JP2011058859A - 不織布型固相抽出媒体及びカートリッジ - Google Patents

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Abstract

【課題】 金属分析の前処理工程に使用される固相抽出媒体において、固相抽出媒体の充填密度の変動が生じなく、試料溶液通液時における抽出率への流速依存性が低い金属分析前処理用の固相抽出媒体および固相抽出用カートリッジを、簡便かつ安価な方法で製造し、提供する
【解決手段】 キレート性を示すポリアミン系高分子化合物を繊維原料溶液と混合後、混合紡糸して得られるキレート繊維を公知の不織布製造方法を用いて、キレート繊維単独あるいは他の不織布と複合化した不織布を金属分析前処理用の固相抽出媒体とすると共に、その不織布型固相抽出媒体をリザーバあるいはホルダに装着して固相抽出カートリッジとする。
【選択図】 図3

Description

この発明は、金属分析の前処理工程において使用される固相抽出用の吸着材(固相抽出媒体)及びそれを用いた固相抽出用カートリッジに関するものである。
被検試料中の金属の前処理法としては、旧来から、硫酸−硝酸、硫酸−過塩素酸などの酸混液を用いる酸分解法が広く利用されており、日本工業規格(非特許文献1および非特許文献2)に記載されている。この方法では被検溶液中に共存する有機物を完全に分解して金属の化学形態を統一することが可能であると共に、酸を濃縮あるいは蒸発せしめることで金属を濃縮することも可能である。しかしながら、前処理時間が長い、大容量の溶液を処理するのが難しいという問題と共に、濃縮された酸溶液が突沸する、酸蒸気が揮散するなどの危険性もある。さらに、溶液中の全金属を対象とした前処理法であるため、測定対象金属の測定を妨害する恐れのある金属を分離・除去することはできない。そのため、妨害金属の分離・除去が可能で迅速で簡便な代替前処理法が必要とされている。
液体試料中からの測定対象物の抽出には溶媒抽出法(液−液抽出法)が古くから用いられてきた。金属の抽出および濃縮においても溶媒抽出法は利用されており、ジエチルジチオカルバミド酸を用いる抽出法が日本工業規格(非特許文献1および非特許文献2)にも記載されている。この方法では、適切な抽出試薬を利用することで比較的選択的な抽出が可能であるため、妨害金属の分離・除去が可能である。さらに、有機溶媒による抽出液を蒸発させることで濃縮も可能である。しかしながら、溶媒抽出法は、操作が煩雑で、かつ環境負荷の高い有機溶媒を大量に使用する等、種々の問題が指摘されている。そのため、近年は固相抽出法に移行しつつある。固相抽出法は、固相と液相との間の相互作用による物理的抽出法で、測定対象物質の固相抽出剤への高い親和性を利用して、測定対象物質を固相抽出剤表面に抽出・濃縮するものである。溶媒抽出法に比べ、高回収率、高精度、迅速性、簡便性、安全性、低コスト、溶媒量低減、自動化が容易、フィールドサンプリングが可能等の特徴を有している。
固相抽出剤法は、液体クロマトグラフィーの分離技術の応用として発展してきたため、シリカゲル表面にオクタデシル基やオクチル基等の疎水基を導入したシリカゲルが固相抽出剤として使用されてきた。しかしながら、近年では、負荷量が大きい、耐薬品性が高い、ロット間のバラツキが少ない、多彩な種類がある等の理由により、ポリマー系固相抽出剤が急速に普及しつつある。ポリマー系固相抽出剤としては、旧来からの、スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体のほか、メタクリル酸エステルとジビニルベンゼンとの共重合体(特許文献1)やビニルピロリドンとジビニルベンゼンとの共重合体(特許文献2)等、内部に極性基を持つ固相抽出剤に関する開示があり、これらは商品化もされている。また、イオン性化合物や金属用の固相抽出剤として、疎水性固相抽出剤にイオン交換基を導入したもの(特許文献3)やキレート性官能基を導入したもの(特許文献4)等に関しても開示されており、これらの技術を利用したものが商品化され、金属化合物などの前処理用として普及しつつある。特に、キレート樹脂を用いる固相抽出方法を用いることにより、煩雑な酸分解や溶媒抽出を行うことなく、測定対象金属の抽出・濃縮を行うことができる。また、キレート樹脂を用いる場合には、吸着時の試料溶液pHを調整することにより、金属の吸着率を変化させることができるため、測定対象金属の妨害となる金属を分離・除去できる可能性も持っている。
一般的な固相抽出剤は破砕形あるいは球形の数十μmの粉体であり、図1に示すように、樹脂製(主に、ポリプロピレン製)のリザーバ41に乾式充填されて使用される。乾式充填によって充填された固相抽出剤81の充填状態は、高速液体クロマトグラフィーに使用される充填カラムのように高密度に充填されているわけではない。つまり、充填直後に均一に充填されているように見えても、その後に振動や衝撃を受けると固相抽出剤81が動き、上部フリット22と充填ベッド上部との間に隙間が生じてしまうことがある。このような隙間が生じたまま使用すると、この隙間の中で粒子状の固相抽出剤が浮遊してしまい、均一な抽出ができない、速やかな溶出ができない等により、抽出・回収率が変動する上、カートリッジ中に試料溶液が残存するといった問題が生じる。
粒子充填型固相抽出カートリッジにおいて、抽出効率を向上させるなどの高性能化を図る場合には固相抽出剤の粒子径を小さくする必要がある。例えば、固相抽出剤の粒子径を10μmにすることで、粒子間の間隙が小さくなるため抽出効率は大幅に改善される。しかし、微粒子を乾式で充填することは難しく、充填ムラが原因となる隙間が発生してしまう。さらに、微粒子を用いる上での深刻な問題は、充填カートリッジの圧損が増大するため、試料溶液の通液速度が極端に小さくなるという点である。一般的な固相抽出カートリッジでは10〜20mL/minで試料溶液を通液して抽出を行うが、粒子径を10μmにした場合、1mL/min程度でしか使用することができなくなってしまう。環境中の微量成分を抽出する場合には、200〜1,000mLの試料溶液が固相抽出カートリッジに負荷されることとなる。固相抽出カートリッジの通液特性が悪い場合、このような大容量の試料溶液を処理するには、多大な前処理時間を必要としてしまうこととなる。これでは、年々増加する検体を効率良く処理することは不可能である。従って、抽出効率と処理速度とのバランスから粒子径が数十μmの固相抽出剤が多用されている。
ポリマー系固相抽出剤では、膨潤・収縮が大きな課題となる。固相抽出法の一般的な操作手順を図2に示す。図2において、左から第1ステップのコンディショニングステップ、第2ステップの試料負荷ステップ、第3ステップの洗浄・乾燥ステップ、第4ステップの溶離ステップ、最後に溶離された測定対象物質を含む溶液を適切な機器で測定するというステップで行われる。固相抽出カートリッジを用いて水試料からの抽出を行う場合、まず有機溶媒で固相抽出剤を洗浄すると共に、充填ベッドの調整を行う。その後、純水等を流して試料溶液の液性に合わせるという作業を行う(この操作をコンディショニングと呼ぶ)。一般に、ポリマー系固相抽出剤は有機溶媒中で膨潤するが、有機溶媒で膨潤した固相抽出剤を水中に入れると一気に収縮する。つまり、コンディショニングの間に充填ベッドは一旦膨潤した後、収縮することとなるため、前述のような隙間や短絡流路が発生してしまうことがある。特に、粒子径が小さい場合には膨潤による圧損の上昇が激しく、また充填密度が高くないために粒子のズレによる隙間や短絡流路の発生も大きい。このような隙間や短絡流路が発生したまま固相抽出カートリッジを使用すると、試料溶液の通液流速が低い場合には回収率への影響は低いものの、通液流速が高い場合には隙間や短絡流路のために高回収率を得ることが難しくなる。したがって、流速依存性を小さくするためには固相抽出剤の充填状態が変化しないようにしなければならない。
上記問題を解決することが可能と思われる技術が特許文献5〜6に開示されている。これらの特許文献では、粉体の固相抽出剤を高分子繊維と混合し、溶媒留去法あるいは加熱融着法によってシート状あるいは膜状とした固相抽出媒体の製造方法が開示されている。ポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン、ポリアラミド、ポリアミド、ポリウレタン、セルロース等の繊維により形成される膜内部に粒子状の固相抽出剤を保持させたものであり、ポリテトラフルオロエチレンを母剤としたディスク状(円盤状)の固相抽出媒体が市販されている。保持担体となる繊維は、固相抽出工程において使用される溶媒では溶解することはなく、膨潤・収縮することもない。このような方法を用いることで膨潤・収縮のない固相抽出媒体を製造することが可能となると共に、粒子充填型固相抽出カートリッジでは必須である充填ベッドの固定化のための上下のフリットも不要となるというメリットもある。しかしながら、この固相抽出媒体は厚さ1mm以下の薄膜状であるがため、膜内部に固定された固相抽出剤と試料溶液との接触時間が短く、試料溶液を高流速で通過させた場合には高抽出率を得にくくなるという課題が発生する。そのため、必然的に、吸着容量が大きくかつ粒子径の小さい固相抽出剤を大量に混合することとなる。この開示技術によれば微粒子を混合・固定した膜の作製も可能であり、この技術を利用した市販製品では約10μmの固相抽出剤が混合されている。このように、この技術では膜状の固相抽出媒体に微粒子を混合・保持させることが可能であるため、薄い膜状であっても高い回収率を得ることが可能な固相抽出媒体を製造することができる。しかしながら、このような微粒子を混合することとなると、粒子漏れを防ぐため固相抽出媒体の細孔径が小さくなってしまい、結果として高流速での抽出処理がしにくく、目詰まりが生じやすいといった問題が発生する。この固相抽出媒体における目詰まり解消策としては、ディスク状の固相抽出媒体の上に孔径1μmのグラスフィルタを載せ、さらに粒子径40μmのガラスビーズで厚さ1cm程度の層を作り、予備ろ過をするといった方法が用いられている。また、小口径のシリンジ型カートリッジの場合には、孔径の異なる8枚のフィルタを重ねたものがディスク状固相抽出媒体の上にセットされており、これによってディスク状固相抽出媒体の目詰まり防止を行っている。この技術は微粒子の固相抽出剤を混合・固定とすることを可能としてはいるものの、このような構造の固相抽出媒体に微粒子の固相抽出剤を大量に混合すると、固相抽出媒体の強度が低下するため、実用的な固相抽出媒体とはならなくなるおそれがある。
吸着剤・抽出剤における流速依存性は上記のような充填ベッドの変動以外にも、吸着剤・抽出剤そのものの吸着速度(吸着平衡の速度)にも依存する。一般的な粒子状吸着剤では吸着性官能基は粒子マトリックス(基材樹脂)内部にも存在しており、測定対象成分の粒子マトリックス内部への浸透速度が吸着速度に影響する。一般的な粒子状キレート樹脂も同様の構造を有しているため吸着速度は遅く、高流速条件での金属吸着は難しいとされている。キレート樹脂における課題の改善策として、繊維状のキレート性吸着剤(キレート繊維)に関して種々開示されている(特許文献9ないし特許文献12)。このようなキレート繊維を用いることで吸着速度を向上させることが可能である。キレート繊維の製造方法としては、化学的なグラフト法(特許文献9)、放射線照射によるラジカル生成・グラフト重合法(特許文献10及び特許文献11)、高温高圧下での汎用繊維への低分子キレート剤の注入方法(特許文献12)が開示されているが、製造上の問題がある。化学的グラフト法は、グラフト可能な繊維種が限定されると共に製造工程が煩雑である。放射線グラフト法は、化学的グラフト法に比べ種々の繊維に適用できるという利点があるが、放射線の取り扱い上から特定環境下での作業となるため、簡便かつ安価な製造方法とはいえない。また、キレート剤の注入・含浸法も種々の繊維を利用できるという利点があるが、開示されている条件では二酸化炭素等の超臨界流体が最も有効であるとされており、加圧条件も100気圧(10.1×MPa)〜250気圧(25.3MPa)と非常に高圧であるため、必ずしも簡便な製造方法であるとはいえない。
キレート繊維を固相抽出媒体としてカートリッジ等に充填して使用する場合、膨潤や収縮による隙間や短絡流路の発生の心配はなくなると共に、透過性の高い固相抽出カートリッジを得ることができる。しかしながら、繊維状のまま使用した場合には、充填密度を高くできない、充填密度にムラがでる、圧力により変形してしまうなどの問題を解消することができないため、結果として、隙間や短絡流路の発生を抑えることができず、抽出・回収率への流速依存性の問題を根本的に解消することはできない。
特許3274898号公報 特許公表2000−514704号公報 特許公表2002−517574号公報 特許公開2005−213477号公報 特許3785438号公報 特表平10−500058号公報 特表2001−502762号公報 特表2002−524243号公報 特開2001−113272号公報 特許4119966号公報 特許3247704号公報 特開2007−247104号公報
日本工業規格 JIS K 0101 工業用水試験方法 日本工業規格 JIS K 0102 工場排水試験方法
本発明は、上記の問題点をかんがみてなされたもので、固相抽出媒体の充填密度の変動が生じなく、試料溶液通液時における抽出率への流速依存性が低い固相抽出媒体および固相抽出用カートリッジを提供することを目的とする。
本発明の発明者が鋭意研究を行った結果、特定のポリアミン系高分子化合物をレーヨンの紡糸原液に混合し、ついで紡糸してキレート繊維とし、この繊維のウエッブを公知の不織布の製造法により不織布状とすることにより作製されたものが、固相抽出媒体の充填密度の変動が生じなく、試料溶液通液時における抽出率への流速依存性が低く、かつ、取り扱いが容易で、既存の固相抽出剤の操作性を損なうことがない金属分析前処理用の不織布型固相抽出媒体となることを見出した。
すなわち、本発明は、下記式(1)に示すエチレンイミン及びN−カルボキシメチル化エチレンイミンの繰り返し単位、

(n、mは、それぞれ正の整数を表す。)
を有し、その骨格となるポリエチレンイミン化合物の平均分子量が5,000〜150,000であるポリアミン系高分子化合物を、レーヨンの紡糸原液に混合し、ついで紡糸してキレート繊維とし、この繊維のウエッブを公知の不織布の製造法により不織布状としたことを特徴とする金属分析前処理用の不織布型固相抽出媒体に関するものである。
本発明は、また、上記キレート繊維のウエッブに、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびエチレン酢酸ビニル共重合体より選ばれる高分子よりなる繊維、あるいは、これらの芯鞘構造の複合繊維であって、鞘部がポリエチレン、ポリプロピレンまたはエチレン酢酸ビニル共重合体よりなるものであり、かつ芯部の樹脂が鞘部の樹脂より高融点の樹脂よりなる複合繊維をウエッブの40重量%まで均一に混合しものを使用し、かつ不織布とした後さらに熱処理を施したものであることを特徴としたものである。
本発明は、さらに上述の不織布型固相抽出媒体を適切な形状と容量を有するリザーバあるいはホルダに装着して固相抽出用カートリッジとしたものに関するものである。
本発明においては、公知の方法により不織布化を行うが、不織布状としたキレート繊維の片面あるいは両面に、通液性の不織布を積層したものとしてもよい。この通液性の不織布としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステルおよびこれらの複合体よりなる群より選ばれる繊維により製造された通液性の不織布、あるいは芯部の樹脂が鞘部の樹脂より高融点の樹脂よりなる複合繊維より形成された通液性の不織布があげられる。このようにして作られた通液性の不織布を張り合わせた複合型不織布状の固相抽出媒体であってもよい。
なお、本発明については、発明を実施するための形態のところでさらに詳細に説明する。
本発明によれば、キレート性を示すポリアミン系高分子化合物を繊維原料溶液と混合後、混合紡糸して得られるキレート繊維を不織布化することにより、固相抽出媒体の充填密度の変動が生じなく、試料溶液通液時における抽出率への流速依存性が低く、かつ、取扱いの容易な金属分析前処理用の固相抽出媒体を安価に得ることが可能であり、さらに、この不織布型固相抽出媒体を適切なリザーバあるいはホルダに装着することで、安定した試料前処理を行うことが可能な金属分析前処理用の固相抽出用カートリッジを提供することができる。
図1は、一般的な固相抽出剤粒子を充填した固相抽出カートリッジの構成例であって、その内部の透視図を示す。 図2は、固相抽出法の操作工程を示す。 図3は、本発明の不織布型固相抽出媒体の基本的な構成の断面を示す。 図4は、本発明の不織布型固相抽出媒体をディスク状に加工したものを、ファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダを用いて前処理を行う場合の器具の構成例を示す。 図5は、本発明の不織布型固相抽出媒体を用いた平板型固相抽出カートリッジの構成例を断面で示す。 図6は、本発明の不織布型固相抽出媒体を用いたシリンジ型固相抽出カートリッジの構成例を断面で示す。 図7は、注射筒を用いて本発明の固相抽出カートリッジを使用する場合の例を断面で示す。 図8は、ペリスタリスティックポンプを用いて本発明の固相抽出カートリッジを使用する場合の例を示す。 図9は、吸引マニュホールドを用いて本発明の固相抽出カートリッジを使用する場合の例を示す。 図10は、本発明の不織布型固相抽出媒体Aおよび不織布型固相抽出媒体Dと市販ディスク状固相抽出媒体との試料溶液流速と回収率との関係を比較したグラフを示す。 図10aは、鉄(Fe)を試料として試料溶液流速の影響を調べたグラフである。 図10bは、銅(Cu)を試料として試料溶液流速の影響を調べたグラフである。
本発明は、キレート性を示すポリアミン系高分子化合物を繊維原料溶液と混合後、公知の紡糸法により混合紡糸して得られるキレート繊維を不織布化することにより、振動や膨潤・収縮による充填密度の変化が生じることを抑えることができるため、金属抽出率への流速依存性の少ない金属分析前処理用の固相抽出媒体を作り出すことを可能とし、さらにこの不織布型固相抽出媒体を適切なリザーバあるいはホルダに装着することで、安定した試料前処理を行うことが可能な金属分析前処理用の固相抽出用カートリッジを作り出すというところに特徴を有している。
本発明の不織布型固相抽出媒体の製造において、キレート繊維に混合紡糸されるポリアミン系高分子化合物は、下記式(1)に示すエチレンイミン及びN−カルボキシメチル化エチレンイミンの繰り返し単位、

(n、mは、それぞれ正の整数を表す。)
を有する高分子化合物であり、その骨格となるポリエチレンイミン化合物の平均分子量が5,000〜150,000であるポリアミン系高分子化合物である。
本発明において用いられるポリアミン系高分子化合物の基本骨格は、ポリエチレンイミンである。通常、ポリエチレンイミンには直鎖状構造の他、分岐構造が存在するため、一級、二級及び三級のアミンが混在している。本発明においては、一級〜三級アミンの比率はどのようなものであってもよく、それらを総合してポリエチレンイミンという。また、本発明においては、比較的高分子量のポリエチレンイミンを用いるが、分子量の大きいポリエチレンイミンを用いる利点としては、繊維中に安定して保持されやすいという利点と共に、鎖長の増加による錯体の安定度定数の増加および分子鎖中に多数の金属を吸着できるという利点がある。低分子ポリエチレンイミンを用いる場合には、使用中に溶出して機能低下してしまう恐れがあるため、抽出効率の高い吸着材を得ることができない。一方、分子量が大きすぎる場合には、混合紡糸時における混合溶液の粘度増加やゲル化により、不均質な製品となるという問題が生じる。したがって、5,000〜150,000、好ましくは8,000〜100,000のポリエチレンイミンが用いられる。
本発明において用いられるポリエチレンイミンはそれ自身もキレート性を有してはいるが、さらに高い金属抽出特性を得るために、N−カルボキシメチル化を行う。N−カルボキシメチル化は公知の方法を用いて行う。すなわち、0.5〜2Mの水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、あるいは炭酸ナトリウム等のアルカリ溶液中で、ポリエチレンイミンと、クロロ酢酸、ブロモ酢酸等のハロゲン化酢酸との反応により行う。これにより、エチレンジアミン四酢酸のようなアミノカルボン酸型のキレート性官能基が導入される。N−カルボキシメチル化の度合いは、目的とする金属の抽出特性に応じて変化させることが可能である。ただし、三級アミンにはN−カルボキシメチル化を行うことは困難であるため、分子中に存在するすべての窒素原子をN−カルボキシメチル化することはできない。逆に、部分的にN−カルボキシメチル化を行うことにより、ポリアミン型キレート樹脂と類似の挙動を示し、アルカリ金属やアルカリ土類金属の妨害を受けにくくなるという特性を得ることもできる。
本発明においては、上記キレート性を有するポリアミン系高分子化合物を繊維原料溶液と混合し、公知の紡糸法により混合紡糸し、キレート繊維を得る。繊維原料としては、再生繊維であるセルロース(レーヨン)が用いられる。レーヨンの場合、ビスコース法、銅アンモニア法のいずれを用いてもキレート繊維を得ることが可能であるが、銅アンモニア法を用いる場合には、銅がポリアミン系高分子化合物に吸着してしまい、増粘・凝集が生じて紡糸性が低下するおそれがあるだけでなく、紡糸後に銅を除去するための更なる洗浄工程が必要となる。したがって、繊維状の金属吸着材を製造する場合においてはビスコース法を用いることが好ましい。ビスコース法を用いて混合紡糸を行う場合には、公知のビスコースレーヨンの製造方法を利用することができる。すなわち、1)ポリアミン系高分子化合物を準備する、2)公知の方法により製造されたセルロースビスコースを準備する、3)ポリアミン系高分子化合物とセルロースビスコースとを均一に混合して紡糸原液を準備する、4)この原液を紡糸ノズルから押し出し、5)希硫酸を主剤とした凝固浴中で再生させる、6)紡糸された繊維を洗浄・乾燥させるという工程により製造される。なお、本発明のポリアミン系高分子化合物は水溶性であるため、繊維原料溶液中に粉体として投入後、溶解することも可能ではあるが、事前に適切な溶媒、例えば、水またはアルカリ水溶液に溶解後、繊維原料溶液に混合するほうが製造工程上容易である。
本発明において繊維原料に混合されるポリアミン系高分子化合物の比率は、得られる繊維状の金属吸着材の金属吸着量、ポリアミン系高分子化合物混合後の繊維原料溶液の物性、紡糸性の影響を考慮すると、繊維成分に対して1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%の混合比率であることが望ましい。混合紡糸する繊維の物性によっては高濃度の混合も可能ではあるが、30重量%を超えると、金属吸着量は高くはなるものの、繊維原料溶液の増粘・凝集が生じて紡糸性が低下する、得られた繊維の機械的強度が低下する、等の問題が生じるおそれがある。
本発明において、不織布の製造は、カード法、エアーレイド法、あるいは、湿式抄造法により繊維ウエッブを作製した後、公知の不織布製造方法を用いて不織布化を行う。
キレート性繊維のウエッブの製造は、公知の方法により行うことが可能である。交絡法としてニードルパンチ、または水流交絡を採用する場合には、交絡性の点からカード法を用いて行うのが望ましい。カーディング(カード法)としては、公知のカード機を使用して行うことができ、使用するカード機としては、ローラーカード機、フラットカード機等を使用することができる。ウエッブを作製する際、他の繊維を混合すると、不織布とした場合に繊維間の結合を強固にすることができる。このような繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等の低融点樹脂からなる繊維、あるいは芯部が高融点樹脂、鞘部が前記低融点樹脂からなる、いわゆる芯鞘構造を有する複合繊維があげられる。芯鞘構造の複合繊維の例としては、芯部がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンなどの高融点樹脂であり、鞘部が低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体などの低融点樹脂からなるものがあり、これらをウエッブの40重量%以下好ましくは25重量%以下混合する。40%以上とした場合には、キレート性繊維の脱落が少なくなり剛性は高くなるが、キレート性繊維の混合割合が下がり金属吸着容量が小さくなる。
このような他の繊維とキレート繊維とを同時にカード機に投入することにより、キレート繊維と複合繊維が均一に混ざり合った繊維ウエッブを得ることができる。
このような他の繊維と混紡した場合、不織布化後に熱処理を行うことにより、低融点繊維あるいは芯鞘繊維の低融点樹脂が溶融し、周辺の繊維と融着して繊維間の結合を強固にすることができる。
上記のようにして得られた繊維ウエッブを不織布とする方法としては、ニードルパンチ法、スティッチボンド法、サーマルボンド法、レジンボンド法、水流交絡法等がある。
しかし、レジンボンド法では、使用する接着剤がキレート性繊維表面を覆い吸着サイトをふさぐため吸着性能が低下してしまう。また、スティッチボンド法では、機械的強度が低く、通液した場合に繊維の脱落が多い。一方、ニードルパンチ法、水流交絡法では、簡易な方法で繊維の脱落の少ない不織布を得ることができるため、本発明ではニードルパンチ法、および水流交絡法により交絡処理をする方法を用いる。これらの方法により交絡処理を行うことにより、繊維間の結合をより強固にすることができる。一般に、ニードルパンチ法は肉厚型の不織布の作製に有利であり、数十mm厚の不織布の製造が可能である。一方、水流交絡法は肉厚型の不織布の作製には適してはいないが、高い繊維密度の不織布を作成することが可能である。また、裏表両面をニードルパンチ法あるいは水流交絡法を用いて交絡処理することにより繊維間の絡合性を高めることができる。ニードルパンチ法を用いる場合、ニードルパンチ針の直径はキレート繊維ウエッブの厚さや使用用途に応じて太さ、長さ、形状を適宜選択するが、25番手から40番手のものを用いるのが望ましい。25番手よりも細い場合には、針の強度や耐久性が劣るため生産性が悪くなる。また、40番手よりも太い場合には、ニードルパンチ跡が残り、短絡流路発生の原因となる。水流交絡法を用いる場合、放射する水流は、直径0.05〜1.0mmのノズルから圧力1〜20MPaで噴出させた柱状水流を用いるのが好ましい。また、表裏両面を、それぞれ1回以上処理することによって、絡合も適切に行われ、繊維密度が高く、強度も十分な不織布を製造することができる。
ここで、まず図1ないし図10について説明する。
図1は、一般的な固相抽出剤粒子を充填した固相抽出カートリッジの構成例であって、その内部の透視図を示し、ここで、41はシリンジ型固相抽出用エンプティカートリッジ、22は一般の固相抽出カートリッジにおけるフリット、81は一般的な粒子状固相抽出剤、21は一般の固相抽出カートリッジにおけるフリットを示す。
図2は、固相抽出法の操作工程を示すものであって、左から第1ステップのコンディショニングステップ、第2ステップの試料負荷ステップ、第3ステップの洗浄・乾燥ステップ、第4ステップの溶離ステップ、最後に溶離された測定対象物質を含む溶液を適切な機器で測定するというステップで行われる。
図3は、本発明の不織布型固相抽出媒体の基本的な構成の断面を示すものであって、a)において、11は本発明のキレート繊維単独あるいはほかの繊維を混合した不織布を示し、b)において、本発明の上記不織布11に他の繊維材料からなる不織布12を積層したものを示し、c)において、上記b)の複合された不織布にさらに不織布12とは別の不織布13を積層したものを示し、d)においては、本発明の不織布2枚の間に基布となるメッシュ14を入れ込んだものを示す。
図4は、本発明の不織布型固相抽出媒体をディスク状に加工したものを、ファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダを用いて前処理を行う場合の器具の構成例を示し、b)はその全体概念図を示し、a)は、b)の主要部分を説明するため分解図を示すものである。ここで、1は本発明の金属分析用不織布型固相抽出媒体、33はファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダのファンネル、35はリング状パッキン、32はファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダのサポートスクリーン、31はファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダのベース、34はゴム栓、36は、ファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダ用クランプ、37は吸引鐘、そして38は受器を示す。
図5は、本発明の不織布型固相抽出媒体を用いた平板型固相抽出カートリッジの構成例を断面で示す。ここで、1は本発明の金属分析用不織布型固相抽出媒体、23,24はそれぞれサポート材、42aは平板型固相抽出用エンプティカートリッジ下部、および43bは平板型固相抽出用エンプティカートリッジ上部を示す。
図6は、本発明の不織布型固相抽出媒体を用いたシリンジ型固相抽出カートリッジの構成例を断面で示す。ここで、41はシリンジ型固相抽出用エンプティカートリッジ、1は本発明の金属分析用不織布型固相抽出媒体、25は固定用リング、23、24はそれぞれサポート材を示す。
図7は、注射筒を用いて本発明の固相抽出カートリッジを使用する場合の例を示す。ここで、51は注射筒、71は本発明の平板型固相抽出用カートリッジを示す。
図8は、ペリスタリスティックポンプを用いて本発明の固相抽出カートリッジを使用する場合の例を示す。ここで、52はペリスタリスティックポンプ、53は配管、54は試料溶液容器、55は洗浄液容器、56は溶出液容器、57はコネクター、71は本発明の平板型固相抽出用カートリッジを示す。
図9は、吸引マニュホールドを用いて本発明の固相抽出カートリッジを使用する場合の例を示す。ここで、72は本発明のシリンジ型固相抽出用カートリッジ、62はストップコック、63は試料溶液用リザーバ、71は本発明の平板型固相抽出用カートリッジ、64は溶出液用受器、そして61は吸引マニュホールドを示す。
図10は、本発明の不織布型固相抽出媒体Aおよび不織布型固相抽出媒体Dと市販ディスク状固相抽出媒体との試料溶液流速と回収率との関係を比較したグラフを示す。ここで、図10aは、鉄(Fe)を試料として試料溶液流速の影響を調べたグラフ、図10bは、銅(Cu)を試料として試料溶液流速の影響を調べたグラフを示し、図において、●は不織布型固相抽出媒体Aの金属抽出回収率、○は不織布型固相抽出媒体Dの金属抽出回収率、△は市販のディスク状固相抽出媒体の金属抽出回収率をそれぞれ示す。
本発明では、上記のようにキレート繊維の不織布化を行うが、図3bおよび図3cに示すように、得られた不織布11の片面あるいは両面に他の繊維により製造される通液性のある不織布12あるいは13を重ねてニードルパンチ法あるいは水流交絡法により再交絡させることも可能である。この複合化により、キレート繊維不織布からのリント漏れや、キレート繊維不織布の強度不足を補うことが可能となる。他の繊維により製造される不織布としては、不織布化後の熱加工を考えた場合、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステルおよびこれらの複合体よりなる群より選ばれる繊維により製造された通液性の不織布が好ましく、その通液性およびろ過特性(粒子捕集性)は使用目的に応じて適宜選択される。また、キレート繊維不織布の強度改善のために、適切な強度と目開きを有するメッシュ14をキレート繊維ウエッブで挟み込み、ついで交絡処理を行い、図3dに示すような構造の不織布を作製することも可能である。この場合、メッシュの片面のみにキレート繊維ウエッブを載せて交絡処理を行ってもよい。さらには、メッシュへの交絡処理後に、上述したように、他の繊維により製造される不織布12あるいは13と複合化してもよい。
本発明において、キレート繊維と他の繊維を混合したウエッブより不織布を製造した場合、および不織布を複合化した場合には熱処理を行う。熱処理の目的としては、混合した芯鞘繊維との溶着、積層複合化した他の繊維により製造される通液性の不織布との密着・一体化である。熱処理方法としては、熱エンボスロール、熱フラットカレンダーロールのような装置を使って熱圧着する方法や熱風循環型、熱スルーエアー型、赤外線ヒーター型、上下方向熱風噴出型等の熱処理機を使う方法等を挙げることができる。特に熱フラットカレンダーロールを使う方法は、生産性がよく、また、プレスにより芯鞘繊維あるいは他の繊維により製造される通液性の不織布との一体化が可能であるため望ましい。加工温度は、混合した繊維が部分溶融する温度、複合繊維の鞘部分が溶融し、芯部分が溶融しない温度、あるいは他の繊維により製造される通液性の不織布が部分溶融する温度であり、キレート性繊維に影響を与えない温度で行う。一般には、110〜200℃で行うのが好ましい。また、カットされた不織布の縁だけ熱プレス加工を行ってもよい。
本発明の不織布型固相抽出媒体は、ろ紙の規格と同一直径のディスク状(円盤状)に打ち抜くことにより、汎用のろ紙を用いる場合の器具を利用して、固相抽出を行うことが可能である。一例として、ファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダを用いる場合について図4を用いて説明する。サポートスクリーン32が付いたベース31の上に本発明の不織布型固相抽出媒体1を置き、ファンネル33を載せ、図4bのようにクランプ36で挟み込み、適当な受器38をセットした吸引鐘37にセットし、アスピレータ等(図示せず)を用いて減圧にして、試料通液を行う。この場合、不織布の厚さが厚く、脇漏れを起こす可能性のある場合には、リング状パッキン35に本発明の不織布型固相抽出媒体1を入れて、同様に組み上げ使用する。また、加圧により試料溶液の通液を行う場合には、ファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダの代わりに上下に注射筒や配管の接続口を有するシリンジ用フィルタホルダあるいはライン用フィルタホルダを用いる。
本発明の不織布型固相抽出媒体は、適切な形状および容量を有するリザーバあるいはホルダに装着・固定して、固相抽出用カートリッジとして用いることもできる。図5に、ディスク状とした本発明の不織布型固相抽出媒体1を平板型カートリッジ42aおよび42bに装着した平板型固相抽出カートリッジの構成例を示す。また図6には、シリンジ型のリザーバ41に本発明の不織布型固相抽出媒体1を挿入したシリンジ型固相抽出カートリッジの構成例を示す。複合化していない不織布化固相抽出媒体において、リントの漏れあるいは強度の不足が問題となる場合には、サポート材やフィルタ(図5および図6におけるサポート材23あるいはサポート材24)を一緒に挿入する。これらは、構成図(図5および図6)に示すとおり、粒子型固相抽出剤のように微粒子を乾式充填することがないため、簡便に固相抽出カートリッジを作製することができる。さらに、ここに示した構造以外にも多種多彩な構成に対して容易に対応することが可能である。
本発明において、固相抽出用リザーバあるいはホルダの材質に関しては限定されるものではなく、必要に応じて、ステンレス、ガラス、プラスチック製のものを用いる。通常は、金属分析用であることのほか、ディスポーザブル性も要求されるため、安価なポリプロピレンやポリエチレンテレフタレート等のプラスチックが用いられる。
本発明の固相抽出用カートリッジは通常の金属分析用固相抽出カートリッジと同様の方法で用いることができる。すなわち、図2に示すように、1)適切な溶媒・溶液(水溶性有機溶媒、水、緩衝液など)を用いてコンディショニングを行い、固相抽出剤の活性化(水和、溶媒和、対イオンの変換)を行う、2)一定量の試料溶液を適切な流速で通液し、試料溶液中の測定対象金属を抽出・濃縮する、3)適切な溶媒・溶液(一般には水や緩衝液)を用いて固相抽出剤に抽出された不要成分を洗い出す、4)適切な溶離液(一般には酸の水溶液)を用いて固相抽出剤に抽出・濃縮された測定対象金属を溶離させる、5)溶離された測定対象金属を含む溶液を適切な機器(吸光光度計、原子吸光光度計、ICP発光分光分析装置、ICP質量分析装置など)で測定する、という工程により行われる。固相抽出用カートリッジへのコンディショニング液、試料溶液、洗浄液、溶離液等の送液は、図7に示すとおり注射筒51を用いて手動で行うこともできるが、再現性の向上や省力化のため図8に示すようなペリスタリスティックポンプ52をはじめとする種々の送液ポンプを用いることができる。さらに、図9に示すような固相抽出用マニュホールド61を用いて減圧下での通液を行うことも可能である。
図8において、適切な溶媒・溶液、例えば、アセトニトリル、水、3M硝酸、水および0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5)の順で、それぞれ10mLずつ通液してコンディショニングされた平板型固相抽出カートリッジ71を、コネクター57を介してペリスタリスティックポンプ52にセットされた配管53の出口側に接続する。ペリスタリスティックポンプ52にセットされた配管53の吸い込み側を試料溶液容器54に差し込む。ペリスタリスティックポンプ52の送液流量を設定して送液を開始し、目的とする成分を平板型固相抽出用カートリッジ71内に装着された金属分析用不織布型固相抽出媒体に吸着させる。試料負荷量(全総液量)は、ペリスタリスティックポンプ52の流量と送液時間で設定する。一定量の試料が負荷された後、ペリスタリスティックポンプ52をいったん止め、ペリスタリスティックポンプ52にセットされた配管53の吸い込み側を、洗浄液、例えば、水が満たされた洗浄液容器55に差し込み、その一定量(例えば、10mL)を通液し、平板型固相抽出カートリッジ71内部および金属分析用不織布型固相抽出媒体に残存する試料溶液および塩類などの不要成分を洗い流す。その後、ペリスタリスティックポンプ52をいったん止め、ペリスタリスティックポンプ52にセットされた配管53の吸い込み側を、溶出液、例えば、3M硝酸が満たされた溶出液容器56に差し込み、その一定量(例えば、5mL)を通液し、平板型固相抽出カートリッジ71内部に装着された金属分析用不織布型固相抽出媒体に吸着した測定対象金属を溶出する。このとき、平板型固相抽出カートリッジ71から溶出してくる溶出液は、適切な受器(図示せず)に受け、水などを用いて定容後、適切な機器による測定に供するものである。
図9において、シリンジ型固相抽出用カートリッジ72を吸引マニュホールド61にセットする。吸引マニュホールド61内に溶出液用受器(たとえば試験管、ビーカー)64をセットする。つぎに、アスピレータなどにより吸引を開始してマニュホールド61内を減圧とし、特定の減圧に保持する。ついで、シリンジ型固相抽出用カートリッジ72に、たとえば、アセトニトリル、水、3M硝酸、水および0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5)の順で、それぞれ10mLずつ通液してコンディショニングを行う。この際、ストップコック62の開閉により通液を行う。この後、試料溶液をシリンジ型固相抽出用カートリッジ72に投入して通液させ、目的とする成分をシリンジ型固相抽出用カートリッジ72の内部に装着された金属分析用不織布型固相抽出媒体に吸着させる。試料が抜けきったら、適当な溶媒を通液して金属分析用不織布型固相抽出媒体中に吸着された不要成分を洗い出し、この洗浄液が固相抽出用カートリッジ72を抜けきったあと、コックを閉じ、固相抽出用カートリッジ72を隣のコックに移動させて取り付ける。さらに、吸着された成分を溶出させるため、適当な溶媒を固相抽出用カートリッジ72にコックの開閉により通液する。溶出された成分を溶出液用受器23に導く。このあと、溶出液用受器64を取出し、さらに必要な分析などの操作を行うものである。本発明の平板型固相抽出用カートリッジ71の場合には、その上部に試料溶液用リザーバ63を取り付け、吸引マニュホールド61にセットする。以下、シリンジ型固相抽出用カートリッジ72の場合と同様に操作する。
なお、本発明の金属分析用不織布型固相抽出媒体を用いて水溶液中の重金属を抽出・回収する条件は、本発明の記載により限定されるものではないが、例えば、銅、鉛、カドミウム等の抽出に主眼をおく場合は、被処理溶液のpHを3〜7、好ましくは4〜6に調整することにより、それら金属を効率よく抽出することができる。この抽出最適pH域は金属により異なるため、抽出・回収目的の金属の抽出特性に合わせて調整すれば種々の金属の抽出に適用することができる。更に、上記のようにして重金属を抽出した金属吸着材を、例えば硝酸や塩酸等の酸性水溶液で処理すると、キレートを形成して抽出された重金属は速やかに脱離するので、抽出した重金属を高効率で回収することができる。
つぎに、本発明を実施例によって説明するが、この実施例によって本発明をなんら限定するものではない。
不織布型固相抽出媒体Aの作製
(1) カルボキシメチル化ポリエチレンイミン含有キレート繊維aの作製
平均分子量10,000のポリエチレンイミン(和光純薬工業社製)125gを、クロロ酢酸ナトリウム(340g)を溶かした1M水酸化ナトリウム水溶液中に加え、攪拌しながら60℃で6時間カルボキシメチル化を行った。得られた部分カルボキシメチル化ポリエチレンイミンのアルカリ水溶液にメタノールを加えて生成高分子を沈殿させ、上澄みを除去した。沈殿に0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液を加えて溶解後、メタノールを加えて生成高分子を再度沈殿させ、上澄みを除去した。得られた高分子を約20重量%となるように0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液で溶解し、部分カルボキシメチル化ポリエチレンイミンのアルカリ水溶液を得た。得られた部分カルボキシメチル化ポリエチレンイミンアルカリ水溶液(濃度約20重量%)300mLを用いて、公知の方法により得られたセルロースビスコース(セルロース濃度:8.8%)5,000mL中に混合し、減圧脱泡後、公知のビスコース法により湿式混合紡糸して2.0dtexの繊維を得た。得られた繊維は、裁断して長さ51mmの短繊維とした。このキレート繊維a中の窒素量を元素分析装置で測定したところ、1.62N%であった。この結果から、セルロース中にポリエチレンイミンとして4.98%含まれていたことになる。
(2) 金属吸着量の評価
前記実施例1の(1)で得られたキレート繊維aを60℃の真空乾燥機内で3時間乾燥後、250mgをとり、下部に孔径30μmのフィルタを挿入したシリンジ型固相抽出カートリッジに充填し、さらに上部にも孔径30μmのフィルタを挿入した。このカートリッジに、アセトニトリル、純水、3M硝酸、純水及び0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5)の順で、それぞれ10mLずつ通液して、コンディショニングを行った。その後、0.01M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5)で調整された0.01M硫酸銅溶液3mLをゆっくり通液し、充填されたキレート繊維aを銅で飽和させた。銅を吸着させた後、純水10mL、0.005Mの硝酸5mLで洗浄後、キレート繊維aに吸着させた銅を3M硝酸3mLで溶出させた。溶出液を10mLに定容後、吸光光度計で805nmにおける銅の吸光度を測定し、キレート繊維aにおける銅吸着量を求めた。その結果、銅の吸着量は、0.40mmol Cu/gであり、十分な吸着性を示した。
(3) 不織布型固相抽出媒体Aの作製
前記実施例1の(1)で得られたキレート繊維a 60gをローラーカード機(大和機工社製、SC−360D)に通して開繊し、32番手の針を付けたニードルパンチ機(大和機工社製、NL−380)に通して交絡させ、ニードルパンチ法により交絡させ不織布型固相抽出媒体Aを得た。
不織布型固相抽出媒体Bの作製
前記実施例1の(1)で得たキレート性繊維a 50gをローラーカード機に通して開繊した。同様の方法で、芯鞘繊維(チッソ社製、芯:ポリプロピレン、鞘:ポリエチレン)10gを開繊した。得られた2種の繊維ウエッブを重ねてローラーカード機に通して混紡した。その後、32番手の針を付けたニードルパンチ機に通して交絡させた。不織布化後、140℃で5分間熱処理し、芯鞘繊維のポリエチレン部分を溶融させてキレート繊維と融着し、不織布型固相抽出媒体Bを得た。
不織布型固相抽出媒体Cの作製
前記実施例1の(1)で得たキレート性繊維a 40gをローラーカード機に通して開繊した。同様の方法で、繊維ウエッブ2枚を用意し、ポリフェニレンスルフィド(PPS)で作製されたメッシュ(30メッシュ)の上下に挟み、32番手の針を付けたニードルパンチ機に通して交絡させた。その後、裏返し、再度ニードルパンチ機に通して交絡させ、不織布型固相抽出媒体Cを得た。
不織布型固相抽出媒体Dの作製
前記実施例1の(1)で得たキレート繊維a 60gをローラーカード機に通して開繊し、繊維ウエッブを作製した。この繊維ウエッブを直径0.08mmのノズルから圧力10MPaで噴出させた柱状水流を用いて水流交絡法(ウォータージェット法)により交絡させ、不織布型固相抽出媒体Dを得た。
不織布型固相抽出媒体Eの作製
実施例2と同様の方法で、キレート繊維aと芯鞘繊維を混紡した繊維ウエッブを作製し、実施例4と同様の条件で水流交絡法(ウォータージェット法)により交絡させ、不織布型固相抽出媒体Eを得た。その後、アルミブロックで挟み、140℃で5分間熱処理し、芯鞘繊維のポリエチレン部分を溶融させて、不織布型固相抽出媒体Eを得た。
作製不織布型固相抽出媒体の金属捕捉量の比較
前記実施例1〜5において作製した不織布型固相抽出媒体5種の金属捕捉量を測定した。各不織布型固相抽出媒体を10〜15cmになるように裁断後、秤量した。それぞれを、純水、3M硝酸、純水及び0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5)の順に浸漬し、コンディショニングを行った。その後、0.01M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5)で調整された0.01M硫酸銅溶液中に浸漬し、不織布型固相抽出媒体を銅で飽和させた。銅を吸着させた後、純水中に入れて十分に洗浄し、3M硝酸5mL中に不織布型固相抽出媒体を入れ、吸着させた銅を脱離させた。この操作を2回行い、さらに純水で洗浄し、2つの溶出液と純水洗浄液を混合後、20mLに定容して、805nmにおける吸光度から各不織布型固相抽出媒体の銅吸着量を求めた。各不織布型固相抽出媒体の銅吸着量測定結果を表1に示す。不織布加工により銅吸着量は原綿キレート繊維より若干低下する傾向が見られた。この吸着量の減少は繊維の交絡による比表面積の低下と考えられるが、十分な金属捕捉量を保持していた。他の繊維を混合したことにより銅吸着量は減少したが、不織布型固相抽出媒体BおよびEとも、その混合比率に相当する吸着量を示した。また、熱処理による吸着量の変化はないものと判断された。不織布型固相抽出媒体Cは他のものと比べ低い吸着量であったが、これは基布としたPPSメッシュの重量が、不織布重量の約50%を占めているためであり、重量比を考慮すると十分な吸着能を発現している。この結果からは、交絡法の違いによる優位差は無いと判断された。

※交絡法:NP=ニードルパンチ法、WJ=水流交絡法(ウォータージェット法)
流速特性の評価
上記実施例1で作製した不織布型固相抽出媒体Aおよび実施例4で作製した不織布型固相抽出媒体Dを用いて、抽出回収率に与える試料流速の影響を調べた。2種の不織布型固相抽出媒体を直径47mmに切り取り、図4に示すファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダを用いて金属元素の捕捉回収を行った。比較として、市販のディスク状固相抽出媒体であるEmpore Chelate Disk(3M社製、直径47mm)を用いた。各ディスク状固相抽出媒体をファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダにセットし、メタノール50mL、3M硝酸100mL、純水200mL、0.1M酢酸アンモニウム100mLを流速30mL/minで通液し、コンディショニングを行った。0.005M酢酸アンモニウム溶液300mLへ鉄(Fe)と銅(Cu)を各100μg添加し、pH5.5に調整した。吸引鐘の減圧度を調整して、試料溶液を流速30〜150mL/minで通液した。その後、純水200mLで洗浄を行った。3M硝酸100mLを流速30mL/minで流し、流出液を採取した。採取した溶液10mLにイットリウムを内標準元素として加え、溶液中の元素をICP発光分光分析装置で定量し、定量値より回収率を求めた。結果を図10(図10aは鉄、図10bは銅)に示す。100mL/min以下では3種の固相抽出媒体の回収率はほぼ100%であり、3種の間には大きな差はなかった。一方、100mL/min以上では3種の固相抽出媒体共回収率の低下が見られたが、本発明の固相抽出媒体では90%以上の回収率を維持していた。
標準試料の測定
上記実施例1で作製した不織布型固相抽出媒体Aを用いて、標準排水の測定を行った。実施例7と同様に不織布型固相抽出媒体Aを直径47mmに切り取り、ファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダを用いて金属元素の捕捉回収を行った。各ディスク状の固相抽出媒体は実施例1の(2)と同様にコンディショニングを行った。標準排水(SCP SCIENCE社製、EU L−1)3mLに0.1M酢酸アンモニウム15mLを加えた後、純水で300mLに希釈し、pH5.5に調整した。吸引鐘の減圧度を調整して、試料溶液300mLを流速30mL/minで通液した。この試料溶液を通過する間において流速は変化することはなく、目詰まりも生じなかった。その後、純水200mLで洗浄を行った。3M硝酸10mLを流し、抽出された金属を回収した。採取した溶液10mLにイットリウムを内標準元素として加え、溶液中の元素をICP発光分光分析装置で定量し、定量値より回収率を求めた。結果を表2に示す。測定は3回行い、定量値は平均値±標準偏差で表記した。表で明白なように、不織布型固相抽出媒体Aを用いた定量結果はマンガン(Mn)を除き非常によく一致し、本発明の不織布状固相抽出媒体は排水などの夾雑物を含む試料中の金属の抽出・回収に十分適用できることが判明した。マンガン(Mn)に関しては、錯形成力が低い元素であり、試料中の塩化物イオンの影響を受けやすいため低い値となったと考えられる。ただし、マンガン(Mn)に注目して分析を行う場合には、試料pHを6以上にすることで回収率を向上させることが可能である。
本発明によれば、キレート性を示すポリアミン系高分子化合物を繊維原料溶液と混合後、混合紡糸して得られるキレート繊維を不織布化することにより、振動や膨潤・収縮による充填密度の変化が生じることが無い金属分析前処理用の固相抽出用媒体および固相抽出用カートリッジを、簡便かつ安価に提供することができる。本発明の固相抽出用媒体を金属分析の前処理に固相抽出法を用いることにより、煩雑な前処理操作を解消することができると共に、前処理時間を大幅に低減することが可能である。特に、本発明の不織布型固相抽出媒体は透過性が高く、高流速条件下であっても回収率の低下が生じにくいため、環境分析などにおいて要求される大容量の試料溶液からの微量金属の抽出・濃縮といった前処理に威力を発揮することが可能である。
図1ないし図9
1:本発明の金属分析用不織布型固相抽出媒体
11:本発明のキレート繊維単独あるいは混紡された不織布
12:他の繊維材料からなる不織布
13:他の繊維材料からなる不織布
14:基布となるメッシュ
21:一般の固相抽出カートリッジにおけるフリット
22:一般の固相抽出カートリッジにおけるフリット
23:サポート材
24:サポート材
25:固定用リング
31:ファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダのベース
32:ファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダのサポートスクリーン
33:ファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダのファンネル
34:ゴム栓
35:リング状パッキン
36:ファンネル型の減圧ろ過用フィルタホルダ用クランプ
37:吸引鐘
38:受器
41:シリンジ型固相抽出用エンプティカートリッジ
42:平板型固相抽出用エンプティカートリッジ
42a:平板型固相抽出用エンプティカートリッジ下部
42b:平板型固相抽出用エンプティカートリッジ上部
51:注射筒
52:ペリスタリスティックポンプ
53:配管
54:試料溶液容器
55:洗浄液容器
56:溶出液容器
57:コネクター
61:吸引マニュホールド
62:ストップコック
63:試料溶液用リザーバ
64:溶出液用受器
71:本発明の平板型固相抽出用カートリッジ
72:本発明のシリンジ型固相抽出用カートリッジ
81:一般的な粒子状固相抽出剤
図10
●:実施例1の不織布型固相抽出媒体Aの金属抽出回収率
○:実施例4の不織布型固相抽出媒体Dの金属抽出回収率
△:市販のディスク状固相抽出媒体の金属抽出回収率

Claims (3)

  1. 下記式(1)に示すエチレンイミン及びN−カルボキシメチル化エチレンイミンの繰り返し単位、

    (n、mは、それぞれ正の整数を表す。)
    を有し、骨格となるポリエチレンイミン化合物の平均分子量が5,000〜150,000であるポリアミン系高分子化合物を、レーヨンの紡糸原液に混合し、ついで紡糸してキレート繊維とし、この繊維のウエッブを公知の不織布の製造法により不織布としたことを特徴とする金属分析前処理用の不織布型固相抽出媒体。
  2. 上記キレート繊維のウエッブに、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびエチレン酢酸ビニル共重合体より選ばれる高分子よりなる繊維、あるいは、これらの芯鞘構造の複合繊維であって鞘部が、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはエチレン酢酸ビニル共重合体よりなるものであり、かつ芯部の樹脂が鞘部の樹脂より高融点の樹脂よりなる複合繊維をウエッブの40重量%まで均一に混合したものを使用し、かつ不織布とした後さらに熱処理を施したものであることを特徴とする請求項1に記載の金属分析前処理用の不織布型固相抽出媒体。
  3. 前記請求項1ないし請求項2記載の不織布状とした金属分析前処理用の不織布型固相抽出媒体をリザーバあるいはホルダ内に装着した金属分析前処理用の固相抽出用カートリッジ。
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