本発明は、分散補償器に関する。より詳細には、その分散補償特性に生じていたリプルを低減することができる可変分散補償器に関する。
近年、急速な発展を見せる大容量の光通信ネットワークシステムは、従来主流であったポイントツーポイント型のシステムからリング・メッシュ型の構成のシステムへ移りつつある。これは、リング・メッシュ型構成のシステムが、光信号を光の状態のままで処理するトランスペアレントな波長選択スイッチ等を用いることによって、ノード間の通信需要の変化に柔軟に対応できるためである。具体的には、リング・メッシュ型構成のシステムは、新規のパスの開通、パスの変更または廃止などに伴う、装置が設置された現地での作業量を、波長パスを動的に切り替えることによって大幅に減らすことができる利点を持つ。しかしながら、リング・メッシュ型のネットワークにおいては、波長パスの切り替えに伴ってパスの長さも変化してしまうため、そのパスの波長分散値も動的に変化してしまう。
従来の分散補償器は、分散補償ファイバタイプや分散補償量が固定されたタイプのものであった。上述のようなリング・メッシュ型構成のネットワークで波長パスの距離が異なる場合に、従来の分散補償器で、WDM(wavelength division multiplexing)波長ごとに異なる分散値を設定することはできなかった。このため、光通信における波長パスの分散補償にも、柔軟な適応性が求められている。
一方、信号処理装置の小型化・集積化の点から、導波路型光回路(PLC: Planar Lightwave Circuit)の開発研究が進められている。PLCでは、例えばシリコン基板上に石英系ガラスを材料としたコアを形成して1つのチップに多様な機能を集積されており、低損失で信頼性の高い光機能デバイスが実現されている。さらには、複数のPLCチップと他の光機能部品を組み合わせた複合的な光信号処理部品(装置)も登場している。
例えば、非特許文献1には、アレイ導波路格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)などを含む導波路型光回路(PLC)と、液晶素子などの空間変調素子とを組み合わせた、光信号処理装置が開示されている。より具体的には、液晶素子を中心位置として対称に配置されたPLCおよびコリメートレンズからなる波長ブロッカをはじめ、波長イコライザ、分散補償器などの光信号処理装置の検討が進められている。これらの光信号処理装置では、異なる波長を持つ複数の光信号に対して、波長毎に独立して光信号処理が行なわれる。
図1は、PLCと空間変調素子を組み合わせた可変分散補償器の一例を示す構成図である。より具体的には、AWGとLCOS(Liquid crystal on silicon)を組み合わせた可変分散補償器を示す。この可変分散補償器では、外部の光信号がAWG101を経由して入出力される。より具体的な動作を、AWGの基板面に垂直な方向から見た図1の(a)を参照しながら説明する。
AWG101は、異なる波長を持つ複数の光信号を、その波長に応じた出射角度θで分波する。分波された光信号は、端面AからYシリンドリカルレンズ102を経由して、集光レンズ103へ向かってz軸方向に出射する。集光レンズ103によって集光された光信号は、出射角度θに対応して、位相変調機能を持つ空間位相変調器104のx軸上の所定の各位置に集光される。すなわち、入力光信号の波長に応じて、空間位相変調器104のx軸上の異なる位置に光信号が集光されることに留意されたい。
空間位相変調器104は、例えば複数の要素素子(ピクセル)からなる液晶素子などである。各要素素子の透過率などの制御によって、各波長の光信号は所定の位相量が与えられて位相変調を受け、波長毎に所定の分散値が与えられる。x軸上に配列された複数の要素素子を用いて、空間位相変調器104に二次関数状のプロファイルを持つ位相分布を与えることによって、分散を得ることができる。このとき、x軸に関する位相分布の二次の係数によって、設定する分散量を任意の値に設定することができる。従って、大きな分散値に設定するためには、位相分布の二次の係数を大きく設定する必要がある。すなわち大きな分散値を設定しようとするほど、大きい位相変調量が要求される。
分散補償された光信号は、空間位相変調器104で反射されて進行方向を反転し、再び集光レンズ103およびYシリンドリカルレンズ102を通って、AWG101において合波される。合波された各波長の光信号は、出力光として、再びAWG101外へ出力される。図1の(b)は、可変分散補償器をAWG101の基板断面を見た図を示している。(b)を参照すればわかるように、y軸方向にのみレンズ作用を持つYシリンドリカルレンズ102が、AWG101の出射端面Aの近傍に配置されている。
AWG101は、良く知られているように、入力導波路110、スラブ導波路111および導波路アレイ112が、順次接続された構成を持つ。図1の(a)に示したAWG構成では、入力導波路110は、分散補償された光信号を出力する出力導波路も兼ねているが、この構成に限られない。分散補償の対象となる光信号は、入力光ファイバ106へ入力され、サーキュレータ109および接続光ファイバ108を経由して、AWGの入力導波路110へ入力される。分散補償された光信号は、入力導波路110から接続導波路108およびサーキュレータ109を経由して、さらに出力光ファイバ107から外部へ出力される。
図1の(a)に示した分散補償器は、ミラーを使用して光信号を折り返すことで、1つのAWGによって光信号の分波および合波の両方を行なう構成であり、一般に反射型構成と呼ばれている。分散補償器の光信号処理は、この反射型構成だけに限られない。図1の(a)に示した装置構成において、空間位相変調器104による反射の向きを変えることによって、任意の位置に配置した、レンズおよびAWGからなるもう一つの出射系によって光信号の合波を行う構成も可能である。また、図1のy方向に入射系AWGと出射系AWGを重ねて配置する(スタック)構成とすることもできる。
図1の(a)に示した構成の可変分散補償器は、高い分散補償特性を持ち、さらにLCOSの微細なセル構造に由来する自由度の高い位相設定が可能である。さらに、多チャンネルを一括して分散補償することも可能である特徴も持っている。
従来型の構成の可変分散補償器に用いる空間位相変調器としては、LCOSなどをはじめとした液晶素子を用いるタイプ(非特許文献1)の他にも、MEMSを用いたタイプ(非特許文献2)や、三次元曲率を有するミラー(非特許文献3)を用いたタイプも報告されている。しかしながら、MEMSを用いたタイプでは、精密な位相設定が難しいこと、駆動に際しては高電圧が必要になることが懸念されていた。さらに、可動部を有するため信頼性の面で不安が残ることからも報告例はあまり多くない。また三次元曲率を有するミラーを用いたタイプにおいては、柔軟に位相設定を変更することが不可能である点からも応用例は限られている。このため、可変分散補償器に用いる空間位相変調器としては液晶を駆動原理とするタイプが非常に有望である。
しかしながら、液晶による空間位相変調器においては、位相変調量に上限が存在する問題点がある。数πオーダーの大きな位相変調量を有する液晶も開発されているが、実用的レベルでは、およそ2π程度に制限された位相変調量を有する液晶が一般的に用いられている。前述のように、所望の設定分散補償量が大きくなるほど必要とされる位相変調量も大きくなることから、単純に二次関数状のプロファイルの位相設定を与えることでは大きな分散補償量を得ることが難しい。
図2は、LCOSにおいてより大きい位相変調量を実現する位相設定の例を示す図である。横軸は、LCOSのx軸方向の位置を示しており、縦軸はLCOSの要素素子によって与えられる位相量を示している。尚、図2の横軸に対応するx軸は、図1におけるx軸に対応している。Aの点線で示した位相量は、所望の設定分散補償量を得るために本来必要となる位相量を示している。一方、Bの実線で示した位相量は、いわゆるフレネルレンズ状に位相変調量2πごとに位相の折り返しを行うことで、Aで示された位相量と等価的な位相量を実現した場合である。すなわち、2πを除数とし二次関数を被除数とする剰余の位相分布を持っている。実際の位相量を2π以内に収めて、等価的により大きな分散補償量に対応している。位相が2mπ(mは整数)のとき、光信号は、原理的に異なるm個の各状態を互いに区別しない。このため、2mπ(mは整数)の各位置で完全に位相折り返しが行われている場合、Bの実線で示したこの方式に起因する分散補償特性への影響は存在しない。
しかしながら、現実には折り返しに伴う分散補償特性への影響は、LCOS上の折り返し位置(x)に相当する周波数におけるリプルという形で現れる。このリプルは、単純に位相値の設定誤差によるものの他に、液晶のエッジ効果による影響が知られている。このエッジ効果に関して、非特許文献4を例に挙げながら説明する。
液晶の位相変調原理によれば、ある特定の方向に一様に配向した液晶分子に電圧が印加されるとき、その電圧に比例する形で液晶分子の配向角度が変化し、屈折率が変化する。非特許文献4においては、位相変調要素の配列方向と同じ方向に、ロッド状の液晶分子が回転をする例が挙げられている。
図3の(a)は、非特許文献4に示すようなx軸と同じ方向に液晶分子が回転する配向形態の液晶型空間位相変調器の構成を示す図である。図3では、説明のために金属電極303が一枚のみ存在する単純なモデルを用いているが、実際に可変分散補償器として用いられる際には、金属電極303がx軸またはy軸方向に複数配列された位相変調要素群(位相付与セル)を必要とする。図3の(a)に示した液晶型空間位相変調器300は、対向する2枚の基板301a、301bと、一方の基板301bの対向面上に配置されている透明電極302と、他方の基板301a上に配置されている金属電極303とから構成される。光信号は、図の下方より上方に向かってz軸方向に入射する。2つの基板間には、多数の液晶分子304a、304bが充たされている。図3では、x軸方向が電圧を印加していない初期状態での液晶分子の配向方向であって、電圧を印加するとz軸方向に配向方向が変化するような構成の液晶を例として示している。この構成に限られず、初期状態での配向方向がz軸方向であって、電圧印加時にx軸に配向方向が変わるような液晶を用いても良い。
図3の(b)は、液晶型空間位相変調器300の2つの電極間に電圧を印加した状態の液晶分子の配向方向を模式的に例示した図である。基板301a、301bに近い位置に存在する液晶分子ほど電圧を印加していない初期状態に近い配向方向となる。しかし、2枚の基板301a、301bのz軸方向における中間点近傍においては、液晶分子304bのようにz軸方向に配向方向が回転する。この場合、液晶の初期状態の配向方向、すなわちx軸方向に振動するような偏向状態の光に対しては屈折率が変化して見えるため、液晶分子群が空間位相変調器として動作する。
図4は、図3の液晶型空間位相変調器を用いた場合の透過率スペクトル測定例を示した図である。図3に示した液晶型空間位相変調器を、図1における空間位相変調器104として用いて、電圧印加領域に入射する光の位相変化量が一定値の2πとなるように電圧を調整した場合の透過率スペクトルを示している。図4の上方には、透過スペクトルの相対周波数と空間位相変調器の位置とを対応させて、空間位相変調器への位相設定量(Phase shift)も示している。横軸の相対周波数(GHz)は、液晶型空間位相変調器の変調要素が配列されるx軸方向の位置に対応している。
この測定例においては、アレイ導波路格子101のパラメータとして、中心周波数を188.9THz、自由スペクトルレンジ(以下FSR:Free spectral range)を200GHz、集光レンズ103の焦点距離を100mm、空間位相変調器104の位相変調要素数は256、隣接する位相変調要素の配列周期を10μmとして設計した。
図3の(a)および(b)において、図に向かって金属電極303の左端部に入射する光信号の波長をA、同じく右端部に入射する光信号の波長をBとすると、図4に示した透過率スペクトルにおいて、周波数A近傍、すなわち位相設定値が、周波数の低いほうから高いほうへ向かって0から2πに跳躍設定される境界領域において、およそ1dB程度の透過率リプルを確認できる。一方で、周波数B近傍、すなわち位相設定値が、周波数の低いほうから高いほうへ向かって2πから0に跳躍設定される境界領域においては、0.1dBほどの透過率リプルしか発現していない。金属電極303の左端部と右端部との間で、液晶の挙動に差異が現れている。
この差異は、液晶分子の配向方向がAWG101による波長分光軸と一致することから発現する現象である。周波数Aの光が入射する位相設定値が0から2πへ跳躍する境界領域では、位相がx軸方向に対してなだらかに変化する。一方で、周波数Bの光が入射する2πから0へ位相設定が跳躍する境界領域では、シャープに位相変化が起きる。これが、非特許文献4においてエッジ効果として問題視されている現象である。この透過率リプルを抑制するために、非特許文献4においては、液晶分子の配向方向を90°回転させ、y軸方向に分子を回転させる構造とした液晶型空間位相変調器の実験例が報告されている。
図5は、非特許文献4で報告された構造によって、図4と同様の実験を行った場合の透過率スペクトルを示した図である。図5によれば、AWG101による波長分光軸方向(x軸)における液晶分子の非対称性が緩和される。このため、90°配向方向を変更した液晶型空間位相変調器を用いた場合に観察される周波数Aおよび周波数Bそれぞれのリプルは、いずれも従来の配向方向における周波数Aおよび周波数Bの両者の透過率リプルの平均値の大きさを持つ。したがって、波長分光軸に直交するy軸と一致させるように液晶分子の配向方向を設定することによって、透過率リプルを低減することが可能である。それでも、依然として0.5dB程度のリプルは残存することになる。この残存リプルは、分散補償器において分散値が補償された光信号を、再び劣化させ、波長グリッドを中心とする透過帯域をも狭くする。特に波長分散による影響が大きい40Gbps以上の高速な通信方式においては、この残存リプルのために、十分な分散補償効果を得ることが困難であった。
上述のような問題点に鑑み、本発明は、アレイ導波路格子やバルク型回折格子に代表されるような波長分波素子および空間光変調器を構成要素として含み、分散補償時の透過特性に発現するリプルを低減させた分散補償器を提供することを目的とする。
上述の問題点を解決するため、本発明の請求項1に係る可変分散補償器は、入力光信号の波長に応じた出射角度で光信号を分光する分光手段と、前記分光手段から出射された光信号を集光させる集光レンズと、前記分光手段による分光面との交線方向に配列された複数の位相付与セルを有し、前記複数の位相付与セルによって前記集光された光信号に所定の位相量を付与して前記分光手段へ反射する空間位相変調器とを備えた可変分散補償器であって、前記空間位相変調器に付与された位相分布は、前記分光手段による分光方向に、2πを除数として二次関数を被除数とする剰余の位相分布を持ち、前記位相分布の二次の頂点が周波数チャネルグリッドの中心周波数に対応する位置から高周波数側にずれており、前記頂点より高周波側には位相の折り返しが存在しないことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の可変分散補償器であって、前記分光手段における中心周波数を有する光信号が、前記分光手段による分光面との前記交線方向に関して前記集光レンズの中心から離れた位置を通過し、前記空間位相変調器の位相変調面に対して垂直に入射しないことによって、前記空間位相変調器における損失が周波数チャネルグリッドの周波数で最低となることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1の可変分散補償器であって、前記空間位相変調器を前記分光面内で回転させ傾けて配置し、前記光信号が前記空間位相変調器の位相変調面に対して垂直に入射しないことによって、前記空間位相変調器における損失が周波数チャネルグリッドの周波数で最低となることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1の可変分散補償器であって、前記位相分布に、1次の位相分布をさらに付与することによって、前記空間位相変調器における損失が周波数チャネルグリッドの周波数で最低となることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4いずれかの可変分散補償器であって、前記分光手段として、アレイ導波路格子を用いることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至4いずれかの可変分散補償器であって、前記空間位相変調器としてLCOS(Liquid crystal on silicon)を用いることを特徴とする。
以上説明したように、本発明により、従来技術と比較して、分散補償時の透過率特性に発現するリプルをより低減させることが可能な分散補償器を提供することができる。さらに、透過帯域をより広くした分散補償器を提供することができる。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明は実施例のみに限定されない。全図を通して同一の符合は同一または対応する要素部分を示すものとする。本発明は、可変分散補償器における空間位相変調器に対して、本発明特有の位相設定を行うことによって、透過率特性に発現するリプルを大幅に低減させる。さらに、空間光学系に本発明特有の構成を適用して、空間位相変調器に光強度制御機能を与え、透過率特性の帯域を拡大する。以下、実施例とともに詳細に本発明について説明する。
図6は、本発明による可変分散補償器の第1の実施例(以下、実施例1)の構成を示す図である。図1の(a)はAWGの基板面に垂直な方向から見た上面図であり、(b)は側面図である。ここで、アレイ導波路格子(AWG)601の基板面に平行でかつ光軸に垂直な方向をx軸、基板面に垂直な方向をy軸とし、光波の進行方向すなわち光軸方向をz軸としている。
図6の(a)に示すように、実施例1に係る可変分散補償器では、入力ファイバ605、接続ファイバ607および出力ファイバ608が接続されたサーキュレータ606と、接続ファイバ607に接続されたAWG601と、焦点距離がfYのYシリンドリカルレンズ602と、焦点距離がfXの集光レンズ603と、空間位相変調器604とがこの順に配置されている。本実施例では、レンズ系としてYシリンドリカルレンズ602および集光レンズ603をこの順に用いているが、同様の光学特性を有する構成であれば何枚のレンズを用いても良いし、またどのように配置されても良い。
図7は、実施例1において使用されるアレイ導波路の構成の詳細を示す図である。本発明において、アレイ導波路格子(AWG)601は、波長分波器および合波器として機能する。図7に示すように、AWG601は、入力側光導波路701に接続された第1のスラブ導波路702と、第1のスラブ導波路に接続されたアレイ導波路703と、アレイ導波路703に接続された第2のスラブ導波路704とを備える。必ずしも、第2のスラブ導波路704を備えていなくても良い。
本発明の可変分散補償器の動作は、以下の通りである。まず入力ファイバ605に入力された光信号がサーキュレータ606を介しAWG601に入力される。入力された光信号は、入力側光導波路701、第1のスラブ導波路702、アレイ導波路703および第2のスラブ導波路704をこの順に通過する。AWG601は、動作中心波長λ0、所定のFSRを有する分波特性を有するように設計される。
AWG601の基板端面Aから出力された光信号は、基板から出射した直後には基板垂直方向(y軸方向)に発散するが、端面Aから焦点距離fYの位置に配置されたYシリンドリカルレンズ602によって、y軸方向について平行光に変換される。Yシリンドリカルレンズ602を通過した光信号は、AWG601の端面Aからz軸方向に焦点距離fXだけ離れた位置に配置された集光レンズ603を通過する。周波数ごとに分波された各光信号は、集光レンズ603によって、集光レンズの主面から焦点距離fXの位置に配置された空間位相変調器604の位相変調面上の異なる位置に集光する。詳しくは後述するが、集光した光はそれぞれ周波数ごとに空間位相変調器604によって所定の位相変化を与えられた上で反射される。その後、同一のAWG601を介して接続ファイバ607およびサーキュレータ606に導かれ、出力ファイバ608より出力される。
空間位相変調器604においては、各周波数チャネルごとに、AWG601による光信号の分波軸、すなわちx軸方向に関して所望の二次係数aを有する二次関数状の位相分布を設定さる。すなわち、AWG601による分波面と空間位相変調器の位相変調面との交線方向(x軸)に関して、二次関数状の位相分布が設定される。空間位相変調器604は、x軸方向に配列された多数の位相付与セル(要素素子)を有しており、多数の位相付与セルによって上述の位相分布が設定されて、分散補償動作を実現する。本実施例における液晶型の空間位相変調器604の最大位相変調量はおよそ2πに設定されている。前述のように十分に大きい分散補償量を設定するにあたっては、2πごとに位相設定値を折り返したフレネルレンズ状の位相設定を行う必要がある。このとき、空間位相変調器604の液晶分子の配向方向がx軸方向と同じ場合、既に図4に示したように周波数Aおよび周波数Bの間で、異なる透過率特性が得られることになる。以下、この周波数Aの位相折り返し部に対応する液晶分子の配向モードをモードA、周波数Bの位相折り返し部に対応する配向モードをモードBと、それぞれ呼称する。本発明では、位相折り返し部としてこのモードBの配向モードのみを利用することによって、透過率リプルを低減する。
上述のAモードでは、周波数の低いほうから高いほうへ向かって、設定位相値が0から2πへ跳躍する。一方、Bモードでは、周波数の低いほうから高いほうへ向かって、設定位相値が2πから0へ跳躍する。尚、実施例1の構成におけるAWG601のレイアウトがy−z平面に対して、図7の構成と対称な配置をとり、空間位相変調器604上における周波数軸方向が逆方向になる場合は、AモードとBモードの設定位相の跳躍が逆に成ることに注意されたい。実施例1における空間位相変調器604(すなわち液晶)をx−z平面に対称な配置をとり、周波数軸方向に対して空間位相変調器604の液晶分子配列が逆方向になる場合も同様である。
図8は、従来技術の位相設定および対応する透過率特性を示す図である。以下説明する従来技術および本実施例の位相設定(図9)の例では、二次関数状の位相分布を設定するにあたって二次の係数aが負になるような設定、すなわち正の分散を与える場合を示している。しかし、この二次の係数aが正のときすなわち負の分散を与える場合は、モードAとモードBとが逆転するだけなので、いずれの場合も本実施例が適用可能である。また、以下の説明では、位相折り返しを行わない場合の位相変調量に換算して、ある1つのチャネルにおいて要求される位相変調量が6πである場合を例示的に示している。しかし、位相変調量は要求される分散設定量によって任意の値に変化するので、本発明と同様の位相設定を与えるものであれば、どのような位相変調量であっても良い。
図8の(a)に示すように、空間位相変調器604に対する従来技術による位相設定で、二次関数状の位相分布を与える際、一般に、波長グリッドに一致する周波数を有する光が、二次関数の頂点の位置に照射する光信号として入射するように設定される。すなわち、図8の(a)において、相対周波数0に対応する、空間位相変調器のx軸上の位置に、二次関数の頂点が来るように位相設定される。相対周波数0となる周波数が、周波数チャネルグリッドに一致する周波数となる。
上述の位相設定方法が利用されるのは、周波数チャネルグリッドに一致する周波数の光に対する損失が最小となり、ある程度左右対称な放物線状の透過率スペクトルが得られるためである。しかし、前述のとおり周波数チャネルグリッドを中心として低周波数側ではモードBが生じ、高周波数側ではモードAが生じるように空間位相変調器は位相設定されるため、図8の(b)に示すように、高周波数側(モードA)で2πの位相折り返しに伴う透過率リプルが発生してしまう。そこで、本発明では、空間位相変調器に対して、モードAを使用しないように位相設定を行う。
図9は、本発明の位相設定および対応する透過率特性の例を示す図である。図9の(a)に示すように、空間位相変調器に対して、リプルを発現させる可能性のあるモードA、すなわち0から2πへ位相が跳躍する位相折り返し部を含むような位相設定は行なわず、周波数チャネルグリッドに一致する周波数より高周波数側では位相折り返し部が生じないような位相設定を行う。このような位相設定にすることで、透過率が最も高くなる(損失が最小となる)周波数が周波数チャネルグリッドに一致する周波数から高周波数側にシフトするものの、透過率スペクトルにおけるリプルを非常に小さく抑えることができる。
図9の(b)を参照すれば、本発明の位相設定よって、透過率スペクトルにおけるリプルを0.2dB以下にまで低減することが可能である。また、空間位相変調器に設定する二次関数状の位相分布の頂点の位置をずらすことで、相対周波数0の点から透過率が最大(損失が最低)となる周波数までの周波数シフト量をΔfとする。周波数シフト量Δfは、モードAの位相折り返しによるリプルが発現しない範囲で、任意の値に設定することが可能である。周波数(波長)チャネルグリッドとのずれが最小となるように、図9の(a)に示すように各チャネル内において最も高い周波数の光が照射する空間位相変調器の位置に、モードAによるリプルが発現する第1の位相折り返し部が設定されるような位相分布の設計を行うのが好ましい。
このような位相分布の設計を実現するための周波数シフト量Δfを求めるにあたって、実施例1で説明した構成による分散補償器においては、設定する分散補償量は次式によって表現することができる。
式(1)中における各記号については、Dは設定する分散補償量を、λは波長を、cは真空中の光速を、βは空間位相変調器604の位相変調面上における線分散をそれぞれ表している。式(1)からも明らかなように、実施例1において分散を与えるためには、二次関数状の位相変化を設定する必要がある。そこで、aを係数としてΦ(x)を次式とする。
式(2)において、位相分布の二次の係数aは次式のように変形される。
ここで、空間位相変調器604に実際に与える位相変化を式(3)の二次の係数aを用いて検討すると、Φはさらに次式となる。
図9の(a)に示すように、各チャネル内において最も高い周波数の光が照射する位置が、モードAが発現する第一の位相折り返し部と一致すれば良い。すなわち Φ=2πが成立する位置x2πを求めると、上式(1)−(4)から、次式が得られる。
この位置x2πに照射する信号光の周波数を求めると、設定するチャネルの中心周波数をf0、さらに周波数グリッド間隔をfgridとおいて、Δfは次式によって求められる。
したがって、前記のように各チャネル内において最も高い周波数の光が照射する位置にモードAが発現する第一の位相折り返し部が設定されるためには、Δfは式(6)および(7)を満たすことが必要となる。
図10は、本発明による分散補償器の第2の実施例(以下、実施例2)の構成を示す図である。(a)は上面図であり、(b)は側面図である。図10の(a)はAWGの基板面に垂直な方向から見た上面図であり、(b)は側面図である。ここで、AWG601の基板面に平行でかつ光軸に垂直な方向をx軸、基板面に垂直な方向をy軸とし、光波の進行方向すなわち光軸方向をz軸としている。
図10に示すように、実施例2に係る分散補償器の基本的な構成要素は実施例1の構成要素と同様であるが、空間位相変調器604の位相変調面に対して入射光が傾いて入射し、垂直には入射しないよう構成されている点で相違する。
実施例1においては、AWG601によって分波された光信号の中で、AWGの設計上の中心周波数と一致する光信号が集光レンズ603の中心を通るように、集光レンズ603が配置されていた。しかしこのような配置においては、空間位相変調器に実施例1で示したように周波数(波長)チャネルグリッドに対して非対称な形状の位相分布を設定したとき、透過率が最大となる周波数が周波数チャネルグリッドに一致しないという問題が生じる。そこで、実施例2においては、入射光を空間位相変調器604に対して斜めに入射させるよう空間光学系を構成とすることによって、分散設定時に透過率が最も高くなる周波数をチャネルグリッドに一致させることが可能となる。
より具体的には、図10の(a)に示した本実施例の構成では、図6の実施例1の構成と比べて、集光レンズ603が、x軸方向(図に向かって上方)にずれて位置している。したがって、AWGの設計中心周波数を持つ光信号は、x軸に関して集光レンズ603の中心から離れた位置を通過している。この構成によって、AWGの中心周波数の光信号は、空間位相変調器604へ、垂直ではなくz軸方向からわずかに(図に向かって)上向きの傾斜角度を持って入射している。次に、光信号を空間位相変調器に斜めに入射させた場合の、空間位相変調器の詳細な動作について説明する。
図11は、実施例2において、空間位相変調器へ入射した光信号が位相変調を受けた後の反射光の挙動について説明する図である。所定の分散が発生するように、空間位相変調器に負の係数aを有する二次関数状の位相分布を設定したとき、空間位相変調器604へ入射する光信号と、入射した光信号が位相変調を受けた後の反射光の挙動の様子が示されている。図11の(a)および(b)いずれも、x軸方向に要素素子が配置された空間位相変調器1101と、入射光1102a〜1102c、1103a〜1103cおよび対応する各反射光とを示している。空間位相変調器1101によって設定される二次関数状の位相設定も合わせて示してある。尚、空間位相変調器1101は、向かって右側のミラー機能と左側の液晶機能の2層構造に簡略化して記載してある。
図11の(a)は、実施例1においてAWG601の設計中心周波数およびその上下の周波数を有する光信号が集光レンズ603の概ね中心を通過し、空間位相変調器の二次関数状の位相分布の頂点および他の位置に入射した場合を説明した図である。入射光1102bは、AWGの中心波長の光信号に対応する。入射光1102aおよび入射光1102cは、それぞれ、AWGの中心波長より短波長側および長波長側の光信号に対応する。また、集光レンズ603の作用により、いずれの入射光1101a〜1101cも、空間位相変調器に対して垂直に入射することに注意されたい。
中心周波数を有する光信号が、二次関数状の位相分布の頂点に相当する位置に垂直に入射した場合、入射光1102bおよび対応する反射光の各光軸はz軸方向に一致するため、入射光と反射光との間で損失は発生しない。しかし、二次関数状の位相分布の頂点以外の位置に入射する光信号、すなわち入射光1102a、1102cは、位相分布の傾きに応じて回折を起こす。この結果、空間位相変調器1101において、光信号は入射光の光軸方向に対して異なる方向に反射する。この入射光および反射光間の角度差によって結合損失が生じ、結果として透過率スペクトルは図9の(b)に示したように放物線状となる。
図11の(b)は、本実施例において、空間位相変調器604に対してz軸方向から傾いた角度で入射した場合の反射光の挙動について説明した図である。空間位相変調器に対して実施例1と同様の位相設定を行い、AWG601の設計中心周波数を有する光信号が、二次関数状の位相分布の頂点に相当する位置に入射した場合、入射光1103bと対応する反射光とは角度と一致しないため、損失が発生する。しかし、より低周波数側(長波長側)の光信号に対しては、入射光1102cと対応する反射光の光軸方向は一致するようになる。このため、透過率が最大となる周波数は、中心周波数よりも低い周波数にシフトされる。以上の原理により、空間位相変調器604の位相変調面に対して光信号を斜め入射させることができれば、透過率が最大となる周波数をチャネルグリッドに一致させることが可能である。
空間位相変調器604に対して、垂直でなく斜めに光信号を入射させるためには、空間位相変調器604自体をy軸を回転軸として回転させる機構を備えることが最も簡単な方法である。例えば、図10の(a)において、空間位相変調器604の中央部に、y軸に平行な回転軸を備え、空間位相変調器604を時計方向にわずかに回転させれば良い。このとき、空間位相変調器604の設定角度は固定値でも良いが、設定する分散補償量が変化すると透過率が最大となる周波数も変化することから、回転角度を調整可能な機構、例えばモーターなどを用いて制御することが最も望ましい。
また、図10の(a)に示したように、集光レンズ603をx軸方向に並行移動させると、空間位相変調器604の角度を変更しなくても、入射光を斜め入射させることが可能である。この方法においても、例えばステッピングモーターなどの可動機構によって集光レンズ603の位置を制御するのが最も望ましい。さらに、集光レンズ603および空間位相変調器604のいずれの上記機構も使用しなくても、実施例1と同様の光学系の配置を行った場合でも、空間位相変調器604の位相設定を利用できる。空間位相変調器604において二次関数の位相分布に加えて、さらに1次関数の位相分布を付与することによって、簡単に周波数チャネルグリッドへ一致させる調整をすることができる。この方法は、入射光の角度調整量の点で角度調整モーターまたはステッピングモーターを使用する場合に及ばないものの、追加の機構を設けないでグリッドを調整可能であることから、コスト面や制御機構の簡素化の点で有利な構成となる。
加えて、実施例2においては、空間位相変調器604の基板などにおける不要な反射光がAWGに再結合することを防ぐこともできる。基板面や透明電極ではフレネル反射が生じ、空間位相変調器604の位相変調要素間に入射した光信号は回折を生じる。いずれも、AWG601に再結合した場合には干渉を起こし、分散補償特性に悪影響を及ぼすことが知られている。本実施例2における、空間位相変調器604へ光信号を斜めに入射させる構成は、この不要な反射光をも斜めに反射させ、アレイ導波路格子601への再結合を防ぐことが可能である。これにより、分散補償特性のリプルをさらに低減させることが期待できる。本実施例においては、空間位相変調器は、分散補償器として動作するだけでなく、透過率を所望の特性に制御する光強度制御器としても動作している点に注目すべきである。
実施例1および実施例2では、周波数の低いほうから高いほうへ向かって位相設定値が0から2πに跳躍設定される位相遷移を含むモードBのみを用いて、透過率リプルを低減する動作について説明した。しかし、いずれの実施例についても透過率特性がずれる等、各チャネル内で歪んだ透過特性になってしまう点が問題となり得る。この問題点については、空間位相変調器によって二次関数状の位相分布を与えたとき、二次の係数aによって透過帯域幅が制限される点が影響している。そこで、設定する分散補償量に依存せず、常に透過帯域幅が変化しないような光学系の構成を採用して、実施例1に示したモードBのみを用いる位相設定を付与することができれば、周波数チャネルグリッドからのずれを解消するとともに、リプルが抑制された良好な特性を有する可変分散補償器を実現できる。この観点から、実施例1の透過率リプル低減法を用いた上で、さらに以下に示す光学系の配置構成を利用した実施形態がより好ましい。
実施例1および実施例2における光学系の配置は、波長分波素子すなわちAWGの光信号の出射端から、反射型空間位相変調素子までの距離が集光レンズの焦点距離fXの2倍であり、いわゆる「2−f光学系」と呼ばれている。非特許文献3に示されているように、アレイ導波路格子やバルク型回折格子などを用いた一般的な分光器型デバイスにおいては、2−f光学系を採用することによってシンプルでありながら高機能なデバイスを実現している例が多い。しかし、可変分散補償デバイスにおいては、設定する分散補償量の絶対値に反比例して、1チャネルあたりの透過帯域が狭くなるというトレードオフが存在していた。
このトレードオフは、以下の理由により生じる。空間位相変調器においてx軸方向に二次関数状の依存性を有する位相分布を与えるとき、グリッドの中心周波数以外の周波数を有する光信号については、空間位相変調器上の集光位置において設定された位相の傾きに応じて、入射時の角度とは異なる角度で反射される。この入射時と反射時との角度差によって、反射した光信号が、図7においてAWG601に戻り、アレイ導波路703、スラブ導波路702を経て、入力光導波路701の光導波路に再結合するときに角度損失が生じる。この角度損失が、上述のトレードオフの原因である。
二次関数状の位相分布の頂点が周波数グリッドと一致する場合は、頂点から離れた位置に入射するほど上述の角度損失は大きくなり、結果的に、二次位相分布の頂点に入射する周波数を最大値とする放物線状の透過スペクトルが得られることになる。既に述べたように、大きな波長分散を得るためには位相分布の二次関数の係数aの絶対値を大きくとる必要があった。このため、係数aの絶対値を大きいと、頂点から離れた位置の位相の傾きがさらに大きくなるため、さらに透過帯域も狭くなってしまう問題もあった。しかし近年、非特許文献3および非特許文献5に示すように、分光器を2セット用いることによって、上述の角度損失に起因する透過帯域の劣化を抑制できる構成が報告されている。
図12は、本発明による分散補償器の第3の実施例(以下、実施例3)の構成を示す図である。図12の(a)はAWGの基板面に垂直な方向から見た上面図であり、(b)は側面図である。ここで、AWG601の基板面に平行でかつ光軸に垂直な方向をx軸、基板面に垂直な方向をy軸とし、光波の進行方向すなわち光軸方向をz軸としている。図12の(a)において、第1のアレイ導波路格子(AWG)1201と第2のAWG1209とは、y軸方向に重なっているため見えないことに注意されたい。本例の構成は、実施例1の構成と比較すれば、第2のAWG1209をさらに備えている点で大きく相違している。
図12の(a)に示すように、第1のAWG1201から出射した光信号は第1のYシリンドリカルレンズ1202を介して集光レンズ1203に向かう。この光信号は、y軸方向に関して、集光レンズ1203の中心位置より若干外れた位置に入射することで、空間位相変調器1204の位相変調面に対してy軸方向にある角度をもって入射する。実施例1と同様に、光信号は二次関数状の位相分布を与えられて反射される。
図12の(b)を続いて参照すれば、空間位相変調器1204で反射された光信号は、集光レンズ1203の入射時とは異なるy軸上の位置を通過し、第2のYシリンドリカルレンズ1210を介して第2のAWG1209に結合する。
図13は、第2のアレイ導波路(AWG)の詳細な構成を示した図である。第2のAWG1209は、スラブ導波路1301、アレイ導波路1302とミラー1303から構成されている。アレイ導波路1302における隣接する各導波路間の導波路長差などの各パラメータは第1のAWG1201と同様の設計となっている。アレイ導波路1302の終端にはミラー1303が設置されており、アレイ導波路1302に入射した光信号はそれぞれ他の導波路に結合することなく、そのままミラー1303で反射される。
第2のAWG1209に入射する光信号は、空間位相変調器1204によって、反射時の角度差を伴いながら二次関数状の位相分布を与えられていても、第2のAWG1209内に角度損失を発生し得る入力導波路が設けられていないため、第2のAWG1209内で上述の角度損失は発生しない。ミラー1303により反射され第2のAWG1209から出射した光信号は、空間位相変調器1204で再び反射され、入射時と全く同一の光路を戻って、最終的に第1のAWG1201に再入射する。第1のAWG1201に再入射するときの角度は、第1のAWG1201によって分波された角度と等しくなる。したがって、図12の構成によれば、入力光導波路701の光導波路に再結合するときに第1のAWG1201においても角度損失は全く発生しない。
上述のように、空間位相変調器1204に対して、大きな絶対値を持つ波長分散を与えるような位相設定を行ったとしても、角度損失は発生しなくなり、設定分散値に依存した透過帯域の狭窄化が生じない分散補償器を構成することができる。本実施例の光学系構成は、「4−f光学系」と呼ばれている。
図14は、本実施例の透過スペクトルの測定例を示した図である。本実施例では、図12に示した光学系の構成と、実施例1で示したような二次関数の頂点位置がずれた非対称形状の位相分布を与えた空間位相変調器とを組み合せている。図14の(a)の位相設定は、モードBの位相折り返しのみを有する位相設定となるように、二次関数状の位相分布を周波数グリッド位置(相対周波数0の位置)から所定の周波数シフト量Δfだけシフトさせている。
図14の(b)において、実線は本実施例の構成の「4−f光学系」による透過スペクトルを示し、破線は実施例1の構成の「2−f光学系」による透過スペクトルをそれぞれ示す。本実施例においては、角度損失による透過帯域の制限が発生しないため、周波数グリッドとは異なる周波数に二次関数状の位相分布の頂点を設定しても、透過スペクトルは周波数軸上で非対称な形状にならず、非常に広い帯域を有する。
本実施例の光学系の構成によれば、1つの光学系で40チャネルもの多数のチャネルに独立して分散補償を行うことも可能であり、コンパクトでありながら大規模なシステムに対応することができる。本発明によるリプル低減策を合わせて実施することによって、追加の部材やコストを発生させず点で有利である。
以上詳細に説明したように、本発明により、本発明特有の位相設定を持つ空間位相変調器を利用して、従来技術と比較して、分散補償時の透過特性に発現するリプルをより低減させることが可能な分散補償器を提供することができる。さらに、空間位相変調器を透過率を所望の特性に制御する光強度制御器としての機能を与え、透過帯域をより広くした分散補償器を提供することができる。