の長手方向に沿って移動しているため、レーザ光源101からレーザ光を鋼板Sに照射し、TDIカメラ105を用いて鋼板Sの線状反射像を一定時間撮像すると、鋼板Sの長手方向の各位置における光切断画像を順次得ることができる。こうして得られた各光切断画像を縦にした状態で横方向に順に配列することにより、鋼板S全体を表す画像を得ることができる。
一般に、TDIカメラ105では、電荷が転送される途中で、各光電変換素子に光が入射すると、入射した光の強度に対応する電荷が上乗せされることとなる。しかしながら、本実施形態に係る形状測定装置10では、上述したように、光電変換素子に1列分の幅の線状反射像が入射するため、電荷の転送途中で各光電変換素子に電荷が上乗せされることは、ほとんど生じない。また、レーザ光の波長だけを透過するような光学バンドパスフィルタをTDIカメラ105の前に設けてもよい。
また、線状レーザ光Lは周期的に変調され、線状レーザ光Lの強度が時間的に変化するため、TDIカメラ105の受光面での各行において、列方向の各光電変換素子に蓄積される電荷量(すなわち、受光強度)の分布も周期的に変化することとなる。このため、TDIカメラ105から出力される各光切断画像を縦にした状態で横方向に順に配列することにより得られる画像は、画像の横方向に沿って、各光切断画像の濃度(すなわち、強度に対応)が周期的に変化する縞画像となる。
図2に、上述のようにして生成される縞画像の一例を示す。ここで、縞とは、濃度変化の一周期分に相当する光切断画像のことである。このような縞画像では、縦方向、すなわち縞に平行な方向が測定対象物である鋼板Sの幅方向に対応し、横方向、すなわち縞に直交する方向が、測定対象物2である鋼板Sの長手方向に対応する。TDIカメラ105のカメラシフト周波数とレーザ光の変調周波数との比をM:1とすると、M個の光切断画像、すなわち横方向のM画素分が、一本の縞を構成することとなる。
線状レーザ光Lは、測定対象物である鋼板Sの表面に斜めから入射するので、例えば鋼板Sに凹部が存在すると、図1において線状レーザ光Lの反射点は右方向にずれる。その結果、TDIカメラ105の光電変換素子上での光切断画像の位置も、右方向すなわち列方向にずれることになる。このため、縞画像において、この凹部で反射した線状レーザ光Lに対応する光切断画像は、凹部以外の平坦部で反射した線状レーザ光Lに対応する光切断画像よりも時間的に早く出力されることになる。したがって、TDIカメラ105から出力される1次元画像を横方向に順に配列することにより得られる2次元画像において、鋼板Sに存在する凹部は、縞のずれとして認識することができる。例えば、図2において、縞の曲がっている部分は、測定対象物に存在する凹部に対応している。
なお、線状レーザ光Lの鋼板Sへの入射角は、任意の値に設定することが可能であるが、例えば45度とすることが好ましい。入射角を45度とすることで、測定対象物である鋼板Sの深さ変化量が縞の移動量と等しくなり、縞の移動量から容易に鋼板Sに存在する凹部の深さに関する情報を得ることができるためである。
ところで、図3(a)に示したように、例えば測定対象物である鋼板Sに段差21が存在し、段差21の深さが半周期の位相の差である場合を考える。この場合、レーザ光源101から強度変調光を鋼板Sに照射し、TDIカメラ105から得られる測定データに基づいて生成される縞画像は、図3(b)に示すような画像となる。
図3(a)を参照すると、段差21の両側で、縞a−a’、縞b−b’、縞c−c’、・・・という対応関係が成立していることがわかる。しかしながら、図3(b)に示したようなカメラ画像のみでは、例えば縞bは、縞a’に対応する縞であるのか、縞b’に対応する縞であるのかを判定することができない。さらに、TDIカメラ105から得られる信号の情報は位相のみであるため、段差の深さが半周期を超える場合、情報の連続性が失われ、物体表面の形状の測定を困難にする。このような縞の連続性に関する問題は、縞画像を投影する方法においても同様に発生する。
上述のような段差の問題は、形状測定装置10で使用する強度変調の周期(縞の周期)と段差の高さとの関係に起因するものであるため、形状測定装置10において、縞の周期よりも長い周期の正弦波を利用することが考えられる。しかしながら、長周期波のみで物体の測定を行うと、長周期波は空間解像度が低いために、生じる誤差が相対的に大きくなる。従って、本実施形態に係る形状測定装置10が備える演算処理装置200では、長周期波を用いて段差の概略の高さを得ると共に、段差の概略の高さを利用して短周期波の位相を接続するようにし、高精度で表面形状を測定できるようにした。
[演算処理装置の全体構成について]
続いて、図1を参照しながら、本実施形態に係る形状測定装置10が備える演算処理装置の構成について、詳細に説明する。
本実施形態に係る演算処理装置200は、例えば図1に示したように、タイミング信号発生部201と、画像処理部203と、表示部205と、記憶部207と、を主に備える。
タイミング信号発生部201は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、通信装置等により実現される。タイミング信号発生部201は、所定の周波数ωをもつ正弦波形の信号を発生させ、発生させた正弦波形の信号を、レーザ光源101に送出する。レーザ光源101は、外部から入力される信号により、発振強度を連続的に変化させられるものであるため、タイミング信号発生部201から送出された正弦波形の信号を受信することで、正弦波形で出力が変化するレーザ光を発振することが可能となる。すなわち、タイミング信号発生部201は、発生させた正弦波形をレーザ光源101に送出することで、レーザ光源101が発するレーザ光を周期的に変調させることができる。
より詳細には、タイミング信号発生部201は、通常の周期の正弦波(周波数ω1)と、この周波数ω1の正弦波よりも周期の長い正弦波(周波数ω2)とを発生させ、これら2種類の正弦波を加算してレーザ光を変調させる。以下では、通常の周期を有する相対的に短い周期の正弦波(周波数ω1の正弦波)を「短周期波」と称することとし、通常の周期の周波数よりも周期の長い正弦波(周波数ω2の正弦波)を「長周期波」と称することとする。ここで、タイミング信号発生部201は、長周期波の周期を短周期波の周期のK倍となるように、レーザ光を変調させる。
また、タイミング信号発生部201は、上記周波数ω1のM倍の周波数をもつ正弦波形を発生させてカメラシフトパルス信号とし、発生させたカメラシフトパルス信号を、TDIカメラ105に送出する。
以上説明したように、タイミング信号発生部201は、物体撮像装置100に設けられたレーザ光源101およびTDIカメラ105の駆動を制御する駆動制御部であるといえる。
画像処理部203は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。画像処理部203は、物体撮像装置100(より詳細には、物体撮像装置100のTDIカメラ105)から取得した撮像データを利用して生成した縞画像に対して、位相を接続する処理(以下、位相接続処理とも称する。)を含む画像処理を行い、測定対象物である鋼板Sの形状を特定する。画像処理部203は、鋼板Sに対応する縞画像への画像処理が終了すると、得られた鋼板Sの形状に関する情報を、表示部205に伝送する。
なお、この画像処理部203については、以下で改めて詳細に説明する。
表示部205は、例えば、CPU、ROM、RAM、出力装置等により実現される。表示部205は、画像処理部203から伝送された、測定対象物である鋼板Sの測定結果を、演算処理装置200が備えるディスプレイ等の出力装置に表示する。これにより、形状測定装置10の利用者は、搬送されている測定対象物(鋼板S)の表面形状の測定結果を、その場で把握することが可能となる。
記憶部207は、演算処理装置200が備える記憶装置の一例である。記憶部207には、本実施形態に係る演算処理装置200が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベース等が、適宜記録される。この記憶部207は、タイミング信号発生部201、画像処理部203、表示部205等が、自由に読み書きを行うことが可能である。
[画像処理部について]
続いて、図4を参照しながら、本実施形態に係る演算処理装置200が備える画像処理部203について、詳細に説明する。図4は、本実施形態に係る演算処理装置が有する画像処理部の構成を説明するためのブロック図である。
本実施形態に係る画像処理部203は、例えば図4に示したように、信号取得部211と、位相算出部213と、位相接続部215と、形状特定部217と、を主に備える。
信号取得部211は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。信号取得部211は、物体撮像装置100のTDIカメラ105から送出された光切断画像に対応する信号データを取得する。また、信号取得部211は、取得した光切断画像に対応する信号データを用いて、測定対象物である鋼板Sの縞画像を表す信号データを生成する。信号取得部211は、生成した縞画像を表す信号データを、後述する位相算出部213に伝送する。また、信号取得部211は、TDIカメラ105から取得した信号データや、生成した縞画像を表す信号データ等を、記憶部207等に記録してもよい。
位相算出部213は、短周期波および長周期波の2種類の正弦波を加算して変調したレーザ光を鋼板Sへ照射することで得られた縞画像に基づいて、各画素に対応する位相を算出する。以下では、図5および図6を参照しながら、長周期波と短周期波とを加算する2周波加算により撮像した縞画像に対して処理を行う場合を例にとって、位相算出部213の機能について説明する。
図5(a)に示す図は、周波数ω1の短周期波と、短周期波よりも長い周期を有する周波数ω2の長周期波とを加算して変調したレーザ光を鋼板Sに照射して得られた縞画像の一例である。この縞画像の入力画像の1ラインを取り出すと、図5(b)に示す信号が得られる。
図6に、本実施形態に係る位相算出部213における信号処理の動作の概略を示す。図5(b)に示す2周波加算による信号は、短周期信号処理部221と長周期信号処理部223とに入力される。短周期信号処理部221は、入力された信号に対して短周期波と同一の周波数ω1を持つ複素キャリアの実部(Re)および虚部(Im)を乗算して、乗算結果をローパスフィルタ(LPF)225に入力する。さらに、短周期信号処理部221は、ローパスフィルタ225からの出力を、座標変換部227に入力して座標変換し、短周期信号の振幅r1と位相θ1とを算出する。短周期信号の位相θ1が求める位相量であり、位相量の大きさは、測定対象物である鋼板Sの表面形状を高精度に反映するもので、例えば段差の深さに対応する。
長周期信号処理部223は、短周期信号処理部221と同様に、入力された信号に対して長周期波と同一の周波数ω2を持つ複素キャリアの実部(Re)および虚部(Im)を乗算した後、乗算結果をローパスフィルタ229に入力する。さらに、長周期信号処理部223は、ローパスフィルタ229からの出力を、座標変換部231に入力して座標変換し、長周期信号の振幅r2と位相θ2とを算出する。得られた位相θ2は、表面形状を粗く示すもので、本例では、以下に説明するように、短周期波の位相θ1を正しく接続するために位相接続部215により使用される。
ここで、図6に示した信号処理について、一般的な式を用いて説明する。短周期波を周波数ω1の余弦波とし、長周期波を周波数ω2の余弦波とし、縞の変位量をdxとする。この場合、短周期波および長周期波は、それぞれ以下のように表される。
ここで、上述の短周期波および長周期波の単純に加算した場合、観測波形Iaddは、以下の式1のように表される。
ここで、上記式1において2を足しているのは、光強度は負になることはないという条件を満たすためである。さらに、短周期波の位相を算出する際の複素キャリアCは、C=exp(jω1x)であるため、単純加算の場合、複素キャリアを乗算して得られる結果であるIadd×Cは、以下の式2のようになる。
以上のように、乗算結果を成分の和で表すと、直流成分+(ω1−ω2)+ω1+(ω1+ω2)+2ω1となる。
図7は、図6に示した短周期信号処理部221による、短周期波の周波数ω1をローパスフィルタにより取り出す過程をスペクトル領域で示したものである。図7(a)は、縞画像の1ラインの信号のスペクトルを示したものである。縞画像の1ラインの信号のスペクトルは、短周期波の複素周波数の成分±ω1と、長周期信号の複素周波数の成分±ω2と、直流成分と、を含む。この直流成分は、観察される明るさは正の値しかとらないことから、信号の符号を常に正にするように、バイアスをかけた結果である。
次に、短周期信号処理部221が短周期波の複素周波数の成分ω1を持った正弦波Cを乗算することにより、図7(b)に示すように、スペクトル領域では、成分それぞれが右にω1だけ移動する。この結果にローパスフィルタを通すことで、短周期信号処理部221は、複素キャリア乗算前の短周期波成分ω1を取り出すことが可能となる。しかしながら、図7(b)に示したローパスフィルタの通過域をみると、ω1−ω2の成分がローパスフィルタの通過域に入っている。すなわち、このローパスフィルタでは、複素キャリア乗算前の短周期波成分ω1のみを取り出すことはできず、ω1−ω2の成分を含んでしまうことになる。
この影響を、図8により説明する。図8は、ローパスフィルタを通過後の信号のベクトル図である。実軸の周波数零の成分であるベクトルv0は、複素キャリア乗算前の短周期波成分ω1に対応するものであり、この成分は変動しない。しかしながら、ω1−ω2成分は、周波数が零ではないため、対応するベクトルv2は、ベクトル図上で回転することになる。観測されるベクトルは、ベクトルv0とベクトルv2の和であるベクトルv1であるため、ベクトルv2が回転すると、ベクトルv1は変動し、その位相(ベクトルv1の角度)も変化することになる。この結果、位相算出部213による位相算出処理に誤差が生じることとなる。
このように、1枚の画像から長短の周期による信号を分離するためには、ローパスフィルタを使用するが、使用するローパスフィルタによっては、必要な情報を分離できないことがある。しかしながら、図9に示すように、ローパスフィルタのバンド幅を狭くすることにより、必要な情報を得ることができる。これにより、演算処理に若干の負担がかかるものの、短周期波の周波数のみを取り出すことができる。本実施形態に係る位相算出部213は、短周期波のみが通過できる狭い通過域をもつローパスフィルタを用いるものである。
本実施形態に係る位相算出部213は、このようにして算出された位相θ1およびθ2を、後述する位相接続部215に伝送する。また、位相算出部213は、算出した振幅r1およびr2を、位相接続部215に伝送することが好ましい。
位相接続部215は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。位相接続部215は、位相算出部213から伝送された位相を、段差の深さなどの表面形状の情報に正確に対応するように、位相を接続する処理を行なう。
上述のようにして位相算出部213で算出された短周期波の位相は、座標変換部により逆三角関数(より詳細には、arctan)を用いて算出されるものであるため、−πからπまでの値をとる。しかしながら、段差の深さなどが対応する位相において、その位相がπまたは−πを超えて変化した場合には、実際には±π以上の位相を有しているにもかかわらず、算出結果は、−π〜πまでの値となってしまう。その結果、位相算出部213によって算出された位相は、例えば図10の上段に示したように、不連続的に変化することとなる。
そこで、位相接続部215は、位相算出部213から伝送された位相が段差の深さなどの表面形状の情報に正確に対応するように、位相を接続する処理を行なう。その結果、例えば図10の上段に示したような不連続的に変化している位相は、図10の下段に示したような、実際の位相変化を表したような位相となる。位相接続部215は、位相接続処理後の位相を、後述する形状特定部217に伝送する。
なお、位相接続部215が行う位相接続処理については、以下で改めて詳細に説明する。
形状特定部217は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。形状特定部217は、位相接続部215から伝送された位相接続処理後の位相に基づいて、測定対象物の表面に存在する凹みの深さdを算出し、測定対象物の形状を特定する。
ここで、TDIカメラ105における光電変換素子の列方向の撮影分解能をs(mm/画素)とし、線状レーザ光Lの入射角をθとすると、線状レーザ光Lの反射点が長手方向にずれた距離h=d・tanθは、縞画像においてh/s画素に相当する。また、TDIカメラ105のカメラシフト周波数とレーザ光の変調周波数との比がM:1のとき、縞画像において横方向のM画素分が一本の縞を構成する。すなわち、縞がM画素分だけずれたときに、位相のずれは2πとなる。したがって、線状レーザ光Lの反射点が長手方向に距離hずれたときの縞画像データにおける位相のずれΔφは、M/2π=(h/s)/Δφの関係より、以下の式3のようになる。
d={M・s/(2π・tanθ)}・Δφ ・・・(式3)
従って、形状特定部217は、TDIカメラ105の撮影分解能や線状レーザ光Lの入射角θといった物体撮像装置100の設定値と、タイミング信号発生部201から取得した周波数の比Mと、位相接続部215から伝送された位相φと、上記式3とを用いて、測定対象物の表面に存在する凹みの深さdを算出することができる。
厳密には、通常のレンズを用いた場合、撮影分解能sは深さdに応じて変化するため、補正を行う必要があるが、鋼板の凹みを測定する場合のように、レンズ作動距離に対して深さ変化が微小な場合は、かかる撮影分解能sの変化を実用上無視することができる。また、テレセントリックレンズを使えば、撮影分解能sを深さdによらず、一定とすることができる。
形状特定部217は、測定対象物の表面に存在する凹みの深さの算出が終了すると、測定対象物の形状を表す算出結果を、表示部205に伝送する。
[演算処理装置の変形例について]
以上、本実施形態に係る画像処理部203の構成について、詳細に説明した。
なお、先に説明した本実施形態に係る演算処理装置200は、狭帯域ローパスフィルタを用いることにより、従来の方法では測定ができなかった深い段差を、高精度で測定することができる。しかしながら、測定対象に傾きがある場合には、傾きに応じて位相差の変化が増大し、所望の位相がうまく取り出せないことが生じうる。
図11は、測定対象物が平坦な場合と傾いている場合とで周波数が変化することを説明するための説明図である。レーザ光源からの投射光Lを、平坦な測定対象物p1に入射させて、周期信号s1を得るものとする。ここで、測定対象が傾斜している場合、同じ測定装置を用いて、傾斜している測定対象物p2にレーザ光源からの投射光Lを入射させると、周期パターンの変位量は場所により変化するため、図11に示したように、得られる周期信号s2の周波数は、平坦な測定対象物p1に入射させた場合に比べて変化する。この結果は、縞パターンを投影する方法でも同様である。
図11に示したように測定対象が傾いている場合は、縞の変位量dxは位置xを用いて、dx=αx(αは比例定数)と表せる。したがって、単純加算の場合、観測波形の式Iaddは、以下の式4のようになる。以下の式4から明らかなように、周波数ω1,ω2は、傾斜が存在することによって、(1+α)倍されることとなる。
この観測波形のスペクトルを、図12(a)に示す。図7(a)に示した平坦な場合の観測波形のスペクトルと比較して、周波数が(1+α)倍となっていることがわかる。この信号に対して画像処理部203で処理を行ない、図9に示した狭帯域ローパスフィルタを通す処理を、図12(b)に示す。図12(b)からわかるように、図9に示したような狭い通過域をもつローパスフィルタでは、フィルタの通過域に短周期波が含まれなくなり、短周期波成分を取り出すことができなくなる。
先に説明したように、周期パターンを短周期と長周期との単純加算で構成した場合、測定対象が平坦な場合であれば、通過域を狭くしたローパスフィルタを使用することにより、深い段差があっても段差の深さを測定できる。しかしながら、測定対象物に傾斜がある場合には、段差の深さが正確に求められない場合がある。
以下では、狭帯域のローパスフィルタを用いることなく、段差の深さを正確に測定可能な、本実施形態に係る演算処理装置200の変形例について説明する。本変形例に係る演算処理装置は、短周期波を振幅変調(Amplitude Modulation:AM変調)して、長周期信号を重畳する。
まず、図13(a)に示すように、タイミング信号発生部201によりAM変調された線状のレーザ光Lを移動している測定対象物である鋼板Sに照射して、TDIカメラ105で撮像したもの等から、1枚の縞画像を得る。縞画像の1ライン分の波形を図13(b)に示す。図13(b)は、図13(a)の縞画像の1ラインxを取り出した場合の波形である。ここで、短周期波は、サンプリング周波数の1/4(0.25倍)の周波数であり、長周期波は、サンプリング周波数の1/16(0.0625倍)の周波数となっている。すなわち、長周期波の周期は、短周期波の周期に対して4倍になっている。
図14は、本変形例に係る演算処理装置200の画像処理部203が備える位相算出部213における信号処理の動作の概略を示す。まず、図13(b)に示した信号は、位相算出部213の短周期信号処理部221に入力される。短周期信号処理部221は、入力された信号に対して短周期波と同一の周波数ω1をもつ複素キャリアの実部(Re)および虚部(Im)を乗算して、乗算結果をローパスフィルタ(LPF)225に入力する。さらに、短周期信号処理部221は、ローパスフィルタ225からの出力を、座標変換部227に入力して座標変換し、短周期波の位相θ1と振幅r1とを算出する。得られた位相θ1が短周期波の位相であり、表面形状を高精度に反映している情報である。
短周期信号処理部221により得られた振幅r1は、位相算出部213の長周期信号処理部223に入力される。算出された振幅r1は、長周期波の周波数ω2により周期的に変化するものであるため、長周期信号処理部223は、入力された位相r1に対して長周期波と同一の周波数ω2をもつ複素キャリアの実部(Re)および虚部(Im)を乗算して、乗算結果をローパスフィルタ229に入力する。さらに、長周期信号処理部223は、ローパスフィルタ229からの出力を、座標変換部231に入力して座標変換し、長周期信号の振幅r2と位相θ2とを算出する。得られた位相θ2は、測定対象物である鋼板Sの表面形状を粗く示すもので、短周期波の位相θ1を正しく接続するために、位相接続部215により用いられる。
ここで、図14に示した信号処理について、一般的な式を用いて説明する。AM変調された観測波形Iamは、以下の式5のように表される。ここで、以下式5において、Aは、変調度を表すパラメータであり、0〜1の値をとるものである。
ここで、上記式5において2を足しているのは、光強度は負になることはないという条件を満たすためである。さらに、短周期波の位相を算出する際の複素キャリアCは、C=exp(jω1x)であるため、複素キャリアを乗算して得られる結果であるIam×Cは、以下の式6のようになる。
以上のように、乗算結果を成分の和で表すと、−ω2+直流成分+ω2+ω1+(2ω1−ω2)+2ω1+(2ω1+ω2)となる。
図15に、縞画像の1ラインの信号のスペクトルを示したものである。図15(a)は、AM変調を受けた観測波形Iamのスペクトルである。ここで、直流成分は、観測光の強度は負にはならないことから、得られた信号が負にならないように、バイアスをかけた結果である。
AM変調の結果、短周期波の両側に長周期波の周波数分(0.625)だけ離れて側波帯が現れる。図15(b)は、複素キャリアCを乗算した結果である。図15(b)に示したスペクトルは、図15(a)に示したスペクトルから右方向に0.25だけ移動している。このとき、ローパスフィルタの通過域には、±ω2の成分が含まれているが、単純加算の場合とは異なり、これらは原点に対称に現れている。
図16は、ローパスフィルタ通過域における信号のベクトル図である。実軸上にある周波数が零の成分、すなわち短周期波の位相θ1は変化しない。また、長周期波の成分±ω2は振動するものの、反対方向に回転するベクトルと考えられるため、互いに打ち消しあって、短周期波の位相θ1には影響を与えない。したがって、本変形例に係る画像処理部203では、狭帯域のローパスフィルタを用いることなく、主キャリアの位相θ1を求めることができる。
ここで、振幅r1は、長周期波の成分±ω2のベクトルの回転によって、伸縮する。すなわち、短周期信号処理部221で得られた振幅r1は、長周期波の周波数ω2で周期的に変動する。したがって、この信号r1の位相を求める処理を、先に説明したように、長周期信号処理部223で行なう。長周期信号処理部223は、短周期信号処理部221と同様に、長周期波と同一の周波数をもつ正弦波を乗算して、得られた乗算結果をローパスフィルタ229に入力する。また、長周期信号処理部223は、ローパスフィルタ229からの出力に対して座標変換し、長周期信号の位相θ2を得ることができる。この場合は、単一の正弦波の位相を取り出すことに相当するため、この処理においても、本変形例では、ローパスフィルタとして狭帯域のものを使用せず、通常の通過領域を有するローパスフィルタを使用することが可能である。通常の通過領域を有するローパスフィルタは、低コストで構成することが可能であり、また、処理に要する計算量を削減することができる。
本変形例に係る位相算出部213は、このようにして算出された位相θ1およびθ2を、位相接続部215に伝送する。また、位相算出部213は、算出した振幅r1およびr2を、位相接続部215に伝送することが好ましい。
本変形例に係る位相接続部215は、第1の実施形態に係る位相接続部215と同様に、以下で改めて詳細に説明する位相接続処理に基づいて、位相算出部213から伝送された位相を、段差の深さなどの表面形状の情報に正確に対応するように位相の接続処理を行なう。
このように、本変形例に係る演算処理装置200では、振幅変調されたレーザ光を用いることにより、測定対象が傾いている場合であっても段差の深さを正確に測定することが可能である。
以上、本実施形態に係る演算処理装置200の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
なお、上述のような本実施形態に係る演算処理装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
<形状測定方法の全体的な流れについて>
続いて、図17を参照しながら、本実施形態に係る形状測定装置が実施する形状測定方法の全体的な流れについて、詳細に説明する。図17は、本実施形態に係る形状測定方法の全体的な流れを説明するための流れ図である。
まず、本実施形態に係る形状測定装置10に設けられた物体撮像装置100は、線状レーザ光Lが照射されている移動物体(例えば、鋼板S)をTDIカメラ105で撮像する。形状測定装置10に設けられた演算処理装置200の画像処理部203(より詳細には、信号取得部211)は、TDIカメラ105により撮像された撮像画像に対応する信号を取得して、1枚の縞画像を生成する(ステップS11)。その後、信号取得部211は、生成した縞画像の信号を、位相算出部213に伝送する。
演算処理装置200の位相算出部213は、信号取得部211から伝送された縞画像の信号に対して図6または図14に示したような信号処理を実施し、信号に含まれる短周期波および長周期波の振幅と位相とを算出する(ステップS13)。位相算出部213は、算出した短周期波および長周期波の位相等を、位相接続部215に伝送する。
演算処理装置200の位相接続部215は、位相算出部213から伝送された位相等に基づいて、長周期波の位相を利用した短周期波の位相接続処理を実施する(ステップS15)。この位相接続処理については、以下で改めて詳細に説明する。位相接続部215は、接続後の短周期波の位相を、形状特定部217に伝送する。
演算処理装置200の形状特定部217は、位相接続部215から伝送された接続後の短周期波の位相を、先に説明した式3等を利用して、移動物体に存在する段差の深さに変換する(ステップS17)。これにより、演算処理装置200は、測定した鋼板などの移動物体の形状(表面形状)を高精度に計測することができる。
<位相接続処理について>
続いて、図18〜図25を参照しながら、本実施形態に係る演算処理装置200(より詳細には、位相接続部215)において実施される位相接続処理について、詳細に説明する。
[位相接続処理の概要について]
まず、図18および図19を参照しながら、位相接続処理の概要について説明する。図18および図19は、位相接続処理について説明するための説明図である。
位相接続部215で行われる位相接続処理は、観測された位相(これは、図10の上段に示したように、真の位相の大きさに関わらず−π〜πの範囲の値をとるものである。)を利用して、真の位相の傾き(すなわち、縞画像における互いに隣接する位置での真の位相間の差分)を決定する処理である。
○表記の定義
以下の説明では、例えば図2に示したような縞画像において、縞を構成する画素の位置を特定するために、便宜的にi,jという2つの座標軸を考える。ここで、座標軸iと座標軸jとは互いに直行する軸である。例えば、図2に示したような縞画像において、縦方向または横方向のどちらか一方を座標軸iとし、他方を座標軸jとすることが可能である。また、以下の説明では、iおよびjという表記を、各座標軸上での位置を表すパラメータとしても使用する。
また、以下の説明では、実際に観測された位相(以下、観測位相とも称する。)をψi,j(−π≦ψi,j<π)と表すこととし、位相接続処理により求めるべき真の位相をφi,jと表すこととする。また、観測位相ψi,jの2種類の差分Δxi,jおよびΔyi,jを、以下の式101および式102のように定義する。
Δxi,j=R(ψi+1,j−ψi,j) ・・・(式101)
Δyi,j=R(ψi,j+1−ψi,j) ・・・(式102)
ここで、上記式101および式102において、R(・)は、代入された値に対して2πの整数倍を加算または減算し、値を[−π,π)の範囲(−π以上π未満)に収める演算である。例えば、このR(・)に(−4π/3)が代入されると、R(−4π/3)=(2π/3)が出力されることとなる。
なお、以下の説明において、ψi,j、φi,j、Δxi,j、Δyi,jという表記のi,jという添え字を省略する場合があるので、注意されたい。
○観測位相ψi,jと真の位相φi,jとの関係
先にも説明したように、位相接続部215で実施される位相接続処理は、観測位相ψi,jに基づいて真の位相φi,jの差分を決定する処理である。この処理を行うにあたって、算出した真の位相φi,jが、正しい値であるのか否かを判断する条件が必要となる。この条件は、「観測位相ψにノイズが存在せず、真の位相φについて、隣接する位置での位相の差の絶対値がπよりも小さい」というものである。この条件を満たす場合、観測位相ψの差分であるΔxおよびΔyは、それぞれ真の位相φのX方向差分およびY方向差分と等しくなる。
例えば図18の上側に示したように、算出した真の位相φi,jが観測位相ψi,jと等しい場合について考える。このとき、位置(i,j)のj方向に沿って隣接する位置(i,j+1)の観測位相ψi,j+1が、ψi,j+1=φi,j+α−2πであるとする。j方向に沿った観測位相ψの差分は、図18から明らかなように、ψi,j+1−ψi,j=α−2πである。そのため、Δyi,j=R(ψi,j+1−ψi,j)=αとなる。
ここで、αがπよりも小さい値であれば、先に説明した条件によりΔyi,jが真の位相のY方向差分と等しいこととなり、図18の下側に示したように、位置(i,j+1)における真の位相φi,j+1は、φi,j+1=φi,j+αとなる。
従って、位相接続部215は、任意の点を起点として、先に説明したような条件を利用しながら差分を積算していくことで、真の位相φを求めることが可能である。
しかしながら、観測位相ψにノイズがある場合、算出したΔx,Δyと差分が一致する真の位相φが存在しない場合がある。例えば、i×j=3×3個の格子点を考え、各jにおける観測位相ψが、図19の左側に示したようなものであり、格子点の中央i=2,j=2にノイズが存在する場合を考える。このノイズの存在により、i=2,j=2における観測位相ψ2,2は、大きな負の値となっているものとする。
ここで、ψ2,2−ψ1,2が−πより大きい負の値である場合、Δx1,2は負となる。また、ψ3,2−ψ2,2は+πより大きな正の値となり、Δx2,2も負となる。このようにΔx,Δyを計算して勾配方向を図示すると、図19の右側のようになる。図から明らかなように、位相接続部215により行われる積算の経路(順序)が変わると、積算する値が正の値となったり負の値となったりするため、積算する経路によって、真の位相φの値が異なることになる。
従って、観測位相にノイズが存在する場合、位相接続部215は、全ての位置においてΔxi,j,Δyi,jと差分が一致するような真の位相φを算出することができないため、真の位相φを算出するために、差分の誤差を最小化する処理である最小二乗法を行う。
○重みなし最小二乗法を用いた位相接続処理
本実施形態に係る位相接続部215では、重み付き最小二乗法を用いて観測位相の接続を行うが、この重み付き最小二乗法を用いた位相接続処理を説明するに先立ち、重み付き最小二乗法の基本となる重みなし最小二乗法を用いた位相接続処理について、まず説明する。
差分の誤差を最小化するためには、求めるべき値を変数とし観測された値を定数とする、求めるべき値と観測された値との差分で表される関数を生成し、この関数を最小化することを考えればよい。そこで、重みなし最小二乗法を用いた位相接続処理を行う際には、求めるべき値である真の位相φi,jの差分を変数とし、観測された値である観測位相ψi,jの差分を定数とする関数を考えればよい。ここで、求めるべき値と観測された値との差分で表される関数として、以下の式11で表される差分の二乗和を用いた関数Jを使用する。以下では、この関数Jのことを、評価関数Jと称することとする。
上記式11の右辺を参照すると明らかなように、右辺第1項は、変数として扱われる真の位相の差分(φi+1,j−φi,j)と、定数として扱われる観測位相であるΔxi,jとの差分(すなわち、真の位相の差分と観測位相の差分との誤差)の二乗となっている。同様に、右辺第2項は、変数として扱われる真の位相の差分(φi,j+1−φi,j)と、観測位相であるΔyi,jとの差分の二乗となっている。また、上記式11における総和は、全ての格子点(i,j)に対して行われるものである。
式11から明らかなように、評価関数Jは常に0以上の値をとる関数であり、この評価関数Jが最小(すなわち、J=0)となるのは、全ての格子点(i,j)について、真の位相の差分が観測位相の差分と一致したときである。そのため、かかる評価関数Jの値を最小化する変数の値を求めることで、実際の観測位相の差分を正しく反映した真の位相φの差分を得ることができる。
上記式11では、評価関数Jを差分の形で表記したが、この評価関数Jは、積分の形で表すこともできる。この場合、評価関数Jは、以下の式12のように表される。
ここで、上記式12において、φx、Δxは、それぞれ、求めるべき真の位相のx方向微分および観測位相の差分のx方向微分であり、φy、Δyは、それぞれ、求めるべき真の位相のy方向微分および観測位相の差分のy方向微分である。
積分型で評価関数Jを表記した場合、式12の最小化する変数を求める処理は、変分法を用いて未知関数φ(x,y)を求める問題に帰着する。評価関数Jは、差分の二乗和として表されることから常に正の値をとる関数であり、この変分法を用いた処理は、未知関数φ(x,y)の微小変化に対して、評価関数Jの変動量がゼロになるφ(x,y)を求める問題に帰着することとなる。この問題を数式で表わすと、以下の式13に示すオイラー・ラグランジュ方程式(Euler−Lagrange equation)となるため、式12を最小化する変数を求める問題は、結局、以下の式14で表されるポアソン方程式(Poisson equation)に帰着することとなる。
ここで、上記式14において、φxxおよびΔxxは、それぞれ、真の位相φおよび観測位相の差分Δの変数xによる2階微分であり、φyyおよびΔyyは、それぞれ、真の位相φおよび観測位相の差分Δの変数yによる2階微分である。これらの2階微分を、差分の形で表記すると、以下の式15〜式18となる。
φxx:(φi+1,j−φi,j)−(φi,j−φi−1,j) ・・・(式15)
φyy:(φi,j+1−φi,j)−(φi,j−φi,j−1) ・・・(式16)
Δxx:Δxi,j−Δxi−1,j ・・・(式17)
Δyy:Δyi,j−Δyi−1,j ・・・(式18)
従って、式14で表されるポアソン方程式を差分の形で表記すると、以下の式19となり、この方程式の解を求めるためには、全てのφi,jについて、連立方程式を解けばよいこととなる。
φi+1,j+φi−1,j+φi,j+1+φi,j−1−4φi,j
=Δxi,j−Δxi−1,j+Δyi,j−Δyi,j−1 ・・・(式19)
ここで、式19で表される連立方程式を解くための方法として、例えば、いわゆる反復法や直接法を用いることが可能である。反復法の例として、ヤコビ(Jacobi)法、ガウス・ザイデル(Gauss−Seidel)法、逐次過緩和(Successive Over Relaxation:SOR)法および共役勾配法(Conjugate Gradient Method)等を挙げることができる。また、直接法の例として、LU分解(Lower−Upper decomposition)等を挙げることができる。なお、これらの方法は、あくまでも一例であって、上述の方法以外の解法を適宜利用することが可能である。また、以下の説明では、式19で表される連立方程式を、反復法を用いて解く場合について説明するが、かかる場合に限定されるわけではない。
ここで、上記式19で表される連立方程式を、ガウス・ザイデル法を用いた反復演算により解く場合を考える。k回目の反復における未知関数φi,jをφi,j(k)と表記することとすると、ガウス・ザイデル法での反復演算では、添え字にi−1またはj−1を含むものについては、(k+1)回目の値を利用することができる。従って、ガウス・ザイデル法を用いて式19を解く場合、上記式19は、以下の式20のように変形することができる。
式20を解く場合、X方向の格子点数をNxとすると、i=1〜Nxとなり、Y方向の格子点数をNyとすると、j=1〜Nyとなるため、境界(すなわち、i=1またはi=Nxまたはj=1またはj=Nyである位置)の計算に必要な境界外の値、すなわちφ0,1,φNx+1,1等の扱いを考慮する必要がある。境界の扱いとして、以下の1)または2)に示す何れかの条件を用いることが好ましい。
1)境界では、位相の傾きはゼロである。
φ0,1=φ1,1=φ0,1、Δx0,1=Δy1,0=0 等
2)境界では、以下のような対称性が成り立つ。
φ0,1=φ2,1、φ1,0=φ1,2、Δx0,1=−Δx1,1、Δy1,0=−Δy1,1
このような条件を用いて式20を解くことで、真の位相φi,jを一括して算出することが可能となる。
○重み付き最小二乗法を用いた位相接続処理
先に説明した重みなし最小二乗法を用いた位相接続処理であるが、測定対象物の表面に段差等が存在し、先に説明した「真の位相φについて、隣接する位置での位相の差の絶対値がπよりも小さい」という条件が成立しないような場所や、測定対象物の表面に汚れ等の黒い部分が存在し、部分的に縞画像が取得できない場所(すなわち、位相のノイズ成分が大きい部分)が存在する場合等には、かかる場所の周囲において、接続後の位相に誤差が生じることとなる。そこで、本実施形態に係る位相接続部215は、以下で説明するような重み付き最小二乗法を用いた位相接続処理を行うことで、上述のような位相に誤差が生じる場所であっても、高精度に真の位相を算出することができる。
例えば、図20(a)に示したような鋼板などの測定対象物を考える。この測定対象物の一端には図20(a)に示したような切れ目が存在し、測定対象物には、上側に反り返っている領域(領域A)と、下側に反り返っている領域(領域B)とが存在するものとする。このような場合における位相画像(例えば、位相が+πのときに画像が白くなり、−πのときに画像が黒くなるような濃淡画像)は、図20(b)に示したように、領域Aおよび領域Bがつながっている左端部では、画像は互いに類似した濃さとなって表され、領域Aでは右端部に進むほど濃さが薄くなり、領域Bでは右端部に進むほど濃さが濃くなるものと推測される。
図20(b)に示したような位相を算出することができるように、本実施形態に係る位相接続部215では、図20(a)に示したような物理的な切れ目の存在する場所に対応する数式に対して、図20(c)に示したような数学的な切れ目を導入し、誤差が生じる場所を演算の処理対象領域から除外する。
上述のような数学的な切れ目を導入するために、本実施形態に係る位相接続部215は、先に説明した評価関数Jを以下の式103のように変更する。
ここで、上記式103において、φ、Δx、Δyは、重みなし最小二乗法の場合と同様であり、W(i,j)(0≦W(i,j)≦1)は、位置(i,j)の重みである。この重みW(i,j)の値を、位置(i,j)それぞれについて変化させることで、本実施形態に係る位相接続部215は、評価関数Jに対して数学的な切れ目を導入する。すなわち、位相接続部215は、段差等の存在により位相差の絶対値に関する条件が成立しない場所や、位相のノイズ成分が大きな場所に対しては、重みW(i,j)の値を計算精度の範囲内で1に比べてほぼ0とみなすことが可能な予め定められた値以下の正の値、例えば0.001などの0に近い値に設定し、通常の場所(上述のような場所以外の部分)では、重みW(i,j)の値を1とする。
かかる重みW(i,j)を導入することで、差分型の表記を行った評価関数Jの式(評価関数Jの離散化解を与える式)は、以下の式104のように、各格子点の重みW(i,j)が掛かった形となる。
本実施形態に係る位相接続部215は、位相算出部213から、長周期波の観測位相ψ(図6または図14におけるθ2)および短周期波の観測位相ψ(図6または図14におけるθ1)の2種類の観測位相が伝送される。そのため、位相接続部215は、長周期波の観測位相ψi,jおよび短周期波の観測位相ψi,jのそれぞれについて、上記式104に示した重み付き最小二乗法に基づく位相接続処理を行う。なお、以下の説明では、式104で表される連立方程式を、反復法を用いて解く場合について説明するが、かかる場合に限定されるわけではない。
以下、位相接続部215で実施される位相接続処理を具体的に説明する。
位相接続部215は、まず、位相算出部213から伝送された長周期波の観測位相ψi,jを利用して、式104に基づく位相接続処理を行う。この際に、位相接続部215は、長周期波の真の位相φi,jの初期値を0として、重み付き最小二乗法を行う。
また、位相接続部215は、式104における長周期波の各格子点(i,j)の重みW(i,j)を、位相算出部213から伝送された長周期波の振幅(図6または図14におけるr2)に基づいて予め設定しておく。例えば、位相接続部215は、各格子点(i,j)における長周期波の振幅r2を参照して、振幅r2が、所定の閾値thr1以下となっているか否かを判断する。位相接続部215は、振幅r2が上述のような条件を満たす場合、該当する格子点(i,j)が除外すべき部分であると判断し、重みW(i,j)の値を0に近い値に設定する。また、位相接続部215は、振幅r2が上述のような条件を満たさない場合には、該当する格子点(i,j)は除外すべき部分ではないと判断し、重みW(i,j)の値を1とする。
ここで、位相接続部215は、重みW(i,j)を、長周期波の振幅の大きさに応じて連続的に変化させてもよく、上述の条件を満たしたか否かに基づいて0に近い値か1かのいずれかを値を用いるようにしてもよい。重みW(i,j)の値を0に近い値または1の2値とする場合には、位相接続部215は、上述の条件を満たした場合に重みW(i,j)を0に近い値とし、条件を満たさない場合に重みW(i,j)を1とする。
このようにして決定された重みW(i,j)と真の位相φi,jの初期値とに基づき、位相接続部215は、位相算出部213から伝送された長周期波の観測位相ψi,jの位相接続処理を実施し、長周期波の真の位相φi,jを算出する。
位相接続部215は、長周期波の位相接続処理が終了すると、続いて、短周期波の位相接続処理を実施する。ここで、本実施形態に係る形状測定装置10では、タイミング信号発生部201により、長周期波の周期が短周期波の周期のK倍となるように変調されている。その結果、長周期波の1周期は短周期波のK周期に対応するため、位相接続後の長周期波の位相をK倍したものが、理想的な条件における短周期波の接続後の位相(すなわち、求めるべき真の位相φ)となるはずである。そこで、位相接続部215は、長周期波の位相接続処理(重み付き最小二乗法を利用した位相接続処理)により得られた真の位相φi,jをK倍したものを、短周期波の真の位相φi,jの初期値とする。このようにして位相の初期値を設定することで、初期値0から反復法による演算を繰り返すよりも、反復回数を削減することが可能となる。
また、位相接続部215は、長周期波の場合と同様にして、式104における短周期波の各格子点(i,j)の重みW(i,j)を、位相算出部213から伝送された短周期波の振幅(図6または図14におけるr1)に基づいて予め設定しておく。例えば、位相接続部215は、各格子点(i,j)における短周期波の振幅r1を参照して、振幅r1が、所定の閾値thr2以下となっているか否かを判断する。位相接続部215は、振幅r1が上述のような条件を満たす場合、該当する格子点(i,j)が除外すべき部分であると判断し、重みW(i,j)の値を0に近い値に設定する。また、位相接続部215は、振幅r1が上述のような条件を満たさない場合には、該当する格子点(i,j)は除外すべき部分ではないと判断し、重みW(i,j)の値を1とする。
ここで、位相接続部215は、長周期波の場合と同様に、重みW(i,j)を、短周期波の振幅の大きさに応じて連続的に変化させてもよく、上述の条件を満たしたか否かに基づいて0か1かのいずれかを値を用いるようにしてもよい。
また、位相接続部215は、短周期波の振幅に応じて重みW(i,j)を決定するだけでなく、長周期波の真の位相に基づいて算出された短周期波の真の位相の初期値に応じて、重みW(i,j)を決定することが好ましい。例えば、位相接続部215は、算出された短周期波の真の位相の初期値の変化を算出し、この位相の初期値の変化が大きい箇所(位相の初期値の変化が所定の閾値以上となる箇所)を特定する。位相の初期値の変化を表す値として、例えば、格子点(i,j)での位相と、この格子点(i,j)に隣接する格子点での位相との間の差分の絶対値和|φi+1,j−φi,j|+|φi,j+1−φi,j|を用いることができる。
長周期波の位相(真の位相)は、測定対象物の表面形状の概略を反映するものである。そのため、長周期波の真の位相に基づいて算出された初期値の変化が大きいということは、該当する位置(i,j)において、大きな段差等が存在する可能性があることを示唆している。そのため、位相接続部215は、位相の初期値の変化が大きい箇所の重みW(i,j)を0に近い値に設定する。この場合にも、位相接続部215は、重みW(i,j)を初期値の変化に応じて連続的に変化させてもよく、所定の閾値との関係に応じて0に近い値または1のいずれかの値に設定してもよい。このように、位相接続部215は、短周期波の位相接続処理に関し、短周期波の振幅だけでなく位相の初期値の変化に応じて、重みW(i,j)の値を決定する。
また、位相接続部215は、短周期波に関する重みWを算出する際に、短周期波の振幅から算出された重みW1と上述の差分の絶対値和から算出された重みW2との積W1×W2を用いても良い。この場合には、位相接続部215は、短周期波の振幅が小さいところまたは大きな段差が存在する可能性があるところにおいて、重みW(i,j)を0に近い値に設定し、それ以外の場所では重みW(i,j)を1とすることになる。
位相接続部215は、上述のようにして短周期波の初期値および重みW(i,j)を決定し、式104に基づく重み付き最小二乗法による位相接続処理を行って、短周期波の真の位相φi,jをまとめて算出する。このようにして算出された短周期波の真の位相φi,jが、測定対象物の表面形状を表した求めるべき位相であるため、位相接続部215は、算出した接続後の短周期波の位相φを、形状特定部217に伝送する。
また、位相接続部215は、反復法を用いて式104で表される方程式を解く場合、k回目の反復で得られた位相φi,jと、(k−1)回目の反復で得られた位相φi,jとの差分を算出し、算出した差分が所定の閾値以下となった場合に、位相φi,jの値が収束したと判断し、反復を終了してもよい。また、位相接続部215は、位相φi,jについて所定の反復回数分だけ反復を行った後、位相φi,jが収束しているか否かに関わらず反復を終了してもよい。この場合、反復回数の上限は、各種の統計処理等を利用して予め設定しておくことが可能である。
位相φi,jの値が収束するまで反復を行うことで、位相接続部215は、求めるべき位相φi,jを、極めて高精度に算出することが可能となる。また、反復回数の上限を予め設定し、この上限を超えた場合に収束の如何に関わらず反復を終了することで、入力された縞画像によらず演算に要するコストを一定とすることができる。また、1回の位相接続処理に要する演算時間を見積もることが可能となるため、本実施形態に係る形状測定装置10を、製造ライン上で使用することも可能となる。
なお、式104を解く際にあたって、方程式を解くための手法や境界の扱い等については、重みなし最小二乗法を用いた位相接続処理と同様である。
また、上述の説明では、段差等の存在により位相差の絶対値に関する条件が成立しない場所や、位相のノイズ成分が大きな場所を、位相算出部213が算出した振幅の大きさに基づいて特定する場合について説明したが、かかる場所を特定する方法は、上述の方法に限定されるわけではない。例えば、位相接続部215は、位相算出部213により算出された長周期波の位相波形を微分し、得られた微分波形を解析することで、上述のような場所を特定してもよい。また、位相接続部215は、測定対象物を撮像した撮像画像の画素値に基づいて、上述のような場所を特定してもよい。
[1次元の位相接続処理の具体例]
続いて、図21および図22を参照しながら、本実施形態に係る重み付き最小二乗法を用いた位相接続処理をについて、観測位相および真の位相が1次元である場合を例にとって、具体的に説明する。図21および図22は、本実施形態に係る位相接続処理の具体例を説明するための説明図である。
なお、以下では、比較のために、重みなし最小二乗法を用いた場合と、重み付き最小二乗法を用いた場合の双方について、説明する。
○演算条件
ここで、実際の位相(正しい位相)φ1〜φ5および観測位相ψ1〜ψ5は、図21に示したように、それぞれ以下のような値であるものとする。
[φ1,φ2,φ3,φ4,φ5]
=[0,(2/3)π,(4/3)π,(6/3)π,(8/3)π]
[ψ1,ψ2,ψ3,ψ4,ψ5]
=[0,(2/3)π,−(2/3)π,0,(2/3)π]
上述の観測位相ψ1〜ψ5より、Δx1〜Δx4は、以下のようになる。
[Δx1,Δx2,Δx3,Δx4]
=[(2/3)π,(2/3)π,(2/3)π,(2/3)π]
また、境界においては、先だって説明した2)の条件(対称の条件)に基づき、以下のような条件を与えるものとする。
φ0=φ2、φ6=φ4、Δx0=−Δx1、Δx5=−Δx4
○重みなし最小二乗法の場合
先に説明した式14より、考慮すべき方程式は、φxx=Δxxである。したがって、本例の場合には、評価関数Jの離散化解を与える式は、以下の式21のようになる。
φi+1+φi−1−2φi=Δxi−Δxi−1 ・・・(式21)
したがって、式21をガウス・ザイデル法等の反復法で解く場合、その反復式は、以下の式22となる。
φi(k+1)
=(1/2)×(φi+1(k)+φi−1(k+1)−Δxi+Δxi−1)
・・・(式22)
本例の場合、上記式22を具体的に書き下すと、以下のようになる。
φ1(k+1)=(1/2)(2φ2(k)−2Δx1)
=φ2(k)−(2/3)π ・・・(式23)
φ2(k+1)=(1/2)(φ1(k+1)+φ3(k)) ・・・(式24)
φ3(k+1)=(1/2)(φ2(k+1)+φ4(k)) ・・・(式25)
φ4(k+1)=(1/2)(φ3(k+1)+φ5(k)) ・・・(式26)
φ5(k+1)=(1/2)(2φ4(k+1)+2Δx3)
=φ4(k+1)+(2/3)π ・・・(式27)
真の位相φの初期値としては、
φ1(0)=φ2(0)=φ3(0)=φ4(0)=φ5(0)=0
を与えるものとする。
式23〜式27を、上述の初期値に基づいて反復演算すると、φ1〜φ5は、それぞれ以下の値に収束した。
φ1(∞)=−(5/3)π
φ2(∞)=−π
φ3(∞)=−(1/3)π
φ4(∞)=(1/3)π
φ5(∞)=π
収束値と、実際の位相φの値とを比較すると、得られた収束値は、定数分を除いて正しいことがわかる。すなわち、得られた収束値に対して、一律に(5/3)πを加算すると、実際の位相φの値となっている。
このように、式14に示したようなポアソン方程式に基づく位相接続処理では、Δx1〜Δx4のように観測位相の差分のみを与えて演算を行い、得られる結果は2点間の傾きが各Δxと一致するような値に収束するため、定数分の任意性がある。
○重み付き最小二乗法の場合
重み付き最小二乗法の例では、φ3の位置で段差が存在しているものと仮定し、演算を行うこととする。また、重みWは、0または1の2値であるとする。この場合、重みWは、W1=W2=W4=W5=1、W3=0となる。また、重みWに対しても対称の条件を考慮し、W0=W1であるとする。
本例の場合、式104より、評価関数Jの離散化解を与える式は、以下のようになる。
W1(φ2−φ1)−W0(φ1−φ0)=W1Δx1−W0Δx0
→ φ2−φ1=Δx1 ・・・(式105)
W2(φ3−φ2)−W1(φ2−φ1)=W2Δx2−W1Δx1
→ φ3+φ1−2φ2=Δx2−Δx1 ・・・(式106)
W3(φ4−φ3)−W2(φ3−φ2)=W3Δx3−W2Δx2
→ φ2−φ3=−Δx2 ・・・(式107)
W4(φ5−φ4)−W3(φ4−φ3)=W4Δx4−W3Δx3
→ φ5−φ4=Δx4 ・・・(式108)
W5(φ6−φ5)−W4(φ5−φ4)=W5Δx5−W4Δx4
→ φ4−φ5=−Δx4 ・・・(式109)
上記式105〜式109より明らかなように、φ1〜φ3に関する式105〜式107には、φ4およびφ5という変数は存在せず、φ4およびφ5に関する式108および式109には、φ1〜φ3という変数が存在していないことがわかる。このように、重みW3=0とすることで、φ1〜φ3と、φ4およびφ5との間で関連性をなくし、処理対象を、φ1〜φ3の領域と、φ4およびφ5の領域とに分割することができる。
ここで、初期値としてφ1=φ2=φ3=0、φ4=φ5=4π(すなわち、φ3とφ4との間に高さ4πの段差が存在することを表す初期値)を与え、反復演算を行うと、以下のような収束値が得られた。また、得られた収束値を模式的に図示すると、図22のようになる。
φ1(∞)=−π
φ2(∞)=−(1/3)π
φ3(∞)=(1/3)π
φ4(∞)=(10/3)π
φ5(∞)=4π
図22から明らかなように、各位相間の差分は、与えられた観測位相の差分である(2/3)πに一致していることがわかる。また、φ1〜φ3と、φ4およびφ5とを比較すると、この2つの領域間で、位相の段差が約4πとなっていることがわかる。この結果から、重み付け最小二乗法を用いた位相接続処理を行うと、初期値で与えられた段差が保存されることがわかる。
本実施形態に係る位相接続部215による位相接続処理では、短周期波の位相を接続する際に、測定対象物の表面形状の概略を反映している長周期波の接続後の位相を用いて、位相の初期値の生成を行う。そのため、位相接続部215による位相接続処理では、短周期波の位相接続処理を行う際に、適切な段差の情報を含む初期値が設定されることとなる。したがって、上記の具体例からも明らかなように、位相接続部215は、重みWを適切に選択して重み付け最小二乗法による位相接続処理を行うことで、測定対象物の表面に大きな段差等が存在したとしても、正確に位相の接続を行うことができる。
なお、重み付き最小二乗法を用いた位相接続処理においても、得られた算出結果に、定数分の任意性があることは、重みなし最小二乗法を用いた位相接続処理の場合と同様である。しかしながら、基準となる位相の大きさ(すなわち、ある位置での正しい位相の大きさ)が解っていれば、接続後の位相を確定することができる。
また、2周波の組み合わせ方の別の方法として、長周期波の接続後の位相をK倍したものの差分で短周期波のΔx,Δyに相当する値ΔxL、ΔyLを算出し、短周期波の観測位相ψから算出された本来のΔx、Δyと比較して、段差に相当する部分(すなわち、ΔxとΔxLとがかけ離れている部分)ではΔxLをΔxの代わりに使うということも考えられる。しかしながら、この場合には、ΔxLとΔxの切り替え点にて、位相φが滑らかにつながらない場合がある。また、反復法を用いて位相接続処理を実施する際に、Δxの値が大きい場合には、反復回数を多く設定する必要があり、位相接続処理に要する時間が増加する可能性がある。
[位相接続処理の並列処理化について]
続いて、本実施形態に係る位相接続部215で実施される位相接続処理の並列処理化について、図23を参照しながら説明する。図23は、位相接続処理の並列処理化について説明するための説明図である。
本実施形態に係る位相接続部215で実施される位相接続処理は、従来の位相接続処理のような逐次処理ではないため、位相接続処理を実施する処理対象領域をいくつかの部分領域に分割して処理を行うことで、位相接続処理の並列処理化を実現することができる。
例えば図23に示したように、ある1つの処理対象領域を、4つのプロセッサを用いて反復法(ガウス・ザイデル法)により並列処理する場合を考える。この場合、位相接続部215は、処理対象領域を4つに分割し、それぞれの領域における位相接続処理を1つのプロセッサに担当させる。例えば図23の上段に示したように、位相接続部215は、左上の領域Aをプロセッサ1に担当させ、右上の領域Bをプロセッサ2に担当させ、左下の領域Cをプロセッサ3に担当させ、右下の領域Dをプロセッサ4に担当させる。
処理対象領域を図23の下段に示したように分割し、ガウス・ザイデル法による反復処理を行う場合、各プロセッサは、着目している格子点と、この格子点に隣接する格子点の反復結果を用いて位相接続処理を実施する。
領域Aを担当するプロセッサ1は、領域A内に存在する格子点の反復結果のみを用いて位相接続処理を実施することができる。しかしながら、他の領域を担当するプロセッサは、自身の領域に隣接する領域を担当するプロセッサから、境界に位置する格子点に隣接する格子点のk回目の反復結果を取得する必要がある。具体的には、図23の下段に示したように、領域B〜領域Dについては、斜線で示した境界に位置する格子点について、自身の左側および上側に位置する領域を担当するプロセッサから、k回目の反復結果を取得する。
この際、位相接続部215は、ガウス・ザイデル反復の(k+1)回目の反復において、厳密には隣接する領域に属するφ(k+1)を要求することとなるが、φ(k+1)ではなくφ(k)を用いて、位相接続処理を実施する。
担当する領域の一部分とはいえ、本来φ(k+1)を用いて演算を行うべきところをφ(k)を用いて演算を行うため、算出する値の収束性が若干低下する可能性がある。しかしながら、全処理対象領域に含まれる格子点数は実用的には数万から数百万点であり、4から16程度に分割する場合では収束性の低下は無視できる。
このように、本実施形態に係る位相接続方法では、処理対象領域をいくつかの領域に分割して複数のプロセッサに並列処理させることが容易であり、複数のプロセッサによる演算の高速化を図ることが容易に実現できる。
以上、本実施形態に係る位相接続部215で実施される、重み付き最小二乗法を用いた位相接続処理について、詳細に説明した。以下では、かかる位相接続方法を、実際の流れに沿って説明する。
<重み付き最小二乗法を用いた位相接続方法の流れ>
まず、図24を参照しながら、位相接続部215で実施される、重み付き最小二乗法を用いた位相接続処理の流れについて、順を追って説明する。図24は、本実施形態に係る位相接続方法について説明するための流れ図である。
位相接続部215は、まず、位相算出部213から伝送された長周期波の振幅r2に基づいて、先に説明したようにして、長周期波の位相接続処理に用いる重みWの値を決定する(ステップS101)。続いて、位相接続部215は、算出した重みWを用いて、真の位相の初期値を0とした重み付き最小二乗法により、長周期波の位相を接続する(ステップS103)。これにより、位相接続部215は、位相が正しく接続された接続後の長周期波の位相を得ることができる。
続いて、位相接続部215は、算出した長周期波の位相と、長周期波と短周期波との周期比Kとを利用して、短周期波の位相の初期値を算出する(ステップS105)。より詳細には、位相接続部215は、算出した長周期波の位相φi,jをK倍して、格子点(i,j)における短周期波の位相の初期値とする。
次に、位相接続部215は、位相算出部213から伝送された短周期波の振幅r1と、長周期波の接続後の位相を用いて算出した初期値とに基づいて、短周期波の位相接続処理に用いる重みWの値を決定する(ステップS107)。より詳細には、位相接続部215は、短周期波の振幅r1が所定の条件を満たす場所、および、位相の初期値の変化(例えば、位相の初期値の差分の絶対値和)が所定の条件を満たす場所を特定し、かかる場所に該当する重みWの値を0に近い値に設定し、その他の場所では1に設定する。
その後、位相接続部215は、算出した位相の初期値と、決定した重みWの値とを用いて、重み付き最小二乗法により短周期波の位相を接続する(ステップS109)。これにより、位相接続部215は、位相が正しく接続された接続後の短周期波の位相を得ることができる。
なお、上述の説明では、短周期波の位相の初期値を算出した後に、短周期波の位相接続処理に用いる重みWの値を決定する場合について説明したが、本実施形態に係る位相接続方法で実施される処理の順番は、かかる順番に限定されるわけではない。例えば、短周期波の位相接続処理に用いる重みWの値を決定してから、位相の初期値を算出してもよく、重みWの決定と、位相の初期値の算出とを、平行して行ってもよい。
<並列処理化された位相接続方法の流れ>
続いて、図25を参照しながら、並列処理化された位相接続方法の流れについて説明する。図25は、本実施形態に係る並列処理化された位相接続方法について説明するための流れ図である。
先に説明した位相接続処理を並列処理で実施する場合には、位相接続部215は、まず、位相接続処理を実施する処理対象領域全てに対して、先に説明したような手順で初期値を設定する(ステップS201)。続いて、位相接続部215は、位相接続処理に利用可能なプロセッサの個数等に応じて処理対象領域を複数の領域に分割し、各領域における位相接続処理を担当させるプロセッサを決定する。また、位相接続部215は、予め、位相接続処理に必要となる重みWの算出を行っておく。
続いて、各領域における処理を担当するプロセッサは、自身が担当する領域の左側および上側に位置する領域を担当するプロセッサから、k回目の反復における境界値を取得する(ステップS203)。各領域を担当するプロセッサは、k回目の反復における境界値を取得すると、プロセッサごとに分担領域の位相接続処理を行い、(k+1)回目の反復における位相の値を算出する(ステップS205)。
続いて、各プロセッサは、並列処理を実施している全てのプロセッサが(k+1)回目の反復演算を終了するまで待機する(ステップS207)。全てのプロセッサの(k+1)回目の反復演算が終了すると、各プロセッサは、反復回数を表すパラメータkを(k+1)に設定し(ステップS209)、所定の反復回数を終了したか否かを判断する(ステップS211)。
所定の反復回数分、反復演算を行っていない場合には、各プロセッサは、再びステップS203に戻って、反復演算を実施する。また、所定の反復回数分、反復演算を行っていた場合には、各プロセッサは、反復演算を終了し、その時点での演算結果を出力する。
かかる流れで処理を行うことで、位相接続部215は、反復法を用いた位相接続処理を、並列処理化することが可能となる。
(ハードウェア構成について)
次に、図26を参照しながら、本発明の実施形態に係る演算処理装置200のハードウェア構成について、詳細に説明する。図26は、本発明の実施形態に係る演算処理装置200のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
演算処理装置200は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、演算処理装置200は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、演算処理装置200内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901の実行において使用するプログラムや、その実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、演算処理装置200の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。さらに、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。演算処理装置200のユーザは、この入力装置909を操作することにより、演算処理装置200に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、演算処理装置200が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、演算処理装置200が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
ストレージ装置913は、演算処理装置200の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、演算処理装置200に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−rayメディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
接続ポート917は、機器を演算処理装置200に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、演算処理装置200は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
以上、本発明の実施形態に係る演算処理装置200の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
(実施例)
以下では、実施例を示しながら、本発明の実施形態に係る形状測定装置および形状測定方法について、詳細に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも本発明の実施形態に係る形状測定装置および形状測定方法の一例であって、本発明に係る形状測定装置および形状測定方法が、以下の例に限定されるわけではない。
<実施例1>
まず、短周期波の周期を4点、長周期波の周期を32点とする、256×256点のAM変調画像を作成し、この領域の1/4の部分(i,jとも128〜256の部分)に、短周期波で5πの平面を置いた場合の人工的なデータを生成した。従って、この人工的なデータにおいては、周期比K=8となる。この人工的なデータに対して、本実施形態に係る重み付き最小二乗法を用いた位相接続処理を行った。この例では、長周期波の最小二乗法の重みは全て1とした。また、短周期波の重みは、長周期波の接続後の位相を8倍して与えた反復の初期値の差の絶対値|φi+1,j−φi,j|+|φi,j+1−φi,j|が0.2πを超える部分については0.001とし、その他の部分は1とした。
また、比較のため、同一の入力データに対して、短周期波のみで重み付き最小二乗法を用いた位相接続処理を行った。この場合では、重みを全て1と設定し、実質的に重みなしの最小二乗法を用いた位相接続処理とした。
得られた結果を、図27(a)および図27(b)に示す。図27(a)は、短周期波のみを用いて位相接続処理を行った場合の位相接続結果であり、図27(b)は、長周期波および短周期波を用いて、本実施形態に係る重み付き最小二乗法を行った場合の位相接続結果である。
図27(a)から明らかなように、短周期波のみの場合には、i=j=128付近で高さが一度負の値となってから正の値になるという挙動を示し、高さのレベルについても、設定した5πの段差を正確に再現できていないことがわかる。逆に、長周期波および短周期波を用いて、本実施形態に係る位相接続処理を実施した場合には、5π(約16程度)の段差を再現できていることがわかる。
<実施例2>
次に、実際の鋼板に対して、本実施形態に係る位相接続処理を実施した場合の例について説明する。この鋼板の端部(周囲)は、粘着テープによって覆われており、また、鋼板の表面には、凹みが存在しており、紙が貼り付けられている。
また、この鋼板の縞画像を、TDIカメラを用いて撮像した。TDIカメラの分解能は0.3mmとし、レーザ光源の鋼板への入射角は45度とし、TDIカメラは、鋼板の表面に対して垂直な位置に設置した。
また、タイミング信号発生部201により、短周期波の周期が縞画像の4画素分に相当する周期とし、長周期波の周期が縞画像の32画素分に相当する周期となるように、タイミング信号を発生させた。すなわち、長周期波と短周期波との周期の比が8:1となるようにした。
図28Aおよび図28Bは、実際に得られた縞画像の一部を示したものである。図28Aに示した座標軸において、x方向が鋼板の幅方向に対応し、y方向が鋼板の搬送方向に対応している。また、図28Bは、図28Aに示した縞画像をy軸に沿って1ライン分切り出したグラフ図である。図28Bから明らかなように、短周期波は、4画素に対応する周期を有しており、長周期波は、32画素に対応する周期を有していることがわかる。
図28Aに示した縞画像を含む鋼板の全領域にわたる画像を、本実施形態に係る演算処理装置200を用いて処理した。図28Cは、位相算出部211によって算出された短周期波の振幅を用いて生成された、振幅の挙動を示した画像(振幅画像)である。この振幅画像は、振幅の大小を色の濃淡で表した画像となっている。なお、この振幅画像には、低い周波数のAM変調成分が重畳されている。
図28Cから明らかなように、画像の周辺部(すなわち、鋼板の周辺部)と、画像の中央部では、画像の色の濃さが異なっており、周囲が粘着テープで覆われているという状態が反映されていることがわかる。また、図28Cの左下に位置する点線で囲った部分には、色の濃淡が周囲と異なる略矩形の領域が存在し、この部分に紙が貼り付けられていることがわかる。また、図28Cの右側に位置する点線で囲った部分には、周囲の濃い色の部分の中に、白い色をした部分が含まれており、凹みが存在していることが推察される。
また、図28Dは、位相算出部211によって算出された短周期波の位相を図示した画像(観測位相を示した画像)であり、図28Eは、位相算出部211によって算出された長周期波の位相を図示した画像である。
図28Dを見ると、図28Dの左側から右側に向かって、画像の色が黒から白へと変化している部分が3箇所見受けられる。位相画像においては、画像の色が黒から白へと変化することは、位相差が2πであることを示しているため、図28Dに示した短周期波の位相画像では、約6π程度の位相差が図示されていることがわかる。
また、図28Dから明らかなように、周囲の粘着テープ、表面に添付された紙、表面に存在する凹み、といったものを、明確に把握することができる。
図28Eを見ると、短周期波の位相画像ほど明確ではないものの、周囲の粘着テープや表面に添付された紙などの存在を把握することができる。また、紙が存在する部分の上側に位置する白い部分から、図28Eの右下の黒い部分までの位相差を調べたところ、位相差は、約(3/4)πとなっており、短周期波の位相画像における位相差6πの約1/8となっている。
以上のような振幅画像および位相画像を用いて、先に説明したような本実施形態にかかる重み付き最小二乗法を用いた位相接続処理を行った。ここで、重み付き最小二乗法は、反復法(ガウス・ザイデル法)を用いて反復演算を行い、反復の終了条件は、全てのφi,jについて反復ごとの変化量が0.01未満になるという条件とした。
短周期波の位相接続処理に際しては、算出した長周期波の位相を8倍したものを初期値とした。また、短周期波の位相接続処理に用いられる重みWについて、短周期波の振幅と差分の絶対値和との積が0.2πを超えた場合には重みWを0.001とし、0.2π未満の場合には重みWを1とした。
得られた結果を図29Aに示す。図29Aの上段に示した画像が、本実施形態に係る位相接続処理により得られた、位相接続後の短周期波の位相画像である。また、図29の下段に示したグラフ図は、上段に示した画像を矢印の部分でy軸に沿って切断した場合の断面形状を表したグラフ図である。
図29Aから明らかなように、本実施形態に係る位相接続処理を実施することで、段差の存在に起因するノイズを含む縞画像であっても、高精度に位相接続処理を行うことが可能であり、ノイズの無い良好な画像が得られることがわかる。
また、図29Bは、図28C〜図28Eに示した画像を、従来の位相接続方法を用いて位相接続したものである。用いた従来の位相接続方法は、短周期波の位相画像において、隣接する画素の位相変化量がπを超えていたら、±2πを加算する、という方法である。
図29Bから明らかなように、従来の位相接続方法を用いて位相接続を行った場合には、図29Bのx軸方向に平行なノイズが多数存在し、間違って位相が接続されている部分が多数存在していることがわかる。
このように、本実施形態に係る位相接続方法を用いることで、段差等に起因するノイズを含む縞画像であっても、これらのノイズによる誤差や誤接続の発生を防止しながら、極めて良好な位相接続後の位相画像を得ることができる。これにより、本実施形態に係る形状測定装置では、測定対象物の形状(表面形状)を精度良く測定することが可能となる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。